問いしるべ
問いから始める物理 非慣性系

非慣性系

並進慣性力の例題

著者:柚木芹香

「並進慣性力」の節の ma′=F−mA と有効重力を,計算の道具として確かめてから例題で使います.

定理 数学の道具:座標変換の微分と有効重力の合成

座標変換の微分 r=r′+R(t) を成分ごとに2回微分して a=a′+A(A=R¨).有効重力の合成 g=(0,−g),A=(Ax,Ay) のとき

g′=(−Ax, −g−Ay),|g′|=Ax2+(g+Ay)2

である.g+Ay>0(有効重力が下向きの成分をもつ)のとき,下向き鉛直からの傾き角は tan⁡φ=|Ax|/(g+Ay).そうでないときは g′ の成分の符号から向きを決める.g′=0 のときは向きが定まらないので,傾き角は定義しない.

練習 1. t を秒単位で表した数値として,R(t)=(t2+2t, 0)m,r′(t)=(3t, 1)m のとき,台車に対する物体の加速度 a′ を求めよ.また,A=(3.0, −4.0)ms−2 のとき,g′ の大きさと傾き角を求めよ.

答え:r=(t2+5t, 1) より a=(2, 0),A=(2, 0) だから a′=0(台車に対して等速).後半は g′=(−3.0, −5.8),大きさ約 6.5ms−2,tan⁡φ=3.0/5.8 より φ≈27∘.

練習 2. 上向きに A=(0, 2.0)ms−2 で加速するエレベーターの中の有効重力 g′ を求めよ.質量 50kg の人が床から受ける垂直抗力はいくらか(g=9.8ms−2).

答え:g′=g−A=(0, −11.8)ms−2.垂直抗力は 50×11.8≈5.9×102N.

例題

例題 1

オリジナル ★★★☆☆

台車の上に,傾き θ のなめらかな斜面が固定してある.斜面は右へ向かって下がっている.台車を右向きに一定の加速度 A で動かし,斜面の上の質量 m の物体を,台車に対して静止させた状態から放す.

  1. 台車に対して斜面を下る向きの加速度 b と,垂直抗力 N を,m,g,A,θ で表せ.

  2. m=2.0kg,sin⁡θ=0.60,A=6.0ms−2 のとき,b と N を求めよ.物体は斜面を下るか,上るか.

  3. 物体が台車に対して静止し続ける A と,そのときの N を求めよ.

台車内で斜面に働く力.図中の記号と条件は「m」「θ」「台車」「A」「mg」「N」「−mA」「平行」「垂直」である. 台車内で斜面に働く力.図中の記号と条件は「m」「θ」「台車」「A」「mg」「N」「−mA」「平行」「垂直」である.
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考え方 台車の中の立場で,mg,N,慣性力 mA(左向き)を斜面に平行・垂直に分ける.垂直方向の加速度は 0.

  1. 斜面に沿って下る向きを正とする.重力の成分は,斜面に沿って下向きに mgsin⁡θ,垂直に押しつける向きに mgcos⁡θ.慣性力 mA の成分は,斜面に沿って上向きに mAcos⁡θ,垂直に押しつける向きに mAsin⁡θ.よって

mb=mgsin⁡θ−mAcos⁡θ⇒b=gsin⁡θ−Acos⁡θ
N−mgcos⁡θ−mAsin⁡θ=0⇒N=m(gcos⁡θ+Asin⁡θ)

である.

  1. cos⁡θ=0.80 だから

b=9.8×0.60−6.0×0.80≈1.1ms−2,N=2.0×(9.8×0.80+6.0×0.60)≈23N

である.b>0 なので,物体は斜面を下る.

  1. b=0 から gsin⁡θ=Acos⁡θ,すなわち

A=gtan⁡θ=9.8×0.600.80≈7.4ms−2

である.A がこれより小さければ下り,大きければ上る.このとき N=mg/cos⁡θ=24.5N.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

一定の加速度 A=34g で水平に走る車の天井から,長さ ℓ=0.50m の軽い糸で質量 m の小球をつるす.空気抵抗は無視する.

  1. 小球が車に対して静止しているときの,糸の傾き θ0 と張力 T を求めよ.

  2. つり合いの位置からの小さな振れの周期を求め,車が止まっているときの周期と比べよ.

加速する車内の振り子.図中の記号と条件は「θ₀」「A」「ℓ」である. 加速する車内の振り子.図中の記号と条件は「θ₀」「A」「ℓ」である.
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考え方 重力を有効重力 g′ に置き換える.g′ の向きが「新しい鉛直」で,振り子はその向きにぶら下がる.

  1. |g′|=g2+A2=54g.糸は g′ の向きなので,鉛直から後ろへ

tan⁡θ0=Ag=34⇒θ0≈37∘

傾く.張力は有効重力とつり合い,T=m|g′|=54mg.

  1. つり合いの位置からの振れが小さいとき,重力加速度が |g′| になっただけの単振り子として扱える.張力 T と区別して周期を τ と書くと

τ=2πℓ|g′|=2π0.5012.25≈1.3s

である.止まっているときは τ0=2π0.50/9.8≈1.4s だから,加速する車の中の方が短い(比は 4/5≈0.89).

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

落下する箱形のエレベーターの中で,床から高さ 1.0m の位置から小球を放したり投げたりする.幅は 3.0m,g=9.8ms−2 とする.

  1. 箱が自由落下している.小球を静かに放すと箱に対してどう動くか.また,水平に 1.5ms−1 で投げると,反対側の壁に着くまでの時間と高さはどうなるか.

  2. ブレーキが働いて,箱の下向きの加速度が 0.80g になった.小球を高さ 1.0m から静かに放すと,床に達するまでの時間はいくらか.

落下する箱の初期条件.図中の記号と条件は「自由落下:A=g」「放した後の運動を求める」「下向き:A=0.80g」である. 落下する箱の初期条件.図中の記号と条件は「自由落下:A=g」「放した後の運動を求める」「下向き:A=0.80g」である.
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考え方 箱の加速度が下向きに A なら,有効重力は下向きに g′=g−A.

  1. A=g だから g′=0.静かに放した小球は箱に対して静止し,浮いたままになる.水平に投げた小球は箱に対して等速直線運動をするので,時間は

t=3.01.5=2.0s

で,高さは 1.0m のままである.

  1. g′=g−0.80g=1.96ms−2(下向き).小球は箱に対して静止から落ちるので

h=12g′t2⇒t=2×1.01.96≈1.0s

である.止まった部屋の 0.45s より,ゆっくり落ちる.

ポイント ここまでのまとめ

  • a=a′+A(A=R¨).有効重力 g′=g−A は成分ごとに引いて合成する.

  • 台車上の斜面では,慣性力を斜面に平行・垂直に分ける.下る加速度は gsin⁡θ−Acos⁡θ,台車に対して静止する条件は A=gtan⁡θ.

  • 一定の加速度で動く車の中の振り子は有効重力の向きにぶら下がり,つり合い位置の周りの微小振動の周期は 2πℓ/|g′|.自由落下する箱の中では g′=0 で,物体は箱に対して等速直線運動をする.