問いしるべ
問いから始める物理 仕事とエネルギー

仕事とエネルギー

第6章のまとめ

著者:柚木芹香

この章では,運動方程式を距離で積分して仕事と運動エネルギーを導き,保存力にはポテンシャルエネルギーが定義できることから力学的エネルギー保存則に進みました.さらに,保存則を使って問題を解く手順と,ポテンシャル図の読み方,熱をはじめとするエネルギーの諸形態を学びました.ここで定義・法則・手順を一覧にし,各節の最初の問いに短く答えます.

定義と法則

定義 仕事・仕事率・運動エネルギー

  • 仕事:力 F が物体を dr だけ動かすときの仕事は W=∫F⋅dr.一定の力では W=F⋅s=Fscos⁡θ である.運動の向きに垂直な力は仕事をしない.

  • 仕事率:P=dWdt=F⋅v.単位は 1W=1Js−1 である.

  • 運動エネルギー:K=12mv2.

法則 仕事と運動エネルギーの定理

物体の運動エネルギーの変化は,合力が物体にした仕事に等しい.

ΔK=W

運動方程式 mdvdt=F に v を掛けて時間で積分すると導ける.仕事の合計が正なら物体は加速し,負なら減速する.

定義 保存力とポテンシャルエネルギー

物体を動かすときに力がする仕事が,経路によらず始点と終点だけで決まる力を保存力という.基準点を決めて

U(r)=−∫基準点rF⋅dr

と定義したものがポテンシャルエネルギーである.1次元では F=−dUdx,3次元では偏微分を使って Fx=−∂U∂x などと書く.動摩擦力は,滑る経路が長いほど負の仕事が大きくなり,始点と終点だけでは決まらないので保存力ではない.

法則 力学的エネルギー保存則

保存力だけが仕事をするとき E=K+U= 一定.非保存力が仕事をするときは,力学的エネルギーの変化が非保存力の仕事に等しく ΔE=W′(W′ は保存力以外の力がする仕事)である.熱を含めたすべての形のエネルギーを考えれば,全体の量は常に変わらない(エネルギーの保存).

法則 相対運動のエネルギー

全質量 M=m1+m2,換算質量 μ=m1m2/M,重心速度 V=(m1v1+m2v2)/M,相対速度 vrel=v1−v2 とすると

K=12MV2+12μvrel2

である.外力がなく,相互作用が保存力なら 12μvrel2+U(r) が一定となる.正面衝突の損失は ΔK=12μ(1−e2)vrel2.一般に相対速さが k 倍なら e を k に置き換える.分裂で解放されるエネルギー Q は,重心系では K1′:K2′=m2:m1 に配分される.

公式 衝突の作図の結果

  • 正面衝突:vi後=(1+e)V−evi.弾性ならGに関する点対称である.

  • 静止した的への弾性衝突:的の反跳角は φ=(π−χ)/2,エネルギー移行率は f=4m1m2cos2⁡φ/M2.正面衝突で最大となる.χ=0 では的が静止して角度は定まらない.

  • 等質量なら,両球の速度が0でないとき直角に分かれる.m1>m2 なら接線から sin⁡θmax=m2/m1.角度の換算は tan⁡θ=sin⁡χ/(cos⁡χ+m1/m2) で,象限は速度成分から決める.

  • 分裂の円:中心はG,半径は重心系の速さ vi′.0<vi′<V なら sin⁡θi,max=vi′/V.vi′>V なら全方向,vi′=V なら前方に飛び,直角は速さ0へ近づく極限である.

主な公式

量

式

重力のポテンシャルエネルギー

U=mgy(y は基準面からの高さ)

ばねのポテンシャルエネルギー

U=12kx2(x は自然長からの伸び)

万有引力のポテンシャルエネルギー

U=−GMmr(無限遠が基準,第10章で導く)

熱

Q=mcΔT(相変化がなく比熱 c が一定のとき,第16章でくわしく)

効率

η=有用なエネルギー投入したエネルギー

手順

ポイント エネルギーで運動を調べる手順

  1. 状態を2つ決める(始めと終わり).図に描き,基準の高さを決める.

  2. 働く力を,保存力・非保存力・仕事をしない力(運動に垂直な力.固定された面の垂直抗力や固定点からの糸の張力など)に分ける.

  3. 非保存力が仕事をしないなら K+U が一定.するなら ΔE=W′ とおく.

  4. ループの頂点で N≥0 など,条件があれば加える.力そのものや時間を知りたいときは運動方程式(または速度と時間を結ぶ追加の計算),衝突では運動量保存を使う.

  5. 単位・符号・極端な場合で検算する.

ポイント ポテンシャル図の読み方

U(x) に全エネルギー E の線を引く.運動エネルギーは E−U,動ける領域は U≤E,転回点は U=E(つり合い点と重なる場合は別扱い).力は F=−dUdx で,dUdx=0 がつり合い,d2Udx2>0 なら安定,<0 なら不安定.U″(x0)>0 の安定点の近くの小さな振動は,k=U″(x0) のばねと同じ振動(第7章)になる.

ポイント ニュートンダイアグラムの描き方

  1. Oから衝突前の速度を描き,先端を A1,A2 とする.

  2. A1G:GA2=m2:m1 となるGを打つ.OG→=V で,運動量保存によりGは動かない.

  3. Gを中心に各先端を通る円を描く.相対速さが k 倍なら半径も k 倍にする(弾性では k=1,正面衝突では k=e).

  4. GA1 から角 χ の方向に B1,Gをはさんだ反対側に B2 を置く.Oから両点への矢印が衝突後の速度である.

各節の問いへの答え

  • 仕事と運動エネルギー:荷物を持って水平な道を歩くとき,荷物を支える力は運動の向きに垂直なので,F⋅dr=0 で荷物への仕事は0である.階段では変位に力の向きの成分(高さの増加)があるので仕事をする.疲れるのは,荷物への仕事とは別に,筋肉が力を出し続けるだけで体の中のエネルギーを使うからである.

  • 保存力とポテンシャルエネルギー:重力に逆らってする仕事は,どちらの道でも mgh で等しい.重力が保存力で,仕事が高さの差だけで決まるからである.下りでは重力が逆の +mgh の仕事をする.動摩擦の仕事は道のりで変わる.

  • エネルギー保存の使い方:半径 R のループを回り切るには,頂点で N≥0,つまり v2≥gR が必要である.エネルギー保存と合わせると,最低でもループの最下点から 52R の高さから出発しなければならない.

  • ポテンシャル図:原子間の U(r) は,近距離の斥力と遠距離の引力のために中間に谷をもつ.その底 r0 が安定なつり合いの距離で,E<0 の原子は谷に閉じ込められて結合した状態になる(遠くから近づく原子がそうなるには,余ったエネルギーを外へ渡す過程が要る).

  • 重心運動と相対運動のエネルギー:等質量の車が速さ v ずつで向かい合う場合も,静止した車に速さ 2v で当たる場合も,相対速さは 2v.一体になると失うエネルギーは 12(m/2)(2v)2=mv2 で等しい.

  • ニュートンダイアグラム:等質量で的が静止した弾性衝突では,2つの円が一致してOを通る.衝突後の先端を結ぶ線は直径なので,タレスの定理により,両球が動く場合の速度のなす角は直角である.

  • 衝突をニュートンダイアグラムで語り直す:m1=2m2 ではOが入射球の円の外にある.接線が最大の曲がりを与え,sin⁡θmax=m2/m1=1/2 より限界は 30∘ となる.

  • エネルギーの諸形態:ブレーキで止まった車の運動エネルギーは,ブレーキの分子の乱雑な運動のエネルギー(内部エネルギー)の増加に変わり,その一部は温度差によって周りへ熱として移った.エネルギーは消えず,形を変えただけで,周りと同じ温度まで広がったものは仕事に戻せない.

この章で使った数学

内積,変数の置き換えによる積分と線積分の入口,偏微分と勾配の入口,グラフの読み取りと2次の近似(テイラー展開の入口)がありました.