問いしるべ
問いから始める物理 万有引力と天体

万有引力と天体

第10章のまとめ

著者:柚木芹香

この章では,ケプラーが観測から見いだした3つの法則を出発点に,万有引力の法則を導きました.中心力の運動を調べるために極座標を導入し,位置エネルギーと脱出速度,実効ポテンシャル,軌道の形の導出と楕円軌道の乗り換え,球対称な天体の重力と潮汐へと進みました.ここで法則を一覧にし,各題材の最初の問いに短く答えます.

定義と法則

法則 ケプラーの法則と万有引力

  • ケプラーの法則:(1) 惑星は太陽を一方の焦点とする楕円を描く.(2) 太陽と惑星を結ぶ線分が単位時間に掃く面積(面積速度)は一定.これは中心力による角運動量の保存である.(3) 周期の2乗は長半径の3乗に比例する.

  • 万有引力の法則:質量 m1,m2 の質点が距離 r で引き合う力は F=Gm1m2r2(G=6.67×10−11Nm2kg−2).複数の質点からの力は,ベクトルとして足し合わせる(重ね合わせ).地表の重力加速度は g=GMR2.

法則 極座標での運動

  • 単位ベクトル er=(cos⁡θ,sin⁡θ),eθ=(−sin⁡θ,cos⁡θ) は場所で向きが変わり,e˙r=θ˙eθ,e˙θ=−θ˙er.

  • 速度は v=r˙er+rθ˙eθ,加速度は a=(r¨−rθ˙2)er+1rddt(r2θ˙)eθ.r 一定で円運動の式に戻る.

  • 中心力では r2θ˙=L/m が一定(角運動量の保存,面積速度 12r2θ˙ が一定).

法則 重力のポテンシャルと軌道のエネルギー

  • 無限遠を基準にした位置エネルギーは U=−GMmr.万有引力は保存力である.

  • 半径 r の円軌道の速さは v=GMr,力学的エネルギーは E=−GMm2r(運動エネルギーの符号を変えたもの).

  • 角運動量が0でないとき,E<0 は束縛された楕円(円を含む),E=0 は放物線,E>0 は双曲線.E=0 となる地表での速さが脱出速度で,vesc=2GMR.

  • 位置エネルギー U(r) の中心力のもとで角運動量 L をもつ運動の動径方向は,実効ポテンシャル Ueff(r)=L22mr2+U(r) の中の1次元運動として読める.E=Ueff が転回点,谷の底が円軌道(dUeffdr=0 は円運動の運動方程式と同じ),d2Ueffdr2>0 なら安定.万有引力では Ueff=L22mr2−GMmr.

法則 楕円軌道

  • u=1/r を θ の関数とみると,運動方程式は d2udθ2+u=1ℓ(ℓ=L2GMm2)となり,軌道の式 r=ℓ1+ecos⁡θ(θ は近点から)が導ける.E=GMm2ℓ(e2−1) で,e=0 円,0<e<1 楕円,e=1 放物線,e>1 双曲線.

  • 長半径 a,離心率 e のとき,近点 rp=a(1−e),遠点 ra=a(1+e),ℓ=a(1−e2).

  • E=−GMm2a,距離 r での速さは v2=GM(2r−1a).近点と遠点では rpvp=rava.

  • 周期は T=2πa3GM.半径 r1 の円軌道から半径 r2 の円軌道への乗り換え(ホーマン遷移)は,長半径 r1+r22 の半楕円を通り,高い軌道(r2>r1)へ移るときは接点で2回加速し,低い軌道へ移るときは2回減速する.

法則 球対称な質量分布

  • 球殻の定理:一様な球殻は,外の質点には中心に集まった質点として働き,内の質点には力を及ぼさない.

  • 一様な球(半径 R)の内部では,内側の質量だけが中心に集まったものとして働き,F=mgRr.中心を通るトンネルでは周期 2πR/g の単振動になる.

  • 潮汐力は,天体(質量 M,距離 r)の引力の,中心との差である.天体と中心を結ぶ軸上で中心から d(r より十分小さい)の点では,大きさ 2GMmdr3 で,天体側は天体向き,反対側は逆向きに働く(軸に垂直な方向では,大きさ GMmdr3 で中心向き).

手順

ポイント 天体の運動の問題を解く手順

  1. 円軌道なら,万有引力 = 向心力(GMmr2=mv2r).地表では GM=gR2 で M を消せることが多い.

  2. 楕円軌道では,近点・遠点の角運動量保存 rpvp=rava とエネルギー保存を連立する.長半径 a が分かれば,E,T が決まる.

  3. 軌道の種類や脱出は,E の符号で判断する(E=0 の境目).万有引力以外の中心力では,実効ポテンシャルの図で転回点と円軌道を読む.

  4. 球対称な天体の内部では,内側の質量だけを中心に置く.外では全質量を中心に置く.

  5. 検算は,g=GM/R2,第一宇宙速度 7.9kms−1,地表すれすれの周期 84 分と比べる.

主な公式

  • 万有引力:F=Gm1m2r2,U=−GMmr

  • 極座標:v=r˙er+rθ˙eθ,ar=r¨−rθ˙2,aθ=rθ¨+2r˙θ˙,L=mr2θ˙

  • 実効ポテンシャル:Ueff=L22mr2+U(r)

  • 円軌道:v=GMr,E=−GMm2r

  • 脱出速度:vesc=2GMR

  • 軌道の式:r=ℓ1+ecos⁡θ,ℓ=L2GMm2,E=GMm2ℓ(e2−1)

  • 楕円軌道:E=−GMm2a,v2=GM(2r−1a),T=2πa3GM

  • 一様な球の内部:F=mgRr,潮汐力(軸上,d は r より十分小さい):2GMmdr3

各題材の問いへの答え

  • ケプラーの法則と万有引力:月は地球の引力を受けて,常に地球の方へ落ち続けている.ただし横向きの速さが大きく,落ちた分だけ地球の表面が曲がって遠ざかるので,ぶつからずに回り続ける.月は地球半径の約 60 倍の距離にあり,向心加速度は地表の g の約 602 分の1である.

  • 極座標で運動を記述する:糸を引いている間,小球は内向きに動くので速度は糸に垂直でなく,糸の力が仕事をする.加速度で見ると,回る向きの成分 rθ¨+2r˙θ˙ が0でも,eθ の向きが回るので回る向きの速さ rθ˙ は増える.r2θ˙ が一定なので,半径が3分の1なら速さは3倍になる.

  • 重力のポテンシャルとエネルギー:地表から打ち出して無限遠でちょうど止まるには,12mv2=GMmR.よって v=2GM/R≈11.2kms−1 で,地表すれすれの円軌道の速さの 2 倍である.

  • 軌道:円軌道で速さを少し上げると,その点を近点とする楕円になる.反対側の遠点が高くなり,周期も延びる.速くなるのは近点付近だけで,遠点付近ではむしろ遅い.

  • 球対称な質量分布と潮汐:一様な地球を貫くトンネルでは,重力が中心からの距離に比例するので,約 84 分の単振動になる.地表すれすれの円軌道と周期が等しく,中心を通るとき最も速い.

この章で使った数学

円運動と面積速度,極座標の単位ベクトルの微分(連鎖律と三角関数の微分),保存力とポテンシャル(線積分,広義積分),θ を変数にした微分と軌道の方程式,楕円の幾何,置換積分,テイラー展開による近似,単振動の微分方程式がありました.