問いしるべ
問いから始める物理 対称性から組み立てる力学(発展)

対称性から組み立てる力学(発展)

状態と運動の法則

著者:柚木芹香

問い

机の上を転がるボールを撮った写真が1枚あり,今の位置が分かっているとします.1秒後にボールがどこにいるか,言い当てられるでしょうか.ごく短い間をおいて撮った写真が2枚あり,位置と速度が分かったらどうでしょう.さらに3枚目があって加速度まで分かったら,もっとよく当たるようになるのでしょうか.

考えてみる

位置だけでは足りません.同じ場所にあるボールでも,止まっているか右へ転がっているかで,1秒後の位置は違います.では,位置と速度が分かれば足りるのでしょうか.

これは理屈で決まることではなく,経験で確かめることです.投げたボールでも,振り子でも,惑星でも,ある瞬間の位置と速度を決めれば,その後の動きはただ1通りに決まります.逆に,同じ位置から同じ速度で投げたボールが,投げるたびに違う加速度で動き出すことはありません.加速度は,位置と速度とは別に自由に決められる量ではなく,位置と速度が決まれば決まってしまう量です.3枚目の写真は答え合わせには使えますが,新しい情報にはなりません.

この「位置と速度で未来が決まる」という事実から出発して,運動の法則がどんな形をしていなければならないかを調べていきます.その前に,「位置」をどう表すかを決めておきます.

自由度と一般化座標

平面の上を動く小さな物体の位置は,2つの数 (x,y) で決まります.糸の長さが決まっている振り子なら,糸が鉛直となす角 θ の1つの数で決まります.空間を動く N 個の小さな物体なら 3N 個の数が要ります.数の選び方は自由で,平面上の物体を極座標 (r,θ) で表してもかまいません.

定義 自由度と一般化座標

物体の集まり(系)の配置をただ1通りに指定するのに必要な数の個数を,その系の自由度という.自由度が s の系の配置を指定する s 個の数 q1,q2,…,qs を一般化座標,その時間微分 q˙1,q˙2,…,q˙s を一般化速度という.

一般化座標は長さとは限りません.振り子の θ のように角度でもよく,そのときの一般化速度は角速度です.以下では,s 個をまとめて q,q˙ と短く書くことがあります.

定義 状態

ある時刻の一般化座標と一般化速度の組 (q,q˙) を,その時刻の系の状態という.

問いで確かめた経験の事実を,この言葉で書いておきます.

法則 決定性(経験の事実)

ある時刻の状態を決めると,その後の運動はただ1通りに決まる.

運動の法則の形

決定性から,運動の法則の形がかなり絞られます.ある時刻 t の状態 (q,q˙) が分かれば,その後の運動 q(t′) がすべて決まるのですから,その時刻の加速度 q¨(t) も決まっていなければなりません.つまり,加速度は状態と時刻の関数で,

q¨i=fi(q,q˙,t)(i=1,2,…,s)

の形に書けるはずです.これは2階の微分方程式です.

逆に,この形の方程式があれば,状態から未来が決まります.時刻 t の状態から,ごく短い時間 Δt 後の状態を

q(t+Δt)≈q(t)+q˙(t)Δt,q˙(t+Δt)≈q˙(t)+f(q,q˙,t)Δt

と求め,これを繰り返せば,次々と先の状態が求まるからです(数学の節で具体的に計算します).

1階や3階の方程式ではいけない理由も,経験から分かります.1階の方程式 q˙=g(q,t) だと,位置を決めると速度が決まってしまい,同じ場所から好きな速さで投げることができなくなります.3階の方程式だと,位置と速度のほかに加速度も初めに決めなければ未来が決まらず,問いで見た事実に反します.

[図:位置と速度から決まるボールの運動]

初期状態q = 1.0 m,q̇ = 5.0 m s⁻¹から,加速度−9.8 m s⁻²の例を動かす.左は高さ,右は位置と速度の平面.橙の初期点をドラッグするか入力を変えると,その状態からの道すじが1本だけ描き直される.高さ0は地面との衝突を意味しない.再生・停止と時刻の操作ができ,動きを減らす設定では自動再生しない.

ポイント 運動の法則の形

運動の法則は,状態から加速度を決める2階の微分方程式 q¨i=fi(q,q˙,t) の形をしている.関数 fi の形は,決定性だけでは決まらない.

状態を (q,q˙) の平面の点で表すと,運動はその点が描く1本の線になります.決定性から,この線は途中で枝分かれしません.同じ点から2本の線が出ていたら,同じ状態から2通りの未来があることになるからです.

何が残っているか

前の章までの力学では,fi の形を「力を質量で割ったもの」として与えていました.この章では,力という考えを使わずに fi を決めます.そのために使うのは,次の2つだけです.

  1. 運動を,経路全体の1つの量で選び出す原理(次の題材).

  2. 時間と空間が持つ対称性(その次の題材).

この2つから,第4章で法則として受け入れた運動方程式が,定理として出てきます.

問いに戻る

位置だけでは未来は決まりません.位置と速度が分かれば決まります.加速度は位置と速度から決まってしまうので,3枚目の写真は新しい情報にはなりません.これは経験の事実で,そこから運動の法則が2階の微分方程式になることが導かれました.

ポイント ここまでのまとめ

  • 系の配置を指定する数の個数が自由度,その数が一般化座標.角度でもよい.

  • ある時刻の一般化座標と一般化速度の組が状態.

  • 決定性(経験の事実):状態を決めると,その後の運動はただ1通りに決まる.

  • そのため運動の法則は q¨i=fi(q,q˙,t) の形の2階の微分方程式になる.

  • fi の形は,次の2つの題材(停留作用の原理と,時間と空間の対称性)から決める.