問いしるべ
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問いから始める物理

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問いから始める物理

問いから原理へ,基本からオリンピックまで

著者:柚木芹香

身近な問いから始めて物理の原理を組み立て直す参考書.微積分は必要になった所で導入し,各節の演習は基本から物理オリンピックの水準まで段階をつけて置く.独学でも,教わりながらでも読めるように,各節の終わりに「教える人へ」の囲みがある.

この章の目次 · 18節
  1. 温度と熱
  2. 熱量保存と潜熱の例題
  3. 温度と熱量の演習
  4. 第一法則と準静的過程
  5. 装置から経路を決める例題
  6. 第一法則と準静的過程の演習
  7. 第二法則とカルノーサイクル
  8. 効率の勘定と例題
  9. 熱機関と第二法則の演習
  10. エントロピーとラチェット
  11. エントロピーの数学と例題
  12. エントロピーとラチェットの演習
  13. 自由エネルギーと変化の向き
  14. 自由エネルギーの数学と例題
  15. 自由エネルギーの演習
  16. 第16章の章末問題
  17. 第16章の発展問題
  18. 第16章のまとめ

第16章  熱力学の法則

01温度と熱

問い

体温計を脇に挟んだとき,すぐ目を離さずにしばらく待つように言われます.待たずに読むと低い値が出ます.一方,同じ部屋に置いておいた金属のドアノブと木の机に触ると,金属の方がはっきり冷たく感じます.どちらも部屋に長く置いてあったのに,手は違う温度だと言います.そもそも「温度が同じ」とは何を意味するのでしょうか.そして,水銀の温度計でも,電気抵抗を測るサーミスタでも,同じ値が出ると言えるのはなぜでしょうか.

考えてみる

手の感覚は温度計になりません.金属が冷たく感じるのは,手から熱が逃げる速さが木より大きいからで,感覚が測っているのは温度ではなく熱の流れです.だから温度は,手触りではなく操作で定義しなければなりません.

手がかりは,放っておくと変化が止まるという事実です.体温計を挟んで待つのは,まさにその「止まる」のを待っているのです.止まった状態を先に定義し,そこから温度を導きましょう.

熱平衡と第零法則

定義 熱平衡

2つの物体を,熱は通すが物質はやりとりしない壁(透熱壁)で接触させて十分長く待つと,やがてどちらの巨視的な性質(体積・圧力・電気抵抗など)も変化しなくなる.この状態を熱平衡という.熱を通さない壁は断熱壁という.

法則 熱力学第零法則

物体AとCが熱平衡にあり,BとCも熱平衡にあるなら,AとBを接触させても熱平衡にある.

断熱壁に囲まれたAとC,BとCがそれぞれ透熱壁を介して熱平衡にあるとき,AとBも直接接触させて熱平衡になる.同じCと熱平衡にあることが,同じ温度であることを定める. 断熱壁に囲まれたAとC,BとCがそれぞれ透熱壁を介して熱平衡にあるとき,AとBも直接接触させて熱平衡になる.同じCと熱平衡にあることが,同じ温度であることを定める.

当たり前に見えますが,これは経験から来る法則で,これがあるおかげで「温度」という量を立てられます.Cを小さな道具にして,AにもBにも当ててみれば,AとBを直接触れさせずに,熱平衡になるかどうかが分かるからです.このCが温度計です.熱平衡になる物体どうしに共通の数値を割り当てたものが温度であり,同じ温度とは,接触させても何も起こらないということです.

温度計と目盛り

温度計には,温度とともに決まった向きに変わる量を使います.液体の体積,一定体積の気体の圧力,金属の電気抵抗,異種金属の接合部の熱起電力などです.これを測温物性といいます.目盛りは,再現できる状態(定点)に数値を割り当てて校正します.摂氏では,1 気圧の氷と水が共存する温度を 0∘C,沸騰する温度を 100∘C とし,その間を測温物性の変化で等分します.

ところが,この「等分」の仕方は使う物質に依ります.水銀とアルコールを同じ2定点で校正しても,途中の 50∘C は一致しません.どちらが正しいとも言えないので,物質に依らない目盛りが必要です.実験によると,気体の密度を下げていくと,どの気体でも一定体積での圧力の変わり方が同じ形に近づきます.そこで,薄い気体の圧力を測温物性に選び,p に比例する目盛り(理想気体温度)を使い,水の三重点を 273.16K と決めます.一定体積に閉じた薄い気体の圧力を温度に対して測り,低温側へ延ばすと圧力が0になる温度が現れます.それより低い温度はないので,そこを 0K(絶対零度)とします.摂氏との関係は

TK=t∘C+273.15

で,目盛りの刻みは同じなので温度差は ΔT=Δt です.この目盛りが,気体という特定の物質にも依らない意味を持つことは,この章の「第二法則とカルノーサイクル」の題材で分かります.

上段は液柱の長さ,気体の圧力,電気抵抗を2定点で正規化した模式的な校正曲線.0 °Cと100 °Cでは一致しても途中ではずれる.下段は一定体積の薄い気体の圧力を低温側へ外挿し,圧力0が−273.15 °Cすなわち0 Kに対応することを示す. 上段は液柱の長さ,気体の圧力,電気抵抗を2定点で正規化した模式的な校正曲線.0 °Cと100 °Cでは一致しても途中ではずれる.下段は一定体積の薄い気体の圧力を低温側へ外挿し,圧力0が−273.15 °Cすなわち0 Kに対応することを示す.

ポイント 熱の章の記号

  • 温度 T(絶対温度),圧力 p,体積 V,分子の数 N.T は温度に使うので,熱の章では張力を,N は分子の数に使うので垂直抗力を登場させない.

  • 第15章・第18章では n=N/V を数密度に使う.この章では物質量が主役なので,物質量を ν=N/NA と書き,数密度が要るときは N/V と書き下す.

  • 質量 m,比熱 c,熱容量 C,モル比熱 CV・Cp,エントロピー S,微視状態の数 Ω.ピストンの断面積は A と書く(S はエントロピーに使う).

  • 気体が受け取る熱を Q>0,気体が外へする仕事を W>0 とする.外から入れる仕事を正で測りたいときは Win=−W と書く.

系・境界・外界

熱の問題では,どこまでを考えている対象(系)とみなすかを先に決めないと,熱や仕事の符号が決まりません.系の外側を外界,その間の仕切りを境界といいます.境界が何を通すかで系を分けます.

定義 系の分類

  • 開放系:エネルギーも物質も境界を通れる(ふたのないやかん).

  • 閉鎖系:物質は通れず,エネルギーは通れる(閉じたシリンダー).

  • 孤立系:エネルギーも物質も通れない.熱も仕事も出入りしない.

熱の出入りだけを断った系は断熱系で,孤立系とは違う.断熱したシリンダーの気体は,ピストンを通して仕事を受け取れる.

この章ではおもに閉鎖系を扱い,境界を通るエネルギーを熱と仕事に分けて数えます.仕事は,ピストンを動かす体積仕事だけではありません.羽根車でかき混ぜる,電熱線に電流を流す,といった形の仕事も境界を通ります.「体積が変わらないなら仕事は0」と言えるのは,体積仕事だけを考えている場合に限ります.

熱量・熱容量・比熱

温度の違う物体を接触させたとき,境界を通って移るエネルギーが熱です.量としての熱を熱量といい,単位は J です.同じ熱量を与えても,温まり方は物体によって違います.

定義 熱容量・比熱・モル比熱

物体の温度を ΔT だけ上げるのに要する熱量が Q のとき,熱容量は C=Q/ΔT(単位 JK−1)である.単位質量あたりにしたものが比熱 c=C/m(単位 Jkg−1K−1),1 mol あたりにしたものがモル比熱(単位 Jmol−1K−1)で,

C=mc=νCmol,Q=mcΔT=νCmolΔT

が成り立つ.熱容量は物体ごとの量,比熱とモル比熱は物質ごとの量である.

比熱は温度にも,温める途中で何を一定に保つかにも依ります.気体では体積一定と圧力一定で値が大きく違い,CV と Cp を区別します(次の題材).固体や液体では膨張が小さいので,ふつうその区別をしません.また,上の式は c が ΔT の範囲でほぼ一定とみなせるときの形で,厳密には Q=∫mc(T)dT です.

比熱は,熱量を測って求めます.電熱線で一定の電力 P を時間 Δt 与えると,外へ熱が逃げなければ PΔt=CΔT なので,温度上昇から C が決まります.実際には容器や温度計自身も温まり,外へも熱が逃げるので,容器の熱容量を別に測っておく,温度の時間変化の傾きから逃げる分を補正する,といった手当てが要ります.この測り方は次の節で扱います.

ポイント ここまでのまとめ

  • 熱平衡は,透熱壁で接触させても巨視的な性質が変わらない状態である.第零法則(熱平衡の推移性)があるので,温度計で温度を定義できる.

  • 測温物性を2定点で校正すると目盛りができるが,刻み方は物質に依る.薄い気体の圧力を使う理想気体温度は物質に依らず,絶対零度が現れる.T/K=t/∘C+273.15.

  • 系を開放系・閉鎖系・孤立系に分け,境界を通るエネルギーを熱と仕事に分ける.仕事には体積仕事以外(撹拌・電気加熱)もある.

  • 熱容量 C=mc=νCmol,Q=mcΔT.熱容量は物体ごと,比熱は物質ごとの量である.

  • 問いの答え:待つのは,体温計が体と熱平衡になるまで変化が続くからである.温度が同じとは接触させても何も起こらないことで,第零法則があるから,温度計という道具が意味を持つ.違う測温物性の温度計は定点では必ず一致するが,その間の目盛りは物質に依るので,理想気体温度に合わせて目盛りを刻んでおかないと同じ値にはならない.金属が木より冷たく感じるのは温度の違いではなく,手から熱が逃げる速さの違いである.

02熱量保存と潜熱の例題

数学の道具

ポイント 数学の道具:熱量保存の立式

断熱した容器の中で物体どうしが熱をやりとりし,体積仕事も外からの仕事もないときは,各物体が受け取った熱量の和が0になります.

∑iQi=0,Qi=mici(Tf−Ti)

受け取る熱を正,失う熱を負として符号つきで足すのがこつです.「高温側が失った熱=低温側が得た熱」は,これを2物体の場合に書き直したものに過ぎません.熱をやりとりするのは中身だけではなく,容器(熱量計)の本体・かき混ぜ棒・温度計も同じ温度変化を受けるので,それらの熱容量を1つの項 C計(Tf−Ti) として入れます.落とすと,求めた比熱は必ず小さめに出ます.

練習. 熱容量 50JK−1 の容器に 20∘C の水 0.10kg がある.80∘C の水 0.10kg を加えた最終温度を,容器の熱容量を入れた場合と無視した場合で求めよ(水の比熱 4.2×103Jkg−1K−1).

答え:(420+50)(Tf−20)+420(Tf−80)=0 より Tf≈48.3∘C.無視すると 50∘C

定義 相変化と潜熱

一定の圧力のもとで,固体が液体になる(融解)ときや液体が気体になる(蒸発)ときには,温度が変わらないまま熱を吸収する.単位質量あたりに要する熱量を潜熱といい,必要な熱量は

Q=mL

である.融解熱 Lf,蒸発熱 Lv と書く.逆向き(凝固・凝縮)では同じ量の熱を放出する.2つの相が共存している間,温度は相変化の温度に留まる.水では Lf=3.3×105Jkg−1,Lv=2.3×106Jkg−1 である.

ポイント 相が残るかどうかの判定

相変化を含む問題で最終温度をいきなり文字で置くと失敗します.(1) 相変化が始まる温度(氷なら 0∘C)まで各物体を持ってくるのに出入りする熱量を計算し,(2) 余った熱量と相変化を全部終えるのに要る mL を比べます.(3) 余りが小さければ相変化は途中で止まり,温度は相変化の温度のままで,変化した質量が Q/L で決まります.(4) 余りが大きければ全部相変化し,残りの熱で温度が動くので,そこで初めて Tf を未知数にします.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

熱容量 80JK−1 の熱量計に 20.0∘C の水 0.20kg を入れ,1.0×102∘C に熱した金属球 0.10kg を素早く入れてかき混ぜると,全体が 24.0∘C で落ち着いた.水の比熱を 4.2×103Jkg−1K−1 とする.

断熱材に包まれた熱量計の断面.20.0 °Cの水0.20 kgに100 °Cの金属球0.10 kgを入れ,かき混ぜ棒で混ぜて温度計を読む.赤い矢印は金属球から水と熱量計へ移る熱Qを示す.熱量計の熱容量C計は80 J K−1で,全体の最終温度は24.0 °C. 断熱材に包まれた熱量計の断面.20.0 °Cの水0.20 kgに100 °Cの金属球0.10 kgを入れ,かき混ぜ棒で混ぜて温度計を読む.赤い矢印は金属球から水と熱量計へ移る熱Qを示す.熱量計の熱容量C計は80 J K−1で,全体の最終温度は24.0 °C.
  1. 金属の比熱を求めよ.

  2. 熱量計の熱容量を忘れて計算すると,答えは何 % 小さく出るか.

  3. 外へ熱が逃げると,求めた比熱は大きめに出るか小さめに出るか.逃げる熱を無視できるのはどんな条件か.

解答を見る

考え方 受け取る熱を正として ∑Qi=0 を立てる.水と熱量計は同じ温度変化をするので,まとめて扱える.

  1. 水と熱量計の熱容量は 0.20×4.2×103+80=9.2×102JK−1 で,温度は 4.0K 上がる.金属は 76.0K 下がるので

9.2×102×4.0+0.10c×(−76.0)=0

より c=3.68×103/7.60≈4.8×102Jkg−1K−1.鉄に近い値である.

  1. 熱容量を 8.4×102JK−1 とすると c≈4.4×102Jkg−1K−1 で,約 9 % 小さい.容器が受け取った熱を落とすと,金属が出した熱を少なく見積もる.

  2. 小さめに出る.逃げた熱の分だけ測る温度上昇が小さくなるからである.無視できるのは,落ち着くまでの時間が容器が室温へ冷える時間よりずっと短く,水と室温の差が測る温度上昇に比べて小さいときである.差が大きいときは温度の時間変化を記録し,最高温度を外挿で補正する.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

熱容量の無視できる断熱容器に 20∘C の水 0.20kg が入っている.ここへ 0∘C の氷を入れる.水の比熱を 4.2×103Jkg−1K−1,氷の融解熱を 3.3×105Jkg−1 とする.

20 °Cの水0.20 kgへ0 °Cの氷を加えたときの最終温度Tf.氷が全部融ける範囲では熱量保存から温度が20 °Cから0 °Cへ下がる.境目は約0.051 kgで,それを超えると氷と水が共存し,温度は0 °Cに留まる.0.10 kgを加えた場合は氷が約0.049 kg残る. 20 °Cの水0.20 kgへ0 °Cの氷を加えたときの最終温度Tf.氷が全部融ける範囲では熱量保存から温度が20 °Cから0 °Cへ下がる.境目は約0.051 kgで,それを超えると氷と水が共存し,温度は0 °Cに留まる.0.10 kgを加えた場合は氷が約0.049 kg残る.
  1. 氷 0.050kg を入れたときの最終温度を求めよ.

  2. 氷 0.10kg を入れたときの最終状態(温度と,残る氷の質量)を求めよ.

  3. 氷がちょうど全部融けて 0∘C になる氷の質量を求めよ.

解答を見る

考え方 まず水が 0∘C まで冷えるときに出せる熱と,氷を全部融かすのに要る熱を比べる.

水が 0∘C まで冷えて出す熱は 0.20×4.2×103×20=1.68×104J である.

  1. 全部融かすのに要る熱は 0.050×3.3×105=1.65×104J で,これより小さい.氷は全部融け,残った 3.0×102J が 0.25kg の水を温めるので ΔT≈0.29K,最終温度は約 0.3∘C である.

  2. 全部融かすには 3.3×104J 要るが,使えるのは 1.68×104J しかない.融けるのは 0.051kg で,氷が約 0.049kg 残る.氷と水が共存するので最終温度は 0∘C である.ここで Tf を未知数にすると 0∘C より低い答えが出て意味を失う.

  3. 1.68×104=m×3.3×105 から m≈0.051kg.これより少なければ (1),多ければ (2) になる.

ポイント ここまでのまとめ

  • 熱量保存は ∑Qi=0 の形で立て,熱量計や温度計の熱容量も1つの項として入れる.落とすと比熱は小さめに出る.

  • 潜熱は Q=mL.相が共存する間,温度は相変化の温度に留まる.

  • 相変化を含む問題は,相変化点まで持ってくる熱と mL を比べる.足りなければ温度はその点に留まり,変化した質量が決まる.最終温度を先に文字で置くと間違える.

  • 一定電力 P で加熱すると PΔt=CΔT なので,加熱曲線の直線部分の傾きは P/(mc),平らな部分の長さは mL/P になる.熱の逃げは傾きの変化として現れる.

03温度と熱量の演習

熱量保存と相の残存を確かめましょう.「度」は摂氏,比熱は一定とし,水の比熱は c=4.2×103Jkg−1K−1 とします.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

金属の比熱は 9.0×102Jkg−1K−1,モル質量は M=0.027kgmol−1 です.試料 0.054kg の熱容量,物質量,モル比熱を求めてください.10K 温める熱量は質量が2倍ならどうなりますか.

解答を見る

考え方

質量あたりと物質量あたりの比熱を,熱容量に換算する.

C=mc≈49JK−1,ν=m/M=2.0mol,Cmol=Mc≈24Jmol−1K−1,C=mc=νCmol.吸熱は Q=CΔT≈490J.質量が2倍なら比熱は同じで,熱容量と吸熱は2倍になる.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

熱容量 210JK−1 の30度の空の熱量計へ,15度の水 0.15kg と75度の湯 0.10kg を同時に入れます.熱損失はありません.最終温度と,熱量計の熱容量を無視した答えのずれを求めてください.

15 °Cの水0.15 kgと75 °Cの湯0.10 kgを,30 °Cの空の熱量計に同時に入れる.熱量計の熱容量は210 J K⁻¹であり,断熱された混合後の水と容器は同じ最終温度θ_fになる. 15 °Cの水0.15 kgと75 °Cの湯0.10 kgを,30 °Cの空の熱量計に同時に入れる.熱量計の熱容量は210 J K⁻¹であり,断熱された混合後の水と容器は同じ最終温度θ_fになる.
解答を見る

考え方

水・湯・熱量計の熱量を,符号つきで足す.

最終温度を θf 度とすると,630(θf−15)+210(θf−30)+420(θf−75)=0 より37.5度.容器を無視すると39度,1.5度高い.初温が異なるため,水と容器の温度変化は別に数える.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

熱容量を無視できる断熱容器の −20∘C の氷 m=0.10kg を,1気圧のもと電力 P=50W で100度まで加熱します.氷の比熱は ci=2.1×103Jkg−1K−1,融解熱は Lf=3.3×105Jkg−1 です.各区間の時間と加熱曲線,傾きと水平区間から物性値を求める式を書いてください.熱損失が室温との温度差に比例すると,室温以上で曲線が寝る理由も説明してください.

0.10 kgの氷を50 Wで加熱する理想曲線は,−20 °Cから84 sで0 °Cに達し,744 sまで融解のため水平になり,1584 sで100 °Cに達する.横軸の時間と縦軸の温度は比例目盛りである.橙の破線は室温を超えた後に熱損失で傾きが減る様子を示す模式線であり,室温の位置とその後の温度は数値を指定しない. 0.10 kgの氷を50 Wで加熱する理想曲線は,−20 °Cから84 sで0 °Cに達し,744 sまで融解のため水平になり,1584 sで100 °Cに達する.横軸の時間と縦軸の温度は比例目盛りである.橙の破線は室温を超えた後に熱損失で傾きが減る様子を示す模式線であり,室温の位置とその後の温度は数値を指定しない.
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考え方

昇温と融解を分け,各区間で投入熱を数える.

PΔt=CΔT と PΔt=mLf より,氷の昇温は mci20/P=84s,融解は mLf/P=6.6×102s,水の昇温は mc100/P=8.4×102s.84秒で0度,744秒まで水平,1584秒で100度.傾きは氷で P/(mci),水で P/(mc).傾き a,水平区間の長さ τ から,比熱は P/(ma),融解熱は Pτ/m.室温以上では温度とともに熱損失の熱流率が増え,昇温に使える電力が減る.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

20度の水 0.20kg に100度の蒸気を吹き込みます.蒸気を逃がさず,可動ふたで1気圧に保つ断熱装置を使い,装置の熱容量は無視します.蒸発熱は Lv=2.3×106Jkg−1 です.投入量が (1) 0.010kg,(2) 0.040kg の場合の最終温度と残る蒸気の質量を求めてください.

20 °Cの水0.20 kgに100 °Cの蒸気を入れる断熱容器は,可動ふたによって1気圧に保たれる.投入蒸気0.010 kgでは全量が凝縮して約50 °Cの水になる.投入蒸気0.040 kgでは水と蒸気が100 °Cで共存し,蒸気が約0.011 kg残る.装置の熱容量は無視する. 20 °Cの水0.20 kgに100 °Cの蒸気を入れる断熱容器は,可動ふたによって1気圧に保たれる.投入蒸気0.010 kgでは全量が凝縮して約50 °Cの水になる.投入蒸気0.040 kgでは水と蒸気が100 °Cで共存し,蒸気が約0.011 kg残る.装置の熱容量は無視する.
解答を見る

考え方

水を100度にする熱量と,全蒸気の凝縮熱を比べる.

水を100度にする熱量は Q∗=0.20c×80=67200J.凝縮量 Q∗/Lv≈0.029kg を境に場合が分かれる.

  1. 全て凝縮し,凝縮水も冷える.最終温度を θf 度とすると 0.20c(θf−20)=0.010Lv+0.010c(100−θf) より約50度で,蒸気は残らない.

  2. 100度で共存し,凝縮量は約 0.029kg,残る蒸気は 0.040−0.029≈0.011kg.全量凝縮と仮定すると沸点を超えるが,共存中は昇温しない.可動ふたの体積仕事を含む定圧の潜熱で収支を立てた.

演習 5

オリジナル ★★☆☆☆

AとC,Bと同じCが熱平衡なら,AとBの接触で熱は移りますか.0度で0,100度で1に正規化した測温物性 X,Y を等分し,表示を 100X,100Y とする温度計があります.同じ50度の物体で X=0.50,Y=0.25 なら表示を比較してください.50度と温度差20度をKで表してください.定積の薄い気体で p100/p0=1.3661 なら,圧力の直線外挿が0になる摂氏温度も求めてください.

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考え方

熱平衡には第零法則,温度計の比較には目盛りを使う.

第零法則よりAとBも熱平衡で,正味の熱移動はない.表示は50度と25度.2定点の一致では途中の一致は保証されず,目盛りの違いである.摂氏温度 θ に対し T/K=θ/∘C+273.15 より 323.15K,温度差は 20K.圧力0の外挿温度は −100/(1.3661−1)≈−273.15 度.実在気体は凝縮もするので,薄い気体の極限の直線を外挿する.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

20度の熱量計と水 0.10kg に80度の湯 0.050kg を混ぜると38度になりました.校正では熱損失はありません.同じ熱量計と新しい20度の水 0.10kg に100度の金属球 0.20kg を入れると,混合の30秒後に30.0度,60秒後に29.4度でした.混合は十分速く,直後の冷却は直線で近似します.熱量計の熱容量,外挿で補正した金属の比熱,30.0度を使った比熱を求めてください.

混合の30 s後に30.0 °C,60 s後に29.4 °Cを測定する.二つの点を通る直線を混合時刻t=0まで外挿すると,補正温度θ_f=30.6 °Cを得る.直線の傾きは−0.020 K s⁻¹であり,短時間の冷却を直線で近似する. 混合の30 s後に30.0 °C,60 s後に29.4 °Cを測定する.二つの点を通る直線を混合時刻t=0まで外挿すると,補正温度θ_f=30.6 °Cを得る.直線の傾きは−0.020 K s⁻¹であり,短時間の冷却を直線で近似する.
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考え方

湯と水の熱収支で校正し,冷却直線を混合時刻まで外挿する.

熱容量 C計 は (420+C計)18=210×42 より C計=70JK−1.水と合わせて 490JK−1.冷却の傾きは −0.020Ks−1,混合直後は 30.0+0.020×30=30.6 度.金属の放熱と水・容器の吸熱を等置して

c金属=490×10.60.20×69.4≈3.7×102Jkg−1K−1.

未補正では 490×10.0/(0.20×70.0)=350Jkg−1K−1 と小さく出る.外挿は短時間の冷却の近似である.

ポイント 教える人へ

熱を受け取る物体を挙げさせ,熱容量と比熱を単位で区別させてください.潜熱は共存温度までの熱量から判定させます.凝縮水の熱容量,校正での容器の熱容量を落とさないかが理解の目安です.

04第一法則と準静的過程

問い

自転車の空気入れで勢いよく空気を送ると,筒がはっきり熱くなります.ピストンと筒がこすれるからだと思うかもしれませんが,摩擦をできるだけ小さくしても,押し縮められた気体自身の温度が上がります.逆に,スプレー缶を使い続けると缶は冷たくなります.押し縮めると温まり,膨らむと冷えるのはなぜでしょうか.そして,その温度の変化は,ゆっくり押すか一気に押すかで変わるのでしょうか.

考えてみる

分子の立場で考えます.ピストンが気体の方へ速さ u で動いているとき,垂直に当たって跳ね返る分子は,ピストンとともに動く立場では速さが変わりませんが,床から見ると速さが 2u 増えます(第5章の衝突).動いてくる壁は分子を加速し,逃げる壁は遅くします.摩擦は要らず,押し縮めれば分子は速くなり,膨らませれば遅くなる,つまり温度が変わります.

では「どれだけ」変わるのでしょうか.分子を1個ずつ追うのは無理なので,出入りしたエネルギーだけを数えます.記号は前の題材の約束どおりで,物質量は ν,ピストンの断面積は A と書きます.

内部エネルギー・熱・仕事

定義 内部エネルギー

容器の中の気体が持つエネルギーの総和(分子の運動エネルギーと分子間の力の位置エネルギーの和)を内部エネルギー U という.U は気体の状態(たとえば T と V)だけで決まり,到達の仕方に依らない.このような量を状態量という.理想気体では U は温度だけで決まり,単原子分子なら U=32NkBT=32νRT である.

状態量でないものが2つあります.熱 Q と仕事 W です.気体が持っている量ではなく,境界を通って出入りしたエネルギーの量なので,同じ始状態から同じ終状態へ行っても道筋によって値が違います.これは第6章で,保存力の仕事は位置エネルギーの差で書けたのに,摩擦力の仕事は道のりで変わったのと同じ区別です.山の標高は今いる場所だけで決まりますが,そこまで歩いた道のりは,どの道を来たかで変わります.U は標高,Q と W は歩いた道のりにあたります.「今いる場所の道のり」という量が無いのと同じく,「今の状態の熱」や「今の状態の仕事」という量はありません.符号は,気体が受け取った熱を Q>0,気体が外へした仕事を W>0 とします.

法則 熱力学第一法則

物質量の変わらない閉じた系について

ΔU=Q−W,dU=δQ−δW

が成り立つ.熱を含めて述べたエネルギー保存則である.dU は状態量 U の微小な差だが,δQ・δW は「この微小な過程で出入りした量」であって状態の関数の差ではないので,記号を変えて区別する.

Q と W は道筋で変わるのに,その差は変わらない,というのが第一法則の主張です.熱を与えずに仕事をされれば(Q=0,W<0),その分だけ U が増えます.空気入れが熱くなるのはこれです.

仕事には体積仕事のほかに撹拌や電気加熱もあります.以下では体積仕事だけを扱うので,体積が変わらなければ W=0 としますが,これは断りのある約束で,一般の法則ではありません.

準静的過程と p-V 図

ピストンをゆっくり動かし,気体がどの瞬間もほぼ平衡状態にあるとみなせる変化を準静的過程といいます.準静的なら圧力 p がどの瞬間も1つに決まるので,道筋を p-V 図の曲線として描けます.断面積 A のピストンが dx 動くとき気体がする仕事は pAdx=pdV です.

公式 準静的過程で気体がする仕事

W=∫V1V2pdV

p-V 図では,道筋の曲線の下の面積である.膨張(dV>0)なら正,圧縮なら負になる.

同じ始点Aと終点Bを経路IとIIで結ぶ.Iは高い圧力で等圧膨張した後に定積で圧力を下げ,IIは先に定積で圧力を下げてから等圧膨張する.IIの仕事は下側の塗り,Iの仕事は下側の塗りと斜線部の和であり,Iの方が大きい. 同じ始点Aと終点Bを経路IとIIで結ぶ.Iは高い圧力で等圧膨張した後に定積で圧力を下げ,IIは先に定積で圧力を下げてから等圧膨張する.IIの仕事は下側の塗り,Iの仕事は下側の塗りと斜線部の和であり,Iの方が大きい.

2つの道筋で W は違いますが ΔU は同じなので,Q も違っていなければなりません.

準静的と可逆は同じではない

定義 準静的過程と可逆過程

準静的過程は,どの瞬間も平衡状態とみなせるほどゆっくり進む過程である.可逆過程は,逆向きにたどって,系だけでなく外界も完全に元の状態へ戻せる過程である.準静的は可逆であるための条件の一つにすぎず,さらに,摩擦や粘性のような散逸がないこと,熱の授受が無限小の温度差の相手との間で行われることが要る.

反例が2つあります.ピストンと筒に摩擦があると,どれほどゆっくり押しても摩擦熱が外界に残り,気体の状態を逆にたどれても外界は戻りません.また,100K の温度差の熱源からゆっくり熱を受け取る変化は,気体は準静的でも,熱は温度差を下る向きにしか流れないので逆向きに進みません.あとで出るカルノーサイクルの「可逆」は,この強い意味です.

モル比熱と断熱の式

体積を一定に保って温めるとき体積仕事は0なので Q=ΔU で,これを νCVΔT と書きます.圧力を一定に保つなら膨張のぶんの仕事 pΔV=νRΔT も要るので,モル比熱はその分だけ大きくなります.

公式 マイヤーの関係(理想気体)

Cp−CV=R,γ=CpCV

理想気体で,体積仕事だけを扱う場合の関係である.単原子分子では第15章の U=32νRT から CV=32R,Cp=52R,γ=53.二原子分子では回転にもエネルギーが分かれるので CV は大きく,常温の窒素や酸素の測定値は CV≈52R,γ≈75 である.ただしこれは回転が十分に励起され振動がほとんど励起されていない温度域の値で,高温では大きくなる(塩素のように常温で振動が効く気体もある).根拠は第17章の等分配則で扱う.

熱の出入りがない変化を断熱過程といいます.準静的な断熱過程では δQ=0 なので νCVdT+pdV=0 です.状態方程式 pV=νRT の微小変化 pdV+Vdp=νRdT から dT を消し,CV+R=Cp を使えば

CppdV+CVVdp=0,γdVV+dpp=0

となり,γ が一定とみなせるなら積分できます.

公式 準静的な断熱過程(ポアソンの式)

pVγ=p1V1γ,TVγ−1=T1V1γ−1

2つ目は1つ目に状態方程式を代入して p を消したもの.理想気体で,準静的,かつ γ 一定とみなせる場合に限る.CV(T) が変わるなら ∫CV(T)dTT+Rln⁡V2V1=0 を使う.

γ>1 なので,断熱線は等温線(pV 一定)より急です.断熱膨張では圧力だけでなく温度も下がることを,この傾きの差が表しています.

青い等温線はpVが一定,橙の断熱線はpVのγ乗が一定で,γ=5/3である.2本は同じ状態Aを通り,断熱線の方が急である.Aから膨張すると,断熱線の圧力は等温線より低くなる. 青い等温線はpVが一定,橙の断熱線はpVのγ乗が一定で,γ=5/3である.2本は同じ状態Aを通り,断熱線の方が急である.Aから膨張すると,断熱線の圧力は等温線より低くなる.

等温過程では ΔU=0 なので,与えた熱がそのまま仕事になり,p=νRT/V を積分して W=Q=νRTln⁡(V2/V1) です.準静的断熱では Q=0 なので,CV 一定のとき W=−ΔU=νCV(T1−T2) です.

速く押すとどうなるか

準静的でない変化は p-V 図に道筋として描けません.一気に押すと,ピストンのすぐ前の気体だけが余分に押し縮められ,中に流れと温度差が生まれます.それが熱としてならされるので,同じ体積まで断熱圧縮したとき,速く押した方が温度が高く,外からする仕事も大きくなります.pVγ 一定の式は使えません.

極端な例が自由膨張です.断熱した容器を仕切って片側を真空にし,仕切りを抜きます.断熱だから Q=0,押す相手がいないから W=0 で,ΔU=0,理想気体なら温度は変わりません.可逆な等温膨張と始状態・終状態が同じなのに熱も仕事も0で,両者の違いを第一法則では区別できません.ここに「変化の向き」という別の問題が隠れています.

ポイント ここまでのまとめ

  • U は状態量,熱と仕事は道筋に依る(dU と δQ・δW で書き分ける).第一法則は ΔU=Q−W.

  • 体積仕事だけを扱うなら,準静的過程で W=∫pdV が p-V 図の面積になる.等温で W=Q=νRTln⁡(V2/V1),準静的断熱で γ 一定なら pVγ・TVγ−1 一定.

  • 準静的でも,摩擦があったり有限の温度差を熱が流れたりすれば不可逆である.可逆は系と外界の両方が戻せることを要求する.

  • 理想気体で Cp−CV=R.単原子分子で γ=53,常温の二原子分子で 75(回転が効き振動が凍っている温度域の値).

  • 問いの答え:押し縮めると,動く壁が分子を加速する分だけ内部エネルギーが増えて温まり,膨らむと逆に冷える.摩擦は要らない.上がり方は速さだけで決まらず,断熱で散逸がなければ TVγ−1 一定のとおり,一気に押せば散逸の分それより高く,壁から熱が逃げればそれより低くなる.

05装置から経路を決める例題

数学の道具

ポイント 数学の道具:装置から圧力と p-V 図の経路を決める

入試では経路が与えられず,装置の拘束とつり合いから決まります.順序は決まっています.

  1. ピストンの力のつり合いから圧力を出す.鉛直で質量 M,断面積 A なら pA=p0A+Mg.ばねでつながれていれば,伸び x として pA=p0A+kx(向きに注意).ストッパーで止まっているときは抗力 N≥0 を入れ,N=0 が離れる条件になる.ピストンが加速していないのが前提で,これが「ゆっくり」の意味である.

  2. 幾何から体積を出す:V=V0+Ax.

  3. 1と2から x を消すと,p と V の関係=経路が出る.固定なら鉛直線,重さだけなら水平線,ばねなら傾いた直線,熱源に接していれば双曲線である.

  4. 仕事は面積で読む.等圧なら pΔV,直線なら台形,等温なら νRTln⁡(V2/V1).

  5. 各過程で Q,W,ΔU のうち2つを求め,残りを第一法則で出す.

練習. 断面積 A,質量 M のなめらかなピストンが鉛直なシリンダーの気体を上から押さえている(大気圧 p0).(1) ピストンが自由に静止しているときの気体の圧力.(2) ピストンが下からストッパーに支えられているとき,圧力は (1) より高いか低いか.

答え:(1) p0+Mg/A (2) 支える力 N の分だけ低い(p=p0+Mg/A−N/A).加熱して N=0 になると離れて動き出す

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

鉛直なシリンダー(断面積 A)に,質量 M のなめらかなピストンで単原子分子の理想気体を閉じ込める.ピストンの上は大気(圧力 p0)である.ピストンは内壁の突起(ストッパー)に下から支えられており,そのとき気体の体積は V0,温度は T0,圧力は p0 である.ここからゆっくり加熱する.シリンダーとピストンの熱容量は無視する.

ストッパーに支えられた質量Mのピストンの下に,体積V₀,温度T₀,圧力p₀の気体がある.加熱するとV₀を保って圧力がp₁=p₀+Mg/Aまで上がり,ストッパーの抗力Nが0になる.その後は圧力p₁を保って2V₀まで膨張する. ストッパーに支えられた質量Mのピストンの下に,体積V₀,温度T₀,圧力p₀の気体がある.加熱するとV₀を保って圧力がp₁=p₀+Mg/Aまで上がり,ストッパーの抗力Nが0になる.その後は圧力p₁を保って2V₀まで膨張する.
  1. ピストンがストッパーから離れるときの気体の圧力と温度を求めよ.

  2. そこまでに与えた熱量と気体がした仕事を求めよ.

  3. さらに加熱して体積が 2V0 になるまでの温度変化・熱量・仕事を求めよ.

  4. 全体の経路を p-V 図に描き,全体の Q,W,ΔU を照合せよ.

解答を見る

考え方 ストッパーに支えられている間は体積が変わらない.離れた後は,ピストンのつり合いから圧力が一定に決まる.

  1. ピストンに働く力のつり合いは pA+N=p0A+Mg で,離れる瞬間は N=0 だから p1=p0+Mg/A である.体積は V0 のままなので p/T 一定より T1=T0p1p0=T0(1+Mgp0A).

  2. 定積なので W=0,Q=ΔU=32(p1−p0)V0=3MgV02A.

  3. 圧力 p1 一定で体積が2倍になるので T2=2T1.仕事は W=p1V0,内部エネルギーの変化は ΔU=32p1V0 なので Q=52p1V0 である.これは νCpΔT と一致する.

  4. 経路は「V=V0 の鉛直線」のあと「p=p1 の水平線」である.全体では W=p1V0,ΔU=32(2p1−p0)V0,Q=ΔU+W で,(2) と (3) の和に等しい.(3) の仕事 p1V0 の中身は,大気を押しのける p0V0 とピストンの位置エネルギーの増加 Mg⋅V0/A である.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

水平なシリンダー(断面積 A)になめらかなピストンで単原子分子の理想気体を閉じ込め,ピストンを自然長のばね(ばね定数 k)で外の壁につなぐ.ピストンの外側は大気(圧力 p0)である.初めの気体は体積 V0,圧力 p0,温度 T0 で静止している.ゆっくり加熱してピストンを距離 d だけ外へ動かした.

左側の外の固定壁に結ばれた自然長のばねが,右へx動いたピストンを力kxで左へ引く.気体の圧力はp=p₀+kx/A,体積はV=V₀+Axとなる.p–V図の経路は傾きk/A²の直線で,V₀からV₀+Adまでの台形の面積が仕事W=p₀Ad+kd²/2を表す. 左側の外の固定壁に結ばれた自然長のばねが,右へx動いたピストンを力kxで左へ引く.気体の圧力はp=p₀+kx/A,体積はV=V₀+Axとなる.p–V図の経路は傾きk/A²の直線で,V₀からV₀+Adまでの台形の面積が仕事W=p₀Ad+kd²/2を表す.
  1. ピストンが x 動いたときの気体の圧力を求め,p を V の関数として表せ.

  2. 気体がした仕事を求め,大気にした仕事とばねに蓄えられたエネルギーの和と一致することを確かめよ.

  3. 加えた熱量と,最後の温度を求めよ.

解答を見る

考え方 ピストンのつり合いに,ばねの力を向きに注意して入れる.圧力が V の1次式になるので,仕事は台形の面積である.

  1. ピストンは気体から外へ pA,大気から内へ p0A,伸びたばねから内へ kx を受けるので p=p0+kx/A である.V=V0+Ax から x を消して

p=p0+kA2(V−V0).
  1. W=∫V0V0+AdpdV=p0Ad+12kd2.第1項は大気を押しのける仕事,第2項はばねの弾性エネルギーである.ピストンの運動エネルギーは初めと終わりで0なので,気体がした仕事はこの2つに全部渡る.

  2. 終状態は p2=p0+kd/A,V2=V0+Ad である.ΔU=32(p2V2−p0V0)=32(p0Ad+kdV0A+kd2) なので

Q=ΔU+W=52p0Ad+3kdV02A+2kd2.

温度は T2T0=p2V2p0V0=(1+kdp0A)(1+AdV0) 倍になる.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

断熱された固定容器が仕切りで2室に分けられ,反応しない理想気体が,室1に ν1 mol(定積モル比熱 CV1,温度 T1,体積 V1),室2に ν2 mol(CV2,T2,V2)入っている.モル比熱は一定とする.

断熱された固定容器の2室にν₁,C_V1,T₁,V₁とν₂,C_V2,T₂,V₂の理想気体がある.仕切りを抜くと両成分が体積V₁+V₂に混ざり,温度T_fで平衡になる.固定で熱を通す仕切りは温度,動けて熱を通す仕切りは温度と圧力,動けて断熱の仕切りは圧力の一致を要求する. 断熱された固定容器の2室にν₁,C_V1,T₁,V₁とν₂,C_V2,T₂,V₂の理想気体がある.仕切りを抜くと両成分が体積V₁+V₂に混ざり,温度T_fで平衡になる.固定で熱を通す仕切りは温度,動けて熱を通す仕切りは温度と圧力,動けて断熱の仕切りは圧力の一致を要求する.
  1. 仕切りを抜いて平衡になったときの温度 Tf を求めよ.

  2. そのときの各成分の分圧と全圧を求めよ.

  3. 仕切りを抜かずに,仕切りが「固定で熱を通す」「動けて熱を通す」「動けて断熱」の3通りの場合,平衡で何が一致するかを述べよ.

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考え方 容器全体は断熱・固定なので Q=0,W=0 で,内部エネルギーの和が保たれる.

  1. ν1CV1(Tf−T1)+ν2CV2(Tf−T2)=0 より

Tf=ν1CV1T1+ν2CV2T2ν1CV1+ν2CV2

である.比熱の重みつき平均であって,物質量だけの平均ではない.モル比熱が温度に依るときは ∑iνi∫TiTfCVi(T)dT=0 を解く.

  1. 各成分は全体積 V1+V2 を占めるので,分圧は pi=νiRTf/(V1+V2),全圧はその和 p=(ν1+ν2)RTf/(V1+V2) である.

  2. 固定で熱を通すなら温度だけが一致する(体積が変わらないので圧力は一致しない).動けて熱を通すなら温度と圧力が一致する.動けて断熱なら,力のつり合いから圧力だけが一致し,温度は一致しない.ピストンが止まったことから温度が等しいと決めつけてはいけない.

ポイント ここまでのまとめ

  • 経路は装置が決める.ピストンのつり合いで p を,幾何で V を書き,x を消せば p-V 図の経路が出る.

  • ストッパーの抗力は N≥0.N=0 が離れる条件で,そこで定積から等圧へ経路が折れ曲がる.

  • ばね付きシリンダーでは p が V の1次式になり,仕事は台形の面積.内訳は大気への仕事とばねの弾性エネルギーである.

  • 断熱・固定の容器で混ぜると Tf は νiCVi を重みとする平均になる.仕切りが何を通すかで,一致する量(温度・圧力)が変わる.

06第一法則と準静的過程の演習

仕事は体積仕事だけとします.ΔU=Q−W の符号と,断熱の式の条件を確かめてください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

理想気体 ν=0.50mol を室温付近で 20K 温めると,定積では約 208J,等圧では約 291J を吸収しました.CV,Cp,γ と等圧の仕事を求めて,マイヤーの関係を確かめてください.R=8.31Jmol−1K−1 とします.

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考え方 吸収熱を物質量と温度変化で割ってモル比熱を求める.等圧の仕事は第一法則と状態方程式で確かめる.

熱を νΔT で割ると,CV=20.8,Cp=29.1(単位 Jmol−1K−1),γ=291/208≈1.40.差は丸めの範囲で R に一致する.

等圧の仕事は W=Q−ΔU≈83J.状態方程式でも pΔV=νRΔT=83.1J となる.マイヤーの関係は理想気体・体積仕事だけの関係で,γ≈7/5 は二原子分子の回転が効き振動が凍った温度域の測定値である.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

単原子理想気体を A:(V0,3p0) から B:(3V0,p0) へ準静的に変えます.Iは等圧膨張の後に定積冷却,IIは逆の順です.両経路の仕事と熱を求めてください.両端が同温なら等温過程でしょうか.

A(V₀,3p₀)からB(3V₀,p₀)へ進む2つの経路を示す.青い経路Iは長方形の上辺を右へ進み,右辺を下へ進む.緑の経路IIは左辺を下へ進んでから,下辺を右へ進む.両端の状態は同じでも,等圧膨張中の圧力は異なる. A(V₀,3p₀)からB(3V₀,p₀)へ進む2つの経路を示す.青い経路Iは長方形の上辺を右へ進み,右辺を下へ進む.緑の経路IIは左辺を下へ進んでから,下辺を右へ進む.両端の状態は同じでも,等圧膨張中の圧力は異なる.
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考え方 内部エネルギー変化は両端の状態,仕事は経路の下の面積から求める.途中の温度も確認する.

両端の pV=3p0V0 が等しいので ΔU=0.仕事は経路の下の面積で,定積では0だから WI=6p0V0,WII=2p0V0.Q=ΔU+W より熱もそれぞれ同じ値になる.折れ曲がりで温度は始状態のIで3倍,IIで 1/3 倍となる.両端が同温でも途中は等温とは限らない.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

単原子理想気体を (p0,V0,T0) から体積 V0/8 まで圧縮します.Iは等温,IIは断熱で,ともに摩擦なく準静的です.終状態の温度と圧力,Q,W,ΔU を求めて,投入仕事 Win=−W を比べてください.

共通の始点(V₀,p₀,T₀)から左へ圧縮する.体積V₀/8で,青い等温線Iの終点は圧力8p₀,温度T₀となり,橙の断熱線IIの終点は圧力32p₀,温度4T₀となる.圧力軸は等間隔であり,断熱圧縮の方が圧力の上昇が大きい. 共通の始点(V₀,p₀,T₀)から左へ圧縮する.体積V₀/8で,青い等温線Iの終点は圧力8p₀,温度T₀となり,橙の断熱線IIの終点は圧力32p₀,温度4T₀となる.圧力軸は等間隔であり,断熱圧縮の方が圧力の上昇が大きい.
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考え方 等温では状態方程式を積分し,準静的な断熱ではポアソンの式を使う.第一法則から熱と仕事を求める.

Iは Tf=T0,pf=8p0,ΔU=0.p=νRT0/V を積分して W=Q=−p0V0ln⁡8.

IIは TV2/3 と pV5/3 が一定なので Tf=4T0,pf=32p0.Q=0,ΔU=32νR(4T0−T0)=92p0V0,W=−ΔU となる.投入仕事はIで 2.08p0V0,IIで 4.5p0V0 なのでIIが大きい.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

一端を閉じた断面積 A の管で,長さ h,密度 ρ の水銀柱が理想気体を閉じ込めています.閉端が下の鉛直管では気体長は L0 です.大気圧は p大気=4ρgh です.温度を一定に保ち,閉端を下にして水平から 30∘ 傾けた場合と,鉛直で上下を逆にした場合の気体の長さを求めてください.毛管効果・水銀の蒸気を無視し,液柱は管内に留まるとします.

断面積Aの管を鉛直・水平から30°・上下逆さにした状態.水銀柱の長さはhで一定,鉛直高さは順にh,h/2,hとなる.閉端が下では気体が水銀の下,逆さでは上にある.気体長はL₀,10L₀/9,5L₀/3で,温度は一定. 断面積Aの管を鉛直・水平から30°・上下逆さにした状態.水銀柱の長さはhで一定,鉛直高さは順にh,h/2,hとなる.閉端が下では気体が水銀の下,逆さでは上にある.気体長はL₀,10L₀/9,5L₀/3で,温度は一定.
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考え方 液柱の高さの差から各姿勢の気体圧を求める.温度一定なので,圧力と気体長の積をそろえる.

初めは p−p大気=ρgh より p=5p大気/4.30度では p=9p大気/8,逆さでは気体が水銀柱の上にあるので p=3p大気/4.V=AL と等温の式 pL=p初L0 より,長さは 10L0/9,5L0/3.傾けると高さの差が hsin⁡30∘=h/2 になる.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

摩擦のないピストンを備えた断熱シリンダー内の単原子理想気体は (p0,V0,T0) にあります.外圧を急に pe=p0/2 に下げ,保ちます.流れが消えた終状態の温度,体積,仕事を求めてください.ピストンのエネルギー変化を無視します.同じ始状態から体積 8V0/5 まで断熱自由膨張した場合も温度と仕事を求めてください.

左は断熱シリンダーで,外圧pₑ=p₀/2を一定に保つ.気体は青い矢印の向きに外へ仕事をし,赤い矢印は外圧による力を示す.破線は初めのピストン位置である.右は体積V₀の気体と真空を仕切った断熱容器で,仕切りを抜くと体積8V₀/5へ自由膨張する.両者ともQ=0だが,自由膨張では押す相手がなくW=0である. 左は断熱シリンダーで,外圧pₑ=p₀/2を一定に保つ.気体は青い矢印の向きに外へ仕事をし,赤い矢印は外圧による力を示す.破線は初めのピストン位置である.右は体積V₀の気体と真空を仕切った断熱容器で,仕切りを抜くと体積8V₀/5へ自由膨張する.両者ともQ=0だが,自由膨張では押す相手がなくW=0である.
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考え方 急な膨張では一定外圧への仕事を第一法則に入れ,終状態の状態方程式と連立する.自由膨張では仕事がない.

途中は平衡でないので,外圧による仕事 W=pe(Vf−V0) を数える.終状態では peVf=νRTf.Q=0 と第一法則から

32νR(Tf−T0)=−(νRTf−12νRT0)

となり,Tf=4T0/5,Vf=8V0/5,W=3p0V0/10.準静的でなければ TV2/3 一定は使えない.

自由膨張は W=Q=0 だから ΔU=0,Tf=T0.外へ仕事をするかで終温度が違う.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

断熱した剛体容器を物質を通さない仕切りで分け,同じ単原子理想気体を各 νmol 入れます.初めの (V,T) は左 (V0,2T0),右 (2V0,T0) です.p0=νRT0/V0 とします.仕切りの熱容量・エネルギー変化を無視します.各場合の最終状態の温度,体積,圧力を求めてください.

(a) 仕切りを固定して熱を通します.
(b) 摩擦なく動ける透熱仕切りとします.
(c) 摩擦なく動ける断熱仕切りとします.流れの散逸は容器内で起こり,最後の左体積が 8V0/5 と測定されたとします.力のつり合いから温度も一致しますか.

同じ単原子理想気体を各ν mol入れた断熱剛体容器.左の初状態は体積V₀,温度2T₀,右は体積2V₀,温度T₀.固定・透熱では温度,可動・透熱では温度と圧力,可動・断熱では圧力だけが一致する.最後の条件で測定された左体積8V₀/5から求まる左右の温度は異なる. 同じ単原子理想気体を各ν mol入れた断熱剛体容器.左の初状態は体積V₀,温度2T₀,右は体積2V₀,温度T₀.固定・透熱では温度,可動・透熱では温度と圧力,可動・断熱では圧力だけが一致する.最後の条件で測定された左体積8V₀/5から求まる左右の温度は異なる.
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考え方 容器全体の内部エネルギー保存を使う.仕切りの条件から,温度と圧力のどちらが一致するかを判断する.

全体の U=32νR(TL+TR) は一定なので TL+TR=3T0.

(a) 温度は TL=TR=3T0/2,体積は不変.圧力は左 3p0/2,右 3p0/4.固定具が差圧を支える.

(b) 温度・圧力が一致し,等量なので体積も等しい.VL=VR=3V0/2,TL=TR=3T0/2,pL=pR=p0.

(c) 力学平衡では圧力だけが一致する.pf(3V0)=νR(TL+TR) より pf=p0.測定体積と状態方程式から,VR=7V0/5,TL=8T0/5,TR=7T0/5 で温度は一致しない.測定なしでは各体積・温度は決まらない.不可逆な動きにポアソンの式は使えない.

ポイント 教える人へ

  • 圧縮時の放熱と,比熱・熱容量の区別を問います.

  • 経路による仕事の違いを面積で説明させます.

  • 断熱の式の条件と,仕切りで一致する量を確かめます.

07第二法則とカルノーサイクル

問い

海の水は膨大な内部エネルギーを持っています.そこで,海水から熱を取り出し,海水をほんの 0.1K だけ冷やして,その熱で船のスクリューを回す機関を考えます.燃料は要らず,エネルギー保存則も破っていません.ところが,こういう船は作れないことが分かっています.なぜでしょうか.そして,熱から仕事を取り出せる割合には,どんな上限があるのでしょうか.

考えてみる

一つの熱源から熱をもらって全部仕事に変えること自体はできます.前の題材の等温膨張がそれで,ΔU=0 だから Q がそのまま W になりました.ただし1回きりです.気体は膨らんでしまい,次の膨張のためには元の体積へ戻さなければならず,戻すには圧縮の仕事が要ります.

ここで工夫が1つあります.圧縮するときに気体の温度を下げておけば,同じ体積まで戻すのに要る仕事は膨張で得た仕事より小さくて済み,差し引きが取り出せます.しかし温度を下げるには低温の所へ熱を捨てなければなりません.つまり,繰り返し働く機関には低温の熱源も必要です.経験上の例外がないので,これを法則として立てます.

第二法則

法則 熱力学第二法則

ケルビンの表現. 一つの温度の熱源から熱を受け取り,それをすべて仕事に変えて,他に何の変化も残さずに元の状態に戻るようなサイクルは存在しない.

クラウジウスの表現. 低温の物体から高温の物体へ,他に何の変化も残さずに熱を移すことはできない.

2つの表現は同じことを言っています.仮にケルビンの表現が破れる機関があったとしましょう.それで高温側から取った熱を全部仕事に変え,その仕事で冷凍機を動かして低温側から高温側へ熱を移せば,全体では「低温から高温へ熱が移っただけ」の装置ができ,クラウジウスの表現が破れます.逆向きの議論も同じようにできます.

左の熱機関は高温熱源 T_H から熱 Q_H を受け取り,仕事 W を外へ出し,熱 Q_L を低温熱源 T_L へ捨てる.右の Q_L=0 の装置は,受け取った熱を全量仕事に変えて元に戻るサイクルであり,第二法則によって禁止される. 左の熱機関は高温熱源 T_H から熱 Q_H を受け取り,仕事 W を外へ出し,熱 Q_L を低温熱源 T_L へ捨てる.右の Q_L=0 の装置は,受け取った熱を全量仕事に変えて元に戻るサイクルであり,第二法則によって禁止される.

カルノーサイクル

高温 TH と低温 TL の2つの熱源の間で,次の4つの過程からなるサイクルをカルノーサイクルといいます.すべて準静的で,摩擦はなく,熱の授受は熱源との温度差が無限小の状態で行います(前の題材の強い意味で可逆です).

  1. TH の熱源に接して等温膨張.熱 QH を受け取る.

  2. 熱源から外し,断熱膨張して TL まで冷える.

  3. TL の熱源に接して等温圧縮.熱 QL を捨てる.

  4. 熱源から外し,断熱圧縮して TH に戻る.

[図:カルノーサイクル]

青い2本の等温線 T_H,T_L と橙色の2本の断熱線を,A→B→C→D→A の時計回りにたどる.高温で Q_H を吸収し,低温で Q_L を放出する.囲む面積は正味の仕事 W=Q_H−Q_L である.初期状態の緑の点は A→B の等温膨張の途中にあり,スライダーを動かすと各過程の状態と熱の出入りを確認できる.

可逆なので,逆向きにも同じ道筋で回せます.逆に回せば,仕事 Win>0 を受け取って低温側から QL をくみ上げ,高温側へ QH を捨てる冷凍機になります.

作業物質を理想気体として計算してみます.等温過程から QH=νRTHln⁡(V2/V1),QL=νRTLln⁡(V3/V4) です(V1→V2 が等温膨張,V3→V4 が等温圧縮).2本の断熱線に TVγ−1 一定を使うと THV2γ−1=TLV3γ−1 と THV1γ−1=TLV4γ−1 で,比をとれば V2/V1=V3/V4 です.したがって対数が消えて

QLQH=TLTH

となります.熱の比が温度の比だけで決まるのです.

カルノーの定理とその証明

上の計算は理想気体についてのものでした.ところが可逆であることを使うと,作業物質に依らずに効率が決まることまで証明できます.

同じ2つの熱源の間で,可逆な機関 C と,効率がもっと高いと仮定した機関 X を考えます.X の運転回数と C の運転回数を調整して,1組の運転で両方の仕事の大きさが同じ w になるようにします.効率の定義 η=w/QH から,高温側から取る熱は

QH,X=wηX<wηC=QH,C

です.そこで,X の出した仕事 w をそのまま使って C を逆向きに回します.C は冷凍機として,低温側から QH,C−w をくみ上げ,高温側へ QH,C を返します.

同じ熱源の間で機関Xの効率が可逆機関Cより高いと仮定する.Xが高温熱源からQ_{H,X}を受け取って出す仕事wでCを逆転させる.Cは低温熱源からQ_{H,C}−wを取り出し高温熱源へQ_{H,C}を返す.外へ出る仕事は0で,正味の熱Q_{H,C}−Q_{H,X}>0が低温側から高温側へ移り,第二法則に反する. 同じ熱源の間で機関Xの効率が可逆機関Cより高いと仮定する.Xが高温熱源からQ_{H,X}を受け取って出す仕事wでCを逆転させる.Cは低温熱源からQ_{H,C}−wを取り出し高温熱源へQ_{H,C}を返す.外へ出る仕事は0で,正味の熱Q_{H,C}−Q_{H,X}>0が低温側から高温側へ移り,第二法則に反する.

この組合せ全体を1つの装置として見ます.外へ出る仕事は0です.高温側は QH,C−QH,X>0 を受け取り,低温側は (QH,C−w)−(QH,X−w)=QH,C−QH,X を失います.つまり,何の変化も残さずに,低温側から高温側へ正の熱が移ったことになり,クラウジウスの表現が破れます.よって ηX≤ηC です.

さらに X も可逆なら,役割を入れ替えて同じ議論ができるので ηC≤ηX も成り立ち,2つの効率は等しくなります.証明に使ったのは「可逆なら逆に回せる」ことだけで,気体の種類も機構も使っていません.

定理 カルノーの定理

温度 TH,TL の2つの熱源の間で働く熱機関の効率 η=W/QH は

η≤1−TLTH

を超えない.等号は可逆な機関のときに限り,その値は作業物質の種類にも機構にも依らない.

効率が物質に依らないという事実は,温度の定義に使えます.2つの熱源の温度の比を可逆機関の熱の比で TL/TH=QL/QH と定めたものを熱力学温度といいます.理想気体での上の計算は,この定義が最初の題材で導入した理想気体温度と一致することを示しています.温度の目盛りが特定の物質に依らない意味を持つのは,このためです.

実際の機関との差

実際の機関がカルノー効率に届かない原因は,速く動かすことだけではありません.ピストンの摩擦や気体の粘性で仕事が散逸し,燃焼の炎と気体の間には大きな温度差があり,壁から熱が漏れ,排気は熱いまま外へ出ます.温度差のある所を熱が流れるたび,取り出せたはずの仕事が失われるので,準静的に近づけるだけでは可逆になりません.

上限の式からは2つの道が読めます.高温側 TH を上げるか,低温側 TL を下げるかです.火力発電所が蒸気温度を 900K 近くまで上げるのは前者で,材料の耐熱が限界を決めます.後者は冷却水の温度に縛られ,夏に発電効率が落ちるのは TL が上がるからです.上限を決めるのは2温度の比であって高温側だけではありません.これとは別に,摩擦・熱漏れ・有限温度差を減らして上限に近づける改良もあります.

冷凍機とヒートポンプ

サイクルを逆に回すと,外から仕事 Win=−W>0 を入れて,低温側から熱 QL をくみ上げる冷凍機になります.性能は,くみ上げた熱と使った仕事の比成績係数で表します.

公式 冷凍機とヒートポンプの成績係数

投入する仕事を Win>0 として

QLWin≤TLTH−TL(冷やす),QHWin≤THTH−TL(暖める)

が成り立つ(QH=QL+Win).どちらも温度差が小さいほど大きく,暖める側は必ず1より大きい.第一法則を ΔU=Q−W の形で使うときは W=−Win に戻すことを忘れないこと.

冷凍機は低温の庫内 T_L から熱 Q_L を取り,外から仕事 W を受ける.庫内から取った熱と投入仕事の和 Q_H=Q_L+W を,高温の部屋 T_H へ捨てる. 冷凍機は低温の庫内 T_L から熱 Q_L を取り,外から仕事 W を受ける.庫内から取った熱と投入仕事の和 Q_H=Q_L+W を,高温の部屋 T_H へ捨てる.

暖房のヒートポンプ(エアコン)が電熱線より得なのは QH/Win>1 だからです.電気の 1 J を全部熱にする電熱線に対し,ヒートポンプは外の空気から熱をくみ足します.逆に,冷蔵庫の扉を開けても部屋は冷えません.庫内から取った熱に Win を足した QH が部屋へ出るので,部屋全体では暖まります.

ポイント ここまでのまとめ

  • 第二法則は,一つの熱源だけで働く機関(ケルビン)と,仕事なしに低温から高温へ熱を移すこと(クラウジウス)を禁じる.2つの表現は同値である.

  • カルノーサイクルは2本の等温線と2本の断熱線からなる可逆サイクルで,QL/QH=TL/TH.

  • 効率は η≤1−TL/TH.等号は可逆のときで,その値は作業物質にも機構にも依らない.可逆機関を逆に回して組み合わせる議論だけから出る.

  • 上限は2温度の比で決まるので,TH を上げても TL を下げても上がる.実機の損失は速さだけでなく摩擦・熱漏れ・有限温度差による.

  • 冷凍機では投入仕事を Win>0 と書き,QL/Win≤TL/(TH−TL).

  • 問いの答え:海水という一つの熱源しかないので熱を仕事に変え続けられない.捨て先の低温の熱源が要り,取り出せる割合は2温度の比だけで決まるカルノー効率を超えない.

08効率の勘定と例題

数学の道具

ポイント 数学の道具:効率の分母の作り方と微小カルノーサイクル

効率の2つの書き方. サイクルでは ΔU=0 なので W=Q吸収−Q放出 であり,

η=WQ吸収=1−Q放出Q吸収

と書ける.可逆で2熱源なら QL/QH=TL/TH なので η=1−TL/TH になる.

分母には「吸収した熱だけ」を入れる. 多くの問題では,1つの過程が全体として吸熱か放熱かを見れば済む.しかし1本の経路の途中で吸熱から放熱へ変わることがあり,そのときは過程ごとの正味の熱を足しても分母にならない.経路に沿って

δQ=dU+pdV

を体積の関数として書き,符号が変わる体積を求めて,正の部分だけを積分する.各辺の正味の熱のうち正のものだけを足す方法では,この分母を作れない.

熱源の温度が変わるとき. 熱容量が有限の物体を熱源に使うと,熱を取り出すうちに温度 T が下がる.温度がほとんど変わらない微小な段階に注目し,そこで可逆な微小カルノーサイクルを回すと考える.物体から −CdT の熱を取り出すと

dW=(1−TLT)(−CdT)

で,温度について積分すれば全体の仕事が出る.∫dT/T=ln⁡T の形が現れるのが特徴である.最初のカルノー効率を全熱量に掛けてはいけない.

練習. (1) TH=900K,TL=300K のカルノー効率と,同じ2温度での冷凍機の成績係数の上限を求めよ.(2) 熱容量 C(一定)の物体を T0 から TL まで冷やす間に取り出せる最大の仕事を書け.

答え:(1) 1−1/3=2/3,300/(900−300)=0.5 (2) W=∫TLT0(1−TLT)CdT=C(T0−TL)−CTLln⁡T0TL

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

ある火力発電所のボイラーの蒸気は 8.0×102K,冷却に使う海水は 3.0×102K である.

800 K のボイラーから熱 Q_H を受け取り,仕事 W を発電機へ渡し,残りの熱 Q_L を300 K の海へ捨てる.例題の実際の効率40%に合わせ,矢印の太さは Q_H:W:Q_L=5:2:3 とした. 800 K のボイラーから熱 Q_H を受け取り,仕事 W を発電機へ渡し,残りの熱 Q_L を300 K の海へ捨てる.例題の実際の効率40%に合わせ,矢印の太さは Q_H:W:Q_L=5:2:3 とした.
  1. この2温度の間のカルノー効率を求めよ.

  2. 実際の効率が 40 % で,電気出力が 1.0×109W のとき,ボイラーから受け取る熱流率 QH/Δt と海へ捨てる熱流率 QL/Δt を求めよ.

  3. 海水の温度が夏に 3.1×102K に上がると,カルノー効率は何ポイント下がるか.

解答を見る

考え方 効率の上限は温度だけで決まる.(2) で問われているのは1秒あたりの量なので,エネルギー(J)ではなく熱流率(W=Js−1)で答える.効率は同じ Δt での比なので,熱流率の比で計算してよい.

  1. 1−300/800=0.625 で,約 63 % である.

  2. QH/Δt=(W/Δt)/0.40=2.5×109W,QL/Δt=2.5×109−1.0×109=1.5×109W.1秒あたりでは,電気として出る 1.0×109J より多い 1.5×109J の熱を海に捨てている.

  3. 1−310/800=0.6125 なので約 1.3 ポイント下がる.低温側の温度が上がるだけで上限は落ちる.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

単原子分子の理想気体を,p-V 図上で A(V0,p0)→B(V0,3p0)→C(3V0,p0)→A と準静的に1周させる.BからCは直線,CからAは等圧である.

A(V_0,p_0)からB(V_0,3p_0),C(3V_0,p_0)を経てAへ戻るサイクル.BからCの直線ではV_0<V<2.5V_0で吸熱,2.5V_0<V<3V_0で放熱となる.温度Tが最大になる点はV=2V_0で,熱の符号が切り替わる点と異なる.三角形の面積2p_0V_0が1周の正味の仕事Wである. A(V_0,p_0)からB(V_0,3p_0),C(3V_0,p_0)を経てAへ戻るサイクル.BからCの直線ではV_0<V<2.5V_0で吸熱,2.5V_0<V<3V_0で放熱となる.温度Tが最大になる点はV=2V_0で,熱の符号が切り替わる点と異なる.三角形の面積2p_0V_0が1周の正味の仕事Wである.
  1. BからCで,体積が V=vV0 のときの圧力を求め,微小な熱 δQ を v の式で表せ.

  2. この辺で吸熱から放熱へ変わる体積を求め,吸収した熱の合計と,サイクルの効率を求めよ.

  3. 温度が最大になるのはどの点か.(2) の切り替わる点と一致するか.

解答を見る

考え方 各辺の正味の熱だけを見ると分母を作れない.BからCでは δQ=dU+pdV を v の関数として書き,符号の変わる所で積分を分ける.

  1. 直線は2点を通るので p=p0(4−v).U=32pV=32p0V0v(4−v) だから dU=32p0V0(4−2v)dv,pdV=p0V0(4−v)dv で

δQ=p0V0(10−4v)dv.
  1. 10−4v=0 より v=52.v<52 では吸熱,v>52 では放熱である.吸熱の分は ∫15/2(10−4v)dv=92 倍の p0V0,放熱の分の大きさは 12p0V0(差し引き 4p0V0 が,この辺の正味の熱).AからBは定積で Q=ΔU=3p0V0 の吸熱,CからAは等圧で Q=−5p0V0 の放熱である.したがって

Q吸収=3p0V0+92p0V0=152p0V0.

正味の仕事は三角形の面積 2p0V0 なので η=215/2=415≈0.27 である.各辺の正味の熱のうち正のものだけを足して 3+4=7 を分母にすると 2/7≈0.29 となり,効率を高く見積もってしまう.

  1. pV=p0V0v(4−v) が最大になるのは v=2 で,T もそこで最大になる.δQ が0になる v=52 とは一致しない.温度が下がり始めても,膨張の仕事が内部エネルギーの減りより大きい間は,まだ熱を吸収している.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

熱容量 C(一定)の物体が温度 T0 にあり,温度 TL(T0>TL)の広い海がある.この2つの間で可逆な機関を働かせ,物体の温度が TL になるまで仕事を取り出す.

熱容量 C の物体は温度 T_0 から T_L まで冷える.温度 T の微小な段階で物体から熱 −C dT を機関へ渡し,海 T_L へ熱 dQ_L を捨て,外へ仕事 dW を出す.冷却中は dT&lt;0 なので,−C dT は正である. 熱容量 C の物体は温度 T_0 から T_L まで冷える.温度 T の微小な段階で物体から熱 −C dT を機関へ渡し,海 T_L へ熱 dQ_L を捨て,外へ仕事 dW を出す.冷却中は dT&lt;0 なので,−C dT は正である.
  1. 取り出せる仕事の総量 W を求めよ.

  2. T0=4TL のとき W を CTL で表し,物体の内部エネルギーの減少の何割が仕事になるか求めよ.

  3. 物体を海に直接つないで冷やした場合と比べよ.

解答を見る

考え方 物体の温度 T がほとんど変わらない微小な段階に分け,各段階で可逆なカルノーサイクルを回すと考える.

  1. 物体が dT 冷えると熱 −CdT>0 が出て,そのうち (1−TL/T) の割合が仕事になる.積分して

W=∫TLT0(1−TLT)CdT=C(T0−TL)−CTLln⁡T0TL.
  1. W=3CTL−CTLln⁡4≈1.6CTL.内部エネルギーの減少は 3CTL なので,仕事になるのは約 54 % である.温度が下がるにつれ効率が落ちるので,最初のカルノー効率 1−1/4=0.75 よりだいぶ小さい.

  2. 直接つなげば仕事は0で,3CTL の熱がすべて海に入る.同じ始状態と終状態なのに,取り出せた仕事がまるごと失われる.

ポイント ここまでのまとめ

  • η=W/Q吸収=1−Q放出/Q吸収.可逆で2熱源なら 1−TL/TH で,低温側が上がるだけでも効率は落ちる.

  • 1本の経路の途中で吸熱と放熱が入れ替わることがある.δQ=dU+pdV の符号が変わる点を探し,正の部分だけを分母にする.温度の最大点とは一致しない.

  • 1秒あたりを問われたら,熱流率・出力(単位 W)で答え,エネルギー(J)と混ぜない.

  • 熱源の温度が変わるときは,微小な可逆サイクルを積み上げて積分する.直接つないで冷やすと,取り出せたはずの仕事が全部失われる.

09熱機関と第二法則の演習

熱と仕事の向きを描き,第一法則と第二法則を確かめてください.QH,QL は吸収・放出する熱の正の大きさ,冷凍機への投入仕事は Win>0 とします.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

750K と 300K の熱源間の機関が,1周で高温側から 1.5×103J を受け取り,低温側へ 9.0×102J を捨てます.仕事と効率を求め,同じ吸熱での仕事の上限と比べてください.吸熱と2温度を変えず,放出熱を 4.0×102J に減らせますか.

750 K の高温熱源から1サイクルに熱 Q_H=1.5×10³ J を受け取り,300 K の低温熱源へ熱 Q_L=9.0×10² J を捨てる.仕事 W は機関から外へ出る. 750 K の高温熱源から1サイクルに熱 Q_H=1.5×10³ J を受け取り,300 K の低温熱源へ熱 Q_L=9.0×10² J を捨てる.仕事 W は機関から外へ出る.
解答を見る

考え方 サイクルでは ΔU=0 なので W=QH−QL.効率をカルノー上限と比べる.

仕事W=1500−900=600J,効率η=600/1500=0.40.効率上限1−300/750=0.60,最大仕事1500×0.60=900Jに収まる.

放出熱が400JならW=1100J,効率約73 %は上限を超え第二法則に反する.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

第二法則に反する主張を選び,直接使える表現を答えてください.書かれた以外の変化は残さないとします.

  1. 単一熱源の熱を全量仕事に変え,作業物質も装置も元に戻る運転を繰り返します.

  2. 仕事なしで低温熱源から高温熱源へ熱を移し,装置は元に戻ります.

  3. 理想気体が単一熱源から熱を受け取り,等温で一度膨張して,熱と等しい仕事をします.

解答を見る

考え方 装置が元に戻るか,ほかに何が変わるかを確認する.

  1. ケルビンの表現に反する:単一熱源の全熱を仕事にするサイクル.(2) 仕事なしの低温→高温の熱移動はクラウジウスの表現に反するが,第一法則を満たす.

(3)ΔU=0,Q=Wでも体積が戻らず,違反なし.圧縮も含む単一熱源サイクルの正の正味仕事が禁じられる.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

単原子分子の理想気体 νmol が,TH=600K,TL=150K の間でカルノーサイクルを回ります.高温でAの体積 V0 からBの 2V0 まで等温膨張し,続く断熱膨張の終点をC,低温での等温圧縮の終点をDとします.

  1. γ=5/3 を使い,CとDの体積を求めてください.

  2. QH,QL,W,η を求め,2つの断熱過程の仕事の和も説明してください.

600 K の高温等温線上で A の体積 V_0 から B の体積 2V_0 まで膨張し,熱 Q_H を受け取る.B→C は断熱膨張,C→D は150 K の等温圧縮で熱 Q_L を放出,D→A は断熱圧縮である.時計回りの模式図で,体積と圧力の縮尺は表していない. 600 K の高温等温線上で A の体積 V_0 から B の体積 2V_0 まで膨張し,熱 Q_H を受け取る.B→C は断熱膨張,C→D は150 K の等温圧縮で熱 Q_L を放出,D→A は断熱圧縮である.時計回りの模式図で,体積と圧力の縮尺は表していない.
解答を見る

考え方 断熱線では TVγ−1 一定,等温線では仕事を対数で計算する.

  1. 断熱で温度1/4,体積43/2=8倍:VC=16V0.D→Aも:VD=8V0,VC/VD=2.

(2)QH=νRTHln⁡2,QL=νRTLln⁡2よりW=QH−QL=νR(TH−TL)ln⁡2,η=3/4.断熱仕事は膨張νCV(TH−TL),圧縮は負値で和は0.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

280K と 320K の間で動く冷凍機に,1サイクルあたり 240J の仕事を投入すると,低温側から 960J の熱を取り出せます.

  1. 放出熱,冷凍機とヒートポンプの成績係数を求め,上限と比べてください.

  2. 同じ2温度で,高温側へ同じ熱量を渡す可逆なヒートポンプなら,投入仕事はいくらですか.

冷凍機は280 K の低温熱源から熱 Q_L=960 J を受け取り,外から正の投入仕事 W_in=240 J を受ける.320 K の高温熱源へ捨てる熱は Q_H=Q_L+W_in である. 冷凍機は280 K の低温熱源から熱 Q_L=960 J を受け取り,外から正の投入仕事 W_in=240 J を受ける.320 K の高温熱源へ捨てる熱は Q_H=Q_L+W_in である.
解答を見る

考え方 外へする仕事は W=−Win なので,第一法則は QH=QL+Win となる.

(1)QH=960+240=1200J.成績係数(冷凍機,暖房)は960/240=4.0,1200/240=5.0.上限280/(320−280)=7.0,320/(320−280)=8.0以下.低温側の熱も使う暖房は冷房より1大きく,1超でもエネルギー保存に反しない.

  1. 可逆ならWin=1200/8.0=150J.吸熱1050J,同じ暖房で仕事を90J減らせる.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

熱容量 C(T)=aT,a=2.0JK−2 の物体を T0=600K から Tf=400K まで冷やし,温度一定の熱源 TL=300K との間で機関を動かします.物体は仕事をせず,機関以外とは熱を交換しません.最大仕事,放出熱,取り出した熱のうち仕事になる割合を求めてください.

熱容量 C(T)=aT の物体を600 K から400 K まで冷やし,300 K の低温熱源との間で機関を働かせる.物体から熱 Q_H を受け取り,低温熱源へ熱 Q_L を捨て,外へ仕事 W を出す.冷却中は温度と熱容量の両方が変わる. 熱容量 C(T)=aT の物体を600 K から400 K まで冷やし,300 K の低温熱源との間で機関を働かせる.物体から熱 Q_H を受け取り,低温熱源へ熱 Q_L を捨て,外へ仕事 W を出す.冷却中は温度と熱容量の両方が変わる.
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考え方 各段階で可逆機関を働かせる.温度と熱容量が変わるので,最初の効率を全熱量に掛けない.

吸熱QH=∫TfT0aTdT=a(T02−Tf2)/2=2.0×105J,最大仕事

Wmax=∫TfT0(1−TLT)aTdT=QH−aTL(T0−Tf)=8.0×104J

放熱QL=QH−Wmax=1.2×105J,仕事の割合Wmax/QH=0.40はカルノー効率50 %→25 %の範囲内.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

単原子分子の理想気体が,p-V 図でA(V0,p0)→B(V0,10p0)→C(5V0,2p0)→D(5V0,p0)→Aを準静的に回ります.BCは直線,DAは等圧で,体積仕事だけを考えます.

A(V₀,p₀),B(V₀,10p₀),C(5V₀,2p₀),D(5V₀,p₀)を時計回りに結ぶ台形サイクル.BCの直線上でV=15V₀/4を境に吸熱から放熱へ切り替わる.ABとBCの前半は吸熱,BCの後半とCDとDAは放熱.囲む面積は正味の仕事Wに等しい. A(V₀,p₀),B(V₀,10p₀),C(5V₀,2p₀),D(5V₀,p₀)を時計回りに結ぶ台形サイクル.BCの直線上でV=15V₀/4を境に吸熱から放熱へ切り替わる.ABとBCの前半は吸熱,BCの後半とCDとDAは放熱.囲む面積は正味の仕事Wに等しい.
  1. v=V/V0 を用い,BCの圧力,δQ,吸放熱の切替体積を求めてください.

  2. 全吸熱と効率を求め,各辺の正味熱の正値だけを分母に足した誤った効率と比べてください.

解答を見る

考え方 δQ=dU+pdV の正の部分だけを積分し,吸熱を数える.

  1. p=2p0(6−v),U=3pV/2=3p0V0v(6−v)より

δQ=p0V0(30−8v)dv.

v=15/4の前は吸熱,後は放熱.切替体積15V0/4.

(2)p0V0単位:BC吸熱∫115/4(30−8v)dv=121/4,放熱−∫15/45(30−8v)dv=25/4,正味24.AB吸熱3(10−1)/2=27/2,CD放熱3⋅5(2−1)/2=15/2,DA放熱5(5−1)/2=10.計

Q吸収=1754p0V0,Q放出=954p0V0.

台形面積W=(9+1)⋅4p0V0/2=20p0V0=熱の差.効率η=20/(175/4)=16/35≈0.46.辺の正味吸熱なら分母(27/2+24)p0V0,効率20/(27/2+24)=8/15≈0.53はBCの放熱を吸熱から引く過大値.

ポイント 教える人へ

  • 第一法則と効率の上限を分けて確認し,一度限りの膨張とサイクルの違いを説明させます.

  • 冷凍機とヒートポンプの成績係数を,図から求めさせます.

  • 有限熱源では温度ごとに仕事を積分し,経路内の吸放熱は δQ の符号で分けます.

10エントロピーとラチェット

問い

一方向にしか回らない歯車(ラチェット)と,それを押さえる爪を用意し,歯車と同じ軸に羽根車を付けて気体の中に入れます.羽根車は分子にでたらめにたたかれて,右へ左へ小刻みにふるえます.爪があるので歯車は一方にしか回れず,ふるえのうち片方の向きだけが積み重なって,軸が一方向に回り続けそうです.この装置で,一つの温度の気体の熱から仕事を取り出し続けることができるでしょうか.

考えてみる

もしこの装置が動けば,一つの熱源の熱を仕事に変え続けることになり,前の題材のケルビンの表現に反します.しかし歯車も爪も,どこにも怪しいところのない普通の機械です.

鍵になるのは,爪もまた同じ温度の分子にたたかれてふるえていることです.爪がたまたま跳ね上がった瞬間には歯車は逆向きにも回れます.前進と後退のどちらがどれだけ起こりやすいかを比べたいのですが,そのためには「起こりやすさ」と「熱の流れ」を結ぶ量が必要です.それがエントロピーです.

エントロピーは状態量

カルノーサイクルでは QL/QH=TL/TH でした.受け取る熱を正とする約束で書けば,1周で

QHTH+(−QL)TL=0

です.熱を温度で割った量が,可逆なサイクルの1周でちょうど打ち消し合うのです.

これは任意の可逆サイクルで成り立ちます.p-V 図の閉じた道筋は,細い等温線と断熱線の網でたくさんの小さなカルノーサイクルに分けられ,各小サイクルで δQ/T の和が0なので全体でも0です.

p–V図の滑らかな閉曲線の内部を,青い等温線と橙の断熱線の細かい網で区切る.各網目は2本の等温線と2本の断熱線からなる小さなカルノーサイクルで,1つを太線で示す.網目を細かくすると境界も元の道筋に近づき,隣同士で共通の辺を打ち消せる. p–V図の滑らかな閉曲線の内部を,青い等温線と橙の断熱線の細かい網で区切る.各網目は2本の等温線と2本の断熱線からなる小さなカルノーサイクルで,1つを太線で示す.網目を細かくすると境界も元の道筋に近づき,隣同士で共通の辺を打ち消せる.

1周の和が0なら,2点を結ぶ δQ/T の積分は道筋に依りません(行きと帰りで打ち消すからです).つまり,状態だけで決まる量が隠れていたことになります.

定義 エントロピー

系の2つの状態の間を結ぶ可逆な過程に沿って,系が温度 T で熱 δQrev を受け取るとき

dS=δQrevT,ΔS=∫12δQrevT

で定まる量をエントロピー S という.S は状態量で,単位は JK−1 である.ここで T は系自身の温度である(可逆な過程では熱源の温度と等しい).実際の過程が不可逆なときは,同じ始状態と終状態を結ぶ可逆な道筋を1つ選んで計算し,実際に出入りした熱を使ってはならない.

クラウジウスの不等式

不可逆な過程を含むサイクルでは,上の和は0になりません.系が温度 Ti の熱源から熱 δQi を受け取る1周を考え,各熱源と系の間に,基準熱源(温度 T0)との間で働く可逆な補助機関をはさみます.補助機関は基準熱源から T0δQi/Ti を取り出して熱源 i へ δQi を渡します.1周すると系も補助機関も熱源 i も元に戻るので,残るのは「基準熱源から取り出した熱が全部仕事になった」ことだけです.ケルビンの表現より,その総和は正であってはなりません.

系が1周で熱源T_iからδQ_iを受け取る.各可逆補助機関は基準熱源T_0からT_0δQ_i/T_iを受け取り,熱源T_iへδQ_iを返す.矢印はδQ_i>0の向きを示し,負なら逆向きになる.1周後は系・補助機関・各熱源T_iが元に戻る.基準熱源から取り出した総熱が正で全量が外への仕事になる場合を禁止の印で示す.したがってW=T_0Σ_iδQ_i/T_i≤0である. 系が1周で熱源T_iからδQ_iを受け取る.各可逆補助機関は基準熱源T_0からT_0δQ_i/T_iを受け取り,熱源T_iへδQ_iを返す.矢印はδQ_i>0の向きを示し,負なら逆向きになる.1周後は系・補助機関・各熱源T_iが元に戻る.基準熱源から取り出した総熱が正で全量が外への仕事になる場合を禁止の印で示す.したがってW=T_0Σ_iδQ_i/T_i≤0である.

法則 クラウジウスの不等式

物質の出入りのない閉じた系が1周して元の状態に戻るとき,熱を授受する理想熱源の温度 T源 を使って

∫δQT源≤0(1周の積分)

が成り立つ.等号は,すべての過程が可逆なときに限る.状態1から状態2への過程では,可逆な道筋で戻るサイクルを作ることにより

ΔS≥∫12δQ実際T源

となる.差を Sgen≥0(エントロピー生成)と書けば

ΔS=∫12δQ実際T源+Sgen

である.T源 で測ったこの収支では,Sgen は系の内部で生じる分と,熱が流れる界面(系と熱源の温度差)で生じる分の両方を含む.

この1本の式で,温度差を通る熱移動,断熱の不可逆過程,熱漏れがすべて扱えます.断熱(δQ=0)なら ΔS=Sgen≥0 です.

法則 第二法則(エントロピーの形)

熱も仕事も物質もやりとりしない孤立系では ΔS≥0 である(可逆な変化で等号).断熱されていて仕事は受け取れる閉じた系でも δQ=0 だから同じ結論になるが,熱の出入りだけを断った系と,仕事も含めて何も交換しない孤立系は別のものである.

高温 TH の物体から低温 TL の物体へ熱 Q が直接流れると,変化は −Q/TH+Q/TL>0 で増え,逆向きの流れは減少になるので起こりません.減らないのは全体のエントロピーで,一部分は減ってもかまいません.冷蔵庫の庫内は下がりますが,部屋へ捨てる熱による増加の方が大きく,部屋全体では増えます.生き物が体内に秩序を作れるのも同じ理屈です.系の切り方を決めずに「エントロピーは増える」と言っても意味がありません.

エントロピーの統計的な意味

ボルツマンは,この量を微視状態の数と結びつけました.巨視的に同じ状態(同じ U,V,N)を実現する微視状態の数を Ω とします(仕事 W と区別するために Ω を使います).

法則 ボルツマンの関係

S=kBln⁡Ω
番号1〜4で区別する4個の分子を,等体積の左右に分ける.全部が左にある所属配置は1通り.左右に2個ずつある所属配置は左側の番号を選ぶ6通りで,右の箱にはそのうち左が1,2の例を描く.左側の番号の組は12,13,14,23,24,34である. 番号1〜4で区別する4個の分子を,等体積の左右に分ける.全部が左にある所属配置は1通り.左右に2個ずつある所属配置は左側の番号を選ぶ6通りで,右の箱にはそのうち左が1,2の例を描く.左側の番号の組は12,13,14,23,24,34である.

気体が真空中へ広がって体積が2倍になると,分子1個の居場所が2倍になるので Ω は 2N 倍,S は NkBln⁡2=νRln⁡2 だけ増え,熱力学の定義から求めた値と一致します.掛け算で増える場合の数と,足し算で増えるエネルギーの勘定を,対数が結びつけるのです.

分子が自然に散らばるのは,散らばった配置の数が圧倒的に多いからです.全部が片側に戻る確率は 2−N で,N≈1023 ではまず起こりません.ただし,これだけで「時間に向きがある」と言い切れるわけではありません.必要なのは,(i) 出発した状態がエントロピーの低い特別な状態だったこと,(ii) 巨視的な量で状態を区別していること(粗視化),(iii) 分子数が莫大で,圧倒的多数の微視状態が同じ巨視的なふるまいを示すこと(大数の典型性)です.運動方程式は時間を逆にしても成り立つのに巨視的な変化に向きがあるのは,この3つが揃っているからで,少数の分子では逆向きの変化も観測されます.

ラチェットが回らない理由

歯車を1歯ぶん前進させるには,羽根の側で,爪のばねを持ち上げるエネルギー ε を熱運動からかき集める必要があります.一方,爪が熱でたまたま ε だけ持ち上がっている間は,歯車は逆向きに1歯滑れます.前進と後退は,どちらも同じ ε を熱運動から借りる過程です.

羽根と爪が同じ温度 T で,おもりなどの負荷がなく,装置全体が熱平衡にあるなら,前進と後退は互いに逆向きの同じ1つの過程です.熱平衡では,任意の2状態の間の行きと帰りの遷移が同じ頻度で起こります(詳細つり合い).したがって平均すると歯車は回りません.爪は「向きを選ぶ」役には立たず,自分もふるえてしまうのです.借りやすさが e−ε/kBT の形になることは第17章で導きます.

温度T₁の気体中の羽根車を,共通の軸で温度T₂の歯車と爪につなぐ.爪は支点のまわりに動き,ばねで歯へ押しつけられている.軸の巻き取り部に糸でおもりをつるす.T₁がT₂より高いと熱機関としておもりを上げ得るが,同温では爪も熱で揺らぎ,平均して仕事を取り出せない. 温度T₁の気体中の羽根車を,共通の軸で温度T₂の歯車と爪につなぐ.爪は支点のまわりに動き,ばねで歯へ押しつけられている.軸の巻き取り部に糸でおもりをつるす.T₁がT₂より高いと熱機関としておもりを上げ得るが,同温では爪も熱で揺らぎ,平均して仕事を取り出せない.

羽根の側を高温 T1,爪の側を低温 T2 にすれば,温度が高い側ほど大きなエネルギーを借りやすいので前進が起こりやすくなり,歯車は回っておもりを持ち上げます.熱は高温側から低温側へ流れ,装置は2熱源の間の熱機関です.次の節で頻度を勘定すると,軸がちょうど回らなくなる負荷(停止点)では熱の比がカルノーサイクルと同じ関係をみたします.ただしそれは,正味の出力が0で,軸や気体を通した熱漏れもない理想の極限での話です.実際に仕事を取り出すには負荷を停止点より軽くしなければならず,効率はカルノー効率より小さくなります.熱漏れがあればさらに下がります.

ポイント ここまでのまとめ

  • 可逆サイクルでは δQ/T の1周の和が0なので,状態量 S が定まる.系については可逆な経路の熱で dS=δQrev/T,理想熱源については実際の熱で ΔS=Q/T と計算する.

  • クラウジウスの不等式 ∫δQ/T源≤0.過程では ΔS=∫δQ実際/T源+Sgen,Sgen≥0.孤立系・断熱系では ΔS≥0.

  • 統計的には S=kBln⁡Ω.自然な変化は微視状態の数が増える向きに進むが,時間の矢を言うには低エントロピーの初期状態・粗視化・大数の典型性が必要である.

  • 問いの答え:爪も同じ温度でふるえるので,熱平衡の詳細つり合いにより前進と後退が同じ頻度で起こり,一つの熱源からは仕事を取り出せない.羽根と爪に温度差を付ければ熱機関として回り,効率はカルノー効率までである.

11エントロピーの数学と例題

数学の道具

定理 数学の道具:場合の数・スターリングの近似・ln の積分

場合の数とスターリングの近似. 区別できる N 個の分子を左に k 個,右に N−k 個と分ける方法の数は (Nk)=N!/[k!(N−k)!],全配置数は 2N である.N が大きいとき ln⁡N!≈Nln⁡N−N(ln⁡N!=∑m=1Nln⁡m≈∫1Nln⁡xdx から出る)を使うと,x=k/N として

ln⁡(Nk)≈−N[xln⁡x+(1−x)ln⁡(1−x)]

となり,右辺は x=12 で最大の Nln⁡2 をとる.場合の数は天文学的な数でも,対数をとれば N に比例する扱いやすい量になる.

温度が変わる過程. 熱容量 C(一定)の物体の温度を T1 から T2 へ変えると,可逆な経路で

ΔS=∫T1T2CdTT=Cln⁡T2T1

である.温度一定の理想熱源が熱 Q を受け取る場合は ΔS=Q/T でよい.

数え方の注意. (Nk) は分子を1個ずつ見分けられるとした数である.同じ種類の気体を仕切りで分けて「左をA,右をB」と名付け,これで混合のエントロピーを作ってはいけない.半透膜で選び分けられる異種の成分と,名前だけの区別は別物である.

練習. N=1022 個の分子が全部左半分に集まる確率の対数 ln⁡(2−N) の大きさを見積もれ.

答え:−Nln⁡2≈−7×1021.けたの数そのものが 1021 個もあり,決して起こらないと言ってよい

定理 数学の道具:エントロピーの加法性と最大原理

加法性. 弱く相互作用する2つの部分系 A,B について,それぞれの U,V,N を指定した巨視状態では,微視状態を独立に数えられるので ΩAB=ΩAΩB である.対数をとれば

SAB=SA+SB

となる.部分系のエントロピーを足してよいのは,このためである.

最大原理. 全体を孤立させ,全エネルギー U=UA+UB だけを固定して交換を許すと,全微視状態数は分け方 UA についての和になる.分子数が莫大なので,和は SA(UA)+SB(U−UA) が最大になる分け方で圧倒的に決まる.平衡は,制約のもとで全エントロピーを最大にする状態である.微分すると

ddUA[SA+SB]=(∂SA∂UA)−(∂SB∂UB)=1TA−1TB=0

より TA=TB が出る(1/T=(∂S∂U)V,N は次の題材の熱力学基本式から出る).体積の交換も許せば (∂S∂V)U,N=p/T から pA=pB が出る.これが,仕切りの問題で温度や圧力が一致する理由である.「孤立系で S は減らない」(時間の向きの制限),「平衡は制約下で S を最大にする状態」(平衡の決め方),「2階微分が負」(安定であること)は,別の主張である.

練習. 単原子理想気体のエントロピーは S=NkBln⁡(VU3/2)+CN と書ける(CN は N で決まる定数).体積を固定し,エネルギーだけを交換できる2つの部分系 NA,NB について,全エントロピーを最大にする条件を求めよ.

答え:3NAkB2UA=3NBkB2UB,すなわち UA/NA=UB/NB.1分子あたりのエネルギーが等しい,つまり温度が等しい

例題

例題 1

オリジナル ★★★☆☆

熱容量 C(一定)の同じ金属球が2つあり,温度は T1 と T2(T1>T2)である.外と熱のやりとりをしないようにして接触させ,同じ温度になるまで待つ.

同じ一定熱容量Cをもつ2球を断熱材で囲み,温度T₁がT₂より高い状態で接触させる.熱は高温球から低温球へ移り,外との熱の出入りはない.最後は両球の温度がT_f=(T₁+T₂)/2になる. 同じ一定熱容量Cをもつ2球を断熱材で囲み,温度T₁がT₂より高い状態で接触させる.熱は高温球から低温球へ移り,外との熱の出入りはない.最後は両球の温度がT_f=(T₁+T₂)/2になる.
  1. 最後の温度 Tf と,全体のエントロピー変化を求めよ.

  2. それが正であることを示せ.

  3. 代わりに2球の間で可逆な機関を働かせて仕事を取り出すと,最後の温度はどうなるか.

解答を見る

考え方 熱容量が一定なので ΔS=Cln⁡(Tf/T) を各球について足す(加法性).

  1. エネルギー保存から Tf=T1+T22.ΔS=Cln⁡TfT1+Cln⁡TfT2=Cln⁡Tf2T1T2.

  2. 相加平均と相乗平均の関係から Tf≥T1T2 で,T1≠T2 なら等号は成り立たない.よって Tf2>T1T2 で ΔS>0 である.熱が温度差を流れる変化は不可逆である.なお,全エネルギーを固定して S を最大にする点を探しても同じ温度が出る.最大原理と,実際の変化で S が増えることは別の主張だが,ここでは両方が成り立っている.

  3. 可逆なら全体の ΔS=0 なので Tf′2=T1T2,つまり Tf′=T1T2 で,相乗平均になる.これは T1+T22 より低く,その差 2C(T1+T22−T1T2) が取り出せる仕事である.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

前の節のラチェットを,次のように理想化した模型で考える.羽根側の気体は温度 T1,歯車と爪は温度 T2 で,熱漏れはない.爪を1歯ぶん持ち上げるのに要するエネルギーを ε,おもりが1歯ぶん(角 θ)持ち上がるのに要する仕事を Lθ とする.前進には羽根側から ε+Lθ を,後退には爪側から ε をかき集める必要があり,1秒あたりの頻度はそれぞれ 1τe−(ε+Lθ)/kBT1,1τe−ε/kBT2 に等しいとする(この指数関数はボルツマン因子で,第17章で導く.共通の試行頻度 1/τ はこの模型の仮定である).

  1. 平均して回らなくなる(前進と後退の頻度が等しい)条件を求めよ.

  2. そのときの Lθ/(ε+Lθ) を T1,T2 で表せ.この値を実際の運転効率と呼べるか.

  3. T1=T2=T のとき,正味の角速度を求め,おもりが持ち上がらないことを示せ.

解答を見る

考え方 頻度が等しいつり合いの状態が,可逆に動く境目である.前進1回で羽根側から出る熱は ε+Lθ,爪側へ入る熱は ε である.

  1. 指数を等しくおいて

ε+LθT1=εT2.
    1. より εε+Lθ=T2T1 なので

Lθε+Lθ=1−T2T1

で,熱の比も Q1/Q2=T1/T2 とカルノーサイクルと同じ関係をみたす.ただしこれは正味の回転が止まる負荷での値で,このとき取り出す仕事率は0である.運転効率と呼べるのは,出力を0に近づける極限の値としてだけである.実際に仕事を取り出すには負荷を軽くして正味の回転を生じさせねばならず,効率は 1−T2/T1 より小さくなる.この模型は熱漏れを無視しているので,軸を通る熱漏れがあればさらに下がる.

  1. 1歯で角 θ 進むので,正味の角速度は

ω=θτ(e−(ε+Lθ)/kBT−e−ε/kBT)=θτe−ε/kBT(e−Lθ/kBT−1).

L>0(おもりがある)なら括弧の中は負で ω<0,つまりおもりは平均して下がる.L=0 でようやく ω=0 である.一つの温度では仕事を取り出せない.

ポイント ここまでのまとめ

  • 場合の数の対数はスターリングの近似で扱える.半々の配置では ln⁡Ω≈Nln⁡2.番号を付けた数え方を,同種気体の混合にそのまま使ってはいけない.

  • 独立な部分系では ΩAB=ΩAΩB なので S は足せる.孤立系の平衡は制約下で S を最大にする状態で,1/T=(∂S∂U)V,N から温度の一致が出る.

  • 温度が変わる過程は ΔS=Cln⁡(T2/T1),理想熱源は ΔS=Q/T.熱が温度差を流れると全体で増え,可逆に仕事を取り出すと最後の温度は相乗平均になる.

  • ラチェットの頻度を比べると,停止点でカルノー効率と同じ式が現れる.ただしそこでの出力は0で,実機の効率ではない.

12エントロピーとラチェットの演習

系と熱源のエントロピー収支を確かめましょう.配置の数は Ω と書きます.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

600K と 400K の熱源の間で,高温側から低温側へ熱 240J だけが直接移ります.各熱源と全体のエントロピー変化,高温側の減少と第二法則の関係,逆向きの可否を答えてください.

600 Kの高温熱源から400 Kの低温熱源へ,240 Jの熱だけが直接移る.熱の向きを赤い矢印で示す. 600 Kの高温熱源から400 Kの低温熱源へ,240 Jの熱だけが直接移る.熱の向きを赤い矢印で示す.
解答を見る

考え方

熱源は符号つきの Q/T で計算する.

高温側は −240/600=−0.40,低温側は 240/400=0.60,全体は 0.20(単位はすべて JK−1).全体が増えれば,一部分の減少は問題ない.逆向きは全体が減り,巨視的には自発的に起こらない.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

等体積の左右の箱に,番号で区別できる8個の分子があります.各分子は独立に確率 1/2 で左右にいます.左に2個の状態A,4個の状態Bの配置数・確率・左右配置のエントロピー差 SB−SA,BからAへ戻る可否を答えてください.

番号1〜8で区別できる分子の配置例を並べる.Aでは左に2個,右に6個,Bでは左右に4個ずつある.左右は等体積で,破線の中央境界は分子が通過できる. 番号1〜8で区別できる分子の配置例を並べる.Aでは左に2個,右に6個,Bでは左右に4個ずつある.左右は等体積で,破線の中央境界は分子が通過できる.
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考え方

左側の分子を選び,配置数から確率とエントロピーを求める.

配置数は ΩA=(82)=28,ΩB=(84)=70.全配置 28 で割り,確率は 7/64,35/128.Aに「右に2個」は含めない.S=kBln⁡Ω より差は kBln⁡(5/2)>0.Aの確率も0ではなく,戻りは禁止されない.少数分子では減少も観測でき,巨視的な大きな偏りは極めてまれである.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

0∘C の氷 1.0×102g が,同温に保った水中でゆっくり全部融けます.熱源が熱を供給する可逆な極限とします.融解熱 3.3×102Jg−1,モル質量 18gmol−1,R=8.3Jmol−1K−1 を使ってください.

  1. 氷のエントロピー変化を求めてください.

  2. 分子1個あたり kB の何倍ですか.

  3. 微視状態数の増え方と,「1分子あたり約13倍」の意味を説明してください.

解答を見る

考え方

可逆な融解では ΔS=mL/T,分子数 N には NkB=νR を使う.

  1. ΔS=100×330/273≈1.2×102JK−1.

  2. ΔS/(NkB)=18×330/(273×8.3)≈2.6.

  3. S=kBln⁡Ω より総数は約 e2.6N 倍.約13倍は総数比の N 乗根 e2.6 の実効的表現で,分子が独立に空間の居場所を13倍にした意味ではない.微視状態には速度分布や相関も含む.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

ピストンを固定した断熱シリンダーで,体積 V0,温度 T0 の理想気体の分子 N 個と,体積 3V0 の真空を仕切ります.仕切りを除き平衡にした後,断熱と固定を外し,T0 の熱源で可逆等温圧縮して V0 へ戻します.仕切りを除く仕事は無視します.

断熱しピストンを固定したシリンダーで,体積V₀,温度T₀の理想気体を体積3V₀の真空から仕切る.仕切りを除くと,気体は温度T₀のまま体積4V₀へ自由膨張する.次に断熱と固定を外し,T₀の熱源に接して外から可逆等温圧縮し,体積V₀へ戻す.圧縮では気体から熱源へ熱が移る. 断熱しピストンを固定したシリンダーで,体積V₀,温度T₀の理想気体を体積3V₀の真空から仕切る.仕切りを除くと,気体は温度T₀のまま体積4V₀へ自由膨張する.次に断熱と固定を外し,T₀の熱源に接して外から可逆等温圧縮し,体積V₀へ戻す.圧縮では気体から熱源へ熱が移る.
  1. 自由膨張の Q,W,最終温度,気体のエントロピー変化を求めてください.

  2. 圧縮の Q,W と,全過程の気体・熱源・全体のエントロピー変化を求めてください.気体を戻せば可逆ですか.

解答を見る

考え方

エネルギー収支を立て,エントロピーは可逆経路で求める.

  1. 断熱・真空への膨張で Q=W=0.ΔU=0 より最終温度は T0.可逆等温経路から ΔS=NkBln⁡(4V0/V0)=NkBln⁡4.熱0でも増える.

  2. Q=W=−NkBT0ln⁡4.気体は −NkBln⁡4,熱源は NkBln⁡4 変化する.全過程では気体は0,熱源と全体は NkBln⁡4>0.投入仕事 Win=−W は熱源に残り,外界は戻らない.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

理想気体 νmol が T0 の熱源に接し,固定したピストンの下で体積 V0,温度 T0,圧力 2pe にあります.固定を外し,一定外圧 pe へ不可逆に膨張させ,熱平衡と力のつり合いを待ちます.ピストンの摩擦・熱容量は無視し,初めと終わりは静止,外への仕事は散逸なく蓄えます.

熱源T₀に接した理想気体が,初めは固定ピストンの下で体積V₀,圧力2pₑにある.固定を外して一定外圧pₑへ膨張させ,静止した終状態は温度T₀,体積2V₀,圧力pₑとなる.熱Qは熱源から気体へ,仕事Wは気体から外へ移る.途中の平衡状態やp-V経路は仮定しない. 熱源T₀に接した理想気体が,初めは固定ピストンの下で体積V₀,圧力2pₑにある.固定を外して一定外圧pₑへ膨張させ,静止した終状態は温度T₀,体積2V₀,圧力pₑとなる.熱Qは熱源から気体へ,仕事Wは気体から外へ移る.途中の平衡状態やp-V経路は仮定しない.
  1. 終体積,W,Q,系・熱源・全体のエントロピー変化を求めてください.

  2. エントロピー生成 Sgen を収支から求め,同じ両端の可逆等温膨張と比べてください.

解答を見る

考え方

途中の等温は仮定せず,外圧の仕事を使う.

  1. 状態方程式より Vf=2V0.両端で ΔU=0 なので W=peV0=νRT0/2=Q.系は可逆経路から νRln⁡2,熱源は −Q/T0=−νR/2.仕事の受け手のエントロピーは不変で,全体は νR(ln⁡2−1/2) 増える.

  2. ΔS=Q/T0+Sgen より Sgen=νR(ln⁡2−1/2)>0.系内の散逸と,系と熱源の温度差による界面の生成を含む.可逆なら W=Q=νRT0ln⁡2,系は同じ,熱源は −νRln⁡2,全体と生成は0.仕事差は T0Sgen である.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

羽根側を T1=600K,爪側を T2=300K に保つラチェットを考えます.ある時間に回転を生む機構は羽根側から 120J を受け取り,外へ 45J の仕事をします.さらに軸を通って,爪側へ直接流れる熱が 30J あります.装置は初めの状態に戻ります.

羽根側はT₁=600 K,爪側はT₂=300 Kで,羽根とラチェット歯車を軸で結ぶ.回転を生む機構には羽根側から熱120 Jが入り,外へ仕事45 J,爪側へ熱75 Jが出る.別に軸を通る熱漏れ30 Jが羽根側から爪側へ直接移る.実線で機構の経路,破線で熱漏れの経路を区別する. 羽根側はT₁=600 K,爪側はT₂=300 Kで,羽根とラチェット歯車を軸で結ぶ.回転を生む機構には羽根側から熱120 Jが入り,外へ仕事45 J,爪側へ熱75 Jが出る.別に軸を通る熱漏れ30 Jが羽根側から爪側へ直接移る.実線で機構の経路,破線で熱漏れの経路を区別する.
  1. 各熱源の熱収支,装置全体の効率,両熱源のエントロピー変化の和を求めてください.

  2. 機構が受け取る熱と熱漏れの量を固定し,機構を可逆な極限にしても,全体はカルノー効率に届きますか.数値でも確かめてください.

解答を見る

考え方

仕事を生む熱と熱漏れを別々に数え,熱源の収支を足す.

  1. 機構から爪側への熱は 120−45=75J.高温熱源は 150J を失い,低温熱源は 105J を受ける.効率は 45/150=0.30,エントロピー変化の和は −150/600+105/300=0.10JK−1.熱漏れで 30(1/300−1/600)=0.050JK−1 が生じる.

  2. 機構の吸熱を q>0,熱漏れを h>0 とすると,仕事の上限は q(1−T2/T1).したがって

η≤qq+h(1−T2T1)<1−T2T1

である.仕事の上限は 60J,全体の効率上限は 60/150=0.40 で,カルノー効率0.50には届かない.可逆な機構でも熱漏れの生成は残る.同温なら仕事の上限は0で,歯の形だけでは仕事は得られない.

ポイント 教える人へ

  • 系と熱源,実際と可逆経路の熱を区別します.

  • 少数系の揺らぎと巨視的な第二法則の違いを問います.

  • 温度差・熱漏れの生成と,融解の「約13倍」を説明してもらいます.

13自由エネルギーと変化の向き

問い

−10∘C の部屋に水を置くと,水は凍ります.ところが,ばらばらに動ける液体の水が規則正しい結晶になるのですから,水のエントロピーは減ります.孤立系ではエントロピーが減らないと言ったのに,これはどういうことでしょうか.そして,温度や圧力が決まった環境に置かれた物質について,変化がどちら向きに進むかを決めるのは何でしょうか.

考えてみる

エントロピーが減らないのは孤立系の話でした.部屋に置いた水は孤立系ではなく,部屋という熱源と熱をやりとりします.そこで,水と部屋を合わせた全体を孤立系と見ます.水が凍るとき,凝固熱が部屋へ出ていくので,部屋のエントロピーは増えます.その増加が水の減少より大きければ,全体では増えていて,第二法則に反しません.

ここで気づくのは,いつも部屋まで含めて数えるのは面倒だということです.温度 T0 の熱源に接しているという条件さえ決まっていれば,部屋の分をあらかじめ系の量に押し込んでおけるはずです.それを実行すると,自由エネルギーという量が出てきます.

熱力学基本式

まず,第一法則と第二法則を1本の式にまとめます.可逆な微小過程では δQrev=TdS,δW=pdV なので,dU=δQ−δW は次の形になります.

公式 熱力学基本式

物質量の変わらない単純な圧縮系について

dU=TdS−pdV

が成り立つ.左辺も右辺も状態量だけで書かれているので,これは隣り合う平衡状態の間の恒等式であり,可逆な経路に限らず成り立つ.ただし,不可逆な実際の過程で出入りした熱を TdS と同一視してよいという意味ではない(そのときは δQ実際<TdS である).

この式を dS について解くと dS=1TdU+pTdV なので

(∂S∂U)V=1T,(∂S∂V)U=pT

です.前の題材で最大原理から温度や圧力の一致を導くときに使ったのは,この2つの式でした.

ヘルムホルツとギブズの自由エネルギー

定義 自由エネルギーとエンタルピー

F=U−TS,H=U+pV,G=U+pV−TS=F+pV

を順にヘルムホルツ自由エネルギー,エンタルピー,ギブズ自由エネルギーという.基本式から

dF=−SdT−pdV,dH=TdS+Vdp,dG=−SdT+Vdp

となる.U は (S,V),F は (T,V),H は (S,p),G は (T,p) を変数に選ぶと扱いやすい.どれも U と同じ情報を持ち,どの量を一定に保つ実験かに合わせて使い分ける.

F や G に現れる T,p は系自身の温度・圧力です.系が熱源や外界とつり合っているときは,熱源の温度 T0 や外圧 p0 と等しくなります.

外部条件が決める最小原理

系と,温度 T0 の熱源を合わせた全体に第二法則を当てはめます.系が受け取った熱を Q とすると,熱源のエントロピーは −Q/T0 だけ変わるので

ΔS−QT0≥0

です.ここに第一法則 Q=ΔU+W を入れると,条件によって形が決まります.

法則 外部条件と平衡の判定

物質量が変わらない閉じた系について,次が成り立つ.

  • 孤立系(熱も仕事もやりとりしない):ΔS≥0.平衡は S が最大の状態.

  • 温度 T0 の熱源に接し,体積一定(体積仕事も他の仕事もしない):W=0 なので ΔU−T0ΔS≤0.始状態と終状態がどちらも温度 T0 なら左辺は ΔF に等しいので ΔF≤0 で,平衡は F=U−T0S が最小の状態である.

  • 温度 T0 の熱源に接し,一定の外圧 p0 に押されている:W=p0ΔV なので Δ(U+p0V−T0S)≤0.平衡は F+p0V が最小の状態で,系の圧力が p0 に等しい平衡どうしを比べるなら G が最小である.

いずれも「全体のエントロピーが増える向きに進む」ことの言い換えで,新しい法則ではない.

温度と外圧p₀を一定に保つ.高温では氷の割合0の水でF+p₀Vが最小となり,低温では割合1の氷で最小となる.融点では氷と水のどの割合でも同じ値で共存できる.隣のS+S源は同じ割合で最大となり,融点では水平になる. 温度と外圧p₀を一定に保つ.高温では氷の割合0の水でF+p₀Vが最小となり,低温では割合1の氷で最小となる.融点では氷と水のどの割合でも同じ値で共存できる.隣のS+S源は同じ割合で最大となり,融点では水平になる.

−10∘C の水が凍るのは,U の減少(凝固熱を出す分)が −T0S の増加より大きく,F+p0V が下がるからです.温度を上げると −T0S の項の重みが増し,どこかで両者が等しくなります.その温度が融点で,そこでは2つの相が共存できます.

ポイント 最大の仕事

等温の変化で系から取り出せる仕事には上限があり,W≤−ΔF である(Q≤T0ΔS を第一法則に入れれば出る).等温・等圧では,体積を変える分を除いて取り出せる仕事が −ΔG 以下になる.自由エネルギーの「自由」は,内部エネルギーのうち仕事として取り出せる部分という意味である.

応用:実在気体の気液共存

第15章で見たファンデルワールス気体を,モル量で p=RTv−b−av2 と書きます.臨界温度より低い等温線には (∂p∂v)T>0 の区間があり,そこでは押し縮めるほど圧力が下がるので,わずかなゆらぎが育ってしまい,一様な相としては存在できません(不安定).

外圧 pe のもとで何が起こるかは,モル量の g=f+pev を最小にする v を探せば分かります.(∂f∂v)T=−p なので

dgdv=pe−p(v)

で,停留点は p(v)=pe の点です.安定であるには d2gdv2=−(∂p∂v)T>0 が要り,これが上の条件と一致します.さらに,液相と気相が共存するには,両方が停留点であるだけでなく g の値も等しくなければなりません.これは

∫vLvG[p(v)−pe]dv=0

と書けて,等温線が水平線 p=pe から上にはみ出す面積と下にはみ出す面積が等しい,という条件になります(マクスウェルの等面積の規則).

【図 free-energy-02:臨界温度より低い等温線(ファンデルワールス気体)を p-v 図に描き,水平線 p=pe との3つの交点 vL・中間・vG を示す.水平線の上下にはみ出す2つの面積を塗り分けて等しいことを示し,(∂p∂v)T>0 の不安定域と,その外側の準安定域に印を付ける.】片方だけが極小の場合,もう一方は準安定な状態にとどまり,過冷却や過飽和として実際に観測されます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 熱力学基本式 dU=TdS−pdV は隣り合う平衡状態を結ぶ恒等式で,1/T=(∂S∂U)V,p/T=(∂S∂V)U を与える.

  • F=U−TS,H=U+pV,G=F+pV.自然な変数はそれぞれ (T,V),(S,p),(T,p) である.

  • 変化の向きを決めるのは,つねに系と外界を合わせた S の増加である.それを書き直すと,孤立系では S が最大,等温・定積では F が最小,等温・一定外圧では F+p0V(平衡どうしなら G)が最小になる.

  • 等温で取り出せる仕事は −ΔF 以下,等温・等圧で体積仕事以外に取り出せる仕事は −ΔG 以下である.

  • 問いの答え:水だけを見ればエントロピーは減るが,凝固熱を受け取る部屋の増加の方が大きいので第二法則に反しない.温度と外圧が決まった環境では,F+p0V が小さくなる向きに変化が進む.

14自由エネルギーの数学と例題

数学の道具

定理 数学の道具:変数のとりかえと,最小の探し方

変数をとりかえる. 基本式 dU=TdS−pdV では,独立変数が S と V です.S ではなく T を使いたいときは,T と S の積を引いて F=U−TS を作ります.すると

dF=dU−TdS−SdT=−SdT−pdV

となり,dT と dV の式に変わります.この「積の片方を引いて独立変数を入れかえる」操作をルジャンドル変換といいます.同じように H=U+pV で V を p に,G=F+pV で両方を入れかえます.

偏微分として読む. 上の式から,係数がそのまま偏微分になります.

S=−(∂F∂T)V,p=−(∂F∂V)T,V=(∂G∂p)T,S=−(∂G∂T)p

どの変数を固定した微分かを必ず書きます.固定するものが違えば,まったく別の量になります.

最小を探す. 系の内部に,まだ決まっていない変数 x(氷になった割合,仕切りの位置,分かれた体積など)があるとき,外部条件に合った関数(等温・定積なら F(x),等温・一定外圧なら F(x)+p0V(x))を作り,

dΦdx=0 (停留),d2Φdx2>0 (安定)

を調べます.極小が2つ以上あるときは値を比べ,大域的な最小が実現する状態です.もう一方の極小は,準安定な状態として一時的に残ることがあります.

練習. 単原子分子の理想気体では U=32νRT,S=νR[ln⁡V+32ln⁡T]+νs0 と書ける(s0 は定数).F を求め,p=−(∂F∂V)T が状態方程式を与えることを確かめよ.

答え:F=32νRT−νRT[ln⁡V+32ln⁡T]−νs0T.V で微分すると −(∂F∂V)T=νRTV=p

例題

例題 1

オリジナル ★★★☆☆

温度 T0 の熱源に接した理想気体 ν mol が,体積 V1 から V2=rV1(r>1)へ等温で膨張する.

温度T₀の理想気体がV₁からV₂へ膨張する.可逆な膨張では等温線p=νRT₀/Vの下の青と橙を合わせた全面積が仕事で,W=−ΔFとなる.外圧を終状態の圧力p₂に固定した膨張では青い長方形p₂(V₂−V₁)だけが仕事で,橙の分だけ取り出せる仕事が少ない. 温度T₀の理想気体がV₁からV₂へ膨張する.可逆な膨張では等温線p=νRT₀/Vの下の青と橙を合わせた全面積が仕事で,W=−ΔFとなる.外圧を終状態の圧力p₂に固定した膨張では青い長方形p₂(V₂−V₁)だけが仕事で,橙の分だけ取り出せる仕事が少ない.
  1. この変化での ΔU,ΔS,ΔF を求めよ.

  2. 可逆に膨張させたときに取り出せる仕事が −ΔF に等しいことを確かめよ.

  3. 代わりに,外圧を終状態の圧力 p2=νRT0/V2 に保ったまま膨張させたときの仕事を求め,(2) と比べよ.

解答を見る

考え方 等温なので ΔF=ΔU−T0ΔS の計算は ΔS に尽きる.取り出せる仕事の上限が −ΔF で,等号は可逆のときである.

  1. 等温の理想気体では ΔU=0.ΔS=νRln⁡r なので

ΔF=−T0ΔS=−νRT0ln⁡r.
  1. 可逆な等温膨張では W=νRT0ln⁡r=−ΔF である.熱源から Q=W を受け取り,系と熱源を合わせたエントロピーの変化は νRln⁡r−Q/T0=0 で,確かに可逆である.

  2. 一定外圧では W=p2(V2−V1)=νRT0(1−1r) である.1−1/r<ln⁡r(r>1)なので,こちらの方が小さい.差 νRT0(ln⁡r−1+1/r) が,取り出せたはずなのに失われた仕事で,これに T0 で割った分だけ全体のエントロピーが生成している.−ΔF は上限であって,実際に得られる仕事そのものではない.

例題 2

オリジナル ★★★★☆

モル体積 v の1 mol の物質が,臨界温度より低い温度 T で状態方程式 p(v)=RTv−b−av2(v>b)に従う.温度一定で (∂f∂v)T=−p であり,一定の外圧 pe のもとでの平衡は g=f+pev を最小にする状態とする.

  1. 等温線に (∂p∂v)T>0 の区間があるとき,そこが一様な相として存在できない理由を,g の2階微分を使って説明せよ.

  2. g の停留点が p(v)=pe をみたす点であることを示せ.

  3. 体積 vL<vG の2つの相が共存する条件が ∫vLvG[p(v)−pe]dv=0 と書けることを示せ.

解答を見る

考え方 g の1階微分が pe−p になることを使う.安定性は2階微分,共存は g の値の一致である.

  1. dgdv=pe−p(v) なので d2gdv2=−(∂p∂v)T である.(∂p∂v)T>0 の区間では2階微分が負で,停留点があっても極大になる.極大はどちらへずれても g が下がるので,わずかなゆらぎで一様な相が崩れる.押し縮めるほど圧力が下がる,という性質を言い換えたものである.

  2. dgdv=pe−p(v)=0 より p(v)=pe.つまり外圧とつり合う体積が停留点である.ただしこれは必要条件にすぎない.

  3. 共存するには両相が安定な停留点で,かつ g の値が等しい必要がある.

g(vG)−g(vL)=∫vLvGdgdvdv=∫vLvG[pe−p(v)]dv

なので,これが0になることが条件である.符号を変えれば題意の式になる.図で言えば,等温線が水平線 p=pe の上にはみ出す面積と下にはみ出す面積が等しいという条件(マクスウェルの等面積の規則)で,圧力の一致だけでは足りない.値が等しくない場合は,g の小さい方だけが実現し,他方は準安定にとどまる.

ポイント ここまでのまとめ

  • ルジャンドル変換(積の片方を引く)で独立変数をとりかえる.dF=−SdT−pdV,dG=−SdT+Vdp.係数は偏微分で,何を固定したかを必ず書く.

  • 内部変数について,外部条件に合った関数の停留点(1階微分0)と安定性(2階微分の符号)を調べ,極小が複数あれば値を比べる.

  • 等温で取り出せる仕事は −ΔF 以下で,等号は可逆のときだけ.一定外圧への膨張では差の分が失われ,その分のエントロピーが生成する.

  • 相の共存には,圧力の一致(停留)と g の値の一致(等面積)の両方が要る.

15自由エネルギーの演習

外部条件を確かめ,自由エネルギーの変化と全体のエントロピーを結びつけてみましょう.

演習 1

オリジナル ★★☆☆☆

温度 T=300K の熱源に接した理想気体 ν=0.40mol を,外から押して体積が半分になるまで等温で圧縮します.両端は平衡状態です.R=8.3Jmol−1K−1,ln⁡2=0.69 とします.

温度T = 300 Kの熱源に接した理想気体を外から押して圧縮する.同じ断面積のシリンダーで気体の長さが半分になり,V₂ = V₁/2,p₂ = 2p₁となる. 温度T = 300 Kの熱源に接した理想気体を外から押して圧縮する.同じ断面積のシリンダーで気体の長さが半分になり,V₂ = V₁/2,p₂ = 2p₁となる.
  1. ΔU,ΔS,ΔF,ΔG を求めてください.

  2. 初圧を p1,終圧を p2 として ΔG=νRTln⁡(p2/p1) を示し,今回の増加が最小原理に反するか説明してください.

解答を見る

考え方

等温での状態量の差を計算し,自由エネルギーの最小原理が使える外部条件を確かめる.

  1. 理想気体の内部エネルギーは温度だけで決まり,ΔU=0.V2/V1=1/2 より

ΔS=−νRln⁡2=−2.3JK−1,ΔF=−TΔS=6.9×102J.

両端で pV=νRT が等しく,ΔG=ΔF である.

  1. ΔF=−νRTln⁡(V2/V1) に状態方程式の V2/V1=p1/p2 を代入すればよい.エントロピーの減少により −TΔS>0 となる.今回は外から仕事を入れて体積を変え,両端の圧力も違う.仕事の授受がない定積での F 最小,等温・等圧の平衡状態を比べる G 最小の条件には当てはまらない.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

一定圧力で,ある物質1 mol の融解について ΔH=6.0×103J,ΔS=22JK−1 とします.融点付近では両者を一定と近似します.

一定圧力でのΔG = G液体 − G固体は,ΔH − TΔSに従って右下がりになる.260 KではΔG = 280 Jで固体が安定,285 KではΔG = −270 Jで液体が安定である.ΔG = 0となる融点Tₘ ≃ 273 Kでは両相が共存できる. 一定圧力でのΔG = G液体 − G固体は,ΔH − TΔSに従って右下がりになる.260 KではΔG = 280 Jで固体が安定,285 KではΔG = −270 Jで液体が安定である.ΔG = 0となる融点Tₘ ≃ 273 Kでは両相が共存できる.
  1. 融点を推定してください.

  2. 260K と 285K での ΔG を求め,安定な相を答えてください.融点で両相が共存できる理由も説明してください.

解答を見る

考え方

液体と固体の自由エネルギーの差を温度の関数とし,その符号から安定な相を判定する.

  1. 共存には,等温・等圧で両相の G が等しい必要がある.ΔG=ΔH−TΔS=0 より

Tm=ΔHΔS≃273K.

水の融点に近い温度という推定である.

  1. 代入すると,260K では ΔG=2.8×102J>0 で固体が安定,285K では ΔG=−2.7×102J<0 で液体が安定である.界面効果を無視すれば,融点では相の割合を変えても G が変わらず,共存できる.

演習 3

オリジナル ★★★☆☆

一定外圧 p0 のもとで,部屋と同温の過冷却水 m=1.0kg が凍り,同温の氷になります.部屋は −10∘C,すなわち T0=263.15K の理想熱源です.体積仕事だけがあり,融点 Tm=273.15K,融解熱 L=3.3×105Jkg−1 とします.定圧比熱は水 cw=4.2×103,氷 ci=2.1×103(単位は Jkg−1K−1)で,一定とします.

水T₀から水Tₘへ昇温し,Tₘで凝固して氷となり,氷T₀へ冷却する仮想の可逆経路を破線で示す.T₀ = 263.15 K,Tₘ = 273.15 Kである.実際には同温の水から氷へ変わり,部屋へ−Qを放熱する.Q = ΔH < 0で,部屋のエントロピーは−Q/T₀だけ増える. 水T₀から水Tₘへ昇温し,Tₘで凝固して氷となり,氷T₀へ冷却する仮想の可逆経路を破線で示す.T₀ = 263.15 K,Tₘ = 273.15 Kである.実際には同温の水から氷へ変わり,部屋へ−Qを放熱する.Q = ΔH < 0で,部屋のエントロピーは−Q/T₀だけ増える.
  1. 図の可逆な経路で ΔH と ΔS を求めてください.

  2. 部屋のエントロピー変化と全体の生成量 Sgen を求め,Δ(F+p0V)<0 を確かめてください.

解答を見る

考え方

昇温,凝固,冷却の可逆な経路で状態量の差を求め,実際の放熱による部屋の変化と合わせる.

  1. 定圧比熱より

ΔH=m(cw−ci)(Tm−T0)−mL=−3.09×105J.

各段階の可逆な熱をその温度で割って積分すると

ΔS=mcwln⁡TmT0−mLTm+mciln⁡T0Tm=m(cw−ci)ln⁡TmT0−mLTm≃−1.13×103JK−1.

状態量の差なので実際の経路によらない.

  1. W=p0ΔV と第一法則より,実際の熱は Q=ΔU+p0ΔV=ΔH.部屋の変化は

ΔS源=−QT0≃1.17×103JK−1,Sgen=ΔS+ΔS源≃44JK−1>0.

差は丸める前の値で計算する.水の減少より部屋の増加が大きい.両端で T=T0 より

Δ(F+p0V)=ΔH−T0ΔS=−T0Sgen≃−1.2×104J<0.

体積仕事を含めて減少する.水の ΔS を実際の Q/T0 としてはいけない.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

全体積 V が一定の容器を,物質を通さず摩擦なく動く仕切りで2室に分けます.各室の理想気体の物質量は ν1>0,ν2>0,体積は V1,V−V1 です.両室は温度 T0 の熱源に接しています.

全体積Vが一定の容器の2室は温度T₀の熱源に接し,物質を通さず摩擦なく動く仕切りで分かれている.各室の物質量はν₁,ν₂,体積はV₁,V − V₁である.F(V₁)は下に凸で,V₁ = ν₁V/(ν₁ + ν₂)に唯一の最小をもち,そこでp₁ = p₂となる. 全体積Vが一定の容器の2室は温度T₀の熱源に接し,物質を通さず摩擦なく動く仕切りで分かれている.各室の物質量はν₁,ν₂,体積はV₁,V − V₁である.F(V₁)は下に凸で,V₁ = ν₁V/(ν₁ + ν₂)に唯一の最小をもち,そこでp₁ = p₂となる.
  1. F0 を定数として,全体の自由エネルギー F(V1)=F0−RT0[ν1ln⁡(V1/V)+ν2ln⁡(1−V1/V)] の最小から,平衡体積と圧力を求めてください.

  2. 2階微分で安定性を示し,仕切りの復元力と結びつけてください.

解答を見る

考え方

全体は定積で仕事の授受がないので F を最小にする.停留条件と2階微分を,圧力と復元力に結びつける.

  1. 微分すると

dFdV1=RT0(−ν1V1+ν2V−V1)=p2−p1.

停留条件は p1=p2 であり,これを解くと V1=ν1ν1+ν2V,V2=ν2ν1+ν2V,共通圧力は p=(ν1+ν2)RT0V となる.

  1. 0<V1<V では

d2FdV12=RT0(ν1V12+ν2(V−V1)2)>0.

下に凸なので,停留点は唯一の安定な最小である.第1室を広げると p1 が下がり p2 が上がり,元へ戻す力が働く.圧力一致と F 最小は同じ平衡を表す.

ポイント 教える人へ

一定にした量と仕事の有無を確認させてください.過冷却水では ΔS の仮想経路と実際の Q を区別し,仕切りでは2階微分と復元力を対応させます.

16第16章の章末問題

系の境界と熱・仕事の符号を確かめ,装置の条件から状態変化を決めてください.エントロピーは,実際の熱と可逆な計算用の経路を区別して求めましょう.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

固定容器の気体を羽根でかき混ぜ,仕事 240J を与えると,熱 90J が逃げました.定積熱容量は 15JK−1 で一定です.Q,W,ΔU,温度上昇を求め,定積なら仕事0といえるか説明してください.

固定容器内の気体を羽根でかき混ぜる.外から240 Jの仕事が入り,同時に90 Jの熱が外へ逃げる.容器の体積は一定である. 固定容器内の気体を羽根でかき混ぜる.外から240 Jの仕事が入り,同時に90 Jの熱が外へ逃げる.容器の体積は一定である.
解答を見る

考え方 入る仕事は負に数える.

Q=−90,W=−240,ΔU=Q−W=150(単位 J),ΔT=ΔU/C=10K.体積仕事は0でも羽根から仕事が入る.定積なら仕事0といえるのは,体積仕事だけの場合である.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

CV=2R が一定の理想気体 ν mol が,初め (p0,V0,T0) にあります.体積仕事だけを行う3経路で,各終状態の温度,仕事,熱を求めてください.Iは定積,IIは準静的な定圧で,ともに熱 6νRT0 を与えます.IIIは別の単原子理想気体を同じ初状態から pV2=p0V02 を保って準静的に 2V0 まで膨張します.IIIは断熱ですか.

温度T₀,物質量n mol,モル定積熱容量C_V=2Rの気体を2つ用意する.左は固定容器で定積加熱,右は動くピストンで準静的な定圧加熱を行い,どちらにも同じ熱6nRT₀を与える.破線は右のピストンの初めの位置である. 温度T₀,物質量n mol,モル定積熱容量C_V=2Rの気体を2つ用意する.左は固定容器で定積加熱,右は動くピストンで準静的な定圧加熱を行い,どちらにも同じ熱6nRT₀を与える.破線は右のピストンの初めの位置である.
単原子分子の理想気体がA(p₀,V₀)からB(p₀/4,2V₀)まで,青いpV²=p₀V₀²の経路で準静的に膨張する.経路の下の塗った面積が仕事Wである.同じ始点からの比較用の断熱線はγ=5/3の橙の破線で,指定の経路より上を通る. 単原子分子の理想気体がA(p₀,V₀)からB(p₀/4,2V₀)まで,青いpV²=p₀V₀²の経路で準静的に膨張する.経路の下の塗った面積が仕事Wである.同じ始点からの比較用の断熱線はγ=5/3の橙の破線で,指定の経路より上を通る.
解答を見る

考え方 比熱と経路から仕事を出し,第一法則で熱を照合する.

Iでは ΔT=3T0 だから Tf=4T0,W=0.IIでは理想気体のマイヤーの関係より Cp=3R,ΔT=2T0 だから Tf=3T0,W=2νRT0.両者の Q は 6νRT0.IIIでは T/T0=V0/V より Tf=T0/2.W=∫V02V0p0V02V−2dV=p0V0/2,ΔU=−3p0V0/4 より Q=−p0V0/4.仕事と放熱の両方で冷えるので,断熱ではない.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

液体と蒸気が共存できる温度 T0,体積 V0 の飽和水蒸気(初め液体なし)を,可逆に等温圧縮して V0/3 にします.飽和圧を ps,モル質量を M,蒸発熱を Lv として,凝縮質量,Q,ΔS,ΔF を求めてください.蒸気は理想気体,液体の体積は無視します.

熱源 T₀ に接した飽和水蒸気を,可逆に体積 V₀ から V₀/3 へ圧縮する前後の断面.圧力 p_s と温度 T₀ を保ちながら液体 m が現れ,熱 Q は熱源へ出る.液体の薄い帯は相の出現を示し,その体積は無視する. 熱源 T₀ に接した飽和水蒸気を,可逆に体積 V₀ から V₀/3 へ圧縮する前後の断面.圧力 p_s と温度 T₀ を保ちながら液体 m が現れ,熱 Q は熱源へ出る.液体の薄い帯は相の出現を示し,その体積は無視する.
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考え方 相共存中は飽和圧一定である.

蒸気の物質量 psV/(RT0) は初めの1/3になる.凝縮質量は m=2psV0M/(3RT0).水全体を系とすると Q=−mLv,ΔS=Q/T0=−mLv/T0.W=ps(V0/3−V0)=−2psV0/3 より ΔF=(Q−W)−T0ΔS=2psV0/3.凝縮するため,等温でも水全体の ΔU は0ではない.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

熱源 T0 に接した理想気体 ν mol が (p0,V0) にあります.外圧を突然 2p0 にして平衡まで圧縮し,突然 p0 に戻して平衡まで膨張させます.各初終温度は T0 です.各 W,Q と一往復の気体・熱源の ΔS を求めてください.ピストンの熱容量と初終の運動エネルギーを無視し,散逸は気体内だけとします.

温度T₀の熱源に接したシリンダー内の理想気体について,平衡状態のピストン配置を3つ並べる.初めの外圧p₀,体積V₀から,外圧を突然2p₀にして体積V₀/2まで圧縮する.次に外圧を突然p₀へ戻して体積V₀まで膨張させる.赤い下向きの矢印は外圧による作用を示し,各段階の初めと終わりの気体温度はT₀である. 温度T₀の熱源に接したシリンダー内の理想気体について,平衡状態のピストン配置を3つ並べる.初めの外圧p₀,体積V₀から,外圧を突然2p₀にして体積V₀/2まで圧縮する.次に外圧を突然p₀へ戻して体積V₀まで膨張させる.赤い下向きの矢印は外圧による作用を示し,各段階の初めと終わりの気体温度はT₀である.
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考え方 仕事は外圧と体積変化の積で数える.

p0V0=νRT0,体積は V0→V0/2→V0.圧縮の W=−νRT0,膨張の W=νRT0/2.各 ΔU=0 より Q=W.気体は元に戻るので ΔS=0.熱源は正味 νRT0/2 を受け取り,ΔS源=νR/2.投入仕事が熱として残り,全体でエントロピーを生成する.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

断熱した固定容器の2室に,異なる理想気体Aを ν mol,Bを 2ν mol 入れます.両方の初温・初圧は T0,p0,体積は V0,2V0,CV=3R/2 です.混合後も各成分は理想気体に従います.

断熱した固定容器を体積V₀と2V₀の2室に分け,左に気体Aをn mol,右に気体Bを2n mol入れる.両気体の初期温度はT₀,圧力はp₀である.仕切りを取り除くと,青い丸のAと橙の四角のBが混ざり,どちらの気体も全体積3V₀を占める. 断熱した固定容器を体積V₀と2V₀の2室に分け,左に気体Aをn mol,右に気体Bを2n mol入れる.両気体の初期温度はT₀,圧力はp₀である.仕切りを取り除くと,青い丸のAと橙の四角のBが混ざり,どちらの気体も全体積3V₀を占める.
  1. 仕切りを抜いた後の温度,全圧,エントロピー変化を求めてください.計算には成分を選別する半透膜を使う可逆等温膨張を考えられます.

  2. 同じ初温・初圧の同種気体だった場合はどうなりますか.分子に番号を付けて左右をA,Bと名付ければ,(1) と同じ混合エントロピーを作れますか.

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考え方 収支と,成分を物理的に区別できるかを分けて考える.

  1. Q=W=0,U=9νRT/2 が保存されるので Tf=T0.全圧は 3νRT0/(3V0)=p0.各成分の可逆膨張比は3と 3/2 なので ΔS=νRln⁡3+2νRln⁡(3/2)>0.実際の吸熱0を温度で割っても求められない.

  2. 温度と圧力は変わらず,ΔS=0.同種気体は初めから同じ密度・温度で,エントロピーの示量性から2室の和は終状態の値に等しい.番号による架空の識別から混合エントロピーを作ってはいけない.異種気体は半透膜で選び分けられる物理的な成分であり,名前だけの区別とは異なる.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

比熱一定の理想気体で,A→Bは準静的断熱圧縮,B→Cは定積加熱,C→Dは準静的断熱膨張,D→Aは定積冷却とします.VA=VD,VB=VC,r=VA/VB>1 です.効率を r,γ で表し,r=4,γ=7/5 の値を求めてください.後者は回転が有効で振動が凍結した温度域の値を,一定と近似します.

p-V図でAからBへ準静的な断熱圧縮,BからCへ定積加熱,CからDへ準静的な断熱膨張,DからAへ定積冷却を行う.左右の鉛直線の体積はそれぞれV_B=V_CとV_A=V_Dである.2本の断熱線と2本の鉛直線で閉じた経路を,時計回りの矢印で示す. p-V図でAからBへ準静的な断熱圧縮,BからCへ定積加熱,CからDへ準静的な断熱膨張,DからAへ定積冷却を行う.左右の鉛直線の体積はそれぞれV_B=V_CとV_A=V_Dである.2本の断熱線と2本の鉛直線で閉じた経路を,時計回りの矢印で示す.
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考え方 断熱の温度比を使う.

x=rγ−1 とすると TB=xTA,TC=xTD.吸熱は QH=νCV(TC−TB),放熱の大きさは QL=νCV(TD−TA)=QH/x.よって η=1−r1−γ=1−4−2/5≈0.426,約43 %である.

演習 7

東京大 2004 前期(改題) ★★★☆☆

加熱部以外を断熱した2室を,左右の面積 A,3A の一体の水平ピストンで連結します.右室には面積 2A,質量 M の鉛直ピストンもあります.外は真空,摩擦はなく,両気体は単原子理想気体です.左だけをゆっくり加熱し,水平ピストンを右へ x,鉛直ピストンを上へ h 動かします.両圧力,右の温度・体積が一定の理由,x,Q を求めてください.

外が真空の2室を,左面 A と右面 3A の一体の水平ピストンでつなぐ.右室の上には面積 2A,質量 M の鉛直ピストンがある.左室だけへの熱 Q によって水平ピストンが右へ x,上のピストンが上へ h 動く.破線は動く前の位置で,赤い矢印は両気体の圧力による力の向きを示す. 外が真空の2室を,左面 A と右面 3A の一体の水平ピストンでつなぐ.右室の上には面積 2A,質量 M の鉛直ピストンがある.左室だけへの熱 Q によって水平ピストンが右へ x,上のピストンが上へ h 動く.破線は動く前の位置で,赤い矢印は両気体の圧力による力の向きを示す.
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考え方 つり合いと右の断熱条件を連立する.

p2=Mg/(2A),p1=3p2 で一定.右の物質量を ν2 とすると,準静的断熱・定圧だから ν2CpdT2=0,温度・体積は一定.−3Ax+2Ah=0 より x=2h/3.左の仕事は W=p1Ax=Mgh,ΔU=3W/2,Q=5Mgh/2.右の正味の仕事は0で,受けた仕事が鉛直ピストンへ渡る.熱は左の ΔU と Mgh に分かれる.

演習 8

東京大 2011 前期(改題) ★★★☆☆

鉛直な筒の下部は面積 A,高さ 2ℓ,上部は面積 3A です.初め底から高さ ℓ まで単原子理想気体があり,質量0のピストンの上に密度 ρ,高さ ℓ の非圧縮液体があります.表面より上は真空です.液体と気体の熱交換,摩擦,蒸発を無視し,ゆっくり加熱してピストンを ℓ/2 上げます.p0=ρgℓ,V0=Aℓ,初温 T0 として,上昇 x に対する p,T,最高温度,W,Q を求めてください.

下部の断面積 A,高さ 2ℓ の筒が,上部で断面積 3A に広がる.初めの質量0のピストンは底から ℓ,密度 ρ の液柱の表面は底から 2ℓ にあり,破線で示す.加熱後のピストンの上昇 x に対し,液体の体積保存により表面は x/3 上昇する.実線と薄い青の領域は上昇後の位置と液体である. 下部の断面積 A,高さ 2ℓ の筒が,上部で断面積 3A に広がる.初めの質量0のピストンは底から ℓ,密度 ρ の液柱の表面は底から 2ℓ にあり,破線で示す.加熱後のピストンの上昇 x に対し,液体の体積保存により表面は x/3 上昇する.実線と薄い青の領域は上昇後の位置と液体である.
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考え方 液体の体積保存を使う.

表面は x/3 上がり,液柱は ℓ−2x/3.y=x/ℓ として p=p0(1−2y/3),V=V0(1+y),T/T0=1+y/3−2y2/3.微分より y=1/4 で最高温度 25T0/24.終点では T=T0,ΔU=0.

W=p0V0∫01/2(1−2y/3)dy=512p0V0,Q=W.

δQ=p0V0(3/2−8y/3)dy>0 なので,温度が下がり始めても吸熱は続く.

17第16章の発展問題

第一法則と第二法則を使いましょう.

演習 1

オリジナル ★★★★☆

理想気体 ν mol が,A→Bで可逆断熱圧縮,B→Cで定圧加熱,C→Dで可逆断熱膨張,D→Aで定圧冷却します.モル比熱は一定で γ=Cp/CV,圧力比は r,A,Cの温度は T1,T3 とします.x=r(γ−1)/γ,1<x<T3/T1 です.

  1. B,Dの温度と効率を求めてください.

  2. T1,T3 を固定し,仕事を最大にする x と最大仕事を求めてください.

低圧のAから断熱圧縮で高圧のBへ進み,BからCへ定圧で熱Q_Hを受け取る.CからDへ断熱膨張し,DからAへ定圧で熱Q_Lを放出する.2本の断熱線はpVのγ乗が一定となる曲線であり,時計回りに囲む面積が1周の正味の仕事である. 低圧のAから断熱圧縮で高圧のBへ進み,BからCへ定圧で熱Q_Hを受け取る.CからDへ断熱膨張し,DからAへ定圧で熱Q_Lを放出する.2本の断熱線はpVのγ乗が一定となる曲線であり,時計回りに囲む面積が1周の正味の仕事である.
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考え方 断熱の温度比を使う.

  1. T/p(γ−1)/γ 一定より TB=xT1,TD=T3/x.QH=νCp(T3−xT1),QL=QH/x なので η=1−1/x.

  2. W=νCp(T1+T3−T1x−T3/x).T1x+T3/x は相加相乗平均より x=T3/T1 で最小なので,Wmax=νCp(T3−T1)2.

演習 2

オリジナル ★★★★☆

3固体(一定熱容量 C,2C,C,初温 T0,2T0,8T0)を外と断熱し,循環機関で共通温度 Tf まで仕事を取り出します.体積変化は無視します.Tf の下限,最大仕事と操作を求め,直接接触と比べてください.

断熱外壁内に,熱容量Cで初温T₀の固体,熱容量2Cで初温2T₀の固体,熱容量Cで初温8T₀の固体を置く.高温と低温の固体を循環機関でつなぎ,外へ仕事Wを取り出す.機関は元の状態に戻り,3固体を共通温度T_fへ近づける. 断熱外壁内に,熱容量Cで初温T₀の固体,熱容量2Cで初温2T₀の固体,熱容量Cで初温8T₀の固体を置く.高温と低温の固体を循環機関でつなぎ,外へ仕事Wを取り出す.機関は元の状態に戻り,3固体を共通温度T_fへ近づける.
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考え方 第二法則とエネルギー保存を使う.

各固体の Ciln⁡(Tf/Ti) を足すと ΔS=4Cln⁡[Tf/(321/4T0)]≥0.よって Tf≥321/4T0.W=13CT0−4CTf より Wmax=(13−4×321/4)CT0.

T0,8T0 の固体間で可逆機関を回すと温度の積が保たれる.低温側が 2T0,高温側が 4T0 になったら,同温の2固体を熱容量 3C とまとめ,残る固体との間で可逆に仕事を得る.全エントロピー一定で上限となる.直接接触なら仕事は0,Tf=13T0/4 で,エントロピーが増える.

演習 3

東京大 2006 後期(改題) ★★★★☆

移送板が容積 D の室を低温部 yD と高温部 (1−y)D に分けます.板の隙間を気体が通れ,圧力は等しいとします.低温部は容積 V の動力室につながります.理想気体 ν mol を封入し,低温側は T0,高温側は 3T0 に保ちます.摩擦・気体の慣性・配管の体積は無視します.カムで (y,V)=(0,D)→(0,2D)→(1,2D)→(1,D)→(0,D) をゆっくりたどります.

  1. 圧力を求め,p-V 図を描いてください.

  2. 移送板と機関1周の仕事を求め,可逆か判定してください.

体積 D の移送室を移送板で低温部 yD と高温部 (1−y)D に分け,低温部を別の動力室 V につなぐ.温度は低温側が T₀,高温側が 3T₀ で,気体は移送板の隙間を通れる.右の p–V 図は V=D から 2D まで y=0 の上側で膨張し,y=1 の下側で圧縮する循環を示す.定積の移送過程は2本の鉛直線で表す.体積軸の斜線は,原点付近の区間を省略したことを示す. 体積 D の移送室を移送板で低温部 yD と高温部 (1−y)D に分け,低温部を別の動力室 V につなぐ.温度は低温側が T₀,高温側が 3T₀ で,気体は移送板の隙間を通れる.右の p–V 図は V=D から 2D まで y=0 の上側で膨張し,y=1 の下側で圧縮する循環を示す.定積の移送過程は2本の鉛直線で表す.体積軸の斜線は,原点付近の区間を省略したことを示す.
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考え方 各室の物質量を足す.

  1. ν=p(V+yD)/(RT0)+p(1−y)D/(3RT0) なので p=νRT0/[V+D(1+2y)/3].膨張は y=0 の上側,圧縮は y=1 の下側で,途中を V=D,2D の鉛直線で結ぶ.

  2. 移送板の両面は等面積・等圧力で,正味の仕事は0.動力室では

W=νRT0ln⁡74−νRT0ln⁡32=νRT0ln⁡76>0.

移る気体が異温度の熱源に接するため,準静的でも不可逆である.

演習 4

オリジナル ★★★★☆

圧力 p=p0−αT−βV,定積熱容量 C の物質で可逆カルノーサイクルを作ります.α,β,C>0 は一定で,経路上の体積・圧力は正とします.

  1. dF=−SdT−pdV の混合偏微分から dS を求めてください.

  2. TH で体積を d>0 だけ減らし,断熱で TL<TH に下げます.低温等温過程の体積変化,熱の向き,1周の仕事と効率を求めてください.

圧力 p=p₀−αT−βV の物質では,低温 T_L の等温線が高温 T_H の等温線より上にある.高温側は体積を d だけ減らして熱 Q_H を吸収し,断熱冷却でも圧縮する.低温側では d だけ膨張して熱 Q_L を放出し,断熱加熱で出発点へ戻る.矢印は正の仕事を取り出す循環の向きを示す.体積軸の斜線は,原点付近の区間を省略したことを示す. 圧力 p=p₀−αT−βV の物質では,低温 T_L の等温線が高温 T_H の等温線より上にある.高温側は体積を d だけ減らして熱 Q_H を吸収し,断熱冷却でも圧縮する.低温側では d だけ膨張して熱 Q_L を放出し,断熱加熱で出発点へ戻る.矢印は正の仕事を取り出す循環の向きを示す.体積軸の斜線は,原点付近の区間を省略したことを示す.
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考え方 TdS から熱の向きを決める.

  1. (∂S∂V)T=(∂p∂T)V=−α,(∂S∂T)V=C/T より dS=CdT/T−αdV.断熱では体積変化が (C/α)ln⁡(T2/T1) で,冷却すると圧縮する.2本の断熱の体積変化は相殺し,低温等温過程では d だけ膨張する.

  2. 等温では δQ=−αTdV.高温側の圧縮で QH=αTHd を吸収,低温側の膨張で QL=αTLd を放出する.よって W=α(TH−TL)d>0,η=1−TL/TH.

演習 5

オリジナル ★★★★★

外部熱源 TH,TL の間の内部可逆な循環機関が,Th で吸熱,Tc で放熱します.TH>Th>Tc>TL>0 とします.定常で,熱流率は qH=Kth(TH−Th),qL=Kth(Tc−TL),熱コンダクタンス Kth>0 とし,qH/Th=qL/Tc です.

  1. x=Tc/Th で出力 P=qH−qL を表し,最大出力と最適温度を求めてください.

  2. 最適時の効率とカルノー効率を比べ,全体のエントロピー生成率を求めてください.

外部の高温熱源T_Hから伝熱部を通して吸熱温度T_hの機関へ熱流率q_H=κ(T_H−T_h)で熱が入る.放熱温度T_cの機関から伝熱部を通して外部の低温熱源T_Lへ熱流率q_L=κ(T_c−T_L)で熱が出る.温度はT_H>T_h>T_c>T_Lであり,内部が可逆な機関の出力はP=q_H−q_Lである. 外部の高温熱源T_Hから伝熱部を通して吸熱温度T_hの機関へ熱流率q_H=κ(T_H−T_h)で熱が入る.放熱温度T_cの機関から伝熱部を通して外部の低温熱源T_Lへ熱流率q_L=κ(T_c−T_L)で熱が出る.温度はT_H>T_h>T_c>T_Lであり,内部が可逆な機関の出力はP=q_H−q_Lである.
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考え方 内部の可逆性と伝熱の不可逆性を分ける.

  1. qL=xqH より xTh−TL=x(TH−Th).よって Th=(TH+TL/x)/2,Tc=(xTH+TL)/2 で,許される範囲は TL/TH<x<1.

P=Kth2(TH+TL−THx−TLx)

となる.dPdx=Kth(−TH+TL/x2)/2 が0になる x∗=TL/TH で最大であり,

Pmax=Kth2(TH−TL)2,Th∗=TH+THTL2,Tc∗=TL+THTL2

である.

  1. η∗=1−x∗=1−TL/TH<1−TL/TH.循環機関のエントロピーは不変で,全体の生成率は σ=qL/TL−qH/TH=qH(x/TL−1/TH)>0.最適時は σ∗=Pmax/THTL である.有限温度差の伝熱で生成される.

演習 6

IPhO 2014 第2問(改題) ★★★★★

仮想物質の均一相が p=RT/(v−b)−a/v2(モル体積 v>b,a,b>0)に従います.臨界点では等温線の1階・2階微分が0です.モル自由エネルギーを f とします.温度一定で dfdv=−p,外圧 pe での平衡は g=f+pev の大域的最小とします.

  1. 臨界点 vc,Tc,pc を求めてください.

  2. T∗=5a/(18Rb),pe=a/(36b2) のとき,g の停留点と局所的な安定性を調べ,v=2b,6b が共存するか判定してください.ln⁡5≈1.609 を使えます.

温度T*=5a/(18Rb)の等温線p=RT*/(v−b)−a/v²と,外圧p_e=a/(36b²)の水平線を描く.正確な交点はv=2b,3b,6bである.2bから3bでは等温線が外圧より下にあり,3bから6bでは上にある.上側の面積は下側より大きく,2つの面積は等しくない.曲線のうねりが見えるように縦軸を拡大している. 温度T*=5a/(18Rb)の等温線p=RT*/(v−b)−a/v²と,外圧p_e=a/(36b²)の水平線を描く.正確な交点はv=2b,3b,6bである.2bから3bでは等温線が外圧より下にあり,3bから6bでは上にある.上側の面積は下側より大きく,2つの面積は等しくない.曲線のうねりが見えるように縦軸を拡大している.
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考え方 共存には圧力と g の値の一致が必要である.

  1. 微分条件は RTc/(vc−b)2=2a/vc3,2RTc/(vc−b)3=6a/vc4.比をとって vc=3b,代入して Tc=8a/(27Rb),pc=a/(27b2).T∗=15Tc/16 である.

  2. dgdv=pe−p.y=v/b とおくと停留条件は y3−11y2+36y−36=(y−2)(y−3)(y−6)=0.各点の b3d2gdv2/a は順に 1/36,−1/216,1/540 なので,2bと6bは局所的に安定,3bは不安定である.しかし

g(6b)−g(2b)=−∫2b6b(p−pe)dv=a18b(8−5ln⁡5)<0

である.v→b の右側と v→∞ で g→∞ となるので,大域的最小は6bだけで,共存しない.2bは局所的な極小にとどまる.真の共存には p(vL)=p(vG)=pe に加え,∫vLvG(p−pe)dv=0 が必要である.
本文の等面積条件の具体例である.

18第16章のまとめ

この章では,まず温度と熱量の測り方を固め(第零法則・熱容量・潜熱),熱と仕事の出入りを勘定する第一法則を立て,繰り返し働く熱機関には効率の上限があること(第二法則とカルノーの定理)を見ました.その上限を与える量がエントロピーで,最後に,温度や圧力が決まった環境での変化の向きを決める自由エネルギーまで進みました.ここで定義と法則を一覧にし,各題材の最初の問いに短く答えます.

定義と法則

定義 温度・熱量・系

  • 熱平衡は,透熱壁で接触させても巨視的な性質が変わらない状態.第零法則(AとC,BとCが熱平衡ならAとBも熱平衡)があるので,温度計で温度を定義できる.薄い気体の圧力を使う理想気体温度は物質に依らず,T/K=t/∘C+273.15.

  • 系は開放系・閉鎖系・孤立系に分ける.熱の出入りだけを断った断熱系は,仕事を受け取れるので孤立系とは違う.

  • 熱容量 C=mc=νCmol,Q=mcΔT.相変化では温度が変わらないまま 潜熱 Q=mL を吸収・放出する.

  • 記号:数密度は第15章・第18章の n=N/V,この章の物質量は ν=N/NA.微視状態の数は Ω(仕事 W と区別),ピストンの断面積は A(S はエントロピー).

定義 内部エネルギー・熱・仕事・エントロピー・自由エネルギー

  • 内部エネルギー U は状態量で,理想気体では温度だけで決まる(単原子分子で U=32NkBT=32νRT).熱 Q と仕事 W は状態量ではなく道筋に依るので,微小量は δQ・δW と書き,状態量の差 dU と区別する.符号は,気体が受け取る熱を Q>0,気体が外へする仕事を W>0 とし,外から入れる仕事を正で測るときは Win=−W と書く.

  • 準静的過程はどの瞬間も平衡とみなせる変化で,p-V 図に道筋として描ける.可逆過程は系と外界の両方を元に戻せる過程で,準静的であることに加えて,散逸がなく,熱の授受が無限小の温度差で行われることが要る.

  • エントロピー S は,可逆な経路に沿って dS=δQrev/T で定まる状態量(単位 JK−1).不可逆な過程では,同じ両端を結ぶ可逆な道筋で計算する.統計的には S=kBln⁡Ω.

  • 自由エネルギーは F=U−TS,G=U+pV−TS.自然な変数は (T,V) と (T,p) である.

法則 熱力学第一法則

ΔU=Q−W,dU=δQ−pdV (体積仕事だけの準静的過程)

熱を含めたエネルギー保存則である.サイクルでは ΔU=0 なので W=Q.撹拌や電気加熱のように体積仕事以外の仕事もあるので,「体積一定なら W=0」は体積仕事だけを扱うという約束の上での話である.

法則 熱力学第二法則

  • ケルビン:一つの温度の熱源から熱を受け取り,それをすべて仕事に変えて他に何の変化も残さないサイクルは存在しない.

  • クラウジウス:低温の物体から高温の物体へ,他に何の変化も残さずに熱を移すことはできない.

  • クラウジウスの不等式:熱源の温度で測って ∫δQ/T源≤0(1周).過程では ΔS=∫δQ実際/T源+Sgen,Sgen≥0.

  • エントロピーの形:孤立系(および断熱された閉じた系)では ΔS≥0.等号は可逆な変化のときだけである.系の一部分は減ってもよく,減らないのは全体である.

  • これらの表現は同値である.どれかが破れれば,機関を組み合わせて他も破れる.

定理 カルノーの定理と最小原理

温度 TH,TL の2熱源の間で働く熱機関の効率は η=W/QH≤1−TL/TH である.等号は可逆な機関のときだけで,その値は作業物質にも機構にも依らない(可逆機関を逆転させて組み合わせる議論から出る).可逆なら QL/QH=TL/TH で,これを温度の定義(熱力学温度)に使える.

変化の向きは,つねに系と外界を合わせた S の増加で決まる.書き直すと,孤立系では S が最大,温度 T0 で体積一定なら F が最小,温度 T0 で外圧 p0 一定なら F+p0V(平衡どうしなら G)が最小の状態が平衡である.弱く相互作用する部分系では S が足せること(ΩAB=ΩAΩB)が,この議論の土台にある.

手順

ポイント 熱力学の問題を解く手順

  1. 系(気体・物体),熱源,外界をはっきり分け,熱と仕事の向きの符号を決める.相変化を含むなら,相が残るかどうかを先に判定する.

  2. 装置の拘束とつり合いから経路を決める.ピストンのつり合いで p,幾何で V を書き,p-V 図に描く.ストッパーは抗力 N≥0,N=0 が離れる条件.

  3. 各過程で Q,W,ΔU のうち2つを求め,残りを第一法則で出す.定積(体積仕事だけなら)W=0,断熱なら Q=0,等温なら ΔU=0.

  4. 準静的かどうかを確かめる.準静的でなければ pVγ 一定や W=∫pdV は使えず,外圧による仕事 peΔV で数える.

  5. 効率を問われたら,分母に入れるのは吸収した熱だけ.経路の途中で δQ の符号が変わることがある.カルノー効率を上限として比べ,熱源の温度が変わるときは微小な可逆サイクルを積み上げて積分する.1秒あたりを問われたら熱流率・出力(W)で答える.

  6. エントロピーは,系と熱源と外界のそれぞれで計算して足す.系は可逆な道筋に置き換えて計算し,理想熱源は実際の熱を温度で割る.

主な公式

  • 熱量:Q=mcΔT=νCmolΔT,相変化で Q=mL,熱量保存は ∑iQi=0(熱量計の熱容量も入れる)

  • 準静的な仕事:W=∫V1V2pdV(p-V 図の面積).サイクルの正味の仕事は囲む面積

  • 等温過程:ΔU=0,W=Q=νRTln⁡V2V1

  • 準静的な断熱過程(理想気体,γ 一定):pVγ 一定,TVγ−1 一定,W=νCV(T1−T2)

  • モル比熱(理想気体,体積仕事だけ):Cp−CV=R,γ=CpCV.単原子分子で CV=32R,γ=53.常温の二原子分子で CV≈52R,γ≈75(回転が効き振動が凍っている温度域での測定値.根拠は第17章)

  • 混合(断熱・固定の容器):Tf=∑iνiCViTi∑iνiCVi

  • 熱機関:η=1−Q放出Q吸収≤1−TLTH.冷凍機・ヒートポンプ:QLWin≤TLTH−TL,QHWin≤THTH−TL

  • エントロピー:ΔS=Cln⁡T2T1(熱容量一定),ΔS=νRln⁡V2V1(理想気体の等温変化),ΔS源=Q源T源(理想熱源),S=kBln⁡Ω

  • 温度が下がる熱源からの最大の仕事:W=∫(1−TLT)CdT

  • 基本式と自由エネルギー:dU=TdS−pdV,dF=−SdT−pdV,dG=−SdT+Vdp.等温で取り出せる仕事は −ΔF 以下

各題材の問いへの答え

  • 温度と熱:体温計で待つのは,体と熱平衡になるまで変化が続くからである.温度が同じとは接触させても何も起こらないことで,第零法則があるので,違う測温物性の温度計を同じ定点で校正すれば同じ温度を指す.金属が木より冷たく感じるのは温度ではなく,手から熱が逃げる速さの違いである.

  • 第一法則と準静的過程:押し縮めると,動いてくる壁が分子を加速する分だけ内部エネルギーが増えて温まり,膨らむと逆に冷える.摩擦は要らない.上がり方は押す速さだけでは決まらず,断熱で散逸がなければ TVγ−1 一定のとおり,一気に押せば散逸の分それより高く,壁から熱が逃げればそれより低くなる.

  • 第二法則とカルノーサイクル:海水という一つの熱源しかないので,熱を仕事に変え続けることはできない.繰り返し働く機関には熱の捨て先となる低温の熱源が必要で,取り出せる割合は 1−TL/TH を超えない.上限は2つの温度の比で決まるので,TH を上げても TL を下げても上がる.

  • エントロピーとラチェット:爪も同じ温度の分子にたたかれてふるえ,熱平衡では行きと帰りの遷移が同じ頻度で起こる(詳細つり合い)ので,一つの熱源からは仕事を取り出せない.羽根と爪に温度差を付ければ熱機関として回る.頻度の勘定で現れるカルノー効率は,正味の出力が0になる停止点での値で,実際に仕事を取り出すときの効率ではない.

  • 自由エネルギーと変化の向き:水だけを見ればエントロピーは減るが,凝固熱を受け取る部屋の増加の方が大きいので第二法則に反しない.温度と外圧が決まった環境では,F+p0V が小さくなる向きに変化が進む.

この章で使った数学

∫pdV と ∫CdT/T の積分,比の対数 ln⁡(V2/V1),微小量の関係から dT を消して pVγ 一定を導く計算,場合の数 (Nk) とスターリングの近似,相加平均と相乗平均の関係,偏微分とルジャンドル変換,停留点と2階微分による安定性の判定,そしてラチェットの頻度を比べるときに形だけ借りた指数関数(ボルツマン因子)がありました.熱の分野では,掛け算で増える「場合の数」と足し算で増える「エネルギー」を,対数が橋渡しします.次の第17章では,ここで借りたボルツマン因子を導き,エネルギーがどの運動にどう分かれるかを調べます.