問いしるべ
問いから始める物理 全範囲の総合演習

全範囲の総合演習

東大後期の過去問を発展させる(5)

著者:柚木芹香

東大後期の未使用原題から,円錐面の運動,音が作る回折格子,相互誘導,小孔カメラを組み直しました.第6〜10章,第14〜16章,第23・25・27・29章を使います.最後は近似の限界と最適条件を調べます.

総合演習 17

東京大 2007 後期(改題) ★★★★☆

円軌道に戻っても,同じ場所には戻らない

頂点を下にした固定円錐の内面で,質量 m の小球を動かします.半頂角は 0<α<π/2,軸からの距離を r,方位角を ϕ とし,高さは z=rcot⁡α です.鉛直軸の円錐面は十分広いものとします.摩擦・空気抵抗・球の大きさを無視し,重力加速度を g とします.

  1. 半径 r0 の水平円運動の角速度 ω0,垂直抗力 N0,鉛直軸まわりの角運動量 J を求めよ.

  2. 円運動に母線方向の外向き速度 u を追加します.有効ポテンシャルを求め,小さい u での半径振動の角振動数 Ω,振幅 ε,一往復の方位角増分 Δϕ を求めよ. α=30∘,r0=0.30m,u=0.10ms−1,g=9.8ms−2 で近似を検算せよ.

  3. 小振幅極限で半径が q 回振動する間に p 回転して軌道が閉じる条件を整数 p,q で表せ.30∘ で閉じるか.有限振幅にも同じ条件を使えるか.

円錐面の断面と上面に,α,r₀,接線速度と母線方向の追加速度uを示す. 円錐面の断面と上面に,α,r₀,接線速度と母線方向の追加速度uを示す.
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考え方

角運動量保存と母線方向の慣性を使う.

  1. N0sin⁡α=mg,N0cos⁡α=mr0ω02 より

ω02=gcot⁡αr0,N0=mgsin⁡α,J=mr02ω0.
  1. dzdt=cot⁡αdrdt,dϕdt=J/(mr2) を運動エネルギーに代入すると

E=m2sin2⁡α(drdt)2+U(r),U(r)=mgrcot⁡α+J22mr2.

追加直後の半径速度は usin⁡α である.

U′(r0)=0,U″(r0)=3mgcot⁡α/r0.r=r0+δr としてエネルギー式を微分・線形化すると

msin2⁡αd2δrdt2=−U″(r0)δr,Ω=3sin⁡αω0,δr=usin⁡αΩsin⁡Ωt.

従って ε=usin⁡α/Ω.方位角速度は ω0(1−2δr/r0+⋯).一往復の積分で1次の項は消え,Δϕ→2π/(3sin⁡α).ε≃7.7×10−3m,Δϕ≃7.26rad.ε/r0≃0.026 で近似はよい.

  1. qΔϕ=2πp より条件は 1/(3sin⁡α)=p/q.30∘ では 2/3 が無理数なので,振動と回転は有限回でそろわない.有限振幅では周期と平均角速度が変わり,再計算を要する.u=0 の円運動そのものは一回転で閉じる.Ω2 は時間の逆二乗.適用条件は 1≫ε/r0 である.

総合演習 18

東京大 1997 後期(改題) ★★★★☆

音の格子で気体の熱容量を測る

透明な希薄理想気体に振動数 fs,波数 ks の音の定常波を作り,屈折率を n=n0+δn0cos⁡ksycos⁡ωst,ωs=2πfs とします.波長 λ の光を y 軸に垂直に通し,焦点距離 F のレンズの後側焦点面で観測します.気体内の距離は d,β=2πdδn0/λ です.照明幅は音の波長より十分広く,透過光の複素振幅は exp⁡[iβcos⁡ksycos⁡ωst] とします.1≫|β| とし,吸収,音の減衰,気体内での光線の曲がりを無視します.

  1. 1次まで展開し,左右の一次回折光の位置 ±x1,入射光に対する強さの比,強さの変動の振動数を求めよ.格子の周期が音の半波長ではない理由も述べよ.

  2. fs=1.00×105Hz,λ=6.00×10−7m,F=1.00m で下表を得ました.モル質量を Mg=0.0300kgmol−1,気体定数 R=8.31Jmol−1K−1 とします.x1−2 を直線化に使って音速と比熱比 γ を求め,両端で決めた模型を中央の点で検算せよ.

T(K)

x1(mm)

250.0

0.19270

300.0

0.17591

350.0

0.16286

  1. F の相対標準不確かさが1 %,他は無視できるとします.γ の不確かさを求め,等温模型 γ=1 を判別できるか説明せよ.

気体セル,光,レンズ,焦点面に,音のy方向,d,F,測定位置±x₁を示す. 気体セル,光,レンズ,焦点面に,音のy方向,d,F,測定位置±x₁を示す.
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考え方

音は小振幅の可逆断熱圧縮,γ は一定とする.

  1. 指数を展開し,cos⁡ksy=(eiksy+e−iksy)/2 を使うと

1+iβ2cos⁡ωst(eiksy+e−iksy).

左右の波の角度は sin⁡θ=±ksλ/(2π)=±λ/λs.v=fsλs,G=Fλfs として近軸近似を使えば

x1=G/v,I±1Iin=β24cos2⁡ωst=β28(1+cos⁡2ωst).

位置は固定,強さは 2fs で変動する.半波長で屈折率変動の符号が反転するので,周期は λs.

  1. v=G/x1 より音速は順に約 311,341,368ms−1.断熱圧縮から v2=γRT/Mg.ゆえに

x1−2=γRMgG2T,γ=MgRv32−v12T3−T1≃1.40.

中央では x1≃0.17591mm を予測し,表と一致する.

  1. (2)の式で γ∝F2.一次の伝播は δγ/γ=2δF/F=0.020.従って δγ=0.028.1との差0.400は不確かさの約14倍で,等温模型と区別できる.γ は無次元.近軸には λ/λs≃2×10−4,位相の展開には 1≫|β|,線形音波には密度の相対変動が小さいことを要する.

総合演習 19

東京大 1994 後期(改題) ★★★★★

動かしているのに電流が消える振動数

水平レールに長さ ℓ,質量 m の導体棒を渡し,ばね定数 k のばねでつなぎます.抵抗は R,自己インダクタンスは L,レール面に垂直な一様磁場は B です.自然長からの変位を x,棒を正方向に押す電流を I,bB=Bℓ とします.摩擦・回路容量・放射を無視し,L は位置によらず一定とします.

相互インダクタンス M>0 の固定一次コイルを,電流源で I1=−E0sin⁡ωt/(ωM) に保ちます.誘導起電力は −MdI1dt です.定常応答です.

  1. 連立方程式を立て,x,I を,複素振幅 X,Y に eiωt を掛けた実部で表し,両振幅を求めよ.

  2. ω0=k/m での電流と棒の運動,電流振幅最大の ωc を求めよ.E0 は振動数を変えても一定とします.

  3. m=0.020kg,k=2.0Nm−1,L=0.040H,R=0.40Ω,bB=0.20Tm,E0=0.020V で,ωc,そこでの棒の振幅と平均発熱率を求めよ.

  4. エネルギー収支を導き,電源の平均仕事率と発熱率を照合せよ.R→0 での ωc の定常公式を,無抵抗の実験に使えるか.

ばね付き棒とレール,R,L,垂直な磁場B,電流源につながる固定一次コイルと結合Mを描く.xとIの正方向を示す. ばね付き棒とレール,R,L,垂直な磁場B,電流源につながる固定一次コイルと結合Mを描く.xとIの正方向を示す.
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考え方

複素数で連立し,仕事率で収支を検算する.

  1. 誘導の法則とローレンツ力より

LdIdt+RI+bBdxdt=E0cos⁡ωt,md2xdt2+kx=bBI.

D=k−mω2 とおく.コイルのインピーダンスは iωL なので (R+iωL)Y+iωbBX=E0,DX=bBY.H=D(R+iωL)+iωbB2 として連立すると

Y=E0DH,X=bBE0H.
  1. D=0 では Y=0, x=E0sin⁡ω0t/(ω0bB).棒の運動起電力が誘導による駆動起電力を打ち消す.D≠0 では

Z=R+iω(L+bB2D),|Y|≤E0R.

虚部が0となる ωc=(k+bB2/L)/m で上限に達する.ω0 は機械系だけ,ωc>ω0 は磁気エネルギーも交換する連成系の振動数である.

  1. ωc=150rads−1≃12rads−1.D=−bB2/L より

I0=E0R=0.050A,A=LE0RbB=0.010m,P―=RI022=5.0×10−4W.
  1. 電気の式に I,力学の式に v=dxdt を掛けて足すと

ddt(12LI2+12mv2+12kx2)=E0Icos⁡ωt−RI2.

bBIv は内部の交換として消える.周期平均で左辺は0.一次へ返る電圧は MdIdt.周期の部分積分から電源の追加仕事率は

MI1dIdt―=−MIdI1dt―=E0Icos⁡ωt―=RI2―.

一次の磁気エネルギーの平均変化も0である.R=0,ω=ωc では分母が0となり,有界な定常解はない.共鳴を初期条件から解く必要があり,極限は交換できない.bB2/L はばね定数の次元である.模型は回路寸法 ac,光速 c に対し 1≫ωac/c,棒が一様磁場内,抵抗の相対変化が小さい範囲で使う.

総合演習 20

東京大 1996 後期(改題) ★★★★★

いちばん細い像と,いちばん正確な位置測定

円孔の代わりに,振幅透過率 t(u,w)=e−(u2+w2)/(4s2) の吸収マスクを使います.軸上の単色点光源からマスクまでを a,マスクから検出面までを b,波長を λ,ko=2π/λ とします.検出座標は x,他方向も同形です.近軸で光路長を横座標の2次まで残し,x に依存しない因子を除く振幅は

ψ(x)=∫−∞∞exp⁡[−u24s2+ikou22a+iko(x−u)22b]du.

Re⁡z>0 で ∫−∞∞e−zu2+qudu=π/zexp⁡[q2/(4z)] を使ってよいものとします.像の幅は規格化した |ψ|2 の標準偏差 σx です.

  1. σx2 を導き,幾何光学と回折の寄与を区別せよ.

  2. 最小幅 σ0 と対応する s0 を求めよ.a=0.80m,b=0.20m,λ=6.0×10−7m で計算し,遠方回折の条件 1≫kos02(1/a+1/b) を検査せよ.

  3. マスク面への単位面積・単位時間の光子到達率を一定の Φ,検出効率を η,露光時間を τ とします.全透過光を検出し,位置は独立です.検出数の相対的なゆらぎを無視できるほど多数の光子を検出するものとします.検出数の期待値 N と中心の標本平均の不確かさ δx=σx/N を求めよ.σx≤1.10σ0 の制約下で δx が最小となる s と,s0 に対する精度の比を求めよ.

点光源,マスク,検出面にa,b,u,xを示す.透過率分布を添える. 点光源,マスク,検出面にa,b,u,xを示す.透過率分布を添える.
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考え方

振幅を積分してから2乗する.像の幅と中心位置の精度を分ける.

  1. H=1/a+1/b,z=1/(4s2)−ikoH/2 とし, q=−ikox/b を使うと

|ψ(x)|2∝exp⁡[−ko2x22b2Re⁡(1/z)].

σx2=b2/[ko2Re⁡(1/z)].[Re⁡(1/z)]−1=1/(4s2)+ko2H2s2 より

σx2=(1+ba)2s2+b24ko2s2.

第1項は直進光線の x=(1+b/a)u,第2項は回折である.

  1. A=1+b/a,D=b/(2ko) とおくと σx2=A2s2+D2/s2.微分して 2A2s−2D2/s3=0 より

s02=DA=bλ4πA,σ02=2AD=Abλ2π.

s0=8.7×10−5m,σ0=1.5×10−4m.kos02H=1/2 なので2次位相は捨てられない.

  1. 透過確率の面積積分は ∫0∞2πre−r2/(2s2)dr=2πs2 なので

N=Ks2,K=2πηΦτ,δx2=1K(A2+D2s4).

N≫1 で検出数を期待値に置き換える.δx は s とともに減るので,制約内の最大開口を選ぶ.qs=s2/s02 とすると制約は qs+qs−1≤2×1.102.解くと

qs,max=1.102+1.104−1≃1.891,sopt=s0qs,max≃1.2×10−4m.

不確かさの比は δxopt/δx0=1.10/qs,max≃0.800.開口を広げると検出数が増し,中心の精度は上がる.分散の次元は長さの2乗.近軸には s/a,s/b,σx/b が小さいことに加え,4次位相も小さいことが必要である.今回は長さ比が 10−3 以下,無次元の4次位相の尺度 ko(s4/a3+σx4/b3) も 10−5 以下である.