問いしるべ
問いから始める物理 万有引力と天体

万有引力と天体

球対称な質量分布と潮汐

著者:柚木芹香

問い

地球に,中心を通るまっすぐなトンネルを掘ったとします.空気抵抗も摩擦もなく,地球は密度が一様な球だとします.地表の入口から静かに飛び込むと,どんな運動をするでしょうか.

考えてみる

万有引力の法則 F=Gm1m2/r2 は,大きさの無い質点どうしの式でした.地球は無数の質点の集まりなので,本来は各部分からの力を全て足さなければなりません.これまで g=GM/R2 を使えたのは,地球全体の質量が中心に集まったものとして扱ったからで,その根拠は確かめていません.

トンネルの中では,もっと困ります.中心からの距離が r の点で,中心に質量が集まったと考えて GMm/r2 とすると,r→0 で力が無限大になってしまいます.しかし実際には,まわり中から引かれて打ち消し合うはずです.どこまでが中心に集まったと見なせて,どこから打ち消し合うのでしょうか.

球殻の定理

球を同心の薄い殻に分けて考えると,答えが単純になります.

定理 球殻の定理

質量 Ms,半径 a の一様な薄い球殻が,中心から距離 r の質量 m の質点に及ぼす万有引力は

  • 殻の外(r>a):中心に質量 Ms が集まった質点と同じ.大きさ GMsmr2,向きは中心向き.

  • 殻の内(r<a):0.

位置エネルギーは,外で U=−GMsmr,内で一定値 U=−GMsma である.

殻の内側で力が0になるわけは,次のように見えます.殻の内側の点 P から,ごく小さな同じ開き角(立体角)の円錐を,反対向きに2本伸ばします.円錐が殻を切り取る面積は,P からの距離の2乗に比例します(殻に斜めに当たる角度は,両側で等しくなります).近い側の面積は小さいのですが,近い分だけ力が強く,その質量が及ぼす力は距離の2乗に反比例するので,両側の力は同じ大きさになります.向きは逆なので,力は消えます.面積が距離の2乗に比例し,力が距離の2乗に反比例するからで,万有引力が 1/r2 だから成り立つ性質です.

殻内の点から反対向きに伸びる円錐の断面を示す.遠い切り口ほど大きく,距離による減衰と打ち消し合う. 殻内の点から反対向きに伸びる円錐の断面を示す.遠い切り口ほど大きく,距離による減衰と打ち消し合う.

殻の外では,この打ち消しは起きませんが,積分すると中心に集まった質点と同じ結果になります.その証明は次の節で,位置エネルギーを使って行います.

一様な球の内部

球殻の定理から,一様な球(質量 M,半径 R)の内部の重力が決まります.中心から r の点を考えると,r より外側の殻は力を及ぼさず,内側の殻は合わせて質量

M(r)=Mr3R3

が中心に集まった質点として働きます.よって

F=GM(r)mr2=GMmR3r=mgRr(r≤R)

です.g=GM/R2 を使いました.外(r≥R)では F=GMm/r2 です.内部の重力は中心からの距離に比例し,地表で最大の mg になります.

内部のF/mg=r/Rと外部のF/mg=(R/r)²を数値計算し,表面で連続につないだ. 内部のF/mg=r/Rと外部のF/mg=(R/r)²を数値計算し,表面で連続につないだ.

トンネルの中の運動

中心を原点にトンネルに沿って x 軸をとります.このとき質点に働く力は中心向きで,F=−mgRx です.運動方程式は

mx¨=−mgRx

で,これはばねと同じ形です.よって単振動で,角振動数と周期は

ω=gR,T=2πRg

となります.R=6.37×106m,g=9.8ms−2 を入れると T≈5.1×103s,つまり約 84 分です.振幅は R なので,反対側の出口にちょうど届いて止まります.片道は約 42 分です.中心を通るときの速さが最大で,ωR=gR≈7.9kms−1 です.

物体は位置xから中心向きにF=−mgx/Rの力を受ける. 物体は位置xから中心向きにF=−mgx/Rの力を受ける.

この周期 84 分は,地表すれすれを回る人工衛星の周期 2πR/gR=2πR/g と同じです.偶然ではありません.一様な球の内部では,半径 r の円運動の角速度も,力 mgRr=mω2r から ω=g/R で,r によりません.円運動を横から見た影が単振動になるので,トンネルを往復する運動は,この円運動を射影したものになっているのです.

実際の地球は一様ではなく,中心ほど密度が高くなっています.そのため内部の重力は中心近くまであまり弱まらず,周期は 84 分より少し短くなります.ここで使った一様な球は,その近似にすぎません.

潮汐

球殻の定理は,球対称な天体なら点とみなせることを保証しました.ただし地球には大きさがあるので,月や太陽の引力は,地球の場所によってわずかに違います.この差が潮汐を生みます.

地球全体は月の引力で,月の方へ加速されています.その加速度は,地球の中心での値 GMm/r2 です.地球の月側の海は,中心より月に近く,より強く引かれます.反対側の海は,中心より遠く,弱く引かれます.中心を基準に見ると,月側は月へ向かって余分に引かれ,反対側は月と逆に取り残されるので,海水は両側に盛り上がります.

この「中心での引力との差」が潮汐力です.月による潮汐の目安として,多くの海域では約 12 時間 25 分ごとに満潮が来ます(地球が自転して月に再び同じ向きになるまでに約 24 時間 50 分かかり,その半分です).ただし,1日に1回だけの海域や両者の混ざった海域もあり,実際の満潮の時刻や回数は海域によって異なります.潮汐力は距離の3乗に反比例します(次の節で示す).太陽の引力は月の約 180 倍ですが,太陽は月よりずっと遠いので,潮汐力は月の方が約 2 倍大きくなります.新月と満月では太陽と月が一直線に並び,潮汐力が重なって大潮になります.

ポイント ここまでのまとめ

  • 一様な薄い球殻は,外の質点には中心に質量が集まった質点として,内の質点には力を及ぼさない(球殻の定理).万有引力が 1/r2 だから成り立つ.

  • 一様な球の内部では,内側の質量だけが中心に集まったものとして働き,重力は F=mgRr と中心からの距離に比例する.

  • トンネルの中の運動は,T=2πR/g≈84 分の単振動で,地表すれすれの円軌道と周期が等しい.

  • 潮汐力は,月や太陽の引力の,場所による差である.

  • 問いの答え:地球を一様な球と見なすと,トンネル内の質点は中心を中心に単振動する.約 84 分で往復し,中心を通るとき最も速い.