問いしるべ
問いから始める物理 確率振幅から組み立てる量子力学(発展)

確率振幅から組み立てる量子力学(発展)

スピンの測定と回転の演習

著者:柚木芹香

装置の向きと途中の選別に注目してください.以下ではスピン1/2の理想的な装置を用い,z 方向の基底を |+⟩,|−⟩,xz 平面内で z から角 θ 傾いた基底を |+θ⟩=cos⁡(θ/2)|+⟩+sin⁡(θ/2)|−⟩,|−θ⟩=−sin⁡(θ/2)|+⟩+cos⁡(θ/2)|−⟩ とします.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

スピン1/2の無偏極の原子 16000 個を,z 方向の + だけを通すフィルターに入れ,続いて θ=2π/3 の装置で2本に分けます.無偏極とは,最初の装置で +,− が等確率で現れることを意味します.

  1. 最初のフィルターを通る個数の期待値を求めよ.

  2. 次の装置の +θ,−θ の出口に来る個数の期待値と,入射集団に対する割合を求めよ.

無偏極の16000個をz方向の正のフィルターへ送り,負の出口を閉じる.続いてθ=2π/3の装置で分析する.最後の出口には状態名だけを示す. 無偏極の16000個をz方向の正のフィルターへ送り,負の出口を閉じる.続いてθ=2π/3の装置で分析する.最後の出口には状態名だけを示す.
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考え方 最初の選別の確率と,選別後の状態に対する条件付き確率を掛ける.

  1. 確率は 1/2 なので 8000 個である.

  2. ⟨+θ|+⟩=cos⁡(π/3)=1/2,⟨−θ|+⟩=−sin⁡(π/3)=−3/2.絶対値の2乗から確率は 1/4,3/4,個数は 2000,6000 個,割合は 1/8,3/8 である.最後の2出口の和が 8000 個となり,最初の選別による減少と整合する.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

|+⟩ のビームと,z の − だけを通す最後のフィルターの間に,角 θ の装置を挿入します.0≤θ≤π とします.

  1. 中間装置の +θ だけを通すとき,最後まで通る確率と,それを最大にする角を求めよ.

  2. 中間装置の2本を,経路の記録も相対位相の変化も残さず再結合するときの確率を求めよ.

  3. 中間装置で両結果を記録し,全粒子を最後の装置へ送る場合の確率を求めよ.記録は読み出さなくても残っているとします.

初期状態は|+⟩で,最後はzの負だけを通すフィルターである.中間の角θの装置について,正だけの選別,記録なしの再結合,両結果の記録を別々の配置に示す. 初期状態は|+⟩で,最後はzの負だけを通すフィルターである.中間の角θの装置について,正だけの選別,記録なしの再結合,両結果の記録を別々の配置に示す.
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考え方 中間の2経路が区別できるかを先に決め,振幅を足す場合と確率を足す場合を分ける.

  1. c=cos⁡(θ/2),s=sin⁡(θ/2) とおく.⟨+θ|+⟩=c,⟨−|+θ⟩=s より通過確率は c2s2=sin2⁡θ/4.最大値は 1/4,角は π/2 である.

  2. 負の中間経路では ⟨−θ|+⟩=−s,⟨−|−θ⟩=c.2経路の振幅の和は sc−cs=0 なので通過確率は0である.

  3. 記録が残る経路の確率を足すと |sc|2+|−cs|2=sin2⁡θ/2 である.θ=0,π ではすべて0で,中間装置を入れただけで必ず透過が増えるわけではないことも確かめられる.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

あるビームは,割合 q の粒子が |+⟩,残りが |−⟩ に準備された混合です.相対位相をそろえた重ね合わせではありません.角 θ の正の出口の粒子を,状態や角度によらない効率 η で数えると,入射個数に対する検出個数の割合 f は次の値でした.誤差は無視します.

θ

0

π/2

π

f

0.600

0.400

0.200

  1. f を cos⁡θ の1次式にし,q,η を求めよ.

  2. θ=π/3 の予測値を求めよ.同じ模型で中間の測定値が 0.450 だったなら,両端の測定値と両立するか.

割合qの|+⟩と残りの|−⟩からなる混合集団を角θの分析装置へ送る.入射個数を別に数え,正の出口の検出器に効率ηを付す. 割合qの|+⟩と残りの|−⟩からなる混合集団を角θの分析装置へ送る.入射個数を別に数え,正の出口の検出器に効率ηを付す.
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考え方 混合の2成分には確率の足し算を使い,角度依存と検出器の損失を分離する.

  1. 真の通過確率は qcos2⁡(θ/2)+(1−q)sin2⁡(θ/2).よって

f=η2+η(q−12)cos⁡θ

両端の和から η=0.600+0.200=0.800,f(0)=ηq から q=0.750.中間値は η/2=0.400 で一致する.

  1. f=0.400+0.200cos⁡θ に代入して 0.500.両端が同じなら中間は必ず 0.400 なので,0.450 とは両立しない.一定効率の混合模型を見直す必要がある.推定値が 0≤q,η≤1 に入ることも確かめられる.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

状態を実際に回転させる操作を,z 基底の振幅列に作用する行列

Ry(θ)=(c−ssc),Rz(θ)=(e−iθ/200eiθ/2)

で定義します.c=cos⁡(θ/2),s=sin⁡(θ/2) とし,測定による選別は行いません.

  1. 両操作が任意の状態の確率の和を保つことを示せ.

  2. |+⟩ に対して,Ry(π/2) の後に Rz(π/2) を作用させる場合と,逆順の場合の最終状態を求めよ.|+y⟩=(|+⟩+i|−⟩)/2 にある確率で順序を区別せよ.

zとyの回転軸を示す.|+⟩に対してRᵧ(π/2)とR𝓏(π/2)を逆順に作用させる2配置を並べ,各配置の最後にy方向の正を選別する分析装置を置く. zとyの回転軸を示す.|+⟩に対してRᵧ(π/2)とR𝓏(π/2)を逆順に作用させる2配置を並べ,各配置の最後にy方向の正を選別する分析装置を置く.
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考え方 先に行う操作を右に書いて列に掛け,最後に測定状態への振幅を求める.

  1. 入力を (ab) とすると,Ry の出力は (ca−sbsa+cb).2成分の絶対値の2乗の和は,交差項が消えて (c2+s2)(|a|2+|b|2)=|a|2+|b|2.Rz は各成分に絶対値1の因子を掛けるので同じ和を保つ.

  2. y の後に z なら出力列は (e−iπ/4eiπ/4)/2 で,状態は e−iπ/4|+y⟩.したがって確率は1である.逆順なら e−iπ/4(11)/2.+y への振幅は e−iπ/4(1−i)/2,確率は 1/2 である.全体の位相は確率に影響しないが,順序は相対位相を変える.いずれも出力の確率の和は1である.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

|+⟩ の粒子を等しい2経路に分け,片方だけに演習4で定義した Ry(θ) を作用させます.他の位相差は0にそろえます.出口A,Bでの規格化前の状態ベクトルは,それぞれ (|+⟩+Ry(θ)|+⟩)/2,(|+⟩−Ry(θ)|+⟩)/2 です.スピンを区別せずに数えます.

  1. PA,PB を求め,θ=2π,4π を比較せよ.

  2. 回転後のビームだけを取り出してスピンを測る場合と比べ,2π 回転の符号をどう検出しているか説明せよ.

初期状態|+⟩を等しい2経路に分け,一方にRᵧ(θ)を作用させる.他の位相差は0にそろえる.再結合器の出口A,Bを示す. 初期状態|+⟩を等しい2経路に分け,一方にRᵧ(θ)を作用させる.他の位相差は0にそろえる.再結合器の出口A,Bを示す.
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考え方 各出口の直交するスピン成分の確率を足す.回転していない経路が位相の基準になる.

  1. c=cos⁡(θ/2),s=sin⁡(θ/2) とおけば,Aの成分は (1+c)/2,s/2,Bは (1−c)/2,−s/2.したがって PA=(1+c)/2,PB=(1−c)/2.2π では Ry=−I となり PA=0,PB=1,4π では Ry=I となり PA=1,PB=0.I=(1001) は単位行列である.

  2. 単独の状態 −|+⟩ と |+⟩ はすべてのスピン測定で同じ確率を与える.干渉計では一方だけの符号変化が2経路間の相対位相 π となるため検出できる.PA+PB=1 である.この理想化には,経路間の位相の揺らぎの幅が1より十分小さいことが必要である.

ポイント 教える人へ

  • フィルターの通過確率と,通過後の集団に対する確率を分けて問います.

  • 途中の記録を読まないことと,記録が存在しないことの違いを説明させます.

  • 行列の作用順序を列に掛けて確かめ,全体の位相と相対位相を区別させます.

  • 測定値が合わないときは,混合の割合と検出効率のどちらを変えればよいかを考えさせます.