問いしるべ
問いから始める物理 非慣性系

非慣性系

並進慣性力の演習

著者:柚木芹香

まず g′=g−A を成分で求め,物体が動ける方向へ分解しましょう.床や斜面からの力は,接触を保てるかどうかまで確かめてください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

右を x,上を y とする.箱が一定加速度 A=(3.0,4.0)ms−2 で並進し,内部の質量 2.0kg の球を箱に対して静かに放す.g=(0,−10)ms−2 とする.

  1. 慣性力と有効重力を成分で求めよ.

  2. 壁に当たる前の 0.20s 後の相対速度と,放した位置からの相対変位を求めよ.

斜め上へ加速する箱.図中の記号と条件は「A=(3.0,4.0)」「x'」「y'」「O」である. 斜め上へ加速する箱.図中の記号と条件は「A=(3.0,4.0)」「x'」「y'」「O」である.
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考え方 系の加速度を重力から引く.初期相対速度が0で加速度が一定なので,等加速度運動の式を各成分に使える.

  1. −mA=(−6.0,−8.0)N,g′=(−3.0,−14)ms−2.箱が上へ加速するので,箱内では下向きの加速度が g より大きい.有効重力の大きさは 3.02+142≈14ms−2 であり,成分の差と大きさの差を混同してはいけない.

  2. v′=g′t=(−0.60,−2.8)ms−1,Δr′=g′t2/2=(−0.060,−0.28)m である.二つの成分の比が一定なので,箱からは左下へ直線状に動く.地上では鉛直下向きに重力加速度を受ける運動であり,箱の加速度を足すと a=g′+A=g と確かめられる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

右下がりで水平となす角 θ の滑らかな斜面を台車に固定し,台車を右向きに一定加速度 A≥0 で動かす.斜面上の質量 m の物体を台車に対して静かに放す.

  1. 斜面を右下へ下る相対加速度 a∥′ と垂直抗力 N を求めよ.

  2. sin⁡θ=3/5,cos⁡θ=4/5,A=g の場合の運動を述べよ.初めの位置から斜面に沿って距離 L 離れた点へ達する時間を求めよ.斜面は十分長いとする.

右へ加速する滑らかな斜面.図中の記号と条件は「m」「θ」「台車」「A」「正」である. 右へ加速する滑らかな斜面.図中の記号と条件は「m」「θ」「台車」「A」「正」である.
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考え方 台車内の有効重力 (−A,−g) を斜面に沿う方向と垂直方向へ射影する.

  1. 斜面下向き単位ベクトルは (cos⁡θ,−sin⁡θ),外向き法線は (sin⁡θ,cos⁡θ) である.したがって a∥′=gsin⁡θ−Acos⁡θ.法線方向には相対加速度がないので N=m(gcos⁡θ+Asin⁡θ) となる.A≥0 では N>0 で,接触の仮定は保たれる.

  2. a∥′=3g/5−4g/5=−g/5,N=7mg/5.物体は左上へ滑り,初期位置から上側の点へ達する.L=(g/5)t2/2 より t=10L/g である.下側の距離 L の点へは達しない.斜面を上るためのエネルギーは,地上から見れば台車を加速する外部装置から接触力を通じて与えられる.重力だけで斜面を上る現象と解釈しない.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

長さ ℓ の軽い糸につるした小球が,右向き加速度 A,上向き加速度 B で並進する箱内でつり合っている.A>0,B≥0 とする.

  1. 鉛直からの傾き θ0 と張力 T を求めよ.

  2. つり合い位置のまわりの微小振動の周期を求めよ.A=3g/4,B=0 のとき,静止した箱の場合との周期比はいくらか.

二方向に加速する箱の振り子.図中の記号と条件は「θ」「A」「ℓ」「B」である. 二方向に加速する箱の振り子.図中の記号と条件は「θ」「A」「ℓ」「B」である.
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考え方 一定の並進加速では,有効重力が一様である.平衡方向を基準に角度を測れば通常の単振り子と同じ式になる.

  1. g′=(−A,−g−B) なので g′=A2+(g+B)2.糸は後方へ傾き,tan⁡θ0=A/(g+B),T=mg′ である.重力の大きさだけを g+A+B に置き換えることはできない.横向きと縦向きの加速度はベクトルとして合成する.

  2. 平衡方向からの角を ϕ とすると,接線方向の式は mℓϕ¨=−mg′sin⁡ϕ.微小角で sin⁡ϕ≈ϕ とし,τ=2πℓ/g′ を得る.指定の値では g′=5g/4 より τ/τ0=4/5=2/5≈0.89 である.傾きが生じることと周期が短くなることは,有効重力の向きと大きさという別々の性質に対応する.大振幅ではこの周期式の微小角近似が使えない.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

水平な台車の上の粗い右下がり斜面に物体を置く.傾きは θ,静止摩擦係数は μ で,0<μ<tan⁡θ,μtan⁡θ<1 とする.台車は右向きに一定加速度 A≥0 で進む.

  1. 物体が台車に対して静止するために必要な,斜面下向きを正とする摩擦力 f と垂直抗力を求めよ.

  2. 静止できる A の範囲と,その範囲の両端で摩擦が働く向きを求めよ.

粗い斜面の静止条件.図中の記号と条件は「m」「θ」「台車」「A」「粗い面:μ」である. 粗い斜面の静止条件.図中の記号と条件は「m」「θ」「台車」「A」「粗い面:μ」である.
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考え方 摩擦の向きを先に固定せず,必要な力を符号付きで求め,|f|≤μN を課す.

  1. 斜面方向で 0=mgsin⁡θ−mAcos⁡θ+f だから f=m(Acos⁡θ−gsin⁡θ).垂直方向では N=m(gcos⁡θ+Asin⁡θ) である.摩擦は常に μN ではなく,この必要値をとる.

  2. −μ(gcos⁡θ+Asin⁡θ)≤Acos⁡θ−gsin⁡θ≤μ(gcos⁡θ+Asin⁡θ) を整理する.仮定により分母が正なので

gsin⁡θ−μcos⁡θcos⁡θ+μsin⁡θ≤A≤gsin⁡θ+μcos⁡θcos⁡θ−μsin⁡θ

となる.下限では重力による下滑りを防ぐため f=−μN,上限では慣性力による上滑りを防ぐため f=+μN である.途中の A=gtan⁡θ では摩擦は0となる.両端で同じ向きに摩擦を描くと,一方の限界を取り落とす.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

高さ H の箱が鉛直下向きに一定加速度 a0>g で並進する.箱内の床から高さ h(0<h<H) にある球を,箱に対して静かに放す.空気抵抗はない.

  1. 球が初めに当たる面と,到達時間を求めよ.

  2. 同じ箱の床上に置いた物体は,床と接触し続けられるか.床に接着されていないものとして説明せよ.

重力より速く下へ加速する箱.図中の記号と条件は「H」「h」「a₀」である. 重力より速く下へ加速する箱.図中の記号と条件は「H」「h」「a₀」である.
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考え方 有効重力の符号が反転する場合には,接触力の非負条件が決定的になる.下向きの加速を常に軽くなるだけと考えない.

  1. 上向きを正とすれば Ay=−a0,gy′=a0−g>0.球は箱に対して上へ加速し,y′=h+(a0−g)t2/2 で天井へ達する.よって t=2(H−h)/(a0−g) である.地上では球も下へ重力加速度で落ちるが,天井の方が速く下へ加速して球に追いつく.

  2. 接触を仮定すれば 0=N+m(a0−g) から N=m(g−a0)<0 となる.通常の床は物体を下へ引けないので,この解は接触の仮定に反する.物体は床から離れ,その後は N=0 で上向きの相対加速度 a0−g をもつ.負の垂直抗力をそのまま答えにせず,運動の条件を切り替える必要がある.

ポイント 教える人へ

  • 有効重力は成分の差として書かせ,符号を図と照合させる.

  • 摩擦の向きを決め打ちせず,必要な静止摩擦力を先に求めさせる.

  • 垂直抗力が負になったら,接触の仮定へ戻ることが重要である.

  • 自由落下は有効重力が0となる境界であり,その両側を比較させる.