この 章は 大学へ 進む人の ための 発展の 章です.受験だけが 目的なら 飛ば してかまいません.この 章では,第4章の 運動方 程式も,力と いう 考えも,いったん脇に 置きます.時間と 空間に ついての 少数の 事実と,1つの 原理だけから 運動の 法則を 組み立て 直し,最後に 前の 章までの 力学と つなげます.
問い 机の 上を 転がる ボールを 撮った 写真が1枚あり,今の 位置が 分かっているとします.1秒後に ボールが どこに いるか,言い当てられるでしょうか.ごく 短い間を おいて 撮った 写真が2枚あり,位置と 速度が 分かったら どうでしょう.さらに3枚目が あって 加速度まで 分かったら,もっと よく 当たるように なるのでしょうか.
考えてみる 位置だけでは 足りません.同じ 場所に ある ボールでも,止まっているか右へ 転がっているかで,1秒後の 位置は 違います.では,位置と 速度が 分かれば 足りるのでしょうか.
これは 理屈で 決まる ことではなく,経験で 確かめる ことです.投げた ボールでも,振り子でも,惑星でも,ある 瞬間の 位置と 速度を 決めれば,その後の 動きは ただ1通りに 決まります.逆に,同じ 位置から 同じ 速度で 投げた ボールが,投げる たびに 違う 加速度で 動き出す ことは ありません.加速度は,位置と 速度とは 別に 自由に 決められる 量ではなく,位置と 速度が 決まれば 決まってしまう 量です.3枚目の 写真は 答え合わせには 使えますが,新しい 情報には なりません.
この「位置と 速度で 未来が 決まる」と いう 事実から 出発して,運動の 法則が どんな 形を していなければならないかを 調べていきます.その前に,「位置」を どう 表すかを 決めて おきます.
自由度と 一般化座標 平面の 上を 動く 小さな 物体の 位置は,2つの 数 ( 𝑥 , 𝑦 ) ( x , y ) で 決まります.糸の 長さが 決まっている 振り子なら,糸が 鉛直となす角 𝜃 θ の1つの 数で 決まります.空間を 動く 𝑁 N 個の 小さな 物体なら 3 𝑁 3 N 個の 数が 要ります.数の 選び方は 自由で,平面上の 物体を 極座標 ( 𝑟 , 𝜃 ) ( r , θ ) で 表してもかまいません.
定義 自由度と 一般化座標
物体の 集まり(系)の 配置を ただ1通りに 指定するのに 必要な 数の 個数を,その 系の自由度 と いう.自由度が 𝑠 s の 系の 配置を 指定する 𝑠 s 個の 数 𝑞 1 , 𝑞 2 , … , 𝑞 𝑠 q 1 , q 2 , … , q s を一般化座標 ,その 時間微分 ˙ 𝑞 1 , ˙ 𝑞 2 , … , ˙ 𝑞 𝑠 q ˙ 1 , q ˙ 2 , … , q ˙ s を一般化速度 と いう.
一般化座標は 長さとは 限りません.振り子の 𝜃 θ のように 角度でも よく,その ときの 一般化速度は 角速度です.以下では,𝑠 s 個を まとめて 𝑞 q ,˙ 𝑞 q ˙ と 短く 書く ことがあります.
定義 状態
ある 時刻の 一般化座標と 一般化速度の 組 ( 𝑞 , ˙ 𝑞 ) ( q , q ˙ ) を,その 時刻の 系の状態 と いう.
問いで 確かめた 経験の 事実を,この 言葉で 書いて おきます.
法則 決定性(経験の 事実)
ある 時刻の 状態を 決めると,その後の 運動は ただ1通りに 決まる.
運動の 法則の 形 決定性から,運動の 法則の 形が かなり 絞られます.ある 時刻 𝑡 t の 状態 ( 𝑞 , ˙ 𝑞 ) ( q , q ˙ ) が 分かれば,その後の 運動 𝑞 ( 𝑡 ′ ) q ( t ′ ) が すべて 決まるのですから,その 時刻の 加速度 ¨ 𝑞 ( 𝑡 ) q ¨ ( t ) も 決まっていなければなりません.つまり,加速度は 状態と 時刻の 関数で,
¨ 𝑞 𝑖 = 𝑓 𝑖 ( 𝑞 , ˙ 𝑞 , 𝑡 ) ( 𝑖 = 1 , 2 , … , 𝑠 ) q ¨ i = f i ( q , q ˙ , t ) ( i = 1 , 2 , … , s )
の 形に 書けるはずです.これは2階の 微分方程式です.
逆に,この 形の 方程式が あれば,状態から 未来が 決まります.時刻 𝑡 t の 状態から,ごく 短い 時間 Δ 𝑡 Δ t 後の 状態を
𝑞 ( 𝑡 + Δ 𝑡 ) ≈ 𝑞 ( 𝑡 ) + ˙ 𝑞 ( 𝑡 ) Δ 𝑡 , ˙ 𝑞 ( 𝑡 + Δ 𝑡 ) ≈ ˙ 𝑞 ( 𝑡 ) + 𝑓 ( 𝑞 , ˙ 𝑞 , 𝑡 ) Δ 𝑡 q ( t + Δ t ) ≈ q ( t ) + q ˙ ( t ) Δ t , q ˙ ( t + Δ t ) ≈ q ˙ ( t ) + f ( q , q ˙ , t ) Δ t
と 求め,これを 繰り返せば,次々と 先の 状態が 求まるからです(数学の 節で 具体的に 計算します).
1階や3階の 方程式ではいけない 理由も,経験から 分かります.1階の 方程式 ˙ 𝑞 = 𝑔 ( 𝑞 , 𝑡 ) q ˙ = g ( q , t ) だと,位置を 決めると 速度が 決まってしまい,同じ 場所から 好きな 速さで 投げる ことができなくなります.3階の 方程式だと,位置と 速度の ほかに 加速度も 初めに 決めなければ 未来が 決まらず,問いで 見た 事実に 反します.
[図: 位置と速度から決まるボールの運動] 初期状態q = 1.0 m,q̇ = 5.0 m s⁻¹から,加速度−9.8 m s⁻²の例を動かす.左は高さ,右は位置と速度の平面.橙の初期点をドラッグするか入力を変えると,その状態からの道すじが1本だけ描き直される.高さ0は地面との衝突を意味しない.再生・停止と時刻の操作ができ,動きを減らす設定では自動再生しない.
初期状態q = 1.0 m,q̇ = 5.0 m s⁻¹から,加速度−9.8 m s⁻²の例を動かす.左は高さ,右は位置と速度の平面.橙の初期点をドラッグするか入力を変えると,その状態からの道すじが1本だけ描き直される.高さ0は地面との衝突を意味しない.再生・停止と時刻の操作ができ,動きを減らす設定では自動再生しない.
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ポイント 運動の 法則の 形
運動の 法則は,状態から 加速度を 決める2階の 微分方程式 ¨ 𝑞 𝑖 = 𝑓 𝑖 ( 𝑞 , ˙ 𝑞 , 𝑡 ) q ¨ i = f i ( q , q ˙ , t ) の 形を している.関数 𝑓 𝑖 f i の 形は,決定性だけでは 決まらない.
状態を ( 𝑞 , ˙ 𝑞 ) ( q , q ˙ ) の 平面の 点で 表すと,運動は その 点が 描く1本の 線に なります.決定性から,この 線は 途中で 枝分かれしません.同じ 点から2本の 線が 出ていたら,同じ 状態から2通りの 未来が あることに なるからです.
何が 残っているか 前の 章までの 力学では,𝑓 𝑖 f i の 形を「力を 質量で 割った もの」と して 与えていました.この 章では,力と いう 考えを 使わずに 𝑓 𝑖 f i を 決めます.その ために 使うのは,次の2つだけです.
運動を,経路全体の1つの 量で 選び出す原理(次の 題材).
時間と 空間が 持つ対称性(その 次の 題材).
この2つから,第4章で 法則と して 受け入れた 運動方 程式が,定理と して 出てきます.
問いに 戻る 位置だけでは 未来は 決まりません.位置と 速度が 分かれば 決まります.加速度は 位置と 速度から 決まってしまうので,3枚目の 写真は 新しい 情報には なりません.これは 経験の 事実で,そこから 運動の 法則が2階の 微分方 程式に なることが 導かれました.
ポイント ここまでの まとめ
系の 配置を 指定する 数の 個数が 自由度,その 数が 一般化座標.角度でも よい.
ある 時刻の 一般化座標と 一般化速度の 組が 状態.
決定性(経験の 事実):状態を 決めると,その後の 運動は ただ1通りに 決まる.
その ため 運動の 法則は ¨ 𝑞 𝑖 = 𝑓 𝑖 ( 𝑞 , ˙ 𝑞 , 𝑡 ) q ¨ i = f i ( q , q ˙ , t ) の 形の2階の 微分方 程式に なる.
𝑓 𝑖 f i の 形は,次の2つの 題材(停留作用の 原理と,時間と 空間の 対称性)から 決める.