問いしるべ
問いから始める物理 仕事とエネルギー

仕事とエネルギー

仕事と内積・積分

著者:柚木芹香

内積と,仕事の積分の求め方を整えます.

内積と仕事の積分

定理 数学の道具:内積と仕事の積分

第3章で学んだ内積を振り返り,仕事の計算につなげる.

内積の定義 2本のベクトル a,b のなす角を θ とするとき

a⋅b=abcos⁡θ

で定める(結果は数).垂直なら 0,a⋅a=a2.

成分表示 a=(ax,ay),b=(bx,by) とする.|a−b|2 を余弦定理で書くと a2+b2−2abcos⁡θ,成分で書くと a2+b2−2(axbx+ayby) なので

a⋅b=axbx+ayby(3次元なら +azbz)

である.

仕事の積分の計算 一直線上で力が位置の関数 F(x) なら,W=∫x1x2F(x)dx を積分で計算する.経路が曲がっているときは,経路を時刻 t で表して r(t) とし,dr=drdtdt と置き換える.

W=∫t1t2F⋅drdtdt=∫t1t2(Fxdxdt+Fydydt)dt

練習 1.

  1. a=(1,2),b=(3,−1) の内積と,なす角の余弦を求めよ.

  2. 直線上で力 F=3x2N(x は m の数値)を受けて,x=0 から 2m まで動く間の仕事を求めよ.

答え:(1) a⋅b=1⋅3+2⋅(−1)=1.a=5,b=10 なので cos⁡θ=150≈0.14. (2) W=∫023x2dx=8J.

練習 2. (1) a=(2,1,−2),b=(1,2,2) のなす角を求めよ.(2) 一定の力 F=(2.0, 3.0)N を受けて,物体が Δr=(4.0, −1.0)m だけ動いた.力がした仕事を求めよ.(3) ばねの力 F=−kx(k=50Nm−1)が,x=0 から 0.10m まで動く間にする仕事を求めよ.

答え:(1) a⋅b=2+2−4=0 なので 90∘.(2) W=2.0×4.0+3.0×(−1.0)=5.0J.(3) W=∫00.10(−50x)dx=−25×0.102=−0.25J.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

傾き 30∘ の斜面の下端にある質量 5.0kg の物体を,斜面に平行な力 F で,一定の速さで 4.0m 押し上げる.動摩擦係数は 0.20,重力加速度は 9.8ms−2 とする.

斜面での力と変位.傾き \(30^\circ\) の斜面上の物体を,斜面に平行な力で押し上げる.重力・垂直抗力・摩擦力・押す力を矢印で示し,移動距離 \(4.0\,\mathrm{m}\) を記入する. 斜面での力と変位.傾き \(30^\circ\) の斜面上の物体を,斜面に平行な力で押し上げる.重力・垂直抗力・摩擦力・押す力を矢印で示し,移動距離 \(4.0\,\mathrm{m}\) を記入する.
  1. 押す力 F を求めよ.

  2. 押す力,重力,垂直抗力,摩擦力がする仕事をそれぞれ求め,合計が仕事と運動エネルギーの定理と合うことを確かめよ.

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考え方 一定の速さなので力はつり合っている.各力の仕事は Fscos⁡θ で求める.

  1. 垂直方向のつり合いから N=mgcos⁡30∘≈42N,動摩擦力は μ′N≈8.5N(斜面を下る向き).平行方向のつり合いから F=mgsin⁡30∘+μ′N≈33N.

  2. 変位は斜面を上る向きに 4.0m.押す力は同じ向きで WF=33×4.0≈1.3×102J.重力の斜面方向の成分 24.5N は逆向きで Wg=−98J.垂直抗力は変位に垂直で WN=0.摩擦力は逆向きで Wf=−8.5×4.0≈−34J.合計は 132−98+0−34≈0J で,K2−K1=0 と合う.同じ高さまで真上に持ち上げる仕事 mgh=98J より,摩擦の分 34J だけ多い.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

ばねが物体に及ぼす力は,自然長に戻る向きで大きさ kx(x は自然長からの伸び)である.k=200Nm−1 とする.

ばねの自然長と伸び.水平な床の上で,一端を壁に固定したばねと物体.自然長の位置と伸ばした位置を並べて示す. ばねの自然長と伸び.水平な床の上で,一端を壁に固定したばねと物体.自然長の位置と伸ばした位置を並べて示す.
  1. ばねを自然長からゆっくり 0.10m 伸ばすとき,手がする仕事を求めよ.

  2. その位置で,なめらかな床の上の質量 0.50kg の物体(ばねの端につながっている)を静かに放す.自然長を通るときの速さを求めよ.

解答を見る

考え方 力が x の関数なので,仕事は ∫Fdx で求める.

  1. ゆっくり伸ばすので,手の力はばねの力 kx とつり合う.

W=∫00.10kxdx=12k(0.10)2=12×200×0.010=1.0J

一般に,伸び x までの仕事は 12kx2.

  1. 放した後は,ばねの力だけが仕事をする.x=0.10 から 0 まで動く間に

W=∫0.100(−kx)dx=12k(0.10)2=1.0J

仕事と運動エネルギーの定理より 12×0.50×v2=1.0,よって v=2.0ms−1.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

xy 平面上で,物体に位置 (x,y) で決まる力 F=c(−y, x)(c=2.0Nm−1)がはたらく.原点 O から B(1.0,1.0)(単位は m)まで動かす.次の2つの経路で仕事を求め,気づくことを述べよ.

2本の積分経路.\(xy\) 平面に,O,A\((1,0)\),B\((1,1)\) を示している.経路1(O から A を通って B へ)を実線,経路2(O から B へ直線)を破線で示す.力の矢印は描かない. 2本の積分経路.\(xy\) 平面に,O,A\((1,0)\),B\((1,1)\) を示している.経路1(O から A を通って B へ)を実線,経路2(O から B へ直線)を破線で示す.力の矢印は描かない.

経路1:O から A(1.0,0) へ x 軸に沿って動き,A から B へ y 軸に平行に動く.経路2:O から B へ直線で動く.

解答を見る

考え方 各区間で F⋅dr を作って積分する.

経路1:O→A では y=0,dr=(dx,0),F=c(0,x) なので F⋅dr=0.A→B では x=1.0,dr=(0,dy),F=c(−y,1.0) なので F⋅dr=cdy.よって W=∫01.0cdy=2.0J.

経路2:x=y=t(0≤t≤1.0)で F=c(−t,t),dr=(dt,dt).F⋅dr=c(−t+t)dt=0 なので W=0.

始点と終点が同じでも,仕事は 2.0J と 0 で異なる.次の節で,これを「保存力ではない」と呼ぶ.

ポイント ここまでのまとめ

  • 内積は a⋅b=abcos⁡θ=axbx+ayby.垂直なら 0.仕事は力と変位の内積.

  • 曲がった経路は r(t) で表し,W=∫F⋅drdtdt を t の積分として計算する.

  • ばねを伸びゼロから x まで伸ばす仕事は 12kx2.

  • 力によっては,始点と終点が同じでも仕事が経路で変わる(例題 3).