問いしるべ
問いから始める物理 振動

振動

いろいろな単振動

著者:柚木芹香

問い

振り子時計は,ゼンマイが弱って振れ幅が小さくなっても,時刻がほとんど狂いません.振れ幅が変わっても,一往復にかかる時間はほとんど変わらないのです.なぜでしょうか.

考えてみる

単振動の節のばねでは,復元力が変位に比例していたので,周期は振幅によりませんでした.振り子でおもりを引き戻すのは重力ですが,糸が傾くにつれて,重力の円弧の接線方向の成分が変わります.この復元力は,変位に比例するのでしょうか.

素朴には,振れ幅が大きいほど,おもりは遠くまで行くのに,高い所から下りてくるので速くなる,とも考えられます.距離と速さが打ち消し合うかどうかは,式にしてみないと分かりません.

単振り子

質量 m のおもりを長さ L の軽い糸でつるし,糸が鉛直から角度 θ になったとします.おもりは円弧に沿って動くので,その接線方向を考えます.糸の張力は接線方向に成分を持たず,重力の接線成分だけが働くので

mLθ¨=−mgsin⁡θ

です.復元力は θ そのものではなく sin⁡θ に比例します.しかし θ(rad)が小さいとき,sin⁡θ≈θ と近似できます.10∘(0.1745rad)でも sin⁡θ=0.1736 で,差は 0.5 % ほどです.すると

θ¨=−gLθ⟹ω=gL,T=2πLg

で,ばねと同じ形の単振動になります.

鉛直から角θだけ傾いた振り子.赤い重力矢印を,糸に沿うmg cos θと円弧の接線に沿うmg sin θへ分解する. 鉛直から角θだけ傾いた振り子.赤い重力矢印を,糸に沿うmg cos θと円弧の接線に沿うmg sin θへ分解する.

この式には振れ幅が入っていません.これが問いの答えです.重力も慣性も質量に比例するので質量 m が消え,周期は長さ L と g だけで決まります.L≈0.99m で T≈2.0s です.近似の外では,周期は振れ角が大きいほどわずかに長くなります.その割合は,振れ角 θ0(rad)のときおよそ θ02/16 で,3∘ で約 0.017 %,10∘ で約 0.19 % です.時計の振り子の振れ角が数度に抑えられているのは,この性質を使うためです.

小さな振動はたいてい単振動

ばねや振り子だけの特別な話ではありません.第6章で見たように,ポテンシャルエネルギー U(x) が x0 で U″(x0)>0 の極小のとき,その近くでは放物線で近似できます.

法則 小振動

U′(x0)=0,U″(x0)>0 のとき,質量 m の粒子の x0 のまわりの小さな運動は,近似的に次の単振動になる.

U≈U(x0)+12U″(x0)(x−x0)2,ω=U″(x0)m

谷の曲がりが急なほど,周期は短い.U″(x0)=0 の極小(たとえば U∝x4)では放物線で近似できず,単振動にならない.

単振り子で確かめます.高さの基準を最下点にとると U=mgL(1−cos⁡θ),運動エネルギーは 12m(Lθ˙)2 なので,質量 m の役目を mL2 が果たします.U″(0)=mgL から ω2=mgL/(mL2)=g/L となり,先の結果と一致します.

ばねの直列・並列

ばね定数 k1,k2 のばね2本を並べてつなぐと,伸びが共通なので力は足し合わされ k=k1+k2 です.縦に直列につなぐと,各ばねに同じ力 F が働いて伸びが足し合わされ,F/k=F/k1+F/k2 より 1k=1k1+1k2 です.同じばね2本なら,並列は 2k で周期が 1/2 倍,直列は k/2 で周期が 2 倍になります.

上は壁と物体の間に二本のばねを並列につなぐ配置.下は二本を直列につなぐ配置で,それぞれのばね定数はk₁とk₂である. 上は壁と物体の間に二本のばねを並列につなぐ配置.下は二本を直列につなぐ配置で,それぞれのばね定数はk₁とk₂である.

液体に浮かぶものの振動

断面積 S,質量 m の円柱が,密度 ρ の液体に鉛直に浮いています.円柱は側面の一部が液面を貫いたまま動き,周囲の液体の運動による慣性や抵抗は無視できるとします.つり合いの位置から y だけ余計に沈めると,浮力は ρgSy だけ増え,復元力になります.よって k=ρgS,T=2πm/(ρgS) です.

U字管では,断面積が一定値 S で,非圧縮の液体が全長 l だけ入っていて,管壁との摩擦などの抵抗は無視できるとします.両側の断面積が等しいので,片側の液面が y 下がると反対側が y 上がり,液面差は 2y になります.質量 ρSl の液体が,復元力 2ρgSy を受けるので,ρSly¨=−2ρgSy より T=2πl/(2g) です.

左はつり合いからyだけ押し下げた円柱.右はU字管で左液面がy下がり右液面がy上がった状態.破線はつり合いの液面を表す. 左はつり合いからyだけ押し下げた円柱.右はU字管で左液面がy下がり右液面がy上がった状態.破線はつり合いの液面を表す.

円運動の射影

半径 A の等速円運動(角速度 ω)の位置の x 成分は x=Acos⁡(ωt+ϕ) です.加速度は中心を向いて大きさ Aω2 で,その x 成分は −Aω2cos⁡(ωt+ϕ)=−ω2x です.つまり単振動は,等速円運動を横から見たときの影の運動です.角振動数は円運動の角速度,位相は円運動の回転角にあたります.

半径Aの円上の点を横軸へ射影する.橙色の点が射影で,右側の余弦曲線の同じ位相にも橙色の点を置く. 半径Aの円上の点を横軸へ射影する.橙色の点が射影で,右側の余弦曲線の同じ位相にも橙色の点を置く.

ポイント ここまでのまとめ

  • 単振り子は mLθ¨=−mgsin⁡θ.小さな振れ(sin⁡θ≈θ)では単振動で,T=2πL/g.質量にも振れ幅にもよらない.

  • U″(x0)>0 のポテンシャルの極小のまわりの小さな運動は,近似的に ω=U″(x0)/m の単振動になる.

  • ばねは並列で k=k1+k2,直列で 1/k=1/k1+1/k2.浮かぶ円柱は k=ρgS.

  • 単振動は等速円運動の射影である.

  • 問いの答え:振り子の周期は小さな振れでは振れ幅によらないので,振れ幅が少し変わっても時計は狂わない.