問いしるべ
参考書

問いから始める物理

公式参考書

問いから始める物理

問いから原理へ,基本からオリンピックまで

著者:柚木芹香

身近な問いから始めて物理の原理を組み立て直す参考書.微積分は必要になった所で導入し,各節の演習は基本から物理オリンピックの水準まで段階をつけて置く.独学でも,教わりながらでも読めるように,各節の終わりに「教える人へ」の囲みがある.

この章の目次 · 9節
  1. 気体の圧力と分子の運動
  2. 平均と分散,そして速度成分の平均
  3. 気体の圧力と分子の運動の演習
  4. 理想気体はどこで破れるか
  5. 小さい補正の展開と臨界点
  6. 実在気体の演習
  7. 第15章の章末問題
  8. 第15章の発展問題
  9. 第15章のまとめ

第15章  気体の分子運動論

01気体の圧力と分子の運動

問い

自転車のタイヤに空気を入れると,タイヤは硬く張って人の体重を支えます.けれどタイヤの中にあるのは,目に見えないほど小さな分子がばらばらに飛び回っているだけです.触れることもできないような軽いものの集まりが,どうしてこれほどの力を出せるのでしょうか.そして,夏の炎天下に置いた自転車のタイヤが朝よりも硬くなっているのは,分子に何が起きたからでしょうか.

ここから熱の分野(第15章から第19章)に入ります.温度・圧力・熱という手で触って分かる量を,それを作っている原子や分子の運動から組み立て直すのが目標です.この章では気体の圧力と温度を分子の運動から導き,その描像がどこで破れるかまで見ます.以降は第16章で熱力学の法則,第17章でボルツマン分布と等分配則,第18章でゆらぎと拡散を扱い,第19章が総合演習です.

ポイント 熱の分野で使う記号

記号

意味

T

絶対温度(単位 K).熱の章では張力に T を使わない

N

分子の数.熱の章では垂直抗力に N を使わない

n=N/V

数密度(単位 m−3)

ν=N/NA

物質量(単位 mol)

w=V/ν

モル体積(単位 m3mol−1)

kB, R=NAkB

ボルツマン定数,気体定数

数密度 n と物質量 ν は読み違えやすいので,式を見たらどちらなのかを単位で確かめてください.

考えてみる

壁が押される理由は,分子がぶつかって跳ね返るときの力積(第5章)だと考えるのが自然です.1個の力積はごく小さく一瞬ですが,ぶつかる数が途方もなく多ければ,衝突の跡が切れ目なく続いて一定の力に見えるはずです.実際,0∘C,1.0×105Pa の空気では,1辺 1cm の立方体の中に 2.7×1019 個の分子があり,1cm2 の壁が1秒に受ける衝突は 3×1023 回ほどです.これなら「平均の力」で扱ってよさそうです.

困るのは,分子の速さも向きもばらばらで,1個ずつの運動を追えないことです.追う必要もありません.必要なのは「平均」です.どの量をどう平均すれば圧力になるのかを決めていきましょう.

壁にぶつかる分子の力積

一辺 L の立方体の容器に,質量 m の分子が N 個入っているとします.まずは分子どうしの衝突を忘れ,壁とはなめらかに弾性衝突するとします.x 軸に垂直な右の壁を考えます.速度の x 成分が vx の分子が右の壁で跳ね返ると,vx が −vx に変わるだけで vy,vz は変わりません.分子の運動量の x 成分の変化は −2mvx なので,壁は 2mvx の力積を受けます.

立方体の右の壁で分子が弾性衝突する.壁に垂直な x 成分は v_x から −v_x に反転し,壁に平行な y,z 成分は変わらない.右側で衝突前後の3成分を比較する. 立方体の右の壁で分子が弾性衝突する.壁に垂直な x 成分は v_x から −v_x に反転し,壁に平行な y,z 成分は変わらない.右側で衝突前後の3成分を比較する.

この分子は x 方向に往復するのに 2L/vx の時間がかかるので,時間 t の間に右の壁へ vxt/(2L) 回ぶつかります.したがって,この1個の分子が壁に及ぼす力の時間平均は

2mvx⋅vxt/(2L)t=mvx2L

です.すべての分子について足し,壁の面積 L2 で割ると,圧力は

p=1L3∑i=1Nmvx,i2=Nm⟨vx2⟩V=nm⟨vx2⟩

となります.ここで V=L3,⟨vx2⟩ は vx2 の全分子についての平均です.

容器の形に頼った議論に見えるので,別の数え方でも確かめます.面積 S の壁に時間 Δt の間に届くのは,壁へ向かう速度成分をもち,壁から vxΔt より近くにいる分子で,その数は nvxΔtS です.1個あたり 2mvx の力積を運び,壁へ向かう分子は全体の半分なので,平均すると p=nm⟨vx2⟩ で同じ式になります.容器の形も大きさも出てきません.

面積 S の壁へ同じ速度で向かう分子を考える.壁の前の斜めの筒の中にいる分子は時間 Δt 以内にこの面へ届く.壁に垂直な x 方向の長さは v_x Δt,筒の体積は S v_x Δt である. 面積 S の壁へ同じ速度で向かう分子を考える.壁の前の斜めの筒の中にいる分子は時間 Δt 以内にこの面へ届く.壁に垂直な x 方向の長さは v_x Δt,筒の体積は S v_x Δt である.

分子の運動に向きの偏りがなければ ⟨vx2⟩=⟨vy2⟩=⟨vz2⟩ で,3つを足すと ⟨v2⟩ になるので ⟨vx2⟩=⟨v2⟩/3 です.これを入れると

公式 圧力の分子運動論

p=23NV⟨12mv2⟩すなわちpV=23N⟨12mv2⟩

圧力は,数密度と分子1個あたりの平均運動エネルギーの積で決まる.ただしこれは,分子の体積と分子間の力をともに無視できるほど希薄な気体についての式である.

分子どうしの衝突を入れても,運動量とエネルギーが保存し向きの偏りも生まれないので,この結果は変わりません.しかし囲みの条件が破れる高密度の気体では式そのものに補正が付き,これはこの章の「理想気体はどこで破れるか」の題材で扱います.式に分子の種類が入らないので,混合気体では各成分の寄与をそのまま足せます.成分ごとの pi=23ni⟨Ki⟩ を分圧といい,全圧は分圧の和になります(ドルトンの法則).

温度をどう決めるか

ここまで温度という言葉を使わずに済ませてきました.圧力は力と面積という既習の量で定義できますが,温度はそうはいきません.「分子の運動の激しさ」と言いたいところですが,それでは固体や,氷と水が共存している状態の温度を測る手順になりません.そこで経験法則から出発します.2つの物体を触れ合わせて十分に待つと熱のやりとりが止まり,どちらの性質も変わらなくなります.この状態を熱平衡といいます.

法則 熱力学第零法則

物体 A と B がそれぞれ物体 C と熱平衡にあるなら,A と B も互いに熱平衡にある.

当たり前に見えますが,これがあって初めて温度計が作れます.C を温度計として持ち歩けば,A に当てた結果と B に当てた結果を比べるだけで,両者を直接触れさせずに熱平衡かどうかが分かるからです.つまり「熱平衡にある」という関係で物体を仲間分けでき,仲間ごとに1つの数を割り当てられます.その数が温度です.割り当て方は,温度とともに単調に変わる量(測温物性.液柱の長さ,電気抵抗,熱起電力,一定体積の気体の圧力など)を1つ選び,再現できる定点で目盛りを校正して決めます.

ただし,どの測温物性を選ぶかで定点の間の目盛りは少しずつ食い違います.気体温度計だけは特別で,気体を薄くする極限では気体の種類にも物性の選び方にもよらない同じ目盛りになります.そこで,一定体積に閉じた気体の圧力に比例させ,水の三重点(氷・水・水蒸気が共存する1点)を 273.16K とする目盛りを絶対温度(単位ケルビン K)と呼びます.摂氏との関係は T/K=t/∘C+273.15 で,刻みは同じなので温度差は共通です.この章の T はすべてこの絶対温度です.温度計と目盛りの詳しい扱い,そして気体という特定の物質にも頼らない熱力学温度は,第16章の「温度と熱」で扱います.

温度は分子の運動エネルギー

希薄な気体では,温度を一定に保つと pV が一定(ボイルの法則)になり,その値は分子の数と絶対温度に比例します.大事なのは,同じ1本の式が広い範囲の圧力と温度で,どんな気体にも使えるという実験事実です.

法則 理想気体の状態方程式

希薄な気体では

pV=NkBT=νRT

が成り立つ.kB=1.38×10−23JK−1 をボルツマン定数,R=8.31Jmol−1K−1 を気体定数という(NA=6.02×1023mol−1 はアボガドロ定数).この式に厳密に従う気体を理想気体という.

これと圧力の分子運動論の式を比べると,温度の意味が見えてきます.

ポイント 温度の分子論的な意味

理想気体では,分子1個あたりの並進運動エネルギーの平均は

⟨12mv2⟩=32kBT

である.温度は,分子の乱雑な並進運動の激しさの目安であり,分子の種類によらない.

体積 V と分子数 N が同じ容器で低温と高温を比べる.高温では速度の矢印が平均として長く,壁への衝突回数も1回の力積も増える.赤い矢印は壁を押す力の増加を表す. 体積 V と分子数 N が同じ容器で低温と高温を比べる.高温では速度の矢印が平均として長く,壁への衝突回数も1回の力積も増える.赤い矢印は壁を押す力の増加を表す.

3方向に等しく分けると1方向あたり 12kBT です.エネルギーが2乗の形で入る運動1つあたり 12kBT ずつ分けられるという考えを等分配則といい,成り立つ条件は第17章で整えます.単原子分子の気体では並進の3つしかないので,内部エネルギーは U=32NkBT=32pV です.重い分子と軽い分子を混ぜて放っておくと,衝突を通して平均運動エネルギーが等しくなるところで落ち着きます.速さが等しくなるのではない点に注意してください.

ここから,2乗平均の速さ(根二乗平均速さ)が出ます.

vrms=⟨v2⟩=3kBTm=3RTM

で,M はモル質量です.窒素(M=2.8×10−2kgmol−1)で T=300K とすると vrms≈5.2×102ms−1,空気中の音速 3.4×102ms−1 と同じ桁です.音は分子の熱運動が圧力の変化を次々に受け渡して伝わるので,速さの目安が分子の速さで決まるのは自然です.ただし「音は分子より速くは進めない」とは言い切れません.分布のどの速さと比べるかで答えが変わるからです.第16章で断熱変化から音速を導くと cs/vrms=γ/3(γ は比熱比)という比が出ます.

同じ温度なら vrms∝1/m なので,水素分子は窒素分子の約 3.7 倍,室温で 1.9×103ms−1 ほどです.地表の脱出速度 1.12×104ms−1 にはまだ遠く,これだけで「水素は逃げる」とは言えません.大気からの脱出には,高温の上層大気で分布の高速側の分子が逃げ,そこでは衝突がまれで一度外を向いたら戻らないことが効きます.軽い分子が長い時間をかけて優先的に失われる,という別の模型が必要です.

ポイント ここまでのまとめ

  • 圧力は分子が壁に与える力積の時間平均で p=nm⟨vx2⟩.向きの偏りがなければ pV=23N⟨12mv2⟩ で,容器の形によらない.分子の体積と分子間力を無視できる希薄な気体についての式で,混合気体では分圧の和が全圧になる.

  • 温度は,熱平衡と第零法則の上で,測温物性の校正として定義される.希薄な気体の圧力で測った目盛りが絶対温度で,摂氏とは 273.15 だけずれる.

  • 状態方程式 pV=NkBT=νRT と比べると,分子1個あたりの平均並進運動エネルギーは 32kBT で,分子の種類によらない.1方向あたりは 12kBT.

  • vrms=3RT/M は室温の窒素で 5×102ms−1 程度.音速と同じ桁だが,比の値は断熱変化から決まる.

  • 問いの答え:タイヤを支える力は,膨大な数の分子の衝突の力積の平均である.分子数と体積が変わらない範囲では p=NkBT/V から p∝T なので,温度が上がれば圧力も上がる.分子の側から見れば,速さが増して1回の力積も衝突の回数もともに増えたことになる.だから炎天下のタイヤは朝より硬くなる.

02平均と分散,そして速度成分の平均

分子を1個ずつ追うことはできないので,これからは「平均」が主役です.扱い方を整え,圧力の式を数で使えるようにします.

定理 数学の道具:平均・重みつき平均・分散

N 個の値 x1,…,xN の平均は ⟨x⟩=1N∑ixi,関数 f の平均は ⟨f(x)⟩=1N∑if(xi) である.値 xj をとるものの割合が Pj(∑jPj=1)と分かっているときは,重みつき平均

⟨f(x)⟩=∑jPjf(xj),連続なら⟨f(x)⟩=∫f(x)P(x)dx

で計算する(P(x)dx が x と x+dx の間にある割合).平均は和と定数倍を保つ:⟨af+bg⟩=a⟨f⟩+b⟨g⟩.

ばらつきの大きさは分散

σ2=⟨(x−⟨x⟩)2⟩=⟨x2⟩−⟨x⟩2

で表し,σ を標準偏差という.中の式が2乗なので σ2≥0,したがって

⟨x2⟩≥⟨x⟩2

が常に成り立つ.等号は,すべての値が等しいときだけである.

第14章「測定と不確かさ」では,データの平均を x¯,標準偏差を N−1 で割って s と書きました.ここで扱うのは測定のばらつきではなく,たくさんの分子がとる値そのものの分布なので,平均を ⟨x⟩ と書き,N で割った σ を使います.分子の数は非常に多いので,N と N−1 の違いは問題になりません.

この最後の不等式が分子運動論の出発点です.気体の分子の速度の x 成分は正と負が同じだけあるので ⟨vx⟩=0 ですが,⟨vx2⟩ は 0 ではありません.平均が0でも2乗の平均は0でないので,圧力 p=nm⟨vx2⟩ は0になりません.平均してから2乗する操作と,2乗してから平均する操作をはっきり区別してください.

速さについても同じことが起きます.vrms=⟨v2⟩ と ⟨v⟩ は一般に違う量で,上の不等式から vrms≥⟨v⟩ です.エネルギーに効くのは vrms,壁への衝突の回数や穴から逃げる個数に効くのは ⟨v⟩ で,使い分けが必要です.

練習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

4個の分子の速さが 100,200,300,400ms−1 のとき,平均の速さ ⟨v⟩,2乗平均の速さ vrms,速さの標準偏差を求めなさい.

解答を見る

⟨v⟩=(100+200+300+400)/4=250ms−1.⟨v2⟩=(1+4+9+16)×104/4=7.5×104m2s−2 より vrms≈2.7×102ms−1.σ=7.5×104−2502≈1.1×102ms−1.たしかに vrms>⟨v⟩ である.

練習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

気体の分子のうち 3/4 が速さ 100ms−1,残りの 1/4 が 300ms−1 で動いているとする.重みつき平均で ⟨v⟩ と vrms を求めよ.

解答を見る

⟨v⟩=34×100+14×300=150ms−1.⟨v2⟩=34×1.0×104+14×9.0×104=3.0×104m2s−2 より vrms=3.0×104≈1.7×102ms−1.速い分子は少ないが,2乗の平均では重く効くので,vrms は ⟨v⟩ より大きく出る.

例題

状態方程式を使う問題では,圧力が何で決まっているかを先に見分けます.容器が固いなら圧力は気体が決めますが,動けるピストンで閉じているならピストンの力のつり合いが決めます.まずこの型を押さえましょう.

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

鉛直に立てた断面積 A=2.0×10−2m2 のシリンダーに単原子分子理想気体(ヘリウム)を入れ,質量 Mp=20kg のなめらかに動くピストンでふたをする.外気圧は p0=1.0×105Pa,重力加速度は g=9.8ms−2 とする.

  1. ピストンが静止しているときの気体の圧力 p1 を求めよ.

  2. このとき気体の体積は V0=2.0×10−3m3,温度は T0=300K であった.分子の数と内部エネルギーを求めよ.

  3. ピストンの上に質量 Mp のおもりを静かに載せ,十分に待って温度が T0 に戻った.圧力 p2 と体積 V2 を求めよ.

    1. の状態からおもりを載せたまま加熱する.シリンダーの内側には,体積が V0 になる位置でピストンを止めるストッパーがある.ピストンがストッパーに達する温度 T1 と,それ以後に温度を上げたときの圧力の変化を答えよ.

自由なピストンは大気と重力につり合う.おもり追加後に上側ストッパーへ達すると接触力Fₛが加わり,体積V₀が固定される. 自由なピストンは大気と重力につり合う.おもり追加後に上側ストッパーへ達すると接触力Fₛが加わり,体積V₀が固定される.
解答を見る

考え方 ピストンを1つの物体として力のつり合いを書く.ストッパーに当たるとつり合いの式が使えなくなり,代わりに体積が決まる.

  1. ピストンに働く力は,下から気体が押す p1A,上から大気が押す p0A,重力 Mpg である.つり合いは p1A=p0A+Mpg なので

p1=p0+MpgA=1.0×105+20×9.82.0×10−2=1.098×105≈1.1×105Pa

である.ピストンの重さの分だけ,気体は大気より高い圧力になる.

  1. N=p1V0/(kBT0)=1.098×105×2.0×10−3/(1.38×10−23×300)≈5.3×1022.単原子分子なので U=32p1V0≈3.3×102J.

  2. おもりを載せてもピストンは動けるので,つり合いが圧力を決める.質量が 2Mp になったから

p2=p0+2MpgA=1.196×105≈1.2×105Pa

である.温度が T0 に戻ったので p1V0=p2V2,よって V2=(p1/p2)V0≈1.8×10−3m3.

  1. ピストンが動ける間は圧力が p2 のままなので V∝T である.V=V0 になる温度は

T1=T0V0V2=T0p2p1=300×1.1961.098≈3.3×102K

である.ここでピストンはストッパーに当たり,以後はストッパーが力を分担するのでつり合いの式は使えない.代わりに体積が V0 に固定され,p=p2T/T1 として圧力が温度に比例して上がる.気体の圧力が p2 を超えるので,ピストンがストッパーから離れることはない.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

体積 V=1.0×10−3m3 の固い容器に,温度 300K,圧力 1.0×105Pa のヘリウム(モル質量 4.0×10−3kgmol−1)が入っている.

  1. 2乗平均の速さを求めよ.

  2. 質量密度 ρ の気体では p=13ρvrms2 が成り立つことを示せ.

    1. を使って,0∘C,1.01×105Pa,ρ=1.29kgm−3 の空気の vrms を求め,同じ条件での音速 3.3×102ms−1 と比べよ.

体積 V = 1.0 × 10⁻³ m³,温度 T = 300 K,圧力 p = 1.0 × 10⁵ Pa のヘリウムが容器に入っている.青い矢印は原子の乱雑な速度を表す.モル質量 M は 4.0 × 10⁻³ kg mol⁻¹ である. 体積 V = 1.0 × 10⁻³ m³,温度 T = 300 K,圧力 p = 1.0 × 10⁵ Pa のヘリウムが容器に入っている.青い矢印は原子の乱雑な速度を表す.モル質量 M は 4.0 × 10⁻³ kg mol⁻¹ である.
解答を見る

考え方 (1) は ⟨12mv2⟩=32kBT から.(2) では,分子1個の質量やモル質量を使わず,測りやすい量だけで書き直す.

  1. vrms=3RT/M=3×8.31×300/(4.0×10−3)≈1.4×103ms−1.容器の体積と圧力は使わない.

  2. p=nm⟨vx2⟩=13nm⟨v2⟩ で,nm は単位体積あたりの質量,つまり ρ である.よって p=13ρvrms2.分子1個の質量を知らなくても vrms が求まる.

  3. vrms=3p/ρ=3×1.01×105/1.29≈4.8×102ms−1.音速はその約 0.68 倍で同じ桁である.音は分子の熱運動が圧力の変化を次々に受け渡して伝わるので,同じ桁になるのは自然である.ただし vrms が音速の上限だとは言えない.比べる相手を ⟨v⟩ や最も確からしい速さに変えれば比の値も変わる.実際に断熱変化から音速を導くと cs/vrms=γ/3 で(γ は比熱比,第16章),空気の γ=1.4 では 0.68 となって上の数値と合う.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

質量の異なる2種類の分子 A(質量 mA),B(質量 mB)の混合気体が,温度 T で容器に入っている.容器の壁には小さな穴があいていて,外は真空である.はじめのうち,単位時間に穴から出ていく A と B の分子数の比は,容器内の数密度の比の何倍か.ただし単位時間に穴を通る分子数は,数密度と平均の速さの積に比例するとしてよい.

質量 m_A,m_B の2種類の分子が共通の温度 T で混ざり,小孔から真空へ流出する.軽い分子は平均として速く,より多く流出する.大小の丸は重い分子と軽い分子を表し,A,B の質量の順序は指定していない. 質量 m_A,m_B の2種類の分子が共通の温度 T で混ざり,小孔から真空へ流出する.軽い分子は平均として速く,より多く流出する.大小の丸は重い分子と軽い分子を表し,A,B の質量の順序は指定していない.
解答を見る

考え方 同じ温度では平均運動エネルギーが等しいので,速さの目安は 1/m に比例する.

⟨12mv2⟩=32kBT は分子の種類によらないので vrms=3kBT/m∝1/m である.速さの分布は kBT/m を目盛りとして同じ形に重なるので(第17章で確かめる),平均の速さ ⟨v⟩ も同じ比で変わる.よって出ていく数の比は数密度の比の mB/mA 倍で,軽い分子ほど多く逃げ出す.この差を何段も重ねて同位体を分けるのが,ウランの濃縮に使われた気体拡散法である.

ポイント ここまでのまとめ

  • 重みつき平均 ⟨f⟩=∑jPjf(xj)=∫f(x)P(x)dx.分散 σ2=⟨x2⟩−⟨x⟩2≥0.

  • 圧力に効くのは ⟨vx2⟩ で,⟨vx⟩=0 でも 0 にならない.同じ理由で vrms≥⟨v⟩.

  • 動けるピストンで閉じた気体の圧力は,ピストンの力のつり合いが決める(鉛直なら p=p0+Mpg/A).ストッパーで止まった後はつり合いが使えず,体積が決まる.

  • 測りやすい量だけで書くと p=13ρvrms2,単原子分子なら U=32pV.音速との比は断熱変化から決まり,cs/vrms=γ/3 である.

  • 同じ温度の気体では vrms∝1/m.軽い分子ほど速く,穴からも速く逃げる.

03気体の圧力と分子の運動の演習

力積と平均,装置の拘束を確かめましょう.平衡気体は分子の体積と分子間力を無視できる理想気体とします.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

壁間の距離 L の容器で,質量 m の分子が静止壁と弾性衝突する.入射速度は (u,2u,0) である.

  1. 右の壁への力積,往復時間,平均の力を求めよ.

  2. vx=−2u,−u,u,2u の割合が順に 1/3,1/6,1/6,1/3 の集団の平均,分散,圧力を求めよ.数密度は n=N/V とし,分子間衝突は無視する.

x 方向の壁間距離は L である.右の静止した滑らかな壁へ,速度成分が (u,2u,0) の分子が斜めに入射して弾性反射する.青い成分矢印の長さは u と 2u の比を表す. x 方向の壁間距離は L である.右の静止した滑らかな壁へ,速度成分が (u,2u,0) の分子が斜めに入射して弾性反射する.青い成分矢印の長さは u と 2u の比を表す.
速度の x 成分が −2u,−u,u,2u の4群を示す.丸の個数比 4:2:2:4 は表の割合 1/3,1/6,1/6,1/3 に対応する.速さ 2u の矢印は速さ u の矢印の2倍の長さである. 速度の x 成分が −2u,−u,u,2u の4群を示す.丸の個数比 4:2:2:4 は表の割合 1/3,1/6,1/6,1/3 に対応する.速さ 2u の矢印は速さ u の矢印の2倍の長さである.
解答を見る
  1. 垂直成分だけが反転するので力積は 2mu,往復時間は 2L/u,平均の力は mu2/L.

  2. ⟨vx⟩=0,2乗平均は 3u2.分散も 3u2,圧力は px=3nmu2.平均0でも圧力は残る.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

固い密閉容器の単原子気体は,初め 280K,8.0×104Pa,密度 1.2kgm−3 であった.加熱後は 1.4×105Pa である.

  1. 加熱後の温度を求め,この容器を温度計にする校正の手順を述べよ.

  2. p=ρvrms2/3 を示し,前後の根二乗平均速さと内部エネルギーの倍率を求めよ.

変形しない密閉容器を加熱する.初めは T = 280 K,p = 8.0 × 10⁴ Pa,質量密度 ρ = 1.2 kg m⁻³ である.加熱後は p = 1.4 × 10⁵ Pa で,温度は未知である.体積 V と分子数 N は一定に保たれる. 変形しない密閉容器を加熱する.初めは T = 280 K,p = 8.0 × 10⁴ Pa,質量密度 ρ = 1.2 kg m⁻³ である.加熱後は p = 1.4 × 10⁵ Pa で,温度は未知である.体積 V と分子数 N は一定に保たれる.
解答を見る
  1. p/T は一定なので T=280×1.4/0.80=490K.圧力を定点で校正し,対象との熱平衡を待つ.第零法則が温度の比較を保証する.絶対温度は希薄気体温度計の極限で一致する目盛りである.

  2. 等方的な運動では p=nm⟨v2⟩/3,nm=ρ より求める式となる.vrms=3p/ρ は前後で 4.5×102, 5.9×102ms−1.U=3NkBT/2 は 7/4 倍.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

体積 V,温度 T の単原子混合気体で,Aの分子質量と個数は m,2N0,Bは 4m,N0 である.

  1. 分圧,全圧,1分子の平均エネルギーと根二乗平均速さの比を求めよ.

  2. 面積 S の小孔を真空へ開く.平均の速さをAは 2c,Bは c と与え,成分 i の流出率(単位時間あたりに出ていく個数)は Sni⟨vi⟩/4 とする.温度は一定で,内部は一様である.小孔を開けた直後のAとBの流出率の比を求めよ.しばらく流出したあと,容器に残る気体の組成はどちらへ変わるか.

体積 V の容器で A と B が共通の温度 T にある.緑の丸 A は質量 m,個数 2N,薄色の丸 B は質量 4m,個数 N を表す.図でも A の丸を B の2倍の個数にする. 体積 V の容器で A と B が共通の温度 T にある.緑の丸 A は質量 m,個数 2N,薄色の丸 B は質量 4m,個数 N を表す.図でも A の丸を B の2倍の個数にする.
温度 T を一定に保った体積 V の容器の壁に,面積 S の小孔がある.分子は真空側へ流出し,容器内は常に一様である.初めの圧力は p₀ で,分子数の減少に伴い孔へ届く個数も減る. 温度 T を一定に保った体積 V の容器の壁に,面積 S の小孔がある.分子は真空側へ流出し,容器内は常に一様である.初めの圧力は p₀ で,分子数の減少に伴い孔へ届く個数も減る.
解答を見る

考え方 同じ温度では平均運動エネルギーは分子の種類によらない.流出の直後は,今ある個数と平均の速さの積で比べる.その後の組成は,1個あたりの逃げやすさで決まる.

  1. pB=N0kBT/V,pA=2pB,全圧は 3pB.平均エネルギーはともに 3kBT/2 なので比は 1:1.根二乗平均速さは 1/m に比例し,比は 2:1.

  2. 直後の流出率は Γi=Sni⟨vi⟩/4 である.

ΓAΓB=(2N0/V)⋅2c(N0/V)⋅c=4

したがって比は 4:1.1個あたりの流出率 Γi/Ni=S⟨vi⟩/(4V) は平均の速さに比例し,AはBの2倍である.同じ時間ではAのほうが大きな割合で減るので,残る気体ではBのモル分率が増え,Aのモル分率は減る.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

鉛直シリンダーの断面積は A=0.010m2,ピストンの質量は Mp=10kg である.摩擦はなく,外気圧は 100kPa,重力加速度は 10ms−2 とし,外気圧を p0 とする.下側ストッパーで体積は V0,上側で 1.5V0 となる.初めは 300K,1.2p0 で,20kg のおもりを載せ,下側に止まっている.

  1. 載せたまま加熱すると動き始める温度はいくらか.

  2. 初期状態でおもりを外し,300K での体積,続く加熱で上側に達する温度と 450K での圧力を求めよ.

初めはおもりを載せて下側ストッパーに接触する.おもりを外すとピストンは動き,上側のストッパーが膨張の上限を決める. 初めはおもりを載せて下側ストッパーに接触する.おもりを外すとピストンは動き,上側のストッパーが膨張の上限を決める.
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  1. 自由なつり合い圧力は pL=p0+(Mp+20)g/A=1.3p0.定積で圧力がここまで増すと,下側の接触力が0になる.300×1.3/1.2=325K を超すと上へ動く.

  2. 外すと上向きの力が勝つ.温度が戻ると圧力は p0+Mpg/A=1.1p0,等温の状態比較から V=12V0/11.続く等圧膨張で上側に達する温度は 300×1.5×11/12=412.5K.以後は定積で,450K では p=1.1p0(450/412.5)=1.2p0.ストッパーの力が加わるため,自由なつり合い式は使えない.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

一端を閉じた一様断面の管に長さ h=15cm の水銀柱で気体を閉じ込める.開口を上にすると気体の長さは ℓ0=20cm であった.大気圧は p0=ρgH,H=75cm である.等温とし,毛管現象と気体の重さは無視する.

  1. 水平から 30∘ 傾け開口を高くしたとき,(2) 鉛直の上下を逆にしたときの気体の長さを求めよ.管の全長は 50cm で,水銀は全て残るか.

左は開口が上,中央は水平から30度,右は開口が下である.液柱の管に沿った長さhは変わらず,圧力差に入る鉛直高さと気体の長さℓが変わる. 左は開口が上,中央は水平から30度,右は開口が下である.液柱の管に沿った長さhは変わらず,圧力差に入る鉛直高さと気体の長さℓが変わる.
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圧力差には鉛直の高さを使う.初めは p1=ρg(H+h).

  1. p2=ρg(H+hsin⁡30∘).等温条件 p1ℓ0=p2ℓ より ℓ=90×20/82.5=21.8cm.

  2. 気体が上なので p3=ρg(H−h),ℓ=90×20/60=30cm.気体と水銀の長さの和は 45cm なので管内に残る.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

密閉ヘリウム気球の膜の圧力差は 2000Pa で一定である.外気圧 100kPa,外気密度 1.20kgm−3,膜と荷物 11.0kg とする.初めの体積 10.0m3,内部温度 300K とし,モル質量 0.0040kgmol−1,気体定数 8.31Jmol−1K−1,重力加速度 9.8ms−2 を使う.内部は一様,外気の状態は一定である.

  1. 内部の物質量と密度,浮上の可否を求めよ.

  2. 気体を逃がさず温めたとき,浮上の境目の温度と 330K での上向き合力を求めよ.

内圧は外気圧と与えられた膜の圧力差の和.上向きの浮力には外気密度を,下向きの重力には内部気体・膜・荷物の質量を使う. 内圧は外気圧と与えられた膜の圧力差の和.上向きの浮力には外気密度を,下向きの重力には内部気体・膜・荷物の質量を使う.
解答を見る
  1. 内圧 102kPa より ν=pV/(RT)=409mol.気体は 1.64kg,密度 0.164kgm−3.浮力は外気 12.0kg の重さに等しいが,全質量 12.64kg を支えられない.

  2. 内圧と物質量一定より V=10.0T/300.境目は 1.20V=12.64 なので T≈316K.330K では体積 11.0m3,合力は (13.2−12.64)g≈5.5N で上向き.一定圧力差の膜模型で,気体の質量は一定である.

ポイント 教える人へ

平均の重み,接触の有無,液柱の符号,浮力に使う密度を確認させてください.

04理想気体はどこで破れるか

問い

使い捨てライターを振ると,中で液体が揺れる音がします.燃えるのはブタンという気体なのに,ボンベの中身は液体です.けれど前の題材で立てた pV=NkBT は,圧力をどれだけ上げても体積がそれに応じて小さくなるだけで,気体が液体に変わるとは言っていません.実際,窒素は室温でどれだけ強く押しても液体になりません.同じ「気体」で,なぜこの違いが出るのでしょうか.理想気体の式は,どこで何を落としているのでしょうか.

考えてみる

前の題材で,圧力の式を導くときに置いた仮定を思い出します.分子の体積は容器の体積に比べて無視できる,分子は壁の間を自由に飛ぶ(分子どうしは力を及ぼさない)の2つです.どちらも,本当は正しくありません.分子には 10−10m ほどの大きさがあり,離れていればわずかに引き合い,重なるほど近づけば強く反発します.これは第6章「ポテンシャル図」で見た分子間ポテンシャルの形そのもので,近距離で急に立ち上がる反発の壁と,遠方へゆるやかに0へ近づく浅い引力の谷からできています.

薄い気体では,分子が互いの近くにいる時間がごくわずかなので,どちらの効果も現れません.けれど押し縮めていくと,分子の体積の割合が増え,隣の分子を感じる時間も長くなります.そこで,2つの仮定を順にゆるめ,状態方程式がどう変わるかを調べましょう.

分子の大きさ:使える体積が減る

分子を直径 d の硬い球とみなします.2個の分子の中心は d より近づけないので,1個の分子の中心から見て,相手の中心が入れない領域は半径 d の球,体積 43πd3 です.この領域は分子の対ごとに1つなので,対を2回数えないように半分ずつ受け持たせると,分子1個あたり 23πd3.1モルあたりでは

b=23πNAd3

となります.これを排除体積といいます.分子自身の体積 π6d3 のちょうど 4 倍で,d の3乗に比例する点が大切です.

直径dの硬球が接すると中心間距離はdになる.一方の中心の周りの半径dの領域へ,相手の中心は入れない.球の断面で示す. 直径dの硬球が接すると中心間距離はdになる.一方の中心の周りの半径dの領域へ,相手の中心は入れない.球の断面で示す.

分子が飛び回れるのはモル体積 w=V/ν のうち w−b だけです.前の題材の導出で容器の体積を w から w−b に取り替えると,同じ温度でも圧力は上がります.

p=RTw−b

分子に大きさがあるだけで,気体は理想気体より押し返しが強くなるのです.

分子間の引力:壁への当たりが弱まる

次に引力を入れます.気体の内部にいる分子は四方から引かれて,平均すれば力が打ち消します.ところが壁のすぐ近くの分子は,内側にだけ仲間がいるので,内向きに引かれます.壁に向かって飛んできた分子は,このブレーキを受けてから壁を叩くので,与える力積は引力がないときより小さくなります.

内部の分子は四方の引力が打ち消し合う.壁付近には壁側の分子がなく,内向きの引力が残るため壁へ渡る力積が小さくなる. 内部の分子は四方の引力が打ち消し合う.壁付近には壁側の分子がなく,内向きの引力が残るため壁へ渡る力積が小さくなる.

減り方の大きさを見積もります.1個の分子が受ける内向きの引力は,周りにいる仲間の数に比例するので数密度 N/V に比例します.そしてブレーキを受ける分子の数も数密度に比例します.したがって圧力の減り分は数密度の2乗,すなわちモル体積の2乗の逆数に比例し,a/w2(a>0 は気体ごとの定数)と書けます.2つの補正を合わせると,次の式になります.

法則 ファンデルワールスの状態方程式

モル体積を w=V/ν として

(p+aw2)(w−b)=RTすなわちp=RTw−b−aw2

a は分子間の引力の強さ,b は分子の大きさ(排除体積)を表す,気体ごとの正の定数である.w は b より大きい範囲でしか意味をもたない.

これは厳密な法則ではなく,2つの効果をそれぞれ最も簡単な形で入れた模型です.それでも,理想気体では決して起こらないことを説明できます.

いつ理想気体でよいのか

空気を例に桁を見ます.1.0×105Pa,300K では w=RT/p≈2.5×10−2m3mol−1 です.空気の b≈3.9×10−5m3mol−1,a≈0.14Pam6mol−2 を使うと,2つの補正の大きさは

bw≈1.6×10−3,aRTw≈2.2×10−3

で,どちらも 0.3 % に届きません.だから常温常圧の空気には理想気体の式を安心して使えます.逆に,同じ温度で圧力を 100 倍にすると w は 100 分の1近くになり,同じ見積もりで補正はそれぞれ 16 %,22 % ほどに達します.理想気体の式が成り立つのは,モル体積が b に比べて十分大きく,RT が a/w に比べて十分大きいときです.前の題材で導いた pV=23N⟨12mv2⟩ と pV=νRT も,この条件の下での式でした.

液体になれる気体,なれない気体

p=RT/(w−b)−a/w2 を,温度を固定して w の関数として描いてみます.温度が高いと,第1項が大きいので p は w について単調に減ります.温度を下げると第2項の効き方が勝つ範囲が現れ,w を小さくすると圧力が下がるという,ありえない向きの部分(∂p∂w>0)が生じます.この部分が現れ始める境目の温度を臨界温度 Tc といい,その温度の等温線にはちょうど1点だけ傾きも曲がり方も0になる点があります.これが臨界点です.

高温では単調減少,臨界温度では水平な変曲点,低温では正の傾きをもつ区間が生じる.低温線は模型の式そのものを示す. 高温では単調減少,臨界温度では水平な変曲点,低温では正の傾きをもつ区間が生じる.低温線は模型の式そのものを示す.

臨界点より低い温度では,気体を押し縮めていくと途中で液体が現れ,液体と気体が共存します.Tc より高い温度では,どこまで圧縮しても2つの相に分かれません.ブタンの Tc は約 425K なので,室温は十分に低く,数気圧で液体になります.窒素の Tc は約 126K なので,室温ではどれだけ押しても液体になりません.臨界点の値を a,b から求める計算は,次の節で行います.

ポイント ここまでのまとめ

  • 理想気体の式は,分子に大きさがないこと,分子間に力が働かないことを仮定していた.この2つをゆるめると状態方程式が変わる.

  • 分子を直径 d の硬い球とすると,使える体積は w から w−b(b=23πNAd3)に減り,圧力は上がる.

  • 壁の近くの分子は内向きに引かれるので,壁への力積が減る.減り分は数密度の2乗に比例し,a/w2 と書ける.

  • 合わせると (p+a/w2)(w−b)=RT(ファンデルワールスの状態方程式).b/w と a/(RTw) がともに小さいとき理想気体に戻る.常温常圧の空気ではどちらも 10−3 程度.

  • 問いの答え:理想気体の式には引力が入っていないので,分子が集まって液体になる道がない.引力を入れると,臨界温度より低い温度では圧縮によって液体が現れる.ブタンは室温が臨界温度より十分低いのでボンベの中で液体になり,窒素は室温が臨界温度より高いので液体にならない.

05小さい補正の展開と臨界点

ファンデルワールスの式は,理想気体の式に2つの小さな補正を付けた形でした.「小さい」と言うには,何に比べて小さいのかを無次元の量で示さなければなりません.ここでその技術を整え,補正の大きさと,模型が予言する臨界点を計算します.

定理 数学の道具:小さい量での展開

|x|<1 のとき,等比級数の和から

11−x=1+x+x2+x3+⋯

が成り立つ.これは f(x)=1/(1−x) のテイラー展開(第7章)と同じものである.x が十分小さければ最初の数項で足り,1次までとれば 1/(1−x)≈1+x,打ち切った誤差は x2 の程度である.

物理の式を展開するときは,まず無次元の小さい量を作る.たとえば w−b=w(1−b/w) と括り出せば,小さい量は長さや体積ではなく比 b/w であることが見える.2つの補正を比べたいときも,a/(RTw)b/w=abRT のように無次元の比をとる.

練習 1

オリジナル ★☆☆☆☆
  1. 1/(1−x) を x2 の項まで書きなさい.(2) x=0.05 のとき,1次までの近似 1+x は正しい値から何 % ずれますか.

解答を見る
  1. 1+x+x2.(2) 正しい値は 1/0.95=1.0526⋯,近似は 1.05 なので差は 0.0026.相対的には 0.25 % 程度のずれで,これは x2=0.0025 と同じ桁である.打ち切った項の大きさが誤差の目安になる.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

ファンデルワールス気体 p=RTw−b−aw2 について,圧縮因子 Z=pwRT を考える.理想気体なら Z=1 である.

  1. b/w が小さいとして,Z を 1/w のべきで 1/w2 の項まで展開し

Z=1+B(T)w+C(T)w2+⋯

の形に書け.B(T) と C(T) を a,b,T で表せ(この展開をビリアル展開という).

  1. B(T)=0 となる温度(ボイル温度 TB)を求めよ.T が TB より低いとき,高いとき,Z は1より大きいか小さいか.

  2. 窒素の a=0.136Pam6mol−2,b=3.9×10−5m3mol−1 から TB を求めよ.

圧力0へ外挿するとZは1になる.ボイル温度より低ければ初め下がり,高ければ上がる.ボイル温度では最初の傾きが0だが高圧では上がる. 圧力0へ外挿するとZは1になる.ボイル温度より低ければ初め下がり,高ければ上がる.ボイル温度では最初の傾きが0だが高圧では上がる.
解答を見る

考え方 先に w−b=w(1−b/w) と括り,小さい量 b/w で展開する.

  1. 定義に代入して

Z=ww−b−aRTw=11−b/w−aRTw=1+bw+b2w2+⋯−aRTw

なので,1/w の係数と 1/w2 の係数を読み取って

B(T)=b−aRT,C(T)=b2

である.分子の大きさは Z を上げ,引力は下げる向きに働く.

  1. B=0 は b=a/(RT) なので TB=aRb である.TB より低い温度では B が負なので,薄い気体から押し縮め始めると Z は1より小さくなる.引力が勝ち,理想気体より縮みやすいということである.TB より高い温度では B が正で Z は1より大きく,分子の大きさが勝って縮みにくくなる.ちょうど TB では1次の補正が消え,広い範囲で理想気体のようにふるまう.

  2. TB=0.136/(8.31×3.9×10−5)≈4.2×102K.窒素の実測のボイル温度は約 330K なので,模型は3割ほど高く見積もる.補正を最も簡単な形で入れただけの模型なので,桁と向きが合えば十分である.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

ファンデルワールス気体の等温線 p(w) は,温度が低いと ∂p∂w>0 となる区間をもつ.その区間が現れ始める境目の温度 Tc では,1点だけで

∂p∂w=0,∂2p∂w2=0

が同時に成り立つ.この点を臨界点という.

  1. wc,Tc,pc を a,b で表せ.

  2. 臨界点での圧縮因子 Zc=pcwc/(RTc) を求めよ.気体の種類によらないことを確かめよ.

  3. 逆に,測った Tc と pc から a,b を決める式を作れ.窒素の Tc=126K,pc=3.4×106Pa を入れて a,b と分子の直径 d を求めよ.

臨界点w꜀,p꜀では等温線の傾きと2階微分がともに0になる.橙色の線は水平な接線を示す. 臨界点w꜀,p꜀では等温線の傾きと2階微分がともに0になる.橙色の線は水平な接線を示す.
解答を見る

考え方 2本の条件式を割り算すると,a と RT が消えて wc だけが残る.

  1. p=RT/(w−b)−a/w2 を w で偏微分して

∂p∂w=−RT(w−b)2+2aw3,∂2p∂w2=2RT(w−b)3−6aw4

である.両方を0とおくと

RTc(wc−b)2=2awc3,RTc(wc−b)3=3awc4

となる.下の式で上の式を割ると 1wc−b=32wc,すなわち

wc=3b

が出る.これを上の式に戻して RTc=2a(2b)2/(27b3),つまり

Tc=8a27Rb,pc=RTc2b−a9b2=4a27b2−3a27b2=a27b2

である.

  1. 代入すると

Zc=pcwcRTc=a27b2⋅3b⋅27b8a=38=0.375

で,a も b も消える.臨界点でのふるまいが気体の種類によらないという予言で,実際の気体の Zc は 0.27 から 0.30 くらいに集まっている.値は合わないが,「どの気体でもほぼ同じ」という性質は当たっている.

  1. RTc/pc=(8a/27b)⋅(27b2/a)=8b なので

b=RTc8pc,a=27b2pc

である.窒素では b=8.31×126/(8×3.4×106)≈3.9×10−5m3mol−1,a=27×(3.85×10−5)2×3.4×106≈0.14Pam6mol−2.例題1で使った値と合う.排除体積の式 b=23πNAd3 から

d=(3b2πNA)1/3=(3×3.85×10−52π×6.02×1023)1/3≈3.1×10−10m

となる.窒素分子の大きさとして知られている値と同じ桁である.気体を圧縮したときの圧力のずれを測るだけで,分子1個の大きさが分かる.

ポイント ここまでのまとめ

  • 補正を評価するときは,まず無次元の小さい量を作る.ファンデルワールス気体では b/w と a/(RTw),その比は a/(bRT).

  • 圧縮因子 Z=pw/(RT) のビリアル展開は Z=1+B(T)/w+C(T)/w2+⋯.この模型では B(T)=b−a/(RT),C(T)=b2.

  • B=0 となるボイル温度は TB=a/(Rb).低温では引力が勝って Z<1,高温では分子の大きさが勝って Z>1.

  • 臨界点は ∂p∂w=∂2p∂w2=0 から wc=3b,Tc=8a/(27Rb),pc=a/(27b2).Zc=3/8 は気体によらない.

  • 逆向きに b=RTc/(8pc),a=27b2pc.b から分子の直径が 10−10m の桁で求まる.

06実在気体の演習

圧力の補正を無次元の比で評価してください.以下はファンデルワールス模型の問題で,w=V/ν,R=8.30Jmol−1K−1 とします.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

仮想的な気体の定数は a=0.166Pam6mol−2,b=4.0×10−5m3mol−1 である.温度は 400K とする.

  1. w=4.0×10−2m3mol−1 で b/w,a/(RTw) を求め,理想気体の近似を評価せよ.

  2. w=2.0×10−4m3mol−1 で,2つの比と Z=pw/(RT) を求めよ.Z=1 なら,両補正を無視できるといえるか.

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  1. RT=8.30×400=3320Jmol−1 より,比は 1.0×10−3,1.25×10−3.どちらも十分小さく,希薄気体の近似がよい.

  2. 比はそれぞれ 0.20,0.25 であり,小さい補正とはいえない.展開せずに

Z=11−b/w−aRTw=10.80−0.25=1

を得る.両効果が偶然相殺したのであり,どちらも無視できない.温度や体積を変えれば相殺も崩れる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

同じ T,w で,I:大きさだけを入れた気体 p=RT/(w−b),II:引力だけを入れた気体 p=RT/w−a/w2,III:両方を入れた気体を比べる.b>0,a=RTb とする.

  1. w=10b のとき,それぞれの Z を求めよ.

  2. ボイル温度にあるIIIでも Z=1 が厳密に成り立つか.Z−1 を b,w で表せ.

Iは大きさのみ,IIは引力のみ,IIIは両方の効果を入れた模型.a=RTbの条件で比較し,いずれも希薄な極限でZ=1に戻る.IIの横軸も比較用の共通尺度bを使う. Iは大きさのみ,IIは引力のみ,IIIは両方の効果を入れた模型.a=RTbの条件で比較し,いずれも希薄な極限でZ=1に戻る.IIの横軸も比較用の共通尺度bを使う.
解答を見る
  1. Iは Z=10/9,IIは Z=0.90,IIIは Z=10/9−0.10=91/90≈1.01.大きさは圧力を上げ,引力は下げる.

  2. T=a/(Rb)=TB で,ビリアル展開の1次係数 B(T) は0である.しかし

Z−1=ww−b−bw−1=b2w(w−b)

であり,w が b より大きい範囲では正となる.消えるのは1次の補正だけで,2次以降は残る.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

ある温度で圧縮因子を測り,次の値を得た.この範囲では Z=1+B/w+C/w2 で表せるものとする.

w(m3mol−1)

Z

0.010

0.997016

0.020

0.998504

0.040

0.999251

  1. Y=w(Z−1) と 1/w の関係を求め,最初の2点から B,C とその単位を決めよ.3点目も確かめよ.

  2. 同じ2次式で w=0.0020m3mol−1 の Z を求めよ.2次項は1次項の大きさの何 % か.

解答を見る
  1. Y=B+C/w は切片 B,傾き C の直線.最初の2点は Y=−2.984×10−5,−2.992×10−5m3mol−1 なので

C=8.0×10−8100−50=1.6×10−9m6mol−2,B=−3.0×10−5m3mol−1

となる.3点目は Z=1−0.000750+0.000001=0.999251 で一致する.B が負なので,希薄な側では引力が勝つ.

  1. Z=1−0.015+0.0004=0.9854.比は 0.0004/0.015≈0.027,約2.7 %である.これは指定された2次式内の比較で,未測定の範囲で3次以降が小さいことまでは保証しない.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

仮想気体Xの定数は aX=0.30Pam6mol−2,bX=5.0×10−5m3mol−1 である.気体Yでは aY=4aX,bY=2bX とする.

  1. Xの wc,Tc,pc,TB を求め,Yでの倍率を答えよ.

  2. NA=6.0×1023mol−1 として,Xの分子径と両気体の分子径の比を求めよ.b を分子自身の体積のモルあたりの和として扱うと,直径を何倍に誤るか.

解答を見る
  1. 臨界定数とボイル温度の式に代入すると

wc,X=1.5×10−4m3mol−1,Tc,X≈2.1×102K,pc,X≈4.4×106Pa,TB,X≈7.2×102K

となる.wc は b,Tc,TB は a/b,pc は a/b2 に比例し,Yでは順に2倍,2倍,1倍,2倍.

  1. dX=(3bX/(2πNA))1/3≈3.4×10−10m,dY/dX=21/3≈1.26.分子自身の体積の和は NAπd3/6=b/4.これを b と取り違えると,直径を 41/3≈1.59 倍に過大評価する.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

演習4の気体Xを ν=5.0mol,体積 V=2.0×10−3m3 の固いボンベに入れ,温度 450K で一様な状態に保つ.

  1. 模型の圧力 p と Z を求めよ.

  2. 理想気体の式で ν′=pV/(RT) と推定すると何 % 誤るか.

  3. 充填量が分かっている場合,T′=pV/(νR) と推定した温度と誤差を求めよ.

固い密閉ボンベの体積Vと物質量νは一定である.圧力計と温度計の読みを比較し,理想気体の式による推定誤差を調べる. 固い密閉ボンベの体積Vと物質量νは一定である.圧力計と温度計の読みを比較し,理想気体の式による推定誤差を調べる.
解答を見る
  1. w=V/ν=4.0×10−4m3mol−1,RT=8.30×450=3735Jmol−1 より

p=37353.5×10−4−0.30(4.0×10−4)2≈8.8×106Pa,Z≈0.942

である.丸める前の圧力で以下を計算する.

  1. ν′=Zν≈4.7mol.相対誤差は (ν′−ν)/ν=Z−1 だから,約5.8 %少なく見積もる.

  2. T′=ZT≈424K で,約 26K,5.8 %低い.圧力に比例する目盛りが絶対温度と一致するのは希薄気体の極限で,この密度では補正が必要になる.

ポイント 教える人へ

  • Z が1に近い理由が,小さい補正か相殺かを区別させます.

  • ボイル温度で残る項と,排除体積が分子自身の体積の4倍になる理由を問います.

  • 誤差の分母を真の値にそろえ,模型の予言と測定を区別させます.

07第15章の章末問題

力積,平均,装置のつり合いを使います.特に断らない限り,分子の体積と分子間力を無視できる希薄な理想気体です.n=N/V,ν=N/NA とします.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

質量 m の分子が xy 平面を vx=u>0,vy=q で進み,x 軸に垂直な壁に当たる.壁の一定速度は −s(s>0)である.なめらかな弾性衝突として,衝突後の速度と運動エネルギーの増加を求めよ.u=300,q=100,s=20ms−1 では何 % 増すか.

分子の入射速度のx成分はu,y成分はq.壁は左向きに速さsで動く.壁から見て垂直成分を反転し,平行成分は変えない. 分子の入射速度のx成分はu,y成分はq.壁は左向きに速さsで動く.壁から見て垂直成分を反転し,平行成分は変えない.
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壁から見た x 成分 u+s を反転し,壁の速度を戻すと vx′=−u−2s,vy′=q.従って ΔK=m[(u+2s)2−u2]/2=2ms(u+s).増加率は 4s(u+s)/(u2+q2)=0.256,約26 % である.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

質量 m,数密度 n の分子が静止壁と弾性衝突する模型で,vx=±u の割合は各 1/3,vx=±2u は各 1/6 である.u>0 として,vx の平均,分散,標準偏差と,x 軸に垂直な壁の圧力を求めよ.

vₓ=−u と u の割合はそれぞれ 1/3,vₓ=−2u と 2u の割合はそれぞれ 1/6 である.棒の高さは各速度成分の割合を表す. vₓ=−u と u の割合はそれぞれ 1/3,vₓ=−2u と 2u の割合はそれぞれ 1/6 である.棒の高さは各速度成分の割合を表す.
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正負の割合が等しいので ⟨vx⟩=0.⟨vx2⟩=(2/3)u2+(1/3)(2u)2=2u2 より,分散は 2u2,標準偏差は 2u.圧力は p=nm⟨vx2⟩=2nmu2 である.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

温度 T,体積 V の容器に,質量 m の分子Aが N/4 個,質量 4m の分子Bが 3N/4 個ある.両成分は熱平衡である.分圧,全圧,全分子を個数で平均した ⟨v2⟩ を求めよ.

容器内の A は質量 m,個数 N/4,B は質量 4m,個数 3N/4 で,個数比は 1:3 である.青い矢印は分子の速度を表す模式図である. 容器内の A は質量 m,個数 N/4,B は質量 4m,個数 3N/4 で,個数比は 1:3 である.青い矢印は分子の速度を表す模式図である.
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pA=NkBT/(4V),pB=3NkBT/(4V),全圧は NkBT/V=νRT/V.個数で重みをつけると ⟨v2⟩=(3kBT/m)(1/4+3/16)=21kBT/(16m).

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

温度 T,全圧 p の一様な混合気体は,質量 m の分子Aと質量 4m の分子Bからなり,密度は ρ=7mp/(3kBT) である.全数密度と各成分の個数の割合,分圧の比,質量の比を求めよ.同じ条件で ρ=5mp/(kBT) という測定結果はこの模型と両立するか.

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n=p/(kBT).Bの個数の割合を x とすると ρ=nm[(1−x)+4x]=nm(1+3x) なので x=4/9.Aは 5/9 で,分圧比は pA:pB=5:4,質量比は 5m:16m=5:16.平均分子質量は m から 4m の間に限られるので,ρ/n=5m という後者の結果は両立しない.

演習 5

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m,数密度 n,速さ v の分子ビームが,静止板の法線となす角 θ で入射する.1/3 は吸収され,残りはなめらかな板で弾性反射する.再放出と分子間衝突は無視する.単位面積・単位時間の到達個数と圧力を求め,m=4.0×10−26kg,n=2.4×1021m−3,v=600ms−1,θ=60∘ で圧力を評価せよ.

法線と60度をなす平行な分子ビームの1/3は板に吸収され,2/3は弾性反射する.面積Sの板へ時間Δtに届く領域を緑で示し,壁に垂直な厚さ v cosθ Δt を記す. 法線と60度をなす平行な分子ビームの1/3は板に吸収され,2/3は弾性反射する.面積Sの板へ時間Δtに届く領域を緑で示し,壁に垂直な厚さ v cosθ Δt を記す.
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到達率は,垂直速度と数密度の積 nvcos⁡θ.力積は吸収で mvcos⁡θ,反射で2倍,平均は (5/3)mvcos⁡θ.従って pbeam=(5/3)nmv2cos2⁡θ=14.4Pa≈14Pa.n は一方向から来るビームの数密度である.

演習 6

オリジナル ★★☆☆☆

全体積 2V0,断面積 A の鉛直な密閉シリンダーを,質量 Mp の摩擦のないピストンで上下に分ける.各側に ν モルを入れ,温度 T0 を保つ.初め中央に固定し,両側は p0=νRT0/V0 であった.Mpg=p0A である.

  1. 固定を外した後の平衡で,下側の体積を求めよ.

  2. 同じ初期状態で,最小体積 V0/2 のストッパーを下側に設け,質量 Mp のおもりを載せて固定を外す.静止した終状態の両圧力と支持力を求めよ.

密閉シリンダーに同じ物質量と温度の二つの気体を入れる.左は中央に固定した初期状態.右はおもりを載せ,下側の体積V₀/2のストッパーへ達した状態である. 密閉シリンダーに同じ物質量と温度の二つの気体を入れる.左は中央に固定した初期状態.右はおもりを載せ,下側の体積V₀/2のストッパーへ達した状態である.
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  1. 下側の体積を yV0 とすれば,上側は (2−y)V0.つり合いは p0/y−p0/(2−y)=p0 なので y2−4y+2=0.許される根は y=2−2,従って体積は (2−2)V0 である.

  2. 接触前のつり合いは圧力差 2p0 を要求し,根は y=(3−5)/2≈0.382.最小体積より小さいため接触する.終状態は pL=2p0,pU=2p0/3.上向きの支持力は Fs=2Mpg−(pL−pU)A=2p0A/3 となる.

演習 7

オリジナル ★★★☆☆

全体積 4V0 の水平容器を,摩擦なく動く半透膜ピストンで左右各 2V0 に分け,温度 T を保つ.左にはAが 2N0 個,Bが N0 個,右にはAが N0 個,Bが 2N0 個ある.Aは膜を力積を与えず通り,Bは弾性反射する.初めの膜の力の向きと,平衡での左右の体積,Aの個数,全圧を求めよ.

左右の体積はともに 2V₀,温度は T である.左は A が 2N₀ 個,B が N₀ 個,右は A が N₀ 個,B が 2N₀ 個である.A は可動膜をそのまま通り,B は膜で弾性反射する. 左右の体積はともに 2V₀,温度は T である.左は A が 2N₀ 個,B が N₀ 個,右は A が N₀ 個,B が 2N₀ 個である.A は可動膜をそのまま通り,B は膜で弾性反射する.
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初めBの分圧は右が2倍なので,力は左向き.平衡では N0/VL=2N0/VR,VL+VR=4V0 より VL=4V0/3,VR=8V0/3.Aの数密度も左右で等しくなり,総数 3N0 を体積比1:2に分けるので,左 N0 個,右 2N0 個.全圧は両側とも 3N0kBT/(2V0) になる.通過するAは膜の力に寄与しない.

演習 8

東京大 2015 前期(改題) ★★★☆☆

底が開いた断面積 A,質量 Mc の薄い筒を,口を下にして水面に浮かべる.上部に気体を閉じ込め,筒の天井は水面より H 高く,内側の水面は外より h 低い状態である.筒壁の厚さ,気体の質量,水の蒸発は無視する.水の密度は ρ,外気圧は p0 である.

  1. 浮いた状態の h と気体の圧力を求めよ.

  2. 等温で筒を引き上げ,水位差を h/2 にする.天井の高さ H1 と手の上向きの力を求めよ.開口部は水中に保つ.

逆さの筒に気体を閉じ込め,開口は水中に保つ.浮いた状態の内側水面は外よりh低い.筒を等温で引き上げると気体が膨張し,水位差がh/2になる. 逆さの筒に気体を閉じ込め,開口は水中に保つ.浮いた状態の内側水面は外よりh低い.筒を等温で引き上げると気体が膨張し,水位差がh/2になる.
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  1. 水圧から p=p0+ρgh.天井の上下の圧力差による力と重力がつり合うので ρghA=Mcg,従って h=Mc/(ρA),p=p0+Mcg/A.

  2. 等温で分子数一定なので (p0+ρgh)(H+h)=(p0+ρgh/2)(H1+h/2).よって

H1=p0+ρghp0+ρgh/2(H+h)−h2

支持力は F=Mcg−ρg(h/2)A=Mcg/2.

演習 9

東京大 2006 前期(改題) ★★★☆☆

数密度 n,分子質量 m,温度 T の希薄な気体に,面積 A の板を x 軸に垂直に固定する.6つの軸方向に速さ u の分子が同数ずつ進み,吸着した分子は同じ個数だけ垂直に再放出される.表面温度 Ts の再放出速度は uTs/T とし,吸着中の個数は無視する.

  1. 気体の圧力を p として u と,片面への毎秒の到達個数を求めよ.

  2. 両面を 4T,T に保つときの力を求め,p=0.80Pa,A=2.0×10−2m2 で評価せよ.

同じ気体が板の左右へ速さuで入射する.温度4Tの面からは2u,温度Tの面からはuで垂直に再放出する模型.板は熱い面から冷たい面へ力を受ける. 同じ気体が板の左右へ速さuで入射する.温度4Tの面からは2u,温度Tの面からはuで垂直に再放出する模型.板は熱い面から冷たい面へ力を受ける.
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  1. ⟨vx2⟩=u2/3 だから p=nmu2/3=nkBT,従って u=3kBT/m.片面への割合は 1/6 なので,到達個数は nAu/6 毎秒である.

  2. 各面の圧力は ps=(nmu2/6)(1+Ts/T)=(p/2)(1+Ts/T).熱い面は 3p/2,冷たい面は p なので,力は熱い面から冷たい面へ F=pA/2=8.0×10−3N.与えた模型内の答えである.

08第15章の発展問題

到達数の平均,装置の拘束,実在気体の等温線を,与えた模型で調べます.

演習 1

オリジナル ★★★★☆

質量 m の分子の2本のビームが右へ進み,速さと数密度は (u,n),(3u,n/4) である.右の壁は速さ 0<vp<u で右へ動き,壁から見て弾性反射する.ビームは絶えず供給され,分子間力,分子の体積,再入射は無視する.

  1. 単位面積・単位時間の衝突数 Φ と,単位面積あたりの力 P を求めよ.

  2. 壁へ渡る単位面積あたりの仕事率 J を最大にする vp,そのときの速い分子の到達割合と平均入射エネルギーを求めよ.

速さuと3uのビームは数密度nとn/4をもつ.右向きに速さvₚで動く壁へ届く数は,相対速度u−vₚと3u−vₚで決まる. 速さuと3uのビームは数密度nとn/4をもつ.右向きに速さvₚで動く壁へ届く数は,相対速度u−vₚと3u−vₚで決まる.
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考え方 届く数も力積も相対速度から数える.

  1. 速さ v,数密度 ni なら到達数は ni(v−vp),反射後の速度は 2vp−v.力積は 2m(v−vp) なので

Φ=n4(7u−5vp),P=2nm[(u−vp)2+(3u−vp)24]
  1. 1個が失うエネルギーは 2mvp(v−vp) より J=vpP.q=vp/u とすると J=nmu3(13q−14q2+5q3)/2.微分は nmu3(15q−13)(q−1)/2 で,q=13/15 の前で正,後で負だから最大は vp=13u/15.遅い・速いビームの到達数は 2nu/15,8nu/15 より速い割合は 4/5.平均は (1/5)mu2/2+(4/5)m(3u)2/2=37mu2/10.空間内の個数比ではなく,到達数で重みを付ける.

演習 2

オリジナル ★★★★☆

体積 V の容器に,質量 m の分子Aが 3N0 個,質量 4m の分子Bが N0 個ある.分子の体積と分子間力を無視し,面積 S の小孔から真空へ流出する.容器内は一様で温度 T は一定である.平均の速さをAで 2c,Bで c,成分 i の毎秒の流出数を Sni⟨vi⟩/4 とする模型を与える.

  1. 各個数 N1(t),N2(t) と全圧を求めよ.

  2. Bの個数割合が 2/3 になる時刻 t∗,初圧に対する圧力の比,そこまでの流出分子のAの割合を求めよ.

  3. t∗ で個数による平均 ⟨v2⟩ を求め,質量密度 ρ を用いた p=ρ⟨v2⟩/3 が使えるか確かめよ.

温度Tを一定に保った体積Vの容器に,Aが3N₀個,BがN₀個入っている.平均の速さはAで2c,Bでcと与えられ,面積Sの小孔から真空へ流出する.分子の図は初期個数比3対1を表す. 温度Tを一定に保った体積Vの容器に,Aが3N₀個,BがN₀個入っている.平均の速さはAで2c,Bでcと与えられ,面積Sの小孔から真空へ流出する.分子の図は初期個数比3対1を表す.
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考え方 成分ごとに流出を追う.

  1. λ=Sc/(4V) とすると dN1dt=−2λN1,dN2dt=−λN2.よって N1=3N0e−2λt,N2=N0e−λt,p=N0kBT(3e−2λt+e−λt)/V.

  2. N1/N2=1/2 より t∗=(ln⁡6)/λ.残る個数は N0/12,N0/6 だから圧力比は 1/16.流出数は 35N0/12,10N0/12 よりAの割合は 7/9.

  3. 同温度の希薄気体では ⟨vA2⟩=3kBT/m,⟨vB2⟩=3kBT/(4m).個数割合 1/3,2/3 で平均すると ⟨v2⟩=3kBT/(2m).一方 ρ=3N0m/(4V),p=N0kBT/(4V) なので 3p/ρ=kBT/m.指定の式は圧力を 3/2 倍に見積もる.正しくは nimi⟨vi2⟩/3 を足すか,質量で重み付けする.

演習 3

東京大 2004 前期(改題) ★★★★☆

真空中の水平な2つのシリンダーのピストンを剛い棒で連結する.断面積は左が A,右が 3A,連結体の質量は Mp である.右向き変位 x に対して気体の体積は V1=V0+Ax,V2=3V0−3Ax である.各気体は物質量 ν の希薄な理想気体で,初めは両方 T0,x=0 である.摩擦は無視する.

  1. 右は T0 に保ち,左だけゆっくり温める.xs=V0/(5A) のストッパーに達する左の温度を求め,左が 2T0 となったときストッパーが連結体へ及ぼす力を求めよ.

  2. ストッパーを外した場合の平衡位置と小振動の角振動数を求めよ.各温度は常に 2T0,T0 で,圧力は体積へ瞬時に応答する模型とする.

左面積A,右面積3Aのピストンが剛い棒で連結される.右向き変位xで左室は膨張,右室は圧縮される.ストッパーはxₛで右への運動を止める. 左面積A,右面積3Aのピストンが剛い棒で連結される.右向き変位xで左室は膨張,右室は圧縮される.ストッパーはxₛで右への運動を止める.
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考え方 両面の圧力による力をつり合わせる.

  1. 自由に動ける間は p1=3p2.y=Ax/V0,θ=T1/T0 とすると θ/(1+y)=1/(1−y) だから y=1/5 で θ=3/2.その後は体積が固定される.p∗=νRT0/V0 とおくと,T1=2T0 で p1=5p∗/3,p2=5p∗/12.気体の合力は右へ A(p1−3p2)=5Ap∗/12 なので,ストッパーの力は左へ同じ大きさ.

  2. 2/(1+y)=1/(1−y) より xe=V0/(3A).合力 F=AνR[2T0/V1−3T0/V2] の傾きは F′(xe)=−27A2νRT0/(8V02).ξ=x−xe とすれば Mpd2ξdt2=F′(xe)ξ より ω=27A2νRT0/(8MpV02).

演習 4

オリジナル ★★★★★

物質量 ν のファンデルワールス気体 p=RT/(w−b)−a/w2 と既知の臨界定数 wc=3b,Tc=8a/(27Rb),pc=a/(27b2) を使う.

  1. ϕ=w/wc,θ=T/Tc,P=p/pc により,気体の種類によらない式を導け.これを対応状態の法則と呼ぶ.

  2. θ=3/2 で ϕ=1 から2までゆっくり膨張させる.気体が外へする仕事 W=ν∫pdw を νpcwc で割って求め,同じ温度と両端の体積の理想気体と比べよ.

θ=3/2のファンデルワールス等温線を実線,同じ温度の理想気体を破線で示す.φ=1から2の実線の下の面積はW/(νp꜀w꜀)である. θ=3/2のファンデルワールス等温線を実線,同じ温度の理想気体を破線で示す.φ=1から2の実線の下の面積はW/(νp꜀w꜀)である.
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  1. 代入すると P=8θ/(3ϕ−1)−3/ϕ2,a,b は消え,同じ ϕ,θ なら同じ P になる.

  2. dw=wcdϕ より

Wνpcwc=∫12(123ϕ−1−3ϕ2)dϕ=4ln⁡52−32≈2.17

理想気体は P=4/ϕ なので仕事は 4ln⁡2≈2.77.比は約 0.781.この模型では約22 %小さくなる.

演習 5

オリジナル ★★★★★

物質量 ν のファンデルワールス気体 p=RT/(w−b)−a/w2 を,面積 A,質量 Mp の鉛直ピストンで閉じる.臨界定数の関係 RTc=8bpc,a=27b2pc を使い,pc>Mpg/A とする.温度は振動中も T=(1+ϵ)Tc(ϵ>0)で一定である.外圧 p0 を調整し,平衡のモル体積を 3b に保つ.圧力は体積へ瞬時に応答し,気体は一様,摩擦と減衰は無視する模型である.

  1. p0+Mpg/A と小振動の角振動数を求めよ.

  2. ϵ=0 の極限で,上向き変位 x による先頭の復元力を求めよ.s=Ax/(3νb) とし,(1+u)−1=1−u+u2−u3+⋯ と (1+s)−2=1−2s+3s2−4s3+⋯ を使ってよい.角振動数が0なら,復元力も消えるか.

鉛直ピストンの平衡体積は3νb.上向き変位xで体積がAx増す.温度を一定に保ち,圧力の傾きと高次の変化から復元力を調べる模型である. 鉛直ピストンの平衡体積は3νb.上向き変位xで体積がAx増す.温度を一定に保ち,圧力の傾きと高次の変化から復元力を調べる模型である.
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考え方 圧力の傾きが0なら次の次数を調べる.状態方程式へ T と w を直接入れる.

  1. 平衡では w=3b,T=(1+ϵ)Tc なので

p=8bpc(1+ϵ)2b−27b2pc9b2=pc(1+4ϵ)

したがって p0+Mpg/A=pc(1+4ϵ).また ∂p∂w=−RT/(w−b)2+2a/w3 の第2項は w=3b で 2pc/b なので

−8bpc(1+ϵ)4b2+2pcb=−2pcϵb

体積変化は Ax,モル体積の変化は Ax/ν だから Mpd2xdt2=−2pcϵA2x/(νb).したがって ω=2pcϵA2/(Mpνb) である.

  1. T=Tc,w=3b(1+s) を状態方程式に入れる.w−b=2b(1+3s/2),a/w2=3pc/(1+s)2 より

ppc=41+3s/2−3(1+s)2

u=3s/2 とおき,与えた展開を使うと

41+u=4−6s+9s2−272s3+⋯3(1+s)2=3−6s+9s2−12s3+⋯

辺々引くと s と s2 は消え,3次の係数は −27/2+12=−3/2 なので p/pc=1−(3/2)s3+⋯ となる.s=Ax/(3νb) より (3/2)s3=A3x3/(18ν3b3) であり,先頭の合力は

F=A(p−pc)≈−pcA418ν3b3x3

変位と逆向きの復元力は残り,消えない.角振動数が0なのは線形の項が消えるからで,単振動の線形近似は使えない.

09第15章のまとめ

この章では,手で触って分かる圧力と温度を,分子の運動から組み立て直しました.出発点は「圧力は分子が壁に与える力積の時間平均である」という1行だけです.そこから状態方程式と見比べることで温度の意味が決まり,分子の速さの目安まで出てきました.さらに,導出で置いた「分子に大きさがない」「分子間に力が働かない」という2つの仮定をゆるめると,理想気体では起こりえない液化までが説明できました.分子を1個ずつ追うことはあきらめ,代わりに平均を正しく扱い,近似の条件を無次元の量で確かめる.これがこの章で身につけた作法で,熱の分野では最後まで使い続けます.

定義と法則

法則 圧力の分子運動論

  • 分子の質量を m,数密度を n=N/V とすると,壁が受ける圧力は

p=nm⟨vx2⟩

である.1個の分子が1回の衝突で壁に与える力積が 2mvx であることと,衝突の回数が vx に比例することの積から出る.

  • 向きの偏りがなければ ⟨vx2⟩=⟨vy2⟩=⟨vz2⟩=⟨v2⟩/3 なので

pV=23N⟨12mv2⟩=13Nm⟨v2⟩

となり,容器の形にも大きさにもよらない.分子どうしの衝突を入れても,運動量とエネルギーが保存し向きの偏りも生まれないので,結果は変わらない.

  • ただし,分子の体積と分子間の力をともに無視できる希薄な気体についての式である.高密度では補正が付く(ファンデルワールスの式).

  • 式に分子の種類が入らないので,混合気体では成分ごとの分圧 pi=23ni⟨Ki⟩ の和が全圧になる(ドルトンの法則).

定義 熱平衡と温度

2つの物体を触れ合わせて十分に待ち,どちらの性質も変わらなくなった状態を熱平衡という.熱力学第零法則(A と B がそれぞれ C と熱平衡なら A と B も熱平衡)により,物体を熱平衡の仲間ごとに分けて1つの数を割り当てられる.これが温度である.割り当て方は,温度とともに単調に変わる量(測温物性)を選び,再現できる定点で校正して決める.一定体積の希薄な気体の圧力を使い,水の三重点を 273.16K とした目盛りが絶対温度で,摂氏とは T/K=t/∘C+273.15 の関係にある.気体にも頼らない熱力学温度との一致は第16章で扱う.

法則 理想気体の状態方程式と温度の意味

  • 希薄な気体では

pV=NkBT=νRT

が成り立つ(kB=1.38×10−23JK−1,R=8.31Jmol−1K−1,NA=6.02×1023mol−1,物質量 ν=N/NA).数密度で書けば p=nkBT である.

  • これと上の式を比べると

⟨12mv2⟩=32kBT

すなわち温度は,分子の乱雑な並進運動の激しさの目安であり,分子の種類によらない.重い分子と軽い分子を混ぜて放っておくと,速さではなく平均運動エネルギーが等しくなる所で落ち着く.

  • 3方向に等しく分けると1方向あたり 12kBT である.単原子分子の気体では並進の3方向しかないので,内部エネルギーは U=32NkBT=32pV になる.エネルギーが2乗の形で入る運動1つあたり 12kBT ずつ分けられるという等分配則は,条件とともに第17章で扱う.

定義 平均・重みつき平均・分散

値 xj をとるものの割合が Pj(∑jPj=1)のとき,関数 f の平均は ⟨f⟩=∑jPjf(xj),連続なら ⟨f⟩=∫f(x)P(x)dx である.ばらつきは分散 σ2=⟨x2⟩−⟨x⟩2≥0 で表し,σ を標準偏差という.この不等式から vrms≥⟨v⟩ が常に成り立つ.

法則 ファンデルワールスの状態方程式

分子を直径 d の硬い球とみなすと,中心が入れない排除体積が1モルあたり b=23πNAd3(分子自身の体積の4倍)生じ,使える体積は w−b に減る.また壁の近くの分子は内向きに引かれるので,圧力は数密度の2乗に比例する分だけ下がる.モル体積を w=V/ν として

(p+aw2)(w−b)=RT

が得られる(a,b>0 は気体ごとの定数).厳密な法則ではなく,2つの効果を最も簡単な形で入れた模型である.b/w と a/(RTw) がともに小さいとき理想気体に戻る.

手順

ポイント 分子運動論と状態方程式の問題を解く手順

  1. 問われているのが分子1個のことか,たくさんの分子の平均かを見分ける.平均なら ⟨12mv2⟩=32kBT と状態方程式の2本でほとんど足りる.

  2. 圧力を決めているのは何かを先に見分ける.固い容器なら気体が決め,動けるピストンならピストンの力のつり合いが決める(鉛直なら p=p0+Mpg/A).ストッパーに当たった後はつり合いが使えず,体積が決まる.

  3. 壁に加わる力を考えるときは,壁に垂直な速度成分だけが反転すること(1回の力積 2mvx)と,衝突の回数が vx に比例することを,分けて数える.

  4. 平均してから2乗するのか,2乗してから平均するのかを確かめる.⟨vx⟩=0 でも ⟨vx2⟩≠0 で,圧力はこの違いの上に乗っている.

  5. 測りやすい量だけで書き直せないかを考える.p=13ρvrms2 や U=32pV は,分子1個の質量を知らなくても使える.

  6. 温度や分子の質量を変えたときは比で追う.同じ温度なら vrms∝1/m,同じ気体なら vrms∝T である.

  7. 理想気体の式を使ってよいかを疑うときは,無次元の比 b/w と a/(RTw) を評価する.常温常圧の空気ではどちらも 10−3 程度で,安心して使える.

主な公式

  • 圧力:p=nm⟨vx2⟩=13nm⟨v2⟩=13ρvrms2

  • 状態方程式:pV=NkBT=νRT,数密度では p=nkBT

  • 温度と運動エネルギー:⟨12mv2⟩=32kBT,1方向あたり 12kBT

  • 単原子分子の内部エネルギー:U=32NkBT=32νRT=32pV

  • 2乗平均の速さ:vrms=3kBT/m=3RT/M=3p/ρ.室温の窒素で 5×102ms−1 程度で,音速と同じ桁(比は断熱変化から決まり cs/vrms=γ/3,第16章)

  • 平均と分散:⟨f⟩=∑jPjf(xj)=∫fPdx,σ2=⟨x2⟩−⟨x⟩2≥0,vrms≥⟨v⟩

  • 小さな穴から逃げる個数:数密度と平均の速さの積に比例し,同じ温度では 1/m に比例する(軽い分子ほど速く逃げる)

  • 動けるピストンのつり合い:鉛直なら pA=p0A+Mpg

  • ファンデルワールス:p=RTw−b−aw2,排除体積 b=23πNAd3

  • ビリアル展開:Z=pwRT=1+B(T)w+C(T)w2+⋯,この模型では B(T)=b−aRT,C(T)=b2.ボイル温度 TB=aRb

  • 臨界点:wc=3b,Tc=8a27Rb,pc=a27b2,Zc=38.逆に b=RTc8pc,a=27b2pc

各題材の問いへの答え

  • 気体の圧力と分子の運動:タイヤが体重を支える力は,膨大な数の分子が壁に与える力積の時間平均である.1cm2 の壁が1秒に受ける衝突は 1023 回ほどなので,1つ1つは感じられず,切れ目のない一定の力に見える.分子数と体積が変わらない範囲では p=NkBT/V から p∝T なので,温度が上がれば圧力も上がる.分子の側から見れば,速さが増して1回の力積も衝突の回数もともに増えたことになる.だから炎天下のタイヤは朝より硬くなる.

  • 平均と分散,そして速度成分の平均:平均が0でも2乗の平均は0ではないので,⟨vx⟩=0 でも圧力は残る.エネルギーに効くのは vrms,壁への衝突の回数や穴から逃げる個数に効くのは ⟨v⟩ で,両者は別の量である.

  • 理想気体はどこで破れるか:理想気体の式には引力が入っていないので,分子が集まって液体になる道がない.分子の大きさは使える体積を w−b に減らして圧力を上げ,引力は壁への力積を減らして圧力を下げる.この2つを入れると,臨界温度より低い温度では圧縮すると液体が現れる.ブタンは室温が臨界温度(約 425K)より十分低いのでボンベの中で液体になり,窒素は室温が臨界温度(約 126K)より高いのでどれだけ押しても液体にならない.

  • 小さい補正の展開と臨界点:補正の大小は無次元の比で測る.b/w と a/(RTw) の差し引きが圧縮因子の1次の係数 B(T)=b−a/(RT) で,これが0になるボイル温度より低温なら引力が勝ち,高温なら分子の大きさが勝つ.臨界点の位置は a,b から決まり,逆に測った Tc,pc から a,b,そして分子の直径 10−10m の桁までたどれる.

この章で使った数学

重みつき平均と分散,2乗の平均と平均の2乗の区別,和の記号 ∑,そして小さい量での展開(1/(1−x)≈1+x)と偏微分による停留条件がありました.どれも「たくさんのものを一度に扱う」ための道具と,「近似がどこまで使えるか」を測る道具です.次の第16章では,分子を数える立場をいったん離れ,温度と熱量を測るところから始めて,熱と仕事の出入りだけを勘定して熱力学の法則を組み立てます.この章で得た U=32NkBT=32pV が,その勘定の出発点になります.分子の速さの分布そのものと,エネルギーがどの運動にどう分かれるかは,第17章で扱います.