問い
ばねの先におもりをつけて,ばねを少し引いてから静かに放すと,おもりは行ったり来たりを繰り返します.引く長さを 5 cm から 10 cm に変えて,もう一度同じことをします.往復する距離は2倍になりますが,一往復にかかる時間はどうなるでしょうか.2倍になるのか,変わらないのか,別の変わり方をするのでしょうか.
考えてみる
引く長さが2倍なら,戻るべき距離も2倍です.一方,ばねの力は伸びが大きいほど強いので,放した直後に受ける力も,加速度も大きくなります.遠くまで行く分だけ強く引き戻されるので,かかる時間は打ち消し合って変わらないかもしれません.ただし力は戻るにつれて弱まるので,この見通しは厳密ではありません.運動方程式を立てて確かめましょう.
フックの法則と運動方程式
法則 フックの法則
ばねを自然長から変位 𝑥 だけ伸ばす(縮める)と,ばねが物体に及ぼす力は
𝐹=−𝑘𝑥
である.𝑘 をばね定数といい,単位は Nm−1.負号は,力が変位と逆向き(自然長の位置へ戻す向き)に働くことを表す.
つり合いの位置からずれた物体を,元のつり合いの位置へ戻す向きに働く力を復元力といいます.復元力が変位に比例するとき,単振動になります.ばねだけの力は自然長へ戻す向きで,おもりに働く合力の復元力はつり合いの位置へ戻す向きです.水平なばねでは両者の位置が一致し,鉛直なばねでは異なります(例題で扱います).伸ばしすぎたばねではフックの法則が成り立たなくなるので,この法則は変位が小さい範囲で使います.
まず,なめらかな水平面の上で,一端を壁に固定したばねに質量 𝑚 のおもりをつけます.自然長のときのおもりの位置を原点とし,ばねの伸びる向きに 𝑥 軸をとります.
[図:変位と復元力の向き]自然長では力は0.伸ばすと左向き,縮めると右向きの復元力が働く.力は赤い矢印で表す.
運動方程式は,加速度を ¨𝑥 =d2𝑥d𝑡2 と書いて
𝑚¨𝑥=−𝑘𝑥すなわち¨𝑥=−𝑘𝑚𝑥
です.𝑥 の2階微分が,𝑥 に負の定数を掛けたものに等しい,という式です.
解を代入して確かめる
2回微分すると符号が変わって元の形に戻る関数といえば,三角関数です.そこで 𝜔 =√𝑘/𝑚 とおき,次の関数が解になるかを代入して確かめます.ただし 𝐴,𝜙 は定数です.
𝑥=𝐴cos(𝜔𝑡+𝜙)
微分すると
˙𝑥=−𝐴𝜔sin(𝜔𝑡+𝜙),¨𝑥=−𝐴𝜔2cos(𝜔𝑡+𝜙)=−𝜔2𝑥
となり,𝜔2 =𝑘/𝑚 なので運動方程式が成り立ちます.𝐴 と 𝜙 がどんな値でも成り立つ点に注目してください.この式は,2つの定数を自由に選べる解です.
運動方程式は2階の微分方程式です.位置から加速度までに微分を2回しているので,もとの 𝑥 に戻すには積分を2回し,積分定数が2つ残ります.実際,同じ力でも初めの位置と初めの速度が違えば,おもりの動きは違います.2つの定数は,この2つの初期条件で決まります.この形の解がすべての解を尽くすことは,次の節で確かめます.
単振動の言葉
法則 単振動
復元力 𝐹 = −𝑘𝑥 を受けるおもりの運動は
𝑥=𝐴cos(𝜔𝑡+𝜙),𝜔=√𝑘𝑚
となる.この運動を単振動という.𝐴 を振幅,𝜔 を角振動数(単位 rads−1),𝜔𝑡 +𝜙 を位相,𝜙 を初期位相という.
cos は位相が 2𝜋 増えるごとに元へ戻ります.一往復の時間である周期 𝑇 は 𝜔𝑇 =2𝜋 から決まり,1秒あたりの往復の回数である振動数 𝑓 はその逆数です.
𝑇=2𝜋𝜔=2𝜋√𝑚𝑘,𝑓=1𝑇 (Hz)
[図:振幅が違っても同じ周期]青実線は振幅A,緑破線は振幅2Aの余弦曲線.横軸は周期Tで規格化した時間で,両者の山と谷の時刻は一致する.
周期の式に,振幅 𝐴 は入っていません.これが問いの答えです.引く長さを2倍にしても,一往復の時間は変わりません.これを等時性といいます.復元力が変位に比例するからこそ,遠くへ行く分だけ強く引き戻され,打ち消し合うのです.一方,周期は質量とばね定数で決まります.𝑚 を4倍にすると 𝑇 は2倍,𝑘 を4倍にすると 𝑇 は半分になります.たとえば 𝑘 =20 Nm−1,𝑚 =0.50 kg なら 𝜔 =√40 ≈6.3 rads−1,𝑇 ≈0.99 s です.
初期条件から A と φ を決める
𝑡 =0 での位置を 𝑥0,速度を 𝑣0 とします.𝑥 と ˙𝑥 の式に 𝑡 =0 を入れると
𝑥0=𝐴cos𝜙,𝑣0=−𝐴𝜔sin𝜙
です.これを解いて 𝐴 =√𝑥20+(𝑣0/𝜔)2 を得ます.𝜙 は cos𝜙 =𝑥0/𝐴,sin𝜙 = −𝑣0/(𝜔𝐴) の両方の符号から決めます(𝑥0 ≠0 なら tan𝜙 = −𝑣0/(𝜔𝑥0) とも書けますが,𝑥0 =0 のときは cos𝜙 =0 から決めます.𝑥0 =𝑣0 =0 は 𝐴 =0 の静止した状態で,位相は決まりません).いちばん単純なのは,引いて静かに放す場合です.𝑥0 =𝐴,𝑣0 =0 なので 𝜙 =0 で,𝑥 =𝐴cos𝜔𝑡 になります.
速度・加速度とエネルギー
𝑥 を微分した 𝑣 = −𝐴𝜔sin(𝜔𝑡 +𝜙) と,𝑎 = −𝜔2𝑥 から次のことが読み取れます.
速さの最大値は 𝐴𝜔,加速度の大きさの最大値は 𝐴𝜔2.
振動の両端(𝑥 = ±𝐴)では 𝑣 =0 で,加速度の大きさが最大.中心(𝑥 =0)では 𝑎 =0 で,速さが最大.
𝑣 は 𝑥 より位相が 𝜋/2 だけ進んでいる.
力学的エネルギーは,𝑚𝜔2 =𝑘 を使うと
12𝑚𝑣2+12𝑘𝑥2=12𝑚𝐴2𝜔2sin2(𝜔𝑡+𝜙)+12𝑘𝐴2cos2(𝜔𝑡+𝜙)=12𝑘𝐴2
で一定です.両端ではすべてが弾性エネルギー,中心ではすべてが運動エネルギーで,その間で入れ替わります.振幅を2倍にするとエネルギーは4倍になります.
[図:ポテンシャルと運動エネルギー]弾性エネルギーの放物線と全エネルギーEの水平線.二つの交点が転回点で,任意の位置での差が運動エネルギーとなる.
ポイント ここまでのまとめ
フックの法則 𝐹 = −𝑘𝑥 の復元力を受けるおもりの運動方程式は 𝑚¨𝑥 = −𝑘𝑥.解は 𝑥 =𝐴cos(𝜔𝑡 +𝜙),𝜔 =√𝑘/𝑚.代入すれば確かめられ,2階の方程式なので定数が2つ(𝐴,𝜙)ある.
𝐴 と 𝜙 は初期条件(初めの位置と速度)で決まる.周期は 𝑇 =2𝜋√𝑚/𝑘.
速度は 𝑣 = −𝐴𝜔sin(𝜔𝑡 +𝜙),加速度は 𝑎 = −𝜔2𝑥.力学的エネルギーは 12𝑘𝐴2 で一定.
問いの答え:周期に振幅は入らない(等時性).引く長さを2倍にしても往復の時間は変わらない.