問いしるべ
問いから始める物理 対称性から組み立てる力学(発展)

対称性から組み立てる力学(発展)

微分方程式と初期条件

著者:柚木芹香

運動の法則が2階の微分方程式になることを,具体的な方程式で確かめます.初めの状態から少しずつ先へ進める計算は,コンピューターで運動を求めるときの基本でもあります.

定理 数学の道具:2階の微分方程式と初期条件

未知の関数 q(t) とその導関数の関係を表す式を微分方程式といい,含まれる最も高い導関数の階数をその方程式の階数という.2階の微分方程式 q¨=f(q,q˙,t) の解は,ある時刻 t0 の q(t0) と q˙(t0)(初期条件)を決めると,ただ1つに決まる.自由度 s の系では s 本の2階の方程式があり,解を決めるには 2s 個の数が要る.

ここで「ただ1つに決まる」ことは,f がなめらかな関数なら成り立つことが知られています.証明は大学の数学に任せ,ここでは例で確かめます.

いちばん簡単な例は x¨=−g(g は定数)です.1回積分すると x˙=−gt+C1,もう1回積分すると x=−12gt2+C1t+C2 です.積分定数が2つ出て,t=0 の位置 x0 と速度 v0 を与えると C2=x0,C1=v0 と決まります.2階の方程式で,初期条件がちょうど2つ要るのは,積分を2回するからだと見ることもできます.

もう1つの例は x¨=−ω2x です.第7章で見たように,解は x=Acos⁡ωt+Bsin⁡ωt で,ここにも定数が2つあります.x(0)=x0,x˙(0)=v0 とすると A=x0,B=v0/ω です.

ポイント 数学の道具:少しずつ進める(オイラー法)

q¨=f(q,q˙,t) の解を,時間の刻み Δt ごとに

qn+1=qn+q˙nΔt,q˙n+1=q˙n+f(qn,q˙n,tn)Δt

で求める方法をオイラー法という.Δt を小さくするほど,本当の解に近づく.

オイラー法は,状態から次の状態を作る手続きそのものです.使うのは各時刻の qn と q˙n だけで,加速度は f から計算されます.運動の法則が2階の方程式であることと,「状態から未来が決まる」ことが,ここで同じことになっています.

練習1 次の系の自由度を答えよ.(a) 平面の上を,向きを変えながら滑る細い棒.(b) 軽い棒の両端に小球をつけ,空間に投げたもの.(c) 空間を自由に動く剛体.

練習2 x¨=−ω2x で,x(0)=x0,x˙(0)=v0,x¨(0)=a0 の3つを勝手に決めると,一般には解が無いことを示せ.

答え 練習1:(a) 棒の中点の位置 (x,y) と向き φ で3.(b) 2つの小球の位置で6個の数だが,棒の長さが一定という条件が1つあるので5(重心の位置3つと棒の向きの角2つ).(c) 重心の位置3つと向き3つで6.練習2:方程式から x¨(0)=−ω2x(0) なので,a0=−ω2x0 のときしか解が無い.加速度は初めに自由に選べない.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

次の系の自由度を答え,一般化座標を1組選べ.

  1. 鉛直な平面内で振れる,長さ l1 と l2 の軽い糸でつないだ2つのおもり(二重振り子).

  2. 水平な床の上を滑らかに動ける斜面台と,その斜面の上を滑る小物体.ただし,どちらも紙面内だけで動くとする.

左は糸の角θ₁,θ₂と長さl₁,l₂で表す二重振り子.右は床に沿う台の位置Xと,斜面の上端から下向きに測る位置s.力は描いていない. 左は糸の角θ₁,θ₂と長さl₁,l₂で表す二重振り子.右は床に沿う台の位置Xと,斜面の上端から下向きに測る位置s.力は描いていない.
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考え方 平面内の小物体は2つの数で位置が決まり,長さが決まった糸や,面の上に乗っているという条件が1つあるごとに,必要な数が1つ減る.

  1. おもりは2つで,平面内なので数は4つ.糸の長さが一定という条件が2つあるので,自由度は2.一般化座標には,2本の糸が鉛直となす角 θ1,θ2 を選べる.

  2. 台は床の上を水平に動くだけなので,位置 X の1つで決まる.小物体は斜面の上にあるので,斜面に沿った位置 s の1つで決まる.自由度は2で,一般化座標は (X,s).

どちらも,一般化座標の選び方は1通りではない.(2) で小物体の水平位置を使ってもよい.ただし,条件を自動的に満たす座標を選ぶと,後の計算が楽になる.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

x¨=−ω2x について答えよ.

  1. x(0)=x0,x˙(0)=v0 を満たす解を求めよ.

  2. x(0)=x0 だけを決めたとき,解はどれだけあるか.ω=2.0s−1,x0=0.10m として,t=0.50s の x がとりうる値の範囲を答えよ.

ω = 2.0 s⁻¹,x₀ = 0.10 mの例.初期速度だけを変えた5本の曲線は同じ点から出発する.点線はt = 0.50 sを示す. ω = 2.0 s⁻¹,x₀ = 0.10 mの例.初期速度だけを変えた5本の曲線は同じ点から出発する.点線はt = 0.50 sを示す.
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考え方 一般の解 x=Acos⁡ωt+Bsin⁡ωt の2つの定数を,条件で決める.条件が1つ足りなければ,定数が1つ自由に残る.

  1. x(0)=A=x0,x˙(0)=Bω=v0 なので

x=x0cos⁡ωt+v0ωsin⁡ωt
  1. A=x0 だけが決まり,B はどんな実数でもよい.解は無数にある.t=0.50s では ωt=1.0rad で,sin⁡1.0≈0.84≠0 なので

x=0.10cos⁡1.0+Bsin⁡1.0≈0.054+0.84B [m]

は,B を変えるとどんな値にもなる.範囲は「すべての実数」で,位置だけでは0.5秒後の位置について何も言えない.

確かめ:sin⁡ωt=0 となる時刻(t=π/ω など)だけは,B によらず x=±x0 に決まる.振動の周期の半分ごとに,必ず同じ位置(または反対の位置)に戻るからである.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

x¨=−g(g=9.8ms−2)を,x(0)=0,x˙(0)=2.0ms−1 から,オイラー法で Δt=0.10s として3回進めよ.

  1. t=0.30s の x と x˙ を求め,本当の解と比べよ.

  2. n 回進めたときの xn を式で表し,t=nΔt を一定に保って Δt→0 とすると本当の解に近づくことを示せ.

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考え方 表に xn と x˙n を並べ,「位置は今の速度で,速度は今の加速度で」進める.

n

t [s]

xn [m]

x˙n [ms−1]

0

0

0

2.00

1

0.10

0.200

1.02

2

0.20

0.302

0.04

3

0.30

0.306

−0.94

本当の解は x=2.0t−4.9t2,x˙=2.0−9.8t で,t=0.30s では x=0.159m,x˙=−0.94ms−1.速度は合うが,位置は 0.15m ほど大きすぎる.各段で「段の初めの速度」で位置を進めるので,速度が減っていくこの運動では,位置を進めすぎるからである.

  1. x˙k=v0−gkΔt なので

xn=∑k=0n−1x˙kΔt=v0nΔt−gΔt2n(n−1)2=v0t−12gt(t−Δt)

本当の解 v0t−12gt2 との差は 12gtΔt で,Δt→0 で0になる.確かめ:t=0.30s,Δt=0.10s なら差は 0.147m で,(1) の差と合う.

ポイント ここまでのまとめ

  • 2階の微分方程式の解は,初めの位置と速度(初期条件)でただ1つに決まる.自由度 s なら 2s 個の数が要る.

  • 加速度は方程式から決まるので,初めに自由には選べない.

  • オイラー法は,状態から次の状態を作る手続きで,刻みを小さくするほど本当の解に近づく.

  • 一般化座標は,系の条件を自動的に満たすように選ぶと後が楽になる.