問いしるべ
問いから始める物理 電荷と電場

電荷と電場

第20章のまとめ

著者:柚木芹香

この章では,止まった電荷が作る電場,つまり静電気を扱いました.出発点はクーロンの法則と重ね合わせの原理で,そこから「電荷が場を作り,場が電荷に力を及ぼす」という見方に切り替えて電場を導入しました.静電場の性質は2つにまとまります.閉じた面から出る流束が中の電荷で決まること(ガウスの法則)と,どんな閉じた道でも一周の線積分が0であること(保存場)です.後者から電位という1つの数の地図が作れ,前者と合わせると,電荷の無い所の電位には山も谷もないことが分かりました.この2つを導体に当てはめると静電遮蔽とコンデンサーが,物質の偏りを分極という平均の量で表すと誘電体の振る舞いが出てきました.

定義と法則

法則 電荷とクーロンの法則

  • 電荷には正負があり,外とやりとりの無い系では総和が保存する.自由に取り出せる電荷は電気素量 e=1.60×10−19C の整数倍である.

  • 真空中で距離 r だけ離れた点電荷 q1,q2 の間には,2つを結ぶ直線に沿って大きさ

F=k|q1q2|r2,k=14πε0=8.99×109Nm2C−2

の力が働き,同符号なら斥力,異符号なら引力である.ε0=8.85×10−12C2N−1m−2 を真空の誘電率という.

  • たくさんの電荷からの力は,1つずつの力をベクトルとして足したものになる(重ね合わせの原理).

  • 電子どうしでは電気の力は重力の約 4×1042 倍である.物質がほぼ正確に中性を保つのは,わずかな偏りでもこの強い力が偏りを戻すからである.

定義 電場と電気力線

点 r に置いた試験電荷 q が受ける力が F のとき,その点の電場を E=F/q と定める(単位 NC−1=Vm−1).点電荷 Q の電場は kQer/r2 である.電気力線は各点で電場の向きに接し,電場の強い所ほど密に描く.正電荷から出て負電荷に入り,電荷の無い所で始まったり終わったりせず,互いに交わらない.

定義 電気双極子

+q と −q が小さな距離 d だけ離れた組を電気双極子といい,−q から +q へ向かう大きさ qd のベクトルを双極子モーメント p という.全体の電荷は0だが,遠方では電位が kp⋅r/r3,電場が 1/r3 で減る形で残る.電場の中では U=−p⋅E,トルク τ=p×E で,一様な電場では力の和が0,一様でない電場では電場の強い方へ引かれる(p が x 向きなら F=pdE/dx).

法則 ガウスの法則

面を通る電場の流束 ΦE=∫E⋅ndS は,面を通る電気力線の本数である.任意の閉じた面(n は外向き)について

ΦE=Qinε0

が成り立つ(Qin は面の中の電荷の総和).面の外の電荷は面上の電場を変えるが,流束には寄与しない.クーロンの法則の逆2乗の性質と同じ内容で,流束という面全体の合計についての法則なので,各点の電場までは決めない.各点の形は ∇⋅E=ρ/ε0(発展).

定理 静電場と電位

  • 止まった電荷の電場の線積分 ∫ABE⋅dr は道すじによらず,閉じた道を一周すると0になる(保存場).各点の形は ∇×E=0(発展).

  • 電位を V(P)=−∫OPE⋅dr と定める(単位 V=JC−1).電荷 q の位置エネルギーは qV である.q が A から B へ動く間に電場がする仕事は −q(VB−VA),ゆっくり運ぶ外力の仕事は +q(VB−VA).

  • E=−∇⁡V.電場は等電位面に垂直で,電位の下がる向きを向き,等電位面が混んだ所ほど強い.

  • 電荷の無い所に電位の極大も極小もないので,止まった電荷の力だけで電荷を安定につり合わせることはできない(アーンショーの定理).各点の形はポアソン方程式 ∇2⁡V=−ρ/ε0,電荷の無い所ではラプラス方程式 ∇2⁡V=0(発展).

定理 静電平衡の導体

  1. 導体の内部では E=0.

  2. 導体全体が等電位で,表面は等電位面.電場は表面に垂直に出入りする.

  3. 電荷は表面にだけ分布する.

  4. 面電荷密度 σ の所のすぐ外の電場は E=σ/ε0.曲がり方の急な,とがった所に電荷が集まり,電場が強くなる.

空洞に電荷が無ければ,外にどんな電荷があっても空洞の中の電場は0である(静電遮蔽).空洞に q を置くと内表面に −q が誘導され,もともと中性の導体なら外表面に +q が現れる.導体の表面の電位と空間の電荷を決めると,電位は1つに決まる.鏡像法はこれを使う.

定義 電気容量

2つの導体に +Q と −Q を与えたときの電位差 V は Q に比例する.Q=CV の C を電気容量といい,単位は F=CV−1(ファラド)である.

定義 分極と比誘電率

  • 誘電体の小さな体積に含まれる双極子モーメントの和を体積で割った P を分極という(数密度 n の分子が平均 p をもてば P=np).表面には面密度 σb=P⋅n の分極電荷が現れ,閉じた面の中の分極電荷の和は Qb=−∫P⋅ndS である.分極電荷は分子に縛られて運び出せない.極板にのせた電荷のように外から決められる電荷を自由電荷という.

  • P=ε0(εr−1)E と書ける誘電体を線形な誘電体,εr を比誘電率,ε=εrε0 を誘電率という.比例は電場が原子の中の電場より十分弱いときの近似である.

法則 電束密度と自由電荷のガウスの法則

電束密度 D=ε0E+P について,どんな閉じた面でも

∫D⋅ndS=Qf

が成り立つ(右辺は面の中の自由電荷).線形な誘電体の中では D=εrε0E.2つの誘電体の境界では,電場の接線成分がつながり(E1t=E2t),電束密度の法線成分は自由電荷の分だけ跳ぶ(D2n−D1n=σf).

手順

ポイント 静電気の問題を解く手順

  1. 点電荷の配置では,力を受ける電荷を1つ決め,ほかの電荷の電場の大きさ k|qi|/ri2 と向きを図に描く.対称性で打ち消し合う成分を先に消し,残りを成分ごとに足す.対称な配置の一部を変えたときは「対称な配置+差の電荷」と見る.

  2. 電位はただの数の和 ∑ikqi/ri なので,向きを考えずに足せる.

  3. 対称性があれば,面上で E⋅n が一定か0になるガウス面を選び,流束を「電場の大きさ × 面積」にして Qin から電場を出す.対称性が無ければ,小さな部分の電荷 dq の電場を積分する.

  4. コンデンサーでは,導線でつながった導体をまとめた孤立部分ごとに電位を未知数にし,向かい合う面の電荷を「容量 ×(自分の電位 − 相手の電位)」と書く.電源や接地につながっていない部分では電荷の和を保存させる.極板の電荷を初めから +Q,−Q と決めつけない.

  5. エネルギーと力は,電荷一定なら W外力=ΔU,電圧一定なら電源の仕事 VΔQ を入れて W外力+W電池=ΔU で収支をとる.

  6. 誘電体では自由電荷を D の流束で数える.極板に平行な境界では D が共通(直列),極板に垂直な境界では E が共通(並列)になる.

主な公式

  • 点電荷の電位:V=kQ/r(無限遠が基準)

  • 双極子の遠方の電場:k[3(p⋅er)er−p]/r3(軸上 2kp/r3,垂直二等分線上 −kp/r3)

  • 球殻(半径 a,電荷 Q):外 kQ/r2,中 0.一様に帯電した球(半径 R):中 kQr/R3,外 kQ/r2

  • 直線電荷 E=λ/(2πε0r),電位 V=−λ2πε0ln⁡rr0.平面電荷 E=σ/(2ε0).±σ の2枚の間 σ/ε0,外 0

  • 輪(半径 a,電荷 Q)の軸上:Ez=kQz/(a2+z2)3/2

  • 一様な電場:V=Ed.電子ボルト 1eV=1.60×10−19J

  • 点電荷の系の静電エネルギー:U=∑i<jkqiqj/rij=12∑iqiVi

  • 導体:すぐ外の電場 σ/ε0.導線でつないだ2つの球では σ∝1/r

  • 鏡像法(接地した平面から高さ a の q):引力 kq2/(2a)2,誘導電荷 σ=−qa2π(s2+a2)3/2(総量 −q),無限遠まで運ぶ仕事 kq2/(4a)

  • 容量:平行板 C=ε0S/d(d が S よりずっと小さいとき),球形 C=4πε0ab/(b−a),並列 C=C1+C2,直列 1/C=1/C1+1/C2.隙間を誘電体で満たすと εr 倍

  • エネルギー:U=Q22C=12CV2=12QV,エネルギー密度 12ε0E2(誘電体の中では 12ED)

  • 極板の間の引力:Q2/(2ε0S)(電荷一定でも電圧一定でも同じ)

  • 逆向きのつなぎ替えで失われるエネルギー:12C1C2C1+C2(V1+V2)2(導線の抵抗によらない)

  • 誘電体を引き込む力:F=V22dCdx=ε0w(εr−1)V22d(その瞬間の電圧 V で,電荷一定でも電圧一定でも同じ)

  • 誘電体の中の点電荷:E=q4πεrε0r2.境界での電気力線の屈折 tan⁡θ1/tan⁡θ2=εr1/εr2

  • 原子の模型の分極率 α=4πε0a3(p=αE),希薄な気体 εr=1+nα/ε0

各題材の問いへの答え

  • クーロンの法則と電場:電気の力は重力より 1042 倍も強いので,下じきの電荷が全電荷の1兆分の1にも足りない偏りでも,髪の毛の重さに勝てる.帯電していない髪の毛が引かれるのは,下じきの電場で中の電荷が偏って双極子になり,近い側に寄った異符号の電荷のほうが強い電場の所にあるからで,下じきの電荷の符号によらず引き寄せられる.

  • ガウスの法則:導体の中だけを通って空洞を囲む閉じた面では電場が0なので,中の電荷の和は0で,球に与えた電荷も外の帯電体が呼び寄せる電荷もすべて外側の表面に集まる.電荷の無い空洞の中の電場は0で,空洞に入れた電荷は球の電荷からも外の帯電体からも力を受けない.ファラデーの部屋の検電器が動かなかったのはこのためである.

  • 電位と静電エネルギー:静電場はどんな閉じた道でも一周の線積分が0なので,電位という1つの数の地図が作れる.等電位面が等高線で,電場はそれに垂直に電位の下がる向きを向き,等電位面が混んだ所ほど強い(E=−∇⁡V).電荷の無い所では ∇2⁡V=0 なので山頂も谷底もなく,鞍の形だけが許される.

  • 導体とコンデンサー:金属の車体の中の電場は0で,電荷の無い空洞には外の電場が入らない(静電遮蔽).雷の電荷は外表面を伝わって地面へ逃げ,中の人には電位差がかからない.速く変わる場でも表面の電流が中を守ることは第23章で見る.

  • 誘電体と分極:水の分子が NaA+ のまわりで向きをそろえ,イオンの表面を負の分極電荷が包むので,電場は 1/εr≈1/80 に弱まる.距離 0.28nm の NaA+ と ClA− の引き合うエネルギーは真空の約 5eV から約 0.06eV になり,kBT と同じ程度まで下がるので,熱運動がイオンを引き離せる.

この章で使った数学

面積分(平面は dxdy か輪 2πsds,円筒の側面は rdφdz,球面は帯 2πr2sin⁡θdθ に分ける),連続な電荷分布の電場の積分(dq=λdl,σdS,ρdV を点電荷とみなし,打ち消し合う成分を先に消す),電場の線積分,そして d/r の1次までの展開がありました.どれも,電荷や場を小さな部分に分けて足し合わせる道具と,近似がどこまで使えるかを測る道具です.

数学の道具(発展)

定理 数学の道具:発散とガウスの定理(発展)

  • ベクトル場 h の発散 ∇⋅h=∂hx∂x+∂hy∂y+∂hz∂z は,小さな体積から出ていく流束をその体積で割ったもの.

  • ガウスの定理:閉じた面 S と,それが囲む体積 V について ∫Sh⋅ndS=∫V∇⋅hdV.隣り合う小さな箱の共通の面の流束が打ち消し合い,外側の面だけが残る.

  • 保存する量の連続の式 ∂u/∂t=−∇⋅h.電荷では ∂ρ/∂t=−∇⋅j.

  • ガウスの法則に使うと,各点で ∇⋅E=ρ/ε0.点電荷の電場は原点以外で ∇⋅E=0.

定理 数学の道具:勾配・回転とストークスの定理(発展)

  • 勾配 ∇⁡ψ=(∂ψ∂x, ∂ψ∂y, ∂ψ∂z) は ψ が最も急に増える向きを向き,Δψ=∇⁡ψ⋅Δr.勾配の線積分は道すじによらず ∫AB∇⁡ψ⋅dr=ψ(B)−ψ(A).

  • 回転 ∇×v の n 方向の成分は,n に垂直な小さな道を一周する循環を,道の囲む面積で割ったもの.z 成分は ∂vy/∂x−∂vx/∂y.

  • ストークスの定理:閉じた道 Γ と,それを縁とする面 S について ∫Γv⋅dr=∫S(∇×v)⋅ndS.

  • ∇×∇⁡ψ=0,∇⋅∇×v=0.穴のない領域では,回転が0の場は勾配で書ける(保存場).

  • ラプラシアン ∇2⁡ψ=∇⋅∇⁡ψ=∂2ψ∂x2+∂2ψ∂y2+∂2ψ∂z2 は,まわりの平均とのずれを表す.∇2⁡ψ=0 なら極大も極小もない.球対称では 1r2ddr(r2dVdr),円筒対称では 1rddr(rdVdr).

静電場の法則は ∇⋅E=ρ/ε0 と ∇×E=0 の2つで尽きていて,電位を使うとポアソン方程式1つにまとまります.次の第21章では電荷が動いて電流になる場合を扱い,その先で磁場が現れます.磁場が時間とともに変わると ∇×E が0でなくなり,電位だけでは電場を表せなくなることを第23章で見ます.