問いしるべ
問いから始める物理 原子核と素粒子

原子核と素粒子

第31章のまとめ

著者:柚木芹香

この章では,原子の中心にある原子核へ進み,エネルギーの桁が eV から MeV へ100万倍になる世界を扱いました.原子核は陽子と中性子が短距離の強い引力である核力で結びついたもので,その結びつきの強さは質量の減り方として直接測れます.質量はエネルギーの一つの形なので,核子1個あたりの結合エネルギーの山に近づく核分裂や核融合はエネルギーを出します.不安定な核は確率的に崩れ,多数の核は指数関数で減ります.さらに反応の前後で保存する量を数え直すと,粒子そのものが生まれたり消えたりすることも,エネルギーと運動量の勘定に収まることが分かりました.

定義と法則

定義 原子核の構成と大きさ

  • 原子核は陽子 Z 個と中性子 A−Z 個からなり,ZAX と書く.Z を原子番号,核子の数 A を質量数という.Z が同じで A が違うものを同位体という.

  • 原子質量単位 1u は 12C 原子1個の質量の 1/12 で,1.6605×10−27kg である.原子の質量は u で量るとほぼ A に等しい.

  • 原子核の半径は R≈r0A1/3(r0≈1.2fm)で,密度は A によらず約 2.3×1017kgm−3 である.

法則 4つの相互作用と核力

  • 相互作用は強い相互作用(核力),電磁相互作用,弱い相互作用,重力の4種類で,強さも届く距離も大きく違う.弱い相互作用は中性子が陽子に変わるような粒子の種類の変化を起こす.

  • 核力は核子どうしにほぼ同じ強さで働く引力で,届く距離は約 1fm,届く範囲ではクーロン力よりずっと強く,約 0.5fm より近いと強い斥力になる.核子は隣の核子とだけ引き合い,陽子はすべての陽子と反発する.

法則 質量とエネルギー

  • 質量 m の粒子は静止エネルギー mc2 をもち,E2=(pc)2+(mc2)2,運動エネルギーは K=E−mc2 である.光子は E=pc.K/(mc2) が 1 % 程度までならニュートン力学の p2/(2m) でよい.

  • 全体として静止した系の質量は Mc2=∑imic2+K+U で決まる.保存するのはエネルギーで,質量は保存しない.束縛された系は部分の質量の和より軽い.

定義 質量欠損・結合エネルギー・Q値

  • 質量欠損 Δm=Zmp+Nmn−M,結合エネルギー B=Δmc2.B は止まった原子核を止まった自由な核子にばらばらにするのに要るエネルギーである.中性の原子の質量を使うときは mp を水素原子の質量 mH に替える.

  • 反応の Q 値 Q=(∑前m−∑後m)c2 は運動エネルギーの増加(光子のエネルギーを含む)に等しい.Q>0 が発熱反応,Q<0 が吸熱反応である.

  • 陽子と中性子の数がそれぞれ変わらない反応では Q=∑後B−∑前B(自由な核子は B=0).

  • Q>0 は反応がエネルギーの上で許されることを言うだけで,すぐ起こることまでは言わない.

公式 液滴模型

B=avA−asA2/3−acZ2A1/3,av≈15.5MeV,as≈17.0MeV,ac=3kee25r0≈0.72MeV

体積の項は短距離の核力,表面の項は表面の核子の隣の不足,クーロンの項は一様に帯電した球の静電エネルギー 35ke(Ze)2/R から来る.小さい核は表面の損,大きい核はクーロンの損で B/A が下がり,鉄の付近(A≈56 から 62)で最大の約 8.8MeV になる.

定義 放射性崩壊の3種類

  • α 崩壊:24He を出し,Z が2,A が4減る.2体に分かれるので α 粒子のエネルギーは一定である.

  • β− 崩壊:核の中で n⟶p+e−+ν¯.Z が1増え,A は変わらない.3体に分かれるので電子のエネルギーは0から Q までの連続分布になる.β+ 崩壊もある.

  • γ 崩壊:励起状態の核が光子を出して低い状態へ移る.

  • どの崩壊でも電荷・質量数・エネルギー・運動量が保存し,Q>0 のときだけ自然に起こる.

法則 崩壊の法則

まだ崩壊していない核が短い時間 Δt に崩壊する確率は λΔt で,λ は核の種類で決まり,核は年をとらない.多数の核では

dNdt=−λN,N=N0e−λt=N0(12)t/T1/2,T1/2=ln⁡2λ,τ=1λ

である.

定義 放射能・計数・線量

  • 放射能 R=−dN/dt=λN,単位 Bq=s−1.

  • 検出器の計数は立体角 S/(4πd2) と検出効率 ε の分だけ小さく,バックグラウンドを引いて正味の計数にする.計数 C のゆらぎは C,正味の計数 C−D の不確かさは C+D.

  • γ 線は I=I0e−μx で減り,半価層は ln⁡2/μ.α 線・β 線は電離でエネルギーを失い,飛程で止まる.

  • 吸収線量は 1kg あたりのエネルギー(Gy=Jkg−1),等価線量・実効線量は放射線の種類や臓器の重みを掛けたもの(Sv).

法則 反応で保存する量

核反応や粒子の生成・消滅では,全エネルギー(静止エネルギーを含む),全運動量,角運動量,電荷,核子の数(バリオン数),レプトン数が保存する.反粒子は負に数える.粒子の数そのものは保存しない.

ポイント 粒子と反粒子,素粒子

  • すべての粒子には質量が同じで電荷などの符号が逆の反粒子がある.粒子と反粒子は対で生まれ,対で消え,エネルギーと運動量は光子などに受け継がれる.

  • 陽子は uud,中性子は udd(u は +2e/3,d は −e/3).物質の素粒子はクォークとレプトンの3世代で,力はグルーオン,光子,W・Z粒子,重力子(未発見)が運ぶ.ほかにヒッグス粒子がある.β 崩壊は弱い相互作用で d が u に変わる反応である.

手順

ポイント 原子核の問題を解く手順

  1. 長さは fm,エネルギーは MeV,質量は u で量り,J や kg には最後に直す.クーロンエネルギーは kee2=1.44MeVfm を距離で割る.

  2. 反応式では,まず電荷・質量数(核子数)・レプトン数の保存を確かめる.崩壊系列では α 崩壊の回数を質量数の変化から,β− 崩壊の回数を原子番号の変化から決める.

  3. 原子の質量の表で Q を出すときは,両辺の電子の数がそろっているかを確かめる.

  4. 止まった状態から2つに分かれるときは,運動量が等しく逆向きになるので,運動エネルギーは質量に反比例して分かれる.重い反跳核の運動エネルギーは E2/(2Mc2) と小さい.

  5. 衝突で最も近づくのは相対速度が0の瞬間で,止まった標的の反跳を入れると,位置エネルギーや反応に使えるのは KM/(m+M) だけである.

  6. しきいは,不変量 s=Es2−c2|ps|2 を実験室系で計算し,重心系で生成物が止まった値 (∑mfc2)2 と比べて求める.

主な公式

  • (1u)c2=931.5MeV,mec2=0.511MeV,mpc2=938.3MeV,kee2=1.44MeVfm,1MeV=1.602×10−13J

  • 一様に帯電した球のクーロンエネルギー:UC=35keZ2e2R(ウランで約 103MeV)

  • 中性子1個を引き離すエネルギー:B(A+1)−B(A)=[M(A)+mn−M(A+1)]c2

  • 代表的な値:BHe=28.3MeV,BD=2.22MeV.ウラン235 の分裂1回で約 200MeV(質量の約 0.08 %),太陽の水素4個からヘリウム1個で 26.7MeV(約 0.7 %),12H+13H の融合で 17.6MeV

  • α 崩壊のエネルギーの分配:Kα=MM+mαQ,K娘=mαM+mαQ

  • 年代測定:放射能が今の植物の r 倍なら t=T1/2ln⁡2ln⁡1r.614C の半減期は5730年

  • 親子の崩壊:dNDdt=λPNP−λDND,ND=λPN0λD−λP(e−λPt−e−λDt).λD>λP で過渡平衡,λP/λD が十分小さいと永続平衡 λPNP=λDND(時定数 1/λD で近づく)

  • しきいエネルギー:非相対論 Kth=−Q(1+mM),相対論 Kth=(∑mf)2−(m+M)22Mc2=−Q(1+mM)+Q22Mc2

  • 対生成のしきい:Eth=2mc2(1+mM)(重い核なら約 1.022MeV,標的が電子なら 4mc2).止まった電子と陽電子の対消滅では光子2個が 0.511MeV ずつ

  • 連鎖反応:nj=kjn0.減速材の核(質量 Am)との正面弾性衝突で中性子の運動エネルギーは (A−1A+1)2 倍

各題材の問いへの答え

  • 原子核の構成と大きさ:陽子どうしが飛び散らないのは,1fm ほどしか届かないがクーロン力よりずっと強い核力が核子の間に働くからである.中性子は反発を増やさずに引力を足す糊の役をする.ただし核力は隣の核子とだけ,クーロン力はすべての陽子どうしで働くので,重い核ほどクーロンエネルギーの割合が大きく,陽子の数がおよそ100を超える核は安定に存在できない.

  • 質量は減る:ヘリウムの原子核が陽子2個と中性子2個の和より 0.030376u 軽いのは,束縛された系のエネルギーがばらばらの状態より結合エネルギー B=28.3MeV だけ低いからである.ヘリウムの原子核ができたとき,この分が γ 線や運動エネルギーとして系の外へ出ていった.

  • 原子核は崩れる:大気の 614C は宇宙線による生成と崩壊がつり合ってほぼ一定の割合で,生きている植物も同じ割合で含む.木が切られると取り込みが止まり,614C は半減期5730年で減るだけになるので,今の植物との放射能の比から年代が分かる.

  • 粒子を作る,粒子を消す:対消滅で消えたのは電子と陽電子という粒子の形で,エネルギーと運動量は反対向きの2個の光子に引き継がれ,電荷とレプトン数は反粒子を負に数えればはじめから0で変わらない.化学の「原子は消えない」は,反応のエネルギーが静止エネルギーよりずっと小さい場合の近似だった.

この章で使った数学

1+x≈1+x/2 のテイラー展開(相対論のエネルギーからニュートン力学の運動エネルギーへ),一様に帯電した球を薄い殻に分けて積み上げる積分,そして崩壊を表す1階の微分方程式がありました.dN/dt=−λN は変数分離で解け,平均寿命 τ=∫0∞tλe−λtdt=1/λ は部分積分で求まります.生成のある dy/dt+ky=g(t) は積分因子 ekt を掛けて ekty(t)=y(0)+∫0teksg(s)ds と解け,g が一定なら g/k に時定数 1/k で近づきます.相対論では,どの慣性系でも同じ値になる s=Es2−c2|ps|2 が,しきいや対消滅の計算を一度に片づけました.

原子核の結合も崩壊も反応も,静止エネルギーを含めたエネルギーの勘定と,保存する量の数え上げで読み解けました.次の第32章では,第29章とこの章を合わせた総合演習に取り組みます.