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問いから始める物理

問いから原理へ,基本からオリンピックまで

著者:柚木芹香

身近な問いから始めて物理の原理を組み立て直す参考書.微積分は必要になった所で導入し,各節の演習は基本から物理オリンピックの水準まで段階をつけて置く.独学でも,教わりながらでも読めるように,各節の終わりに「教える人へ」の囲みがある.

この章の目次 · 15節
  1. 原子の見方
  2. 原子の見方の例題
  3. 原子の見方の演習
  4. 単位と次元
  5. 次元解析と冪の計算
  6. 単位と次元の演習
  7. 見積もり
  8. 見積もりの数学
  9. 見積もりの演習
  10. モデルと問題の解き方
  11. 近似と検算
  12. モデルと問題の解き方の演習
  13. 第2章の章末問題
  14. 第2章の発展問題
  15. 第2章のまとめ

第2章  物理の見方

01原子の見方

問い

コップに水を入れて,水面の位置に印をつけます.そこへ角砂糖を1個入れ,かき混ぜて完全に溶かしました.コップの内径は 6cm ほど,角砂糖1個は 3g ほどです.

さて,水面は印より上がるでしょうか,下がるでしょうか,変わらないでしょうか.上がるとしたら,どれくらいでしょうか.もう1つ.砂糖は溶けて「消えた」ように見えますが,本当に消えたのでしょうか.消えていないなら,なぜ見えなくなったのでしょうか.先を読む前に,予想とその理由を紙に書いてください.

考えてみる

素朴な考えは2通りありそうです.「砂糖は溶けて消えたのだから,水面は変わらない」と,「砂糖は見えなくなっただけで消えてはいないから,その体積のぶん水面は上がる」です.

消えたという考えは確かめられます.砂糖水の質量は水と砂糖の質量の和で,水を蒸発させれば砂糖が残ります.砂糖は消えたのではなく,見えないほど細かくなったのです.砕いて粉にし,さらに分けていくと,これ以上分けると砂糖でなくなる最小の粒(分子)に行き着くでしょう.その分子が水の中で一つずつばらばらになった状態が,「溶けた」状態です.

すると水面にも見通しが立ちます.水の分子の間に砂糖の分子が割り込んで並ぶのなら,その分子が占める場所のぶん,水面は上がるはずです.上がる量は「砂糖の体積÷コップの断面積」くらいでしょう.数値は理論のあとで回収します.

物質は原子・分子でできている

物質は,元素ごとの化学的な性質を担う基本単位の粒でできている,という見方を原子の見方といいます.原子にも電子と原子核という内部構造がありますが,この本では当面,原子を一つの粒として扱います.原子には約100種類(元素)があり,水素,炭素,酸素などです.いくつかの原子が結びついたものが分子です.水は水素原子2個と酸素原子1個からなる分子 HA2O,砂糖(ショ糖)は CA12HA22OA11 です.

原子は目に見えません.それでも原子を認めるのは,原子を仮定すると,目に見える多くのことが数で説明できるからです.水中の微粒子が不規則に揺れること,結晶が決まった角度で割れること.これらは原子と分子を考えるとひとつにまとまります.演習4では,結晶の原子の間隔と密度から,アボガドロ定数(1 mol あたりの個数)を求めます.

大きさのめやすを表にします.1nm=10−9m,1μm=10−6m です.

対象

大きさのめやす

原子

1×10−10m(0.1nm)

水分子

0.3nm

砂糖の分子

0.7nm

可視光の波長

400〜700nm

髪の毛の太さ

8×10−5m

髪の毛の太さは,原子を一列に並べると約 106 個分です.

球1個を原子1個分(直径約0.1 nm)として並べた図.水分子は球3個で約0.3 nm,砂糖分子は球45個の集まりで約0.7 nm.髪の毛の太さ8×10^-5 mは原子を一列に並べて約100万個分で,図では途中を省略している. 球1個を原子1個分(直径約0.1 nm)として並べた図.水分子は球3個で約0.3 nm,砂糖分子は球45個の集まりで約0.7 nm.髪の毛の太さ8×10^-5 mは原子を一列に並べて約100万個分で,図では途中を省略している.

原子は止まっていない:熱運動

原子や分子は,絶えず不規則に動いています.これを熱運動といいます.砂糖をかき混ぜなくても,水に入れて時間をかければ,砂糖は周囲へ少しずつ広がっていきます(実際のコップでは水の流れも広がりを助けます).水中の微粒子が不規則に揺れ続けるブラウン運動は,見えない水分子が四方からぶつかるためです.温度が高いほど熱運動は激しくなります.

室温の空気の分子は,毎秒数百メートル(5×102ms−1 ほど)で飛び回っています.それでもにおいが広がるのに時間がかかるのは,約 7×10−8m 進むごとに他の分子とぶつかって向きを変えるからです.

固体・液体・気体を原子の絵で見る

定義 三つの状態

  • 固体:原子が隣どうしで接し,決まった位置のまわりで小さく振動している.形も体積も保つ.

  • 液体:原子が隣と接しているが,位置を次々に入れ替えている.体積は保つが,形は容器に合わせて変わる.

  • 気体:分子が互いに離れて自由に飛び回り,ときどきぶつかる.容器全体に広がる.

固体と液体では,原子は接して詰まっています.多くの物質で密度の差は1割ほどです.気体はたいへんまばらです.常温・1気圧の空気では,分子の間隔は分子の大きさの約10倍で,体積に占める分子自身の割合は 0.1 % ほどです.水が水蒸気になると,体積は約 103 倍(100∘C,1気圧で約1700倍)になります.

固体は原子が規則正しい格子に並び,決まった位置のまわりで振動する.液体は原子が接して詰まっているが配置は乱れ,位置を入れ替える.気体は分子がまばらで,矢印の向きに飛び回る.図の気体の間隔は実際よりずっと狭く描いてある. 固体は原子が規則正しい格子に並び,決まった位置のまわりで振動する.液体は原子が接して詰まっているが配置は乱れ,位置を入れ替える.気体は分子がまばらで,矢印の向きに飛び回る.図の気体の間隔は実際よりずっと狭く描いてある.

溶けた砂糖は,液体の水の中にいます.水の分子はすでに接して詰まっているので,砂糖の分子を水の中に入れると,その分だけ体積が増えると見込めます.溶液の体積は一般には単純な足し算になりませんが,砂糖水では差が小さいので,この節では砂糖が結晶で占めていた体積を水面の上昇の見積もりに使います.これは概算のための仮定です.

化学反応と物理

化学反応は,原子の結びつき方が組み替わる変化です.たとえばメタンの燃焼は

CHA4+2OA2→COA2+2HA2O

と書きます.原子の種類と数は反応の前後で変わらず,組み合わせだけが変わります.これが質量保存の,原子の見方での説明です.結合を組み替えるとエネルギーが出入りします.メタン1分子の燃焼で出る熱は約 1.5×10−18J(10eV ほど)で,電子が受ける電気の力で決まります(1eV=1.6×10−19J).化学は「どの原子がどう組み合わさるか」を扱い,物理は「なぜそうなるか,エネルギーはどれだけか」を説明します.

なお,砂糖が水に溶けるのは化学反応ではありません.砂糖分子は壊れないので,蒸発させれば砂糖が元のまま戻ります.

1 mol という数

原子や分子は小さすぎて,ふつうの量には巨大な個数が含まれます.そこで,鉛筆を12本で1ダースと数えるように,個数をまとめて数える単位を決めます.

定義 物質量と mol

粒子 6.02214076×1023 個のまとまりを 1mol という.粒子の個数 N を,1 mol あたりの個数で割った量を物質量という.1 mol あたりの個数

NA=6.02214076×1023mol−1≈6.02×1023mol−1

をアボガドロ定数という.計算には丸めた値 6.02×1023mol−1 を使う.

この値は,炭素12(A12A2212C)12g にほぼ含まれる原子の個数に合わせて決められました.利点は,質量と個数をつなぐことです.粒子 1mol の質量をモル質量 M といい,原子量や分子量に gmol−1 をつけた値になります.水は 18gmol−1,砂糖は 342gmol−1,金は 197gmol−1 です.

公式 質量から個数へ

質量 m,モル質量 M の物質に含まれる粒子の個数 N,および密度 ρ の物質で粒子1個が占める体積 v は

N=mMNA,v=MρNA

NA の大きさを実感してみましょう.水 1mol は 18mL にすぎませんが,分子を1秒に1個ずつ数えると,6.0×1023s≈1.9×1016 年かかります.宇宙の年齢(約 1.4×1010 年)の約100万倍です.

問いに戻る:砂糖は消えたのか

砂糖は消えていません.砂糖の分子が水の中にばらばらに散らばって,見えなくなっただけです.砂糖の分子の大きさは約 0.7nm(次の節の例題で求めます)で,可視光の波長の500分の1ほどしかありません.一般に,光の波長より十分に小さい粒子による光の散乱は弱くなります.砂糖が水に溶けると,結晶が崩れて分子が水中に分散するため,光を強く散乱する大きな粒子がなくなり,水は透明なままなのです.

水面の高さは,液体の中では分子が接して詰まっているので,溶けても体積の変化は小さいと見込めます.ここでは,結晶の体積を使う概算とします.角砂糖を沈めると結晶の体積ぶんだけ水面が上がり,溶けたあともほぼそのままだと考えます(結晶の体積を基準にすると,溶けたときの体積への寄与は2 %ほど小さくなりますが,水面の変化は 0.01mm ほどです).砂糖の結晶の密度は約 1.6gcm−3 なので,3g の角砂糖の結晶の体積は 3/1.6≈1.9cm3,およそ 2cm3 です(角砂糖は粒の間にすき間があるので,見かけの大きさはもう少し大きくなります).上がる量は,結晶の体積 ≈2cm3 を断面積 π×(3cm)2≈28cm2 で割って

Δh≈2cm328cm2≈0.07cm=0.7mm

1 mm に満たない上昇です.

ポイント ここまでのまとめ

  • 物質は原子・分子でできていて,分子は絶えず熱運動をしている.

  • 固体と液体では粒が接して詰まり,気体ではまばらに飛び回る.

  • 1mol は約 6.02×1023 個のまとまりで,N=mMNA が質量と個数をつなぐ.

  • 砂糖は消えず,分子がばらばらになって見えなくなる.水面は結晶の体積ぶん,約 0.7mm 上がる.

02原子の見方の例題

前の節で,砂糖の分子の個数と大きさを,質量と密度から求められそうだと見通しをつけました.この節では,それを数にします.原子の世界では 10−10 や 1023 のような数が普通に出てくるので,まず扱いの道具を整えます.

定理 数学の道具:桁(10の冪)と有効数字

科学的記数法.数を a×10n(1≤a<10,n は整数)の形に書きます.n を桁(オーダー)といいます.

10m×10n=10m+n,10m10n=10m−n,(10m)n=10mn

掛け算では指数を足し,割り算では引きます.たとえば (3×108)×(2×10−3)=6×105 です.数の大きさを比べるには,まず桁を比べます.

接頭語.k(キロ)=103,M(メガ)=106,G(ギガ)=109,m(ミリ)=10−3,μ(マイクロ)=10−6,n(ナノ)=10−9.

有効数字.意味のある桁を有効数字といいます.0.0030 は2桁です.1200 は桁数がはっきりしないので,1.2×103(2桁)や 1.20×103(3桁)と書き分けます.

  • 掛け算・割り算:結果の桁数を,入力のうち桁数の最も少ないものに合わせる.

  • 足し算・引き算:結果の最後の桁の位置を,入力のうち最も粗いものに合わせる.

  • 途中の計算は1桁多く保ち,最後に丸める.

練習. (1) (4.0×105)÷(8×10−2) を計算せよ.(2) 12.3+0.47 を有効数字を考えて計算せよ.(3) (2.0×10−3)3 と 9.0×10−8 を計算せよ.(4) (2.7×10−29)1/3 を計算せよ(指数が3で割り切れるように,27×10−30 と書き直す).(5) 4.56×2.1 を有効数字を考えて計算せよ.

答え:(1) 0.5×107=5×106.(2) 12.77 を,粗い 12.3 の小数第1位に合わせて 12.8.(3) 8.0×10−9,9.0×10−4=3.0×10−4.(4) 271/3×10−10=3.0×10−10.(5) 9.576 を2桁に合わせて 9.6.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

水1滴の体積を 0.050mL(質量 0.050g)とする.水のモル質量を 18gmol−1,NA=6.0×1023mol−1 とする.

水1滴に含まれる水分子の個数を求めよ.

解答を見る

考え方 質量を物質量に直し,NA を掛ければ個数になる.

物質量は 0.050/18=2.8×10−3mol である.個数は 2.8×10−3×6.0×1023≈1.7×1021 個である(入力は2桁なので2桁で答える).地球の人口 8×109 人の約 2×1011 倍にあたる.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

角砂糖1個を砂糖(ショ糖)3.0g の結晶とみなす.ショ糖のモル質量は 342gmol−1,結晶の密度は 1.6gcm−3,NA=6.0×1023mol−1 とする.

  1. 角砂糖1個に含まれる砂糖分子の個数を求めよ.

  2. 砂糖分子1個が占める体積と,それを立方体とみなしたときの一辺を求めよ.この一辺は可視光の波長 400nm の何分の1か.

  3. 内径 6.0cm のコップの水に溶かしたときの水面の上昇は何 mm か.溶液の体積は,水の体積と砂糖結晶の体積の和に等しいとする.

内径6.0 cmのコップで,溶かす前の水面と溶かした後の水面の差Δhを示す. 内径6.0 cmのコップで,溶かす前の水面と溶かした後の水面の差Δhを示す.
解答を見る

考え方 (1) は質量から個数へ.(2) は結晶の体積を個数で割る.(3) は体積が足し算なら,上昇した部分の体積は結晶の体積に等しい.

  1. 物質量は 3.0/342=8.8×10−3mol.個数は 8.8×10−3×6.0×1023≈5.3×1021 である.

  2. 結晶の体積は V=3.0/1.6=1.9cm3=1.9×10−6m3.1個あたり

v=1.9×10−65.3×1021≈3.6×10−28m3

一辺は (360×10−30)1/3≈7.1×10−10m=0.71nm である.波長との比は 400/0.71≈560 であるから,波長の約 1/560 である.

  1. 断面積は S=π×(3.0cm)2=28cm2.上昇した部分の体積が V=1.9cm3 であるから

Δh=VS=1.928cm≈0.068cm≈0.7mm

ポイント ここまでのまとめ

  • 原子の世界の数は a×10n の形で書き,掛け算では指数を足し,割り算では引く.

  • 有効数字は,掛け算・割り算では桁数の少ないほうに,足し算・引き算では粗いほうの位置に合わせる.

  • 質量 → 物質量 → 個数と順に進めば,目に見えない粒の数も大きさも,ふつうの測定値から求められる.

  • 角砂糖1個の分子の数は約 5×1021,分子1個の一辺は約 0.7nm だった.

03原子の見方の演習

個数・体積・長さのつながりを,自分の手で確かめる演習です.答えを見る前に,式の形と桁の見当を書いてください.

演習

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

金の原子を,一辺 0.26nm の立方体が隙間なく並んだものとみなす.金の密度は 19.3gcm−3 である.

  1. 金原子1個の質量を,立方体の体積と密度から求めよ.

  2. 金のモル質量 197gmol−1 と NA=6.02×1023mol−1 から1個の質量を求め,(1) と比べよ.

一辺0.26 nmの立方体を並べ,中央の区画の金原子を球で示す. 一辺0.26 nmの立方体を並べ,中央の区画の金原子を球で示す.
解答を見る

考え方 1個の質量は「密度×1個の体積」でも「モル質量÷NA」でも求まる.2通りが一致するかを見る.

  1. 体積は (0.26×10−9m)3=1.76×10−29m3,密度は 1.93×104kgm−3 であるから m=1.93×104×1.76×10−29≈3.4×10−25kg である.

  2. m=0.197/(6.02×1023)≈3.3×10−25kg である.(1) との差は約4 %で,よく一致する.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

標準状態(0∘C,1気圧)の気体 1mol の体積は 22.4L である.

  1. 標準状態の空気 1L に含まれる分子の個数を求めよ.

  2. 分子1個が占める空間を立方体とみなして,分子の間隔を求めよ.分子の大きさ 0.3nm の約何倍か.

分子間隔dと分子の直径0.3 nmを区別した模型.立方体は分子1個あたりの空間を表す. 分子間隔dと分子の直径0.3 nmを区別した模型.立方体は分子1個あたりの空間を表す.
解答を見る

考え方 (1) は 1L の物質量に NA を掛ける.(2) は 1L を個数で割る.

  1. 物質量は 1/22.4=4.46×10−2mol.個数は 4.46×10−2×6.02×1023≈2.7×1022 個である.

  2. 1個あたりの体積は 1.0×10−3m3/2.7×1022=3.7×10−26m3.一辺は (37×10−27)1/3≈3.3×10−9m=3.3nm である.分子の大きさの約 3.3/0.3≈11 倍,およそ10倍である.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

コップ1杯の水(200g)の分子すべてに印をつけて海に流し,海全体によく混ざるまで待つ.そのあと同じコップで海から 200g の水をくみ上げたとき,その中に印をつけた分子はおよそ何個入っているか.海水の総質量は 1.4×1021kg で,水とみなす.NA=6.0×1023mol−1,水のモル質量は 18gmol−1 である.

印つき分子を含む水を海に混ぜ,再びコップでくむ操作を示す.点の数は実際の分子数を表さない. 印つき分子を含む水を海に混ぜ,再びコップでくむ操作を示す.点の数は実際の分子数を表さない.
解答を見る

考え方 混ざったあとは,印つきの分子はどこにも同じ割合で存在する.くみ上げた中の個数は,(印つきの総数)×(くみ上げた量が海全体に占める割合)である.

コップ1杯の分子数は Nc=20018×6.0×1023≈6.7×1024 個である.くみ上げた量が海全体に占める割合は,質量の比で f=200g/(1.4×1024g)≈1.4×10−22 である.求める個数は

Nc×f≈6.7×1024×1.4×10−22≈9.5×102

すなわち約 103 個である.分子の数は巨大(1024)だが,海に対する割合は小さく(10−22),打ち消し合って「千個ほど」が残る.完全に混ざるには長い年月が要るので,理想化した値である.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

塩化ナトリウム NaCl の結晶では,NaA+ と ClA− が交互に,間隔 d=0.282nm の立方格子の格子点に並んでいる.つまり,イオン1個は一辺 d の立方体を占める.結晶の密度を 2.16gcm−3,NaCl のモル質量を 58.4gmol−1 として,アボガドロ定数を求めよ.

Na⁺とCl⁻が交互に並ぶ格子の断面と,イオン1個あたりの立方体を示す. Na⁺とCl⁻が交互に並ぶ格子の断面と,イオン1個あたりの立方体を示す.
解答を見る

考え方 NaCl 1組(イオン2個)の質量が分かれば,モル質量をそれで割ると 1mol 中の組の数,すなわち NA が出る.

1組はイオン2個なので,占める体積は 2d3=2×(0.282×10−9m)3=4.49×10−29m3 である.密度 2.16×103kgm−3 から,1組の質量は 2.16×103×4.49×10−29≈9.69×10−26kg である.よって

NA=58.4×10−3kgmol−19.69×10−26kg≈6.03×1023mol−1

となり,知られた値 6.02×1023mol−1 とよく一致する.

ポイント 教える人へ

  • 答えを先に言わず,予想を書いてもらう.「水面は上がる」と答える人は多いが,「どれだけ」と聞くと止まる.分子の大きさ,個数,断面積をどう結ぶかが入り口である.

  • つまずきやすいのは 10 の冪の扱いである.10−10 と 1010 が逆数であることを,具体的な数で何度も確かめさせる.

  • mol は「ダース」と同じ個数の単位だと強調する.6.02×1023 を覚えさせるのではなく,質量から個数を求める橋渡しとして使えればよい.

  • 確かめ:「1滴の水の分子数は地球の人口より多いか少ないか」「結晶の原子の間隔と密度から,なぜ原子の個数が分かるのか」と問う.答えられれば,個数・体積・長さのつながりが分かっている.

04単位と次元

問い

軽い糸に小さなおもりをつけた振り子を,毎回同じ小さな角度から静かに放して振らせます.糸の長さを l,おもりの質量を m,重力加速度を g とします.1往復にかかる時間(周期 T)は,このうちどれで決まるでしょうか.糸を4倍にしたら,おもりを2倍にしたら,月に持っていったら,周期はどうなるでしょうか.

周期を表す式は知らないものとして,形だけ当ててみましょう.紙に予想を書いてください.

天井の1点から長さlの糸でおもり(質量m)をつるした振り子.おもりは左右に振れ,鉛直下向きに重力加速度gがはたらく.1往復にかかる時間が周期Tである. 天井の1点から長さlの糸でおもり(質量m)をつるした振り子.おもりは左右に振れ,鉛直下向きに重力加速度gがはたらく.1往復にかかる時間が周期Tである.

考えてみる

式を知らなくても言えることがあります.周期は「時間」です.時間を作る材料が,l(長さ),m(質量),g(長さ÷時間÷時間)の中にあるはずです.質量だけが「質量」を含みますが,長さや時間から質量は作れません.答えから質量を消す手段がないので,周期に m は入れないはずです.残るのは l と g で,l/g は(長さ)÷(長さ÷時間²)=時間² です.だから周期は l/g に比例するはずです.

この「量の種類(次元)だけを頼りに式の形を決める」方法を,この節と次の節で整えます.この節では,まず単位と次元そのものを確かめます.

量は「数×単位」

物理量は,数と単位の積です.l=2.0m は,長さの基準 1m の2.0倍という意味です.単位が違えば数も変わりますが,2.0m と 200cm は同じ長さです.

世界共通の単位として,国際単位系(SI)があります.基本になるのは,長さ(メートル,m),質量(キログラム,kg),時間(秒,s),電流(アンペア,A),温度(ケルビン,K),物質量(モル,mol),光度(カンデラ,cd)の7つです.

力学では,m,kg,s の3つで足ります.ほかの単位はこれらの積と商で作り,組立単位といいます.速さは ms−1,加速度は ms−2,力は 1N=1kgms−2,エネルギーは 1J=1Nm=1kgm2s−2 です.

単位の換算は,「1に等しい比」を掛けることです.1km=1000m,1h=3600s だから

36km/h=36×1000m3600s=10ms−1

加速度の単位:なぜ ms−2 か

速さの単位 ms−1 は「1秒あたり何メートル進むか」を表します.加速度は「速度が1秒あたりどれだけ変わるか」ですから,速度の変化を,それにかかった時間で割ります.ここでは物体を静かに放して鉛直に落とす場合だけを考えます.向きが変わらないので,速度の変化は速さの変化で表せます.単位も同じように割ります.

速度の変化(速さの変化) [ms−1]かかった時間 [s]=ms−1÷s=ms−2

「秒」が2回出てくるのは,1回目が速さ(速度)の「1秒あたり」,2回目が加速度の「1秒あたり」だからです.次元でいえば LT−1 を T で割って LT−2 です.

重力加速度 g=9.8ms−2 は,9.8(ms−1)/s と読めます.つまり「1秒ごとに,速さが 9.8ms−1 ずつ増える」という意味です.空気抵抗を無視して物体を静かに放すと,速さは次のように増えます.

放してからの時間

速さ

0s

0ms−1

1s

9.8ms−1

2s

19.6ms−1

3s

29.4ms−1

「9.8 メートルずつ落ちる」のではなく,「速さが 9.8 ms−1 ずつ増える」のです.1秒で増える速さが一定ですから,たとえば 0.5s なら 4.9ms−1 です.

ポイント 加速度の単位の読み方

ms−2 は「ms−1 毎秒」と読む.数値は,1秒あたりの速度の変化量である(鉛直落下のように向きが変わらなければ,速さの変化量).g=9.8ms−2 なら,1秒ごとに速さが 9.8ms−1 増える.

次元

単位を取り去り,量の「種類」だけを見たものが次元です.長さ,質量,時間の次元を L,M,T で表し,量 x の次元を [x] と書きます.

定義 次元

ここで扱う力学の量は,[x]=LaMbTc の形に書ける.次元はこの右辺の積であり,指数 a,b,c はその中の情報である.指数がすべて0の量を無次元量という(電流や温度などを含めると,基本の次元がさらに増える).

量

次元

速さ

LT−1

加速度(g も同じ)

LT−2

力

MLT−2

エネルギー

ML2T−2

圧力

ML−1T−2

角度,摩擦係数

無次元

法則 次元のきまり

  • 足し算・引き算・等号は,同じ次元の量どうしでしか成り立たない.

  • 掛け算・割り算では,次元の指数が足し引きされる.

  • 指数関数,対数,三角関数の中身は,無次元でなければならない.

したがって,次元が合わない式は必ず間違いです.検算に使えます.たとえば x=12at は,左辺が L,右辺が LT−1 で合わないので誤りです.逆に,次元が合っていても正しいとは限りません.係数(12 など)は次元からは決まらないからです.

問いに戻る

「考えてみる」の筋道は,次元の言葉で書き直せます.周期 T は時間 T で,質量 M を含むのは m だけですから,m は入りません.l と g から時間を作る組み合わせは l/g だけです.振り子の周期は T=Cl/g の形で,振れの角度をそろえれば,糸が4倍なら周期は2倍,月(g が約 1/6)では約2.5倍になります.C は無次元の数で,振れの角度には依存しうるうえ,次元解析では決まりません.振れが小さいとき C=2π(のちの章で導きます)で,l=1.00m なら T=2π1.00/9.8≈2.0s です.

ポイント ここまでのまとめ

  • 物理量は「数×単位」.力学の単位は m,kg,s の積と商で作れる.

  • 加速度の単位 ms−2 は,速度の単位 ms−1 を時間で割ったもの.g=9.8ms−2 は,空気抵抗を無視した鉛直落下で,1秒ごとに速さが 9.8ms−1 増えることを表す.

  • 量の種類だけを見たものが次元で,次元が合わない式は必ず間違い.ただし次元が合っても,係数までは決まらない.

  • 振り子の周期は質量によらず,振れの角度をそろえれば T=Cl/g の形になる.

05次元解析と冪の計算

前の節で,次元が合わない式は間違いだと確かめました.この節では,その向きを逆にして,次元から式の形を絞り込みます.

次元解析:式の形を当てる

次元が合うことを逆に使うと,式の形を絞り込めます.

ポイント 次元解析の手順

  1. 求めたい量が,どの量に関係しそうかを挙げる.

  2. 求めたい量を,関係する量のべき乗の積 Cx1ax2b⋯ とおく(C は無次元の定数).

  3. 両辺の L,M,T の指数を別々に比べ,指数の連立方程式を解く.

L,M,T を別々に比べてよいのは,どの単位を取り替えても式が成り立つ必要があるからです.長さの単位だけを m から cm に変えても,式は同じ形で成り立たねばなりません.

次元解析で決まるのは指数だけで,無次元の係数 C は決まりません.重要な量を入れ忘れると,答えも誤ります.

無次元量.角度(弧÷半径),長さの比,質量の比などは次元がありません.無次元量は単位の取り方によらず,数値そのものに意味があります.関係する量の中に無次元量が含まれると,その関数の形までは次元解析では決まりません.たとえば振り子の振れの角度 θ0 は無次元なので,一般には T=Cl/gf(θ0) となり,f は別に調べます.

定理 数学の道具:冪の計算と指数の比較

次元解析で使う数学は,冪の計算と連立方程式です.a>0 とします.

aman=am+n,(am)n=amn,a−n=1an,a1/2=a

次元の比較では,L,M,T それぞれの指数が両辺で等しい,という連立方程式を作ります.たとえば T=Clambgc の次元を比べましょう.[g]=LT−2 だから

T1=LaMb(LT−2)c=La+cMbT−2c

T の指数から −2c=1,L の指数から a+c=0,M の指数から b=0 となります.

練習. (1) x3⋅x−5÷x1/2 を簡単にせよ.(2) p+q=1, −q=−2 を解け.(3) 82/3 と (127)−1/3 を求めよ.(4) a3⋅a−1/2 を簡単にせよ.(5) 2p+q=1, p−q=2 を解け.(6) (LT−1)2÷(LT−2) を簡単にせよ.

答え:(1) x3−5−1/2=x−5/2.(2) q=2, p=−1.(3) 82/3=(81/3)2=4,271/3=3.(4) a3/2−1/2=a.(5) 足して 3p=3 より p=1, q=−1.(6) L2−1T−2+2=L.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

長さ l の軽い糸に質量 m のおもりをつけた振り子が小さく振れるとき,周期 T は l,m,g だけで決まるとする.

長さlの糸に質量mのおもりをつけ,小さく傾けた振り子を示す. 長さlの糸に質量mのおもりをつけ,小さく傾けた振り子を示す.
  1. 次元解析で T の l,m,g への依存の形を求めよ.

  2. l=0.25m で T=1.00s と測れた.係数 C を求めよ(g=9.8ms−2).

  3. 周期が 2.0s の振り子の長さを求めよ.

解答を見る

考え方 T=Clambgc とおき,L,M,T の指数を比べる.C は実験値から決める.

  1. 上の連立方程式を解く.b=0,c=−12,a=−c=12 である.よって

T=Clg

である.質量には依存しない.

  1. C=Tg/l=1.00×9.8/0.25=6.26 である.2π=6.28 に近い.

  2. l=gT2/C2=9.8×2.02/6.262≈1.0m である.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

高さ h から石を静かに放したとき,落下にかかる時間 t を考える.空気抵抗は無視でき,t は h,石の質量 m,g だけで決まるとする.

  1. t の形を次元解析で求めよ.

  2. h=4.9m から落とすと t=1.00s だった.h=19.6m では何秒か.

地面から高さhの石を静かに放す.重力加速度gは下向き. 地面から高さhの石を静かに放す.重力加速度gは下向き.
解答を見る

考え方 (1) は振り子と同じ手順.(2) は係数 C を求めなくても,比を取れば消える.

  1. t=Chambgc とおく.M から b=0.T から −2c=1,L から a+c=0 だから c=−12, a=12 である.

t=Chg

石の質量には依らない.空気抵抗を無視するモデルの中では,重い石も軽い石も同時に落ちる(このモデルをどこまで使ってよいかは,この章の「モデルと問題の解き方」の節で確かめる).

  1. 高さが4倍だから,時間は 4=2 倍で t=2.00s である.

ポイント ここまでのまとめ

  • 次元解析は,求める量を Cx1ax2b⋯ とおき,L,M,T の指数を別々に比べて連立方程式を解く方法である.

  • 決まるのは指数だけで,無次元の係数 C は決まらない.無次元量が関係すると,その関数の形も決まらない.

  • 振り子の周期は T=Cl/g,落下時間は t=Ch/g で,どちらも質量によらない.

  • 係数は,1回の測定か比を取ることで,別に処理する.

06単位と次元の演習

単位の換算と,次元による検算・式の形の予想を練習します.式を立てる前に,各量の次元を L,M,T で書き出す習慣をつけてください.

演習

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

次の換算をせよ.(a) 108km/h を ms−1 で.(b) 1.00gcm−3 を kgm−3 で.(c) 1kWh を J で.(d) 光が1年(3.16×107s)に進む距離を m で(光速 3.00×108ms−1).

解答を見る

考え方 1に等しい比を掛ける.

(a) 108×1000/3600=30ms−1.(b) 1.00g=10−3kg,1cm3=10−6m3 だから 10−3/10−6=1.00×103kgm−3.(c) 1kWh=1000W×3600s=3.6×106J.(d) 3.00×108×3.16×107≈9.48×1015m(およそ 9.5×1015m).

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

次の式のうち,次元が合わないものはどれか.理由も述べよ.ただし x は位置,v, v0 は速さ,a は加速度,t は時刻,m は質量,K はエネルギー,F は力,r は半径,l は長さ,A は長さ,T は振り子の周期,g は重力加速度で,ω の次元は T−1 とする.

(a) v=v0+at2 (b) K=12mv (c) T=2πg/l (d) x=Asin⁡(ωt) (e) F=mv2r

解答を見る

考え方 各項の次元を L,M,T で書いて比べる.

(a) 右辺第2項は LT−2⋅T2=L で,v の次元 LT−1 と合わない.誤り.(b) 右辺は MLT−1,K は ML2T−2 で合わない.誤り.(c) g/l は T−1 で,周期 T と合わない(l/g が正しい).誤り.(d) ωt は無次元で,A は長さなので合う.(e) ML2T−2/L=MLT−2 で力と合う.よって誤りは (a)(b)(c) である.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

なめらかな水平面上で,ばね定数 k のばねにつないだ質量 m の物体が振動している.ばね定数の次元は,F=kx から [k]=MT−2 である.

  1. 周期 T が m と k だけで決まるとして,その形を求めよ.

  2. m を4倍,k を9倍にすると,周期は何倍か.

  3. m=0.20kg,k=8.0Nm−1 で T=0.99s だった.係数 C を求めよ.

  4. 振幅 A(長さ)も関係するとして次元解析すると,周期は振幅によるか.

ばね定数kのばねと質量mの物体.自然長の位置からの変位Aを示す. ばね定数kのばねと質量mの物体.自然長の位置からの変位Aを示す.
解答を見る

考え方 (4) は A だけが長さの次元をもつことに注目する.

  1. T=Cmakb.M から a+b=0,T から −2b=1.よって b=−12, a=12,T=Cm/k である.

  2. 4/9=23 倍である.

  3. 0.20/8.0=0.158 だから C=0.99/0.158=6.26≈2π である.

  4. T=CmakbAd とおくと,L の次元をもつのは A だけなので d=0 である.周期は振幅によらない(等時性).ただし鉛直につるすと g も長さを含み,無次元の組 kA/(mg) ができるので,次元解析だけでは結論できない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

波長 λ の水面の波が,水深に比べて十分に短く,表面張力と粘性が無視できる場合を考える(深い水の波).速さ v が λ,重力加速度 g,水の密度 ρ だけで決まるとして,v の形を求めよ.また,実際は v=gλ/2π として,波長 25m のうねりの速さと周期を求めよ.

隣り合う山の間隔λと波の進む向きを示す. 隣り合う山の間隔λと波の進む向きを示す.
解答を見る

考え方 ρ だけが質量を含む点に注目する.

v=Cλagbρc とおく.M の指数から c=0.T の指数から −2b=−1,L の指数から a+b=1.よって b=a=12,v=Cgλ で,密度に依らない.

λ=25m では v=9.8×25/(2π)≈6.2ms−1.周期は T=λ/v≈25/6.24≈4.0s である.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

質量 M の太陽のまわりを,半径 r の円軌道で回る惑星の公転周期 T が,r,M,万有引力定数 G(次元は L3M−1T−2)だけで決まるとする.(1) T の形を求めよ.(2) 太陽からの距離が地球の 5.2 倍である木星の周期を求めよ.(3) 係数が 2π として,地球(r=1.50×1011m,T=3.16×107s)から GM を求めよ.

質量Mの太陽を中心とする半径rの円軌道.周期をTとする. 質量Mの太陽を中心とする半径rの円軌道.周期をTとする.
解答を見る

考え方 指数の連立方程式を三つ作る.惑星の質量は太陽に比べ無視できる(無次元の比 m/M が 1 よりずっと小さい)ので入れない.

  1. T=CraGbMc とおく.L:a+3b=0.M:−b+c=0.T:−2b=1.よって b=−12, c=−12, a=32 で

T=Cr3GM

である.T2∝r3(ケプラーの第3法則)が出る.

  1. T∝r3/2 だから,地球の 1 年に対して 5.23/2=5.2×2.28≈11.9 年である.

  2. GM=4π2r3/T2=39.5×(1.50×1011)3/(3.16×107)2≈1.3×1020m3s−2 である.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

水素原子の半径 a を,プランク定数 h(次元は ML2T−1),電子の質量 me,電気素量 e,真空の誘電率 ε0 から作りたい.クーロンの法則 F=e2/(4πε0r2) より,[e2/ε0]=ML3T−2 である.次元解析で a の形を求め,数値を計算せよ(h=6.63×10−34Js,me=9.11×10−31kg,e=1.60×10−19C,ε0=8.85×10−12Fm−1).実際の値は 5.3×10−11m である.

原子核と電子の距離aを模式的に示す.軌道の模型は長さの尺度を表すためのもの. 原子核と電子の距離aを模式的に示す.軌道の模型は長さの尺度を表すためのもの.
解答を見る

考え方 e と ε0 は e2/ε0 の形でしか現れないと考えて,三つの量の積を作る.

a=Chpmeq(e2/ε0)s とおく.L:2p+3s=1.M:p+q+s=0.T:−p−2s=0.p=−2s を L に入れて −s=1,よって s=−1, p=2, q=−1 である.

a=Cε0h2mee2

数値は 8.85×10−12×(6.63×10−34)29.11×10−31×(1.60×10−19)2≈1.7×10−10m である.実際の値は C=1/π に相当し,桁が合っている.

ポイント 教える人へ

  • 先に振り子の式を教えず,「質量は効くか」とだけ聞く.直感は割れる.次元で「質量を消せない」と示すと,理由が見える.

  • つまずきは,g の次元(LT−2),  と指数 12 の対応,連立方程式の立て方である.L,M,T ごとに指数の式を1本ずつ書かせる.

  • 次元解析は係数を与えない.「次元が合えば正しい」と誤解させず,2π や 12 は別の方法で決めると伝える.

  • 確かめ:任意の式を渡して,次元の合否を理由つきで述べられるか,未知の式について「関係しそうな量」を自分で挙げられるかを見る.

07見積もり

問い

教室に満ちている空気を残らず集めて,はかりに載せたとします.その質量は,教室にいる人ひとりより重いでしょうか,軽いでしょうか.重いとすれば,何倍くらいでしょうか.

実際にはかる必要はありません.まず直感で「重い」か「軽い」かを決め,次に「何 kg くらいか」を一つ書いてみましょう.

考えてみる

多くの人は「空気は手で持っても何も感じないのだから,質量はほとんどない」と思います.しかし感じないことと,質量がないことは別です.

では数字にするには何が要るでしょうか.質量は「密度×体積」で決まります.体積は教室の縦・横・高さの積です.密度は,水が 1L で 1kg であることを手がかりに,空気が水よりどれだけ軽いかを考えればよいことになります.空気は水のおよそ千分の一の軽さです.そうすると,教室の体積がおよそ 200m3(=2×105L)なら,水なら 2×105kg ですが,空気はその千分の一強で,数百 kg 程度になりそうです.

人ひとりが 60kg ですから,空気のほうが何倍も重いと見当がつきます.

この「見当をつける」作業に筋道をつけるのがこの節の主題です.数値は次の節の例題 1 で確かめます.

見積もりの作法

定義 フェルミ問題

正確なデータがなくても,知っている数字だけを組み合わせて,量の桁(10 の何乗くらいか)を求める問題.物理学者フェルミが好んで出したことから,こう呼ばれる.

フェルミ問題には,次の三つの作法があります.

  1. 分解する.知らない量を,知っている量の積や和に分けます.教室の空気の質量なら「密度×縦×横×高さ」です.

  2. 桁で押さえる.各量は有効数字 1 桁,ときには「10 の何乗か」だけで十分です.教室の縦が 8.7m か 9.2m かは,答えの桁を変えません.

  3. 上下の限界をとる.「これより大きいことはない」「これより小さいことはない」という値で挟みます.挟んだ結果が結論を変えないなら,細かい数字は要りません.

見積もりに価値があるのは,次の理由からです.

  • 検算になる.精密な計算の結果が,見積もりと桁で食い違えば,どこかに誤りがあります.単位換算のミスは,たいてい 103 倍のずれになります.

  • 研究の第一歩になる.実験を計画するとき,現象が何秒続くのか,装置がどれくらいの大きさかを,測る前に知る必要があります.

  • 何を無視してよいかが分かる.次の節の例題 2 のように桁違いに小さいものは,捨てても結論は変わりません.これは,この章の最後の「モデルと問題の解き方」の節の土台です.

見積もりに使う数字の目安を表にします.

量

目安

水の密度

1.0×103kgm−3

空気の密度(20∘C,1atm)

1.2kgm−3

成人の質量,身長

6×101kg,1.7m

東京ドームの容積

1.2×106m3

地球の半径

6.4×106m

地球の表面積

5.1×1014m2

地球の質量

6.0×1024kg

日本の人口,世界の人口

1.2×108 人,8×109 人

1 日,1 年

8.6×104s,3.2×107s

快晴の正午に地表へ届く太陽光

約 1kWm−2

ポイント 空気の密度はどこから来るか

気体 1mol の体積は,20∘C,1atm でおよそ 24L,空気 1mol の質量は約 29g です.密度は 29g/24L≈1.2kgm−3 となり,表の値と合います.

問いに戻る

教室の体積を約 200m3,空気の密度を 1.2kgm−3 とすると,空気の質量は約 2×102kg です.人ひとり(60kg)の数倍で,空気のほうが重いといえます.教室の大きさが倍違っても,この結論は変わりません.

ポイント ここまでのまとめ

  • 見積もりは,知らない量を知っている量の積や和に分け,桁で押さえ,上下の限界で挟む作業である.

  • 見積もりは検算になり,実験の計画の第一歩になり,何を無視してよいかを教えてくれる.

  • 数字は有効数字 1 桁でよい.手がかりになる量(水の密度,地球の大きさ,1 年の秒数など)をいくつか覚えておく.

  • 教室の空気は約 2×102kg で,人ひとりより数倍重い.

08見積もりの数学

見積もりでは,下限と上限で挟んだあと,その真ん中をどう選ぶかが問題になります.この節では,そのための道具を整え,例題で使います.

定理 数学の道具:幾何平均と対数の目安

幾何平均. 正の数 a, b に対し,ab を幾何平均といいます.「下限が a,上限が b」と分かったとき,見積もりの中心値には算術平均 a+b2 ではなく幾何平均を選びます.

理由は,見積もりの誤差を「何倍ずれたか」で測るからです.たとえば下限 10,上限 1000 のとき,算術平均 505 は下限の約 50 倍で,挟み方が不ぞろいです.幾何平均 10×1000=100 は,下限の 10 倍,上限の 110 倍で,どちら側にも同じ倍率の余裕があります.

対数の目安. 常用対数(10y=x となる y を log10⁡x と書く)をとると log10⁡ab=12(log10⁡a+log10⁡b) となります.幾何平均は対数の算術平均です.掛け算が指数の足し算になることを使うと,次の目安が得られます.

  • 210=1024≈103 より,2≈100.3.したがって 5=10/2≈100.7.

  • 3.162≈10 より,10≈3.すなわち 3≈100.5.

これで 2×103×3×104≈100.3+0.5+7=107.8≈6×107 のように暗算できます.

練習 1. 20 と 5000 の幾何平均を求めよ.答え:105=102.5≈3×102.

練習 2. 220 はおよそ 10 の何乗か.答え:20×0.3=6 より約 106(実際は 1.05×106).

練習 3. 0.1m と 1km の幾何平均を求めよ.答え:0.1×1000m=10m.

練習 4. 対数の目安を使って,4×103×5×10−2 と 2×107 を暗算せよ.答え:4=22≈100.6 なので 100.6+3+0.7−2=102.3≈2×102(実際は 200).107.3=103.65,100.65 は 4≈100.6 と 5≈100.7 の間なので,約 4.5×103(実際は 4.47×103).

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

縦 9m,横 7m,高さ 3m の教室がある.中の空気の質量を見積もり,体重 60kg の人ひとりの質量と比べよ.さらに,ふつうの教室の大きさの範囲では結論が変わらないことを,上下の限界をとって確かめよ.

教室の縦9 m,横7 m,高さ3 mを示す. 教室の縦9 m,横7 m,高さ3 mを示す.
解答を見る

考え方 質量=密度×体積に分解する.教室の寸法は人によって違うので,小さめの教室と大きめの教室で挟み,結論が動かないかを見る.

体積は 9×7×3=189≈1.9×102m3.空気の密度は 1.2kgm−3 なので,質量は

1.2×189≈2.3×102kg

である.人ひとりの 60kg と比べると 230/60≈4 倍で,空気のほうが重い.

上下の限界をとる.小さめの教室として 5×6×2.5=75m3 をとると,質量は 1.2×75=90kg.大きめの教室として 12×10×3.5=420m3 をとると,質量は 1.2×420≈5.0×102kg.どちらの場合も 60kg を上回る.したがって「教室の空気は人ひとりより重い」という結論は,ふつうの教室ならどれでも成り立つ.二つの限界の幾何平均 90×500≈2.1×102kg は,最初の見積もりとよく合う.

答え:約 2×102kg,人ひとりの約 4 倍.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

日本の全人口(1.2×108 人)が,同時にその場で高さ 0.4m 跳び上がったとする.このとき地球は,反対向きにどれだけ動くか見積もれ.地球を一つの硬い塊とみなし,その動きが無視できる大きさかどうかを判断せよ.ただし,後の章で学ぶ運動量保存の法則「外から力を受けない物体系では,(質量)×(速度)の総和が変わらない」を使ってよい.

人びとの上向きの速さvと地球の反対向きの速さVを模式的に示す.矢印の長さは速さの比ではない. 人びとの上向きの速さvと地球の反対向きの速さVを模式的に示す.矢印の長さは速さの比ではない.
解答を見る

考え方 人びとが上向きにもつ運動量と同じ大きさの運動量を,地球が下向きにもつ.人間と地球の質量の比を作れば,地球の動きは人間の動きにその比を掛けたものになる.

1 人 60kg で,全員の質量は m=60×1.2×108≈7×109kg.高さ h=0.4m まで上がる跳び出しの速さは,後の章で学ぶ等加速度運動の式から v=2gh=2×9.8×0.4≈2.8ms−1 である.運動量保存より,地球(質量 M=6.0×1024kg)が下向きにもつ速さ V は

MV=mv⇒V=mMv=7×1096×1024×2.8≈3×10−15ms−1

である.人びとの重心が最高点で 0.4m 上がっているとき,地球の重心は同じ比で逆向きに動いているから,その移動量は

mM×0.4m≈1.2×10−15×0.4≈5×10−16m

となる.

これは原子核の大きさ(10−15m 程度)よりも小さい.念のため上限をとり,世界の全人口 8×109 人が跳んでも,移動量は 3×10−14m で,原子の大きさ(10−10m)の千分の一以下である.

答え:地球の動きは約 5×10−16m.無視できる.

ポイント ここまでのまとめ

  • 下限 a と上限 b が分かったら,中心値には幾何平均 ab を選ぶ.どちら側にも同じ倍率の余裕が残る.

  • 対数の目安は 2≈100.3,3≈100.5,5≈100.7.掛け算を指数の足し算にして暗算できる.

  • 上下の限界で挟み,結論が変わらないことを確かめるのが見積もりの核心である.

  • 桁違いに小さいものは捨てられる.人類が跳んでも地球の動きは約 5×10−16m で,無視できる.

09見積もりの演習

仮定を自分で決めて桁を出す演習です.答えを見る前に,使う量とその概算値を先に書き出してください.

演習

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

安静時の心拍数を毎分 70 回として,1 年間の心拍数と,80 年間の心拍数を見積もれ.また,1 回の拍動で送り出す血液を 70mL として,一生に送り出す血液の体積を求めよ.

解答を見る

考え方 1分→1日→1年→一生と,時間の単位を順に掛けていく.血液は(1回の量)×(回数)である.

1 日は 60×24=1440 分なので,1 日の心拍数は 70×1440≈1.0×105 回.1 年は 365 日なので 1.0×105×365≈3.7×107 回.80 年では 3.7×107×80≈3×109 回である.

送り出す血液は 70mL=7×10−5m3 に 3×109 を掛けて 2×105m3,東京ドームの約 0.2 個分である.

答え:1 年で約 4×107 回,80 年で約 3×109 回.血液は約 2×105m3.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

髪の毛の端と端をつないで,地球を赤道に沿って 1 周させたい.髪の毛は何本必要か.髪の毛 1 本の長さは自分で決め,その理由も述べよ.また,頭髪が 1 人あたり約 105 本として,何人分の髪の毛にあたるかを答えよ.

解答を見る

考え方 (地球一周の長さ)÷(髪1本の長さ)で本数が出る.髪1本の長さは,上下の限界で挟んで決める.

赤道の長さは 2πR=2π×6.4×106≈4.0×107m.髪の毛 1 本の長さは 0.1m から 0.5m くらいなので,幾何平均に近い 0.2m をとる.本数は

4.0×1070.2=2×108 本

である.1 人あたり 105 本なら,2×108/105=2×103 人分,つまり 2000 人ほどの髪の毛で足りる.

答え:約 2×108 本,約 2000 人分.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

東京 23 区(面積 6×102km2)に,1 日の降水量 50mm の大雨が一様に降った.降った雨の質量と体積を見積もり,東京ドーム何個分かを答えよ.

面積Sの地面に厚さdの雨水がたまった断面.dは50 mmである. 面積Sの地面に厚さdの雨水がたまった断面.dは50 mmである.
解答を見る

考え方 雨の体積は(面積)×(降水量=水の層の厚さ)である.長さの単位を m にそろえてから掛ける.

面積を m² にそろえる.6×102km2=6×102×106m2=6×108m2.降水量 50mm=0.05m は,その面積の上に厚さ 0.05m の水の層ができる量である.体積は

6×108×0.05=3×107m3

質量は,水の密度 103kgm−3 を掛けて 3×1010kg(3×107 トン)である.東京ドームの容積 1.2×106m3 で割ると,3×107/(1.2×106)=25 個分となる.

答え:質量約 3×1010kg,体積約 3×107m3,東京ドーム約 25 個分.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

屋根の上に受光面積 4m2 の太陽熱温水器を置く.日中の平均の日射を 0.6kWm−2 とし,受けた光の 50 % が水に伝わるとする.水 200L を 20∘C から 50∘C にするのに,何時間かかるか.水の比熱は 4.2Jg−1K−1 とし,水 1L は 1kg とする.

日射が受光面積4 m²の集熱面に当たり,200 Lの水を温める. 日射が受光面積4 m²の集熱面に当たり,200 Lの水を温める.
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考え方 必要な熱(質量×比熱×温度差)を,水に伝わる出力(面積×日射×割合)で割れば時間になる.

必要な熱は,水の質量 2×105g,比熱 4.2Jg−1K−1,温度差 30K の積で

Q=2×105×4.2×30≈2.5×107J

である.水に伝わる熱の出力は,4m2×600Wm−2×0.5=1.2×103W.時間は

t=QP=2.5×1071.2×103≈2.1×104s≈5.8 時間

となる.

答え:約 6 時間.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

地球の大気全体の質量を見積もれ.ただし,水深 10m で水圧が大気圧と同じ程度になる(水 10m 分の重さが,大気全体の柱の重さに等しい)ことを使ってよい.また,空気の密度が高さによらず 1.2kgm−3 だとしたら,大気の厚さをいくらとすればこの結果と合うかを求めよ.

底面積がともに1 m²の大気柱と高さ10 mの水柱を比べる.柱の高さの縮尺は異なる. 底面積がともに1 m²の大気柱と高さ10 mの水柱を比べる.柱の高さの縮尺は異なる.
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考え方 水柱と大気の柱が同じ重さであることから,地表 1m2 あたりの空気の質量を出し,地球の表面積を掛ける.

地表の面積 1m2 の上に,水柱なら高さ 10m,すなわち体積 10m3 で質量 104kg の水がのる.大気の柱も同じ重さなので,面積 1m2 あたりの空気の質量は約 104kg.地球の表面積は 4πR2=4π×(6.4×106)2≈5.1×1014m2 なので,大気の質量は

104×5.1×1014≈5×1018kg

である.地球の質量 6×1024kg の約 10−6 にすぎない.

密度が一様だとすると,1m2 の柱の質量は(密度)×(厚さ)なので,厚さは 104/1.2≈8×103m,つまり約 8km になる.実際の大気は上空ほど薄くなりながら 100km 以上続くが,この 8km は質量の大部分が集まる「実質的な厚さ」を表す.

答え:約 5×1018kg.一様密度なら厚さ約 8km.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

日本の自動車(約 8×107 台)のタイヤが,路面との摩擦で 1 年間にすり減らす質量を見積もれ.必要な量は自分で仮定し,その値を書け.ヒント:タイヤは溝が浅くなると交換される.減る溝の深さ,路面に触れる面(外周と幅の帯)の面積,ゴムの密度から,タイヤ 1 本の減る量を求めよ.

タイヤ側面と表面を帯に広げた模型.外周2.0 m,幅0.2 m,減る深さ6 mmを示す. タイヤ側面と表面を帯に広げた模型.外周2.0 m,幅0.2 m,減る深さ6 mmを示す.
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考え方 タイヤ1本の減る体積を(面積)×(減る深さ)で出し,台数と走行距離に広げていく.仮定はすべて書き出す.

仮定. タイヤの幅 0.2m,外周 2.0m(直径約 0.65m),交換までに減る溝の深さ 6mm,溝などの空洞が占める割合 30 %,ゴムの密度 1.1×103kgm−3,交換までの走行距離 4×104km,年間走行距離 8×103km/台とする.

タイヤ 1 本の減る質量. 路面に触れる帯の面積は 0.2×2.0=0.4m2.減る体積は 0.4×6×10−3=2.4×10−3m3.実際にゴムがある部分は 70 % なので,質量は

2.4×10−3×0.7×1.1×103≈1.8kg

である.

1 台あたり. 1 台は 4 本なので,寿命のあいだに約 7.4kg を失う.4×104km あたり 7.4kg だから,年間 8×103km 走ると 7.4×(8×103)/(4×104)≈1.5kg.

全体. 1.5kg×8×107=1.2×108kg,すなわち約 105 トンである.仮定の各数値は 2 倍ほど動きうるので,桁(108)までを信頼する.

答え:約 1×108kg(105 トン).

ポイント 教える人へ

  • 最初に「重いか軽いか」を直感で言わせて記録し,見積もりのあとで比べさせる.

  • つまずきの多くは単位である.面積を km2 のまま,体積を L のまま,他の量と掛けてしまう.数字を式に入れる前に,すべて SI 単位にそろえさせる.

  • 「正確な値が分からないから答えられない」と止まる人には,上限と下限を言わせる.「100 人よりは多く,10000 人よりは少ない」と言えれば,もう半分は答えている.

  • 理解の確かめとして,身の回りの量を使った問題(たとえば「この教室で 1 時間に吸う空気の質量は」)を自分で一つ作らせる.

  • 答えが出たら「仮定を倍にしても結論は変わらないか」を必ず聞く.これが見積もりの核心である.

10モデルと問題の解き方

問い

同じ大きさの紙を 2 枚用意します.1 枚は広げたまま,もう 1 枚はぎゅっと丸めて,同じ高さから同時に手を離します.どちらが先に床に着くでしょうか.

ところが教科書には「物理では,重い物も軽い物も同時に落ちる」と書いてあります.広げた紙と丸めた紙で結果が違うなら,この文は何を言っているのでしょうか.まず自分の考えを書いてから先へ進んでください.

考えてみる

実際に落とすと,丸めた紙のほうがずっと早く着きます.広げた紙はひらひらと漂い,ゆっくり降りてきます.質量は同じなのに,違いを生むのは空気です.

教科書の文は「空気抵抗がなければ,どんな物体も同じ加速度で落ちる」という意味です.これは現実そのものの記述ではなく,空気抵抗を除いた理想化された世界,つまりモデルの中での話です.問題は,現実のどんな場合なら,この理想化を使ってよいかです.答えは,空気抵抗が重力に比べて十分小さいときです.この節では,その「十分小さい」を数で決める方法を学びます.また,物理の問題を迷わず解くための手順も身につけます.

モデル化

定義 モデル

現実の現象から,目的に関係する性質だけを取り出し,ほかを無視または単純化した理想的な対象.

代表的なモデルが二つあります.

  • 質点:大きさを無視し,質量だけを持つ点とみなす.物体全体の運動を問い,回転や変形が結果に効かないときに使う.

  • 剛体:大きさは持つが,力を受けても変形しない物体とみなす.回転を扱うときに使う.

どれを選ぶか,何を無視するかは,目的が決めます.地球を太陽のまわりの運動で見るなら質点でよく,地球の自転や大気の運動を考えるなら質点では足りません.同じ物体でも,問いが変われば適切なモデルは変わります.そして無視してよいかどうかは,感覚ではなく,無視した量が残した量に比べてどれだけ小さいかを数で比べて判断します.

空気抵抗は無視できるか

速さ v で落ちる物体が受ける空気抵抗は,大きさがおよそ F=12CρAv2 です.ここで ρ は空気の密度,A は進行方向から見た断面積,C は形や姿勢などで決まる 1 程度の数です(この形は次元解析で当てられます).この節では,紙や球の落下を,速さの 2 乗に比例する抵抗とほぼ一定の C で見積もります.高さ h だけ落ちた時点の速さを,空気がないときの値 v2=2gh とおいて,この速さで評価した抵抗と重力 mg の比を r とすると

r=Fmg=CρAhm

となります.1≫r なら,落下の間ずっと抵抗は重力よりずっと小さく,無視してよいといえます.r が 1 程度以上のときは,空気がないというモデルそのものが成り立ちません.

ポイント 終端速度との関係

抵抗が重力と等しくなる速さ vt=2mg/(CρA) を終端速度といいます.r=(2gh/vt)2 と書けるので,r は「空気がないときの落下の速さが,終端速度に比べてどれだけ大きいか」の目安です.1≫r なら空気がないときの速さは終端速度よりずっと小さく,抵抗は効きません.r が 1 程度なら抵抗の影響は大きく,r が十分大きければ,実際の速さは終端速度に近づいて,ほぼ等速で落ちます.

問いの紙で確かめます.質量 5g の A4 の紙を高さ 2m から落とします.広げた紙は A=0.062m2,C≈1 として r≈1.2×1×0.062×2/0.005≈30 です.r が 1 よりずっと大きいので,空気がないモデルは成り立たず,実際にはすぐ終端速度(約 1ms−1)に近づいてゆっくり降ります.

丸めた紙は直径 4cm 程度,A=1.3×10−3m2,C≈0.5 として r≈0.3 で,抵抗は効きますが落下時間は数 % ずれる程度です.

質量は同じでも A/m が違うので,結果が違います.鉄球なら r はさらに桁違いに小さくなり,「同時に落ちる」が現実でも成り立ちます.

問題を解く手順

モデルを決めたあと,問題を解く道筋を毎回そろえておくと,迷いません.この本では次の四つの手順を使い,図・原理・式・検算と呼びます.

法則 図・原理・式・検算

  1. 図:状況を図にする.求めるものを一つ決め,既知の量と未知の量に文字を付け,座標軸と向きを決める.

  2. 原理:どの法則・関係を使うかを決める.等速運動の関係,保存則など,一言で言えるようにする.

  3. 式:原理から文字のまま式を立て,文字のまま解く.数値は最後に入れる.

  4. 検算:次元が合うか,極端な場合(0 や無限大,二つの量が等しい場合)で結果が正しいか,数値の桁が妥当かを確かめる.

文字のまま解くのは,次元や極端な場合を確かめられるからです.数値を先に入れると,間違いの手がかりが消えます.以後の章の解答も,この順に書きます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 「重い物も軽い物も同時に落ちる」は,空気抵抗を除いたモデルの中での話である.

  • 何を無視してよいかは目的が決め,無視する量と残す量の比(無次元の数)で判断する.空気抵抗なら,空気がないときの速さで評価した抵抗と重力の比 r=CρAhm が 1 よりずっと小さいときに使える.

  • 広げた紙は r≈30 で空気がないモデルが成り立たず,終端速度に近づいて漂い,丸めた紙は r≈0.3,鉄球はさらに小さい.落ち方の違いは A/m の違いである.

  • 問題は「図・原理・式・検算」の順に,文字のまま解いて検算する.

11近似と検算

「図・原理・式・検算」の最後の手順では,文字のまま出した結果を,近似と極端な場合で確かめます.この節ではその道具を整え,例題で手順を通して使います.

定理 数学の道具:一次近似と極端な場合

一次近似. n=12 や n=−1 のように指数 n を固定して,1≫|x| のとき

(1+x)n≈1+nx

が成り立ちます.n が正の整数なら,二項展開 (1+x)n=1+nx+n(n−1)2x2+⋯ で x2 以降を捨てたものです.n が整数でないときも,x が小さければ同じ形でよいことが知られています.特に 1+x≈1+x2,11+x≈1−x です.捨てた項は x2 の程度なので,x=0.04 なら誤差は 2×10−3 程度以下です(n=12,−1 の場合).n が大きいときは係数 n(n−1)2 も大きくなり,|x| が小さいだけでは精度を保証できないので,別に誤差を確かめてください.

極端な場合. 文字式の結果は,モデルの前提が保たれる範囲で,ある量を 0 にしたり,大きくしたりしても,物理として納得できる結果になっているはずです.検算の主力です.極端な場合に前提そのものが破れるとき(たとえば一定の重力加速度を仮定した式を,落下距離が地球の大きさに近い場合に使うとき)は,結果が合わないのではなく,モデルの適用範囲を外れたと確認します.

練習 1. 1/1.03 を一次近似で求めよ.答え:1−0.03=0.97(実際は 0.9709).

練習 2. 0.96 を求めよ.答え:x=−0.04 として 1−0.02=0.98(実際は 0.9798).

練習 3. 一次近似で次の値を求めよ.(1) (1.001)3 (2) 1(1.01)2 (3) 10.94

答え:(1) n=3,x=0.001 で 1.003(実際は 1.003003).(2) n=−2 で 1−0.02=0.98(実際は 0.9803).(3) n=−12,x=−0.06 で 1+0.03=1.03(実際は 1.0314).

練習 4. 半径 R=6.4×106m の地球の表面から高さ h=32km の所で,R2(R+h)2 を一次近似で求めよ.答え:(1+hR)−2≈1−2hR=1−2×0.005=0.99.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

150km 離れた P 町と Q 町を結ぶ直線道路がある.午前 8 時に P 町から車 A が Q 町へ向けて時速 60km で出発し,8 時 30 分に Q 町から車 B が P 町へ向けて時速 40km で出発する.2 台が出会う時刻と,P 町からの距離を求めよ.

P町とQ町の間隔150 kmと,各車の出発時刻・進行方向・速さを示す. P町とQ町の間隔150 kmと,各車の出発時刻・進行方向・速さを示す.
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考え方 この節の手順「図・原理・式・検算」に沿って書く.2 台は等速なので,出会いは「位置が等しい」という式になる.B が遅れて出発することを,時刻の文字 t0 で表す.

図. 8 時を t=0,P 町を原点,Q 町への向きを正とする.L=150km,vA=60km/h,vB=40km/h,t0=0.5h.求めるのは出会う時刻 t と位置 x である.

原理. 2 台とも等速直線運動で,出会うとは位置が等しいことである.

式. t≥t0 で A の位置は xA=vAt,B の位置は xB=L−vB(t−t0).xA=xB とおいて

vAt=L−vB(t−t0)⇒t=L+vBt0vA+vB

数値を入れて t=(150+40×0.5)/(60+40)=1.7h,すなわち 9 時 42 分.位置は x=60×1.7=102km.

検算. 次元は [km+(km/h)h]/(km/h)=h で合う.t0=0 では t=L/(vA+vB),同時に出発した 2 台が向かい合って近づく結果に戻る.vB→0 では t=L/vA で,止まっている B のところまで A が走る時間になる.B 側から見ても,1.2h で 48km 進んだ位置 150−48=102km で合う.なお vAt0>L だと A は B の出発前に Q に着いてしまうので,この式は使えない.これも式から読み取れる適用範囲である.

答え:9 時 42 分,P 町から 102km.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

半径 3cm の鉄球(密度 7.9×103kgm−3)と,同じ大きさの発泡スチロールの球(密度 30kgm−3)を高さ 3m から落とす.空気抵抗を無視するモデルが使えるかを,それぞれ判定せよ.空気の密度は 1.2kgm−3,C=0.5 とする.

半径3 cmの鉄球と発泡スチロール球を高さ3 mから放す.密度はそれぞれ7.9×10³ kg m⁻³と30 kg m⁻³. 半径3 cmの鉄球と発泡スチロール球を高さ3 mから放す.密度はそれぞれ7.9×10³ kg m⁻³と30 kg m⁻³.
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考え方 前の節の r=CρAh/m を球に当てはめ,1≫r かを見る.同じ大きさなので違いは質量だけである.

式. 球の半径を R,密度を ρb とすると A=πR2,m=43πR3ρb なので A/m=3/(4Rρb).よって

r=34CρρbhR

次元は無次元で合う.密度の比が小さいほど,また落下距離が球の大きさに比べて短いほど r は小さい.

鉄球では r=0.375×1.27.9×103×30.03≈6×10−3.1≫r で,空気抵抗は重力の 1 % にも満たず,モデルは使える.落下時間のずれは r の十二分の一程度(詳しい計算は力学の章)なので 0.05 % ほどである.

発泡スチロール球では r=0.375×1.230×100=1.5.r が 1 を超えるので,空気がないとしたときの速さで評価すると抵抗が重力を上回ってしまい,空気がないというモデルは成り立たない.実際の落下では抵抗は重力を超えず,速さは終端速度に下から近づく.空気がないときの着地速さ 2gh≈7.7ms−1 に対し,終端速度は 7.7/1.5≈6.3ms−1 と小さく,着地までに終端速度の9割近くまで近づく.

答え:鉄球は使える(r≈6×10−3),発泡スチロール球は使えない(r≈1.5).

ポイント ここまでのまとめ

  • 一次近似は,指数 n を固定して 1≫|x| のとき (1+x)n≈1+nx.特に 1+x≈1+x2,11+x≈1−x.

  • モデルの前提が保たれる範囲で,極端な場合(0,大きな値,二つの量が等しい)の結果が納得できるかを調べるのが,検算の主力である.

  • 次元,極端な場合,桁の三つで確かめると,文字式の誤りの多くが見つかる.

  • 空気抵抗を無視してよいかは r で判定する.鉄球は r≈6×10−3 で使え,発泡スチロール球は r≈1.5 で使えない.

12モデルと問題の解き方の演習

「図・原理・式・検算」の順に,文字のまま解いてから数値を入れる練習です.どの演習でも,最後に次元と極端な場合を確かめてください.

演習

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

弟が家を出て毎秒 1.5m で歩き出した.10 分後に兄が同じ道を自転車で毎秒 5.0m で追う.兄は家を出てから何分後に,家から何 km の所で弟に追いつくか.「図・原理・式・検算」の順で解け.

兄の出発時刻をt=0とし,家にいる兄と先行する弟を示す. 兄の出発時刻をt=0とし,家にいる兄と先行する弟を示す.
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考え方 兄の出発時刻を基準にして,弟が先に進んだ距離を,速さの差で縮める時間と考える.

図. 兄の出発時刻を t=0,家を原点,進む向きを正とする.t0=10min=600s,u=1.5ms−1,v=5.0ms−1.

原理. 2 人とも等速で,追いつくとは位置が等しいことである.

式. 弟の位置は x1=u(t0+t),兄の位置は x2=vt.x1=x2 より t=ut0v−u=1.5×6003.5≈257s≈4.3 分.位置は x=5.0×257≈1.3×103m.

検算. 次元は [ms−1⋅s]/[ms−1]=s で合う.v→u では t→∞,同じ速さなら追いつけないという結果と合う.t0=0 では t=0 で,同時に出れば最初から並んでいる.弟の位置も 1.5×(600+257)≈1.3×103m で一致する.

答え:約 4.3 分後,家から約 1.3km.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

静水での速さが u の舟が,流速 w(w<u)の川を,距離 L の上流の地点まで往復する.(1) 往復の時間 t を求めよ.(2) 静水での往復時間 2L/u との比を求め,w/u=0.1 のとき一次近似で何 % 長くなるかを答えよ.(3) w→0 と w→u の場合で結果が妥当かを述べよ.

流速wの川で,舟は水に対して速さuで上流と下流へ進む.往復区間の長さLを示す. 流速wの川で,舟は水に対して速さuで上流と下流へ進む.往復区間の長さLを示す.
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考え方 上りと下りで,岸から見た速さが違う.往復の時間を文字のまま足し,比を作ってから一次近似を使う.

  1. 上りは岸から見て速さ u−w,下りは u+w で進む.

t=Lu−w+Lu+w=2Luu2−w2
  1. 比は t2L/u=11−(w/u)2.x=(w/u)2 が小さいとき 1/(1−x)≈1+x なので,比は 1+(w/u)2.w/u=0.1 では 1.01 で,約 1 % 長くなる.流れに乗って得をする分と逆らって損をする分は,一次の項では打ち消し合い,二次の差だけが残る.

  2. w→0 では t→2L/u で,静水の結果に戻る.w→u では分母が 0 に近づいて t→∞ となる.上り速度 u−w が 0 になり,上流に進めなくなるからで,物理として妥当である.w>u では t が負になり,式は使えない.

答え:(1) 2Lu/(u2−w2),(2) 約 1 % 長い.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

半径 1.0mm の雨滴(密度 1.0×103kgm−3)が,高さ 1.0km の雲から落ちる.C=0.5,空気の密度 1.2kgm−3 とする.(1) 空気抵抗を無視した着地速さを求めよ.(2) r を求め,このモデルが使えるかを判断せよ.(3) 終端速度を求めよ.(4) 自由落下の速さが終端速度に等しくなるのは,何 m 落ちたときか.

高さ1.0 kmの雲から半径1.0 mmの雨滴が落ちる配置を示す. 高さ1.0 kmの雲から半径1.0 mmの雨滴が落ちる配置を示す.
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考え方 r の式に数値を入れて判定する.r=1 となる高さが,終端速度に近づき始める目安である.

  1. v=2gh=2×9.8×1000≈1.4×102ms−1(時速 500km 超).現実の雨の速さとは大きく違う.

  2. 例題 2 の球の式より r=0.375×1.21.0×103×10001.0×10−3=450.r≫1 で,空気がないとしたときの速さでは,抵抗は重力の約 450 倍になる.実際はそれよりずっと前に終端速度に落ち着くので,モデルは使えない.

  3. r=(v/vt)2 より vt=v/r=140/450≈6.6ms−1.実際の雨滴の速さに近い.

  4. r=1 となる高さで,0.375×1.21.0×103×h1.0×10−3=1 より h≈2.2m.雨滴は 2 m ほど落ちるあたりで抵抗が重力と同じくらいになり,速さは終端速度に近づく(抵抗を入れて計算すると,このときの速さは終端速度の約8割).そこから先は,ほぼ終端速度のまま落ちる.

答え:(1) 1.4×102ms−1,(2) r≈450,使えない,(3) 6.6ms−1,(4) 2.2m.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

高さ h の窓から,石を初速 v0 で真下に投げた.着地までの時間 t について,次の四つの式が挙がった.

(ア) t=−v0+v02+2ghg(イ) t=v0+v02+2ghg
(ウ) t=−v0+v02+ghg(エ) t=−v0+v02+2ghg2
  1. 次元だけで 1 つを除け.(2) v0=0 と h→0 の場合を調べて,さらに 2 つを除け.(3) 残った式で,v0 が非常に大きいとき t≈h/v0 となることを一次近似で示せ.(4) 後の章で学ぶ h=v0t+12gt2 から (ア) を導き,確かめよ.

高さhの窓から石を初速度v₀で下向きに投げる. 高さhの窓から石を初速度v₀で下向きに投げる.
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考え方 次元,v0=0,h→0 の順に,間違った式を一つずつ落とす.

  1. 速度の次元は ms−1,g は ms−2 なので,(エ) は (ms−1)/(ms−2)2=s3m−1 で時間にならない.除く.

  2. v0=0 なら自由落下で t=2h/g のはず.(ウ) は gh/g=h/g で 2 倍ずれる.除く.h→0 なら,投げる前に着いているから t→0 のはず.(イ) は 2v0/g に近づき 0 にならない.除く.残るのは (ア).

  3. v02+2gh=v01+2gh/v02≈v0(1+ghv02)=v0+ghv0.よって (ア) は t≈1g⋅ghv0=hv0.重力の影響が小さい高速では等速で進むという結果になり,妥当である.

  4. 12gt2+v0t−h=0 の正の解を求めると t=−v0+v02+2ghg.(ア) と一致する.

答え:(ア).

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

質量 70kg の人が,手足を広げて(断面積 A=0.7m2,C=1)落ちる.空気の密度は 1.2kgm−3.(1) 終端速度 vt と,空気がないときの速さがそれに等しくなる落下距離 h∗ を求めよ.(2) 形と密度が同じで大きさだけ L 倍の物体では,vt と h∗ が L の何乗に比例するかを述べよ.(3) 体の大きさが人の 1/17 のネズミの vt を (2) で見積もれ.

落下する人に働く重力mgと空気抵抗Fを示す.右は進行方向から見た断面積Aの模式図. 落下する人に働く重力mgと空気抵抗Fを示す.右は進行方向から見た断面積Aの模式図.
解答を見る

考え方 終端速度は抵抗と重力がつり合う速さである.大きさ L 倍で,質量と断面積がそれぞれ L の何乗で変わるかを数える.

  1. vt=2mgCρA=2×70×9.81×1.2×0.7≈40ms−1.h∗ は 2gh∗=vt より h∗=vt22g≈1.6×10319.6≈83m.約 80m 落ちると抵抗が効く.

  2. 大きさが L 倍で質量は L3 倍,断面積は L2 倍.vt∝m/A∝L3/L2=L1/2.また h∗=vt2/(2g)∝L である.

  3. L=1/17 とおくと,vt は人の 1/17≈0.24 倍で 40×0.24≈10ms−1.終端速度が小さい小動物は,高所から落ちても助かりやすい.

答え:(1) 40ms−1,83m,(2) vt∝L1/2,h∗∝L,(3) 約 10ms−1.

ポイント 教える人へ

  • 問いの紙は,実際に落とさせてから進む.「物理では同時に落ちる」が嘘なのか,何を言っているのかを,自分の言葉で説明させる.

  • 「無視する」と「小さい」は別である.小さいかどうかを,比べる量との比で言えるように,r のような無次元の比を作る習慣をつけさせる.

  • つまずきは,手順の「式」で数値を先に入れることである.文字のまま解き,検算で次元と極端な場合を確かめるまでを 1 セットにする.

  • 確かめには,答えが出たあとに「0 にしたら,無限大にしたら」と問う.答えられれば,式の意味を理解している.

13第2章の章末問題

この節は第2章の総合演習です.単位と次元,見積もり,モデル化を組み合わせて使う問題を,★3 で並べました.まず自分で「図・原理・式・検算」の順に考え,詰まったときは解答の最初の数行だけを読んで,続きを自分で書いてみてください.必要な定数は問題文に与えてあります.より難しい問題は,次の節の「第2章の発展問題」にあります.

演習

演習 1

オリジナル ★★☆☆☆

銅の密度は 8.96×103kgm−3,モル質量は 63.5gmol−1 である.アボガドロ定数を 6.02×1023mol−1 として,銅の原子 1 個が占める体積を求め,原子を球とみなして原子の半径を見積もれ.球は隙間なく詰められないので,球が空間を占める割合 f を,単純立方格子の 0.52 から最密充填の 0.74 の範囲で変え,半径の範囲を示せ.

原子を球として表し,球の間に隙間が残る様子を示す. 原子を球として表し,球の間に隙間が残る様子を示す.
解答を見る

考え方 1 mol の体積を原子の個数で割ると,原子 1 個あたりの体積が出る.そのうち球が占める割合 f を半径に直す.

1 mol の質量は 0.0635kg なので,体積は 0.0635/(8.96×103)=7.09×10−6m3.原子 1 個あたりの体積は

V0=7.09×10−66.02×1023=1.18×10−29m3

である.半径 r の球が V0 の f 倍を占めるとして 43πr3=fV0,すなわち

r=(3fV04π)1/3

f=0.74 では r=(2.08×10−30)1/3≈1.28×10−10m.f=0.52 では r=(1.46×10−30)1/3≈1.14×10−10m である.

f が 40 % 違っても,半径は 1/3 乗でしか効かないので幅は約 10 % である.銅は最密充填の結晶なので,1.28×10−10m に近い.

答え:V0≈1.2×10−29m3,半径は 1.1×10−10 から 1.3×10−10m.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

岩の柱は,底面の圧力が岩の強度 S=1.5×108Nm−2 を超えるとつぶれる.岩石の密度は ρ=2.7×103kgm−3 である.山の高さの上限を見積もる.

地面に立つ高さhの一様な岩の柱(密度ρ).重力加速度gは鉛直下向き.柱の底面に,地面から上向きの圧力が一様に働く様子を5本の矢印で示す.底面積はA. 地面に立つ高さhの一様な岩の柱(密度ρ).重力加速度gは鉛直下向き.柱の底面に,地面から上向きの圧力が一様に働く様子を5本の矢印で示す.底面積はA.
  1. 高さ h の一様な柱の底面の圧力を ρ,g,h で表し,地球(g=9.8ms−2)での上限を求めよ.重力が 3.7ms−2 の火星では何倍か.

  2. 一様な球の表面の重力加速度は g=GM/R2(G=6.7×10−11m3kg−1s−2)である.岩の天体が自分の重さで球形になる目安を ρgR∼S として,その最小の半径を見積もれ.

解答を見る

考え方 (2) では g が R に比例することを使う.

  1. 底面積 A の柱の重さは ρAhg で,圧力は ρgh.これが S になる高さが上限で

hmax=Sρg=1.5×1082.7×103×9.8≈5.7×103m

エベレスト(約 8.8km)と桁が合う.hmax∝1/g なので火星では 2.6 倍の約 15km で,実際の最高峰(約 22km)と同程度である.

  1. 質量 M=43πR3ρ より g=43πGρR.ρgR∼S に入れて

R∼3S4πGρ2≈2.7×105m

約 270km より小さい天体は,強度で形を保てるので丸くなくてよい.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

大きさ L の物体の温度がそろう時間 τ は,L と熱拡散率 D(単位 m2s−1)だけで決まるとする.

卵の断面(楕円)の外側から,殻を通って中心の黄身へ向かって熱が伝わる様子を,8方向のオレンジ色の矢印で示す.卵の大きさ(短径)をLとして右側に寸法で示す. 卵の断面(楕円)の外側から,殻を通って中心の黄身へ向かって熱が伝わる様子を,8方向のオレンジ色の矢印で示す.卵の大きさ(短径)をLとして右側に寸法で示す.
  1. 次元解析で τ を L,D で表せ(無次元の係数を C とする).

  2. 短径 4.5cm の鶏卵は固ゆでに 10 分かかる.短径 14cm のダチョウの卵では何分か.

  3. 卵の D を水と同じ 1.4×10−7m2s−1,L を鶏卵の半径として C を求め,その C で地球(半径 6.4×106m,岩の D=1.0×10−6m2s−1)が伝導だけで冷える時間を年で見積もり,地球の年齢 4.5×109 年と比べよ(1 年 =3.2×107s).

解答を見る

考え方 D の次元は L2T−1.

  1. τ=CLaDb とおくと,T: −b=1,L: a+2b=0 から b=−1,a=2.よって τ=CL2/D.

  2. τ∝L2 より 10×(14/4.5)2≈97 分である.

  3. L=2.25×10−2m で C=Dτ/L2=1.4×10−7×600/(2.25×10−2)2≈0.17.地球では L2/D≈1.3×1012 年で,C をかけて約 2×1011 年.地球の年齢の約 50 倍で,伝導だけなら地球はほとんど冷えない.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

質量 M の天体を縮めていくと,ある半径 R より小さくなったとき,光でさえ表面から離れられなくなる(ブラックホール).この半径が M,万有引力定数 G,光速 c だけで決まるとして,次元解析で R の形を求めよ.太陽(2.0×1030kg)と地球(6.0×1024kg)について,無次元の係数を 1 として R を見積もれ.ただし G=6.7×10−11m3kg−1s−2,c=3.0×108ms−1 とする.

質量Mの球形天体の中心から表面までの半径Rを示す. 質量Mの球形天体の中心から表面までの半径Rを示す.
解答を見る

考え方 R=MaGbcd とおき,M,L,T の指数を比べる.

G の次元は L3M−1T−2,c は LT−1 である.両辺の次元をそろえると

M: a−b=0,L: 3b+d=1,T: −2b−d=0

第 1 式から a=b,第 3 式から d=−2b.第 2 式に入れて 3b−2b=1,すなわち b=1,a=1,d=−2.したがって

R∼GMc2

である.次元解析では係数は決まらない.

太陽では GM=6.7×10−11×2.0×1030=1.3×1020,c2=9.0×1016 なので R≈1.5×103m.地球では GM=4.0×1014 で R≈4.5×10−3m,約 4.5mm である.一般相対性理論で求めた正しい半径は係数 2 が付き,太陽で約 3km,地球で約 9mm となるが,桁は次元解析で当たっている.

答え:R∼GM/c2.太陽で約 1.5km,地球で約 4.5mm.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

気体中の音の速さ v は,気体の圧力 p と密度 ρ だけで決まるとする.

気体を表す粒の箱の中に,粒が密な部分(高圧)と疎な部分(低圧)が等間隔で交互に並ぶ.箱の下に圧力pの変化を波形で示し,隣り合う高圧部の間隔を波長として示す.音は右向きに進む. 気体を表す粒の箱の中に,粒が密な部分(高圧)と疎な部分(低圧)が等間隔で交互に並ぶ.箱の下に圧力pの変化を波形で示し,隣り合う高圧部の間隔を波長として示す.音は右向きに進む.
  1. v=Cpaρb(C は無次元の定数)として a,b を求めよ.

  2. 理想気体では p/ρ=RT/μ(μ はモル質量,R=8.31Jmol−1K−1)である.20∘C の空気(29gmol−1)とヘリウム(4.0gmol−1)の音速を C=1 として求めよ.声の共鳴の振動数は音速に比例する.C が同じとして,ヘリウムを吸った声は何倍の振動数になるか.

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考え方 p の次元は ML−1T−2,ρ は ML−3.指数を別々にそろえる.

  1. M: a+b=0,L: −a−3b=1,T: −2a=−1 より a=12,b=−12.よって v=Cp/ρ.

  2. v=CRT/μ.T=293K で,空気は約 2.9×102(実測 3.4×102),ヘリウムは 8.31×293/0.0040≈7.8×102ms−1.比は 29/4.0≈2.7 なので,声の振動数は約 2.7 倍になる.

実際には C は気体の種類で少し違う(C は熱の章で学ぶ比熱比の平方根で,空気は 1.4≈1.18,ヘリウムは 5/3≈1.29).C の違いまで入れると,比は 2.7×1.29/1.18≈2.9 倍になる.空気の音速も 1.18×2.9×102≈3.4×102ms−1 となり,実測と合う.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

脚を長さ L の棒とみなし,股関節のまわりを振り子のように振って歩くと考える.歩幅は αL(α は無次元の定数),速さは歩幅と 1 秒あたりの歩数の積である.

股関節を支点に,長さLの棒とみなした2本の脚が前後に開いて地面に接している.足先の間隔が歩幅αLで,鉛直下向きに重力加速度gがある.人は右へ進む. 股関節を支点に,長さLの棒とみなした2本の脚が前後に開いて地面に接している.足先の間隔が歩幅αLで,鉛直下向きに重力加速度gがある.人は右へ進む.
  1. 脚が振れる周期 T を L,g,脚の質量 m から次元解析で決め,速さが v=cgL(c は無次元)と書けることを示せ.

  2. 脚の長さ 0.90m の大人が 1.4ms−1 で歩く.脚の長さ 0.50m の子どもの速さと,1 秒あたりの歩数の大人に対する比を見積もれ.

  3. 歩行から走行に移る速さは,経験的に v2/(gL)≈0.5 である.大人が月面(g=1.6ms−2)で移る速さを求めよ.

解答を見る

考え方 質量だけでは時間を作れない.L と g から作った時間を,歩数に使う.

  1. T=Lpgqmr とおくと,M: r=0,T: −2q=1,L: p+q=0 より q=−12,p=12.よって T∝L/g.歩数は 1/T∝g/L なので v∝Lg/L=gL である.

  2. c=1.4/9.8×0.90≈0.47.子どもは 0.479.8×0.50≈1.0ms−1.歩数は g/L に比例し,大人の 0.90/0.50≈1.3 倍である.

  3. v=0.5×1.6×0.90≈0.85ms−1(地上は 2.1ms−1).月面では 1.4ms−1 で歩けず,跳ねるような走り方になる.

14第2章の発展問題

この節は第2章の発展問題です.次元解析で現象の形を作る問題と,桁を押さえて量を見積もる問題を,★4 と★5 で並べました.前の節の「第2章の章末問題」を解いてから挑戦するとよいでしょう.まず自分で「図・原理・式・検算」の順に考え,詰まったときは解答の最初の数行だけを読んで,続きを自分で書いてみてください.必要な定数は問題文に与えてあります.

演習

演習 1

オリジナル ★★★★☆

光速 c=3.0×108ms−1,万有引力定数 G=6.7×10−11m3kg−1s−2,換算プランク定数(ディラック定数)ℏ=h/(2π)=1.05×10−34Js から,長さの次元をもつ量(プランク長さ)を作れ.また,それを c で割った時間(プランク時間)を求め,陽子の半径(8×10−16m)との比も答えよ.

解答を見る

考え方 ℓ=Gaℏbcd とおく.ℏ は(エネルギー)×(時間)なので,次元は ML2T−1 である.

M: −a+b=0,L: 3a+2b+d=1,T: −2a−b−d=0

第 1 式から b=a.第 3 式から d=−3a.第 2 式に入れて 5a−3a=1,よって a=b=12,d=−32.したがって

ℓP=Gℏc3

である.数値は Gℏ=6.7×10−11×1.05×10−34=7.0×10−45,c3=2.7×1025 より Gℏ/c3=2.6×10−70,平方根をとって

ℓP≈1.6×10−35m

である.プランク時間は tP=ℓP/c=1.6×10−35/(3.0×108)≈5.4×10−44s.陽子の半径との比は 1.6×10−35/(8×10−16)≈2×10−20 で,原子核の大きさに比べて 20 桁も小さい.量子力学,相対性理論,重力が同時に効く長さと考えられている.

答え:ℓP=Gℏ/c3≈1.6×10−35m,tP≈5.4×10−44s,陽子半径の約 2×10−20 倍.

演習 2

オリジナル ★★★★☆

球形の液滴を少しゆがめて離すと,表面張力で振動する.表面張力 σ(単位 Nm−1)が復元の原因だとし,周期 T が半径 R,密度 ρ,σ だけで決まるとして次元解析で T の形を求めよ.半径 1mm の水滴(σ=0.072Nm−1,ρ=1.0×103kgm−3)の周期を見積もり,半径を 2 倍にしたら周期が何倍になるかを答えよ.また,重力を無視してよい理由を,圧力の大きさを比べて述べよ(g=9.8ms−2).

半径Rの液滴と,少しゆがめた液滴を並べる.密度ρと表面張力σを示す. 半径Rの液滴と,少しゆがめた液滴を並べる.密度ρと表面張力σを示す.
解答を見る

考え方 T=ρaσbRc.σ の次元は Nm−1=MT−2 であることに注意する.

ρ は ML−3 なので

M: a+b=0,L: −3a+c=0,T: −2b=1

第 3 式から b=−12,第 1 式から a=12,第 2 式から c=32.よって

T∼ρR3σ

である.水滴では ρR3/σ=103×10−9/0.072=1.4×10−5s2 で,T∼3.7×10−3s.数 ms の速い振動である.詳しい理論の係数は約 2.2 で,8ms ほどになる.

T∝R3/2 なので,半径が 2 倍なら 23/2≈2.8 倍である.

重力の影響は,表面張力による圧力 σ/R(=72Pa)と,重力による圧力変化 ρgR(=9.8Pa)の比で決まる.比は ρgR2/σ で,これが 1 より十分小さければ重力は無視できる.R=1mm では約 0.14 である.境目は R∼σ/(ρg)≈2.7mm である.

答え:T∼ρR3/σ,約 4ms(係数を含めて約 8ms),23/2≈2.8 倍.重力による圧力変化は表面張力による圧力の約 0.14 倍と小さいので,重力は無視してよい.

演習 3

オリジナル ★★★★☆

ある大きな爆発を高速度カメラで撮影すると,爆発から t=0.020s 後の火球が半径 R=120m になっていた.火球の大きさは,放出エネルギー E,周りの空気の密度 ρ=1.2kgm−3,時間 t だけで決まるとする.(1) 次元解析で R の形を求め,R∝(Et2/ρ)1/5 と次元が合うことを確かめよ.(2) 無次元の係数を 1 として E を見積もれ.TNT 換算(1t で 4.2×109J)も答えよ.(3) 係数が 1 でなく 1.5 だったとき,E は何倍変わるか.(4) この時刻の火球の膨張の速さを求めよ.必要なら,次の事実を使ってよい:R=Atn(A,n は定数)のとき,短い時間 Δt の間の R の増加は ΔR≈nRΔtt である(一次近似 (1+x)n≈1+nx から出る.第3章で学ぶ微分の公式 (tn)′=ntn−1 と同じ内容).

爆発後の時刻tにおける半径Rの火球と,周囲の空気を示す. 爆発後の時刻tにおける半径Rの火球と,周囲の空気を示す.
解答を見る

考え方 R=Eaρbtc とおく.E の次元は ML2T−2 である.

  1. 次元を比べて

M: a+b=0,L: 2a−3b=1,T: −2a+c=0

b=−a を第 2 式に入れて 5a=1,a=15,b=−15,c=25.よって

R∼(Et2ρ)1/5

である.確認すると [Et2/ρ]=(ML2T−2)(T2)/(ML−3)=L5 で,5 乗根が長さになる.

  1. 両辺を 5 乗して E=ρR5/t2.数値を入れて

E=1.2×(120)5(0.020)2=1.2×2.5×10104.0×10−4≈7.5×1013J

で,1014J の桁である.TNT に直すと 7.5×1013/(4.2×109)≈1.8×104t,約 18 キロトンに相当する.

  1. 係数 C があれば R=C(Et2/ρ)1/5 で,E=ρR5/(C5t2) となる.C=1.5 なら E は 1.5−5≈0.13 倍,約 1/8 になる.測った R には 5 乗で効くため,係数のわずかなずれが E の大きな不確かさになる.Taylor は流体の方程式を解いて係数を精密に求めた.

  2. R=At2/5 と書ける.時刻が t から t+Δt に進むと,R は (1+Δtt)2/5≈1+25Δtt 倍になる(一次近似).よって ΔR≈25RΔtt で,膨張の速さは

ΔRΔt≈25Rt=0.4×1200.020=2.4×103ms−1

である(第3章の微分を使えば dRdt=25Rt と同じ結果が出る).音速(約 340ms−1)の約 7 倍で,衝撃波として合う.

答え:(1) 次元は合う,(2) E≈7.5×1013J(約 18 キロトン),(3) 約 1/8 倍,(4) 約 2.4×103ms−1.

演習 4

オリジナル ★★★★☆

自動車が時速 100km で走るときの燃費を見積もる.(1) 空気抵抗 F が,空気の密度 ρ,速さ v,車の代表の長さ ℓ だけで決まるとして,次元解析で F の形を求めよ.(2) 断面積 A=2.2m2,係数 C=0.3 として F=12CρAv2 を計算し,転がり抵抗 0.010mg(m=1.3×103kg)を加えて,1 km 走るのに必要なエネルギーを求めよ.(3) ガソリン 1L の熱量を 3.4×107J,エンジンが仕事に変える割合を 25 % として,燃費(km/L)を求めよ.(4) 時速 50km では,空気抵抗がどう変わるか.

自動車の進行方向,空気抵抗F,代表長さℓと断面積Aを示す. 自動車の進行方向,空気抵抗F,代表長さℓと断面積Aを示す.
解答を見る
  1. F=ρavbℓc とおくと,F の次元は MLT−2 なので

M: a=1,L: −3a+b+c=1,T: −b=−2

より a=1,b=2,c=2.よって F∼ρv2ℓ2.ℓ2 を断面積 A に置き換えたものが問題文の式の形である.

  1. 時速 100km は 27.8ms−1 で,空気抵抗は

F=12×0.3×1.2×2.2×(27.8)2≈3.1×102N

転がり抵抗は 0.010×1.3×103×9.8≈1.3×102N.合計は約 4.3×102N で,1 km 走る仕事は 4.3×102×103=4.3×105J である.

  1. ガソリン 1L から得られる仕事は 3.4×107×0.25=8.5×106J.よって 1km あたり 4.3×105/(8.5×106)≈0.051L,燃費は約 20km/L である.実際の乗用車の高速走行の燃費と同じ桁で妥当である.

  2. 空気抵抗は v2 に比例するので,速さが半分なら 1/4 の約 76N になる.転がり抵抗は速さによらないので合計は約 2.0×102N で,エンジンの効率が同じなら燃費は約 2 倍の 40km/L 余りになる.実際は低負荷で効率が下がり,ここまでは伸びない.

答え:(1) F∼ρv2ℓ2,(2) 約 4.3×105Jkm−1,(3) 約 20km/L,(4) 空気抵抗は 1/4.

演習 5

オリジナル ★★★★★

水面の波では,波長が長いと重力が,短いと表面張力が復元力として効く.この境目の波長を求めたい.水は十分深いとし,水の密度 ρ=1.0×103kgm−3,表面張力 σ=0.072Nm−1,g=9.8ms−2 とする.(1) 重力が復元力の波の速さ v が g と波長 λ だけで決まるとして,次元解析で v の形を求めよ.(2) 表面張力が復元力の波の速さが σ,ρ,λ だけで決まるとして,同様に v の形を求めよ.(3) 両者の速さが等しくなる波長を見積もれ.(4) 詳しい理論では,波数 k=2π/λ を用いて v2=gk+σkρ となる.相加平均と相乗平均の関係から,v の最小値とそのときの波長を求めよ.(5) 水面を一定の速さで動く細い棒が,波を出し続けるために必要な速さの条件を述べよ.

水面の山の間隔λと波の進行方向を示す.水は十分深い. 水面の山の間隔λと波の進行方向を示す.水は十分深い.
解答を見る
  1. v=gaλb.L:a+b=1,T:−2a=−1 より a=b=12.v∼gλ.

  2. v=σaρbλc.M:a+b=0,L:−3b+c=1,T:−2a=−1 より a=12,b=−12,c=−12.v∼σ/(ρλ).

  3. 等しいとおくと gλ=σ/(ρλ),λ∼σ/(ρg)=7.3×10−6≈2.7×10−3m.この長さを毛管長という.係数を含めた厳密な境目は (4) で求める.

  4. g/k と σk/ρ はどちらも正なので,相加平均と相乗平均(幾何平均)の関係より

v2=gk+σkρ ≥ 2gk⋅σkρ=2gσρ

等号は g/k=σk/ρ,すなわち k=ρg/σ≈3.7×102m−1 のときで,波長は λ=2π/k≈1.7×10−2m,約 1.7cm である.この波長より長い波は重力波,短い波は毛管波として振る舞う.最小の速さは

vmin=(4gσρ)1/4=(4×9.8×0.0721.0×103)1/4≈0.23ms−1

である.(3) の見積もりに 2π を掛けた値が (4) の波長と一致しており,次元解析が桁と形を正しく与えている.

  1. 棒が速さ V で動くとき,棒に静止して見える定常な波ができるには,波の位相速度が V に等しい必要がある.どの波長でも v≥vmin なので,V<0.23ms−1 では定常な波は出ず,遠くへ波が伝わらない.V>0.23ms−1 では波が出て,棒の前方に毛管波,後方に重力波ができる.

答え:(1) gλ,(2) σ/(ρλ),(3) 約 3mm,(4) 0.23ms−1,1.7cm,(5) V>0.23ms−1.

15第2章のまとめ

第2章「物理の見方」では,物理を始める前に身につけておく道具を学びました.原子の見方,単位と次元,見積もり,モデルと問題の解き方の4つです.ここでは,定義・法則・手順を一覧にし,各節の問いに短く答えます.

定義

定義 第2章の用語

  • 原子・分子:元素ごとの化学的な性質を担う基本単位の粒が原子(内部構造はあるが,ここでは一つの粒として扱う).いくつかの原子が結びついたものが分子.

  • 熱運動:原子や分子の絶え間ない不規則な運動.温度が高いほど激しい.

  • 物質量(mol):粒子 6.02214076×1023 個のまとまりを 1mol とする量.1 mol あたりの個数 NA=6.02214076×1023mol−1≈6.02×1023mol−1 をアボガドロ定数という.

  • モル質量:粒子 1mol の質量.原子量・分子量に gmol−1 をつけた値.

  • 組立単位:基本単位(m,kg,s など)の積と商で作る単位.1N=1kgms−2,1J=1kgm2s−2.

  • 次元:単位を取り去った量の種類.[x]=LaMbTc と書き,指数がすべて 0 の量を無次元量という.

  • フェルミ問題:知っている数字だけで量の桁を求める問題.

  • モデル:目的に関係する性質だけを取り出し,ほかを無視した理想的な対象.質点と剛体が代表.

法則・公式

公式 質量から個数へ

質量 m,モル質量 M の物質の粒子数 N,および密度 ρ の物質で粒子 1 個が占める体積 v は

N=mMNA,v=MρNA

法則 次元のきまり

  • 足し算・引き算・等号は,同じ次元の量どうしでしか成り立たない.

  • 掛け算・割り算では,次元の指数が足し引きされる.

  • 指数関数・対数・三角関数の中身は無次元.

基本の次元

量

次元

速さ

LT−1

加速度(g も同じ)

LT−2

力

MLT−2

エネルギー

ML2T−2

圧力

ML−1T−2

公式 数学の道具

  • 科学的記数法:a×10n(1≤a<10).掛け算では指数を足し,割り算では引く.

  • 有効数字:掛け算・割り算は桁数の最も少ないものに,足し算・引き算は最後の桁の位置が最も粗いものに合わせる.

  • 幾何平均:下限 a,上限 b の中心値は ab.2≈100.3,3≈100.5,5≈100.7.

  • 一次近似:指数 n を固定して 1≫|x| のとき (1+x)n≈1+nx.

手順

ポイント 次元解析の手順

  1. 求めたい量が関係しそうな量を挙げる.

  2. 求めたい量を Cx1ax2b⋯ とおく(C は無次元の定数).

  3. L,M,T の指数を別々に比べ,連立方程式を解く.係数 C は決まらない.

ポイント 見積もりの三つの作法

分解する,桁で押さえる,上下の限界をとる.結果が結論を変えないなら,細かい数字は要らない.

ポイント 図・原理・式・検算

  1. 図:状況を図にし,既知と未知に文字を付け,座標軸と向きを決める.

  2. 原理:使う法則・関係を一言で言う.

  3. 式:文字のまま式を立て,文字のまま解く.数値は最後に入れる.

  4. 検算:次元,極端な場合,数値の桁を確かめる.

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原子の見方.角砂糖を溶かすと水面はどうなるか.砂糖は消えたのではなく,約 0.7nm の分子がばらばらに散らばって見えなくなっただけです.液体の中では分子が接して詰まっているので,結晶の体積を使う概算では,水面は約 0.7mm 上がります.

単位と次元解析.振り子の周期は何で決まるか.質量は次元から消せないので周期に入らず,T=Cl/g の形になります.振れの角度をそろえれば,糸が4倍で周期は2倍です.係数 C は次元解析では決まりません(微小な振れでは 2π).

見積もり.教室の空気は人より重いか.9×7×3m3 の教室なら空気の質量は約 2×102kg で,人ひとり(60kg)の数倍です.感じないことと,質量がないことは別です.

モデルと問題の解き方.広げた紙と丸めた紙は同時に落ちるか.空気がなければ同じ加速度で落ちますが,現実では,空気がないときの速さで評価した抵抗と重力の比 r=CρAh/m で決まります.広げた紙は r≈30 で空気がないモデルが成り立たず,終端速度に近づいて漂い,丸めた紙は r≈0.3 で抵抗が小さめです.無視してよいかは,感覚ではなく比で判断します.

第3章へ

第3章では,ここで身につけた次元と検算の道具を使いながら,物体の運動を位置・速度・加速度で記述していきます.