問いしるべ
問いから始める物理 万有引力と天体

万有引力と天体

置換積分による球殻の定理と潮汐の近似

著者:柚木芹香

球殻の定理は位置エネルギーの積分で,潮汐力はテイラー展開の最初の項で示せます.

定理 数学の道具:球殻の定理の証明と潮汐力の近似

球殻の定理の証明. 質量 Ms,半径 a の薄い球殻の中心 O から距離 r に,質点 m の点 P を置く.殻を,OP 軸からの角が α から α+dα の輪に分ける.面密度 Ms4πa2 と輪の面積 2πa2sin⁡αdα から,輪の質量は

dM=Ms2sin⁡αdα

である.輪の上の点は P から同じ距離 s にあり,s2=a2+r2−2arcos⁡α.これを微分して sin⁡αdα=sdsar.無限遠を基準にした位置エネルギーは,輪の寄与 −GmdMs の和で

U=−GMsm2∫0πsin⁡αdαs=−GMsm2ar∫sminsmaxds=−GMsm2ar(smax−smin)

となる.外(r>a)では s は r−a から r+a までで差は 2a,U=−GMsmr.内(r<a)では a−r から a+r までで差は 2r,U=−GMsma で一定になる.力は F=−dUdr なので,外では −GMsmr2(中心向き),内では 0 である.

潮汐力の近似. 質量 M の天体から距離 r にある物体の中心から,天体の方へ d(r より十分小さい)進んだ点の引力による加速度と,中心での値 GMr2 との差は

GM(r−d)2−GMr2=GMr2[(1−dr)−2−1]≈2GMdr3

である((1+h)n≈1+nh).反対側の −d の点では向きが逆になる.質量 m には潮汐力 2GMmdr3 が働き,r の3乗に反比例する.

練習 1. (1) 一様な地球で,深さ 100km の重力加速度は,地表より何 %小さいか.(2) 月が今の半分の距離にあると,潮汐力は何倍か.

答え:(1) grR より 1006370≈1.6 %. (2) r−3 に比例するので 8 倍.

練習 2. (1) 一様な地球で,重力加速度が地表の半分になる深さを求めよ(R=6370km).(2) 月の質量が2倍で距離も2倍なら,潮汐力は何倍か.

答え:(1) r=R/2 なので深さは約 3.2×103km.(2) 質量に比例し r−3 に比例するので 2/23=14 倍.

例題

地球について,g=9.8ms−2,半径 R=6.37×106m とし,地球は密度が一様な球とする.

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

地球の中心を通る直線のトンネルがあり,地表の入口から静かに質点を放す.空気抵抗と摩擦は無視する.

入口A,中心O,出口Bと途中の質点を示す. 入口A,中心O,出口Bと途中の質点を示す.
  1. 周期を求めよ.

  2. 中心から R/2 の位置を通るときの速さを求めよ.

解答を見る

考え方 内部の重力 F=−mgRx による,中心を原点とする単振動である.

  1. ω=g/R,T=2πR/g≈5.1×103s(約 84 分).

  2. 振幅は R なので,位置 x での速さは v=ωR2−x2.x=R/2 のとき v=gR⋅32R=32gR≈6.8×103ms−1.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

地表の2点 A,B を結ぶ,なめらかな直線のトンネルがある.トンネルは地球の中心 O から最短距離 d=R/2 の所を通る.A から静かに質点を放す.

中心から距離dを隔てた弦ABと,中心向きの重力の沿う成分・垂直成分を示す. 中心から距離dを隔てた弦ABと,中心向きの重力の沿う成分・垂直成分を示す.
  1. A から B まで進むのに要する時間を求めよ.

  2. 最大の速さを求めよ.

  3. 中点 C で質点がトンネルの壁から受ける垂直抗力の大きさを求めよ.

解答を見る

考え方 力 F=−mgRr を,トンネルに沿う成分と垂直な成分に分ける.

中点 C を原点にトンネルに沿って x をとると,位置ベクトルの成分は沿う方向に x,垂直方向に d.力の成分は沿う方向に −mgRx,垂直方向に −mgRd で,後者は壁の垂直抗力が打ち消す.

  1. 沿う方向の運動方程式は mx¨=−mgRx で,中心を通るトンネルと同じ ω=g/R.周期は約 84 分で,A から B までは半周期の約 42 分である.弦の長さによらない.

  2. 振幅は弦の長さの半分 R2−d2=32R で,最大の速さは C を通るときの ω⋅32R=32gR≈6.8×103ms−1.

  3. 垂直方向には動かないので N=mgRd=mg2.位置によらない.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

月による地球の潮汐力を見積もる.月の質量 Mm=7.35×1022kg,月までの距離 rm=3.84×108m,太陽の質量 M⊙=1.99×1030kg,太陽までの距離 r⊙=1.50×1011m を使え.

上段はすべて月向きの引力による加速度,下段は中心の加速度を引いた差.長さは違いを誇張している. 上段はすべて月向きの引力による加速度,下段は中心の加速度を引いた差.長さは違いを誇張している.
  1. 月の引力による,地球の中心での加速度を求めよ.

  2. 月に最も近い地表の点の,中心に対する加速度の差(潮汐加速度)と,g との比を求めよ.

  3. 太陽による潮汐加速度は,月による潮汐加速度の何倍か.

解答を見る

考え方 潮汐加速度 2GMdr3 で d=R とおく.

  1. GMmrm2=6.67×10−11×7.35×1022(3.84×108)2≈3.3×10−5ms−2.

  2. 2GMmRrm3=2×6.67×10−11×7.35×1022×6.37×106(3.84×108)3≈1.1×10−6ms−2.g との比は約 1.1×10−7.

  3. 太陽による潮汐加速度は同様に約 5.0×10−7ms−2.比は M⊙/r⊙3Mm/rm3≈0.45 倍で,月の方が約 2.2 倍大きい.

ポイント ここまでのまとめ

  • 球殻の定理は,輪の寄与を s で置換積分して示せる.smax−smin は外で 2a,内で 2r なので,U は外で −GMsm/r,内で一定.

  • 一様な球の内部の重力は mgRr.中心を通らない弦のトンネルでも,周期は 2πR/g(約 84 分)である.

  • 潮汐力 2GMmdr3 は,引力の差を (1+h)n≈1+nh で近似して得られる.