問い
軽い糸に小さなおもりをつけた振り子を,毎回同じ小さな角度から静かに放して振らせます.糸の長さを 𝑙,おもりの質量を 𝑚,重力加速度を 𝑔 とします.1往復にかかる時間(周期 𝑇)は,このうちどれで決まるでしょうか.糸を4倍にしたら,おもりを2倍にしたら,月に持っていったら,周期はどうなるでしょうか.
周期を表す式は知らないものとして,形だけ当ててみましょう.紙に予想を書いてください.
[図:糸でつるした振り子]天井の1点から長さlの糸でおもり(質量m)をつるした振り子.おもりは左右に振れ,鉛直下向きに重力加速度gがはたらく.1往復にかかる時間が周期Tである.
考えてみる
式を知らなくても言えることがあります.周期は「時間」です.時間を作る材料が,𝑙(長さ),𝑚(質量),𝑔(長さ÷時間÷時間)の中にあるはずです.質量だけが「質量」を含みますが,長さや時間から質量は作れません.答えから質量を消す手段がないので,周期に 𝑚 は入れないはずです.残るのは 𝑙 と 𝑔 で,𝑙/𝑔 は(長さ)÷(長さ÷時間²)=時間² です.だから周期は √𝑙/𝑔 に比例するはずです.
この「量の種類(次元)だけを頼りに式の形を決める」方法を,この節と次の節で整えます.この節では,まず単位と次元そのものを確かめます.
量は「数×単位」
物理量は,数と単位の積です.𝑙 =2.0 m は,長さの基準 1 m の2.0倍という意味です.単位が違えば数も変わりますが,2.0 m と 200 cm は同じ長さです.
世界共通の単位として,国際単位系(SI)があります.基本になるのは,長さ(メートル,m),質量(キログラム,kg),時間(秒,s),電流(アンペア,A),温度(ケルビン,K),物質量(モル,mol),光度(カンデラ,cd)の7つです.
力学では,m,kg,s の3つで足ります.ほかの単位はこれらの積と商で作り,組立単位といいます.速さは ms−1,加速度は ms−2,力は 1 N =1 kgms−2,エネルギーは 1 J =1 Nm =1 kgm2s−2 です.
単位の換算は,「1に等しい比」を掛けることです.1 km =1000 m,1 h =3600 s だから
36km/h=36×1000m3600s=10ms−1
加速度の単位:なぜ ms−2 か
速さの単位 ms−1 は「1秒あたり何メートル進むか」を表します.加速度は「速度が1秒あたりどれだけ変わるか」ですから,速度の変化を,それにかかった時間で割ります.ここでは物体を静かに放して鉛直に落とす場合だけを考えます.向きが変わらないので,速度の変化は速さの変化で表せます.単位も同じように割ります.
速度の変化(速さの変化) [ms−1]かかった時間 [s]=ms−1÷s=ms−2
「秒」が2回出てくるのは,1回目が速さ(速度)の「1秒あたり」,2回目が加速度の「1秒あたり」だからです.次元でいえば LT−1 を T で割って LT−2 です.
重力加速度 𝑔 =9.8 ms−2 は,9.8 (ms−1) / s と読めます.つまり「1秒ごとに,速さが 9.8 ms−1 ずつ増える」という意味です.空気抵抗を無視して物体を静かに放すと,速さは次のように増えます.
放してからの時間 | 速さ |
|---|
0 s | 0 ms−1 |
1 s | 9.8 ms−1 |
2 s | 19.6 ms−1 |
3 s | 29.4 ms−1 |
「9.8 メートルずつ落ちる」のではなく,「速さが 9.8 ms−1 ずつ増える」のです.1秒で増える速さが一定ですから,たとえば 0.5 s なら 4.9 ms−1 です.
ポイント 加速度の単位の読み方
ms−2 は「ms−1 毎秒」と読む.数値は,1秒あたりの速度の変化量である(鉛直落下のように向きが変わらなければ,速さの変化量).𝑔 =9.8 ms−2 なら,1秒ごとに速さが 9.8 ms−1 増える.
次元
単位を取り去り,量の「種類」だけを見たものが次元です.長さ,質量,時間の次元を L,M,T で表し,量 𝑥 の次元を [𝑥] と書きます.
定義 次元
ここで扱う力学の量は,[𝑥] =L𝑎M𝑏T𝑐 の形に書ける.次元はこの右辺の積であり,指数 𝑎,𝑏,𝑐 はその中の情報である.指数がすべて0の量を無次元量という(電流や温度などを含めると,基本の次元がさらに増える).
量 | 次元 |
|---|
速さ | LT−1 |
加速度(𝑔 も同じ) | LT−2 |
力 | MLT−2 |
エネルギー | ML2T−2 |
圧力 | ML−1T−2 |
角度,摩擦係数 | 無次元 |
したがって,次元が合わない式は必ず間違いです.検算に使えます.たとえば 𝑥 =12𝑎𝑡 は,左辺が L,右辺が LT−1 で合わないので誤りです.逆に,次元が合っていても正しいとは限りません.係数(12 など)は次元からは決まらないからです.
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「考えてみる」の筋道は,次元の言葉で書き直せます.周期 𝑇 は時間 T で,質量 M を含むのは 𝑚 だけですから,𝑚 は入りません.𝑙 と 𝑔 から時間を作る組み合わせは √𝑙/𝑔 だけです.振り子の周期は 𝑇 =𝐶√𝑙/𝑔 の形で,振れの角度をそろえれば,糸が4倍なら周期は2倍,月(𝑔 が約 1/6)では約2.5倍になります.𝐶 は無次元の数で,振れの角度には依存しうるうえ,次元解析では決まりません.振れが小さいとき 𝐶 =2𝜋(のちの章で導きます)で,𝑙 =1.00 m なら 𝑇 =2𝜋√1.00/9.8 ≈2.0 s です.
ポイント ここまでのまとめ
物理量は「数×単位」.力学の単位は m,kg,s の積と商で作れる.
加速度の単位 ms−2 は,速度の単位 ms−1 を時間で割ったもの.𝑔 =9.8 ms−2 は,空気抵抗を無視した鉛直落下で,1秒ごとに速さが 9.8 ms−1 増えることを表す.
量の種類だけを見たものが次元で,次元が合わない式は必ず間違い.ただし次元が合っても,係数までは決まらない.
振り子の周期は質量によらず,振れの角度をそろえれば 𝑇 =𝐶√𝑙/𝑔 の形になる.