問いしるべ
問いから始める物理 電流と磁場

電流と磁場

第22章のまとめ

著者:柚木芹香

この章では,磁場を「動く電荷に働く力」で定義し,電流が磁場を作るしくみ,電流が磁場から受ける力とモーター,鉄などの磁性体へと進みました.磁気力は速度に垂直なので仕事をしませんが,電流の流れのエネルギーを導体の運動へ移しかえ,モーターの仕事は電源から来ます.静磁場は湧き出しがなく,電流のまわりに渦を巻く場で,電荷から湧き出して渦のない静電場と対になります.最後の(発展)の題材では,磁気力が電気力に対する v2/c2 程度の相対論の補正であり,電場と磁場が1つの電磁場の2つの見え方であることを見ました.

定義と法則

定義 ローレンツ力と磁場

電荷 q が速度 v で動くとき,電荷に働く力は

F=q(E+v×B)

と書ける.この式で決まる B を磁束密度(この本では磁場)という.単位は T=NA−1m−1 である.磁気力 qv×B は速度に垂直なので仕事をせず,速さを変えない.荷電粒子を加速するのは電場である.

法則 ビオ・サバールの法則

電流 I の導線の微小な部分 dl(電流の向き)が,そこから r だけ離れた点に作る磁場は

dB=μ04πIdl×rr3

である.大きさはクーロンの法則と同じ逆2乗で,向きは外積で決まる.μ0 は真空の透磁率で,この本では 4π×10−7NA−2 を使う.

法則 磁場のガウスの法則とアンペールの法則

  • 磁力線は閉じていて,どんな閉じた曲面から出ていく磁束も0である:∫SB⋅dS=0.磁気単極子は見つかっていない.

  • 定常電流が作る磁場について,閉じた道 C に沿って一周する線積分は,C を縁とする面を貫く電流の μ0 倍である(電流の符号は右ねじで決める).

∫CB⋅dl=μ0Iin
  • (発展)微分形は ∇⋅B=0,∇×B=μ0j である.静電場の ∇⋅E=ρ/ε0,∇×E=0 と並べると,静磁場は湧き出しがなく電流のまわりに渦を巻く場である.∇⋅(∇×A)=0 から,この形のアンペールの法則は電荷がたまらない定常電流に限られ,電流が変わるときは第24章で項を1つ足す.

法則 電流に働く力

電流 I の流れる導線の微小部分 dl には dF=Idl×B の力が働く.一様な磁場の中では,どんな形の導線も両端をまっすぐ結んだ導線と同じ力を受け,閉じた回路の合力は0である(トルクは0とは限らない).

定義 磁気モーメント

電流 I が囲む面積 S の平面のコイル(N 巻)の磁気モーメントは m=NISn(単位 Am2,n は電流の向きに右ねじを回したときにねじの進む向きの法線)である.一様な磁場の中では合力は0で,トルクは

τ=m×B

である.電流を一定に保って動かすときの位置エネルギーは U=−m⋅B で,これは電源の仕事まで含めた勘定である.磁場が一様でなければ Fz=mdB/dz の合力が働き,小さなコイルは磁場の強い方へ引かれる.

定義 アンペア(今の SI)

2019年5月20日から,SI は電気素量を e=1.602176634×10−19C ちょうどと定め,1A は1秒あたり電気素量 1/(1.602176634×10−19) 個分の電荷が通る電流である.それまでの平行電流の力による定義は,μ0=4π×10−7NA−2 と決めたことと同じだった.今は μ0 が測る量で,測定値はこの値と 10−9 より小さい相対差で一致する.

定義 磁化と磁場の強さ

  • 単位体積あたりの磁気モーメントを磁化 M(単位 Am−1)という.一様な磁化は,表面を回る長さあたり M の磁化電流と同じである.

  • 磁場の強さ H=B/μ0−M(単位 Am−1)の一周の線積分は,道を貫く自由電流に等しい:∫H⋅dl=If.

  • 線形な磁性体では M=χH,B=μ0(1+χ)H=μrμ0H=μH である.χ を磁化率,μr を比透磁率,μ を透磁率という.

  • 境界では B の法線成分がつながり,自由電流が無ければ H の接線成分もつながる.

  • 常磁性(χ>0.χ は温度に反比例するキュリーの法則),反磁性(χ<0.すべての物質がもち,超伝導体は χ=−1),強磁性(磁区ごとにモーメントがそろい,キュリー温度を超えると常磁性になる)がある.強磁性体の B と H は比例せず,履歴によってヒステリシス曲線をたどる.

法則 (発展)系を変えたときの電荷・力・場

  • 電荷は系によらず,長さは運動の向きに 1/γ 倍に縮むので,線電荷密度は動いて見えると γ 倍になる.

  • 物体が止まって見える系で横向きの力が F′ なら,速さ v で動いて見える系では F′/γ である.系によらないのは横向きの運動量と運動の予測である.

  • u が c に比べて十分小さいとき,速度 u で動く系の電場と磁場は

E′≈E+u×B,B′≈B−u×Ec2

で,止まった電荷分布の電場は,それが速度 v で動いて見える系では磁場 B=v×E/c2 を伴う.

手順

ポイント 磁場の問題を解く手順

  1. 力やトルクの向きは外積で確かめる.ex×ey=ez の順なら正で,電荷が負なら力は逆向きである.

  2. 磁場の中の円軌道では,円の中心を,入った点で速度に垂直な直線の上,力の側に作図する.中心角がふれ角で,かかる時間は中心角を ω で割って出す.

  3. 有限の磁場領域では,境界で位置と速度をつなぎ,円の上で最も奥まで届く点が境界を越えるかで,抜けるか戻るかを決める.

  4. アンペールの法則は,対称性で磁場の向きを決め,B が道に平行で一定か,垂直か,0になる道を選んで使う.磁性体では自由電流だけで決まる H の線積分を使う.

  5. 電流を一定に保つコイルは,U=−mBcos⁡θ の中の振り子として扱える.

  6. 使った近似(長い導線,一様な磁場,小さな振幅,|χ| が1より十分小さいことなど)を,最後に数値で点検する.

主な公式

  • 一様な磁場の中の円運動:r=mvqB,ω=qBm,T=2πmqB(周期は速さによらない).斜めに入るとらせん運動で,ピッチは v∥T

  • 幅 d の帯状の領域に境界に垂直に入る粒子:r>d なら sin⁡θ=d/r のふれ角で抜け,r≤d なら半円を描いて,入った点から 2r の点で逆向きに出る

  • 速度選択器 v=E/B,質量分析器 r∝m/q(速さがそろうとき),サイクロトロンで半径 R から取り出す運動エネルギー K=q2B2R22m

  • ホール電圧:VH=IBnqh.符号から電荷を運ぶ粒子の符号が,大きさから n が分かる

  • 十分長い直線電流:B=μ0I2πr.線分の電流:B=μ0I4πd(sin⁡β2−sin⁡β1)

  • 円電流:中心で B=μ0I2R,軸上で B=μ0IR22(R2+z2)3/2

  • 長いソレノイドの内部:B=μ0nI(一様).十分長いソレノイドの端の面の中心ではその半分

  • 半径 a の太い導線に一様な電流:B=μ0Ir2πa2(r≤a),B=μ0I2πr(r≥a)

  • 平行電流の間の力:長さ l あたり F=μ0I1I22πdl.同じ向きなら引き合い,逆向きなら退け合う

  • コイルのトルクの大きさ:ISBsin⁡θ.放射状の磁場の電流計 ϕ=NSBI/κ.整流子付きのモーターのトルクの1回転の平均 (2/π)NISB

  • 電子の軌道の磁気モーメント:m=−e2meL,ボーア磁子 μB=eℏ2me=9.27×10−24Am2

  • 環状コイル(周の長さ ℓ):H=NI/ℓ,B=μrμ0NI/ℓ.幅 d のすき間があると B=μ0NIℓ/μr+d

  • 弱い磁性体の小片(体積 V)の力:m=χVB/μ0,Fx=mdB/dx.常磁性体は磁場の強い方へ引かれ,反磁性体は弱い方へ押し出される

  • ヒステリシスの損失:1往復で単位体積あたり w=∫HdB(曲線の囲む面積),振動数 f では仕事率 fwV

  • (発展)μ0ε0=1/c2.伝導電子と同じ速度で飛ぶ陽子の系で見た導線の線電荷密度 λ′=γλ0v2/c2,力 F′=γF.速さ u の電荷から見た導線は λ′≈−Iu/c2.平行な電子線では FB/FE=v2/c2,合力 F=FE/γ2=F0/γ

各題材の問いへの答え

  • ローレンツ力と磁場の中の運動:太陽からの荷電粒子は,地球の磁場の中で回る半径が地球の大きさよりずっと小さいので,磁力線を横切れず,巻きついて磁力線に沿ってしか進めない.赤道の上空では押し返され,極へ向かうと磁場が強まって多くの粒子は南北を往復する.磁力線にほぼ沿って進む粒子だけが,磁力線が地面に入る極の近くで大気に届くので,オーロラは極を囲む地域に現れる.

  • 電流が作る磁場とアンペールの法則:直線電流の磁力線は導線を中心とする同心円で,向きは電流に右ねじを進めるときの回る向き,強さは μ0I/(2πr) である.方位磁針は円の接線,つまり導線に垂直な向きの磁場を受け,地磁気の水平成分との合成の向きまでふれる.電流を逆にすると逆にふれる.

  • 電流に働く力とモーター:コイルにはトルク m×B が働き,磁気モーメントを磁場にそろえようとする.整流子で半回転ごとに電流を反転させれば,トルクの向きがいつも同じになり回り続ける.磁気力は電荷に仕事をせず,電流の流れのエネルギーを導体の運動へ移しかえる.流れが弱まらないように電源が仕事をするので,モーターの仕事は電源から来る.

  • 磁性体と磁化:アルミ(常磁性)はわずかに引かれ,銅(反磁性)はわずかに押し出されるが,磁化率は 10−5 程度で,力が重さに比べて小さすぎて気付かない.鉄は強磁性体で,磁区ごとに原子のモーメントがそろっているので,磁石の磁場の中で磁区の向きがそろい,μ0M が T の程度に達するほど大きく磁化して,磁場の強い方へ引かれる.真っ赤に焼くとキュリー温度を超えてそろいが壊れ,磁石の性質を失う.

  • 磁気の力の正体(発展):陽子と一緒に飛ぶ人から見ても,陽子は導線から遠ざかる.その系ではイオンの間隔がローレンツ収縮で縮み,伝導電子の間隔が広がって,導線が正に帯電して見えるからである.陽子を押すのは導線の系では磁気力,陽子の系では電気力で,大きさも γ 倍違うが,横向きの運動量の変化と陽子の当たる位置は一致する.

この章で使った数学

外積の成分と向き,円軌道の中心・中心角・弦の作図,置換 z=dtan⁡β によるビオ・サバールの法則の積分,(発展)として,第20章のストークスの定理とガウスの定理による積分形から微分形への書き直しと,恒等式 ∇⋅(∇×A)=0 がありました.発散が0の磁場は B=∇×A と書け,A をベクトルポテンシャルといいます(発展.この本では名前だけにとどめました).(発展)の題材では,ローレンツ収縮と時間の遅れに加えて,x が十分小さいときの 1/1−x≈1+x/2 を使いました.次の第23章では,磁場が変化すると電場ができる電磁誘導へ進み,第24章でマクスウェル方程式にまとめます.