問いしるべ
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問いから始める物理

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問いから始める物理

問いから原理へ,基本からオリンピックまで

著者:柚木芹香

身近な問いから始めて物理の原理を組み立て直す参考書.微積分は必要になった所で導入し,各節の演習は基本から物理オリンピックの水準まで段階をつけて置く.独学でも,教わりながらでも読めるように,各節の終わりに「教える人へ」の囲みがある.

この章の目次 · 28節
  1. 状態と運動の法則
  2. 微分方程式と初期条件
  3. 状態と運動の法則の演習
  4. 停留作用の原理
  5. 変分法
  6. 停留作用の原理の演習
  7. 空間と時間の対称性
  8. 速度の関数の微分と座標の取り替え
  9. 空間と時間の対称性の演習
  10. 相互作用と力
  11. 勾配と距離の関数の微分
  12. 相互作用と力の演習
  13. 対称性と保存則
  14. 小さな変換と保存量の計算
  15. 対称性と保存則の演習
  16. 拘束のある運動を解く
  17. 拘束のある運動の例題
  18. 拘束のある運動の演習
  19. 光の速さと時空
  20. ローレンツ変換を導く
  21. 光の速さと時空の演習
  22. 相対論の力学
  23. 相対論の運動量とエネルギーの計算
  24. 相対論の力学の演習
  25. 対称性から見た力学の全体像
  26. 第13章の章末問題
  27. 第13章の発展問題
  28. 第13章のまとめ

第13章  対称性から組み立てる力学(発展)

01状態と運動の法則

問い

机の上を転がるボールを撮った写真が1枚あり,今の位置が分かっているとします.1秒後にボールがどこにいるか,言い当てられるでしょうか.ごく短い間をおいて撮った写真が2枚あり,位置と速度が分かったらどうでしょう.さらに3枚目があって加速度まで分かったら,もっとよく当たるようになるのでしょうか.

考えてみる

位置だけでは足りません.同じ場所にあるボールでも,止まっているか右へ転がっているかで,1秒後の位置は違います.では,位置と速度が分かれば足りるのでしょうか.

これは理屈で決まることではなく,経験で確かめることです.投げたボールでも,振り子でも,惑星でも,ある瞬間の位置と速度を決めれば,その後の動きはただ1通りに決まります.逆に,同じ位置から同じ速度で投げたボールが,投げるたびに違う加速度で動き出すことはありません.加速度は,位置と速度とは別に自由に決められる量ではなく,位置と速度が決まれば決まってしまう量です.3枚目の写真は答え合わせには使えますが,新しい情報にはなりません.

この「位置と速度で未来が決まる」という事実から出発して,運動の法則がどんな形をしていなければならないかを調べていきます.その前に,「位置」をどう表すかを決めておきます.

自由度と一般化座標

平面の上を動く小さな物体の位置は,2つの数 (x,y) で決まります.糸の長さが決まっている振り子なら,糸が鉛直となす角 θ の1つの数で決まります.空間を動く N 個の小さな物体なら 3N 個の数が要ります.数の選び方は自由で,平面上の物体を極座標 (r,θ) で表してもかまいません.

定義 自由度と一般化座標

物体の集まり(系)の配置をただ1通りに指定するのに必要な数の個数を,その系の自由度という.自由度が s の系の配置を指定する s 個の数 q1,q2,…,qs を一般化座標,その時間微分 q˙1,q˙2,…,q˙s を一般化速度という.

一般化座標は長さとは限りません.振り子の θ のように角度でもよく,そのときの一般化速度は角速度です.以下では,s 個をまとめて q,q˙ と短く書くことがあります.

定義 状態

ある時刻の一般化座標と一般化速度の組 (q,q˙) を,その時刻の系の状態という.

問いで確かめた経験の事実を,この言葉で書いておきます.

法則 決定性(経験の事実)

ある時刻の状態を決めると,その後の運動はただ1通りに決まる.

運動の法則の形

決定性から,運動の法則の形がかなり絞られます.ある時刻 t の状態 (q,q˙) が分かれば,その後の運動 q(t′) がすべて決まるのですから,その時刻の加速度 q¨(t) も決まっていなければなりません.つまり,加速度は状態と時刻の関数で,

q¨i=fi(q,q˙,t)(i=1,2,…,s)

の形に書けるはずです.これは2階の微分方程式です.

逆に,この形の方程式があれば,状態から未来が決まります.時刻 t の状態から,ごく短い時間 Δt 後の状態を

q(t+Δt)≈q(t)+q˙(t)Δt,q˙(t+Δt)≈q˙(t)+f(q,q˙,t)Δt

と求め,これを繰り返せば,次々と先の状態が求まるからです(数学の節で具体的に計算します).

1階や3階の方程式ではいけない理由も,経験から分かります.1階の方程式 q˙=g(q,t) だと,位置を決めると速度が決まってしまい,同じ場所から好きな速さで投げることができなくなります.3階の方程式だと,位置と速度のほかに加速度も初めに決めなければ未来が決まらず,問いで見た事実に反します.

[図:位置と速度から決まるボールの運動]

初期状態q = 1.0 m,q̇ = 5.0 m s⁻¹から,加速度−9.8 m s⁻²の例を動かす.左は高さ,右は位置と速度の平面.橙の初期点をドラッグするか入力を変えると,その状態からの道すじが1本だけ描き直される.高さ0は地面との衝突を意味しない.再生・停止と時刻の操作ができ,動きを減らす設定では自動再生しない.

ポイント 運動の法則の形

運動の法則は,状態から加速度を決める2階の微分方程式 q¨i=fi(q,q˙,t) の形をしている.関数 fi の形は,決定性だけでは決まらない.

状態を (q,q˙) の平面の点で表すと,運動はその点が描く1本の線になります.決定性から,この線は途中で枝分かれしません.同じ点から2本の線が出ていたら,同じ状態から2通りの未来があることになるからです.

何が残っているか

前の章までの力学では,fi の形を「力を質量で割ったもの」として与えていました.この章では,力という考えを使わずに fi を決めます.そのために使うのは,次の2つだけです.

  1. 運動を,経路全体の1つの量で選び出す原理(次の題材).

  2. 時間と空間が持つ対称性(その次の題材).

この2つから,第4章で法則として受け入れた運動方程式が,定理として出てきます.

問いに戻る

位置だけでは未来は決まりません.位置と速度が分かれば決まります.加速度は位置と速度から決まってしまうので,3枚目の写真は新しい情報にはなりません.これは経験の事実で,そこから運動の法則が2階の微分方程式になることが導かれました.

ポイント ここまでのまとめ

  • 系の配置を指定する数の個数が自由度,その数が一般化座標.角度でもよい.

  • ある時刻の一般化座標と一般化速度の組が状態.

  • 決定性(経験の事実):状態を決めると,その後の運動はただ1通りに決まる.

  • そのため運動の法則は q¨i=fi(q,q˙,t) の形の2階の微分方程式になる.

  • fi の形は,次の2つの題材(停留作用の原理と,時間と空間の対称性)から決める.

02微分方程式と初期条件

運動の法則が2階の微分方程式になることを,具体的な方程式で確かめます.初めの状態から少しずつ先へ進める計算は,コンピューターで運動を求めるときの基本でもあります.

定理 数学の道具:2階の微分方程式と初期条件

未知の関数 q(t) とその導関数の関係を表す式を微分方程式といい,含まれる最も高い導関数の階数をその方程式の階数という.2階の微分方程式 q¨=f(q,q˙,t) の解は,ある時刻 t0 の q(t0) と q˙(t0)(初期条件)を決めると,ただ1つに決まる.自由度 s の系では s 本の2階の方程式があり,解を決めるには 2s 個の数が要る.

ここで「ただ1つに決まる」ことは,f がなめらかな関数なら成り立つことが知られています.証明は大学の数学に任せ,ここでは例で確かめます.

いちばん簡単な例は x¨=−g(g は定数)です.1回積分すると x˙=−gt+C1,もう1回積分すると x=−12gt2+C1t+C2 です.積分定数が2つ出て,t=0 の位置 x0 と速度 v0 を与えると C2=x0,C1=v0 と決まります.2階の方程式で,初期条件がちょうど2つ要るのは,積分を2回するからだと見ることもできます.

もう1つの例は x¨=−ω2x です.第7章で見たように,解は x=Acos⁡ωt+Bsin⁡ωt で,ここにも定数が2つあります.x(0)=x0,x˙(0)=v0 とすると A=x0,B=v0/ω です.

ポイント 数学の道具:少しずつ進める(オイラー法)

q¨=f(q,q˙,t) の解を,時間の刻み Δt ごとに

qn+1=qn+q˙nΔt,q˙n+1=q˙n+f(qn,q˙n,tn)Δt

で求める方法をオイラー法という.Δt を小さくするほど,本当の解に近づく.

オイラー法は,状態から次の状態を作る手続きそのものです.使うのは各時刻の qn と q˙n だけで,加速度は f から計算されます.運動の法則が2階の方程式であることと,「状態から未来が決まる」ことが,ここで同じことになっています.

練習1 次の系の自由度を答えよ.(a) 平面の上を,向きを変えながら滑る細い棒.(b) 軽い棒の両端に小球をつけ,空間に投げたもの.(c) 空間を自由に動く剛体.

練習2 x¨=−ω2x で,x(0)=x0,x˙(0)=v0,x¨(0)=a0 の3つを勝手に決めると,一般には解が無いことを示せ.

練習3 q¨=−2q を,q0=1.0,q˙0=0 から Δt=0.10 のオイラー法で2回進め,q1,q˙1 と q2,q˙2 を求めよ.

答え 練習1:(a) 棒の中点の位置 (x,y) と向き φ で3.(b) 2つの小球の位置で6個の数だが,棒の長さが一定という条件が1つあるので5(重心の位置3つと棒の向きの角2つ).(c) 重心の位置3つと向き3つで6.練習2:方程式から x¨(0)=−ω2x(0) なので,a0=−ω2x0 のときしか解が無い.加速度は初めに自由に選べない.練習3:q1=1.0+0×0.10=1.0,q˙1=0+(−2×1.0)×0.10=−0.20.次に q2=1.0+(−0.20)×0.10=0.98,q˙2=−0.20+(−2×1.0)×0.10=−0.40.本当の解 q=cos⁡2t では q(0.20)≈0.96 で,2回進めただけでも少しずれる.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

次の系の自由度を答え,一般化座標を1組選べ.

  1. 鉛直な平面内で振れる,長さ l1 と l2 の軽い糸でつないだ2つのおもり(二重振り子).

  2. 水平な床の上を滑らかに動ける斜面台と,その斜面の上を滑る小物体.ただし,どちらも紙面内だけで動くとする.

左は糸の角θ₁,θ₂と長さl₁,l₂で表す二重振り子.右は床に沿う台の位置Xと,斜面の上端から下向きに測る位置s.力は描いていない. 左は糸の角θ₁,θ₂と長さl₁,l₂で表す二重振り子.右は床に沿う台の位置Xと,斜面の上端から下向きに測る位置s.力は描いていない.
解答を見る

考え方 平面内の小物体は2つの数で位置が決まり,長さが決まった糸や,面の上に乗っているという条件が1つあるごとに,必要な数が1つ減る.

  1. おもりは2つで,平面内なので数は4つ.糸の長さが一定という条件が2つあるので,自由度は2.一般化座標には,2本の糸が鉛直となす角 θ1,θ2 を選べる.

  2. 台は床の上を水平に動くだけなので,位置 X の1つで決まる.小物体は斜面の上にあるので,斜面に沿った位置 s の1つで決まる.自由度は2で,一般化座標は (X,s).

どちらも,一般化座標の選び方は1通りではない.(2) で小物体の水平位置を使ってもよい.ただし,条件を自動的に満たす座標を選ぶと,後の計算が楽になる.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

x¨=−ω2x について答えよ.

  1. x(0)=x0,x˙(0)=v0 を満たす解を求めよ.

  2. x(0)=x0 だけを決めたとき,解はどれだけあるか.ω=2.0s−1,x0=0.10m として,t=0.50s の x がとりうる値の範囲を答えよ.

ω = 2.0 s⁻¹,x₀ = 0.10 mの例.初期速度だけを変えた5本の曲線は同じ点から出発する.点線はt = 0.50 sを示す. ω = 2.0 s⁻¹,x₀ = 0.10 mの例.初期速度だけを変えた5本の曲線は同じ点から出発する.点線はt = 0.50 sを示す.
解答を見る

考え方 一般の解 x=Acos⁡ωt+Bsin⁡ωt の2つの定数を,条件で決める.条件が1つ足りなければ,定数が1つ自由に残る.

  1. x(0)=A=x0,x˙(0)=Bω=v0 なので

x=x0cos⁡ωt+v0ωsin⁡ωt
  1. A=x0 だけが決まり,B はどんな実数でもよい.解は無数にある.t=0.50s では ωt=1.0rad で,sin⁡1.0≈0.84≠0 なので

x=0.10cos⁡1.0+Bsin⁡1.0≈0.054+0.84B [m]

は,B を変えるとどんな値にもなる.範囲は「すべての実数」で,位置だけでは0.5秒後の位置について何も言えない.

確かめ:sin⁡ωt=0 となる時刻だけは,B によらず位置が決まる.t=π/ω では x=−x0,t=2π/ω では x=x0 で,周期の半分ごとに −x0 と x0 を交互にとる.どの解も,半周期ごとに出発点か,その反対側の点を必ず通るからである.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

x¨=−g(g=9.8ms−2)を,x(0)=0,x˙(0)=2.0ms−1 から,オイラー法で Δt=0.10s として3回進めよ.

  1. t=0.30s の x と x˙ を求め,本当の解と比べよ.

  2. n 回進めたときの xn を式で表し,t=nΔt を一定に保って Δt→0 とすると本当の解に近づくことを示せ.

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考え方 表に xn と x˙n を並べ,「位置は今の速度で,速度は今の加速度で」進める.

n

t [s]

xn [m]

x˙n [ms−1]

0

0

0

2.00

1

0.10

0.200

1.02

2

0.20

0.302

0.04

3

0.30

0.306

−0.94

本当の解は x=2.0t−4.9t2,x˙=2.0−9.8t で,t=0.30s では x=0.159m,x˙=−0.94ms−1.速度は合うが,位置は 0.15m ほど大きすぎる.各段で「段の初めの速度」で位置を進めるので,速度が減っていくこの運動では,位置を進めすぎるからである.

  1. x˙k=v0−gkΔt なので

xn=∑k=0n−1x˙kΔt=v0nΔt−gΔt2n(n−1)2=v0t−12gt(t−Δt)

本当の解 v0t−12gt2 との差は 12gtΔt で,Δt→0 で0になる.確かめ:t=0.30s,Δt=0.10s なら差は 0.147m で,(1) の差と合う.

ポイント ここまでのまとめ

  • 2階の微分方程式の解は,初めの位置と速度(初期条件)でただ1つに決まる.自由度 s なら 2s 個の数が要る.

  • 加速度は方程式から決まるので,初めに自由には選べない.

  • オイラー法は,状態から次の状態を作る手続きで,刻みを小さくするほど本当の解に近づく.

  • 一般化座標は,系の条件を自動的に満たすように選ぶと後が楽になる.

03状態と運動の法則の演習

与えられた法則から未来を求めましょう.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

半径 R の固定球面上の P を,鉛直上向きからの角 θ と方位角 φ で表す.両極を除き,方位角は連続に数える.

  1. 自由度と状態の変数の数を答えよ.

  2. 角だけで状態が分かるか.加速度も独立に指定するか.

固定球面の中心から点 P へ半径を引く.θは鉛直上向きからの角,φは水平面内の x 軸からの角である. 固定球面の中心から点 P へ半径を引く.θは鉛直上向きからの角,φは水平面内の x 軸からの角である.
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考え方 状態には座標と速度が要る.

  1. 自由度は2,状態は (θ,φ,θ˙,φ˙) の4つの数で決まる.

  2. 角だけでは足りず,θ˙,φ˙ も要る.加速度は,運動の法則に状態と時刻を代入して求まり,独立には指定しない.

確かめ:極では方位角で配置を区別できない.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

直線上の運動の法則を x¨=−λx˙(λ>0)とする.初期条件は x(0)=x0,x˙(0)=v0 である.

  1. 位置と速度の時間変化を求めよ.

  2. λ=2.0s−1,x0=0.30m,v0=0.80ms−1 のとき,0.50s 後の状態と,長時間後に近づく位置を求めよ.

直線上の位置 x₀ に粒子を置き,右向きの初期速度 v₀ を示す.その後の位置は示さない. 直線上の位置 x₀ に粒子を置き,右向きの初期速度 v₀ を示す.その後の位置は示さない.
解答を見る

考え方 まず速度を解き,位置を積分する.

  1. v=x˙ とおくと v˙=−λv より v=v0e−λt.積分して

x=x0+v0λ(1−e−λt)

となる.

  1. e−1≈0.367879 なので,位置は約 0.55m,速度は約 0.29ms−1.長時間後の位置は x0+v0/λ=0.70m に近づく.

確かめ:速度を微分すると元の法則を満たす.v0=0 なら位置は変わらない.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

x¨=bt(b=6.0ms−3)を,x(0)=0.10m,x˙(0)=0.20ms−1 から,刻み h=0.10s のオイラー法で3回進める.

  1. 各段の位置と速度を表にせよ.どちらの更新にも更新前の値を使う.

  2. 正確な解と比べ,誤差の向きを説明せよ.異なる時刻に同じ状態なら,加速度も同じか.

時刻を h ずつ進め,各時刻の位置と速度から次の状態を求める.数値結果は入れない. 時刻を h ずつ進め,各時刻の位置と速度から次の状態を求める.数値結果は入れない.
解答を見る

考え方 xn+1=xn+vnh,vn+1=vn+btnh を同時に使う.

  1. 更新式から次の表を得る.途中は丸めない.

時刻(s)

位置(m)

速度(m s⁻¹)

0

0.100

0.200

0.10

0.120

0.200

0.20

0.140

0.260

0.30

0.166

0.380

  1. 積分して x˙=0.20+bt2/2,x=0.10+0.20t+bt3/6.正確な値は 0.187m,0.470ms−1 で,近似値の誤差は −0.021m,−0.090ms−1.増加する加速度と速度を各段の初めの値で代用するため,両方とも小さく見積もる.加速度 bt は,状態が同じでも時刻が異なれば異なる.

確かめ:初めの加速度は0でも,区間全体では0ではない.状態を比較するときは時刻もそろえる.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

平面内の法則を x¨=Ωy˙,y¨=−Ωx˙(Ω>0)とする.初期状態は x=y=0,x˙=u>0,y˙=0 である.

  1. 速度,位置,軌跡を求めよ.

  2. 初めて原点へ戻る時刻に,状態も戻るか.別の初期速度で,位置が同じで状態が違う例を作れ.

xy 平面の原点に粒子を置き,初期速度 u だけを右向きに描く.軌跡は描かない. xy 平面の原点に粒子を置き,初期速度 u だけを右向きに描く.軌跡は描かない.
解答を見る

考え方 速度の方程式をもう1回微分する.

  1. vx=x˙,vy=y˙ とすると v¨x=−Ω2vx,vx(0)=u,v˙x(0)=0.よって vx=ucos⁡Ωt,vy=−usin⁡Ωt.積分して

x=uΩsin⁡Ωt,y=uΩ(cos⁡Ωt−1)

を得る.時刻を消去すると,中心 (0,−u/Ω),半径 u/Ω の円で,時計回りに進む.

  1. 最初の復帰は t=2π/Ω で,速度も (u,0) に戻る.初期速度を (2u,0) に選べば,同じ時刻0に同じ原点にいるが状態は異なり,円の半径も2倍となる.

確かめ:速度の解を微分すると元の法則を満たす.同じ状態から同じ周回を繰り返すことは決定性と矛盾しない.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

x>0 で x¨=0 という法則を考え,座標を q=x2/a(a>0 は長さ)に取り替える.

  1. q¨ を q,q˙ で表せ.x¨=0 でも q¨≠0 になり得るか.

  2. a=1.0m,q(0)=0.16m,q˙(0)=0.24ms−1 のとき,1.0s 後の状態を求めよ.x>0 を外しても,q は配置をただ1通りに指定するか.

x の等間隔の目盛りを,q=x²/a の目盛りへ対応させる.同じ配置でも座標の増え方は異なる. x の等間隔の目盛りを,q=x²/a の目盛りへ対応させる.同じ配置でも座標の増え方は異なる.
解答を見る

考え方 座標を2回微分する.加速度が状態から決まるかを調べる.

  1. q˙=2xx˙/a,q¨=2x˙2/a.x2=aq と x˙=aq˙/(2x) を代入して

q¨=q˙22q

を得る.q˙≠0 なら正となる.加速度の値は座標によるが,状態から決まることは変わらない.

  1. x(0)=aq(0)=0.40m,x˙(0)=aq˙(0)/(2x(0))=0.30ms−1.x=0.40+0.30t から,q(1.0)=0.49m,q˙(1.0)=0.42ms−1.正負両方の x を許すと x と −x が同じ q を与え,配置を区別できない.

確かめ:初めの q¨=0.18ms−2 は,q=(0.40+0.30t)2/a の2回微分と一致する.

ポイント 教える人へ

配置と状態の違い,更新前の値の使用を確認してください.決定性だけで法則の形は決まりません.最後は座標による加速度の違いと,配置を区別する必要性を確かめます.

04停留作用の原理

問い

鏡に光を当てると,入ってくる角と出ていく角が等しくなるように反射します.なぜ「等しい」のでしょうか.光は,鏡の上のどこで反射するかを,何によって選んでいるのでしょうか.そして,物体の運動も,同じような選び方で決まっていると考えることはできないでしょうか.

考えてみる

光源 A から出た光が,鏡で反射して目 B に届くとします.鏡を y=0 の直線とし,A を (0,a),B を (d,b) に置きます.鏡の上の点 P(x,0) で反射するとすると,道のりは

ℓ(x)=x2+a2+(d−x)2+b2

です.光の速さは一定なので,かかる時間は ℓ に比例します.ℓ が最小になる x を探すと,

dℓdx=xx2+a2−d−x(d−x)2+b2=0

です.第1項は入射角 i(鏡に立てた垂線と入ってくる光のなす角)の sin⁡i,第2項は反射角 r の sin⁡r なので,sin⁡i=sin⁡r,つまり i=r です.反射の法則は,「かかる時間が最も短い道を通る」という1つの規則から出てきました.これをフェルマーの原理といいます.

[図:反射点と光の道のり]

初期の反射点はx = 2.a = 2,b = 1,d = 4の配置で,鏡上の橙の点をドラッグするかスライダーを動かすと,候補の光路と道のりの点が変わる.最小の位置では垂線から測った入射角iと反射角rが等しくなる.自動アニメーションは行わない.

ここで2つの見方を比べてみます.反射の法則は,反射する点で何が起こるかを決める「その場の規則」です.フェルマーの原理は,A から B までの道すじ全体に1つの数(かかる時間)を割り当て,その数が特別な値になる道すじを選ぶ「全体の規則」です.同じことが2通りに言えるのです.

前の題材で,運動の法則は「状態から加速度を決める」その場の規則でした.これにも,経路全体に1つの数を割り当てる言い方があるのではないか.これがこの題材の出発点です.

経路と作用

系が時刻 t1 に配置 q(1),時刻 t2 に配置 q(2) にあるとします.その間の動き方 q(t) として考えられるものを,すべて経路と呼びます.実際に起こるかどうかは問いません.問いの光で,A と B を結ぶ折れ線を何本も考えたのと同じです.

経路の1本1本に,1つの数を割り当てます.前の題材で,ある時刻の系について知るべきことは状態 (q,q˙) だけでした.そこで,各時刻の状態と時刻から決まる関数 L(q,q˙,t) を考え,それを経路に沿って足し合わせます.

定義 作用とラグランジアン

系の状態と時刻の関数 L(q,q˙,t) をラグランジアンという.経路 q(t) に沿って

S=∫t1t2L(q(t),q˙(t),t)dt

を計算した値を,その経路の作用という.作用は,経路1本全体に1つの数を与える.

L が q¨ を含まないのは,状態に加速度が入らないからです.L の具体的な形は,まだ決めません.それを決めるのが次の題材です.

停留作用の原理

経路を少しだけ変えて q(t)+δq(t) とします.両端は固定するので,δq(t1)=δq(t2)=0 です.このときの作用の変化のうち,δq について1次の部分を δS と書きます.

法則 停留作用の原理

実際の運動の経路では,両端を固定したどんな小さな変化 δq に対しても δS=0 となる.このとき作用は停留するという.

この原理がなぜ成り立つのかは,この章の最後で,量子力学の見方から短く触れます.ここでは,これを出発点として認め,何が導けるかを見ていきます.

オイラー=ラグランジュ方程式

まず自由度1の系で,δS=0 から q(t) が満たす式を導きます.L を q と q˙ の2変数の関数と見て,1次の近似を使うと

L(q+δq,q˙+δq˙,t)−L(q,q˙,t)≈∂L∂qδq+∂L∂q˙δq˙

です.δq˙=ddtδq なので,第2項を部分積分すると

∫t1t2∂L∂q˙ddtδqdt=[∂L∂q˙δq]t1t2−∫t1t2(ddt∂L∂q˙)δqdt

となり,両端で δq=0 なので最初の項は消えます.したがって

δS=∫t1t2(∂L∂q−ddt∂L∂q˙)δqdt

です.これがどんな δq についても0になるには,かっこの中が各時刻で0でなければなりません(数学の節で示します).自由度 s の系では,qi を1つずつ変えて同じ議論をします.

定理 オイラー=ラグランジュ方程式

停留作用の原理から,実際の運動は

ddt∂L∂q˙i−∂L∂qi=0(i=1,2,…,s)

を満たす.

∂L/∂q˙i は q と q˙ の関数なので,それを時間で微分すると q¨ が出てきます.つまりこの方程式は,ふつう q¨ について解けて,前の題材で求めた q¨i=fi(q,q˙,t) の形になります.経路全体の規則から出た式が,ちゃんとその場の規則になっているのです.

太い青線が実際の経路,細い緑線が少し変えた経路.下段は2本の差δq.両端でδqは0になっている. 太い青線が実際の経路,細い緑線が少し変えた経路.下段は2本の差δq.両端でδqは0になっている.

ラグランジアンの選び方の自由

同じ運動を与えるラグランジアンは1つではありません.これは次の題材で決定的な役割をします.

1つ目は定数倍です.L を cL(c≠0 は定数)に替えても,δS=0 の条件は変わりません.

2つ目は全微分です.配置と時刻の関数 F(q,t) を使って

L′=L+ddtF(q,t)

とすると,

S′=S+F(q(2),t2)−F(q(1),t1)

です.足された部分は両端の値だけで決まり,両端は固定しているので,経路を変えても変わりません.したがって δS′=δS で,L と L′ は同じ運動を与えます.

ポイント ラグランジアンの不定性

ラグランジアンに定数を掛けても,配置と時刻の関数の時間微分 dF(q,t)/dt を足しても,運動は変わらない.

停留は最小とは限らない

この原理は「最小作用の原理」と呼ばれることも多いのですが,実際に求めているのは最小ではなく停留です.短い時間の経路では,実際の経路の作用は最小になります.しかし時間が長いと,経路の変え方によって作用が増えたり減ったりする,鞍点のような停留になることがあります(数学の節の例題で見ます).光でも,曲がった鏡では,かかる時間が最大になる道を通ることがあります.大事なのは,まわりの経路と比べて1次では変わらないことです.

問いに戻る

光が反射の点を選ぶ規則は,「かかる時間が停留する道を通る」という,道すじ全体の規則でした.物体の運動についても,状態の関数 L を経路に沿って積分した作用が停留する,という原理を置くと,そこからオイラー=ラグランジュ方程式が出てきます.これは前の題材で求めた「2階の微分方程式」の形をしていて,その場の運動の法則になっています.残る問題は,L の形です.

ポイント ここまでのまとめ

  • フェルマーの原理:光は,かかる時間が停留する道を通る.反射の法則はそこから出る.

  • 状態と時刻の関数 L(q,q˙,t) がラグランジアン,それを経路に沿って積分した S が作用.

  • 停留作用の原理(出発点として認める):実際の経路では,両端を固定した小さな変化に対して δS=0.

  • そこからオイラー=ラグランジュ方程式 ddt∂L∂q˙i−∂L∂qi=0 が出る.これは2階の微分方程式である.

  • L に定数を掛けても,dF(q,t)/dt を足しても,運動は変わらない.

  • 求めるのは最小ではなく停留.

05変分法

経路という「関数」を少し変えたときに,作用という「数」がどう変わるかを調べる計算を変分法といいます.本体の節で使った2つの道具,部分積分と「どんな変化でも0なら中身が0」を,ここで確かめます.

定理 数学の道具:変分と部分積分

経路 q(t) を q(t)+δq(t)(δq(t1)=δq(t2)=0)に変えたとき,S=∫t1t2L(q,q˙,t)dt の変化の δq について1次の部分 δS を,作用の変分という.

δS=∫t1t2(∂L∂qδq+∂L∂q˙δq˙)dt=∫t1t2(∂L∂q−ddt∂L∂q˙)δqdt

2つ目の等号は部分積分で,両端で δq=0 なので境界の項が消える.

例で確かめます.L=q˙2 とし,q(0)=0,q(1)=1 とします.直線の経路 q=t を q=t+εη(t)(η(0)=η(1)=0)に変えると

S(ε)=∫01(1+εη˙)2dt=1+2ε∫01η˙dt+ε2∫01η˙2dt=1+ε2∫01η˙2dt

です.∫01η˙dt=η(1)−η(0)=0 なので,ε について1次の項が消えています.直線の経路で作用は停留し,しかも ε2 の項が正なので最小です.

定理 数学の道具:変分法の基本補題

連続な関数 g(t) が,両端で0になるどんな連続な関数 η(t) についても ∫t1t2g(t)η(t)dt=0 を満たすなら,区間のすべての t で g(t)=0 である.

証明 η(t)=(t−t1)(t2−t)g(t) と選ぶ.これは両端で0になる.すると ∫t1t2(t−t1)(t2−t)g(t)2dt=0 である.区間の内側で (t−t1)(t2−t)>0,g2≥0 なので,被積分関数は0以上で,積分が0になるには区間の内側で g=0 でなければならない.g は連続なので,両端でも g=0.

練習1 L=12q˙2−12q2 のオイラー=ラグランジュ方程式を書け.

練習2 L=12q˙2+qq˙ のオイラー=ラグランジュ方程式を書き,L=12q˙2 と同じになることを確かめよ.その理由を,ラグランジアンの不定性で説明せよ.

答え 練習1:∂L/∂q˙=q˙,∂L/∂q=−q なので q¨+q=0.練習2:∂L/∂q˙=q˙+q,その時間微分は q¨+q˙.∂L/∂q=q˙ なので,方程式は q¨+q˙−q˙=q¨=0 で,L=12q˙2 と同じ.足した qq˙ は ddt(12q2) という全微分だからである.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

平面の上の2点 (0,0) と (1,h) を結ぶ曲線 y(x) の長さは

ℓ=∫011+y′2dx(y′=dydx)

である.x を「時刻」,y を「座標」と見て,長さが停留する曲線を求めよ.

両端(0,0),(1,h)を固定し,直線と少し曲げた曲線を描く.式や長さの値は示していない. 両端(0,0),(1,h)を固定し,直線と少し曲げた曲線を描く.式や長さの値は示していない.
解答を見る

考え方 被積分関数 1+y′2 をラグランジアン,x を時刻と見て,オイラー=ラグランジュ方程式を立てる.

∂L/∂y=0,∂L/∂y′=y′1+y′2 なので,方程式は

ddx(y′1+y′2)=0

で,y′1+y′2 は一定.これは y′ が一定ということなので,y は1次関数.両端を通るので y=hx,つまり2点を結ぶ直線である.

確かめ:「2点を結ぶ最短の線は直線」という,よく知っている結果に合う.変分法は,時刻の代わりに位置を変数にした問題にも使える.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

空気中(光の速さ c1)の点 A(0,a) から,水中(光の速さ c2)の点 B(d,−b) へ光が進む.水面は y=0 で,a,b>0 とする.水面の点 (x,0) を通るとしてかかる時間を x の関数で書き,それが停留する条件から,入射角 θ1 と屈折角 θ2(どちらも水面の垂線から測る)の関係を求めよ.

空気中のAから水中のBへ,水面上のPを通る候補の折れ線.θ₁,θ₂はいずれも水面の垂線から測る. 空気中のAから水中のBへ,水面上のPを通る候補の折れ線.θ₁,θ₂はいずれも水面の垂線から測る.
解答を見る

考え方 道のりを速さで割って時間を出し,x で微分して0とおく.

T(x)=x2+a2c1+(d−x)2+b2c2
dTdx=1c1xx2+a2−1c2d−x(d−x)2+b2=sin⁡θ1c1−sin⁡θ2c2=0

したがって

sin⁡θ1sin⁡θ2=c1c2

確かめ:c1=c2 なら θ1=θ2 でまっすぐ進む.水中のほうが遅い(c2<c1)と θ2<θ1 で,光は垂線のほうへ曲がる.これは光の屈折の法則(スネルの法則)である.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

L=12q˙2−12ω2q2(ω>0 は定数)で,両端を q(0)=0,q(τ)=0 とする.

  1. q(t)=0 がオイラー=ラグランジュ方程式を満たすことを確かめよ.

  2. 経路を q=εsin⁡πtτ に変えたときの作用 S(ε) を求めよ.

  3. τ>π/ω のとき,q=0 の作用は最小でないことを示せ.それでも q=0 が実際の運動である理由を述べよ.

解答を見る

考え方 具体的な経路で作用を計算し,ε の関数として調べる.

  1. 方程式は q¨+ω2q=0 で,q=0 はこれを満たし,両端の条件も満たす.

  2. q˙=επτcos⁡πtτ.∫0τcos2⁡πtτdt=∫0τsin2⁡πtτdt=τ2 を使うと

S(ε)=12⋅ε2π2τ2⋅τ2−12ω2ε2⋅τ2=ε2τ4(π2τ2−ω2)
  1. τ>π/ω なら π2/τ2<ω2 で,ε≠0 のとき S(ε)<0=S(0).q=0 より作用の小さい経路があるので,最小ではない.一方,S(ε) には ε の1次の項が無いので,q=0 で作用は停留している.原理が求めるのは停留なので,q=0 はやはり実際の運動である.

確かめ:τ<π/ω なら S(ε)>0 で最小になる.短い時間では最小,長い時間では最小とは限らない,という本体の節の説明に合う.τ=π/ω は振動の周期のちょうど半分で,このとき q=εsin⁡ωt はすべて実際の運動になり,S は ε によらず0になる.

ポイント ここまでのまとめ

  • 作用の変分 δS は,部分積分で ∫(∂L/∂q−ddt∂L/∂q˙)δqdt の形にまとまる.

  • 基本補題:両端で0のどんな η でも ∫gηdt=0 なら g=0.これでオイラー=ラグランジュ方程式が出る.

  • 全微分を足したラグランジアンは,同じ方程式を与える.

  • 変分法は,時刻の代わりに位置を変数にした問題(最短の線,光の道)にも使える.

  • 停留は最小とは限らない.調和振動では,半周期より長い時間で最小でなくなる.

06停留作用の原理の演習

与えられた関数 L から経路を選びます.両端の固定と,任意の変化に対する停留を確かめましょう.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

L=Ae2λtq˙2/2 とする.q は長さ,A>0 は質量,λ>0 は時間の逆数の次元を持つ.

  1. オイラー=ラグランジュ方程式を求めよ.

  2. q˙>0 のとき q¨ の符号はどうなるか.L が q を含まなければ,速度は一定と言えるか.

解答を見る

考え方 時間微分では,時刻を含む係数も微分する.

  1. ∂L/∂q=0,∂L/∂q˙=Ae2λtq˙ より

Ae2λt(q¨+2λq˙)=0

なので,q¨=−2λq˙.

  1. q˙>0 なら q¨<0.一定なのは Ae2λtq˙ で,速度そのものではない.

確かめ:q˙=Ce−2λt(C は定数)は方程式を満たす.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

L=Aq˙2/2+Cq とする.q は長さ,A>0 は質量,C はエネルギーを長さで割った次元を持つ定数である.q(0)=0,q(T)=d(T>0)を固定し,

qε=dtT+εtT(1−tT)

を考える.ε は長さである.

  1. S(ε) と,停留する ε を求めよ.

  2. 得た経路がオイラー=ラグランジュ方程式を満たすか確かめよ.

[図:両端を固定した候補の経路]

両端を固定した3本の候補を描く.初期状態では青い候補は中ほどが少し上へ膨らむ.スライダーは青い候補の膨らみだけを変え,停留経路や作用の値は表示しない.

解答を見る

考え方 候補を作用に代入して積分し,停留値を微分で求める.

  1. q˙ε=d/T+(ε/T)(1−2t/T).交差項の積分は0で,∫0T(1−2t/T)2dt=T/3 だから

S=Ad22T+Aε26T+CdT2+CεT6

となる.dS/dε=Aε/(3T)+CT/6=0 より ε∗=−CT2/(2A).

  1. 停留経路は q∗=(d/T−CT/(2A))t+Ct2/(2A).方程式は Aq¨−C=0 で,この経路は両端と方程式を満たす.

確かめ:2次の係数が正なので,この族では最小になる.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

L0=Aq˙2/2 に F=Btq2 の全微分を足し,L1=L0+dF/dt とする.A>0,B は定数で,Bq2 はエネルギーである.両端は q(0)=a,q(T)=b と固定する.

  1. L1 の運動方程式を求めよ.

  2. 同じ経路での作用の差と,停留経路が変わらない理由を答えよ.

3本の候補の両端は (0,a),(T,b) で共通である.どれを選ぶかの答えは示さない. 3本の候補の両端は (0,a),(T,b) で共通である.どれを選ぶかの答えは示さない.
解答を見る

考え方 全微分を積分すると境界項になる.

  1. L1=Aq˙2/2+Bq2+2Btqq˙ より,

∂L1∂q˙=Aq˙+2Btq,∂L1∂q=2Bq+2Btq˙

前者の時間微分から後者を引くと Aq¨=0.L0 と同じ方程式になる.

  1. S1−S0=F(b,T)−F(a,0)=BTb2.両端を固定した経路の変化によらないので δS1=δS0.

確かめ:a が差に出ないのは F(a,0)=0 だからである.作用の数値が同じになるわけではない.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

L=Aq˙2/2(A>0),q(0)=q(T)=0 とし,候補 qa=asin⁡(2πt/T)(a≠0)を考える.

  1. δq=εsin⁡(πt/T) に変化を限って作用を計算すると,ε の1次の項はあるか.

  2. δq=εsin⁡(2πt/T) に替えて調べ,qa が停留作用の原理を満たすかを答えよ.

左に正負の山を持つ候補 qₐ,右に最初に試す正の山の変化 δq を別々に示す.両方とも時刻0と T で0になる. 左に正負の山を持つ候補 qₐ,右に最初に試す正の山の変化 δq を別々に示す.両方とも時刻0と T で0になる.
解答を見る

考え方 すべての変化を検査する必要がある.

  1. ∫0Tcos⁡(2πt/T)cos⁡(πt/T)dt=0 なので交差項が消える.各余弦の2乗の積分は T/2 で,

S[qa+δq]=Aπ2a2T+Aπ2ε24T

となる.1次の項はなく,最小に見える.

  1. 経路の振幅が a+ε になるので,作用は Aπ2(a+ε)2/T.1次の係数は 2Aπ2a/T≠0 であり,qa は停留しない.

確かめ:方程式は q¨=0 で,両端が0なら解は q=0 だけ.qa は方程式も満たさない.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

x>0 に対して L=Ax˙2/2(A>0)とする.長さ a>0 を使い,x=q3/a2,q>0 に座標を替える.両端は q(0)=a,q(T)=2a である.

  1. L を q,q˙ で書き,運動方程式を求めよ.

  2. 両端を満たす停留経路を求めよ.

  3. x で書いた任意の変化 δx(0)=δx(T)=0 を使い,作用が最小でもあることを示せ.

q=a と2a の端点を,x=q³/a² により x=a と8a の端点へ対応させる.途中の時間変化は示さない. q=a と2a の端点を,x=q³/a² により x=a と8a の端点へ対応させる.途中の時間変化は示さない.
解答を見る

考え方 座標変換を微分し,元の L に代入する.

  1. x˙=3q2q˙/a2 より L=9Aq4q˙2/(2a4).∂L/∂q˙=9Aq4q˙/a4,∂L/∂q=18Aq3q˙2/a4 なので,方程式は q4q¨+2q3q˙2=0.q>0 より d(q2q˙)/dt=0 と書ける.

  2. q2q˙ は一定で,q3 は時刻の1次関数.両端から

q=a(1+7t/T)1/3,x∗=a+7at/T

を得る.

  1. x=x∗+δx を代入すると

S[x]−S[x∗]=7AaT∫0Tδx˙dt+A2∫0T(δx˙)2dt=A2∫0T(δx˙)2dt≥0

である.境界項は0.最小で,等号は同じ経路に限る.

確かめ:得た q を戻すと x¨=0.x では等速となる.

ポイント 教える人へ

偏微分と時間微分を区別し,全微分を境界項と対応させます.演習4で「どんな変化でも」の役割を問い,候補内の停留だけで結論していないか確認してください.

07空間と時間の対称性

問い

何もない宇宙空間を,ひとつの小さな物体が飛んでいます.ほかの物体からは十分に遠く,何の影響も受けません.この物体のラグランジアン L は,どんな形をしているでしょうか.速さ v の関数だとして,v に比例するのか,v2 なのか,v4 なのか.前の章で 12mv2 という式に出会った人は,なぜ2乗なのかを考えたことがあるでしょうか.

考えてみる

物体を1つの点とみなし,その位置を r,速度を v=r˙ とします.前の題材から,ラグランジアンは状態と時刻の関数 L(r,v,t) です.この関数の形を,実験に頼らずに絞り込みたいのです.

手がかりは,空間と時間について私たちが経験から知っていることです.実験装置を隣の部屋へ運んでも,明日やり直しても,装置の向きを変えても,同じ実験からは同じ結果が出ます.空間にも時間にも「特別な場所」「特別な時刻」「特別な向き」はない,ということです.これを式に直すと,L が強く制限されます.

慣性系

ただし,どんな座標系でもそう見えるわけではありません.急に曲がる電車の中では,床に置いたボールがひとりでに転がり出し,特別な向きがあるように見えます.そこで,次のような座標系を考えます.

定義 慣性系

空間が一様(どの場所も同じ)で等方(どの向きも同じ)であり,時間が一様(どの時刻も同じ)に見える座標系を慣性系という.

慣性系が存在することを,経験の事実として認めます.さらに,もう1つの経験の事実があります.一定の速度で揺れずに進む船の中では,岸の上とまったく同じように実験ができ,船が動いていることを中から知る方法はありません.

法則 ガリレイの相対性原理(経験の事実)

慣性系に対して一定の速度 V で動く座標系も慣性系で,運動の法則はすべての慣性系で同じ形をしている.2つの慣性系の間の座標は

r′=r−Vt,t′=t

で結ばれる(ガリレイ変換).

ガリレイ変換の t′=t は,「時間はどの慣性系でも同じように進む」という仮定です.当たり前に見えますが,この章の後半で,この仮定を見直すことになります.

同じ装置を移動する,回す,翌日に使う,の3つを並べる.装置に対する測定のグラフは各こまで同じ形になっている. 同じ装置を移動する,回す,翌日に使う,の3つを並べる.装置に対する測定のグラフは各こまで同じ形になっている.

自由な粒子のラグランジアン

慣性系で,自由な粒子のラグランジアン L(r,v,t) を絞り込みます.

一様性と等方性 空間が一様なら,どこにいても同じなので,L は位置 r によりません.時間が一様なら,時刻 t にもよりません.残るのは速度 v だけです.さらに空間が等方なら,速度の向きにもよらないので,L は速さ v=|v| だけの関数,言い換えると v2 の関数 L(v2) です.

慣性の法則 ここで,もうオイラー=ラグランジュ方程式が使えます.L は r によらないので,x 成分の方程式は

ddt∂L∂vx=0

で,∂L/∂vx が一定です.y,z 成分も同じです.∂L/∂vx=2L′(v2)vx なので,これは v が一定ということです(数学の節で確かめます).

定理 慣性の法則

慣性系では,自由な粒子は一定の速度で動く.

第4章で法則として受け入れた慣性の法則が,空間と時間の一様性と等方性から,定理として出てきました.しかし,まだ L(v2) の形は分かっていません.どんな関数でも慣性の法則は出てくるからです.

相対性原理 形を決めるのは,ガリレイの相対性原理です.慣性系 K と,K に対して小さな速度 ε で動く慣性系 K' を考えます.同じ粒子の速度は v=v′+ε です.運動の法則が両方で同じ形なら,K でのラグランジアン L(v2) を K' の速度で書き直したものは,K' のラグランジアン L(v′2) と,同じ運動を与えなければなりません.前の題材から,同じ運動を与えるのは,全微分だけ違う場合です(定数倍の違いは,ε→0 で同じになるので1に限られます).

ε について1次まで書くと,v2=v′2+2v′⋅ε+ε2 なので

L(v2)≈L(v′2)+2L′(v′2)v′⋅ε

です.増えた 2L′(v′2)v′⋅ε が,位置と時刻の関数 F(r′,t) の全微分でなければなりません.ところが全微分

dFdt=∂F∂x′vx′+∂F∂y′vy′+∂F∂z′vz′+∂F∂t

は,速度について1次式です.増えた項が速度について1次になるのは,L′(v′2) が v′ によらない定数のときだけです.したがって L は v2 に比例します.

定理 自由な粒子のラグランジアン

慣性系で,自由な粒子のラグランジアンは

L=12mv2

である.m は粒子ごとに決まる定数で,粒子の質量という.

12 は,後の式を見やすくするための約束です.大事なのは,v2 に比例する形しか許されないことです.逆に L=12mv2 なら,有限の速度 V のガリレイ変換でも

12m(v′+V)2=12mv′2+ddt(mr′⋅V+12mV2t)

と全微分だけの違いで済み,確かに相対性原理を満たします.

質量

質量 m は,ここで初めて現れました.力も重さも使わずに,対称性から出てきた「粒子ごとに決まる定数」です.

m は正です.前の題材で見たように,短い時間では実際の経路の作用は最小になります.もし m<0 なら,両端を固定したまま経路を細かく速く揺らすほど作用がいくらでも小さくなり,どんなに短い時間でも最小の経路がなくなってしまいます.

離れていて影響し合わない2つの粒子 A,B を1つの系と見ると,それぞれの運動は別々に決まるので,系のラグランジアンは L=LA+LB と和にできます.ところが,ラグランジアン全体に定数を掛けても運動は変わらないので,質量そのものの大きさには意味がなく,意味があるのは質量の比だけです.質量の単位(たとえば kg)は,基準の物体を1つ決めることで定まります.比をどう測るかは,粒子どうしが影響し合う次の題材で分かります.

問いに戻る

自由な粒子のラグランジアンは 12mv2 に限られます.空間と時間の一様性と等方性から L が v2 だけの関数になり,ガリレイの相対性原理から v2 に比例する形だけが残りました.もし L が v4 に比例していたら,速度を ε だけずらしたときに増える項が 4v′2v′⋅ε のように速度の3次になり,全微分では書けません.そのような世界では,動いている船の中と岸の上とで,運動の法則が違ってしまいます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 慣性系:空間が一様・等方で,時間が一様に見える座標系.その存在は経験の事実.

  • ガリレイの相対性原理(経験の事実):一定の速度で動く座標系も慣性系で,法則は同じ形.座標は r′=r−Vt,t′=t で結ばれる.

  • 一様性と等方性から,自由な粒子の L は v2 だけの関数になり,慣性の法則が定理として出る.

  • 相対性原理から L=12mv2 に決まる.質量 m は粒子ごとの正の定数として現れる.

  • 意味があるのは質量の比で,単位は基準の物体で決める.

08速度の関数の微分と座標の取り替え

本体の節では,v2 の関数を速度の成分で微分し,全微分が速度について1次式であることを使いました.ここでその計算を確かめ,ラグランジアンを別の座標で書き直す練習をします.

定理 数学の道具:v2 の関数の微分

v2=vx2+vy2+vz2 の関数 L(v2) を vx で偏微分すると,合成関数の微分により

∂L∂vx=L′(v2)∂(v2)∂vx=2L′(v2)vx

である.3つの成分をまとめて ∂L/∂v=2L′(v2)v と書く.

本体の節で,∂L/∂v が一定のベクトル c になることを見ました.2L′(v2)v=c から,まず v の向きは c の向きに固定されます.大きさは 2|L′(v2)|v=|c| を満たし,ふつうこの式は v を1つに決めるので,v も一定です.こうして速度ベクトルが一定,つまり等速直線運動になります.

定理 数学の道具:全微分は速度について1次

位置と時刻の関数 F(r,t) を,運動に沿って時間で微分すると

dFdt=∂F∂xx˙+∂F∂yy˙+∂F∂zz˙+∂F∂t

で,速度の成分について1次式(定数項を含む)になる.したがって,速度について2次以上の項を含む関数は,このような全微分では書けない.

練習1 L=12mv2 で,速度を v=v′+V(V は一定)と書き直したときに増える項 mv′⋅V+12mV2 が,F=mr′⋅V+12mV2t の全微分であることを確かめよ.

練習2 L=av4(a は定数)で同じ書き直しをし,V について1次の項を求めよ.それが全微分で書けない理由を述べよ.

答え 練習1:d(r′⋅V)/dt=v′⋅V なので,dF/dt=mv′⋅V+12mV2.練習2:v4=(v2)2 で v2=v′2+2v′⋅V+V2 なので,V について1次の項は 4av′2v′⋅V.これは速度について3次なので,速度について1次の全微分では書けない.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

平面上の自由な粒子を,極座標 (r,θ) で表す.

  1. x=rcos⁡θ,y=rsin⁡θ から,v2=r˙2+r2θ˙2 を示し,ラグランジアン L を r,θ,r˙,θ˙ で書け.

  2. r と θ についてのオイラー=ラグランジュ方程式を書け.

  3. 直線 y=b の上を一定の速さ u で進む運動が,(2) の方程式を満たすことを,r2θ˙ に注目して確かめよ.

粒子Pは直線y = bの上を速さuで右へ進む.rはOPの長さ,θはx軸から反時計回りに測った角. 粒子Pは直線y = bの上を速さuで右へ進む.rはOPの長さ,θはx軸から反時計回りに測った角.
解答を見る

考え方 一般化座標は角度でもよい.L を新しい座標で書けば,あとはオイラー=ラグランジュ方程式を機械的に立てるだけである.

  1. x˙=r˙cos⁡θ−rθ˙sin⁡θ,y˙=r˙sin⁡θ+rθ˙cos⁡θ.2乗して足すと交差項が打ち消し合い,v2=r˙2+r2θ˙2.したがって

L=12m(r˙2+r2θ˙2)
  1. r について:∂L/∂r˙=mr˙,∂L/∂r=mrθ˙2 より mr¨−mrθ˙2=0.θ について:∂L/∂θ˙=mr2θ˙,∂L/∂θ=0 より

ddt(mr2θ˙)=0
  1. x=ut,y=b とすると,tan⁡θ=b/(ut).r2θ˙=xy˙−yx˙=ut⋅0−b⋅u=−bu で一定なので,θ の方程式を満たす.r の方程式は,r2=u2t2+b2 から rr˙=u2t,さらに微分して r˙2+rr¨=u2.r˙2+r2θ˙2=v2=u2 と比べると rr¨=r2θ˙2,つまり r¨=rθ˙2 で,これも満たす.

確かめ:極座標では r¨≠0 でも,それは向きが回ることの効果で,運動は直線のままである.r の方程式の rθ˙2 の項は,第10章の極座標の加速度に出てきた項と同じものである.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 2.0kg の自由な粒子が,慣性系 K' で x′ 軸に沿って 2.0s の間に 4.0m 進む.K' は,別の慣性系 K に対して x 軸の正の向きに 3.0ms−1 で動いている.

  1. この運動の作用を K' と K で求め,差を答えよ.

  2. K' で同じ両端を結ぶ別の経路を考えると,K での作用との差はどうなるか.それが「両方の系で同じ経路が選ばれる」ことを意味する理由を述べよ.

解答を見る

考え方 作用は 12mv2 の時間積分.等速なら 12mv2×(時間).経路を変えたときは,練習1の全微分の形を使う.

  1. K' での速さは 2.0ms−1 なので,S′=12×2.0×2.02×2.0=8.0Js.K での速さは 5.0ms−1 なので,S=12×2.0×5.02×2.0=50Js.差は 42Js.

  2. 練習1から,K の作用は K' の作用に

[mx′V+12mV2t]t1t2=mVΔx′+12mV2Δt=2.0×3.0×4.0+12×2.0×3.02×2.0=42Js

を足したものである.これは両端の値だけで決まるので,両端を同じにした経路なら,どの経路でも差は同じ 42Js.K' で作用が停留する経路では,K でも停留するので,両方で同じ経路が実際の運動として選ばれる.

確かめ:(1) の差は (2) の式の値と一致する.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

慣性系 K の xy 平面で,自由な粒子のラグランジアンは L=12m(x˙2+y˙2) である.K に対して原点のまわりに一定の角速度 ω で反時計回りに回る座標系 K' の座標 (x′,y′) を

x=x′cos⁡ωt−y′sin⁡ωt,y=x′sin⁡ωt+y′cos⁡ωt

で定める.

  1. L を x′,y′,x˙′,y˙′ で書け.

  2. x′ と y′ についてのオイラー=ラグランジュ方程式を求めよ.

  3. K' が慣性系でないことを,ラグランジアンの形と運動の両方から説明せよ.

[図:同じ運動を回る座標系から見る]

左ではx = 0.50 + 0.40t,y = 0.60の等速直線運動.右は原点が共通で反時計回りにω = 0.80 rad s⁻¹で回る軸から見た同じ粒子.薄い線は表示する全経路,青い線と点は経過した部分と現在の状態.時刻を操作でき,動きを減らす設定では自動再生しない.

解答を見る

考え方 座標の関係を時間で微分して速度を書き直し,L に代入する.あとは機械的にオイラー=ラグランジュ方程式を立てる.

  1. 微分してまとめると,x˙2+y˙2=(x˙′−ωy′)2+(y˙′+ωx′)2 となる(cos⁡ωt,sin⁡ωt を含む項は2乗の和で消える).したがって

L=12m[(x˙′−ωy′)2+(y˙′+ωx′)2]
  1. x′ について:∂L/∂x˙′=m(x˙′−ωy′) の時間微分は m(x¨′−ωy˙′),∂L/∂x′=mω(y˙′+ωx′).よって

x¨′=2ωy˙′+ω2x′

y′ について:∂L/∂y˙′=m(y˙′+ωx′) の時間微分は m(y¨′+ωx˙′),∂L/∂y′=−mω(x˙′−ωy′).よって

y¨′=−2ωx˙′+ω2y′
  1. ラグランジアンが 12m(x˙′2+y˙′2) の形ではなく,位置 x′,y′ を含む.空間が一様に見えていない(原点からの距離で L が変わる)ので,K' は慣性系ではない.運動でも,自由な粒子なのに加速度が0でない.ω2x′,ω2y′ の項は原点から外向き,2ωy˙′,−2ωx˙′ の項は速度に垂直な向きの加速度で,第11章の遠心力とコリオリ力にあたる.

確かめ:ω=0 なら K' は K と同じで,x¨′=y¨′=0 に戻る.

ポイント ここまでのまとめ

  • v2 の関数の微分は ∂L/∂v=2L′(v2)v.これが一定なら速度ベクトルが一定.

  • 位置と時刻の関数の全微分は,速度について1次式.だから v4 のような項は全微分では書けない.

  • ラグランジアンは,好きな一般化座標で書き直してから方程式を立ててよい.極座標では L=12m(r˙2+r2θ˙2).

  • 慣性系でない座標系では,自由な粒子でも L が位置を含み,遠心力やコリオリ力にあたる項が方程式に出る.

09空間と時間の対称性の演習

自由な粒子の L を異なる座標で書き,停留経路を調べましょう.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

慣性系の平面内で,質量 0.40kg の自由な粒子の速度は (vx,vy)=(3.0,−4.0)ms−1 である.軸を反時計回りに90度回して x′=y,y′=−x とする.

  1. 新しい速度成分と,両座標での L の値を求めよ.

  2. L が変わらないことは,どの対称性に対応するか.

x 軸は右向き,y 軸は上向き.新しい x′ 軸は上向き,y′ 軸は左向きである.同じ速度ベクトルを右下へ描く. x 軸は右向き,y 軸は上向き.新しい x′ 軸は上向き,y′ 軸は左向きである.同じ速度ベクトルを右下へ描く.
解答を見る

考え方 変換を微分し,速度の2乗の和を比べる.

  1. (vx′,vy′)=(−4.0,−3.0)ms−1.両方とも速さの2乗は25で,L=0.40×25/2=5.0J となる.

  2. 空間の等方性に対応する.速さは変わらない.

確かめ:逆変換で元の速度に戻る.軸の回転は加速ではない.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

慣性系の自由な粒子の L=mx˙2/2 を,原点が X(t)=bsin⁡Ωt と動く,軸の向きが同じ座標系で書く.q=x−X(t),b,Ω>0 とする.

  1. L を q,q˙,t で書き,運動方程式を求めよ.

  2. x(0)=x0,x˙(0)=u を満たす q(t) を求め,新しい系が慣性系か判断せよ.

固定原点 O から動く原点 O′ までが X(t),O′ から P までが q である.O から P までの座標 x も示す. 固定原点 O から動く原点 O′ までが X(t),O′ から P までが q である.O から P までの座標 x も示す.
解答を見る

考え方 一定でない原点の速度も加える.

  1. x˙=q˙+bΩcos⁡Ωt より

L=m2(q˙+bΩcos⁡Ωt)2

である.∂L/∂q=0,∂L/∂q˙=m(q˙+bΩcos⁡Ωt) から,q¨=bΩ2sin⁡Ωt.

  1. 慣性系では x=x0+ut なので q=x0+ut−bsin⁡Ωt.等速に見えず,慣性系ではない.交差項は

mbΩq˙cos⁡Ωt=ddt(mbΩqcos⁡Ωt)+mbΩ2qsin⁡Ωt

となり,全微分を除いても位置に依存する項が残る.時刻だけの項は全微分として除ける.

確かめ:解の2回微分は,原点の加速度 X¨ と逆符号である.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

平面内の自由な粒子について,

L0=m2(x˙2+y˙2),L1=L0+αx˙+βy˙

を比較する.m>0,α,β は定数で,最後の2項もエネルギーの次元を持つ.

  1. 同じ運動を与えることを示せ.

  2. x′=y,y′=−x と軸を回し,L1 を書き直せ.線形の項があっても等方性を失わない理由を説明せよ.

解答を見る

考え方 式の見た目と,選ばれる運動を区別する.

  1. 増えた項は d(αx+βy)/dt.方程式も d(mx˙+α)/dt=0,d(my˙+β)/dt=0 から x¨=y¨=0 で,L0 と同じになる.

  2. 書き直すと m(x˙′2+y˙′2)/2+βx˙′−αy˙′.同じ形の L1(x′,y′,x˙′,y˙′) との差は

(β−α)x˙′−(α+β)y˙′=ddt[(β−α)x′−(α+β)y′]

である.作用の差は両端だけで決まり,同じ等速運動を選ぶ.

確かめ:α=β=0 なら式そのものも回転で不変.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

自由粒子の候補 L=(Ax˙2+By˙2)/2 を考える.A,B>0 は質量の次元を持つ.

  1. 運動方程式を求め,x=x′+Vxt,y=y′+Vyt による変化が全微分になることを示せ.

  2. 軸を90度回した場合も,同じ形の候補との差が全微分になるには,どの条件が要るか.等速運動になることだけでその条件は決まるか.

同じ速さ u の運動を x 方向と y 方向に分けて描く.各方向の候補の係数 A,B を添える.作用の比較結果は示さない. 同じ速さ u の運動を x 方向と y 方向に分けて描く.各方向の候補の係数 A,B を添える.作用の比較結果は示さない.
解答を見る

考え方 各対称性を分けて調べる.

  1. 方程式は Ax¨=By¨=0 で,等速になる.変換による差は

AVxx˙′+BVyy˙′+12(AVx2+BVy2)=ddt[AVxx′+BVyy′+12(AVx2+BVy2)t]

で,全微分となる.これだけなら A≠B も許される.

  1. 回転後は (Ay˙′2+Bx˙′2)/2.同じ形の候補との差は (A−B)(y˙′2−x˙′2)/2.一方,dF(x′,y′,t)/dt=Fx′x˙′+Fy′y˙′+Ft は速度について1次式なので,2次の項が消える A=B が必要である.このとき L=mv2/2 になる.等速運動だけでは係数の等しさは決まらない.

確かめ:同じ速さ u で時間 T 進む2つの作用は Au2T/2,Bu2T/2.等速でも,作用に向きの違いが残りうる.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

影響し合わない,十分離れた2粒子に対して候補

Lκ=m2(x˙12+x˙22)+κ2(x˙1−x˙2)2(m>0, κ≥0)

を考える.m,κ は質量の次元を持つ.

  1. 両粒子が等速になることを示せ.

  2. 同じ速度でガリレイ変換すると,κ の項は変わるか.

  3. 「影響し合わない系の L は各粒子の L の和」という条件も課すと,κ はどうなるか.この項を全微分として除けるか.

十分離れた2粒子を x₁,x₂ に置く.初期速度はそれぞれ独立に選べる.粒子間の相互作用を示す線は付けない. 十分離れた2粒子を x₁,x₂ に置く.初期速度はそれぞれ独立に選べる.粒子間の相互作用を示す線は付けない.
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考え方 方程式の和と差,加法性を調べる.

  1. 方程式は

(m+κ)x¨1−κx¨2=0,(m+κ)x¨2−κx¨1=0

である.和は m(x¨1+x¨2)=0,差は (m+2κ)(x¨1−x¨2)=0 なので,両加速度は0.

  1. x˙a=x˙a′+V では速度差も κ の項も変わらない.残りの変化は d[mV(x1′+x2′)+mV2t]/dt である.

  2. 展開すると −κx˙1x˙2 があり,各粒子だけの関数の和には分けられない.加法性から κ=0 を選ぶ.交差項は速度について2次で,全微分としても除けない.

確かめ:κ=0 で独立な2粒子の和に戻る.

ポイント 教える人へ

変換,回転,加速する原点を区別し,全微分の自由も確認してください.★3では,相対性,等方性,加法性がそれぞれどの係数を制限したかを問います.

10相互作用と力

問い

2つの物体が,ばねでつながれたり,引き合ったりして影響し合うとき,ラグランジアンはどう変わるでしょうか.そして,第4章で法則として受け入れた「作用と反作用は等しい」は,なぜ成り立つのでしょうか.

考えてみる

前の題材で,影響し合わない粒子が集まった系のラグランジアンは,粒子ごとの和

L=∑a12mava2

になりました.a は粒子の番号です.粒子どうしが影響し合うなら,これに何かを足す必要があります.何を足せばよいかは,対称性だけでは決まりません.相互作用の形は自然が決めることで,実験で調べるしかないからです.ただし,足す項にどんな性質があるべきかは,対称性から言えます.

閉じた系のラグランジアン

外からの影響を受けない粒子の集まりを閉じた系といいます.閉じた系の相互作用を,各時刻の粒子の位置だけで決まる関数で表すことにします.

法則 閉じた系のラグランジアン

閉じた系のラグランジアンを

L=∑a12mava2−U(r1,r2,…)

とする.U を系の位置エネルギーという.

U が速度を含まないのは,この章で扱う相互作用(ばね,万有引力,電気の力など)がそうなっているからです.磁気の力のように速度による相互作用もありますが,ここでは扱いません.U に負号を付けるのは約束で,次の題材で意味が分かります.

U は各時刻の位置だけで決まっています.1つの粒子を動かすと,その影響は同じ時刻に他の粒子に伝わることになります.時間がどの慣性系でも同じように進むガリレイの世界では,これは矛盾なく成り立ちます.光の速さが有限であることを取り入れると,この点を見直すことになります(この章の後半).

運動方程式と力

閉じた系のラグランジアンで,粒子 a の x 座標についてオイラー=ラグランジュ方程式を立てます.∂L/∂x˙a=max˙a,∂L/∂xa=−∂U/∂xa なので,

max¨a=−∂U∂xa

です.y,z も同じなので,ベクトルでまとめて書きます.

定理 運動方程式

閉じた系の各粒子は

mar¨a=−∂U∂ra

にしたがって動く.右辺を,粒子 a に働く力 Fa と呼ぶ.

ここで ∂U/∂ra は,U を xa,ya,za で偏微分した3つを成分とするベクトル(勾配)です.こうして第4章の運動方程式 ma=F が出てきました.ただし,この章では,力は運動を決める原因として先にあるのではなく,位置エネルギー U から定義される量です.

作用と反作用

閉じた系の外には何もないので,空間が一様なら,系全体をそのまま ε だけ平行移動しても何も変わらないはずです.つまり

U(r1+ε,r2+ε,…)=U(r1,r2,…)

です.左辺を ε について1次まで書くと,増える分は ε⋅∑a∂U/∂ra で,これがどんな ε でも0なので

∑a∂U∂ra=0,つまり∑aFa=0

です.閉じた系の力をすべて足すと0になります.粒子が2つなら F1=−F2 で,これが作用反作用の法則です.

伸びたばねでつながった2粒子を右へ同じ距離εだけ移す.距離と位置エネルギーUは変わらない.各粒子への力は同じ大きさで互いに向かう. 伸びたばねでつながった2粒子を右へ同じ距離εだけ移す.距離と位置エネルギーUは変わらない.各粒子への力は同じ大きさで互いに向かう.

さらに空間が等方なら,2つの粒子の位置エネルギーは,2粒子を結ぶ向きにもよらず,距離 r=|r1−r2| だけの関数 U(r) になります.このとき力は2粒子を結ぶ直線に沿って働きます(数学の節).第4章の「2つの力は同じ直線上にある」も,ここから出てきます.

ポイント 作用反作用の正体

作用反作用の法則は,閉じた系の位置エネルギーが平行移動で変わらないこと,つまり空間の一様性から出る.

質量の比を測る

前の題材で,意味があるのは質量の比だけでした.2つの粒子だけからなる閉じた系では,m1r¨1=F1,m2r¨2=F2=−F1 なので

m1r¨1=−m2r¨2,m1m2=|r¨2||r¨1|

です.2つを影響し合わせて加速度の大きさを比べれば,質量の比が測れます.問いのスケートで,重い人がゆっくり離れていくのはこのためです.

外から与えられた場の中の粒子

地球のまわりを回る人工衛星のように,系の一部(衛星)が,他の部分(地球)の影響を受けるけれども,他の部分の動きはほとんど変わらないことがあります.地球の動きが時刻の関数 rE(t) として分かっていれば,衛星のラグランジアンは

L=12mv2−U(r,rE(t))

と書けます.U は衛星の位置と時刻の関数 U(r,t) になり,これを外から与えられた場の位置エネルギーといいます.地表付近のように U=mgz(z は鉛直上向きの高さ)とすると,mz¨=−mg,x¨=y¨=0 となって,放物運動が出てきます.

問いに戻る

影響し合う粒子のラグランジアンは,自由な粒子の和から位置エネルギー U を引いた形にとります.そこから運動方程式が出て,力は U の勾配に負号を付けたものとして定義されます.作用と反作用が等しいのは,閉じた系を丸ごと平行移動しても U が変わらないから,つまり空間が一様だからです.

ポイント ここまでのまとめ

  • 閉じた系のラグランジアン:L=∑a12mava2−U.U は位置だけの関数で,位置エネルギーという.

  • オイラー=ラグランジュ方程式から mar¨a=−∂U/∂ra.右辺を力 Fa と定義する.

  • 空間の一様性から ∑aFa=0.2粒子なら作用反作用の法則.等方性から,力は2粒子を結ぶ直線に沿う.

  • 2粒子の加速度の比から質量の比が測れる.

  • 他の部分の動きが決まっているとき,粒子は場の位置エネルギー U(r,t) の中を動く.

11勾配と距離の関数の微分

位置エネルギーから力を出すには,多変数の関数を位置の成分で偏微分します.距離だけで決まる位置エネルギーなら,力が2粒子を結ぶ直線に沿うことも,この計算で分かります.

定理 数学の道具:勾配

位置の関数 U(r)=U(x,y,z) の偏微分を並べたベクトル

∂U∂r=(∂U∂x,∂U∂y,∂U∂z)

を,U の勾配という.位置を δr だけ変えたときの U の変化は,1次の近似で δU=∂U/∂r⋅δr である.

勾配は,U が最も急に増える向きを向いています.δr の大きさを決めたとき,δU が最大になるのは δr が勾配と同じ向きのときだからです.力 F=−∂U/∂r は,U が最も急に減る向きを向きます.

定理 数学の道具:距離の関数の勾配

r=|r1−r2| の関数 U(r) について

∂U∂r1=U′(r)r1−r2r,∂U∂r2=−U′(r)r1−r2r

である.

r2=(x1−x2)2+(y1−y2)2+(z1−z2)2 を x1 で偏微分すると 2r∂r/∂x1=2(x1−x2) なので,∂r/∂x1=(x1−x2)/r です.合成関数の微分で ∂U/∂x1=U′(r)(x1−x2)/r となり,y1,z1 も同じです.r2 で微分すると符号だけが変わります.2つの力 −∂U/∂r1 と −∂U/∂r2 は,大きさが等しく向きが逆で,どちらも r1−r2 に平行,つまり2粒子を結ぶ直線に沿っています.

練習1 U=12k(x2+y2+z2) の勾配を求め,力の向きを答えよ.

練習2 万有引力の位置エネルギー U(r)=−Gm1m2r から,粒子1に働く力を求めよ.

答え 練習1:∂U/∂r=kr なので F=−kr.原点を向き,原点からの距離に比例する.練習2:U′(r)=Gm1m2r2 なので F1=−Gm1m2r2r1−r2r.粒子2のほうを向き,大きさは Gm1m2/r2 で,第10章の万有引力の法則と同じ.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

滑らかな水平面の上で,2台の台車 A,B を押し縮めたばねをはさんで静止させ,同時に手を放した.ばねが伸びている間,A の加速度の大きさは 0.60ms−2,B の加速度の大きさは 0.20ms−2 だった.B の質量が 1.2kg のとき,A の質量を求めよ.

水平面の左にA,右にBを置き,間に押し縮めたばねを描く.青い矢印は放した後に動き出す向きだけを示す.加速度や未知の質量は示していない. 水平面の左にA,右にBを置き,間に押し縮めたばねを描く.青い矢印は放した後に動き出す向きだけを示す.加速度や未知の質量は示していない.
解答を見る

考え方 A と B とばねを1つの閉じた系と見る.ばねの質量を無視すると,A と B に働く力の和は0なので,mAaA=mBaB(大きさ).

mA=mBaBaA=1.2×0.200.60=0.40kg

確かめ:軽い A のほうが大きく加速している.ばねの強さを知らなくても,加速度の比だけで質量の比が決まる.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

x 軸の上に,質量 m1 と m2 の2つの粒子が,ばね定数 k,自然の長さ l の軽いばねでつながれている.粒子の位置を x1<x2 とし,位置エネルギーを U=12k(x2−x1−l)2 とする.

  1. 2つの粒子の運動方程式を,オイラー=ラグランジュ方程式から導け.

  2. ばねの伸び s=x2−x1−l が満たす方程式を求め,m1=1.0kg,m2=2.0kg,k=6.0Nm−1 のときの振動の角振動数を求めよ.

粒子の位置x₁,x₂を共通の原点から測る.ばねの長さは自然の長さlと伸びsに分けて示す. 粒子の位置x₁,x₂を共通の原点から測る.ばねの長さは自然の長さlと伸びsに分けて示す.
解答を見る

考え方 U を x1,x2 で偏微分して力を出す.U は差 x2−x1 だけの関数なので,2つの力の和は0になる.

  1. ∂U/∂x1=−k(x2−x1−l),∂U/∂x2=k(x2−x1−l) なので

m1x¨1=k(x2−x1−l),m2x¨2=−k(x2−x1−l)

右辺の和は0で,作用反作用になっている.

  1. s¨=x¨2−x¨1=−km2s−km1s=−k(1m1+1m2)s.μ=m1m2m1+m2 とおくと s¨=−kμs で,角振動数は ω=k/μ.数値では μ=2.03.0kg で

ω=6.02.0/3.0=3.0s−1

確かめ:m2→∞ なら μ→m1 で,壁につけたばねの振動 k/m1 に戻る.μ は第5章の換算質量である.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

地球(質量 M,半径 R)の中心を原点とし,地表からの高さ z の所にある質量 m の物体の位置エネルギーを U=−GMmR+z とする.

  1. z が R よりずっと小さいとして U を z の2次まで展開し,1次までで U≈定数+mgz となることを示せ.g を G,M,R で表せ.

  2. 2次の項まで入れると,鉛直方向の力は地表の値から何割変わるか.z=10km,R=6.4×103km として答えよ.

解答を見る

考え方 11+x=1−x+x2−⋯ を x=z/R で使う.力は −dU/dz.

U=−GMmR11+z/R≈−GMmR+GMmR2z−GMmR3z2

1次までで U≈−GMmR+mgz,g=GMR2.定数はラグランジアンに足しても運動を変えないので,地表付近では U=mgz としてよい.

  1. 2次まで入れた U から

Fz=−dUdz=−mg+2GMmR3z=−mg(1−2zR)

2zR=2×106.4×103≈3.1×10−3 なので,力は地表より約 0.31 % 弱い.

確かめ:高い所ほど引力が弱いという向きに合う.z=0 では −mg に戻る.

ポイント ここまでのまとめ

  • 勾配 ∂U/∂r は U が最も急に増える向きを向く.力 −∂U/∂r はその逆向き.

  • 距離 r だけの関数 U(r) なら,2粒子に働く力は大きさが等しく逆向きで,2粒子を結ぶ直線に沿う.

  • 2粒子が影響し合うときの加速度の比が,質量の逆比になる.

  • ばねでつながれた2粒子の伸びは,換算質量 μ で ω=k/μ の振動をする.

  • 地表付近の U=mgz は,万有引力の位置エネルギーを高さで展開した1次の近似.

12相互作用と力の演習

U から力を定義し,その対称性から作用反作用を確かめましょう.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

平面内の質量 0.50kg の粒子に,外から位置エネルギー U=Axy,A=4.0Jm−2 を与える.

  1. L を書き,運動方程式を導け.

  2. (x,y)=(0.20,−0.30)m での力と加速度を成分で求め,原点を向くか答えよ.

x が正,y が負の位置に粒子 P を示す.力や加速度の向きは描かない. x が正,y が負の位置に粒子 P を示す.力や加速度の向きは描かない.
解答を見る

考え方 U の勾配に負号を付けて力を決める.

  1. L=m(x˙2+y˙2)/2−Axy.偏微分して mx¨=−Ay,my¨=−Ax.よって力は (−Ay,−Ax) である.

  2. 力は (1.2,−0.80)N,加速度は (2.4,−1.6)ms−2.原点へ向く変位と逆の符号なので,原点を向かない.

確かめ:右下へ動けば U は減り,力の向きと合う.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

2粒子の距離を r=|r1−r2|>0,位置エネルギーを U=C/r2(C>0)とするモデルを考える.

  1. 力をベクトルで求め,引力か斥力か答えよ.

  2. C=0.18Jm2,r=0.60m での力の大きさを求めよ.粒子1,2の質量が順に 0.50kg,1.5kg なら,加速度の大きさの比を求めよ.

原点から各粒子への位置ベクトル r₁,r₂ と粒子間の距離 r を示す.力の向きは入れない. 原点から各粒子への位置ベクトル r₁,r₂ と粒子間の距離 r を示す.力の向きは入れない.
解答を見る

考え方 距離の関数の勾配を使う.

  1. U′(r)=−2C/r3 より

F1=2Cr4(r1−r2),F2=−F1

である.力は粒子間の直線に沿い,相手から離れる向きなので斥力となる.

  1. 大きさは 2C/r3=0.36/0.603≈1.7N.a1=F/m1,a2=F/m2 より a1:a2=m2:m1=3:1.

確かめ:距離を増やすと U は減る.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m の粒子に,位置エネルギー U=k(x−ut)2/2(k,u>0)を外から与える.初期条件は x(0)=x˙(0)=0 である.

  1. L から方程式を立て,ξ=x−ut を使って x(t) を求めよ.

  2. m=0.50kg,k=2.0Jm−2,u=0.40ms−1 のとき,t=π/4s の位置と速度を求めよ.

破線は位置エネルギーが最小になる位置 x=ut で,右へ速さ u で移動する.粒子 P は別の位置に示し,その後の運動は描かない. 破線は位置エネルギーが最小になる位置 x=ut で,右へ速さ u で移動する.粒子 P は別の位置に示し,その後の運動は描かない.
解答を見る

考え方 最小点からのずれで単振動の式にする.

  1. L=mx˙2/2−k(x−ut)2/2 より mx¨=−k(x−ut).Ω=k/m とおけば ξ¨=−Ω2ξ.初期条件は ξ(0)=0,ξ˙(0)=−u なので

ξ=−uΩsin⁡Ωt,x=ut−uΩsin⁡Ωt,x˙=u(1−cos⁡Ωt)
  1. Ω=2.0s−1,Ωt=π/2 より,x=0.40π/4−0.20≈0.11m,x˙=0.40ms−1.

確かめ:初めは最小点にいるので力は0で,解も x¨(0)=0.最小点が動くので静止は続かず,粒子だけでは閉じた系でない.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

特別な向きを許す仮想的な平面モデルで,

U=k2[(x1−x2)2+4(y1−y2)2](k>0)

とする.

  1. 力とその和を求め,全体の平行移動で U が不変になることを示せ.

  2. 相対位置 (a,2a)(a>0)で力は粒子間の直線に沿うか.全体を90度回して相対位置を (−2a,a) にしたときの U と比較せよ.

  3. 等方な空間内の閉じた2粒子系として使えるモデルか.

粒子2を中心に粒子1の相対位置を (a,2a) から (−2a,a) へ90度回す.軸の向きは固定し,粒子間の線だけを描く. 粒子2を中心に粒子1の相対位置を (a,2a) から (−2a,a) へ90度回す.軸の向きは固定し,粒子間の線だけを描く.
解答を見る

考え方 一様性と等方性を分ける.

  1. Δx=x1−x2,Δy=y1−y2 とおくと

F1=(−kΔx,−4kΔy),F2=−F1

となり,和は0.全体をずらしても差は変わらず,U は不変.

  1. 力は (−ka,−8ka) で,相対位置 (a,2a) と成分の比が違い,平行ではない.U は回転前が 17ka2/2,回転後が 4ka2.同じ距離でも値は異なる.

  2. 使えない.一様だが等方でなく,逆向きの力でも作用線は一致しない.

確かめ:係数4を1に替えると U=k|r1−r2|2/2 で回転でも不変となり,力は粒子間の直線に沿う.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

直線上の同じ質量 m の3粒子が,U=A(x1−2x2+x3)2/2(A>0)を持つモデルを考える.初期位置は (0,a,3a)(a>0),速度はすべて0である.

  1. L から方程式を求め,力の和が0の理由を U の対称性から説明せよ.

  2. s=x1−2x2+x3,Q=(x1+x2+x3)/3,d=x3−x1 の方程式を作り,各粒子の位置を求めよ.

同じ質量の3粒子を,x₁=0,x₂=a,x₃=3a に置く.力や運動の答えは描かない. 同じ質量の3粒子を,x₁=0,x₂=a,x₃=3a に置く.力や運動の答えは描かない.
解答を見る

考え方 方程式の和と差で s,Q,d の運動を分ける.

  1. L=m(x˙12+x˙22+x˙32)/2−As2/2 から

mx¨1=−As,mx¨2=2As,mx¨3=−As

となり,力の和は0.全体の変位 ε に対して s の変化は ε−2ε+ε=0.一様性が力の和を0にする.

  1. s¨=−6As/m,Q¨=d¨=0.Ω=6A/m とおくと s=acos⁡Ωt,Q=4a/3,d=3a.逆に解けば x1=Q−d/2+s/6,x2=Q−s/3,x3=Q+d/2+s/6 なので

x1=a6(cos⁡Ωt−1),x2=a3(4−cos⁡Ωt),x3=a6(17+cos⁡Ωt)

確かめ:(1) と初期状態を満たす.粒子1と3の力は同じ向きでも,全体の和は0である.

ポイント 教える人へ

偏微分の負号と,全体の移動を確認してください.一様性と等方性を別々に問います.全体の力の和が0でも,2粒子の力が逆向きとは限りません.

13対称性と保存則

問い

物体がどんなに複雑に動いても,変わらない量があります.前の章では,エネルギー,運動量,角運動量が保存することを,運動方程式から1つずつ確かめました.しかし,なぜこの3つなのでしょうか.保存する量は,ほかにもあるのでしょうか.そして,どんなときに保存しなくなるのでしょうか.

考えてみる

前の題材までに,すでに1つの例を見ています.自由な粒子のラグランジアン 12mv2 は位置によらないので,オイラー=ラグランジュ方程式から ∂L/∂v=mv が一定になりました.L がある座標によらないことは,その座標の向きに系をずらしても何も変わらない,という対称性です.対称性が,保存する量を生んでいるように見えます.これを一般の形にします.

一般化運動量

定義 一般化運動量

一般化座標 qi に対して

pi=∂L∂q˙i

を,qi の一般化運動量という.ラグランジアンが qi を含まないとき,qi を循環座標という.

オイラー=ラグランジュ方程式は p˙i=∂L/∂qi と書けます.したがって,循環座標の一般化運動量は保存します.L=12m(r˙2+r2θ˙2)−U(r) のように中心からの距離だけによる位置エネルギーなら,θ が循環座標で,pθ=mr2θ˙ が保存します.第8章の角運動量の保存と,第10章の面積速度一定(ケプラーの第2法則)は,どちらもこれです.

時間の一様性とエネルギー

閉じた系では時間が一様なので,ラグランジアンは時刻 t を直接含みません.このとき,運動に沿った L の時間微分は

dLdt=∑i(∂L∂qiq˙i+∂L∂q˙iq¨i)=∑i(p˙iq˙i+piq¨i)=ddt∑ipiq˙i

です.2つ目の等号でオイラー=ラグランジュ方程式 ∂L/∂qi=p˙i を使いました.したがって次の量が保存します.

定理 エネルギーの保存

ラグランジアンが時刻を直接含まないとき

E=∑ipiq˙i−L

は運動の間一定である.これを系のエネルギーという.

閉じた系 L=∑a12mava2−U では,∑apa⋅va=∑amava2 なので

E=∑a12mava2+U

です.第1項を運動エネルギー K と呼びます.L=K−U で U に負号を付けたのは,エネルギーが K+U という和になるようにするためでした.第6章の力学的エネルギー保存は,時間の一様性の結果です.

空間の一様性と運動量

前の題材で,閉じた系の位置エネルギーは平行移動で変わらず,∑a∂U/∂ra=0 でした.各粒子のオイラー=ラグランジュ方程式 p˙a=−∂U/∂ra(pa=mava)を足すと

ddt∑apa=0

です.P=∑amava を系の運動量といい,これが保存します.

空間の等方性と角運動量

閉じた系を,ある軸のまわりに小さな角 δφ だけ丸ごと回します.軸の向きの単位ベクトルを n とすると,各粒子の位置と速度は

δra=δφn×ra,δva=δφn×va

だけ変わります.空間が等方なら,このとき L は変わりません.L の変化を計算し,オイラー=ラグランジュ方程式 ∂L/∂ra=p˙a を使うと(数学の節)

0=δL=δφn⋅ddt∑ara×pa

となります.どの軸 n についても成り立つので,M=∑ara×pa が保存します.これが系の角運動量です.第8章からは角運動量を L と書いてきましたが,この章では L をラグランジアンに使うので,角運動量を M と書きます.

薄い粒子の集まりと濃い粒子の集まりは変換前後の同じ系.時刻のずらしは配置を変えず,平行移動と回転は系の形を保つ.それぞれE,運動量P,角運動量Mの保存に対応する. 薄い粒子の集まりと濃い粒子の集まりは変換前後の同じ系.時刻のずらしは配置を変えず,平行移動と回転は系の形を保つ.それぞれE,運動量P,角運動量Mの保存に対応する.

ネーターの定理

ここまでの3つは,同じ形の定理の例です.

定理 ネーターの定理

一般化座標の小さな変換 qi→qi+εηi(q,t)(ε は小さな定数)で,ラグランジアンの変化が全微分 εdΛ/dt になるとき(0でもよい)

Q=∑ipiηi−Λ

は運動の間一定である.

平行移動では η は移動の向き,回転では n×ra で,どちらも Λ=0 です.証明は数学の節で行います.Λ を許しておくと,次の4つ目の保存則も同じ形で扱えます.

ガリレイ変換と重心の運動

閉じた系を,小さな速度 ε で動く慣性系から見ると,各粒子の位置は ra→ra−εt と変わります.このとき U は変わらず,運動エネルギーの部分は,前の題材で見たように全微分 −ddt(ε⋅∑amara) だけ変わります(ε の2次は無視します).ネーターの定理を当てはめると

∑amara−Pt=一定

が得られます.全質量 M=∑ama と重心 R=∑amara/M で書くと,MR=Pt+一定,つまり重心は等速直線運動をします.

ポイント 時間と空間の対称性が生む保存量

  • 時間の一様性 → エネルギー(1個)

  • 空間の一様性 → 運動量(3成分)

  • 空間の等方性 → 角運動量(3成分)

  • ガリレイの相対性 → 重心の等速運動(3成分)

合わせて10個.閉じた系では,相互作用の形によらずに,必ずこれらが保存する.

対称性が破れると

保存則は,対称性があるときにだけ成り立ちます.系が外から与えられた場の中にあると,対称性の一部が破れます.地表付近で U=mgz の場の中にある物体では,鉛直方向にずらすと U が変わるので,運動量の z 成分は保存しません.水平方向の成分と,鉛直な軸のまわりの角運動量は保存します.場が時間とともに変わるなら,エネルギーも保存しません.

逆に,対称性だけでは相互作用の形 U は決まりません.対称性が教えてくれるのは,どんな U であっても成り立つ保存則までです.U が万有引力なのか,ばねなのかは,自然を調べて決めるしかありません.

問いに戻る

エネルギー,運動量,角運動量が保存するのは,時間が一様で,空間が一様で等方だからです.ガリレイの相対性からは,重心の等速運動という4つ目の保存則も出てきて,閉じた系の保存量は合わせて10個あります.場の中の物体のように対称性が破れると,それに対応する保存則も成り立たなくなります.

ポイント ここまでのまとめ

  • 一般化運動量 pi=∂L/∂q˙i.L が qi を含まなければ pi が保存する.

  • ネーターの定理:L が変換で全微分 εdΛ/dt しか変わらなければ,∑ipiηi−Λ が保存する.

  • 時間の一様性からエネルギー E=∑ipiq˙i−L=K+U,空間の一様性から運動量 P,等方性から角運動量 M,ガリレイの相対性から重心の等速運動が出る.合わせて10個.

  • 対称性が破れると,対応する保存則も破れる.対称性だけでは相互作用の形は決まらない.

14小さな変換と保存量の計算

ネーターの定理の証明と,回転で角運動量が出てくる計算を確かめます.使うのは,オイラー=ラグランジュ方程式と,外積の性質だけです.

定理 数学の道具:ネーターの定理の証明

変換 qi→qi+εηi(q,t) で,q˙i は q˙i+εη˙i に変わる(η˙i は運動に沿った ηi の時間微分).ε について1次で

δL=ε∑i(∂L∂qiηi+∂L∂q˙iη˙i)=ε∑i(p˙iηi+piη˙i)=εddt∑ipiηi

2つ目の等号でオイラー=ラグランジュ方程式を使った.これが εdΛ/dt に等しいので,ddt(∑ipiηi−Λ)=0.

証明の中でオイラー=ラグランジュ方程式を使ったことに注意します.保存則は,実際の運動に沿ってだけ成り立ちます.

定理 数学の道具:外積の3つの積

3つのベクトルについて a⋅(b×c)=b⋅(c×a)=c⋅(a×b) が成り立つ(順に回しても同じ).また a×a=0.

回転の計算をします.δra=δφn×ra,δva=δφn×va のとき,∂L/∂ra=p˙a,∂L/∂va=pa を使って

δL=δφ∑a[p˙a⋅(n×ra)+pa⋅(n×va)]=δφn⋅∑a(ra×p˙a+va×pa)

です(3つの積を順に回しました).かっこの中は ddt(ra×pa) です.これで本体の節の式が出ました.閉じた系では pa=mava なので va×pa=0 ですが,この計算はそれを使わなくても成り立ちます.

練習1 L=12m(x˙2+y˙2)−U(y) で保存する一般化運動量を答えよ.

練習2 L=12mx˙2−U(x,t) で,U が t を含むとき,E=12mx˙2+U の時間変化が ∂U/∂t に等しいことを示せ.

練習3 自由な粒子 L=12mx˙2 で,ガリレイ変換 x→x−εt(η=−t)を考える.δL を ε の1次まで求めて δL=εdΛ/dt となる Λ を見つけ,ネーターの定理の保存量 Q=pη−Λ を求めよ.

答え 練習1:x が循環座標なので px=mx˙.練習2:dE/dt=mx˙x¨+∂U/∂xx˙+∂U/∂t.方程式 mx¨=−∂U/∂x から最初の2項が打ち消し合い,dE/dt=∂U/∂t.時間の一様性が破れた分だけ,エネルギーが変わる.練習3:x˙→x˙−ε なので δL=−εmx˙=εd(−mx)/dt,よって Λ=−mx.p=mx˙ から Q=−mx˙t+mx=m(x−x˙t).x˙ も一定なので,これは「t=0 の位置 x−x˙t が一定」,つまり等速運動を表す.Λ≠0 の変換でも保存量が出る例である.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

平面上の質量 m の粒子が,原点からの距離 r だけで決まる位置エネルギー U(r) の中を動く.

  1. 極座標でラグランジアンを書き,保存する一般化運動量を答えよ.

  2. エネルギー E を r,r˙ と (1) の保存量 pθ で表し,r の運動が1次元の運動と同じ形になることを示せ.

例として曲がった軌跡上のPを描く.緑は動径方向の成分ṙ(この点では内向き),橙は反時計回りの成分rθ̇,青はその和の速度v.保存量の式は示していない. 例として曲がった軌跡上のPを描く.緑は動径方向の成分ṙ(この点では内向き),橙は反時計回りの成分rθ̇,青はその和の速度v.保存量の式は示していない.
解答を見る

考え方 U は θ を含まないので,θ が循環座標.エネルギーの式から θ˙ を消す.

  1. L=12m(r˙2+r2θ˙2)−U(r).θ が循環座標なので,pθ=mr2θ˙ が保存する.

  2. L は時刻を含まないので

E=prr˙+pθθ˙−L=12mr˙2+12mr2θ˙2+U(r)

θ˙=pθ/(mr2) を代入すると

E=12mr˙2+pθ22mr2+U(r)

これは,位置エネルギー Ueff(r)=pθ22mr2+U(r) の中を1次元で動く粒子のエネルギーと同じ形である.

確かめ:第10章の実効ポテンシャルと同じ式になる(第10章では角運動量を L と書いた).

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

地表付近(U=mgz,z は鉛直上向き)で,質量 0.50kg の小球を,原点から水平な x 方向に 4.0ms−1,鉛直上向きに 3.0ms−1 の速度で投げた.g=9.8ms−2 とする.

  1. 10個の保存量のうち,この運動で保存するものをすべて挙げ,対応する対称性を答えよ.

  2. 投げた直後と 0.50s 後で,運動量の x 成分と z 成分,エネルギーを求めて比べよ.

解答を見る

考え方 U=mgz は,水平方向の平行移動,鉛直な軸のまわりの回転,時刻のずらしで変わらない.鉛直方向の平行移動と,水平な軸のまわりの回転では変わる.

  1. 時刻をずらしても U は変わらないので,エネルギーが保存.水平に平行移動しても変わらないので,運動量の x,y 成分が保存.鉛直な軸(z 軸)のまわりに回しても変わらないので,角運動量の z 成分が保存.運動量の z 成分と,角運動量の x,y 成分は保存しない.重心の等速運動は,水平方向については成り立つ.

  2. 投げた直後:px=0.50×4.0=2.0kgms−1,pz=0.50×3.0=1.5kgms−1,E=12×0.50×(4.02+3.02)+0=6.25J.

0.50s 後:vz=3.0−9.8×0.50=−1.9ms−1,z=3.0×0.50−4.9×0.502=0.275m.px=2.0kgms−1(同じ),pz=0.50×(−1.9)=−0.95kgms−1(変わった).

E=12×0.50×(4.02+1.92)+0.50×9.8×0.275≈4.90+1.35=6.25J

で同じ.

確かめ:pz の変化 −2.45kgms−1 は −mg×0.50s に等しい.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

z 軸を中心とするらせん状の場の中を,質量 m の粒子が動く.位置エネルギーは,粒子を z 軸のまわりに角 α だけ回し,同時に z 方向に h2πα だけずらしても変わらない(h はらせんの1巻きのピッチ).ただし,回すだけ,ずらすだけでは変わる.

  1. このねじれた動かし方について,ネーターの定理の η を書け.

  2. 保存する量を,角運動量の z 成分 Mz と運動量の z 成分 Pz で表せ.

解答を見る

考え方 小さな角 ε だけ回してずらすと,δr=ε(ez×r+h2πez).L は変わらないので Λ=0.

  1. η=ez×r+h2πez.

  2. 保存量は

Q=p⋅η=p⋅(ez×r)+h2πpz=ez⋅(r×p)+h2πpz=Mz+h2πPz

確かめ:Mz と Pz は別々には保存しないが,この組み合わせは保存する.対称性があれば,それが見慣れたものでなくても,保存量が1つ見つかる.h→0 なら z 軸のまわりの回転の対称性になり,Mz の保存に戻る.

ポイント ここまでのまとめ

  • ネーターの定理は,オイラー=ラグランジュ方程式を使えば数行で証明できる.保存則は実際の運動に沿って成り立つ.

  • 回転の計算では,外積の3つの積を順に回す性質を使う.

  • 中心からの距離だけによる位置エネルギーでは pθ=mr2θ˙ とエネルギーが保存し,r の運動は実効ポテンシャルの中の1次元の運動になる.

  • 場の中では,場が持つ対称性の分だけ保存量が残る.らせんのような見慣れない対称性からも保存量が出る.

15対称性と保存則の演習

ラグランジアンを変えない動かし方と保存量を対応させてください.全微分だけ変わる場合も調べます.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

質量 m の粒子が,外から与えられた場 U=k(x2+2y2)/2 の中を動く.k>0 は定数である.

  1. ラグランジアンと3つの一般化運動量を書け.

  2. 座標軸に沿う平行移動,座標軸のまわりの回転,時刻のずらしのうち,連続な対称性と対応する保存量を答えよ.

xy平面の位置エネルギーの等しい楕円を2本と,紙面に垂直なz軸を描く.xとyの向きを示す. xy平面の位置エネルギーの等しい楕円を2本と,紙面に垂直なz軸を描く.xとyの向きを示す.
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考え方 場を固定し,変換でL が変わるかを調べる.

  1. L=m(x˙2+y˙2+z˙2)/2−k(x2+2y2)/2,px=mx˙,py=my˙,pz=mz˙.

  2. z 方向の平行移動と時刻のずらしが残る.したがって pz と E=m(x˙2+y˙2+z˙2)/2+k(x2+2y2)/2 が保存する.x,y 方向の平行移動と,どの座標軸のまわりの小さな回転でもU が変わる.角運動量の保存は一般には言えない.

確かめ:mx¨=−kx,my¨=−2ky から M˙z=xmy¨−ymx¨=−kxy となる.180度の回転は離散対称性なので,本体の定理の対象ではない.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

外から影響を受けない3粒子が,相互の距離だけによる位置エネルギーを持つ.全質量を mtot,全運動量を P,重心位置を R とする.ある慣性系で,t=0 の R は (1.0,0,0)m,mtot=4.0kg,P=(2.0,−4.0,0)kgms−1 であった.

  1. 時空の対称性による10個の保存量を列挙せよ.

  2. t=3.0s の重心位置を求めよ.内部の運動によらない理由も説明せよ.

三角形を作る3粒子と重心Gを描き,慣性系のx,y軸と初めの全運動量の向きだけを示す. 三角形を作る3粒子と重心Gを描き,慣性系のx,y軸と初めの全運動量の向きだけを示す.
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考え方 重心の運動には,ガリレイ変換の保存量を使う.

  1. 時間の一様性から E の1個,空間の一様性から P の3成分,等方性から M の3成分,ガリレイの相対性から B=mtotR−Pt の3成分で,合計10個.時空の対称性が保証する10個であり,全員が独立とは限らない.

  2. B=mtotR(0) なので

R(t)=R(0)+Pmtott

より R(3.0s)=(2.5,−3.0,0)m.距離だけの相互作用はガリレイ変換で変わらず,内部の運動は重心を加速しない.

確かめ:重心速度は (0.50,−1.0,0)ms−1.その3秒分の変位と一致する.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

平面内の粒子のラグランジアンが L=m(x˙2+y˙2)/2−f(2x−y) である.f はなめらかな任意の関数である.

  1. x→x+ε,y→y+2ε が対称性であることを示し,保存量を求めよ.

  2. s=(x+2y)/5,n=(2x−y)/5 に座標を変え,保存量の意味を説明せよ.

2x−yが一定の平行な直線を描き,それに沿うs軸と垂直なn軸,粒子を示す. 2x−yが一定の平行な直線を描き,それに沿うs軸と垂直なn軸,粒子を示す.
解答を見る

考え方 2方向の移動を組み合わせるとU が変わらない.

  1. 変換後も 2x−y は同じで,速度も変わらない.ηx=1,ηy=2,Λ=0 から Q=px+2py=m(x˙+2y˙) が保存する.

  2. これは座標軸の回転なので,L=m(s˙2+n˙2)/2−f(5n).s は循環座標で,ps=ms˙ が保存し,Q=5ps である.場の等しい直線に沿う運動量が保存する.

確かめ:元の座標の方程式は mx¨=−2f′(2x−y),my¨=f′(2x−y).足し合わせると Q˙=mx¨+2my¨=0 になる.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

L0=mx˙2/2−kx2/2 に,F=atx の全微分を加えた L1=L0+atx˙+ax を考える.a は力の次元を持つ定数である.

  1. L1 の運動方程式,一般化運動量 p1,E1=p1x˙−L1 を求めよ.

  2. E1 自体は保存しない.保存量を見つけ,運動の法則には時間の一様性が残る理由を説明せよ.

解答を見る

考え方 全微分は運動を変えないが,p とE の表示は変える.

  1. p1=mx˙+at,∂L1/∂x=−kx+a なので,mx¨+a=−kx+a,すなわち mx¨=−kx.また

E1=12mx˙2+12kx2−ax

となる.

  1. 微分すると E˙1=(mx¨+kx)x˙−ax˙=−ax˙.したがって E1+ax=mx˙2/2+kx2/2 が保存する.L1 において時刻を ε ずらしたときの変化は aεx˙=εd(ax)/dt だけである.作用の変化は端点だけで決まり,運動の法則は変わらない.

確かめ:a=0 なら p1=mx˙,E1=E0 に戻る.p1 は,この表示では粒子の通常の運動量と一致しない.時間を含まないという条件は十分条件である.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

L=m(x˙2−ω2x2)/2 の系で,x→x+εcos⁡ωt を考える.ε は小さな長さ,ω>0 は定数である.

  1. ε の1次までで δL を求め,Λ=−mωxsin⁡ωt の全微分になることを示せ.

  2. 保存量 Q1 を求めよ.さらに x→x+εsin⁡ωt から保存量 Q2 を求め,x(0)=x0,x˙(0)=v0 の運動を再現せよ.

横軸t,縦軸xの図に任意の経路と,そこへ小さな余弦波を加えた経路を描く.両端固定の変分とは区別する. 横軸t,縦軸xの図に任意の経路と,そこへ小さな余弦波を加えた経路を描く.両端固定の変分とは区別する.
解答を見る

考え方 両端固定の変分とは区別し,任意の経路上でL の変化が全微分となることを示す.

  1. δx˙=−εωsin⁡ωt なので,δL/ε=−mωx˙sin⁡ωt−mω2xcos⁡ωt=Λ˙.

  2. p=mx˙ より Q1=mx˙cos⁡ωt+mωxsin⁡ωt.正弦波の変換では Λ=mωxcos⁡ωt だから Q2=mx˙sin⁡ωt−mωxcos⁡ωt.初期条件から Q1=mv0,Q2=−mωx0.2式を組み合わせて

x=Q1sin⁡ωt−Q2cos⁡ωtmω=x0cos⁡ωt+v0ωsin⁡ωt

と運動を復元できる.

確かめ:微分して t=0 を代入すると v0 に戻り,x¨=−ω2x も満たす.この相互作用には,時空の対称性以外の対称性もある.

ポイント 教える人へ

場を固定したまま何を動かすかを説明させてください.演習1では離散対称性と連続対称性,演習4ではL の表示と運動の法則を区別します.演習5の変換と両端固定の変分では目的が違うことも問いかけてください.

16拘束のある運動を解く

問い

振り子のおもりは,糸に引かれて円の上を動きます.糸がおもりを引く力(張力)は,おもりの速さや位置によって刻々と変わり,前もっては分かりません.張力を知らないまま,振り子の運動を求めることはできるでしょうか.輪にはめたビーズを,輪ごと鉛直な軸のまわりに回したら,ビーズはどこで落ち着くでしょうか.

考えてみる

糸の長さが変わらない,ビーズが輪から外れない,のように,動き方に課された条件を拘束といいます.拘束があると,粒子の位置を表す数のうち,自由に動けるものが減ります.長さ l の糸の振り子のおもりは,平面内で2つの数 (x,y) を持ちますが,x2+y2=l2 という条件があるので,自由度は1です.

拘束を保つ力(張力や面からの力)は,拘束から外れようとする動きを押し戻すだけで,拘束に沿った動きの向きには働きません.このような拘束をなめらかな拘束といいます.なめらかな拘束は,ごくわずかに外れるだけで大きな位置エネルギーが生まれる,非常に硬いばねのようなものと考えられます.その極限では,拘束を自動的に満たす一般化座標でラグランジアンを書けば,拘束を保つ力を考えずに運動が求まります.

ポイント 拘束のある系の解き方

  1. 拘束を自動的に満たす一般化座標 q1,…,qs を選ぶ(s は自由度).

  2. 運動エネルギー K と位置エネルギー U を,一般化座標と一般化速度で書き,L=K−U を作る.

  3. オイラー=ラグランジュ方程式を立てる.拘束を保つ力は,式に現れない.

振り子

長さ l の軽い糸に質量 m のおもりをつけ,鉛直な平面内で振らせます.一般化座標には,糸が鉛直となす角 θ を選びます.支点を原点,鉛直上向きを y とすると,おもりの位置は (lsin⁡θ,−lcos⁡θ) で,速さは lθ˙ です.

支点Oから長さlの糸で質量mのおもりをつるす.θは鉛直下向きから右へ測る角.青い速度は円の接線方向で,θが増える向きを例として示す.張力は描かない. 支点Oから長さlの糸で質量mのおもりをつるす.θは鉛直下向きから右へ測る角.青い速度は円の接線方向で,θが増える向きを例として示す.張力は描かない.
L=12ml2θ˙2+mglcos⁡θ

です.∂L/∂θ˙=ml2θ˙,∂L/∂θ=−mglsin⁡θ なので

ml2θ¨=−mglsin⁡θ,θ¨=−glsin⁡θ

です.張力は一度も出てきませんでした.角が小さければ sin⁡θ≈θ で,角振動数 g/l の単振動になります.第7章で張力を消去して得た式と同じです.

回る輪の上のビーズ

半径 R の輪を鉛直に立て,鉛直な直径を軸として一定の角速度 ω で回します.輪には質量 m のビーズがはまっていて,輪に沿って滑らかに動けます.ビーズの位置は,輪の最下点から測った角 θ の1つで決まります.

鉛直な直径を軸に回る輪と,ある瞬間のビーズを描く.θは最下点から測る角で,青い矢印は輪の回転ωの向き.描いたビーズの位置はつり合いの答えを表さない. 鉛直な直径を軸に回る輪と,ある瞬間のビーズを描く.θは最下点から測る角で,青い矢印は輪の回転ωの向き.描いたビーズの位置はつり合いの答えを表さない.

ビーズの速度は,輪に沿った成分 Rθ˙ と,軸のまわりに回る成分 ωRsin⁡θ(軸からの距離 Rsin⁡θ に ω を掛けたもの)からなり,2つは垂直です.高さは中心から −Rcos⁡θ なので

L=12mR2(θ˙2+ω2sin2⁡θ)+mgRcos⁡θ

です.オイラー=ラグランジュ方程式は

θ¨=sin⁡θ(ω2cos⁡θ−gR)

となります.右辺が0になる所がつり合いの位置です.θ=0(最下点)はいつもつり合いの位置で,θ が小さいと θ¨≈(ω2−g/R)θ なので,ω2 が g/R より小さければ安定です.ω2>g/R になると最下点は不安定になり,代わりに

cos⁡θ0=gRω2

の2か所に,安定なつり合いの位置が現れます.輪を速く回すと,ビーズは最下点から押し上げられて,横に落ち着くのです.

[図:回転の速さとビーズのつり合い]

初期状態は半径1.0 mの輪をω=4.5 rad s⁻¹で回し,軸の左右の安定なつり合いを示す.角速度を変えると,ω=√(g/R)を境に安定な位置が分かれる.安定を実線と塗りつぶし,不安定を破線と白抜きで示す.最上点も描く.スライダーだけで変化し,自動再生はしない.

拘束が時間とともに動くとき

前の題材で,ラグランジアンが時刻を直接含まなければ E=∑piq˙i−L が保存することを見ました.回る輪のラグランジアンは時刻を含まないので,

E=12mR2θ˙2−12mR2ω2sin2⁡θ−mgRcos⁡θ

が保存します.ところが,これはビーズの運動エネルギーと位置エネルギーの和 12mR2(θ˙2+ω2sin2⁡θ)−mgRcos⁡θ ではありません.輪を一定の角速度で回し続けるには,輪を回す側が仕事をしなければならず,ビーズの K+U は保存しないのです.E=K+U となるのは,拘束が時間とともに動かず,K が一般化速度の2次式になっているときです.

拘束を保つ力が知りたいとき

この方法では,張力のような拘束を保つ力は求まりません.それが知りたいときは,糸の長さ r も一般化座標に加え,拘束を破る向きに力を考える方法(ラグランジュの未定乗数法)があります.大学の力学で学びます.この章では,運動を求めることに集中します.

問いに戻る

張力を知らなくても,振り子の運動は求まります.おもりが円の上にあることを角 θ で表し,L を θ と θ˙ で書けば,張力は式に現れません.回る輪のビーズは,輪の回転がゆっくりなら最下点で,ω2>g/R になると cos⁡θ0=g/(Rω2) の位置で落ち着きます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 動き方の条件を拘束という.なめらかな拘束を保つ力は,拘束に沿った向きに働かない.

  • 拘束を満たす一般化座標で L=K−U を書けば,拘束を保つ力を考えずに運動が求まる.

  • 振り子:θ¨=−(g/l)sin⁡θ.回る輪のビーズ:θ¨=sin⁡θ(ω2cos⁡θ−g/R) で,ω2>g/R で最下点が不安定になり,cos⁡θ0=g/(Rω2) に安定な位置が現れる.

  • 拘束が時間とともに動くと,保存する E=∑piq˙i−L は K+U と一致しない.

17拘束のある運動の例題

本体の節の手順(座標を選ぶ → K と U を書く → オイラー=ラグランジュ方程式)を,前の章で力から解いた問題に当てはめます.拘束を保つ力を考えずに済むことと,答えが前の章と一致することを確かめてください.

ポイント 数学の道具:小さな振動の展開

つり合いの位置 q0 のまわりの小さなずれ ξ=q−q0 を考えるときは,L の運動エネルギーの部分を ξ の2次(ξ˙2 の項)まで,位置エネルギーの部分を ξ の2次まで残す.cos⁡θ≈1−θ22,sin⁡θ≈θ などを使う.こうして得た L から出る方程式は1次式になり,単振動の重ね合わせで解ける.

L を2次まで展開する代わりに,すでに出した方程式を ξ の1次まで展開しても同じ結果になります.

練習1 振り子のラグランジアン L=12ml2θ˙2+mglcos⁡θ を θ の2次まで展開し(定数は除く),オイラー=ラグランジュ方程式から小さな振動の角振動数を求めよ.

練習2 回る輪のビーズの方程式 θ¨=sin⁡θ(ω2cos⁡θ−gR)(ω2>g/R)を,つり合いの角 θ0(cos⁡θ0=g/(Rω2))のまわりで ξ=θ−θ0 の1次まで展開し,小さな振動の角振動数を求めよ.

答え 練習1:cos⁡θ≈1−θ22 から L≈12ml2θ˙2−12mglθ2.方程式は ml2θ¨=−mglθ で,角振動数は g/l.練習2:右辺を f(θ) とすると f(θ0)=0 で,f′(θ)=cos⁡θ(ω2cos⁡θ−gR)−ω2sin2⁡θ.θ0 では第1項が0なので ξ¨≈−ω2sin2⁡θ0ξ,角振動数は ωsin⁡θ0.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

半径 R,慣性モーメント I の滑車に軽い糸をかけ,両端に質量 m1=0.30kg と m2=0.20kg のおもりをつるす.糸は滑車に対して滑らない.滑車は質量 0.20kg の一様な円板で,I=12×0.20×R2 とする.g=9.8ms−2 とする.

  1. m1 が下がった距離 x を一般化座標として,ラグランジアンを書け.

  2. おもりの加速度の大きさを求め,滑車の慣性モーメントを無視した場合と比べよ.

固定軸に半径R,慣性モーメントIの滑車を置き,両側の糸におもりm₁,m₂をつるす.m₁側に下向きを正とする座標xを描く.加速度や張力の値は示していない. 固定軸に半径R,慣性モーメントIの滑車を置き,両側の糸におもりm₁,m₂をつるす.m₁側に下向きを正とする座標xを描く.加速度や張力の値は示していない.
解答を見る

考え方 糸が伸びず滑らないので,m1 が x 下がると m2 は x 上がり,滑車は角 x/R 回る.自由度は1.

  1. m1 と m2 の速さは x˙,滑車の角速度は x˙/R.位置エネルギーは −m1gx+m2gx(定数を除く)なので

L=12(m1+m2+IR2)x˙2+(m1−m2)gx
  1. オイラー=ラグランジュ方程式から

x¨=(m1−m2)gm1+m2+I/R2=0.10×9.80.30+0.20+0.10≈1.6ms−2

慣性モーメントを無視すると 0.10×9.80.50≈2.0ms−2.滑車も回して運動エネルギーを持たせる分だけ,加速度が小さくなる.

確かめ:m1=m2 なら加速度は0.2本の糸の張力と滑車のトルクを考えて力から解いても,同じ結果になる.張力を考えずに済むのがこの方法の利点である.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

長さ l の軽い糸に質量 m のおもりをつけた振り子の支点が,水平方向に一定の加速度 A で動いている(支点の位置 xs(t),x¨s=A).糸が鉛直となす角を θ とする(支点の進む向きと反対側に振れたときを負).

  1. ラグランジアンを書き,θ の運動方程式を求めよ.

  2. つり合いの角 θ0 と,そのまわりの小さな振動の角振動数を求めよ.A=2.0ms−2,l=0.50m,g=9.8ms−2 として数値も答えよ.

レール上の支点の位置は床に固定した原点から測るxₛ.長さlの糸と鉛直下向きの角がθで,支点の進む右向きに振れる向きを正とする.つり合いの角や見かけの重力は示していない. レール上の支点の位置は床に固定した原点から測るxₛ.長さlの糸と鉛直下向きの角がθで,支点の進む右向きに振れる向きを正とする.つり合いの角や見かけの重力は示していない.
解答を見る

考え方 支点の動きは与えられた時刻の関数で,一般化座標は θ の1つ.おもりの位置を支点の位置と θ で書く.

  1. おもりの位置は (xs+lsin⁡θ,−lcos⁡θ).速度は (x˙s+lθ˙cos⁡θ,lθ˙sin⁡θ) なので

L=12m(x˙s2+2x˙slθ˙cos⁡θ+l2θ˙2)+mglcos⁡θ

∂L/∂θ˙=m(x˙slcos⁡θ+l2θ˙) の時間微分は m(x¨slcos⁡θ−x˙slθ˙sin⁡θ+l2θ¨),∂L/∂θ=−mx˙slθ˙sin⁡θ−mglsin⁡θ なので

lθ¨=−gsin⁡θ−Acos⁡θ
  1. つり合いは gsin⁡θ0+Acos⁡θ0=0 で tan⁡θ0=−A/g.右辺は −g2+A2sin⁡(θ−θ0) と書けるので,小さなずれ ξ=θ−θ0 では lξ¨≈−g2+A2ξ,角振動数は ω=g2+A2/l.

数値:tan⁡θ0=−0.204 で θ0≈−11.5∘(進む向きと反対側に傾く).9.82+2.02≈10.0ms−2 なので ω≈10.0/0.50≈4.5s−1.

確かめ:A=0 なら θ0=0,ω=g/l.第11章で,加速する電車の中の振り子を見かけの重力 g2+A2 で解いた結果と一致する.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

長さ l の軽い糸2本と質量 m の2つのおもりで作った二重振り子を,鉛直な平面内で小さく振らせる.上の糸と下の糸が鉛直となす角を θ1,θ2 とする.

  1. 角が小さいとして,ラグランジアンを θ と θ˙ の2次まで書け.

  2. 2つのおもりがそろって同じ角振動数 ω で振れる運動(基準振動)を探し,ω を求めよ.l=0.50m,g=9.8ms−2 として数値も答え,それぞれの振れ方を述べよ.

2本の糸はともに長さl,2つの小球はともに質量m.それぞれの糸と鉛直下向きの間に小さな角θ₁,θ₂を描く.基準振動や振幅の比は示していない. 2本の糸はともに長さl,2つの小球はともに質量m.それぞれの糸と鉛直下向きの間に小さな角θ₁,θ₂を描く.基準振動や振幅の比は示していない.
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考え方 下のおもりの速度は,上のおもりの速度 lθ˙1 と,上のおもりに対する速度 lθ˙2 の和.角が小さければ2つはほぼ平行で,速さは l(θ˙1+θ˙2).位置エネルギーは cos⁡θ≈1−θ2/2 で展開する.

  1. 上のおもりの高さは −lcos⁡θ1,下は −lcos⁡θ1−lcos⁡θ2.定数を除いて

L=12ml2[θ˙12+(θ˙1+θ˙2)2]−12mgl(2θ12+θ22)
  1. オイラー=ラグランジュ方程式は

2θ¨1+θ¨2=−2glθ1,θ¨1+θ¨2=−glθ2

θ1=A1cos⁡ωt,θ2=A2cos⁡ωt を代入し,ω02=g/l とおくと

2(ω02−ω2)A1=ω2A2,ω2A1=(ω02−ω2)A2

2つ目から A2=ω2ω02−ω2A1 を1つ目に入れて A1≠0 で割ると 2(ω02−ω2)2=ω4,つまり 2(ω02−ω2)=±ω2.よって

ω2=(2∓2)gl

g/l=19.6s−2 では,ω≈0.586×19.6≈3.4s−1 と ω≈3.41×19.6≈8.2s−1.
振れ方は,小さいほう(A2/A1=2)が2つのおもりが同じ向きに振れる遅い振動,大きいほう(A2/A1=−2)が逆向きに振れる速い振動.

確かめ:第7章の連成振動と同じく,振動数の違う2つの基準振動がある.下のおもりの振幅は,どちらの振動でも上の 2 倍.

ポイント ここまでのまとめ

  • 慣性モーメントのある滑車も,回転の運動エネルギーを L に入れるだけで扱える.

  • 支点が与えられた動きをする場合も,支点の位置を時刻の関数として L に入れれば解ける.加速する支点の振り子は,見かけの重力 g2+A2 で傾いて振れる.

  • 小さな振動は,L を2次まで展開すると1次の連立方程式になり,基準振動で解ける.

  • どの例でも,拘束を保つ力(張力)は一度も現れない.

18拘束のある運動の演習

一般化座標から各部分の位置と速度を書き,L から運動と保存量を求めてください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

水平な固定円環(半径 R)に質量 m のビーズがはまり,なめらかに動く.円の中心を原点とし,外から与えられた位置エネルギーは U=kx2/2,k>0 である.x=Rcos⁡θ,y=Rsin⁡θ とする.

  1. L と θ の運動方程式を書け.

  2. すべてのつり合いの位置を答え,安定な位置のまわりの小さな振動の角振動数を求めよ.

水平円環を真上から描き,x,y軸,半径R,ビーズの偏角θを示す.つり合いの点は示さない. 水平円環を真上から描き,x,y軸,半径R,ビーズの偏角θを示す.つり合いの点は示さない.
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考え方 速さはR と角速度から求め,U の極小を安定なつり合いとする.

  1. L=mR2θ˙2/2−kR2cos2⁡θ/2 から,mR2θ¨=kR2sin⁡θcos⁡θ.

  2. 1周の範囲で θ=0,π/2,π,3π/2.x=0 となる π/2,3π/2 が安定で,0,π は不安定.θ=π/2+ξ なら sin⁡θcos⁡θ≈−ξ なので,ξ¨=−(k/m)ξ,角振動数は k/m.

確かめ:位置エネルギーの曲率も慣性もR2 に比例し,振動数からR が消える.k=0 なら円環に沿う等速運動になる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

固定されたらせん形の細い管の中心線が x=Rcos⁡q,y=Rsin⁡q,z=bq である.z は鉛直上向き,R,b>0 は定数である.管内を質量 m の小球が摩擦なく動き,U=mgz とする.

  1. 自由度,L,q の運動方程式を求めよ.

  2. q(0)=q˙(0)=0,R=0.30m,b=0.40m,g=9.8ms−2 として,2.0秒後の高さと速さを求めよ.

鉛直な軸のまわりの固定らせん管と小球を描く.半径R,1巻きの高さ2πb,上向きのz軸を示す. 鉛直な軸のまわりの固定らせん管と小球を描く.半径R,1巻きの高さ2πb,上向きのz軸を示す.
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考え方 水平な回転と鉛直な移動を両方,速さに数える.

  1. 自由度1.v2=(R2+b2)q˙2 なので L=m(R2+b2)q˙2/2−mgbq.よって q¨=−gb/(R2+b2).

  2. R2+b2=0.25m2 より q¨=−15.68s−2.q=−7.84t2,q˙=−15.68t で,2.0秒後は z=bq=−12.544m,v=R2+b2|q˙|=15.68ms−1.2桁で−13m,16ms−1.

確かめ:丸める前の値で v2/2=122.9312m2s−2=−gz.K+U は初めと同じ0である.第12章の総合演習24(1)で扱った固定らせんと同じ運動である.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m の小球が,自然の長さ l0,ばね定数 k の軽いばねで固定点からつられ,鉛直面内を動く.ばねの長さを r>0,鉛直下向きからの角を θ とし,U=k(r−l0)2/2−mgrcos⁡θ とする.

  1. L と2本の運動方程式を求めよ.

  2. 安定なつり合い (r0,0) と,その近くの小さな縦振動・横振動の角振動数を求めよ.

固定点から斜め下へ伸びたばねと小球を描く.長さrと鉛直下向きからのθ,自然の長さl₀の別の見本を示す. 固定点から斜め下へ伸びたばねと小球を描く.長さrと鉛直下向きからのθ,自然の長さl₀の別の見本を示す.
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考え方 自由度は2.小さなずれとその微分の積を捨て,方程式の1次の項を残す.

  1. L=m(r˙2+r2θ˙2)/2−k(r−l0)2/2+mgrcos⁡θ.方程式は

mr¨=mrθ˙2−k(r−l0)+mgcos⁡θ,ddt(mr2θ˙)=−mgrsin⁡θ

である.

  1. r0=l0+mg/k.r=r0+ρ,θ を小さいとして1次まで残すと,mρ¨=−kρ,θ¨=−(g/r0)θ.角振動数はそれぞれ k/m,g/r0.1次では独立である.

確かめ:k→∞ では縦振動が非常に速くなり,r0→l0.長さを固定した振り子の横振動に戻る.有限振幅では縦と横の運動が結びつく.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

水平レールを摩擦なく動く質量M の台車に,長さl の軽い棒と質量m の小球の振り子をつける.台車位置をX,棒の鉛直下向きからの角をθ とし,鉛直面内を動く.台車の運動は未知である.

  1. L と X に対応する保存量を求めよ.

  2. 全水平運動量が0のとき,X を消去して θ の方程式を求め,θ=0 のまわりの角振動数を答えよ.

水平レール上の台車Mと棒の振り子mを描く.台車のX,棒のl,鉛直下向きからのθを示す. 水平レール上の台車Mと棒の振り子mを描く.台車のX,棒のl,鉛直下向きからのθを示す.
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考え方 自由度は2.水平運動量の保存を使って台車の運動を消す.

  1. 小球の位置は (X+lsin⁡θ,−lcos⁡θ).したがって

L=12(M+m)X˙2+mlX˙θ˙cos⁡θ+12ml2θ˙2+mglcos⁡θ

X は循環座標で,pX=(M+m)X˙+mlθ˙cos⁡θ が保存する.

  1. pX=0 より X˙=−mlθ˙cos⁡θ/(M+m).一方,θ の方程式は lθ¨+X¨cos⁡θ+gsin⁡θ=0.保存量を時間で微分して X¨ を消すと

l(1−mM+mcos2⁡θ)θ¨+mlM+msin⁡θcos⁡θθ˙2+gsin⁡θ=0

小角では θ¨=−g(M+m)θ/(lM) なので,ω=g(M+m)/(lM).

確かめ:M→∞ で固定支点の g/l に戻る.台車の逆向きの動きで有効な慣性が減り,振動が速くなる.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

鉛直な軸を持つ固定円すい面の内側を,質量 m のビーズが摩擦なく動く.頂点からの高さは z=rcot⁡α,r>0 は軸からの距離,0<α<π/2 は面と軸のなす角である.方位角を φ,U=mgz とする.

  1. L,保存量 pφ,エネルギーを書け.

  2. pφ=J≠0 として,一定の半径 r0 を回る運動を求めよ.半径を少し変えた運動の角振動数も求めよ.

円すい面とその内側のビーズを斜めから描く.軸からの距離r,高さz,母線と鉛直軸の角α,方位角φを示す. 円すい面とその内側のビーズを斜めから描く.軸からの距離r,高さz,母線と鉛直軸の角α,方位角φを示す.
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考え方 方位角の保存量を使い,半径を実効ポテンシャルで調べる.

  1. z˙=r˙cot⁡α より

L=mr˙22sin2⁡α+12mr2φ˙2−mgrcot⁡α,pφ=mr2φ˙=J

E=mr˙2/(2sin2⁡α)+J2/(2mr2)+mgrcot⁡α である.

  1. Ueff=J2/(2mr2)+mgrcot⁡α の極小を求める.Ueff′=−J2/(mr3)+mgcot⁡α=0 より r03=J2/(m2gcot⁡α),方位角の角速度は φ˙0=J/(mr02).さらに Ueff″(r0)=3J2/(mr04).半径方向の慣性は m/sin2⁡α なので

ωr2=3J2sin2⁡αm2r04=3gsin⁡αcos⁡αr0

となり,正なので安定である.

確かめ:ωr2=3φ˙02sin2⁡α.J=0 では有限の r0 はなく,ビーズは頂点へ向かうので,この展開の対象外である.

ポイント 教える人へ

各部分の位置と自由度を確かめさせてください.ばねの伸びは拘束ではありません.演習4では支点の運動が既知か未知か,演習5では運動エネルギーの係数が振動数にどう効くかを問いかけます.

19光の速さと時空

問い

19世紀の終わりから,光の速さを,向きを変えたり,地球の公転の向きに沿ったり逆らったりして,精密に測る実験が繰り返されました.結果はいつも同じで,光の速さは,観測する人がどう動いていても,光源がどう動いていても,c=2.998×108ms−1 でした.ガリレイ変換では,速度は足し算になるはずです.光を追いかけて走れば,光は遅く見えるはずなのに.時間と空間について,何を考え直さなければならないのでしょうか.

考えてみる

ガリレイ変換 x′=x−Vt,t′=t からは,速度の足し算 u′=u−V が出ます.光の速さがどの慣性系でも c なら,この式のどこかが間違っていることになります.空間の座標を変えるだけでは直りません.疑わしいのは,前の題材から何度か「仮定」と断ってきた t′=t,つまり時間はどの慣性系でも同じように進む,という考えです.

法則 アインシュタインの2つの原理

  1. 相対性原理:すべての慣性系で,物理法則は同じ形をしている(力学だけでなく,光の現象も含めて).

  2. 光速不変の原理:真空中の光の速さは,どの慣性系で測っても,光源の動きによらず,同じ値 c である.

2つとも経験の事実です.ガリレイの相対性原理との違いは,光を含めてすべての法則に相対性原理を求めることと,ガリレイ変換を前提にしないことです.

光時計と時間の遅れ

2枚の平行な鏡を距離 d だけ離して向かい合わせ,その間を光が往復する時計を考えます.光が1往復するたびに1回「刻む」とします.時計が止まって見える慣性系では,1往復の時間は

Δτ=2dc

です.

この時計が,鏡に平行な向きに速さ v で動いて見える慣性系 K から見ます.K では,光は鏡の間を斜めに進みます.1往復の時間を Δt とすると,その間に時計は vΔt 進むので,光が片道に進む道のりは d2+(vΔt/2)2 です.光速不変の原理から K でも光の速さは c なので

(cΔt2)2=d2+(vΔt2)2

で,d=cΔτ/2 を使って解くと

Δt=Δτ1−v2/c2=γΔτ,γ=11−v2/c2

です.γ≥1 なので,動いている時計の刻みは,止まっている時計の刻みより長く見えます.

[図:光時計の1往復と時間の遅れ]

鏡の間隔d = 1.0 m,初期速度v = 0.60c.同じ慣性系Kの同じ時刻で,止まった時計と右へ動く時計を並べる.右の光路は斜めで,1往復にかかるKの時間はγ倍になる.薄い鏡は動く時計の1往復の始点と終点の位置.速度と時刻を操作でき,動きを減らす設定では自動再生しない.

相対性原理から,これは光時計に限りません.もしほかの時計(振り子,原子の振動,生き物の老化)が別の遅れ方をしたら,2つの時計を比べて「自分が動いているか」が分かってしまうからです.動いているもの全体で,時間がゆっくり進むのです.

定理 時間の遅れ

慣性系 K に対して速さ v で動く時計が刻む時間 Δτ と,その間に K で経過する時間 Δt の間には Δt=γΔτ の関係がある.時計とともに動く系で測った時間 τ を固有時という.

不変な間隔

光時計の式を書き直すと,時計が K で進んだ距離 Δx=vΔt を使って

c2Δt2−Δx2=c2Δτ2

です.右辺は時計自身の固有時だけで決まるので,どの慣性系から見ても同じ値です.一般に,2つの出来事(ある場所,ある時刻に起こること)の間の

Δs2=c2Δt2−Δx2−Δy2−Δz2

を間隔といい,これはすべての慣性系で同じ値をとります.時間の差と空間の差は,それぞれは慣性系によって変わりますが,この組み合わせは変わりません.これが,時間と空間をまとめて時空と考える理由です.運動する粒子の固有時は,ごく短い時間 dt について

dτ=dsc=dt1−v2c2

です.

ローレンツ変換

慣性系 K に対して x 方向に速さ V で動く慣性系 K' の座標は,間隔を変えないように選ぶと,次のようになります(導き方は数学の節).

定理 ローレンツ変換

x′=γ(x−Vt),t′=γ(t−Vc2x),y′=y,z′=z,γ=11−V2/c2

V が c よりずっと小さければ γ≈1,Vx/c2≈0 で,ガリレイ変換に戻ります.私たちの日常で t′=t が正しく見えるのは,身のまわりの速さが光の速さよりはるかに小さいからでした.

[図:ローレンツ変換した時空の軸]

初期速度V = 0.60c.Kの直交軸に対し,青いx′軸と緑のct′軸が光の45度の線へ傾く.目盛りはx′またはct′が1,2,3となる出来事を逆ローレンツ変換して打ち,画面内に収まる分を表示する.スライダー操作だけで変化し,自動アニメーションは行わない.

ローレンツ変換からは,いくつか驚くことが出てきます.

  • 同時の相対性:K で同じ時刻(Δt=0)に違う場所(Δx≠0)で起こる2つの出来事は,K' では Δt′=−γVΔx/c2 だけずれた時刻に起こる.

  • 長さの縮み:K' で止まっている長さ L0 の棒は,K では L=L0/γ に縮んで見える.

  • 速度の合成:K で速さ u で x 方向に動く物体の,K' での速さは

u′=u−V1−uV/c2

u=c なら u′=c で,光の速さはどの系でも c になる.

問いに戻る

光の速さがどの慣性系でも同じであることと,相対性原理を両方認めると,時間はどの慣性系でも同じように進む,という考えを捨てなければなりません.動いている時計はゆっくり進み,時間の差と空間の差は混ざり合います.変わらないのは間隔 c2Δt2−Δx2−Δy2−Δz2 です.慣性系の間の座標の関係は,ガリレイ変換ではなくローレンツ変換で,速さが c よりずっと小さいときだけガリレイ変換で近似できます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 相対性原理と光速不変の原理(どちらも経験の事実)から出発する.

  • 光時計から時間の遅れ Δt=γΔτ,γ=1/1−v2/c2.時計とともに動く系の時間が固有時.

  • 間隔 Δs2=c2Δt2−Δx2−Δy2−Δz2 はすべての慣性系で同じ.固有時は dτ=dt1−v2/c2.

  • 慣性系の間はローレンツ変換でつながる.V が c よりずっと小さいとき,ガリレイ変換に戻る.

  • 同時の相対性,長さの縮み,速度の合成で光速を超えないこと.

20ローレンツ変換を導く

本体の節では,ローレンツ変換を結果だけ示しました.ここで,間隔が変わらないという条件から導きます.あわせて,γ の近似と速度の合成の計算を練習します.

定理 数学の道具:γ の近似

β=v/c が小さいとき,(1+x)n≈1+nx(|x| が1よりずっと小さいとき)から

γ=(1−β2)−1/2≈1+12β2,1−β2≈1−12β2

である.

ローレンツ変換の導出

K' は K に対して x 方向に速さ V で動き,t=t′=0 で2つの原点が重なるとします.空間と時間が一様なので,変換は1次式とします(場所や時刻によって変換の仕方が変わらないため).y′=y,z′=z とし,K' の原点 x′=0 は K で x=Vt にあるので

x′=γ(x−Vt),t′=at+bx

と書けます.γ,a,b は V で決まる定数です.間隔が変わらない条件 c2t′2−x′2=c2t2−x2 がすべての t,x で成り立つように,t2,x2,tx の係数を比べると

c2a2−γ2V2=c2,c2b2−γ2=−1,c2ab+γ2V=0

です.1つ目と2つ目から a2=1+γ2V2/c2,b2=(γ2−1)/c2.3つ目を2乗して a2b2=γ4V2/c4 に代入すると

(c2+γ2V2)(γ2−1)=γ4V2

で,整理すると γ2(c2−V2)=c2,つまり γ=1/1−V2/c2 です.すると a2=γ2 で a=γ(V→0 で t′=t に戻るように正の側),3つ目から b=−γV/c2 です.これで本体の節の式が出ました.

定理 数学の道具:速度の合成

K で x=ut と動く物体を K' から見ると,x′=γ(u−V)t,t′=γ(1−uV/c2)t なので

u′=x′t′=u−V1−uV/c2

練習1 v=0.60c と v=0.80c のときの γ を求めよ.

練習2 v=300ms−1(ジェット機ほど)のとき,γ−1 はいくらか.

答え 練習1:1−0.36=0.80 で γ=1.25.1−0.64=0.60 で γ≈1.67.練習2:γ−1≈12(3003.0×108)2=5.0×10−13.日常の速さでは,時間の遅れは測れないほど小さい.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

上空で生まれたミュー粒子は,止まっていれば平均 2.2μs で崩壊する.速さ 0.995c で地表へ向かうミュー粒子について答えよ.c=3.0×108ms−1 とする.

  1. 時間の遅れを考えないと,崩壊までに平均どれだけ進むか.

  2. 地上から見た平均の寿命と,崩壊までに進む平均の距離を求めよ.

上空の同じ生成点から,(1)と(2)で考える平均の距離だけ進んだ位置を印で示す.高さの目盛りは等間隔で,図の距離比は速さ0.995cから計算したもの.距離の数値は示していない. 上空の同じ生成点から,(1)と(2)で考える平均の距離だけ進んだ位置を印で示す.高さの目盛りは等間隔で,図の距離比は速さ0.995cから計算したもの.距離の数値は示していない.
解答を見る

考え方 ミュー粒子とともに動く系での寿命が固有時 Δτ=2.2μs.地上ではそれが γ 倍に延びる.

  1. 0.995×3.0×108×2.2×10−6≈6.6×102m.

  2. γ=1/1−0.9952=1/0.009975≈10.0.寿命は γΔτ≈22μs,進む距離は 0.995c×22μs≈6.6km.

確かめ:上空10 km ほどで生まれたミュー粒子の多くが地表に届くことが観測されていて,これは時間の遅れを考えないと説明できない.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

地上に対して速さ 0.60c で飛ぶ宇宙船が,進む向きに,宇宙船に対して速さ 0.60c で小さな探査機を打ち出した.地上から見た探査機の速さを求めよ.

解答を見る

考え方 宇宙船の系を K,地上の系を K' とすると,K' は K に対して V=−0.60c で動く.K での探査機の速さ u=0.60c を速度の合成の式に入れる.

u′=0.60c−(−0.60c)1−0.60×(−0.60)=1.20c1.36≈0.88c

確かめ:ガリレイ変換なら 1.20c になるが,相対論では c を超えない.u と V が c よりずっと小さければ,分母が1に近く,ふつうの足し算に戻る.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

GPS の衛星は,地上に対して約 3.9kms−1 で動いている.衛星の運動による時間の遅れだけを考えると,衛星の時計は地上の時計に比べて1日でどれだけ遅れるか.c=3.0×108ms−1 とする.また,光の速さでこの時間に進む距離を求めよ.

地球のまわりを回るGPS衛星から,地表の受信機へ電波が届く.衛星の運動による時計のずれを考える配置の模式図.時計のずれや距離の解答値は描いていない. 地球のまわりを回るGPS衛星から,地表の受信機へ電波が届く.衛星の運動による時計のずれを考える配置の模式図.時計のずれや距離の解答値は描いていない.
解答を見る

考え方 地上の1日 Δt の間に衛星の時計が刻むのは Δτ=Δt1−β2≈Δt(1−12β2).遅れは 12β2Δt.

12β2=12(3.9×1033.0×108)2≈8.5×10−11

1日は 8.64×104s なので,遅れは 8.5×10−11×8.64×104≈7.3×10−6s,約 7μs.光がこの間に進む距離は 3.0×108×7.3×10−6≈2.2×103m,約 2km.

確かめ:GPS は電波が届く時間から距離を測るので,時計が 1μs ずれると位置は約 300m ずれる.実際の衛星では,重力による効果(逆向きに約 45μs 進む)もあり,両方を補正している.重力による時間の進み方の違いは,一般相対性理論の話題で,この本では扱わない.

ポイント ここまでのまとめ

  • β=v/c が小さいとき γ≈1+12β2.日常の速さでは γ−1 は非常に小さい.

  • 変換が1次式であることと,間隔が変わらないことから,ローレンツ変換が導ける.

  • 速度の合成は u′=(u−V)/(1−uV/c2) で,光の速さを超えない.

  • 時間の遅れは,ミュー粒子の寿命や GPS の時計で実際に観測されている.

21光の速さと時空の演習

出来事の位置と時刻を組にし,同じ時計の読みか,同時に測った2点かを区別してください.以下では c=3.0×108ms−1 とします.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

慣性系Aで静止している棒の長さは L0=15m である.慣性系Bは,棒に沿ってAに対して速さ 0.80c で動く.

  1. Bで,両端の位置を同時に測って得る棒の長さを求めよ.

  2. Aで同時に両端の位置を記録した2つの出来事をBへ変換した場合,その位置の差を棒の長さと呼べるか.

Aで静止した棒の両端P,Qと長さL₀,Bの進む向きを描く.測定値は示さない. Aで静止した棒の両端P,Qと長さL₀,Bの進む向きを描く.測定値は示さない.
解答を見る

考え方 長さは,測る系で同時に指定した両端の位置の差である.

  1. γ=1/1−0.802=5/3 なので,L=L0/γ=9.0m.

  2. Aで Δt=0,Δx=L0 とした2出来事は,Bでは Δx′=γL0=25m,Δt′=−γVL0/c2=−6.7×10−8s.同時ではないので,この 25m はBでの棒の長さではない.

確かめ:Bで同時という条件は Δt=VΔx/c2.棒はAで静止しているので Δx=L0 を入れると,Δx′=γL0(1−V2/c2)=L0/γ に戻る.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

慣性系Aで,出来事PからQまでの差が cΔt=3.0m,Δx=5.0m,Δy=Δz=0 であった.

  1. 間隔 Δs2 を求めよ.Pで発した光や,光より遅い物体がQへ届くことはあるか.

  2. PとQが同時になる慣性系Bの速度 V と,Bでの位置の差を求めよ.

横軸x,縦軸ctにPとQを置き,Pを通る左右の光の道すじを破線で示す.Qの座標を問題の値で示す. 横軸x,縦軸ctにPとQを置き,Pを通る左右の光の道すじを破線で示す.Qの座標を問題の値で示す.
解答を見る

考え方 時間差を長さの単位へそろえ,変換後の時間差を0とおく.

  1. Δs2=3.02−5.02=−16m2.PからQへ進むには平均速度 Δx/Δt=5c/3 が必要なので,光や光より遅い物体では届かない.

  2. Δt′=γ(Δt−VΔx/c2)=0 より V/c=cΔt/Δx=0.60.γ=1.25 で,Δx′=1.25(5.0−0.60×3.0)=4.0m.

確かめ:Bでの間隔は 02−4.02=−16m2.同じ場所で起こる系はない.その場合は間隔が0以上となり,矛盾する.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

慣性系Aで,x=−d と x=d に静止した2つの発光器が,t=0 に原点へ向けて光を出す.受信器はその瞬間原点にあり,x=vt,0<v<c で右へ動き続ける.d=120m,v=0.60c とする.

  1. 右と左からの光を受け取るAでの時刻をそれぞれ求めよ.

  2. 2回の受信の間に,受信器自身の時計が刻む時間を求めよ.どちらの光が先に届くか.

左右の発光器を−d,dに置き,t=0で原点にいる受信器の右向き速度vと,2本の光の向きを示す. 左右の発光器を−d,dに置き,t=0で原点にいる受信器の右向き速度vと,2本の光の向きを示す.
解答を見る

考え方 Aで光と受信器の位置が一致する時刻を求める.受信は同じ時計の上で起こる.

  1. 右からの光は x=d−ct なので tR=d/(c+v)=2.5×10−7s.左からの光は x=−d+ct なので tL=d/(c−v)=1.0×10−6s.

  2. Aでの受信時間差は Δt=7.5×10−7s.γ=1.25 より Δτ=Δt/γ=6.0×10−7s.右からの光が先に届く.

確かめ:同時の発光でも,受信は同時とは限らない.v→0 なら2つの受信時刻は同じ d/c に戻る.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

慣性系Aの原点にある送受信器が,t=0 に右向きに光を出す.反射器は x=d+vt を動き,v=0.60c である.光は反射器で直ちに左向きに反射され,原点に T=3.0×10−6s 後に戻った.

  1. 反射した時刻と位置,t=0 における距離 d を求めよ.

  2. 反射器の時計は,Aで t=0 のとき0を示していた.反射のときの時計の読みを求めよ.cT/2 を初めの距離とする見積もりが,なぜ誤るかも説明せよ.

横軸x,縦軸ctに原点の送受信器の縦線と,初めにx=dにある反射器の斜線を描く.往復する光の折れ線を示すが,交点の値は書かない. 横軸x,縦軸ctに原点の送受信器の縦線と,初めにx=dにある反射器の斜線を描く.往復する光の折れ線を示すが,交点の値は書かない.
解答を見る

考え方 Aでは往路と復路で光の速さも距離も同じ.光速に反射器の速度を足し引きしない.

  1. 反射時刻を tr とすると,反射位置は ctr,復路の時間は同じ tr.したがって tr=T/2=1.5×10−6s,xr=cT/2=450m.ctr=d+vtr より d=(c−v)T/2=180m.

  2. 同じ反射器の時計の2つの読みを比べるので,τr=tr/γ=1.2×10−6s.cT/2 は反射した瞬間のAでの距離であり,光を出した瞬間の距離ではない.

確かめ:反射器は往路の間に vT/2=270m 進む.初めの距離 180m にこれを足すと 450m になる.反射器が静止していれば,d=cT/2 としてよい.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

慣性系Aで,3つの出来事が P:(x,ct)=(0,0),Q:(10,6)m,R:(4,12)m で起こる.慣性系BはAに対して右へ 0.80c で動き,原点の出来事Pで両系の時刻を0とする.

  1. BでのQとRの (x′,ct′) を求めよ.

  2. PからQ,PからR,QからRへ,光または光より遅い信号を送れるか.時刻の順序が系によって逆転する組と,逆転しない組を区別して説明せよ.

x,ctの図にP,Q,Rを問題の座標で置き,Pから出る左右の光の道すじを破線で描く.信号の可否やBの座標は描かない. x,ctの図にP,Q,Rを問題の座標で置き,Pから出る左右の光の道すじを破線で描く.信号の可否やBの座標は描かない.
解答を見る

考え方 変換は x′=γ(x−0.80ct),ct′=γ(ct−0.80x) と書ける.間隔と時間の向きで信号の可否を判断する.

  1. γ=5/3 より,Qは (26/3,−10/3)m,Rは (−28/3,44/3)m.BではQはPより前,RはPより後に起こる.

  2. PとQの間隔は 62−102=−64m2 で,信号は送れない.この組の順序は系によって逆転する.PからRは 122−42=128m2>0 で,速さ c/3 の信号が届く.QからRは Δx=−6m,cΔt=6m なので,左向きの光が届く.信号で結べるこの2組の順序は,全慣性系で同じである.

確かめ:BでQからRへの差は (Δx′,cΔt′)=(−18,18)m で,やはり左向きの光である.順序が逆転する出来事同士で,原因と結果を光速以下の信号で結ぶことはできない.

ポイント 教える人へ

どの系で同時に測るか,固有時は同じ時計の読みかを確認させてください.光の道すじから受信時刻を求め,光速の足し算をしていないかも見ます.演習5では原因と結果の順序まで逆転できると誤解していないかを確認します.

22相対論の力学

問い

この章では,自由な粒子のラグランジアン 12mv2 を,ガリレイ変換の対称性から導きました.ところが前の題材で,慣性系の間の本当の関係はガリレイ変換ではなく,ローレンツ変換だと分かりました.対称性を取り替えたら,自由な粒子のラグランジアンはどう変わるのでしょうか.そして,そこからどんな力学が出てくるのでしょうか.

考えてみる

「空間と時間の対称性」の題材では,2つの慣性系のラグランジアンが全微分しか違わない,という条件から L=12mv2 を導きました.今度は,同じ考えをローレンツ変換で行います.ただ,計算でやるより早い道があります.作用 S そのものを,どの慣性系で計算しても同じ値になる量で作ればよいのです.

自由な粒子の経路に対して,どの慣性系で計算しても同じになる量は何でしょうか.前の題材で見つけた,粒子が持つ時計の刻む時間,つまり固有時です.

自由な粒子のラグランジアン

自由な粒子の作用を,経路に沿った固有時に比例するとおきます.

S=−α∫dτ=−α∫1−v2c2dt

α は粒子ごとの定数です.dτ は,どの慣性系で計算しても同じなので,この作用は相対性原理を満たしています.時間で積分する形に直すと,ラグランジアンは L=−α1−v2/c2 です.

α を決めるために,速さが c よりずっと小さい場合を考えます.1−v2/c2≈1−v22c2 なので

L≈−α+α2c2v2

です.定数 −α は運動に影響しません.残りが,ガリレイの世界で導いた 12mv2 に一致するには,α=mc2 でなければなりません.

定理 相対論の自由な粒子のラグランジアン

L=−mc21−v2c2

v が c よりずっと小さいとき,定数を除いて 12mv2 に戻る.

対称性をガリレイ変換からローレンツ変換に替えると,自由な粒子のラグランジアンも替わり,それがそのまま新しい力学になります.ガリレイの力学は,その v が c よりずっと小さいときの近似でした.

作用に負号が付いているので,作用が最小になる経路は,固有時が最大になる経路です.自由な粒子は,2つの出来事の間を,持っている時計がいちばん長く時を刻む道すじで進みます.地球に残った人と,宇宙船で往復してきた人が再会すると,加速しなかった地球の人のほうが年をとっている,という「双子のパラドックス」の答えがここにあります.

例として地球の10年間に,宇宙船が速さ0.60cで5年ずつ往復する.点の間隔は両者とも固有時1年.地球の10目盛りに対し宇宙船は8目盛りとなる.折り返しは瞬間的な方向転換として描く. 例として地球の10年間に,宇宙船が速さ0.60cで5年ずつ往復する.点の間隔は両者とも固有時1年.地球の10目盛りに対し宇宙船は8目盛りとなる.折り返しは瞬間的な方向転換として描く.

運動量とエネルギー

「対称性と保存則」の題材で見たように,一般化運動量とエネルギーは,ラグランジアンから決まります.

p=∂L∂v=mv1−v2/c2=γmv,E=p⋅v−L=mc21−v2/c2=γmc2

(計算は数学の節).空間と時間が一様なら,ネーターの定理から,閉じた系の運動量の和とエネルギーの和が保存します.保存則の成り立つ理由は,ガリレイの世界と同じです.変わったのは,運動量とエネルギーの式の形です.

定理 相対論の運動量とエネルギー

p=γmv,E=γmc2,E2=(pc)2+(mc2)2

この式から,次のことが分かります.

  • 静止エネルギー:止まっている粒子(v=0)も E=mc2 のエネルギーを持つ.v が c よりずっと小さいとき E≈mc2+12mv2 で,運動エネルギーは E−mc2=(γ−1)mc2.

  • 光速の壁:v→c で γ→∞ なので,E も p も限りなく大きくなる.質量のある粒子を光の速さまで加速するには,無限のエネルギーが要る.

  • 質量のない粒子:m=0 なら E=pc で,E と p が有限なら v=c でなければならない.光は,このような粒子(光子)の集まりと見なせる.

質量はエネルギーの一つの形

ガリレイの世界では,閉じた系の質量は粒子の質量の和でした.相対論では,保存するのはエネルギーの和で,質量の和ではありません.同じ質量 m の2つの粒子が逆向きに同じ速さで衝突してくっつくと,できた1つの粒子は止まっていて,そのエネルギーは衝突前の 2γmc2 に等しいので,質量は 2γm です.衝突前の運動エネルギーが,くっついた粒子の質量に変わったのです.逆に,原子核が分裂すると,分裂後の質量の和は少しだけ小さくなり,その差 Δm に c2 を掛けた分のエネルギーが出てきます.

力の中での運動

外から与えられた場の中では,ガリレイの世界と同じように位置エネルギーを引いて,L=−mc21−v2/c2−U(r) とします.オイラー=ラグランジュ方程式は

ddt(γmv)=−∂U∂r

で,運動量の時間変化が力に等しい,という形になります.一定の力 F で押し続けると,運動量は p=Ft と時間に比例して増え続けますが,速さは c に近づくだけで,c を超えません(数学の節の例題).

問いに戻る

対称性をローレンツ変換に替えると,自由な粒子の作用は固有時に比例するしかなく,ラグランジアンは −mc21−v2/c2 になります.そこから運動量 γmv,エネルギー γmc2,静止エネルギー mc2 が出てきて,物体が光の速さを超えられないことも分かります.v が c よりずっと小さいときは,この章の前半で導いたガリレイの力学に戻ります.どちらの力学も,「対称性が決めた自由な粒子のラグランジアン」と「停留作用の原理」から組み立てられているのです.

ポイント ここまでのまとめ

  • 相対性原理を満たす自由な粒子の作用は,固有時に比例する:S=−mc2∫dτ,L=−mc21−v2/c2.

  • v が c よりずっと小さいとき,定数を除いて 12mv2 に戻る.ガリレイの力学はその近似.

  • 自由な粒子は固有時が最大になる道すじを進む(双子のパラドックス).

  • 運動量 p=γmv,エネルギー E=γmc2,E2=(pc)2+(mc2)2.静止エネルギー mc2.

  • 保存するのはエネルギーの和で,質量の和ではない.質量はエネルギーの一つの形.

  • 場の中では d(γmv)/dt=−∂U/∂r.押し続けても速さは c を超えない.

23相対論の運動量とエネルギーの計算

相対論のラグランジアンから運動量とエネルギーを出す計算と,エネルギーと運動量の関係を確かめます.γ を含む式は,γ のままで計算を進め,最後に数値を入れると楽です.

定理 数学の道具:1−v2/c2 の微分

v2=vx2+vy2+vz2 について,合成関数の微分により

∂∂vx1−v2c2=12(1−v2c2)−1/2⋅(−2vxc2)=−γvxc2

これを使うと,L=−mc21−v2/c2 から ∂L/∂vx=γmvx で,p=γmv です.エネルギーは

E=p⋅v−L=γmv2+mc2γ=γm[v2+c2(1−v2c2)]=γmc2

です.1γ=γ(1−v2c2) を使いました.

定理 数学の道具:エネルギーと運動量の関係

E2−(pc)2=γ2m2c4−γ2m2v2c2=γ2m2c4(1−v2c2)=(mc2)2

また,pc2=Ev,つまり v=pc2E である.

練習1 v=0.60c の粒子の運動エネルギーは,静止エネルギーの何倍か.12mv2 と比べよ.

練習2 E=pc の粒子の速さを,v=pc2/E から求めよ.

答え 練習1:γ=1.25 なので (γ−1)mc2=0.25mc2.12mv2=0.18mc2 で,相対論の値のほうが大きい.練習2:v=pc2/(pc)=c.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

静止していた電子(質量 9.1×10−31kg)を加速して,運動エネルギーを 1.6×10−13J にした.c=3.0×108ms−1 とする.

  1. 静止エネルギーと γ を求めよ.

  2. 電子の速さを c を単位として求めよ.運動エネルギーを 12mv2 として速さを出すと,どうなるか.

解答を見る

考え方 運動エネルギーは (γ−1)mc2.γ が分かれば β=1−1/γ2.

  1. mc2=9.1×10−31×(3.0×108)2≈8.2×10−14J.γ=1+1.6×10−138.2×10−14≈2.95.

  2. β=1−1/2.952≈1−0.115≈0.94.速さは 0.94c.12mv2 とすると v=2×1.6×10−13/9.1×10−31≈5.9×108ms−1 で,光の速さの約2倍という,ありえない値になる.

確かめ:運動エネルギーが静止エネルギーと同じ程度になると,ガリレイの力学の式は使えない.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m の2つの粒子が,ある慣性系で逆向きにどちらも速さ 0.60c で進み,正面衝突してくっついた.

  1. くっついた粒子の速さと質量 M を求めよ.

  2. 衝突前の運動エネルギーの和と,Mc2−2mc2 を比べよ.

同じ質量mの2粒子が互いに向かって速さ0.60cで進む.下段は合体後の1粒子を速度矢印なしで示す.合体後の質量Mやエネルギーは示していない. 同じ質量mの2粒子が互いに向かって速さ0.60cで進む.下段は合体後の1粒子を速度矢印なしで示す.合体後の質量Mやエネルギーは示していない.
解答を見る

考え方 運動量の和とエネルギーの和が保存する.質量の和は保存しない.

  1. 運動量の和は衝突前に0なので,くっついた粒子は止まっている.エネルギーの和は 2γmc2=2×1.25mc2=2.5mc2 で,止まっている粒子のエネルギーは Mc2 なので M=2.5m.

  2. 衝突前の運動エネルギーの和は 2(γ−1)mc2=0.50mc2.Mc2−2mc2=0.50mc2 で等しい.

確かめ:ガリレイの力学では,運動エネルギーは熱などに変わって「消え」,質量は 2m のままだった.相対論では,熱も含めたすべてのエネルギーが質量として数えられる.ふつうの衝突では増える質量がごくわずかなので,気づかないだけである.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の宇宙船が,静止の状態から,地上の系で一定の力 F=mg(g=9.8ms−2)を受け続ける.

  1. 時刻 t の速さ v を求めよ.

  2. v=0.99c になるまでの時間を求めよ(年で答えよ).ガリレイの力学で計算した時間と比べよ.c=3.0×108ms−1,1年 =3.16×107s とする.

細い直線はg = 9.8 m s⁻²で計算したガリレイの予測v = gt.水平な点線はv = c.相対論での曲線や到達時間の答えは描いていない. 細い直線はg = 9.8 m s⁻²で計算したガリレイの予測v = gt.水平な点線はv = c.相対論での曲線や到達時間の答えは描いていない.
解答を見る

考え方 運動方程式 dp/dt=F から p=Ft.p=γmv を v について解く.

  1. γβ=gtc(β=v/c).γβ=β/1−β2 を β について解くと

v=gt1+(gt/c)2

t が小さければ v≈gt,t→∞ で v→c.

  1. β=0.99 では γβ=0.99/1−0.9801≈7.02.t=7.02×3.0×1089.8≈2.15×108s≈6.8 年.ガリレイの力学では t=0.99c/g≈3.0×107s≈0.96 年.

確かめ:速くなるほど,同じ力で同じだけ運動量が増えても,速さはわずかしか増えない.v は決して c に届かない.

ポイント ここまでのまとめ

  • L=−mc21−v2/c2 を微分して p=γmv,E=p⋅v−L=γmc2.

  • E2−(pc)2=(mc2)2,v=pc2/E.

  • 運動エネルギー (γ−1)mc2 が静止エネルギーと同じ程度になると,12mv2 は使えない.

  • 衝突では運動量とエネルギーの和が保存し,質量の和は保存しない.

  • 一定の力では p=Ft で運動量は増え続けるが,速さは c に近づくだけ.

24相対論の力学の演習

全エネルギーE と運動エネルギーK を区別し,衝突・放射ではE と運動量を保存させてください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

質量 m の自由な粒子の運動量の大きさが p=3mc である.E,K,速さ v を求め,p=mv として速さを求めた場合と比べよ.

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考え方 運動量から正のエネルギーを求め,v=pc2/E を使う.

E=10mc2,K=(10−1)mc2.v=pc2/E より v=3c/10≈0.949c.p=mv とすると v=3c となり,光速を超えてしまう.

確かめ:この速さの γ は 10 で,γmv=3mc に戻る.運動量が mc よりずっと小さければ E≈mc2+p2/(2m),v≈p/m となるが,この粒子にはその近似を使えない.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m の粒子が,1次元の外場 U=kx2/2,k>0 の中を動く.x=a>0 で静止させて放し,ka2=2mc2 とする.

  1. ラグランジアンと保存するエネルギーを書け.

  2. x=0 での速さと運動量の大きさを求めよ.反対側の折り返し位置も答えよ.

x軸と対称な放物線形のUのグラフに,初めの位置aを示す.折り返し位置と速さは描かない. x軸と対称な放物線形のUのグラフに,初めの位置aを示す.折り返し位置と速さは描かない.
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考え方 時間の一様性からE=γmc2+U が保存する.

  1. L=−mc21−x˙2/c2−kx2/2,p=γmx˙.E=px˙−L=γmc2+kx2/2 で,初めの値は E=mc2+ka2/2=2mc2.

  2. 原点で γ=2 なので v=3c/2,|p|=3mc.左へ進むので,符号付きではp は負である.折り返すと γ=1 に戻り,kx2/2=mc2 だから,反対側は x=−a.

確かめ:原点の K=mc2 は初めの U に等しい.K=mv2/2 とすれば v=2c となるので,この設定では低速近似が破れる.一方,折り返し位置は,両端で K=0 なので低速の式でも同じになる.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

一定の質量 m を持つ粒子に,慣性系Aで1次元の外力 F(t)=F0cos⁡ωt が働く.F0,ω>0,p(0)=0 とし,0≤t≤π/ω を考える.ここでは力を p˙=F(t) で定義する.

  1. 運動量と速さの時間変化,最大の速さを求めよ.

  2. この間の力の仕事を求めよ.粒子は元の位置へ戻るか.

横軸ωt,縦軸F/F₀に,0からπまでの余弦曲線を描く.粒子の速度や変位は描かない. 横軸ωt,縦軸F/F₀に,0からπまでの余弦曲線を描く.粒子の速度や変位は描かない.
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考え方 加速度ではなく運動量を積分する.速度は v=pc2/E,仕事は dE=vdp から求める.

  1. p=(F0/ω)sin⁡ωt.A=F0/(mωc) とおくと

v(t)=cAsin⁡ωt1+A2sin2⁡ωt

この区間では非負なので,速度と速さが一致する.最大は t=π/(2ω) で vmax=cA/1+A2.有限の A では光速より小さい.

  1. E=p2c2+m2c4 を微分すると E˙=(pc2/E)p˙=vF.初めも終わりも p=0 なので,仕事は E(π/ω)−E(0)=0.ただし途中で v>0 なので,変位は正であり元の位置へは戻らない.

確かめ:前半では力が正でエネルギーが増え,後半では力が負で同じだけ減る.A が1よりずっと小さいなら,v≈(F0/(mω))sin⁡ωt に戻る.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の粒子が右へ 0.80c で進み,静止した質量 2m の粒子と衝突してくっつく.外へ光や物質は出ない.衝突後の物体の速度 V,質量 M,初めの質量の和からの増加を求めよ.

右向きに進む粒子mと静止した粒子2mを描き,衝突後は1つの物体Mになることだけを示す.衝突後の速度や質量の値は描かない. 右向きに進む粒子mと静止した粒子2mを描き,衝突後は1つの物体Mになることだけを示す.衝突後の速度や質量の値は描かない.
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考え方 全運動量は0ではないので,衝突後も物体は動く.衝突後のエネルギーをそのまま Mc2 としてはいけない.

初めの粒子の γ=5/3 より,保存する全エネルギーは Etot=(5/3+2)mc2=11mc2/3,全運動量は P=4mc/3.衝突後の1物体に V=Pc2/Etot を使って

V=411c,M=Etot2−P2c2c2=1053m≈3.42m

したがって質量の増加は約 0.416m.

確かめ:γV=11/105 より,γVM=11m/3,γVMV=4mc/3 となり,両保存則を満たす.初めのK のうち,(M−3m)c2 は内部エネルギー,残りは全体の運動エネルギーとなる.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

静止した質量 M の励起状態の粒子が,右向きに光子を1個出し,質量 m の粒子になる.M>m>0 とし,外からの影響はない.光子のエネルギーを ϵ,残った粒子の速度を u とする.

  1. ϵ と u を求めよ.

  2. M=2m の場合の値を答え,(M−m)c2 のすべてが光子のエネルギーにならない理由を説明せよ.

粒子Mが右へ光子を出す前後を並べ,放射後の粒子mと光子を描く.mの運動方向と速さは示さない. 粒子Mが右へ光子を出す前後を並べ,放射後の粒子mと光子を描く.mの運動方向と速さは示さない.
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考え方 光子の運動量の大きさは ϵ/c.初めの全運動量が0なので,残った粒子も同じ大きさの運動量を逆向きに持つ.

  1. 残った粒子は p=−ϵ/c,Em=Mc2−ϵ.Em2−p2c2=m2c4 を使うと

(Mc2−ϵ)2−ϵ2=m2c4,ϵ=M2−m22Mc2

さらに u=pc2/Em だから,u=−c(M2−m2)/(M2+m2).

  1. ϵ=3mc2/4,u=−3c/5.残った粒子の Em=5mc2/4 より,その K=mc2/4.質量差のエネルギー mc2 は,光子のエネルギーと反跳する粒子の K に分かれる.

確かめ:M→m で ϵ→0,u→0.M=2m では γu=5/4,p=(5/4)m(−3c/5)=−3mc/4 となり,光子の運動量 3mc/4 と打ち消し合う.

ポイント 教える人へ

E とK を区別し,力の積分が運動量になることを確認させてください.演習4では衝突後も全体が動くこと,演習5では反跳の運動量も保存することを問いかけます.

25対称性から見た力学の全体像

問い

この章では,力も運動方程式も使わずに,いくつかの事実と1つの原理から力学を組み立て直しました.前の章までに「法則」として受け入れたもののうち,何が「定理」に変わり,何が本当の出発点として残ったのでしょうか.そして,出発点に置いた停留作用の原理は,なぜ成り立つのでしょうか.

法則から定理へ

前の章までの力学と,この章の組み立てを並べます.

前の章での位置づけ

この章での出どころ

慣性の法則(第4章)

空間と時間の一様性・等方性から出る定理

運動エネルギー 12mv2(第6章)

ガリレイの相対性原理で決まる自由な粒子のラグランジアン

質量

ラグランジアンに現れる粒子ごとの定数.比だけに意味がある

運動方程式 ma=F(第4章)

オイラー=ラグランジュ方程式.力は −∂U/∂r として定義される

作用反作用の法則(第4章)

空間の一様性から出る定理

エネルギーの保存(第6章)

時間の一様性(ネーターの定理)

運動量の保存(第5章)

空間の一様性(ネーターの定理)

角運動量の保存(第8章)

空間の等方性(ネーターの定理)

重心の等速運動(第5章)

ガリレイの相対性原理(ネーターの定理)

遠心力・コリオリ力(第11章)

慣性系でない座標系でラグランジアンを書くと現れる項

逆に,この章で出発点として認めたものは,次の4つです.

  1. 決定性:状態(位置と速度)を決めると未来が決まる.

  2. 停留作用の原理:実際の経路で作用が停留する.

  3. 時間と空間の対称性:慣性系の存在と,相対性原理(ガリレイ,または光速不変を含むアインシュタインの形).

  4. 相互作用の形:位置エネルギー U の具体的な形(万有引力,ばねなど).

1から3は,どんな相互作用にも共通の枠組みです.4は自然を調べて決める物理の中身で,対称性は U が満たすべき性質(平行移動や回転で変わらないこと)までしか教えてくれません.力学の法則のほとんどは,枠組みの側から出てきたのです.

ハミルトン形式

ラグランジアンでは,状態を位置と速度 (q,q˙) で表しました.代わりに位置と一般化運動量 (q,p) で表し,エネルギーを q と p の関数として書いたもの

H(q,p)=∑ipiq˙i−L

をハミルトニアンといいます.オイラー=ラグランジュ方程式は,次の1階の方程式の組に書き直せます.

q˙i=∂H∂pi,p˙i=−∂H∂qi

これをハミルトンの正準方程式といいます.s 個の2階の方程式が,2s 個の1階の方程式になりました.位置と運動量を対等に扱うこの形は,「状態と運動の法則」の題材で見た状態の平面(位相空間)の上の流れとして運動を見る見方につながり,統計力学と量子力学の出発点になります.

[図:振り子の位相空間と等エネルギー線]

m = 1.0 kg,l = 1.0 m,g = 9.8 m s⁻²の振り子.初期状態はθ = 0.80 rad,pθ = 0で,閉じた線に沿って振動する.E/(mgl)が1より小さい青い線は振動,1の橙の破線は境目,1より大きい緑の線は回転を示す.赤い線は選んだ状態の等エネルギー線.点を置くかドラッグ・入力で状態を指定し,再生すると正準方程式にしたがって動く.±πで角を折り返して表示する.動きを減らす設定では自動再生しない.

なぜ停留作用の原理が成り立つのか

この章の初めに,停留作用の原理を天下りに認めました.その理由は,量子力学にあります.

量子力学では,粒子は1本の経路を通るのではなく,ある出来事から別の出来事へ,考えられるすべての経路を「同時に通る」と考えます.各経路は,作用 S で決まる「位相」S/ℏ を持った波のように重ね合わされます(ℏ≈1.05×10−34Js はプランク定数を 2π で割ったもの).身のまわりの物体では,作用は ℏ よりけた違いに大きいので,経路を少し変えるだけで位相が大きく変わり,ほとんどの経路の寄与は打ち消し合います.打ち消し合わずに残るのは,経路を少し変えても作用が変わらない経路,つまり作用が停留する経路のまわりだけです.こうして,私たちの目には,粒子は作用が停留する経路を通るように見えるのです.

これは,光のフェルマーの原理が,光を波と考えると説明できることとまったく同じ構造をしています.この章の初めに光と運動を並べたのは,偶然ではありませんでした.この考え方を経路積分といい,ファインマンが作り上げました.

さらに先へ

対称性から法則を組み立てるこの方法は,現代の物理の基本的な考え方です.

  • 電磁気学:電荷と磁場の相互作用は速度による位置エネルギーで表され,やはりラグランジアンで書ける.光速不変の原理は,もともと電磁気学から生まれた.

  • 一般相対性理論:重力の中を自由に落ちる物体も,固有時が停留する道すじを進む.重力は,時空そのものの曲がり方として表される.

  • 素粒子の物理:自然界の基本的な力は,対称性の要請(ゲージ対称性)からその形が決まる.

ポイント ここまでのまとめ

  • 慣性の法則,運動方程式,作用反作用の法則,保存則は,決定性・停留作用の原理・時間と空間の対称性から定理として出る.

  • 物理の中身として残るのは,相互作用の形 U だけ.

  • 位置と運動量で書いたハミルトン形式は,位相空間の上の流れとして運動を表し,統計力学と量子力学につながる.

  • 停留作用の原理は,量子力学の経路積分で説明される.作用が停留する経路のまわりだけが打ち消し合わずに残る.

  • 対称性から法則を組み立てる方法は,電磁気学,一般相対性理論,素粒子の物理へとつながっている.

26第13章の章末問題

経験の事実・対称性・停留作用の原理から,方程式と保存量を組み立ててください.必要な相互作用の形は各問題で与えます.

演習 1

オリジナル ★★☆☆☆

L=mx˙2/2+bx˙−kx2/2,m,k>0 を考える.b は運動量の次元を持つ定数である.

  1. bx˙ が運動を変えない理由を作用から説明し,運動方程式を求めよ.

  2. 一般化運動量 p とハミルトニアン H(x,p) を求め,正準方程式が (1) と同じ運動を与えることを確かめよ.

横軸xに粒子と原点を置き,その上にU=kx²/2のグラフを描く.力や運動の解は描かない. 横軸xに粒子と原点を置き,その上にU=kx²/2のグラフを描く.力や運動の解は描かない.
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考え方 全微分は端点の値だけを作用に加える.ハミルトン形式では,速度を p で表してからエネルギーを書き直す.

  1. bx˙=d(bx)/dt なので,作用の増加は b(x2−x1).両端固定の変分では変わらない.方程式も d(mx˙+b)/dt=−kx から mx¨=−kx となる.

  2. p=mx˙+b,x˙=(p−b)/m.よって

H=px˙−L=(p−b)22m+12kx2

正準方程式は x˙=(p−b)/m,p˙=−kx.最初の式を微分すると mx¨=p˙=−kx.

確かめ:H の等しい曲線は (x,p) 平面で (0,b) を中心とする楕円になる.速度が0になる条件は p=b であり,p=0 とは限らない.運動そのものと,状態を表す運動量の表示を区別できる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

空間を動く3粒子の質量を ma,位置を ra,a=1,2,3 とする.外からの影響はなく,位置エネルギーは

U=κ2(|r1−r2|2+|r2−r3|2+|r3−r1|2)

である.κ>0 は定数である.

  1. L を書き,各粒子の方程式を導け.

  2. 全運動量と全角運動量の保存を,対称性と方程式の両方から示せ.各粒子の角運動量も保存するか.

異なる質量の3粒子を三角形の頂点に置き,3組の相対位置を破線で結ぶ.固定された外部の支点は描かない. 異なる質量の3粒子を三角形の頂点に置き,3組の相対位置を破線で結ぶ.固定された外部の支点は描かない.
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考え方 運動エネルギーを足し,U を位置で偏微分する.各対の寄与をまとめると,全体の保存が見える.

  1. L=∑amar˙a2/2−U.粒子1では

m1r¨1=−κ(r1−r2)−κ(r1−r3)

粒子2,3も添字を入れ替えた式になる.右辺は U から定義された力である.

  1. U は系全体の平行移動でも回転でも変わらない.したがって P=∑amar˙a,M=∑ara×mar˙a が保存する.方程式を足すと各対の力が打ち消し合い,P˙=0.角運動量の時間微分では,各対の寄与は

(ra−rb)×[−κ(ra−rb)]=0

となる.各粒子だけでは力は一般に原点を向かず,角運動量は保存しない.

確かめ:質量が異なっても,力の対の打ち消しは変わらない.時間の一様性から E=∑amava2/2+U も保存するが,個々の粒子のエネルギーは交換される.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

自由な質量 m の粒子が,慣性系Aで2つの出来事の間を等速で動き,Δx=9.0m,Δt=5.0×10−8s であった.慣性系BはAに対して右へ 0.80c で動く.c=3.0×108ms−1 とする.

  1. 両系での粒子の速度と,経路に沿う固有時を求めよ.

  2. 両系で LΔt を計算して作用を比べ,運動量とエネルギーも求めよ.作用が不変でも,エネルギーや運動量が同じ値にならない理由を説明せよ.

x,ctの図に出発と到着を置き,自由粒子の直線の経路と光の破線を描く.両系の計算結果は書かない. x,ctの図に出発と到着を置き,自由粒子の直線の経路と光の破線を描く.両系の計算結果は書かない.
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考え方 相対論の作用は −mc2Δτ.まず同じ端点をローレンツ変換し,両系での時間差を使う.

  1. Aで v=0.60c,γv=5/4,Δτ=4.0×10−8s.Bでは

Δx′=53(9.0−12)=−5.0m,Δt′=53(5.0−2.4)×10−8=133×10−8s

よって v′=−5c/13,γv′=13/12,Δτ′=Δt′/γv′=4.0×10−8s.

  1. Aで L=−4mc2/5,Bで L′=−12mc2/13.それぞれの時間差を掛けると,どちらも S=−mc2(4.0×10−8s).一方,Aでは E=5mc2/4,p=3mc/4,Bでは E′=13mc2/12,p′=−5mc/12.速度が系によって違うので,E と p も違う.

確かめ:どちらも E2−p2c2=m2c4.作用とこの組み合わせは不変である.「その系で運動中に保存する量」と「慣性系を変えても同じ量」は別の性質である.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

水平面内の直線の管を,一端Oのまわりに一定の角速度 Ω で回す.質量 m のビーズが管内をなめらかに動き,Oからの距離を r>0 とする.外場の位置エネルギーは U=kr2/2,k>0 である.

  1. L,運動方程式,保存する E=prr˙−L を求めよ.

  2. k/m>Ω2 の場合の半径方向の振動数を求めよ.管の端に達する前の運動だけを考える.K+U は保存するか.その時間変化を求めよ.

水平面を上から見て,Oを一端とする回転管,ビーズ,距離rと回転方向Ωを示す.力や半径方向の運動の解は描かない. 水平面を上から見て,Oを一端とする回転管,ビーズ,距離rと回転方向Ωを示す.力や半径方向の運動の解は描かない.
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考え方 ビーズの速度には管に沿う成分と回転する成分がある.管の回転は既知であり,自由度は1である.

  1. K=m(r˙2+Ω2r2)/2,L=mr˙2/2−(k−mΩ2)r2/2.よって mr¨=−(k−mΩ2)r,E=mr˙2/2+(k−mΩ2)r2/2 が保存する.

  2. 方程式の角振動数は ω=k/m−Ω2.ただし片側の管なので,正の r にある区間だけに解を適用する.K+U=E+mΩ2r2 だから

ddt(K+U)=2mΩ2rr˙

で,一般には保存しない.これは回転を一定に保つ装置からビーズへ移る仕事率である.

確かめ:慣性系での角運動量は Mz=mΩr2.管が加えるトルクは M˙z=2mΩrr˙,その仕事率 ΩM˙z は上式と一致する.Ω=0 なら E=K+U に戻る.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

質量 M の粒子が,慣性系Aで右へ 0.60c で動き,前後に進む2個の光子へ崩壊する.外からの影響はない.粒子自身の時計で出発から崩壊までの時間が τ0 であったとする.

  1. Aでの崩壊までの時間と移動距離を求めよ.

  2. Aで前向き,後ろ向きに出る光子のエネルギーを求めよ.元の粒子の静止系では両光子のエネルギーは同じなのに,Aでは違う理由を保存則から説明せよ.

右へ動く粒子Mと,崩壊地点から左右へ出る2個の光子を描く.光子のエネルギーの値は示さない. 右へ動く粒子Mと,崩壊地点から左右へ出る2個の光子を描く.光子のエネルギーの値は示さない.
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考え方 時計の時間は固有時である.崩壊の前後では,Aにおける全エネルギーと符号付きの全運動量を保存させる.

  1. γ=5/4 なので t0=5τ0/4,移動距離は x0=(0.60c)t0=3cτ0/4.

  2. 前向きを ϵ+,後ろ向きを ϵ− とすると

ϵ++ϵ−=54Mc2,ϵ+−ϵ−c=34Mc

よって ϵ+=Mc2,ϵ−=Mc2/4.元の粒子の静止系では全運動量が0なので,同じ大きさ・逆向きの光子が出て,それぞれ Mc2/2.Aでは初めから右向きの運動量があるため,前向きの光子のエネルギーが大きくなければならない.

確かめ:両光子のエネルギー比は4.どちらもAで速さは c であり,エネルギーの違いは光速の違いではない.ϵ++ϵ− には,静止エネルギーと初めの運動エネルギー Mc2/4 の両方が数えられている.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

1次元の外場が一定の速度 u で動き,粒子のラグランジアンが L=mx˙2/2−f(x−ut) である.f はなめらかな任意の関数である.

  1. p=mx˙,E=mx˙2/2+f(x−ut) の時間変化を求め,E−up が保存することを示せ.

  2. y=x−ut に書き直し,全微分を取り除いた L0 から求めるエネルギーとの関係を示せ.

  3. f(0)=0 とし,負の y の側に高さ U0>0 の山が1つあるとする.頂上だけが f=U0 で,それ以外の f は 0 以上かつ U0 未満,山の両側の遠方では f=0 である.x(0)=x˙(0)=0,u>0 のとき,粒子が山に捕まる(越えられず引き返す)条件と,山を越える条件を求めよ.

x軸上を右へ速度uで動く,高さU₀の山と,その右側にいる粒子を描く.山の頂上から粒子までの相対位置yを示す.粒子が山を越えるかは描かない. x軸上を右へ速度uで動く,高さU₀の山と,その右側にいる粒子を描く.山の頂上から粒子までの相対位置yを示す.粒子が山を越えるかは描かない.
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考え方 時間をずらすだけでも,場所をずらすだけでも場は変わる.同じ速度で場と一緒に動く座標を使うと,時間の一様性が現れる.

  1. 方程式から p˙=−f′(x−ut).また E˙=−uf′(x−ut)=up˙ なので,E−up は保存する.

  2. x˙=y˙+u を入れると L=my˙2/2−f(y)+muy˙+mu2/2.最後の2項は ddt(muy+mu2t/2).これを除いた L0=my˙2/2−f(y) のエネルギーは E0=my˙2/2+f(y) であり,E−up=E0−mu2/2.

    1. の E0=my˙2/2+f(y) は保存する.初期条件は y(0)=0,y˙(0)=−u,f(0)=0 なので

E0=12mu2

y˙(0)<0 より,粒子は山のある側へ進む.したがって

u<2U0m

なら E0<U0 で頂上に届かず引き返し,山に捕まる.

u>2U0m

なら山を越える.等号では頂上で相対速度が0になり,なめらかな頂上ならそこへ漸近する.

確かめ:山の両側の遠方で f=0 なので,越えたあとの相対速度の大きさは再び u になる.捕まるときの折り返し点では y˙=0 かつ f=E0<U0 である.元の系で保存する組み合わせは E−up=E0−mu2/2=0 である.

27第13章の発展問題

対称性で相互作用をどこまで絞れるか,変分法を運動以外へどう使うかを考えます.新しく使う近似や数学上の定義は問題中で与えます.

演習 1

オリジナル ★★★★☆

外から影響を受けない2粒子の位置エネルギーは,位置だけの関数である.全体の平行移動・回転で不変で,さらに U(λr1,λr2)=λ−2U(r1,r2),λ>0 を満たすとする.粒子が重なる配置は除く.

  1. U の形と,各粒子に働く力を求めよ.

  2. G=∑a=12ra⋅pa とすると G˙=2E となることを示し,新しい保存量を求めよ.

  3. ra→λra,t→λ2t で作用が不変になることを確かめ,(2) と同じ尺度変換の性質が見えることを説明せよ.

2粒子の配置と,原点から両位置を同じ倍率λで拡大した配置を並べる.距離rとλrだけを示す. 2粒子の配置と,原点から両位置を同じ倍率λで拡大した配置を並べる.距離rとλrだけを示す.
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考え方 平行移動で相対位置だけに,回転でその大きさだけに依存が絞られる.尺度の条件は,残った1変数の関数を決める.

  1. r=|r1−r2| とすると U=U(r).U(λr)=λ−2U(r) より U=A/r2.定数 A の値や符号は対称性だけでは決まらない.力は F1=2A(r1−r2)/r4,F2=−F1.A>0 なら反発,A<0 なら引力である.

  2. 尺度の条件を λ=1 で微分すると ∑ara⋅∂U/∂ra=−2U.方程式から

G˙=∑a(va⋅pa+ra⋅p˙a)=2K+2U=2E

時間の一様性から E は一定なので,D=G−2Et が保存する.

  1. 速度は λ−1 倍,K,U はともに λ−2 倍,dt は λ2 倍となる.したがって S=∫(K−U)dt は不変.時間も変換するので,本体の節の座標だけのネーターの定理へ直接代入せず,(2) で保存量を確かめた.

確かめ:G と Et の次元はともに作用.λ による厳密な条件がなければ,U は任意の距離の関数のままである.また A<0 で衝突に至る場合は,r>0 の区間に結果を限る.

演習 2

オリジナル ★★★★☆

線密度 ρ の伸びない柔らかい鎖を,鉛直面内の2点 (−d,h),(d,h) に掛ける.長さは ℓ>2d,高さ y は上向きである.鎖は y(x) のグラフとなり,位置エネルギーが最小の形をとる.y′=dy/dx とする.

  1. 長さの拘束を定数 λ で組み込んだ積分

I=∫−dd(ρgy+λ)1+y′2dx

を停留させる.被積分関数を f とし,f−y′∂f/∂y′ が一定であることを導け.

  1. 対称な解が y=b+acosh(x/a),a>0 となることを示し,a,b を決める式を書け.ここで coshz=(ez+e−z)/2,sinh⁡z=(ez−e−z)/2 である.

同じ高さの2支点と,間に垂れる鎖の任意の試行曲線を描く.水平距離2d,高さh,全長ℓを示す.懸垂線の式や最下点の高さは描かない. 同じ高さの2支点と,間に垂れる鎖の任意の試行曲線を描く.水平距離2d,高さh,全長ℓを示す.懸垂線の式や最下点の高さは描かない.
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考え方 時刻の一様性でエネルギーが保存したのと同じ計算を,積分変数 x に使う.λ は張力を先に仮定するためではなく,全長を固定するための定数である.

  1. f は x を直接含まないので,df/dx=∂f/∂yy′+∂f/∂y′y″.オイラー=ラグランジュ方程式 ∂f/∂y=ddx∂f/∂y′ を入れると ddx(f−y′∂f/∂y′)=0.したがって

ρgy+λ1+y′2=C

である.

  1. b=−λ/(ρg),a=C/(ρg) とおく.垂れた鎖では a>0 を選び,y−b=a1+y′2.これを微分すると,y′≠0 の所で y″=(y−b)/a2.最下点でも連続性から成り立つ.左右対称で y′(0)=0,元の式で y(0)−b=a だから y=b+acosh(x/a).全長と端点から

ℓ=∫−ddcosh(x/a)dx=2asinh⁡(d/a),b=h−acosh(d/a)

を得る.最下点の高さは b+a である.

確かめ:d/a=z>0 とおくと ℓ/(2d)=sinh⁡z/z.この関数は1から単調に増えるので,ℓ>2d に対して a が1つ決まる.ρ と g は形の式から消え,鎖の形は端点と全長で決まる.

演習 3

オリジナル ★★★★☆

鉛直面内のなめらかな曲線を,小球がAで静止した状態から滑り降りる.Aを原点,y を鉛直下向きにとり,Bは (πa,2a),a>0 である.位置エネルギーは U=−mgy.曲線はA以外で y>0,右向きに進み,Bまでに高さの折り返しはないものとする.

  1. 降下時間が T=∫0πa(1+y′2)/(2gy)dx になることを示し,停留条件の第1積分を求めよ.

  2. 第1積分の定数を 2A0(y(1+y′2)=2A0)とし,y=A0(1−cos⁡ϕ) とおいて停留曲線を媒介変数表示で求め,点Bを通る条件から A0=a を示せ.さらに降下時間を求め,直線と比べよ.

  3. a=0.50m,g=9.8ms−2 として2つの時間を計算せよ.

下向きy軸と右向きx軸,AとBを置き,直線と任意の試行曲線を描く.求める停留曲線の形や降下時間は示さない. 下向きy軸と右向きx軸,AとBを置き,直線と任意の試行曲線を描く.求める停留曲線の形や降下時間は示さない.
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考え方 時間は弧長を速さで割った積分である.被積分関数が x を含まないことを,演習2と同じように使う.

  1. 固定されたなめらかな拘束なので E=K+U=0 が保存し,v=2gy.ds=1+y′2dx より時間の式が出る.f=(1+y′2)/(2gy) に対し f−y′∂f/∂y′ は一定なので,1/2gy(1+y′2) が一定.y(1+y′2)=2A0 と書ける.A0>0 は未定の長さである.

  2. y=A0(1−cos⁡ϕ) を y(1+y′2)=2A0 へ入れると,降下する枝 0<ϕ<π では y′=cot⁡(ϕ/2).dy/dϕ=A0sin⁡ϕ と合わせて dx/dϕ=A0(1−cos⁡ϕ).ϕ=0 で x=0 とすれば

x=A0(ϕ−sin⁡ϕ),y=A0(1−cos⁡ϕ)

Bは (πa,2a) なので,通るにはある ϕB で比 x/y=π/2 が要る.r(ϕ)=(ϕ−sin⁡ϕ)/(1−cos⁡ϕ) とおくと,r′(ϕ) の符号は k(ϕ)=2(1−cos⁡ϕ)−ϕsin⁡ϕ で決まる.k(0)=0,k′(ϕ)=sin⁡ϕ−ϕcos⁡ϕ なので k′(0)=0.さらに k″(ϕ)=ϕsin⁡ϕ≥0(0≤ϕ≤π)だから,この区間で k は 0 から増える.したがって r は増加し,r(π)=π/2 だけが端点の比に等しい.よって ϕB=π,y=2A0=2a から A0=a.曲線はサイクロイドの半分

x=a(ϕ−sin⁡ϕ),y=a(1−cos⁡ϕ)

である.ds=2asin⁡(ϕ/2)dϕ,v=2gasin⁡(ϕ/2) なので Tc=πa/g.

直線の長さは sB=aπ2+4.弧長 s に沿って y=2as/sB だから

Tl=∫0sBds4gas/sB=π2+4ag

Tc<Tl であり,停留曲線のほうが短時間で降りる.

  1. Tc≈0.71s,Tl≈0.84s.

確かめ:Aの近くでは x≈aϕ3/6,y≈aϕ2/2 で,曲線はほぼ鉛直に降りて速さを得る.Aで v=0 でも時間積分は有限になる.ここで示したのは停留曲線の導出と直線との比較であり,任意の試行曲線との大域的な最小性の証明は含めていない.

演習 4

オリジナル ★★★★★

長さ l の軽い棒の先に質量 m の小球をつけ,支点を鉛直に ys=acos⁡Ωt と振動させる.y は上向きで,棒が鉛直上向きとなす角を θ とし,小球の位置を (lsin⁡θ,ys+lcos⁡θ) とする.摩擦はない.

  1. L と θ の方程式を求めよ.

  2. a/l は1よりずっと小さく,支点の振動は小球のゆっくりした運動よりずっと速いとする.θ=Θ+ξ と分け,1周期の間は Θ を一定とみなす.速い小さな振動 ξ を求め,cos2⁡Ωt の平均が 1/2 であることを使って Θ の平均の方程式を導け.

  3. 倒立位置 Θ=0 が安定になる条件と,小さな振動の角振動数を求めよ.a=0.020m,l=0.50m,Ω=200s−1,g=9.8ms−2 で条件と近似の妥当性を確かめよ.

鉛直に振動する支点から上へ伸びる棒と小球,長さl,上向き鉛直からのθ,支点の振幅aを示す.安定条件や平均位置は書かない. 鉛直に振動する支点から上へ伸びる棒と小球,長さl,上向き鉛直からのθ,支点の振幅aを示す.安定条件や平均位置は書かない.
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考え方 重力と見かけの力のつり合いを仮定せず,慣性系での位置から L を作る.速い振動と遅い運動の積に,平均して消えない項がある.

  1. U=mg(ys+lcos⁡θ) なので

L=m2(l2θ˙2−2ly˙sθ˙sin⁡θ+y˙s2)−mg(ys+lcos⁡θ)

方程式は lθ¨=(g+y¨s)sin⁡θ,すなわち θ¨=(g−aΩ2cos⁡Ωt)sin⁡θ/l.

  1. 速い項を取り出すと ξ¨≈−(aΩ2/l)sin⁡Θcos⁡Ωt.平均0の周期解は ξ≈(a/l)sin⁡Θcos⁡Ωt.sin⁡(Θ+ξ)≈sin⁡Θ+ξcos⁡Θ を元の式に入れ,周期平均をとると

Θ¨≈glsin⁡Θ−a2Ω22l2sin⁡Θcos⁡Θ

となる.ξ 自体の平均は0だが,ξcos⁡Ωt の平均は0ではない.

  1. 小さな Θ では Θ¨≈[g/l−a2Ω2/(2l2)]Θ.したがって a2Ω2>2gl のとき安定で,ωslow=a2Ω2/(2l2)−g/l.数値では a2Ω2=16m2s−2,2gl=9.8m2s−2 なので条件を満たし,ωslow=12.4≈3.5s−1.a/l=0.040,Ω/ωslow≈57,g/(lΩ2)=4.9×10−4 で,小振幅・速い支点という近似と整合する.

確かめ:平均の方程式は Ueff=mglcos⁡Θ+ma2Ω2sin2⁡Θ/4 からも得られる.その倒立位置の曲率が正になる条件も同じである.摩擦がないので,安定とは小さなずれが振動することであり,倒立位置へ自然に落ち着くという意味ではない.境目では高次の項が必要になる.

演習 5

オリジナル ★★★★★

質量 m の粒子が,静止した同じ質量 m の標的に衝突し,質量 m の粒子3個を作る反応を考える.内部の量子数による制限は考えず,エネルギーと運動量の保存だけで可能になる最小の入射エネルギーを求める.入射粒子の全エネルギーを E,運動量を p>0 とする.

  1. 粒子の E=mc2dt/dτ,px=mdx/dτ とローレンツ変換を使い,E′=γV(E−Vpx),px′=γV(px−VE/c2) を導け.全エネルギー・全運動量にも同じ変換が成り立つことを確かめよ.

  2. W2=Etot2−P2c2 が不変であることを示し,生成に必要な最小の E と入射運動エネルギーを求めよ.

  3. しきい値での3粒子の速度を標的の系で求めよ.同じ質量の2粒子を逆向きに同じ速さで衝突させる方式では,必要な運動エネルギーの合計はいくらか.

上に静止標的へ入射する粒子と反応後の3粒子,下に逆向きの2本の入射ビームを描く.生成粒子の速度としきい値の数値は描かない. 上に静止標的へ入射する粒子と反応後の3粒子,下に逆向きの2本の入射ビームを描く.生成粒子の速度としきい値の数値は描かない.
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考え方 標的の系では,初めの運動量を生成粒子が運び続けなければならない.全運動量が0になる系で,生成に使えるエネルギーを評価する.

  1. 固有時は不変なので,dt′/dτ=γV(dt/dτ−Vdx/dτ/c2),dx′/dτ=γV(dx/dτ−Vdt/dτ).それぞれ mc2,m を掛けると求める変換になる.変換が1次式なので,粒子ごとに足した Etot,P にも同じ式が成り立つ.

  2. 変換式を2乗して引くと,混合項が消え,Etot′2−P′2c2=Etot2−P2c2.V=Pc2/Etot の系では P′=0,全エネルギーは W.生成した3粒子の各エネルギーは mc2 以上なので,W≥3mc2 が必要であり,3粒子すべてがこの系で静止すると等号となる.初めは Etot=E+mc2,P=p,p2c2=E2−m2c4 より

W2=(E+mc2)2−(E2−m2c4)=2mc2(E+mc2)

W=3mc2 から Emin=7mc2/2,Kmin=5mc2/2.

  1. しきい値の pc=35mc2/2,Etot=9mc2/2 から,全運動量が0の系の速度は V=5c/3.3粒子はその系で静止しているため,標的の系では全員が同じ速度 V で進む.逆向きの2ビームなら,全運動量は初めから0.各入射エネルギーを 3mc2/2 にすれば生成でき,運動エネルギーの合計は 2(3mc2/2−mc2)=mc2.

確かめ:固定標的では入射の 5mc2/2 のうち,mc2 が新しい粒子の静止エネルギー,3mc2/2 が生成粒子全体の運動エネルギーになる.実際に γV=3/2 なので,生成後の全エネルギーは 3γVmc2=9mc2/2 で一致する.

28第13章のまとめ

この章では,力も運動方程式も使わずに,経験の事実と1つの原理から力学を組み立て直しました.出発点は,決定性,停留作用の原理,時間と空間の対称性の3つで,そこから慣性の法則,運動方程式,作用反作用の法則,保存則が定理として出てきました.対称性をガリレイ変換からローレンツ変換に替えると,同じ道筋で相対論の力学が出てきます.

出発点

出発点

内容

決定性(経験の事実)

状態(一般化座標と一般化速度)を決めると,その後の運動はただ1通りに決まる.だから運動の法則は2階の微分方程式

停留作用の原理(原理)

実際の経路では,両端を固定した小さな変化に対して作用 S=∫L(q,q˙,t)dt が停留する

時間と空間の対称性(経験の事実)

慣性系では空間が一様・等方で,時間が一様.相対性原理(ガリレイ,またはアインシュタイン)

公式

公式 オイラー=ラグランジュ方程式

ddt∂L∂q˙i−∂L∂qi=0

L に定数を掛けても,dF(q,t)/dt を足しても,運動は変わらない.

公式 ラグランジアン

  • 自由な粒子(ガリレイ):L=12mv2

  • 閉じた系:L=∑a12mava2−U(r1,r2,…)

  • 自由な粒子(相対論):L=−mc21−v2/c2

公式 対称性と保存量

  • 一般化運動量 pi=∂L/∂q˙i.循環座標の pi は保存する.

  • ネーターの定理:qi→qi+εηi で L が εdΛ/dt しか変わらなければ,∑ipiηi−Λ が保存する.

  • 時間の一様性 → エネルギー E=∑ipiq˙i−L,空間の一様性 → 運動量,等方性 → 角運動量,ガリレイの相対性 → 重心の等速運動.

公式 相対論

  • γ=1/1−v2/c2,時間の遅れ Δt=γΔτ,間隔 c2Δt2−Δx2−Δy2−Δz2 は不変.

  • ローレンツ変換:x′=γ(x−Vt),t′=γ(t−Vx/c2).速度の合成 u′=(u−V)/(1−uV/c2).

  • p=γmv,E=γmc2,E2=(pc)2+(mc2)2.

各題材の問いへの答え

  • 状態と運動の法則:位置だけでは未来は決まらず,位置と速度で決まる.加速度は位置と速度から決まるので新しい情報ではない.

  • 停留作用の原理:光は,かかる時間が停留する道を通るので,反射の法則が出る.運動も,作用が停留する経路として選ばれる.

  • 空間と時間の対称性:運動エネルギーが v2 に比例するのは,空間と時間の一様性・等方性と,ガリレイの相対性原理のため.v4 では,動く船の中と岸とで法則が変わってしまう.

  • 相互作用と力:影響し合う粒子のラグランジアンは ∑12mv2−U.作用と反作用が等しいのは,空間が一様だから.

  • 対称性と保存則:エネルギー,運動量,角運動量が保存するのは,時間の一様性,空間の一様性,等方性のため.閉じた系の保存量は,重心の運動を含めて10個.

  • 拘束のある運動を解く:拘束を満たす座標で L を書けば,張力を知らずに振り子の運動が求まる.回る輪のビーズは,ω2>g/R で最下点を離れて cos⁡θ0=g/(Rω2) に落ち着く.

  • 光の速さと時空:光の速さがどの慣性系でも同じなら,時間はどの系でも同じには進まない.動く時計は遅れ,慣性系の間はローレンツ変換でつながる.

  • 相対論の力学:対称性をローレンツ変換に替えると,自由な粒子の作用は固有時に比例し,L=−mc21−v2/c2.そこから E=γmc2 と光速の壁が出る.

  • 全体像:法則のほとんどは枠組み(決定性・原理・対称性)から出る.物理の中身として残るのは相互作用の形.停留作用の原理は量子力学の経路積分で説明される.

この章で使った数学

  • 2階の微分方程式と初期条件,オイラー法.

  • 変分法:部分積分と基本補題.

  • 多変数の関数の偏微分,勾配,合成関数の微分.

  • 外積の3つの積の性質.

  • (1+x)n≈1+nx の近似.