問い
ガリレオは,斜面を転がる球の運動を調べて,落下のような運動では速度が時間に比例して増える,つまり加速度が一定だと結論しました.ところが当時は,秒を正確に刻む時計がありませんでした.振り子時計もまだ実用になっていません.
時計のない時代に,球の動きが「一定の加速度」だと,どうやって確かめたのでしょうか.また,真下に落とした石の運動は速すぎて測れないのに,なぜ斜面なら測れるのでしょうか.少し考えてみてください.
考えてみる
ガリレオは,管の中で水を流し出す水時計を使ったと伝えられています.球が転がり始めると同時に水を出し,球が目印を通る瞬間に水を止め,流れ出た水の重さを量ります.水が一定の割合で流れるなら,水の重さは経過時間に比例します.大切なのは,水の重さが何秒にあたるかを知らなくても,時間の比さえ分かれば用が足りることです.
静止から等加速度で出発したとき,出発点から測った変位が時間の2乗に比例すること(このあと導きます)に注目します.時間が 1 :2 :3 :4 の比で進むなら,出発点からの距離は 1 :4 :9 :16,隣り合う時間ごとに進む距離は 1 :3 :5 :7 になります.水の重さを 1,2,3,4 単位と決め,その時刻の球の位置を印で測って,距離の比がこの通りになれば「等加速度らしい」と確かめられます.落下そのものは速すぎるので,ガリレオは斜面をゆるやかにして,加速度を小さくしました.
問いの答えは,時間の比だけで検証できる関係(静止から出発したときの 𝑥 ∝𝑡2)を調べた,ということです.この節では等加速度運動の式を「速度から位置へ」の節の積分で導き,自由落下に使います.投げ上げと例題は次の節で扱います.
等加速度運動の式
加速度 𝑎 が一定の運動を考えます.直線上の運動なので,座標軸を1本決め,位置 𝑥,速度 𝑣,加速度 𝑎 はすべてその軸の向きを正とした符号つきの量とします.時刻 𝑡 =0 の位置を 𝑥0,速度を 𝑣0 とします.
速度は加速度の積分で,位置は速度の積分で得られます.
𝑣(𝑡)=𝑣0+∫𝑡0𝑎d𝑠=𝑣0+𝑎𝑡
𝑥(𝑡)=𝑥0+∫𝑡0(𝑣0+𝑎𝑠)d𝑠=𝑥0+𝑣0𝑡+12𝑎𝑡2
法則 等加速度運動の式
加速度が一定の直線運動では,次の3つの式が成り立つ.
𝑣=𝑣0+𝑎𝑡,𝑥=𝑥0+𝑣0𝑡+12𝑎𝑡2,𝑣2−𝑣20=2𝑎(𝑥−𝑥0)
3つ目の式は,最初の2式から 𝑡 を消して作ります.最初の式より 𝑡 =(𝑣 −𝑣0)/𝑎 で,これを2番目に代入して整理すれば得られます.もう少し見通しのよい導き方もあります.𝑣2 を時間で微分すると,積の微分から dd𝑡(𝑣2) =2𝑣d𝑣d𝑡 =2𝑣𝑎 です.一方 𝑣 =d𝑥d𝑡 なので,これは 2𝑎d𝑥d𝑡 に等しく,𝑎 が定数なら dd𝑡(𝑣2−2𝑎𝑥) =0 です.したがって 𝑣2 −2𝑎𝑥 は時間によらない定数で,初期値と比べて 𝑣2 −𝑣20 =2𝑎(𝑥 −𝑥0) が出ます.
面積を使う別の導き方もあります.v-tグラフは 𝑣0 から 𝑣 まで直線で上がるので,面積は台形です.
[図:等加速度運動のv-tグラフの台形]横軸が時刻t,縦軸が速度vのグラフ.t=0で速度v0,時刻tで速度vとなる右上がりの直線と横軸の間に台形ができる.台形の上底は左の辺のv0,下底は右の辺のv,高さは横幅のt.v−v0はatに等しく,直線の傾きが加速度a.台形の面積が変位x−x0.
変位は台形の面積なので,(上底+下底)×高さ÷2 より
𝑥−𝑥0=𝑣0+𝑣2𝑡
です.平均の速度が初めと終わりの速度の平均であることを式にしたものです.𝑣 =𝑣0 +𝑎𝑡 を代入すれば,2番目の式に一致します.さらに 𝑡 =(𝑣 −𝑣0)/𝑎 を入れると 𝑥 −𝑥0 =𝑣2−𝑣202𝑎 で,3番目の式です.
3番目の式には時間が登場しません.時間を聞かれていない問題では,時間を経由せずに速度と位置を結べるので便利です.「加速度 × 変位が,𝑣2 の変化を決める」と読めます(𝑥 −𝑥0 は符号つきの変位です).
自由落下と重力加速度
空気の抵抗が無視できるとき,地表付近で物体を落とすと,物体の重さにも形にもよらず,同じ加速度で落ちます.これが自由落下で,その加速度を重力加速度 𝑔 といいます.
定義 重力加速度
地表付近の自由落下の加速度の大きさ 𝑔 を重力加速度といい,𝑔 ≈9.8 ms−2 である.向きは鉛直下向きで,落下の速さは1秒ごとにおよそ 9.8 ms−1 ずつ増える.
「重い物ほど速く落ちる」という日常の感覚は,空気の抵抗の影響です.月面で羽根と金づちを同時に放すと同時に着地した,という宇宙飛行士の実験が知られています.月には空気がないからです.
座標軸は鉛直上向きを正にとることが多く,このとき加速度は 𝑎 = −𝑔 です.地面を 𝑦 =0 とすると,等加速度の式は
𝑣=𝑣0−𝑔𝑡,𝑦=𝑦0+𝑣0𝑡−12𝑔𝑡2,𝑣2−𝑣20=−2𝑔(𝑦−𝑦0)
となります.𝑣0 >0 なら投げ上げ,𝑣0 =0 なら放しただけ,𝑣0 <0 なら投げ下ろしです.向きと符号を最初に決めれば,上昇も下降も1つの式で書けます.
ポイント ここまでのまとめ
時計がなくても,時間の比さえ分かれば等加速度運動は確かめられる.静止から出発する等加速度運動では,出発点から測った変位 𝑥 が 𝑥 ∝𝑡2 で,等しい時間ごとの距離は 1 :3 :5 :7 の比になる.
加速度が一定の直線運動では 𝑣 =𝑣0 +𝑎𝑡,𝑥 =𝑥0 +𝑣0𝑡 +12𝑎𝑡2,𝑣2 −𝑣20 =2𝑎(𝑥 −𝑥0) が成り立つ.3つ目の式には時間が入らない.
空気の抵抗が無視できる落下は,質量によらず加速度 𝑔 ≈9.8 ms−2 の等加速度運動である.
斜面は加速度を小さくして,速すぎる落下を測りやすくする工夫だった.