問いしるべ
問いから始める物理 運動量と質点系

運動量と質点系

第5章のまとめ

著者:柚木芹香

この章では,運動方程式を時間で積分して運動量と力積を導き,内力が打ち消し合うことから保存則を得ました.そして視点を1つの物体から物体の集まり(質点系)へ広げ,重心,衝突,質量が変わる系,2体問題を調べました.ここで定義と法則を一覧にし,各節の最初の問いに短く答えます.

定義と法則

法則 運動量と力積

  • 運動量 p=mv,力積 I=∫Fdt.運動方程式を時間で積分すると Δp=I.

  • 短い衝突では,平均の力 F¯=Δp/Δt が使える.衝突の時間が長いほど,同じ力積でも平均の力は小さい.

  • 運動量保存:物体の系に外力が働かない(または,ある向きの外力の合力が0)とき,全運動量(またはその向きの成分)は一定である.外力の力積が無視できる短い衝突でも,その間は近似的に一定とみなせる.内力は作用反作用で打ち消し合う.

法則 重心

  • 重心 rG=∑miri∑mi,質点系の運動方程式 Mr¨G=F外.内力は打ち消し合い,重心の運動は外力だけで決まる.

  • 外力が無ければ重心は等速直線運動をする.重心が静止し続ける例が,氷の上の人と板である.

法則 衝突

  • 反発係数 e=−u1−u2v1−v2(v は衝突前,u は衝突後の速度).e=1 が弾性衝突,0<e<1 が非弾性衝突,e=0 が完全非弾性衝突.

  • 1次元の衝突は,運動量保存と反発係数の2式を連立して解く.2次元では成分ごとに運動量保存を使う.

  • 1次元の衝突を重心系で見ると,各物体の速度は向きが逆になり,大きさが e 倍になる.弾性衝突(e=1)なら速さは変わらない.2次元では,法線成分と接線成分に分けて考える.

法則 ロケットの運動方程式

  • 外力が無いとき mdv=−udm.噴射速度 u が一定ならツィオルコフスキーの式 v=uln⁡m0m.

  • 鉛直上向きに飛び,g が一定で空気抵抗が無く,初速度0,u が一定のとき v=uln⁡m0m−gt.推力は噴射速度と毎秒の噴射質量の積である.

法則 2体問題

  • 外力が無い2体は,重心の等速直線運動と,換算質量 μ=m1m2m1+m2 の1体の運動 μr¨=F(r=r1−r2)に分かれる.

  • 重心系で各物体の重心からの距離と速さは,質量の逆比である.

手順

ポイント 運動量と質点系の問題を解く手順

  1. 注目する物体の集まり(系)を決める.力を「系の内側のもの」と「外から働くもの」に分ける.

  2. 向きごとに,系に働く外力の合力(または外力の力積)を調べる.それが0(または無視できる)向きの全運動量は保存する.力があるかどうかではなく,合力で判断する.たとえば重力と垂直抗力がつり合えば鉛直成分も保存し,摩擦があれば水平成分も保存しない.

  3. 外力の力積が無視できる短い衝突では,衝突の前後だけを比べる.途中の力が分からなくても,運動量保存と反発係数で解ける.床や壁から受ける力は無視できない.

  4. 重心を使えるかを考える.重心の運動は外力だけで決まり,重心系に移ると衝突や2体の運動が簡単になる.

  5. 質量が変わる系は,微小時間 dt で運動量の収支を数える.持ち去られた分も系に含める.

  6. 極端な場合(質量が非常に大きい,e=0 や 1,m0/m が1に近い)で検算する.

主な公式

  • 運動量保存:m1v1+m2v2=m1u1+m2u2

  • 力積:Δp=F¯Δt

  • 重心:rG=m1r1+m2r2m1+m2,Mr¨G=F外

  • ロケット:v=uln⁡m0m(鉛直上向きに飛び,g が一定で空気抵抗が無く初速度0のとき,重力の分は −gt)

  • 2体問題:μ=m1m2m1+m2,円軌道では ω2=GMa3

各節の問いへの答え

  • 運動量と力積:同じ速さの野球ボールと鉄の球では,質量が違うので運動量 mv が違う.止めるには運動量を 0 にする力積が必要で,質量の大きいほうが大きな力積を要する.「速さ」だけでは足りず,質量と速さの積が衝撃の目安になる.手を引いて受けると,同じ力積を長い時間で受けるので平均の力が小さくなる.

  • 重心と質点系:回転しながら飛ぶバットでも,回転の仕方によらず放物線を描くのは重心である.重心の運動は外力(重力)だけで決まり,内力や回転には影響されない.

  • 衝突:運動量保存だけでは衝突後の2つの速度が決まらず,反発係数 e がもう1つの式になる.質量が等しい球の弾性衝突(e=1)では速度が入れ替わるので,止まっている的球に手球が正面から当たると,手球は止まり,的球が手球の速度で進む.

  • ロケットと質量が変わる系:ロケットは押す相手が外に無くても,ガスを後ろへ噴射し,その反作用で進む.ロケットとガスを合わせた運動量は保存する.v=uln⁡(m0/m) なので,質量比 m0/m がネイピア数 e(約2.7)を超えれば,噴射速度 u より大きな速さになれる.

  • 2体問題:月の軌道を円と近似すると,地球も月と同じ重心を中心に円を描いて動く.地球と月の重心は地球の内部にあり,地球の中心の描く円の半径は約 4.7×103km である.

この章で使った数学

ベクトルの時間積分,和の記号 ∑ と加重平均,連立方程式(和と差),微小量と対数の積分,座標の書き換え(重心座標と相対座標)がありました.