問いしるべ
問いから始める物理 振動

振動

テイラー展開と小振動

著者:柚木芹香

第6章の放物線近似(2次の項まで)を高次へ続けた形がテイラー展開です.精度の見積もり方と小振動の手順を整理します.

定理 数学の道具:テイラー展開と小振動の手順

滑らかな関数は,h=x−a が小さいとき

f(a+h)≈f(a)+f′(a)h+f″(a)2h2+f‴(a)6h3+⋯

と冪の和で近似できる.n 次の係数は n 階微分を n! で割ったものである.項を増やすほど,また h が小さいほど精度は上がる.無限に続けた級数が元の関数に等しい(収束する)かどうかは関数と h の範囲による.下の表では,sin⁡h,cos⁡h はすべての h,ln⁡(1+h) は −1<h≤1,(1+h)n は |h|<1 で成り立つ.

関数

展開

sin⁡h

h−h36+⋯

cos⁡h

1−h22+h424−⋯

ln⁡(1+h)

h−h22+⋯

(1+h)n

1+nh+n(n−1)2h2+⋯

どこで打ち切るか. 捨てた最初の項が誤差の目安である.sin⁡θ≈θ の相対誤差は θ2/6 で,θ=0.1 なら 0.17 % である.

小振動の手順. (1) U′(q0)=0 からつり合いを求める.(2) U″(q0)>0 で安定を確かめる.(3) 運動エネルギーが 12Mq˙2 の形なら ω=U″(q0)/M.M は直線運動では m,振り子の角度では mL2 である.

練習 1. (1) ln⁡(1+h) を2次まで展開し,ln⁡1.1 の近似値を求めよ.(2) sin⁡0.5 を3次まで展開した値を求め,sin⁡0.5=0.4794 との相対誤差を見よ.

答え:(1) f′=11+h,f″=−1(1+h)2 より h−h22.ln⁡1.1≈0.1−0.005=0.095. (2) 0.5−0.1256=0.4792.相対誤差は約 0.05 %.

練習 2. (1) (1+h)−1/2 を2次まで展開し,h=0.20 のときの近似値を求めよ.(2) cos⁡0.30 を2次まで展開した値を求めよ.

答え:(1) f′=−12(1+h)−3/2,f″=34(1+h)−5/2 より 1−h2+38h2.h=0.20 で 0.915(真の値 0.9129⋯).(2) 1−0.3022=0.955(真の値 0.9553⋯).

練習 3. 質量 m の粒子のポテンシャルが U(x)=U0(x2a2+a2x2)(x>0,U0,a>0)である.小振動の手順に従って,つり合いの位置 x0 と,そのまわりの小振動の角振動数 ω を求めよ.

答え:U′(x)=2U0(xa2−a2x3)=0 より x0=a.U″(x)=2U0(1a2+3a2x4) で U″(a)=8U0a2>0(安定).ω=8U0ma2.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

重力加速度 9.80ms−2 の場所で,長さ 0.993m の単振り子を使った時計がある.

長さLの糸の振り子を鉛直線から小角θ₀だけ傾ける.破線は鉛直線である. 長さLの糸の振り子を鉛直線から小角θ₀だけ傾ける.破線は鉛直線である.
  1. 小さな振れの周期を求めよ.

  2. 糸が 0.020 % 伸びたとき,周期の変化の割合と,1日(86400s)のずれを求めよ.

  3. 振れ角 0.10rad で sin⁡θ を θ とする相対誤差を求めよ.

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考え方 (2) は T∝L を (1+h)1/2≈1+h2 で処理する.

  1. T=2π0.9939.80=2.00s.

  2. L が 1+h 倍(h=2.0×10−4)になると T は 1+h≈1+h2 倍なので,周期は 1.0×10−4(0.010 %)長くなる.時計は遅れ,1日で 約 8.6s のずれになる.

  3. sin⁡θ=θ−θ36 なので,相対誤差は θ26=0.0106≈1.7×10−3(0.17 %).

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の粒子が,ポテンシャルエネルギー U(x)=ax4−bx2(a,b は正の定数)のもとで x 軸上を動く.

四次のポテンシャルが持つ左右二つの谷.右の谷の底x₁付近に二次近似を橙色の破線で重ねる.曲線は規格化した式を数値評価している. 四次のポテンシャルが持つ左右二つの谷.右の谷の底x₁付近に二次近似を橙色の破線で重ねる.曲線は規格化した式を数値評価している.
  1. 右の谷の底 x1 を求めよ.

  2. 谷の底のまわりの小さな振動の周期を求めよ.

  3. 振幅 ε の振動での最大の速さを求めよ.(2) の結果が使える条件も述べよ.

解答を見る

考え方 小振動の手順に従う.

  1. U′=4ax3−2bx=0 より x=0,±b/(2a).右の谷の底は x1=b2a.

  2. U″=12ax2−2b に x12=b2a を入れて U″(x1)=6b−2b=4b>0.よって ω=4bm,T=2πω=πmb.

  3. 最大の速さは εω=2εb/m.(2) は放物線近似なので,ε が谷の幅(x1 程度)より十分小さいことが条件である.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

長さ 0.30m,密度 600kgm−3 の一様な棒が,密度 1000kgm−3 の水に鉛直に浮いている.断面積を S とし,重力加速度を 9.8ms−2,棒は鉛直を保つものとし,水の抵抗は無視する.

長さlの棒について,つり合いとyだけ押し下げた状態を並べる.沈む長さはそれぞれdとd+yである. 長さlの棒について,つり合いとyだけ押し下げた状態を並べる.沈む長さはそれぞれdとd+yである.
  1. 棒が水に沈んでいる長さ d を求めよ.

  2. 少し押し下げて放したときの周期を求めよ.

  3. 密度 1200kgm−3 の塩水では,周期はどうなるか.

    1. と同じ周期の単振り子の長さを求めよ.

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考え方 浮力のつり合いから d を出し,y だけ余分に沈めたときの浮力の増加を復元力とみる.

  1. 重さと浮力のつり合い ρsSlg=ρSdg より d=ρsρl=6001000×0.30=0.18m.

  2. 質量は m=ρsSl.余分に沈めた y に対して,浮力は ρgSy だけ増すので my¨=−ρgSy.

T=2πρsSlρgS=2πdg=2π0.189.8≈0.85s
  1. 沈む長さは d=6001200×0.30=0.15m となり,T=2π0.15/9.8≈0.78s(密度が大きいほど浅く沈み,周期は短い).

  2. T=2πd/g は単振り子の 2πL/g と同じ形なので,長さは L=d=0.18m.

ポイント ここまでのまとめ

  • テイラー展開は f(a+h)=f(a)+f′(a)h+12f″(a)h2+⋯.捨てた最初の項が誤差の目安で,sin⁡θ≈θ の相対誤差は θ2/6.

  • 小振動の手順は,U′(q0)=0,U″(q0)>0,ω=U″(q0)/M(M は運動エネルギー 12Mq˙2 の係数).

  • 単振り子は T∝L.長さの小さな変化は (1+h)1/2≈1+h/2 で処理する.

  • 浮かぶ棒の周期は 2πd/g(d は沈む長さ).