問いしるべ
問いから始める物理 熱力学の法則

熱力学の法則

熱量保存と潜熱の例題

著者:柚木芹香

数学の道具

ポイント 数学の道具:熱量保存の立式

断熱した容器の中で物体どうしが熱をやりとりし,体積仕事も外からの仕事もないときは,各物体が受け取った熱量の和が0になります.

∑iQi=0,Qi=mici(Tf−Ti)

受け取る熱を正,失う熱を負として符号つきで足すのがこつです.「高温側が失った熱=低温側が得た熱」は,これを2物体の場合に書き直したものに過ぎません.熱をやりとりするのは中身だけではなく,容器(熱量計)の本体・かき混ぜ棒・温度計も同じ温度変化を受けるので,それらの熱容量を1つの項 C計(Tf−Ti) として入れます.落とすと,求めた比熱は必ず小さめに出ます.

練習. 熱容量 50JK−1 の容器に 20∘C の水 0.10kg がある.80∘C の水 0.10kg を加えた最終温度を,容器の熱容量を入れた場合と無視した場合で求めよ(水の比熱 4.2×103Jkg−1K−1).

答え:(420+50)(Tf−20)+420(Tf−80)=0 より Tf≈48.3∘C.無視すると 50∘C

定義 相変化と潜熱

一定の圧力のもとで,固体が液体になる(融解)ときや液体が気体になる(蒸発)ときには,温度が変わらないまま熱を吸収する.単位質量あたりに要する熱量を潜熱といい,必要な熱量は

Q=mL

である.融解熱 Lf,蒸発熱 Lv と書く.逆向き(凝固・凝縮)では同じ量の熱を放出する.2つの相が共存している間,温度は相変化の温度に留まる.水では Lf=3.3×105Jkg−1,Lv=2.3×106Jkg−1 である.

ポイント 相が残るかどうかの判定

相変化を含む問題で最終温度をいきなり文字で置くと失敗します.(1) 相変化が始まる温度(氷なら 0∘C)まで各物体を持ってくるのに出入りする熱量を計算し,(2) 余った熱量と相変化を全部終えるのに要る mL を比べます.(3) 余りが小さければ相変化は途中で止まり,温度は相変化の温度のままで,変化した質量が Q/L で決まります.(4) 余りが大きければ全部相変化し,残りの熱で温度が動くので,そこで初めて Tf を未知数にします.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

熱容量 80JK−1 の熱量計に 20.0∘C の水 0.20kg を入れ,1.0×102∘C に熱した金属球 0.10kg を素早く入れてかき混ぜると,全体が 24.0∘C で落ち着いた.水の比熱を 4.2×103Jkg−1K−1 とする.

断熱材に包まれた熱量計の断面.20.0 °Cの水0.20 kgに100 °Cの金属球0.10 kgを入れ,かき混ぜ棒で混ぜて温度計を読む.赤い矢印は金属球から水と熱量計へ移る熱Qを示す.熱量計の熱容量C計は80 J K−1で,全体の最終温度は24.0 °C. 断熱材に包まれた熱量計の断面.20.0 °Cの水0.20 kgに100 °Cの金属球0.10 kgを入れ,かき混ぜ棒で混ぜて温度計を読む.赤い矢印は金属球から水と熱量計へ移る熱Qを示す.熱量計の熱容量C計は80 J K−1で,全体の最終温度は24.0 °C.
  1. 金属の比熱を求めよ.

  2. 熱量計の熱容量を忘れて計算すると,答えは何 % 小さく出るか.

  3. 外へ熱が逃げると,求めた比熱は大きめに出るか小さめに出るか.逃げる熱を無視できるのはどんな条件か.

解答を見る

考え方 受け取る熱を正として ∑Qi=0 を立てる.水と熱量計は同じ温度変化をするので,まとめて扱える.

  1. 水と熱量計の熱容量は 0.20×4.2×103+80=9.2×102JK−1 で,温度は 4.0K 上がる.金属は 76.0K 下がるので

9.2×102×4.0+0.10c×(−76.0)=0

より c=3.68×103/7.60≈4.8×102Jkg−1K−1.鉄に近い値である.

  1. 熱容量を 8.4×102JK−1 とすると c≈4.4×102Jkg−1K−1 で,約 9 % 小さい.容器が受け取った熱を落とすと,金属が出した熱を少なく見積もる.

  2. 小さめに出る.逃げた熱の分だけ測る温度上昇が小さくなるからである.無視できるのは,落ち着くまでの時間が容器が室温へ冷える時間よりずっと短く,水と室温の差が測る温度上昇に比べて小さいときである.差が大きいときは温度の時間変化を記録し,最高温度を外挿で補正する.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

熱容量の無視できる断熱容器に 20∘C の水 0.20kg が入っている.ここへ 0∘C の氷を入れる.水の比熱を 4.2×103Jkg−1K−1,氷の融解熱を 3.3×105Jkg−1 とする.

20 °Cの水0.20 kgへ0 °Cの氷を加えたときの最終温度Tf.氷が全部融ける範囲では熱量保存から温度が20 °Cから0 °Cへ下がる.境目は約0.051 kgで,それを超えると氷と水が共存し,温度は0 °Cに留まる.0.10 kgを加えた場合は氷が約0.049 kg残る. 20 °Cの水0.20 kgへ0 °Cの氷を加えたときの最終温度Tf.氷が全部融ける範囲では熱量保存から温度が20 °Cから0 °Cへ下がる.境目は約0.051 kgで,それを超えると氷と水が共存し,温度は0 °Cに留まる.0.10 kgを加えた場合は氷が約0.049 kg残る.
  1. 氷 0.050kg を入れたときの最終温度を求めよ.

  2. 氷 0.10kg を入れたときの最終状態(温度と,残る氷の質量)を求めよ.

  3. 氷がちょうど全部融けて 0∘C になる氷の質量を求めよ.

解答を見る

考え方 まず水が 0∘C まで冷えるときに出せる熱と,氷を全部融かすのに要る熱を比べる.

水が 0∘C まで冷えて出す熱は 0.20×4.2×103×20=1.68×104J である.

  1. 全部融かすのに要る熱は 0.050×3.3×105=1.65×104J で,これより小さい.氷は全部融け,残った 3.0×102J が 0.25kg の水を温めるので ΔT≈0.29K,最終温度は約 0.3∘C である.

  2. 全部融かすには 3.3×104J 要るが,使えるのは 1.68×104J しかない.融けるのは 0.051kg で,氷が約 0.049kg 残る.氷と水が共存するので最終温度は 0∘C である.ここで Tf を未知数にすると 0∘C より低い答えが出て意味を失う.

  3. 1.68×104=m×3.3×105 から m≈0.051kg.これより少なければ (1),多ければ (2) になる.

ポイント ここまでのまとめ

  • 熱量保存は ∑Qi=0 の形で立て,熱量計や温度計の熱容量も1つの項として入れる.落とすと比熱は小さめに出る.

  • 潜熱は Q=mL.相が共存する間,温度は相変化の温度に留まる.

  • 相変化を含む問題は,相変化点まで持ってくる熱と mL を比べる.足りなければ温度はその点に留まり,変化した質量が決まる.最終温度を先に文字で置くと間違える.

  • 一定電力 P で加熱すると PΔt=CΔT なので,加熱曲線の直線部分の傾きは P/(mc),平らな部分の長さは mL/P になる.熱の逃げは傾きの変化として現れる.