問いしるべ
問いから始める物理 熱力学の法則

熱力学の法則

第16章のまとめ

著者:柚木芹香

この章では,まず温度と熱量の測り方を固め(第零法則・熱容量・潜熱),熱と仕事の出入りを勘定する第一法則を立て,繰り返し働く熱機関には効率の上限があること(第二法則とカルノーの定理)を見ました.その上限を与える量がエントロピーで,最後に,温度や圧力が決まった環境での変化の向きを決める自由エネルギーまで進みました.ここで定義と法則を一覧にし,各題材の最初の問いに短く答えます.

定義と法則

定義 温度・熱量・系

  • 熱平衡は,透熱壁で接触させても巨視的な性質が変わらない状態.第零法則(AとC,BとCが熱平衡ならAとBも熱平衡)があるので,温度計で温度を定義できる.薄い気体の圧力を使う理想気体温度は物質に依らず,T/K=t/∘C+273.15.

  • 系は開放系・閉鎖系・孤立系に分ける.熱の出入りだけを断った断熱系は,仕事を受け取れるので孤立系とは違う.

  • 熱容量 C=mc=νCmol,Q=mcΔT.相変化では温度が変わらないまま 潜熱 Q=mL を吸収・放出する.

  • 記号:数密度は第15章・第18章の n=N/V,この章の物質量は ν=N/NA.微視状態の数は Ω(仕事 W と区別),ピストンの断面積は A(S はエントロピー).

定義 内部エネルギー・熱・仕事・エントロピー・自由エネルギー

  • 内部エネルギー U は状態量で,理想気体では温度だけで決まる(単原子分子で U=32NkBT=32νRT).熱 Q と仕事 W は状態量ではなく道筋に依るので,微小量は δQ・δW と書き,状態量の差 dU と区別する.符号は,気体が受け取る熱を Q>0,気体が外へする仕事を W>0 とし,外から入れる仕事を正で測るときは Win=−W と書く.

  • 準静的過程はどの瞬間も平衡とみなせる変化で,p-V 図に道筋として描ける.可逆過程は系と外界の両方を元に戻せる過程で,準静的であることに加えて,散逸がなく,熱の授受が無限小の温度差で行われることが要る.

  • エントロピー S は,可逆な経路に沿って dS=δQrev/T で定まる状態量(単位 JK−1).不可逆な過程では,同じ両端を結ぶ可逆な道筋で計算する.統計的には S=kBln⁡Ω.

  • 自由エネルギーは F=U−TS,G=U+pV−TS.自然な変数は (T,V) と (T,p) である.

法則 熱力学第一法則

ΔU=Q−W,dU=δQ−pdV (体積仕事だけの準静的過程)

熱を含めたエネルギー保存則である.サイクルでは ΔU=0 なので W=Q.撹拌や電気加熱のように体積仕事以外の仕事もあるので,「体積一定なら W=0」は体積仕事だけを扱うという約束の上での話である.

法則 熱力学第二法則

  • ケルビン:一つの温度の熱源から熱を受け取り,それをすべて仕事に変えて他に何の変化も残さないサイクルは存在しない.

  • クラウジウス:低温の物体から高温の物体へ,他に何の変化も残さずに熱を移すことはできない.

  • クラウジウスの不等式:熱源の温度で測って ∫δQ/T源≤0(1周).過程では ΔS=∫δQ実際/T源+Sgen,Sgen≥0.

  • エントロピーの形:孤立系(および断熱された閉じた系)では ΔS≥0.等号は可逆な変化のときだけである.系の一部分は減ってもよく,減らないのは全体である.

  • これらの表現は同値である.どれかが破れれば,機関を組み合わせて他も破れる.

定理 カルノーの定理と最小原理

温度 TH,TL の2熱源の間で働く熱機関の効率は η=W/QH≤1−TL/TH である.等号は可逆な機関のときだけで,その値は作業物質にも機構にも依らない(可逆機関を逆転させて組み合わせる議論から出る).可逆なら QL/QH=TL/TH で,これを温度の定義(熱力学温度)に使える.

変化の向きは,つねに系と外界を合わせた S の増加で決まる.書き直すと,孤立系では S が最大,温度 T0 で体積一定なら F が最小,温度 T0 で外圧 p0 一定なら F+p0V(平衡どうしなら G)が最小の状態が平衡である.弱く相互作用する部分系では S が足せること(ΩAB=ΩAΩB)が,この議論の土台にある.

手順

ポイント 熱力学の問題を解く手順

  1. 系(気体・物体),熱源,外界をはっきり分け,熱と仕事の向きの符号を決める.相変化を含むなら,相が残るかどうかを先に判定する.

  2. 装置の拘束とつり合いから経路を決める.ピストンのつり合いで p,幾何で V を書き,p-V 図に描く.ストッパーは抗力 N≥0,N=0 が離れる条件.

  3. 各過程で Q,W,ΔU のうち2つを求め,残りを第一法則で出す.定積(体積仕事だけなら)W=0,断熱なら Q=0,等温なら ΔU=0.

  4. 準静的かどうかを確かめる.準静的でなければ pVγ 一定や W=∫pdV は使えず,外圧による仕事 peΔV で数える.

  5. 効率を問われたら,分母に入れるのは吸収した熱だけ.経路の途中で δQ の符号が変わることがある.カルノー効率を上限として比べ,熱源の温度が変わるときは微小な可逆サイクルを積み上げて積分する.1秒あたりを問われたら熱流率・出力(W)で答える.

  6. エントロピーは,系と熱源と外界のそれぞれで計算して足す.系は可逆な道筋に置き換えて計算し,理想熱源は実際の熱を温度で割る.

主な公式

  • 熱量:Q=mcΔT=νCmolΔT,相変化で Q=mL,熱量保存は ∑iQi=0(熱量計の熱容量も入れる)

  • 準静的な仕事:W=∫V1V2pdV(p-V 図の面積).サイクルの正味の仕事は囲む面積

  • 等温過程:ΔU=0,W=Q=νRTln⁡V2V1

  • 準静的な断熱過程(理想気体,γ 一定):pVγ 一定,TVγ−1 一定,W=νCV(T1−T2)

  • モル比熱(理想気体,体積仕事だけ):Cp−CV=R,γ=CpCV.単原子分子で CV=32R,γ=53.常温の二原子分子で CV≈52R,γ≈75(回転が効き振動が凍っている温度域での測定値.根拠は第17章)

  • 混合(断熱・固定の容器):Tf=∑iνiCViTi∑iνiCVi

  • 熱機関:η=1−Q放出Q吸収≤1−TLTH.冷凍機・ヒートポンプ:QLWin≤TLTH−TL,QHWin≤THTH−TL

  • エントロピー:ΔS=Cln⁡T2T1(熱容量一定),ΔS=νRln⁡V2V1(理想気体の等温変化),ΔS源=Q源T源(理想熱源),S=kBln⁡Ω

  • 温度が下がる熱源からの最大の仕事:W=∫(1−TLT)CdT

  • 基本式と自由エネルギー:dU=TdS−pdV,dF=−SdT−pdV,dG=−SdT+Vdp.等温で取り出せる仕事は −ΔF 以下

各題材の問いへの答え

  • 温度と熱:体温計で待つのは,体と熱平衡になるまで変化が続くからである.温度が同じとは接触させても何も起こらないことで,第零法則があるので,違う測温物性の温度計を同じ定点で校正すれば同じ温度を指す.金属が木より冷たく感じるのは温度ではなく,手から熱が逃げる速さの違いである.

  • 第一法則と準静的過程:押し縮めると,動いてくる壁が分子を加速する分だけ内部エネルギーが増えて温まり,膨らむと逆に冷える.摩擦は要らない.上がり方は押す速さだけでは決まらず,断熱で散逸がなければ TVγ−1 一定のとおり,一気に押せば散逸の分それより高く,壁から熱が逃げればそれより低くなる.

  • 第二法則とカルノーサイクル:海水という一つの熱源しかないので,熱を仕事に変え続けることはできない.繰り返し働く機関には熱の捨て先となる低温の熱源が必要で,取り出せる割合は 1−TL/TH を超えない.上限は2つの温度の比で決まるので,TH を上げても TL を下げても上がる.

  • エントロピーとラチェット:爪も同じ温度の分子にたたかれてふるえ,熱平衡では行きと帰りの遷移が同じ頻度で起こる(詳細つり合い)ので,一つの熱源からは仕事を取り出せない.羽根と爪に温度差を付ければ熱機関として回る.頻度の勘定で現れるカルノー効率は,正味の出力が0になる停止点での値で,実際に仕事を取り出すときの効率ではない.

  • 自由エネルギーと変化の向き:水だけを見ればエントロピーは減るが,凝固熱を受け取る部屋の増加の方が大きいので第二法則に反しない.温度と外圧が決まった環境では,F+p0V が小さくなる向きに変化が進む.

この章で使った数学

∫pdV と ∫CdT/T の積分,比の対数 ln⁡(V2/V1),微小量の関係から dT を消して pVγ 一定を導く計算,場合の数 (Nk) とスターリングの近似,相加平均と相乗平均の関係,偏微分とルジャンドル変換,停留点と2階微分による安定性の判定,そしてラチェットの頻度を比べるときに形だけ借りた指数関数(ボルツマン因子)がありました.熱の分野では,掛け算で増える「場合の数」と足し算で増える「エネルギー」を,対数が橋渡しします.次の第17章では,ここで借りたボルツマン因子を導き,エネルギーがどの運動にどう分かれるかを調べます.