問いしるべ
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問いから始める物理

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問いから始める物理

問いから原理へ,基本からオリンピックまで

著者:柚木芹香

身近な問いから始めて物理の原理を組み立て直す参考書.微積分は必要になった所で導入し,各節の演習は基本から物理オリンピックの水準まで段階をつけて置く.独学でも,教わりながらでも読めるように,各節の終わりに「教える人へ」の囲みがある.

この章の目次 · 30節
  1. 慣性の法則
  2. 慣性の法則の例題
  3. 慣性の法則の演習
  4. 運動方程式
  5. 運動方程式の例題
  6. 運動方程式の演習
  7. 作用と反作用
  8. 作用と反作用の例題
  9. 作用と反作用の演習
  10. 力の種類
  11. 斜面での力の分解と例題
  12. 力の種類の演習
  13. 垂直抗力と張力
  14. 束縛条件とアトウッドの機械
  15. 垂直抗力と張力の演習
  16. 摩擦
  17. 摩擦と三角関数の合成
  18. 摩擦の演習
  19. 空気抵抗と終端速度
  20. 空気抵抗と微分方程式
  21. 空気抵抗の演習
  22. 力のつり合い
  23. 力の三角形と例題
  24. 力のつり合いの演習
  25. 圧力と浮力
  26. 圧力の微分方程式と浮力の例題
  27. 圧力と浮力の演習
  28. 第4章の章末問題
  29. 第4章の発展問題
  30. 第4章のまとめ

第4章  力と運動の法則

01慣性の法則

問い

氷の張った広い池の上で,パックを手で軽く押し出すことを考えます.手を離れたパックは,しばらく滑って止まります.では,氷がもっとなめらかになり,摩擦がまったく無くなり,空気抵抗も無視できるとしたら,パックはどこまで行くでしょうか.

もうひとつ.私たちは「物を動かし続けるには,力を加え続けなければならない」と感じています.台車は押すのをやめると止まりますし,自転車もこぐのをやめれば遅くなります.この感覚は,物理の目で見ると,どこが違っているのでしょうか.先を読む前に,自分の考えを一文で書いてみてください.

考えてみる

台車を押すのをやめると止まるのは,本当に「力が無くなったから」でしょうか.床の上の台車は,床とのこすれ合いによって絶えず後ろ向きに引き止められています.押すのをやめれば,この引き止める力だけが残って,台車は減速します.もし床をワックスで磨けば,台車は前よりも遠くまで進みます.氷の上ならもっと遠くです.

そこで,こう考えてみます.床がなめらかになるにつれて,止まるまでの距離はどんどん伸びていきます.では,引き止めるものが完全に無くなった極限では,どうなるでしょう.止まる理由が無いのですから,止まりません.同じ速さのまま,まっすぐ進み続けるはずです.これが最初の問いへの答えの方向です.摩擦も空気抵抗も無く,水平方向の合力が0なら,パックはどこまでも同じ速さで進みます.

日常の感覚が「動き続けるには力が要る」と告げるのは,私たちの身の回りには,いつも摩擦や空気の抵抗があるからです.押している力は,運動を「保つ」ために使われているのではなく,運動を「止めようとする力」を打ち消すために使われています.この見方の転換が,力学の出発点です.

アリストテレスの見方とガリレオの思考実験

古代ギリシャのアリストテレスは,荷車などを動かす日常の観察から,次のように考えたと紹介されます.ここでは導入のために単純化した形で示します(実際のアリストテレスは,自然な運動と強制された運動を区別し,媒質の抵抗も論じています).

定義 アリストテレスの見方(単純化したもの)

荷車を動かす場面のように,物体の速度は,それに働く力に比例する.力を加えなければ,物体は止まる.

台車や荷車の観察とよく合っているので,この考えは長い間信じられました.重い物ほど速く落ちるという印象も,この考えと結びついています.

これに疑問を投げかけたのが,17世紀のガリレオです.彼は,実際には(当時の技術では)作れない理想的な状況を頭の中で組み立てることで,法則を見抜きました.次の思考実験です.

[図:斜面の傾きを小さくしていく思考実験]

なめらかな谷の左の斜面の高さ h から球を静かに放す図.右の斜面を急・ゆるい・もっとゆるい・水平の4通りに重ねて描き,傾きがあれば球は同じ高さ h まで上り,傾きがゆるいほどその位置は右へ遠ざかる.水平にすると高さ h に届かず,球は同じ速さで進み続ける.傾きを選ぶと,その斜面での球の動きを再生できる.

なめらかな斜面を谷の形に向かい合わせて置き,左の斜面の高さ h の所から球を静かに放します.球は転がり下り,谷底を通って右の斜面を上り,ほぼ同じ高さ h まで達して止まります.右の斜面の傾きを小さくしていくと,球は同じ高さ h に達するまでに,より長い距離を進まなければなりません.傾きをゼロにして水平にしてしまえば,球は元の高さに達することができず,永遠に進み続けることになります.

この推論には,ふたつの大切な点があります.ひとつは,摩擦を取り除いた極限を考えていること.もうひとつは,「元の高さまで上る」という,実際に確かめられる事実から出発していることです.実験できない極限も,確かめられる事実の延長として考えると,筋の通った結論になります.

慣性の法則

ガリレオの洞察を,ニュートンは力学の第1法則としてまとめました.

法則 ニュートンの第1法則(慣性の法則)

物体に力が働かない(働く力の合力が 0 である)とき,物体は静止し続けるか,等速直線運動を続ける.

式で書けば,合力が F=0 のとき速度 v が一定で,加速度が a=0 ということです.

ここで注意したいのは,「静止」と「等速直線運動」が同じ扱いになっていることです.静止は速度が v=0 という等速直線運動の特別な場合にすぎません.どちらの状態も,それを続けるのに力は要りません.力が必要になるのは,速度を「変える」とき,すなわち加速度を生じさせるときです.

ポイント 力と速度の関係

  • アリストテレス(単純化した見方):荷車などでは,力は速度に比例する.

  • ニュートン:力は速度の変化(加速度)に関係する.

  • 日常の運動で「押し続けて等速」に見えるのは,押す力と抵抗力がつり合い,合力が 0 になっているから.

物体が今の速度を保とうとするこの性質を,慣性といいます.慣性が大きいか小さいかを表す量が質量ですが,その話は,この章の「運動方程式」の節で扱います.

慣性系

慣性の法則は,どんな立場から見ても成り立つわけではありません.急発進する電車の中で,床に置いた滑らかなボールを見てください.電車の外の地面に立つ人にはボールはその場に残っているように見えますが,電車の中の人には,ボールが突然後ろ向きに転がり始めるように見えます.ボールには水平方向の力が働いていないのに,電車の中の人から見ると加速しているのです.

つまり,慣性の法則が成り立つかどうかは,「どの立場(基準系)から見るか」に依存します.そこで,法則が成り立つ基準系に名前を付けます.

定義 慣性系

慣性の法則が成り立つ基準系.すなわち,他の物体から力を受ける理由のない物体が,等速直線運動(または静止)を続けるように見える基準系.

「力を受けていない」ことは,どのように判断するのでしょうか.力は他の物体との相互作用から生じます.周りに触れている物体も,近くに引力や斥力を及ぼすものも見当たらない物体を「力を受けていない物体」と考えるのです.そうした物体が等速直線運動をするように見える基準系が,慣性系です.

慣性系がひとつ見つかれば,それに対して等速直線運動をしている基準系は,みな慣性系になります.実際,慣性系に対して速度 V(一定)で動く基準系から見た物体の速度は,v′=v−V です.V が一定なら,v が一定であることと v′ が一定であることは同じです.加速度も,a′=a となって変わりません.だから,等速で走る静かな電車の中では,ボールを落としたりジャンプしたりしても,止まっている部屋の中と同じように運動します.

逆に,慣性系に対して加速している基準系は慣性系ではありません.先ほどの急発進する電車の中がそうです.

左右に並べた2つの側面図.左は電車の中の人から見たボールの軌跡で,ボールは真上に上がり,同じ手元に真下へ戻る直線.右は地上の人から見た同じボールの軌跡で,電車の速さVで前へ進みながら上がり下りするので放物線になる.見る立場が違っても,等速で走る電車の中は慣性系である. 左右に並べた2つの側面図.左は電車の中の人から見たボールの軌跡で,ボールは真上に上がり,同じ手元に真下へ戻る直線.右は地上の人から見た同じボールの軌跡で,電車の速さVで前へ進みながら上がり下りするので放物線になる.見る立場が違っても,等速で走る電車の中は慣性系である.

では,私たちが立っている地面は慣性系でしょうか.地球は自転し,太陽のまわりを公転していますから,厳密には加速度運動をしています.ただし,その加速度は小さく,大きさを見積もると,自転による赤道での加速度は 0.034ms−2 ほど,公転による加速度は 0.006ms−2 ほどです.重力加速度 g=9.8ms−2 と比べれば,千分の数個にすぎません.そのため,日常の実験や入試に出てくる運動では,地面を慣性系とみなして構いません.この本でも,特に断らない限り,地面を慣性系として扱います.

ポイント ここまでのまとめ

  • 問いの答え:摩擦も空気抵抗も無く水平方向の合力が0なら,パックは同じ速さでどこまでもまっすぐ進む.動き続けるために力は要らない.

  • 力が必要になるのは,速度を「変える」とき,すなわち加速度を生じさせるときである.

  • 第1法則:合力が 0 なら,物体は静止し続けるか,等速直線運動を続ける.静止は等速直線運動の特別な場合にすぎない.

  • 物体が今の速度を保とうとする性質が慣性である.質量との関係は「運動方程式」の節で扱う.

  • 慣性の法則が成り立つ基準系が慣性系である.慣性系に対して等速直線運動をする基準系も慣性系で,加速している基準系は慣性系ではない.この本では地面を慣性系とみなす.

02慣性の法則の例題

慣性系の考え方を使って,電車の中で投げ上げたボールの運動を調べます.

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

水平でまっすぐな線路を,一定の速さ V=20ms−1 で走る電車がある.電車の中で,ある人が手元からボールを真上に初速 u=4.9ms−1 で投げ上げた.重力加速度を g=9.8ms−2 とし,空気抵抗は無視する.

  1. 電車の中の人から見て,ボールは投げた人のどこに落ちてくるか.

  2. 投げてから手元に戻るまでの時間と,その間に地上の人から見てボールが進む水平距離を求めよ.

一定速度Vで走る電車内で,ボールを真上に速さuで投げる初期状態.求める地上からの軌跡は描かない. 一定速度Vで走る電車内で,ボールを真上に速さuで投げる初期状態.求める地上からの軌跡は描かない.
解答を見る

考え方 地面を慣性系とし,ボールが水平方向に力を受けるかどうかに注目する.空気抵抗を無視するので,水平方向の力は 0 である.

  1. 水平方向には力が働かないので,ボールの水平速度は投げた瞬間の値 V のまま変わらない.この値は電車の速度と同じなので,電車の中の人から見ると,ボールは水平には動かない.したがって,ボールは投げた人の手元の真上を往復し,手元に落ちてくる.

  2. 鉛直方向は重力だけを受ける運動で,上向きを正とすると,高さは y=ut−12gt2 である.y=0 となる時刻から t=2u/g を得る.

t=2×4.99.8=1.0s

この間,地上の人から見ると,ボールは水平に速さ V で進むので,水平距離は

Vt=20×1.0=20m

である.地上の人から見たボールの軌跡は放物線になる.

ポイント ここまでのまとめ

  • 地面から見て等速直線運動をする電車は慣性系である.その中では,ボールを投げ上げても止まっている部屋の中と同じように運動する.

  • 例題のように,水平方向に力が働かなければ水平速度は変わらない.力の有無を,慣性系の立場から数えるのが基本である.

  • 同じボールの運動でも,電車の中からは鉛直な往復,地上からは放物線に見える.どの基準系から見るかを先に言うと,運動の描き方が決まる.

03慣性の法則の演習

慣性の法則の考え方と,慣性系の見分け方を確かめる演習です.速度が 0 であることと合力が 0 であることは別のことだ,という点に気をつけてください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

次の (1)〜(4) の文は,アリストテレスの見方(力は速度に比例する)とニュートンの見方(力は速度の変化に関係する)のどちらに沿った考えか,答えよ.

荷車,宇宙探査機,走る車,落とす二球を並べる.各主張がどの見方に沿うかは図に示さない. 荷車,宇宙探査機,走る車,落とす二球を並べる.各主張がどの見方に沿うかは図に示さない.
  1. 荷車は押すのをやめると止まるのだから,荷車を動かし続けるには,押し続ける必要がある.

  2. エンジンを止めた宇宙探査機は,周りに何も無い空間では,同じ速さで進み続ける.

  3. 一定の速さで直線の道を走る自動車では,エンジンが生む前向きの力と,空気抵抗などの後ろ向きの力が打ち消し合っている.

  4. 重い物体は大きな力で引かれているのだから,軽い物体よりも速く落ちる.

解答を見る
  1. アリストテレスの見方.荷車が止まる原因は,押す力が無くなったことではなく,床の摩擦などの後ろ向きの力である.この文は,その力を見落としている.

  2. ニュートンの見方.力が働かなければ速度は変わらない.

  3. ニュートンの見方.等速で進むのは合力が 0 だからだと考えている.

  4. アリストテレスの見方.力の大きさをそのまま速さに結びつけている.実際には,重力が大きい物体は慣性(質量)も大きく,加速度は変わらない.この点は次の「運動方程式」の節で学ぶ.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

次の (a)〜(e) のうち,物体に働く力の合力が 0 であるものをすべて選べ.ただし,地面を慣性系とする.

等速直進するパックと車,円軌道の衛星,最高点のボール,机上の本を示す.力の矢印は描かない. 等速直進するパックと車,円軌道の衛星,最高点のボール,机上の本を示す.力の矢印は描かない.

(a) 水平でなめらかな氷の上を,一定の速さでまっすぐ滑るパック(摩擦は無視する)
(b) 直線の道路を,一定の速さで走る自動車
(c) 円軌道を,一定の速さで回る人工衛星
(d) 真上に投げたボールの,最高点に達した瞬間
(e) 机の上に静止している本

解答を見る

慣性の法則より,合力が 0 であることは,物体が静止しているか等速直線運動をしている(a=0)ことと同じである.したがって (a),(b),(e) である.

(c) は,速さが一定でも向きが変わり続けるので速度が一定ではなく,加速度がある.よって合力は 0 ではない.(d) は,その瞬間の速度こそ 0 だが,加速度は重力加速度 g のままで,合力は重力 mg である.「速度が 0」と「合力が 0」は別のことである.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

次の基準系のうち,慣性系とみなせるものをすべて選び,選ばなかったものについては理由を述べよ.ただし,地面は慣性系とする.

直進する電車と船,発進する電車,回転するカップ,カーブの電車を並べる.慣性系の判定は示さない. 直進する電車と船,発進する電車,回転するカップ,カーブの電車を並べる.慣性系の判定は示さない.

(a) 一定の速さで直線の線路を走る電車
(b) 発進して加速している最中の電車
(c) 一定の速さで直進する船の甲板
(d) 一定の速さで回っている遊園地のコーヒーカップ
(e) 急なカーブを曲がっている電車

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慣性系に対して等速直線運動をする基準系だけが慣性系である.したがって (a) と (c) が慣性系である.

(b) は加速しているので慣性系ではない.(d) は,円運動なので速さが一定でも向きが変わり続けており,加速度運動である.よって慣性系ではない.(e) も同じ理由で,カーブを曲がる電車は加速度運動をしており,慣性系ではない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

水平な台の上に,滑らかな小球が静止して置かれている.台とともに動く観測者が見ていると,小球は時刻 0 に静止していたが,その後,右向きに一定の加速度 a0 で動き始めた.小球と台の間の摩擦は無く,他の水平方向の力も働いていないとする.この台は,慣性系に対してどのような運動をしているか.

台とともに動く観測者から見た,小球の右向き加速度a₀を示す.台自体の運動の答えは描かない. 台とともに動く観測者から見た,小球の右向き加速度a₀を示す.台自体の運動の答えは描かない.
解答を見る

慣性系(地面)から見ると,小球には水平方向の力が働かないので,小球は静止したまま(または等速直線運動を続ける)である.台の上の観測者から見て小球が右向きに加速度 a0 を持つのは,台のほうが加速しているからである.

台に対する小球の加速度は,(地面から見た小球の加速度)−(地面から見た台の加速度)であり,前者は 0 なので,台の加速度は左向きに大きさ a0 となる.よって,台は慣性系に対して,左向きに加速度 a0 で加速している.台の上の観測者は慣性系にいない.

演習 5

オリジナル ★★☆☆☆

エンジンを止めて宇宙空間を慣性運動する宇宙船があり,この宇宙船は慣性系とみなせる.船内では,船尾側の面を「床」として使っている.その後,エンジンを噴かし,宇宙船が進行方向に一定の加速度 A=2.0ms−2 で加速し始めた.船内で,床から高さ h=1.0m の位置にボールを静かに放した(放した瞬間,ボールは船に対して静止している).ボールは船内の人から見るとどう動くか.床に達するまでの時間も求めよ.ただし,船内では重力は無視でき,ボールの運動にエンジンの噴射は直接は影響しないとする.

船尾を床とする宇宙船の初期状態.船尾から距離hの球と,船の加速度Aを示す.球がその後どう動くかは描かない. 船尾を床とする宇宙船の初期状態.船尾から距離hの球と,船の加速度Aを示す.球がその後どう動くかは描かない.
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考え方 まず,船の外の慣性系から,ボールと船の運動を別々に見る.

ボールには力が働かないので,慣性の法則から,放した瞬間の速度 v0(船の速度と同じ)で等速直線運動を続ける.一方,船の床は加速度 A で加速するので,床はボールのほうへ近づいてくる.

船内の人から見たボールの運動は,床に対する相対運動である.床は船の進行方向に加速するので,船内の人から見ると,ボールは進行方向と逆向き(床に向かう向き)に,大きさ A の加速度で動くように見える.つまりボールは,一定の加速度 A で「落ちる」.

時間は h=12At2 から

t=2hA=2×1.02.0=1.0s

である.この結果は,重力加速度 g の下で物体が落ちる運動と同じ形をしている.

演習 6

オリジナル ★★☆☆☆

一定の速さ v0 で走っていた電車が,時刻 0 から進行方向に一定の加速度 a=1.5ms−2 で加速し始めた.時刻 0 に,天井の高さ h=2.0m の位置から,ボールを電車に対して静止した状態で静かに放した.重力加速度を g=9.8ms−2 とし,空気抵抗は無視する.

  1. ボールが床に達するまでの時間を求めよ.

  2. ボールは,放した位置の真下の点に対して,床の上でどれだけずれた所に落ちるか.ずれの向きも答えよ.

天井から球を放した瞬間の車内を示す.高さh,電車の初速度v₀と加速度aを示し,落下位置は描かない. 天井から球を放した瞬間の車内を示す.高さh,電車の初速度v₀と加速度aを示し,落下位置は描かない.
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考え方 地面から見ると,ボールの水平方向には力が働かないので,水平速度は v0 のまま変わらない.一方,電車は加速する.この差が,電車の中で見えるずれになる.

  1. 鉛直方向は重力だけを受ける自由落下で,h=12gt2 より

t=2hg=2×2.09.8≈0.64s

である.

  1. 時間 t の間に,ボールは水平に v0t 進む.電車は v0t+12at2 進むので,電車に対するボールの水平方向のずれは 12at2 だけ後ろ(進行方向と逆向き)になる.

12at2=12a⋅2hg=ahg=1.5×2.09.8≈0.31m

よって,ボールは真下の点から約 0.31m だけ後ろに落ちる.

ポイント 教える人へ

  • 問いかけ:「摩擦を無くしたら,パックはどうなる?」と聞き,答えのあとに「では,押し続けないと止まるのはなぜ?」と戻すと,見かけの力と本当の力の区別が育つ.

  • つまずき:「速度が 0 の瞬間は合力も 0」という思い違い(最高点の例).「等速円運動は力が要らない」という思い違い.慣性は「物体が持つ力」ではなく,「速度を保つ性質」であると言い直させる.

  • 確かめ方:電車の中のボールの例を,慣性系と非慣性系の両方から説明させる.自分の言葉で,「だれから見ているか」を先に言えれば,理解できている.

04運動方程式

問い

なめらかな床の上で,空の台車を一定の力で押すと,ある加速度で動き始めました.次に,台車に荷物を積んで全体の質量を2倍にし,先ほどと「同じ力」で押します.加速度は,空のときの何倍になるでしょうか.

もうひとつ.ここでいう「同じ力」は,どうすれば保証できるでしょうか.手で押している感覚は,力を測る道具としては頼りになりません.力の大きさを数で表すには,どうしたらよいでしょうか.まず自分で予想を立ててみてください.

考えてみる

台車と荷物を合わせた質量を2倍にすると,同じ力では動き出しが鈍くなることは,経験から分かります.加速度は半分になると予想した人が多いでしょう.その予想は正しいのですが,「同じ力で」と言い切るには,力を一定に保つ方法が要ります.

そこで,力の大きさを「ばねの伸び」で約束することにします.同じばねを同じ長さだけ伸ばせば,ばねは同じ力で引くと考えるのです.伸びを一定に保ちながらばねで台車を引けば,同じ力で引き続けられます.同じばねを2本そろえて並べて引けば,2倍の力です.

このようにして台車の質量 m とばねの本数(力の大きさ)を変えて加速度を測ると,たとえば次のような結果になります.

力(ばねの本数)

質量

加速度

1本

1.0kg

2.0ms−2

2本

1.0kg

4.0ms−2

1本

2.0kg

1.0ms−2

2本

2.0kg

2.0ms−2

3本

3.0kg

2.0ms−2

力を2倍にすれば加速度も2倍になり,質量を2倍にすれば加速度は半分になっています.最後の行を見ると,力と質量が同じ割合で増えれば,加速度は変わりません.加速度は「力に比例し,質量に反比例する」と読み取れます.最初の問いの答えは,加速度は半分になる,です.

ポイント 実験から読み取れること

  • 加速度 a は力 F に比例する.

  • 加速度 a は質量 m に反比例する.

  • 加速度の向きは,力の向きと同じである.

[図:力と加速度のグラフ]

横軸が力F(ばねの本数),縦軸が加速度aのグラフ.原点を通る直線が2本あり,質量1 kgの直線は傾き2,質量2 kgの直線は傾き1で,前者の傾きは後者の2倍.初期状態はF=2本で,a=4.0 m/s²とa=2.0 m/s²を読み取れる.スライダーでFを動かすと,どのFでも質量1 kgの加速度が質量2 kgの2倍であることが分かる.

運動方程式

以上の実験事実を,ニュートンは第2法則として式にまとめました.

法則 ニュートンの第2法則(運動方程式)

質量 m の物体に力 F が働くとき,物体の加速度 a について

ma=F

が成り立つ.複数の力が働くときは,F はそれらのベクトル和(合力)である.

質量は,「加速されにくさ」を表す量です.同じ力で押したとき,質量の大きい物体ほど加速度が小さくなります.慣性の大きさを表すこの質量を,慣性質量と呼びます.質量は物体そのものの量で,地球でも月でも宇宙空間でも変わりません.これに対して,重さ(物体に働く重力の大きさ)は,場所によって変わります.月の上では,同じ物体の重さは地球上の約6分の1になりますが,押したときの動かしにくさは同じです.

力の単位は,この式から決まります.質量 1kg の物体に 1ms−2 の加速度を生じさせる力の大きさを 1N(ニュートン)とします.

1N=1kgms−2

地表で質量 0.10kg(約100g,小さなりんご1個)の物体に働く重力は,0.10×9.8≈1N です.先ほどの表の「ばね1本」の力は,質量 1.0kg で加速度が 2.0ms−2 だったので,2.0N と分かります.

運動の勢いを表す量として,運動量 p=mv があります.ニュートン自身は,力を運動量の変化の割合として

F=dpdt

と表しました.質量が一定のとき,d(mv)dt=mdvdt=ma なので,F=ma と同じです.運動量を使う形は,衝突や質量が変わる物体を扱うときに役立ちます.ただし質量が出入りする場合は,同じ物質を追う系について立て,流れ出入りする運動量も数える必要があります.それらは後の章で扱います.

位置 x の時間微分で速度を,もう一度微分して加速度を表すと,運動方程式は

md2xdt2=F

とも書けます.力が分かれば,この式から加速度が決まり,積分を2回行って速度と位置が決まります.初期条件(最初の位置と速度)を与えれば,その後の運動がすべて決まるのです.

法則であって,定義ではない

F=ma だけを見ると,「加速度を測れば,力は ma と決まる」という,力の定義のようにも読めます.しかし,運動方程式は,それだけで終わる定義ではありません.

力には,運動方程式とは別に,その力がどう決まるかを述べる法則があります.たとえば,地表の物体に働く重力は mg であり,ばねの力は伸びに比例します.こうした「力の法則」を運動方程式に代入して初めて,その物体が将来どう動くかという予言ができます.

たとえば,質量 m の物体に重力 mg だけが働くなら,鉛直下向きを正として ma=mg,すなわち a=g となります.質量に関係なく同じ加速度になるという予言は,実験で確かめられる内容を持っています.運動方程式は,力の法則と組み合わせて,はじめて自然を言い当てる道具になるのです.

ポイント 運動方程式の使い方

運動方程式は,「力の法則(何がどんな力を及ぼすか)」と「初期条件」を与えると,運動を決める.力を知るには,別に法則が要る.

運動方程式を立てる手順

運動方程式を立てるときは,次の4つのステップをいつも同じ順に踏みます.

  1. 注目する物体を決める.運動方程式は,その物体1つについて立てる.

  2. その物体に働く力を,すべて見つける.触れているものから受ける力と,重力を数える.矢印で描いた図(この章の「力の種類」の節で学ぶ自由体図)にすると見落としにくい.

  3. 座標軸を決め,正の向きを定める.

  4. 軸の成分ごとに max=Fx,may=Fy を書き,初期条件のもとで解く.

力の見つけ方は,この章の「力の種類」の節で練習します.ここでは,力が与えられている場合から始めましょう.なお,最後に答えが極端な場合(質量が非常に大きい,など)で妥当かを確かめる「検算」も,以後の節でいつも行います.

ポイント ここまでのまとめ

  • 問いの答え:同じ力で質量が2倍なら,加速度は半分になる.「同じ力」は,ばねの伸びを一定に保つなどして約束する.

  • 運動方程式 ma=F:加速度は合力に比例し,質量に反比例する.向きは合力と同じである.

  • 力の単位は 1N=1kgms−2.質量は場所によらず,重さ(重力の大きさ)は場所で変わる.

  • 運動方程式は,力の法則と初期条件を与えて初めて運動を予言する道具である.力の定義ではない.

  • 立式の手順:注目する物体を決める → 働く力をすべて見つける → 座標軸を決める → 成分ごとに max=Fx を立てて解く.

05運動方程式の例題

運動方程式を使って,力から運動を求める練習をします.前の節で確かめた4つの手順の通りに進めましょう.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

なめらかな水平面上に,質量 m=2.0kg の物体が,初速度 v0=1.0ms−1 で運動している.時刻 t=0 から,運動の向きに一定の力 F=6.0N を加える.運動の向きを x 軸の正とし,t=0 の位置を原点とする.

  1. 時刻 t の速度 v(t) と位置 x(t) を,m,F,v0 を用いて表せ.

  2. t=4.0s の速度と位置を求めよ.

  3. t=4.0s で力を取り除いた.それから 2.0s の間に物体が進む距離を求めよ.

物体の初速度v₀と,運動方向の一定の力F,正のx方向を示す. 物体の初速度v₀と,運動方向の一定の力F,正のx方向を示す.
解答を見る

考え方 運動の向きを正にとり,水平方向の運動方程式を立てる.力が一定なので,加速度も一定である.

  1. 運動方程式は ma=F であり,加速度は a=F/m で一定である.初速度 v0,初期位置 0 より,

v(t)=v0+Fmt,x(t)=v0t+F2mt2

である.

  1. a=6.0/2.0=3.0ms−2 なので,

v(4.0)=1.0+3.0×4.0=13ms−1
x(4.0)=1.0×4.0+12×3.0×4.02=28m

である.

  1. 力を取り除いた後は合力が 0 なので,物体は 13ms−1 で等速直線運動を続ける(慣性の法則).2.0s の間に進む距離は,13×2.0=26m である.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

なめらかな水平面上で,原点に静止していた質量 m=2.0kg の物体に,x 軸の正の向きに,時間とともに増える力 F=kt(k=4.0Ns−1)を加える.

なめらかな水平面上の質量mの物体に正のx方向へF=ktを加える.初め原点で静止している. なめらかな水平面上の質量mの物体に正のx方向へF=ktを加える.初め原点で静止している.
  1. 時刻 t の速度と位置を,k,m を用いて表せ.

  2. t=3.0s の速度と位置を求めよ.

  3. t=0 から T=3.0s までの力の時間平均 F¯=kT/2 を,一定の力として同じ物体に T の間だけ加えた場合の,t=T での速度と位置を求めよ.(2) と比べて,何が同じで何が違うか.

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考え方 力が時間で変わっても,各瞬間に運動方程式 ma=F は成り立つ.加速度が時間の関数になるので,積分で速度と位置を求める.

  1. 運動方程式は mdvdt=kt である.時間で積分して,初速度が 0 なので

v(t)=k2mt2

さらに積分し,初期位置が 0 なので

x(t)=k6mt3

である.

  1. 数値を入れると,

v(3.0)=4.02×2.0×3.02=9.0ms−1
x(3.0)=4.06×2.0×3.03=9.0m

である.

  1. 平均の力は F¯=4.0×3.0/2=6.0N で,加速度は F¯/m=3.0ms−2 である.よって

v=3.0×3.0=9.0ms−1,x=12×3.0×3.02=13.5m

である.速度は (2) と同じ 9.0ms−1 だが,位置は一定の力のほうが大きい.時間とともに増える力では,前半の加速度が小さく,速度が小さい時間が長いので,その間に進む距離が少ないからである.最終的な速度が同じになる理由は,速度の変化 ∫0Tadt=1m∫0TFdt を決める力の時間積分(第5章で学ぶ力積)が,どちらも同じ kT2/2 だからである.

ポイント ここまでのまとめ

  • 手順どおりに,物体・力・座標軸・成分ごとの式を順に書くと,力が与えられた問題は機械的に解ける.

  • 力が一定なら加速度も一定(等加速度運動).力が時間とともに変わるときは,加速度が時間の関数になるので積分で速度と位置を求める.

  • 力を取り除けば合力は 0 になり,物体は等速直線運動を続ける(慣性の法則).

06運動方程式の演習

運動方程式を使う演習です.単位の確認,成分ごとの式,エレベーターの中の体重計など,いろいろな場面で ma=F を使ってみましょう.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

(1)〜(3) の量の単位を,kg,m,s の組み合わせで表せ.また (4) に答えよ.

  1. 運動量 p=mv

  2. ばね定数 k(ばねの力を F=kx と書いたときの k)

  3. 前の節の例題2の F=kt における k

  4. 質量 2.0kg の物体に 5.0N の力が働くときの加速度の大きさ

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  1. kgms−1 である.なお,運動量の時間変化の割合の単位は kgms−2=N となり,力と一致する.

  2. F=kx より k=F/x の単位は Nm−1=kgs−2 である.

  3. F=kt より k=F/t の単位は Ns−1=kgms−3 である.

  4. a=F/m=5.0/2.0=2.5ms−2 である.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

なめらかな水平面上に,質量 0.50kg の物体が静止している.この物体に,水平面内で互いに直角な方向の力 3.0N(x 方向)と 4.0N(y 方向)が同時に働く.

  1. 加速度の大きさと向き(x 軸の正の向きとなす角 θ)を求めよ.

  2. 力が働き始めてから 2.0s 後の速さと,その間の変位の大きさを求めよ.

物体にx方向の3.0 Nとy方向の4.0 Nの力が働く.求める合力や加速度の方向は描かない. 物体にx方向の3.0 Nとy方向の4.0 Nの力が働く.求める合力や加速度の方向は描かない.
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  1. 成分ごとに運動方程式を立てる.0.50ax=3.0,0.50ay=4.0 より,ax=6.0ms−2,ay=8.0ms−2 である.加速度の大きさは 6.02+8.02=10ms−2,向きは合力と同じで,tan⁡θ=4.0/3.0 より x 軸から約 53∘ である.

  2. 加速度の大きさが一定で,初速度は 0 である.速さは 10×2.0=20ms−1,変位の大きさは 12×10×2.02=20m である.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

質量 60kg の人が,エレベーターの中の体重計に乗っている.体重計は,人が体重計を押す力(に等しい垂直抗力)N を g=9.8ms−2 で割った値を「キログラム」で表示するものとする.人に働く力は,重力 mg と,体重計が人を押し上げる力 N(垂直抗力)の2つとする(2つの押す力が等しいことは「作用と反作用」,垂直抗力は「垂直抗力と張力」の節で詳しく扱う).

  1. エレベーターが等速で動いているとき,表示は何 kg か.

  2. 上向きに大きさ 1.5ms−2 の加速度で動いているとき,表示は何 kg か.

  3. 表示が 48kg だった.エレベーターの加速度の向きと大きさを求めよ.また,エレベーターは上昇中か下降中か,これだけで分かるか.

  4. ケーブルが切れて自由落下するとき,表示は何 kg か.

エレベーター内で体重計に乗る人に働くmgとNを示す.加速度の向きは各設問の条件による. エレベーター内で体重計に乗る人に働くmgとNを示す.加速度の向きは各設問の条件による.
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考え方 人に注目し,鉛直上向きを正とする.人に働く力は,下向きの重力 mg と,体重計からの上向きの垂直抗力 N の2つである.加速度 a(上向き正)として,運動方程式は

ma=N−mgすなわちN=m(g+a)

である.表示は N/g である.

  1. 等速なので a=0,N=mg=588N.表示は 60kg である.

  2. a=1.5 より,N=60×(9.8+1.5)=678N.表示は 678/9.8≈69kg である.

  3. 表示が 48kg なので,N=48×9.8=470.4N である.a=N/m−g=470.4/60−9.8=−1.96ms−2.よって加速度は下向きで,大きさは約 2.0ms−2 である.一方,この情報から分かるのは加速度の向きだけで,速度の向きは分からない.上昇しながら減速している場合も,下降しながら加速している場合も,同じ表示になる.

  4. 自由落下では,a=−g なので,N=m(g−g)=0.表示は 0kg である.体重計が人を押さなくなる「無重量」の状態である.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

x 軸上を運動する質量 m の物体に,位置 x に応じて F=−kx(k>0)の力が働くとする.

x軸上の原点Oと,静かに放す位置x=Aを示す.加速度や運動後の方向は描かない. x軸上の原点Oと,静かに放す位置x=Aを示す.加速度や運動後の方向は描かない.
  1. 加速度 a を x で表し,a と x の関係を言葉で述べよ.

  2. x>0,x<0,x=0 の各場合に,加速度の向きはどうなるか.

  3. 物体を x=A>0 の位置で静かに放したとき,その後の運動を定性的に述べよ.速さが最大になるのはどこか.

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  1. 運動方程式 ma=−kx より,a=−kmx である.加速度は位置に比例し,向きは位置と反対である.

  2. x>0 では a<0(負の向き),x<0 では a>0(正の向き),x=0 では a=0 である.いずれの場合も,加速度は原点に向かう向きである.

  3. 放した直後は a<0 なので,物体は原点に向かって加速し始める.原点に近づくほど加速度は小さくなるが,原点に達するまでは負のままで,速さは増え続ける.原点を通り過ぎると加速度は正になり,物体は減速する.よって,速さが最大になるのは x=0 の位置である.減速した物体は,やがて x<0 側のどこかで止まり,再び原点に引き戻される.このように,原点を中心に往復する運動になる.

演習 5

オリジナル ★★☆☆☆

なめらかな水平面上に,質量 m1 の物体Aと質量 m2=3m1 の物体Bが静止している.それぞれに,同じ大きさ F の一定の力を,運動の向きに加える.

別々の物体AとBに,同じ大きさの力Fを同じ向きに加える. 別々の物体AとBに,同じ大きさの力Fを同じ向きに加える.
  1. 力を同じ時間 τ だけ加えたとき,A,Bの速さの比 v1:v2 を求めよ.

  2. 力を同じ距離 L だけ進む間加えたとき,A,Bの速さの比 v1:v2 を求めよ.

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A,Bの加速度は,それぞれ a1=F/m1,a2=F/m2=F/(3m1) である.

  1. 静止から時間 τ の間加速すると,速さは v=aτ である.

v1:v2=a1:a2=Fm1:F3m1=3:1

である.

  1. 距離 L だけ進むときは,v2=2aL より v=2aL である.

v1:v2=a1:a2=3:1

である.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

質量 m=0.50kg の物体が直線上を運動し,位置が時刻 t(単位は秒)の関数として x(t)=αt2−βt3(α=3.0ms−2,β=0.50ms−3)で与えられる.物体に働く合力 F(t) は,運動方程式から逆に求められる.

問題で与えられたxと時刻tの関係を示す.求める量やその値は記入しない. 問題で与えられたxと時刻tの関係を示す.求める量やその値は記入しない.
  1. 合力 F(t) を求めよ.

  2. 合力が 0 になる時刻と,その時刻での速度を求めよ.

  3. 速度が再び 0 になる時刻と,そのときの位置を求めよ.

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考え方 位置を時間で2回微分して加速度を求め,運動方程式に代入する.

  1. 速度は v=dxdt=2αt−3βt2,加速度は a=dvdt=2α−6βt である.したがって

F(t)=ma=m(2α−6βt)=0.50×(6.0−3.0t)=3.0−1.5t  [N]

である.

  1. F=0 となるのは t=2.0s である.そのときの速度は

v=2×3.0×2.0−3×0.50×2.02=12−6.0=6.0ms−1

である.加速度が 0 になるこの時刻に,速度は最大になる.

  1. v=2αt−3βt2=t(6.0−1.5t)=0 より,t=0 または t=4.0s である.t=4.0s での位置は

x=3.0×4.02−0.50×4.03=48−32=16m

である.

ポイント 教える人へ

  • 問いかけ:「力を2倍にしたら?質量を2倍にしたら?」と順に聞き,その結果から比例・反比例の関係を言葉にさせる.その後に F=ma を見せると,式が実験の要約だと分かる.

  • つまずき:「力=質量×速度」と書いてしまう,加速度の向きと速度の向きを同じだと思う,といった混同がある.力は加速度の向きに働き,速度の向きとは限らないことを,例題と演習3の (3) で確かめる.

  • 確かめ方:「重さ」と「質量」の違いを,月の上での押しやすさ・持ち上げやすさを使って説明させる.エレベーターの体重計の表示が変わる理由を,運動方程式で式にできれば,理解できている.

07作用と反作用

問い

凍った池の上で,質量 60kg の大人と 30kg の子どもが向かい合って立ち,手のひらを合わせます.子どもが思いきり押し,大人は腕を伸ばしたまま,自分からは押さないことにします.

  1. 押している間,2人の手のひらが受ける力は,どちらが大きいでしょうか.

  2. 2人は離れていきます.速く離れていくのはどちらでしょうか.

氷の上で,大人(60 kg)と子ども(30 kg)が手のひらを合わせて向かい合っている.子どもは腕を少し曲げて大人を押しており,大人は腕を伸ばしたままでいる. 氷の上で,大人(60 kg)と子ども(30 kg)が手のひらを合わせて向かい合っている.子どもは腕を少し曲げて大人を押しており,大人は腕を伸ばしたままでいる.

もうひとつ.壁を手で押すと,手が痛くなります.壁は自分から押してくるわけではないのに,手は何から力を受けているのでしょうか.自分の予想を紙に書いてから,先を読んでください.

考えてみる

  1. では,「押した子どものほうが大きな力を出しているのだから,大人のほうが大きな力を受ける」「大人は押していないのだから,子どもは力を受けない」と考えたくなります.実験で確かめてみましょう.

ばねばかりを2つ用意し,フックどうしを引っかけて,両側から引き合います.片方だけを強く引いても,片方の端を壁に固定して反対側だけを引いても,2つの目盛りはいつも同じ値を示します.引きながら全体を動かしても同じです.自分では引いているつもりのない側のはかりも,相手と同じ大きさの力を示すのです.押し合う場合も,薄いはかりを2枚重ねて2人の手のひらの間に挟めば,2つの目盛りはいつも等しくなります.

つまり,子どもが大人の手を押しているとき,大人の手も同じ大きさの力で子どもの手を押し返しています.押し返そうという気持ちがあるかどうかは関係ありません.(1) の答えは「同じ大きさ」です.力は,どちらか一方が出すものではなく,2つの物体の間で対になって現れるのです.

第3法則

この事実をまとめたのが,ニュートンの第3法則です.

法則 ニュートンの第3法則(作用反作用の法則)

物体Aが物体Bに力 FA→B を及ぼすとき,物体BもAに力 FB→A を及ぼし,

FB→A=−FA→B

が成り立つ.2つの力は大きさが等しく,向きが逆で,2物体を結ぶ直線上にある.

2つの力のどちらを「作用」,どちらを「反作用」と呼んでも構いません.どちらかが原因で,もう一方が結果ということはなく,2つの力は同時に現れ,同時に消えます.静止しているときも,運動しているときも,加速しているときも,この関係はいつでも成り立ちます.

私たちが地面を歩けるのも,この法則のおかげです.足で地面を後ろへ押すと,地面が足を前へ押し返します.ボートの上から岸を棒で突くと,岸が棒を通じてボートを押し返し,ボートは岸から離れていきます.ロケットは,燃やしたガスを後ろへ勢いよく押し出し,そのガスがロケットを前へ押し返します.押す相手は空気ではなく,ロケット自身が吐き出したガスです.

力の対はどこで生まれるか

ニュートンは第3法則を,物体どうしの衝突や引き合いの観察から見つけました.では,自然はなぜいつも力を対で出すのでしょうか.手が壁を押す力と,地球がリンゴを引く力は,見かけがまったく違います.どちらも同じ法則に従うわけを,力の正体までさかのぼって考えてみます.

遠隔力は粒子1組ごとに対になる

身のまわりの力の原因をたどっていくと,2種類しか残りません.重力と,電気の力(磁気の力も含めて電磁気力といいます)です.原子核の中だけで働く力もありますが,原子核の外には届かないので,日常の力には顔を出しません.重力も電気の力も,離れた2つの粒子の間に働く遠隔力です.そして,2つの粒子の間では,大きさが等しく向きが逆の力が,2つを結ぶ直線上に働きます.重力では第10章の万有引力の法則が,電気の力では第20章のクーロンの法則が,この形をしています.第3法則のいちばん素朴な姿は,この「粒子1組ごとの対」です.

接触力は原子の対を足し合わせたもの

では,手が壁を押す力のような接触力はどうでしょうか.先を読む前に,手と壁の境目を原子の大きさまで拡大した様子を想像してみてください.手と壁は,本当に「触れて」いるのでしょうか.

物質は原子でできています.原子は,ごく小さな原子核のまわりを,電子が雲のように取り巻いたもので,大きさは 10−10m ほどです.手を壁に押しつけると,手の表面の原子と壁の表面の原子は,原子1個ぶんほどの距離まで近づきます.そこまで近づくと,互いの電子の雲どうしが強く反発し合い,それ以上は近づけません(この反発の強さには,量子力学の効果も効いています).原子どうしが重なり合っているわけではありません.「触れている」とは,この反発が効く距離まで近づいていることなのです.

手の原子1個と壁の原子1個の間の反発は,粒子1組の間の力なので,大きさが等しく向きが逆です.「手が壁を押す力」とは,境目で向かい合う膨大な数の原子の組について,壁の側の原子が受ける力を全部足したものです.「壁が手を押す力」は,同じ組の,手の側の原子が受ける力を全部足したものです.1組ごとに等しく逆向きなので,それらを足したものも等しく逆向きになります.接触力の作用反作用は,原子1組ごとの作用反作用を足し合わせた結果なのです.

左に手,右に壁の表面付近を,それぞれ4×4の原子(電子の雲と原子核)と結合で描いている.境目で向かい合う最も外側の原子では電子の雲がほとんど触れており,その3組にそれぞれ大きさが等しく逆向きの赤い矢印を付けて反発を示した.すべての組の力を足し合わせたものが,手が壁を押す力と,壁が手を押す力になる. 左に手,右に壁の表面付近を,それぞれ4×4の原子(電子の雲と原子核)と結合で描いている.境目で向かい合う最も外側の原子では電子の雲がほとんど触れており,その3組にそれぞれ大きさが等しく逆向きの赤い矢印を付けて反発を示した.すべての組の力を足し合わせたものが,手が壁を押す力と,壁が手を押す力になる.

これで,壁の問いに答えられます.手は,壁の表面の原子から押し返されています.押し返された手の表面の原子は,手の内側の原子へ押し込まれ,手の中の原子どうしの結合がわずかに縮みます.皮膚の下の神経が感じとっているのは,この変形です.壁の側でも同じように結合が縮んでいますが,壁にはそれを感じとる神経がありません.

接触力が触れたときだけ働くわけ

電気の力は遠隔力なのに,接触力は触れたときにしか働きません.これは,原子が電気的に中性であることから説明できます.原子は,ふつう正と負の電荷を同じだけもっていて,全体としては電気を帯びていません.離れたところから見ると,正の電荷から受ける力と負の電荷から受ける力がほとんど打ち消し合い,力は残りません.原子の大きさほどまで近づいて,はじめて電荷の並び方の違いが効いてきます.一方,重力には負の質量がないので打ち消し合いが起きず,遠くまで届きます.目に見える世界では,電気の力は「触れたときの力」として,重力は「離れても働く力」として現れているのです.

次の2つは,この章の後の節で考えます.今のうちに,自分の予想を紙に書いておいてください.

  • 糸で物体を引くとき,糸の途中では,何と何が引き合っているでしょうか(「垂直抗力と張力」の節).

  • 床の上で箪笥を横に押しても動かないとき,床が箪笥を押し返す横向きの力は,どの原子の組から生まれているでしょうか(「摩擦」の節).

対の見つけ方とつり合いとの違い

ある力の反作用を探すときは,「その力は,どの2つの物体の間の,どの接触面から(または,どの遠隔力として)生まれたか」を考えます.そうすれば,相手の力は1つに決まります.たとえば,机が本を押す垂直抗力の相手は,同じ接触面で本が机を押す力です.どちらも同じ原子の組から生まれた力なので,同じく垂直抗力と呼ばれます.地球が本を引く重力の相手は,本が地球を引く重力です.作用と反作用がいつも同じ種類の力になるのは,同じ粒子の組,同じ接触面から生まれるからです.

ポイント 作用と反作用の特徴

  • 別々の物体に働く(片方がAに,もう片方がBに働く).

  • 同じ種類の力である(同じ粒子の組,同じ接触面から生まれる).

  • 大きさが等しく,向きが逆で,同じ直線上にある.

  • 同時に現れ,同時に消える.

作用反作用と,つり合いは,よく混同されます.どちらも「大きさが等しく向きが逆の2力」に見えるからです.違いは,その2力が働く物体にあります.

つり合う2力

作用と反作用

働く物体

同じ物体

別々の物体

力の種類

違ってよい

同じ種類

成り立つ条件

加速度が 0 のときだけ

いつでも成り立つ

机の上で静止している本を例にとります.本に働く力は,地球が引く重力と,机が押す垂直抗力です.どちらも本に働いていて,本の加速度が 0 なのでつり合っています.これに対して,重力の反作用は「本が地球を引く力」で地球に働き,垂直抗力の反作用は「本が机を押す力」で机に働きます.重力と垂直抗力は,大きさが等しくても,作用と反作用の対ではありません.生まれた所が違うからです.

違いがはっきりするのは,本を載せた机ごとエレベーターで上向きに加速させたときです.本に働く重力と垂直抗力は,もはやつり合いません(垂直抗力のほうが大きい).しかし,机が本を押す力と,本が机を押す力は,このときも大きさが等しいままです.つり合いが崩れても崩れない関係が,作用反作用です.

力は等しくても加速度は違う

問いの (2) に戻りましょう.押している間,2人が受ける力の大きさ F は,どの瞬間も等しくなっています.それぞれの加速度の大きさは,運動方程式から

a大人=F60kg,a子ども=F30kg

で,どの瞬間も子どもの加速度は大人の2倍です.押している時間も2人で同じなので,手が離れたときの速さも,子どものほうが2倍になります.押したのは子どもでも,速く離れていくのは子どもです.

押している間,大人と子どもが互いに及ぼし合う力(赤い矢印)は,大きさが等しく向きが逆である.手が離れた後,大人の速さを v とすると子どもの速さは 2v で,子どもは大人の2倍の速さで反対向きに動く(青い矢印). 押している間,大人と子どもが互いに及ぼし合う力(赤い矢印)は,大きさが等しく向きが逆である.手が離れた後,大人の速さを v とすると子どもの速さは 2v で,子どもは大人の2倍の速さで反対向きに動く(青い矢印).

地球とリンゴでも同じことが起きています.地球がリンゴを引く力と,リンゴが地球を引く力は,大きさが等しい関係です.それでも地球が動いて見えないのは,加速度が a=F/m だからです.リンゴの質量を 0.20kg とすると,力の大きさは 0.20×9.8≈2.0N で,地球の質量 6.0×1024kg による加速度は

2.06.0×1024≈3.3×10−25ms−2

です.力が同じ大きさでも,質量が桁違いに大きければ,加速度は無視できるほど小さくなります.

系と内力・外力

いくつかの物体をまとめて1つの「系」として扱うと,物体どうしの間の力は式から消え,扱いが簡単になることがあります.

系の外から系の中の物体に働く力を外力,系の中の物体どうしが及ぼし合う力を内力といいます.2つの物体A,Bを1つの系とし,それぞれの運動方程式を書きます.外力を FA,FB とすると,

mAaA=FA+FB→AmBaB=FB+FA→B

です.2式を足すと,第3法則から FB→A+FA→B=0 なので,内力が消えて

mAaA+mBaB=FA+FB

となります.外力の合力が決めるのは左辺の mAaA+mBaB であり,内力は現れません.

氷の上の2人を1つの系とみなすと,押し合う力は内力で,水平な外力はありません.すると mAaA+mBaB=0 で,2人がどれほど強く押し合っても,この組み合わせは0のままです.この事実は,第5章で運動量の保存として育てます.一方,2物体それぞれの運動,たとえば2人の離れ方は,内力によって決まります.

特に,2物体が同じ加速度 a で動くときは,(mA+mB)a=FA+FB となり,2物体を1つの物体のように扱えます.

ポイント 系の取り方

2物体が同じ加速度で動くとき,その加速度を知りたければ,まとめて1つの系とし,外力だけを数える.物体どうしの間の力(内力)を知りたいときは,物体を1つずつ分けて,それぞれに運動方程式を立てる.

次の例題では,押し合う2つの箱で,この使い分けを練習します.糸やロープでつながった物体は,張力を学んだ後の「垂直抗力と張力」の例題で扱います.

ポイント ここまでのまとめ

  • 問いの答え:(1) 押し合う2人が受ける力は,押したつもりかどうかによらず,いつも同じ大きさである.(2) 加速度は質量に反比例するので,子どもは大人の2倍の速さで離れていく.

  • 壁の問いの答え:手は壁の表面の原子から押し返されている.痛みとして感じるのは,この力で手の中の原子の結合がわずかに縮んだ変形である.

  • 第3法則:2物体の間の力は,大きさが等しく向きが逆で,同じ直線上にある.いつでも,同時に成り立つ.

  • 日常の力は重力と電磁気力に行き着き,どちらも粒子1組ごとに大きさが等しく逆向きの力を及ぼし合う.接触力は,境目で向かい合う原子の組の電気の力を足し合わせたものなので,接触力でも作用反作用が成り立つ.

  • 電気の力が触れたときだけ働くように見えるのは,原子が電気的に中性で,離れると正と負の力が打ち消し合うからである.

  • 反作用は「同じ2物体の,同じ接触面(同じ遠隔力)」から探す.つり合いは同じ物体に働く2力,作用反作用は別々の物体に働く2力で,加速していても作用反作用は崩れない.

  • 系をまとめると内力は消える.同じ加速度で動く物体の加速度は系全体で,物体どうしの間の力は物体を分けて求める.

08作用と反作用の例題

複数の物体を扱う例題です.物体が同じ加速度で動くときは,全体の加速度を系全体で,物体どうしの間の力は物体を分けて求めます.糸やロープでつながった物体は,張力を学んだ後の「垂直抗力と張力」の例題で扱います.

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

なめらかな水平面上に,質量 M=3.0kg の箱Aと質量 m=1.0kg の箱Bが接して並んでいる.

  1. Aを,Bの方向へ水平に F=12N の力で押し続けるとき,加速度とAがBを押す力を求めよ.BがAを押す力の大きさはいくらか.

  2. 同じ大きさの力を,今度はBに,Aの方向へ向けて加えるとき,箱どうしの間に働く力の大きさを求めよ.

箱AとBが接する配置で,Aを右へ押す場合とBを左へ押す場合を示す. 箱AとBが接する配置で,Aを右へ押す場合とBを左へ押す場合を示す.
解答を見る

考え方 全体の加速度は,まとめて1つの系として求める.箱どうしの間の力は,箱を1つずつ分けて運動方程式を立てて求める.

  1. 全体の水平方向の外力は F だけなので,(M+m)a=F より

a=123.0+1.0=3.0ms−2

である.AがBを押す力の大きさを N とする.Bは,A以外から水平方向の力を受けないので,ma=N より

N=1.0×3.0=3.0N

である.第3法則により,BがAを押す力の大きさも 3.0N である.確かめると,Aの運動方程式は Ma=F−N で,3.0×3.0=12−3.0 となり成立する.

  1. 加速度は,(1) と同じ 3.0ms−2 である.今度は,押す力が直接はBに働き,AはBからだけ水平方向の力を受ける.その大きさを N′ とすると,Aの運動方程式 Ma=N′ より

N′=3.0×3.0=9.0N

である.

箱の間の力は,(1) では 3.0N,(2) では 9.0N と異なる.箱の間の力は,その力だけで加速される側の箱の質量で決まる.(1) では m の 1.0kg,(2) では M の 3.0kg の箱を加速させる力であり,質量が大きい (2) のほうが大きい.

ポイント ここまでのまとめ

  • 同じ加速度で動くときは全体の加速度を系全体で,物体どうしの間の力は物体を1つずつ分けて求める.

  • 第3法則により,物体Aが物体Bを押す力とBがAを押す力は等しい.

  • 箱の間の力は,その力だけで加速される側の箱の質量で決まる.押す位置が変わると,箱の間の力も変わる.

09作用と反作用の演習

作用と反作用の見分け方と,系の取り方を使う演習です.力を見つけたら,必ず「だれがだれに及ぼす力か」を言ってから式を立ててください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

質量 7.0kg のボウリングの球が,質量 1.5kg のピンに当たった.衝突している間,球がピンに及ぼす力と,ピンが球に及ぼす力は,どちらが大きいか.また,衝突後にピンのほうが大きくはじかれるのはなぜか.衝突中に両者に働く力の大きさを F として,加速度の大きさの比を求めよ.

衝突直前の球とピンを示す.衝突中の力や加速度の大小は描かない. 衝突直前の球とピンを示す.衝突中の力や加速度の大小は描かない.
解答を見る

第3法則により,2つの力は常に大きさが等しい.どちらが大きいということはない.

ピンが大きくはじかれるのは,同じ大きさ F の力を受けても,質量が小さいと加速度が大きくなるからである.球の加速度の大きさは F/7.0,ピンの加速度の大きさは F/1.5 なので,比は

aピン:a球=F1.5:F7.0=7.0:1.5≈4.7:1

である.ピンの加速度は球の約 4.7 倍である.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

水平な机の上に,本が静止している.次の (a)〜(d) の2つの力の組は,「つり合い」「作用と反作用」「そのどちらでもない」のどれか.

机と本,その下の地球を示す.力の組の分類に相当する矢印は描かない. 机と本,その下の地球を示す.力の組の分類に相当する矢印は描かない.

(a) 本に働く重力 と 机が本を押す力
(b) 机が本を押す力 と 本が机を押す力
(c) 地球が本を引く力 と 本が地球を引く力
(d) 本に働く重力 と 本が机を押す力
また,この机ごと本をエレベーターに載せて上向きに加速させているとき,(a) と (b) の2力の大きさの関係はどうなるか.

解答を見る

(a) つり合い.どちらも本に働く力で,大きさが等しく向きが逆(加速度が 0)である.
(b) 作用と反作用.机と本という別々の物体の間の力で,対になっている.
(c) 作用と反作用.重力は地球と本の間の相互作用で,対になっている.
(d) どちらでもない.向きは同じ(どちらも下向き)で,働く物体も違い(本と机),力の種類も違う.静止しているときは大きさが等しくなるが,それは (a) のつり合いと (b) の作用反作用を組み合わせた結果にすぎない.

上向きに加速させているときは,本に働く合力が上向きなので,(a) の2力はつり合わず,机が本を押す力のほうが重力より大きい.一方,(b) の2力は作用反作用なので,加速していても大きさは等しい.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

なめらかな水平な床の上に,質量 M=40kg の台車があり,質量 m=60kg の人が台車の上に立っている.人は台車の上で滑らないように,台車に対して静止したまま,床に固定された壁を水平に押す.押す力は F=100N で一定で,腕が伸びきるまでの 0.40s の間だけ押すとする.

  1. 押している間の,人と台車の加速度の大きさと向きを求めよ.

  2. 押している間,人と台車の間にはたらく水平方向の力(摩擦力)の大きさを求めよ.

  3. 押し終わって 5.0s 後には,壁と接触していた位置から約何 m 離れているか.

台車上の人が壁を押す.接触点の作用と反作用を描き分ける. 台車上の人が壁を押す.接触点の作用と反作用を描き分ける.
解答を見る

考え方 人が壁を押すと,反作用として壁が人を押し返す.壁は床に固定されているので,この力が,人と台車に働く外力になる.

  1. 壁が人を押し返す力は,大きさが F=100N で,壁から離れる向きである.人と台車を1つの系とみると,床がなめらかなので,水平方向の外力はこの力だけである.

a=FM+m=10040+60=1.0ms−2

で,向きは壁から離れる向きである.

  1. 台車に働く水平方向の力は,人から受ける摩擦力 f だけである.Ma=f より f=40×1.0=40N である.確かめると,人の運動方程式は ma=F−f で,60×1.0=100−40 となり成立する.

  2. 押している間の変位は 12×1.0×0.402=0.080m,押し終わる瞬間の速さは 1.0×0.40=0.40ms−1 である.その後は力が働かないので,等速直線運動をする.5.0s の間に進む距離は 0.40×5.0=2.0m である.合計で 0.080+2.0≈2.1m 離れている.

ポイント 教える人へ

  • 問いかけ:「押し合う2人が受ける力は等しいのに,なぜ打ち消し合わないのか」「手と壁は本当に触れているのか」と問い,どちらの物体に働く力かを矢印の根元で示させる.2人それぞれの自由体図に分けて描かせると,効果的である.原子の図を見せて,接触力の対が原子の組の対の足し合わせであることを言葉で説明させるとよい.

  • つまずき:「作用反作用は同じ物体に働いて打ち消し合う」という誤解,および「重力と垂直抗力は作用反作用の関係」という誤解が多い.加速しているエレベーターの例で,つり合いは崩れるが作用反作用は崩れないことを確かめる.

  • 確かめ方:任意の2物体を描いて,「この力の反作用はどの物体のどんな力か」を答えさせる.次に,系の取り方によって,同じ力が内力にも外力にもなることを説明できれば,理解できている.

10力の種類

問い

机の上に,本が1冊静止しています.この本に働いている力を,思いつくものすべて挙げてください.そのとき,次の2つが入るかどうかも考えてみましょう.

  • 本のまわりにある「空気の力」

  • 本が机を押している力

力を挙げたら,それぞれについて「だれが,どの向きに,この本を押したり引いたりしているのか」を言えるかどうか確かめてください.言えない力は,何か間違っているかもしれません.

考えてみる

多くの人が,まず「下向きの重さ」を挙げます.次に「机が支えている力」を挙げるでしょう.本が落ちないのだから,何かが上向きに本を押しているはずだからです.実際,運動方程式から考えても,本の加速度は0なので,合力は0でなければなりません.重力が下向きにあるなら,それを打ち消す上向きの力が別にあるはずです.

では「空気の力」はどうでしょうか.空気は本のまわりをすべて囲んでいて,たしかに押しています.ただし,その力は本の上面にも下面にも側面にも同じように働き,ほとんど打ち消し合います.打ち消し残った分は浮力と呼ばれますが,本の場合は重力の数百分の一にすぎません.ふつうの問題では無視します.

「本が机を押す力」はどうでしょうか.これは確かに存在する力ですが,押されているのは机です.本に働く力を調べているときには,本が他の物体に及ぼす力は入れません.この区別が,この節でいちばん大事な考え方です.

つまり,力を見つけるときは「その物体が,何から,どんな力を受けているか」を数えます.答えを先に言うと,机の上の本が受ける力は,地球から受ける重力と,机から受ける垂直抗力の2つだけです.なぜそうなるのかを,これから順に整理しましょう.

力の種類

物体に働く力は,大きく2種類に分けて考えると見つけやすくなります.

定義 接触力と遠隔力

接触力 は,物体どうしが触れ合っているところで働く力である.垂直抗力,張力,摩擦力,弾性力,流体から受ける力などがある.遠隔力 は,離れていても働く力である.重力,静電気力,磁気力などがある.

見つけやすい理由は,接触力は「触れている相手」を数えれば漏れなく拾えるからです.そして,遠隔力は今のところほとんど重力だけを考えれば足ります.電気や磁気の力が関係する問題は,問題文にそう書いてあるのがふつうです.

ただし,この2つは力の正体による分け方ではありません.前の節「作用と反作用」で見たとおり,接触力の正体は,触れ合う面の原子どうしが及ぼし合う電気の力です.電気の力そのものは遠隔力ですが,原子が電気的に中性なので,原子の大きさほどまで近づいたときにしか表に出てきません.接触力と遠隔力の区別は,力を漏れなく数えるための便利な分け方なのです.

重力

地球上の質量 m の物体には,地球から鉛直下向きに大きさ mg の重力が働きます.ここで g は重力加速度で,この本では g=9.8ms−2 とします.

質量と重さは別のものです.質量 m は,物体の「動かしにくさ」を表す量で,どこに持っていっても変わりません.重力 mg は地球が物体を引く力で,場所によって変わります.月面では g が地球の約6分の1なので,同じ物体にかかる重力も約6分の1になります.日常で「重さ」と言うときは,この重力の大きさのことが多いのですが,体重計の目盛りが何を測っているかは「垂直抗力と張力」の節で考えます.

垂直抗力

物体が面に触れているとき,面は物体を面に垂直な向きに押します.これが垂直抗力 N です.面が物体を支えている力の正体は,物体の重みで面がごくわずかにへこみ,へこんだ面が元に戻ろうとして押し返す力です.目に見えないほど小さな変形でも,力としては十分に働きます.原子の大きさで見ると,面の原子どうしの結合がばねのようにわずかに縮み,元に戻ろうとして押し返しています.

垂直抗力は「必ず mg」ではありません.その大きさは,物体が面を貫いて沈まないように,状況に応じて決まります.これは「垂直抗力と張力」の節で詳しく扱います.

張力

糸やロープが物体を引く力が張力 T です.向きは,糸に沿って,物体から糸の方へ向かう向きです.糸は押すことができません.糸が物体を押す向きの力を描いたら,それは間違いです.原子の大きさで見ると,引かれた糸では原子どうしの結合がわずかに伸び,元に戻ろうとして引き合っています.糸を押すと,結合が縮む前に糸が横へ曲がってしまうので,押す力は伝わりません.

弾性力

ばねが伸びたり縮んだりしたとき,元の長さ(自然長)に戻ろうとして物体に及ぼす力です.伸び(または縮み)が x のとき,大きさは kx で表されます.これをフックの法則と呼び,k はばね定数です.詳しくは後の章で扱います.張力も,糸がごくわずかに伸びたことで生じる弾性力の一種だと考えることができます.

摩擦力

面が物体に及ぼす力のうち,面に沿った成分です.垂直抗力とあわせて,面が物体に及ぼす力の全体(抗力)になります.垂直抗力と摩擦力は,同じ接触面の原子の組から生まれる1つの力を,面に垂直な向きと面に沿う向きに分けたものです.この力の性質は,この章の「摩擦」の節で詳しく扱います.この節の例題・演習では,次の2点だけを先取りして使います.滑っていない間の摩擦力は,運動方程式(静止ならつり合い)から決まる「必要なだけ」の大きさをとること.その上限が μN(μ は静止摩擦係数)であること.

浮力と抵抗

水や空気などの流体の中にある物体は,流体からも力を受けます.その物体が排除した流体の重さに等しい上向きの力が浮力です.また,流体中を動く物体は,流体に対する相対速度と逆向きの抵抗を受けます(流体が静止していれば運動と逆向きです).この節では存在を知っておくだけにして,抵抗はこの章の「空気抵抗と終端速度」の節で扱います.浮力は,この章の「圧力と浮力」で,流体が面を押す力から導きます.

力を見つける手順

力の見落としと,ありもしない力を描いてしまう間違いを防ぐために,次の順で力を拾います.

ポイント 力を見つける手順

  1. 注目する物体を1つ決める.

  2. まず重力を描く.

  3. その物体に触れているものを1つずつ数える.面なら垂直抗力(と,あれば摩擦力),糸なら張力,ばねなら弾性力,流体なら浮力と抵抗である.

  4. 電気・磁気の力など,離れて働く力が問題文にないか確かめる.

  5. 描いた力すべてについて「相手の物体」を言えるか確かめる.言えない力は描かない.

5番目の確認が,とくに効きます.「上向きに運動させる力」「遠心力」「勢い」などは,相手の物体を指さそうとすると指せません.こうした力は物体に働いていないのです.遠心力は,回転する観測者から運動を見るときに現れる見かけの力で,これは後の章で改めて扱います.慣性の法則が成り立つ観測者の立場で描く図(この節の最後で学ぶ自由体図)には,入れません.

自由体図

注目する物体に働く力を矢印で描いた図を,自由体図(free-body diagram)といいます.運動方程式を立てる前の下準備として,ほとんどすべての力学の問題で描きます.

定義 自由体図の約束

  • 注目する物体を1つだけ選び,まわりから切り離して,点か簡単な形で描く.

  • 描くのは,その物体が受けている力だけにする.その物体が他に及ぼす力は描かない.

  • 矢印の根元は,力が働く点(接触している点,または重力なら重心)に置く.向きは実際の向き,長さはおおよその大きさに合わせる.

  • 各矢印に「だれからの力か」が分かる名前をつける.

  • 座標軸も一緒に描く.力の成分は,もとの力の矢印と同じ図に重ねず,別に描くか点線にする.

机の上で静止する本の自由体図.重心から下向きの重力mgと,底面から上向きの垂直抗力Nの2本の矢印を同じ長さで描く.本が机を押す力は机に働く力なので,本の自由体図には描かない. 机の上で静止する本の自由体図.重心から下向きの重力mgと,底面から上向きの垂直抗力Nの2本の矢印を同じ長さで描く.本が机を押す力は机に働く力なので,本の自由体図には描かない.

これで冒頭の問いに答えられます.机の上の本には,地球から受ける重力 mg(下向き)と,机から受ける垂直抗力 N(上向き)の2つだけが働きます.本は静止しているので合力は0であり,N=mg です.本が机を押す力は机の自由体図に描くものであって,本の自由体図には入りません.この「本が机を押す力」と「机が本を押す力」は,作用・反作用の対になっています.対になる2力は別々の物体に働くので,1つの自由体図には同時に現れません.

ポイント ここまでのまとめ

  • 問いの答え:机の上の本に働く力は,地球から受ける重力 mg(下向き)と,机から受ける垂直抗力 N(上向き)の2つだけである.空気の力はほとんど打ち消し合い,本が机を押す力は机に働く力である.

  • 力は,触れ合って働く接触力(垂直抗力,張力,摩擦力,弾性力,浮力と抵抗)と,離れて働く遠隔力(ほぼ重力)に分けて数える.接触力の正体は,触れ合う面の原子どうしの電気の力である.

  • 力を見つける手順:重力を描く → 触れているものを1つずつ数える → 相手の物体を言えない力は描かない.

  • 「遠心力」「投げ上げた力」「勢い」には,相手の物体がない.慣性系の立場で描く図には入れない.

  • 自由体図は,注目する物体を1つ選び,その物体が受ける力だけを,相手の名前つきの矢印で描く.物体が他に及ぼす力は描かない.

11斜面での力の分解と例題

自由体図を描いて,斜面で力を分解する数学の道具を使う例題です.

数学の道具

定理 数学の道具:斜面での力の分解

傾き θ の斜面に物体があるとき,座標軸を斜面に沿った向きと斜面に垂直な向きにとると,力が扱いやすくなる.重力 mg は鉛直下向きで,斜面に垂直な向きとのなす角が θ になる.したがって

斜面に沿って下向き: mgsin⁡θ,斜面に垂直で面に向かう向き: mgcos⁡θ

と分解できる.

角が θ になる理由は,次のとおりです.斜面と水平面のなす角が θ なら,斜面に垂直な直線と鉛直線のなす角も,同じ θ になる(互いに垂直な2直線の組を,同じ角だけ回しただけだからである).θ→0 の極端な場合を考えると,斜面が水平なので重力はすべて面に垂直で,mgcos⁡0=mg となり,確かに正しい式になっている.

練習 1. 傾き 60∘ の斜面上の質量 m の物体について,重力の斜面に沿った成分と,垂直な成分を求めよ.

練習 2. 傾き 30∘ の斜面上の質量 2.0kg の物体について,重力の斜面に沿った成分と垂直な成分を数値で求めよ(g=9.8ms−2).

練習 3. 傾き θ の斜面上の物体に,斜面に向かって水平に大きさ F の力を加える.この力の,斜面に沿って上向きの成分と,斜面に垂直で面に向かう成分を求めよ.

練習 4. 重力の斜面に沿った成分が,垂直な成分のちょうど半分になる斜面の傾き θ を求めよ.

答え:(1) 斜面に沿う成分は mgsin⁡60∘=32mg,垂直な成分は mgcos⁡60∘=12mg.(2) 沿う成分 2.0×9.8×12=9.8N,垂直な成分 2.0×9.8×32≈17N.(3) 水平と斜面のなす角が θ なので,斜面に沿って上向きの成分は Fcos⁡θ,面に向かう成分は Fsin⁡θ.(4) mgsin⁡θ=12mgcos⁡θ より tan⁡θ=12,θ≈27∘.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

傾き 30∘ の粗い斜面の上に,質量 2.0kg の箱が静止している.この箱の自由体図を描き,箱が受ける垂直抗力の大きさ N と,静止摩擦力の大きさ f を求めよ.

左が高く右が低い傾き30°の斜面とその上の箱.箱の中心を原点として,斜面に沿って下り向きを正とするx軸と,斜面に垂直なy軸をとる. 左が高く右が低い傾き30°の斜面とその上の箱.箱の中心を原点として,斜面に沿って下り向きを正とするx軸と,斜面に垂直なy軸をとる.
解答を見る

考え方 箱に触れているのは斜面だけなので,受ける力は重力,垂直抗力,摩擦力の3つである.静止しているので,斜面に沿う向きと垂直な向きのそれぞれで,力がつり合う.

自由体図には,鉛直下向きの重力 mg,斜面に垂直で面から出る向きの垂直抗力 N,斜面に沿って上向き(滑り落ちようとするのを妨げる向き)の静止摩擦力 f を描く.

傾き30°の斜面上の箱を点で描いた自由体図.鉛直下向きの重力mg,斜面に垂直で面から出る向きの垂直抗力N,斜面に沿って上向きの静止摩擦力fを描く.重力は斜面に沿う成分mg sin30°と垂直な成分mg cos30°に分けて点線で示す.NはN=mg cos30°,fはf=mg sin30°の長さで描く. 傾き30°の斜面上の箱を点で描いた自由体図.鉛直下向きの重力mg,斜面に垂直で面から出る向きの垂直抗力N,斜面に沿って上向きの静止摩擦力fを描く.重力は斜面に沿う成分mg sin30°と垂直な成分mg cos30°に分けて点線で示す.NはN=mg cos30°,fはf=mg sin30°の長さで描く.

斜面に垂直な向きのつり合いから

N=mgcos⁡30∘=2.0×9.8×32≈17N

斜面に沿う向きのつり合いから

f=mgsin⁡30∘=2.0×9.8×12=9.8N

を得る.摩擦力は μN とは限らず,静止している間は「必要なだけ」である(上限との比較は「摩擦」の節で扱う).

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 0.50kg の球を軽い糸で吊るし,球を滑らかな鉛直の壁に押しつけて静止させる.糸と壁のなす角は 30∘ で,糸は球の中心を通っているとする.球の自由体図を描き,糸の張力 T と,壁が球を押す力 N を求めよ.

滑らかな鉛直の壁の上端に固定した糸が斜めに伸び,その先に質量0.50 kgの球が壁に触れて吊るされている.糸と壁のなす角は30°で,糸は球の中心を通る. 滑らかな鉛直の壁の上端に固定した糸が斜めに伸び,その先に質量0.50 kgの球が壁に触れて吊るされている.糸と壁のなす角は30°で,糸は球の中心を通る.
解答を見る

考え方 球が触れているのは糸と壁だけである.壁は滑らかなので,壁が及ぼす力は面に垂直な水平方向の1つだけである.鉛直方向と水平方向でつり合いを立てる.

球には,鉛直下向きの重力 mg,糸に沿って壁の上端の向きに引く張力 T,壁から水平に押される垂直抗力 N が働く.糸が壁となす角を α=30∘ とすると,張力の鉛直成分は Tcos⁡α(上向き),水平成分は Tsin⁡α(壁に向かう向き)である.垂直抗力 N はこれとつり合って壁から遠ざかる向きに働く.

鉛直方向:Tcos⁡α=mg

水平方向:N=Tsin⁡α

これを解いて

T=mgcos⁡α=0.50×9.83/2≈5.7N,N=mgtan⁡α=0.50×9.8×13≈2.8N

となる.張力は重力 mg=4.9N より大きい.糸が斜めになっているぶん,水平方向の成分まで負担しているからである.

ポイント ここまでのまとめ

  • 自由体図は,注目する物体が受ける力だけを,相手の名前つきで描く.まず重力,次に触れているものを数える.

  • 斜面では,軸を斜面に沿う向きと垂直な向きにとる.重力の成分は,沿う向きが mgsin⁡θ,垂直な向きが mgcos⁡θ である.θ→0 の極端な場合で検算できる.

  • 静止摩擦力は「必要なだけ」働く力で,上限は μN である.常に μN とは限らない.

  • 力が3つ以上でも,成分ごとにつり合いを立てれば張力や垂直抗力が求まる.

12力の種類の演習

力を見つけて自由体図を描く演習です.どの問題でも,力を描く前に「注目する物体」を1つ決め,描いた矢印すべてについて相手の物体を言えるか確かめてください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

ボールを真上に投げ上げた.手を離れた後,最高点に達するまでの途中で,ボールに働く力をすべて挙げ,自由体図を描け.空気の抵抗は無視する.「投げ上げた力」は含まれるか.

手を離れて上昇しているボールと速度の向きを示す.自由体図の答えとなる力は描かない. 手を離れて上昇しているボールと速度の向きを示す.自由体図の答えとなる力は描かない.
解答を見る

考え方 手を離れた後のボールに触れているものは,空気だけである.空気の力は無視するので,あとは遠隔力の重力を考えればよい.

働く力は,地球から受ける重力 mg の1つだけで,向きは鉛直下向きである.上昇中も最高点でも,同じ力のみが働く.「投げ上げた力」は,手がボールに触れている間だけ手が及ぼした力であって,手を離れた後には存在しない.手を離れた後に上向きに進み続けるのは,慣性の法則(運動の状態を保つ性質)によるものである.上昇中のボールの加速度は下向きの g であり,速さが減っていくことと矛盾しない.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

水に浮かんで静止している,質量 m の木片に働く力を挙げ,自由体図を描け.また,浮力の大きさを求めよ.

水面に一部が沈んだ質量mの木片を示す.力や浮力の値は描かない. 水面に一部が沈んだ質量mの木片を示す.力や浮力の値は描かない.
解答を見る

考え方 木片に触れているものは水(と,上面の空気)である.水が及ぼす力は,浮力として上向きの1つにまとめて考える.

木片に働く力は,重力 mg(下向き)と,水から受ける浮力 Fb(上向き)の2つである.静止しているので合力は0であり

Fb=mg

となる.浮力が押しのけた水の重さに等しいこと(アルキメデスの原理)は「圧力と浮力」の節で学ぶ.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

滑らかな水平な机の上で,机に固定した点に糸で結ばれた小球が,その点のまわりを等速で円運動している.この場面を,ある生徒は次のように考えた.

「球には,中心に向かう糸の張力と,外向きの遠心力が働いていて,この2つがつり合っている.だから球は動かないはずだ.」

この考えのどこが間違っているかを,球に働く力を正しく数えて説明せよ.

固定点と小球を結ぶ糸,円軌道と速度の向きを示す.力を答える問題のため張力の矢印は描かない. 固定点と小球を結ぶ糸,円軌道と速度の向きを示す.力を答える問題のため張力の矢印は描かない.
解答を見る

考え方 球に触れているものは,机と糸である.それぞれが及ぼす力を数え,「遠心力」に相手の物体があるかどうかを確かめる.

小球に触れているのは机と糸だけである.働く力は,地球から受ける重力 mg(下向き),机から受ける垂直抗力 N(上向き),糸から受ける張力 T(中心向き)の3つである.鉛直方向は N=mg でつり合っている.水平方向に働く力は張力 T だけで,これはつり合う相手のない力である.

「遠心力」の相手の物体を指そうとしても,指せるものがない.したがって,慣性の法則が成り立つ観測者から見た自由体図に,遠心力は描かない.水平方向の合力が0でない(T だけがある)ので,球は中心向きの加速度をもつ.これは円運動の加速度であり,速度の向きが変わり続けることと合っている.もし本当に力がつり合っているなら,球は静止するか等速直線運動をするはずである.糸を切ると球が円の接線方向に飛んでいくことも,この見方と合っている.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

水平な机の上で静止している質量 m の本について,次の問いに答えよ.

質量mの本が水平な机に接して静止している.求める力の矢印は描かない. 質量mの本が水平な机に接して静止している.求める力の矢印は描かない.
  1. 本の自由体図に描かれる力を挙げよ.

  2. 「本に働く重力 mg」の反作用の力はどの物体のどの力か.また「机が本を押す垂直抗力 N」の反作用の力は何か.

  3. mg と N は作用・反作用の対か.そうでないなら,なぜ同じ大きさになるのか.

解答を見る

考え方 作用・反作用は「物体Aが物体Bに及ぼす力」と「物体Bが物体Aに及ぼす力」の対である.力の名前(重力・垂直抗力)ではなく,力を及ぼす物体と受ける物体で考える.

  1. 本に働く力は,地球から受ける重力 mg(下向き)と,机から受ける垂直抗力 N(上向き)の2つである.

  2. 重力 mg は「地球が本を引く力」なので,その反作用は「本が地球を引く力」で,大きさ mg,向きは上向き(地球の自由体図に描かれる力)である.垂直抗力 N は「机が本を押す力」なので,その反作用は「本が机を押す力」で,大きさ N,向きは下向き(机の自由体図に描かれる力)である.

  3. 作用・反作用の対ではない.mg と N はどちらも本に働く力であって,対になる2力は別々の物体に働くからである.同じ大きさになるのは,本の加速度が0という運動方程式の結果として N−mg=0 となるからである.その証拠に,本の上に手で下向きの力を加えると,mg は変わらないのに N は大きくなり,2つは等しくなくなる.

演習 5

オリジナル ★★☆☆☆

鉛直で粗い壁に,質量 m の物体を水平に大きさ F の力で押しつけたところ,物体は静止した.壁と物体の間の静止摩擦係数を μ とする.物体の自由体図を描いて,垂直抗力と摩擦力の大きさを求め,物体が滑り落ちないために必要な F の条件を求めよ.

粗い鉛直壁に物体を水平力Fで押しつける.座標の正方向を示す. 粗い鉛直壁に物体を水平力Fで押しつける.座標の正方向を示す.
解答を見る

考え方 物体に触れているのは壁と手である.手は水平に押すので,物体に働く力は,重力,手の力 F,壁の垂直抗力 N,壁との摩擦力 f の4つである.静止しているので,水平方向と鉛直方向でそれぞれつり合う.

水平方向:N=F.鉛直方向では,重力 mg が下向き,摩擦力 f は滑り落ちようとするのを妨げるので上向きである.つり合いから

f=mg

となる.静止摩擦力は最大でも μN=μF であるから,滑り落ちないための条件は f≤μN,すなわち mg≤μF である.よって

F≥mgμ

となる.押す力をこれより小さくすると,物体は滑り落ち始める.押す力を強くしても摩擦力 f は mg のままで,増えるのは垂直抗力と最大摩擦力の方である.

ポイント 教える人へ

  • 最初の問いでは,本に働く力を言葉で挙げさせてから,「それは何が何に及ぼした力か」を1つずつ言わせる.「本が机を押す力」「空気の力」は,ほぼ確実に出てくる.

  • よくあるつまずきは,物体が他に及ぼす力まで自由体図に描いてしまうことである.「この図は本の図なので,本が受ける矢印だけである」と,毎回言う.

  • 「遠心力」「勢い」「投げた力」を描くときは,相手の物体を指さしてもらう.指せなければ描けない,という手順を習慣にさせる.

  • 理解の確かめには,同じ状況で「本の自由体図」と「机の自由体図」を両方描かせて,どの矢印が作用・反作用の対になっているかを答えさせるのがよい.

  • 斜面の力の分解が出てきたら,角が θ になる理由を,斜面が水平のときの極端な場合で確かめさせる.

13垂直抗力と張力

問い

体重計に乗ったまま,エレベーターに乗っています.エレベーターが上昇し始めるとき,一定の速さで上昇しているとき,止まる直前で,体重計の目盛りはそれぞれどう変わるでしょうか.「重くなる」「変わらない」「軽くなる」のどれになるか,予想してみてください.

考えてみる

動き出す瞬間は体が床に押しつけられ,止まる直前は体がふわっと軽くなる感じがします.感覚どおりなら,上昇し始めるときは目盛りが増え,止まるときは減り,等速のときは止まっているときと同じはずです.

この予想は正しいのですが,理由を説明するには,目盛りが何を測っているかをはっきりさせる必要があります.体重計は,人が体重計を押す力を測って質量に換算します.その反作用として体重計が人を押し返す力が垂直抗力 N で,大きさは同じです.目盛りの変化は,この N の変化を意味します.

人には重力 mg(下向き)と垂直抗力 N(上向き)が働きます.運動方程式は,上向きを正として

ma=N−mgすなわちN=m(g+a)

です.上昇し始めるときは上向きに加速するので a>0,N>mg となり,目盛りは増えます.等速では a=0 で N=mg,止まる直前は上向きの速度が減るので a<0 となり,N<mg となって目盛りが減ります.

たとえば質量 60kg の人が大きさ 1.0ms−2 で加速し始めるとき,N=60×(9.8+1.0)=648N で,目盛りは約 66kg です.止まる直前に同じ大きさで減速するときは N=528N,目盛りは約 54kg になります.

ここで大切なのは,垂直抗力は,決まった値の力ではないということです.

垂直抗力:必要なだけ働く力

面は,物体が面の中に沈み込まないように,垂直な向きに押し返します.

ポイント 垂直抗力の性質

  • 垂直抗力は,面に垂直で,物体を面から押し出す向きに働く.

  • 大きさは,物体が面に食い込まない(面に垂直な向きの運動が拘束される)ために必要なだけ現れる.運動方程式から決まる値であり,あらかじめ mg と決まっているわけではない.

  • 面から引かれることはないので,常に N≥0 である.

上昇するエレベーターの例で N が変わったのは,人の加速度が変わったからです.人は床に沈み込まないので,人の加速度はエレベーターの加速度と同じでなければならず,その条件を満たすのに必要なだけ,床が押します.

面がなぜ,ちょうど必要なだけの力を出せるのかは,原子の大きさで見ると分かります.物体が面を押すと,面の原子どうしの結合が縮み,縮んだ分だけ押し返します.押し返す力が足りなければ,物体はさらに沈み込み,結合がもっと縮んで力が増えます.こうして,物体がそれ以上沈み込まなくなる所で落ち着きます.面はとても硬いばねなので,落ち着くまでの変形は目に見えないほど小さく済みます.面を,ばね定数 K のとても硬いばねとみなすと,めり込み Δy に対して N=KΔy です.同じ N を出すのに要るめり込みは Δy=N/K で,K が大きいほど小さくなります.K→∞ の極限では Δy→0 となり,N を K と Δy から求めることはできなくなります.N は,「めり込まない」という条件を満たすように運動方程式から逆算する未知数として残るのです.だから私たちは,面を「変形しない面」とみなし,垂直抗力を運動方程式から決めてよいのです.体重計は,わざと変形しやすい部分を中に入れて,この変形を測れるようにした道具だといえます.

ここで1つ考えてみてください.机がもし柔らかいばねだったら,本を載せた直後に何が起こるでしょうか.硬い机ではそれが目に見えないのはなぜでしょうか.第7章「振動」で,この問いに戻ってきます.

N≥0 という条件は,面から物体が離れるかどうかの判定に使えます.運動方程式から N を計算して負の値が出てしまったら,その状況は成り立たず,物体は面から離れています.境目は N=0 です.

張力:糸が引く力

糸は,ぴんと張っている間,物体を糸に沿って引きます.糸が引く力が張力 T で,張力も垂直抗力と同じく,必要なだけ現れる受動的な力です.

張力を,作用反作用の目で見直してみましょう.糸の一端を物体に結び,もう一端を手で引いているとします.先を読む前に,次の2つを紙に描いてみてください.

  • 糸と物体の結び目で,何が何を,どちら向きに引いているか.

  • 糸の途中に切り口を想像したとき,切り口の左右の部分は,それぞれ何から,どちら向きの力を受けているか.

結び目では,糸が物体を引き,物体が糸を引き返します.物体が受ける方が,物体に働く張力です.この2力は,結び目で向かい合う原子の組から生まれる作用反作用の対です.糸の途中でも,同じことが起きています.原子の大きさで見ると,糸は原子が結合でつながった鎖で,引かれた糸では結合がわずかに伸びています.切り口を想像すると,切り口の右の部分は左の部分を右へ引き,左の部分は右の部分を左へ引きます.この2力も作用反作用の対で,大きさが等しくなります.この大きさを,その切り口での張力といいます.張力とは,糸のどこに切り口をとっても現れる,1組の引き合う力の大きさなのです.

左の物体から右へ出た糸を,一列に並んだ8個の原子とばね状の結合で描いている.糸の結合は物体の結合よりわずかに長く,外から引かれて伸びた状態を示す.どの切り口でも左右の部分は大きさ T の力で互いに引き合い,物体と糸の境目でも,糸が物体を引く力と物体が糸を引く力は大きさ T で逆向きである. 左の物体から右へ出た糸を,一列に並んだ8個の原子とばね状の結合で描いている.糸の結合は物体の結合よりわずかに長く,外から引かれて伸びた状態を示す.どの切り口でも左右の部分は大きさ T の力で互いに引き合い,物体と糸の境目でも,糸が物体を引く力と物体が糸を引く力は大きさ T で逆向きである.

ここで注意したいのは,第3法則が決めるのは,1つの切り口の両側の力が等しいことだけだという点です.糸の別の場所の張力どうしが等しいかどうかは,第3法則からは出てきません.それを決めるのは,2つの切り口に挟まれた糸の部分の運動方程式です.

この本では,特に断らない限り軽い糸(質量が無視できる糸)を考えます.軽い糸には,次の大事な性質があります.

法則 軽い糸の張力

質量が無視できる糸が,途中に張力を変える接線方向の外力(粗い面との摩擦など)を受けず,有限の加速度で動くとき,張力は糸のどこでも同じ大きさである.

理由は,糸の一部を切り取って運動方程式を立てるとわかります.糸の一部(質量 ms)に,両端の大きさ T1,T2 の張力が逆向きに働くだけのとき,msa=T2−T1 です.質量が無視できる(ms→0)なら左辺は0になり,T1=T2 となります.T1≠T2 だとすると,質量のない糸の一部に有限の力が余り,加速度が無限大になってしまいます.結び目の対と合わせると,軽い糸は,手が糸を引く力をそのまま物体へ伝えることが分かります.次の節の例題1では,馬と荷車をつなぐロープで,この理屈を使います.

滑車の左右で張力が等しいわけ

なめらかな滑車(質量が無視できて,軸の摩擦もない滑車)にかけた軽い糸では,滑車の左右で張力が等しくなります.ただし,滑車にかかった部分の糸は曲がっていて,滑車から力を受けています.「途中に外力が無ければ」という上の理屈は,そのままでは使えません.なぜ左右で等しいといえるのか,先に自分で考えてから読んでください.2つの場合に分けて調べます.

1つ目は,回らない滑らかな棒に糸をかけた場合です.棒には摩擦がないので,棒が糸を押す力は,触れている所でいつも棒の面に垂直,つまり糸の向きに垂直です.糸の曲がった部分を短い小片に切り分けると,どの小片でも,棒からの力は糸に沿う成分をもちません.糸に沿う向きの運動方程式には小片の両端の張力しか入らないので,軽い糸なら,小片の両端の張力は等しくなります.小片を順につないでいけば,棒の左右で張力は等しくなります.棒が押す力は,糸の向きを変えるだけで,張力の大きさは変えないのです.

2つ目は,軸のまわりに回る滑車の場合です.糸は滑車の縁に対して滑らず,滑車と一緒に動きます.このとき,縁は糸に,糸に沿う向きの摩擦力を及ぼすことができます.左右の張力が違えば,その差はこの摩擦力が受け持つことになり,反作用として,糸は滑車の縁を同じ大きさで逆向きに引きます.縁を接線の向きに引く力は,滑車を回そうとします.軸が滑車を支える力は滑車の中心にかかるので,摩擦のない軸は回転を妨げません.すると,滑車の質量が無視できる場合,回そうとする力が少しでも残れば,質量のない糸の一部に力が余ったときと同じく,回転の加速が限りなく大きくなってしまいます.したがって,縁が糸に及ぼす摩擦力は0で,左右の張力は等しくなります.回そうとする働き(トルク)と回転の運動方程式は第8章「回転と剛体」で学び,質量のある滑車では左右の張力に差が出ることを,そこで確かめます.

糸が重い場合や,滑車に質量や軸の摩擦がある場合,糸が粗い柱に巻きついている場合は,張力が場所ごとに変わります.問題文の「軽い糸」「なめらかな滑車」は,ここまでの性質を使ってよいという意味です.

また,糸は伸び縮みしないと仮定します.実際の糸もごくわずかに伸びますが,運動の考察には関係しないほど小さいので無視します.この仮定が,次の節で述べる束縛条件を生みます.

棒が伝える力

棒も,糸と同じように力を伝えます.違いは,棒は押すこともできることです.押された棒では原子どうしの結合がわずかに縮み,元に戻ろうとして押し返します.糸を押すと横へ曲がってしまうのとは,ここが違います.

軽い棒の両端だけに力が働くとき,2つの力は大きさが等しく向きが逆です.理由は軽い糸と同じで,棒の運動方程式の左辺が0になるからです.さらに,2つの力は棒に沿った向きになります.なぜ棒に沿うのかを考えてみてください.ヒントは,大きさが等しく向きが逆の2力でも,同じ直線上になければ,棒を回そうとすることです.回転の運動方程式は第8章「回転と剛体」で扱い,そこでこの答えを確かめます.

滑らかな斜面の運動

傾き θ の滑らかな斜面(摩擦なし)を滑る質量 m の物体を考えます.物体には,重力 mg と,斜面から受ける垂直抗力 N だけが働きます.斜面に沿って下向きを x 軸,斜面に垂直な向きを y 軸とし,重力を分解すると,運動方程式は

max=mgsin⁡θ,may=N−mgcos⁡θ

です.ここで,物体は斜面から離れず,斜面に食い込みもしないので,y 方向の位置は一定です.このように,運動を縛る条件を束縛条件といいます.この場合は y=一定 で,時間で2回微分して ay=0 です.したがって

ax=gsin⁡θ,N=mgcos⁡θ

となります.加速度は質量によらず,斜面の傾きだけで決まります.θ=90∘ なら加速度は自由落下の g,垂直抗力は0になります.垂直な壁に沿って落ちるなら,壁は物体を押す必要がないからです.

ポイント ここまでのまとめ

  • 体重計の目盛りは垂直抗力 N を測っていて,上向き正で N=m(g+a) となる.問いの答えは,上昇し始めるとき増え,等速なら変わらず,止まる直前は減る,である.

  • 垂直抗力は面に垂直で,面に食い込まないために必要なだけ現れる.mg と決まっているわけではなく,N≥0 である.必要なだけ現れるのは,面の原子の結合が,押し返す力が足りるところまで縮むからである.

  • 張力は,糸の切り口の両側が引き合う作用反作用の対の大きさである.1つの切り口の両側で等しいのは第3法則による.

  • 軽い糸の張力が,途中に接線方向の外力(摩擦など)が無ければ糸のどこでも同じなのは,糸の部分の運動方程式による.なめらかな滑車の左右で張力が等しいのは,回らない滑らかな棒なら押す力が糸に垂直だからであり,回る軽い滑車なら左右の差が滑車を回そうとし,質量のない滑車ではそれが許されないからである.

  • 棒は押すことも引くこともできる.両端だけに力が働く軽い棒では,両端の力は等しく逆向きで,棒に沿う.

  • 運動を縛る条件を束縛条件という.滑らかな斜面では面に垂直な向きの加速度が0なので N=mgcos⁡θ,沿う向きは a=gsin⁡θ となる.

  • 糸は伸び縮みしないと仮定する.これが次の節で扱う,糸でつながれた物体の束縛条件のもとになる.

14束縛条件とアトウッドの機械

前の節で学んだ垂直抗力と張力を使って,糸でつながれた物体の運動を調べます.鍵になるのは,糸の長さが一定という束縛条件です.例題1では,その前に,ロープでつながった馬と荷車で,軽いロープが力をそのまま伝えることと,作用反作用の対の見分け方を確かめます.

数学の道具

糸の一端は天井に固定され,動滑車の下をくぐって上に戻り,天井の定滑車を越えて下がり,質量 m2 の物体につながる.動滑車には質量 m1 の物体が吊るされている.天井から動滑車の中心までの距離 x1 と,定滑車から物体までの距離 x2 を,ともに下向きに測る.糸は動滑車の両側で2本の線になる. 糸の一端は天井に固定され,動滑車の下をくぐって上に戻り,天井の定滑車を越えて下がり,質量 m2 の物体につながる.動滑車には質量 m1 の物体が吊るされている.天井から動滑車の中心までの距離 x1 と,定滑車から物体までの距離 x2 を,ともに下向きに測る.糸は動滑車の両側で2本の線になる.

定理 数学の道具:束縛条件(糸の長さと加速度の関係)

物体どうしが糸でつながれていたり,面に沿って動いたりするとき,それぞれの加速度は独立ではなく,関係をもつ.この関係を作る基本は,糸の長さが一定ということである.

定滑車 固定された滑車にかけた糸の両端の物体の位置を,下向きに x1,x2 と測る.糸の長さが一定なので x1+x2=一定 である.時間で2回微分すると a1+a2=0 となり,一方が下がると,他方は同じだけ上がる.

動滑車 天井に一端を固定した糸を動滑車の下にくぐらせ,反対側を天井の高さにある定滑車を通して別の物体につなぐ(上の図).天井から動滑車の中心までの距離を x1,定滑車から物体までの距離を x2 とすると,糸は動滑車の両側で2本の線になるので,全長は 2x1+x2+(一定) である.微分して

2a1+a2=0

となる.動滑車に吊るされた物体が d 下がると,反対側の物体は 2d 上がる.また,質量の無視できる動滑車は張力 T の糸2本に上向きに引かれてつり合うので,吊るされた物体を引き上げる力は 2T である.

手順

  1. 動く物体の位置を同じ向きの座標で表す.

  2. 糸の長さが一定という条件や,面から離れないという条件を,位置の式として書く.

  3. その式を時間で2回微分して,加速度の関係を得る.

  4. 各物体の運動方程式と連立させる.未知数(加速度と力)の数と,式の数を数えて確かめる.

練習. (1) 上の動滑車の装置で,動滑車に吊るされた物体が下向きに 0.50ms−2 で加速している.反対側の物体の加速度を求めよ.(2) 同じ装置で,反対側の物体を一定の速さ 0.60ms−1 で引き下ろすと,動滑車に吊るされた物体はどの向きに,どれだけの速さで動くか.

答え:(1) 2a1+a2=0 より a2=−1.0ms−2,すなわち上向きに 1.0ms−2.(2) 2v1+v2=0 で v2=+0.60ms−1(下向き)なので v1=−0.30ms−1,上向きに 0.30ms−1.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

質量 mh=400kg の馬が,質量 mc=200kg の荷車を,水平な地面の上で軽いロープで引いている.荷車は地面から進行方向と逆向きに一定の抵抗力 f=300N を受ける.馬と荷車は,進行方向に加速度 a=0.50ms−2 で動いている.ロープが荷車を引く力の大きさを T,地面が馬に及ぼす前向きの力の大きさを R とする.ロープは軽く,馬の足以外の地面の力は無視する.

  1. T を求めよ.

  2. R を求めよ.

  3. 荷車が馬を引き返す力の大きさは,T と比べてどうか.それなのに加速できる理由を,一文で述べよ.

馬がロープで荷車を引く.荷車の抵抗f,張力T,地面が馬を押す力Rを示す. 馬がロープで荷車を引く.荷車の抵抗f,張力T,地面が馬を押す力Rを示す.
解答を見る

考え方 馬と荷車をそれぞれ別の物体として扱い,それぞれに運動方程式を立てる.進行方向を正とする.

  1. 荷車に働く水平方向の力は,前向きの T と,後ろ向きの f である.運動方程式は mca=T−f なので

T=f+mca=300+200×0.50=400N

である.

  1. 馬に働く水平方向の力は,前向きの R と,ロープが馬を引き返す後ろ向きの力である.ロープが荷車を引く力の反作用は,荷車がロープを引く力で,ロープに働く.ロープが軽いので,ロープの運動方程式から,ロープの両端に働く力は等しい(この節の本体).よって,ロープが馬を引き返す力の大きさも T である.運動方程式は mha=R−T なので

R=T+mha=400+400×0.50=600N

である.

  1. 荷車は,ロープを通じて馬を T,すなわち 400N で引き返していて,馬がロープを通じて荷車を引く力と大きさが等しい.馬と荷車は直接触れていないので,この2力は作用反作用の対そのものではない.「荷車とロープ」「ロープと馬」の2組の対と,軽いロープの運動方程式を合わせて,等しいといえる.それでも加速できるのは,この2つの力が別々の物体に働いており,馬には地面から受ける前向きの力 R=600N も働いているからである.

検算として,系全体で考える.外力は R−f=600−300=300N,一方 (mh+mc)a=600×0.50=300N で,確かに一致する.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

軽い糸の両端に質量 M と m(M>m)の物体をつけ,固定された滑らかな滑車にかけたものを,アトウッドの機械という.静かに放したときの加速度の大きさ a と,糸の張力 T を求めよ.また,M=m と M≫m の場合を調べよ.

解答を見る
[図:アトウッドの機械]

天井から吊るした滑らかな定滑車に軽い糸がかかり,左端に質量 M の物体,右端に質量 m の物体がついている.M の方が重く,M が下がる向きに加速度 a(緑)で動く.糸の張力 T は両側で同じ大きさで,M には重力 Mg が下向きに,T が上向きに働き,Mg の方が大きい.m では T の方が mg より大きい.スライダーで M と m の比を変えると,力の矢印の長さと a,T の値が変わり,比が 1 のとき a は 0,比が大きいほど a は g に近づく.

考え方 M が下向きに加速度 a で動くとき,糸は伸びないので,m は同じ大きさ a で上向きに動く(束縛条件).軽い糸の張力は,糸のどこでも同じ T である.

M は下向き,m は上向き(それぞれ動く向き)を正として,運動方程式は

Ma=Mg−T,ma=T−mg

である.2式を足すと T が消えて (M+m)a=(M−m)g となり,

a=M−mM+mg,T=2MmM+mg

を得る.M=m なら a=0,T=mg で,つり合っている.M≫m なら a→g で,M は自由落下に近くなり,張力は T→2mg である.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

軽い糸の両端に質量 0.30kg と 0.20kg の物体をつけ,固定された滑らかな滑車にかけた.はじめ2つの物体は同じ高さで静止している.静かに手を離すと,重い方の物体が降下し始める.

  1. 加速度の大きさと,糸の張力を求めよ.

  2. 重い方の物体が,はじめの位置から 0.50m 下がるまでの時間を求めよ.

  3. 滑車を吊るしている部材が滑車を支える力の大きさを求め,2つの物体の重力の和と比べよ.

天井から軽い棒で吊るされた滑らかな滑車に軽い糸がかかり,左に質量 0.30 kg の物体,右に質量 0.20 kg の物体が,同じ高さに吊るされている. 天井から軽い棒で吊るされた滑らかな滑車に軽い糸がかかり,左に質量 0.30 kg の物体,右に質量 0.20 kg の物体が,同じ高さに吊るされている.
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考え方 糸は軽く,滑車は滑らかなので,張力は糸のどこでも同じである.糸の長さが一定なので,2つの物体の加速度の大きさは等しい.各物体の運動方程式を立て,連立させる.

  1. M=0.30kg,m=0.20kg として,例題 2 の結果を使う.

a=M−mM+mg=0.100.50×9.8≈2.0ms−2,T=2MmM+mg=2×0.30×0.200.50×9.8≈2.4N
  1. 初速度0の等加速度運動なので,0.50=12at2,すなわち

t=2×0.501.96≈0.71s
  1. 軽い滑車は,糸から下向きに T ずつ,あわせて 2T の力を受ける.力がつり合うので,部材が支える力は 2T≈4.7N である.重力の和は (M+m)g≈4.9N で,それより小さい.重い方が下向きに加速しているぶん,糸が支える力が減るからである.

例題 4

オリジナル ★★★☆☆

傾き 30∘ の滑らかな固定斜面の上に,質量 2.0kg の物体Aが置かれている.Aは軽い糸で,斜面の上端にある滑らかな定滑車を通して,斜面の外に吊るされた質量 3.0kg の物体Bとつながっている.Aは斜面に沿って動き,糸は斜面と平行である.はじめ静止していたものを放した.

  1. Aの加速度の大きさと,糸の張力を求めよ.

  2. Aが斜面から受ける垂直抗力を求めよ.

傾き 30° の固定された斜面の上端に定滑車がある.斜面上の質量 2.0 kg の物体 A から出た糸が,斜面に平行に滑車まで伸び,滑車を越えて鉛直に下がって,質量 3.0 kg の物体 B につながる. 傾き 30° の固定された斜面の上端に定滑車がある.斜面上の質量 2.0 kg の物体 A から出た糸が,斜面に平行に滑車まで伸び,滑車を越えて鉛直に下がって,質量 3.0 kg の物体 B につながる.
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考え方 Aが斜面を上がる向きとBが下がる向きは同時に起こり,糸の長さが一定なので,加速度の大きさは等しい.A,Bそれぞれの運動方程式を立てて連立させる.

加速度の大きさを a,張力を T,Aの質量を m=2.0kg,Bの質量を M=3.0kg とし,Aが斜面を上る向きと,Bが下がる向きを正とする.

  1. Aについて,斜面に沿って上向きの力は T,下向きの力は mgsin⁡30∘ だから

ma=T−mgsin⁡30∘

Bについて

Ma=Mg−T

2式を足して T を消すと (m+M)a=Mg−mgsin⁡30∘ となり

a=M−msin⁡30∘M+mg=3.0−1.05.0×9.8≈3.9ms−2

T=M(g−a) から

T=3.0×(9.8−3.92)≈18N
  1. Aの斜面に垂直な向きには加速度がないので,N=mgcos⁡30∘=2.0×9.8×32≈17N である.

ポイント ここまでのまとめ

  • アトウッドの機械では a=M−mM+mg,T=2MmM+mg.極端な場合(M=m,M≫m)で検算する.

  • 糸の長さが一定という条件を2回微分すると加速度の関係が得られる.動滑車がある場合は 2a1+a2=0 のように係数がつき,吊るされた物体を引く力は 2T である.

  • 未知数の数と式の数を数えてから連立させる.

  • 軽いロープでつながった2物体では,ロープが両端で同じ大きさの力を伝える.それは第3法則ではなく,ロープの運動方程式による.作用反作用の対は「荷車とロープ」「ロープと馬」の2組である.

15垂直抗力と張力の演習

斜面,吊るした物体,綱引き,糸でつながれた物体,動滑車を使って,垂直抗力と張力を求める練習をします.式を立てる前に,自由体図と束縛条件を整えてから解答を見てください.

演習

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

傾き 30∘ の滑らかな斜面の上で,長さ 2.0m の距離を静止状態から滑り下りる物体がある.滑り下りるのに要する時間と,その時の速さを求めよ.

30°の斜面に沿う下向きの軸と,滑る距離2.0 mを示す. 30°の斜面に沿う下向きの軸と,滑る距離2.0 mを示す.
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考え方 滑らかな斜面での加速度は gsin⁡θ である.これが一定なので,等加速度運動の式が使える.

加速度は a=gsin⁡30∘=4.9ms−2 である.L=12at2 より

t=2La=2×2.04.9≈0.90s

速さは

v=at≈4.9×0.90≈4.4ms−1

となる.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

天井から軽い糸で質量 m1 の球を吊るし,その下に別の軽い糸で質量 m2 の球を吊るして静止させた.上の糸の張力 T1 と下の糸の張力 T2 を,それぞれの球の自由体図から求めよ.

天井から二つの球を直列に吊るす.T₁とT₂はそれぞれの糸の張力の記号である. 天井から二つの球を直列に吊るす.T₁とT₂はそれぞれの糸の張力の記号である.
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考え方 球を1つずつ別の物体として選び,それぞれについてつり合いを立てる.下の球は,下の糸だけに支えられている.

下の球(質量 m2)には,重力 m2g(下向き)と,下の糸の張力 T2(上向き)が働く.静止しているので

T2=m2g

上の球(質量 m1)には,重力 m1g(下向き),上の糸の張力 T1(上向き),そして下の糸が球を引き下ろす力が働く.下の糸が下の球を引く力の反作用は,下の球が下の糸を引く力で,糸に働く.上の球を引き下ろすのは,下の糸のもう一方の端である.下の糸は軽いので,糸の運動方程式から両端の力は等しく,上の球も下の糸から下向きに T2 で引かれる.したがって

T1=m1g+T2=(m1+m2)g

となる.上の糸は,上下の球をあわせた重力を支えている.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

滑らかな水平面の上に,質量 2.0kg の物体Aと,質量 3.0kg の物体Bが軽い糸でつながって一直線に置かれている.

  1. Bを糸と逆の向きに水平な一定の力 10N で引いたときの加速度と,糸の張力を求めよ.

  2. この糸は 6.0N を超えると切れる.Bを引く力の大きさは,いくらまで大きくできるか.

  3. 力を加える物体をAにかえたときは,いくらまで大きくできるか.

水平面上のAとBを糸でつなぎ,Bを右向きの力Fで引く. 水平面上のAとBを糸でつなぎ,Bを右向きの力Fで引く.
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考え方 糸が張っている間,2つの物体は同じ加速度で動く.全体の運動方程式から加速度を求め,糸でつながれた一方の物体の運動方程式から張力を求める.

  1. 2つの物体の全体について,F=(mA+mB)a だから

a=FmA+mB=105.0=2.0ms−2

糸が引くのはAだけを加速させる力なので,T=mAa=2.0×2.0=4.0N である.

  1. 張力は T=mAmA+mBF と表され,F に比例する.T≤6.0N だから

F≤6.0×5.02.0=15N
  1. 力を加える物体がAのとき,糸が加速させるのはBであり,T=mBmA+mBF となる.T≤6.0N より

F≤6.0×5.03.0=10N

Aを引くと,糸が加速させるのは重いBなので,同じ F でも張力が大きくなり,限界の F が小さくなる.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

左右のチームが,軽い綱を引き合う綱引きをしている.綱はまだ動いていない(両チームは静止している).左チームが地面から受けられる静止摩擦力の最大値の合計は 2400N,右チームは 2000N であるとする.

  1. 静止している間,綱の張力 T と,左右のチームが地面から受ける摩擦力の関係を述べよ.

  2. 引く力を徐々に強めていったとき,どちらのチームが先に滑り出すか.そのときの綱の張力の大きさはいくらか.

  3. 「引く力が強い方が勝つ」という言い方は,どの点が不正確か.

二つのチームと軽い綱を示す.綱の張力Tと地面から受ける静止摩擦力を示す. 二つのチームと軽い綱を示す.綱の張力Tと地面から受ける静止摩擦力を示す.
解答を見る
  1. 軽い綱の両端の張力は等しく,これを T とする.左チームの全員に働く水平方向の力は,綱から受ける力 T(綱に引かれる向き)と,地面から受ける静止摩擦力の2つで,静止しているのでこれらはつり合う.したがって,左チームが受ける摩擦力の大きさは T,右チームも同様に T である.

  2. 摩擦力が最大値を超えられないので,張力 T が右チームの最大値 2000N に達した時点で,右チームが先に滑り出す.このとき左チームは,2400N までの余裕を残している.張力の大きさは 2000N である.

  3. 綱から受ける力の大きさは,どちらのチームにとっても同じ T である(第3法則).勝敗を決めているのは,「どれだけ強く引くか」ではなく,「地面からどれだけ大きな静止摩擦力を受けられるか」である.体重の大きなチームが有利なのは,地面を押す力(垂直抗力)が大きく,最大静止摩擦力も大きくなるからである.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

滑らかな水平な机の上に質量 m の物体Aがあり,軽い糸で机の端の滑らかな滑車を越えて下に垂れる.糸はそこから,質量 M の物体Bを吊るした動滑車の下をくぐって上に戻り,端が天井に固定されている.Aと机の端の滑車の間の糸は水平で,机の端の滑車と動滑車の間,動滑車と天井の間の糸はどちらも鉛直である.動滑車の質量は無視でき,糸はつねに張っているとする.

  1. Aの加速度の大きさ aA とBの加速度の大きさ aB の間の関係を,糸の長さが一定という条件から導け.

  2. aB と糸の張力 T を求めよ.

  3. m=0.50kg,M=2.0kg のときの aA と T の値を求めよ.

水平な机の上に質量 m の物体 A があり,水平な糸が机の端の定滑車を越えて下に降りる.糸は,質量 M の物体 B を吊るした動滑車の下をくぐって上に戻り,端が天井に固定されている. 水平な机の上に質量 m の物体 A があり,水平な糸が机の端の定滑車を越えて下に降りる.糸は,質量 M の物体 B を吊るした動滑車の下をくぐって上に戻り,端が天井に固定されている.
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考え方 糸の長さが一定という条件から,AとBの加速度の関係を作る.軽い動滑車に働く力はつり合っているので,Bを引く力は 2T である.

  1. 机の端の滑車から物体Aまでの距離を x,動滑車の中心の天井からの深さを y とする.糸は,Aから机の端の滑車まで長さ x,机の端の滑車から動滑車まで下がる部分と,動滑車から天井まで上がる部分で,あわせて 2y に定数を加えた長さになるので,全長は x+2y+(定数) であり,これが一定である.2回微分して ax+2ay=0.Bが下に d 動くと,Aは 2d だけ滑車の方へ動くので,大きさについて

aA=2aB
  1. Bについて,下向きを正にして MaB=Mg−2T.Aについて,糸の向きを正にして maA=T.これに aA=2aB を代入すると T=2maB となるから

MaB=Mg−4maB ⇒ aB=MM+4mg,T=2mMM+4mg
  1. aB=2.02.0+2.0×9.8=4.9ms−2 だから,aA=2aB=9.8ms−2,T=2maB=2×0.50×4.9=4.9N である.確認:Bに対して MaB=19.6−2T=9.8 となり,aB=4.9ms−2 と一致する.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

傾き θ の滑らかな斜面を持つ台があり,斜面上の質量 m の物体は,斜面に平行な軽い糸で斜面の上端につながれている.台を水平方向に加速させる.台の加速度は,斜面が上がっていく向きの水平方向に向けて A とする(斜面が下がる向きではない).ただし台と物体は,台に対して静止したまま動くとする.

  1. 垂直抗力 N と張力 T を A の関数で表せ.

  2. 物体が斜面から離れる A の条件と,その直前の張力を求めよ.

右上がりの斜面をもつ台の上に,質量 m の物体がある.物体は斜面に平行な糸で斜面の上端につながれている.斜面の傾きは θ.台は斜面が上がっていく向き(右向き)に加速度 A(緑の矢印)で動く. 右上がりの斜面をもつ台の上に,質量 m の物体がある.物体は斜面に平行な糸で斜面の上端につながれている.斜面の傾きは θ.台は斜面が上がっていく向き(右向き)に加速度 A(緑の矢印)で動く.
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考え方 物体は台と一緒に,水平方向(斜面が上がっていく向き)に加速度 A で動く.慣性の法則が成り立つ地面の観測者の立場で,物体に働く力を数え,水平・鉛直成分で運動方程式を立てる.

水平方向右を x,鉛直上向きを y とする.斜面が右上がりなので,斜面に沿って上向きの単位ベクトルは (cos⁡θ, sin⁡θ),面に垂直で外向きの単位ベクトルは (−sin⁡θ, cos⁡θ) である.物体には,張力 T(斜面に沿って上向き),垂直抗力 N(面に垂直で外向き),重力 mg(下向き)が働く.

x 方向: −Nsin⁡θ+Tcos⁡θ=mAy 方向: Ncos⁡θ+Tsin⁡θ−mg=0
  1. N を求めるには,第1式に −sin⁡θ,第2式に cos⁡θ をかけて足す.T を消去できて

N=m(gcos⁡θ−Asin⁡θ)

T を求めるには,第1式に cos⁡θ,第2式に sin⁡θ をかけて足す.

T=m(gsin⁡θ+Acos⁡θ)
  1. 物体が面から離れる条件は N=0 であり,gcos⁡θ−Asin⁡θ=0 より

A=gtan⁡θ

すなわち,台の加速度が A≥g/tan⁡θ になると,物体は斜面から離れる.離れる直前の張力は T=m(gsin⁡θ+gcos2⁡θsin⁡θ)=mgsin⁡θ である.A=0 とすると N=mgcos⁡θ,T=mgsin⁡θ となり,台が静止しているときの結果に戻る.

演習 7

オリジナル ★★★☆☆

なめらかな水平面上に,質量 m1=2.0kg,m2=3.0kg,m3=5.0kg の3つの物体が一列に並び,隣どうしが軽い糸でつながれている(糸1-2は物体1と2の間,糸2-3は物体2と3の間).糸が耐えられる張力の上限は,糸1-2が 9.0N,糸2-3が 30N である.

  1. 物体3を糸の方向に水平な力 F で引くとき,各糸の張力を F で表せ.

  2. 糸が切れない F の最大値と,先に切れる糸を答えよ.

  3. 今度は,物体1を,物体2のある側と反対の向きに力 F で引くとき,糸が切れない F の最大値を求めよ.

物体1,2,3と,糸1–2,糸2–3,右端を引く力Fを示す. 物体1,2,3と,糸1–2,糸2–3,右端を引く力Fを示す.
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考え方 全体の加速度は系全体で求め,糸の張力は糸の先にある物体の運動方程式から求める.軽い糸の両端の張力は等しい.

  1. 全体の質量は 10kg なので,加速度は a=F/10 である.糸2-3の張力 T23 は,物体1と物体2を加速させる力なので,(m1+m2)a=5.0×F/10=0.50F である.糸1-2の張力 T12 は,物体1だけを加速させる力なので,m1a=2.0×F/10=0.20F である.

  2. T12≤9.0 より F≤45N,T23≤30 より F≤60N である.よって F の最大値は 45N で,先に切れるのは糸1-2である.

  3. 物体1を引くとき,加速度は同じ a=F/10 である.糸1-2の張力は,物体2と3を加速させる力で,T12=(m2+m3)a=8.0×F/10=0.80F である.糸2-3の張力は,物体3だけを加速させる力で,T23=m3a=0.50F である.0.80F≤9.0 より F≤11.25N,0.50F≤30 より F≤60N である.よって F の最大値は約 11N で,糸1-2から切れる.

引く側に近い糸ほど,その先に続く物体の質量が大きいので,大きな張力を受ける.(2) と (3) で最大の F が大きく異なるのは,このためである.

ポイント 教える人へ

  • エレベーターの問いでは,予想を先に言わせる.「重く感じる」のは,体重計が人を押す力が増えたからだと言葉にできれば,垂直抗力は「必要なだけ働く」ことが伝わっている.

  • よくあるつまずきは,垂直抗力を常に mg とおいてしまうことである.斜面や加速する床では mg にならない.「この面は,物体に何をさせようとしているのか」と問う.

  • アトウッドの機械や動滑車の問題では,式を立てる前に「糸の長さが一定」から加速度の関係を作る習慣をつけさせる.未知数と式の数を数える確認も有効である.

  • 確かめとして,「軽い糸の張力が両端で同じ」理由を,糸の一部の運動方程式で説明させる.

  • 2つの球を糸で直列に吊るす問題では,「下の糸が上の球を引く力は,下の糸が下の球を引く力の反作用」という誤りが多い.反作用はいつも同じ2物体の間の力であることを確かめ,糸の両端の力が等しいのは糸の運動方程式によることを言わせる.

  • 動滑車の問題では,「Bが d 下がるとAはどれだけ動くか」を先に言わせると,束縛条件の立て間違いが減る.

16摩擦

問い

重い箪笥を床の上で押しても,なかなか動きません.ところが,いちど動き出すと,押す力が小さくて済むようになります.

  1. 動き出す前,箪笥を押す力が強くなっても動かないのは,なぜでしょうか.

  2. 床が箪笥に及ぼす摩擦力は,いつでも「摩擦係数 × 垂直抗力」でしょうか.

考えてみる

箪笥が動かないなら加速度は0で,合力も0です.押す力と同じ大きさで逆向きの力が,床から働いているはずです.力を強めても動かないなら,その逆向きの力も強まっています.つまり,動き出す前の摩擦力は,あらかじめ決まった大きさをもつのではなく,押す力に合わせて必要なだけ現れています.垂直抗力と同じ,受け身の力です.

ただし,この力にも限りがあります.押す力がある大きさを超えると,箪笥は動き出します.そして動き出してからの摩擦力は,動き出す直前の限界よりも小さくなります.押す力が小さくて済むのはそのためです.

この結果は,ばねばかりで物体を水平に引く実験で確かめられます.引く力を0から次第に大きくしていくと,物体が動き出すまでは目盛りが増えていき(静止摩擦力が引く力につり合っている),動き出す瞬間に目盛りが少し下がって,その後はほぼ一定になります.

[図:引く力と摩擦力のグラフ]

横軸が引く力 F,縦軸が摩擦力 f のグラフ.原点から傾き1の直線で,F が限界 μN に達するまで f は F に等しく増える.そこで物体が動き出し,f は少し低い一定の動摩擦力 μ′N に下がる.スライダーで引く力を0から大きくすると,いまの点と,静止か滑っているかの状態が表示される.初期状態は静止摩擦力の途中.

したがって,冒頭の問いの答えは次のとおりです.動き出す前は,摩擦力が押す力に合わせて現れるので,押しても動きません.摩擦力はいつでも「係数 × 垂直抗力」なのではありません.静止摩擦力が μN になるのは動き出す限界の瞬間だけで,すでに滑っているときは動摩擦力 μ′N になります.

静止摩擦と動摩擦

法則 摩擦力の法則

面に接している物体について,垂直抗力の大きさを N とする.

静止摩擦力 は,物体が面に対して滑っていない間,面に沿って働き,運動方程式から決まる大きさをとる.その大きさ f には上限があり

0≤f≤μN

である.μ を静止摩擦係数という.

動摩擦力 は,物体が面に対して滑っている間,滑る向きと逆向きに働き,大きさは

f′=μ′N

である.μ′ を動摩擦係数といい,速さや接触面積にはほとんどよらない.同じ面の組合せでは μ′≤μ であることが多い.

この法則は実験でわかった近似の関係で,厳密な原理ではありませんが,ふつうの固体の面ではよく成り立ちます.

摩擦の向き

摩擦力の向きは,「物体の運動と逆」とは限りません.正確には,接触している2つの面の相対的な運動を妨げる向きです.

たとえば,ベルトコンベアに乗った荷物を前に運ぶのは,ベルトからの摩擦力です.地面を蹴って歩く人が前に進めるのも,足と地面の間の静止摩擦力のおかげです.摩擦力は物体を止めるだけでなく,動かす力にもなります.

摩擦力にも反作用があります.床が箪笥に及ぼす摩擦力の反作用は,箪笥が床に及ぼす摩擦力で,床に働きます.歩く人では,地面が足に前向きの静止摩擦力を及ぼし,足は地面に後ろ向きの摩擦力を及ぼします.すると地球は,歩く人と逆向きにわずかに加速しているはずです.その加速度がどれくらいか,「作用と反作用」の節の地球とリンゴの計算にならって見積もってみてください.

摩擦の微視的な由来

「作用と反作用」の節の終わりに,箪笥を押しても動かないとき,床が箪笥を押し返す横向きの力はどの原子の組から生まれるか,という問いを残しました.自分の予想を思い出してから読んでください.

面は,どんなに磨いても原子の大きさで見ればでこぼこです.2つの面が実際に接しているのは,見かけの面積よりはるかに小さな点の集まりで,そこでは原子どうしが引き合って付着しています.

上下の物体の接する面は原子の大きさで見ると凹凸があり,実際に触れているのは3か所の突起の先だけで,ほかの所にはすき間がある.上の物体が右へ押されると,接点をまたぐ結合が横に引きのばされ,上の原子には左向き,下の原子には右向きの摩擦力が大きさを等しくして働く. 上下の物体の接する面は原子の大きさで見ると凹凸があり,実際に触れているのは3か所の突起の先だけで,ほかの所にはすき間がある.上の物体が右へ押されると,接点をまたぐ結合が横に引きのばされ,上の原子には左向き,下の原子には右向きの摩擦力が大きさを等しくして働く.

この図から,静止摩擦力が「必要なだけ」現れる理由が見えてきます.箪笥を横へ押すと,接点の原子どうしの結合が横へわずかに引き伸ばされ,元に戻ろうとして押す向きと逆に引き返します.押す力を強めると結合はもっと伸び,引き返す力も強くなります.垂直抗力のときに面の結合が縮んだのと同じしくみで,向きが面に沿っているだけです.ただし,結合の伸びには限りがあり,伸びきると接点がちぎれて,箪笥は滑り出します.これが静止摩擦力の上限です.接点の原子の組は1組ずつ作用反作用の対になっているので,箪笥が床から受ける摩擦力と,床が箪笥から受ける摩擦力は,大きさが等しく逆向きです.

押しつける力を増やすと,でこぼこの先がつぶれて,実際の接触面積がほぼそれに比例して増え,ちぎるべき接点も増えます.これが,摩擦力が垂直抗力 N に比例する理由のごく簡単な説明です.見かけの接触面積によらないのも,同じ理由です.見かけの面積を2倍にしても,同じ重さなら1か所あたりの押しつけが半分になり,実際に接している面積の合計はほとんど変わりません.

動き出すと摩擦が小さくなる理由は,この簡単な絵だけでは説明しきれず,今も研究が続いています.滑っている間は接点がちぎれては付き直すことを繰り返していて,静止しているときほど付着が育つ時間がない,というのが1つの見方です.

斜面で滑り出す角

粗い斜面の上に物体を置いて,斜面を少しずつ傾けていきます.物体が静止しているうちは,斜面に沿った向きのつり合いより,摩擦力は f=mgsin⁡θ,垂直抗力は N=mgcos⁡θ です.傾きを増やすと f は増え,N は減ります.f が限界 μN に達する瞬間に物体は滑り出します.その角を θ0 とすると

mgsin⁡θ0=μmgcos⁡θ0∴μ=tan⁡θ0

となります.質量 m が消えているので,この角は物体の重さによりません.斜面を傾けるだけで,静止摩擦係数がはかれます.一定の速さで滑り下りる傾きを調べれば,動摩擦係数も μ′=tan⁡θ ではかれます.

摩擦の問題の解き方

摩擦の問題では,最初に「滑っているのか,滑っていないのか」がわかりません.そこで,次の手順をとります.

ポイント 摩擦の問題の手順

  1. 滑っていないと仮定して,静止摩擦力 f を運動方程式から求める(加速度が0ならつり合いの式になる).

  2. f≤μN を確かめる.はじめに面に対して静止していた(相対速度が0だった)物体なら,満たしていれば仮定が正しく,この f が答えである.

  3. 満たしていなければ仮定が誤り.また,はじめから面に対して動いている物体は,この判定をせず滑っているとみなす.滑っているとして,摩擦力を μ′N(向きは相対運動と逆)に置き直して解く.

重ねた物体や斜面上で動く物体では,どの面で滑るのかが複数の可能性をもちます.その場合は,面ごとに「滑るかどうか」を調べます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 静止摩擦力は運動方程式から決まる「必要なだけ」の力で,上限は 0≤f≤μN.動摩擦力は滑る向きと逆向きに f′=μ′N である.

  • 問いの答えは,動き出す前は押す力に合わせて摩擦力が増えるので動かない,摩擦力が係数 × 垂直抗力になるのは,静止摩擦力が限界の μN に達した瞬間と,滑っているときの μ′N だけ,である.

  • 摩擦力の向きは相対運動を妨げる向きで,物体を動かす力にもなる.摩擦力にも,相手の面に働く反作用がある.

  • 摩擦力と垂直抗力は,接点で向かい合う原子の組の電気の力を,面に沿う向きと垂直な向きに分けたものである.静止摩擦力が必要なだけ現れるのは,接点の結合が横に伸びて引き返すからで,伸びきって接点がちぎれると滑り出す.

  • 斜面を傾けて滑り出す角から μ=tan⁡θ0 が得られ,質量によらない.

  • 解くときは,滑っていないと仮定して f≤μN を確かめ,だめなら動摩擦力に置き直す.

17摩擦と三角関数の合成

斜めに引く力のように,角度で大きさが変わる量の最大・最小を調べるには,三角関数の合成が役に立ちます.まずその道具を用意し,そのあと摩擦の例題を解きます.合成は,演習の節で箱を斜めに引く問題などで使います.

定理 数学の道具:三角関数の合成

acos⁡θ+bsin⁡θ(a,b>0)は,次のように1つの三角関数にまとめられる.

acos⁡θ+bsin⁡θ=a2+b2cos⁡(θ−α),tan⁡α=ba

導出は,a2+b2 でくくり,cos⁡α=a/a2+b2,sin⁡α=b/a2+b2 となる α をとって,加法定理 cos⁡(θ−α)=cos⁡θcos⁡α+sin⁡θsin⁡α を使う.最大値は a2+b2(θ=α のとき)である.斜めに引く力の最適な角度のように,角度で変わる量の最大・最小を求めるときに使う.

練習 1. 3cos⁡θ+sin⁡θ を rcos⁡(θ−α) の形にし,最大値とそのときの θ を求めよ.

練習 2. 3cos⁡θ+4sin⁡θ の最大値と,そのときの tan⁡θ を求めよ.

練習 3. cos⁡θ+0.50sin⁡θ(0≤θ≤90∘)の最大値と,そのときの θ を求めよ(摩擦係数 0.50 の床で斜めに引くときに出てくる形).

答え:(1) r=3+1=2,tan⁡α=1/3 より α=30∘.最大値は 2,そのとき θ=30∘.(2) 9+16=5,tan⁡θ=43(θ≈53∘).(3) 1+0.25≈1.12,tan⁡θ=0.50 より θ≈27∘.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

粗い板の上に物体を置き,板をゆっくり傾けていくと,傾きが 30∘ になったとき物体が滑り出した.

  1. 物体と板の間の静止摩擦係数 μ を求めよ.

  2. 滑り出したあと,傾きを 30∘ に保っておく.物体と板の間の動摩擦係数が μ′=0.50 のとき,物体の加速度の大きさと,2.0m 滑り下りたときの速さを求めよ.

解答を見る
傾き 30° の板の上に質量 m の物体がある.板に沿って下向きに x 軸,板に垂直に y 軸をとる.物体には,鉛直下向きの重力 mg,板に垂直な垂直抗力 N,板に沿って上向きの摩擦力が,赤い矢印で働いている. 傾き 30° の板の上に質量 m の物体がある.板に沿って下向きに x 軸,板に垂直に y 軸をとる.物体には,鉛直下向きの重力 mg,板に垂直な垂直抗力 N,板に沿って上向きの摩擦力が,赤い矢印で働いている.

考え方 滑り出す直前は,静止摩擦力がちょうど限界 μN に達している.滑り出したあとは,摩擦力が動摩擦力 μ′N に変わる.どちらも,板に垂直な向きのつり合いから N=mgcos⁡θ が使える.

  1. 滑り出す直前に,静止摩擦力が最大値になっているので,μ=tan⁡θ0 であり

μ=tan⁡30∘=13≈0.58
  1. 滑っている間は,板に垂直な向きは N=mgcos⁡30∘ で,摩擦力は板に沿って上向きの μ′N である.板に沿って下向きを正とした運動方程式は

ma=mgsin⁡30∘−μ′mgcos⁡30∘
a=g(sin⁡30∘−μ′cos⁡30∘)=9.8×(0.50−0.50×0.866)≈0.66ms−2

静止状態から 2.0m 滑り下りたときの速さは v=2aL=2×0.66×2.0≈1.6ms−1 である.

μ′=0.50 は μ≈0.58 より小さく,μ′≤μ を満たしている.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

水平な床の上に質量 M=4.0kg の板があり,その上に質量 m=1.0kg の物体が載っている.板に水平方向の力 F を加えて引く.床と板の間の静止摩擦係数は μ1=0.30,動摩擦係数は μ1′=0.25 で,板と物体の間の静止摩擦係数は μ2=0.40 である.

  1. 板と物体が動き出す(静止状態でなくなる)ための F の条件を求めよ.

  2. 板と物体が一体となって動く(物体が板の上で滑らない)ための F の条件を求めよ.

水平な床の上に質量 M の板があり,その上に質量 m の物体が載っている.板に水平右向きの力 F(赤い矢印)が加わっている.床と板の間の静止摩擦係数は μ1,動摩擦係数は μ1′,板と物体の間の静止摩擦係数は μ2. 水平な床の上に質量 M の板があり,その上に質量 m の物体が載っている.板に水平右向きの力 F(赤い矢印)が加わっている.床と板の間の静止摩擦係数は μ1,動摩擦係数は μ1′,板と物体の間の静止摩擦係数は μ2.
解答を見る

考え方 動き出すのは,床と板の間の静止摩擦力が限界に達したときである.一体で動いている間は,物体を加速させる力は,板から受ける静止摩擦力だけである.その大きさが μ2N 以下であることが,滑らない条件になる.

  1. 床と板の間の垂直抗力は,板と物体をあわせた重力を支えるので N1=(M+m)g である.動き出すには F が床との静止摩擦力の最大値を超える必要があるので

F>μ1(M+m)g=0.30×5.0×9.8=14.7N
  1. 一体で動く間の加速度を a とする.床との摩擦は動摩擦力 μ1′N1 になっているので,板と物体の全体の運動方程式は

(M+m)a=F−μ1′(M+m)g∴a=FM+m−μ1′g

物体にだけ注目すると,物体を加速させるのは板からの静止摩擦力 f2 だけなので ma=f2.滑らない条件 f2≤μ2mg より,a≤μ2g である.これに上の a を入れて

FM+m−μ1′g≤μ2g∴F≤(μ1′+μ2)(M+m)g=0.65×5.0×9.8≈32N

以上から,一体で動く条件は 14.7N<F≤32N である.F が 32N を超えると,物体は板の上で滑り始める.

なお,この範囲が存在するには μ1′+μ2>μ1 が必要である.

ポイント ここまでのまとめ

  • acos⁡θ+bsin⁡θ=a2+b2cos⁡(θ−α)(tan⁡α=b/a)で,最大値は a2+b2 である.

  • 斜面で滑り出した直後は,限界の静止摩擦力 μN から動摩擦力 μ′N に変わり,加速度は a=g(sin⁡θ−μ′cos⁡θ) となる.

  • 重ねた物体では,面ごとに滑るかどうかを調べる.上の物体を加速するのは下の物体からの静止摩擦力だけなので,滑らない条件は a≤μ2g である.

18摩擦の演習

静止か滑っているかを最初に決める習慣をつけるための演習です.摩擦力を μN とおく前に,「滑っているか」「摩擦力の向きは相対運動のどちら向きか」を言葉にしてから解答を見てください.

演習

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

水平な床の上を,初速度 6.0ms−1 で滑る物体が,動摩擦力だけを受けて止まるまでの距離と時間を求めよ.動摩擦係数は 0.30 とする.

解答を見る
右へ滑る物体に重力,垂直抗力,動摩擦力が働く.矢印の長さは力の大きさの比ではない. 右へ滑る物体に重力,垂直抗力,動摩擦力が働く.矢印の長さは力の大きさの比ではない.

考え方 物体を止めるのは動摩擦力だけである.これが一定の力なので,等加速度運動として扱える.

滑っている間の垂直抗力は N=mg で,動摩擦力は μ′mg,向きは運動と逆である.運動方向を正とすると,運動方程式は ma=−μ′mg だから

a=−μ′g=−0.30×9.8=−2.94ms−2

止まるまでの時間は t=v0/(μ′g)=6.0/2.94≈2.0s.距離は

x=v022μ′g=6.022×2.94≈6.1m

である.質量 m が消えるので,同じ初速度なら軽くても重くても同じ距離で止まる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

水平なベルトコンベアが一定の速さ 2.0ms−1 で動いている.初速度0の荷物をそっとベルトの上に置く.荷物とベルトの間の動摩擦係数は 0.40 である.

  1. 荷物がベルトと同じ速さになるまでの時間と,その間に荷物が地面に対して進む距離を求めよ.また,荷物がベルトの上で滑った距離を求めよ.

  2. ベルトを水平から角 θ 傾けて,上向きに動かす.荷物が滑らずに運ばれるための静止摩擦係数 μ の条件を求めよ.ただしベルトは等速で動いている.

解答を見る
水平なベルトと上向きに動く傾いたベルトに荷物を載せる.ベルトの進む向きを示す. 水平なベルトと上向きに動く傾いたベルトに荷物を載せる.ベルトの進む向きを示す.

考え方 荷物に水平方向に働く力は,ベルトからの摩擦力だけである.ベルトに対して荷物は後ろへ滑るので,摩擦力は荷物を進行方向へ押す向きに働く.荷物の速さがベルトと同じになると,滑りがなくなって,摩擦力が変わる.

  1. 滑っている間,荷物には前向きに μ′mg の動摩擦力が働く.加速度は a=μ′g=0.40×9.8=3.92ms−2 である.ベルトの速さ V=2.0ms−1 に達する時間は

t=Va=2.03.92≈0.51s

その間に荷物が地面に対して進む距離は V22a=4.07.84≈0.51m である.同じ時間にベルトは Vt≈1.02m 進むから,荷物がベルトに対して滑った距離はその差の約 0.51m である.速さが一致したあとは滑りがなく,荷物は等速で運ばれ,摩擦力は0になる.

  1. 荷物の加速度は0なので,ベルトに沿って上向きの静止摩擦力 f は,重力のベルトに沿う成分とつり合う.

f=mgsin⁡θ,N=mgcos⁡θ

滑らない条件 f≤μN より,μ≥tan⁡θ である.これは,斜面の上で物体が静止していられる条件と同じである.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

傾き 30∘ の粗い斜面の上に,質量 10kg の物体が置かれている.物体と斜面の間の静止摩擦係数は 0.70,動摩擦係数は 0.50 である.斜面に平行に,斜面に沿って上向きに物体を押す.

  1. 押さなくても物体は斜面の上で静止していることを確かめ,物体が動き出すのに必要な押す力の最小値を求めよ.

  2. 動き出したあと,一定の速さで押し上げるのに必要な力を求めよ.

30°の斜面に沿って上向きの力Fを加える.摩擦の状態は設問で判断するため,未確定の摩擦力は描かない. 30°の斜面に沿って上向きの力Fを加える.摩擦の状態は設問で判断するため,未確定の摩擦力は描かない.
解答を見る

考え方 押し上げようとするとき,摩擦力は斜面に沿って下向きに働く.動き出す瞬間は静止摩擦力が限界,動いているときは動摩擦力である.

斜面に垂直な向きのつり合いより,N=mgcos⁡30∘=10×9.8×0.866≈84.9N.重力の斜面に沿う成分は mgsin⁡30∘=49N である.

  1. 押さないとき,静止に必要な摩擦力は mgsin⁡30∘=49N,最大静止摩擦力は μN=0.70×84.9≈59N で,前者が小さいので静止している(μ=0.70>tan⁡30∘≈0.58).押し上げると摩擦力は減って向きが逆になり,動き出す直前は,押す力 F1 が重力の成分に最大静止摩擦力を加えたものにつり合う.

F1=mgsin⁡30∘+μN=49+0.70×84.9≈1.1×102N
  1. 一定の速さで動いているときは加速度が0で,摩擦力は動摩擦力 μ′N である.

F2=mgsin⁡30∘+μ′N=49+0.50×84.9≈91N

動き出す力より,動いている間に必要な力の方が小さい.動き出す瞬間にだけ強い力が要ることは,冒頭の箪笥の例と同じである.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

水平な床の上にある質量 m の箱を,水平から角 φ だけ上向きの力 F で引いて,一定の速さで動かす.床との動摩擦係数を μ′ とする.

  1. F を φ の関数で表せ.

  2. F が最小になる角 φ0 と,そのときの F の値を求めよ.

  3. μ′=0.50 のとき,φ0 と,Fmin/mg の値を求め,水平に引く場合(φ=0)と比べよ.

箱を水平から角φだけ上向きの力Fで引く.mg,N,動摩擦力を示す. 箱を水平から角φだけ上向きの力Fで引く.mg,N,動摩擦力を示す.
解答を見る

考え方 斜めに引くと,水平成分で箱を進めると同時に,鉛直成分で垂直抗力を減らして摩擦力を小さくする.この2つの効果の兼ね合いで,最適な角度が決まる.

  1. 鉛直方向のつり合いから N=mg−Fsin⁡φ.水平方向の等速の条件から Fcos⁡φ=μ′N.N を消去して

Fcos⁡φ=μ′(mg−Fsin⁡φ)∴F=μ′mgcos⁡φ+μ′sin⁡φ
  1. F が最小になるのは,分母 cos⁡φ+μ′sin⁡φ が最大のときである.三角関数の合成より

cos⁡φ+μ′sin⁡φ=1+μ′2cos⁡(φ−φ0),tan⁡φ0=μ′

だから,φ=φ0 のとき分母が最大値 1+μ′2 をとり

Fmin=μ′mg1+μ′2

となる.最適な角は tan⁡φ0=μ′ である.

  1. μ′=0.50 のとき,tan⁡φ0=0.50 より φ0≈27∘.Fmin/mg=0.50/1.25≈0.45 である.水平に引く場合は F/mg=0.50 だから,約 10 % だけ小さい力で済む.ただし Fsin⁡φ0<mg なので,箱が床から浮くことはない.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

滑らかな水平な床の上に,質量 M=3.0kg の板があり,その上に質量 m=1.0kg の物体が載っている.板と物体の間の静止摩擦係数は 0.40,動摩擦係数は 0.30 である.

  1. 物体を水平に力 F で引く場合に,物体が板の上で滑らずに一体で動くための F の最大値を求めよ.

  2. 板を水平に力 F で引く場合に,同じ条件の F の最大値を求めよ.

  3. 物体を F=20N で引いたとき,物体と板の加速度をそれぞれ求めよ.

板上の物体を引く場合と板を引く場合を示す.内部の摩擦の向きは図から考える. 板上の物体を引く場合と板を引く場合を示す.内部の摩擦の向きは図から考える.
解答を見る

考え方 床が滑らかなので,床の摩擦は考えなくてよい.物体と板の間の摩擦力だけを考える.一体で動いている間の加速度は F/(M+m) で,引く物体によって,どちらの物体が摩擦力だけで加速されるかが変わる.

垂直抗力(物体と板の間)は N=mg=9.8N で,最大静止摩擦力は μN=0.40×9.8=3.92N である.

  1. 物体を引くとき,板を加速させるのは物体からの摩擦力 f だけなので,Ma=f.一体の加速度は a=F/(M+m) だから f=MF/(M+m) となる.これが μmg 以下であればよいので

MM+mF≤μmg∴F≤M+mMμmg=4.03.0×3.92≈5.2N
  1. 板を引くとき,物体を加速させるのは板からの摩擦力 f だけなので,ma=f.f=mF/(M+m) となる.これが μmg 以下であればよいので

mM+mF≤μmg∴F≤(M+m)μg=4.0×0.40×9.8≈16N

板を引く方が,物体を引くより約3倍の力まで一体で動く.

  1. 20N は (1) の限界 5.2N を超えるので,滑る.物体と板の間には動摩擦力 f′=μ′mg=0.30×9.8=2.94N が働く.物体は引かれる向きに F−f′,板には引かれる向きに f′ の力を受けるので

a物=F−f′m=20−2.941.0≈17ms−2,a板=f′M=2.943.0≈0.98ms−2

である.物体の方が大きな加速度をもつので,板の上を前へ滑っていく.

ポイント 教える人へ

  • 冒頭の問いでは,「箪笥を押しても動かないとき,床は箪笥にどれだけの力を及ぼしているか」を数値で答えさせる.「押す力と同じ」と答えられれば,静止摩擦が「必要なだけ」の力だと理解できている.

  • よくあるつまずきは,摩擦力をいつでも μN としてしまうことである.解くときは「滑っているか」を先に決め,静止なら f≤μN を確かめる習慣をつけさせる.

  • 摩擦の向きは「運動と逆」ではなく「相対運動と逆」である.ベルトコンベアの荷物や歩く人の例で,摩擦力が物体を動かす場合があることを確かめさせる.

  • 重ねた物体の問題では,「どの面で滑るか」「だれがだれを加速するか」を,物体ごとの運動方程式で整理させる.

  • 確かめとして,斜面で滑り出す角から静止摩擦係数をはかる方法を,式で説明させる.質量が消えることを自分で見つけさせると効果的である.

19空気抵抗と終端速度

問い

雨粒は,数kmも上空の雲から落ちてきます.かりに高さ 2km から空気抵抗なしで自由落下したとすると,地面に着くときの速さはどれほどになるはずでしょうか.先に計算し,雨に降られたときの感触と比べてみましょう.

考えてみる

自由落下の速さは v=2gh です.g=9.8ms−2,h=2000m を入れると

v=2×9.8×2000≈2.0×102ms−1

となり,時速約 710km です.実際の雨粒は,大きなものでも毎秒10m弱で,計算とは約20倍の差があります.

差を生むのは空気です.速い物体ほど空気を強く押しのけ,押し返す力も大きくなります.落下が速くなるにつれて抵抗が増し,重力との差が小さくなっていきます.合力は0に近づき,物体はほぼ一定の速さで落ちるようになります.この速さが終端速度です.厳密には,終端速度に限りなく近づくだけでぴったりには達しませんが(あとで解の形で確かめます),実用上は十分に近づいた状態と考えます.

ただし,抵抗力は速さで変わるので加速度も変わり,等加速度運動の公式 v=v0+at は使えません.運動方程式をそのまま解く必要があり,そのための数学を次の節で初めて使います.この節では,抵抗力のモデルと終端速度,そして解の形を先に調べます.

抵抗力のモデル

定義 抵抗力

流体(空気や水)の中を動く物体は,流体に対する相対速度 v と逆向きの力を受ける.これを抵抗力という.大きさは相対速度の大きさ v に依存し,単純なモデルとして次の2つを使う.

  • 線形抵抗:F=−kv(k は正の定数)

  • 2乗抵抗:F=−cvv,大きさは F=cv2(c は正の定数)

線形抵抗は小さな物体のゆっくりした運動や粘い液体中で,2乗抵抗は大きな物体や速い運動,空気中でよく合う.この節では流体が地面に対して静止しているとし,v を地面に対する速度と同じに扱う.追い風や流れる水の中では,相対速度で考える.

2乗になるのは,断面積 A の物体が単位時間に押しのける空気の質量が ρAv(ρ は密度),その空気に与える速さもおよそ v なので,力が ρAv2 に比例するからです.c=12CρA(C は形で決まる 1 程度の数)と書かれます.

雨粒は2乗抵抗ですが扱いにくいので,まず線形抵抗で運動の様子をつかみ,そのあと2乗抵抗を調べます.

運動方程式と終端速度

鉛直下向きを x 軸の正の向きにとり,物体の速度を v(下向きが正)とします.働く力は重力 mg(正の向き)と,上向きの抵抗力 −kv です.運動方程式は

mdvdt=mg−kv

となります.左辺に v の微分があるので,これは微分方程式です.

終端速度は,この式を解かなくても求まります.加速度が0になる状態では dvdt=0 なので

mg−kv∞=0⟹v∞=mgk

です.

2乗抵抗でも同じです.mdvdt=mg−cv2 で dvdt=0 とおくと

v∞=mgc

です.半径 1mm の雨粒のモデルでは(演習 4 で求めるように)v∞≈6.6ms−1 です.自由落下の 2.0×102ms−1 の約30分の1で,実際の大きな雨粒の 9ms−1 ほどとも同じ桁です.空気抵抗が速さを桁違いに抑えている,これが問いの答えです.

線形抵抗の落下

運動方程式 mdvdt=mg−kv の解を調べます.τ=m/k,v∞=mg/k(このとき v∞=gτ)とおくと

dvdt=v∞−vτ

です.v が目標の v∞ に向かって,差に比例する速さで近づく形です.この形の解き方は次の節で学びます(導出もそこで行います).ここでは結果を先に示します.初期条件 v(0)=0 を満たす解は

v(t)=v∞(1−e−t/τ)

です.確かめると,dvdt=v∞τe−t/τ=v∞−vτ で運動方程式を満たし,v(0)=0 です.

法則 線形抵抗での落下

静かに落とした物体の速さは

v=v∞(1−e−t/τ),v∞=mgk,τ=mk

で,加速度は dvdt=ge−t/τ である.

[図:線形抵抗の落下の速さと時間のグラフ]

速さ v が時間 t とともに増え,水平な破線 v=v∞ に近づく曲線のグラフ.原点での接線 v=gt は t=τ で v∞ に届き,その時刻に曲線は 0.63 v∞ にある.初期状態は基準の抵抗係数 k0.スライダーで抵抗係数 k を変えると,v∞=mg/k と τ=m/k がともに変わって終端速度と近づく速さが変わるが,原点での接線 v=gt は k によらず同じであることが分かる.

読み取れることは次のとおりです.

  • t=0 では加速度が g で,自由落下と同じです.以後は ge−t/τ で小さくなります.

  • τ=m/k は近づく速さを決める時間で,t=τ で終端速度の 63 %,t=3τ で 95 % です.重い物体ほど τ が長く,時間がかかります.

2乗抵抗のとき

mdvdt=mg−cv2 は dvdt=g(1−v2/v∞2) と書けます.厳密な解は双曲線関数で表されるので求めません.終端速度に近い v=v∞−δ を代入して δ2 を無視すると

dδdt≈−2gv∞δ

なので,δ は e−2gt/v∞ に比例して縮みます(dydt=−λy の解が y=y0e−λt となることは,次の節の数学の道具で確かめます).つまり終端速度に十分近づいた後は,2乗抵抗でも差が近似的に指数関数で縮み,その目安の時間は v∞/(2g) です.これは終端速度付近で差が縮む時間の目安で,落下開始から終端速度に達するまでの時間そのものではありません.雨粒なら約 0.3 秒,落下距離は数mなので,空から落ちる雨粒はほとんど全行程を終端速度で落ちています.

ポイント ここまでのまとめ

  • 流体中の物体は流体に対する相対速度と逆向きの抵抗力を受ける(流体が静止していれば運動と逆向き).線形抵抗 F=kv,2乗抵抗 F=cv2 の2つのモデルを使い,空気中ではおもに2乗抵抗が合う.

  • 運動方程式は mdvdt=mg−kv(または mg−cv2)という微分方程式である.加速度が0になる状態から終端速度が求まる.線形抵抗では v∞=mg/k,2乗抵抗では v∞=mg/c である.

  • 線形抵抗の落下は v=v∞(1−e−t/τ),τ=m/k.t=τ で終端速度の63 %,t=3τ で95 %に達する.2乗抵抗でも終端速度に十分近づいた後は,差が近似的に指数関数で縮む.

  • 問いの答えは,空気抵抗があると雨粒の速さは終端速度で抑えられる,である.半径 1mm のモデルで約 7ms−1(実際の大きな雨粒でも 9ms−1 ほど)で,抵抗のない場合の約 200ms−1 よりはるかに遅い.

20空気抵抗と微分方程式

速さによって変わる力を受ける運動を解くために,指数関数と対数の微分・積分,そして1階の微分方程式を学びます.前の節で結果だけを示した線形抵抗の落下は,この道具で導けます.そのあと例題に進みます.

数学の道具

運動方程式を解く2つの道具を用意します.

定理 数学の道具:指数関数と対数の微分・積分

定数 a (≠0) に対して

ddxeax=aeax,∫eaxdx=1aeax+C

がなりたつ.また,ln⁡x(ey=x を満たす実数 y)は正の数 x>0 に対してだけ定まり,

ddxln⁡x=1x(x>0),∫dxx=ln⁡|x|+C(x≠0)

がなりたつ(積分は 0 をまたがない区間で考える).

導出. 正の数 b を底とする bx の変化率は bx+h−bxh=bx⋅bh−1h である.h→0 のとき bh−1h がちょうど1に近づく底 b を e(=2.718⋯) と決める.すると (ex)′=ex で,合成関数の微分から (eax)′=aeax である.y=ln⁡x は ey=x と同じ意味なので,両辺を x で微分して eyy′=1,y′=1/ey=1/x を得る.

性質:ln⁡ex=x,eln⁡x=x(x>0),ln⁡(AB)=ln⁡A+ln⁡B,ln⁡1A=−ln⁡A(A,B>0).また,b≠0 のとき,a−bx≠0 の範囲で,微分して確かめればわかるように

∫dxa−bx=−1bln⁡|a−bx|+C

である.

練習 1. 次を計算せよ.(1) ddte−3t (2) ∫02e−t/2dt (3) ∫dx5−2x (4) ln⁡8(ln⁡2≈0.693 を使う) (5) ddtln⁡(1+2t)(t>−12) (6) e−0.20t=0.50 となる t

答え:(1) −3e−3t (2) [−2e−t/2]02=2(1−e−1)≈1.26 (3) −12ln⁡|5−2x|+C (4) ln⁡23=3ln⁡2≈2.08 (5) 連鎖律で 21+2t (6) 両辺の ln をとって −0.20t=−ln⁡2,t=ln⁡2/0.20≈3.5

定理 数学の道具:1階の微分方程式(変数分離)

未知の関数 y(t) とその1階の導関数 dydt だけを含む等式を,1階の微分方程式という.基本の形は

dydt=−λy(λ>0 は定数)

である.y≠0 の範囲で両辺を y で割り,dt を右辺へ移す(変数分離).

dyy=−λdt

両辺を積分して ln⁡|y|=−λt+C,よって y=y0e−λt(y0 は t=0 での値).割ることで除いた y=0 も,y≡0 が元の式を満たすので,y0=0 の場合としてこの式に含まれる.

別の形:dydt=−λ(y−ys)(ys は定数).u=y−ys とおくと dudt=−λu なので

y=ys+(y0−ys)e−λt

である.はじめから y0=ys(u≡0)なら y は ys のまま一定で,これもこの式に含まれる.y は ys に,差が指数関数的に縮みながら近づく.

練習 2. (1) dydt=−2y,y(0)=5.(2) dydt=3−y,y(0)=0.それぞれ y(t) を求めよ.

  1. dvdt=9.8−0.50v,v(0)=0(単位は SI)の解を求め,t=2.0 での v を求めよ.

答え:(1) y=5e−2t (2) y=3(1−e−t) (3) dvdt=−0.50(v−19.6) なので v=19.6(1−e−0.50t).t=2.0 で 19.6(1−e−1)≈12ms−1

ポイント 数学の道具:e−x の振る舞い

e−x は x=0 で 1 で,x が増えると単調に,しかも急速に 0 に近づく.

x

0

0.5

1

2

3

5

10

e−x

1

0.61

0.37

0.14

0.050

0.0067

4.5×10−5

  • e−x は x=1 で約 37 %,x=ln⁡2≈0.69 で半分,x=3 で 5 % になる.

  • 1−e−x は 0 から 1 に近づき,x=1 で 63 %,x=3 で 95 %,x=ln⁡100≈4.6 で 99 % に達する.

練習 3. (1) e−x=0.10 となる x を求めよ(ln⁡10≈2.30).(2) y=y0e−t/τ で,t=4τ のとき y は y0 の何 % か.

答え:(1) x=ln⁡10≈2.3.(2) e−4≈0.018 なので約 1.8 %.

線形抵抗の落下を導く

前の節の運動方程式は dvdt=v∞−vτ でした.これは dydt=−λ(y−ys) の形(λ=1/τ,ys=v∞)なので,練習 2 の (2) と同じ解き方ができます.u=v∞−v とおくと dudt=−uτ,u(0)=v∞ なので u=v∞e−t/τ,すなわち

v(t)=v∞(1−e−t/τ)

が得られます.前の節で示した v-t グラフの形は,この式から読み取れます.

例題

例題 1

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の小球を速さに比例する抵抗 F=kv のある液体中で静かに放す.落下を始めた点から測った落下距離 x(t) を求め,t が十分小さいときに自由落下 x=12gt2 に一致することを確かめよ.また t が十分大きいときの様子を述べよ.|s| が1より十分小さいとき,e−s≈1−s+12s2 と近似してよい.

液体中の小球に下向きのmgと上向きのkvが働く.落下距離xは放した位置から下向きに測る. 液体中の小球に下向きのmgと上向きのkvが働く.落下距離xは放した位置から下向きに測る.
解答を見る

考え方 速さ v(t) はすでに求めてある.距離はそれを時間で積分すれば得られる.

x(0)=0 として

x(t)=∫0tv∞(1−e−t′/τ)dt′=v∞[t−τ(1−e−t/τ)]

である.τ≫t のとき,s=t/τ として e−s≈1−s+12s2 を使うと 1−e−s≈s−12s2 なので

x≈v∞[t−τ(tτ−t22τ2)]=v∞2τt2=12gt2

となる(v∞/τ=g を用いた).最初のうちは自由落下と一致する.

t≫τ のとき e−t/τ→0 なので x≈v∞(t−τ).これは速さ v∞ の等速運動で,出発が時間 τ だけ遅れたものに等しい.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 2.0g の小球が粘い液体の中を落下する.抵抗は F=kv,k=0.040kgs−1 とする.静かに放してから,終端速度の 95 % に達するまでの時間と,その間に落ちる距離を求めよ.

速さが終端速度に近づく様子を示す.95%に達する時刻は未知の時刻として記し,数値や式は示さない. 速さが終端速度に近づく様子を示す.95%に達する時刻は未知の時刻として記し,数値や式は示さない.
解答を見る

考え方 まず v∞ と τ を出す.1−e−t/τ=0.95 から時間が決まり,その時刻を例題 1 の x(t) に入れる.

v∞=mgk=2.0×10−3×9.80.040=0.49ms−1,τ=mk=2.0×10−30.040=0.050s

である.1−e−t/τ=0.95 より e−t/τ=0.05=1/20,両辺の対数をとって

t=τln⁡20=0.050×3.00=0.15s

このときの距離は

x=v∞[t−τ(1−0.05)]=0.49×[0.150−0.0475]≈0.050m

より,約 0.15 秒で約 5.0cm 落ちる.

ポイント ここまでのまとめ

  • (eax)′=aeax,(ln⁡x)′=1/x.dydt=−λ(y−ys) の解は y=ys+(y0−ys)e−λt で,差が指数関数的に縮んでいく.

  • 線形抵抗の落下は,u=v∞−v とおいて変数分離すると v=v∞(1−e−t/τ) が導ける.

  • 距離は x=v∞[t−τ(1−e−t/τ)].t が τ より十分小さいときは自由落下 12gt2,十分大きいときは v∞ の等速運動になる.

21空気抵抗の演習

抵抗力の単位から始めて,終端速度,水平投射,投げ上げへと進みます.解く前に v∞ と τ を式で書き,極端な場合(t→0,t→∞,k→0)で答えを検算してください.

演習

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆
  1. 線形抵抗 F=kv の係数 k の単位を,kg と s で表せ.2乗抵抗 F=cv2 の c の単位も,kg と m で表せ.

  2. v∞=mg/k と τ=m/k の単位が,それぞれ速さと時間になっていることを確かめよ.

解答を見る
  1. N=kgms−2 より,k=F/v の単位は kgs−1,c=F/v2 の単位は kgm−1 である.

  2. mgk の単位は kgms−2kgs−1=ms−1,mk の単位は kgkgs−1=s である.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

半径 1.0cm の鉄球(密度 7.9gcm−3)と,同じ半径の丸めた紙の玉(平均の密度 0.20gcm−3)を空気中で落とす.2乗抵抗の係数 c は形と大きさだけで決まるので,両者で等しく c=9.0×10−5kgm−1 とする.

  1. 2つの終端速度を求めよ.

  2. 抵抗が効き始める落下距離の目安は v∞2/g である.高さ 2.0m から落とすとき,空気抵抗が大きく効くのはどちらか.

同じ大きさの鉄球と紙の玉に働く重力と抵抗を示す.矢印の長さは力の比を表さない. 同じ大きさの鉄球と紙の玉に働く重力と抵抗を示す.矢印の長さは力の比を表さない.
解答を見る
  1. 体積は 43π(1.0×10−2)3=4.19×10−6m3.質量は鉄が 3.3×10−2kg,紙が 8.4×10−4kg である.v∞=mg/c より

v∞,鉄≈60ms−1,v∞,紙≈9.6ms−1
  1. 目安の距離は,鉄が約 3.7×102m,紙が約 9.4m である.2.0m は鉄の目安よりずっと短く,鉄球はほぼ自由落下である.紙は,自由落下の速さ 2gh=6.3ms−1 でも抵抗が重力の約4割に達するので,空気抵抗が大きく効き,鉄球より遅れて着地する.

演習 3

オリジナル ★★★☆☆

質量 m=0.050kg の小球を,十分高い所から水平に速さ v0=10ms−1 で投げる.速さに比例する抵抗 F=−kv,k=0.10kgs−1 が働く.水平方向を x,鉛直下向きを y とする.

  1. x(t) を求め,水平に進める距離の上限を求めよ.

  2. y(t) を求め,軌道の式 y(x) を導け.

  3. t=1.0s での x,y を求めよ.

高い位置から水平に初速度v₀で投げる小球を示す.軌道と水平到達距離は問題で求めるので描かない. 高い位置から水平に初速度v₀で投げる小球を示す.軌道と水平到達距離は問題で求めるので描かない.
解答を見る

抵抗は速度に比例するので,成分ごとに独立に扱える.τ=m/k=0.50s,v∞=gτ=4.9ms−1 である.

  1. dvxdt=−vx/τ より vx=v0e−t/τ.積分して

x(t)=v0τ(1−e−t/τ)

t→∞ で x→v0τ=mv0/k=5.0m.

  1. y 方向は静かに落とした場合と同じで,y(t)=v∞[t−τ(1−e−t/τ)].X=x/(v0τ) とおくと e−t/τ=1−X,t=−τln⁡(1−X) なので

y=−v∞τ[ln⁡(1−X)+X]

1≫X では −ln⁡(1−X)≈X+12X2 なので y≈g2v02x2,抵抗のないときの放物線に一致する.X→1 で y→∞ となり,軌道は x=v0τ を漸近線とする.

  1. e−2=0.135 より x=5.0×0.865≈4.3m,y=4.9×(1.0−0.50×0.865)≈2.8m である.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

球形の雨粒(半径 r,水の密度 ρw=1.0×103kgm−3)が,F=12Cρa(πr2)v2 の抵抗を受けて落下する.ρa=1.2kgm−3,C=0.50 とする.

  1. 終端速度 v∞ を r の式で表し,r=1.0mm の値を求めよ.

  2. r=2.5mm では v∞ は何倍になるか.

半径rの雨粒の重力と空気抵抗,進行方向から見た断面積πr²を示す. 半径rの雨粒の重力と空気抵抗,進行方向から見た断面積πr²を示す.
解答を見る
  1. m=43πr3ρw,c=12Cρaπr2 を v∞2=mg/c に代入して

v∞=8ρwgr3Cρa

r=1.0×10−3m のとき v∞2=8×103×9.8×10−33×0.50×1.2≈43.6,v∞≈6.6ms−1.

  1. v∞∝r なので 2.5≈1.6 倍(約 10ms−1).大きな雨粒ほど速いが,増え方はゆるやかである.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

地面から小球を鉛直上向きに初速 v0 で投げ上げる.速さに比例する抵抗 F=kv が働く.上向きを正,τ=m/k,v∞=gτ とする.

  1. 速度 v(t) を求めよ.

  2. 最高点に達するまでの時間 T を求めよ.また k→0 の極限で T→v0/g となることを確かめよ.|ε| が1より十分小さいとき ln⁡(1+ε)≈ε である.

  3. v0=20ms−1,τ=1.0s のときの T を求め,抵抗がない場合と比べよ.

上昇中の小球では重力mgと抵抗kvが下向きに働く.上向きの速度を青で示す. 上昇中の小球では重力mgと抵抗kvが下向きに働く.上向きの速度を青で示す.
解答を見る
  1. 上昇中は重力 mg も抵抗 kv も下向きなので mdvdt=−mg−kv,すなわち dvdt=−(v+v∞)/τ である.u=v+v∞ とおくと dudt=−u/τ,u(0)=v0+v∞ なので

v(t)=(v0+v∞)e−t/τ−v∞
  1. 最高点で v=0,すなわち e−T/τ=v∞v0+v∞.対数をとって

T=τln(1+v0v∞)

ε=v0/v∞ が1より十分小さいとき,ln⁡(1+ε)≈ε−12ε2 で,τ/v∞=1/g より T≈v0g(1−v02v∞)→v0g となり,抵抗のない結果に一致する.

  1. v∞=9.8ms−1 より T=1.0×ln⁡3.04≈1.1s.抵抗がなければ v0/g≈2.0s で,上昇時間はほぼ半分になる.

ポイント 教える人へ

  • 「終端速度に達する」は曖昧である.e−t/τ は有限の時間では0にならないこと,τ の何倍で何割に達するかを数で示す.

  • 変数分離でつまずく場合は,u=v∞−v の置き換えが入口になる.最後に「微分して元の式に戻るか」を確かめさせる.

  • 確かめには,m を2倍にしたとき v∞ と τ がどう変わるかを答えさせる.検算は「t→0 で自由落下に戻るか」「t→∞ で v∞ になるか」の2つである.

22力のつり合い

問い

ハンモックを木の間に張るとき,ロープをピンと水平に近く張るほど,ロープは切れやすくなります.体重は同じなのに,なぜでしょうか.自分の言葉で理由を説明してみてください.

考えてみる

ロープが人を支えられるのは,ロープが引く力の上向き成分が体重を打ち消すからです.ロープは左右2本あり,水平から角 θ だけ上を向いているとします.1本の張力を T とすると,上向き成分は1本あたり Tsin⁡θ です.体重を W とすると,鉛直方向のつり合いは

2Tsin⁡θ=W⟹T=W2sin⁡θ

です.水平方向の成分 Tcos⁡θ は左右で打ち消し合うだけで,体重を支える役には立ちません.ロープを水平に近づけると,張力のほとんどが役に立たない水平成分になり,鉛直成分をかせぐために T を大きくせざるをえません.

体重 70kg(W≈690N)で数値を見てみます.

θ

90°

60°

30°

10°

5°

2°

T

350 N

400 N

690 N

2000 N

4000 N

9900 N

水平から10°に張ると張力は体重の約3倍,2°にすると約14倍です.θ→0 で T→∞ なので,ロープを完全に水平にピンと張ることは,どんなに強いロープでもできません.問いの答えは,これで尽きています.この「力を成分に分け,成分ごとに釣り合わせる」という考えが,この節の中心です.

ハンモックに人が横たわる様子の簡略図.左右のロープは水平から角θをなし,人の位置で体重Wが下向きに,張力Tが各ロープに沿って斜め上向きに働く.右側に,右のロープの張力Tを水平成分TcosθとTsinθ(鉛直成分)に分けた図を添える. ハンモックに人が横たわる様子の簡略図.左右のロープは水平から角θをなし,人の位置で体重Wが下向きに,張力Tが各ロープに沿って斜め上向きに働く.右側に,右のロープの張力Tを水平成分TcosθとTsinθ(鉛直成分)に分けた図を添える.

質点のつり合い

法則 質点のつり合い

物体を大きさのない点(質点)とみなせるとき,物体にかかる力のベクトル和が0であれば,物体の加速度は0である.つまり,静止している物体は静止し続け,等速で動いている物体は等速で動き続ける.

F1+F2+⋯+Fn=0

これは運動方程式 ma=∑F で a=0 とおいたものにすぎません.新しい法則ではなく,運動方程式の特別な場合です.成分で書くと,座標軸ごとに次のようになります.

∑Fx=0,∑Fy=0

ここでいう「質点」は,大きさをもつ物体の回転を考えなくてよい場合を指します.棒やはしごのように,力の働く位置が違うと回転してしまう物体のつり合いは,トルクという量が必要になるので後の章で扱います.この節では,1点に力が集まるものだけを扱います.

つり合いの問題は,次の手順で解くことができます.

  1. 注目する物体を決め,その物体だけを描く.

  2. 働く力をすべて描く(重力,接触しているものからの力).自由体図を描く.

  3. 座標軸を選ぶ.力の多くが軸に沿うように選ぶと楽になる.

  4. 成分ごとに ∑F=0 を書く.

  5. 解いたら,極端な場合(角が0°や90°)で答えを確かめる.

糸を扱う約束も確認しておきます.軽い糸の張力は,途中に摩擦などの接線方向の外力が無ければ糸のどこでも同じで,糸は引く向きにしか力を出しません.滑らかな面からは面に垂直な力(垂直抗力)だけを受けます.滑らかな滑車は糸の向きを変えるだけで,張力の大きさは変えません.

3力のつり合い

3つの力がつり合うとき,F1+F2+F3=0 なので,3つの矢印を順につなぐと元の点に戻る三角形ができます(力の三角形).三角形を使うと,成分に分けなくても答えが出ることがあります.

定理 ラミの定理

同一直線上にない,0でない3力 F1,F2,F3 がつり合うとき,F2 と F3 のなす角を α,F3 と F1 のなす角を β,F1 と F2 のなす角を γ とすると

F1sin⁡α=F2sin⁡β=F3sin⁡γ

がなりたつ.

証明. 力の三角形で,辺 F1 の向かい側の内角は 180∘−α である(矢印をつなぎ直すと,始点をそろえて測った角の補角になる).sin⁡(180∘−α)=sin⁡α なので,正弦定理 asin⁡A=bsin⁡B=csin⁡C(次の節で確かめる)から上の式を得る.

ポイント ここまでのまとめ

  • 問いの答えは,ロープの張力の上向き成分 Tsin⁡θ だけが体重を支えるから,T=W2sin⁡θ となり,水平に近づく(θ→0)ほど T→∞ となって切れやすい,である.

  • 質点のつり合いは ∑F=0,成分では ∑Fx=0,∑Fy=0 である.運動方程式で a=0 とおいた特別な場合にすぎない.

  • 解き方は,物体を決める,力を全部描く,軸を選ぶ,成分ごとに合力が0,極端な場合で検算,の順である.

  • 3力がつり合うと,矢印は力の三角形をつくる.3力が同一直線上にないとき,ラミの定理 F1sin⁡α=F2sin⁡β=F3sin⁡γ で解くこともできる.

  • 大きさのある物体の回転(トルク)は後の章で扱い,この節では1点に力が集まる場合だけを扱う.

23力の三角形と例題

ラミの定理を使うときに必要な,三角形の辺と角の関係を確かめます.そのあと,つり合いの例題を解きます.

定理 数学の道具:力の三角形と正弦定理

三角形の辺 a,b,c と,その向かい側の角 A,B,C について,正弦定理 asin⁡A=bsin⁡B=csin⁡C と,余弦定理 c2=a2+b2−2abcos⁡C がなりたつ.力の三角形では,辺の長さが力の大きさに,内角が「力どうしのなす角の補角」に当たる.

練習 1. 3N,4N,5N の3力がつり合っているとき,3N と 4N の力のなす角を求めよ.

答え:F3=−(F1+F2) の大きさが 5 なので,52=32+42+2⋅3⋅4cos⁡γ.よって cos⁡γ=0,γ=90∘.

練習 2. 重さ 10N のおもりを,水平と 30∘ をなす糸Aと,水平と 60∘ をなす糸B(左右に分かれる)でつるした.力の三角形と正弦定理から,2本の張力を求めよ.

答え:力の三角形の内角は,重力の向かいが 90∘,糸Aの張力の向かいが 30∘,糸Bの張力の向かいが 60∘ になる.正弦定理より 10sin⁡90∘=TAsin⁡30∘=TBsin⁡60∘ で,TA=5.0N,TB≈8.7N.

使い分けの目安は,力が3つで角度がきれいなら三角形やラミの定理,4つ以上や座標軸に沿った力が多いなら成分,です.どちらでも答えは同じになるので,片方で解いて片方で検算できます.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

ハンモックの問いを数値で確かめる.体重 70kg の人が乗る.左右のロープは同じ角 θ で張られ,各ロープが耐えられる張力は 3.0kN までとする.(1) θ=8∘ のとき,張力はいくらか.(2) ロープが切れないために,θ は最小でどれだけ必要か.

左右のロープが水平と同じ角θをなし,中心に体重W,両側に張力Tが働く. 左右のロープが水平と同じ角θをなし,中心に体重W,両側に張力Tが働く.
解答を見る

考え方 人を質点とみなし,鉛直方向のつり合いだけを書く.水平方向は左右で打ち消し合う.

  1. W=70×9.8=686N.2Tsin⁡θ=W より

T=6862sin⁡8∘=6862×0.139≈2.5×103N

体重の約3.6倍で,限度 3.0kN の内側である.

  1. T≤3000N より sin⁡θ≥6862×3000=0.114,したがって θ≥6.6∘.これより水平に近く張ると切れる.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m のおもりを,結び目 O から糸3で吊るす.結び目 O は,水平に壁へ張った糸1と,天井から斜めに張った糸2(水平面と角 θ をなす)で支えられ,全体が静止している.糸1,2,3の張力 T1,T2,T3 を求めよ.

結び目Oを水平な糸1と斜めの糸2で支え,糸3でおもりを吊るす. 結び目Oを水平な糸1と斜めの糸2で支え,糸3でおもりを吊るす.
解答を見る

考え方 結び目 O を質点として,O に働く3力(糸1,糸2,糸3の張力)のつり合いを成分で書く.おもりに注目すれば,糸3の張力がわかる.

おもりのつり合いより T3=mg.O について,水平方向と鉛直方向のつり合いはそれぞれ

T2cos⁡θ−T1=0,T2sin⁡θ−T3=0

である.よって

T2=mgsin⁡θ,T1=mgtan⁡θ

検算:θ=90∘(糸2が鉛直)では T1=0,T2=mg で,確かに糸2だけでおもりを吊るす場合に一致する.θ→0 では T1,T2→∞.これはハンモックと同じで,糸を水平に近く張るほど大きな張力が要ることを表している.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

質量 m,半径 R の球を,長さ l の軽い糸で,滑らかな鉛直の壁の点 P から吊るす.球は壁に接して静止している.糸の延長線は球の中心を通る.糸の張力 T と,壁からの垂直抗力 N を求めよ.また R=0.10m,l=0.30m,m=0.50kg のとき,その値を求めよ.

滑らかな鉛直の壁の点Pから長さlの軽い糸で球が吊るされ,球は壁に接している.球の中心は壁から距離Rにあり,糸の延長線は球の中心を通る(Pから中心までは l+R).糸が壁となす角はθ.球の中心から,重力mgが下向き,糸の張力Tが糸に沿ってPの向き,壁の垂直抗力Nが壁から離れる水平向きに働く. 滑らかな鉛直の壁の点Pから長さlの軽い糸で球が吊るされ,球は壁に接している.球の中心は壁から距離Rにあり,糸の延長線は球の中心を通る(Pから中心までは l+R).糸が壁となす角はθ.球の中心から,重力mgが下向き,糸の張力Tが糸に沿ってPの向き,壁の垂直抗力Nが壁から離れる水平向きに働く.
解答を見る

考え方 球に働く力は重力,糸の張力,壁の垂直抗力の3つで,向きがはっきりしている.糸が壁となす角 θ を図形から決め,ラミの定理か成分でつり合いを書く.

球の中心は壁から R の距離にあり,P から中心までは l+R なので

sin⁡θ=Rl+R

である.水平方向,鉛直方向のつり合いは

Tsin⁡θ=N,Tcos⁡θ=mg

よって

T=mgcos⁡θ,N=mgtan⁡θ

である.R=0.10, l=0.30 では sin⁡θ=0.25,cos⁡θ=0.968,tan⁡θ=0.258.mg=4.9N より

T≈5.1N,N≈1.3N

である.糸を長くすると θ→0 で N→0,T→mg(壁に接さず,ただ吊るされた状態)に近づき,予想どおりである.

ポイント ここまでのまとめ

  • 力の三角形では,辺の長さが力の大きさに,内角が力どうしのなす角の補角に当たる.正弦定理と余弦定理で未知の力や角が求まる.

  • 力が3つで角度がきれいなら三角形やラミの定理,4つ以上や軸に沿う力が多いなら成分で解く.一方で解き,他方で検算できる.

  • 結び目や球のように,注目する物体を決めて水平・鉛直のつり合いを書く.糸を水平に近づけるほど(θ→0)張力が大きくなる傾向は,どの例題でも現れる.

24力のつり合いの演習

成分に分ける方法と,力の三角形を使う方法の両方で解ける問題があります.自由体図に力を全部描き,軸を選んでから解答を見てください.極端な角(0°や90°)での検算を,各問の仕上げにしましょう.

演習

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

物体に力 F1=(3.0,4.0)N と F2=(−1.0,2.0)N が働いている.第3の力 F3 を加えて物体をつり合わせたい.F3 の成分と大きさを求めよ.

原点の物体に働くF₁=(3.0,4.0) NとF₂=(−1.0,2.0) Nを示す.第三の力は描かない. 原点の物体に働くF₁=(3.0,4.0) NとF₂=(−1.0,2.0) Nを示す.第三の力は描かない.
解答を見る

つり合いの条件 F1+F2+F3=0 を成分ごとに書く.x 成分は 3.0−1.0+F3x=0,y 成分は 4.0+2.0+F3y=0 なので

F3=(−2.0,−6.0)N,F3=2.02+6.02≈6.3N

である.F1+F2=(2.0,6.0)N の逆向きになっている.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

質量 3.0kg の物体を,同じ長さの2本の糸で天井の2点から吊るす.2本の糸のなす角(頂角)を (1) 120∘,(2) 160∘ にしたとき,糸の張力をそれぞれ求めよ.

同じ長さの二本の糸で質量3.0 kgの物体を吊るす.二本のなす角をθとする. 同じ長さの二本の糸で質量3.0 kgの物体を吊るす.二本のなす角をθとする.
解答を見る

各糸は鉛直から頂角の半分だけ傾いている.傾きを φ とすると,鉛直方向のつり合いは 2Tcos⁡φ=mg,mg=29.4N である.

  1. φ=60∘:T=29.42cos⁡60∘=29.4≈29N(ちょうど mg).

  2. φ=80∘:T=29.42cos⁡80∘=29.40.347≈85N.開き方を大きくすると張力が急に大きくなる.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

傾き α=30∘ の滑らかな斜面上に,質量 m=2.0kg の物体を置き,斜面に平行な糸で支える.

  1. 糸の張力と垂直抗力を求めよ.

  2. 糸を斜面から角 φ だけ持ち上げる向きに引いても静止させるとき,張力と垂直抗力を φ の式で表し,垂直抗力が0になる φ を求めよ.

30°の斜面に平行な糸と,斜面から角φだけ持ち上げた糸で支える場合を並べる. 30°の斜面に平行な糸と,斜面から角φだけ持ち上げた糸で支える場合を並べる.
解答を見る
  1. 斜面に平行な方向のつり合いは T=mgsin⁡α=2.0×9.8×0.50=9.8N,垂直な方向のつり合いは N=mgcos⁡α=2.0×9.8×0.866≈17N である.

  2. 斜面に平行な方向:Tcos⁡φ=mgsin⁡α.垂直な方向:N+Tsin⁡φ=mgcos⁡α.よって

T=mgsin⁡αcos⁡φ,N=mgcos⁡α−mgsin⁡αtan⁡φ

N=0 とすると tan⁡φ=cot⁡α,すなわち φ=90∘−α=60∘ である.このとき糸は鉛直で,T=mgsin⁡αcos⁡(90∘−α)=mg となる.物体は糸で吊られて斜面に触れるだけであり,正しい結果である.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

長さ L の軽い糸の両端を,同じ高さにある水平距離 d の2点に固定し,滑らかな小さな輪を糸に通して質量 m のおもりを吊るす.輪は糸の上を自由に動ける.d=0.60m,L=1.0m のとき,糸の張力を求めよ.また d→0 と d→L の極限を調べよ.

同じ高さの二点に固定した長さLの糸に輪を通し,質量mのおもりを吊るす.支持点間の距離dを示す. 同じ高さの二点に固定した長さLの糸に輪を通し,質量mのおもりを吊るす.支持点間の距離dを示す.
解答を見る

滑らかな輪を通る糸の張力は左右で等しく T である.左右の糸が鉛直となす角は,つり合いの対称性から等しい(水平方向の成分 Tsin⁡θ が左右で打ち消し合うため).左右の糸の長さの和が L で,水平方向の幅の和が d なので Lsin⁡θ=d,sin⁡θ=0.60,cos⁡θ=0.80 である.鉛直方向のつり合い 2Tcos⁡θ=mg より

T=mg2cos⁡θ=mg1.6=0.625mg

である.d→0:θ→0,T→mg/2(糸が鉛直に2本並ぶ).d→L:θ→90∘,T→∞.糸を水平に近づけるほど張力が大きくなる.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の滑らかな球を,鉛直面内で左右に傾いた2つの滑らかな斜面の間(V字の溝)に置く.左の斜面は水平から角 α,右の斜面は水平から角 β 傾いている.球が各斜面から受ける垂直抗力 N1,N2 を求めよ.また α=30∘,β=60∘ のときの値を求め,α=β の場合と β→90∘ の場合を調べよ.

V字の溝に滑らかな球が置かれている.左の斜面は水平から角α,右の斜面は水平から角β.球の中心から,重力mgが下向き,左の斜面からの垂直抗力N1が斜面に垂直で鉛直から右へα傾いた向き,右の斜面からの垂直抗力N2が斜面に垂直で鉛直から左へβ傾いた向きに働く. V字の溝に滑らかな球が置かれている.左の斜面は水平から角α,右の斜面は水平から角β.球の中心から,重力mgが下向き,左の斜面からの垂直抗力N1が斜面に垂直で鉛直から右へα傾いた向き,右の斜面からの垂直抗力N2が斜面に垂直で鉛直から左へβ傾いた向きに働く.
解答を見る

球に働く力は mg,N1,N2 の3つ.斜面に垂直な力 N1 は鉛直から α 傾き,N2 は鉛直から逆向きに β 傾いている.水平方向と鉛直方向のつり合いは

N1sin⁡α=N2sin⁡β,N1cos⁡α+N2cos⁡β=mg

である.第1式から N2=N1sin⁡α/sin⁡β.第2式に入れて

N1(cos⁡α+sin⁡αcos⁡βsin⁡β)=mg ⟹ N1=mgsin⁡βsin⁡(α+β),N2=mgsin⁡αsin⁡(α+β)

である(sin⁡αcos⁡β+cos⁡αsin⁡β=sin⁡(α+β) を使った).ラミの定理でも同じ式になる.

α=30∘,β=60∘ では sin⁡90∘=1 なので N1=mgsin⁡60∘≈0.87mg,N2=mgsin⁡30∘=0.50mg(2つの斜面が直交しているので,重力を2つの垂線方向に分けた結果になる).

検算:α=β では N1=N2=mg2cos⁡α.これは 2Ncos⁡α=mg で,確かにつり合っている.β→90∘(右が鉛直な壁)では N1=mg/cos⁡α,N2=mgtan⁡α.斜面と壁の間に球を置いた場合の結果に一致する.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

同じ高さの2点に,線密度(単位長さあたりの質量)λ が一様な鎖をたるませて吊るす.鎖は滑らかに曲がり,全質量は M,両端での鎖の向きは水平から角 θ である.

  1. 鎖の各点での張力の水平成分は一定であることを示せ.

  2. 最も低い点での張力 T0 と,端での張力 T端 を M,g,θ で表せ.

  3. 鎖上の点で,鎖の向きが水平から角 φ のとき,その点の張力 T を T0 と φ で表せ.

解答を見る
鎖の最低点から弧長sの部分を取り出し,両端の張力T₀,Tと重力λsgを示す. 鎖の最低点から弧長sの部分を取り出し,両端の張力T₀,Tと重力λsgを示す.

鎖の一部分を考える.最低点から鎖に沿って距離 s までの部分(質量 λs)に働く力は,最低点側の張力(水平向き,大きさ T0),その点での張力 T(向きは水平から φ 上向き),重力 λsg である.

  1. この部分が静止していることから,水平方向のつり合いは Tcos⁡φ=T0.重力に水平成分がないので,どの点でも張力の水平成分は T0 で一定である.

  2. 同じ部分の鉛直方向のつり合いは Tsin⁡φ=λsg.鎖の端(片側全体,質量 M/2)では T端sin⁡θ=Mg/2 なので

T端=Mg2sin⁡θ,T0=T端cos⁡θ=Mg2tan⁡θ

である.

    1. より T=T0/cos⁡φ.また T2=T02+(λsg)2 とも書ける.φ が大きい点(端に近い点)ほど張力が大きい.θ→0(水平に近づける)で T0,T端→∞ になるのは,ハンモックの結果と同じである.

ポイント 教える人へ

  • 導入のハンモックは,式を出す前に「なぜだと思うか」と聞く.「体重を支える役に立つ成分は鉛直成分だけ」に自分で気づけると,この節の半分は終わっている.

  • 多い間違いは,力を分解せずに大きさだけ足し合わせることと,角度の取り方(水平から測るか,鉛直から測るか)の取り違えである.sin と cos のどちらが付くかは,極端な角(0°や90°)で確かめさせると身につく.

  • つり合いの問題は,本文の手順(物体を決める,自由体図に力を全部描く,軸ごとに合力が0,極端な場合で検算)で確かめさせる.

  • 理解の確かめ:糸の張力が「糸のどこでも同じ」でなくなるのはいつか(糸の質量が無視できないとき,例えば鎖の演習)を聞くと,仮定の意味が見える.剛体のつり合い(トルク)は後の章で扱うと,予告しておく.

25圧力と浮力

問い

深さ 1m まで水を入れた,断面積 1cm2 の細い管と,同じ深さの広いプールがあります.管の底とプールの底では,水の圧力は同じでしょうか.上に向かって広がる花瓶のような容器や,上に向かってすぼまる容器ではどうでしょうか.容器の形が違えば,入っている水の重さもまるで違います.

同じ深さの4つの容器を示す模式図. 同じ深さの4つの容器を示す模式図.

考えてみる

素直に考えると,底が受ける力は「その上にある水の重さ」です.まっすぐな管や水槽なら,底の上にある水の重さを底の面積で割ると,太さによらず同じ値になります.ところが上に広がる容器では,底の上にある水は底の面積より広く,重さも大きくなります.上にすぼまる容器では逆に少なくなります.「上にある水の重さ」で決まるなら,容器の広がり方によって底の圧力が違うはずです.

困るのは,容器の壁も水を押していることです.斜めの壁は水を斜めに押し,その鉛直成分が水を支えたり押し下げたりします.底に働く力を知るには,水全体の重さではなく,水の中の各点で「面をどれだけ強く押すか」を考える必要があります.

圧力

定義 圧力

面に垂直に働く力の大きさ F を,その面の面積 S で割った量

p=FS

を圧力という.単位は Pa=Nm−2(パスカル)である.

静止している水や空気(流体)は,接する面を,面に垂直な向きにだけ押します.面に沿った向きの力があれば,流体はその向きに流れ出してしまい,静止していられないからです.さらに,流体の中の1点での圧力は,面をどの向きに置いても同じ値になります(次の節で,小さな三角柱のつり合いから確かめます).ですから「この点の圧力」と,向きを言わずに1つの数で言えます.

地上の空気も圧力をもちます.これが大気圧で,海面でおよそ p0=1.013×105Pa です.1m2 の面を約 1×105N,質量にして約 10t の重さで押す強さです.それでも私たちがつぶれないのは,体の内側の液体や空気も同じくらいの圧力で外へ押し返しているからです.

深さと圧力

水の中に,鉛直な円柱の形をした部分を頭の中で切り出します.断面積は S,上面は水面に,下面は深さ h にあるとします.この水の柱は静止しているので,力のつり合いがなりたちます.働く力は次の4つです.

  • 上面を大気が押す力 p0S(下向き)

  • 下面を下の水が押す力 pS(上向き)

  • 側面をまわりの水が押す力(側面に垂直なので水平で,鉛直成分は無い)

  • 柱の重力 ρShg(下向き.ρ は水の密度)

鉛直方向のつり合い pS=p0S+ρShg より,次の関係が出ます.

法則 静止した液体の圧力

密度 ρ の液体が静止しているとき,液面(圧力 p0)から深さ h の点の圧力は

p=p0+ρgh

である.同じ液体がつながっていれば,同じ深さの点の圧力は等しい.

静止した液柱の力のつり合いを示す模式図. 静止した液柱の力のつり合いを示す模式図.

同じ深さの2点は,水平な柱を切り出せば,両端の力のつり合いから圧力が等しいとわかります.重力は鉛直なので,水平方向の式に入らないからです.水の密度 1.0×103kgm−3 では,ρg≈9.8×103Pam−1 で,深さ約 10m ごとに大気圧1つ分ずつ圧力が増えます.

これで問いに答えられます.底の圧力は深さ h だけで決まり,容器の太さや形にはよりません.上に広がる容器では,斜めの壁が水を上へ支えていて,底はその分を負担しません.上にすぼまる容器では,斜めの壁が水を下へ押していて,底は水の重さより大きな力を受けます.底が受ける力は (p0+ρgh)×(底の面積) で,水の重さとは一致しなくてよいのです.パスカルの樽が裂けたのも,細い管でも水面が高くなれば,樽の中の圧力が深さの分だけ上がるからです.

液面の圧力を Δp だけ上げると,p=p0+ρgh の p0 が増えるので,液体の中のすべての点で圧力が同じ Δp だけ上がります.これをパスカルの原理といいます.断面積 S1,S2 の2本のピストンを液体でつなぐと,同じ高さで圧力が等しいことから F1S1=F2S2 となり,小さな力で大きな力を出せます.車のブレーキや油圧ジャッキの原理です.

浮力

液体の中に,底面積 S,高さ l の直方体を,上面を水平にして沈めます.上面の深さを d とします.4つの側面には水平な力が働きますが,向かい合う面は同じ深さの範囲にあるので,力は打ち消し合います.残るのは上面と下面の力で,上向きを正とすると

{p0+ρg(d+l)}S−(p0+ρgd)S=ρSlg=ρVg

です(V=Sl は直方体の体積).深さ d も大気圧 p0 も消え,押しのけた液体の体積だけが残りました.

直方体の表面を押す圧力を示す模式図. 直方体の表面を押す圧力を示す模式図.

形が直方体でないときは,次のように考えます.物体を取り去り,その場所を同じ形の液体で満たしたとします.この液体はまわりと同じで,静止しています.ですから,まわりの液体がこの「液体のかたまり」の表面を押す力の和は,かたまりの重力 ρVg とつり合っていて,鉛直上向きに ρVg です.表面を押す力は,表面の形と位置だけで決まり,中身が何であるかによりません.中身を元の物体に戻しても,表面には同じ力が働きます.

法則 アルキメデスの原理

流体の中にある物体は,物体が押しのけた流体の重さに等しい大きさの,鉛直上向きの力を受ける.これを浮力という.物体が押しのけた体積を V,流体の密度を ρ とすると,浮力の大きさは

F=ρVg

である.一部だけが沈んでいるときは,V は沈んでいる部分の体積である.

浮力は「物体のまわりの流体が表面を押す力」の合計で,新しい種類の力ではありません.ですから,物体の下面が容器の底にぴったり密着して下に液体が回り込まないときは,下から押す力が無くなり,この式は使えません.

密度 ρs,体積 V の物体を液体に全部沈めると,上向きの合力は (ρ−ρs)Vg です.ρs<ρ なら浮き上がり,ρs>ρ なら沈みます.浮かんで静止したとき,沈んでいる体積を V′ とすると ρV′g=ρsVg で,沈んでいる割合は V′V=ρsρ です.氷(917kgm−3)が海水(1025kgm−3)に浮くと,割合は約0.89です.つり合いの位置からさらに y だけ沈めると,浮力は沈んだ体積の分だけ増えます.この増えた浮力が押し戻す力になって,浮かんだ物体は上下に振動します.これは第7章の「いろいろな単振動」で扱います.

ポイント ここまでのまとめ

  • 圧力は,面に垂直に働く力を面積で割った量 p=F/S(単位 Pa)で,静止した流体の中では面の向きによらない.

  • 静止した液体の中で,液面から深さ h の点の圧力は p=p0+ρgh.小さな液柱のつり合いから出る.

  • 問いの答え:同じ深さなら,細い管の底でもプールの底でも,形の違う容器の底でも圧力は同じ.底が受ける力は水の重さと一致するとは限らず,差は斜めの壁が負担している.

  • 浮力は表面を押す力の合計で,大きさは押しのけた流体の重さ ρVg(アルキメデスの原理).物体を同じ形の流体で置き換える考えで,どんな形にも使える.

  • 液面の圧力の増加は,液体のすべての点に伝わる(パスカルの原理).

26圧力の微分方程式と浮力の例題

前の節では,深さ h の水柱のつり合いから p=p0+ρgh を出しました.ここでは,柱をごく薄くして圧力の変わり方を微分で書き,密度が場所で変わる場合にも使える形にします.また,面のあちこちで違う圧力を足し合わせて力を出す方法を確かめます.そのあと,浮力の例題を解きます.

定理 数学の道具:圧力の微分方程式

鉛直上向きに z 軸をとる.流体の中に,断面積 S,高さ Δz の薄い円柱を切り出す.下面(高さ z)の圧力を p(z),上面の圧力を p(z+Δz),その範囲の密度を ρ とすると,鉛直方向のつり合いは

p(z)S−p(z+Δz)S−ρSΔzg=0

である.SΔz で割って Δz→0 とすると

dpdz=−ρg

を得る.上へ行くほど,その高さの密度に比例した割合で圧力が減る.

密度が一定のとき. 液面 z=0 で p=p0 とし,両辺を z から 0 まで積分すると p0−p(z)=−ρg(0−z),すなわち p(z)=p0−ρgz.深さ h=−z を使えば p=p0+ρgh で,前の節と一致する.

密度が場所で変わるとき. 液体が層になっていれば層ごとに傾きが変わり,空気のように密度が圧力に比例すれば右辺に p が入る(温度が一定の気体で密度が圧力に比例することは,ここでは事実として使う).

練習 1. 温度が一定の空気の密度を ρ=ρ0p0p(ρ0=1.2kgm−3,p0=1.0×105Pa は地表の値)とする.高さ z での圧力を求め,z=3.8km での p/p0 を見積もれ.

答え:dpdz=−pH,H=p0ρ0g≈8.5×103m.空気抵抗の節の変数分離と同じ形で,p=p0e−z/H.z=3.8km では e−0.45≈0.64.実際の大気は上空ほど冷たいので,この式は目安である.

定理 数学の道具:面にわたって力を足す

圧力が面の上で場所によって違うときは,面を小さな部分に分け,各部分の力 pΔS を足して,部分を細かくした極限(積分)をとる.力はベクトルなので,向きの違う面の力は成分ごとに足す.前の節の直方体では,上面と下面の圧力が一定なので「圧力 × 面積」で済み,側面の水平な力は向かい合う面どうしで打ち消し合った.

向きによらないこと. 流体の中に,直角をはさむ2辺が a(水平)と b(鉛直),斜辺が c=a2+b2,奥行きが L の小さな三角柱を考える.底面,鉛直な面,斜面の圧力をそれぞれ p1,p2,p3 とする.斜面の力は面に垂直で,その水平成分は p3cL⋅bc=p3bL,鉛直成分は p3cL⋅ac=p3aL である.つり合いは

p2bL=p3bL,p1aL=p3aL+12abLρg

で,p2=p3,p1=p3+12ρgb.三角柱を小さくして b→0 とすると p1=p2=p3 となる.重力は体積に比例し,面の力は面積に比例するので,小さくするほど重力が効かなくなるのである.斜面の傾きは自由に選べるので,1点での圧力は面の向きによらない.

小さな三角柱に働く圧力を示す模式図. 小さな三角柱に働く圧力を示す模式図.

練習 2. 幅 w=10m の鉛直な水門の片側に,深さ h=4.0m まで水がある.大気圧は両側で打ち消すとして,水が水門を押す力を求めよ.

答え:深さ y の幅 w,高さ dy の帯が受ける力は ρgywdy.F=∫0hρgwydy=12ρgwh2=12×1.0×103×9.8×10×4.02≈7.8×105N.

練習 3. 水槽の鉛直な側面に,幅 3.0m,高さ 2.0m の長方形の窓があり,窓の上端は水面から深さ 1.0m にある.大気圧は打ち消すとして,水が窓を押す力を求めよ.

答え:F=∫1.03.0ρg(3.0)ydy=ρg×3.0×3.02−1.022=1.0×103×9.8×12≈1.2×105N.窓の中心の深さ 2.0m の圧力に面積 6.0m2 を掛けたものと同じである.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

底面が 0.10m×0.10m の正方形で,高さ 0.20m の直方体の木片(密度 6.0×102kgm−3)を,底面を水平にして水(密度 1.0×103kgm−3)に浮かべる.g=9.8ms−2 とする.

  1. 水面から木片の底面までの深さ(喫水)を求めよ.また,底面の圧力と大気圧の差から,木片を押し上げる力を計算し,重力とつり合っていることを確かめよ.

  2. 木片の上面の中央におもりを載せる.上面がちょうど水面にそろうおもりの質量を求めよ.

木片の喫水と上に載せるおもりを示す模式図. 木片の喫水と上に載せるおもりを示す模式図.
解答を見る

考え方 浮かんで静止しているので,重力と浮力がつり合う.浮力は沈んでいる部分の体積で決まる.側面の力は水平で打ち消し合うので,底面の力だけで確かめられる.

  1. 底面積を S=1.0×10−2m2,喫水を d とすると,1.0×103×Sdg=6.0×102×S×0.20×g より

d=6.0×1021.0×103×0.20=0.12m

底面の圧力は大気圧より ρgd=1.0×103×9.8×0.12≈1.18×103Pa だけ高く,上面には大気圧がかかるので,押し上げる力は 1.18×103×1.0×10−2≈12N.木片の質量は 6.0×102×2.0×10−3=1.2kg で,重力も 1.2×9.8≈12N である.

  1. 全体が沈むと浮力は 1.0×103×2.0×10−3×g,すなわち質量 2.0kg 分の重さである.木片とおもりの合計がこれに等しいので,おもりは 2.0−1.2=0.80kg である.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

容器に水(密度 ρw=1.0×103kgm−3)を入れ,その上に水と混ざらない油(密度 ρo=8.0×102kgm−3)を十分な厚さで重ねる.1辺 a の立方体(密度 ρs=9.0×102kgm−3)を入れると,上面を水平にして,油と水の境目にまたがって静止した.

  1. 立方体の高さのうち,水の中にある割合 x を求めよ.

  2. 油を取り除くと,立方体は水面に浮く.水の中にある割合は (1) より大きいか小さいか.油が上から押さえつけるという考えと比べて説明せよ.

油と水の境目にある立方体を示す模式図. 油と水の境目にある立方体を示す模式図.
解答を見る

考え方 上面と下面の圧力の差を,層ごとの ρg×(厚さ) の和で求める.側面の力は水平で打ち消し合う.

  1. 上面から下面まで,油の中を (1−x)a,水の中を xa 下るので,下面と上面の圧力の差は ρog(1−x)a+ρwgxa である.これに面積 a2 を掛けた力が重力 ρsa3g とつり合うので

ρo(1−x)+ρwx=ρs,x=ρs−ρoρw−ρo=900−8001000−800=0.50

である.浮力は「押しのけた油の重さ+押しのけた水の重さ」になっていて,アルキメデスの原理と同じ形である.

  1. 油が無ければ,沈む割合は ρs/ρw=0.90 で,(1) より大きい.たしかに油は上面を押し下げるが,同じ油の重さは下の水の圧力も高めて,下面を押し上げる.上面より上にある油の分は,上面と下面に同じ圧力として加わって打ち消し合う.残るのは,立方体の上部と同じ高さにある油の層の分で,これは下面だけに加わる.その大きさは立方体の上部が押しのけた油の重さで,上向きである.だから油を重ねると,立方体は浮き上がる.

ポイント ここまでのまとめ

  • 薄い流体の柱のつり合いから dpdz=−ρg(z は上向き).密度一定なら積分して p=p0+ρgh.密度が変われば,層ごとに傾きが変わる.

  • 場所で違う圧力から力を出すには,面を分けて pΔS を足し,積分する.鉛直な壁では F=12ρgwh2.

  • 小さな三角柱では,重力は体積に,面の力は面積に比例するので,小さくした極限で圧力は面の向きによらない.

  • 浮力の問題は,重力と浮力(と糸やばねの力)のつり合いを書く.重なった液体では,浮力は押しのけた各液体の重さの和になる.上の液体が上面を押す分は,下面の圧力も同じだけ高めるので打ち消し合う.

27圧力と浮力の演習

圧力は面を押す強さ,浮力は表面に働く力の合計です.水面,圧力を比べる高さ,液体に入っている体積を図で確かめてから式を立ててください.特に断らない限り,液体は静止し,水の密度は ρw=1.0×103kgm−3,g=9.8ms−2 とします.空気の浮力,糸の体積,表面張力を無視します.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

密度 8.0×102kgm−3 の油を厚さ 0.25m だけ水の上に重ねる.水中の圧力計は,境目から 0.40m 下にある.液面の大気圧を p0=1.0×105Pa とする.

  1. 圧力計の位置の圧力を求めよ.

  2. 圧力計の小さな受圧面を水平から鉛直に回すと,圧力の値は変わるか.

油と水の2層と圧力計を示す模式図. 油と水の2層と圧力計を示す模式図.
解答を見る

考え方 境目で圧力は連続する.液面から計器まで,層ごとの圧力増加を足す.

  1. p−p0=ρog×0.25+ρwg×0.40=5880Pa だから,p≈1.06×105Pa.計算の内訳を示すため桁を残した.圧力増加は約 5.9×103Pa である.

  2. 同じ位置なら変わらない.静止した流体の圧力は面の向きによらず,力の向きだけが面に垂直な向きへ変わる.ρgh の単位は kgm−1s−2=Pa.油の厚さを0にすれば水だけの式に戻る.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m=0.12kg,外側の断面積 S=4.0×10−4m2 の密閉した細長い円筒を,鉛直に浮くように下端へおもりを内蔵した密度計として使う.液体に沈む部分の長さを d とする.外側は一様な円筒形で,長さは 0.50m.

  1. 密度 ρ と d の関係を求めよ.水と密度 8.0×102kgm−3 の液体での d を計算せよ.

  2. 密度に等間隔の目盛りをつけると,円筒上でも等間隔になるか.

鉛直に浮く円筒の密度計を示す模式図. 鉛直に浮く円筒の密度計を示す模式図.
解答を見る

考え方 液体を押しのける体積は Sd.液体の密度が変わっても密度計の重さは変わらない.

  1. ρSdg=mg より d=m/(ρS).水では d=0.30m,もう一方では d=0.375m≈0.38m.どちらも円筒の長さ未満で,液面から上に出る部分がある.

  2. d は ρ の逆数に比例するので等間隔にならない.dddρ=−m/(Sρ2) だから,密度が大きい側ほど目盛りの間隔は狭い.m/(ρS) は長さの次元をもち,密度が大きい液体では浅く沈むという直感とも合う.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

同じ固体をばねばかりでつり,空気中では 2.94N,水に完全に沈めると 1.96N,未知の液体に完全に沈めると 2.16N を示した.固体は容器に触れず,液体を吸収しない.

  1. 固体の体積と密度を求めよ.

  2. 未知の液体の密度を求めよ.

同じ固体を3つの環境でつるを示す模式図. 同じ固体を3つの環境でつるを示す模式図.
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考え方 水中の目盛りは重力から浮力を引いた値である.固体の体積は変わらないので,目盛りの減少の比が液体の密度の比になる.

  1. 質量は m=2.94/9.8=0.300kg.ρwVg=2.94−1.96=0.98N より V=1.0×10−4m3.したがって ρs=m/V=3.0×103kgm−3.

  2. ρ/ρw=(2.94−2.16)/(2.94−1.96)=0.78/0.98 より ρ≈8.0×102kgm−3.力の比は無次元である.目盛りが空気中と等しければ,この模型では液体の密度は0となる.水中でも張力が正なので,糸はたるまない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

体積 V=2.0×10−3m3,密度 ρs=6.0×102kgm−3 の球を水に全部沈め,球から容器の底への鉛直な糸で止める.球の下面には水が回り込み,球は底に触れない.

  1. 糸の張力を求めよ.

  2. 糸を切った直後の球の加速度を求めよ.水の抵抗と,球の加速に伴って周囲の水を動かす効果は無視する模型とする.

底につないだ水中の球を示す模式図. 底につないだ水中の球を示す模式図.
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考え方 浮力が重力より大きいので,糸が下向きに球を引いている.切った直後には,その力だけがなくなる.

  1. 上向きを正にすると ρwVg−ρsVg−T=0.よって T=(ρw−ρs)Vg=7.84N≈7.8N.

  2. m=ρsV=1.2kg だから a=T/m≈6.5ms−2,鉛直上向きである.一般式は a=g(ρw/ρs−1).密度が等しければ張力も加速度も0になる.実際の液体では周囲の水も動くため,(2)は指定した模型での値である.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

断面積が両脚とも S=2.0×10−4m2 のU字管に水を入れ,初めの水面を同じ高さにする.左脚へ,水と混ざらない油(密度 ρo=7.5×102kgm−3)を体積 60cm3 だけ注ぐ.両端は大気に開いており,管は十分に長い.

  1. 左脚の水と油の境目が下がる距離と,右脚の水面が上がる距離を求めよ.

  2. 左の油面と右の水面の高低差を求め,どちらが高いか答えよ.

初めの水面と,左脚へ注ぐ油を示す.注いだ後の液面の高さは図に入れていない. 初めの水面と,左脚へ注ぐ油を示す.注いだ後の液面の高さは図に入れていない.
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考え方 同じ高さの水の圧力を等置するだけでなく,水の体積が変わらない条件も使う.

  1. 油の柱の高さは h=60×10−6/S=0.30m.左の境目が x 下がると,両脚の断面積が等しいので右の水面は x 上がる.境目の高さの圧力は,左では p0+ρogh,右では p0+ρwg(2x) である.よって x=ρoh/(2ρw)=0.1125m≈0.11m.両方ともこの距離だけ動く.

  2. 油面は初めの高さより h−x,右の水面は x 上なので,高低差は h−2x=h(1−ρo/ρw)=0.075m.油面が高い.重力加速度は消え,密度の比と長さだけが残る.密度が等しければ高低差は0で,液面がそろう.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

質量 m=0.50kg,体積 V=1.0×10−3m3 の小さな球を水中に完全に沈め,水槽の左右の底に固定した2本の糸で静止させる.糸が球から下向きに延び,左の糸は鉛直と 30∘,右の糸は鉛直と 60∘ をなす.球は壁と底に触れない.

  1. 左右の糸の張力を求めよ.

  2. 液体の密度を徐々に下げるとき,同じ配置でつり合える密度の下限を求めよ.

下向きの2本の糸で止める球を示す模式図. 下向きの2本の糸で止める球を示す模式図.
解答を見る

考え方 重力と浮力の差を,2本の糸の鉛直成分で支える.水平成分は互いにつり合う.

  1. 左右の張力を T1,T2 とすると,T1sin⁡30∘=T2sin⁡60∘,T1cos⁡30∘+T2cos⁡60∘=(ρwV−m)g=4.9N.第1式より T1=3T2 で,第2式は 2T2=4.9.したがって T1=2.453≈4.2N,T2=2.45≈2.5N.両方とも正なので,仮定した糸の向きと合う.

  2. 糸は押せないので ρV−m≥0 が必要.下限は ρ=m/V=5.0×102kgm−3.等号では両張力が0で,張った糸で配置を保つにはこれより大きい密度が要る.下限より低いと球は沈み,この配置では静止できない.張力は (ρV−m)g に比例し,単位も力になる.

ポイント 教える人へ

  • 圧力計の向きを変える問いで,圧力と力の向きを区別できるか確かめる.

  • 浮力の体積は,物体全体か沈んだ部分かを毎回指さして答えさせる.

  • U字管では,同じ高さの圧力の条件と,水の体積の条件を別々に説明させる.

  • 糸の張力が負になったら,数値をそのまま採用せず,糸がたるむ条件へ戻らせる.

28第4章の章末問題

運動方程式,束縛条件,摩擦を組み合わせ,接触・滑り・離脱で運動が切り替わる問題に取り組みます.物体ごとの自由体図と座標軸を整え,位置と速度を区間の境目で引き継ぎながら,解が成立する条件を確かめてください.

演習

演習 1

オリジナル ★★☆☆☆

水平な机の上に質量 3.0kg の物体 A がある.A は糸1で机の端の滑車を通して物体 B(1.0kg)につながれ,B は垂れ下がっている.A と机の静止摩擦係数は 0.40,動摩擦係数は 0.30,糸と滑車は軽く,滑車は滑らかとする.

机上のAから滑車を介してBを吊るす.小問2でBの下にCを追加する配置を示す. 机上のAから滑車を介してBを吊るす.小問2でBの下にCを追加する配置を示す.
  1. 初め静止している.A は動き出さないことを示せ.

  2. B の下に糸2で物体 C(0.50kg)をつなぐ.A は動き出すか.動き出すなら,加速度と糸1,糸2の張力を求めよ.

  3. 動いている途中で糸2を切る.その直後の A の加速度と糸1の張力を求め,(1) の結果と比べよ.

解答を見る

A が受ける最大静止摩擦力は 0.40×3.0×9.8=11.76N,動摩擦力は 0.30×3.0×9.8=8.82N である.

  1. A を引く力は B の重さ 9.8N で,11.76N より小さいので,A は動かない.静止摩擦力は 9.8N である.

  2. B と C の重さの和は 1.5×9.8=14.7N で,11.76N より大きいので動き出す.糸が伸びないので,A,B,C の加速度の大きさ a は共通.全体の運動方程式(A の右向き,B,C の下向きを正)は

(3.0+1.0+0.50)a=1.5×9.8−8.82 ⟹ a=5.884.5≈1.3ms−2

A について T1−8.82=3.0a,よって T1≈12.7N.C について 0.50×9.8−T2=0.50a,よって T2=0.50(9.8−1.307)≈4.2N である.

  1. 糸2を切ると,A と B だけで 4.0a′=9.8−8.82,a′=0.245ms−2(加速が続く).糸1の張力は T1′=1.0×(9.8−0.245)≈9.6N.(1) では B だけでは動き出さなかったが,動いていれば動摩擦力 8.82N が B の重さより小さく,加速を続ける.動き出す条件と動き続ける条件は違う.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

十分に長いベルトコンベアが,傾き θ=20∘ で斜め上向きに速さ V=2.0ms−1 で動いている.ベルトと荷物の静止摩擦係数は 0.60,動摩擦係数は 0.50.荷物を静かに置く.

傾きθのベルトが斜め上向きに速さVで動く.荷物を静かに置く位置と上端までの距離を示す. 傾きθのベルトが斜め上向きに速さVで動く.荷物を静かに置く位置と上端までの距離を示す.
  1. 荷物がベルトに対して滑っている時間と,その間に荷物が進む距離,ベルトに対して滑る距離を求めよ.

  2. 置いた点から斜面に沿って 6.0m 離れた上端に着くまでの時間を求めよ.

  3. 静止摩擦係数が 0.30,動摩擦係数が 0.25 だったらどうなるか.

解答を見る

g=9.8ms−2,sin⁡20∘=0.342,cos⁡20∘=0.940.

  1. 荷物はベルトより遅いので,動摩擦力は上向きに働く.上向きを正にして

ma=μ′mgcos⁡θ−mgsin⁡θ ⟹ a=9.8(0.50×0.940−0.342)≈1.25ms−2

速さが V になるまでの時間は t1=V/a≈1.6s,進む距離は V2/(2a)≈1.6m.この間ベルトは Vt1≈3.2m 進むので,ベルトに対して約 1.6m 滑る.

  1. 速さが V に達すると,必要な静止摩擦力は mgsin⁡θ=0.342mg で,最大値 0.564mg 以下なので,荷物はベルトと一緒に動く.残りの 4.4m を速さ V で進み,2.2s かかる.全体で 3.8s.

  2. a=9.8(0.25×0.940−0.342)≈−1.05ms−2.負なので荷物は運ばれず,斜面を滑り落ちる(μ<tan⁡θ=0.364 だから運べない).

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

トラックが荷台に荷物を載せて,速さ 18ms−1 で走っている.時刻 0 から一定の大きさ 6.0ms−2 で減速する.荷物は荷台に対して静止していて,運転席側の壁から後ろへ d の距離にある.荷物と荷台の静止摩擦係数は 0.50,動摩擦係数は 0.40 である.

トラックの荷台に荷物がのり,荷物の右側(運転席側)に壁がある.荷物と壁の間隔をdとする.トラックは右向きに走る(青い矢印). トラックの荷台に荷物がのり,荷物の右側(運転席側)に壁がある.荷物と壁の間隔をdとする.トラックは右向きに走る(青い矢印).
  1. d=3.0m のとき,荷物が壁にぶつかるまでの時間と,ぶつかる直前の荷台に対する荷物の速さを求めよ.

  2. 荷物が壁にぶつからずにすむ d の条件を求めよ.トラックは止まったあともその場にとどまる.

解答を見る

考え方 荷物は動摩擦力だけで減速し,トラックのほうが強く減速するので,荷台に対して前へ進む.

  1. 静止摩擦力による減速は最大 μg=4.9ms−2 で,6.0 はそれを超えるので滑る.荷物の減速は μ′g=3.92ms−2.荷台に対する前向きの加速度は 6.0−3.92=2.08ms−2 で,d=12×2.08t2 より t=6.0/2.08≈1.7s.トラックは 18/6.0=3.0s で止まるので,まだ走っている.荷台に対する速さは 2.08×1.7≈3.5ms−1.

  2. トラックは 182/(2×6.0)=27m で止まる.荷物は減速度 3.92ms−2 のまま 182/(2×3.92)≈41.3m 進んで止まる.荷台に対する前進は全部で 41.3−27≈14.3m なので,d>14m ならぶつからない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m=2.0kg,体積 V=4.0×10−4m3 の固体Aを,水槽の上の軽くなめらかな定滑車を通る糸で,空気中のおもりB(質量 mB=1.0kg)とつなぐ.Aは水中に完全に沈み,底にも水面にも達しない.水の密度は ρ=1.0×103kgm−3,g=9.8ms−2.周囲の水を加速させる効果と流れによる抵抗を無視し,運動中も浮力は ρVg とする模型である.

  1. 静止から放したときの加速度の向きと大きさ,糸の張力を求めよ.

  2. Aの質量と体積をそのままに,液体の密度だけを変える.Aの下降から上昇へ運動が変わる境目の密度を求めよ.Aが下降する区間の式を密度の関数で書き,慣性質量も m−ρV に変えてよいか説明せよ.

水中の固体と空気中のおもりを示す模式図. 水中の固体と空気中のおもりを示す模式図.
解答を見る

考え方 水中では重力と浮力の差が下向きの駆動力になるが,加速度に掛ける質量はAの質量そのものである.

  1. Aの下向き,Bの上向きを正にとる.ma=mg−ρVg−T,mBa=T−mBg より a=(m−mB−ρV)g/(m+mB).代入すると a=1.96ms−2≈2.0ms−2 で,Aは下がる.T=mB(g+a)=11.76N≈12N.張力は正で,糸は張っている.

  2. 境目は m−mB−ρV=0,ρ=(m−mB)/V=2.5×103kgm−3.これより小さい密度なら(1)の式で下降し,大きければ符号が反転して上昇する.m−ρV は重力と浮力の差を g で割った量で,物体の慣性質量ではない.分母を m+mB−ρV にしてはいけない.ρ→0 では普通の定滑車の式へ戻る.(m−mB−ρV)/(m+mB) は無次元なので,加速度の単位も合う.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

なめらかな水平面上の板B(M=4.0kg)の上に物体A(m=2.0kg)がのっている.AとBの間の静止摩擦係数は 0.30,動摩擦係数は 0.20 である.AとBは,右の壁に固定した軽くなめらかな滑車に通した水平な糸でつながれている.Bを水平左向きの力 F で引く.

なめらかな水平面上の板Bの上に物体Aがのる.Aの右側から水平に出た糸は右の壁に固定した滑車を回り,Bの右側につながる.Bを水平左向きの力F(赤い矢印)で引く. なめらかな水平面上の板Bの上に物体Aがのる.Aの右側から水平に出た糸は右の壁に固定した滑車を回り,Bの右側につながる.Bを水平左向きの力F(赤い矢印)で引く.
  1. A,Bが動き出すのは F がいくら以上のときか.

  2. F=30N で動いているときの加速度の大きさと糸の張力を求めよ.

解答を見る

考え方 Bが左へ動くとAは右へ動く.Aに働く摩擦力はBに対する相対運動を妨げる向きで,Bに働く摩擦力はその反作用である.

  1. 動き出す直前は静止摩擦力が最大で,Aに左向きに f=0.30mg,糸の張力は T=f.Bについて F=T+f=2f.よって F=2×0.30×2.0×9.8≈12N 以上で動く.

  2. 動摩擦力は f′=0.20×2.0×9.8=3.92N.糸が伸びないので加速度の大きさ a は共通.Aは右向きに T−f′=ma,Bは左向きに F−T−f′=Ma.足して

a=F−2f′M+m=30−7.846.0≈3.7ms−2,T=f′+ma≈11N

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の小球を地面から鉛直上向きに初速 v0 で投げる.空気抵抗の大きさは cv2(v は速さ)で,vt=mg/c とおく.

左は上昇中の小球.速度vは上向き(青)で,重力mgと抵抗cv2はどちらも下向き(赤).右は下降中の小球.速度vは下向き(青),重力mgは下向き,抵抗cv2は上向き(赤). 左は上昇中の小球.速度vは上向き(青)で,重力mgと抵抗cv2はどちらも下向き(赤).右は下降中の小球.速度vは下向き(青),重力mgは下向き,抵抗cv2は上向き(赤).
  1. 上昇中の運動方程式を,高さ x と速さ v の関係(dvdt=vdvdx)として書き,最高点の高さ H を求めよ.積分には ∫vdv1+v2/vt2=vt22ln⁡(1+v2vt2)+C(右辺を微分すれば確かめられる)を使ってよい.

  2. 落下して地面に戻るときの速さ v1 が,1v12=1v02+1vt2 を満たすことを示せ.0≤v<vt で ∫vdv1−v2/vt2=−vt22ln⁡(1−v2vt2)+C である.

  3. vt=20ms−1,v0=30ms−1 のとき,H と v1 を求め,抵抗がない場合と比べよ.

解答を見る

考え方 時間を使わずに,位置で積分する.上昇と下降で抵抗の向きが逆になる.

  1. 上向きを正として mvdvdx=−mg−cv2,すなわち vdvdx=−g(1+v2vt2).x=0 の v0 から最高点の 0 まで積分して

∫v00vdv1+v2/vt2=−gH ⟹ H=vt22gln⁡(1+v02vt2)
  1. 最高点から下向きに y をとると vdvdy=g(1−v2vt2).積分して −vt22ln⁡(1−v12vt2)=gH.(1) の H を入れると 1−v12vt2=vt2vt2+v02,よって v12=v02vt2v02+vt2 となる.

  2. H=40019.6ln⁡3.25≈24m,v1=30×201300≈17ms−1.抵抗がなければ 46m,30ms−1 なので,どちらもほぼ半分になる.vt→∞ で v1→v0 となり,検算になる.

演習 7

オリジナル ★★★☆☆

傾き θ=40∘ の粗い斜面上に質量 2.0kg の物体を置く.静止摩擦係数は μ=0.30 である.斜面に向かう水平な力 F を加えて静止させたい.

傾きθの粗い斜面(右上がり)の上に物体がある.重力mgは鉛直下向き,垂直抗力Nは斜面に垂直,摩擦力fは斜面に沿い,斜面へ向かう水平な力Fは右向きに描く.摩擦力の向きはFの大きさで変わる. 傾きθの粗い斜面(右上がり)の上に物体がある.重力mgは鉛直下向き,垂直抗力Nは斜面に垂直,摩擦力fは斜面に沿い,斜面へ向かう水平な力Fは右向きに描く.摩擦力の向きはFの大きさで変わる.
  1. F の最小値と最大値を求めよ.tan⁡φ=μ となる角 φ を使って表すとどうなるか.

  2. 斜面が急で,どんなに強く押しても物体がずり上がらなくなる θ の条件を求めよ.

解答を見る

考え方 F が小さいとずり落ち,大きいとずり上がる.どちらも静止摩擦力が最大になる境目である.

  1. 垂直抗力は N=mgcos⁡θ+Fsin⁡θ.ずり落ちる境目では摩擦力が上向きで Fcos⁡θ+μN=mgsin⁡θ.よって

Fmin=mgsin⁡θ−μcos⁡θcos⁡θ+μsin⁡θ=mgtan⁡(θ−φ)

ずり上がる境目では摩擦力が下向きで Fcos⁡θ=mgsin⁡θ+μN.よって

Fmax=mgsin⁡θ+μcos⁡θcos⁡θ−μsin⁡θ=mgtan⁡(θ+φ)

tan⁡φ=0.30 より φ≈16.7∘ で,Fmin=19.6tan⁡23.3∘≈8.4N,Fmax=19.6tan⁡56.7∘≈30N である.

  1. Fmax の式で分母が 0 以下,すなわち cos⁡θ≤μsin⁡θ(tan⁡θ≥1/μ)なら上限はない.tan⁡θ≥1/0.30≈3.3 より θ≥73∘ である.このとき押す力が強くなるほど斜面への押しつけも強くなり,摩擦力が追いつく.

演習 8

東京大 2004 前期(改題) ★★★☆☆

水平な上面をもつ質量 M のくさび台が,右下がりの滑らかな斜面を姿勢を変えずに滑る.斜面角は θ,上面の幅は d である.上面右端に質量 m の小物体を置き,両者を静止から放す.右端から左へ長さ ℓ の区間だけが粗く,残りは滑らかである.粗面の静止摩擦係数を μ,動摩擦係数を μ′ とする.空気抵抗を無視し,右向きを x,下向きを y とする.

右端の小物体mを台Mとともに静止から放す.上面右側の長さℓだけが粗面である. 右端の小物体mを台Mとともに静止から放す.上面右側の長さℓだけが粗面である.
  1. 小物体が台と一体で動ける μ の条件を求めよ.

  2. 滑る場合について,粗面区間での台の斜面方向の加速度 q,小物体の垂直抗力 N,台に対する小物体の左向き加速度 b を求めよ.

  3. M=2m,θ=30∘,μ=1/(23),μ′=1/(43),d=0.60m,ℓ=0.20m,g=10ms−2 とする.粗面を出る時刻と台の左端を離れる時刻を求め,離脱までの地上から見た軌跡を区間ごとに式で表せ.小物体の初期位置を原点とする.

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考え方 台と小物体の鉛直加速度は接触中には等しいが,水平加速度は滑れば異なる.小物体の摩擦力は右向き,台が受ける反作用は左向きである.

  1. 一体なら斜面方向の加速度は gsin⁡θ.小物体について f=mgsin⁡θcos⁡θ,N=mg−mgsin2⁡θ=mgcos2⁡θ なので,f≤μN より μ≥tan⁡θ である.指定値はこの条件を満たさず,左へ滑る.

  2. s=sin⁡θ,c=cos⁡θ と略記する.小物体は mqs=mg−N,max=μ′N を満たす.台の斜面方向には Mq=Mgs+Ns−μ′Nc だから,

q=(M+m)gs−μ′mgcM+ms2−μ′msc,N=m(g−qs),b=qc−μ′(g−qs).

ここでは q=44/7ms−2,N/m=48/7ms−2,ax=43/7ms−2,b=183/7ms−2 となり,N>0,b>0 も確かめられる.

  1. 粗面を出る時刻を t1 とすれば bt12/2=ℓ より t1=2ℓ/b≈0.300s.そのときの相対速度の大きさは w=bt1 である.滑らかな区間では q0=(M+m)gs/(M+ms2)=20/3ms−2,b0=q0c となる.残りの時間 τ は d−ℓ=wτ+b0τ2/2 の正の根,すなわち

τ=w2+2b0(d−ℓ)−wb0≈0.207s

であり,離脱時刻は t1+τ≈0.507s となる.粗面上では x=axt2/2,y=qst2/2 なので軌跡は直線である.滑らかな区間では σ=t−t1 として,

x=12axt12+axt1σ,y=12qst12+qst1σ+12q0sσ2.

水平速度は一定になり,軌跡は下向きに曲がる放物線となる.離脱位置は約 (0.106,0.408)m,直前の速度は約 (0.297,1.63)ms−1 である.境目では位置と速度は連続し,加速度だけが変わる.ℓ→0 なら初めから水平速度が0の鉛直運動になることも,式から確かめられる.

演習 9

東京大 1998 前期(改題) ★★★☆☆

重力を無視できる宇宙空間で,半径 R の円筒形居住区が一定角速度 ω>0 で回っている.断面を外から見て反時計回りとする.内壁上の物体が壁から受ける垂直抗力の大きさを,質量の g∗ 倍にしたいと考える.小物体の大きさは無視する.

円筒の右端Pから中心向きに発射する.外部の慣性系では壁の接線速度も初速度に加わる. 円筒の右端Pから中心向きに発射する.外部の慣性系では壁の接線速度も初速度に加わる.
  1. 必要な ω を求めよ.壁と同じ角速度で回り,半径 R/3 の場所に固定された足場では,物体を支える力は質量の何倍か.

  2. 点 P=(R,0) から,壁に対して中心向きに速さ u で球を発射する.発射後は力が働かない.外から見た位置と,次に壁に当たる時刻 tc を求めよ.

  3. u=ωR,R=90m,g∗=10ms−2 の場合,球は発射装置から見て回転方向の前後どちらに当たるか.壁に沿った距離も求めよ.

解答を見る

考え方 壁に乗っている間は円運動,離れた後は等速直線運動である.球の初速度には,発射前から持っていた接線方向の速度も含まれる.

  1. mω2R=mg∗ より ω=g∗/R.半径 R/3 では加速度が ω2R/3=g∗/3 なので,支える力は mg∗/3 である.

  2. 初速度は (−u,ωR).したがって x=R−ut,y=ωRt となる.壁の条件 x2+y2=R2 から,t=0 以外の解は

tc=2Ruu2+ω2R2.

これは長さ÷速さの次元をもつ.u→0 では接線方向へ出ようとして直ちに壁に接触するので,tc→0 も妥当である.

  1. ω=1/3s−1,u=30ms−1,tc=1/ω=3.0s.衝突点は (0,R) で,外から見た偏角は π/2.同じ時間に発射装置は ωtc=1 ラジアン進むため,球は装置より回転方向の前方へ R(π/2−1)≈51m 離れた場所に当たる.球の経路は弦であり,装置の経路は円弧なので,両者の角度を別々に計算する必要がある.

演習 10

東京大 1986 前期(改題) ★★★☆☆

質量 M の台車に質量 m の荷物を載せ,荷物に結んだ糸を水平から角 θ だけ上向きに引く.床と台車の摩擦はなく,荷物と台車の静止摩擦係数は μ である.糸の張力は調節でき,台車は静止から右へ進む.速度上限を V とし,ゴールでは停止する必要はない.

糸は台車ではなく上の荷物mに結ばれている.床との摩擦はなく,荷物と台車の間に静止摩擦が働く. 糸は台車ではなく上の荷物mに結ばれている.床との摩擦はなく,荷物と台車の間に静止摩擦が働く.
  1. 荷物が台車から浮かず,滑らずに動ける最大加速度 a0 を求めよ.

  2. 距離 D のゴールまでの最短時間を,速度上限に達する場合と達しない場合に分けて求めよ.

  3. M=3.0kg,m=2.0kg,μ=0.50,sin⁡θ=3/5,cos⁡θ=4/5,g=10ms−2,V=4.0ms−1 とし,D=2.0m と 12m の最短時間を求めよ.

解答を見る

考え方 台車を直接加速するのは摩擦力である.張力を増すと水平方向の駆動力が増える一方,荷物の垂直抗力は減る.

  1. 台車に働く右向き摩擦力を f とすると Ma=f,荷物には ma=Tcos⁡θ−f,N=mg−Tsin⁡θ.したがって T=(M+m)a/cos⁡θ であり,f≤μN より

a≤a0=μmgM+μ(M+m)tan⁡θ.

この上限では N=Ma0/μ>0 なので浮き上がらない.μ→0 で a0→0 となるのは,荷物を引いても台車に力が伝わらないからである.

  1. 任意の時刻に v(t)≤min(a0t,V).初めから最大加速度を使う運動はこの上限を実現するため,距離の積分も最大になり,到達時間が最小になる.切替時刻は ts=V/a0,切替距離は Ds=V2/(2a0) である.

tmin={2D/a0D≤Ds,D/V+V/(2a0)D≥Ds.

切替前は v=a0t,x=a0t2/2,切替後は v=V,x=Ds+V(t−ts) である.等速区間では張力を0にすればよい.両式は D=Ds で一致する.

  1. a0=80/39≈2.05ms−2,Ds=3.9m.よって短距離では約 1.4s,長距離では約 4.0s(丸める前は 3.975s)となる.

演習 11

東京大 1980 前期(改題) ★★★☆☆

水平な昇降台の上に小物体を置く.台は鉛直上向きを正として,静止から次の速度で動く.g=10ms−2,T=0.40s とし,初期の台の高さを0にする.空気抵抗を無視する.

vA(t)={2gt0≤t≤T,2g(2T−t)T≤t≤2T,0t≥2T.
台の速度はTまで直線的に増え,2Tで0に戻り,その後0のままである.小物体は初め台に接している. 台の速度はTまで直線的に増え,2Tで0に戻り,その後0のままである.小物体は初め台に接している.
  1. 接触中の垂直抗力を調べ,離脱時刻を求めよ.

  2. 離脱後の小物体の位置と最高点の高さを求めよ.

  3. 台との最初の再接触時刻を求め,減速中に再接触していないことも確かめよ.衝突後の運動は扱わない.

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考え方 台は押せるが引けない.接触を仮定して負の抗力が必要になった時点で自由落下へ切り替え,その後は位置の一致を調べる.

  1. 0<t<T では N−mg=2mg より N=3mg.T<t<2T に接触を仮定すると N−mg=−2mg から N=−mg となり不可能である.したがって t=T に離れ,その位置は gT2,速度は 2gT である.速度は連続なので,切替時に余分な速度を与えてはいけない.

  2. s=t−T とおくと,小物体は yB=gT2+2gTs−gs2/2.最高点は s=2T,高さは 3gT2=4.8m となる.

  3. 0<s<T の台の位置は yA=gT2+2gTs−gs2 なので,間隔は yB−yA=gs2/2>0.t≥2T では台は yA=2gT2 に止まる.そこで yB=2gT2 を解くと s=(2±2)T だが,小さい根は s<T で,静止した台の式を使える区間にない.採用するのは t=(3+2)T≈1.8s(丸める前は約 1.766s)である.すべての高さが gT2,時間が T に比例し,次元も一致する.

29第4章の発展問題

★4・★5の発展問題で,動く台やくさび,重ねた物体,鎖やロープの力のつり合いを扱います.まず束縛条件と座標軸を整理し,未知数と式の数が合っていることを確かめてから解答を見てください.

演習

演習 1

オリジナル ★★★★☆

質量 M のくさびが,滑らかな水平面の上に置かれている.くさびの右側の斜面は水平から角 α で,斜面は右に向かって下がっている.斜面の上に,質量 m の小物体を静かに置く.斜面は滑らかである.

  1. くさびの加速度の大きさ A(左向き),小物体のくさびに対する加速度 a(斜面に沿って下向き),垂直抗力 N を求めよ.

  2. 水平面がくさびに及ぼす垂直抗力を求めよ.

  3. M→∞,M→0 の極限を調べて,結果を確かめよ.

滑らかな水平面上に,右側の斜面が水平から角αで右下がりのくさび(質量M)が置かれ,その斜面の上に小物体(質量m)がある.くさびの加速度Aが左向きの矢印で,小物体のくさびに対する加速度aが斜面に沿って下向きの矢印で描かれている.右向きにx軸,上向きにy軸をとる. 滑らかな水平面上に,右側の斜面が水平から角αで右下がりのくさび(質量M)が置かれ,その斜面の上に小物体(質量m)がある.くさびの加速度Aが左向きの矢印で,小物体のくさびに対する加速度aが斜面に沿って下向きの矢印で描かれている.右向きにx軸,上向きにy軸をとる.
解答を見る

考え方 くさびも動くので,物体の加速度はくさびの加速度と相対加速度の和になる.これが束縛条件である.地面から見た運動方程式を物体とくさびで別々に書く.

右向きを x,上向きを y とする.斜面の垂線の向き(垂直抗力の向き)は (sin⁡α,cos⁡α) である.物体の加速度は,くさびの加速度 (−A,0) と相対加速度 (acos⁡α,−asin⁡α) の和で,

(acos⁡α−A, −asin⁡α)

である.物体の運動方程式は

m(acos⁡α−A)=Nsin⁡α,−masin⁡α=Ncos⁡α−mg

くさびは物体から −N(sin⁡α,cos⁡α) の力を受けるので,水平方向について

−MA=−Nsin⁡α ⟹ MA=Nsin⁡α

である.第1式と合わせて m(acos⁡α−A)=MA,すなわち A=mcos⁡αM+ma.また N=MA/sin⁡α を第2式に入れると

Mmcos2⁡α(M+m)sin⁡αa=mg−masin⁡α

となり,まとめて

a=(M+m)sin⁡αM+msin2⁡αg,A=msin⁡αcos⁡αM+msin2⁡αg,N=Mmcos⁡αM+msin2⁡αg
  1. くさびの鉛直方向のつり合いから,床の垂直抗力は Mg+Ncos⁡α=M(M+m)M+msin2⁡αg である.

  2. M→∞:a→gsin⁡α,A→0,N→mgcos⁡α.固定された斜面の結果に一致する.M→0:N→0,a→g/sin⁡α,A→g/tan⁡α.物体は自由落下(鉛直加速度 asin⁡α=g)し,軽いくさびは水平に逃げる.

演習 2

オリジナル ★★★★☆

質量 m の小物体が,傾き α の斜面を持つくさびの上にある.斜面は右に向かって下がっている.くさび全体を水平面上で右向きに一定の加速度 A で動かす.(A が負なら左向き.)

右下がりの斜面上に質量mの物体があり,くさびを右向きに加速度Aで動かす. 右下がりの斜面上に質量mの物体があり,くさびを右向きに加速度Aで動かす.
  1. 斜面が滑らかなとき,物体の斜面に対する加速度 a(斜面に沿って下向き)と垂直抗力 N を求めよ.

  2. 物体が斜面に対して静止する A を求めよ.

  3. 物体が斜面から離れる A の条件を求め,そのとき a が何になるかを確かめよ.

解答を見る

考え方 物体の地面に対する加速度を,斜面方向と斜面に垂直な方向に分けて運動方程式を立てる.

斜面に沿って下向きの単位ベクトルを t^=(cos⁡α,−sin⁡α),斜面に垂直で上向きを n^=(sin⁡α,cos⁡α) とする.物体の加速度は,くさびの加速度 (A,0) と相対加速度 at^ の和である.

  1. t^ 方向の運動方程式は,垂直抗力が t^ 成分を持たないので

m(Acos⁡α+a)=mgsin⁡α ⟹ a=gsin⁡α−Acos⁡α

n^ 方向では,相対加速度は垂直成分を持たないので,加速度の n^ 成分は Asin⁡α である.

mAsin⁡α=N−mgcos⁡α ⟹ N=m(gcos⁡α+Asin⁡α)
  1. a=0 より A=gtan⁡α.

  2. N≤0 になると面から離れるので,gcos⁡α+Asin⁡α<0,すなわち A<−g/tan⁡α(左向きに大きく加速する).境界 A=−gcot⁡α では N=0,a=g/sin⁡α で,鉛直の加速度は asin⁡α=g.物体は自由落下しており,くさびが速く逃げて斜面に触れられなくなる.

演習 3

オリジナル ★★★★☆

質量 M のくさびが,滑らかな水平面にある.くさびの斜面(右側)は水平から角 α で,右に向かって下がっている.斜面に質量 m の小物体を置く.物体とくさびの静止摩擦係数を μ とする.くさびの左側の鉛直面を水平右向きの力 F で押し,物体がくさびに対して滑らずに一緒に動くようにする.

質量Mの右下がりのくさびを右向きの力Fで押す.上の小物体の質量はm,接触面の静止摩擦係数はμ. 質量Mの右下がりのくさびを右向きの力Fで押す.上の小物体の質量はm,接触面の静止摩擦係数はμ.
  1. F の範囲を M,m,g,α,μ で表せ.ただし μ<cot⁡α とする.

  2. M=2.0kg,m=1.0kg,α=30∘,μ=0.20 の値を求めよ.

  3. μ→0 の極限を確かめよ.

解答を見る

考え方 一緒に動くとき全体の加速度は A=F/(M+m) で,物体も水平右向きに加速度 A を持つ.その物体について,斜面方向と垂直方向の力を書く.

  1. 斜面に沿って下向きの単位ベクトルは (cos⁡α,−sin⁡α),垂線は (sin⁡α,cos⁡α) である.斜面に沿って上向きの摩擦力 f を仮定すると

mAcos⁡α=mgsin⁡α−f,mAsin⁡α=N−mgcos⁡α

より f=m(gsin⁡α−Acos⁡α),N=m(gcos⁡α+Asin⁡α).滑らない条件は |f|≤μN,μ=tan⁡λ とおく.

  • f≤μN:g(sin⁡α−μcos⁡α)≤A(cos⁡α+μsin⁡α),よって A≥gtan⁡(α−λ).

  • −f≤μN:A(cos⁡α−μsin⁡α)≤g(sin⁡α+μcos⁡α).μ<cot⁡α より cos⁡α−μsin⁡α>0 なので A≤gtan⁡(α+λ).

F=(M+m)A より

(M+m)gtan⁡(α−λ)≤F≤(M+m)gtan⁡(α+λ),tan⁡(α∓λ)=sin⁡α∓μcos⁡αcos⁡α±μsin⁡α
  1. tan⁡(α−λ)=0.5−0.1730.866+0.100=0.338,tan⁡(α+λ)=0.5+0.1730.866−0.100=0.879.M+m=3.0kg より

3.0×9.8×0.338≤F≤3.0×9.8×0.879 ⟹ 9.9N≤F≤26N
  1. μ→0(λ→0)で範囲が1点 F=(M+m)gtan⁡α に縮み,演習 2 の A=gtan⁡α に一致する.

演習 4

オリジナル ★★★★☆

滑らかな水平な机の上に,質量 m1=2.0kg の板があり,その上に質量 m2=1.0kg の物体を置く.物体と板のあいだの摩擦係数は μ=0.30(静止,動とも同じ).物体に軽い糸を結び,水平に引いて机の端の定滑車にかけ,鉛直に下ろして軽い動滑車の下を通し,上に戻して天井に固定する.動滑車には質量 M のおもりを吊るす.糸の鉛直部分は2本とも鉛直である.

  1. 物体の加速度の大きさ a と,おもりの加速度の大きさの関係(束縛条件)を求めよ.

  2. 物体が板に対して滑らずに動くための M の最大値を求めよ.

  3. M=2.0kg のとき,板,物体,おもりの加速度と糸の張力を求めよ.

滑らかな水平な机の上に質量m1の板があり,その上に質量m2の物体が置かれている(板と物体の間の摩擦係数はμ).物体から糸が水平に出て,机の端の定滑車を回って鉛直に下り,動滑車の下を回って鉛直に上り,天井に固定されている.動滑車には質量Mのおもりが吊るされている.糸の鉛直部分は2本とも鉛直. 滑らかな水平な机の上に質量m1の板があり,その上に質量m2の物体が置かれている(板と物体の間の摩擦係数はμ).物体から糸が水平に出て,机の端の定滑車を回って鉛直に下り,動滑車の下を回って鉛直に上り,天井に固定されている.動滑車には質量Mのおもりが吊るされている.糸の鉛直部分は2本とも鉛直.
解答を見る
  1. 物体と定滑車の距離を x,動滑車の深さを y とすると,糸の長さが一定なので x+2y= 一定である.物体が Δx 縮むとおもりは Δx/2 下がるので,おもりの加速度の大きさは a/2 である.

  2. 滑らないとき,板と物体は共通の加速度 a を持ち,水平方向の外力は糸の張力 T だけなので (m1+m2)a=T.おもりは Mg−2T=M⋅a2.よって

a=2Mg4(m1+m2)+M

板を動かすのは摩擦力だけなので f=m1a≤μm2g である.

2Mm14(m1+m2)+M≤μm2 ⟹ M≤4μm2(m1+m2)2m1−μm2

数値を入れて M≤4×0.30×1.0×3.04.0−0.30≈0.97kg.

  1. M=2.0kg は上限より大きく,物体は滑る.板は動摩擦力だけで動くので m1a1=μm2g,a1=0.30×1.0×9.8/2.0=1.47≈1.5ms−2.物体は T−μm2g=m2a2,おもりは Mg−2T=Ma2/2 なので

a2(m2+M4)=Mg2−μm2g ⟹ 1.5a2=9.8−2.94 ⟹ a2≈4.6ms−2

おもりの加速度は a2/2≈2.3ms−2,張力は T=m2a2+μm2g≈7.5N.a2>a1 なので物体は板に対して前へ滑り,仮定と合っている.

演習 5

オリジナル ★★★★☆

滑らかな水平な机の上に,一様な鎖(長さ L,質量 M)が一直線に置かれ,一端から長さ y0 の部分が,机の縁から(滑らかな縁を越えて)鉛直に垂れ下がっている.静かに放す.垂れ下がり部分の長さを y(t) とする.

長さL,質量Mの鎖のうち,初め長さy₀が机から垂れている. 長さL,質量Mの鎖のうち,初め長さy₀が机から垂れている.
  1. y の運動方程式を立てよ.

  2. y(t)=Aeωt+Be−ωt の形を仮定して,ω と A,B を求めよ.

  3. y0=L/4 のとき,鎖全体が机を離れるまでの時間と,そのときの速さを求めよ.L=1.0m では何秒,何 ms−1 か.z=eωt とおくと z の2次方程式になり,t=1ωln⁡z である.

解答を見る
  1. 机の上の部分の重力は垂直抗力とつり合うので,全体を加速するのは垂れ下がり部分の重力 Myg/L だけである.全体(質量 M)の運動方程式は

My¨=MyLg ⟹ y¨=gLy
  1. ω2=g/L とすると,y=Aeωt+Be−ωt は y¨=ω2y を満たす.初期条件 y(0)=y0,y˙(0)=0 より A+B=y0,ω(A−B)=0.よって A=B=y0/2 で

y(t)=y02(eωt+e−ωt),ω=gL
  1. y=L となる時刻は,z=eωt とおいて z+1/z=2L/y0=8.よって z=4+15≈7.87,ωt=ln⁡z≈2.06,

t≈2.06L/g

速さは y˙=y0ω2(z−1z)=ωy0(L/y0)2−1=ωL2−y02 より

v=154gL≈0.97gL

L=1.0m では t≈0.66s,v≈3.0ms−1 である.

演習 6

オリジナル ★★★★★

固定された粗い円柱(半径 R)に,軽いロープを中心角 θ にわたって巻きつける.ロープと円柱の静止摩擦係数を μ とする.ロープの一端の張力を T1,他端の張力を T2(>T1) とする.

  1. 円柱面上のロープの一部分(中心角 dφ)の力のつり合いを調べ,ロープが T2 の側へ滑り出す直前に T2=T1eμθ となることを導け.小さな角 x では sin⁡x≈x と近似でき,∫dTT=ln⁡T+C(T>0)である.

  2. μ=0.25,θ=4π(2回巻き)で,一端に 5000N の荷重がかかるとき,人がロープを引く力の最小値と,ロープが滑らない人の張力の範囲を求めよ.

  3. 人が 100N で荷重 5000N を保つには,何回以上巻けばよいか.

固定された粗い円柱に,軽いロープが中心角θだけ巻きついている.ロープの両端には張力T1(小さい側)とT2(大きい側)が,ロープに沿って円柱から離れる向きに働く.円柱上の一部分(中心角dφ,オレンジで印)を右に拡大して描く.この部分には,T1側の張力T,T2側の張力T+dT(どちらもロープの接線方向),円柱から受ける垂直抗力dN(半径方向外向き),T1の側を向く摩擦力μdNが働く. 固定された粗い円柱に,軽いロープが中心角θだけ巻きついている.ロープの両端には張力T1(小さい側)とT2(大きい側)が,ロープに沿って円柱から離れる向きに働く.円柱上の一部分(中心角dφ,オレンジで印)を右に拡大して描く.この部分には,T1側の張力T,T2側の張力T+dT(どちらもロープの接線方向),円柱から受ける垂直抗力dN(半径方向外向き),T1の側を向く摩擦力μdNが働く.
解答を見る
  1. T1 の側から測った角 φ の位置で,部分の両端の張力を T(T1 側)と T+dT(T2 側)とする.滑り出す直前なので,摩擦力は T1 の側を向いて限界の大きさになる.この部分の力はつり合う.半径方向では,両端の張力が中心向きの成分を持つので,

dN=Tsin⁡dφ2+(T+dT)sin⁡dφ2≈Tdφ

である(sin⁡(dφ/2)≈dφ/2 とし,2次の微小量 dTdφ は無視した).接線方向では,限界の摩擦力が μdN なので

dT=μdN=μTdφ

である.dTT=μdφ(変数分離)を φ=0 から θ まで積分すると

ln⁡T2T1=μθ ⟹ T2=T1eμθ

である.半径 R に依らず,巻きつけた角 θ だけで決まる.

  1. 荷重側が T2=5000N,引く力 T1 が限界のとき,μθ=0.25×4π=π なので

T1=5000e−π≈5000×0.0432≈2.2×102N

が最小値である.逆に人の側の張力が大きすぎても滑り,その限界は 5000eπ なので,滑らない範囲は

2.2×102N≤T1≤1.2×105N

である.

  1. eμθ≥5000/100=50 より μθ≥ln⁡50=3.91,θ≥15.6rad≈2.5 回転である.余裕を見て3回巻けばよい.

30第4章のまとめ

この章では,力と運動の関係を3つの法則にまとめ,力を見つけて運動方程式に入れる手順を身につけました.そのうえで,垂直抗力・張力・摩擦・空気抵抗という具体的な力を調べ,つり合いに進みました.最後に,流体が面を押す圧力から浮力を導きました.ここで法則と公式を一覧にし,各節の最初の問いに短く答えます.

法則

法則 力と運動の3法則

  • 第1法則(慣性の法則):合力が 0 のとき,物体は静止し続けるか等速直線運動を続ける.成り立つ基準系を慣性系といい,慣性系に対して等速直線運動をする基準系もまた慣性系である.

  • 第2法則(運動方程式):ma=F(F は合力).力の単位は 1N=1kgms−2 である.運動方程式は法則であって,力の法則と初期条件を組み合わせて初めて運動を予言できる.

  • 第3法則(作用反作用):FB→A=−FA→B.別々の物体に働く同種の力で,いつでも成り立つ.同じ物体に働く力のつり合いとは別のものである.粒子1組ごとの重力と電気の力が対になることに由来し,接触力はそれを境目の原子の組について足し合わせたものである.

力の一覧

力

向きと大きさ

注意

重力

鉛直下向き,mg

質量は変わらず,重さは場所で変わる

垂直抗力 N

面に垂直,必要なだけ(N≥0)

常に mg とは限らない

張力 T

糸に沿って引く向き

切り口の両側で等しいのは第3法則,軽い糸でどこでも同じなのは糸の運動方程式による.押せない

静止摩擦力 f

相対運動を妨げる向き,0≤f≤μN

滑っていない間,運動方程式から決まる(加速度0ならつり合い)

動摩擦力 f′

滑る向きと逆,f′=μ′N

速さにほとんどよらない

抵抗力

流体に対する相対速度と逆向き,kv または cv2

終端速度に近づくと重力とほぼつり合う

浮力

鉛直上向き,ρVg(押しのけた流体の重さ)

表面を押す圧力の合計.V は沈んでいる部分の体積

手順

ポイント 力学の問題を解く手順

  1. 注目する物体を1つ決め,まず重力を描く.

  2. 触れているものを数え,垂直抗力・張力・摩擦力などを描く.相手の物体を言えない力は描かない.

  3. 座標軸を選び,成分ごとに ma=F(つり合いなら ∑F=0)を書く.

  4. 糸の長さが一定などの束縛条件から,加速度の関係を作る.未知数と式の数を数える.

  5. 摩擦では,滑っていないと仮定して f≤μN を確かめ,だめなら動摩擦力に置き直す.

  6. 極端な場合(角が0や90°,質量が非常に大きい,t→0,t→∞)で検算する.

主な公式

  • 滑らかな斜面:a=gsin⁡θ,N=mgcos⁡θ

  • エレベーター(上向き正):N=m(g+a)

  • アトウッドの機械:a=M−mM+mg,T=2MmM+mg

  • 斜面で滑り出す角:μ=tan⁡θ0

  • 線形抵抗の落下:v=v∞(1−e−t/τ),v∞=mgk,τ=mk.2乗抵抗の終端速度:v∞=mgc

  • 静止した液体の圧力:p=p0+ρgh(微分形 dpdz=−ρg,z は上向き).圧力 p=F/S,単位 1Pa=1Nm−2

  • 浮力(アルキメデスの原理):F=ρVg.浮かんだ物体の沈む割合は ρs/ρ

  • 質点のつり合い:∑F=0.同一直線上にない3力ではラミの定理 F1sin⁡α=F2sin⁡β=F3sin⁡γ

各節の問いへの答え

  • 慣性の法則:摩擦も空気抵抗もない氷の上のパックは,水平方向の合力が0なので同じ速さでどこまでも進む.物を動かし続けるのに力が要るように見えるのは,摩擦や空気抵抗を打ち消すために押しているからである.

  • 運動方程式:質量を2倍にすると,同じ力での加速度は半分になる.力の大きさは,同じばねの伸びを基準にして数で表せる.

  • 作用と反作用:押し合う2人が受ける力は,押したつもりかどうかによらず等しい.加速度は質量に反比例するので,軽い子どもの方が速く離れていく.壁を押して手が痛むのは,壁の表面の原子に押し返されて,手の中の原子の結合が縮むからである.

  • 力の種類:机の上の本に働く力は,重力と垂直抗力の2つだけである.本が机を押す力は,机の自由体図に描くものである.

  • 垂直抗力と張力:エレベーターが上昇し始めると体重計の目盛りは増え,等速では変わらず,止まる直前は減る.垂直抗力は N=m(g+a) のように,必要なだけ現れる.

  • 摩擦:動き出す前は,摩擦力が押す力に合わせて増えるので動かない.静止摩擦力が μN になるのは動き出す限界の瞬間だけで,滑っているときの摩擦力は μ′N である.

  • 空気抵抗と終端速度:半径 1mm の雨粒のモデルは,空気抵抗とほぼつり合う約 7ms−1 で落ちる.抵抗のない自由落下の約 200ms−1 の,約30分の1である.

  • 力のつり合い:ハンモックのロープは,鉛直成分だけが体重を支えるので T=W2sin⁡θ.水平に近いほど張力が大きくなり,完全に水平には張れない.

  • 圧力と浮力:同じ深さなら,細い管の底でもプールの底でも,形の違う容器の底でも,圧力は p0+ρgh で同じである.底が受ける力が水の重さと違う分は,斜めの壁が支えたり押し下げたりしている.

この章で使った数学

斜面での力の分解(三角関数),三角関数の合成(最大・最小),指数関数と対数の微分・積分,1階の微分方程式(変数分離),正弦定理,薄い流体の柱から作る微分方程式 dpdz=−ρg,面にわたって力を足す積分がありました.