問い
車のスピードメーターには「60」と出ています.この数字は,いったい何をどう測った量でしょうか.
「60 km/h」というのは,1時間走ればちょうど60 km進むという意味でしょうか.でも運転手はまだ1時間走っていません.ある一瞬の数字は,どうやって決まるのでしょうか.また,「東京から大阪まで,平均の速さは時速80 km」というときの「平均の速さ」とは,どこが違うのでしょうか.
考えてみる
素朴な考えは「速さ=進んだ距離÷かかった時間」です.これは,ある区間をひとまとめにして見た平均の速さには使えます.しかし,一瞬には距離も時間も測れそうにありません.
そこで,短い時間で考えることにします.スタートから 𝑡 s 後の位置が 𝑥 =2𝑡2 m で表される物体で,𝑡 =1 s の速さを知りたいとします.𝑡 =1 から 𝑡 =1 +ℎ までの平均の速さは
2(1+ℎ)2−2ℎ=4+2ℎ [ms−1]
です.ℎ =1, 0.1, 0.01 なら,順に 6, 4.2, 4.02 ms−1 です.区間を短くするほど,平均の値は 4 ms−1 に近づいていきます.この「限りなく近づく値」を,その瞬間の速さと定義するのが自然です.
スピードメーターが示そうとするのも,この極限の値です.一方「平均の速さ」は,全体の距離を全体の時間で割った値で,途中の速さの変化はならされてしまいます.
平均速度と瞬間速度
直線上の運動を考えます.時刻 𝑡1 の位置を 𝑥1,時刻 𝑡2 の位置を 𝑥2 とします.
定義 平均速度と瞬間速度
平均速度は,変位を所要時間で割った量
¯𝑣=Δ𝑥Δ𝑡=𝑥2−𝑥1𝑡2−𝑡1
瞬間速度は,Δ𝑡 →0 の極限
𝑣=limΔ𝑡→0𝑥(𝑡+Δ𝑡)−𝑥(𝑡)Δ𝑡=d𝑥d𝑡
である.単位は ms−1.
平均速度の分子は変位で,道のりではありません.𝑥 軸の負の向きに進んでいれば 𝑣 <0 です.速度の符号は向きを表します.
単位の感覚もつかんでおきましょう.1 ms−1 =3.6 km/h なので,人が歩く速さ(時速5 km 弱)は約 1.4 ms−1,時速60 km の車は約 17 ms−1 です.
速度ベクトル
平面や空間の運動では,位置ベクトル 𝒓 の変化を同じように考えます.時間 Δ𝑡 の間の変位 Δ𝒓 を Δ𝑡 で割ると,平均の速度ベクトルになります.その極限が瞬間の速度ベクトルです.
定義 速度ベクトルと速さ
𝒗=limΔ𝑡→0Δ𝒓Δ𝑡=d𝒓d𝑡=(d𝑥d𝑡, d𝑦d𝑡)
成分ごとに微分すればよい.速度の大きさ 𝑣 =|𝒗| =√𝑣2𝑥+𝑣2𝑦 を速さという.
Δ𝑡 →0 とすると,軌道上の2点を結ぶ矢印 Δ𝒓 の向きは,軌道の接線の向きに近づきます.したがって速度ベクトルは,いつも軌道の接線方向を向きます.
[図:変位ベクトルの向きが接線に近づく]曲がった軌道上の点Pと,Pより先の点Qを結ぶ変位ベクトルΔr(橙の矢印).QをPに少しずつ近づけると,変位ベクトルの向きは軌道のPでの接線(青の破線)の向きに近づく.極限では速度ベクトルvが接線の向きを向く.
速さと速度の違い
速度はベクトル(直線上では符号つきの数)で,速さはその大きさです.家から店まで行って同じ道で戻ると,変位は 0 なので平均速度も 0 です.ところが,平均の速さは道のり÷時間で,0 ではありません.
x-tグラフの傾き
位置 𝑥 を縦軸,時刻 𝑡 を横軸にしたグラフが x-t グラフです.2点 (𝑡1,𝑥1),(𝑡2,𝑥2) を結ぶ線分の傾きが,平均速度 Δ𝑥/Δ𝑡 です.点を近づけていくと,この線分は,その点での接線に近づきます.つまり,
[図:x-tグラフの割線と接線]山と谷のある曲線のx-tグラフ(x=t^3−6t^2+9t,tは0〜4 s).曲線上の2点(t1,t2)を結ぶ橙の割線と,t1での青い接線を描く.割線の傾きが平均速度,接線の傾きが瞬間速度である.スライダーでt1と間隔Δtを変えると,Δtを小さくするほど割線が接線に重なる.
山と谷のある曲線のx-tグラフ(x=t^3−6t^2+9t,tは0〜4 s).曲線上の2点(t1,t2)を結ぶ橙の割線と,t1での青い接線を描く.割線の傾きが平均速度,接線の傾きが瞬間速度である.スライダーでt1と間隔Δtを変えると,Δtを小さくするほど割線が接線に重なる.
最初の問いの答えをまとめます.スピードメーターの数字は,ごく短い時間の変位を時間で割った値の極限の大きさで,x-tグラフの接線の傾きの大きさに当たります.「平均の速さ」は区間全体の道のり÷時間で,途中の速さの変化は見えません.
ポイント ここまでのまとめ
平均速度は変位÷時間.瞬間速度はその Δ𝑡 →0 の極限で,𝑣 =d𝑥d𝑡 である.
速度はベクトル(直線上では符号つきの数)で,速さはその大きさ.平均の速さは道のり÷時間なので,往復では平均速度が0でも0にならない.
速度ベクトルは,軌道の接線の向きを向く.x-tグラフの接線の傾きが瞬間速度である.
問いの答え:メーターの数字は,短い時間の変位を時間で割った値の極限の大きさ.平均の速さは区間全体の道のり÷時間で,途中の変化は見えない.