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問いから始める物理

問いから原理へ,基本からオリンピックまで

著者:柚木芹香

身近な問いから始めて物理の原理を組み立て直す参考書.微積分は必要になった所で導入し,各節の演習は基本から物理オリンピックの水準まで段階をつけて置く.独学でも,教わりながらでも読めるように,各節の終わりに「教える人へ」の囲みがある.

この章の目次 · 18節
  1. 光子と光電効果
  2. 光子の例題
  3. 光子と光電効果の演習
  4. 物質波と確率の振幅
  5. 物質波の例題
  6. 物質波と電子線回折の演習
  7. 閉じこめられた粒子とエネルギー準位
  8. 束縛状態の例題
  9. 束縛状態とエネルギー準位の演習
  10. ボーア模型と水素原子のスペクトル
  11. 水素原子のスペクトルの例題
  12. 原子の準位とスペクトルの演習
  13. 半導体とバンドギャップ
  14. 半導体の例題
  15. 半導体の光応答と電気伝導の演習
  16. 第29章の章末問題
  17. 第29章の発展問題
  18. 第29章のまとめ

第29章  光子と電子の波

01光子と光電効果

問い

亜鉛の板をよく磨いて負に帯電させ,箔検電器につないでおきます.ここに紫外線を含む弱い光を当てると,箔はすぐに閉じていきます.板から電子が飛び出しているのです.ところが,紫外線を除いた明るい赤い光をどれほど強く当てても,箔は閉じません.光が電磁波(第26章)なら,強い光ほど電場の振幅が大きく,電子を強く揺さぶるはずです.弱い紫外線にできて強い赤い光にできないのはなぜでしょうか.

ここから原子の分野に入ります.第20〜27章で,光は干渉も回折もする電磁場の波として完成しました.ところが,光が物質とエネルギーをやりとりする場面では,光は決まった大きさのエネルギーの粒として振る舞います.この章では,光が粒でもあること(この題材),電子が波でもあること(第2題材),閉じこめた波はとびとびのエネルギーしかとれないこと(第3題材)を順に見て,それを水素原子のスペクトル線に当てはめ(第4題材),最後に原子がたくさん並んだ半導体で光と電気をやりとりするしくみを見ます(第5題材).すぐ次の第30章(発展)では,この章で実験から見た波と粒の両面を,「確率振幅」という1つの言葉で組み立て直します.第30章は飛ばしてもかまわず,第29章からそのまま第31章へ進んで,同じ考え方を原子核と素粒子に広げられます.第32章が原子の総合演習です.予備知識は,電位と電子ボルト(第20章),電場・磁場の中の荷電粒子の運動(第22章),弦の定常波(第25章),光の圧力(第26章),光の干渉と回折(第27章)です.相対論(第13章)は読んでいなくても,要る式をその場で示します.

まず,この分野の主役である原子の姿を,数と桁でつかんでおきましょう.

ポイント 原子の構造の見取り図

  • 原子核と電子:原子は,中心の小さな原子核と,まわりの電子でできている.原子核は陽子と中性子からなり,陽子の数を原子番号 Z,陽子と中性子の数の和を質量数 A という.陽子の電荷は +e,電子は −e で,電子の質量 m=9.11×10−31kg は陽子の約1840分の1なので,原子の質量はほとんど原子核が担う.

  • 大きさの桁:原子の半径は 10−10m 程度,原子核の半径は 10−15〜10−14m 程度で,原子の中はほとんどが電子の動き回る空間である.

  • 原子とイオン:電子を Z 個もつ原子は中性で,電子が足りないものを陽イオン,余分にもつものを陰イオンという.化学的な性質はほとんど Z だけで決まる.

  • 励起と電離:原子の電子はとびとびのエネルギー(エネルギー準位)しかとれない.いちばん低い基底状態から高い準位へ上がるのが励起,電子が原子から離れるのが電離(イオン化)である.

  • エネルギーの桁:電荷 e が電位差 1V で得るエネルギー 1eV=1.60×10−19J(電子ボルト)を単位にする.水素の電離は 13.6eV,外側の電子の励起や化学結合は数 eV,可視光の光子は 1.8〜3.1eV,重い原子の内側の電子をはがすのは数十 keV(X線),原子核の中の出来事は MeV の桁である.室温の kBT≈0.026eV は励起に足りないので,ふだんの原子は基底状態にいる.

左は電子の雲と中心の原子核.原子の半径は10⁻¹⁰ m程度,原子核の半径は10⁻¹⁵ m程度で,図の大きさの比は模式的である.右は基底状態と励起状態,エネルギー0より上の電離状態を示す.上向きの矢印は励起と電離に必要なエネルギーの供給を表す. 左は電子の雲と中心の原子核.原子の半径は10⁻¹⁰ m程度,原子核の半径は10⁻¹⁵ m程度で,図の大きさの比は模式的である.右は基底状態と励起状態,エネルギー0より上の電離状態を示す.上向きの矢印は励起と電離に必要なエネルギーの供給を表す.

この見取り図のうち,原子核の発見と大きさはラザフォードの散乱で(第4題材),とびとびの準位はボーア模型と箱の中の粒子で(第3・4題材),原子核の中身は第31章で確かめていきます.

ポイント 第29章で使う記号

記号

意味

h, ℏ=h/2π

プランク定数 6.63×10−34Js

ν, λ

光の振動数,波長(λν=c)

c

真空中の光の速さ 3.00×108ms−1

e, m

電気素量,電子の質量.電子の電荷は −e

W, Eg

仕事関数,バンドギャップ(第5題材)

Kmax, Vs

光電子の最大運動エネルギー,阻止電圧の大きさ

p, E

運動量の大きさ,エネルギー

ϕ

散乱角

ψ

波動関数(第2題材から)

n, En

量子数,n 番目の準位のエネルギー

R, a0, B

リュードベリ定数,ボーア半径,水素の電離エネルギー 13.6eV(第4題材)

Z, A

原子番号,質量数

S

光の強さ(第26章の I.この章では I を電流に使う)

kB

ボルツマン定数

振動数の ν(ギリシャ文字のニュー)と速さの v は形が似ているので,手で書くときは区別してください.第27章で焦点距離に使った f は,この章では使いません.

考えてみる

光が電磁波なら,金属の中の電子は光の電場 E に揺さぶられて少しずつエネルギーをため,それが電子をつなぎとめるエネルギーを超えれば飛び出すはずです.飛び出すかどうかを決めるのは光の強さ(電場の振幅の2乗に比例する)で,振動数ではありません.弱い光でも,長く待てばいつかは電子が出るはずです.

どれくらい待つか見積もります.強さ 1×10−2Wm−2 のかなり暗い光が金属に当たり,1個の電子は原子1個分の面積 (10−10m)2 に来る光のエネルギーを全部集められるとします.すると電子が受け取る仕事率は 10−22W です.電子を飛び出させるのに 2eV=3.2×10−19J 要るとすると,3×103s,つまり1時間ほど光を当て続けてから,ようやく最初の電子が出ることになります.

実際には,振動数が十分高い光なら,どれほど弱くしても光を当てた瞬間(10−9s 以内)から電子が出始め,振動数が低い光は,どれほど強くしても何時間待っても電子を出しません.

光電効果の実験

光が金属の表面から電子をたたき出す現象を光電効果といい,出てくる電子を光電子といいます.詳しく調べるには,真空にしたガラス管の中に金属の陰極と集電極を向かい合わせ,陰極に単色光を当てて,集電極の電位 V(陰極を基準とする)を変えながら回路の電流 I を測ります.

真空管内の陰極に振動数νの単色光を当て,出た光電子を集電極で受ける.集電極の電位Vは陰極を基準とし,可変電源で正にも負にも変えられる.電流計Aで回路の電流Iを測る.光と光電子の矢印はそれぞれの進む向きを示す. 真空管内の陰極に振動数νの単色光を当て,出た光電子を集電極で受ける.集電極の電位Vは陰極を基準とし,可変電源で正にも負にも変えられる.電流計Aで回路の電流Iを測る.光と光電子の矢印はそれぞれの進む向きを示す.

V>0 では光電子はすべて集電極に引き寄せられ,電流は一定の値(飽和電流)になります.V を負にしていくと電子が押し戻されて電流は減り,V=−Vs で0になります.この Vs を阻止電圧といいます.光電子の運動エネルギーの最大値を Kmax とすると,その電子がちょうど集電極に届かなくなる条件は,エネルギーの保存から

Kmax=eVs

です.阻止電圧を測れば Kmax が分かります.

[図:光の強さ・振動数と光電管の特性曲線]

初期状態はν = 1.60ν₀,阻止電圧Vₛ = 1.20 Vで,青線が初期状態の破線と重なる.光の強さのスライダーで飽和電流が比例して変わり,阻止電圧は変わらない.振動数のスライダーでは毎秒届く光子数を保ち,飽和電流を保ったまま電流が0になる電位−Vₛが変わる.νがν₀以下では光電流は0となる.

実験で分かったことは,次の4つにまとまります.

  1. 金属ごとに決まった限界振動数 ν0 があり,ν<ν0 の光では,どれほど強くしても電子は出ない.

  2. ν>ν0 なら,どれほど弱い光でも,当てた瞬間に電子が出る.

  3. 阻止電圧 Vs,つまり Kmax は振動数 ν とともに1次関数で増え,光の強さにはよらない.

  4. 飽和電流,つまり毎秒飛び出す電子の数は,光の強さに比例する.

1と2は「考えてみる」で困ったことそのものです.3も,強い光ほど電場が強いのに電子の受け取るエネルギーの最大値が変わらないので,波の考え方では説明できません.

光子

1905年にアインシュタインは,次のように考えればすべて説明できると示しました.振動数 ν の光は,エネルギー hν の粒の集まりとして物質とエネルギーをやりとりする.この粒を光子といいます.

法則 光子のエネルギー

振動数 ν,波長 λ の光は,1個あたり

E=hν=hcλ

のエネルギーをもつ光子の流れである.h=6.63×10−34Js をプランク定数という.光の強さ(単位面積を毎秒通るエネルギー)は,光子1個のエネルギーと,単位面積を毎秒通る光子の数の積である.

金属の中の電子は,まわりの正イオンに引かれてつなぎとめられています.電子を1個外へ取り出すのに要る最小のエネルギーを仕事関数 W といいます(セシウムで約 2eV,亜鉛や銅で約 4〜5eV).光電効果では,電子1個が光子1個を丸ごと吸収し,もらった hν のうち少なくとも W を外へ出るのに使い,残りが運動エネルギーになります.深い所の電子は途中で余計にエネルギーを失うので,W だけで済んだ電子の運動エネルギーが最大値です.

法則 アインシュタインの光電効果の式

Kmax=eVs=hν−W

限界振動数は Kmax=0 から ν0=W/h,限界波長は λ0=hc/W である.

これで4つの事実がすべて説明できます.hν<W の光子は,何個来ても1個では電子を出せません(事実1).hν>W なら,最初に来た光子がすぐに電子を出します(事実2).eVs=hν−W は ν の1次関数で,強さは入っていません(事実3).電子の数は光子の数に比例します(事実4).

Vs を ν に対してグラフにすると傾きは h/e で,金属を替えても直線が平行に動くだけです.ミリカンは1916年,この傾きからプランク定数を求め,熱放射から求めた値と一致することを示しました.

横軸は振動数ν,縦軸はeVₛ.仕事関数W₁とW₂が異なる金属の直線は平行で,傾きはともにhである.横軸との交点は各金属の限界振動数ν₀,₁とν₀,₂.負の側へ延長した直線の縦軸との交点は−W₁と−W₂で,延長は破線で示す. 横軸は振動数ν,縦軸はeVₛ.仕事関数W₁とW₂が異なる金属の直線は平行で,傾きはともにhである.横軸との交点は各金属の限界振動数ν₀,₁とν₀,₂.負の側へ延長した直線の縦軸との交点は−W₁と−W₂で,延長は破線で示す.

光子のエネルギーの計算では,hc をまとめた

hc=1.99×10−25Jm=1240eVnm

を覚えておくと便利です.例えば波長 620nm の赤い光の光子は 1240/620=2.0eV,310nm の紫外線は 4.0eV です.亜鉛の仕事関数は約 4.3eV なので,可視光では光電子が出ず,波長が 290nm より短い紫外線が要ります.

「電子1個が光子1個を吸収する」という前提は,1個の電子のそばに2個の光子が同時に来ることがまず無いふつうの光で成り立ちます.レーザーを細く絞った極端に強い光では,光子を2個以上まとめて吸収する多光子吸収が起こり,hν<W でも電子が出ることがあります.それでも,エネルギーのやりとりが hν を単位にしていることは変わりません.

光子の運動量

光子がエネルギーを運ぶなら,運動量も運ぶはずです.第26章で,強さ S の光を吸収する面は S/c の圧力を受けること,つまり光が運ぶ運動量はエネルギーの 1/c 倍であることを見ました.光子1個でも同じなら,光子の運動量は p=E/c です.

この関係は相対論(第13章)の式です.質量 m の粒子のエネルギー E と運動量の大きさ p は,速さによらずいつも

E2=(mc2)2+(pc)2

を満たします.止まっているときのエネルギー mc2 を静止エネルギーといい,E=mc2+K が運動エネルギー K の定義です.pc が mc2 より十分小さければ K≈p2/(2m) で,力学に戻ります.光子は質量0の粒子で E=pc であり,エネルギーによらずいつも速さ c で進みます.

法則 光子の運動量

光子の運動量の大きさは

p=Ec=hνc=hλ

で,向きは光の進む向きである.

光子1個の運動量は 500nm で 1.3×10−27kgms−1 と小さいですが,太陽光の光子の数を数えると,第26章の光の圧力 S/c がそのまま出てきます(例題3).光子で考えても電磁波で考えても,2つの見方は食い違いません.

X線

光電効果の逆に,電子のエネルギーを光子に変えることもできます.X線管では,電圧 V で加速した電子を金属の標的にぶつけ,標的の中で急に曲げられ止められるときに放射(第26章)を出させます.これが連続X線で,波長は最短波長 λmin より長い側に連続して広がります.

最短波長は光子の考え方ですぐに説明できます.電子は標的に着くまでに運動エネルギー eV を得るので,1個の電子が出せる光子のエネルギーは多くても eV です.したがって

hcλmin=eV,λmin=hceV

です.V=30kV なら λmin=1240eVnm/(3.0×104eV)=0.041nm です.最短波長は加速電圧だけで決まり,標的の金属にも電流にもよりません.電磁波の放射の考え方だけでは,波長に下限がある理由は出てきません.

同じ標的を使い,加速電圧だけを変えた2つのX線スペクトルの模式図.青の高電圧側は緑の低電圧側よりλₘᵢₙが短い.それぞれの最短波長から連続X線が立ち上がり,その上に同じ波長の鋭い特性X線の山が重なる.強さや山の高さは模式的である. 同じ標的を使い,加速電圧だけを変えた2つのX線スペクトルの模式図.青の高電圧側は緑の低電圧側よりλₘᵢₙが短い.それぞれの最短波長から連続X線が立ち上がり,その上に同じ波長の鋭い特性X線の山が重なる.強さや山の高さは模式的である.

スペクトルには,標的の元素ごとに決まった波長の鋭い山(特性X線)も乗っています.原子の内側の電子の準位の間の遷移で出る光子で,第4題材で扱います.X線は原子の間隔ほどの波長をもち,結晶で回折する(第27章)ので,波でもあります.

コンプトン散乱

光子が運動量をもつことを直接見せたのが,1923年のコンプトンの実験です.X線を炭素などの軽い元素に当てると,散乱されたX線に入射X線より波長の長いものが混ざり,そのずれは散乱の角度とともに大きくなり,散乱体の種類にはよりませんでした.電磁波の散乱(第26章)では,揺さぶられた電子は入射波と同じ振動数で放射するので,波長は変わらないはずです.

光子と電子の衝突と考えると説明できます.軽い元素の外側の電子をつなぎとめるエネルギー(数〜数十 eV)はX線の光子のエネルギー(数十 keV)よりずっと小さいので,電子は止まっている自由な電子とみなせます.波長 λ の光子が電子に当たり,角 ϕ の向きに波長 λ′ の光子として散乱され,電子は反跳するとします.

左から波長λの光子が静止した電子へ入射する.散乱光子は上向きに角φだけ曲がり,電子は斜め下へ反跳する.下の三角形では,運動量h/λの右向きベクトルが,h/λ′の右上向きベクトルと電子の運動量ベクトルpₑの右下向きベクトルの和になっている.散乱光子の運動量は入射光子より小さく描く. 左から波長λの光子が静止した電子へ入射する.散乱光子は上向きに角φだけ曲がり,電子は斜め下へ反跳する.下の三角形では,運動量h/λの右向きベクトルが,h/λ′の右上向きベクトルと電子の運動量ベクトルpₑの右下向きベクトルの和になっている.散乱光子の運動量は入射光子より小さく描く.

光子の運動量を p=h/λ,p′=h/λ′,反跳した電子の運動量を pe,エネルギーを Ee とします.電子は速くなることがあるので,エネルギーは相対論の式で扱います.エネルギーの保存と運動量の保存は

pc+mc2=p′c+Ee,pe=p−p′

です.運動量の式の両辺の大きさの2乗をとると,p と p′ のなす角が ϕ なので

pe2=p2+p′2−2pp′cos⁡ϕ

です.エネルギーの式から Ee=(p−p′)c+mc2 で,これを Ee2=(mc2)2+(pec)2 に入れて c2 で割ると

(p−p′)2+2(p−p′)mc=p2+p′2−2pp′cos⁡ϕ

となります.左辺を展開して整理すると (p−p′)mc=pp′(1−cos⁡ϕ) です.両辺を pp′mc で割ると 1/p′−1/p=(1−cos⁡ϕ)/(mc) で,1/p=λ/h を使えば次の結果になります.

法則 コンプトン散乱

静止した自由電子に散乱された光子の波長のずれは

λ′−λ=hmc(1−cos⁡ϕ)

である.h/(mc)=2.43×10−12m を電子のコンプトン波長という.ずれは入射波長にも散乱体にもよらず,散乱角 ϕ だけで決まる.

ずれはいちばん大きい真後ろへの散乱(ϕ=π)でも 2h/(mc)=4.9×10−12m です.波長 0.07nm 程度のX線なら数 % のずれで測れますが,500nm の可視光では 10−5 程度の割合にしかならず,ほとんど見えません.コンプトン散乱がX線で発見されたのはこのためです.

実験では,波長がずれない山も見えます.原子に強くつなぎとめられた内側の電子による散乱で,運動量を受け取る相手は原子全体なので,式の m が原子の質量に替わり,ずれは 10−4 倍以下になって見えません.「電子が自由とみなせる」ことが,この式の適用条件です.

入試では,電子の運動エネルギーを pe2/(2m) とし,λ/λ′+λ′/λ≈2 と近似して同じ式を導くことがよくあります.電子の運動エネルギーが mc2=511keV より十分小さく,波長のずれが波長より十分小さいときの近似です.上の導出には近似が無いので,ガンマ線にもそのまま使えます.

光は波か粒か

光は干渉や回折をする波であり,光電効果やコンプトン散乱では数えられる粒です.ヤングの実験(第27章)で光をごく弱くすると,光子は1個ずつ感光面の1点に届き,数がたまると到着点の分布が干渉縞になります.1個がどこに来るかは確率でしか決まらず,その確率が波の強さで決まる,というのが今の理解です.E=hν と p=h/λ は,粒の量(エネルギーと運動量)と波の量(振動数と波長)をつなぐ式で,次の題材では同じ2つの式が電子にも当てはまることを見ます.

問いに戻る

亜鉛に当たる赤い光は約 2eV の光子の流れで,仕事関数 4.3eV に届きません.電子は光子を1個ずつしか吸収しないので,光を強くして光子を増やしても電子は出ません.紫外線の光子は 4.3eV を超えるので,光が弱くても,来た光子の1個1個が電子を外へ出します.箔が閉じるかどうかを決めていたのは,光の強さではなく光子1個のエネルギー hν です.

ポイント ここまでのまとめ

  • 光はエネルギー E=hν=hc/λ,運動量 p=h/λ の光子の流れとして物質とやりとりする.光の強さは光子の数を決め,振動数は1個のエネルギーを決める.

  • 光電効果は Kmax=eVs=hν−W で説明できる.Vs と ν のグラフの傾きは h/e で,金属によらない.

  • 光子は質量0の粒子で,E=pc.質量 m の粒子では E2=(mc2)2+(pc)2,E=mc2+K.

  • 連続X線の最短波長は λmin=hc/(eV) で,加速電圧だけで決まる.

  • コンプトン散乱では λ′−λ=hmc(1−cos⁡ϕ) で,光子が運動量をもつことが確かめられる.

  • 問いの答え:電子は光子を1個ずつ吸収するので,hν が仕事関数を超えるかどうかで電子が出るかが決まり,光の強さはそれを変えない.

02光子の例題

光子の問題では,光子1個について成り立つ式(エネルギー hν,運動量 h/λ,光電効果の式,保存則)と,光子の数を数える式(強さや電力を1個のエネルギーで割る)を分けて考えるのが基本です.ここでは,測定からプランク定数を決める問題,コンプトン散乱の数値,太陽光の光子を数える問題の3つを練習します.

ポイント 光子の計算の手順

  1. 光子1個のエネルギーは E=hc/λ.hc=1240eVnm を使うと電子ボルトですぐ出る.1eV=1.60×10−19J.

  2. 光子の数の流れ(毎秒の個数)は,電力やエネルギーの流れを光子1個のエネルギーで割って求める.

  3. 衝突や吸収では,エネルギーと運動量をともに保存させる.光子の運動量は h/λ,電子のエネルギーは Ee2=(mc2)2+(pec)2 で,運動エネルギーが mc2=511keV より十分小さければ pe2/(2m) でよい.

数値計算では h=6.63×10−34Js,c=3.00×108ms−1,e=1.60×10−19C,m=9.11×10−31kg を使います.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

ある金属を陰極にした光電管に,水銀灯から取り出した4本の単色光を順に当て,それぞれの阻止電圧の大きさ Vs を測ったところ,次の表のようになった.接触電位差は補正済みとする.

波長(nm)

546.1

435.8

404.7

365.0

Vs(V)

0.27

0.85

1.06

1.40

  1. それぞれの光の振動数を求め,Vs と振動数 ν の関係をグラフに表すとどうなるか述べよ.

  2. グラフからプランク定数 h と,この金属の仕事関数 W(eV 単位)を求めよ.

  3. 光の強さを2倍にしたとき,および仕事関数が 0.50eV 大きい金属に替えたとき,グラフはそれぞれどう変わるか.

上段は問題文で与えられた4つの波長と阻止電圧の表.下段は横軸が振動数ν(10¹⁴ Hz),縦軸が阻止電圧Vₛ(V)の作図用座標軸.振動数への換算,測定点の配置,直線と切片は読者が求める. 上段は問題文で与えられた4つの波長と阻止電圧の表.下段は横軸が振動数ν(10¹⁴ Hz),縦軸が阻止電圧Vₛ(V)の作図用座標軸.振動数への換算,測定点の配置,直線と切片は読者が求める.
解答を見る

考え方 光電効果の式 eVs=hν−W から,Vs は ν の1次関数で,傾きが h/e,横軸との交点が限界振動数 ν0=W/h である.測った点に直線を合わせ,傾きと切片を読む.

  1. ν=c/λ より,順に

5.49×1014,6.88×1014,7.41×1014,8.22×1014Hz

である.Vs=(h/e)ν−W/e なので,点はほぼ1本の直線に乗る.

  1. 振動数を丸めずに,両端の2点から傾きを求めると

he≈1.40−0.27(8.21918−5.49350)×1014Vs≈4.15×10−15Vs

である.よって,丸める前の傾きに e を掛けると h≈6.63×10−34Js である.中の2点も,この直線からのずれは 0.006V 以下で,4点すべてに最小2乗法で直線を合わせても傾きは測定の精度内で一致する.

横軸との交点は,ν=5.49×1014Hz の点から Vs を 0.27V 下げる所なので

ν0≈5.49×1014−0.274.15×10−15≈4.84×1014Hz

である.仕事関数は W=hν0 で,W/e=(h/e)ν0≈2.01V,すなわち W≈2.01eV である.

  1. 強さを2倍にしても光子1個のエネルギーは変わらないので,Vs は変わらず,グラフは同じ直線のままである(飽和電流が2倍になるだけである).仕事関数が 0.50eV 大きい金属では,傾き h/e は同じで,光電子が出る範囲では直線が下へ 0.50V 平行に移る.限界振動数は Δν0=0.50/(4.15×10−15)=1.2×1014Hz だけ大きくなり 6.0×1014Hz になるので,546.1nm(5.49×1014Hz)の光では光電子が出なくなる.

確かめ:求めた h は既知の値 6.63×10−34Js と有効数字の範囲で一致する.なお実際の光電管では,陰極と集電極の金属が違うと両者の間に接触電位差が生じ,測った Vs 全体が一定量ずれる.このずれは直線を平行に動かすだけなので,傾きから求める h には影響しないが,切片から求める W には影響する.測定から h を決めるのに傾きを使うのはこのためである.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

波長 λ=71.0pm(1pm=10−12m)のX線を炭素の塊に当て,散乱されたX線を調べる.炭素の外側の電子は,静止した自由な電子とみなす.

  1. 入射方向から 90∘ の向きと,真後ろ(180∘)の向きに散乱されたX線の波長を求めよ.

  2. 真後ろに散乱された場合について,反跳した電子の運動エネルギーを keV 単位で求めよ.また,この電子を相対論を使わずに扱ってよいか,電子の運動量から確かめよ.

波長λ = 71.0 pmのX線を左から炭素に当てる.上段は入射方向に対して90°の検出器,下段は180°の検出器を示す別々の配置.入射は青,散乱は緑の矢印で,180°では同じ直線上を逆向きに進む. 波長λ = 71.0 pmのX線を左から炭素に当てる.上段は入射方向に対して90°の検出器,下段は180°の検出器を示す別々の配置.入射は青,散乱は緑の矢印で,180°では同じ直線上を逆向きに進む.
解答を見る

考え方 コンプトン散乱の式 λ′−λ=hmc(1−cos⁡ϕ) で波長を求め,電子のエネルギーはエネルギー保存で光子のエネルギーの差として求める.相対論が要るかは,電子の運動エネルギーと静止エネルギー mc2 を比べて判断する.

  1. コンプトン波長は

hmc=6.63×10−349.11×10−31×3.00×108m=2.43pm

である.ϕ=90∘ では 1−cos⁡ϕ=1 なので λ′=71.0+2.43=73.4pm,ϕ=180∘ では 1−cos⁡ϕ=2 なので λ′=71.0+4.85=75.9pm である.

  1. 光子のエネルギーは,与えられた h,c,e を使い,途中の値を丸めずに求めると

E=hcλ≈17.5keV,E′=hcλ′≈16.4keV

である.電子の運動エネルギーは,エネルギー保存より

K=E−E′=1.12keV

である(差をとるので,途中の値は丸めずに計算した).

真後ろの散乱では,入射光子の運動量 h/λ が,逆向きの光子の運動量 h/λ′ と前向きの電子の運動量 pe に分かれるので,pe=h/λ+h/λ′ である.c を掛けると pec=E+E′=33.9keV で,これは mc2=511keV より十分小さい.非相対論の式で運動エネルギーを計算すると

K=pe22m=(pec)22mc2=(33.9keV)22×511keV=1.12keV

となり,上の値と一致する.K/(mc2)=2×10−3 なので,相対論を使わずに扱ってよい.

確かめ:(1) のずれは ϕ だけで決まり,入射波長によらない.(2) で光子の失ったエネルギー 1.12keV は入射エネルギーの 6.4 % で,波長が 6.8 % 伸びたことと合う(E∝1/λ).炭素の外側の電子をつなぎとめるエネルギーは 10eV 程度で,電子が受け取る 1keV よりずっと小さいので,電子を自由とみなす近似も成り立つ.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

地球の公転軌道の位置で太陽光に垂直な面が受ける光の強さは S=1.36×103Wm−2 である.太陽光の波長には幅があるが,ここではすべて波長 550nm の光子とみなす.

  1. 光子1個のエネルギーと運動量を求め,太陽光に垂直な 1m2 の面を毎秒通過する光子の数を求めよ.

  2. 太陽光を完全に反射する薄い膜(ソーラーセイル)を,太陽光に垂直に広げる.面積 1m2 あたりに働く力を,光子の数と1個の運動量の変化から求めよ.また,その結果が光子の波長を何と仮定したかによらないことを示せ.

  3. 面積 1.0×104m2,質量(膜と積み荷の合計)50kg のソーラーセイルが,地球の公転軌道の位置にある.光の圧力による加速度を求め,太陽の重力による加速度 5.93×10−3ms−2 と比べよ.この比は太陽からの距離によるか.また,光の圧力が重力とつり合うには,面積 1m2 あたりの質量をいくらにすればよいか.

太陽から右へ進む光が,光に垂直な鏡の膜で真後ろへ反射する.矢印は光の進む向きで,実際には同じ経路を往復する光を上下に分けて描く.波長550 nm,光の強さS = 1.36 × 10³ W m⁻²と,設問(3)で与えられた面積・質量を示す.入射光子の運動量は +h/λ,反射後は −h/λ.光の圧力は太陽から遠ざかり,重力は太陽へ向かう.力と加速度の大きさは描かない. 太陽から右へ進む光が,光に垂直な鏡の膜で真後ろへ反射する.矢印は光の進む向きで,実際には同じ経路を往復する光を上下に分けて描く.波長550 nm,光の強さS = 1.36 × 10³ W m⁻²と,設問(3)で与えられた面積・質量を示す.入射光子の運動量は +h/λ,反射後は −h/λ.光の圧力は太陽から遠ざかり,重力は太陽へ向かう.力と加速度の大きさは描かない.
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考え方 光の強さ S は「光子1個のエネルギー」×「単位面積を毎秒通る光子の数」である.力は,膜が単位時間に光子から受け取る運動量として数える.反射では光子の運動量の向きが逆になるので,1個あたり 2h/λ を受け取る.

  1. 光子1個のエネルギーと運動量は

E=hcλ=6.63×10−34×3.00×108550×10−9J=3.62×10−19J (2.26eV)
p=hλ=6.63×10−34550×10−9kgms−1=1.21×10−27kgms−1

である.1m2 を毎秒通る光子の数は

J=SE=1.36×1033.62×10−19m−2s−1=3.76×1021m−2s−1

である.

  1. 膜に垂直に当たって真後ろへ反射する光子1個の運動量の変化の大きさは 2h/λ で,膜はその反作用として同じ大きさの力積を光の進む向きに受ける.面積 1m2 あたりの力(圧力)は

P=J⋅2hλ≈9.07×10−6Nm−2

である.文字のまま計算すると

P=Shc/λ⋅2hλ=2Sc

となり,λ は消える.波長が短い光子は1個の運動量が大きいが,同じ強さなら数がちょうどその分だけ少ないからである.これは第26章で電磁波から求めた,完全に反射する面の光の圧力 2S/c と一致する.

  1. 膜に働く力は F=PA=9.07×10−6×1.0×104N=9.1×10−2N で,加速度は

a=F50=1.8×10−3ms−2

である.太陽の重力による加速度との比は,丸める前の加速度を使うと a/(5.93×10−3ms−2)≈0.31 である.光の強さ S も重力も太陽からの距離の2乗に反比例するので,この比は距離によらない.

光の圧力と重力がつり合うのは,面積 1m2 あたりの質量を σ として 2S/c=σgs(gs=5.93×10−3ms−2)のときなので

σ=2Scgs=2×1.36×1033.00×108×5.93×10−3kgm−2=1.53×10−3kgm−2

である.つまり 1m2 あたり 1.53g まで軽くする必要がある.

確かめ:(3) のセイルは 1m2 あたり 5g で,つり合いの値の約3倍重いので,比が 1.53/5≈0.31 になることと合う.ここでは膜がつねに太陽光に垂直で,光を完全に反射するとした.光を吸収する黒い膜なら1個あたりの運動量の変化は h/λ で,力は半分になる.また太陽光を1つの波長で代表させたが,(2) で見たとおり力は S だけで決まるので,この近似は (2)(3) の結果に影響しない.影響するのは (1) の光子1個のエネルギー・運動量と光子の数である.

ポイント ここまでのまとめ

  • 光電効果の Vs と ν のグラフは傾き h/e の直線で,傾きからプランク定数,横軸との交点から限界振動数と仕事関数が決まる.光の強さはグラフを変えない.

  • コンプトン散乱の波長のずれは hmc(1−cos⁡ϕ) で,コンプトン波長 2.43pm が目安になる.

  • 反跳電子のエネルギーは光子のエネルギーの差で求め,mc2=511keV と比べて相対論が要るかを判断する.

  • 光の強さを光子1個のエネルギーで割ると光子の数の流れになり,それに1個の運動量の変化を掛けると光の圧力になる.結果は波長によらず,第26章の S/c(吸収),2S/c(反射)と一致する.

03光子と光電効果の演習

エネルギーと個数を区別しましょう.数値計算では h=6.63×10−34Js,c=3.00×108ms−1,e=1.60×10−19C,電子質量 m=9.11×10−31kg,1eV=1.60×10−19J を使います.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

仕事関数 W=2.40eV の金属に,波長 600nm と 400nm の単色光を別々に当てます.1個の電子が1個の光子を吸収する光電効果だけを考えます.

  1. 限界波長と,電子が放出される光を求めよ.

  2. 放出電子の最大運動エネルギーと阻止電圧の大きさを求めよ.600nm の光の強さだけを増しても電子が出ない理由を説明せよ.

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考え方

光子のエネルギーで放出を判定し,電子の最大運動エネルギーから阻止電圧を決める.

  1. 限界では hc/λ0=W だから,λ0=hc/W=518nm.光子のエネルギーは hc/λ より順に 2.07eV,3.11eV なので,後者だけが電子を放出する.

  2. 丸めずに Kmax=hc/λ−W=0.708eV.阻止電圧を Vs>0 とすると eVs=Kmax より Vs=0.708V.長波長の光を強くしても光子の数が増すだけで,1個のエネルギーは仕事関数に届かない.限界へ短波長側から近づくと Kmax→0 となる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

電子を電圧 V=25kV で加速して標的に当てるX線管があります.電子の電流は I=0.80mA です.初速は無視します.光子のエネルギーは電子の入射エネルギー以下です.

  1. 連続X線の最短波長を求めよ.電圧だけを2倍にする場合と,電流だけを2倍にする場合を比較せよ.

  2. 電源の供給電力の1.5 %が,波長 0.080nm の近くの狭い帯で取り出されます.帯内の波長を等しいとし,毎秒の光子数を求めよ.

電子源から出た電子を電圧V=25 kVで加速して標的に当てる.電子線の電流はI=0.80 mAで,取り出すX線の狭い帯の波長は0.080 nmである. 電子源から出た電子を電圧V=25 kVで加速して標的に当てる.電子線の電流はI=0.80 mAで,取り出すX線の狭い帯の波長は0.080 nmである.
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考え方

最短波長と光子数を,電子のエネルギーと電力から別々に決める.

  1. 電子の入射エネルギーは eV.全てを光子1個へ渡す場合が上限なので hc/λmin=eV,従って λmin=hc/(eV)=0.050nm.電圧2倍なら 0.025nm,電流2倍なら 0.050nm のままである.

  2. 電源の電力は VI=20W,帯内の放射電力は P=0.015VI=0.30W.光子の個数率は N˙=Pλ/(hc)=1.2×1014s−1.近似には帯幅 Δλ/λ が十分小さいことが必要である.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

波長 300nm の光を真空光電管の陰極に当て,電子を全て集める電圧で次の電流を測りました.P は入射電力で,丸め以外の誤差を無視します.電流は一定の暗電流 Id と光電子による電流の和です.光子1個あたりの平均放出電子数は入射電力によらず一定とします.

P(μW)

I(μA)

0.00

0.020

0.50

0.056

1.00

0.092

  1. 光子1個あたりの放出電子数を η として,I と P の式を作り,表から Id,η を求めよ.

  2. P=2.00μW での電流を予測せよ.仕事関数が 2.10eV なら,暗電流を差し引いた光電流を止める電圧はいくらか.光を強くしたとき,電流と阻止電圧はどう変わるか.

波長λ=300 nm,入射電力Pの光を陰極へ当てる.可変電源と電流計を接続し,陰極を基準とする集電子極の電位をVとする. 波長λ=300 nm,入射電力Pの光を陰極へ当てる.可変電源と電流計を接続し,陰極を基準とする集電子極の電位をVとする.
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考え方

直線の切片を暗電流,傾きを光子から電子への変換割合と結びつける.

  1. 光子の個数率は P/(hc/λ),電子の個数率はその η 倍だから

I=Id+eηλhcP.

切片は Id=0.020μA,傾きは s=(0.092−0.020)/1.00=0.072AW−1.従って η=shc/(eλ)=0.30.他の点もこの直線に合う.

  1. I=Id+sP=0.164μA.阻止電圧は eVs=hc/λ−W より Vs=2.04V.集電子極を陰極よりこの大きさだけ低い電位にする.強さで光電流は増すが,波長一定なら Vs は変わらない.外挿には収量一定の仮定が必要である.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

静止した自由電子へ,波長 λ=2λc,λc=h/(mc) の光子を +x 方向へ進むように入射させます.散乱光子は +y 方向へ進みます.散乱角を ϕ とし, λ′−λ=λc(1−cos⁡ϕ) です.

  1. 反跳電子の運動エネルギー K と運動量の成分 px,py を求めよ.

  2. 電子の進む向きと運動量の大きさを求め,K を電子ボルトで評価せよ.相対論の式 Ee2=m2c4+p2c2,Ee=mc2+K に合うことも確かめよ.

原点で静止していた電子へ,波長λ=2λcの光子が+x方向に入射する.散乱光子は+y方向へ進む.図のφは散乱角を表す. 原点で静止していた電子へ,波長λ=2λcの光子が+x方向に入射する.散乱光子は+y方向へ進む.図のφは散乱角を表す.
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考え方

エネルギーと運動量をそれぞれ保存させる.

  1. ϕ=π/2 より λ′=3λc.Eγ=hc/λ より光子のエネルギーは mc2/2,mc2/3 だから K=mc2/6.pγ=h/λ より運動量保存は mc/2=px,0=mc/3+py なので px=mc/2,py=−mc/3 である.

  2. 電子は +x 軸より下側へ,角度 θ=arctan⁡(2/3)=33.7∘ で進む.p=px2+py2=13mc/6,K=8.54×104eV.Ee=mc21+13/36=7mc2/6 で確かに Ee−mc2=K.K/(mc2)=1/6 は十分小さくなく,非相対論的な p2/(2m) を使う誤差は無視できない.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

静止原子が光子1個を吸収して内部エネルギーを ϵ0 だけ増します.原子の質量を一定の M とし,並進運動は K=p2/(2M) とする非相対論的模型です.ϵ0/(Mc2) は十分小さいとします.

  1. 光子エネルギー Eγ を保存則から求め,補正の最初の項まで近似せよ.

  2. M=6.64×10−26kg,ϵ0=2.00eV で補正と反跳速度を評価せよ.逆向きの同じ光子2個を同時に吸収できるなら,各光子のエネルギーはどうなるか.

左は静止原子へ光子1個が入射する配置である.右は等しいエネルギーの光子が左右から同時に入射する配置である.どちらも内部エネルギー増加はε0である. 左は静止原子へ光子1個が入射する配置である.右は等しいエネルギーの光子が左右から同時に入射する配置である.どちらも内部エネルギー増加はε0である.
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考え方

入射エネルギーを内部と並進へ分ける.

  1. 運動量保存は p=Eγ/c,エネルギー保存は Eγ=ϵ0+Eγ2/(2Mc2).A=Mc2 とおくと,低い方の根は

Eγ=A(1−1−2ϵ0/A)≈ϵ0+ϵ022Mc2

となる.最後は 1−2u≈1−u−u2/2 の展開である.高い根は近似範囲外である.

  1. 補正は ϵ02/(2Mc2)=5.35×10−11eV,速度は v=p/M≈ϵ0/(Mc)=1.61×10−2ms−1.逆向きの同じ光子2個なら全運動量が0で反跳もなく,光子のエネルギーは ϵ0/2 である.ϵ0/(Mc2)≈5.35×10−11 と小さく,質量一定と非相対論的並進の近似は整合する.

ポイント 教える人へ

  • 強さと振動数を変えたときの電流と阻止電圧を問います.

  • 暗電流を差し引き,光子と電子を別々に数えさせます.

  • 散乱の運動量保存と吸収のエネルギー配分を問います.

  • 反跳の近似を光子と静止エネルギーの比で確かめさせます.

04物質波と確率の振幅

問い

電子を1個ずつ,細い2つのすき間のあるついたてに向けて撃ちます.後ろのスクリーンには,電子が1個届くたびに小さな点が1つ光ります.はじめは点がでたらめに散らばるだけですが,何万個も届くと,点の多い所と少ない所が交互に並んだ縞が現れます.光の2重スリットの縞(第27章)とそっくりです.電子は点として届くのに,届く場所の分布は波の干渉の形をしています.粒が縞を作るとは,どういうことでしょうか.

考えてみる

前の題材の最後で見たように,光の2重スリットの縞も,光を十分弱くすると,エネルギー hν と運動量 h/λ をもつ光子が1個ずつ点として届き,点が積み重なってできます.電子の実験はこれと同じ形をしています.

素朴に考えると,電子は小さな粒なので,上のすき間か下のすき間のどちらか一方を通るはずです.そうなら,スクリーンでの分布は「上だけ開けたときの分布」と「下だけ開けたときの分布」の和になるはずで,縞はできません.実際には,両方を開けると,片方だけのときには電子がたくさん届いていた所に,ほとんど届かなくなる場所が現れます.すき間を1つ増やしたのに,届く数が減る場所があるのです.これは波の打ち消し合いでしか説明できません.そこで,電子にも波長を割り当てることから始めます.

電子の質量

電子の波長を計算するには,電子の質量が要ります.電子の質量を直接はかりで量ることはできませんが,2つの測定を組み合わせると決まります.1つは,電場と磁場の中で電子線の曲がり方を調べて比電荷 e/m を求める測定(トムソン,第22章)です.比電荷は e/m=1.76×1011Ckg−1 です.もう1つは,油滴の電荷が飛び飛びの値をとることから電気素量 e=1.60×10−19C を求める測定(ミリカン,第20章)です.割り算をすると

m=ee/m=1.60×10−191.76×1011kg=9.1×10−31kg

で,水素原子の約 1/1840 です.電荷 −e で質量 m の粒子として,電子の運動はこれまで力学と電磁気で十分に説明できてきました.

ド・ブロイ波長

光子では,運動量と波長が p=h/λ で結ばれていました.ド・ブロイは,逆に,運動量 p をもつどんな粒子にも,同じ式で決まる波長の波がともなうと考えました.

法則 ド・ブロイの関係

運動量の大きさ p の粒子には,波長

λ=hp

の波がともなう.この波を物質波,λ をド・ブロイ波長という.

静止していた電子を電圧 V で加速すると,運動エネルギーは eV=p22m なので p=2meV で

λ=h2meV

です.数値を入れると,V をボルトで表して λ≈1.23Vnm となり,V=100V で λ=0.123nm です.これは結晶の中の原子の間隔(0.1〜0.3nm)と同じ程度です.

この式は運動エネルギーを p2/(2m) としたので,運動エネルギーが静止エネルギー mc2=511keV に比べて十分小さいとき,つまり 1≫eV/(mc2) のときだけ使えます.V=100V なら eV/(mc2)=2×10−4 で問題ありません.電子顕微鏡のように 100kV を超えると,前の題材で示した相対論の関係 E2=(mc2)2+(pc)2(E=mc2+eV)から p を出す必要があり,λ=h/2meV(1+eV/(2mc2)) になります.

一方,質量 0.14kg のボールが 40ms−1 で飛ぶと,λ≈1×10−34m です.原子核の 10−19 倍も短く,これを回折させるすき間はありません.身の回りの物体の波の性質が見えないのは,h が小さいからです.

電子線回折

電子が波なら,結晶に当てると X 線と同じように回折するはずです.1927年,デビッソンとジャーマーは,ニッケルの結晶の表面に 54eV の電子を当て,散乱される電子の数が特定の向き(入射の向きから 50∘)で鋭く大きくなることを見つけました.表面に並ぶ原子の列(間隔 0.215nm)を回折格子とみると,強め合いの条件は 0.215nm×sin⁡50∘=0.165nm の波長を与えます.ド・ブロイの式は 1.23/54nm=0.167nm で,よく一致します.同じころ G. P. トムソンは,薄い金属の膜に電子線を通して,X 線の粉末回折と同じ形の同心円の環を撮りました.

結晶の中では,原子が等間隔 d の平行な面(格子面)に並んでいます.第27章で見たように,面とのなす角 θ で入った波が隣り合う面で反射すると,道のりの差は 2dsin⁡θ なので,強め合う条件は

2dsin⁡θ=nλ(n=1,2,…)

です(ブラッグ条件).θ は面とのなす角で,入射の向きから測った散乱の角はその2倍の 2θ であることに注意します.向きのばらばらな小さな結晶の集まり(粉末や多結晶の膜)では,条件を満たす結晶がどの向きにもあるので,散乱された電子は頂角 2θ の円錐の上に並び,スクリーンに環を描きます.

左の電子銃で電圧Vにより加速した電子が,多結晶の薄膜で散乱して右のスクリーンに同心円の環を作る.2θは入射方向から測った散乱角で,円錐の軸と母線のなす角である.下の挿入図では格子面の間隔d,面とのなす角θと,橙色の2区間の和である道のりの差2d sinθを示す.配置と角度は模式的に描いた. 左の電子銃で電圧Vにより加速した電子が,多結晶の薄膜で散乱して右のスクリーンに同心円の環を作る.2θは入射方向から測った散乱角で,円錐の軸と母線のなす角である.下の挿入図では格子面の間隔d,面とのなす角θと,橙色の2区間の和である道のりの差2d sinθを示す.配置と角度は模式的に描いた.

電子線の波長は加速電圧で自由に変えられ,可視光よりずっと短くできます.顕微鏡で見分けられる2点の間隔は波長程度が限界(第27章)なので,電子線を使う電子顕微鏡は,光の顕微鏡では見えない原子の並びまで見分けられます.中性子も,原子の間隔ほどの波長をもつように遅くすれば,結晶で回折します.

振幅を足してから2乗する

2つのすき間の実験に戻ります.光の干渉では,2つのすき間からの波の振幅(電場)を足し,その2乗が明るさ(光子が届く割合)でした.電子でも同じ規則が成り立ちます.

定義 確率振幅と波動関数

電子がある場所に届く過程ごとに,複素数の確率振幅 ψ が決まる.電子がそこで見つかる確率(1個あたり,単位の長さや面積あたり)は |ψ|2 に比例する.場所ごとの確率振幅を場所の関数とみたものを波動関数という.

すき間1を通る経路の振幅を ψ1,すき間2を通る経路の振幅を ψ2 とします.どちらを通ったか区別する手段がないとき,振幅を足してから2乗します.ψ1=a1eiϕ1,ψ2=a2eiϕ2(a1,a2>0)と書き,第7章のオイラーの式を使うと

|ψ1+ψ2|2=a12+a22+2a1a2cos⁡(ϕ2−ϕ1)

です.最後の項が干渉の項で,位相の差 ϕ2−ϕ1 によって正にも負にもなります.すき間の間隔を d,スクリーンの向き θ への道のりの差を dsin⁡θ とすると,位相の差は 2πdsin⁡θ/λ で,光と同じ位置に縞ができます.a1=a2 なら,暗い所では確率が完全に0になります.片方を開けたときには届いていた場所に,両方を開けると届かなくなるのは,この打ち消し合いのためです.

1個の電子は,スクリーンのどこか1か所に点として届きます.どこに届くかは予言できず,予言できるのは |ψ|2 に比例する確率だけです.縞は,1個ずつの電子が他の電子と干渉して作るのではなく,1個の電子の2つの経路の振幅が干渉して決まる確率の分布が,たくさんの点の積み重ねで見えたものです.

[図:電子の点が積み重なって縞になる]

初期状態は,経路を調べずに届いた1000個の電子の点と,確率分布の縞を示す.スライダーで10個から10000個まで増やすと,点の集まりが縞の形に近づく.どちらを通ったか調べると,分布が|ψ₁|² + |ψ₂|²の縞のない形に変わる.下の曲線は各分布の形で,縦の尺度は相対的に示す.

では,すき間のそばに光を当て,電子がどちらを通ったか見たらどうなるでしょうか.実際にそうすると,縞は消え,分布は片方ずつの分布の和 |ψ1|2+|ψ2|2 になります.どちらを通ったか区別できる(原理的に区別できる記録が残る)ときは,振幅ではなく確率を足すのです.

ポイント 振幅と確率の足し方

  • 区別できない経路を通って同じ結果に至るとき:振幅を足してから2乗する.P=|ψ1+ψ2|2.

  • 経路を区別できるとき:経路ごとに2乗してから確率を足す.P=|ψ1|2+|ψ2|2.

この規則は光子でも電子でも同じです.なぜ見ると縞が消えるのか,この規則だけから量子力学をどう組み立てるのかは,すぐ次の第30章(発展)で,この2つのすき間の実験から始めてくわしく扱います.

不確定性関係の見積もり

なぜ経路を見ると縞が消えるのかは,次の見積もりからも分かります.幅 a の1つのすき間に,運動量 p の電子を正面から通すとします.すき間を通った電子の横の位置は,幅 a の範囲に決まります.ところが,回折のために,通った後の電子は角 λ/a 程度の範囲に広がります(第27章の単スリットの回折,最初の暗線は sin⁡θ=λ/a).つまり横の運動量は

Δpx∼pλa=ha

程度の範囲でばらつきます.横の位置の幅を Δx=a とすると ΔxΔpx∼h です.すき間を狭めて位置をはっきりさせるほど,横の運動量はばらつきます.

電子線は左から右へ進み,横の座標xは図の上向きである.幅aのすき間を通ると横の位置の幅はΔx = aになり,回折によってλ/a程度の角に広がる.下図では同じ大きさpの運動量を共通の始点から描き,緑の横成分が正負にばらつく幅Δp_xを示す.幅と角度は桁の見積もりを表す. 電子線は左から右へ進み,横の座標xは図の上向きである.幅aのすき間を通ると横の位置の幅はΔx = aになり,回折によってλ/a程度の角に広がる.下図では同じ大きさpの運動量を共通の始点から描き,緑の横成分が正負にばらつく幅Δp_xを示す.幅と角度は桁の見積もりを表す.

法則 不確定性関係(見積もり)

粒子の位置と運動量を同時に決めようとすると,それぞれの不確かさ Δx,Δpx は

ΔxΔpx∼h

程度より小さくできない.

右辺の係数(h か ℏ か ℏ/2 か)は「不確かさ」の定め方によるので,ここでは桁の見積もりにだけ使います.電子がどちらのすき間を通ったか光で見分けるには,すき間の間隔 d より短い波長の光が要ります.その光子が電子に当たると,電子は h/d 程度の横の運動量を受け取り,進む向きが λ/d 程度ばらつきます.これは縞の間隔の角度と同じ程度なので,縞はぼやけて消えます.位置を調べると,干渉を起こすのに必要な運動量の確かさが失われるのです.

問いに戻る

電子は,届くときにはいつも1個の点です.届く場所の確率は,電子が通りうる経路ごとの複素数の振幅を足して2乗した |ψ1+ψ2|2 で決まり,振幅の波長はド・ブロイの関係 λ=h/p で決まります.1個ずつの点はでたらめに見えますが,たくさん集めると確率の分布である縞が見えてきます.どちらを通ったかを調べると,確率を足す規則に変わり,縞は消えます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 比電荷と電気素量から電子の質量 m=9.1×10−31kg が決まる.

  • 運動量 p の粒子には波長 λ=h/p の物質波がともなう.電圧 V で加速した電子では λ=h/2meV(1≫eV/(mc2) のとき).

  • 電子線は結晶でブラッグ条件 2dsin⁡θ=nλ を満たす向きに回折する.散乱の角は 2θ.

  • 見つかる確率は確率振幅の絶対値の2乗.区別できない経路は振幅を足し,区別できる経路は確率を足す.

  • 位置と運動量の不確かさは ΔxΔpx∼h 程度より小さくできない.

05物質波の例題

前の節で,運動量 p の粒子に波長 λ=h/p の波がともなうこと,その波が結晶でブラッグ条件 2dsin⁡θ=nλ を満たす向きに回折することを見ました.この節では,加速電圧から波長を求める計算,結晶による電子線の回折,中性子の波長と結晶の3つを例題で確かめます.数値は h=6.63×10−34Js,e=1.60×10−19C,電子の質量 m=9.11×10−31kg,陽子と中性子の質量 1.67×10−27kg,c=3.00×108ms−1,ボルツマン定数 kB=1.38×10−23JK−1 を使います.

どの例題でも,はじめに「運動エネルギー → 運動量 → 波長」の順に変換します.非相対論的な運動では K=p22m なので p=2mK,λ=h2mK です.この式が使えるのは 1≫K/(mc2) のときなので,答えを出したら必ずこの比を確かめます.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

静止していた電子を電圧 V で加速する.

  1. V=150V のときのド・ブロイ波長を求めよ.

  2. 波長を 0.0500nm にするには,加速電圧をいくらにすればよいか.このとき,非相対論的な式を使ってよいことを確かめよ.

  3. 静止していた陽子を同じ 150V で加速したときの波長は,(1) の何倍か.

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考え方

電場がする仕事 eV が運動エネルギーになる.運動量は p=2meV で,波長は λ=h/p である.同じ電圧なら運動エネルギーは同じで,運動量は m に比例する.

解答

  1. eV=1.60×10−19×150=2.40×10−17J である.

p=2meV=2×9.11×10−31×2.40×10−17kgms−1=6.61×10−24kgms−1

従って λ=h/p=1.00×10−10m=0.100nm である.

  1. λ∝V−1/2 だから,波長を 0.100 から 0.0500nm へ半分にするには電圧を4倍にすればよい.丸めずに計算すると

V=h22meλ2=6.03×102V

である.mc2=9.11×10−31×(3.00×108)2J=8.20×10−14J で,1eV=1.60×10−19J から mc2=5.1×105eV.従って eV/(mc2)=600/(5.1×105)=1.2×10−3 で十分小さく,非相対論的な式を使ってよい.

  1. 電荷の大きさが同じなので運動エネルギーは同じで,波長は λ∝1/m である.

λpλ=9.11×10−311.67×10−27=0.0234

で,陽子の波長は 2.34×10−12m である.

確かめ (1) を λ≈1.23/Vnm で見積もると 1.23/12.2=0.100nm で一致する.重い粒子ほど同じエネルギーでも運動量が大きく,波長は短い.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

静止していた電子を電圧 600V で加速し,向きのばらばらな小さな結晶が集まった薄い膜に垂直に当てる.膜から距離 L=0.300m の所に,電子線に垂直なスクリーンを置く.結晶の格子面の間隔は d=0.234nm とする.

  1. 電子のド・ブロイ波長を求めよ.

  2. この格子面による1次の反射で,スクリーンに現れる環の半径を求めよ.

  3. この格子面で反射が起こる次数 n は最大でいくつか.

  4. 加速電圧を4倍にすると,(2) の環の半径はおよそ何倍になるか.

電圧600 Vで加速した電子を薄い多結晶膜に垂直に当て,L = 0.300 m先のスクリーンで回折環を観測する配置の断面図.折れ角を 2θ,環の半径を r と記す.挿入図には間隔 d の格子面と,面とのなす角 θ を描く.θ,2θ,r の値は描かない. 電圧600 Vで加速した電子を薄い多結晶膜に垂直に当て,L = 0.300 m先のスクリーンで回折環を観測する配置の断面図.折れ角を 2θ,環の半径を r と記す.挿入図には間隔 d の格子面と,面とのなす角 θ を描く.θ,2θ,r の値は描かない.
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考え方

ブラッグ条件の θ は格子面とのなす角で,電子線の曲がる角はその2倍の 2θ である.膜の中には条件を満たす向きの結晶が必ずあるので,曲げられた電子は軸とのなす角が 2θ の円錐に沿って進み,スクリーンに環を作る.

解答

  1. 例題1と同じく λ=h/2meV で,V=600V を入れると λ=5.01×10−11m=0.0501nm である.eV/(mc2)=1.2×10−3 なので相対論の補正は要らない.

  2. 1次の反射では 2dsin⁡θ=λ だから

sin⁡θ=λ2d=0.05012×0.234=0.107,θ=6.15∘

である.曲がる角は 2θ=12.3∘ で,環の半径は

r=Ltan⁡2θ≈6.54×10−2m

である.

  1. sin⁡θ≤1 から n≤2d/λ=2×0.234/0.0501=9.3 である.従って最大の次数は n=9 である.ただし n が大きいと 2θ が 90∘ を超え,電子は膜の手前側へ戻るので,前方のスクリーンには写らない.

  2. 電圧を4倍にすると波長は半分になる.角が小さいので sin⁡θ≈θ,tan⁡2θ≈2θ とすると r≈2Lθ≈Lλ/d で,半径は波長に比例する.従って環の半径はおよそ 1/2 倍になる.実際に計算すると θ=3.07∘,r=3.23×10−2m で,0.493 倍である.

確かめ 小角近似 r≈Lλ/d=0.300×0.0501/0.234m=6.4×10−2m は (2) とほぼ一致する.ずれは 2θ=0.21 が1に比べて小さいとした近似の誤差で,角の2乗の程度(約2 %)である.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

原子炉から出た中性子を,温度 T=300K の重水の中で何度も衝突させて減速すると,中性子の平均の運動エネルギーは 32kBT になる.このエネルギーをもつ中性子(質量 mn)を,格子面の間隔 d=0.335nm の黒鉛の結晶に当て,ブラッグ反射させて一定の波長の中性子だけを取り出す.

  1. この中性子の運動エネルギー(eV 単位),運動量,ド・ブロイ波長,速さを求めよ.

  2. 1次の反射でこの波長の中性子を取り出すには,格子面と中性子線のなす角 θ をいくらにすればよいか.

  3. 同じ角では,波長が半分の中性子も2次の反射で取り出されてしまう.その運動エネルギーを求めよ.この2つの中性子を,結晶から 10.0m 先の検出器に届くまでの時間で分けられることを示せ.中性子は結晶の位置で十分短いパルスにし,検出器の時間分解能も十分高いものとする.

    1. と同じ波長の X 線の光子のエネルギーを求め,中性子の運動エネルギーと比べよ.

T = 300 Kの重水から出た中性子線が,格子面の間隔d = 0.335 nmの黒鉛結晶で反射し,反射した向きの10.0 m先にある検出器へ進む.θは格子面と入射する中性子線のなす角である.配置と角度は模式的に描いた. T = 300 Kの重水から出た中性子線が,格子面の間隔d = 0.335 nmの黒鉛結晶で反射し,反射した向きの10.0 m先にある検出器へ進む.θは格子面と入射する中性子線のなす角である.配置と角度は模式的に描いた.
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考え方

温度から運動エネルギーを決め,運動量と波長に直す.ブラッグ条件 2dsin⁡θ=nλ は nλ だけで決まるので,同じ角で λ と λ/2 の両方が反射される.波長が半分なら運動量は2倍,速さも2倍で,到着時間が違う.

解答

  1. 運動エネルギーは

K=32kBT=32×1.38×10−23×300J=6.21×10−21J=0.0388eV

である.運動量は p=2mnK=3mnkBT=4.55×10−24kgms−1 で,波長は

λ=hp=6.63×10−344.55×10−24m=1.46×10−10m

である.速さは v=p/mn=2.73×103ms−1 である.波長は結晶の原子の間隔と同じ程度なので,中性子は結晶で回折する.

  1. 丸める前の波長を使うと sin⁡θ=λ/(2d)≈0.217 から θ=12.5∘ である.

  2. 波長が半分なら運動量は2倍で,運動エネルギーは4倍の K′=0.155eV である.2dsin⁡θ=2×(λ/2) なので,確かに同じ角で2次の反射が起こる.10.0m を進む時間は,波長 λ の中性子では

t=10.0mv≈3.67×10−3s

で,波長 λ/2 の中性子では速さが2倍なので半分の 1.83×10−3s である.中性子を短い時間だけ通すシャッターで出発の時刻をそろえれば,到着時刻の差 1.8ms で2つを分けられる.

  1. 光子のエネルギーは

hcλ≈1.37×10−15J=8.54×103eV

である.同じ波長でも,中性子の運動エネルギー 0.0388eV は X 線の光子のエネルギーの約 2×105 分の1しかない.光子は E=pc,遅い中性子は K=p2/(2mn) で,同じ運動量でもエネルギーが大きく違うからである.

確かめ K/(mnc2)=0.0388/(9.4×108) は極めて小さく,非相対論的な式でよい.中性子の運動エネルギーは原子の熱運動のエネルギーと同じ程度なので,中性子の散乱では結晶の原子の振動とのエネルギーのやりとりも測れる.これが X 線にない中性子線の長所である.

ポイント ここまでのまとめ

  • 運動エネルギー → 運動量 → 波長の順に変換する.非相対論的なら λ=h/2mK.使えるのは 1≫K/(mc2) のとき.

  • 同じ電圧で加速すると,波長は 1/m に比例する.

  • ブラッグ条件の θ は格子面とのなす角で,粒子の曲がる角は 2θ.多結晶では頂角 2θ の円錐に沿って散乱し,環ができる.

  • 同じ角で λ と λ/2 の両方が反射されるので,飛行時間などで分ける.

  • 同じ波長でも,遅い中性子のエネルギーは光子よりはるかに小さい.

06物質波と電子線回折の演習

運動量,波長,回折を結びつけましょう.計算では h=6.63×10−34Js,e=1.60×10−19C,c=3.00×108ms−1,電子の質量 m=9.11×10−31kg を使い,演習1では質量も求めます.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

比電荷は e/m=1.76×1011Ckg−1 と測定されました.中性子の質量は mn=1.67×10−27kg です.

  1. 質量と,速さ 2.00×106ms−1 の電子,速さ 1.00×103ms−1 の中性子の波長を求めよ.

  2. 質量 0.14kg,速さ 40ms−1 のボールの波長を求め,幅 1.0mm のすき間で回折を観測しにくい理由を述べよ.

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考え方

比電荷から質量を決め,運動量 p=mv と λ=h/p を用いる.

  1. m=e/(e/m)=9.09×10−31kg.従って電子では λ=h/(mv)=3.65×10−10m,中性子では λ=h/(mnv)=3.97×10−10m.

  2. λ=h/(0.14×40)=1.2×10−34m.幅 a での回折角は θ∼λ/a∼1.2×10−31 で,広がりは観測できない.電子も v/c=0.00667 と小さく非相対論的である.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

電子顕微鏡の分解能を δ=0.61λ/sin⁡α で見積もります.α は入射波の半角です.電子を初速0から電圧 V=5.0kV で加速し,α=0.020rad とします.収差と散乱は無視します.

  1. 電子と,同じ半角で波長 500nm の光の分解能を求めよ.

  2. 電圧だけを4倍,開きの半角だけを2倍にすると,分解能はどう変わるか.高電圧でも λ=h/2meV を使い続けられるか.

物体の2点間の間隔をδとし,一方の点からレンズへ入る波の半角をαで示す.α=0.020 radである.光路と間隔は模式的に描いている. 物体の2点間の間隔をδとし,一方の点からレンズへ入る波の半角をαで示す.α=0.020 radである.光路と間隔は模式的に描いている.
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考え方

運動量を分解能の式へ代入する.

  1. eV=mv2/2=p2/(2m) だから λ=h/2meV=1.7×10−11m.sin⁡α≈α として δ=0.61λ/α=5.3×10−10m.光では δ=0.61×500nm/0.020=1.5×10−5m.

  2. δ∝V−1/2/α より,どちらも約半分になる.α2 と eV/(mc2) が小さい必要がある.後者は初め0.0098である.この比が1程度では波長の式は使えない.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

電子の2経路干渉で,検出位置への振幅を ψ1=A,ψ2=(A/2)eiϕ とします.A>0 で,計数率は振幅の絶対値の2乗に比例します.経路1だけを開いた計数率を J0 とします.

  1. 両経路での計数率 J(ϕ) と,最大・最小の計数率を求めよ.逆位相でも0にならない理由を述べよ.

  2. 到達割合を保って経路を識別すると,計数率はどうなるか.

電子の経路1と経路2は共通の検出位置へ達する.振幅は経路1でA,経路2でA/2であり,相対位相はφである. 電子の経路1と経路2は共通の検出位置へ達する.振幅は経路1でA,経路2でA/2であり,相対位相はφである.
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考え方

経路を識別しなければ振幅を,識別すれば確率を加える.

  1. 実部と虚部を2乗して

JJ0=|ψ1+ψ2|2A2=(1+cos⁡ϕ2)2+(sin⁡ϕ2)2=54+cos⁡ϕ.

従って ϕ=0 で Jmax=9J0/4,ϕ=π で Jmin=J0/4.逆位相でも差 A/2 が残る.

  1. 経路を識別すると J/J0=(|ψ1|2+|ψ2|2)/A2=5/4 で位相によらない.識別しなければ多数回の到達で縞が現れる.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

粉末試料の電子線回折で,面間隔 d の1次反射の環の半径 r を測ります.試料からスクリーンの距離は D=0.200m.表示電圧 V に一定のずれ V0 があり,電子の運動エネルギーは e(V+V0) です.半径の不確かさは各1 %,電圧の誤差は無視します.中心値で解け.

V(V)

r(mm)

1000

6.00

2500

4.00

4600

3.00

  1. 結晶面との角を θ とすると 2dsin⁡θ=λ,散乱角は 2θ です.小角近似で Y=1/r2 と電圧の関係を直線で表せ.

  2. 最初の2点から V0,d を決め,3点目を検算せよ.

  3. Y の相対不確かさは約何 %か. ΔY/Y≈−2Δr/r としてよいとします.

試料からスクリーンまでの距離はD=0.200 mである.結晶面との角θと散乱角2θを示す.右の正面図では回折環の半径rを示す.角度と長さは模式的に描いている. 試料からスクリーンまでの距離はD=0.200 mである.結晶面との角θと散乱角2θを示す.右の正面図では回折環の半径rを示す.角度と長さは模式的に描いている.
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考え方

半径を波長へ変換し,電圧のずれを直線の切片から求める.

  1. r=Dtan⁡2θ≈2Dθ,λ=2dsin⁡θ≈2dθ=dr/D.また λ2=h2/[2me(V+V0)] なので

Y=1r2=2med2D2h2(V+V0)=aV+b,b=aV0.
  1. SI単位で,a=(6.25×104−2.7778×104)/1500=23.1m−2V−1.b=2.7778×104−1000a=4.63×103m−2 より V0=b/a=200V.丸めずに d=Dha/(2me)=1.18nm.3点目では Y=a(4600+200)=1.1111×105m−2,従って r=3.00mm で一致する.

  2. 相対不確かさは約2 %である. r/D=0.0300 と e(V+V0)/(mc2)<0.010 が小さい.相対論補正は約0.3 %以下で,測定の不確かさより小さい.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

速さ v=8.0×102ms−1,質量 mn=1.67×10−27kg の中性子のビームを幅 a のすき間へ通します.距離 D=0.50m のスクリーンでの横幅を次の模型で見積もります.

s(a)=a+2DΔpxp,p=mnv,Δpx∼ha.

最後は等号とせよ.

  1. s(a) を最小にする幅と最小値を求めよ.

  2. その幅での横運動エネルギー (Δpx)2/(2mn) を求め,狭め続けても像が細くならない理由を説明せよ.

平行な中性子ビームを幅aのすき間に通し,距離D=0.50 mのスクリーンで横幅sを測る.広がりは模式的に示している. 平行な中性子ビームを幅aのすき間に通し,距離D=0.50 mのスクリーンで横幅sを測る.広がりは模式的に示している.
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考え方

すき間の幅と回折の広がりの和を最小にする.

  1. λ=h/p=5.0×10−10m より s=a+2Dλ/a.dsda=1−2Dλ/a2=0 から a∗=2Dλ=2.2×10−5m.微分の符号が負から正になり,最小値は s∗=2a∗=4.5×10−5m.

  2. Δpx=h/a∗ なので Kx∼h2/(2mna∗2)=2.7×10−31J.狭めるほど回折の広がりが増す.Δpx/p=λ/a∗=2.2×10−5 が小さく,前方速度一定の近似はよい.

ポイント 教える人へ

  • 波長は運動量で比較させます.

  • 振幅と確率の加え方を経路の識別から説明させます.

  • 散乱角とブラッグ角,直線の切片を問います.

  • すき間幅と運動量の広がりを確かめます.

07閉じこめられた粒子とエネルギー準位

問い

両端を固定した弦は,決まった振動数の音しか出しません.波長が 2L/n に限られるからでした(第25章).前の題材で,電子も波長 λ=h/p の波としてふるまうことを見ました.では,電子を長さ L の狭い場所に閉じこめると,何が起こるでしょうか.電子のエネルギーは,どんな値でもとれるのでしょうか.

考えてみる

古典力学で考えると,2枚の固い壁の間を往復する粒子は,どんな速さでも往復できます.運動エネルギーはいくらでも小さくでき,止まっていることもできます.エネルギーは連続です.

しかし粒子が波でもあるなら,事情が変わります.前の題材で,粒子を位置 x から x+dx の間に見つける確率は |ψ|2dx に比例すると学びました.粒子が箱の外に出られないなら,外では ψ=0 です.波動関数は途中で急に飛ばないので,壁の位置でも ψ=0 になります.これは,両端を固定した弦の変位が端で0になる条件と同じ形です.弦と同じように,箱の中には限られた波長の定常波しか入りません.

箱の中の粒子

質量 m の粒子が 0<x<L の中だけを動けるとします.箱の中ではポテンシャルエネルギーを0とし,壁は無限に高く,粒子を決して通さないとします.これを1次元の箱(無限に深い井戸)といいます.

境界で ψ(0)=ψ(L)=0 となる定常波は

ψn(x)=Csin⁡nπxL(n=1,2,3,…)

です.波長は λn=2L/n で,箱の幅に半波長がちょうど n 個入ります.n=0 では ψ が至る所で0になって粒子が無いことになり,負の n は符号が変わるだけで同じ状態です.

正弦波は,右向きと左向きに進む同じ波長の波の重ね合わせです(第25章).粒子は右へも左へも動いていて,運動量の大きさは pn=h/λn=nh/(2L) に決まっています.箱の中ではポテンシャルエネルギーが0なので,エネルギーは運動エネルギーだけで

En=pn22m=n2h28mL2

となります.エネルギーは n2 に比例する飛び飛びの値しかとれません.

定義 束縛状態とエネルギー準位

ある範囲に閉じこめられた粒子の状態を束縛状態という.束縛状態の粒子がとれるエネルギーの値は飛び飛びで,その1つ1つをエネルギー準位,準位を番号づける整数 n を量子数という.最もエネルギーの低い状態を基底状態,それより上の状態を励起状態という.

定理 1次元の箱の中の粒子

幅 L の無限に深い箱の中の質量 m の粒子の状態と準位は,n=1,2,3,… として

ψn(x)=2Lsin⁡nπxL,En=n2h28mL2

である.

係数 C=2/L は,粒子が箱のどこかには必ずいる,つまり確率の合計が1という条件

∫0L|ψn|2dx=1

から決めます.これを規格化といいます.sin2⁡u=(1−cos⁡2u)/2 の余弦の項は箱の幅で積分すると0になるので,積分は C2L/2 で,C=2/L です.規格化した ψn を使えば,箱の一部 a<x<b で粒子を見つける確率は ∫ab|ψn|2dx で計算できます.基底状態では |ψ1|2 は中央で最も大きく,壁に近いほど小さくなります.古典的な粒子なら箱の中を一定の速さで往復するので,どこでも同じ確率で見つかるはずです.

[図:箱の定常波と飛び飛びの準位]

初期状態はn=1で,青い波動関数と緑の確率密度が両壁で0になる.曲線はそれぞれ別の尺度で重ね,破線の水平線は確率密度の平均1/Lを示す.スライダーでnを1から6まで変えると,半波長の数,節,選択した準位が変わる.準位の高さはn²に比例し,細かく波打つ確率密度は空間的に平均すると一様な分布に近づく.

隣り合う準位の間隔 En+1−En=(2n+1)E1 と準位 En の比は,n が大きいとき約 2/n です.エネルギーの大きい状態では準位がほとんど連続になり,確率の分布も平均すると一様になって,古典的な往復運動に近づきます.

数の大きさ

h2/(8m) を電子の質量で計算すると,E1=0.377eV×(1nm/L)2 です.幅 1nm の分子なら約 0.4eV,原子ほどの幅 0.1nm なら約 38eV です.どちらも原子や分子の現象で現れるエネルギーの大きさです.一方,0.1kg のボールを幅 1m の箱に入れると E1 は 10−67J の程度で,飛び飛びであることはまったく見えません.準位が目立つのは,質量が小さく,閉じこめる幅が狭いときです.

この模型では2つの近似を使っています.1つは壁が無限に高いことで,実際の壁の高さが En より十分大きいときに使えます.壁が低いと,粒子は壁の中へ少しにじみ出て,準位は少し下がります.もう1つは E=p2/(2m) という非相対論的な式で,En が静止エネルギー mc2 より十分小さいことが条件です.電子なら mc2=0.511×106eV なので,原子や分子の大きさでは十分に成り立ちます.

2次元・3次元の箱

x 方向と y 方向の両方に壁がある長方形の箱では,波動関数は sin⁡(nxπx/Lx)sin⁡(nyπy/Ly) に比例し,エネルギーは各方向の運動エネルギーの和です.3次元の直方体なら

E=h28m(nx2Lx2+ny2Ly2+nz2Lz2)

となり,量子数は3つです.立方体では (nx,ny,nz)=(1,1,2),(1,2,1),(2,1,1) のように,異なる状態が同じエネルギーをもちます.これを縮退といいます.縮退は箱の対称性から来ていて,箱を少しゆがめると準位がわずかに分かれます.

最低のエネルギーは0でない

基底状態のエネルギー E1 は0ではありません.閉じこめられた粒子は止まっていられないのです.これは前の題材の不確定性関係で理解できます.幅 L に閉じこめると位置の広がりは Δx∼L で,運動量には Δp∼h/L の広がりが必ずあります.運動エネルギーは

K∼(Δp)22m∼h22mL2

の程度で,正確な E1=h2/(8mL2) と桁が一致します.不確定性の見積もりは係数まで正しくはないので,Δp∼h/Δx と Δp∼ℏ/Δx のどちらを使っても構いません.大事なのは E∝1/(mL2) という依存のしかたで,狭く閉じこめるほど,軽い粒子ほど,最低のエネルギーは高くなります.

調和振動子

ばねにつながれた粒子のように,ポテンシャルエネルギーが U=kx2/2 の場合も,粒子は束縛されます.壁は固くありませんが,遠くへ行くほど U が大きくなるので,粒子は原点の近くに閉じこめられます.このときの準位は次のようになることが知られています(導出には波動関数の満たす方程式(シュレーディンガー方程式)が要るので,ここでは結果だけを使います).

定理 量子の調和振動子

角振動数 ω=k/m の調和振動子の準位は

En=(n+12)ℏω(n=0,1,2,…)

で,等間隔 ℏω に並ぶ.基底状態のエネルギー ℏω/2 を零点エネルギーという.

零点エネルギーの大きさは,不確定性で見積もれます.粒子が幅 a の程度に広がっていると,運動量は ℏ/a の程度で,エネルギーは

E(a)∼ℏ22ma2+12ka2

です.a を小さくすると運動エネルギーが増え,大きくするとポテンシャルエネルギーが増えます.和が最小になるのは dEda=0,つまり a2=ℏ/mk のときで,そのとき E∼ℏk/m=ℏω です.正確な ℏω/2 と桁が合います.

2原子分子の原子間の距離の振動は,原子間距離のずれ x が小さい範囲で調和振動子とみなせます.質量には,2つの原子の質量から決まる有効質量を使います.振動の準位の間の光の吸収は,主に隣り合う準位の間で起こるので,吸収される光子のエネルギーは ℏω です.多くの分子でこれは 0.1eV 前後で,光は赤外線になります.二酸化炭素や水蒸気が赤外線を吸うのはこのためです.調和振動子とみなせるのは,振動の広がりが原子間距離より十分小さい範囲で,振動が激しくなると準位の間隔は少しずつ狭くなります.

準位と光

束縛された粒子のエネルギーが飛び飛びなら,準位を移るときに出入りするエネルギーも飛び飛びです.出入りするエネルギーを光子1個が運ぶとすると,次の関係が成り立ちます.

法則 準位の間の遷移と光子

粒子が準位 Em から低い準位 En へ移るとき,エネルギー hν=Em−En の光子を1個放出する.逆に,この振動数の光子を1個吸収すると,En から Em へ移る.

これは光子のエネルギーと粒子のエネルギーの保存則です.束縛された粒子は決まった振動数の光だけを吸収・放出するので,スペクトルは連続ではなく線になります.逆に,吸収や放出の波長を測れば,準位の間隔が分かり,閉じこめている場所の大きさや,ばねの強さが分かります.

箱のE₁,E₂,E₃をn²に比例する高さに描く.放出の3→1,3→2,2→1は下向き,吸収の例1→3は上向きの矢印で示す.各矢印に光子のエネルギーhνと上下の準位の差を添える. 箱のE₁,E₂,E₃をn²に比例する高さに描く.放出の3→1,3→2,2→1は下向き,吸収の例1→3は上向きの矢印で示す.各矢印に光子のエネルギーhνと上下の準位の差を添える.

色素分子の色は,この考え方でよく見積もれます.炭素原子が単結合と二重結合を交互にくり返して鎖のように並ぶ分子(共役鎖)では,一部の電子が鎖全体を自由に動けます.鎖の長さを L として,これを1次元の箱の中の電子とみなします.1つの準位には電子が2個まで入れる(理由は次の発展の第30章)ので,電子は下の準位から2個ずつ詰まります.光を吸収すると,詰まった一番上の準位の電子が,空いている一番下の準位へ移ります.鎖が長いほど準位の間隔が狭くなり,吸収する光の波長は長くなります.

共役鎖の長さLを箱の幅Lに置き換える.模式例として電子6個をE₁,E₂,E₃に2個ずつ入れ,上向きと下向きの短い矢印で表す.一番上の詰まった準位E₃から,空いた準位E₄への光の吸収を上向きの橙色の矢印で示す. 共役鎖の長さLを箱の幅Lに置き換える.模式例として電子6個をE₁,E₂,E₃に2個ずつ入れ,上向きと下向きの短い矢印で表す.一番上の詰まった準位E₃から,空いた準位E₄への光の吸収を上向きの橙色の矢印で示す.

原子の大きさ

水素原子の電子は,原子核のクーロン力で閉じこめられた束縛状態です.古典的には,電子は原子核に近づくほどポテンシャルエネルギーが下がるので,原子核に落ちてしまいそうです.しかし半径 r に閉じこめると,運動エネルギーが ℏ2/(2mr2) の程度に増えます.1/r2 で増える運動エネルギーと,−1/r で下がるポテンシャルエネルギーの和が最小になる所で,原子の大きさが決まります.計算は例題で行い,約 0.05nm と −13.6eV の程度が出ます.次の題材のボーア模型で,同じ値を別の道すじから出します.

問いに戻る

電子を長さ L の場所に閉じこめると,弦の定常波と同じように,波長は 2L/n に限られます.ド・ブロイの関係で運動量が決まり,エネルギーは En=n2h2/(8mL2) の飛び飛びの値になります.最低のエネルギーも0ではありません.そして準位を移るときには,準位の差に等しいエネルギーの光子だけを吸収・放出します.カロテンが青い光を吸うのは,細長い分子に閉じこめられた電子の準位の間隔が,ちょうど青い光の光子のエネルギーになっているからです.

ポイント ここまでのまとめ

  • 粒子が出られない壁では ψ=0.束縛状態は定常波で,エネルギーは飛び飛びの準位になる.

  • 1次元の箱:λn=2L/n,En=n2h2/(8mL2),規格化 ∫|ψ|2dx=1 から ψn=2/Lsin⁡(nπx/L).

  • 最低のエネルギーは0でなく,不確定性から 1/(mL2) の程度と見積もれる.調和振動子では En=(n+1/2)ℏω,零点エネルギーは ℏω/2.

  • 多次元の箱ではエネルギーは各方向の和で,対称性があると縮退する.

  • 準位の間の遷移で hν=Em−En の光子を吸収・放出する.波長から準位の間隔と閉じこめの大きさが分かる.

08束縛状態の例題

本体の節で求めた箱の準位 En=n2h2/(8mL2),遷移の条件 hν=Em−En,不確定性による見積もりを,具体的な電子に使います.数値は h=6.63×10−34Js,ℏ=h/(2π)=1.055×10−34Js,c=3.00×108ms−1,電子の質量 m=9.11×10−31kg,e=1.60×10−19C,1/(4πε0)=8.99×109Nm2C−2 を使います.

計算を速くするために,2つの組み合わせを先に出しておきます.電子について

h28m=6.03×10−38Jm2=0.377eVnm2,hc=1.99×10−25Jm=1243eVnm

です.hc は上の h,c から計算した値で,第1題材の 1240eVnm とは0.2 % ほど違いますが,この節では与えた数値に合わせます.光子のエネルギーを eV で表すと,波長は λ=1243eVnm/E で求まります.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

電子を幅 L=0.60nm の1次元の箱に閉じこめます.箱の中のポテンシャルエネルギーは0で,壁は電子を通さないとします.

  1. 準位 E1,E2,E3 を eV で求めよ.

  2. n=3 の状態にある電子が低い準位へ移るとき,放出される光子の波長をすべて求めよ.遷移の選択則(遷移の可否を決める規則)は考えず,途中の準位を経由する場合も含める.

  3. n=2 から n=1 への遷移で波長 650nm の赤い光が出るようにするには,箱の幅をいくらにすればよいか.

幅Lの箱の中ではU=0で,電子の質量はmである.例題の設定L=0.60 nmと,準位E₁,E₂,E₃を描く.3→2,3→1,2→1の放出による遷移を下向きの矢印で示す. 幅Lの箱の中ではU=0で,電子の質量はmである.例題の設定L=0.60 nmと,準位E₁,E₂,E₃を描く.3→2,3→1,2→1の放出による遷移を下向きの矢印で示す.
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考え方

準位は E1 の n2 倍である.光子のエネルギーは準位の差で,波長は hc をそれで割れば出る.波長は L2 に比例して変わる.

  1. E1=0.377eVnm2/(0.60nm)2≈1.0eV である.E2=4E1≈4.2eV,E3=9E1≈9.4eV となる.箱の幅に合わせて有効数字は2桁とし,途中の計算では丸める前の値を使う.

  2. n=3 から下る遷移は 3→2,3→1 と,3→2 の後の 2→1 の3種類である.光子のエネルギーはそれぞれ 5E1=5.24eV,8E1=8.38eV,3E1=3.14eV だから,波長は

λ3→2=12435.24nm≈2.4×102nm,λ3→1≈1.5×102nm,λ2→1≈4.0×102nm

である.2→1 は可視光と紫外線の境界付近で,残りの2本は紫外線である.

  1. E2−E1=3h2/(8mL2)=hc/λ より

L=3λhc⋅h28m=3×650nm×0.377eVnm21243eVnm=0.77nm

である.

確かめ:λ∝L2 だから,(2) の丸める前の 396nm を (0.77/0.60)2≈1.65 倍すると約 650nm になり,(3) と合う.準位は 10eV 程度で,電子の静止エネルギー 0.511×106eV より十分小さいので,非相対論の式でよい.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

ある色素分子では,原子が鎖状に並び,鎖の上を N 個の電子が自由に動けます.この電子を長さ L の1次元の箱の中の電子とみなし,電子どうしの力は無視します.1つの準位には電子が2個まで入り,電子は下の準位から順に詰まっているとします.N は偶数です.

  1. 光を吸収して,詰まった一番上の準位の電子が,空いている一番下の準位へ移るときに吸収する光の波長 λ を,N,L,m,h,c で表せ.

  2. N=10,L=1.40nm の色素で λ を求めよ.

  3. 鎖を伸ばして N=12,L=1.68nm にすると,λ はどう変わるか.

長さLの鎖状分子を1次元の箱に置き換え,偶数N個の電子を下から2個ずつ詰める.準位はn=1からn=N/2+1までを模式的に描き,中間の準位は省略する.n=N/2から空いたn=N/2+1への吸収を上向きの矢印で示す. 長さLの鎖状分子を1次元の箱に置き換え,偶数N個の電子を下から2個ずつ詰める.準位はn=1からn=N/2+1までを模式的に描き,中間の準位は省略する.n=N/2から空いたn=N/2+1への吸収を上向きの矢印で示す.
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考え方

N 個の電子は n=1 から n=N/2 までの準位を埋める.吸収は n=N/2 から n=N/2+1 への遷移で,その差が光子のエネルギーになる.

  1. 準位の差は

ΔE=[(N2+1)2−(N2)2]h28mL2=(N+1)h28mL2

である.hc/λ=ΔE より

λ=8mcL2(N+1)h

となる.

  1. ΔE=11×0.377eVnm2/(1.40nm)2≈2.12eV だから,丸める前の値を使うと λ=hc/ΔE≈588nm である.黄から橙の光を吸うので,残りの光で色素は青っぽく見える.

  2. ΔE=13×0.377/(1.68)2eV=1.74eV,λ=716nm である.鎖を伸ばすと吸収は長い波長へ移る.

確かめ:(1) の式で比をとると λ′/λ=(1.68/1.40)2×11/13≈1.22 で,丸める前の値で計算すると λ′≈716nm となり,(3) と合う.単位は kgms−1m2/(Js)=m である.この模型は,鎖の上で電子が感じるポテンシャルの凹凸や電子どうしの反発を無視しているので,値は1割程度ずれうる.しかし「鎖が長いほど赤い側の光を吸う」という傾向と波長の桁は,実際の色素と合う.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

水素原子の電子は,陽子のクーロン力で半径 r 程度の範囲に閉じこめられているとします.不確定性関係から電子の運動量の大きさを p∼ℏ/r と見積もり,全エネルギーを

E(r)=ℏ22mr2−ke2r,k=14πε0

とおきます.陽子は動かないとします.

  1. E(r) を最小にする r を a とする.a と E(a) を文字で表し,数値を求めよ.

  2. 古典的には電子は陽子に落ちるはずなのに,そうならないのはなぜか.E(r) の各項の r への依存から説明せよ.

  3. 電子の速さ v∼p/m を見積もり,非相対論の式を使ってよいか確かめよ.

横軸は半径r,縦軸はエネルギーで,青は運動エネルギーℏ²/(2mr²),緑の破線はポテンシャルエネルギー−ke²/r,赤はその和E(r)である.3本の曲線を共通の尺度で描く.和が最小になる位置を r = a,最小値を E(a) と記す.数値は描かない. 横軸は半径r,縦軸はエネルギーで,青は運動エネルギーℏ²/(2mr²),緑の破線はポテンシャルエネルギー−ke²/r,赤はその和E(r)である.3本の曲線を共通の尺度で描く.和が最小になる位置を r = a,最小値を E(a) と記す.数値は描かない.
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考え方

運動エネルギーは閉じこめるほど増え,ポテンシャルエネルギーは近づくほど下がる.和の最小値が基底状態の見積もりになる.

dEdr=−ℏ2mr3+ke2r2=0

より

a=ℏ2mke2=(1.055×10−34)29.11×10−31×8.99×109×(1.60×10−19)2m=5.3×10−11m

である.ℏ2/(ma2)=ke2/a を使うと

E(a)=ke22a−ke2a=−ke22a=−2.17×10−18J=−13.5eV

となる.

  1. r を小さくすると,ポテンシャルエネルギーは −1/r で下がるが,運動エネルギーは 1/r2 で増える.r が十分小さい所では 1/r2 の項が勝つので,E(r) は増加に転じる.電子を陽子の近くに閉じこめるほど運動量の広がりが大きくなり,エネルギーの損になる.したがって,基底状態の広がりは r∼a となり,原子核へ際限なく縮むことはない.

  2. v∼ℏ/(ma)=1.055×10−349.11×10−31×5.3×10−11ms−1=2.2×106ms−1 で,v/c=7.3×10−3 である.v/c が十分小さいので,運動エネルギーに p2/(2m) を使ってよい.

確かめ:ℏ2/(mr2) と ke2/r はどちらもエネルギーの次元なので,a=ℏ2/(mke2) は長さである.得られた a と E(a) は,実際の水素原子の大きさ(0.053nm 程度)と基底状態のエネルギー(−13.6eV)に近い.不確定性の見積もりは係数を決められないので,ここまで合うのは偶然に近いが,原子の大きさが ℏ,m,e だけで決まることはこの計算から分かる.次の題材のボーア模型で同じ値を導く.

ポイント ここまでのまとめ

  • 電子の箱では E1=0.377eV×(1nm/L)2 で,遷移の波長は λ=1243eVnm/ΔE.波長は L2 に比例する.

  • 電子が2個ずつ詰まった箱では,吸収は一番上の詰まった準位から一番下の空いた準位への遷移で,鎖が長いほど長い波長の光を吸う.

  • 運動エネルギー ℏ2/(2mr2) とクーロンのポテンシャルエネルギーの和を最小にすると,原子の大きさ 0.05nm 程度とエネルギー −13.6eV 程度が出る.

  • 見積もりのあとは,非相対論の条件(エネルギーが mc2 より十分小さい,v/c が十分小さい)を確かめる.

09束縛状態とエネルギー準位の演習

境界条件,確率,光の収支を結びつけましょう.計算では h=6.63×10−34Js,c=3.00×108ms−1,ℏ=h/(2π),1eV=1.60×10−19J を使います.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

0<x<L の箱の中の粒子が基底状態で,波動関数は ψ=Csin⁡(πx/L) です.壁で ψ=0,外には粒子がおらず,C>0 とします.左端から L/4 までを検出します.

  1. 規格化 ∫0L|ψ|2dx=1 から C を求めよ.

  2. 検出確率を求め,一様分布と比較せよ.sin2⁡u=(1−cos⁡2u)/2 を使ってよいとします.

0<x<Lの箱の左端からL/4までが検出領域である.壁と検出領域の境界を示す. 0<x<Lの箱の左端からL/4までが検出領域である.壁と検出領域の境界を示す.
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考え方

波動関数の絶対値の2乗を積分する.

  1. 恒等式の余弦項の積分は0なので,∫0Lsin2⁡(πx/L)dx=L/2.従って C2L/2=1,C=2/L である.

  2. 求める確率は

P=2L∫0L/4sin2⁡(πx/L)dx=[xL−sin⁡(2πx/L)2π]0L/4=14−12π≈0.0908.

一様分布の P=1/4 より小さく,壁の近くで確率密度が低い.C2 は長さの逆数であり,確率は無次元になる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m の粒子を幅 L の箱に入れます.壁は粒子を通さず,箱内のポテンシャルは0です.波長は λn=2L/n,n=1,2,… です.壁を動かし,量子数 n=2 を保ち幅を 3L/2 にする模型です.変形中に光は出入りしません.

  1. En=n2h2/(8mL2) を波長から導き,粒子が壁にした仕事を求めよ.

  2. n=2 から n=3 への吸収波長は,幅を変えると何倍になるか.

初め幅Lの箱を,一方の壁を動かして幅3L/2へ広げる.量子数n=2を保ち,変形中に光は出入りしない. 初め幅Lの箱を,一方の壁を動かして幅3L/2へ広げる.量子数n=2を保ち,変形中に光は出入りしない.
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考え方

エネルギーの減少分が壁への仕事になる.

  1. p=h/λn=nh/(2L) より En=p2/(2m)=n2h2/(8mL2).初め E2=h2/(2mL2),広げた後は 4E2/9.従って仕事は Wwall=5E2/9=5h2/(18mL2) である.

  2. エネルギー差は ΔE=E3−E2=5h2/(8mL2),光子の波長は λγ=hc/ΔE.広げると ΔE が 4/9 倍なので λγ は 9/4 倍になる.幅の変化中も n を保つ模型の結果である.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

2同位体の分子の振動を,相対変位 x の運動方程式 mid2xdt2=−kix で表します.mi は有効質量です.隣接準位間の吸収波長は次のとおりで,質量の誤差は無視します.

分子

mi(kg)

吸収波長

A

2.00×10−26

(10.00±0.05)μm

B

2.88×10−26

(12.00±0.06)μm

準位は En=(n+1/2)ℏωi,n=0,1,…,ωi=ki/mi とします.

  1. ki と測定波長の関係を導き,両分子で共通のばね定数を使えるか.

  2. 零点エネルギーとばね定数の相対不確かさを求めよ. Δki/ki≈−2Δλ/λ を使ってよいとします.

分子A,Bを2原子とばねで表す.xは平衡位置からの相対変位,miは有効質量,kiはばね定数である.入射光の測定波長を示す. 分子A,Bを2原子とばねで表す.xは平衡位置からの相対変位,miは有効質量,kiはばね定数である.入射光の測定波長を示す.
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考え方

準位間隔を吸収から決め,振動子の模型で零点エネルギーへ換算する.

  1. 隣接準位間では hc/λ=ℏωi,従って ωi=2πc/λ,ki=mi(2πc/λ)2.Aから kA=7.11×102Nm−1.Bでは

kBkA=mBmA(λAλB)2=1.44(10.0012.00)2=1.

共通のばね定数に合う.

  1. E0=ℏωi/2=hc/(2λ) より,Aは 0.0622eV,Bは 0.0518eV.波長の不確かさは両方0.5 %だから,ki は約1 %である.これは測定の不確かさで,模型の誤差を含まない.広がりと結合長の比が小さい範囲で二次のポテンシャルを使う.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の粒子を 0<x<Lx,0<y<Ly の2次元の箱に入れます.箱内のポテンシャルは0で,4辺で ψ=0 です.波動関数は sin⁡(nxπx/Lx)sin⁡(nyπy/Ly) に比例し,nx,ny は正の整数です.エネルギーは両方向の和です.

  1. 準位を導き,正方形 Lx=Ly=L の低い3準位と量子数を求めよ.等エネルギーの異なる状態を縮退と呼びます.

  2. Lx=L,Ly=L(1+ϵ),0<ϵ が十分小さいとします.(nx,ny)=(1,2),(2,1) のエネルギー差を一次まで求めよ.

  3. 基底状態からこの2状態への吸収波長の比を求めよ.

左は縦横ともLの正方形の箱である.右は横L,縦L(1+ε)の箱である.辺の長さとx,y軸を示す. 左は縦横ともLの正方形の箱である.右は横L,縦L(1+ε)の箱である.辺の長さとx,y軸を示す.
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考え方

各方向のエネルギーを加える.

  1. px=nxh/(2Lx),py=nyh/(2Ly) より

E=px2+py22m=h28m(nx2Lx2+ny2Ly2).

A=h2/(8mL2) とおくと,低い3準位は 2A,5A,8A.量子数は (1,1),(1,2),(2,1),(2,2) である.第2準位は2重に縮退する.

  1. q=(1+ϵ)−2≈1−2ϵ とおく.E1,2=A(1+4q),E2,1=A(4+q) より,E2,1−E1,2=3A(1−q)≈6Aϵ.(1,2) の方が低い.

  2. 基底は A(1+q).差は 3Aq,3A なので,λ1,2/λ2,1=(1+ϵ)2≈1+2ϵ.ϵ→0 で2本は重なる.近似には ϵ が十分小さいことが必要である.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

核子を一辺 L=8.0fm の立方体に閉じ込めます.1fm=10−15m,質量 mN=1.67×10−27kg とします.3方向の箱のエネルギーを加えます.箱内のポテンシャルは0で,核力を省きます.

  1. 基底エネルギーを求めよ.各方向で Δp∼h/L とする不確定性の見積もりと比較せよ.

  2. L を2倍にするとエネルギーはどう変わるか.L=2.0fm まで狭めた場合も求め,非相対論的近似を評価せよ.

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考え方

幅の逆2乗とエネルギーの桁に注目する.

  1. 各方向の波長は 2L,運動量の大きさは h/(2L) だから E0=3h2/(8mNL2)=9.6×106eV.不確定性からは K∼3(h/L)2/(2mN)=4E0∼3.9×107eV.桁は一致する.

  2. E0∝L−2 なので幅2倍なら E0/4.幅を4分の1にすると 16E0=1.5×108eV となる.mNc2=9.4×108eV に対する比は初め約0.010,狭めた後は約0.16である.初めはよいが,狭めた後は補正が必要になる.

ポイント 教える人へ

  • 規格化と部分領域の確率を積分で説明させます.

  • 量子数の保持と光による遷移を区別させます.

  • 準位間隔と零点エネルギー,測定誤差を問います.

  • 対称性と縮退を量子数から確かめます.

10ボーア模型と水素原子のスペクトル

問い

細い管に水素を詰めて電圧をかけると,管は赤紫色に光ります.この光をプリズムや回折格子(第27章)で分けると,太陽の光のような連続した虹にはならず,赤・青緑・青紫・紫の数本の細い線だけが並びます.線の波長は何度測っても同じで,どの水素でも同じです.水素原子はなぜ決まった色の光しか出さないのでしょうか.

考えてみる

まず原子の中がどうなっているかを確かめます.20世紀の初め,ラザフォードたちは薄い金箔にアルファ粒子(ヘリウムの原子核,電荷 +2e)を当て,ほとんどはまっすぐ抜けるのに,ごくまれに大きく跳ね返されることを見つけました.正の電荷が原子全体に薄く広がっていたら,そんな大きな力は出ません.跳ね返りの角度の分布は,点のような正電荷とのクーロン力による双曲線軌道(第10章の中心力の運動と同じ形)でよく説明でき,正の電荷と質量のほとんどが中心の小さな原子核に集まっていることが分かりました.

どれほど小さいかは,正面衝突の最接近距離で見積もれます.運動エネルギー K=5.0MeV のアルファ粒子が金の原子核(Z=79)に向かうと,第20章の電位の中の運動として,エネルギー保存 K=k(2e)(Ze)/d から止まる距離は

d=2Zke2K=2×79×1.44MeVfm5.0MeV≈45fm=4.5×10−14m

です.ここで k=14πε0,ke2=1.44eVnm=1.44MeVfm を使いました.原子の大きさ 10−10m の1000分の1より小さい所までクーロンの法則が成り立っていて,原子核はそれより小さいのです.

左から同じ運動エネルギーKで入射する電荷+2eのアルファ粒子が,電荷+Zeの金の原子核に反発される.遠い軌道の曲がりは小さく,近い軌道ほど大きく曲がる.正面衝突では最接近距離dで折り返す.往路と復路は同じ直線上に重なるため,復路のみ少し下にずらして示す.原子核の大きさは模式的である. 左から同じ運動エネルギーKで入射する電荷+2eのアルファ粒子が,電荷+Zeの金の原子核に反発される.遠い軌道の曲がりは小さく,近い軌道ほど大きく曲がる.正面衝突では最接近距離dで折り返す.往路と復路は同じ直線上に重なるため,復路のみ少し下にずらして示す.原子核の大きさは模式的である.

そこで水素原子を,陽子のまわりを電子が回る小さな太陽系と考えたくなります.ところが第26章で見たように,加速度運動する電荷は電磁波を出してエネルギーを失います.計算すると,電子は渦を巻いておよそ 10−11s で原子核に落ちてしまい,その間に出す光の振動数は回転とともに連続的に変わります.古典物理学では,原子は安定でもなく,線スペクトルも出せないのです.

水素のスペクトル

水素の線の波長 λ は,きれいな規則に従います.

法則 リュードベリの式

水素原子が出す光の波長は,正の整数 n′<n を使って

1λ=R(1n′2−1n2),R=1.097×107m−1

と表される.R をリュードベリ定数という.n′ が同じ線の組を系列といい,n′=1 をライマン系列(紫外線),n′=2 をバルマー系列(可視光を含む),n′=3 をパッシェン系列(赤外線)という.

両辺に hc を掛けると,光子のエネルギー hν=hc/λ が「ある量 /n′2」と「ある量 /n2」の差になっています.前の題材で見たように,光子のエネルギーが2つの準位の差 hν=En−En′ なら,水素原子の準位は

En=−hcRn2(n=1,2,3,…)

と飛び飛びのはずです.問題は,なぜこの形になるか,R がどんな定数で決まるかです.

[図:準位の遷移と水素の線スペクトル]

初期状態は下の準位n′=2で,n=3から6までの下向きの遷移と,可視光の帯に入る4本のスペクトル線を示す.スライダーでn′を1,2,3に変えると,ライマン,バルマー,パッシェン系列に切り替わる.波長軸は系列ごとに範囲を変える.準位図の軸の切れ目は省略を表し,スペクトルの破線は系列の限界を表す.

ボーア模型

1913年,ボーアは次の2つを仮定しました.

法則 ボーアの仮定

  1. 定常状態:原子の中の電子は,飛び飛びのエネルギー En をもつ特別な状態にだけいることができ,その状態にいる間は光を出さない.

  2. 振動数条件:電子がエネルギー En の状態から En′ の状態へ移るとき,hν=En−En′ の光子を1個出す(En′>En なら吸収する).

どの軌道が定常状態かは,前の題材の「閉じこめると定常波だけが残る」で決めます.電子の円軌道に沿ってド・ブロイ波(λ=h/(mv))を考えると,1周してもとの位置に戻ったとき位相がそろっていなければ,波は打ち消し合ってしまいます.円周が波長の整数倍

2πr=nλ=nhmvすなわちmvr=nℏ

の軌道だけが残る,というのが量子条件です.角運動量 mvr が ℏ の整数倍になる,と読むこともできます.

[図:円軌道のド・ブロイ波と量子条件]

初期状態はn=3で,円周に3波長がのり,半径は9a₀になる.スライダーは1から5まで0.1刻みで動かせる.整数では波がつながり,整数でない値では端がずれる.左は半径を同じ縮尺で比較し,右は波のつながりを見やすく拡大する.波打つ線は電子の経路ではなく波の位相の模式表示である.整数でない値の半径は比較のための補間であり,許された軌道ではない.

陽子の質量は電子の約1836倍なので,まず陽子を止まっているとします.電子(質量 m,電荷 −e)の等速円運動の運動方程式と量子条件を連立します.

mv2r=ke2r2,mvr=nℏ

2つ目から v=nℏ/(mr) を1つ目に代入すると,半径とエネルギーが決まります.エネルギーは運動エネルギー 12mv2=ke22r と位置エネルギー −ke2r の和です.

定理 水素原子のボーア模型

rn=n2a0,a0=ℏ2mke2=5.29×10−11m
En=−ke22rn=−Bn2,B=mk2e42ℏ2=13.6eV

a0 をボーア半径という.B は基底状態(n=1)の電子を無限遠に引き離す電離エネルギーである.

これを振動数条件に入れると,リュードベリの式がそのまま出て,

R=Bhc=mk2e44πℏ3c=1.097×107m−1

と,測定値が m,e,h,c,ε0 だけから計算できます.前の題材の例題3で不確定性から見積もった原子の大きさが,ここでは係数まで a0 として出てきたのも,この模型の成功です.波長の計算には hc=1240eVnm が便利です.

模型が使える条件も確かめておきます.基底状態の電子の速さは v1=ℏ/(ma0)=2.19×106ms−1 で,v1/c=1/137 です.この比が小さいので,相対論を使わない力学でよいのです.ただし,ボーア模型は電子が1個の原子にしか使えず,線の明るさも説明できません.また,実際の基底状態の角運動量は0で,電子は円軌道ではなく原子核のまわりに雲のように広がっています.エネルギー準位が正しく出るのは,定常波という考えが正しいからで,正確な答えは3次元の波動方程式から出ます.

水素型イオンと換算質量

電子が1個だけのイオン(HeA+,LiA2+ など)を水素型イオンといいます.原子核の電荷が Ze なら,上の式の ke2 が Zke2 に変わるので

rn=n2a0Z,En=−Z2Bn2

です.

陽子を止めておいたのは近似です.実際は電子と原子核(質量 M)が共通の重心のまわりを回ります.第5章の2体問題と同じく,相対運動は質量を換算質量 μ=mMm+M に置きかえた1体の運動になります.エネルギー準位は m に比例していたので,En=−Z2Bn2μm となります.水素では μ/m=1836/1837 で,固定した場合より準位が 1/1837=5.4×10−4 だけ浅くなります.重水素では原子核が約2倍重いので補正が半分になり,同じ線の波長がわずかに短くなります.1932年,ユーリーはこの約 0.18nm のずれを見つけて重水素を発見しました.固定核の近似は m/M が十分小さいときの近似で,電子より重い粒子が回る原子では換算質量が欠かせません.

電子をぶつけて準位を確かめる

準位が飛び飛びなら,光でなく電子をぶつけても,原子は決まったエネルギーしか受け取らないはずです.1914年のフランク・ヘルツの実験はこれを確かめました.水銀の蒸気の中で電子を加速すると,電子のエネルギーが 4.9eV に達するまでは,原子と衝突しても運動エネルギーをほとんど失いません(質量比が小さい弾性衝突なので).4.9eV を超えると,原子を励起して 4.9eV を失います.このとき蒸気は波長 1240/4.9=253nm の紫外線を出しました.衝突で失うエネルギーと,出てくる光子のエネルギーが一致したのです.

特性X線とモーズリーの法則

第1題材で見たX線管の連続X線の上には,陽極の元素で決まる鋭い線がのります.これが特性X線です.高速の電子が陽極の原子の一番内側(n=1)の電子をはじき出すと,その空席に n=2 の電子が落ちて光子を出します.内側の電子にとって,原子核の電荷 Ze は,残ったもう1個の n=1 の電子でほぼ e だけ打ち消されるので,水素型の式で Z を Z−1 に置きかえて

hν=34(Z−1)2B

と見積もれます.ν が Z−1 に比例する,というのがモーズリーの法則です.銅(Z=29)では hν=8.0keV,波長 0.155nm で,測定値 0.154nm とよく合います.モーズリーはこれで原子番号が原子核の電荷であることを確かめ,周期表の空き場所を予言しました.内側の電子の速さは v/c≈Z/137 なので,重い元素ではこの近似は粗くなります.

線の幅と寿命

励起状態の原子は,光を出して下の準位へ落ちるまでに平均して時間 τ(寿命,水素の n=2 で約 2×10−9s)だけかかります.長さ τ で切れた波は,第25章のうなりのように,振動数に Δω∼1/τ の広がりをもちます.光子のエネルギーで言えば

ΔEτ∼ℏ

で,スペクトル線は ΔE だけの幅(自然幅)をもちます.τ=1×10−8s なら ΔE∼7×10−8eV で,線のエネルギーの 10−7 程度のごく小さな幅です.位置と運動量の不確定性 ΔxΔp∼h は同時に測る2つの量の関係でしたが,こちらの τ は粒子の測定値ではなく,状態が続く時間の長さです.なお,光子を出した原子は運動量 hν/c で反跳するので,光子のエネルギーは準位差よりわずかに小さく,その差 (hν)2/(2Mc2) が自然幅と同じ程度になることもあります.

誘導放出とレーザー

励起状態の原子は,ひとりでに光子を出すだけでなく,準位差と同じエネルギーの光子が通りかかると,それと同じ向き・同じ位相の光子を出して下に落ちることがあります.これを誘導放出といいます.上の準位にいる原子の方が多い状態(反転分布)を作ると,光子が1個入るたびに同じ光子が増えていき,向きと位相のそろった強い光ができます.これがレーザーです.なぜ同じ状態の光子が増えやすいのかは,次の第30章(発展)で確率振幅を使って説明します.

問いに戻る

水素原子の電子は,ド・ブロイ波が軌道に沿って定常波になる状態にしかいられず,そのエネルギーは En=−13.6eV/n2 と飛び飛びです.原子が出す光子のエネルギーは2つの準位の差なので,波長も決まった値だけになり,線スペクトルになります.目に見えるのは n′=2 へ落ちるバルマー系列の4本です.どの水素原子も同じ m,e,h で決まる同じ準位をもつので,遠い星の水素も同じ線を出します.

ポイント ここまでのまとめ

  • ラザフォード散乱から,原子の正電荷と質量は 10−14m より小さい原子核に集まっている.

  • 量子条件 2πr=nλ(mvr=nℏ)から rn=n2a0,En=−B/n2,B=13.6eV,a0=5.29×10−11m.

  • 振動数条件 hν=En−En′ からリュードベリの式が出て,R=B/(hc).

  • 水素型イオンは En=−Z2B/n2,原子核の運動は換算質量 μ で補正する.特性X線は Z を Z−1 とした近似で ν∝Z−1.

  • 寿命 τ の準位からの線は自然幅 ΔE∼ℏ/τ をもつ.

11水素原子のスペクトルの例題

前の節で,水素原子の準位が En=−B/n2(B=13.6eV)と飛び飛びになり,光子のエネルギーが準位の差になることを見ました.この節では,その準位図を使って実際の線の波長を求め,水素型イオンや電子の衝突の実験に当てはめます.どの例題でも,光子のエネルギーと波長の換算には hc=1240eVnm を使い,可視光の範囲を 400nm から 700nm とします.手順はいつも同じで,(i) 準位図を描く,(ii) 始めと終わりの準位を決める,(iii) 準位差を光子や電子のエネルギーと等しいとおく,です.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

水素原子の準位を En=−B/n2,B=13.6eV とし,原子の反跳は無視する.

  1. バルマー系列(n≥3 から n=2 への遷移)の線のうち,波長の長い方から4本の波長を求めよ.

  2. バルマー系列の最短波長(系列の限界)を求めよ.可視光の範囲に入るのは何本か.

  3. ライマン系列(n=1 へ)の最長波長と,パッシェン系列(n=3 へ)の最短波長を求め,可視光の線がバルマー系列からしか出ないことを示せ.

水素のn=1から6とn=∞の準位を示す.n=3,4,5,6からn=2への4本の下向き矢印と,n=∞からn=2への破線の矢印を示す.下の波長軸には問題で与えられた可視光400〜700 nmの帯を示す.求める波長とスペクトル線の位置は示さない.準位図の軸の切れ目はエネルギー範囲の省略を表す. 水素のn=1から6とn=∞の準位を示す.n=3,4,5,6からn=2への4本の下向き矢印と,n=∞からn=2への破線の矢印を示す.下の波長軸には問題で与えられた可視光400〜700 nmの帯を示す.求める波長とスペクトル線の位置は示さない.準位図の軸の切れ目はエネルギー範囲の省略を表す.
解答を見る

考え方 光子のエネルギーは B(1/4−1/n2) で,これを λ=hc/(hν) で波長に直す.

解答

  1. n=3 では hν=13.6×(14−19)=1.889eV で,λ=1240/1.889=656nm.同じように

n=4: 2.550eV, 486nm,n=5: 2.856eV, 434nm,n=6: 3.022eV, 410nm

である.それぞれ赤,青緑,青紫,紫に見える.

  1. n→∞ で hν→B/4=3.40eV だから,限界の波長は λ=1240/3.40=365nm である.n=7 では hν=13.6×(14−149)=3.122eV,λ=397nm ですでに 400nm より短い.n が大きいほど波長は短くなるので,可視光に入るのは(1)の4本だけである.

  2. ライマン系列で一番エネルギーの小さい遷移は n=2→1 で,hν=34B=10.2eV,λ=122nm.これが最長なので,ライマン系列は全部紫外線である.パッシェン系列で一番エネルギーの大きい遷移は n=∞→3 で,hν=B/9=1.51eV,λ=821nm.これが最短なので,全部赤外線である.n′≥4 の系列はさらにエネルギーが小さく赤外線になる.よって可視光の線はバルマー系列だけから出る.

確かめ (1)の656 nm と 486 nm は,問いの赤と青緑の線にあたる.リュードベリの式で 1/λ=R(1/4−1/9),R=1.097×107m−1 とすると λ=656nm で一致する.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

1896年,ピッカリングは高温の星のスペクトルに,水素のバルマー系列と1本おきに重なる線の系列を見つけた.これは水素ではなく,電子を1個失ったヘリウムイオン HeA+ の線であった.HeA+ の準位を En=−Z2B/n2(Z=2,B=13.6eV)とし,はじめは原子核を固定して考える.

  1. 基底状態の HeA+ の電離エネルギーと,軌道半径を求めよ.ボーア半径を a0=5.29×10−11m とする.

  2. HeA+ の n→4 の遷移の光子のエネルギーを B と n で表せ.n が偶数 n=2j のとき,水素の j→2 の線と同じ波長になることを示し,n=7 の線の波長を求めよ.

  3. 実際には原子核も動く.換算質量を使うと,HeA+ の n=6→4 の線と水素の n=3→2 の線の波長は,どちらがどれだけ長いか.陽子の質量を 1836m,ヘリウムの原子核の質量を 7294m(m は電子の質量),水素の線の波長を 656.3nm とする.

原子核を固定した水素のn=1,2,3とHe⁺のn=1から6の準位を,同じエネルギー軸で比較する.水素のn=1,2,3はHe⁺のn=2,4,6と同じ高さで,破線で対応づける.密集した準位を読みやすくするため,He⁺のn=1とn=2の間の範囲は共通の軸で省略する.電離エネルギー,軌道半径,求める波長と換算質量の補正値は示さない. 原子核を固定した水素のn=1,2,3とHe⁺のn=1から6の準位を,同じエネルギー軸で比較する.水素のn=1,2,3はHe⁺のn=2,4,6と同じ高さで,破線で対応づける.密集した準位を読みやすくするため,He⁺のn=1とn=2の間の範囲は共通の軸で省略する.電離エネルギー,軌道半径,求める波長と換算質量の補正値は示さない.
解答を見る

考え方 Z2/n2 の形なので,Z=2 で n を2倍にすると水素の準位と同じ値になる.原子核の運動の補正は,準位全体に μ/m を掛けるだけである.

解答

  1. 電離エネルギーは −E1=Z2B=4×13.6=54.4eV である.軌道半径は r1=a0/Z=2.65×10−11m で,水素の半分である.

  2. 光子のエネルギーは

hν=4B(116−1n2)=B(14−4n2)

である.n=2j なら 4/n2=1/j2 なので hν=B(1/4−1/j2) となり,水素のバルマー系列の j→2 と同じエネルギー,同じ波長になる.n=6,8,10,… が水素の j=3,4,5,… の線に重なり,奇数の n の線がその間に入る.n=7 では

hν=13.6×(14−449)≈2.29eV,λ=124013.6×(1/4−4/49)nm≈542nm

で,バルマー系列の 656 nm と 486 nm の間の緑の線である.

  1. 準位は μ/m に比例するので,同じ形の遷移の光子のエネルギーの比は換算質量の比になる.

μHm=18361837,μHem=72947295

波長はエネルギーに反比例するので

λHeλH=μHμHe=1−1/18371−1/7295≈1−11837+17295=1−4.07×10−4

である.ここで 1/1837 と 1/7295 が十分小さいとして1次の近似をとった.よって HeA+ の線の方が 656.3×4.07×10−4=0.267nm だけ短い.

確かめ 原子核が重いほど固定核に近く,準位は深くなり,光子のエネルギーは大きくなる.重いヘリウムの線が短い波長にずれるのは向きとして正しい.0.27nm のずれは分光器で十分に分けられ,ピッカリング系列が水素でないことの決め手になった.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

水銀の蒸気を入れた管の中で,陰極から出た電子を網状の電極(グリッド)までの電圧 V で加速する.グリッドを抜けた電子は,グリッドと陽極の間の小さな逆向きの電圧 0.5V に逆らって陽極に届き,電流 I として測られる.V を上げていくと,I は増えたり減ったりをくり返し,I の山が次の電圧に現れた.

山

1

2

3

4

V

7.0V

11.9V

16.8V

21.7V

  1. 山を過ぎると電流が減る理由を説明せよ.

  2. この実験で水銀原子に与えられる励起エネルギーと,このとき蒸気が出す光の波長を求めよ.最初の山が 4.9V でなく 7.0V に現れることは,結果に影響するか.

  3. 励起エネルギーに届かない電子が水銀原子(質量は電子の 3.66×105 倍)と弾性衝突するとき,1回の衝突で失う運動エネルギーの割合は最大でいくらか.水銀原子は衝突前に静止しているとする.これが小さいことが,この実験で大切な理由を述べよ.

左は陰極からグリッドまで加速電圧Vをかけ,グリッドより陽極の電位を0.5 V低くした水銀蒸気の管である.電子は右向きに進み,陽極に届いた電子を電流計で測る.右はVを横軸,Iを縦軸とした模式グラフで,問題で与えられた7.0,11.9,16.8,21.7 Vに4つの山を示す.求める山の間隔,励起エネルギー,光の波長は示さない. 左は陰極からグリッドまで加速電圧Vをかけ,グリッドより陽極の電位を0.5 V低くした水銀蒸気の管である.電子は右向きに進み,陽極に届いた電子を電流計で測る.右はVを横軸,Iを縦軸とした模式グラフで,問題で与えられた7.0,11.9,16.8,21.7 Vに4つの山を示す.求める山の間隔,励起エネルギー,光の波長は示さない.
解答を見る

考え方 水銀原子は決まったエネルギーしか受け取れない.電子がそのエネルギーに達した所で衝突し,エネルギーを失って逆向きの電圧を越えられなくなる.山の位置そのものではなく,山の間隔を読む.

解答

  1. 電子の運動エネルギーが水銀原子の励起エネルギーに届くと,グリッドの手前で原子と非弾性衝突し,そのエネルギーを原子に渡してほぼ止まる.すると 0.5V の逆向きの電圧を越えられず,陽極に届く電子が減る.V をさらに上げると,衝突の後にもう一度加速されて逆向きの電圧を越えられるようになり,電流が再び増える.励起エネルギーの2倍に達すると2回衝突し,また電流が減る.

  2. 山の間隔は (21.7−7.0)/3=4.90V である.1回の非弾性衝突ごとに 4.90eV を失うので,励起エネルギーは 4.90eV である.励起した原子が元に戻るときの光の波長は

λ=12404.90=253nm

で,紫外線である.最初の山の位置は,陰極とグリッドの金属の仕事関数の違い(接触電位差)などで,全部の山が同じだけずれたものである.間隔を読めばこのずれは打ち消されるので,結果に影響しない.

  1. 質量 m の電子が,止まっている質量 M の原子に正面から弾性衝突すると,第5章の1次元の弾性衝突の式から,原子が得る速さは 2mm+Mv である.原子が受け取る運動エネルギーの割合は

12M(2mvm+M)212mv2=4mM(m+M)2≈4mM=43.66×105=1.1×10−5

で,正面衝突でない場合はさらに小さい.弾性衝突によるエネルギー損失の累積が小さい範囲では,加速電圧で決まるエネルギーをほぼそのまま励起に使える.そのため,山の間隔から励起エネルギーを求められる.

確かめ 実際の水銀では,約 4.9eV の励起に対応する 253.7nm の紫外線が観測され,殺菌灯や蛍光灯の中で使われている.電子が衝突で失ったエネルギーと,原子が出す光子のエネルギーが同じ値になることが,準位が飛び飛びであることの独立な証拠になる.

ポイント ここまでのまとめ

  • 線の波長は,準位図で始めと終わりの準位を決め,hc/λ=En−En′ から求める.hc=1240eVnm を使うと速い.

  • 可視光の線は水素ではバルマー系列の4本だけ.ライマン系列は紫外線,パッシェン系列は赤外線である.

  • 水素型イオンは En=−Z2B/n2 で,Z=2 なら n を2倍にすると水素の準位と重なる.原子核の運動は,準位に μ/m を掛けて補正する.

  • フランク・ヘルツの実験では,電流の山の間隔が励起エネルギーを与える.山の位置の一様なずれは間隔に効かない.

12原子の準位とスペクトルの演習

準位差と反跳を調べます.共通の定数は B=13.6eV,h=6.63×10−34Js,c=3.00×108ms−1,e=1.60×10−19C,1eV=1.60×10−19J です.波長と準位差の換算には hc≈1.24×10−6eVm を使います.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

水素原子の準位を En=−B/n2 とします.電離後の静止電子を基準0とし,反跳を無視します.

  1. n=2 の原子を電離する最小エネルギーと,電離できる光の最長波長を求めよ.

  2. n=2 の原子が 5.00eV の光子で電離するとき,放出電子の運動エネルギーを求めよ.

解答を見る

考え方 準位を0まで引き上げるエネルギーを求める.

  1. E2=−B/4=−3.40eV より,最小エネルギーは B/4=3.40eV.hc/λ≥B/4 だから

λmax=hcB/4=365nm.
  1. エネルギー保存は −3.40+5.00=K(各エネルギーを eV で表す)より K=1.60eV.しきい値で K=0 となる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

多数の水素原子を n=5 に励起します.En=−B/n2 とし,低い準位への全遷移が可能とします.反跳を無視します.

  1. 集団が基底状態に戻るまでに,最大何種類の遷移が含まれるか.終点3のパッシェン系列の波長も求めよ.

  2. 始点を高くした極限で,この系列の最短波長を求めよ.

水素原子の準位n=1〜5を示す.初めはn=5に励起されている.準位の高さは模式的である. 水素原子の準位n=1〜5を示す.初めはn=5に励起されている.準位の高さは模式的である.
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考え方 途中の準位からの発光も数え,終点で系列を分類する.

  1. 準位の組は 4+3+2+1=10 種類.終点3の始点は4,5で,hc/λ=B(1/9−1/n2) より

λ4→3=hcB(1/9−1/16)=1.88×103nm,λ5→3=hcB(1/9−1/25)=1.28×103nm.
  1. n→∞ で準位差は B/9 に近づく.限界は λmin=9hc/B=821nm.有限の始点ではより長波長になる.

演習 3

東京大 1990 後期(改題) ★★☆☆☆

エネルギー K0=13.00eV の電子を,基底状態の水素原子の希薄な標的に入射します.散乱電子に次の山を観測しました.原子の反跳と熱運動,2回以上の衝突を無視します.準位は En=−B/n2 です.

山

散乱電子のエネルギー

A

13.00eV

B

2.80eV

C

0.91eV

  1. 各山が弾性散乱か励起かを判定し,励起後の n を求めよ.

  2. 基底状態へ直接戻る光の波長を求めよ.入射エネルギーを 11.00eV に下げたときの励起の山も求めよ.

電子源からエネルギーK0=13.00 eVの電子を,基底状態の水素標的へ入射させる.標的を通った散乱電子を検出器で測定する. 電子源からエネルギーK0=13.00 eVの電子を,基底状態の水素標的へ入射させる.標的を通った散乱電子を検出器で測定する.
解答を見る

考え方 電子の損失を準位差と照合する.

  1. ΔE=K0−K はA,B,Cで順に 0,10.20,12.09eV.Aは弾性散乱,残りは ΔE=B(1−1/n2) を使って

n=11−ΔE/B

から,Bが n=2,Cが丸めの範囲で n=3 である.

  1. λ=hc/ΔE より順に 122nm,103nm.入射を下げると n=3 の励起はエネルギー不足となり,n=2 の山が 11.00−10.20=0.80eV に残る.準位差は入射エネルギーによらない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

金属の内殻電子を,核電荷 (Z−1)e をもつ水素型の模型で扱います.準位は En=−B(Z−1)2/n2 です.n=1 の空席へ n=2 の電子が移る特性X線の波長を 0.211nm と測定しました.

  1. この模型での Z を求めよ.

  2. 静止電子を加速して n=1 の電子を無限遠へ取り出すのに必要な最小加速電圧を求めよ.反跳を無視する.

電離後の静止電子の基準を0とし,準位n=1の空席とn=2の電子を示す.電子が空席へ移る特性X線の測定波長は0.211 nmである.準位の高さは模式的である. 電離後の静止電子の基準を0とし,準位n=1の空席とn=2の電子を示す.電子が空席へ移る特性X線の測定波長は0.211 nmである.準位の高さは模式的である.
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考え方 X線の準位差と空席を作るエネルギーを区別する.

  1. hc/λ=3B(Z−1)2/4 より,Z=1+4hc/(3Bλ)≈25.0.整数値から Z=25.

  2. 束縛エネルギーは −E1=B×242=7.83×103eV.eVmin=−E1 より Vmin=7.83×103V.X線はその 3/4 のエネルギーなので,それだけでは空席を作れない.両準位で同じ有効電荷を使う近似である.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

静止した水素が n=3 から1へ光子を1個放出します.準位差は Δ=12.1eV,原子質量は M=1.67×10−27kg です.寿命 τ=1.00×10−8s による自然幅を δE∼ℏ/τ で見積もります.

  1. 光子エネルギーを Eγ として,保存式を立てよ.Δ/(Mc2) が小さいとき,反跳エネルギーと光子のずれを求めよ.

  2. 反跳によるずれと自然幅の比を求め,反跳を線幅に対して無視できるか述べよ.

左はn=3の静止水素原子である.右は光子を放出してn=1となった原子を示す.光子の進行方向と原子の反跳方向を矢印で示す. 左はn=3の静止水素原子である.右は光子を放出してn=1となった原子を示す.光子の進行方向と原子の反跳方向を矢印で示す.
解答を見る

考え方 反跳を準位差と線幅に対して比較する.

  1. 反跳運動量は p=Eγ/c.非相対論的な運動エネルギーから

Δ=Eγ+Eγ22Mc2.

補正項で Eγ≈Δ と置き,Kr≈Δ2/(2Mc2)=7.79×10−8eV.よって Eγ≈Δ−Kr である.

  1. δE∼h/(2πτ)=6.59×10−8eV より Kr/δE∼1.2.ずれは自然幅と同程度である.Δ/(Mc2)=1.29×10−8 であり,反跳速度と c の比も同程度で,非相対論的な近似はよい.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

電荷 −e,質量 mμ=207m の重い粒子を,電荷 +e,質量 M=1836m の陽子に束縛します.m は電子の質量です.両粒子は点で,重心は静止し,核構造や粒子の崩壊を無視します.相対距離を r,相対速度を v,k=1/(4πε0) とします.固定核模型の半径 a0=5.29×10−11m を使ってよい.

  1. 運動方程式から,換算質量 μ=mμM/(mμ+M) を導け.

  2. μv2/r=ke2/r2,μvr=nℏ を使い,基底状態の相対距離と n=2 から1への準位差を求めよ.陽子を固定すると準位差を何倍に見積もるか.

静止した重心の両側に陽子と重い粒子を配置する.陽子の質量M=1836m,電荷+e,粒子の質量mμ=207m,電荷−eと,相対距離rを示す. 静止した重心の両側に陽子と重い粒子を配置する.陽子の質量M=1836m,電荷+e,粒子の質量mμ=207m,電荷−eと,相対距離rを示す.
解答を見る

考え方 電子の場合との質量比で比較する.

  1. 粒子から陽子への単位ベクトルを u とすると,加速度は順に ke2u/(mμr2),−ke2u/(Mr2).相対位置の加速度は −ke2(1/mμ+1/M)u/r2 なので,1/μ=1/mμ+1/M である.

  2. 量子条件から v=nℏ/(μr) を代入して rn=n2ℏ2/(μke2)=n2a0m/μ.また K=ke2/(2r),U=−ke2/r より En=−ke2/(2rn)=−B(μ/m)/n2.μ/m=207×1836/(207+1836)=186 だから,r1=0.284pm,E2−E1=3Bμ/(4m)=1.90×103eV.固定核では μ を 207m に置くため 207/186=1.11 倍.固定核近似には mμ/M が十分小さい必要があり,ここでは0.113で補正が効く.

ポイント 教える人へ

  • 電離と隣の準位への励起を区別させます.

  • 集団の線の種類と1原子の光子数を区別させます.

  • 衝突電子の山を,入射エネルギーを変えた予測で確かめます.

  • 反跳の比較基準と固定核近似の質量比を説明させます.

13半導体とバンドギャップ

問い

電球は電流を流すとフィラメントが熱くなり,赤外線を多く含んだ連続した色の光を出します.LED(発光ダイオード)は,同じように電流を流しても手で触れるほどしか温まらず,赤なら赤,青なら青の決まった色で光ります.しかも青い LED を光らせるには,赤い LED より高い電圧が要ります.電気は,どうやって決まった色の光に変わるのでしょうか.

考えてみる

決まった色の光と聞くと,水素原子のスペクトル線を思い出します.電子が準位の間を移ると,差に等しいエネルギー hν=Em−En の光子が1個出るのでした.LED も「準位の差」で色が決まっているのではないか,と考えたくなります.

ところが LED は気体ではなく固体で,1cm3 に 1022 個を超える原子がぎっしり並んでいます.隣の原子との距離は原子の大きさと同じくらいなので,電子は1つの原子に閉じこめられているとは言えません.原子が並ぶと準位がどうなるかを,まず調べる必要があります.

準位が並んで帯になる

同じ原子を2つ遠くに置けば,2つは同じ準位をもっています.近づけて電子が両方の原子にまたがれるようにすると,1つの準位は少し低いものと少し高いものの2つに分かれます.第7章の連成振動で,同じ振り子を2つばねでつなぐと,1つだった振動数が2つの基準振動に分かれたのと同じことです.2つの原子の波動関数を同じ符号で足した状態と,逆の符号で足した状態のエネルギーが違ってくるのです.

原子が N 個並ぶと,1つの準位は N 本に分かれ,それらが数 eV ほどの幅の中にびっしり詰まります.N は 1022 を超えるので,事実上連続した帯(バンド)とみなせます.もとの原子の準位ごとに帯ができ,帯と帯の間には,電子がとれるエネルギーのない隙間が残ります.

[図:原子の間隔とエネルギー準位の分裂]

初期状態は中くらいの原子の間隔で,2個と8個の原子の準位を並べている.横軸は原子の間隔,縦軸は電子のエネルギー.間隔を狭めると各準位が2本,8本へ広がり,帯の間に隙間が残る.スライダーで間隔と選択位置を変えられる.

電子は1つの状態に2個(スピンの向きが逆のもの)までしか入れません(パウリの原理.詳しくは次の発展の第30章).そのため固体の電子は,低い帯から順に状態を埋めていきます.

定義 価電子帯・伝導帯・バンドギャップ

絶対零度で電子がすっかり埋めている帯のうち一番上のものを価電子帯,そのすぐ上の空いた帯を伝導帯という.価電子帯の上端と伝導帯の下端のエネルギーの差をバンドギャップ Eg という.

導体・絶縁体・半導体

電場をかけて電流が流れるには,電子が電場から少しずつエネルギーを受け取って,少し上の空いた状態へ移れなければなりません.すっかり埋まった帯の中では,移れる先がありません.右へ動く電子と左へ動く電子が同じ数ずつ詰まったまま変えられないので,電流は流れません.

  • 金属(導体)では,一番上の帯が途中まで埋まっているので,電子はすぐ上の状態へ移れて電流が流れる.

  • 絶縁体では,価電子帯が埋まり,Eg が 5eV を超えるほど大きいので(ダイヤモンドは 5.5eV),伝導帯に上がれる電子がほとんどない.

  • 半導体は,Eg が 1eV 前後の絶縁体である.ケイ素 Si は 1.12eV,ゲルマニウム Ge は 0.67eV,ヒ化ガリウム GaAs は 1.42eV,窒化ガリウム GaN は 3.4eV.

電子と正孔

半導体では,熱の揺らぎで価電子帯の電子が伝導帯へ上がります.伝導帯の電子は自由に動けて電流を運びます.価電子帯には電子が1個抜けた穴が残り,隣の電子がその穴へ移ると穴が逆向きに動きます.穴の動きは,正の電荷 +e をもつ粒子の動きとまったく同じに扱えるので,これを正孔(ホール)と呼びます.真性半導体(不純物のない半導体)では,電子と正孔は必ず対で生まれるので,電子の数密度 ne と正孔の数密度 nh は等しくなります.この値を ni と書きます.

ni の温度による変化は,ボルツマン因子で見積もれます.第17章で見たように,温度 T で,エネルギーが ΔE 高い状態は exp⁡[−ΔE/(kBT)] に比例する割合で現れるのでした.電子・正孔の対が1組できる割合は,エネルギー Eg が要るので exp⁡[−Eg/(kBT)] に比例します.一方,電子が正孔と出会って消える(再結合する)割合は nenh=ni2 に比例します.生まれる割合と消える割合がつり合うので

ni2∝exp⁡(−EgkBT),ni∝exp⁡(−Eg2kBT)

となります.指数の分母の2は,1組の対が2つの電荷の運び手になることから来ています.

定理 真性半導体の導電率

真性半導体の電子と正孔の数密度は ne=nh=ni∝exp⁡[−Eg/(2kBT)].電荷の運び手の動きやすさの温度変化は指数関数に比べてゆるやかなので,導電率は近似的に

σ(T)=σ0exp⁡(−Eg2kBT)

と書ける(σ0 は一定とみなす).

ケイ素では,室温 300K で kBT=0.0259eV なので Eg/(2kBT)≈21.6 で,ni は約 1×1016m−3 です.原子の数密度 5×1028m−3 と比べると,原子 5×1012 個に1個ほどしか電子が上がっていません.温度が 10K 上がるだけで導電率は約2倍になります.金属では温度が上がると原子の振動で電子が散らされ,抵抗が増えるのとは逆です.この式は Eg が kBT より十分大きいとして,フェルミ分布をボルツマン因子で近似したものです.Eg が kBT の数倍しかない半導体や高温では破れます.

不純物半導体

ケイ素は価電子を4個もち,隣の4個の原子と電子を出し合って結合しています.ここに価電子5個のリン P をわずかに混ぜると,結合に使われない電子が1個余ります.この電子は PA+ のまわりを回る水素原子のような状態をつくりますが,まわりのケイ素が誘電体として電場を比誘電率 εr=11.7 分の1に弱め,結晶の中の電子は質量が見かけ上 0.26m ほどの粒子として振る舞います.ボーア模型のエネルギー E1 は m/ε02 に比例するので,m を 0.26m に,ε0 を εrε0 に置きかえると,結合エネルギーは

13.6eV×0.26(11.7)2≈0.026eV

で,kBT と同じくらいです.室温ではほとんどのリンが電子を伝導帯へ放します.このときの軌道の半径は 0.053nm×11.7/0.26≈2.4nm で,原子の間隔より十分大きいので,ケイ素を一様な誘電体とみなす近似が成り立ちます.

定義 n型半導体とp型半導体

電子を放す不純物(ドナー,ケイ素ではリンなど5価の原子)を混ぜ,主に電子が電流を運ぶものをn型半導体という.電子を受け取って正孔を作る不純物(アクセプター,ケイ素ではホウ素 B など3価の原子)を混ぜ,主に正孔が電流を運ぶものをp型半導体という.

ドナーの数密度 Nd が ni より十分大きければ ne≈Nd です.Nd=1022m−3(原子500万個に1個)でも,電子は真性のときの100万倍になります.運び手の符号は,第22章のホール効果で確かめられます.厚さ d の板では,ホール電圧 VH=IB/(nqd) の符号が q の符号を,大きさが数密度を教えてくれます(第22章では厚さを h と書きましたが,この章ではプランク定数と区別します).

pn接合と整流

p型とn型をつなぐと,境目の近くでn側の電子はp側へ,p側の正孔はn側へ拡散し,出会って再結合します.後には動けないイオン(n側に正のドナー,p側に負のアクセプター)だけが残る空乏層ができます.このイオンが n側からp側へ向かう電場を作り,n側の電位がp側より高くなります.この電位の段差が,電子がさらにp側へ拡散するのを押し戻し,つり合いで止まります.

p側を高い電位にする向き(順方向)に電圧 V をかけると,段差は eV だけ低くなります.段差を越えられる電子の数はボルツマン因子 exp⁡[eV/(kBT)] の割合で増え,電流は急に増えます.逆向き(逆方向)では段差が高くなり,流れるのは熱でわずかにできる少数の運び手による小さな電流 Is だけです.

法則 ダイオードの特性

理想的な pn 接合に順方向の電圧 V をかけたときの電流は

I=Is[exp⁡(eVkBT)−1]

で近似できる.Is は逆方向の飽和電流で,Eg が大きいほど小さい.

室温では kBT/e=25.9mV なので,電圧を 60mV 上げるごとに電流は約10倍になります.そのため特性曲線はケイ素で 0.6V あたりから急に立ち上がって見えます.第21章のダイオードが「ある電圧を超えると急に電流を通す」のはこのためで,問題では「導通中の電圧降下は一定値 VD,それ以下では電流0」という折れ線で近似することがよくあります.

[図:pn接合の段差とダイオードの電流]

初期状態はV = 0.040 Vの順方向.左がp型,右がn型で,伝導帯と価電子帯の電子のエネルギーはp側で高い.電場はn側からp側へ向く.電圧を変えると段差の高さ,n側からp側へ越える電子の矢印の数,電流電圧曲線上の点が変わる.

LED:電気から光へ

順方向に電流を流すと,n側から入った電子とp側から入った正孔が接合の付近で出会って再結合します.電子は伝導帯の底から価電子帯の上端へ落ちるので,エネルギー hν≈Eg の光子を出します.これが LED です.電子の運動エネルギーは kBT 程度ばらつくので,光子のエネルギーも数 kBT の幅に広がりますが,Eg に比べれば小さいので,ほぼ1つの色に見えます.電子1個が段差 Eg を落ちるには,少なくとも Eg/e ほどの電圧が要ります.赤(Eg≈1.9eV)の LED は約 1.8V から,青(Eg≈2.7eV)は約 2.7V から光ります.回路を通る電子1個あたり平均 η 個の光子が出るなら,電流 I の LED が出す光の仕事率は ηIEg/e です.

ケイ素は,電子が光子だけを出して落ちるには運動量が合わない(間接遷移型の)半導体で,再結合のエネルギーは主に結晶の振動,つまり熱になります.LED に GaAs や GaN などの化合物が使われるのはこのためです.

フォトダイオードと太陽電池:光から電気へ

LED の逆も起こります.hν≥Eg の光子が半導体に吸収されると,電子を価電子帯から伝導帯へ持ち上げ,電子・正孔の対が1組できます.hν<Eg の光子は吸収されずに通り抜けます.吸収の端の波長 λ=hc/Eg はケイ素で 1.1μm です.

対が空乏層の中かその近くでできると,接合の電場が電子をn側へ,正孔をp側へ分けます.外の回路では,電子がn側から導線を通ってp側へ回り,正孔と再結合します.したがって対1組につき,外の回路のどの断面も電荷 e が1回通ります.電子と正孔の両方を数えて 2e としてはいけません.単位時間に入る光子のうち割合 η が回路に電流を流すなら,光の仕事率 P に対する光電流は

Iph=ηePhν

です.これが光の検出器(フォトダイオード)です.

太陽電池は,これに負荷をつないで電力を取り出すものです.端子電圧 V は接合に順方向にかかるので,ダイオードの電流が光電流と逆向きに流れ,外へ出る電流は

I=Iph−Is[exp⁡(eVkBT)−1]

になります.短絡すれば I=Iph,開放すれば電流0になる開放電圧 Voc が端子に現れ,Voc は Eg/e より小さくなります.抵抗 R をつなぐと,電流は特性曲線と直線 I=V/R の交点(動作点)で決まり,取り出せる電力 IV は R によって変わります.問題では,この曲線を「V が小さいうちは電流一定,その先は直線で下がる」という折れ線で近似することがあります.

[図:太陽電池の動作点と取り出せる電力]

初期状態は負荷R = 20.0 Ω,光の強さ1.00倍.青が太陽電池の特性曲線,橙が負荷の直線I = V/Rで,交点が動作点.緑の長方形の面積は電力IV.抵抗を変えると直線の傾きと動作点が変わり,光を強くすると光電流が増えて曲線が上がる.

光子のエネルギーのうち Eg を超える分は,電子がすぐに伝導帯の底へ落ちるので熱になり,Eg より小さい光子は使われません.Eg が小さすぎても大きすぎても損が増えるので,太陽光に対しては Eg が 1eV 台の半導体が向いています.

問いに戻る

固体の中では原子の準位が帯になり,半導体では価電子帯と伝導帯の間に幅 Eg の隙間があります.LED に順方向の電流を流すと,接合の付近で伝導帯の電子が価電子帯の正孔へ落ち,そのたびに hν≈Eg の光子が1個出ます.色は物質の Eg で決まり,電子1個が Eg を落ちるにはおよそ Eg/e の電圧が要るので,Eg の大きい青い LED ほど高い電圧が要ります.電球のように物体全体を高温にして熱放射で光らせるのではなく,電子1個のエネルギーを直接光子1個に渡すので,熱になる分が少ないのです.

ポイント ここまでのまとめ

  • 原子が並ぶと準位が帯になる.価電子帯と伝導帯の間の隙間がバンドギャップ Eg で,Eg が 1eV 前後のものが半導体.

  • 真性半導体の電子と正孔は対でできて ni∝exp⁡[−Eg/(2kBT)].導電率は温度とともに急に増える(Eg が kBT より十分大きいときの近似).

  • ドナーを混ぜたn型は電子が,アクセプターを混ぜたp型は正孔が電流を運ぶ.符号はホール効果で分かる.

  • pn 接合の電流は I=Is[exp⁡(eV/(kBT))−1] で,順方向にだけ大きく流れる.

  • LED は hν≈Eg の光子を出し,太陽電池・フォトダイオードは hν≥Eg の光子1個から電荷 e を回路に流す.

14半導体の例題

前の節で,半導体の色と電気の性質がバンドギャップ Eg で決まることを見ました.この節では,LED の色と明るさ,太陽電池から取り出せる電力,ケイ素の導電率の温度変化を数にします.定数は e=1.60×10−19C,1eV=1.60×10−19J,hc=1.24×10−6eVm,kB=8.62×10−5eVK−1 を使います.光子のエネルギーを eV,波長を nm で表すと hc=1240eVnm なので,光子のエネルギーを eV で表した数で 1240nm を割れば波長になる,と覚えておくと便利です.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

赤い LED のバンドギャップは Eg=1.90eV で,出る光子のエネルギーはすべて Eg に等しいとする.この LED に電圧 2.00V をかけると電流 I=20.0mA が流れ,回路を通る電子1個あたり平均 η=0.300 個の光子が出る.

  1. 出る光の波長を求めよ.

  2. 毎秒出る光子の数と,光の仕事率を求めよ.LED に入る電力のうち光になる割合はいくらか.

  3. 実際には光子のエネルギーは Eg から Eg+2kBT ほどの幅に広がっている.T=300K として,波長の幅を見積もれ.

  4. バンドギャップ 2.70eV の青い LED の光の波長を求め,赤い LED より高い電圧が要る理由を説明せよ.

電池2.00 Vと順方向のLEDを直列につなぎ,電流I = 20.0 mAを流す.伝導帯の電子が価電子帯の正孔へ落ち,光子hνを出す.帯の間隔はE_g = 1.90 eVで,η = 0.300. 電池2.00 Vと順方向のLEDを直列につなぎ,電流I = 20.0 mAを流す.伝導帯の電子が価電子帯の正孔へ落ち,光子hνを出す.帯の間隔はE_g = 1.90 eVで,η = 0.300.
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考え方 波長は光子1個のエネルギーで,明るさは光子の数で決まる.光子の数は,電子の数 I/e に η を掛けて数える.

解答

  1. λ=hc/Eg=1240eVnm/1.90eV=653nm で,赤い光である.

  2. 毎秒回路を通る電子の数は I/e なので,毎秒出る光子の数は

ηIe=0.300×2.00×10−21.60×10−19=3.75×1016s−1

である.光子1個のエネルギーは 1.90×1.60×10−19=3.04×10−19J なので,光の仕事率は

Plight=3.75×1016×3.04×10−19=1.14×10−2W=11.4mW

である.これは ηIEg/e=0.300×0.0200A×1.90V と同じである.入る電力は 2.00V×20.0mA=40.0mW なので,光になる割合は 11.4/40.0=0.285,すなわち 28.5 % である.残りは LED と導線の中で熱になる.

  1. kBT=8.62×10−5×300=0.0259eV なので,エネルギーの幅は ΔE=0.0517eV である.λ=hc/E より,幅が小さければ Δλ/λ≈ΔE/E なので

Δλ≈653nm×0.05171.90≈18nm

である.波長の 3 % ほどの幅で,目にはほぼ1つの色に見える.ΔE/Eg が小さいことが,この近似と「決まった色」の条件である.

  1. λ=1240/2.70=459nm で青い光である.電子1個が伝導帯から価電子帯へ落ちて光子1個を出すには,電子がエネルギー Eg を持ちこまなければならない.電源が電子1個にする仕事は eV なので,eV が Eg 程度にならないと光らない.赤は約 1.9V,青は約 2.7V 以上が要る.

確かめ (2) で光の仕事率 11.4mW は入る電力 40.0mW を超えず,η→1 でも IEg/e=38.0mW で IV より小さい.エネルギーの収支に矛盾しない.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

ある太陽電池に一定の光を当てたとき,端子電圧 V と外へ流れ出す電流 I の関係は

I=Iph−Is[exp⁡(VVT)−1]

で表される.Iph=30.0mA,Is=1.00×10−12A,VT=kBT/e=25.9mV とし,太陽電池に入る光の仕事率は 100mW とする.ln⁡10=2.303,ln⁡3=1.099 を使ってよい.

  1. 短絡したときの電流と,開放電圧 Voc を求めよ.

  2. 抵抗 R=10.0Ω をつないだときの電流と電力を求めよ.

  3. 取り出せる電力が最大になる動作点の電圧・電流・電力と,そのときの抵抗を求めよ.光から電気への変換効率はいくらか.

横軸は端子電圧V,縦軸は外へ流れ出す電流I.太陽電池の特性曲線と,問題で与えられた抵抗R = 10.0 Ωの負荷の直線I = V/Rを示す.曲線はVが小さいとほぼ水平で,電流が0になる手前で急に下がる. 横軸は端子電圧V,縦軸は外へ流れ出す電流I.太陽電池の特性曲線と,問題で与えられた抵抗R = 10.0 Ωの負荷の直線I = V/Rを示す.曲線はVが小さいとほぼ水平で,電流が0になる手前で急に下がる.
解答を見る

考え方 動作点は,太陽電池の特性と抵抗の特性 I=V/R を同時に満たす点である.指数関数は V が Voc よりかなり小さいところではとても小さいので,まずそこで近似できるかを調べる.最大電力は P=IV を V で微分して求める.

解答

  1. 短絡では V=0 なので I=Iph=30.0mA である.開放では I=0 なので exp⁡(Voc/VT)=Iph/Is+1≈3.00×1010 となり,

Voc=VTln⁡(3.00×1010)=25.9mV×(1.099+10×2.303)=25.9mV×24.13=0.625V

である.

  1. 指数の項を無視できるとすると I=Iph=30.0mA,V=RI=0.300V である.このとき V/VT=11.6 で,Isexp⁡(11.6)≈1×10−12×1.1×105≈1×10−7A は Iph に比べて十分小さいので,近似は正しい.電力は IV=30.0mA×0.300V=9.00mW である.

  2. x=V/VT とおき,Is を Iph に比べて無視すると P=IV=VTx(Iph−Isex).dPdx=0 より

Iph−Isex(1+x)=0,ex(1+x)=IphIs=3.00×1010

である.対数をとると x+ln⁡(1+x)=24.12 で,右辺の大部分は x が受け持つ.x=21 とおくと左辺は 21+3.09=24.09,x=21.03 とおくと 24.12 なので,x=21.03 である.したがって

Vm=21.03×25.9mV=0.545V

である.このとき Isex=Iph/(1+x)=30.0/22.03=1.36mA なので

Im=30.0−1.36=28.6mA,Pm=ImVm=15.6mW

である.抵抗は R=Vm/Im=0.545/0.0286=19.0Ω,変換効率は 15.6/100=0.156,すなわち 15.6 % である.

確かめ Pm は VocIph=18.7mW より小さく,比は 0.83 である.特性曲線がほぼ長方形に近いほどこの比は1に近づく.R=10.0Ω の (2) より電力が大きいことも,(2) の動作点が特性の水平な部分にあって電圧を使い切っていないことと合う.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

ケイ素のバンドギャップを Eg=1.12eV とする.真性のケイ素の電子の数密度は ni∝exp⁡[−Eg/(2kBT)] で,比例定数は温度によらないとし,300K で ni=1.0×1016m−3 である.導電率は σ=σ0exp⁡[−Eg/(2kBT)](σ0 は一定)とする.試料の形と大きさは温度によらず一定とする.

  1. 温度を 300K から 310K に上げると,真性のケイ素の抵抗は何倍になるか.銅の抵抗は同じ温度変化で約4 % 増える.両者を比べよ.

  2. ケイ素に数密度 Nd=1.0×1021m−3 のドナーを入れ,すべて電子を放しているとする.300K で電子の数密度はいくらか.

  3. 温度を上げていくと,ni が Nd と等しくなり,不純物で決めた性質が失われる.そうなる温度を見積もれ.ln⁡10=2.303 を使ってよい.

解答を見る

考え方 比例定数の分からない量は,2つの温度の比をとって消す.指数の中は Eg2kB(1T1−1T2) という形にまとまる.

解答

  1. Eg/(2kB)=1.12/(2×8.62×10−5)=6.50×103K である.抵抗は導電率に反比例するので

R(310K)R(300K)=σ(300K)σ(310K)=exp⁡[−6.50×103×(1300−1310)]=exp⁡(−0.699)=0.497

で,約半分になる.銅は 10K で4 % 増えるだけで,しかも向きが逆である.ケイ素では電荷の運び手の数が指数関数的に増えるが,銅では運び手の数は変わらず,原子の振動による散乱が増えるだけだからである.

  1. Nd は ni の 105 倍なので,熱でできる電子は無視でき,ne≈Nd=1.0×1021m−3 である.(1) の温度変化でも ni は2倍になるだけなので,電子の数はほとんど変わらない.

  2. 求める温度を T とすると ni(T)/ni(300K)=1.0×105 なので

Eg2kB(1300K−1T)=ln⁡(1.0×105)=5×2.303=11.5

である.1/T=1/300−11.5/(6.50×103)=3.33×10−3−1.77×10−3=1.56×10−3K−1 より,T≈640K である.

確かめ T=640K でも Eg/(2kBT)≈10 で,Eg が kBT より十分大きいというボルツマン因子の近似は保たれている.ただし ni の比例定数も実際には温度とともにゆるやかに増えるので,本当の温度はこの見積もりより低い.ケイ素の電子部品が数百 K の高温で使えなくなる理由の1つである.

ポイント ここまでのまとめ

  • 光子のエネルギーと波長は λ=hc/E,hc=1240eVnm.LED の色は Eg で決まり,光の仕事率は ηIEg/e.

  • 太陽電池の動作点は特性曲線と I=V/R の交点で,電力 IV が最大になる抵抗がある.開放電圧は VTln⁡(Iph/Is) で Eg/e より小さい.

  • 真性半導体の量は2つの温度の比をとると比例定数が消え,指数に Eg2kB(1T1−1T2) が現れる.

  • ドナーの数密度が ni より十分大きい間は ne≈Nd で,温度によらない.

15半導体の光応答と電気伝導の演習

光と電気を調べます.定数は e=1.60×10−19C,1eV=1.60×10−19J,hc=1.99×10−25Jm≈1.24×10−6eVm,kB=8.62×10−5eVK−1 です.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

バンドギャップ Eg=1.55eV の光検出器です.hν≥Eg の光子だけが電子・正孔対を1組作ります.入射光子の割合 η=0.700 を収集し,対1組につき電荷 e が外部回路を通ります.暗電流は無視します.

  1. 検出の最長波長と,620nm と 900nm の検出可否を求めよ.

  2. 620nm,入射電力 P=2.00mW の光による電流を求めよ.

解答を見る

考え方 光子のエネルギーと個数を分ける.

  1. hc/λ≥Eg より λmax=hc/Eg=800nm.前者だけ検出できる.

  2. 光子数毎秒は P/(hc/λ).収集率を掛けて

I=ηePλhc=6.98×10−4A.

電子と正孔を数えて 2e を掛けない.η→0 で電流も0となる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

交流電源 V(t)=V0sin⁡ωt に,ダイオードと抵抗 R を直列につなぎます.電源電圧が VD を超える正電圧のとき導通し,電源は内部抵抗0です.ダイオードは導通中の電圧降下が VD=V0/2,他では電流0です.

  1. 複素振幅で電源を表し,導通区間と電流を求めよ.

  2. 1周期の通過電荷と平均電流を求めよ.

交流電源V(t)=V0 sin ωtに,正電圧で導通するダイオードと抵抗Rを直列につなぐ.矢印は電流の正方向を示す.導通中のダイオードの電圧降下はVD=V0/2である. 交流電源V(t)=V0 sin ωtに,正電圧で導通するダイオードと抵抗Rを直列につなぐ.矢印は電流の正方向を示す.導通中のダイオードの電圧降下はVD=V0/2である.
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考え方 抵抗のインピーダンスは R.非線形なダイオードは導通中だけ電圧降下を引く.

  1. 複素振幅は V^=−iV0 で,V(t)=Re(V^eiωt).θ=ωt とすれば,導通は sin⁡θ>1/2,すなわち π/6<θ<5π/6.区間内では

I(t)=Re(V^Reiωt)−VDR=V0R(sin⁡θ−12),

他では0.

  1. dt=dθ/ω を用い,

Q=V0Rω∫π/65π/6(sin⁡θ−12)dθ=V0Rω[−cos⁡θ−θ/2]π/65π/6=V0Rω(3−π3).

周期 2π/ω で割ると I―=V0(3−π/3)/(2πR)≈0.109V0/R.導通は周期の 1/3.応答時間 τ に対し,瞬時応答には ωτ が十分小さいことが必要である.

演習 3

東京大 2014 前期(改題) ★★☆☆☆

照度の異なる太陽電池2枚を電圧が加算される向きに直列接続し,抵抗 R へ出力します.特性は

I=Ja(Va≤V0),I=Ja−Va−V0r(Va>V0)

です.a=1,2,J1=I0,J2=3I0/2,V0=rI0 とし,各定数は正.

  1. R=2r と R=4r で,I,V1,V2 を求めよ.

  2. R を増して電流が I0 より小さくなる境目を求め,作図で説明せよ.

電圧が加算される向きの太陽電池1,2と抵抗Rを直列接続する.右は問題で与えられた各電池の電流Iと電圧Vaの特性である.負荷線や動作点は含まない. 電圧が加算される向きの太陽電池1,2と抵抗Rを直列接続する.右は問題で与えられた各電池の電流Iと電圧Vaの特性である.負荷線や動作点は含まない.
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考え方 電流は等しく,電圧は和.各枝の条件を確かめる.

  1. I≤I0<J2 なので電池2は傾いた枝で,V2=V0+r(J2−I).R=2r では I=I0 とすると V2=3V0/2,V1=RI0−V2=V0/2 で,電池1の平らな枝に合う.

両方が傾いた枝では V1+V2=2V0+r(J1+J2−2I)=RI より I=9rI02R+4r.R=4r では I=3I0/4,V1=5V0/4,V2=7V0/4 で枝の条件に合う.

  1. 境目は V1=V0,I=I0 なので RI0=V0+3V0/2,R=5r/2.同じ電流で電圧を足した特性と I=V/R の交点を取る.R→∞ で I→0 となり,開放電圧の和へ近づく.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

同じ真性半導体から作った等断面積で長さ ℓ と 2ℓ の試料です.長さ L の抵抗は Rmeas=Rc+L/(σS) とし,接触抵抗 Rc は同温度では共通です.導電率にボルツマン因子 σ(T)=σ0exp⁡[−Eg/(2kBT)] を使い,σ0 は一定です.

温度

長さ ℓ の測定抵抗

長さ 2ℓ の測定抵抗

300K

2.47kΩ

4.44kΩ

320K

1.44kΩ

2.38kΩ

  1. 接触抵抗を除き Eg を求めよ.

  2. 各抵抗の誤差は最大 0.02kΩ とし,温度誤差は無視する.Eg の上下限を求め,吸収端 2.10μm と整合するか判定せよ.

同じ半導体の長さℓと2ℓの試料を示す.断面積Sは等しい.橙色の接触部分の抵抗は両端を合わせてRcであり,同温度では2試料に共通である. 同じ半導体の長さℓと2ℓの試料を示す.断面積Sは等しい.橙色の接触部分の抵抗は両端を合わせてRcであり,同温度では2試料に共通である.
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考え方 抵抗差で接触抵抗を消し,比の対数を取る.

  1. 抵抗差は D=R2ℓ−Rℓ=ℓ/(σS).温度の添字は表の順に1,2とし, D1=1.97kΩ,D2=0.94kΩ.対数から

ln⁡D1D2=Eg2kB(1T1−1T2),Eg=2kBln⁡(D1/D2)1/T1−1/T2=0.612eV.
  1. 差の誤差は 0.04kΩ.比の下限は 1.93/0.98,上限は 2.01/0.90.(1)へ代入して 0.561eV≤Eg≤0.665eV.光から Eg=hc/λ=0.590eV で範囲内である.前因子一定の近似には |ln⁡[σ0(T2)/σ0(T1)]| が対数比より十分小さい必要がある.

演習 5

京都大 2017 前期(改題) ★★★☆☆

幅 w,厚さ d=0.100mm の半導体板へ電流 I=2.00mA を +x 方向へ流します.幅は +y,厚さはz方向です.担体の電荷は q=±e,数密度は Nc で,担体は1種類だけです.電圧を VH=V(y=w)−V(y=0) と定義します.

磁場 Bz=+0.500T と −0.500T で測定電圧はそれぞれ +2.40mV,−1.60mV です.磁場によらない加算誤差 Voff を含みます.

  1. 力のつり合いから VH を導け.

  2. 誤差を除き,型を判別し Nc を求めよ.

電流Iは板の+x方向へ流れ,幅wはy方向,厚さdはz方向である.上下の電圧端子と電圧計を示す.右下の⊙と⊗は,それぞれ+zと−z方向の磁場を表す. 電流Iは板の+x方向へ流れ,幅wはy方向,厚さdはz方向である.上下の電圧端子と電圧計を示す.右下の⊙と⊗は,それぞれ+zと−z方向の磁場を表す.
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考え方 担体の速度と電流を区別し,磁場反転で差を取る.

  1. 担体の速度成分を vx とすると,I=Ncqvxwd.v×B のy成分は −vxBz なので,q(Ey−vxBz)=0.したがって Ey=vxBz,

VH=−Eyw=−IBzNcqd.
  1. 真値は差の半分 (2.40+1.60)/2=2.00mV,誤差は平均の 0.400mV.IBz>0 で VH>0 なので q=−e,n型である.Nc=IB/(ed|VH|)=3.13×1022m−3.幅は消え,真値だけが反転する.

ポイント 教える人へ

  • 電子・正孔対の二重計数を問います.

  • 特性の枝を解の電圧で検証させます.

  • 測定誤差と模型誤差を区別させます.

16第29章の章末問題

光のエネルギー,電子の運動量,準位差,半導体の応答を組み合わせて考えましょう.数値計算では,問題文に別の指定がない限り,h=6.63×10−34Js,c=3.00×108ms−1,e=1.60×10−19C,電子質量 m=9.11×10−31kg,1eV=1.60×10−19J を用います.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

水素原子の準位は En=−B/n2,B=13.6eV です.n=4 から2,n=3 から2への光を,仕事関数 W=1.70eV の金属と,バンドギャップ Eg=2.30eV の半導体へ別々に照射します.原子の反跳を無視し,金属では光子1個による電子の放出,半導体では hν≥Eg の光子による電子・正孔対の生成だけを考えます.

  1. 2種類の光子のエネルギーを求め,それぞれの試料が応答するか判定せよ.

  2. 金属から放出される電子の最大運動エネルギーと阻止電圧の大きさを求めよ.半導体が応答しない光の強さを増すと,判定は変わるか.

水素のn=4から2,n=3から2への2遷移を示す.別々に照射する金属の仕事関数W=1.70 eVと,半導体のバンドギャップEg=2.30 eVを記す.準位の高さは模式的である. 水素のn=4から2,n=3から2への2遷移を示す.別々に照射する金属の仕事関数W=1.70 eVと,半導体のバンドギャップEg=2.30 eVを記す.準位の高さは模式的である.
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考え方

同じ光子エネルギーを,仕事関数とバンドギャップのそれぞれと比較する.

  1. 準位差は

Q4→2=B(14−116)=2.55eV,Q3→2=B(14−19)=1.89eV.

両方とも W より大きいので金属は電子を放出する.半導体では Q4→2>Eg>Q3→2 だから,前者だけが対を作る.

  1. Kmax=Q−W,eVs=Kmax より,順に Kmax=0.850eV,0.189eV,Vs=0.850V,0.189V である.強さを増しても1個の光子のエネルギーは増さず,指定した1光子過程での半導体の判定は変わらない.しきい値へ近づくと金属の Kmax は0となり,エネルギー収支に合う.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

バンドギャップ Eg=2.50eV のLEDが,エネルギー Eg の光子を出す模型です.その光を仕事関数 W=1.80eV の陰極へ当てます.放出電子のうち最大の運動エネルギーをもつものを選び,陰極より V=4.30V 高い電位まで加速して電子線にします.接触電位差と電子間の相互作用は無視します.

  1. 加速後の電子の運動エネルギーとド・ブロイ波長を求めよ.

  2. 波長を(1)の半分にするには,加速電圧をいくらにすればよいか.

LEDの光を光電陰極へ当て,放出電子のうち最大の運動エネルギーをもつものを選別する.陰極より電位Vだけ高い加速電極を通して電子線を作る. LEDの光を光電陰極へ当て,放出電子のうち最大の運動エネルギーをもつものを選別する.陰極より電位Vだけ高い加速電極を通して電子線を作る.
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考え方

光電子が最初からもつ運動エネルギーと,電場から得るエネルギーを足す.

  1. 放出時は K0=Eg−W=0.700eV.加速後は K=K0+eV=5.00eV なので,p2=2mK と λ=h/p から

λ=h2mK=5.49×10−10m.
  1. 波長を半分にすると運動量は2倍,運動エネルギーは4倍となる.従って K′=20.0eV,eV′=K′−K0 より V′=19.3V である.加速電圧だけを4倍にはできない.大きい方でも K′/(mc2)=3.90×10−5 と小さく,非相対論的な運動エネルギーを使える.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

面間隔 d=0.200nm の同じ結晶を,電子線と連続X線の回折に使います.電子線は静止電子を電圧 Ve で加速して作り,X線は静止電子を電圧 Vγ で加速して標的に当てて作ります.結晶内の電子線の運動量変化を無視します.ブラッグ条件は 2dsin⁡θ=jλ,j=1,2,… です.X線の波長は連続的に分布し,最短波長は hc/(eVγ) とします.

  1. 1次反射の波長を含むための Ve,Vγ の下限をそれぞれ求めよ.

  2. 電圧が(1)の下限の4倍なら,電子線の1次反射角と,X線で可能な1次反射角の範囲を求めよ.下限ちょうどの反射角は形式的な極限として扱ってよい.

電子線源と連続X線源を別々に示す.共通の結晶の面間隔はd=0.200 nmで,入射線と反射線の結晶面に対する角をθとする.反射角は模式的に示している. 電子線源と連続X線源を別々に示す.共通の結晶の面間隔はd=0.200 nmで,入射線と反射線の結晶面に対する角をθとする.反射角は模式的に示している.
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考え方

sin⁡θ≤1 が許す波長を求め,電子と光子のエネルギーの違いを使う.

  1. 1次反射には λ≤2d が必要である.電子の λe=h/2meVe より

Ve≥h28med2=9.42V.

X線は λmin≤2d ならよいので

Vγ≥hc2ed=3.11×103V.

同じ波長でも,電子のエネルギーは光子より小さい.

  1. 電子では λe∝Ve−1/2 なので λe=d,従って sin⁡θ=1/2,θ=30.0∘.X線では λmin∝Vγ−1 なので λmin=d/2.d/2≤λ≤2d の成分が反射でき,arcsin⁡(1/4)≤θ≤90∘,すなわち 14.5∘≤θ≤90∘ である.電子の最大電圧でも eVe/(mc2)=7.36×10−5 と小さく,ここでの電子波長の近似はよい.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

波長 λa=500nm,λb=800nm の2色を含む光があります.同じ光を2つの光電管へ順に,光学的な損失なしで当て,放出電子を全て集めて測定しました.仕事関数以上のエネルギーをもつ光子は必ず電子1個を放出し,それ以外は放出しない模型です.暗電流は無視します.

光電管

仕事関数

飽和電流と最大誤差

1

1.20eV

(0.260±0.004)mA

2

2.00eV

(0.100±0.002)mA

  1. 中心値から各色の入射電力 Pa,Pb を求めよ.

  2. 同じ光を,Eg=1.80eV のフォトダイオードへ当てます.hν≥Eg の入射光子の割合 η=0.750 が収集され,1個につき電荷 e が外部回路を通ります.電流の中心値と誤差の範囲を予測せよ.さらに Pb の上下限を求めよ.波長と η の誤差は無視します.

同じλa=500 nm,λb=800 nmの光を,順に光電管1,光電管2,フォトダイオードへ損失なしで当てる.各測定の電流計を示す. 同じλa=500 nm,λb=800 nmの光を,順に光電管1,光電管2,フォトダイオードへ損失なしで当てる.各測定の電流計を示す.
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考え方

応答する色をしきい値で選び,電流の差から各色の光子数を決める.

  1. 光子エネルギーは Qa=hc/λa=2.49eV,Qb=hc/λb=1.55eV.光電管1は両色,光電管2はaだけを検出する.毎秒の入射光子数を N˙a,N˙b と定義すると,I1=e(N˙a+N˙b),I2=eN˙a より

Pa=I2hceλa=0.249mW,Pb=(I1−I2)hceλb=0.249mW.

電力が等しくても,光子数は N˙b/N˙a=1.60 である.

  1. ダイオードもaだけに応答するので ID=ηI2=(75.0±1.5)μA.bに対応する電流差の下限は 0.256−0.102=0.154mA,上限は 0.264−0.098=0.166mA である.従って 0.239mW≤Pb≤0.258mW.これらは指定した収量一定の模型での範囲であり,電子・正孔対1組に 2e を掛けると電荷の収支を二重に数える.

演習 5

オリジナル ★★☆☆☆

原子番号 Z=2 の水素型イオンを,未知の主量子数 n にそろえます.準位は En=−13.6Z2eV/n2 です.エネルギー Q=19.63eV の光子で電離し,電子だけを面間隔 d=0.500nm の結晶へ入射させると,1次のブラッグ反射が面となす角 θ=30.0∘ で観測されました.電離後に電子を加速せず,イオンの反跳と結晶内の運動量変化を無視します.

  1. 電子の波長と運動エネルギーを求め,初めの n を同定せよ.

  2. 同じ光を基底状態のこのイオンへ当てると電離するか.また,(1)の電離での入射光子と放出電子の波長の比を求めよ.

エネルギーQ=19.63 eVの光子で水素型イオンを電離し,電子を加速せず結晶へ送る.結晶の面間隔d=0.500 nm,1次反射角θ=30.0°を示す. エネルギーQ=19.63 eVの光子で水素型イオンを電離し,電子を加速せず結晶へ送る.結晶の面間隔d=0.500 nm,1次反射角θ=30.0°を示す.
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考え方

回折で決まる電子の運動量から,電離に費やしたエネルギーを逆算する.

  1. λe=2dsin⁡θ=0.500nm.p=h/λe より

K=h22mλe2=6.03eV.

保存式は Q=54.4eV/n2+K なので,束縛エネルギーは Q−K=13.60eV.従って n2=54.4/13.60=4.00,n=2 である.

  1. 基底状態の電離には 54.4eV が必要であり,この光では足りない.光子の波長は λγ=hc/Q=63.3nm だから,λγ/λe=127.同じ過程で生じても光子と電子の波長は一致しない.電子では K/(mc2)=1.18×10−5 と小さく,非相対論的な波長の式を使える.

演習 6

オリジナル ★★☆☆☆

幅一定の1次元の箱にある電子の準位を En=n2A,A=0.300eV とします.毎秒 N˙ 個の電子を n=4 に用意し,割合 f が4から1へ直接遷移し,残りが4,3,2,1の順で遷移する模型です.この2経路だけを考え,光子は全て外へ取り出します.

同じ発光を2つの光電管へ順に,損失なしで当てます.仕事関数は W1=1.00eV,W2=3.00eV,飽和電流は I1=0.256μA,I2=0.0640μA です.しきい値を超す光子は必ず電子1個を放出し,暗電流はありません.

  1. 各経路の光子エネルギーを求め,I1,I2 を N˙,f で表せ.

  2. N˙,f と,全波長を合わせた放射電力を求めよ.

箱の準位n=1〜4と,4から1の直接遷移,4から3,3から2,2から1の3段階遷移を示す.光電管1,2には仕事関数と観測された飽和電流を記す.準位の高さは模式的である. 箱の準位n=1〜4と,4から1の直接遷移,4から3,3から2,2から1の3段階遷移を示す.光電管1,2には仕事関数と観測された飽和電流を記す.準位の高さは模式的である.
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考え方

準位差の総和は経路によらないが,しきい値を超す光子数は経路で異なる.

  1. 直接遷移は 15A=4.50eV.3段階では順に 7A=2.10eV,5A=1.50eV,3A=0.900eV である.光電管1は直接経路で1個,3段階経路で2個を検出し,光電管2は直接経路の1個だけを検出する.従って

I1=eN˙[f+2(1−f)]=eN˙(2−f),I2=eN˙f.
  1. 足して I1+I2=2eN˙ より N˙=1.00×1012s−1,f=2I2/(I1+I2)=0.400.放射電力は

P=N˙(E4−E1)=N˙×4.50eV=0.720μW.

3段階でも 2.10+1.50+0.900=4.50 なので同じ総エネルギーとなる.f=0,1 の極限でも,電流は光子の個数,電力はエネルギーの総和をそれぞれ正しく数える.

演習 7

オリジナル ★★★☆☆

静止自由電子へ波長 λc=h/(mc) の光子を入射させます.散乱光子の角を ϕ とすると,波長は λ′=λc+λc(1−cos⁡ϕ) です.反跳電子のド・ブロイ波長が,散乱光子の波長 λ′ と等しくなる散乱を選びます.電子の全エネルギーには Ee2=m2c4+pe2c2 を用いよ.

  1. その散乱角と,共通の波長を求めよ.

  2. 電子の運動量の大きさと運動エネルギーを求め,エネルギー保存でも検算せよ.pe2/(2m) を使うと運動エネルギーを何 %大きく見積もるか.

静止自由電子へ波長λcの光子を入射させる.散乱光子の角はφで,波長はλ′である.選ぶ条件は反跳電子のド・ブロイ波長がλ′に等しいことである.散乱と反跳の向きは模式的に描いている. 静止自由電子へ波長λcの光子を入射させる.散乱光子の角はφで,波長はλ′である.選ぶ条件は反跳電子のド・ブロイ波長がλ′に等しいことである.散乱と反跳の向きは模式的に描いている.
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考え方

等しい波長は等しい運動量の大きさを意味する.運動量保存は方向も含めて使う.

  1. 入射光子の運動量を pi,散乱光子を pf とする.pe=pf と,pe=pi−pf より

pf2=pi2+pf2−2pipfcos⁡ϕ,pipf=2cos⁡ϕ.

一方,pi/pf=λ′/λc=2−cos⁡ϕ なので,2−cos⁡ϕ=2cos⁡ϕ.従って cos⁡ϕ=2/3,ϕ=48.2∘,λ′=4λc/3 である.

  1. pe=h/λ′=3mc/4.相対論的な関係から

K=mc2(1+916−1)=mc24=1.28×105eV.

光子のエネルギーは入射で mc2,散乱後で 3mc2/4 なので,失った mc2/4 と一致する.非相対論的な値は Knr=9mc2/32 であり,Knr/K−1=1/8,12.5 %大きい.pe/(mc)=3/4 は小さくなく,その近似の適用条件を満たさない.

演習 8

オリジナル ★★★☆☆

ある粒子が,隣接する準位を3回続けて下がる発光を観測しました.時間順の光子エネルギーを Q1,Q2,Q3 とすると,次の値でした.表の不確かさはそれぞれ独立な最大誤差です.

順序

光子エネルギー

1

(0.840±0.010)eV

2

(0.600±0.010)eV

3

(0.360±0.010)eV

候補は,電子を幅 L の箱に入れた模型 En=An2,A=h2/(8mL2),または水素型の模型 En=−D/n2,D>0 です.いずれも n=1,2,…,反跳は無視します.

  1. どちらの模型かを判定し,最終準位の量子数 j,A の中心値と L を求めよ.

  2. j が誤差の範囲でも一意であることを示し,全3測定と両立する L の範囲を求めよ.Eg=0.500eV の半導体は,どの光子に応答するか.

未知の4つの隣接準位を3回続けて下がる.矢印の順序はQ1,Q2,Q3であり,測定された光子エネルギーを記す.準位の高さは模式的である. 未知の4つの隣接準位を3回続けて下がる.矢印の順序はQ1,Q2,Q3であり,測定された光子エネルギーを記す.準位の高さは模式的である.
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考え方

発光の順序による準位差の変化で模型を選び,整数の量子数を条件にして測定範囲を絞る.

  1. 水素型では n が下がるほど隣接準位差が大きくなるが,観測値は小さくなる.箱の模型では

Q1=A(2j+5),Q2=A(2j+3),Q3=A(2j+1).

隣り合う差は 2A なので,A=(Q1−Q3)/4=0.120eV.2j+1=Q3/A=3 より j=1.L=h/8mA=1.77nm である.

  1. j≥2 なら Q1/Q3=(2j+5)/(2j+1)≤9/5=1.80.しかし測定の最小の比でも 0.830/0.370=2.24 なので,j≥2 は除かれる.j=1 のとき各測定が与える A の範囲は

0.8307eV≤A≤0.8507eV,0.5905eV≤A≤0.6105eV,0.3503eV≤A≤0.3703eV.

共通部分は最初の範囲で,0.11857eV≤A≤0.12143eV.L∝A−1/2 より 1.762nm≤L≤1.783nm となる.半導体は誤差を含めても Q1,Q2 だけに応答する.箱の最大準位でも E4/(mc2)≈3.8×10−6 と小さく,非相対論的模型は整合する.

演習 9

東京大 2014 前期(改題) ★★★☆☆

同じ照射を受ける同一の太陽電池を N 枚,電圧が加算される向きに直列接続し,抵抗 R=100Ω とLEDを直列につなぎます.1枚の太陽電池の出力特性を V=Voc−rI,Voc=0.650V,r=65.0Ω とします.LEDは順方向電流が流れる間は VD=1.80V,導通しないときは電流0の模型です.

LEDのバンドギャップは Eg=eVD で,回路を通る電子1個につき平均 η=0.400 個の光子を出し,各光子のエネルギーは Eg です.各太陽電池への入射光電力は Pin=30.0mW です.定常状態だけを扱います.

  1. LEDへ正の電流を流せる最小の N と,N=3,4 での電流を求めよ.

  2. N=4 のLEDの放射電力,太陽電池全体の出力電力,抵抗とLEDで熱になる電力を求め,エネルギー収支を確かめよ.入射光からLED光への効率も求めよ.

  3. 同じ照射条件で枚数を増やすとき,入射光の全電力に対するLEDの放射電力の比を最大にする整数 N を求めよ.まず N を連続変数として調べ,最後に整数を比較せよ.

同一太陽電池N枚を電圧が加算される向きに直列接続し,抵抗Rと順方向のLEDにつなぐ.太陽電池1枚の出力特性と,問題で与えられた各定数を示す. 同一太陽電池N枚を電圧が加算される向きに直列接続し,抵抗Rと順方向のLEDにつなぐ.太陽電池1枚の出力特性と,問題で与えられた各定数を示す.
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考え方

開放電圧で導通を判定し,太陽電池の電圧低下を含めて回路と光の収支をつなぐ.

  1. 正の電流には NVoc>VD が必要なので,N>1.80/0.650=2.77,最小は3枚.導通時のキルヒホッフの式は

N(Voc−rI)=VD+RI,I=NVoc−VDNr+R.

N=3 では I=0.508mA,N=4 では I=2.22mA である.

  1. 電子数毎秒は I/e だから Pγ=η(I/e)Eg=ηIVD=1.60mW.抵抗での発熱は PR=I2R=0.494mW,LEDの入力は IVD=4.00mW,そのうち熱は PD,heat=(1−η)IVD=2.40mW.太陽電池全体の端子出力は

Pout=NI(Voc−rI)=4.49mW=Pγ+PR+PD,heat.

入射光の全電力は NPin=120mW なので,効率は Pγ/(NPin)=0.0133,1.33 %である.太陽電池側で出力にならない電力は NPin−Pout.η→0 ではLEDの入力が全て熱へ移り,指定した定電圧模型内で収支が閉じる.

  1. 効率は

ϵ(N)=ηVDPinNVoc−VDN(Nr+R).

N>VD/Voc で微分すると

dϵdN=ηVDPin−rVocN2+2rVDN+RVDN2(Nr+R)2.

分子は正から負へ変わり,最大点は

N∗=VDVoc+(VDVoc)2+RVDrVoc=6.22.

従って整数では6と7だけを比べればよい.ϵ(6)=0.01714,ϵ(7)=0.01699 より,最適は6枚で約1.71 %.N→∞ では電流が Voc/r に近づく一方,入射電力は枚数に比例して増すので効率は0へ近づく.

17第29章の発展問題

換算質量,反跳,不確定性を,保存則と測定の条件に結びつけます.数値計算では h=6.63×10−34Js,ℏ=h/(2π),c=3.00×108ms−1,e=1.60×10−19C,電子質量 m=9.11×10−31kg,1eV=1.60×10−19J を用います.

演習 1

オリジナル ★★★★☆

同じ核電荷 +e をもつ2種類の原子H,Xの,対応するスペクトル線を比較します.核質量は MH=1836m と未知の MX>MH.換算質量 μ=mM/(m+M) を使うボーア模型では,重心運動を除いた準位は En=−B(μ/m)/n2,B=13.6eV です.熱運動と発光時の反跳を無視します.

2から1への線で δ=1−λX/λH=(3.63±0.03)×10−4 と測定しました.これは独立な最大誤差を含む波長比の測定です.

  1. δ と核質量の関係を導き,MX/MH の中心値と上下限を求めよ.

  2. 3から2への線でも,δ は同じになるか.波長差 λH−λX の比を,2から1の線を基準にして求めよ.

  3. 2から1への準位差の差を数値で求めよ.励起状態の寿命を τ=2.00×10−9s,自然幅を ΔE∼ℏ/τ と見積もると,この幅だけで2本の線は重なるか.

  4. MX→∞ での δ の上限を求めよ.上限近くで質量推定の相対誤差が増す理由を,式で説明せよ.

原子HとXの準位n=1,2,3,および2から1,3から2の対応する遷移を示す.2から1の発光を波長測定に使い,測定されたδ=1−λX/λHの値を記す.準位の高さは模式的である. 原子HとXの準位n=1,2,3,および2から1,3から2の対応する遷移を示す.2から1の発光を波長測定に使い,測定されたδ=1−λX/λHの値を記す.準位の高さは模式的である.
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考え方

換算質量は全ての準位差に同じ倍率で効く.逆問題では,小さな波長差から核質量を求める際の誤差も追う.

  1. 準位差に μ が比例するので,λ∝1/μ.a=m/MH=1/1836,s=m/MX とすると

λXλH=1+s1+a,δ=a−s1+a,MXMH=aa−(1+a)δ.

中心値は MX/MH=3.00.比は δ とともに増すので,δ=3.60×10−4,3.66×10−4 を代入し,2.95≤MX/MH≤3.05 となる.

  1. 遷移の量子数によらず波長比は同じなので,δ も同じである.絶対差は δλH なので

(λH−λX)3→2(λH−λX)2→1=λH,3→2λH,2→1=3/41/4−1/9=275.

2から1では λH=hc/[(3B/4)/(1+a)]≈122nm,波長差は約 0.0443nm.3から2では約 0.239nm となる.

  1. Hの光子エネルギーを QH=3B/[4(1+a)]=10.194eV とすると,QX=QH/(1−δ).従って

QX−QH=QHδ1−δ=3.70×10−3eV.

自然幅は ℏ/τ=3.30×10−7eV.線の差は約 1.1×104 倍大きく,自然幅だけでは重ならない.装置による幅は別に調べる必要がある.

  1. s→0 より δmax=a/(1+a)=1/1837=5.44×10−4.質量の式を微分すると

dMXMX=dδδmax−δ.

上限までの距離が小さいほど誤差が拡大する.今回の半幅では相対誤差は約 3.0×10−6/(5.4437×10−4−3.63×10−4)=0.0165.線幅との比較に使った QX−QH≈QHδ の近似には δ が十分小さいことが必要で,ここではその条件を満たす.

演習 2

オリジナル ★★★★☆

質量 mμ=207m,電荷 −e の粒子1個を,質量 M=6×1836m,核電荷 +3e の中心に束縛します.重心は静止し,粒子の崩壊を無視します.相対距離を r,相対速度を v,μ=mμM/(mμ+M),k=1/(4πε0) とし,ボーア模型の条件を

μv2r=3ke2r2,μvr=nℏ

とします.定数として a0=ℏ2/(mke2)=5.29×10−11m,B=mk2e4/(2ℏ2)=13.6eV,ke2/(ℏc)=1/137 を与えます.

  1. rn,En,vn/c を導け.同じ核電荷に電子を束縛した固定核模型の基底半径 a0/3 に最も近い半径をもつ,この重い粒子の整数 n を求めよ.

  2. 中心は半径 RN=2.50×10−15m の球です.点電荷かつ非相対論的な模型を用いる基準を,RN/rn≤0.0100 かつ vn/c≤0.0100 と定めます.両方を満たす最小の n を求めよ.その準位へ,すぐ上の準位から遷移する光子のエネルギーを求めよ.

  3. 核質量を2倍にして核電荷を保つと,(2)の遷移エネルギーは何倍になるか.固定核近似の誤差を小さくする無次元量も述べよ.

半径RNの中心球と外側の粒子を示す.中心の質量はM=6×1836m,電荷は+3e,粒子の質量はmμ=207m,電荷は−eである.中心間の距離rと,比較用の長さa0/3を示す. 半径RNの中心球と外側の粒子を示す.中心の質量はM=6×1836m,電荷は+3e,粒子の質量はmμ=207m,電荷は−eである.中心間の距離rと,比較用の長さa0/3を示す.
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考え方

核を固定せず,相対運動に換算質量を用いる.軌道の大きさと速度の条件を別々に確認する.

  1. v=nℏ/(μr) を力の式へ代入すると

rn=n2ℏ23μke2=n2a0m3μ,vn=3ke2nℏ,vnc=3137n.

運動エネルギーは 3ke2/(2rn),ポテンシャルは −3ke2/rn なので

En=−3ke22rn=−9Bn2μm.

μ/m=207×11016/(207+11016)=203.182.rn/(a0/3)=n2/203.182 で,理想的には n=14.254.整数14の比は0.965,15の比は1.107なので,最も近いのは n=14 である.

  1. r1=a0/(3×203.182)=8.68×10−14m より,RN/rn=0.0288/n2.大きさの条件は n2≥2.88 で n≥2.速度の条件は n≥3/(137×0.0100)=2.19 で n≥3.両方を満たす最小は3である.4から3の光子は

Q4→3=9Bμm(19−116)=1.21×103eV.
  1. 準位差は μ に比例するので

Q(2M)Q(M)=2(M+mμ)2M+mμ=1.00931.

核を重くすると準位差は約0.93 %大きくなる.固定核近似は mμ/M が小さいときよく,今回は0.0188である.点電荷・非相対論の基準については,最小準位でも RN/r3=0.00320,v3/c=0.00730 となり,両方を満たす.

演習 3

IPhO 1974 第1問(改題) ★★★★☆

準位 En=−B/n2,B=13.6eV を共通にもつ原子A,Bを考えます.質量は MA=M=1.67×10−27kg,MB=3M で,両方とも初めは基底状態です.Aを速さ u で静止したBへ入射させ,Bだけが n=2 へ励起される衝突を調べます.内部エネルギーによる質量の変化は無視し,並進は非相対論的に扱います.

  1. この衝突が可能となる u の下限 u0 を求め,しきい値での衝突後の両速度を求めよ.

  2. しきい値で励起されたBが2から1へ光子を出します.衝突前のAの進行方向,その逆方向へ出る光子のエネルギーを Q+,Q− とする.エネルギーと運動量の保存から,vB/c と Δ/(3Mc2) の一次まで求めよ.Δ=3B/4 とします.これらの積と二次の項は省いてよい.

  3. 振動数差を2つの振動数の算術平均で割った比を数値で求めよ.さらに標的質量を bM,b>0 としたときのしきい値を求め,b→∞ の極限を説明せよ.

衝突前は質量MのAが速さuで,質量3Mの静止したBへ向かう.衝突後のBからの2→1の発光を,前方と後方の別々の配置で示す. 衝突前は質量MのAが速さuで,質量3Mの静止したBへ向かう.衝突後のBからの2→1の発光を,前方と後方の別々の配置で示す.
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考え方

運動量を保つために必要な重心運動のエネルギーは,励起へ使えない.発光時も原子の運動エネルギーの変化を収支へ入れる.

  1. 衝突前の全運動量は Mu.衝突後の運動エネルギーが最小なのは両原子が同じ速度 vB=u/4 をもつときで,その値は (4M)(u/4)2/2=Mu2/8 である.従って励起に使える最大値は Mu2/2−Mu2/8=3Mu2/8.これが Δ=10.2eV に等しくなる条件は

u0=8Δ3M=5.10×104ms−1,vA=vB=u04=1.28×104ms−1.
  1. 光子の向きを s=+1,−1 とし,エネルギーを Qs と書く.発光前のBの運動量は 3MvB,発光後は 3MvB−sQs/c.内部エネルギーの減少を含む保存式は

Δ=Qs+(3MvB−sQs/c)2−(3MvB)26M=Qs(1−svBc)+Qs26Mc2.

補正項の中では Qs≈Δ と置くと

Qs≈Δ(1+svBc)−Δ26Mc2.

前方では運動エネルギーの減少分が光子へ渡り,後方では逆に原子が加速される.静止原子でも反跳のため光子エネルギーは Δ より小さい.

  1. νs=Qs/h より,保持した次数では

ν+−ν−(ν++ν−)/2≈2vBc=8.51×10−5.

百分率では 0.00851 %である.一般の標的質量では,重心速度は u/(1+b),励起へ使えるエネルギーは Mu2b/[2(1+b)] なので

u0(b)=2Δ(1+b)Mb.

b→∞ では Mu02/2→Δ,重心運動へ残る割合が0になる.今回の u0/c=1.70×10−4,Δ/(3Mc2)=3.62×10−9 はともに小さい.ただし (vB/c)2=1.81×10−9 は反跳の相対補正と同程度である.(2)は指定した次数の式であり,絶対線位置を反跳補正の精度で予測するには,速度の二次と内部エネルギーによる質量変化も扱う必要がある.

演習 4

IPhO 1983 第4問(改題) ★★★★★

入射光子が運動中の自由電子1と散乱すると,電子1は静止し,光子は入射方向から角 θ へ進みます.その光子が静止自由電子2に当たり,今度は逆向きに散乱されます.最終光子の波長は λf=5λc,λc=h/(mc) です.電子の全エネルギーは Ee2=m2c4+pe2c2,光子のエネルギーは Q=hc/λ とします.

  1. 1回目の散乱直後の光子波長 λ0 を求めよ.さらに,1回目の入射波長 λi を θ で表せ.運動中の電子へ,静止電子のコンプトン公式をそのまま使わずに導け.

  2. θ=90∘ として,電子1の初めの運動エネルギー,運動量の大きさ,ド・ブロイ波長を求めよ.

  3. λ0 を保って θ を変えます.電子1の初めの運動エネルギー K が K/(mc2)≤0.0100 を満たす角度の範囲を求めよ.θ→0 でド・ブロイ波長がどうなるかも説明せよ.

入射波長λiの光子は電子1で角θへ曲がり,電子1は散乱後に静止する.波長λ0となった光子は,散乱前に静止していた電子2で逆向きへ散乱される.最終波長はλf=5λcである. 入射波長λiの光子は電子1で角θへ曲がり,電子1は散乱後に静止する.波長λ0となった光子は,散乱前に静止していた電子2で逆向きへ散乱される.最終波長はλf=5λcである.
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考え方

2回目から中間の光子を決め,1回目は電子が停止するという終状態から保存則を逆に解く.

  1. 2回目は静止電子による角 180∘ の散乱なので,λf−λ0=2λc,従って λ0=3λc.1回目の前後の光子エネルギーを Qi,Q0 とする.電子が停止するため,初めの電子の運動エネルギーは K=Q0−Qi,運動量は pe=p0−pi.よって

(mc2+Q0−Qi)2=m2c4+Q02+Qi2−2Q0Qicos⁡θ.

両辺を展開し共通項を消すと

mc2(Q0−Qi)=Q0Qi(1−cos⁡θ),1Qi−1Q0=1−cos⁡θmc2.

Q=hc/λ を代入して λi−λ0=λc(1−cos⁡θ),従って λi=(4−cos⁡θ)λc.この過程では電子から光子へエネルギーが渡り,光子の波長は短くなる.

  1. λi=4λc より,Qi=mc2/4,Q0=mc2/3,従って K=mc2/12=4.27×104eV.2つの光子の向きが直交するので

pe=(mc3)2+(mc4)2=5mc12,λe=hpe=125λc=5.82×10−12m.

電子の全エネルギーは mc21+25/144=13mc2/12 となり,K を検算できる.

  1. 一般には

Kmc2=13−14−cos⁡θ=1−cos⁡θ3(4−cos⁡θ).

指定した条件は 1−cos⁡θ≤0.0300(4−cos⁡θ).従って cos⁡θ≥88/97.初めの電子が運動しているので K>0 も必要で,0<θ≤24.9∘ である.θ=0 は初めから電子が静止している形式的な極限である.θ→0 では K→0,pe→0 なので λe→∞.(2)の K/(mc2)=1/12 は小さくなく,pe2/(2m) を用いる相対誤差は K/(2mc2)=1/24,約4.17 %となる.

演習 5

オリジナル ★★★★★

核電荷 +Ze をもつ固定された点の中心へ,電子を大きさ r の領域に局在させる模型を考えます.不確定性から運動量の大きさを p=ℏ/r と見積もり,相対論的な運動エネルギーを加えた全エネルギーを

U(r)=m2c4+ℏ2c2r2−mc2−Zke2r,k=14πε0

と定めます.この式は厳密な量子状態のエネルギーではなく,指定した局在の見積もり模型です.α=ke2/(ℏc)=1/137,g=Zα とします.

  1. 0<g<1 のとき,U が最小となる r∗ と最小値を求めよ.

  2. g=1 と g>1 では,有限の r∗ が存在するか.r→0 を調べて答えよ.

  3. g が十分小さい極限で(1)を展開し,非相対論的な見積もりと比べよ.運動エネルギーを p2/(2m) とする条件を,最小点での無次元量で示せ.

  4. 点の中心を半径 RN の中心球へ置き換える場合,(1)のクーロン模型を使うために RN/r∗ が小さいことを要求します.g→1 に近づくと,この条件がどう破れるか.この模型の発散を,現実の原子がそのまま崩壊する証明と呼べるか.

左は核電荷+Zeの点の中心と,大きさrの電子の局在領域である.右は比較用の半径RNの中心球を示す.局在領域と中心球の大きさは別縮尺である. 左は核電荷+Zeの点の中心と,大きさrの電子の局在領域である.右は比較用の半径RNの中心球を示す.局在領域と中心球の大きさは別縮尺である.
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考え方

局在を狭めると,運動エネルギーもクーロン引力も増す.無次元化してその競合と模型の限界を調べる.

  1. x=ℏ/(mcr)>0 とすると

Umc2=1+x2−1−gx,ddx(Umc2)=x1+x2−g.

停留点は x∗=g/1−g2.2階微分は (1+x2)−3/2>0 なので唯一の最小点である.従って

r∗=ℏmc1−g2g,Umin=mc2(1−g2−1).
  1. g=1 では導関数が全ての有限の x で負で,有限の最小点はない.ただし

1+x2−x=11+x2+x→0

なので,r→0 で U→−mc2 と有限値へ近づく.g>1 では U/(mc2)∼(1−g)x−1→−∞.点電荷模型内では下限がない.

  1. 1−g2≈1−g2/2 より

r∗≈ℏmcg(1−g22),Umin≈−mc2g22.

非相対論的に Unr=ℏ2/(2mr2)−Zke2/r を最小化すると,rnr=ℏ2/(mZke2)=ℏ/(mcg),Unr,min=−mc2g2/2 で,先頭の項が一致する.最小点での p/(mc)=g/1−g2 が十分小さいことが必要で,結局 g が十分小さい範囲である.

  1. 比は

RNr∗=mcRNℏg1−g2.

有限の RN では g→1 で増大し,電子が中心球の内側を調べるため −Zke2/r を使い続けられない.さらに p=ℏ/r は係数を固定した見積もりであって,厳密な波動関数から得た値ではない.従って発散はこの模型の限界を示すもので,現実の原子の崩壊をそのまま証明しない.小さい g では g2 が相対論補正の大きさを制御し,有限の中心球にはさらに RN/r∗ が小さいことが必要である.

演習 6

APhO 2006 第3問(改題) ★★★★★

質量 M の二準位原子を,x 軸の正負から同じ弱いレーザーで照射します.内部の準位差は Δ=ℏω0 です.k=ω0/c,光子運動量を pγ=ℏk,反跳エネルギーを Er=pγ2/(2M) とします.まず並進は p2/(2M) として扱います.

静止原子が1光子を吸収する共鳴角振動数を ωa とし,レーザーの角振動数 ω との差を δ=ω−ωa と定義します.正負の向きの光による吸収回数毎秒を,次の模型で与えます.

Γ+(v)=Γ01+[(δ−kv)/a]2,Γ−(v)=Γ01+[(δ+kv)/a]2,a=12τ.

τ は励起状態の寿命,Γ0τ は十分小さいとします.吸収後の光子は正負の x 方向へ等確率で1個だけ放出され,放出方向は吸収方向と独立です.各光子の運動量の大きさを pγ と近似します.原子間衝突を無視し,kv/a の一次まで扱います.

  1. 運動量とエネルギーの保存から ωa≈ω0+Er/ℏ を導け.正負の光から受ける平均力 F を求め,小速度で F=−βv と書いたときの β と,減速するための δ の符号を求めよ.

  2. 1回の吸収と放出を1周期とします.周期ごとの運動量変化の2乗平均を求め,v=0 での平均加熱率を求めよ.方向の無作為性による加熱を捨ててはならない.

  3. 1方向の温度を M⟨v2⟩=kBT で定義します.平均力による冷却と(2)の加熱がつり合う温度を求め,δ<0 の範囲で最小となる δ を求めよ.

  4. M=1.00×10−25kg,2π/k=600nm,τ=2.00×10−8s,Γ0=1.00×105s−1,kB=1.38×10−23JK−1 とします.最小温度と,その温度での k⟨v2⟩/a および Er/(kBT) を評価し,線形化と連続的な冷却の模型を確かめよ.

質量M,速度vの二準位原子を,同じ角振動数ωのレーザーで左右から照射する.吸収後の光子は+xまたは−xへ等確率で1個だけ放出される.二準位間隔Δと励起状態の寿命τを示す. 質量M,速度vの二準位原子を,同じ角振動数ωのレーザーで左右から照射する.吸収後の光子は+xまたは−xへ等確率で1個だけ放出される.二準位間隔Δと励起状態の寿命τを示す.
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考え方

平均運動量の変化は摩擦に相当するが,運動量変化の2乗は加熱を残す.両方をエネルギーの収支へ入れる.

  1. 静止原子がエネルギー Q の光子を吸収すると,運動量は Q/c となるので Q=Δ+Q2/(2Mc2).補正項では Q≈Δ と置き,Q≈Δ+Δ2/(2Mc2)=Δ+Er.従って ωa≈ω0+Er/ℏ である.放出の平均運動量は0なので

F=ℏk[Γ+(v)−Γ−(v)].

G(δ)=Γ0/(1+δ2/a2) と書くと,差は −2kvG′(δ).G′(δ)=−2Γ0δ/[a2(1+δ2/a2)2] より

F=4ℏk2Γ0δa2(1+δ2/a2)2v,β=−4ℏk2Γ0δa2(1+δ2/a2)2.

減速には β>0,すなわち δ<0 が必要である.

  1. 吸収方向を s=±1,放出方向を独立な t=±1 とすると,運動量変化は J=(s−t)pγ.固定された s についても ⟨t⟩=0,t2=1 なので

⟨J2⟩=pγ2⟨s2+t2−2st⟩=2pγ2.

運動エネルギーの変化は vJ+J2/(2M).v=0 では1周期あたり pγ2/M 増し,周期数毎秒は Γ+(0)+Γ−(0)=2G(δ) なので,加熱率は H=2G(δ)pγ2/M である.

  1. 冷却率は ⟨Fv⟩=−β⟨v2⟩=−βkBT/M.これと H をつり合わせると

T=2G(δ)pγ2βkB=ℏ(a2+δ2)−2δkB.

q=−δ/a>0 とすれば T=ℏa(q+1/q)/(2kB).q+1/q≥2 だから,q=1,すなわち δ=−a で

Tmin=ℏakB=ℏ2kBτ.

δ→0− では摩擦が消え,δ→−∞ では摩擦が加熱より速く弱まるため,どちらも定常温度は増す.

  1. a=2.50×107s−1,k=2π/(600nm) より,Tmin=1.91×10−4K.また pγ=h/(600nm),Er=6.11×10−30J なので

ErkBTmin=2.31×10−3,k⟨v2⟩a=kakBTminM=0.0680.

1回の反跳は熱運動に比べ小さく,線形化のパラメーターも小さい.さらに Γ0τ=0.00200,Δ/(Mc2)=3.68×10−11 と小さく,励起割合が低い近似と,光子運動量を ℏk に固定する近似は整合する.これらが小さくなくなると,得た最小温度をそのまま使えない.

18第29章のまとめ

この章では,光と電子がどちらも波と粒の両面をもつことを見ました.光は干渉する波でありながら,物質とはエネルギー hν,運動量 h/λ の光子として1個ずつやりとりします.逆に電子は1個の点として届きながら,波長 λ=h/p の波として干渉し,届く確率は確率振幅の絶対値の2乗で決まります.波を狭い所に閉じこめると定常波だけが残り,エネルギーは飛び飛びの準位になります.これを水素原子に当てはめたのがボーア模型で,線スペクトルとリュードベリ定数が m,e,h,c,ε0 だけから説明できました.最後に,原子がたくさん並んだ固体では準位が帯になり,半導体のバンドギャップが LED や太陽電池での光と電気のやりとりを決めることを見ました.

定義と法則

法則 光子

  • 振動数 ν,波長 λ の光は,1個あたりエネルギー E=hν=hc/λ,運動量 p=E/c=h/λ(向きは光の進む向き)の光子の流れとして物質とやりとりする.h=6.63×10−34Js をプランク定数という.光の強さは光子の数を決め,振動数は1個のエネルギーを決める.

  • 質量 m の粒子では,速さによらず E2=(mc2)2+(pc)2 で,運動エネルギーは K=E−mc2.pc が mc2 より十分小さければ K=p2/(2m) に戻る.光子は質量0の粒子で E=pc,いつも速さ c で進む.

  • 光子1個がどこに届くかは確率でしか決まらず,その確率の分布が波の強さで与えられる.

法則 光電効果

金属から電子1個を外へ取り出すのに要る最小のエネルギーを仕事関数 W という.電子1個が光子1個を丸ごと吸収するので,光電子の運動エネルギーの最大値 Kmax と阻止電圧 Vs は

Kmax=eVs=hν−W

を満たし,光の強さによらない.限界振動数は ν0=W/h,限界波長は λ0=hc/W.ν<ν0 ではどれほど強い光でも電子は出ず,ν>ν0 ならどれほど弱い光でもすぐに出る.飽和電流は光の強さに比例する.Vs と ν のグラフの傾きは h/e で金属によらない.光子を2個以上まとめて吸収する多光子吸収は,レーザーを細く絞った極端に強い光でだけ起こる.

法則 X線とコンプトン散乱

  • 電圧 V で加速した電子が出す連続X線の最短波長は λmin=hc/(eV) で,標的の種類にも電流にもよらない.その上に,標的の元素で決まる鋭い特性X線がのる.

  • 静止した自由電子に散乱された光子の波長のずれは

λ′−λ=hmc(1−cos⁡ϕ)

で,入射波長にも散乱体にもよらない.h/(mc)=2.43×10−12m を電子のコンプトン波長という.原子に強くつなぎとめられた内側の電子による散乱では,相手が原子全体になり,ずれは見えない.

法則 物質波と確率振幅

  • 運動量 p の粒子には波長 λ=h/p の物質波がともなう(ド・ブロイ波長).電子線は結晶で回折し,ブラッグ条件 2dsin⁡θ=nλ を満たす向きに強め合う.

  • 粒子がある場所に届く過程ごとに複素数の確率振幅 ψ が決まり,そこで見つかる確率は |ψ|2 に比例する.場所ごとの確率振幅を場所の関数とみたものを波動関数という.

  • 区別できない経路を通って同じ結果に至るときは振幅を足してから2乗し(P=|ψ1+ψ2|2),経路を区別できるときは経路ごとに2乗してから確率を足す(P=|ψ1|2+|ψ2|2).

  • 位置と運動量の不確かさは ΔxΔpx∼h 程度より小さくできない.係数は不確かさの定め方によるので,桁の見積もりにだけ使う.

定義 束縛状態とエネルギー準位

ある範囲に閉じこめられた粒子の状態を束縛状態という.束縛状態の粒子がとれるエネルギーの値は飛び飛びで,その1つ1つをエネルギー準位,準位を番号づける整数を量子数という.最もエネルギーの低い状態が基底状態,それより上が励起状態である.粒子が出られない壁では ψ=0 で,確率の合計が1という条件 ∫|ψ|2dx=1 で係数を決めることを規格化という.異なる状態が同じエネルギーをもつことを縮退という.

法則 原子の準位と光

  • ボーアの仮定:原子の中の電子は飛び飛びのエネルギー En をもつ定常状態にだけいられ,その間は光を出さない.準位 Em から低い準位 En へ移るとき hν=Em−En の光子を1個放出し,この振動数の光子を1個吸収すると逆に移る(振動数条件).

  • 量子条件:円軌道の円周がド・ブロイ波長の整数倍 2πr=nλ,すなわち角運動量が mvr=nℏ の軌道だけが定常波として残る.

  • 水素の線の波長はリュードベリの式 1λ=R(1n′2−1n2),R=1.097×107m−1 に従う.n′=1,2,3 がライマン系列(紫外線),バルマー系列(可視光を含む),パッシェン系列(赤外線)である.

  • 寿命 τ の準位からの線は自然幅 ΔE∼ℏ/τ をもつ.準位差と同じエネルギーの光子が通りかかると,同じ向き・同じ位相の光子を出して落ちることがあり(誘導放出),反転分布でこれを重ねたものがレーザーである.

定義 バンドと半導体

  • 原子が N 個並ぶと1つの準位が N 本に分かれて帯(バンド)になり,帯の間には電子がとれるエネルギーのない隙間が残る.電子は1つの状態に2個(スピンの向きが逆)までしか入れない(パウリの原理).

  • 絶対零度で電子が埋めている一番上の帯が価電子帯,そのすぐ上の空いた帯が伝導帯で,その差がバンドギャップ Eg である.金属は一番上の帯が途中まで埋まっていて,絶縁体は Eg が 5eV を超え,半導体は Eg が 1eV 前後の絶縁体である.

  • 価電子帯に残った穴は電荷 +e の粒子のように動き,正孔という.電子を放す不純物(ドナー)を混ぜて主に電子が電流を運ぶものがn型,正孔を作る不純物(アクセプター)を混ぜて主に正孔が運ぶものがp型で,符号はホール効果で分かる.

  • p型とn型の境目には動けないイオンだけが残る空乏層ができ,n側の電位がp側より高い段差がつく.p側を高い電位にする向きが順方向である.

手順

ポイント 光子と電子の問題を解く手順

  1. 光子1個のエネルギーは hc=1240eVnm を使って電子ボルトで出す.光子の数の流れは,電力やエネルギーの流れを光子1個のエネルギーで割って求める.光子1個について成り立つ式と,数を数える式を分けて考える.

  2. 衝突・吸収・放出では,エネルギーと運動量をともに保存させる.電子の運動エネルギーを mc2=511keV と比べ,十分小さければ p2/(2m),そうでなければ E2=(mc2)2+(pc)2 を使う.

  3. 物質波は,運動エネルギー,運動量,波長の順に変換する.ブラッグ条件の θ は格子面とのなす角で,粒子の曲がる角は 2θ である.

  4. 閉じこめの問題では,境界で ψ=0 となる定常波から波長と運動量を決め,準位を出す.桁だけなら,運動量を ℏ/Δx 程度として運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和を最小にする.

  5. スペクトル線は,準位図で始めと終わりの準位を決めて hc/λ=En−En′ から求める.

  6. 半導体の温度変化は2つの温度の比をとって比例定数を消す.光電流は電子・正孔の対1組につき電荷 e で数え,2e としない.

  7. 最後に近似の条件(非相対論,自由電子,壁の高さ,Eg が kBT より十分大きいこと)を確かめる.

主な公式

  • hc=1.99×10−25Jm=1240eVnm,1eV=1.60×10−19J

  • 光の圧力:光子の数の流れに1個の運動量の変化を掛けて,吸収なら S/c,反射なら 2S/c

  • 電子の質量:m=e/(e/m)=9.1×10−31kg(比電荷 e/m=1.76×1011Ckg−1)

  • 加速した電子のド・ブロイ波長:λ=h/2meV≈1.23/Vnm(1≫eV/(mc2) のとき).相対論では λ=h/2meV(1+eV/(2mc2))

  • 2つの経路の干渉:|ψ1+ψ2|2=a12+a22+2a1a2cos⁡(ϕ2−ϕ1)

  • 1次元の箱:λn=2L/n,ψn=2/Lsin⁡(nπx/L),En=n2h2/(8mL2).電子では E1=0.377eV×(1nm/L)2

  • 3次元の箱:E=h28m(nx2Lx2+ny2Ly2+nz2Lz2)

  • 調和振動子:En=(n+12)ℏω,零点エネルギー ℏω/2

  • ラザフォード散乱の最接近距離:d=2Zke2/K,ke2=1.44eVnm=1.44MeVfm

  • ボーア模型:rn=n2a0,a0=ℏ2/(mke2)=5.29×10−11m,En=−B/n2,B=mk2e4/(2ℏ2)=13.6eV,R=B/(hc),基底状態の v1/c=1/137

  • 水素型イオン:rn=n2a0/Z,En=−Z2B/n2.原子核の運動は換算質量 μ=mM/(m+M) を使い,準位に μ/m を掛ける

  • モーズリーの法則:hν=34(Z−1)2B,ν∝Z−1

  • 真性半導体:ni∝exp⁡[−Eg/(2kBT)],σ=σ0exp⁡[−Eg/(2kBT)].ドナーが多ければ ne≈Nd

  • ダイオード:I=Is[exp⁡(eV/(kBT))−1],室温で kBT/e=25.9mV

  • LED:hν≈Eg,光の仕事率 ηIEg/e.吸収の端の波長 λ=hc/Eg,光電流 Iph=ηeP/(hν)

  • 太陽電池:I=Iph−Is[exp⁡(eV/(kBT))−1],開放電圧 Voc≈(kBT/e)ln⁡(Iph/Is) は Eg/e より小さい

各題材の問いへの答え

  • 光子と光電効果:赤い光の光子は約 2eV で,亜鉛の仕事関数約 4.3eV に届かない.電子は光子を1個ずつしか吸収しないので,光を強くして光子の数を増やしても電子は出ない.紫外線の光子は 4.3eV を超えるので,弱い光でも来た光子の1個1個が電子を1個ずつ外へ出す.電子が出るかどうかを決めるのは光の強さではなく,光子1個のエネルギー hν である.

  • 物質波と確率の振幅:電子は届くときにはいつも1個の点だが,届く場所の確率は,通りうる経路ごとの振幅を足して2乗した |ψ1+ψ2|2 で決まり,振幅の波長は λ=h/p で決まる.縞は1個の電子の2つの経路の振幅の干渉が決める確率の分布が,たくさんの点の積み重ねで見えたものである.どちらを通ったか調べると確率を足す規則に変わり,縞は消える.

  • 閉じこめられた粒子とエネルギー準位:長さ L に閉じこめた電子の波長は弦と同じく 2L/n に限られ,エネルギーは En=n2h2/(8mL2) の飛び飛びの値になり,最低のエネルギーも0でない.準位を移るときには準位の差に等しいエネルギーの光子だけを吸収・放出する.カロテンが青い光を吸うのは,細長い分子に閉じこめられた電子の準位の間隔が青い光の光子のエネルギーに当たるからである.

  • ボーア模型と水素原子のスペクトル:水素原子の電子は,ド・ブロイ波が軌道に沿って定常波になる状態にしかいられず,エネルギーは En=−13.6eV/n2 と飛び飛びである.出る光子のエネルギーは2つの準位の差なので波長も決まった値だけになり,目に見えるのは n′=2 へ落ちるバルマー系列の4本である.どの水素原子も同じ m,e,h で決まる同じ準位をもつので,遠い星の水素も同じ線を出す.

  • 半導体とバンドギャップ:LED に順方向の電流を流すと,接合の付近で伝導帯の電子が価電子帯の正孔へ落ち,そのたびに hν≈Eg の光子が1個出る.色は物質の Eg で決まり,電子1個が Eg を落ちるにはおよそ Eg/e の電圧が要るので,Eg の大きい青い LED ほど高い電圧が要る.物体全体を高温にして光らせる電球と違い,電子1個のエネルギーを直接光子1個に渡すので,熱になる分が少ない.

この章で使った数学

複素数の振幅の足し算(オイラーの式で |ψ1+ψ2|2 に干渉の項 2a1a2cos⁡(ϕ2−ϕ1) が現れる),規格化の積分(sin2⁡u=(1−cos⁡2u)/2 を使う),不確定性による見積もりで運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和を最小にする微分 dEda=0,コンプトン散乱で運動量の保存の式の大きさの2乗をとる計算,そしてボルツマン因子の指数関数がありました.

次の第30章(発展)では,この章の実験で見た波と粒の両面を,確率振幅という1つの考え方から組み立て直します.その章を飛ばす人は,第31章へ進んで同じ考え方を原子核と素粒子に広げてください.