問い
振り子時計は,ゼンマイが弱って振れ幅が小さくなっても,時刻がほとんど狂いません.振れ幅が変わっても,一往復にかかる時間はほとんど変わらないのです.なぜでしょうか.
考えてみる
単振動の節のばねでは,復元力が変位に比例していたので,周期は振幅によりませんでした.振り子でおもりを引き戻すのは重力ですが,糸が傾くにつれて,重力の円弧の接線方向の成分が変わります.この復元力は,変位に比例するのでしょうか.
素朴には,振れ幅が大きいほど,おもりは遠くまで行くのに,高い所から下りてくるので速くなる,とも考えられます.距離と速さが打ち消し合うかどうかは,式にしてみないと分かりません.
単振り子
質量 𝑚 のおもりを長さ 𝐿 の軽い糸でつるし,糸が鉛直から角度 𝜃 になったとします.おもりは円弧に沿って動くので,その接線方向を考えます.糸の張力は接線方向に成分を持たず,重力の接線成分だけが働くので
𝑚𝐿¨𝜃=−𝑚𝑔sin𝜃
です.復元力は 𝜃 そのものではなく sin𝜃 に比例します.しかし 𝜃(rad)が小さいとき,sin𝜃 ≈𝜃 と近似できます.10∘(0.1745 rad)でも sin𝜃 =0.1736 で,差は 0.5 % ほどです.すると
¨𝜃=−𝑔𝐿𝜃⟹𝜔=√𝑔𝐿,𝑇=2𝜋√𝐿𝑔
で,ばねと同じ形の単振動になります.
[図:振り子の重力の分解]鉛直から角θだけ傾いた振り子.赤い重力矢印を,糸に沿うmg cos θと円弧の接線に沿うmg sin θへ分解する.
この式には振れ幅が入っていません.これが問いの答えです.重力も慣性も質量に比例するので質量 𝑚 が消え,周期は長さ 𝐿 と 𝑔 だけで決まります.𝐿 ≈0.99 m で 𝑇 ≈2.0 s です.近似の外では,周期は振れ角が大きいほどわずかに長くなります.その割合は,振れ角 𝜃0(rad)のときおよそ 𝜃20/16 で,3∘ で約 0.017 %,10∘ で約 0.19 % です.時計の振り子の振れ角が数度に抑えられているのは,この性質を使うためです.
小さな振動はたいてい単振動
ばねや振り子だけの特別な話ではありません.第6章で見たように,ポテンシャルエネルギー 𝑈(𝑥) が 𝑥0 で 𝑈″(𝑥0) >0 の極小のとき,その近くでは放物線で近似できます.
法則 小振動
𝑈′(𝑥0) =0,𝑈″(𝑥0) >0 のとき,質量 𝑚 の粒子の 𝑥0 のまわりの小さな運動は,近似的に次の単振動になる.
𝑈≈𝑈(𝑥0)+12𝑈″(𝑥0)(𝑥−𝑥0)2,𝜔=√𝑈″(𝑥0)𝑚
谷の曲がりが急なほど,周期は短い.𝑈″(𝑥0) =0 の極小(たとえば 𝑈 ∝𝑥4)では放物線で近似できず,単振動にならない.
単振り子で確かめます.高さの基準を最下点にとると 𝑈 =𝑚𝑔𝐿(1 −cos𝜃),運動エネルギーは 12𝑚(𝐿˙𝜃)2 なので,質量 𝑚 の役目を 𝑚𝐿2 が果たします.𝑈″(0) =𝑚𝑔𝐿 から 𝜔2 =𝑚𝑔𝐿/(𝑚𝐿2) =𝑔/𝐿 となり,先の結果と一致します.
ばねの直列・並列
ばね定数 𝑘1,𝑘2 のばね2本を並べてつなぐと,伸びが共通なので力は足し合わされ 𝑘 =𝑘1 +𝑘2 です.縦に直列につなぐと,各ばねに同じ力 𝐹 が働いて伸びが足し合わされ,𝐹/𝑘 =𝐹/𝑘1 +𝐹/𝑘2 より 1𝑘 =1𝑘1 +1𝑘2 です.同じばね2本なら,並列は 2𝑘 で周期が 1/√2 倍,直列は 𝑘/2 で周期が √2 倍になります.
[図:ばねの並列と直列]上は壁と物体の間に二本のばねを並列につなぐ配置.下は二本を直列につなぐ配置で,それぞれのばね定数はk₁とk₂である.
液体に浮かぶものの振動
断面積 𝑆,質量 𝑚 の円柱が,密度 𝜌 の液体に鉛直に浮いています.円柱は側面の一部が液面を貫いたまま動き,周囲の液体の運動による慣性や抵抗は無視できるとします.つり合いの位置から 𝑦 だけ余計に沈めると,浮力は 𝜌𝑔𝑆𝑦 だけ増え,復元力になります.よって 𝑘 =𝜌𝑔𝑆,𝑇 =2𝜋√𝑚/(𝜌𝑔𝑆) です.
U字管では,断面積が一定値 𝑆 で,非圧縮の液体が全長 𝑙 だけ入っていて,管壁との摩擦などの抵抗は無視できるとします.両側の断面積が等しいので,片側の液面が 𝑦 下がると反対側が 𝑦 上がり,液面差は 2𝑦 になります.質量 𝜌𝑆𝑙 の液体が,復元力 2𝜌𝑔𝑆𝑦 を受けるので,𝜌𝑆𝑙¨𝑦 = −2𝜌𝑔𝑆𝑦 より 𝑇 =2𝜋√𝑙/(2𝑔) です.
[図:浮力と液面差による復元]左はつり合いからyだけ押し下げた円柱.右はU字管で左液面がy下がり右液面がy上がった状態.破線はつり合いの液面を表す.
円運動の射影
半径 𝐴 の等速円運動(角速度 𝜔)の位置の 𝑥 成分は 𝑥 =𝐴cos(𝜔𝑡 +𝜙) です.加速度は中心を向いて大きさ 𝐴𝜔2 で,その 𝑥 成分は −𝐴𝜔2cos(𝜔𝑡 +𝜙) = −𝜔2𝑥 です.つまり単振動は,等速円運動を横から見たときの影の運動です.角振動数は円運動の角速度,位相は円運動の回転角にあたります.
[図:円運動の射影と単振動]半径Aの円上の点を横軸へ射影する.橙色の点が射影で,右側の余弦曲線の同じ位相にも橙色の点を置く.
ポイント ここまでのまとめ
単振り子は 𝑚𝐿¨𝜃 = −𝑚𝑔sin𝜃.小さな振れ(sin𝜃 ≈𝜃)では単振動で,𝑇 =2𝜋√𝐿/𝑔.質量にも振れ幅にもよらない.
𝑈″(𝑥0) >0 のポテンシャルの極小のまわりの小さな運動は,近似的に 𝜔 =√𝑈″(𝑥0)/𝑚 の単振動になる.
ばねは並列で 𝑘 =𝑘1 +𝑘2,直列で 1/𝑘 =1/𝑘1 +1/𝑘2.浮かぶ円柱は 𝑘 =𝜌𝑔𝑆.
単振動は等速円運動の射影である.
問いの答え:振り子の周期は小さな振れでは振れ幅によらないので,振れ幅が少し変わっても時計は狂わない.