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問いから始める物理

問いから原理へ,基本からオリンピックまで

著者:柚木芹香

身近な問いから始めて物理の原理を組み立て直す参考書.微積分は必要になった所で導入し,各節の演習は基本から物理オリンピックの水準まで段階をつけて置く.独学でも,教わりながらでも読めるように,各節の終わりに「教える人へ」の囲みがある.

この章の目次 · 15節
  1. 原子核の構成と大きさ
  2. 原子核の大きさとクーロンエネルギーの例題
  3. 原子核の構成と大きさの演習
  4. 質量欠損と結合エネルギー
  5. 結合エネルギーの例題
  6. 質量欠損と結合エネルギーの演習
  7. 放射性崩壊と放射線
  8. 崩壊の微分方程式と放射平衡
  9. 放射性崩壊と放射線測定の演習
  10. 粒子を作る,粒子を消す
  11. 核反応と対消滅・対生成の例題
  12. 核反応と粒子生成の演習
  13. 第31章の章末問題
  14. 第31章の発展問題
  15. 第31章のまとめ

第31章  原子核と素粒子

01原子核の構成と大きさ

問い

原子の中心には原子核があり,そこには正の電荷をもつ陽子がぎっしり詰まっています.たとえばウランの原子核には,半径が 10−14m にも満たない球の中に陽子が92個入っています.同じ符号の電荷は反発し合い,クーロン力は距離の2乗に反比例して近いほど強くなるのでした.これほど近くに押し込められた陽子どうしは,どうして飛び散ってばらばらにならないのでしょうか.

ここから第31章「原子核と素粒子」に入ります.すぐ前の第30章は,確率振幅から量子力学を組み立て直す発展の章でした.そこを飛ばした人も,第29章からそのままこの章へ進んで読めます.第29章では,原子核の周りの電子が飛び飛びのエネルギーをもち,eV の大きさの光を出し入れすることを見ました.この章では原子の中心へ進み,原子核が何でできていて,どのように結びつき,どのように崩れ,どのように別の原子核や粒子に変わるかを扱います.エネルギーの大きさは eV から MeV へ,100万倍になります.題材は4つで,この題材で原子核の構成と大きさと核力を,次の「質量欠損と結合エネルギー」で質量とエネルギーの関係を,「放射性崩壊と放射線」で崩壊とその測定を,「粒子を作る,粒子を消す」で核反応と粒子の生成・消滅を学び,最後に素粒子の見取り図を描きます.第32章はこの章と第29章を合わせた総合演習です.第13章(発展)の相対論を読んでいなくても読めるように,必要な式はこの題材で示し直します.題や段落に(発展)と付いた所は,飛ばしても後を読めます.

ポイント 第31章で使う記号

記号

意味

Z

原子番号(陽子の数)

A

質量数(陽子と中性子の数の和,核子数)

ZAX

原子番号 Z,質量数 A の原子核(元素記号 X)

mp, mn, me

陽子,中性子,電子の質量

u

原子質量単位.12C 原子1個の質量の 1/12

R, r0

原子核の半径と,R=r0A1/3 の係数

fm

フェムトメートル.1fm=10−15m

MeV

106eV=1.602×10−13J

ke

クーロンの法則の比例定数 1/(4πε0).ボルツマン定数 kB と区別する

E, p, K

粒子のエネルギー,運動量の大きさ,運動エネルギー

B, Q

結合エネルギー,反応で放出されるエネルギー(Q 値)

N, λ, T1/2, τ

原子核の数,崩壊定数,半減期,平均寿命

N は崩壊していない原子核の数に使い,中性子の数は A−Z と書きます.λ はこの章では波長ではなく崩壊定数です.

考えてみる

陽子2個を 1fm まで近づけたときのクーロン力を計算してみましょう.ke=8.99×109Nm2C−2,e=1.60×10−19C から

F=kee2r2=8.99×109×(1.60×10−19)2(1.0×10−15)2N≈2.3×102N

です.質量 1.67×10−27kg の粒子1個に,20 kg あまりの荷物の重さほどの力が働くのですから,加速度はとてつもない大きさです.陽子どうしの万有引力はこの 10−36 倍ほどしかなく,引き留める役には立ちません.

すると,原子核の中には重力でも電気の力でもない,もっと強い引力が働いていると考えるほかありません.しかもその力は,原子と原子の間や,原子核と電子の間には現れていません.もし遠くまで届く強い引力なら,原子核どうしがくっついて物質はすべて一つの塊になってしまうはずです.つまり,その力は強いけれども,ごく近くでしか働かないはずです.この見当が正しいかどうかを,原子核の構成と大きさから確かめていきます.

原子核をつくる粒子

原子核は陽子と中性子からできています.陽子の電荷は +e,中性子の電荷は 0 で,質量はどちらも電子の約1840倍です.陽子と中性子をまとめて核子といいます.

定義 原子番号と質量数

原子核に含まれる陽子の数 Z を原子番号,核子の数 A を質量数という.中性子の数は A−Z,原子核の電荷は Ze である.この原子核を ZAX と書く.Z が同じで A が違う原子核(原子)を互いに同位体という.

原子の化学的な性質は電子の数,つまり Z で決まるので,同位体どうしは同じ元素です.たとえば 612C と 614C はどちらも炭素で,中性子の数が6個と8個です.後者は崩れる原子核で,第3の題材で年代測定に使います.

原子や原子核の質量を量るには,kg よりも原子質量単位 u が便利です.1u は 12C 原子1個の質量の 1/12 で,

1u=1.6605×10−27kg,mp=1.00728u,mn=1.00866u,me=0.000549u

です.どの原子の質量も,u で量るとほぼ質量数 A に等しくなります(ずれは 1 % 未満).このずれこそが原子核の結びつきの強さを表していて,次の題材の主役になります.

原子核の外にも,この章に出てくる粒子があります.電子,光の粒である光子(第29章),そして原子核の崩壊で現れるニュートリノです.ニュートリノは電荷をもたず,質量はほぼ0で,物質とほとんど反応せずに地球を素通りします.

4つの相互作用

粒子どうしの間に働く力(相互作用)は,詳しく調べると4種類にまとめられます.

相互作用

働く粒子

届く距離

1 fm 離れた陽子どうしでの強さの目安

強い相互作用(核力)

核子(クォーク)

約 10−15m

1

電磁相互作用

電荷をもつ粒子

どこまでも(1/r2)

10−2

弱い相互作用

すべての核子・電子・ニュートリノ

約 10−18m

10−6 より小さい

重力

質量をもつすべての粒子

どこまでも(1/r2)

10−38

強さの欄は桁の目安です.重力と電気の力の比は,どちらも 1/r2 なので距離によりませんが,核力との比は距離で大きく変わります.核力は届く距離の中でだけ電気の力に勝ち,その外ではほとんど0になります.弱い相互作用は力として感じることはほとんど無く,中性子が陽子に変わるような粒子の種類の変化を起こします(第3の題材の β 崩壊).

原子や分子や結晶をまとめているのは電磁相互作用で,惑星や恒星をまとめているのは重力です.重力は最も弱いのに天体では主役になります.物体はふつう電気的に中性で電気の力が打ち消し合い,核力は届かないのに,重力だけは打ち消されずに足し合わされるからです.

原子核の大きさと密度

原子核の大きさは,ラザフォードの散乱(第29章)のように,速い粒子を原子核にぶつけて調べます.α 粒子や電子の散乱の測定から,原子核はほぼ球形で,半径は

R≈r0A1/3,r0≈1.2fm

と表されることが分かっています.半径が A1/3 に比例するということは,体積 4πR3/3 が A に比例するということです.核子1個あたりの体積が,原子核によらず決まっているのです.

[図:質量数による原子核の半径の変化]

初期状態は A = 56.陽子と中性子を色分けした核子の集合を示す.スライダーで A を4から238まで変えると,半径 R = r₀A¹ᐟ³ が変わるが,密度 ρ₀ = 2.3 × 10¹⁷ kg m⁻³ は変わらない.核子の配置と色の割合は模式的で,AだけではZは決まらない.

したがって原子核の密度は A によらずほぼ一定で,核子の質量を 1u とみると

ρ0=Au4πr03A/3=3×1.66×10−27kg4π(1.2×10−15m)3≈2.3×1017kgm−3

です.水の 1014 倍で,角砂糖1個の体積で2億トンを超えます.これは水滴の密度が大きさによらないのと同じで,核子は押し縮められずにすき間なく並んでいます.この性質が,結合エネルギーを水滴に例えて説明する液滴模型(次の題材)の出発点になります.

R=r0A1/3 は滑らかな表面をもつ球という模型です.実際の原子核の表面には厚さ 2fm ほどのぼやけた層があり,A が10より小さい軽い原子核ではこの式は目安にしかなりません.

核力

法則 核力の性質

  1. 核子どうしの間に働く引力で,陽子どうし,陽子と中性子,中性子どうしの間でほぼ同じ強さで働く.

  2. 届く距離は約 1fm で,2∼3fm より離れるとほとんど働かない(短距離力).

  3. 届く範囲の中では電気の力よりずっと強い.

  4. 約 0.5fm より近づくと,強い斥力に変わる.

核力は万有引力やクーロンの法則のような簡単な式では書けません.4の斥力があるので核子は重なり合わず,密度が一定になります.2の短距離性のため,核子は隣り合う核子とだけ引き合います.これは,どれほど大きな原子核でも,核子1個が引き合う相手の数はほぼ同じだということです.

中心間距離 r を0から4 fmまでとる.核力のみの曲線は,0.5 fmより内側の斥力の壁,1 fm付近の深い谷,2 fmより外側でほぼ0になる短距離性を示す模式図.陽子どうしではクーロンの位置エネルギー kₑe²/r が加わる.外側の拡大図で,和に現れる小さなクーロン障壁と,遠方へ減少する様子を示す. 中心間距離 r を0から4 fmまでとる.核力のみの曲線は,0.5 fmより内側の斥力の壁,1 fm付近の深い谷,2 fmより外側でほぼ0になる短距離性を示す模式図.陽子どうしではクーロンの位置エネルギー kₑe²/r が加わる.外側の拡大図で,和に現れる小さなクーロン障壁と,遠方へ減少する様子を示す.

一方,クーロン力は遠くまで届くので,陽子は原子核の中のほかのすべての陽子と反発し合います.引力は近くの相手とだけ,反発は全員と,という違いが,原子核の大きさの限界を決めます.陽子が増えるほど反発の割合が増えるので,重い原子核ほど電荷をもたない中性子を多く含みます.24He では中性子は2個ですが,92238U では146個です.陽子2個だけの原子核 22He は存在しません.

静止エネルギーと MeV

原子核のエネルギーを考えるには,相対論の2つの式が要ります(第13章の結果を示します).

法則 質量とエネルギー

質量 m の粒子は,止まっていても静止エネルギー E0=mc2 をもつ.運動量の大きさ p で動いているときのエネルギー E は

E2=(pc)2+(mc2)2

を満たし,運動エネルギーは K=E−mc2 である.速さを v とすると E=mc2/1−v2/c2,p=Ev/c2 である.

質量0の光子では E=pc で,第29章の光子のエネルギーと運動量の関係と一致します.pc が mc2 より十分小さいときは,第7章のテイラー展開 1+x≈1+x/2 を使って

E=mc21+(pmc)2≈mc2+p22m

となり,ニュートン力学の運動エネルギーに戻ります.K/(mc2) が 1 % 程度までなら,ニュートン力学の式で十分です.

原子核の世界では,エネルギーを MeV=106eV で量ります.よく使う値は

(1u)c2=931.5MeV,mec2=0.511MeV,mpc2=938.3MeV,kee2=1.44MeVfm

です.最後の値を使うと,1fm 離れた陽子2個のクーロンの位置エネルギーはすぐに kee2/r=1.44MeV と分かります.水素原子の電子の位置エネルギーは,距離が 5.3×104 倍なので 27eV ほどです.原子と原子核のエネルギーの桁が 105∼106 倍違うのは,大きさの違いがそのまま現れたものです.

重い原子核全体のクーロンエネルギーも見積もれます.電荷 Ze が半径 R の球に一様に広がっているとし,球を中心から薄い殻を1枚ずつ積んで作ると考えます.半径 r までにある電荷 q=Zer3/R3 の上に,厚さ dr の殻の電荷 dq=3Zer2dr/R3 を無限遠から運ぶ仕事は,球殻定理(第10章)と同じ考えで keqdq/r です.これを足し合わせると

UC=∫0Rker⋅Zer3R3⋅3Zer2R3dr=35⋅keZ2e2R

です.ウランでは R=1.2×2381/3fm=7.4fm なので,UC≈0.6×922×1.44MeV/7.4≈1.0×103MeV,核子1個あたり 4MeV ほどになります.これは無視できる大きさではなく,重い原子核が崩れたり分裂したりする原因になります.

問いに戻る

陽子どうしが飛び散らないのは,核子の間に,電気の力よりずっと強い引力である核力が働くからです.核力は 1fm ほどの距離でしか働かないので,原子の外には現れませんが,核子が触れ合うほど詰まった原子核の中では,クーロンの反発に打ち勝ちます.中性子は電気の反発を増やさずに核力の引力を足すので,原子核を結びつける糊の役をしています.ただし,核力は隣の核子としか引き合わないのに,クーロン力はすべての陽子どうしで働きます.重い原子核ほどクーロンエネルギーの割合が大きくなり,ウランでは核子1個あたり数 MeV に達します.このため,陽子の数がおよそ100を超える原子核は安定に存在できず,重い原子核は α 粒子を出したり2つに分かれたりします.その仕組みを,次の題材からエネルギーの勘定で調べます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 原子核は陽子 Z 個と中性子 A−Z 個からなり,ZAX と書く.質量は u で量るとほぼ A に等しい.

  • 相互作用は強い・電磁・弱い・重力の4種類で,強さも届く距離も大きく違う.

  • 原子核の半径は R≈r0A1/3(r0≈1.2fm)で,密度は 2.3×1017kgm−3 でほぼ一定である.

  • 核力は約 1fm しか届かない強い引力で,届く範囲ではクーロンの反発に勝つ.

  • E2=(pc)2+(mc2)2,(1u)c2=931.5MeV,kee2=1.44MeVfm を使うと,原子核のエネルギーは MeV の桁になる.

02原子核の大きさとクーロンエネルギーの例題

原子核の問題では,長さを fm,エネルギーを MeV,質量を u で量ると,数値が1から1000くらいに収まって見通しがよくなります.J や kg に直すのは最後だけにしましょう.ここでは,原子核の密度,陽子どうしのクーロンエネルギー,ラザフォードの散乱による原子核の大きさの上限の3つを練習します.

ポイント 原子核の見積もりで使う値

  • 1fm=10−15m,1MeV=1.602×10−13J,1u=1.66×10−27kg.

  • 原子核の半径 R=r0A1/3,r0=1.2fm.

  • 電荷 Z1e と Z2e が距離 r 離れているときのクーロンの位置エネルギーは keZ1Z2e2/r で,kee2=1.44MeVfm を使う.

  • 静止エネルギーは (1u)c2=931.5MeV,mpc2=938.3MeV.運動エネルギー K が mc2 の 1 % 程度までなら,ニュートン力学の式 K=mv2/2 を使ってよい.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

原子核の半径を R=r0A1/3,r0=1.2fm とし,原子核の質量を A×1.66×10−27kg とする.

  1. 鉄の原子核 2656Fe とウランの原子核 92238U の半径を求めよ.また,それぞれの密度を求めよ.

  2. 鉄の金属の密度は 7.9×103kgm−3 である.鉄の金属の体積のうち,原子核が占める割合を求めよ.電子の質量は無視してよいことも確かめよ.電子の質量は 9.1×10−31kg である.

解答を見る

考え方 体積は R3∝A なので,密度は A によらない.金属の質量はほとんど原子核の質量だから,金属の密度と原子核の密度の比が,原子核の占める体積の割合になる.

  1. 561/3=3.83,2381/3=6.20 より,

RFe=1.2×3.83fm=4.6fm,RU=1.2×6.20fm=7.4fm

である.密度は

ρ0=A×1.66×10−27kg4π3r03A=1.66×10−27kg4π3×(1.2×10−15m)3=2.3×1017kgm−3

で,A が約分されるので鉄もウランも同じ値になる.

  1. 金属の体積 V の中の原子核の全体積を VN とすると,金属の質量はほぼ原子核の質量 ρ0VN に等しいので,

VNV=7.9×1032.3×1017=3.4×10−14

である.原子1個あたりの電子の質量と原子核の質量の比は

26×9.1×10−3156×1.66×10−27=2.5×10−4

なので,電子の質量を無視した誤差は 0.03 % 程度である.

確かめ:割合の 1/3 乗 (3.4×10−14)1/3=3.2×10−5 は,原子核の半径と原子の間隔の比の目安である.4.6fm/(3.2×10−5)=1.4×10−10m となり,鉄の原子の大きさ(約 10−10m)と同じ桁で,物質はほとんどすき間でできていることが分かる.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

陽子の質量を mp,mpc2=938MeV とし,kee2=1.44MeVfm,1MeV=1.60×10−13J,ボルツマン定数を kB=8.62×10−5eVK−1 とする.

  1. 中心間の距離 1.0fm の陽子2個のクーロンの位置エネルギーを MeV と J で求めよ.また,水素原子の陽子と電子(距離 5.3×10−11m)のクーロンの位置エネルギーの大きさを eV で求め,比べよ.

  2. 遠く離れた陽子2個を,同じ速さで正面から近づける.核力が働き始める中心間距離を 2.0fm とし,そこまで近づくのに必要な陽子1個の初めの運動エネルギーと速さを求めよ.ニュートン力学で扱ってよいかも確かめよ.

  3. 気体の陽子の平均の運動エネルギー 3kBT/2 が(2)の値に等しくなる温度を求めよ.

遠く離れた2個の陽子が,同じ速さ v で正面から近づく.下段は,問題で指定された核力が働き始める中心間距離2.0 fmを示す. 遠く離れた2個の陽子が,同じ速さ v で正面から近づく.下段は,問題で指定された核力が働き始める中心間距離2.0 fmを示す.
解答を見る

考え方 kee2=1.44MeVfm を使えば,距離を fm で割るだけで位置エネルギーが MeV で出る.(2)は2個の運動量の和が0なので,最も近づいたとき2個とも止まり,運動エネルギーがすべて位置エネルギーに変わる.

  1. 陽子2個では

U=kee2r=1.44MeVfm1.0fm=1.4MeV=2.3×10−13J

である.水素原子では 5.3×10−11m=5.3×104fm なので,

|UH|=1.44×106eVfm5.3×104fm=27eV

である.距離の比 5.3×104 がそのままエネルギーの比になり,原子核では原子より5桁ほど大きいエネルギーが出入りする.

  1. 全運動量は0なので,最も近づいたとき2個とも止まる.エネルギー保存から,1個の初めの運動エネルギーを K として

2K=kee22.0fm=0.72MeV,K=0.36MeV

である.K/(mpc2)=0.36/938=3.8×10−4 は 1 % よりずっと小さいので,ニュートン力学でよい.K=mpv2/2 より

vc=2Kmpc2=0.72938=2.8×10−2,v=8.3×106ms−1

である.

  1. 3kBT/2=0.36×106eV より

T=2×0.36×106eV3×8.62×10−5eVK−1=2.8×109K

である.

確かめ:太陽の中心の温度は約 1.6×107K で,この値の200分の1ほどしかない.それでも太陽で陽子どうしの核融合が起こるのは,速さの分布の裾にある速い陽子と,クーロン障壁をすり抜けるトンネル効果(第4の題材で言葉だけ触れる)のためである.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

運動エネルギー K=7.7MeV の α 粒子 24He を,金の原子核 79197Au に正面から当てる.α 粒子と金の原子核は球対称な電荷分布をもち,質量はそれぞれ 4u,197u とする.kee2=1.44MeVfm,(1u)c2=931.5MeV とし,原子の電子の影響は無視する.

  1. 金の原子核が動かないとして,α 粒子が最も近づいたときの中心間距離 d0 を求めよ.

  2. 金の原子核の反跳を考えると,最も近づいたときの中心間距離 d はいくらか.

  3. このエネルギーでの散乱はクーロン力だけで説明できた.このことから金の原子核の半径について何がいえるか.また,R=r0A1/3(r0=1.2fm)で2つの原子核の表面が接するまで正面衝突で近づけるには,α 粒子の運動エネルギーをいくら以上にすればよいか.

上段は速さ v₀,運動エネルギー K = 7.7 MeVのα 粒子が,初め止まっている金の原子核へ向かう条件を示す.電荷はそれぞれ2eと79e,質量は4 uと197 uである.下段は未知の中心間距離 d で,両者が同じ速度 V で動いている様子を示す. 上段は速さ v₀,運動エネルギー K = 7.7 MeVのα 粒子が,初め止まっている金の原子核へ向かう条件を示す.電荷はそれぞれ2eと79e,質量は4 uと197 uである.下段は未知の中心間距離 d で,両者が同じ速度 V で動いている様子を示す.
解答を見る

考え方 最も近づくのは,2つの原子核の相対速度が0になる瞬間である.金の原子核が動かなければ運動エネルギーがすべて位置エネルギーになるが,反跳を考えると,運動量保存のため全体の重心の運動エネルギーは位置エネルギーに変えられない.球対称な電荷分布どうしの力は,重ならない限り中心に電荷を集めた点電荷どうしの力に等しい.

  1. エネルギー保存から K=ke(2e)(79e)/d0 なので

d0=158×1.44MeVfm7.7MeV=29.5fm≈30fm

である.K/(mαc2)=7.7/(4×931.5)=2.1×10−3 なので,ニュートン力学でよい.

  1. α 粒子の質量を m,金の原子核の質量を M とする.最も近づいたとき両者は同じ速度 V で動くので,運動量保存より mv0=(m+M)V である.このときの運動エネルギーは

12(m+M)V2=mm+M⋅12mv02=mm+MK

なので,位置エネルギーに変わるのは KM/(m+M) である.したがって

d=158kee2K⋅m+MM=d0(1+mM)=29.5fm×(1+4197)=30.1fm

である.反跳の補正は 2 % で,d≈30fm は変わらない.

  1. α 粒子は金の原子核の中心から 30fm まで近づいても,クーロン力しか受けていない.核力は表面が触れ合うほど近づかないと働かないので,金の原子核の半径と α 粒子の半径の和は 30fm より小さい.つまり 30fm が半径の上限である.

R=r0A1/3 では RAu=1.2×1971/3fm=7.0fm,Rα=1.2×41/3fm=1.9fm で,接するときの距離は 8.9fm である.(2)と同じ式で d=8.9fm とおくと

K=158kee2d(1+mM)=158×1.448.9×1.020MeV=26MeV

以上が必要である.

確かめ:26MeV でも K/(mαc2)=7×10−3 で,ニュートン力学の範囲に入る.最も近い距離 30fm は原子の大きさ 10−10m=105fm よりずっと小さく,この距離での核間のクーロンエネルギーに比べて電子による遮蔽の寄与は小さいので,電子を無視したのは妥当である.

ポイント ここまでのまとめ

  • 原子核の密度は A によらず約 2.3×1017kgm−3 で,物質の体積のうち原子核が占めるのは 10−14 程度にすぎない.

  • kee2=1.44MeVfm を使うと,fm の距離のクーロンエネルギーはすぐ MeV で求まる.原子核のエネルギーは原子の 105∼106 倍である.

  • 正面衝突で最も近づくのは相対速度が0になる瞬間で,標的の反跳を入れると K を KM/(m+M) に置き換える.

  • 散乱がクーロン力だけで説明できる最も近い距離は,原子核の半径の上限を与える.

  • 運動エネルギーが静止エネルギーの 1 % 程度までなら,ニュートン力学で扱える.

03原子核の構成と大きさの演習

陽子数と核子数を区別し,長さ・体積・質量がどう対応するかを確かめます.力の強さを比較するときは,同じ距離で比べることと,相互作用の届く範囲に注意してください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

核の半径を R=r0A1/3 とします.未知の核Xは陽子と中性子を同数含み,半径が A=192 の核の半径の 1/2 です.核YはXと同じ陽子数で,中性子を2個多く含みます.

  1. XとYの原子番号 Z,質量数 A を求め,同位体か答えてください.

  2. YとXの体積比と電荷の比を求めてください.

解答を見る

考え方 半径比を3乗すると質量数の比になる.電荷を決めるのは核子数でなく陽子数である.

  1. AX=192(1/2)3=24.陽子と中性子が同数なので ZX=12.Yは ZY=12,AY=26 となる.原子番号が同じで質量数が異なるので同位体である.

  2. 体積比は RY3/RX3=AY/AX=26/24=13/12.電荷は両方 12e だから比は1である.RY/RX=(13/12)1/3>1 となり,中性子の追加で電荷を変えずに半径が増すことも確かめられる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

中性子星を質量 M=2.4×1030kg,半径 R∗=1.30×104m の球とします.比較用の核物質は R=r0A1/3,質量 Am0 に従う一様な球とし,r0=1.20×10−15m,m0=1.66×10−27kg とします.一般相対論による補正は扱いません.

  1. 星の平均密度と核物質の密度の比を求めてください.

  2. 核物質と同じ平均密度で質量 M の球を作ると,半径はいくらになりますか.星の各点の密度も分かりますか.

半径R_*,質量Mの中性子星と,半径R,質量Am_0の一様な核物質の球.2つの図の縮尺は共通でない. 半径R_*,質量Mの中性子星と,半径R,質量Am_0の一様な核物質の球.2つの図の縮尺は共通でない.
解答を見る

考え方 平均密度は全質量を全体積で割る.平均値は内部の分布を指定しない.

  1. 星では ρ∗=3M/(4πR∗3)=2.61×1017kgm−3.核物質では R3=r03A だから ρ0=3Am0/(4πr03A)=2.29×1017kgm−3.比は ρ∗/ρ0=1.14 となり,質量 M の精度に合わせれば約1.1倍である.

  2. Req=(3M/(4πρ0))1/3=1.36×104m≈1.4×104m.星の各点の密度は求められない.計算に使った核物質の一様性と,星の平均値の比較は別の仮定である.質量を8倍にすれば同密度の半径は2倍となり,体積の次元も合う.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

核半径の測定結果を表に示します.1fm=10−15m です.R=r0Aα という模型の指数と係数を調べてください.

A

R(fm)

27

3.60±0.04

64

4.80±0.04

125

6.00±0.04

  1. 中央の測定値を使い,最初の2点から α と r0 を決め,3点目を検証してください.対数を取ったグラフの軸も指定してください.

  2. α=1/3 と確定した後,3点目だけで求める r0 の不確かさを求めてください.核物質の密度 ρ0∝r0−3 の相対不確かさも1次までで求めてください.

横軸ln A,縦軸ln(R/(1 fm))に,Aが27,64,125の測定点と半径の誤差棒を置いた図. 横軸ln A,縦軸ln(R/(1 fm))に,Aが27,64,125の測定点と半径の誤差棒を置いた図.
解答を見る

考え方 べき乗の関係は対数で直線になる.不確かさは指数が既知か未知かを区別して伝える.

  1. α=ln⁡(4.80/3.60)/ln⁡(64/27)=1/3.よって r0=3.60/271/3fm=1.20fm.3点目の予測は 1.20×1251/3fm=6.00fm で一致する.指定の対数グラフでは ln⁡(R/(1fm))=ln⁡(r0/(1fm))+αln⁡A となる.

  2. r0=R/5 なので δr0=0.04/5fm=0.008fm.微分から |δρ0|/ρ0≈3δr0/r0=0.020,約2.0 %である.評価は δr0/r0=0.0067 が十分小さく,指数と核子質量の不確かさを無視した場合に限る.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

炭素核 (Z1,A1)=(6,12) と酸素核 (Z2,A2)=(8,16) を,無限遠から表面が接するまで近づけます.両核は球対称な電荷分布を持ち,変形せず,半径は Ri=r0Ai1/3,r0=1.20fm です.接するまで核力を無視し,電子はありません.ke=1/(4πε0),kee2=1.44MeVfm,1MeV=1.60×10−13J とします.

  1. 準静的に近づける外力の仕事を求めてください.

  2. 中心間距離を接触距離の2倍にした位置までに,仕事の何割が必要ですか.核子数を固定して片方の陽子数だけを半分にした場合,接触時の仕事はどう変わりますか.

半径R_1,R_2,電荷Z_1e,Z_2eの2核.接触前の中心間距離dと,表面が接した配置を並べる. 半径R_1,R_2,電荷Z_1e,Z_2eの2核.接触前の中心間距離dと,表面が接した配置を並べる.
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考え方 重ならない球対称な電荷分布の相互作用は,中心に集めた点電荷で計算できる.接触距離は半径の和である.

  1. 距離 d の反発力は keZ1Z2e2/d2.接触距離 dc=1.20(121/3+161/3)fm=5.77fm までの仕事は W=∫dc∞keZ1Z2e2d−2dd=keZ1Z2e2/dc.したがって W=12.0MeV=1.92×10−12J である.

  2. d=2dc では W/2 なので5割である.陽子数だけを半分にすると,この半径模型では dc は同じで電荷の積が半分になるため,仕事も半分になる.距離を無限大へ戻すと仕事は0となる.これは電子の遮蔽と核力・変形を省いたクーロン障壁の見積もりである.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

陽子2個の引力を,距離 r≥a で FN=F0e−r/a とする模型で考えます.F0=1.0×103N,a=1.0×10−15m です.電気力は FE=kee2/r2,重力は FG=Gmp2/r2 とします.ke=8.99×109Nm2C−2,e=1.60×10−19C,G=6.67×10−11m3kg−1s−2,mp=1.67×10−27kg を使います.

  1. FE/FG を求め,距離に依存するか調べてください.

  2. s=r/a とおき,FN/FE の最大値とその距離を求めてください.s=1,6 の値も調べ,「強い力なら遠方でも電気力に勝つ」という主張を検討してください.

中心間距離rの陽子2個と,右の陽子に働く反発力F_E,引力F_N,F_G.矢印の長さは力の強さの比を表さない. 中心間距離rの陽子2個と,右の陽子に働く反発力F_E,引力F_N,F_G.矢印の長さは力の強さの比を表さない.
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考え方 逆2乗則どうしの比は一定だが,短距離力との比は距離で変わる.最大値は比を微分して求める.

  1. FE/FG=kee2/(Gmp2)=1.24×1036.r2 が消えるので距離によらず,この2粒子の比較で重力は無視できる.

  2. C=F0a2/(kee2)=4.35 とおくと f(s)=FN/FE=Cs2e−s.dfds=Ce−ss(2−s) は 1≤s<2 で正,s>2 で負なので,最大は r=2a,f(2)=4Ce−2=2.35≈2.4 である.また f(1)≈1.6,f(6)≈0.39 だから,近距離では核力が勝つが,遠方では電気力が勝つ.s→∞ で比が0になることも確かめられる.この模型は r<a の力を指定していないので,その範囲の安定性や実際の核内の運動まで結論してはいけない.

ポイント 教える人へ

  • 半径比を3乗する理由と,電荷を決める粒子を確認させます.

  • 平均密度の一致から内部構造まで決められるか問いかけます.

  • 測定値の誤差と模型の近似を区別し,密度の相対誤差が3倍になる理由を説明させます.

  • クーロン障壁の高さと核力の届く距離を,別の量として図で確かめます.

04質量欠損と結合エネルギー

問い

ヘリウムの原子核 24He は,陽子2個と中性子2個でできています.それぞれの質量は精密に測られていて,陽子は mp=1.007276u,中性子は mn=1.008665u,ヘリウムの原子核は 4.001506u です.足し算をしてみると,ヘリウムの原子核は,陽子2個と中性子2個を合わせたより約 0.75 % 軽いのです.なくなった質量はどこへ行ったのでしょうか.

考えてみる

まず計算を確かめます.陽子2個と中性子2個の質量の和は 2×1.007276u+2×1.008665u=4.031882u で,ヘリウムの原子核との差は 0.030376u です.質量の測定は 10−9 の桁まで合っているので,これは測定の誤差ではありません.

化学では,反応の前後で質量の和は変わらない(質量保存の法則)と習います.ケーキが焼いて軽くなるのも水分が湯気になって逃げたからで,逃げたものを集めれば質量は合うはずです.ヘリウムの原子核を陽子と中性子から組み立てたときに逃げたものがあるとすれば,それは粒子ではなく,光(γ線)や飛び出した粒子の運動エネルギー,つまりエネルギーです.質量とエネルギーを結ぶのが,前の題材で見た E=mc2 です.

系の質量は中のエネルギーで決まる

前の題材で,止まっている質量 m の物体は静止エネルギー E=mc2 をもつことを見ました.これを,いくつかの部分からできている系に使います.たとえば気体を閉じこめた箱を,箱全体が止まって見える系(重心系)から見ると,系の質量 M は系の全エネルギーを c2 で割ったものです.中の分子の静止エネルギーだけでなく,分子の運動エネルギーや,分子どうしの位置エネルギーも全部入ります.

法則 系の質量

いくつかの部分からなる系が全体として静止しているとき,系の質量 M は

Mc2=∑imic2+K+U

である.mi は各部分の質量,K は各部分の運動エネルギーの和,U は部分どうしの位置エネルギーである.質量は保存する量ではなく,保存するのはエネルギーである.

気体を温めたり,ばねを縮めたりすれば系は重くなります.ただし,その増え方は 1J あたり 1/c2≈1.1×10−17kg です.日常で質量が保存して見えるのは,この変化が小さすぎるからです.

部分どうしが引き合って束縛されているときは事情が違います.ばらばらで止まっている状態を基準にすると,束縛された状態はエネルギーが低いはずです(低くなければ,何もしなくてもばらばらになれてしまいます).だから束縛された系の K+U は負で,系の質量は部分の質量の和より小さくなります.

上段はばらばらで静止した陽子2個と中性子2個の4.031882 u c²,下段はヘリウムの原子核の4.001506 u c²である.差が結合エネルギーBで,原子核ができるときにγ線や運動エネルギーとして外へ出ていく.準位の間隔は模式的に示す. 上段はばらばらで静止した陽子2個と中性子2個の4.031882 u c²,下段はヘリウムの原子核の4.001506 u c²である.差が結合エネルギーBで,原子核ができるときにγ線や運動エネルギーとして外へ出ていく.準位の間隔は模式的に示す.

質量欠損と結合エネルギー

定義 質量欠損と結合エネルギー

陽子 Z 個と中性子 A−Z 個からなる原子核の質量を M とする.

Δm=Zmp+(A−Z)mn−M

を質量欠損,

B=Δmc2

を結合エネルギーという.B は,止まっている原子核を,止まっている自由な陽子と中性子にばらばらにするのに必要なエネルギーであり,逆に自由な核子から原子核ができるときに外へ出ていくエネルギーでもある.

原子質量単位では (1u)c2=931.5MeV なので,ヘリウムの原子核では B=0.030376×931.5MeV=28.3MeV です.これが問いの答えの数値です.

表に載っている質量は,ふつう原子核ではなく電子を含めた中性の原子の質量です.このときは陽子の質量の代わりに水素原子の質量 mH=1.007825u を使います.原子と Z 個の水素原子は電子を Z 個ずつもつので,電子の質量が打ち消し合います.

Δm=ZmH+(A−Z)mn−M原子

電子の結合エネルギー(数 eV から数十 keV)は無視しています.原子の質量と原子核の質量を混ぜて使うと,電子の質量 0.000549u(0.511MeV)の何倍かがずれるので注意します.

原子番号が同じで質量数が A と A+1 の原子では電子の数が同じなので,中性子を1個足したときの結合エネルギーの増え方は

B(A+1)−B(A)=[M(A)+mn−M(A+1)]c2

です.これは,質量数 A+1 の原子核から中性子を1個引き離すのに必要なエネルギーでもあります.

原子や分子の結合も同じ

この考えは原子核に限りません.水素原子は陽子と電子が電気の力で束縛された系なので,陽子と電子の質量の和より結合エネルギー 13.6eV の分だけ軽いはずです.ただ,静止エネルギー約 939MeV に比べると,減り方の割合は 1.4×10−8 にすぎません.1分子あたり数 eV が出入りする化学反応でも,質量の変化は全体の 10−10 程度で(例題で確かめます),天秤では測れません.化学で質量保存の法則がよい近似になるのはこのためです.

質量保存の法則が使えるのは,結合エネルギーと静止エネルギーの比 B/(Mc2) が無視できるほど小さいときです.原子核ではこの比が 10−3 から 10−2 に達し,質量の差が直接測れます.原子核の結合が化学結合より約 106 倍強いのは,核力が短い距離(1fm 程度)で強く働くからです.

核子1個あたりの結合エネルギー

B は大きな原子核ほど大きいので,結合の強さを比べるには核子1個あたりの値 b=B/A を使います.

原子核

A

B(MeV)

b=B/A(MeV)

重水素 12H

2

2.22

1.11

ヘリウム 24He

4

28.3

7.07

炭素 612C

12

92.2

7.68

鉄 2656Fe

56

492

8.79

ウラン 92235U

235

1784

7.59

b を A に対して描くと,軽い原子核で急に上がり,鉄やニッケルの付近(A≈56 から 62)で最大の約 8.8MeV になり,重い原子核に向かってゆっくり下がります.ヘリウムは近くの原子核より目立って高く,特に固く結びついています.

質量数Aを0から250,核子1個あたりの結合エネルギーbを0から9 MeVで示す.印は重水素,ヘリウム,炭素,鉄,ウランの本文の表の値である.模式曲線は鉄やニッケルの付近で最大になる.核融合の矢印は軽い側から右向き,核分裂の矢印は重い側から左向きで,どちらも山に近づく. 質量数Aを0から250,核子1個あたりの結合エネルギーbを0から9 MeVで示す.印は重水素,ヘリウム,炭素,鉄,ウランの本文の表の値である.模式曲線は鉄やニッケルの付近で最大になる.核融合の矢印は軽い側から右向き,核分裂の矢印は重い側から左向きで,どちらも山に近づく.

原子核が変わる反応で出るエネルギーは,反応の前後の静止エネルギーの差で測ります.

定義 反応の Q 値

反応の前の総静止エネルギーから,反応の後の総静止エネルギーを引いた値

Q=(∑前m−∑後m)c2

を反応のQ 値という.エネルギー保存から,Q は反応による運動エネルギーの増加(光子のエネルギーを含む)に等しい.Q>0 の反応を発熱反応,Q<0 の反応を吸熱反応という.

陽子と中性子の数がそれぞれ変わらない反応では,自由な核子の静止エネルギーが打ち消し合い,結合エネルギーの差だけが残ります.

定理 Q 値と結合エネルギー

陽子と中性子の総数がそれぞれ変わらない反応では,自由な核子を結合エネルギー0として数えて

Q=∑後B−∑前B

である.結合エネルギーの総和が増える向きの反応で,エネルギーが出る.

これで,曲線の山を目指す反応がエネルギーを出す理由が分かります.ウランのように重い原子核(b≈7.6MeV)が2つの中くらいの原子核(b≈8.4 から 8.5MeV)に分かれる核分裂では,核子1個あたり約 0.8MeV 結合が強まり,1回で約 200MeV が出ます.水素のように軽い原子核が集まってヘリウムになる核融合では,核子1個あたりの増え方がさらに大きく,太陽の中で水素4個がヘリウム1個に変わると,全体で 26.7MeV 出ます.これは使った水素の質量の約 0.7 % にあたります.

ただし,Q>0 は反応が「エネルギーの上で許される」ことを言うだけで,すぐに起こることまでは言いません.ウランはそのままではほとんど分裂せず,水素どうしはクーロンの反発で近づけません.反応の起こりやすさは「放射性崩壊と放射線」と「粒子を作る,粒子を消す」で扱います.

曲線の形を見積もる(液滴模型)

なぜ曲線は鉄の付近で山になるのでしょうか.前の題材で見たように,原子核の密度はほぼ一定で,半径は R=r0A1/3(r0≈1.2fm)でした.核子は,水の分子のようにほぼ一定の間隔で詰まった液滴に似ています.この見方で,結合エネルギーを3つの項に分けて見積もります.

体積の項.核力は届く距離が短いので,1個の核子は隣にある数個の核子とだけ引き合います.中にいる核子はどれも同じ数の隣をもつので,結合エネルギーは核子の数に比例し,avA と書けます.

表面の項.表面にいる核子は外側に隣がないので,その分だけ結合が弱くなります.水の表面張力と同じ考えです.表面積あたり σ だけ結合が弱まるとすると,損は 4πR2σ=4πr02σA2/3 で,as=4πr02σ と書いて asA2/3 です.

クーロンの項.陽子どうしの電気の反発は,核力と違って遠くまで届くので,すべての陽子の組が効きます.前の題材で,電荷 Ze が半径 R の球に一様に分布しているときの静電エネルギーを,殻を積み上げる積分で UC=3ke(Ze)2/(5R) と求めました.R=r0A1/3 を入れると UC=acZ2A−1/3,ac=3kee2/(5r0) となります.kee2=1.44MeVfm,r0=1.20fm なら ac=0.720MeV です.

公式 液滴模型の結合エネルギー

B=avA−asA2/3−acZ2A1/3

係数は実験に合わせて av≈15.5MeV,as≈17.0MeV,ac≈0.72MeV 程度である.核子1個あたりでは

b=BA=av−asA1/3−acZ2A4/3
[図:液滴模型の表面の損とクーロンの損]

初期状態はA = 56,Z ≈ 26である.体積の項a_vから表面の損a_s/A^(1/3)とクーロンの損a_c Z²/A^(4/3)を順に引き,残りbを青い曲線で示す.緑と橙の棒は選んだAでの各損を同じエネルギー尺度で示す.Aのスライダーを動かすと,小さい核では表面の損が,大きい核ではクーロンの損が大きくなる.曲線のZは代表核C,Fe,Uの陽子数に合わせた近似値である.

b の式から曲線の形が読めます.表面の損 asA−1/3 は,表面にいる核子の割合とともに A が大きいほど減ります.クーロンの損は,Z がおよそ A に比例するので A2/3 のように増えます.2つの損の和が最小になる中くらいの A で,b が最大になるのです.実際の陽子数で計算すると,表面の損とクーロンの損は 12C で 7.4MeV と 0.9MeV,56Fe で 4.4MeV と 2.3MeV,235U で 2.8MeV と 4.2MeV です.

この模型は近似の上に立っています.クーロンの項は陽子が自分自身と反発する分まで数えていて(正しくは Z2 でなく Z(Z−1)),違いの割合 1/Z は Z が大きい核ほど小さくなります.また,表面の厚さを半径に比べて無視しています.ヘリウムのように核子が数個しかない原子核では,ほとんどの核子が表面にいて液滴とはみなせず,模型は大きく外れます.

(発展)実際の原子核をよく再現するには,さらに項を足します.陽子と中性子の数が違うと結合が弱まる項 aa(A−2Z)2/A(aa≈23MeV,A−2Z は中性子と陽子の数の差)は,量子力学で同じ種類の粒子が同じ状態に入れないことから来ます.重い原子核で中性子が陽子より多いのは,この項とクーロンの項との兼ね合いです.

問いに戻る

ヘリウムの原子核が陽子2個と中性子2個の和より 0.030376u 軽いのは,束縛された系のエネルギーが,ばらばらの状態より結合エネルギー B=28.3MeV だけ低いからです.原子核ができたとき,この 28.3MeV が γ線や運動エネルギーとして外へ出ていきました.質量は「なくなった」のではなく,エネルギーの形で系の外へ移ったのです.

ポイント ここまでのまとめ

  • 全体として静止した系の質量は Mc2=∑mic2+K+U で決まる.束縛された系は部分の和より軽い.

  • 質量欠損 Δm=Zmp+(A−Z)mn−M,結合エネルギー B=Δmc2.原子の質量を使うときは mp を mH に替える.

  • 化学結合の B/(Mc2) は 10−10 程度で,質量保存はよい近似になる.原子核では 10−3 程度で,質量の差が測れる.

  • 核子1個あたりの結合エネルギーは鉄の付近で最大(約 8.8MeV).山に近づく核分裂・核融合で Q=∑後B−∑前B>0 となり,エネルギーが出る.

  • 液滴模型 B=avA−asA2/3−acZ2A−1/3 で,小さい核は表面の損,大きい核はクーロンの損で b が下がる.

05結合エネルギーの例題

前の節で,原子核の質量は陽子と中性子の質量の和より小さく,その差が結合エネルギーになることを見ました.この節では,質量の表から結合エネルギーと反応の Q 値を計算し,原子核の反応と化学反応で出るエネルギーの大きさを比べます.どの例題でも,原子の質量を使うときは電子の数が両辺でそろっているかを確かめます.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

中性の原子の質量を,水素 mH=1.007825u,重水素 MD=2.014102u,ヘリウム MHe=4.002603u とし,中性子の質量を mn=1.008665u,(1u)c2=931.5MeV とする.電子の結合エネルギーは無視する.

  1. ヘリウムの原子核 24He の質量欠損,結合エネルギー BHe,核子1個あたりの結合エネルギーを求めよ.

  2. 重水素の原子核 12H の結合エネルギー BD を求めよ.

  3. 重水素の原子核2個が結びついてヘリウムの原子核1個になる反応の Q 値を求めよ.また,同じ値を原子の質量から直接求めて確かめよ.

上から自由な陽子2個と中性子2個,重水素の原子核2個,ヘリウムの原子核の順に準位を示す.最上段から重水素の段までの差を2B_D,最上段からヘリウムの段までの差をB_Heと記す.準位の間隔は模式的に示す. 上から自由な陽子2個と中性子2個,重水素の原子核2個,ヘリウムの原子核の順に準位を示す.最上段から重水素の段までの差を2B_D,最上段からヘリウムの段までの差をB_Heと記す.準位の間隔は模式的に示す.
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考え方 原子の質量を使うので,陽子の質量の代わりに水素原子の質量を使う.Z 個の水素原子とヘリウム原子は電子の数が同じなので,電子の質量が打ち消し合う.反応の Q 値は,陽子と中性子の数が変わらないので結合エネルギーの差で求まる.

解答

  1. ヘリウムは Z=2,A−Z=2 なので

Δm=2mH+2mn−MHe=(2.015650+2.017330−4.002603)u=0.030377u

である.よって BHe=0.030377×931.5MeV=28.30MeV,核子1個あたりは 0.030377×931.54MeV=7.074MeV である.

  1. 重水素は Z=1,A−Z=1 なので Δm=mH+mn−MD=0.002388u,BD=2.224MeV である.核子1個あたりでは 1.112MeV で,ヘリウムの約6分の1しかない.

  2. 反応の前後とも陽子2個と中性子2個なので,自由な核子の静止エネルギーが打ち消し合い

Q=BHe−2BD=(28.30−2×2.224)MeV=23.85MeV

である.原子の質量で直接計算すると,重水素原子2個とヘリウム原子1個はどちらも電子を2個もつので,Q=(2MD−MHe)c2=(4.028204−4.002603)×931.5MeV=0.025601×931.5MeV=23.85MeV となり,一致する.

確かめ Q>0 なので発熱反応であり,結合エネルギーの総和が 4.45MeV から 28.30MeV に増える向きと合う.質量の減り方の割合は 0.025601/4.028204=6.4×10−3 で,前の節で述べた原子核の B/(Mc2) の桁 10−3 から 10−2 に入る.電子の結合エネルギーは数十 eV で,Q と比べて 10−6 程度なので無視してよい.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

静止したウラン235の原子核 92235U が,ほとんど止まっている中性子を1個吸収して分裂し,バリウム141 56141Ba とクリプトン92 3692Kr と中性子3個になる反応を考える.中性の原子の質量は,ウラン235 が 235.043930u,バリウム141 が 140.914403u,クリプトン92 が 91.926173u である.mn=1.008665u,(1u)c2=931.5MeV,1u=1.6605×10−27kg,1MeV=1.602×10−13J とする.電子の結合エネルギーは無視する.

  1. この反応の Q 値を求めよ.

  2. 核子1個あたりの結合エネルギーは,ウラン235 が 7.591MeV,バリウム141 が 8.326MeV,クリプトン92 が 8.513MeV である.これから Q を求め,(1) と比べよ.

  3. ウラン235 が 1.0kg すべてこの反応で分裂したときに出るエネルギーを求めよ.

左では中性子nがウラン235の原子核へ近づく.中央では吸収後のウラン236の原子核が大きく変形する.右ではバリウム141とクリプトン92の原子核,中性子nが3個,外向きに飛び去る.粒子の配置と大きさは模式的に示す. 左では中性子nがウラン235の原子核へ近づく.中央では吸収後のウラン236の原子核が大きく変形する.右ではバリウム141とクリプトン92の原子核,中性子nが3個,外向きに飛び去る.粒子の配置と大きさは模式的に示す.
解答を見る

考え方 電子の数は,反応の前がウランの92個,後がバリウムの56個とクリプトンの36個で合わせて92個なので,原子の質量のまま比べてよい.結合エネルギーで求めるときは,飛び出した自由な中性子の結合エネルギーが0であることに気をつける.

解答

  1. 反応の前の質量の和は 235.043930+1.008665=236.052595u,後の和は 140.914403+91.926173+3×1.008665=235.866571u である.差は 0.186024u なので

Q=0.186024×931.5MeV=173.3MeV

である.

  1. 陽子の総数(92)と中性子の総数(144)は反応の前後で変わらないので,Q は結合エネルギーの総和の差である.吸収される中性子と飛び出す中性子3個は結合エネルギー0として数える.

Q=141×8.326+92×8.513−235×7.591=(1174.0+783.2−1783.9)MeV=173.3MeV

となり,(1) と一致する.

  1. 1個のウラン235 の質量は 235.04×1.6605×10−27kg=3.903×10−25kg なので,1.0kg に含まれる原子核の数は 2.562×1024 個である.1回あたり 173.3×1.602×10−13J=2.776×10−11J なので,全体で

2.562×1024×2.776×10−11J=7.1×1013J

である.

確かめ 「核子1個あたり約 0.8MeV 強まる」という前の節の大まかな見方で 235×(8.4−7.59)MeV≈190MeV としても桁は合う.ただし自由な中性子3個は結合に加わらず,分裂後に原子核に束縛されるのは 233 個なので,(2) のように前後の結合エネルギーの総和の差を取る必要がある.質量の減り方の割合は 0.186/236.05=7.9×10−4 である.この Q 値は,分裂片が基底状態に落ち着くまでに出る運動エネルギーと放射のエネルギーの総和である.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

水素 1mol が酸素と反応して水 1mol(18g)ができるとき,2.86×105J の熱が出る.反応前後の物質全体は静止しており,熱はすべて系の外へ逃げ,熱以外のエネルギーの出入りはないものとする.NA=6.02×1023mol−1,c=3.00×108ms−1,1eV=1.602×10−19J とする.

  1. 水分子1個ができるときに出るエネルギーは何 eV か.例題1 のヘリウムの原子核の結合エネルギーと比べよ.

  2. この反応で,反応する物質(水素と酸素,合わせて 18g)の質量は何 kg 減るか.もとの質量に対する割合も求め,質量の変化を天秤で確かめられるかを述べよ.

  3. 反応する物質 1kg あたりに出るエネルギーを,この化学反応,例題2 の核分裂(ウラン 1kg あたり 7.1×1013J),太陽の中で水素4個がヘリウム1個になる核融合(1kg あたり 6.4×1014J)で比べよ.

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考え方 1 mol あたりの量を NA で割れば1分子あたりになる.質量の減少は,系の外へ出ていったエネルギーを c2 で割ったものである.

解答

  1. 1分子あたりのエネルギーは

2.86×105J6.02×1023=4.75×10−19J=2.97eV

である.ヘリウムの原子核の結合エネルギー 28.3MeV=2.83×107eV はこの約 1×107 倍である.

  1. 質量の減少は

Δm=2.86×105J(3.00×108ms−1)2=3.18×10−12kg

で,もとの 1.8×10−2kg に対する割合は 1.8×10−10 である.通常の化学実験で用いる天秤では,この質量の変化を確かめることはできない.化学で質量保存の法則が成り立つのはこのためである.

  1. 化学反応では 2.86×105J/0.018kg=1.6×107Jkg−1 である.核分裂はこの 7.1×1013/1.6×107≈4×106 倍,核融合は 6.4×1014/1.6×107≈4×107 倍である.

確かめ 1 kg あたりのエネルギーを c2=9.0×1016Jkg−1 で割ると,それぞれ質量の減り方の割合になる.化学反応で 1.8×10−10,核分裂で 7.9×10−4,核融合で 7.1×10−3 で,(2) と例題2,前の節の「水素の約 0.7 %」と合う.エネルギーの比は,化学結合が電子の結合(eV)で,原子核の結合が核力による結合(MeV)であることを反映している.

ポイント ここまでのまとめ

  • 原子の質量で計算するときは,陽子の代わりに水素原子の質量を使い,反応の両辺で電子の数がそろっているかを確かめる.

  • 陽子と中性子の数がそれぞれ変わらない反応では Q=∑後B−∑前B.自由な核子の結合エネルギーは0として数える.

  • ウラン235 の分裂1回で約 170 から 200MeV,質量の約 0.08 % がエネルギーとして出る.水素の核融合では約 0.7 % である.

  • 化学反応の質量の変化は 10−10 程度で天秤では測れず,核反応の 106 から 107 分の1のエネルギーしか出ない.

06質量欠損と結合エネルギーの演習

原子核か中性原子かをそろえて質量を比べてください.核子あたりの値と全体の値を区別します.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

陽子数6の中性の炭素12原子の質量は 12u です.中性の水素原子の質量は mH=1.007825u,中性子の質量は mn=1.008665u,電子の質量は me=0.00054858u とします.(1u)c2=931.5MeV とし,原子内の電子の結合エネルギーは無視します.

  1. 炭素核の質量 M と陽子の質量 mp を表してください.

  2. 質量欠損 Δm,結合エネルギー B,核子1個あたりの値を求めてください.

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考え方 炭素原子と6個の水素原子を比べると,電子6個の質量が相殺する.

  1. M=12u−6me.また mp=mH−me である.

  2. Δm=6mp+6mn−M=6mH+6mn−12u=0.098940u.したがって B=Δmc2=92.16MeV,B/12=7.680MeV.Δm>0 で,分解には正のエネルギーが要る.電子の結合エネルギーと B の比が十分小さい範囲での近似である.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

核子1個あたりの結合エネルギー b=B/A を表に示します.

核種

A

Z

b(MeV)

炭素12

12

6

7.68

マグネシウム24

24

12

8.26

鉄56

56

26

8.79

  1. 全結合エネルギーが最小の核を求めてください.

  2. マグネシウム核を炭素核2個に分け,静止して十分離すための供給エネルギーを求めてください.分解の Q 値と逆向きの収支も答えてください.Q は変化前から変化後の総静止エネルギーを引いた値です.

横軸A,縦軸bに,炭素12,マグネシウム24,鉄56の表の値7.68,8.26,8.79 MeVを置いた図. 横軸A,縦軸bに,炭素12,マグネシウム24,鉄56の表の値7.68,8.26,8.79 MeVを置いた図.
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考え方 自由核子を基準に質量の低下を数え,分解前後で核子の種類と数をそろえる.

  1. 全体の値は順に 12×7.68=92.16MeV,24×8.26=198.24MeV,56×8.79=492.24MeV なので炭素核である.

  2. 自由核子の質量の和を M0 とすると,始状態は M0c2−198.24MeV,終状態は M0c2−2×92.16MeV.供給量は差の 13.92MeV≈13.9MeV となる.したがって分解の Q=−13.9MeV であり,逆向きには同量を放出できるが,起こりやすさはこの収支だけでは決まらない.b が等しい核どうしならこの差が0になることも確かめられる.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

原子番号12の中性原子の仮想測定値を示します.表の ± は真の値を含む誤差の上限とし,各誤差は独立に変化できます.電子の結合エネルギーは無視します.mn=1.008665u,(1u)c2=931.5MeV とします.

A

原子質量 Ma(u)

24

23.985000±0.000010

25

24.984600±0.000010

26

25.984220±0.000010

  1. A=24 から25への結合エネルギーの増加 s を,中央の値と誤差の上限で求めてください.

  2. 「結合エネルギーは中性子1個につき s ずつ増す」という模型は,この測定で否定できますか.3点目を予測してください.

質量数24,25,26の測定値を横軸A,縦軸M_a/u−Aで示す.誤差棒は各測定の誤差の上限を表す. 質量数24,25,26の測定値を横軸A,縦軸M_a/u−Aで示す.誤差棒は各測定の誤差の上限を表す.
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考え方 電子数が同じなので,隣接する原子質量の差と中性子の質量から結合の変化が分かる.誤差の上限は絶対値を足す.

  1. s=[mn−(Ma(25)−Ma(24))]c2=0.009065uc2=8.444MeV.2つの質量の誤差の和から δs=0.000020×931.5MeV=0.01863MeV.したがって s=(8.444±0.019)MeV である.

  2. 一定増加なら質量も等差数列になり,Ma,pred(26)=2Ma(25)−Ma(24)=25.984200u.予測誤差の上限は 3.0×10−5u.測定との差は 2.0×10−5u であり,誤差の和 4.0×10−5u 以下なので否定できない.誤差が0なら差を検出できるが,今回は模型を証明したわけでもない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

太陽の光の全放射仕事率を L=3.8×1026W とします.消費した水素の質量の割合 η=0.0070 が静止質量の減少となり,全て光へ変わる水素燃焼の模型を使います.c=3.00×108ms−1,利用可能な水素は MH=1.4×1029kg,1yr=3.16×107s とします.

  1. 質量減少率と水素消費率を求めてください.

  2. L が一定なら,この水素で何年放射できますか.質量減少を消費量と同一視した誤りも述べてください.

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考え方 質量減少は L/c2 だが,消費した水素の多くは生成物として残る.

  1. 質量減少率は L/c2=4.2×109kgs−1,水素消費率は L/(ηc2)=6.0×1011kgs−1 となる.

  2. 時間は t=MHηc2/L=2.3×1017s=7.3×109yr.質量減少率を消費率とすると時間を 1/η 倍,約140倍長く見積もる.L/c2 の単位は質量毎時間であり,η→0 では同じ光を出すための消費率が増すことも確かめられる.一定の L と光への全変換を仮定した見積もりである.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

半径 R=r0A1/3 の球形核を液滴として考えます.核子1個につき av だけ結合が強まり,表面積あたり σ だけ結合が弱まるとします.一様な電荷 Ze の球の静電エネルギーを UC=3ke(Ze)2/(5R) と与え,結合から差し引きます.av=15.5MeV,r0=1.20fm,kee2=1.44MeVfm,as=4πr02σ=17.0MeV です.

  1. B=avA−asA2/3−acZ2A−1/3 の形を導き,ac を求めてください.

  2. Z=A/2 に限り,A を連続量として b=B/A が最大となる A と b を求めてください.自己相互作用を除く Z(Z−1) を Z2 で近似した相対的な違いも,求めた A で見積もってください.

半径R,総電荷Zeの球形核.内部の核子と表面近くの核子を区別した模式図. 半径R,総電荷Zeの球形核.内部の核子と表面近くの核子を区別した模式図.
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考え方 核子数,表面積,電気的な損失は質量数への依存が異なる.核子1個あたりに直して極値を求める.

  1. 体積項は avA,表面の損失は 4πR2σ=asA2/3.電気的な損失は UC=(3kee2/(5r0))Z2A−1/3 なので,よって指定の形になり,ac=3kee2/(5r0)=0.720MeV である.

  2. b=av−asA−1/3−(ac/4)A2/3 より dbdA=A−4/3(as/3−acA/6).微分が正から負になる A∗=2as/ac=47.2 で最大となり,b∗=15.5−17.0A∗−1/3−0.180A∗2/3=8.45MeV である.Z2 を基準にした補正の割合は 1/Z=2/A∗=0.0424,約4.2 %となる.近似には 1/Z が十分小さいことが必要である.小さい核では表面項,大きい核ではクーロン項が効くが,整数条件と陽子・中性子比の効果は省いており,実際の核種までは決まらない.

ポイント 教える人へ

  • 原子質量か核質量か,電子数まで確認させます.

  • Q と外から供給するエネルギーの符号の違いを説明させます.

  • 測定と模型が両立することと,模型が証明されたことを区別します.

  • 液滴模型の3項と,連続量・一様電荷の近似の限界を問います.

07放射性崩壊と放射線

問い

遺跡から出た木炭のかけらを調べると,その木が切られたのがおよそ何千年前かが分かります.木炭には日付が書いてあるわけではなく,含まれているのはほとんどが炭素です.炭素を調べるだけで,なぜ年代が分かるのでしょうか.

考えてみる

年代を測るには,一定の速さで進む「時計」と,「いつ動き始めたか」の両方が要ります.木炭の炭素の大部分は 612C と 613C で,これらは何万年たっても変わりません.変わるのは,ごくわずか(炭素原子 1012 個に1個ほど)含まれる 614C です.614C の原子核は不安定で,やがて電子を出して 714N に変わります.

素朴に考えると,「1個の 614C が何年で壊れるか」が決まっていれば時計になりそうです.ところが実際には,同じ 614C の核でも,すぐ壊れるものもあれば何万年も残るものもあり,1個の核がいつ壊れるかは決まっていません.それでも時計として使えるのは,たくさんの核をまとめて見ると,減り方がきわめて規則正しいからです.この節では,原子核がどのように崩れ,その数がどのように減るかを調べ,それを測る方法までを考えます.

3種類の崩壊

原子核は陽子と中性子が核力で結びついたものでした.陽子と中性子の数の組み合わせによっては,別の核に変わった方が全体の静止エネルギーが小さくなります.このとき核は自然に別の核へ変わり,その際に粒子を出します.これを放射性崩壊,出てくる粒子の流れを放射線と呼びます.歴史的に α 線・β 線・γ 線と名付けられた3種類が代表です.

定義 放射性崩壊の3種類

  • α 崩壊:ヘリウムの原子核 24He(α 粒子)を出す.原子番号が2,質量数が4減る.例 88226Ra⟶86222Rn+24He.

  • β 崩壊:核の中の中性子が陽子に変わり,電子と反ニュートリノを出す(β− 崩壊,n⟶p+e−+ν¯).原子番号が1増え,質量数は変わらない.例 614C⟶714N+e−+ν¯.陽子が中性子に変わり陽電子とニュートリノを出す β+ 崩壊もある.

  • γ 崩壊:エネルギーの高い状態(励起状態)の核が,光子(γ 線)を出して低い状態へ移る.原子番号も質量数も変わらない.

横軸は中性子数,縦軸は陽子数で,格子1つが1個に対応する.親核からα崩壊は左下へ2つずつ,β⁻崩壊は左上へ1つ,β⁺崩壊は右下へ1つ移る.右のγ崩壊は,同じ核図表の点で励起状態から低い状態へ移る. 横軸は中性子数,縦軸は陽子数で,格子1つが1個に対応する.親核からα崩壊は左下へ2つずつ,β⁻崩壊は左上へ1つ,β⁺崩壊は右下へ1つ移る.右のγ崩壊は,同じ核図表の点で励起状態から低い状態へ移る.

どの崩壊でも,電荷,核子の数(質量数),エネルギー,運動量が保存されます.エネルギーの保存は静止エネルギーを含めて考え,前の題材の Q 値と同じく,崩壊の前後の静止エネルギーの差

Q=(m前−m後)c2

が,出てくる粒子の運動エネルギー(と γ 線のエネルギー)になります.Q>0 のときだけ,崩壊は自然に起こります.

α 崩壊では,静止していた親核が α 粒子(質量 mα)と娘核(質量 M)の2つに分かれます.運動量の保存から2つは逆向きに同じ大きさの運動量 p をもち,運動エネルギー p2/(2m) は質量に反比例して分かれます.

Kα=MM+mαQ,K娘=mαM+mαQ

88226Ra では Q=4.87MeV なので,α 粒子は 4.87×222/226MeV≈4.78MeV,娘核は残りの 0.09MeV ほどをもちます.2体に分かれるので,α 粒子のエネルギーは毎回同じ値になります.ここでは Kα/(mαc2)≈1.3×10−3 が十分小さいので,ニュートン力学の運動エネルギーを使いました.

β 崩壊のなぞとニュートリノ

β 崩壊で出る電子のエネルギーを測ると,α 崩壊と違って一定の値にならず,0から Q までの連続した分布になります.もし核が娘核と電子の2つだけに分かれるなら,α 崩壊と同じ理屈で電子のエネルギーは1つに決まるはずです.エネルギーが保存されていないのではないか,とまで疑われました.

左のα粒子の運動エネルギーはKαに集中する.右のβ⁻崩壊の電子は,0からQまで連続した運動エネルギーをもつ.山の形と縦軸の高さは模式的に示す. 左のα粒子の運動エネルギーはKαに集中する.右のβ⁻崩壊の電子は,0からQまで連続した運動エネルギーをもつ.山の形と縦軸の高さは模式的に示す.

1930年にパウリは,電荷をもたず,ほとんど物質と反応しない軽い粒子が一緒に出ていて,エネルギーと運動量の一部を持ち去っていると考えました.これがニュートリノで,実際に検出されたのは1956年です.3つの粒子に分かれるなら,エネルギーの分け方は運動量の保存だけでは決まらず,電子の取り分は毎回違ってよいのです.β 崩壊は,第1の題材で見た4つの相互作用のうち,弱い相互作用が起こす変化です.

崩壊は確率で起こる

1個の不安定な核がいつ崩壊するかは予言できません.分かるのは,「まだ崩壊していない核が,これからの短い時間 Δt の間に崩壊する確率」だけで,それが Δt に比例して λΔt になります.比例定数 λ は核の種類で決まり,その核がいつ生まれたか,周りの温度や化学結合にはほとんどよりません.核は「年をとらない」のです.

いま,まだ崩壊していない核が N 個あれば,Δt の間に崩壊する数の期待値は λNΔt です.N が十分大きければ実際の数もほぼこの値で,

dNdt=−λN

が成り立ちます.これは第21章のコンデンサーの放電と同じ形の1階の微分方程式で,解は指数関数です(解き方は数学の節で確かめます).

法則 崩壊の法則

崩壊定数を λ とすると,時刻0に N0 個あった核は,時刻 t に

N=N0e−λt=N0(12)t/T1/2,T1/2=ln⁡2λ

個残る.T1/2 を半減期という.核が崩壊するまでの時間の平均を平均寿命 τ といい,τ=1/λ=T1/2/ln⁡2≈1.44T1/2 である.

[図:半減期と平均寿命を変えて見る減衰曲線]

初期状態の半減期T₁/₂は2.00,平均寿命τは約2.89で,時間は任意単位である.青い曲線はN/N₀で,半減期ごとの点は1/2,1/4,1/8を示す.緑の印は時刻τで,残る割合は1/eである.スライダーで半減期を変えると,曲線とすべての印が同じ時間軸上で動く.

半減期は,どの時刻から数えても「半分になるまでの時間」です.これは,核が年をとらないことの言いかえです.614C の半減期は約5730年,92238U は約45億年,86222Rn は3.8日と,核の種類によって大きく違います.

この法則は「N が大きい」ことを使った期待値の式です.N が数個しかないと,実際の減り方は滑らかな曲線から大きくはずれます.

放射能と計数率

1秒あたりに崩壊する核の数

R=−dNdt=λN

を放射能といい,単位は Bq(ベクレル,1Bq=1s−1)です.放射能も N と同じく e−λt で減ります.同じ放射能でも,半減期の長い核なら数は多く,短い核なら少なくてすみます.

実験で直接得られるのは放射能ではなく,検出器が数えた計数です.両者の間には次のような違いがあります.

  • 立体角:点状の線源が四方八方へ一様に放射線を出すなら,距離 d にある面積 S の検出器に向かうのは全体の S/(4πd2) だけです(S が d2 より十分小さいとき).

  • 検出効率:検出器に入った放射線のうち,実際に数えられる割合 ε は1より小さいことがふつうです.

  • バックグラウンド:試料がなくても,宇宙線や周りの物質からの放射線が数えられます.試料を除いて同じ時間測った計数を差し引いて,正味の計数を求めます.

上の配置では点状の線源が等方的に放射線を出す.線源から距離dにあり,線源を向いた面積Sの検出面にはその一部が入る.Sがd²に比べて十分小さいと入射割合はS/(4πd²)で,計数には検出効率εも関わる.下は試料を除き,同じ時間で周囲や宇宙線によるバックグラウンドを測る配置である. 上の配置では点状の線源が等方的に放射線を出す.線源から距離dにあり,線源を向いた面積Sの検出面にはその一部が入る.Sがd²に比べて十分小さいと入射割合はS/(4πd²)で,計数には検出効率εも関わる.下は試料を除き,同じ時間で周囲や宇宙線によるバックグラウンドを測る配置である.

計数のゆらぎ

崩壊は確率で起こるので,同じ試料を同じ時間だけ測っても,計数は毎回少しずつ違います.たくさんの核がそれぞれ小さな確率で独立に崩壊するとき,計数の期待値が C¯ なら,ばらつき(標準偏差)は C¯ になることが知られています(第14章).実際の計数 C が大きければ,その不確かさを C と見積もれます.相対的な不確かさは 1/C で,1 % の精度を得るには約1万カウント要ります.

バックグラウンドを差し引いた正味の計数 S=C−D では,引き算をしても D のゆらぎは消えません.独立な2つのゆらぎは2乗で足し合わされ,S の不確かさは C+D です.弱い試料ほど,バックグラウンドを長く測ることが大切になります.

放射線の透過と線量

γ 線は物質を通るとき,原子の電子との散乱や吸収で数を減らします.物質の薄い層 dx を通る間に,まだ散乱も吸収もされていない光子が除かれる確率を μdx とすると,崩壊と同じ形の式 dI/dx=−μI が成り立ち

I=I0e−μx

となります.光子の数が半分になる厚さ x1/2=ln⁡2/μ を半価層といいます.半価層の5倍の厚さで 1/32 になります.ただし,この指数則は「一度も散乱されなかった光子」の数の式で,散乱された光子も検出器に入る配置では成り立ちません.電荷をもつ α 線や β 線は,進みながら原子を電離して少しずつエネルギーを失うので,ある距離(飛程)で止まります.α 線は紙1枚,β 線は数 mm のアルミニウム板で止まりますが,γ 線を減らすには鉛やコンクリートの厚い層が要ります.

放射線が体に与える影響は,体が受け取ったエネルギーで測ります.

定義 吸収線量と実効線量

  • 吸収線量:物質 1kg あたりが受け取った放射線のエネルギー.単位は Gy(グレイ,1Gy=1Jkg−1).

  • 等価線量:吸収線量に放射線の種類による重み(γ 線・β 線は1,α 線は20)を掛けたもの.単位は Sv(シーベルト).

  • 実効線量:等価線量に臓器ごとの感受性の重みを掛けて全身で足したもの.単位は Sv.

Bq は線源が1秒に何回崩壊するか,Gy と Sv は受け取る側の量で,同じ線源でも距離や遮蔽で値が変わります.自然の放射線から受ける実効線量は,世界の平均で年に 2.4mSv ほどです.

崩壊の連鎖と放射平衡

崩壊してできた娘核が,また放射性であることもあります.92238U は α 崩壊と β 崩壊を合わせて14回くり返し,安定な 82206Pb で止まります(崩壊系列).α 崩壊だけが質量数を変えるので,α 崩壊の回数は (238−206)/4=8 回,残りが β 崩壊で,原子番号の変化 92−82=10=2×8−6 から β− 崩壊は6回と分かります.

親核の半減期が娘核よりずっと長いと,十分時間がたった後,娘核は「親から作られる割合」と「自分が崩壊する割合」がつり合った数で落ち着きます.このとき λ親N親=λ娘N娘,つまり親と娘の放射能が等しくなります.これを放射平衡といいます.半減期の短い娘核が天然にあるのは,長寿命の親から作られ続けているからです.詳しい時間変化は数学の節で求めます.

問いに戻る

大気の上空では,宇宙線が作った中性子が窒素に当たり,714N+n⟶614C+p の反応で 614C が作られ続けています.作られる割合と崩壊する割合はつり合い,大気の二酸化炭素の中の 614C の割合はほぼ一定です.生きている植物は光合成で大気の炭素を取り込み続けるので,体の炭素も同じ割合の 614C を含み,炭素 1g あたりの放射能は約 0.23Bq です.

木が切られると炭素の取り込みが止まり,これが時計の動き始めです.その後は 614C が半減期5730年で減るだけなので,炭素 1g あたりの放射能が今の植物の r 倍なら

t=T1/2ln⁡2ln⁡1r

年前に切られたと分かります.r=1/4 ならちょうど2半減期,約1.1万年です.

この方法が使えるのは,大気の 614C の割合が昔も同じだったこと,死んだ後に炭素の出入りがないこと,の2つが成り立つときです.実際には大気の割合は時代によって数 % 変わるので,年輪の年代と照らし合わせた較正の表を使います.また,半減期の10倍(約6万年)を超えると放射能が 10−3 倍より小さくなり,バックグラウンドに埋もれて測れません.今では,放射能を数える代わりに 614C の原子そのものを質量分析で数える方法が主流です.

ポイント ここまでのまとめ

  • 不安定な核は,α 崩壊・β 崩壊・γ 崩壊で別の核や低い状態へ移る.電荷・核子数・エネルギー・運動量が保存され,β 崩壊ではニュートリノがエネルギーの一部を持ち去るので電子のエネルギーは連続になる.

  • 1個の核の崩壊は確率で起こり,多数の核は N=N0e−λt で減る.半減期は T1/2=ln⁡2/λ,平均寿命は τ=1/λ.

  • 放射能は R=λN(Bq).計数は立体角と検出効率の分だけ小さく,バックグラウンドを引く.計数 C のゆらぎは C で,引き算の後も残る.

  • γ 線は I0e−μx で減り,半価層は ln⁡2/μ.体が受ける量は Gy(エネルギー)と Sv(影響の重み付き)で測る.

  • 木炭の年代は,死んだ時から 614C の放射能が半減期5730年で減ることを使い,今の植物との放射能の比から求める.

08崩壊の微分方程式と放射平衡

崩壊の法則を微分方程式として解き,平均寿命,片対数グラフ,親核と娘核が続けて崩壊するときの式をまとめます.

定理 数学の道具:指数関数的な減衰

λ>0 を定数として

dNdt=−λN,N(0)=N0

の解は N=N0e−λt である.変数分離で dN/N=−λdt とし,両辺を積分すると ln⁡(N/N0)=−λt となる(第21章のコンデンサーの放電と同じ形).

半減期. e−λT1/2=1/2 から T1/2=ln⁡2/λ.よって e−λt=(1/2)t/T1/2 である.

平均寿命. 時刻 t から t+dt の間に崩壊する割合は λe−λtdt なので,崩壊までの時間の平均は

τ=∫0∞tλe−λtdt=(−te−λt)∫|0∞+∫0∞e−λtdt=1λ

である(部分積分).τ は,初めの減り方 λN0 のまま減り続けたら0になる時刻でもある.

崩壊した数. 時刻 t1 から t2 の間に崩壊する数は N(t1)−N(t2) で,測定時間 Δt が半減期より十分短ければ λN(t1)Δt で近似できる.

練習1 半減期 8.0日 の核が N0 個ある.20日 後に残る割合と,平均寿命を求めよ.

答え (1/2)20/8.0=2−2.5≈0.18.τ=8.0/ln⁡2日≈12日.

定理 数学の道具:片対数グラフ

N=N0e−λt の自然対数をとると

ln⁡N=ln⁡N0−λt

で,縦軸を ln⁡N にしたグラフは傾き −λ の直線になる.放射能や一定の時間幅の計数も N に比例するので同じ傾きになる.片対数方眼紙なら,値が半分になる時間の幅から半減期が読める.

バックグラウンドを含む総計数は「指数関数+定数」なので直線にならず,先に正味の計数にしてから対数をとる.半減期の違う2種類の核が混ざると,グラフは折れ曲がり,後には長い方の直線だけが残る.

青線は半減期の違う2種類の核の正味計数の自然対数である.後半の長い半減期の成分を緑の直線として前へ延ばす.その成分を対数をとる前の正味計数から差し引くと,残りは橙の短い半減期の直線となる.赤い点線はバックグラウンドを含む総計数で,後半は一定の背景へ近づいて曲がる.時間と成分の大きさは説明用の値である. 青線は半減期の違う2種類の核の正味計数の自然対数である.後半の長い半減期の成分を緑の直線として前へ延ばす.その成分を対数をとる前の正味計数から差し引くと,残りは橙の短い半減期の直線となる.赤い点線はバックグラウンドを含む総計数で,後半は一定の背景へ近づいて曲がる.時間と成分の大きさは説明用の値である.

ln⁡C の不確かさは C の相対的な不確かさ 1/C なので,計数が小さい後半の点ほど大きく,直線を引くときは前半の点を重く見ます.

親核と娘核の崩壊

親核P(崩壊定数 λP)が崩壊して娘核D(崩壊定数 λD)になり,Dがさらに崩壊するとします.DはPの崩壊で作られた分だけ増え,自分の崩壊の分だけ減るので

dNPdt=−λPNP,dNDdt=λPNP−λDND

です.2つ目は積分因子を使って解きます.

定理 数学の道具:生成と崩壊がある1階の微分方程式

dydt+ky=g(t)

の両辺に ekt を掛けると,左辺は d(ekty)/dt にまとまる(積の微分).よって

ekty(t)=y(0)+∫0teksg(s)ds

である.g が一定値 g0 で y(0)=0 なら,y=g0k(1−e−kt) となり,g0/k に時定数 1/k で近づく.

親子の崩壊では NP=N0e−λPt,ND(0)=0,λP≠λD として,k=λD,g=λPN0e−λPt とおくと

ND=λPN0λD−λP(e−λPt−e−λDt)

です.放射能の比は

λDNDλPNP=λDλD−λP(1−e−(λD−λP)t)

です.

  • 娘の方が速く崩壊する(λD>λP)と,比は λD/(λD−λP) に近づき,親と娘は同じ速さで減ります(過渡平衡).

  • さらに λP/λD が十分小さいと比は1で,親と娘の放射能が等しくなります(永続平衡).g を一定とした上の式のとおり,娘は時定数 1/λD で平衡に近づきます.

  • λD<λP なら平衡にならず,親が先になくなり娘が残ります.

[図:親と娘の半減期の比と放射平衡]

初期状態ではT_D/T_P = 0.020,娘の初期核数は0である.青い実線は親の放射能λ_P N_P,橙の破線は娘の放射能λ_D N_Dを,初めの親の放射能λ_P N₀で割った片対数グラフである.娘は0から増え,親の直線に寄り添う.半減期の比を変えると,永続平衡に近い場合,過渡平衡,平衡なしの違いが分かる.0は対数目盛に描けないので,娘の曲線は表示範囲に入ったところから見える.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

遺跡の木炭から炭素 4.0g を取り出し,検出効率 0.50 の検出器で 10h 測ったところ,総計数は5400であった.試料を除いて同じ時間測ったバックグラウンドの計数は3300であった.今の植物の炭素 1g あたりの 614C の放射能を 0.23Bq,半減期を5730年とし,1h=3600s とする.木が切られたときの炭素 1g あたりの放射能は今の植物と同じで,その後の炭素の出入りはないものとする.

  1. 木炭の炭素 1g あたりの放射能と,木が切られてからの年数を求めよ.

  2. 計数の不確かさをそれぞれの計数の平方根として,年数の不確かさを求めよ.

左は木炭から取り出した炭素4.0 gを測る配置で,検出効率0.50,測定時間10 h,総計数5400である.右は試料を除いた配置で,検出効率0.50,同じ10 hのバックグラウンド計数3300である.周囲や宇宙線からの放射線は両方の測定で数えられる. 左は木炭から取り出した炭素4.0 gを測る配置で,検出効率0.50,測定時間10 h,総計数5400である.右は試料を除いた配置で,検出効率0.50,同じ10 hのバックグラウンド計数3300である.周囲や宇宙線からの放射線は両方の測定で数えられる.
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考え方 正味の計数を検出効率と時間と質量で割れば,1 g あたりの放射能になる.測定時間10 h は半減期よりずっと短いので,その間の放射能は一定とみてよい.年数は放射能の比の対数で決まり,対数の不確かさは比の相対的な不確かさに等しい.

  1. 正味の計数は S=5400−3300=2100.1 g あたりの放射能は

SεΔtm=21000.50×3.6×104s×4.0g=2.9×10−2Bqg−1

である.今の植物との比は r=2.92×10−2/0.23=0.127 なので

t=5730ln⁡2ln⁡1r年=8.27×103×2.06年≈1.7×104年

である.

  1. S の不確かさは σS=5400+3300≈93 で,相対的には 93/2100=0.044.t=(T1/2/ln⁡2)ln⁡(1/r) で r は S に比例するので,σt=(T1/2/ln⁡2)σS/S=8.27×103×0.044年≈3.7×102年.よって t=(1.71±0.04)×104年 である.

確かめ:r=0.127 は 1/8 に近いので,年数は3半減期 1.72×104年 に近い.不確かさの大半はバックグラウンドから来ていて,正味の計数がバックグラウンドより小さい試料では,バックグラウンドを長く測ることが効く.なお,σS/S が十分小さいので,ln を1次で近似した誤差の伝え方が使える.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

92238U だけからなる試料 1.00mg の放射能を測ると 12.4Bq であった.アボガドロ定数を 6.02×1023mol−1,モル質量を 238gmol−1,1年を 3.16×107s とする.

  1. 試料の核の数と崩壊定数を求め,半減期を年で表せ.

  2. この半減期を,放射能の時間変化を片対数グラフにして求めることはできるか.1年の測定で放射能が何割変わるかから考えよ.

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考え方 半減期が長すぎて減り方が見えない核は,核の数 N と放射能 λN を別々に求め,その比で λ を決める.

  1. N=1.00×10−3238×6.02×1023=2.53×1018.

λ=RN=12.42.53×1018s−1=4.90×10−18s−1
T1/2=ln⁡2λ=1.41×1017s=4.47×109年

である.

  1. 1年で放射能は e−λt 倍になり,λt=4.90×10−18×3.16×107=1.55×10−10 だけ相対的に減る.これは 1.55×10−9 割である.これを測るには,計数の相対的な不確かさ 1/C をこれより小さく,つまり C>1/(λt)2≈4.2×1019 にしなければならず,できない.片対数グラフの方法は使えない.

確かめ:地球の年齢(約46億年)と同じほどの半減期なので,92238U は地球ができたときの約半分が今も残っている.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

88226Ra(半減期 1.60×103年)1.00g を,ラドンを除いた直後に容器に密閉した.88226Ra は α 崩壊して 86222Rn(半減期 3.82日)になる.観測期間はラジウムの半減期より十分短く,ラジウムの放射能は一定と見なす.ラジウムのモル質量を 226gmol−1,アボガドロ定数を 6.02×1023mol−1,1年を 3.16×107s,標準状態の気体の数密度を 2.69×1025m−3 とする.

  1. 88226Ra の放射能を求めよ.

  2. 十分時間がたったとき,容器の中の 86222Rn の原子の数と,それが標準状態で占める体積を求めよ.

  3. 86222Rn の放射能が (2) の平衡の値の99 %になるまでの日数を求めよ.

ラドンを除いた直後に,ラジウムRaの試料1.00 gを容器に密閉する.Raは半減期1600年でα崩壊してRnとなり,Rn気体が容器内に生じる.Rnは半減期3.82日でさらに崩壊する.粒子の数や容器の大きさは模式的で,求める核数・体積・日数は示さない. ラドンを除いた直後に,ラジウムRaの試料1.00 gを容器に密閉する.Raは半減期1600年でα崩壊してRnとなり,Rn気体が容器内に生じる.Rnは半減期3.82日でさらに崩壊する.粒子の数や容器の大きさは模式的で,求める核数・体積・日数は示さない.
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考え方 親の半減期1600年は娘の3.82日より5桁長いので,数週間の間,親の数は一定とみなせる.娘は一定の割合 λPNP で作られ,生成と崩壊がつり合う永続平衡へ近づく.

  1. NP=6.02×1023226=2.66×1021,λP=ln⁡21600×3.16×107s=1.37×10−11s−1.放射能は

RP=λPNP=3.65×1010Bq

である.

  1. 平衡では λDND=λPNP.λD=ln⁡23.82×8.64×104s=2.10×10−6s−1 なので

ND=RPλD=3.65×10102.10×10−6=1.74×1016

である.体積は,丸める前の ND を用いて V=ND/(2.69×1025m−3)=6.46×10−10m3,つまり 0.646mm3 ほどにすぎない.

  1. ND=λPNPλD(1−e−λDt) で,1−e−λDt=0.99 となるのは

t=ln⁡100λD=ln⁡100ln⁡2×3.82日≈25.4日

のときである.

確かめ:λP/λD=6.5×10−6 は十分小さく,25.4日の間に親が減る割合 λPt≈3×10−5 も無視できるので,親を一定とした近似は正しい.過渡平衡の式の比 λD/(λD−λP) も1と 10−5 以下しか違わない.

ポイント ここまでのまとめ

  • dN/dt=−λN の解は N0e−λt.半減期 T1/2=ln⁡2/λ,平均寿命 τ=1/λ(部分積分で示せる).

  • 片対数グラフで ln⁡N は傾き −λ の直線.バックグラウンドは先に引き,2種類の核が混ざると折れ曲がる.

  • 半減期が長すぎる核は,核の数と放射能の比 λ=R/N から崩壊定数を決める.

  • 娘核は dND/dt=λPNP−λDND に従い,積分因子 eλDt で解ける.親の方が十分長寿命なら,娘は時定数 1/λD で永続平衡 λPNP=λDND に近づく.

09放射性崩壊と放射線測定の演習

核数と放射能,計数を区別して解いてください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

単一核種の放射能が 80Bq から 9.0h 後に 10Bq となった.1h=3600s とする.

  1. 半減期・崩壊定数・平均寿命を求めよ.

  2. 初めの核数と崩壊した核数を求めよ.

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考え方 放射能 R=λN の比は核数の比に等しい.

  1. 10/80=1/8=2−3 より T1/2=3.0h.λ=ln⁡2/10800s−1=6.4×10−5s−1,τ=1/λ=4.3h.

  2. N0=R0/λ=1.2×106.崩壊数は 7N0/8=1.1×106.R/λ は無次元となる.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

質量数232,原子番号90の核が α・β− 崩壊を経て,質量数208,原子番号82になる.

  1. 各崩壊の回数を求めよ.途中の γ 放出で回数は変わるか.

  2. 単色の γ 線の未散乱光子数が厚さ d の板で半分になる.I(x)=I0e−μx として,μ と透過数を1/32以下にする最小厚さを求めよ.

質量数232,原子番号90から,質量数208,原子番号82へ変わる崩壊系列.別図にγ光子束,厚さxの板,検出器を示す. 質量数232,原子番号90から,質量数208,原子番号82へ変わる崩壊系列.別図にγ光子束,厚さxの板,検出器を示す.
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考え方 質量数から α の回数,電荷保存から β− の回数を決める.

  1. 回数を a,b とすると 232−4a=208,90−2a+b=82.よって a=6,b=4 である.γ 放出では質量数・原子番号は不変.

  2. e−μd=1/2 から μ=ln⁡2/d.e−μx≤2−5 より x≥5d で,最小は 5d.散乱光子も検出する配置では,この指数則をそのまま使えない.

演習 3

東京大 2000 後期(改題) ★★☆☆☆

単一核種を固定した配置で 60s ずつ測り,下表の総計数 Ci を得た.毎回の独立な同時間の背景計数 Di は400で,検出効率は一定とする.

開始時刻 t

Ci

0s

5200

600s

2800

1200s

1600

  1. Si=Ci−Di を片対数で直線化して半減期を求めよ.総計数も直線になるか.

  2. 計数の不確かさはその平方根で,正味計数の分散は σi2=Ci+Di である.両端から求める L=ln⁡(S0/S2) について,σL2=σ02/S02+σ22/S22 を使い,半減期の不確かさを求めよ.

試料ありの測定と独立な背景測定を示す.下段は開始時刻tと正味計数S_iの片対数作図用座標で,測定点は未記入. 試料ありの測定と独立な背景測定を示す.下段は開始時刻tと正味計数S_iの片対数作図用座標で,測定点は未記入.
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考え方 背景を引いても背景計数のゆらぎは残る.

  1. 正味計数は4800,2400,1200.効率 ε,測定時間 Δt で S(t)=ε[N(t)−N(t+Δt)]=εN0(1−e−λΔt)e−λt.ln⁡S の傾きは −λ で,λ=ln⁡4/(1200s),T1/2=ln⁡2/λ=600s.中央も一致する.総計数は直線にならない.

  2. σL=5600/48002+2000/12002=0.0404.T1/2=1200ln⁡2/Ls を微分すると σT/T1/2=σL/L.よって σT=600×0.0404/ln⁡4s≈17s である.相対ゆらぎ σL/L≈0.029 は小さい.

演習 4

東京大 1995 前期(改題) ★★☆☆☆

木炭の炭素の単位質量あたりの 614C 放射能は現代炭素の0.325倍である.炭素質量の10.0 %は後で混入した現代炭素である.植物の生前の同位体比は一定で,この混入以外には死後の炭素交換はない.半減期は 5730年 とする.

  1. 木炭由来の現代炭素に対する比と年代を求めよ.

  2. 混入を無視した年代と誤りの向きを求めよ.

炭素質量の90.0 %が木炭由来,10.0 %が混入した現代炭素である.試料全体の単位質量あたりの放射能は現代炭素の0.325倍. 炭素質量の90.0 %が木炭由来,10.0 %が混入した現代炭素である.試料全体の単位質量あたりの放射能は現代炭素の0.325倍.
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考え方 炭素質量で重みをつけて放射能を足す.

  1. 木炭由来の比を r とすると 0.325=0.900r+0.100 なので r=0.250.t=−5730ln⁡r/ln⁡2年=1.15×104年.

  2. t′=−5730ln⁡0.325/ln⁡2年=9.29×103年.比放射能が増すので約 2.2×103年 若く見える.混入0なら年代は一致する.

演習 5

東京大 2000 後期(改題) ★★☆☆☆

静止核が α 粒子と基底状態の娘核に崩壊する.娘核は 216u,α 粒子は 4.00u とする.α粒子の測定運動エネルギーは 6.48MeV であった.運動は非相対論近似で扱い,1uc2=931.5MeV とする.

  1. 娘核の運動エネルギーと解放エネルギー Q を求めよ.

  2. vα/c を求め,近似を確かめよ.β− 崩壊の電子が連続エネルギーになる理由を述べよ.

静止親核から娘核とα粒子が生じる.娘核の質量216 u,α粒子の質量4.00 uと測定運動エネルギー6.48 MeVを示す. 静止親核から娘核とα粒子が生じる.娘核の質量216 u,α粒子の質量4.00 uと測定運動エネルギー6.48 MeVを示す.
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考え方 等しい運動量では,運動エネルギーは質量に反比例する.

  1. pD+pα=0.K=p2/(2m) より KD/Kα=4/216 なので KD=0.120MeV.Q=Kα+KD=6.60MeV である.

  2. vα/c=2Kα/(mαc2)=12.96/(4.00×931.5)=0.0590.Kα/(mαc2)=0.00174 は小さく,非相対論近似がよい.β− 崩壊は娘核・電子・反ニュートリノへエネルギーと運動量を分けるので,電子の取り分は一定でない.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

PからD,Dから安定核へ枝分かれなく崩壊する.初めに NP=N0,ND=0 とする.半減期はPが 40日,Dが 2.0日 である.

  1. λP=λ とおき,ND(t) と放射能比 r=RD/RP を求めよ.

  2. 娘の放射能の最大時刻と r を求めよ.

  3. 十分後の r と,放射能を等しくする近似条件を求めよ.

PからD,Dから安定核への崩壊.Pの半減期40日,Dの半減期2.0日と,時刻0のN_P=N_0,N_D=0を示す. PからD,Dから安定核への崩壊.Pの半減期40日,Dの半減期2.0日と,時刻0のN_P=N_0,N_D=0を示す.
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考え方 娘核の増減は生成率と崩壊率の差である.

  1. λD=20λ,NP=N0e−λt.dNDdt+20λND=λN0e−λt.e20λt を掛けて0から積分すると e20λtND=N0(e19λt−1)/19.よって

ND=N019(e−λt−e−20λt),r=2019(1−e−19λt)
  1. 微分を0とすると −e−λt+20e−20λt=0.t∗=ln⁡20/(19λ)=40ln⁡20/(19ln⁡2)日=9.1日.このとき r=1 で,微分は正から負へ変わる.

  2. 極限は 20/19≈1.053 である.λP/λD と e−19λt が小さければ r≈1.前者は0.050で約5 %のずれが残る.t=0 で娘核数は0となる.

ポイント 教える人へ

半減期と平均寿命が対応する値を問います.
背景を引いてもゆらぎが残る理由を問います.
反跳のエネルギー等分の誤りを問います.
娘の放射能の最大と放射平衡を区別させます.

10粒子を作る,粒子を消す

問い

電子とその反粒子である陽電子は,同じ質量 me をもち,電荷の符号だけが逆です.この2つが出会うと,あとには光(γ線)だけが残り,電子も陽電子もどこにもいなくなります.化学反応では,原子は組み替わるだけで消えることはありませんでした.物質が消えるとは,いったいどういうことなのでしょうか.消えるときに,何が変わらずに残っているのでしょうか.

考えてみる

化学で習う質量保存の法則は,「原子の種類と数は反応の前後で変わらない」ということでした.「質量欠損と結合エネルギー」で見たように,原子核が組み替わると結合エネルギーの分だけ質量が変わり,質量そのものは保存しませんでした.それでも核子の数は変わりませんでした.対消滅では,電子という粒子そのものが消えます.数えられるものの数が変わってしまうなら,反応の前後で何を確かめればよいのでしょうか.ここでは,保存するものを一つずつ数え直し,エネルギーと運動量の勘定を相対論の式で正しく行います.

反応で保存するもの

原子核に粒子を当てて別の原子核を作る反応を核反応といいます.例えば,ラザフォードが初めて起こした反応は

24He+714N⟶817O+11H

です.左右で,原子番号の和(電荷)も,質量数の和(核子の数)も等しくなっています.

法則 反応で保存する量

核反応や粒子の生成・消滅では,次の量が反応の前後で変わらない.

  1. 全エネルギー(静止エネルギーを含む)と全運動量,角運動量.

  2. 電荷.

  3. 核子の数(より一般にはバリオン数.反粒子は −1 と数える).

  4. レプトン数(電子・ニュートリノを +1,陽電子・反ニュートリノを −1 と数える).

粒子の「数」そのものではなく,反粒子を負に数えた数が保存します.電子と陽電子のレプトン数は +1 と −1 なので,2つ合わせて0です.だから対で消えることができ,光(レプトン数0)だけが残ってもかまいません.

Q 値

反応 a+X⟶b+Y の Q 値は,「質量欠損と結合エネルギー」で定めたとおり静止エネルギーの減少分

Q=(ma+mX−mb−mY)c2

で,反応による運動エネルギーの増加分に等しくなります.Q>0 なら発熱反応,Q<0 なら吸熱反応です.原子の質量の表を使うときは,左右で電子の数がそろっているかを確かめます.

しきいエネルギー

吸熱反応を起こすには,運動エネルギーを |Q| だけ与えれば十分でしょうか.止まっている核 X(質量 M)に粒子 a(質量 m)を運動エネルギー K で当てる場合を,まずニュートン力学で考えます.入射の運動量を p とすると,K=p2/(2m) です.運動量が保存するので,反応のあとも重心は速さ p/(m+M) で動き続け,その運動エネルギー p2/[2(m+M)]=mK/(m+M) は反応に使えません(第5章の重心系).反応に使えるのは重心系での運動エネルギー MK/(m+M) だけなので,これが −Q 以上でなければなりません.

定理 しきいエネルギー(非相対論)

止まっている質量 M の標的に質量 m の粒子を当てる吸熱反応(Q<0)が起こる最小の運動エネルギーは

Kth=−Q(1+mM)

で,このとき生成物は重心の速度で一体になって動く.

ここでは,反応で質量が変わることを運動の式では無視しました.|Q| や K が静止エネルギー (m+M)c2 に比べて十分小さいことが,この近似の適用条件です.質量の変化そのものが主役の対生成などでは,相対論の式が必要です.

第1の題材で示したように,質量 m の粒子のエネルギーと運動量は E2=(pc)2+(mc2)2 を満たし,光子では E=pc です.粒子の集まりについて,全エネルギー Es と全運動量 ps から作る

s=Es2−c2|ps|2

は,どの慣性系で計算しても同じ値になります(第13章(発展)のローレンツ変換で c2t2−x2 が不変であるのと同じ構造で,ここでは事実として使います).全運動量が0になる慣性系,つまり重心系では s は全エネルギーの2乗です.反応のしきいでは,重心系で生成物がすべて止まっているので,s=(∑mfc2)2 です.

止まっている標的では Es=Ea+Mc2,ps=pa なので,Ea2−(pac)2=(mc2)2 を使って

s=(m2+M2)c4+2EaMc2=(m+M)2c4+2Mc2K

となります.これが (∑mfc2)2 以上という条件から

定理 しきいエネルギー(相対論)

Kth=(∑mf)2−(m+M)22Mc2=−Q(1+mM)+Q22Mc2

右辺の第1項が非相対論の結果で,第2項が補正である.

核分裂と連鎖反応

92235U は遅い中性子を吸収すると,ほぼ半分ずつの2つの核に分かれ,同時に2〜3個の中性子を出します.1回の分裂で出るエネルギーは約 200MeV で,その大部分は2つの分裂片の運動エネルギーです.止まった核が2つに分かれると,運動量の保存から分裂片の運動量の大きさは等しく,K=p2/(2m) より運動エネルギーは質量に反比例して配分されます.

出てきた中性子が別のウラン核に吸収されて次の分裂を起こすと,反応が次々に続きます.これを連鎖反応といいます.ある世代の中性子の数に対する次の世代の数の比を増倍率 k とすると,世代 j の数は nj=kjn0 です.k>1 なら数は指数関数的に増え,k<1 なら途絶え,k=1 なら一定の割合で反応が続きます.原子炉は,中性子を吸収する制御棒などで k=1 を保つ装置です.

分裂で出る中性子は速く(MeV 程度),ウラン235に吸収されにくいので,原子炉では水や黒鉛などの減速材の核と衝突させて遅くします.質量 m の中性子が止まっている質量 Am の核に正面から弾性衝突すると,第5章の結果から,中性子の速度は −(A−1)/(A+1) 倍になり,運動エネルギーは [(A−1)/(A+1)]2 倍に減ります.軽い核ほど1回で多くのエネルギーを奪うので,水素を含む水がよく使われます.

遅い中性子nを吸収したウラン235が2つの分裂片と3個の中性子に分かれる.放出された中性子が次のウラン核に吸収され,核分裂が枝分かれして続く.一部の中性子は吸収材に吸収され,または外へ逃げる.矢印は中性子の進む向き,灰色の下向き矢印は反応の順序を表す. 遅い中性子nを吸収したウラン235が2つの分裂片と3個の中性子に分かれる.放出された中性子が次のウラン核に吸収され,核分裂が枝分かれして続く.一部の中性子は吸収材に吸収され,または外へ逃げる.矢印は中性子の進む向き,灰色の下向き矢印は反応の順序を表す.

核融合と太陽

軽い核どうしが合わさって重い核になると,核子1個あたりの結合エネルギーが大きくなるのでエネルギーが出ます.例えば

12H+13H⟶24He+n+17.6MeV

です.太陽の中心では,いくつかの段階を経て,正味で陽子4個がヘリウム核1個になり,1回あたり約 26.7MeV が出ています.途中で陽子が中性子に変わるので,電荷とレプトン数の保存から陽電子とニュートリノが2個ずつ出ます.

融合を妨げるのは,核どうしのクーロン反発です.核力が届く距離 3fm 程度まで近づくには,およそ 0.5MeV のクーロン障壁を越えなければなりません.一方,太陽の中心の温度 1.6×107K での kBT は約 1.4keV にすぎません.それでも反応が起こるのは,温度 T の気体の中にはエネルギー E がずっと大きい粒子もわずかにいて,その割合が e−E/(kBT) に比例すること(ボルツマン因子,第17章.ここでは事実として使います)と,量子力学のトンネル効果で障壁の高さに届かなくても通り抜けられることによります.単位体積あたりの反応の回数は,重水素と三重水素の数密度の積 nDnT(出会う組の数)に比例し,この因子のために温度にとても敏感です.

粒子の生成と消滅

ここで問いの対消滅に戻ります.止まっている電子と陽電子の全運動量は0です.光子1個は p=E/c の運動量をもつので,光子1個だけになることはできません.全運動量0を保つには,少なくとも2個の光子が反対向きに出る必要があります.エネルギーの保存から,2つの光子はそれぞれ mec2=0.511MeV をもちます.

逆に,光子から電子と陽電子の対を作る対生成も起こります.ただし,光子1個は s=E2−(pc)2=0 で,重心系のエネルギーが0なので,真空中の光子1個だけでは対生成は起こりません.原子核の近くを通ると,核が運動量を受け持って対生成が起こります.しきいは,相対論のしきいの式で入射粒子の質量 m を0とし(光子),∑mf=M+2me とおくと

Eth=2mec2(1+meM)

で,重い核ならほぼ 2mec2=1.022MeV です.

ポイント 粒子と反粒子

すべての粒子には,質量が同じで電荷などの符号が逆の反粒子がある(光子のように自分自身が反粒子のものもある).粒子と反粒子は対で生まれ,対で消える.このとき消えるのは静止エネルギーではなく,粒子という形であり,エネルギーと運動量は光子などに受け継がれる.

左は静止した電子e⁻と陽電子e⁺の対消滅で,2個の光子γが反対向きに飛び出す.各光子のエネルギーは0.511 MeVである.右は原子核の近くを通る光子γから電子と陽電子が生まれる対生成で,原子核も右へ反跳して運動量を受け取る.矢印は進む向きの模式図である. 左は静止した電子e⁻と陽電子e⁺の対消滅で,2個の光子γが反対向きに飛び出す.各光子のエネルギーは0.511 MeVである.右は原子核の近くを通る光子γから電子と陽電子が生まれる対生成で,原子核も右へ反跳して運動量を受け取る.矢印は進む向きの模式図である.

素粒子の見取り図

陽子と中性子は,さらに小さなクォークからできています.陽子は uud,中性子は udd で,u クォークの電荷は +2e/3,d クォークは −e/3 です.電子やニュートリノは強い相互作用を受けないレプトンです.これまでに知られている素粒子は次の表のようにまとめられます.

種類

第1世代

第2世代

第3世代

クォーク(電荷 +2e/3)

u(アップ)

c(チャーム)

t(トップ)

クォーク(電荷 −e/3)

d(ダウン)

s(ストレンジ)

b(ボトム)

レプトン(電荷 −e)

電子

ミュー粒子

タウ粒子

レプトン(電荷0)

電子ニュートリノ

ミューニュートリノ

タウニュートリノ

相互作用

力を運ぶ粒子

強い相互作用

グルーオン

電磁相互作用

光子

弱い相互作用

W粒子,Z粒子

重力

重力子(未発見)

ほかに,素粒子に質量を与えるヒッグス粒子があります.β 崩壊は,弱い相互作用によって中性子の中の d クォークが u クォークに変わり,電子と反ニュートリノが生まれる反応です.電荷・核子の数・レプトン数がすべて保存していることを確かめてみてください.

問いに戻る

対消滅で消えたのは,電子と陽電子という粒子の形です.エネルギーと運動量は2個の光子に引き継がれ,電荷とレプトン数は反粒子を負に数えればはじめから0なので,変わっていません.質量はエネルギーの一つの形であり,粒子は条件がそろえば生まれも消えもします.化学の「原子は消えない」は,反応のエネルギーが静止エネルギーに比べてずっと小さく,粒子を作ったり消したりできない場合の近似だったのです.

ポイント ここまでのまとめ

  • 反応の前後で,エネルギー・運動量・角運動量・電荷・核子の数(バリオン数)・レプトン数が保存する.反粒子は負に数える.

  • Q=(∑mi−∑mf)c2 は運動エネルギーの増加分.吸熱反応のしきいは重心運動の分だけ |Q| より大きい.

  • s=Es2−c2|ps|2 はどの慣性系でも同じで,しきいは重心系で s=(∑mfc2)2.

  • 核分裂は増倍率 k で連鎖反応の行方が決まり,核融合はクーロン障壁のために高温が要る.

  • 電子と陽電子は2個以上の光子になって消え,光子は核の助けを借りて対を作る.

11核反応と対消滅・対生成の例題

本体の節で示した保存則,Q 値,不変量 s=Es2−c2|ps|2 を使って,核反応と粒子の生成・消滅を具体的に計算します.どの例題でも,まず反応の前後で何が保存するかを書き出し,次にエネルギーと運動量を立てます.以下,(1u)c2=931.5MeV,電子の静止エネルギーを mec2=0.511MeV,hc=1.240×10−6eVm とします.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

ほとんど止まっている中性子が水素の原子核(陽子)に吸収されて重水素の原子核ができ,γ線が1個出る.

n+11H⟶12H+γ

中性子の質量を 1.008665u,水素原子の質量を 1.007825u,重水素原子の質量を 2.014102u とする.

  1. この反応の Q 値を求めよ.原子の質量を使ってよい理由も述べよ.

  2. 重水素核の反跳を考えて,γ線のエネルギーを求めよ.反跳の運動エネルギーはどれほどか.重水素核の静止エネルギーは 1876MeV とする.

上は遅い中性子nが静止した陽子¹₁Hへ近づく反応前の状態である.下は吸収後の模式図で,重水素核²₁Hが右へ反跳し,光子γが左へ出る.矢印は進む向きを表す. 上は遅い中性子nが静止した陽子¹₁Hへ近づく反応前の状態である.下は吸収後の模式図で,重水素核²₁Hが右へ反跳し,光子γが左へ出る.矢印は進む向きを表す.
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考え方 原子の質量の表を使うときは電子の数をそろえる.反応のあと全運動量は0なので,γ線と重水素核は同じ大きさの運動量を反対向きにもつ.

  1. 左辺の水素原子と右辺の重水素原子はどちらも電子を1個含むので,両辺に電子の質量が同じだけ加わり,差を取ると打ち消し合う(電子の結合エネルギーの差は 1eV より十分小さく,無視できる).よって

Q=(1.008665+1.007825−2.014102)uc2=0.002388×931.5MeV=2.224MeV

である.これは重水素核の結合エネルギーそのものである.

  1. γ線のエネルギーを Eγ,重水素核の質量を M とする.運動量の保存から重水素核の運動量は Eγ/c で,反跳の速さは光速よりずっと小さいので,運動エネルギーは K=Eγ2/(2Mc2).エネルギーの保存は

Q=Eγ+Eγ22Mc2

である.右辺第2項は小さいので,まず Eγ≈Q として

K≈(2.224MeV)22×1876MeV=1.32×10−3MeV=1.32keV

よって Eγ=Q−K=2.223MeV となる.

確かめ:K/(Mc2)=7×10−7 で非相対論の式でよい.Eγ と Q の差は 0.06 %で,反跳はγ線のエネルギーをほとんど変えない.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆
  1. 止まっている電子と陽電子が対消滅して2個の光子になった.各光子のエネルギーと波長を求めよ.

  2. 運動エネルギー K=1.00MeV の陽電子が止まっている電子と対消滅し,2個の光子が陽電子の進んでいた向きの前方と後方へ出た.各光子のエネルギーを求めよ.

上の(1)は電子e⁻と陽電子e⁺がともに静止している場合で,反応後に2個の光子γが左右へ出る.下の(2)は運動エネルギーK = 1.00 MeVの陽電子が右へ進み,静止した電子と対消滅する場合で,光子が前方と後方へ出る.矢印は進む向きだけを示し,波線の間隔は模式的である. 上の(1)は電子e⁻と陽電子e⁺がともに静止している場合で,反応後に2個の光子γが左右へ出る.下の(2)は運動エネルギーK = 1.00 MeVの陽電子が右へ進み,静止した電子と対消滅する場合で,光子が前方と後方へ出る.矢印は進む向きだけを示し,波線の間隔は模式的である.
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考え方 対消滅の前の全エネルギーと全運動量を求め,それを2個の光子に分ける.光子では E=pc である.

  1. 全運動量は0なので,2個の光子の運動量は大きさが等しく反対向きで,エネルギーも等しい.全エネルギーは 2mec2 だから,各光子は E=mec2=0.511MeV である.波長は

λ=hcE=1.240×10−6eVm5.11×105eV=2.43×10−12m

である.

  1. 陽電子の全エネルギーは mec2+K,運動量 p は E2=(pc)2+(mec2)2 から

pc=K2+2Kmec2=1.002+2×1.00×0.511MeV=1.422MeV

前方・後方の光子のエネルギーを E1,E2 とする.エネルギーと運動量の保存は

E1+E2=2mec2+K=2.022MeV,E1−E2=pc=1.422MeV

で,E1≈1.72MeV,E2=0.300MeV である.

確かめ:s をどちらの側で計算しても同じになるはずである.丸める前の光子のエネルギーを用いると,光子2個では s=(E1+E2)2−(E1−E2)2=4E1E2≈2.07MeV2.反応前は s=(2.022)2−(1.422)2≈2.07MeV2 で一致する.K→0 で E1,E2 はともに mec2 に戻る.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

エネルギー E の光子が,止まっている質量 M の粒子に当たり,その粒子を残したまま電子と陽電子の対を作る.

γ+X⟶X+e−+e+
  1. s を使って,対生成が起こる E のしきい値を求めよ.

  2. X が鉛の原子核(静止エネルギー 1.93×105MeV)の場合と,電子の場合について,しきい値を数値で求めよ.

  3. X がない真空中では,どんなにエネルギーの大きい光子でも対生成は起こらない.その理由を,s を使って説明せよ.

上はエネルギーEの光子γが,静止した質量Mの標的粒子Xへ入射する状態である.下はしきいの模式図で,電子,陽電子,Xが同じ速度vで前へ進む. 上はエネルギーEの光子γが,静止した質量Mの標的粒子Xへ入射する状態である.下はしきいの模式図で,電子,陽電子,Xが同じ速度vで前へ進む.
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考え方 しきいでは,重心系で3つの粒子がすべて止まっている.s は慣性系によらないので,実験室系で計算した s と,重心系での値 (Mc2+2mec2)2 を比べればよい.

  1. 実験室系では Es=E+Mc2,|ps|=E/c だから

s=(E+Mc2)2−E2=(Mc2)2+2EMc2

これが (Mc2+2mec2)2 以上という条件から

2EMc2≥4meMc4+4me2c4,E≥2mec2(1+meM)

である.

  1. 鉛の原子核では me/M=0.511/(1.93×105)=2.65×10−6 で,しきい値は 2mec2≈1.02MeV とほとんど同じである.電子では M=me で,Eth=4mec2≈2.04MeV となる.軽い標的では,重心の運動に回るエネルギーが大きいので,しきいが高くなる.

  2. 光子1個では s=E2−(pc)2=0 で,エネルギー E によらない.光子1個には重心系が存在しない.一方,電子と陽電子の系は s≥(2mec2)2>0 なので,反応前後で s が一致せず,エネルギーと運動量を同時に保存できない.

確かめ:M→∞ では標的が運動量を受け取ってもエネルギーを受け取らないので,しきい値は 2mec2 になり,(1) の式と合う.ニュートン力学のしきいの式 −Q(1+m/M) は入射粒子の運動エネルギーを p2/(2m) とする式なので,質量0の光子には使えず,ここでは相対論の式が必要である.

ポイント ここまでのまとめ

  • 原子の質量の表から Q 値を出すときは,両辺の電子の数をそろえる.

  • 止まった状態からの反応では全運動量が0で,生成物はエネルギーを運動量の釣り合いで分け合う.重い反跳核の運動エネルギーは E2/(2Mc2) と小さい.

  • 対消滅の2個の光子は,重心系では mec2 ずつ,動いている陽電子では前方の光子ほど大きなエネルギーをもつ.

  • 不変量 s を実験室系と重心系で比べると,しきいが一度に求まる.光子1個は s=0 なので単独では対を作れない.

12核反応と粒子生成の演習

重心運動と相対運動を分けて解いてください.以下,1uc2=931.5MeV とします.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

静止した 92236U が 56144Ba と質量数92の核Xへ分裂した直後を考える.中性子・光子の放出はなく,運動エネルギーの和は 177MeV.質量は 144u,92u とし,運動は非相対論近似で扱う.

  1. Xの原子番号を求めよ.

  2. 各運動エネルギーと速さの比を求めよ.

静止したウラン236核が,バリウム144核と質量数92の核Xへ分裂する模式図.運動エネルギーの和177 MeVは与えられた値である. 静止したウラン236核が,バリウム144核と質量数92の核Xへ分裂する模式図.運動エネルギーの和177 MeVは与えられた値である.
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考え方 等しい運動量からエネルギーを配分する.

  1. ZX=92−56=36.

  2. BaをBと略し,pB=pX=p と K=p2/(2m) より KB/KX=92/144.和が 177MeV なので KB=177×92/236MeV=69.0MeV,KX=108MeV.vB/vX=mX/mB=92/144 である.和は 177MeV に戻る.K/(mc2)≤0.0013 は小さい.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

世代 j の中性子数を平均して nj とする.各中性子が確率 p で核分裂を起こし,新たな中性子を平均2.50個生む.残りは失われる.検出効率一定で平均計数を得た.

世代 j

0

1

2

平均計数

1000

1200

1440

  1. 増倍率 k=nj+1/nj と p を求めよ.

  2. 期待値が2倍以上となる最初の世代と,定常となる p を求めよ.

中性子が確率pで分裂を起こして平均2.50個を生み,確率1−pで失われる模型. 中性子が確率pで分裂を起こして平均2.50個を生み,確率1−pで失われる模型.
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考え方 放出数に次の分裂につながる割合を掛ける.

  1. nj+1=2.50pnj.計数比から k=1.20,p=k/2.50=0.480.

  2. nj=kjn0 より j≥ln⁡2/ln⁡1.20=3.80.最初は第4世代である.一定には k=1 が必要で,p=1/2.50=0.400 である.放出数が1を超えても損失があれば増殖しない.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m の中性子が,静止した質量 3m の核と非相対論的な正面弾性衝突を繰り返す.吸収はない.初めの運動エネルギーは 16keV である.

  1. 衝突後の速度と残るエネルギー割合を求めよ.

  2. 0.025eV 以下まで減速する最小衝突回数を求めよ.

質量mの中性子が速度vで質量3mの静止核へ正面から入射する.衝突前の配置を示す. 質量mの中性子が速度vで質量3mの静止核へ正面から入射する.衝突前の配置を示す.
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考え方 速度比の2乗がエネルギー比になる.

  1. 衝突後の核・中性子の速度を V,v′ として v=v′+3V,v2=v′2+3V2.弾性衝突なので v′−V=−v.これを連立し v′=−v/2,V=v/2.E′/E=(v′/v)2=1/4 である.

  2. En=16000×4−neV より n≥ln⁡(16000/0.025)/ln⁡4=9.64.最小は10回.9回後は 0.061eV,10回後は 0.015eV となる.斜めの衝突では取り分が変わる.非相対論式には E/(mc2) が小さい条件が要る.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

粒子 m=4.00u が静止核 M=12.0u に衝突し,2粒子へ変わる吸熱反応を考える.生成粒子の質量の和は m+M+δ/c2,δ=8.50MeV.

  1. 慣性質量変化を無視する非相対論近似で,入射運動エネルギー K のしきい値 K0 を求めよ.

  2. 全エネルギー Es,全運動量 ps の s=Es2−c2ps2 は重心系でも不変である.粒子の E2=(pc)2+(mc2)2 を使い,厳密なしきい値と補正を求めよ.

質量mの入射粒子と質量Mの静止核が2粒子へ変わる.生成粒子の質量の和m+M+δ/c²と,δ=8.50 MeVを示す. 質量mの入射粒子と質量Mの静止核が2粒子へ変わる.生成粒子の質量の和m+M+δ/c²と,δ=8.50 MeVを示す.
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考え方 しきい値でも重心運動は残る.

  1. K=p2/(2m).重心のエネルギーは p2/[2(m+M)]=mK/(m+M) なので,利用できる分は MK/(m+M).よって K0=δ(1+m/M)=11.3MeV.

  2. Es=(m+M)c2+K,p2c2=K2+2mc2K から

s=(m+M)2c4+2Mc2K

しきい値の重心系では s=[(m+M)c2+δ]2.展開すると

K0=δ(1+mM)+δ22Mc2

補正は 8.502/(2×12.0×931.5)MeV=3.23keV で,主項の 2.85×10−4 倍.近似条件の K/(mc2),δ/[(m+M)c2] はともに0.004未満で小さい.

演習 5

オリジナル ★★☆☆☆

重水素核D・三重水素核Tの数密度を nD,nT とする.古典的な障壁越えで,単位体積・単位時間の融合回数を r=κ0nDnTe−Eb/(kBT) とする.κ0 は一定,Eb=20keV,kB はボルツマン定数である.

等量混合で kBT1=5.0keV のとき r1=1.0×1014m−3s−1 であった.密度一定で温度を2倍にした r と,体積 0.020m3 での総放出仕事率を求めよ.1反応で 17.6MeV,1eV=1.602×10−19J とする.

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考え方 密度一定なら反応率の比は指数因子だけで決まる.

r2/r1=exp⁡[Eb/(2kBT1)]=e2=7.4.r2=7.4×1014m−3s−1.Q=17.6×106×1.602×10−19J=2.82×10−12J より P=r2VQ=42W.時間 Δt に r2Δt/nD,r2Δt/nT が小さい条件で密度を一定とできる.実際の反応率はトンネル効果で変わる.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

真空中の2光子が角 θ で衝突し,電子・陽電子を作る.光子エネルギーは E,ε.両粒子の質量は m,mc2=0.511MeV.全エネルギー・運動量の s=Es2−c2|ps|2 は重心系でも不変で,光子は p=E/c に従う.

  1. 対生成の条件を導け.1光子だけでは生成できない理由も述べよ.

  2. ε=1.00eV の光子との正面衝突の最小 E と,E=4.00×102GeV での最小角を求めよ.1GeV=109eV とする.

エネルギーE,εの2光子が衝突する.下段で進行方向を同じ始点に移し,その間の角θを示す. エネルギーE,εの2光子が衝突する.下段で進行方向を同じ始点に移し,その間の角θを示す.
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考え方 重心系のエネルギーで判断する.

  1. 運動量の和より c2ps2=E2+ε2+2Eεcos⁡θ.よって s=2Eε(1−cos⁡θ).重心系で必要な最低エネルギーは 2mc2 だから

Eε(1−cos⁡θ)≥2m2c4

1光子では s=E2−(pc)2=0 で,必要な s≥4m2c4 を満たさない.

  1. 正面では 1−cos⁡θ=2 より Emin=(mc2)2/ε=2.61×102GeV.指定値で 1−cos⁡θ≥2(0.511×106)2/(4.00×1011)=1.3056.よって θ≥arccos⁡(−0.3056)≈108∘.同方向なら s=0 で,高エネルギーでも生成できない.

ポイント 教える人へ

分裂片への配分を説明させます.
平均と個々の増殖を区別させます.
しきい値で重心運動が残る理由を問います.
核融合模型の範囲と密度一定の条件を問います.

13第31章の章末問題

結合エネルギー,崩壊の時間変化,核反応の保存則を組み合わせます.測定される計数や熱量から,核の変化をどこまで決められるかも考えてください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

重水素核 12H 2個が反応して,陽子と核Xを作ります.重水素核とXの全結合エネルギーは,それぞれ BD=2.225MeV,BX=8.482MeV です.自由な陽子・中性子を基準にし,電子は考えません.

  1. Xの質量数と原子番号を求め,反応1回の Q 値を求めよ.Q は反応前の総静止エネルギーから反応後の値を引いた量です.

  2. BX>BD という比較だけで Q>0 といえますか.反応による総静止質量の減少を,(1u)c2=931.5MeV を用いて求めよ.

重水素核2個が陽子と核Xを作る反応.既知の核種の質量数・原子番号と,B_D=2.225 MeV,B_X=8.482 MeVを示す. 重水素核2個が陽子と核Xを作る反応.既知の核種の質量数・原子番号と,B_D=2.225 MeV,B_X=8.482 MeVを示す.
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考え方
反応の前後で陽子・中性子の総数が同じなので,自由核子の静止エネルギーが相殺する.結合エネルギーは反応に参加する核すべてについて足す.

  1. 質量数の保存から 2+2=1+AX,電荷の保存から 1+1=1+ZX.したがって AX=3,ZX=1 で,Xは三重水素核である.自由核子の静止エネルギーの和を E0 とすると,始状態は E0−2BD,終状態は E0−BX.よって Q=BX−2BD=(8.482−4.450)MeV=4.032MeV である.

  2. 必要な比較は BX>2BD である.例えば BD<BX<2BD なら吸熱となる.今回の質量減少は Δm=Q/c2=(4.032/931.5)u=0.004329u.結合の増加が正の質量減少に対応し,Δmc2=Q に戻ることも確かめられる.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

初めに N0=4.0×1012 個の放射性核を含む試料を,断熱容器内に置きます.核は半減期 T1/2=6.0h で安定核へ β− 崩壊し,1回の崩壊で総静止エネルギーが Q=1.80MeV 減ります.反ニュートリノは平均 0.60MeV を持って容器外へ逃げ,それ以外の放出エネルギーはすべて熱になります.1h=3600s,1MeV=1.602×10−13J,c=3.00×108ms−1 とします.

  1. 初めの熱出力を求めよ.

  2. 初めから 12h の間に発生する熱量と,崩壊した核すべてについての総静止質量の減少を求めよ.熱量を c2 で割った値との違いも述べよ.

断熱容器内の試料からの電子などは容器内で熱になり,反ニュートリノだけが外へ逃げる.初期核数4.0×10¹²,半減期6.0 hを示す. 断熱容器内の試料からの電子などは容器内で熱になり,反ニュートリノだけが外へ逃げる.初期核数4.0×10¹²,半減期6.0 hを示す.
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考え方
熱出力は崩壊率と1回あたりの熱の積である.総静止質量の減少には,外へ逃げる反ニュートリノのエネルギーも含む.

  1. 1回あたりの熱は qh=Q−0.60MeV=1.20MeV=1.9224×10−13J.崩壊定数は λ=ln⁡2/(6.0×3600s)=3.209×10−5s−1 なので,P0=λN0qh=2.5×10−5W である.

  2. 2半減期後の核数は N0/4 で,崩壊数は 3N0/4=3.0×1012.熱量は H=(3N0/4)qh=0.58J.総静止質量の減少は

Δm=(3N0/4)Qc2=3.0×1012×1.80×1.602×10−13(3.00×108)2kg=9.6×10−18kg

である.H/c2=6.4×10−18kg はその 2/3 であり,残りは反ニュートリノが運ぶ.断熱容器内に蓄えられた熱にも質量相当量があるので,核の静止質量の減少と容器全体の質量減少は区別する.P0 の次元はエネルギー毎時間である.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

点状の線源は崩壊1回につき1個の単色γ光子を等方的に放出し,半減期は 5.0h です.初めに距離 d0=0.25m の小さな検出器で得られる正味計数率は 640s−1 でした.その後,線源と検出器を距離 d=0.50m に固定し,間に板を置きます.未散乱γ線の透過率は e−μx,板の半価層は 8.0mm です.検出器の面は常に線源に正対し,面積と検出効率は一定,散乱光子は検出しません.

  1. 初めから 10h 後の正味計数率を,板厚 x の関数として求めよ.

  2. その時点の正味計数率を 5.0s−1 以下にする最小の板厚を求めよ.背景計数率が 2.0s−1 なら,その最小厚さでの総計数率はいくらですか.

初期測定の距離d_0=0.25 mと,板を置いた測定の距離d=0.50 mを別々に示す.板厚xと線源に正対する検出器を描く. 初期測定の距離d_0=0.25 mと,板を置いた測定の距離d=0.50 mを別々に示す.板厚xと線源に正対する検出器を描く.
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考え方
時間による崩壊,距離による幾何学的な減少,板による吸収は別々の因子として掛かる.背景は最後に足す.

  1. 検出器の面積を Sd とすると,受け取る割合は Sd/(4πd2).したがって距離の変更で (d0/d)2=1/4 倍,2半減期の経過で 1/4 倍になる.また μ=ln⁡2/(8.0mm) なので,求める率は r(x)=640×(1/4)×(1/4)e−μxs−1=40e−μxs−1 である.

  2. 40e−μx≤5.0 より μx≥ln⁡8=3ln⁡2.最小厚さは x=24mm.総計数率は (5.0+2.0)s−1=7.0s−1 である.距離を2倍にしても背景は 1/4 倍にならない.幾何学的な近似には Sd/d02 が十分小さいこと,指数則の使用には未散乱光子だけを数える配置が必要である.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

安定核Xが中性子を捕獲して放射性核Yとなり,Yは半減期 600s で安定核へ崩壊します.XとYは同じ原子番号で,結合エネルギーの差は BY−BX=6.00MeV です.捕獲は一定の率 R で起こり,Yの再捕獲はありません.初めにYはなく,1200s 照射し,照射を止めてから 600s 待ち,続く 600s に背景を差し引いて 4.87×104 個の崩壊を検出しました.検出効率は ε=0.100 です.Xの初期核数は 3.0×1010 個,入射中性子の運動エネルギーは無視でき,1MeV=1.602×10−13J とします.

  1. 照射中のYの核数を求め,測定から R を決めよ.

  2. 捕獲の Q 値と,捕獲直後のγ放出・反跳に対応する放出仕事率を求めよ.Xの減少を無視した仮定を確かめよ.

Xが中性子を捕獲してYとなり,Yが安定核へ崩壊する.照射1200 s,待機600 s,計数600 sと検出効率0.100を示す. Xが中性子を捕獲してYとなり,Yが安定核へ崩壊する.照射1200 s,待機600 s,計数600 sと検出効率0.100を示す.
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考え方
照射中は生成と崩壊を同時に追い,照射後の核数から有限時間内の崩壊数を数える.捕獲のエネルギー収支には,自由中性子の静止エネルギーも入る.

  1. λ=ln⁡2/(600s) とおく.照射中は dNYdt=R−λNY.両辺に eλt を掛けて積分すると eλtNY=R(eλt−1)/λ だから,NY(t)=R(1−e−λt)/λ.照射終了時は Ni=3R/(4λ) である.待機で半分となり,次の半減期にその半分が崩壊するので,正味計数 C=εNi/4=3εR/(16λ).よって

R=16λC3ε=3.00×103s−1

となる.

  1. 陽子数は同じで中性子が1個増すので,Q=(MX+mn−MY)c2=BY−BX=6.00MeV.求める仕事率は Pc=RQ=2.88×10−9W で,Yの後の崩壊熱はこの値に含めない.照射中に消費したXの割合は R(1200s)/(3.0×1010)=1.2×10−4 と小さい.一定生成率の仮定には,この割合とYの再捕獲確率が小さいことが必要である.

演習 5

オリジナル ★★☆☆☆

同じ試料に,互いに生成し合わない核種UとVが含まれます.半減期はUが 10.0min,Vが 5.00min です.両者の崩壊を同じ効率 ε=0.200 で検出し,各回 60.0s 測定しました.総計数を表に示します.背景の期待計数は各回100であり,別の長時間測定によってその不確かさは無視できるとします.1min=60s です.

測定開始時刻

総計数

0min

6100

10.0min

2600

20.0min

1225

  1. 最初の測定窓にUとVがそれぞれ寄与する正味計数の期待値 u,v を,最初の2点から決めよ.3点目を予測して模型を検証せよ.

  2. 初めの核数 NU0,NV0 を求めよ.測定窓の間も崩壊することを考慮せよ.

  3. 各回の計数は独立で,分散は総計数に等しいとします.u,v の標準不確かさを求めよ.背景を差し引いた計数を,1種類の指数関数で表せますか.

核種UとVを含む試料を同じ効率で測定する.開始時刻0,10.0,20.0 minの各60.0 sの測定窓と総計数6100,2600,1225を示す. 核種UとVを含む試料を同じ効率で測定する.開始時刻0,10.0,20.0 minの各60.0 sの測定窓と総計数6100,2600,1225を示す.
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考え方
一定長の測定窓の寄与は,開始時刻に対して各核種の指数則で減る.成分を分ける連立方程式を立て,ゆらぎは元の総計数から評価する.

  1. 正味計数は S0=6000,S1=2500,S2=1125.開始時刻が 10.0min 遅れると,Uの寄与は 1/2,Vは 1/4 となる.よって u+v=S0,u/2+v/4=S1.解くと u=4S1−S0=4000,v=2S0−4S1=2000.3点目の予測は u/4+v/16=1000+125=1125 で一致する.

  2. 測定時間を Δt=60.0s とすると,Uの最初の計数は u=ε∫0ΔtλUNU0e−λUtdt=εNU0(1−e−λUΔt).λUΔt=ln⁡2/10,λVΔt=ln⁡2/5 だから

NU0=40000.200(1−2−1/10)=2.99×105,NV0=20000.200(1−2−1/5)=7.73×104

である.瞬間の崩壊率を測定時間倍する近似は使っていない.

  1. 背景の不確かさを無視できるので,σS02=6100,σS12=2600.線形結合から σu=16×2600+6100=218,σv=4×6100+16×2600=257 である.従って u=(4.00±0.22)×103,v=(2.00±0.26)×103.各不確かさは周辺の値であり,u,v 自体は独立ではない.S1/S0=0.417,S2/S1=0.450 と比が異なるため,中央の値は単一指数則に一致しない.単一模型を統計的に棄却できるかは別の検定が要る.大計数の近似に必要な 1/Ci は各回とも小さい.

演習 6

オリジナル ★★☆☆☆

運動エネルギー Kα=3.20MeV のα粒子が静止した 613C 核に入射し,中性子と核Xを作りました.入射方向と直角に出た中性子の運動エネルギーは Kn=4.34MeV です.運動の計算では非相対論近似を用い,α粒子,中性子,Xの質量を,それぞれ 4m0,m0,AXm0 と近似します.m0c2=931.5MeV,炭素核とα粒子の結合エネルギーは 97.11MeV,28.30MeV とします.電子は考えません.

  1. Xの質量数・原子番号と運動エネルギーを求めよ.

  2. 測定から反応の Q 値とXの結合エネルギーを求めよ.質量数を質量の比に使う近似の限界も述べよ.

α粒子がx軸の正方向へ静止炭素13核に入射し,中性子がy軸の正方向へ出る.既知の運動エネルギーK_αとK_nを示す. α粒子がx軸の正方向へ静止炭素13核に入射し,中性子がy軸の正方向へ出る.既知の運動エネルギーK_αとK_nを示す.
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考え方
運動量の直角な成分を2乗して足すと,反跳する核の運動エネルギーが分かる.その後にエネルギー保存と結合エネルギーの差を使う.

  1. 保存則から AX=13+4−1=16,ZX=6+2=8 なのでXは酸素核である.入射運動量を pα,中性子の運動量を pn とすると,pX=pαex−pney.ここで ex,ey は各軸の単位ベクトルである.従って

KX=pα2+pn22(16m0)=4Kα+Kn16=1.07125MeV≈1.07MeV

である.

  1. Kα+Q=Kn+KX より Q=(4.34+1.07125−3.20)MeV=2.21MeV.また自由核子の静止エネルギーが相殺するので Q=BX−BC−Bα.よって BX=(97.11+28.30+2.21125)MeV=127.62MeV である.非相対論近似には K/(mc2) が小さいことが必要で,最大でも中性子の 0.00466 である.質量比の近似には核子質量の差と B/(Am0c2) の小ささも必要であり,得た結合エネルギーは指定した近似模型の値である.

演習 7

オリジナル ★★★☆☆

仮想的な静止核 (A,Z)=(200,80) が,同一の核2個へ分裂します.中性子と光子の放出はなく,生成核は基底状態です.親核と生成核の核子1個あたりの結合エネルギーを 7.60MeV,8.70MeV とします.分裂後は球形の生成核2個が表面を接している状態から,クーロン反発だけで遠ざかる模型を使います.生成核の半径は R=r0A1/3,r0=1.25fm,kee2=1.44MeVfm です.1fm=10−15m,(1u)c2=931.5MeV とします.

  1. Q 値と,接触時・無限遠での各核の運動エネルギーを求めよ.

  2. 同じ核子数・電荷・半径で Q だけが小さかった場合,この接触状態から出発できる条件を求めよ.Q>0 だけで,指定された分裂経路が可能といえますか.

静止親核A=200,Z=80と,表面が接する同一の球形生成核2個.生成核の半径Rと中心間距離2Rを示す. 静止親核A=200,Z=80と,表面が接する同一の球形生成核2個.生成核の半径Rと中心間距離2Rを示す.
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考え方
Q は,反発の位置エネルギーと運動エネルギーを合わせたものになる.接触時にクーロンエネルギーを全運動エネルギーへさらに足すと,二重に数えてしまう.

  1. 保存則から各核は A=100,Z=40.結合エネルギーの増加は Q=[2(100×8.70)−200×7.60]MeV=220MeV.接触距離は dc=2r01001/3=11.604fm なので,相互作用の位置エネルギーは Uc=ke(40e)2/dc=198.553MeV.途中の計算には桁を多めに残した.エネルギー保存 2Kc+Uc=Q から Kc=(Q−Uc)/2≈11MeV.差を取るため,入力の精度では小数第1位まで確定できない.無限遠では位置エネルギーが0となり,各核は K∞=Q/2=110MeV となる.各核の運動量が互いに逆で質量が等しいため,常に等分である.

  2. 接触時の運動エネルギーが非負である条件は Q≥Uc≈199MeV.0<Q<Uc なら,無限遠での収支は発熱でも,指定した接触状態には達せない.これは球形の接触状態を出発点とした模型についての必要条件であり,実際の変形経路や核力による障壁を決めたものではない.運動の計算で質量を 100u と近似すると,K∞/(100uc2)≈0.0012 は小さく,非相対論的に扱える.

演習 8

オリジナル ★★★☆☆

静止核Pが基底状態の娘核D,電子,反ニュートリノへ崩壊します.PとDの核質量を MP,M,電子質量を m とし,Q=(MP−M−m)c2=1.20MeV,Mc2=5.00×104MeV,mc2=0.511MeV とします.反ニュートリノの質量は0です.粒子の全エネルギーは E2=(pc)2+(mc2)2 に従い,質量0の粒子は E=pc です.

  1. 反ニュートリノのエネルギーが0へ近づく極限で電子の運動エネルギーが最大になります.その最大値を厳密に求め,反跳を無視した値からの差を電子ボルトで示せ.1MeV=106eV です.

  2. 電子の運動エネルギーが 0.800MeV の事象では,反ニュートリノのエネルギーをまず反跳なしで近似し,娘核の反跳エネルギーの最大値・最小値を求めよ.

静止Pから娘核D,電子,反ニュートリノが生じる.電子と反ニュートリノの運動量の間の角θを示す.Dの位置は模式的に配置したもの. 静止Pから娘核D,電子,反ニュートリノが生じる.電子と反ニュートリノの運動量の間の角θを示す.Dの位置は模式的に配置したもの.
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考え方
端点では2体のエネルギー保存を相対論の式で解く.端点以外では,娘核の運動量が電子と反ニュートリノの運動量のベクトル和で決まる.

  1. W=MPc2=Mc2+mc2+Q とおく.端点では電子と娘核の運動量の大きさが同じで,ED=W−Ee.両者の関係式を引くと ED2−Ee2=M2c4−m2c4 だから,W2−2WEe=M2c4−m2c4.従って

Kmax=W2+m2c4−M2c42W−mc2=Q(2Mc2+Q)2(Mc2+mc2+Q)

である.反跳による差は Q−Kmax=Q(Q+2mc2)/[2(Mc2+mc2+Q)]=2.6663×10−5MeV≈26.7eV.よって最大値は約 1.19997MeV となる.追加の桁は模型の中央の値で反跳補正を示したものである.

  1. まず Eν≈Q−Ke=0.400MeV.電子の運動量は pec=Ke(Ke+2mc2)=0.800(0.800+1.022)MeV=1.2073MeV で,電子には非相対論式を使わない.娘核の運動量の大きさは,同方向の放出で pe+Eν/c,逆方向で |pe−Eν/c|.娘核だけを非相対論的に扱うと

KD,max≈(1.2073+0.400)22(5.00×104)MeV=25.8eV,KD,min≈(1.2073−0.400)22(5.00×104)MeV=6.52eV

となる.KD/Eν は最大でも 6.5×10−5,KD/(Mc2) は 5.2×10−10 以下なので,反ニュートリノのエネルギーから反跳を省き,娘核に非相対論式を使う近似は整合する.M→∞ で端点は Q に戻る.

演習 9

オリジナル ★★★☆☆

仮想的な核X (A,Z)=(20,10) がγ光子を吸収して,核Yと中性子1個へ分かれます.XとYの結合エネルギーは BX=160.0MeV,BY=154.0MeV,Xの核質量は Mc2=1.860×104MeV です.光子の運動量は Eγ/c,系の s=Es2−c2|ps|2 は重心系でも同じ値です.

  1. Yの質量数・原子番号と,中性子を静止して分離するのに必要なエネルギー Sn を求めよ.

  2. 静止Xへの光子のしきいエネルギーを求め,Sn との差をキロ電子ボルトで示せ.しきい値でのYと中性子の運動について説明せよ.1MeV=103keV です.

エネルギーE_γの光子が,質量数20,原子番号10の静止核Xに入射し,Yと中性子を作る. エネルギーE_γの光子が,質量数20,原子番号10の静止核Xに入射し,Yと中性子を作る.
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考え方
分離エネルギーは結合の減少である.入射光子の運動量を生成物が受け取るため,実験室系では分離エネルギーだけでは足りない.

  1. 保存則からYは AY=19,ZY=10.(MY+mn−M)c2=BX−BY なので,Sn=BX−BY=6.0MeV である.

  2. 反応前は Es=Mc2+Eγ,ps=Eγ/c より s=M2c4+2Mc2Eγ.しきい値では重心系で相対運動がなく,s=(MY+mn)2c4=(Mc2+Sn)2.よって

Eγ,th=Sn+Sn22Mc2=6.000968MeV

で,差は約 0.97keV である.追加の桁は与えた模型の中央の値で補正の大きさを示したものである.しきい値で両粒子は実験室系では同じ速度で動き,合計の運動エネルギーは Eγ,th−Sn となる.両方が静止していれば光子の運動量を保存できない.補正の相対値 Sn/(2Mc2)=1.6×10−4 は小さいが,その存在を論じる際には省けない.

14第31章の発展問題

核反応の収支を,測定の逆算,散乱の統計,相対論的な運動と結びつけます.近似を使うときは,省いた量の比と,得た結論が適用できる範囲を明らかにしてください.

演習 1

IPhO 2015 第1問(改題) ★★★★☆

太陽型の恒星では,正味の反応 4p+2e−⟶24He+2ν によって,1反応につき Q=26.7MeV の静止エネルギーが解放されます.ニュートリノ1個の平均エネルギーは 0.400MeV で,恒星の外へ逃げます.残りは光となり,光とニュートリノは等方的に放射されます.反応率は一定です.恒星との距離は D=1.50×1011m,1MeV=1.602×10−13J です.

同じ面積 Sd=2.00m2 を持つ,互いに独立な2台の検出器を光の進行方向に垂直に置き,Δt=1000s 測定します.ニュートリノには到着時に種類aとbがあり,aの割合を f とします.この種類の変化はエネルギーを変えません.1台目の検出確率は両種類とも ε=1.00×10−14,2台目はaで 2ε,bで ε/2 です.背景を無視でき,計数はそれぞれ C=14000,H=17500 でした.

  1. ニュートリノの到来数密度率 Φν と f を測定から求めよ.0≤f≤1 に対応する計数比の範囲も求めよ.

  2. 恒星の反応率と光の全放射仕事率 L を求めよ.ニュートリノの持ち去るエネルギーを無視すると,L をどう誤りますか.

  3. 計数の分散はそれぞれの計数に等しく,効率・距離・面積の不確かさは無視できます.1次の誤差伝播では,独立な量 x,y の関数 F の分散は σF2=(∂F∂x)2σx2+(∂F∂y)2σy2 です.f と L の標準不確かさを求め,計数比が許容範囲外なら何を疑うべきか述べよ.

恒星から距離Dにある独立な2台の検出器.両者の面積,測定時間,種類aとbの検出確率,総計数CとHを示す. 恒星から距離Dにある独立な2台の検出器.両者の面積,測定時間,種類aとbの検出確率,総計数CとHを示す.
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考え方
検出器ごとの効率を種類の割合で平均する.全種類を等しく数える1台目で総到来数を決め,2台目との比で種類の割合を決める.

  1. 1台目から C=εSdΔtΦν なので,Φν=7.00×1014m−2s−1.2台目では H=εSdΔtΦν[2f+(1−f)/2].比を r=H/C とすると r=1/2+3f/2,従って f=(2r−1)/3=0.500.0≤f≤1 に対応する期待計数比は 1/2≤r≤2 である.

  2. 1反応で2個出るため,反応率は Rn=4πD2Φν/2=9.90×1037s−1.光へ渡るエネルギーは qh=Q−2(0.400MeV)=25.9MeV.よって L=Rnqh=4.11×1026W.ニュートリノのエネルギーを省くと L′=RnQ となり,相対的に (L′−L)/L=0.800/25.9=0.0309,約3.09 %大きく見積もる.

  3. r=H/C の偏微分は 1/C,−H/C2.よって

σr2=HC2+H2C3=r2(1H+1C),σf=23σr=0.00945

となる.従って f=0.500±0.009.L は C に比例するから,σL/L=1/C=0.00845,σL=3.47×1024W で,L=(4.11±0.03)×1026W.許容範囲外の比が計数のゆらぎを超えて続くなら,背景,効率の較正,種類が2つだけという模型などを調べる必要がある.1次の伝播には σC/C,σH/H が小さいことが必要で,いずれも0.01未満である.ΦνSdΔt が個数となることも次元の確かめになる.

演習 2

IPhO 2015 第3問(改題) ★★★★☆

質量 m の中性子が,静止した質量 Am の核と非相対論的な弾性衝突を繰り返します.衝突前の中性子の速さを v,重心系での中性子の散乱角を θ とします.ここで A>1 は質量比で,質量数で質量比を近似する模型です.各衝突で cos⁡θ は区間 [−1,1] に一様に分布し,衝突どうしは独立です.核の熱運動と空間からの漏れを無視します.

  1. 衝突前後の中性子のエネルギー比 g を求め,その確率密度を示せ.

  2. 対数減少 Y=−ln⁡g の平均 ξ と分散 σY2 を求めよ.A→1,A→∞ の極限も調べよ.

  3. 初期エネルギー E0=2.00MeV,目標値 Ef=0.0400eV とします.平均対数を用いる代表回数を n∗=ln⁡(E0/Ef)/ξ と定義し,実際に比較する回数 n を,n∗ 以上の最小整数とします.各衝突後に吸収されず残る確率は,散乱角と独立に q=0.9950 です.A=2,12 の n とその回数までの生存確率を求めよ.さらに nσY2/(nξ) を評価し,n 回なら全中性子が Ef 以下になるといえるか述べよ.1MeV=106eV,mc2=939MeV とします.

実験室系の静止核への中性子入射と,重心系の中性子散乱角θを別々に示す.各衝突後の生存確率qと吸収確率1−qを枝で示す. 実験室系の静止核への中性子入射と,重心系の中性子散乱角θを別々に示す.各衝突後の生存確率qと吸収確率1−qを枝で示す.
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考え方
重心速度に,回転した重心系の速度を足す.繰り返しのエネルギー比は積だが,対数なら独立な減少量の和になり,平均と分散を足せる.

  1. 重心速度は Vc=v/(A+1).重心系での中性子の速さは u=Av/(A+1) で,弾性衝突後も同じである.従って実験室系で v′2=Vc2+u2+2Vcucos⁡θ なので

g=E′E=A2+1+2Acos⁡θ(A+1)2

となる.α=[(A−1)/(A+1)]2 とおくと α≤g≤1.g は cos⁡θ の1次式であるから,確率密度は p(g)=1/(1−α) で一様となる.この α は粒子の種類を表す記号とは別の,最小エネルギー比である.

  1. 平均は

ξ=11−α∫α1(−ln⁡g)dg=1−α+αln⁡α1−α=1+αln⁡α1−α

である.2乗平均には原始関数 g[(ln⁡g)2−2ln⁡g+2] を使い,

⟨Y2⟩=2−α[(ln⁡α)2−2ln⁡α+2]1−α,σY2=⟨Y2⟩−ξ2=1−α(ln⁡α)2(1−α)2

を得る.A→1 では α→0,αln⁡α,α(ln⁡α)2→0 だから ξ→1,σY2→1.A→∞ では g→1 となり,両方とも0へ近づく.

  1. ln⁡(E0/Ef)=ln⁡(5.00×107)=17.7275.A=2 では α=1/9,ξ=0.72535,σY2=0.32109,n∗=24.44,n=25.生存確率は q25=0.882.A=12 では α=121/169,ξ=0.15777,σY2=0.009251,n∗=112.36,n=113.生存確率は q113=0.568 となる.

独立な和 ln⁡(E0/En)=∑j=1nYj の平均は nξ,分散は nσY2.指定の相対幅は順に0.156,0.0573で,散乱のゆらぎは残る.生存した全中性子が目標以下とはいえず,qn は指定回数までの生存率であって,目標に到達する割合ではない.特に平均対数に基づく n∗ は初到達回数の厳密な平均でもない.初期の E0/(mc2)=0.00213 は小さく,非相対論近似がよい.熱運動を省くには,核の熱運動速度が目標付近の中性子速度より十分小さい条件も要る.

演習 3

オリジナル ★★★★★

液滴模型で核の結合エネルギーを B=avA−asA2/3−acZ2A−1/3 とします.表面の損失を Us=asA2/3,電気的な損失を Uc=acZ2A−1/3 とし,as=18.0MeV,ac=0.700MeV とします.核力の体積項以外の補正はこの2項だけです.分裂は核子数と電荷を保存し,電子と自由中性子は考えません.生成核は十分遠く離れ,その間の電気的な相互作用はなくなります.

  1. 核が等しい核2個に分裂するときの Q 値を Us,Uc で表し,Q>0 の条件を x=Uc/Us によって示せ.

  2. 分裂前の核の体積を保つ小さな変形の大きさを ϵ とします.この模型で表面項は Us(ϵ)≈Us(1+2ϵ2/5),電気的な項は Uc(ϵ)≈Uc(1−ϵ2/5) と与えられます.高次の項は省いています.球形が小変形に対して局所的に安定な条件を求めよ.A=240,Z=96 の核について,(1)と両立するか数値で調べよ.

  3. 非対称な分裂では,生成核の質量数を fA,(1−f)A,原子番号を fZ,(1−f)Z とします.f は 0<f<1 の連続量と近似します.Q(f) を求め,f=1/2 がエネルギー解放量の局所的な最大となる条件を求めよ.対称分裂が発熱なら球形は必ず不安定である,という主張も検討せよ.

球形核と同体積の小変形核を,変形εとともに示す.別に,核子数と電荷をfと1−fの割合で分けた十分離れた2生成核を描く. 球形核と同体積の小変形核を,変形εとともに示す.別に,核子数と電荷をfと1−fの割合で分けた十分離れた2生成核を描く.
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考え方
核子数に比例する体積項は分裂前後で相殺する.遠く離れた生成物のエネルギーと,小変形の曲率は,それぞれ違う条件を与える.

  1. 等分後の表面項は 2as(A/2)2/3=21/3Us,電気的な項は 2ac(Z/2)2(A/2)−1/3=2−2/3Uc.従って結合の増加は

Q=(1−2−2/3)Uc−(21/3−1)Us

である.Q>0 は x>xQ,ただし xQ=(21/3−1)/(1−2−2/3)=0.7024 に対応する.

  1. 静止エネルギーの変化は,結合の減少に等しく,ΔU=Us(ϵ)−Us+Uc(ϵ)−Uc≈(2Us−Uc)ϵ2/5.2次の係数が正なら球形は局所的な極小なので安定であり,条件は x<2 である.x=2 では高次の項が必要で,この式だけでは判定できない.指定の核では Us=18.0×2402/3MeV=695MeV,Uc=0.700×962×240−1/3MeV=1038MeV,x=1.493.(1)の Q=203MeV>0 と,(2)の局所安定性が両立する.小さな変形の初めには供給エネルギーが必要だが,十分離れた生成核はより低いエネルギーを持つ.障壁全体の高さはこの2次式からは決まらない.

  2. 核子数と電荷の分担を同じ割合にしたので,電気的な項は f5/3Uc と (1−f)5/3Uc になる.従って

Q(f)=Us[1−f2/3−(1−f)2/3]+Uc[1−f5/3−(1−f)5/3]

である.f と 1−f の対称性から,f=1/2 では dQdf=0.2回微分すると

d2Qdf2=2Us9[f−4/3+(1−f)−4/3]−10Uc9[f−1/3+(1−f)−1/3]

なので,f=1/2 で d2Qdf2=421/3(2Us−5Uc)/9.x>2/5 なら2次の係数が負で局所的な最大,x<2/5 なら局所的な最小である.等号では f=1/2+η として展開すると,Q(f)−Q(1/2)=3221/3Usη4/81+… となり,4次の係数が正なので局所的な最小である.従って局所的な最大となる条件は x>2/5 である.対称分裂の発熱条件 x>0.7024 はこれを満たすが,球形の不安定条件 x>2 は満たすとは限らない.すなわち 0.7024<x<2 が反例となる.小変形の展開には |ϵ| が十分小さい条件が,連続的な分担の近似には両生成核の fA,(1−f)A が十分大きい条件が必要である.

演習 4

オリジナル ★★★★★

質量 m の粒子aと質量 4m の粒子bが反応し,生成物の総静止質量が 7m となる仮想反応を考えます.電荷など他の保存則は満たされ,反応を妨げる別の障壁はありません.各粒子の全エネルギーと運動量は E2=(pc)2+(mc2)2 に従います.系の s=Es2−c2|ps|2 は重心系でも同じであり,反応の必要条件は s≥(7mc2)2 です.

  1. bを静止させてaを入射する場合,aの運動エネルギーのしきい値を求めよ.

  2. 両粒子を互いに正面から入射させ,供給する運動エネルギーの和を最小にします.その最小値と,aとbへの最適な配分,それぞれの運動量を求めよ.同じ運動エネルギーを両粒子に与える配分は最適ですか.

  3. 正面衝突に対して最適な配分を保ち,供給する運動エネルギーの和を 2mc2+ΔK とします.1≫ΔK/(mc2)>0 の場合,入射方向の角が π−δ にずれても反応できる δ の範囲を先頭の近似で求めよ.ΔK=0.0100mc2 で評価し,近似の条件を確かめよ.

粒子aの質量m,粒子bの質量4mを示す.下段は運動エネルギーK_a,K_bの2本のビームと,正面からの方向のずれδを表す. 粒子aの質量m,粒子bの質量4mを示す.下段は運動エネルギーK_a,K_bの2本のビームと,正面からの方向のずれδを表す.
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考え方
静止標的では全運動量が残る.2本のビームでは,供給したエネルギーを生成物の静止エネルギーへ最も多く使うために,全運動量を0にする.

  1. Ea=mc2+Ka,pa2c2=Ka2+2mc2Ka.始状態の Es=5mc2+Ka から

s=(5mc2+Ka)2−(Ka2+2mc2Ka)=25m2c4+8mc2Ka

を得る.これが 49m2c4 以上となるので,しきい値は Ka,th=3mc2 である.

  1. 運動エネルギーの和を KΣ とすると Es=5mc2+KΣ,また s≤Es2.従って少なくとも KΣ≥2mc2 が要る.等しい大きさで逆向きの運動量なら等号にできる.そのとき Ea+Eb=7mc2 で,Eb2−Ea2=15m2c4 だから Eb−Ea=15mc2/7.連立して Ea=17mc2/7,Eb=32mc2/7.従って

Ka=107mc2,Kb=47mc2,pa=pb=4157mc

となる.等しい運動エネルギーでは pa2c2=K2+2mc2K,pb2c2=K2+8mc2K が異なり,全運動量が残るため最適ではない.

  1. 正面に対する最適配分とは pa=pb=p である.Es=7mc2+ΔK,Eb2−Ea2=15m2c4 から,厳密には Ea=(Es2−15m2c4)/(2Es),p2c2=Ea2−m2c4 で求められる.方向のずれを入れると,全運動量の2乗は 2p2(1−cos⁡δ).従って

s=Es2−2p2c2(1−cos⁡δ)

であり,反応の条件は 2p2c2(1−cos⁡δ)≤Es2−49m2c4.ΔK/(mc2) が小さく,δ2 も小さいとき,1−cos⁡δ≈δ2/2,p≈415mc/7 とできるので

δ2≤14mc2ΔKp2c2≈343120ΔKmc2

となる.指定値では δmax≈0.169rad.捨てた相対的な補正は ΔK/(mc2)=0.0100 と δ2≈0.0286 によって小さく抑えられる.ΔK→0 で角度の許容幅が0になることも,しきい値で重心運動を残せないという条件と合う.

演習 5

オリジナル ★★★★★

自由な核の基底状態の質量を M,励起エネルギーを Δ=0.200MeV とします.励起核の質量は M+Δ/c2,Mc2=80.0×931.5MeV です.励起状態の平均寿命は τ=5.00×10−10s.核は1個のγ光子を放出して基底状態へ移り,基底状態の核はγ光子を吸収して同じ励起状態へ移れます.光子は E=pc,静止質量 M′ の核は E2=(pc)2+(M′c2)2 に従います.

  1. 静止励起核から出る光子のエネルギー Eem と,静止基底核が吸収できるエネルギー Eabs を,反跳を含めて厳密に求めよ.両者の差を Δ/(Mc2) の先頭の非零の次数まで求めよ.

  2. 線源だけを吸収核の方向へ速度 v で動かします.線源の静止系で前方に出る光子の実験室系のエネルギーは E=γ(1+v/c)Eem,γ=1/1−v2/c2 です.静止吸収核に共鳴する v を厳密に求め,数値で評価せよ.

  3. エネルギー幅の尺度を Γ=ℏ/τ とし,ℏ=6.58×10−16eVs,1MeV=106eV とします.動かない自由核どうしのエネルギー差と Γ を比較せよ.

  4. 線源の速度は(2)の値に固定し,線源自体の熱運動は無視します.吸収核だけが温度Tの気体中にあり,光の進行方向の速度 u は平均0,分散 kBT/M とします.1≫|u|/c では核が見る光子エネルギーは E′≈E(1−u/c) です.熱運動によるエネルギーの標準偏差を求め,それを Γ 以下にする温度を見積もれ.kB=8.62×10−5eVK−1,c=3.00×108ms−1 とします.

離れた励起核と基底核,光子の進行方向,線源の前進速度v,吸収核の熱運動の成分uを示す.準位差Δと励起状態の平均寿命τを添える. 離れた励起核と基底核,光子の進行方向,線源の前進速度v,吸収核の熱運動の成分uを示す.準位差Δと励起状態の平均寿命τを添える.
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考え方
放出では光子と反跳核にエネルギーを分け,吸収では励起に加えて反跳へエネルギーを供給する.その差をドップラー効果で埋め,寿命による幅と熱運動による幅を比べる.

  1. W=Mc2 と略記する.放出では W+Δ=Eem+ED,ED2=W2+Eem2.前者の ED を後者へ代入し,光子エネルギーの2乗を相殺すると

Eem=(W+Δ)2−W22(W+Δ)=Δ−Δ22(W+Δ)

となる.吸収では W+Eabs が全エネルギーで,励起核の運動量は Eabs/c.従って (W+Eabs)2=(W+Δ)2+Eabs2 より

Eabs=Δ+Δ22W

である.差は Eabs−Eem=Δ2/(2W)+Δ2/[2(W+Δ)]≈Δ2/W.それぞれ Eem=0.199999732MeV,Eabs=0.200000268MeV,差は 0.537eV となる.多くの桁は与えた模型の中央の値で補正を示すためである.

  1. r=Eabs/Eem,β=v/c とおく.共鳴条件は r=(1+β)/(1−β) なので,r2(1−β)=1+β.よって

v=cr2−1r2+1=cEabs2−Eem2Eabs2+Eem2=8.05×102ms−1

である.速度の向きは吸収核へ近づく向きである.小さな差では v/c≈(Eabs−Eem)/Δ≈Δ/W となり,2.68×10−6 と小さい.

  1. Γ=6.58×10−16/(5.00×10−10)eV=1.32×10−6eV.差との比は (Eabs−Eem)/Γ=4.08×105 であり,静止した自由核どうしは,寿命による幅だけではほとんど共鳴しない.幅は指定した尺度であり,ここで線の形そのものを導いたわけではない.

  2. E′−E≈−Eu/c なので,標準偏差は σE=(E/c)kBT/M=EkBT/W.σE≤Γ の条件は

T≤WkB(ΓE)2≈80.0×931.5×1068.62×10−5(1.316×10−60.200×106)2K=3.74×10−8K

である.極端に小さい値なので,古典気体の自由核という模型をその温度まで実現できるという意味ではない.速度調整で平均のずれを消せても,熱運動の広がりは残る.展開には Δ/W=2.68×10−6,熱運動の近似には kBT/W が十分小さいことが必要である.M→∞ なら反跳の差は0になり,(1)の両エネルギーが Δ に一致する.

15第31章のまとめ

この章では,原子の中心にある原子核へ進み,エネルギーの桁が eV から MeV へ100万倍になる世界を扱いました.原子核は陽子と中性子が短距離の強い引力である核力で結びついたもので,その結びつきの強さは質量の減り方として直接測れます.質量はエネルギーの一つの形なので,核子1個あたりの結合エネルギーの山に近づく核分裂や核融合はエネルギーを出します.不安定な核は確率的に崩れ,多数の核は指数関数で減ります.さらに反応の前後で保存する量を数え直すと,粒子そのものが生まれたり消えたりすることも,エネルギーと運動量の勘定に収まることが分かりました.

定義と法則

定義 原子核の構成と大きさ

  • 原子核は陽子 Z 個と中性子 A−Z 個からなり,ZAX と書く.Z を原子番号,核子の数 A を質量数という.Z が同じで A が違うものを同位体という.

  • 原子質量単位 1u は 12C 原子1個の質量の 1/12 で,1.6605×10−27kg である.原子の質量は u で量るとほぼ A に等しい.

  • 原子核の半径は R≈r0A1/3(r0≈1.2fm)で,密度は A によらず約 2.3×1017kgm−3 である.

法則 4つの相互作用と核力

  • 相互作用は強い相互作用(核力),電磁相互作用,弱い相互作用,重力の4種類で,強さも届く距離も大きく違う.弱い相互作用は中性子が陽子に変わるような粒子の種類の変化を起こす.

  • 核力は核子どうしにほぼ同じ強さで働く引力で,届く距離は約 1fm,届く範囲ではクーロン力よりずっと強く,約 0.5fm より近いと強い斥力になる.核子は隣の核子とだけ引き合い,陽子はすべての陽子と反発する.

法則 質量とエネルギー

  • 質量 m の粒子は静止エネルギー mc2 をもち,E2=(pc)2+(mc2)2,運動エネルギーは K=E−mc2 である.光子は E=pc.K/(mc2) が 1 % 程度までならニュートン力学の p2/(2m) でよい.

  • 全体として静止した系の質量は Mc2=∑imic2+K+U で決まる.保存するのはエネルギーで,質量は保存しない.束縛された系は部分の質量の和より軽い.

定義 質量欠損・結合エネルギー・Q値

  • 質量欠損 Δm=Zmp+Nmn−M,結合エネルギー B=Δmc2.B は止まった原子核を止まった自由な核子にばらばらにするのに要るエネルギーである.中性の原子の質量を使うときは mp を水素原子の質量 mH に替える.

  • 反応の Q 値 Q=(∑前m−∑後m)c2 は運動エネルギーの増加(光子のエネルギーを含む)に等しい.Q>0 が発熱反応,Q<0 が吸熱反応である.

  • 陽子と中性子の数がそれぞれ変わらない反応では Q=∑後B−∑前B(自由な核子は B=0).

  • Q>0 は反応がエネルギーの上で許されることを言うだけで,すぐ起こることまでは言わない.

公式 液滴模型

B=avA−asA2/3−acZ2A1/3,av≈15.5MeV,as≈17.0MeV,ac=3kee25r0≈0.72MeV

体積の項は短距離の核力,表面の項は表面の核子の隣の不足,クーロンの項は一様に帯電した球の静電エネルギー 35ke(Ze)2/R から来る.小さい核は表面の損,大きい核はクーロンの損で B/A が下がり,鉄の付近(A≈56 から 62)で最大の約 8.8MeV になる.

定義 放射性崩壊の3種類

  • α 崩壊:24He を出し,Z が2,A が4減る.2体に分かれるので α 粒子のエネルギーは一定である.

  • β− 崩壊:核の中で n⟶p+e−+ν¯.Z が1増え,A は変わらない.3体に分かれるので電子のエネルギーは0から Q までの連続分布になる.β+ 崩壊もある.

  • γ 崩壊:励起状態の核が光子を出して低い状態へ移る.

  • どの崩壊でも電荷・質量数・エネルギー・運動量が保存し,Q>0 のときだけ自然に起こる.

法則 崩壊の法則

まだ崩壊していない核が短い時間 Δt に崩壊する確率は λΔt で,λ は核の種類で決まり,核は年をとらない.多数の核では

dNdt=−λN,N=N0e−λt=N0(12)t/T1/2,T1/2=ln⁡2λ,τ=1λ

である.

定義 放射能・計数・線量

  • 放射能 R=−dN/dt=λN,単位 Bq=s−1.

  • 検出器の計数は立体角 S/(4πd2) と検出効率 ε の分だけ小さく,バックグラウンドを引いて正味の計数にする.計数 C のゆらぎは C,正味の計数 C−D の不確かさは C+D.

  • γ 線は I=I0e−μx で減り,半価層は ln⁡2/μ.α 線・β 線は電離でエネルギーを失い,飛程で止まる.

  • 吸収線量は 1kg あたりのエネルギー(Gy=Jkg−1),等価線量・実効線量は放射線の種類や臓器の重みを掛けたもの(Sv).

法則 反応で保存する量

核反応や粒子の生成・消滅では,全エネルギー(静止エネルギーを含む),全運動量,角運動量,電荷,核子の数(バリオン数),レプトン数が保存する.反粒子は負に数える.粒子の数そのものは保存しない.

ポイント 粒子と反粒子,素粒子

  • すべての粒子には質量が同じで電荷などの符号が逆の反粒子がある.粒子と反粒子は対で生まれ,対で消え,エネルギーと運動量は光子などに受け継がれる.

  • 陽子は uud,中性子は udd(u は +2e/3,d は −e/3).物質の素粒子はクォークとレプトンの3世代で,力はグルーオン,光子,W・Z粒子,重力子(未発見)が運ぶ.ほかにヒッグス粒子がある.β 崩壊は弱い相互作用で d が u に変わる反応である.

手順

ポイント 原子核の問題を解く手順

  1. 長さは fm,エネルギーは MeV,質量は u で量り,J や kg には最後に直す.クーロンエネルギーは kee2=1.44MeVfm を距離で割る.

  2. 反応式では,まず電荷・質量数(核子数)・レプトン数の保存を確かめる.崩壊系列では α 崩壊の回数を質量数の変化から,β− 崩壊の回数を原子番号の変化から決める.

  3. 原子の質量の表で Q を出すときは,両辺の電子の数がそろっているかを確かめる.

  4. 止まった状態から2つに分かれるときは,運動量が等しく逆向きになるので,運動エネルギーは質量に反比例して分かれる.重い反跳核の運動エネルギーは E2/(2Mc2) と小さい.

  5. 衝突で最も近づくのは相対速度が0の瞬間で,止まった標的の反跳を入れると,位置エネルギーや反応に使えるのは KM/(m+M) だけである.

  6. しきいは,不変量 s=Es2−c2|ps|2 を実験室系で計算し,重心系で生成物が止まった値 (∑mfc2)2 と比べて求める.

主な公式

  • (1u)c2=931.5MeV,mec2=0.511MeV,mpc2=938.3MeV,kee2=1.44MeVfm,1MeV=1.602×10−13J

  • 一様に帯電した球のクーロンエネルギー:UC=35keZ2e2R(ウランで約 103MeV)

  • 中性子1個を引き離すエネルギー:B(A+1)−B(A)=[M(A)+mn−M(A+1)]c2

  • 代表的な値:BHe=28.3MeV,BD=2.22MeV.ウラン235 の分裂1回で約 200MeV(質量の約 0.08 %),太陽の水素4個からヘリウム1個で 26.7MeV(約 0.7 %),12H+13H の融合で 17.6MeV

  • α 崩壊のエネルギーの分配:Kα=MM+mαQ,K娘=mαM+mαQ

  • 年代測定:放射能が今の植物の r 倍なら t=T1/2ln⁡2ln⁡1r.614C の半減期は5730年

  • 親子の崩壊:dNDdt=λPNP−λDND,ND=λPN0λD−λP(e−λPt−e−λDt).λD>λP で過渡平衡,λP/λD が十分小さいと永続平衡 λPNP=λDND(時定数 1/λD で近づく)

  • しきいエネルギー:非相対論 Kth=−Q(1+mM),相対論 Kth=(∑mf)2−(m+M)22Mc2=−Q(1+mM)+Q22Mc2

  • 対生成のしきい:Eth=2mc2(1+mM)(重い核なら約 1.022MeV,標的が電子なら 4mc2).止まった電子と陽電子の対消滅では光子2個が 0.511MeV ずつ

  • 連鎖反応:nj=kjn0.減速材の核(質量 Am)との正面弾性衝突で中性子の運動エネルギーは (A−1A+1)2 倍

各題材の問いへの答え

  • 原子核の構成と大きさ:陽子どうしが飛び散らないのは,1fm ほどしか届かないがクーロン力よりずっと強い核力が核子の間に働くからである.中性子は反発を増やさずに引力を足す糊の役をする.ただし核力は隣の核子とだけ,クーロン力はすべての陽子どうしで働くので,重い核ほどクーロンエネルギーの割合が大きく,陽子の数がおよそ100を超える核は安定に存在できない.

  • 質量は減る:ヘリウムの原子核が陽子2個と中性子2個の和より 0.030376u 軽いのは,束縛された系のエネルギーがばらばらの状態より結合エネルギー B=28.3MeV だけ低いからである.ヘリウムの原子核ができたとき,この分が γ 線や運動エネルギーとして系の外へ出ていった.

  • 原子核は崩れる:大気の 614C は宇宙線による生成と崩壊がつり合ってほぼ一定の割合で,生きている植物も同じ割合で含む.木が切られると取り込みが止まり,614C は半減期5730年で減るだけになるので,今の植物との放射能の比から年代が分かる.

  • 粒子を作る,粒子を消す:対消滅で消えたのは電子と陽電子という粒子の形で,エネルギーと運動量は反対向きの2個の光子に引き継がれ,電荷とレプトン数は反粒子を負に数えればはじめから0で変わらない.化学の「原子は消えない」は,反応のエネルギーが静止エネルギーよりずっと小さい場合の近似だった.

この章で使った数学

1+x≈1+x/2 のテイラー展開(相対論のエネルギーからニュートン力学の運動エネルギーへ),一様に帯電した球を薄い殻に分けて積み上げる積分,そして崩壊を表す1階の微分方程式がありました.dN/dt=−λN は変数分離で解け,平均寿命 τ=∫0∞tλe−λtdt=1/λ は部分積分で求まります.生成のある dy/dt+ky=g(t) は積分因子 ekt を掛けて ekty(t)=y(0)+∫0teksg(s)ds と解け,g が一定なら g/k に時定数 1/k で近づきます.相対論では,どの慣性系でも同じ値になる s=Es2−c2|ps|2 が,しきいや対消滅の計算を一度に片づけました.

原子核の結合も崩壊も反応も,静止エネルギーを含めたエネルギーの勘定と,保存する量の数え上げで読み解けました.次の第32章では,第29章とこの章を合わせた総合演習に取り組みます.