問いしるべ
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問いから始める物理

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問いから始める物理

問いから原理へ,基本からオリンピックまで

著者:柚木芹香

身近な問いから始めて物理の原理を組み立て直す参考書.微積分は必要になった所で導入し,各節の演習は基本から物理オリンピックの水準まで段階をつけて置く.独学でも,教わりながらでも読めるように,各節の終わりに「教える人へ」の囲みがある.

この章の目次 · 15節
  1. 慣性系と非慣性系
  2. 慣性系と非慣性系の例題
  3. 慣性系と非慣性系の演習
  4. 並進慣性力
  5. 並進慣性力の例題
  6. 並進慣性力の演習
  7. 遠心力
  8. 回転座標系での時間微分
  9. 遠心力の演習
  10. コリオリ力
  11. 回転系の加速度の一般式
  12. コリオリ力の演習
  13. 第11章の章末問題
  14. 第11章の発展問題
  15. 第11章のまとめ

第11章  非慣性系

01慣性系と非慣性系

問い

駅を発車する電車の中で,つり革につかまらずに立っていると,つり革が進行方向とは逆の後ろ向きに傾きます.加速が一定になると,つり革は傾いたまま,電車に対して止まったように見えます.

電車の中の人から見れば,止まっているつり革に働く力はつり合っているはずです.ところが,つり革に働く実際の力は,重力と,糸が引く張力の2つだけです.つり革が斜めに傾いたままでは,この2つはつり合いません.では,つり革を後ろへ傾けているのは,何でしょうか.先を読む前に,自分の考えを一文で書いてみてください.

左は地上から見た傾いたつり革と右向き加速度A.右は車内から見た同じつり革で,重力と張力だけでは合力が0にならない. 左は地上から見た傾いたつり革と右向き加速度A.右は車内から見た同じつり革で,重力と張力だけでは合力が0にならない.

考えてみる

まず,地上に立つ人の立場で考えます.地面は慣性系とみなせますから(第4章),運動方程式 ma=F をそのまま使えます.つり革は電車と一緒に,進行方向へ加速度 A で加速しています.質量を m とすれば,合力は進行方向を向き,大きさは mA でなければなりません.

重力は鉛直下向きに mg です.糸が後ろへ傾いていると,張力 T は上向きで,しかも前向きの成分をもちます.この水平成分が合力になり,鉛直成分が重力とつり合えば,つり革は電車と一緒に加速できます.糸が鉛直となす角を θ とすると

Tsin⁡θ=mA,Tcos⁡θ=mg

です.辺々を割って tan⁡θ=A/g を得ます.加速度が大きいほど,つり革は大きく傾きます.

この見方では,つり革を後ろへ引く力は,どこにも必要ありません.つり革は,前へ加速するために,傾いて水平方向の力を作っているのです.

次に,電車の中に立つ人の立場で考えます.この人から見て,つり革は止まっています.つまり加速度は 0 で,運動方程式 ma=F に従うなら,合力も 0 でなければなりません.しかし,実際に働く力は重力と張力だけで,その合力は水平前向きに mA だけ残ります.運動方程式が,そのままでは成り立ちません.

加速する電車の中は,第4章で見た,慣性の法則が成り立たない基準系です.

慣性系と非慣性系

定義 慣性系と非慣性系

慣性系:慣性の法則(したがって運動方程式 ma=F)が成り立つ基準系.
非慣性系:慣性系に対して加速または回転している基準系.ここでは,運動方程式がそのままでは成り立たない.

この節では,座標軸の向きを変えずに動く(並進する)基準系だけを扱います.回転する基準系は,あとの遠心力とコリオリ力の節で扱います.慣性系 S(地上)に対して,加速度 A で並進する基準系 S′(電車)を考えます.ある物体の加速度は,S で見れば a,S′ で見れば a′ で,第3章のガリレイ変換から

a′=a−A

の関係にありました.A=0,つまり S′ が等速で動くなら a′=a で,S′ も慣性系です.A≠0 のとき,並進する系は非慣性系です.

つり革の加速度を比較する.図中の記号と条件は「地上 S」「θ」「A」「a=A」「電車 S'」「a'=0」である. つり革の加速度を比較する.図中の記号と条件は「地上 S」「θ」「A」「a=A」「電車 S'」「a'=0」である.

つり革では,a=A,a′=0 です.

見かけの力という考え方

S では ma=F が成り立ちます.これに a=a′+A を代入して整理すると

ma′=F−mA

となります.右辺は,実際に働く力 F に,−mA という項をつけ足した形です.この項を「力」とみなして足せば,非慣性系 S′ の中でも,ma′=(力の和) という運動方程式の形が使えます.

定義 見かけの力(慣性力)

非慣性系で運動方程式の形を保つために,実際の力につけ足す力.並進する系の加速度が A のとき,質量 m の物体に対する並進による見かけの力は −mA.回転する系の見かけの力は,あとの節で扱う.

見かけの力には,次の特徴があります.

  • 向きは,系の加速度 A と逆向きである.

  • 大きさは,物体の質量に比例する.

  • 他の物体から受ける力ではない.そのため,作用・反作用の相手にあたる力が,どこにも存在しない.

つり革の例で,2つの立場を並べて比べてみます.

地上(慣性系)

電車の中(非慣性系)

つり革の加速度

A

0

働く力

重力 mg,張力 T

重力 mg,張力 T,見かけの力 −mA

運動方程式

mA=mg+T

0=mg+T−mA

下の行は,どちらも同じ式です.左辺の mA を右辺へ移せば,上と下が一致します.電車の中の人にとって,つり革は,重力と張力と後ろ向きの見かけの力 mA の3つがつり合って静止しているのです.

なぜ,わざわざ非慣性系で考えるのか

地面という慣性系だけで考えれば,見かけの力は要らないはずです.それでも非慣性系を使う理由は,主に3つあります.

  1. 私たちが立っている地球が,厳密には非慣性系だから.地球は自転しているため,地面に固定した基準系は加速しています.普通の実験では無視できますが,台風や海流,長い距離を飛ぶ弾道を調べるときは,この効果が現れます.

  2. 乗り物の中の観測は,その乗り物を基準にするのが自然だから.電車の中の人にとっての「落ちる」「傾く」「止まっている」は,電車に対する運動です.

  3. 解きやすくなることがあるから.系の中で静止している物体は a′=0 なので,つり合いの式だけで済みます.上のつり革は,その例です.

ただし,便利さの代わりに,守るべき約束があります.

ポイント 非慣性系で考えるときの約束

  1. 最初に,どの基準系で考えるかを決める.

  2. 慣性系で考えるなら,実際に働く力だけを数える.見かけの力は入れない.

  3. 並進する非慣性系で考えるなら,実際の力に,並進による見かけの力 −mA を加える.

  4. 2つの立場を途中で混ぜない.慣性系の加速度を使いながら見かけの力も足すと,同じ効果を二重に数えてしまう.

ポイント ここまでのまとめ

  • 問いの答え:つり革を後ろへ傾けている力は,実在しない.電車の中の人から見たときだけ,後ろ向きの見かけの力(慣性力)−mA が重力と張力に加わって,3つの力がつり合う.

  • 地上の人から見れば,つり革は前へ加速するために傾いている.同じ現象が,どちらの立場でも説明できる.

  • 慣性系に対して向きを変えずに加速度 A で動く(並進する)基準系は非慣性系で,運動方程式がそのままでは成り立たない.a′=a−A から,ma′=F−mA となる.

  • 並進による見かけの力 −mA を足すと,並進する非慣性系でも運動方程式の形が使える.向きは A と逆で,大きさは質量に比例し,反作用の相手はない.

  • 非慣性系で考える理由は,地球自体が非慣性系であること,乗り物の中の観測が自然であること,静止した物体がつり合いで解けることの3つである.

  • どちらの系で考えるかを先に決め,途中で混ぜない.

02慣性系と非慣性系の例題

同じ問題を地上の立場(慣性系)と乗り物の中の立場(非慣性系)の両方で解いて,答えが一致することを確かめます.

ポイント 数学の道具:2つの立場で解く手順

  1. 向きの正を決める.水平なら進行方向,鉛直なら上向きを正にする.

  2. 慣性系で解く場合:物体の加速度 a(地上から見た値)を書き,実際に働く力の和を ma に等しいとおく.

  3. 非慣性系で解く場合:物体の加速度 a′(乗り物から見た値)を書き,実際の力に見かけの力 −mA を加えた和を ma′ に等しいとおく.

  4. 2つの立場の式を比べる.移項すれば同じ式になるはずで,これが検算になる.

練習. 加速度 A=1.5ms−2 で水平に加速する台車の,なめらかで水平な床に質量 0.50kg の物体を置き,ばね定数 50Nm−1 の軽いばねで台車の前の壁につないだ.物体は台車に対して静止している.ばねの伸び x を,慣性系と台車の系の両方で式を立てて求めよ.

答え:進行方向を正とする.慣性系では物体の加速度は A で,水平な力はばねの力だけだから kx=mA.台車の系では加速度が 0 で,見かけの力 −mA を加えて kx−mA=0.移項すれば同じ式になる.x=mAk=0.50×1.550=0.015m(1.5cm)だけ伸びる.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

水平でまっすぐな道路で,トラックが一定の加速度 A で発進する.荷台の床は水平で,質量 20kg の箱が置いてある.箱と床の静止摩擦係数は 0.30,動摩擦係数は 0.20,重力加速度は g=9.8ms−2 とする.

  1. A=2.0ms−2 のとき,箱は荷台に対して滑らなかった.箱が床から受ける摩擦力の向きと大きさを,地上の人の立場とトラックの中の人の立場の両方で求めよ.

  2. 箱が荷台に対して滑らないための A の最大値を求めよ.

  3. A=4.0ms−2 で発進すると,箱は荷台に対して滑った.荷台に対する箱の加速度を,両方の立場で求めよ.箱が初め荷台の後端から 1.5m 前にあったとすると,何秒後に後端に達するか.

発進するトラックの側面図で,水平な荷台の上に箱があり,箱には重力 mg と垂直抗力 N を描き,トラックの加速度 A を前向きの矢印で示す.箱の後面と荷台の後端との距離は 1.5 m である. 発進するトラックの側面図で,水平な荷台の上に箱があり,箱には重力 mg と垂直抗力 N を描き,トラックの加速度 A を前向きの矢印で示す.箱の後面と荷台の後端との距離は 1.5 m である.
解答を見る

考え方 箱を前へ加速させられる水平な力は,床からの摩擦力だけである.地上の立場では実際の力だけを数え,トラックの中の立場では後ろ向きの見かけの力 mA を加える.

  1. 進行方向を正とする.地上から見ると,箱はトラックと同じ加速度 A で動くので,摩擦力を f として

mA=f⇒f=20×2.0=40N

である.トラックの中から見ると,箱の加速度は 0 で,摩擦力と見かけの力がつり合う.

0=f−mA⇒f=40N

どちらの立場でも,摩擦力は前向きに 40N である.箱を前へ引っ張るのは,床の摩擦力である.

  1. 鉛直方向のつり合いから N=mg.滑らないためには,必要な摩擦力 mA が最大摩擦力 0.30mg 以下であればよい.

mA≤0.30mg⇒A≤0.30×9.8≈2.9ms−2

である.質量 m は消えるので,重い箱でも軽い箱でも同じ値である.

  1. 箱は荷台に対して後ろへ滑るので,動摩擦力は前向きに 0.20mg である.地上から見た箱の加速度は a=0.20g=1.96ms−2(前向き)で,荷台に対する加速度は

a′=a−A=1.96−4.0=−2.04ms−2

である.トラックの中の立場では ma′=0.20mg−mA で,同じ値が出る.箱は荷台に対して静止から後ろへ 2.04ms−2 で加速するので,後端に達する時間は

1.5=12×2.04×t2⇒t=2×1.52.04≈1.2s

である.地上から見ると,箱は後ろへ動いているのではなく,トラックより小さな加速度で前へ動いている.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 60kg の人が,エレベーターの床に置いた体重計に乗っている.体重計の目盛りは,人が体重計を押す力の大きさ(人が体重計から受ける垂直抗力 N と同じ)に比例するものとし,N=mg のとき,ふだんの値を示す.g=9.8ms−2 とする.

  1. エレベーターが上向きに加速度 2.0ms−2 で動き出した.体重計が示す力 N を,地上(慣性系)の立場で求めよ.

  2. (1)を,エレベーターの中の人の立場で求め,同じ結果になることを確かめよ.

  3. 下向きに加速度 3.0ms−2 で動いているときの N を求めよ.また,(1)と(3)を,体重計の目盛りを質量に直して比べよ.

  4. ケーブルが切れて,エレベーターが自由落下を始めた.空気抵抗とブレーキの影響はないとして,N を求めよ.

エレベーターの三つの加速条件.図中の記号と条件は「上向き加速」「A」「体重計の値は未知」「下向き加速」「自由落下」である. エレベーターの三つの加速条件.図中の記号と条件は「上向き加速」「A」「体重計の値は未知」「下向き加速」「自由落下」である.
解答を見る

考え方 人はエレベーターに対して止まっているので,エレベーターの加速度が,そのまま人の加速度になる.上向きを正とする.

  1. 地上から見た人の加速度は,エレベーターと同じ a=2.0ms−2(上向き)である.人に働く力は,上向きの N と,下向きの重力 mg だけだから,

ma=N−mg⇒N=m(g+a)=60×(9.8+2.0)=708N

である.およそ 7.1×102N で,止まっているときの 60×9.8=588N より大きい.

  1. エレベーターの加速度は A=2.0ms−2(上向き)で,エレベーターの中の人の加速度は a′=0 である.力は N(上向き),mg(下向き),見かけの力 mA(A と逆の下向き)の3つで,

0=N−mg−mA⇒N=m(g+A)=708N

となる.(1)と一致する.

  1. 下向きの加速度を A=3.0ms−2 とする.上向きを正とすれば,加速度は −A で,m(−A)=N−mg から

N=m(g−A)=60×(9.8−3.0)=408N

である.非慣性系で解けば,見かけの力は上向きに mA で,0=N−mg+mA から同じ結果が出る.

目盛りを質量に直すと,(1)では 708/9.8≈72kg,(3)では 408/9.8≈42kg である.人の質量は変わらないのに,目盛りは上へ加速するときは重く,下へ加速するときは軽くなる.

  1. 自由落下では,エレベーターの加速度は下向きに g である.(3)の式で A=g とおけば

N=m(g−g)=0

である.体重計は,人からまったく押されないので,目盛りは 0 になる.エレベーターの中の人から見れば,重力 mg と見かけの力 mg(上向き)が打ち消し合っている.中の人は,床に対して浮いているように見える.

ポイント ここまでのまとめ

  • 同じ問題を,慣性系(実際の力だけ,加速度は地上から見た値)と非慣性系(見かけの力を足す,加速度は乗り物から見た値)の両方で解くと,移項すれば同じ式になる.これが検算になる.

  • 加速する荷台の上の箱を前へ加速させるのは,床の静止摩擦力である.荷台に対して滑らない条件は,静止摩擦係数を μ として A≤μg で,質量によらない.

  • エレベーターの体重計の目盛りは,上向きに加速すると m(g+A),下向きに加速すると m(g−A) になる.質量が変わったのではなく,床が人を押す力が変わったのである.

  • 自由落下(A=g)では目盛りが 0 になる.この「重さが消える」現象は,「並進慣性力」の節で,有効重力という考え方で整理する.

03慣性系と非慣性系の演習

同じ物体の運動を,地上と乗り物の中から見比べましょう.速度が0であること,加速度が0であること,実在する力がつり合うことを区別してください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

地上を慣性系とみなす.軸の向きが変わらない観測室について,次の四つの運動を考える.アは静止,イは東向きに一定速度で直進,ウは東向きに直進しながら減速,エは一定の速さで円周上を移動する.

  1. 慣性系とみなせる観測室を選び,理由を述べよ.

  2. ウの室内で,水平な力を受けない小球を室内に対して静止させて放す.直後の小球の相対加速度と,導入する慣性力の向きを述べよ.

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考え方 系の判定に使うのは速さの大小ではなく,慣性系から見た速度ベクトルの変化である.

  1. アとイである.両者の原点の加速度は0で,軸も回らないので,任意の物体について a′=a が成り立つ.ウは速度の大きさが変わり,エは速さが一定でも速度の向きが変わるため,原点が加速する非慣性系である.エの軸が回らないという条件でも,原点の加速度は消えない.

  2. ウの加速度 A は西向きである.小球の水平加速度は地上では0なので,a′=−A は東向きとなる.室内で加える慣性力 −mA も東向きである.小球を東へ押す新しい物体が現れたわけではなく,観測室の速度が減って小球との相対速度が生まれる.初めの相対速度が0でも,相対加速度まで0とは限らない.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

右向きを正とする.軸の向きが固定された台車の加速度は A=2.0ms−2,質量 m=0.50kg の物体に働く実在の水平合力は F=−1.0N である.

  1. 地上での加速度 a と台車での加速度 a′ を求めよ.

  2. 台車での運動方程式を書き,ma=F−mA と書く誤りを説明せよ.

同じ物体と力を二つの系で見る.図中の記号と条件は「地上 S」「F」「A」「台車 S'」である. 同じ物体と力を二つの系で見る.図中の記号と条件は「地上 S」「F」「A」「台車 S'」である.
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考え方 まず実在する力から地上の加速度を求め,座標変換で台車の加速度へ移す.

  1. a=F/m=−2.0ms−2.a′=a−A だから a′=−4.0ms−2 である.物体自身が左へ加速する効果と,台車が右へ加速する効果が,相対運動では加わる.台車の速度は与えられていないが,加速度の差を求めるためには不要である.

  2. 慣性力は −mA=−1.0N なので,台車では ma′=F−mA=−2.0N と書く.左辺を ma にすると,地上の加速度に対して台車用の慣性力を足してしまう.正しくは m(a′+A)=F を移項して得られる式であり,どの座標系の加速度かをプライムで明示することが二重計算を防ぐ.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

質量 50kg の人がエレベーター内の体重計に乗っている.箱は上向きに進みながら,一定の加速度の大きさ 1.2ms−2 で減速する.g=9.8ms−2 とする.

  1. 体重計の示す垂直抗力 N を地上と箱の両方から求めよ.

  2. 同じ下向き加速度のまま,箱が下降へ転じた場合,目盛りは変わるか.体重計が N/g を質量として表示するときの値も求めよ.

上昇しながら減速する箱.図中の記号と条件は「地上 S」「箱のV」「A」「箱 S'」である. 上昇しながら減速する箱.図中の記号と条件は「地上 S」「箱のV」「A」「箱 S'」である.
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考え方 上昇か下降かではなく,加速度の向きで目盛りが変わる.上向きを正にする.

  1. 地上では a=−1.2ms−2 なので −50×1.2=N−50×9.8.したがって N=430N である.箱では a′=0 で,慣性力は上向きに 50×1.2=60N.よって 0=N−490+60 となり,同じ値を得る.重力そのものが小さくなったのではない.

  2. 加速度が同じなら N も同じである.速度が0を通過する瞬間にも加速度は残るため,静止中の通常の目盛りに戻るわけではない.表示は 430/9.8≈44kg となる.人の質量は 50kg のままであり,表示は接触力を一定の g で割った値にすぎない.この問題では N>0 なので,人と床が接触し続ける仮定にも矛盾しない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

ロープウェイのゴンドラが,水平と角 α=30∘ をなすケーブルに沿って,斜面の上向きに一定の加速度の大きさ A で進む.天井から軽い糸で質量 m のつり革をつるす.つり革はゴンドラに対して静止し,糸は鉛直からケーブルの下り側へ角 θ 傾いている.tan⁡θ=1/3,g=10ms−2 とする.

  1. A と張力 T を,地上とゴンドラの両方の立場から求めよ.

  2. ゴンドラが急にケーブルに沿う等速運動へ移った直後,つり革は新しいつり合いの位置へ瞬時に移るか.糸が張っているとして説明せよ.

斜めに加速するロープウェイ.図中の記号と条件は「α」「θ」「A」「m」である. 斜めに加速するロープウェイ.図中の記号と条件は「α」「θ」「A」「m」である.
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考え方 加速度はケーブルに沿うので,水平成分と鉛直成分の両方を書く.定常な傾きにはつり合いを使い,加速度が変わった直後には位置と速度の連続性を使う.

  1. 右向きと上向きを正とする.ゴンドラの加速度は (Acos⁡α, Asin⁡α) である.α=30∘ だから cos⁡α=3/2,sin⁡α=1/2.地上ではつり革も同じ加速度をもつので

Tsin⁡θ=mAcos⁡αTcos⁡θ=m(g+Asin⁡α)

である.割り算から tan⁡θ=Acos⁡α/(g+Asin⁡α).tan⁡θ=1/3 を入れると 3A/2=g+A/2 となり,A=g=10ms−2.このとき Tcos⁡θ=3mg/2.θ=30∘ なので T=3mg≈1.73mg.

ゴンドラでは加速度は0で,慣性力はケーブルの下り向きに mA である.水平成分は後ろ向きに mAcos⁡α,鉛直成分は下向きに mAsin⁡α なので,つり合いの式は上と同じになる.水平だけの加速と違い,上向きの加速が鉛直方向のつり合いに入る.

  1. 瞬時には移らない.有限の力では位置や速度は飛び変わらず,つり革は傾いた位置で相対速度0のまま加速終了を迎える.等速になると慣性力が消え,つり合いの位置は鉛直になる.重力の接線成分で鉛直位置へ向かって動き出し,抵抗がなければ振動し,抵抗があれば減衰して鉛直に落ち着く.新しいつり合い位置と,切替直後の実際の位置を区別する必要がある.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

高さ h の車内で,天井の点Pから小球を車に対して静かに放す.その瞬間から車は右向きに一定加速度 A>0 で直進する.初めの車の速度は V0 で,床は水平,空気抵抗はない.球は壁に当たらず床へ達する.

  1. 車内での落下時間と,Pの真下から測る着地点の水平変位を求めよ.

  2. 地上の座標で同じ結果を導き,結果が V0 に依存しない理由を説明せよ.

天井から球を放す二つの見方.図中の記号と条件は「地上 S」「P」「h」「A」「車内 S'」である. 天井から球を放す二つの見方.図中の記号と条件は「地上 S」「P」「h」「A」「車内 S'」である.
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考え方 車内では球の水平加速度が −A,地上では0である.比較する着地点は移動する床に対する位置である.

  1. Pの初期位置を車内の原点,右向きと上向きを正とすると,x′=−At2/2,y′=−gt2/2.床は y′=−h だから tf=2h/g.水平変位は xf′=−Ah/g で,車の後方へずれる.重力と慣性力はともに質量に比例するので,結果は球の質量にも依存しない.

  2. 地上では球の水平位置は x=V0t,Pの水平位置は X=V0t+At2/2.差を取ると x−X=−At2/2 である.鉛直方向は車が加速しないため落下時間も同じとなる.初めの共通速度 V0 は差から消え,どちらの観測者も同じ床上の点への衝突を予測する.球が後方へずれるからといって,地上で球が左向きに加速するとは限らない.

ポイント 教える人へ

  • 速さ一定と速度一定を区別し,円運動を反例として説明させる.

  • 力の図には観測する系の名前を書かせ,加速度のプライムと対応させる.

  • 体重計の値を質量そのものと同一視しないことが重要である.

  • つり合い位置の変化と実際の過渡運動を分けて問いかける.

04並進慣性力

問い

水平な台車の上に,傾き 30∘ のなめらかな斜面が固定してあります.斜面は,台車の進む向き(右)へ向かって下がっています.この斜面の途中に物体をそっと置き,台車を右向きに一定の加速度 A=8.0ms−2 で動かし始めます.

台車が止まっているなら,物体は斜面を下ります.台車が加速しているとき,物体は台車に対して,下る向き(右下)と上る向き(左上)のどちらへ動き出すでしょうか.

加速する台車の斜面.図中の記号と条件は「m」「30°」「台車」「A」である. 加速する台車の斜面.図中の記号と条件は「m」「30°」「台車」「A」である.

考えてみる

素朴には,斜面が右下がりなのだから,物体は右下へ滑るはずだと思えます.台車が止まっていればその通りで,斜面に沿った加速度は gsin⁡30∘=4.9ms−2 です.台車が動いても斜面の傾きは変わらないのだから,同じではないか,と考えたくなります.

地上から調べると,物体は台車の加速度と,台車に対する斜面に沿った加速度の合成で動くので,式が複雑になります.欲しいのは台車に対する動きだけですから,台車に乗った人の立場で,「慣性系と非慣性系」の節の考え方を使います.その導き方を少し丁寧に見ておきます.

座標を台車へ移す

慣性系 S(地上)と軸の向きを同じに保ったまま動く,台車に固定した座標系 S′ を考えます.向きを変えずに平行移動する系を並進する系といいます.S′ の原点は,S から見て位置 R(t) にあるとします.物体の位置は,S では r,S′ では r′ です.

定理 並進する系との座標変換

r=r′+R(t)

両辺を時間で微分すると v=v′+dRdt.もう一度微分して,系の加速度を A=d2Rdt2 とおけば

a=a′+A

である.

並進する原点と位置ベクトル.図中の記号と条件は「O」「O'」「物体」「R」「r'」「r」「r=R+r'」である. 並進する原点と位置ベクトル.図中の記号と条件は「O」「O'」「物体」「R」「r'」「r」「r=R+r'」である.

A が時間とともに変わっても,各瞬間の値を使えば同じ式が成り立ちます.

物体の質量を m,実際に働く力の合力を F とします.S は慣性系ですから ma=F です.これに a=a′+A を代入すると

ma′=F−mA

を得ます.S′ で見ても運動方程式の形が成り立つように,右辺に現れた −mA を力とみなします.

法則 並進慣性力

加速度 A で並進する系 S′ では,質量 m の物体に,実際の力 F のほかに

−mA

という力が働くものとして,運動方程式 ma′=F−mA が使える.この力を並進慣性力という.

並進慣性力は,場所によらず一様で,向きは A と逆,大きさは質量に比例し,反作用の相手はありません.

有効重力

並進慣性力の特徴は,質量に比例することです.重力 mg も質量に比例します.そこで,重力と並進慣性力をまとめて書いてみます.重力以外の力を F他 とすると

ma′=mg+F他−mA=m(g−A)+F他

です.そこで

公式 有効重力

g′=g−A

とおきます.g′ を有効重力(見かけの重力加速度)といいます.重力加速度が g から g′ に変わっただけで,あとはふだんの問題と同じに解けます.「下」は g′ の向きに,「水平」は g′ に垂直な向きになります.

たとえば右向きに加速する電車では,g=(0,−g),A=(A,0) なので

g′=(−A,−g),|g′|=g2+A2

です.g′ は鉛直から後ろへ tan⁡θ=A/g の角だけ傾きます.「慣性系と非慣性系」の節のつり革は,この向きにぶら下がっていました.

有効重力の合成.図中の記号と条件は「g」「−A」「g'」「有効水平面」「φ」である. 有効重力の合成.図中の記号と条件は「g」「−A」「g'」「有効水平面」「φ」である.

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g=(0,−9.8)ms−2,A=(8.0,0)ms−2 だから

g′=(−8.0,−9.8)ms−2,|g′|=8.02+9.82≈12.6ms−2

です.g′ は鉛直から左へ φ≈39∘(tan⁡φ=8.0/9.8)傾いています.台車の上の人にとっての「水平面」は,g′ に垂直な,右下がり 39∘ の面です.

斜面は右下がり 30∘ で,この「水平面」より 9∘ ほど緩やかです.つまり斜面は,「右へ向かって上る 9∘ の坂」にあたります.物体は有効重力の低い方,すなわち左へ(斜面を上る向きへ)動き出します.斜面に沿った加速度の大きさは |g′|sin⁡9∘≈2.0ms−2 です.

A=0 では斜面を下り,A を増やすと,ある値(この斜面では gtan⁡30∘≈5.7ms−2)を境に上りに変わります.台車が前へ加速するので,物体は後ろ(高い側)へ置いていかれるのです.

自由落下では重力が消える

有効重力の式 g′=g−A で,系の加速度が重力加速度に等しい,つまり A=g の場合を考えます.

g′=g−g=0

です.重力と並進慣性力が打ち消し合うので,この系の中では,重力の強さと向きが場所によらないとみなせる範囲で,重力が無いのと同じように物体が運動します.自由落下するエレベーターの中で手を離した物体が浮くのは,このためです.この状態を無重量状態といいます.

国際宇宙ステーションの飛行士が浮いて見えるのも,宇宙に重力が無いからではありません.高度約 400km でも重力は地表の約9割あり,ステーションは地球のまわりを落ち続けているので,ステーションとともに向きを変えずに動く系で見れば,重力と並進慣性力が打ち消し合います.その中が自由落下する系になるのです.ステーションとともに地球のまわりを回る系で見ると,同じことが「重力と遠心力の打ち消し合い」に見えます.2つの見方の関係は,この章の「遠心力」の節で整理します.

逆に,重力の無い宇宙空間でロケットが上向きに加速度 g で加速すれば,中では床に向かって g の見かけの重力が現れ,重力の場所による違いを無視できる小さな部屋の中の実験では,地上の部屋と区別がつきません.これが,アインシュタインが一般相対性理論の出発点とした等価原理の入口です.重力も慣性力も質量に比例するからこそ,十分に小さな領域では2つを区別できないのです.広い領域では,地球の重力の強さと向きが場所で変わる(潮汐)ので,一様な並進慣性力とは区別できます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 問いの答え:物体は斜面を上る向きに動き出し,加速度は約 2.0ms−2.台車の上の人から見れば,有効重力が左下へ傾き,斜面は右へ上る 9∘ の坂にあたる.

  • 並進する系では,r=r′+R(t) の2階微分から ma′=F−mA となる.並進慣性力 −mA は,向きが A と逆で,大きさが質量に比例し,反作用は無い.

  • 重力と並進慣性力はどちらも質量に比例するので,有効重力 g′=g−A にまとめられる.「下」は g′ の向きである.

  • 自由落下する系では g′=0 で,重力が消えて見える(無重量状態).重力の場所による違いを無視できる小さな領域では,重力と加速の区別がつかない.これが等価原理の入口である.

05並進慣性力の例題

「並進慣性力」の節の ma′=F−mA と有効重力を,計算の道具として確かめてから例題で使います.

定理 数学の道具:座標変換の微分と有効重力の合成

座標変換の微分 r=r′+R(t) を成分ごとに2回微分して a=a′+A(A=R¨).有効重力の合成 g=(0,−g),A=(Ax,Ay) のとき

g′=(−Ax, −g−Ay),|g′|=Ax2+(g+Ay)2

である.g+Ay>0(有効重力が下向きの成分をもつ)のとき,下向き鉛直からの傾き角は tan⁡φ=|Ax|/(g+Ay).そうでないときは g′ の成分の符号から向きを決める.g′=0 のときは向きが定まらないので,傾き角は定義しない.

練習 1. t を秒単位で表した数値として,R(t)=(t2+2t, 0)m,r′(t)=(3t, 1)m のとき,台車に対する物体の加速度 a′ を求めよ.また,A=(3.0, −4.0)ms−2 のとき,g′ の大きさと傾き角を求めよ.

答え:r=(t2+5t, 1) より a=(2, 0),A=(2, 0) だから a′=0(台車に対して等速).後半は g′=(−3.0, −5.8),大きさ約 6.5ms−2,tan⁡φ=3.0/5.8 より φ≈27∘.

練習 2. 上向きに A=(0, 2.0)ms−2 で加速するエレベーターの中の有効重力 g′ を求めよ.質量 50kg の人が床から受ける垂直抗力はいくらか(g=9.8ms−2).

答え:g′=g−A=(0, −11.8)ms−2.垂直抗力は 50×11.8≈5.9×102N.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

落下する箱形のエレベーターの中で,床から高さ 1.0m の位置から小球を放したり投げたりする.幅は 3.0m,g=9.8ms−2 とする.

  1. 箱が自由落下している.小球を静かに放すと箱に対してどう動くか.また,水平に 1.5ms−1 で投げると,反対側の壁に着くまでの時間と高さはどうなるか.

  2. ブレーキが働いて,箱の下向きの加速度が 0.80g になった.小球を高さ 1.0m から静かに放すと,床に達するまでの時間はいくらか.

落下する箱の初期条件.図中の記号と条件は「自由落下:A=g」「放した後の運動を求める」「下向き:A=0.80g」である. 落下する箱の初期条件.図中の記号と条件は「自由落下:A=g」「放した後の運動を求める」「下向き:A=0.80g」である.
解答を見る

考え方 箱の加速度が下向きに A なら,有効重力は下向きに g′=g−A.

  1. A=g だから g′=0.静かに放した小球は箱に対して静止し,浮いたままになる.水平に投げた小球は箱に対して等速直線運動をするので,時間は

t=3.01.5=2.0s

で,高さは 1.0m のままである.

  1. g′=g−0.80g=1.96ms−2(下向き).小球は箱に対して静止から落ちるので

h=12g′t2⇒t=2×1.01.96≈1.0s

である.止まった部屋の 0.45s より,ゆっくり落ちる.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

台車の上に,傾き θ のなめらかな斜面が固定してある.斜面は右へ向かって下がっている.台車を右向きに一定の加速度 A で動かし,斜面の上の質量 m の物体を,台車に対して静止させた状態から放す.

  1. 台車に対して斜面を下る向きの加速度 b と,垂直抗力 N を,m,g,A,θ で表せ.

  2. m=2.0kg,sin⁡θ=0.60,A=6.0ms−2 のとき,b と N を求めよ.物体は斜面を下るか,上るか.

  3. 物体が台車に対して静止し続ける A と,そのときの N を求めよ.

台車内で斜面に働く力.図中の記号と条件は「m」「θ」「台車」「A」「mg」「N」「−mA」「平行」「垂直」である. 台車内で斜面に働く力.図中の記号と条件は「m」「θ」「台車」「A」「mg」「N」「−mA」「平行」「垂直」である.
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考え方 台車の中の立場で,mg,N,慣性力 mA(左向き)を斜面に平行・垂直に分ける.垂直方向の加速度は 0.

  1. 斜面に沿って下る向きを正とする.重力の成分は,斜面に沿って下向きに mgsin⁡θ,垂直に押しつける向きに mgcos⁡θ.慣性力 mA の成分は,斜面に沿って上向きに mAcos⁡θ,垂直に押しつける向きに mAsin⁡θ.よって

mb=mgsin⁡θ−mAcos⁡θ⇒b=gsin⁡θ−Acos⁡θ
N−mgcos⁡θ−mAsin⁡θ=0⇒N=m(gcos⁡θ+Asin⁡θ)

である.

  1. cos⁡θ=0.80 だから

b=9.8×0.60−6.0×0.80≈1.1ms−2,N=2.0×(9.8×0.80+6.0×0.60)≈23N

である.b>0 なので,物体は斜面を下る.

  1. b=0 から gsin⁡θ=Acos⁡θ,すなわち

A=gtan⁡θ=9.8×0.600.80≈7.4ms−2

である.A がこれより小さければ下り,大きければ上る.このとき N=mg/cos⁡θ=24.5N.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

一定の加速度 A=34g で水平に走る車の天井から,長さ ℓ=0.50m の軽い糸で質量 m の小球をつるす.空気抵抗は無視する.

  1. 小球が車に対して静止しているときの,糸の傾き θ0 と張力 T を求めよ.

  2. つり合いの位置からの小さな振れの周期を求め,車が止まっているときの周期と比べよ.

加速する車内の振り子.図中の記号と条件は「θ₀」「A」「ℓ」である. 加速する車内の振り子.図中の記号と条件は「θ₀」「A」「ℓ」である.
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考え方 重力を有効重力 g′ に置き換える.g′ の向きが「新しい鉛直」で,振り子はその向きにぶら下がる.

  1. |g′|=g2+A2=54g.糸は g′ の向きなので,鉛直から後ろへ

tan⁡θ0=Ag=34⇒θ0≈37∘

傾く.張力は有効重力とつり合い,T=m|g′|=54mg.

  1. つり合いの位置からの振れが小さいとき,重力加速度が |g′| になっただけの単振り子として扱える.張力 T と区別して周期を τ と書くと

τ=2πℓ|g′|=2π0.5012.25≈1.3s

である.止まっているときは τ0=2π0.50/9.8≈1.4s だから,加速する車の中の方が短い(比は 4/5≈0.89).

ポイント ここまでのまとめ

  • a=a′+A(A=R¨).有効重力 g′=g−A は成分ごとに引いて合成する.

  • 台車上の斜面では,慣性力を斜面に平行・垂直に分ける.下る加速度は gsin⁡θ−Acos⁡θ,台車に対して静止する条件は A=gtan⁡θ.

  • 一定の加速度で動く車の中の振り子は有効重力の向きにぶら下がり,つり合い位置の周りの微小振動の周期は 2πℓ/|g′|.自由落下する箱の中では g′=0 で,物体は箱に対して等速直線運動をする.

06並進慣性力の演習

まず g′=g−A を成分で求め,物体が動ける方向へ分解しましょう.床や斜面からの力は,接触を保てるかどうかまで確かめてください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

右を x,上を y とする.箱が一定加速度 A=(3.0,4.0)ms−2 で並進し,内部の質量 2.0kg の球を箱に対して静かに放す.g=(0,−10)ms−2 とする.

  1. 慣性力と有効重力を成分で求めよ.

  2. 壁に当たる前の 0.20s 後の相対速度と,放した位置からの相対変位を求めよ.

斜め上へ加速する箱.図中の記号と条件は「A=(3.0,4.0)」「x'」「y'」「O」である. 斜め上へ加速する箱.図中の記号と条件は「A=(3.0,4.0)」「x'」「y'」「O」である.
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考え方 系の加速度を重力から引く.初期相対速度が0で加速度が一定なので,等加速度運動の式を各成分に使える.

  1. −mA=(−6.0,−8.0)N,g′=(−3.0,−14)ms−2.箱が上へ加速するので,箱内では下向きの加速度が g より大きい.有効重力の大きさは 3.02+142≈14ms−2 であり,成分の差と大きさの差を混同してはいけない.

  2. v′=g′t=(−0.60,−2.8)ms−1,Δr′=g′t2/2=(−0.060,−0.28)m である.二つの成分の比が一定なので,箱からは左下へ直線状に動く.地上では鉛直下向きに重力加速度を受ける運動であり,箱の加速度を足すと a=g′+A=g と確かめられる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

エレベーターの天井に軽い滑らかな滑車を固定し,質量 m と 2m のおもりを伸びない糸でつなぐ.エレベーターは上向きに一定の加速度 B で進み,g+B>0 とする.おもりは床にも天井にも触れない.

  1. エレベーターに対する 2m の下向き加速度 a′ と,糸の張力 T を求めよ.

  2. B=2.0ms−2,g=9.8ms−2,m=1.0kg のときの a′ と T を求めよ.B=−g のとき,エレベーターに対して静かに放したおもりはどう動くか.

加速するエレベーターの滑車.図中の記号と条件は「m」「2m」「B」である. 加速するエレベーターの滑車.図中の記号と条件は「m」「2m」「B」である.
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考え方 エレベーター内の有効重力は下向きに g+B である.両方のおもりに同じ割合で効くので,加速度の比は止まっている滑車と同じである.

  1. 有効重力の大きさを ge=g+B とする.2m が相対的に下がる向きを正とすると

a′=2m−m2m+mge=g+B3

であり,張力は T=4m3(g+B) である.地上で見ても,上向きを正として 2m の加速度を B−a′,m の加速度を B+a′ と置けば同じ連立になる.g+B>0 のあいだ,2m が下がる向きは変わらない.有効重力の大きさが共通因子になるためである.

  1. ge=11.8ms−2 なので a′=11.8/3≈3.93ms−2,T=43×1.0×11.8≈15.7N である.B=−g では ge=0 となり,a′=0,T=0 である.静かに放したおもりは,エレベーターに対して静止したままである.自由落下の箱の中では,軽い方を引き上げる駆動力が残らない.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

水平と角 α の滑らかな右下がり斜面を,質量の大きい台車が滑り降りる.台車の質量は,天井から長さ ℓ の軽い糸でつるした小球より十分大きく,小球が台車の加速度を変えないとする.空気抵抗はない.

  1. 小球が台車に対して静止するとき,糸が斜面の法線となす角と,鉛直からの傾きを求めよ.

  2. つり合いのまわりの微小振動の周期を,静止した実験室の単振り子と比べよ.α=30∘ のときの周期比を求めよ.

斜面を滑る台車の振り子.図中の記号と条件は「α」「ℓ」「m」である.つり合いの角は描かない. 斜面を滑る台車の振り子.図中の記号と条件は「α」「ℓ」「m」である.つり合いの角は描かない.
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考え方 台車の加速度は斜面下向きに gsin⁡α である.有効重力の向きが斜面の法線と一致するかを,成分で確かめる.

  1. 右向きと上向きを正とする.斜面下向きの単位ベクトルは (cos⁡α, −sin⁡α) なので,台車の加速度は A=gsin⁡α(cos⁡α, −sin⁡α) である.有効重力は

g′=(−gsin⁡αcos⁡α, −gcos2⁡α)=−gcos⁡α(sin⁡α, cos⁡α)

である.斜面の上向き法線は (sin⁡α, cos⁡α) なので,g′ は法線と逆向き,すなわち床へ垂直に向かう.糸が法線となす角は0で,鉛直からは斜面の上側へ角 α 傾く.大きさは g′=gcos⁡α である.

  1. つり合いの方向から測った微小角 ϕ について ℓϕ¨=−g′ϕ だから,周期は τ=2πℓ/(gcos⁡α) である.実験室の周期 τ0=2πℓ/g との比は 1/cos⁡α である.α=30∘ では cos⁡α=3/2 より τ/τ0=(4/3)1/4≈1.07 である.水平に加速する車の振り子と違い,傾きは斜面の角そのもので,周期は gcos⁡α で決まる.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

水平な台車の上の粗い右下がり斜面に物体を置く.傾きは θ,静止摩擦係数は μ で,0<μ<tan⁡θ,μtan⁡θ<1 とする.台車は右向きに一定加速度 A≥0 で進む.

  1. 物体が台車に対して静止するために必要な,斜面下向きを正とする摩擦力 f と垂直抗力を求めよ.

  2. 静止できる A の範囲と,その範囲の両端で摩擦が働く向きを求めよ.

粗い斜面の静止条件.図中の記号と条件は「m」「θ」「台車」「A」「粗い面:μ」である. 粗い斜面の静止条件.図中の記号と条件は「m」「θ」「台車」「A」「粗い面:μ」である.
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考え方 摩擦の向きを先に固定せず,必要な力を符号付きで求め,|f|≤μN を課す.

  1. 斜面方向で 0=mgsin⁡θ−mAcos⁡θ+f だから f=m(Acos⁡θ−gsin⁡θ).垂直方向では N=m(gcos⁡θ+Asin⁡θ) である.摩擦は常に μN ではなく,この必要値をとる.

  2. −μ(gcos⁡θ+Asin⁡θ)≤Acos⁡θ−gsin⁡θ≤μ(gcos⁡θ+Asin⁡θ) を整理する.仮定により分母が正なので

gsin⁡θ−μcos⁡θcos⁡θ+μsin⁡θ≤A≤gsin⁡θ+μcos⁡θcos⁡θ−μsin⁡θ

となる.下限では重力による下滑りを防ぐため f=−μN,上限では慣性力による上滑りを防ぐため f=+μN である.途中の A=gtan⁡θ では摩擦は0となる.両端で同じ向きに摩擦を描くと,一方の限界を取り落とす.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

高さ H の箱が鉛直下向きに一定加速度 a0>g で並進する.箱内の床から高さ h(0<h<H) にある球を,箱に対して静かに放す.空気抵抗はない.

  1. 球が初めに当たる面と,到達時間を求めよ.

  2. 同じ箱の床上に置いた物体は,床と接触し続けられるか.床に接着されていないものとして説明せよ.

重力より速く下へ加速する箱.図中の記号と条件は「H」「h」「a₀」である. 重力より速く下へ加速する箱.図中の記号と条件は「H」「h」「a₀」である.
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考え方 有効重力の符号が反転する場合には,接触力の非負条件が決定的になる.下向きの加速を常に軽くなるだけと考えない.

  1. 上向きを正とすれば Ay=−a0,gy′=a0−g>0.球は箱に対して上へ加速し,y′=h+(a0−g)t2/2 で天井へ達する.よって t=2(H−h)/(a0−g) である.地上では球も下へ重力加速度で落ちるが,天井の方が速く下へ加速して球に追いつく.

  2. 接触を仮定すれば 0=N+m(a0−g) から N=m(g−a0)<0 となる.通常の床は物体を下へ引けないので,この解は接触の仮定に反する.物体は床から離れ,その後は N=0 で上向きの相対加速度 a0−g をもつ.負の垂直抗力をそのまま答えにせず,運動の条件を切り替える必要がある.

ポイント 教える人へ

  • 有効重力は成分の差として書かせ,符号を図と照合させる.

  • 摩擦の向きを決め打ちせず,必要な静止摩擦力を先に求めさせる.

  • 垂直抗力が負になったら,接触の仮定へ戻ることが重要である.

  • 自由落下は有効重力が0となる境界であり,その両側を比較させる.

07遠心力

問い

水平な円盤(ターンテーブル)の縁に近いところに,硬貨を1枚のせます.円盤をゆっくり回すあいだ,硬貨は円盤といっしょに回ります.回転を少しずつ速くしていくと,あるところで硬貨が外へ滑り出し,円盤の外へ飛びます.円盤の上でともに回る人には,硬貨が「外向きの力」を受けて動き出したように見えます.ところが,円盤の外の地面から見ている人には,そんな力を及ぼすものは見当たりません.外向きの力は,本当にあるのでしょうか.

硬貨を地上と回転系から比較する.図中の記号と条件は「地上 S」「r」「O」「ω」「f」「v」「円盤 S'」「mω²r」「v'=0」である. 硬貨を地上と回転系から比較する.図中の記号と条件は「地上 S」「r」「O」「ω」「f」「v」「円盤 S'」「mω²r」「v'=0」である.

考えてみる

まず地面(慣性系)から見ます.円盤は一定の角速度 ω で回り,硬貨は中心から距離 r のところで円盤に対して止まっているとします.硬貨は半径 r の等速円運動をしているので,加速度は中心向きで大きさ rω2,質量を m とすれば中心向きに mrω2 の力が必要です.水平方向で硬貨に触れているのは円盤だけなので,この力は静止摩擦力です.ω が大きくなって必要な力が最大摩擦力を超えると,静止摩擦では硬貨を円に沿って回しきれなくなり,硬貨は円盤に対して滑り始めます.滑り始める瞬間の地面から見た速度は円の接線の向きなので,硬貨は円の外側へそれていきます.その後も円盤に触れているあいだは動摩擦力が働くので,軌跡は直線になりません.円盤を離れて水平方向の力が働かなくなると,等速直線運動になります.地面から見れば,外へ押されたのではなく,引き止めきれなくなっただけです.

次に,円盤の上の人の立場で考えます.この人から見て硬貨は止まっています.ところが硬貨に働く水平の力は,中心向きの摩擦力だけです.力が1つだけなら運動方程式 ma′=F は硬貨が動き出すと言うのに,硬貨は止まっています.運動方程式をそのまま使うなら,摩擦力を打ち消す外向きの力がもう1つあると考えるしかありません.その力を「遠心力」と呼びます.ただし,この力を及ぼしている物体は,どこにも見つかりません.

回る系の運動方程式

円盤といっしょに回る系で止まっている物体は a′=0 で,地面から見た加速度は中心向きの −ω2r′ です(r′ は軸から物体へ向かうベクトルで,軸に垂直とする).慣性系の運動方程式 ma=F から F=−mω2r′ なので,「F に,それを打ち消す力を足せば止まっている」と読み直せます.

定義 遠心力

一定の角速度 ω で回る系の上で,回転軸から距離 r にある質量 m の物体には,実在の力 F のほかに,軸から遠ざかる向きの見かけの力

f遠心=mω2r′

が働くと考える.大きさは mω2r.この系で止まっている物体について,運動方程式は ma′=F+mω2r′ となる.

外積を使うと f遠心=−mω×(ω×r′) と書けます(ω は角速度ベクトル).導出は次の節です.この力は,質量に比例し,軸から遠いほど強く,反作用が無いという特徴をもちます.遠心力は座標系の側から持ち込まれた項なので,作用・反作用の相手がいません.並進の慣性力 −mA と同じ種類の力です.

向心力との関係も整理します.向心力は,円運動をさせている実在の力の合力の中心向き成分で,いまの硬貨では静止摩擦力です.地面から見た式は「向心力 =mrω2」,円盤の上の人から見た式は「向心力 = 遠心力」で,同じ内容の別の書き方です.どちらの系で考えるかを先に決めて,図を描き分けます.地面から見た図には実在の力だけを描き,遠心力は描きません.円盤の上の人から見た図には,実在の力(硬貨では中心向きの静止摩擦力)と遠心力を一緒に描いて,つり合いを立てます.混同してはいけないのは,摩擦力などの実在の力を描いたうえで,「向心力」をそれとは別の力としてもう1つ描き足すことです.向心力は実在の力の合力につけた名前で,独立した力ではありません.

硬貨が滑り出す限界は,どちらの系でも同じ式になります.静止摩擦係数を μ とすると,滑らないのは mrω2≤μmg,すなわち

ω≤μgr

のときです.質量が消えるので,硬貨の重さによりません.μ=0.40,r=0.10m なら ω≈6.3rads−1 で,毎分60回転ほどです.

回転系で静止している物体(回転する容器の中の液体,円錐振り子のおもりなど)は,回転系で解くとつり合いの問題になり,速く解けます.回転系の中で動く物体には,もう1つの見かけの力(コリオリ力)が加わります.

回転する液面

円筒形のバケツに水を入れ,中心軸のまわりに角速度 ω で回すと,水面は中心がへこんだ形になります.水といっしょに回る系で考えます.

回転する水面と有効重力.図中の記号と条件は「回転軸」「ω」「mg」「mω²r」「合力」「θ」である. 回転する水面と有効重力.図中の記号と条件は「回転軸」「ω」「mg」「mω²r」「合力」「θ」である.

軸から距離 r にある水面上の水の塊(質量 m)は,この系で止まっています.水面に沿う力の成分があれば水は流れるので,水面は合力が垂直になる形をしています.働く力は重力 mg(下向き)と遠心力 mω2r(外向き水平)なので,水面が水平となす角 θ について

tan⁡θ=mω2rmg=ω2rg

です.tan⁡θ は水面の高さ z の傾き dzdr に等しいので,積分して

z=z0+ω22gr2

となります(z0 は中心の高さ).水面は放物面で,ω が大きいほど曲がりが強くなります.

地球の自転と重力加速度

地球は約1日で1回自転しているので,地表に立つ私たちは回転系の上にいます.赤道半径を R=6.38×106m,自転の角速度を ω=7.29×10−5rads−1 とします.

地球上の遠心力の分解.図中の記号と条件は「自転軸」「P」「λ」「R」「R cos λ」「mω²R cos λ」「法線成分」「赤道向き」である. 地球上の遠心力の分解.図中の記号と条件は「自転軸」「P」「λ」「R」「R cos λ」「mω²R cos λ」「法線成分」「赤道向き」である.

緯度 λ の地点は自転軸から Rcos⁡λ の距離にあるので,遠心力は mω2Rcos⁡λ です.鉛直成分は mω2Rcos2⁡λ,地面に沿った成分は赤道に向かって mω2Rsin⁡λcos⁡λ です.万有引力による重力加速度を g0 とすると,真下に働く力はほぼ m(g0−ω2Rcos2⁡λ) です.弱める効果は赤道で最大,極で0です.ω2R≈3.4×10−2ms−2 で,g の約0.35 % です.水平成分のせいで,おもりをつるした糸は地球の中心を向かず,わずかに赤道側へ傾きます(最大で約0.1度).

実測では赤道の g は極より約 0.05ms−2 小さく,遠心力で説明できるのはおよそ3分の2です.残りは,地球が赤道方向にふくらんだ形をしていることなどによります.日常で使う g=9.8ms−2 には,この遠心力がすでに含まれています.自転が約17倍(周期約85分)に速くなれば,赤道の遠心力が万有引力と等しくなり,物体は浮きます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 一定の角速度 ω で回る系で止まっている物体には,軸から外向きの見かけの力 mω2r(遠心力)を加えると,ma′=F+mω2r′ が成り立つ.

  • 遠心力は反作用を持たない見かけの力で,慣性系から見ると現れない.向心力を,実在の力とは別の力として加えない.慣性系の図に遠心力は描かず,回る系の図には実在の力と遠心力を一緒に描く.

  • 円盤の上の物体が滑らない条件は ω≤μg/r(質量によらない).回転する液面は放物面 z=z0+ω22gr2.地球では遠心力が赤道の g を約0.35 % 弱める.

  • 問いの答え:外向きの力は,円盤の上の人が運動方程式をそのまま使うために持ち込んだ見かけの力で,実在しない.地面から見れば,硬貨は中心向きの摩擦力で円運動していて,摩擦が足りなくなると円盤に対して滑り始め,その瞬間の速度の向き(円の接線方向)へそれていくだけである.

08回転座標系での時間微分

回転する座標系での微分の方法を作り,遠心力の式とそのポテンシャルを導きます.

定理 数学の道具:回転する基底ベクトルと時間微分

xy 平面で,原点のまわりを一定の角速度 ω(反時計回りが正)で回る座標系の基底ベクトルは,t=0 に慣性系の軸と重なっていたとして

e1′=(cos⁡ωt, sin⁡ωt),e2′=(−sin⁡ωt, cos⁡ωt)

である.微分すると e˙1′=ωe2′,e˙2′=−ωe1′.角速度ベクトル ω=(0,0,ω) を使えば1つにまとまる:

e˙i′=ω×ei′(i=1,2)
回転する基底とその微分.図中の記号と条件は「x」「y」「O」「e₁'」「e₂'」「de₁'/dt=ωe₂'」「ωt」である. 回転する基底とその微分.図中の記号と条件は「x」「y」「O」「e₁'」「e₂'」「de₁'/dt=ωe₂'」「ωt」である.

原点を共通にとるので,位置ベクトルは慣性系でも回る系でも同じ r′ である.回る系の成分で r′=x′e1′+y′e2′ と書き,積の微分をすると

dr′dt=(x˙′e1′+y˙′e2′)+(x′e˙1′+y′e˙2′)=v′+ω×r′

である.v′ は回る系の中の人が測る速度,左辺は慣性系での速度 v なので

v=v′+ω×r′

となる.第2項は回る系が回ることによる速度(大きさ ωr,接線方向)である.同じ計算は任意のベクトル B で成り立ち,回る系の中で成分だけを微分したものを d′Bdt と書けば

dBdt=d′Bdt+ω×B

である.

練習 1. ω=2.0rads−1 で回る系の r′=(3.0,0)m の位置で,回る系に対する速度が v′=(0,1.0)ms−1 の物体の,慣性系での速度を求めよ(基底ベクトルは慣性系の軸と重なっている).

答え:ω×r′=(0, 6.0, 0) なので v=(0,7.0)ms−1.

練習 2. ω=3.0rads−1 で反時計回りに回る系の r′=(0,2.0)m の位置で,v′=(1.0,0)ms−1 の物体の慣性系での速度を求めよ(基底ベクトルは慣性系の軸と重なっている).

答え:ω×r′=3.0×(−2.0,0)=(−6.0,0) なので v=(−5.0,0)ms−1.

遠心力とそのポテンシャル

回る系で止まっている物体は v=ω×r′ で,ω が一定なので a=ω×(ω×r′) です.ω⟂r′ では −ω2r′ になり,円運動の加速度に一致します.運動方程式 ma=F と a′=0 から ma′=F+mω2r′ となり,遠心力が得られます.動く物体の場合は,コリオリ力の節で導きます.

遠心力 (mω2x′, mω2y′) は位置だけで決まり,U=−12mω2(x′2+y′2) から fx=−∂U∂x′,fy=−∂U∂y′ と得られます.

ポイント 遠心力のポテンシャル

回転軸からの距離を r として U遠心=−12mω2r2.回る系で静止した液体の自由表面(外圧は一定とする)は,(重力などのポテンシャル)+ U遠心 が一定の面になる.表面の圧力が一定なので,表面に沿った方向の力の成分は0でなければならないからである.拘束のない質点が1点でつり合う条件は,ポテンシャルの勾配が0になることで,等ポテンシャル面の条件とは別である.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

水平な円板が,中心を通る鉛直な軸のまわりに角速度 ω で回っている.円板の上に質量 0.20kg の小物体を置いた.静止摩擦係数は 0.50,重力加速度の大きさは 9.8ms−2 とする.

回転円盤上の小物体.図中の記号と条件は「r」「O」「ω」「f」「mω²r」である. 回転円盤上の小物体.図中の記号と条件は「r」「O」「ω」「f」「mω²r」である.
  1. 中心から 0.30m の位置で,物体が滑らずにいられる最大の ω を求めよ.

  2. ω=4.0rads−1 のとき,滑らずにいられる中心からの最大の距離を求めよ.質量を 0.40kg に替えると変わるか.

解答を見る

考え方 円板とともに回る系では物体は止まっている.遠心力 mrω2(外向き)と摩擦力がつり合い,限界は摩擦力が最大摩擦力 μmg に達するとき.

  1. mrω2=μmg より ω=μgr=0.50×9.80.30≈4.0rads−1.

  2. r≤μgω2=0.50×9.84.02≈0.31m.式に質量が入らないので,0.40kg に替えても変わらない.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

内側の半径 0.10m の円筒形の容器に深さ 0.10m まで水を入れ,軸のまわりに毎秒1.5回転で回した.十分時間がたち,水は容器とともに回っている.重力加速度の大きさは 9.8ms−2.

回転容器の水量と高さ.図中の記号と条件は「回転軸」「ω」「静止時の水面」「R=0.10 m」「回転後の水面と高さを求める」である. 回転容器の水量と高さ.図中の記号と条件は「回転軸」「ω」「静止時の水面」「R=0.10 m」「回転後の水面と高さを求める」である.
  1. 重力と遠心力のポテンシャルから,水面の式を求めよ.

  2. 縁と中心の水面の高さの差 Δh を求めよ.

  3. 水の体積は変わらないとして,中心での水面の高さを求めよ.

解答を見る

考え方 回る系で止まった水の表面は,ポテンシャル(重力の mgz と遠心力の −12mω2r2 の和)が一定の面になる.

  1. 水面上で mgz−12mω2r2=一定 なので z=z0+ω22gr2(z0 は中心の高さ).

  2. ω=2π×1.5≈9.42rads−1.縁(R=0.10m)との差は Δh=ω2R22g≈4.5×10−2m,約 4.5cm.

  3. z=z0+Δh(r/R)2.半径 r から r+dr の細い輪の面積は 2πrdr なので,水の体積は

∫0R2πr(z0+Δhr2R2)dr=πR2z0+2πΔhR2⋅R44=πR2(z0+Δh2)

である.体積不変より,これが初めの πR2×0.10m に等しいので z0+Δh2=0.10m,z0≈0.077m.縁の高さは約 0.12m.

ポイント ここまでのまとめ

  • 基底ベクトルは e˙i′=ω×ei′ を満たし,任意のベクトルで「慣性系での微分 = 回る系での微分 + ω×」となる.

  • 速度は v=v′+ω×r′.止まっている物体の加速度 −ω2r′ から遠心力 mω2r′ が出る.

  • 遠心力のポテンシャルは −12mω2r2.静止した液面は,重力のポテンシャルとの和が一定の面になる.

09遠心力の演習

回転系で静止している物体には,遠心力を加えたつり合いの式を使えます.回転軸からの距離と,実在する力を及ぼす相手を確かめながら解きましょう.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

水平な円盤が一定角速度 ω=3.0rads−1 で回っている.質量 m=0.20kg の小物体が中心から r=0.40m の場所で円盤に対して静止している.

  1. 円盤の系での遠心力の大きさと向きを求めよ.

  2. 地上と円盤の両方で水平な力の式を書き,摩擦力と遠心力が作用反作用の対でない理由を述べよ.

円盤上で静止する物体の二つの見方.図中の記号と条件は「地上 S」「r」「O」「ω」「円盤 S'」である. 円盤上で静止する物体の二つの見方.図中の記号と条件は「地上 S」「r」「O」「ω」「円盤 S'」である.
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考え方 地上では円運動の加速度があり,円盤では相対加速度が0である.同じ接触力を,異なる運動方程式で表す.

  1. mω2r=0.20×3.02×0.40=0.72N で,回転軸から外向きである.この距離は円周に沿う長さではなく,軸へ下ろした垂線の長さである.

  2. 外向きを正とし,内向き摩擦の大きさを f とすれば,地上では −mω2r=−f,円盤では 0=−f+mω2r.どちらも f=0.72N を与える.摩擦力の反作用は物体が円盤へ及ぼす外向きの力で,円盤に作用する.遠心力は同じ物体に加える見かけの力であり,相互作用の相手を持たない.つり合う二力だからといって作用反作用とは限らない.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

頂点を下にした滑らかな円錐面が,鉛直な軸のまわりに一定角速度 ω で回っている.母線が水平となす角を α(0<α<π/2) とする.質量 m の小物体が内面上で円錐に対して静止し,軸からの距離は r である.

  1. r と,面が物体に及ぼす垂直抗力 N を求めよ.

  2. α=30∘,r=0.20m,g=9.8ms−2 のときの ω と N/(mg) を求めよ.ω を増やすと r はどう変わるか.

回転する円錐面の小物体.図中の記号と条件は「軸」「ω」「m」「r」「α」である.抗力は描かない. 回転する円錐面の小物体.図中の記号と条件は「軸」「ω」「m」「r」「α」である.抗力は描かない.
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考え方 回る系では物体は静止している.垂直抗力を,鉛直上向きと軸へ向かう水平内向きに分ける.

  1. 抗力の鉛直成分は Ncos⁡α,水平内向き成分は Nsin⁡α である.鉛直のつり合いと,遠心力との水平のつり合いから

Ncos⁡α=mgNsin⁡α=mω2r

したがって N=mg/cos⁡α,r=gtan⁡α/ω2 である.面が滑らかなので摩擦力は使わない.水平な円盤では摩擦が向心力を担うが,ここでは抗力の水平成分が担う.

  1. tan⁡30∘=1/3,cos⁡30∘=3/2 だから

ω=9.80.203≈5.3rads−1Nmg=23≈1.15

である.r=gtan⁡α/ω2 なので,ω を増やすと物体は軸へ近づく.糸の長さで半径が制限される円錐振り子と違い,この面では母線に沿って半径が変わる.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

鉛直軸のまわりを一定角速度 ω で回る円筒の内壁に,質量 m の物体が接触している.内半径は R,静止摩擦係数は μ>0 で,物体は円筒に対して静止している.床による支えはない.

  1. 壁からの垂直抗力と摩擦力を求めよ.

  2. 物体がずり落ちない最小角速度を求めよ.R=2.0m,μ=0.50,g=9.8ms−2 のとき数値を示せ.

回転円筒の内壁の物体.図中の記号と条件は「mg」「R」「ω」「鉛直断面:床の支えなし」である. 回転円筒の内壁の物体.図中の記号と条件は「mg」「R」「ω」「鉛直断面:床の支えなし」である.
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考え方 垂直抗力という名称の垂直は,重力に対してではなく接触面に対してである.この問題では水平内向きに働く.

  1. 回転系で半径方向のつり合いから N=mω2R.鉛直方向では摩擦が重力を支えるので,上向きに f=mg である.地上で見ても,内向きの N が円運動の向心力を担い,鉛直加速度は0なので同じ結果となる.

  2. mg≤μN=μmω2R より ω≥g/(μR).最小値は 9.8≈3.1rads−1 である.回転を速めるほど抗力が増え,摩擦の上限が増すため支えられる.水平円盤では摩擦が円運動を担ったが,ここでは抗力が円運動を担う.同じ mω2r が現れても,力の役割は接触面の向きによって違う.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

細い一様な断面のU字管に水を入れ,左の鉛直な腕を回転軸として一定角速度 ω で回す.両腕の中心線の間隔を L とする.回す前は底の水平部分が水で満たされ,各腕の水面は底から高さ h0 にある.回しているとき水は管とともに静止し,左の水面は軸上にある.右の水面が左より高いときの高さの差を Δh とする.

  1. 回転系での水平部分の圧力差から,Δh を L,ω,g で表せ.

  2. 左右の水面の高さを求め,左の腕の水が底まで下がらない条件を述べよ.L=0.20m,ω=7.0rads−1,g=9.8ms−2,h0=0.20m で数値を求めよ.

回転軸を左腕とするU字管.図中の記号と条件は「回転軸」「ω」「L」「h₀」「回す前の水面」である.回転後の水面差は描かない. 回転軸を左腕とするU字管.図中の記号と条件は「回転軸」「ω」「L」「h₀」「回す前の水面」である.回転後の水面差は描かない.
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考え方 自由表面はどちらも大気圧である.高さが違う分の静水圧を,水平部分で遠心力が支える.

  1. 回転系で水は静止している.軸から距離 r の水平部分では,外向きの遠心力と内向きの圧力勾配がつり合うので dpdr=ρω2r である.左端 r=0 から右端 r=L まで積分すると,底での圧力差は ρω2L2/2 である.左の水面の高さを zL,右を zR とすると,同じ圧力差は ρg(zR−zL) でも書ける.よって

Δh=zR−zL=ω2L22g

である.断面が細いので,各腕の中の水面は水平とみなせる.円筒容器の放物面と違い,水がある半径は両腕の二点だけである.

  1. 断面積が一様なので,左で下がった体積は右で上がった体積に等しい.各腕の変化は Δh/2 であり

zL=h0−Δh2zR=h0+Δh2

である.左の腕に水が残る条件は zL>0,すなわち ω2L2<4gh0 である.これを超えると左が空になり,水平部分の積分の始点を,水が残っている端の半径に変えなければならない.

指定の値では Δh=7.02×0.202/(2×9.8)=0.10m である.よって zL=0.15m,zR=0.25m である.4gh0=7.84m2s−2 に対し ω2L2=1.96m2s−2 なので,左には水が残る.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

地球を半径 R の球とし,万有引力による加速度は中心向きに g0 とする.自転角速度を ω,北緯を λ とする.ω2R/g0 は1より十分小さい.必要なら,1≫|ε| のとき 1+ε≈1+12ε を使ってよい.

  1. 地表で静止する物体の遠心加速度を,球面の外向き法線と赤道向き接線に分解せよ.

  2. 有効重力の大きさと,つり下げた糸の中心方向からのずれ角 δ を1次まで求めよ.R=6.38×106m,ω=7.29×10−5rads−1,g0=9.8ms−2,λ=45∘ で評価せよ.

地球表面での成分の向き.図中の記号と条件は「自転軸」「P」「λ」「R」「R cos λ」「外向き法線」「赤道向き」である. 地球表面での成分の向き.図中の記号と条件は「自転軸」「P」「λ」「R」「R cos λ」「外向き法線」「赤道向き」である.
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考え方 遠心力は地球の中心ではなく自転軸から遠ざかる向きである.小さい横成分は,重力の大きさより向きに1次で効く.

  1. 軸からの距離は Rcos⁡λ.遠心加速度の法線成分は cn=ω2Rcos2⁡λ,接線成分は ct=ω2Rsin⁡λcos⁡λ である.後者は北半球では赤道へ向かう.極では軸からの距離が0となり,両成分とも消える.

g′=g0(1−cng0)2+(ctg0)2=g01−2cng0+cn2+ct2g02

である.最後の分数は (ω2R/g0)2 の程度なので,ε=−2cn/g0 と置けば g′≈g0−cn である.tan⁡δ=ct/(g0−cn) より,同じ次数で δ≈ct/g0 である.ω2R≈0.0339ms−2 なので,重力の減少は約 0.0170ms−2,δ≈1.73×10−3rad≈0.099∘ である.糸は中心方向から赤道側へ傾く.この見積もりは球形モデルに対する結果であり,実際の地球の形や内部の密度分布の効果を含めてはいない.

ポイント 教える人へ

  • 遠心力の距離は軸からの距離であり,球の中心からの距離と区別させる.

  • 向心力という名前を新しい独立した力として追加させない.

  • 円錐面では,垂直抗力の水平成分が円運動を担うことを,円筒の内壁と対比させる.

  • U字管では,圧力差の積分範囲が水の端で変わることを確認させる.

10コリオリ力

問い

気象衛星の写真を見ると,北半球の台風は上から見て反時計回りに渦を巻いています.南半球で発生するサイクロンは逆に時計回りです.台風の中心は気圧が低く,周りの空気は気圧の高い外側から低い中心に向かって押されるはずです.それなら風は中心へまっすぐ吹き込みそうですが,実際には中心のまわりを回ります.しかも北半球ではいつも反時計回りです.この回り方の向きは,何が決めているのでしょうか.

考えてみる

地球が自転していることがヒントです.遠心力を思い出しますが,遠心力は軸から外向きで,位置だけで決まります.風の動く向きや速さによらないので,渦の向きを決められません.必要なのは,動いている物体にだけ働いて,向きが決まった見かけの力です.

回転する円盤で,簡単な場合を考えます.円盤の中心から外へ,ボールを速さ u で転がします.円盤の上は摩擦が無いとします.地面から見ると,ボールには力が働かないので,まっすぐ進みます.ところが円盤は回り続けているので,その上の人にはボールが曲がって見えます.円盤が反時計回りなら,ボールは進行方向の右へ,つまり円盤の回転と逆向きに曲がっていきます.この曲がりを円盤の上で説明するには,ボールの動く向きに垂直に働く見かけの力が要ります.遠心力ではありえません.

直線運動と回転系の軌跡.図中の記号と条件は「地上 S」「O」「u」「ω」「1」「2」「3」「円盤 S'」「同じ番号は同じ時刻の位置」である. 直線運動と回転系の軌跡.図中の記号と条件は「地上 S」「O」「u」「ω」「1」「2」「3」「円盤 S'」「同じ番号は同じ時刻の位置」である.

コリオリ力

結論は,回転系で動く物体に,遠心力のほかにもう1つの見かけの力が加わるということです.

定義 コリオリ力

角速度ベクトル ω で回る系の上で,この系に対する速度 v′ で動く質量 m の物体には,見かけの力

fコリオリ=−2mω×v′

が働くと考える.大きさは 2mωv′sin⁡α(α は ω と v′ のなす角).

向きは外積の右ねじの規則で決まります.ω×v′ は ω から v′ へ右ねじを回す向きで,それにマイナスが付くので逆向きです.回転を上から見て反時計回りとし,ω を上向きとすれば,水平に動く物体では −ω×v′ は進行方向の右向きです.時計回りの系なら左向きです.この力は速度に垂直なので,仕事をしません.速さを変えず,向きだけを曲げます.物体が回転系で止まっていれば0です.まとめると,回転系での運動方程式は次のようになります.

法則 回転系の運動方程式

一定の角速度 ω で回り,原点が加速度 A で動く系の上で

ma′=F−mA+mω2r′−2mω×v′

右辺の第2項が並進の慣性力,第3項が遠心力(r′ は軸に垂直な成分),第4項がコリオリ力である.

この式は次の節で導きます.円盤の例では,コリオリ力がボールを右へ曲げ続けるので,渦巻き状の軌跡になります.

地球上のコリオリ力

地球の上では,緯度 λ の地点で東を x,北を y,上を z と取ります.地球の角速度ベクトルは北極向きで,この地点では上向きの成分 ωsin⁡λ と,北向きの成分 ωcos⁡λ をもちます.

北半球で東へ動く場合.角速度と速度の外積は北向きと下向きであり,負号を付けたコリオリ力は南向きと上向きになる. 北半球で東へ動く場合.角速度と速度の外積は北向きと下向きであり,負号を付けたコリオリ力は南向きと上向きになる.

水平に動く物体には,上向きの成分 ωsin⁡λ が効き,北半球ではコリオリ力の水平成分は進行方向の右向きで,大きさは 2mωv′sin⁡λ です.南半球では sin⁡λ<0 になるので左向きです.赤道では上向きの成分が0なので,水平面内で進行方向を曲げる成分は消え,水平な運動は曲がりません.ただし,東西に動く物体には鉛直方向のコリオリ力が残ります(あとの「落下物と鉛直方向」).

台風 低気圧の中心に向かう風は,北半球では右に曲げられます.中心の東側で西向きに吹く風は北へ,北側で南向きの風は西へ曲げられ,全体として反時計回りの渦になります.渦が十分に発達したところでは,地球に固定した系で見ると,空気は中心のまわりを回っているので,中心向きの加速度をもちます.この加速度を与えるのは,中心向きの気圧の力と,外向きのコリオリ力の差です.大規模な低気圧では差が小さく,2つの力がほぼつり合います.風とともに中心を回る系で考えるなら,旋回による外向きの遠心力(地球の自転による遠心力とは別のものです)を加えて,3つがつり合うと表せます.地表付近では,地面との摩擦で風が弱まってコリオリ力が小さくなるので,風は中心側へ吹き込みながら渦を巻きます.この風向きは南半球では逆です.

大きさを見積もります.緯度 30∘ で風速 20ms−1 なら,コリオリ力による加速度は 2ωvsin⁡λ=2×7.29×10−5×20×0.5≈1.5×10−3ms−2 です.日常の力に比べればごく小さな値ですが,何時間も同じ向きに働き続けるので,風の向きを大きく曲げます.

北半球の低気圧を地球固定系で見る.風は上から見て反時計回りで,赤実線の内向きの気圧の力は赤破線の外向きのコリオリ力より大きい.両者の差が中心向きの加速度を与える. 北半球の低気圧を地球固定系で見る.風は上から見て反時計回りで,赤実線の内向きの気圧の力は赤破線の外向きのコリオリ力より大きい.両者の差が中心向きの加速度を与える.

洗面台の渦の向きも北と南で違う,と言われることがありますが,これは正しくありません.コリオリ力が効くかどうかの大まかな目安は,空気や水が流れていく代表的な時間 t(流れの大きさ÷速さ)のあいだに,地面が回る角 ωt が無視できないかどうかです.台風では空気が渦を巡るのに数時間から数日かかり,ωt は1の程度かそれ以上です.洗面台の水は数十秒で流れ,ωt は 10−3 の程度しかありません.こちらは,排水口の形や水面の揺れのほうがずっと効きます.あくまで目安で,きちんと決めるには,コリオリ加速度 2ω|sin⁡λ|U(U は流れの速さ)を,慣性による加速度 U2/L(L は流れの大きさ)や,ほかの力,最初の流れの効果と比べる必要があります.海流や貿易風のように大規模なものは,台風と同じく北半球で右へ曲げられます.

フーコーの振り子

長い糸につるした振り子は,北極に置けば,振動する面が空間に対して変わらず,その下で地球が24時間に1回転します.地面の人には,振動面が24時間で1回転するように見えます.北極以外では,上向きの成分 ωsin⁡λ だけが水平な運動に効くので,振動面が回る角速度は ωsin⁡λ になり,北半球では上から見て時計回りです.

北極のフーコー振り子を比較する.図中の記号と条件は「時刻 0」「空間:振動方向一定」「床:振動方向は時計回り」「時刻 1」「時刻 2」である. 北極のフーコー振り子を比較する.図中の記号と条件は「時刻 0」「空間:振動方向一定」「床:振動方向は時計回り」「時刻 1」「時刻 2」である.

落下物と鉛直方向 高い所から落とした物体は,真下ではなく少し東にずれて落ちます.落下する速度は下向きなので,コリオリ力は東向きになるからです(定量的な計算は次の節).また,東向きに動く物体には,上向きのコリオリ力 2mωv′cos⁡λ が働き,見かけの重さが軽くなります.西向きなら重くなります.

ポイント ここまでのまとめ

  • 回転系で速度 v′ で動く物体には,見かけの力 −2mω×v′(コリオリ力)が働く.速度に垂直で仕事をせず,止まっている物体には働かない.

  • コリオリ力の水平成分は,北半球では進行方向の右向き(大きさ 2mωv′sin⁡λ),南半球では左向き.赤道ではこの水平成分が0になる(東西に動く物体には鉛直成分が残る).

  • 台風の渦,フーコーの振り子の振動面の回転(角速度 ωsin⁡λ),落下物の東へのずれは,コリオリ力で説明できる.

  • 問いの答え:低気圧に向かう風が,北半球ではコリオリ力で右へ曲げられ続けるので,反時計回りの渦になる.南半球は逆である.

11回転系の加速度の一般式

原点が動き,基底ベクトルが回る座標系での加速度の一般式を導き,平面運動を複素数で書きます.

定理 数学の道具:回転系の加速度

原点が位置 R(t)(加速度 A)にあり,基底ベクトルが一定の角速度ベクトル ω で回る座標系で,質点の位置を r=R+r′ とする.遠心力の節の dBdt=d′Bdt+ω×B を r′ に使うと,速度は

v=R˙+v′+ω×r′

である.もう一度微分すると(ω は一定)

a=A+a′+2ω×v′+ω×(ω×r′)

となる.ma=F に入れて a′ について解くと

ma′=F−mA−2mω×v′−mω×(ω×r′)

で,第2項が並進の慣性力,第3項がコリオリ力,第4項が遠心力である.角速度 ω が時間とともに変わる系では,ω×r′ を微分するときに ω˙×r′ の項が加わり,右辺にさらに −mω˙×r′ が現れる.これをオイラー力という.この章では ω が一定の系だけを扱う.

同時刻の直線運動と回転系の軌跡.図中の記号と条件は「地上 S」「O」「u」「ω」「1」「2」「3」「円盤 S'」「同じ番号は同じ時刻の位置」である. 同時刻の直線運動と回転系の軌跡.図中の記号と条件は「地上 S」「O」「u」「ω」「1」「2」「3」「円盤 S'」「同じ番号は同じ時刻の位置」である.

平面での成分表示 ω=(0,0,ω),v′=(x˙′,y˙′,0) では ω×v′=ω(−y˙′, x˙′, 0) なので,力が無く A=0 なら x¨′=2ωy˙′+ω2x′,y¨′=−2ωx˙′+ω2y′.ζ=x′+iy′ とおくと2式は1つにまとまる:

ζ¨=−2iωζ˙+ω2ζ

原点が慣性系で静止しているとき,慣性系で原点から x 軸の向きに出る直線運動 x+iy=ut は,回る系で ζ=ute−iωt になる(t=0 に軸が重なっていたとし,座標を −ωt だけ回すため).

練習 1. ω=2.0rads−1 で反時計回りに回る系で,原点から u=1.0ms−1 で出た物体の t=1.0s での座標 (x′,y′) を求めよ.

答え:(x′,y′)=(utcos⁡ωt, −utsin⁡ωt)=(−0.42, −0.91)m.

練習 2. 同じ物体の t=0.50s での座標 (x′,y′) を求めよ(cos⁡1.0≈0.540,sin⁡1.0≈0.841).

答え:ωt=1.0 より (0.50cos⁡1.0, −0.50sin⁡1.0)≈(0.27, −0.42)m.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

北緯 λ=35∘ の水平な線路を,質量 4.0×105kg の列車が東向きに速さ 40ms−1 で走っている.自転の角速度は ω=7.29×10−5rads−1.東・北・上を成分の順とする座標で ω=(0, ωcos⁡λ, ωsin⁡λ) である.

東へ走る列車の条件.図中の記号と条件は「東 x」「北 y」「上 z」「ω」「ω cos λ」「ω sin λ」「v'」「力の成分を求める」である. 東へ走る列車の条件.図中の記号と条件は「東 x」「北 y」「上 z」「ω」「ω cos λ」「ω sin λ」「v'」「力の成分を求める」である.
  1. 列車に働くコリオリ力を成分で求めよ.

  2. 列車が横に動かないために,レールが水平に及ぼす力の大きさと向きを求めよ.

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考え方 f=−2mω×v′ に v′=(u,0,0) を入れる.

  1. ω×v′=(0, ωusin⁡λ, −ωucos⁡λ) なので f=(0, −2mωusin⁡λ, 2mωucos⁡λ).2mωu≈2.3×103N より,南向きに約 1.3×103N,上向きに約 1.9×103N(重さの約0.05 %).

  2. 南向きのコリオリ力を打ち消すため,レールは北向きに約 1.3×103N を及ぼす.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

北緯 λ=35∘ の地点で,高さ 100m の塔の上から小物体を静かに落とす.空気の抵抗は無視し,g=9.8ms−2,ω と座標は例題1と同じとする.

塔からの落下の初期条件.図中の記号と条件は「h」「真下の基準点」「東」である. 塔からの落下の初期条件.図中の記号と条件は「h」「真下の基準点」「東」である.
  1. コリオリ力による東向きの加速度を,落下速度 v′≈(0,0,−gt) を使って求めよ.

  2. 東へのずれ x=13ωgcos⁡λt3 を導き,着地までのずれを求めよ.

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考え方 コリオリ力は小さいので,速度に −gt を代入して東向きの加速度を積分する.

  1. ω=(0, ωcos⁡λ, ωsin⁡λ),v′=(0,0,−gt) より ω×v′=(−ωgtcos⁡λ, 0, 0).よって東向きの加速度は ax=2ωgtcos⁡λ.

  2. 初速0で積分して vx=ωgcos⁡λt2,x=13ωgcos⁡λt3.落下時間は t=2h/g≈4.52s なので x≈13×7.29×10−5×9.8×0.819×4.523≈1.8×10−2m,約 1.8cm 東へずれる.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

北半球の緯度 λ の地点で,長い糸につるした振り子(フーコーの振り子)を小さく振らせる.復元の加速度は −k2(x,y)(k2=g/ℓ),コリオリ力は ω の上向き成分 Ω=ωsin⁡λ によるものだけとする.

フーコー振り子の初期方向.図中の記号と条件は「x'」「y'」「O」「初めの振動方向」「北緯 λ」である. フーコー振り子の初期方向.図中の記号と条件は「x'」「y'」「O」「初めの振動方向」「北緯 λ」である.
  1. ζ=x+iy の運動方程式を求め,ζ=e−iΩtη とおいて,振動面が一定の角速度で回ることを示せ.

  2. 北緯 35∘ で振動面が1回転する時間を求めよ.2π/ω=8.62×104s.

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考え方 運動方程式を複素数 ζ の1つの式にし,回る座標に乗り換える.

  1. 運動方程式は x¨=−k2x+2Ωy˙,y¨=−k2y−2Ωx˙.第2式に i をかけて足すと ζ¨=−k2ζ−2iΩζ˙.ζ=e−iΩtη を代入すると η¨=−(k2+Ω2)η となる.η は一定の直線上の単振動なので,振動面は角速度 Ω=ωsin⁡λ で(e−iΩt より)時計回りに回る.

  2. 周期は 2πωsin⁡λ=8.62×1040.574≈1.50×105s,約42時間.

ポイント ここまでのまとめ

  • 角速度ベクトルが一定の回転系の加速度は a=A+a′+2ω×v′+ω×(ω×r′).運動方程式に入れると,並進の慣性力・コリオリ力・遠心力が出る.

  • 力が無く原点が慣性系で静止している平面運動では,ζ=x′+iy′ に対し ζ¨=−2iωζ˙+ω2ζ.原点から x 軸の向きに速さ u で出た慣性系の直線運動は,回る系で渦巻き ζ=ute−iωt になる(t=0 に軸が重なっていたとする).

  • 落下物の東へのずれは 13ωgcos⁡λt3,フーコーの振り子の面は角速度 ωsin⁡λ で回る.

12コリオリ力の演習

外積の向きを決めてから,負号による反転を確かめましょう.地球上では東・北・上を右手系の軸とし,必要な近似の次数を明示してください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

水平な円盤が上から見て反時計回りに角速度 ω=(0,0,ω) で回る.円盤上の質量 m の物体について考える.

  1. 相対速度が v′=(u,0,0),(0,u,0),(0,0,u) のそれぞれで,コリオリ力を求めよ.u>0 とする.

  2. 回転系で静止した物体には遠心力とコリオリ力のどちらが残るか.またコリオリ力の仕事率を求めよ.

回転軸と三方向の相対速度.図中の記号と条件は「x」「y」「x方向の速度」「⊙ z,ω」「v'」「y方向の速度」「z方向の速度」である. 回転軸と三方向の相対速度.図中の記号と条件は「x」「y」「x方向の速度」「⊙ z,ω」「v'」「y方向の速度」「z方向の速度」である.
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考え方 fC=−2mω×v′ に成分を代入する.右ねじで決まる外積と,力の向きは逆である.

  1. 外積は順に (0,ωu,0),(−ωu,0,0),0.したがって力は (0,−2mωu,0),(2mωu,0,0),0 である.水平運動では進行方向の右へ働くが,軸に平行な運動では外積が0となる.速度があるだけで必ずコリオリ力が生じるわけではない.

  2. v′=0 ならコリオリ力は0である.遠心力は軸から離れた位置では残る.仕事率は P′=fC⋅v′=−2m(ω×v′)⋅v′=0.これはコリオリ力単独が相対的な運動エネルギーを変えないことを意味し,他の力も含めた速さが必ず一定という意味ではない.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

北緯 30∘ の地点で,小物体が北向きに相対速度 u=20ms−1 で進む.ω=7.29×10−5rads−1 とする.東・北・上を成分の順とする.

  1. コリオリ加速度の成分と数値を求めよ.

  2. 他の水平力がなく,短時間 t=10s の間はもとの北向き速度を用いてよいとして,東西方向のずれを求めよ.この近似の条件を述べよ.

北へ進む物体の初期条件.図中の記号と条件は「x'」「y'」「O」「u」「北緯30°」「東」「北」である. 北へ進む物体の初期条件.図中の記号と条件は「x'」「y'」「O」「u」「北緯30°」「東」「北」である.
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考え方 地球の角速度は ω=(0,ωcos⁡λ,ωsin⁡λ) である.北向き速度と平行な北向き成分は外積に寄与しない.

  1. ω×(0,u,0)=(−ωusin⁡λ,0,0) より aC′=(2ωusin⁡λ,0,0).東向きに 1.458×10−3ms−2≈1.5×10−3ms−2 である.北へ進む人の右は東であり,向きの規則とも一致する.

  2. 初めの東向き速度を0として,x′=ωusin⁡λt2=0.0729m≈7.3cm.近似には ωt が1より十分小さく,移動距離が地球半径より十分小さいことが必要である.今回は ωt=7.29×10−4 である.新しく生じる東向き速度がコリオリ力へ与える補正は,この計算では2次の効果として省いている.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

赤道上の短い水平な直線レールを,質量 m の台車が東または西へ速さ u で走る.静止物体について測った有効重力を g とし,遠心力はすでに g に含める.地表の曲率による u2/R は無視できるとする.

  1. 東向きと西向きのコリオリ力を求めよ.

  2. レールからの垂直抗力の差を求めよ.「赤道ではコリオリ力は常に0」という説明が正しいか述べよ.

赤道の東向きと西向きの運動.図中の記号と条件は「東向き」「上」「⊗ 北向きのω」「西向き」である. 赤道の東向きと西向きの運動.図中の記号と条件は「東向き」「上」「⊗ 北向きのω」「西向き」である.
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考え方 赤道で消えるのは角速度の鉛直成分であり,角速度ベクトル全体ではない.鉛直方向のコリオリ力を残して考える.

  1. 赤道では ω=(0,ω,0).東向き v′=(u,0,0) なら ω×v′=(0,0,−ωu) だから,コリオリ力は上向きに 2mωu.西向きでは下向きに同じ大きさである.水平な偏向成分はどちらも0である.

  2. 鉛直の相対加速度を0とすれば,東向きでは NE−mg+2mωu=0,西向きでは NW−mg−2mωu=0.よって NE=m(g−2ωu),NW=m(g+2ωu),差は NW−NE=4mωu.東向きでは軽く測られる.赤道でも鉛直のコリオリ力は存在するので,提示された説明は誤りである.この式は NE>0 かつ曲率を無視できる範囲の局所的な結果である.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

北緯 λ で,高さ h から物体を北向きに初速度 v0 で水平に投射する.静止時の有効重力を g とし,遠心力はすでに g に含める.空気抵抗を無視する.h と飛距離は地球半径より十分小さく,自転の1次の効果だけを求める.0次の速度は (0, v0, −gt)(東・北・上の順)としてよい.

  1. 東向き加速度と,東向き変位を時間の関数で求めよ.

  2. 着地時の東向きのずれを h で表せ.v0=0 のとき,静かに落とした場合の式に帰着することを確かめよ.h=45m,v0=15ms−1,λ=60∘,g=10ms−2,ω=7.29×10−5rads−1 ではいくらか.

塔からの北向き水平投射.図中の記号と条件は「h」「v₀」「北」「東」である.軌道と着地点は描かない. 塔からの北向き水平投射.図中の記号と条件は「h」「v₀」「北」「東」である.軌道と着地点は描かない.
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考え方 北向きの速度と落下速度は,どちらも東向きのコリオリ加速度を生む.北向きの投射では鉛直方向のコリオリ加速度が1次まで0なので,着地時刻は0次の落下でよい.

  1. ω=(0, ωcos⁡λ, ωsin⁡λ),v′=(0, v0, −gt) とすると ω×v′=(−ω(gtcos⁡λ+v0sin⁡λ), 0, 0) である.したがって東向き加速度は

ax′=2ω(v0sin⁡λ+gtcos⁡λ)

である.初期の東向き速度と変位が0なので,積分して vx′=2ωv0sin⁡λt+ωgcos⁡λt2,

x′=ωv0sin⁡λt2+13ωgcos⁡λt3

である.第1項は北向きに速さ v0 で進むときの右向きの偏向,第2項は落下速度による東向きの偏向である.

  1. 落下時間は tf=2h/g である.着地時のずれは

xf′=ωv0sin⁡λ⋅2hg+13ωgcos⁡λ(2hg)3/2

である.v0=0 では第2項だけが残り,x′=ωgcos⁡λt3/3 に帰着する.指定の値では tf=3.0s である.第1項は 8.52×10−3m,第2項は 3.28×10−3m で,合計 xf′=1.18×10−2m≈1.2cm 東向きである.東向きに生じた速度がコリオリ力へ与える補正は2次なので,ここには含めない.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

地球上の小領域で,静止時の有効重力と床からの抗力がつり合い,水平にはコリオリ力だけが働く理想模型を考える.緯度は一定の λ>0,f=2ωsin⁡λ とする.東向きを x′,北向きを y′ とし,原点から初速度 (u,0) で動き始める.

  1. 速度成分を求めよ.

  2. 位置を求め,軌道の半径と一周の時間を示せ.模型を使う際の空間的な条件も述べよ.

水平な初速度の条件.図中の記号と条件は「x'」「y'」「O」「u」「北半球:λ>0」「水平力はコリオリ力のみ」である. 水平な初速度の条件.図中の記号と条件は「x'」「y'」「O」「u」「北半球:λ>0」「水平力はコリオリ力のみ」である.
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考え方 二つの水平成分は結びついている.片方を微分してもう片方を消去すると,速度に関する単振動の式になる.

  1. v˙x′=fvy′,v˙y′=−fvx′ なので,v¨x′=−f2vx′.初期条件 vx′(0)=u,vy′(0)=0 から vx′=ucos⁡ft,vy′=−usin⁡ft を得る.速さは (vx′)2+(vy′)2=u で一定であり,仕事率0の性質と一致する.

  2. 積分して x′=(u/f)sin⁡ft,y′=(u/f)(cos⁡ft−1).したがって (x′)2+(y′+u/f)2=(u/f)2 で,南側の点 (0,−u/f) を中心に時計回りに回る.半径は u/f,周期は 2π/f.軌道の広がりが地球半径より十分小さく,その範囲で緯度の変化を無視できる必要がある.赤道へ近づくと f が小さくなり,模型の円の半径が大きくなるため,局所近似の妥当性を改めて検討しなければならない.

ポイント 教える人へ

  • 外積そのものを一度書き,負号による反転を独立に確認させる.

  • 赤道で消える水平成分と,残る鉛直成分を区別させる.

  • 1次の力へ代入する速度が0次の解でよい理由を説明させる.

  • 仕事をしない力でも軌道は変わることを,速度成分の解で確かめさせる.

13第11章の章末問題

系の選択,接触条件,エネルギー,近似の次数を組み合わせて,非慣性系の問題を整理します.回転座標系の運動方程式を使い,回る管の中で振動しない条件と,外から見た軌跡が閉じる条件を区別してください.遠心力に加え,拘束力や回転を維持する装置の役割にも注目してみましょう.

演習 1

オリジナル ★★☆☆☆

水平な滑らかな台車上で,質量 m の物体をばね定数 k の水平ばねに取り付ける.ばねの他端は台車に固定され,初め物体は自然長の位置で台車に対して静止している.時刻0から台車を右向きに一定加速度 A で動かす.右向きの自然長からの変位を x′ とする.

  1. x′(t) と最大変位の大きさを求めよ.

  2. 台車での保存量を示し,地上で物体とばねの力学的エネルギーが一般には保存しない理由を述べよ.

加速する台車とばね.図中の記号と条件は「A」「m」「k」「自然長位置」「x'」である. 加速する台車とばね.図中の記号と条件は「A」「m」「k」「自然長位置」「x'」である.
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考え方 一定の慣性力は平衡位置を移すが,ばねによる振動の角振動数は変えない.

  1. mx¨′=−kx′−mA.ν=k/m,X=x′+mA/k とすると X¨=−ν2X.初期条件から X=(mA/k)cos⁡νt なので,x′=(mA/k)(cos⁡νt−1).−2mA/k≤x′≤0 より最大変位の大きさは 2mA/k である.平衡位置のずれ mA/k と混同しない.

  2. 式に x˙′ を掛けて積分すると E′=m(x˙′)2/2+k(x′)2/2+mAx′=0.最後の項が慣性力のポテンシャルである.地上ではばねの固定端が動き,台車を動かす外部装置が仕事をするため,物体とばねだけは孤立した系ではない.台車での保存量と地上の力学的エネルギーは異なる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

長さ ℓ の糸につるされた質量 m の球が,鉛直軸のまわりを一定角速度 ω で回る円錐振り子を考える.糸は鉛直下向きと角 θ(0<θ<π/2) をなす.

  1. 球とともに回る系で θ,張力 T,円の半径を求めよ.

  2. この運動が存在する ω の条件と,地上の周期を求めよ.

円錐振り子の形.図中の記号と条件は「ℓ」「θ」「ω」「m」である. 円錐振り子の形.図中の記号と条件は「ℓ」「θ」「ω」「m」である.
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考え方 回転系では相対速度が0なので,コリオリ力はない.遠心力の半径には ℓsin⁡θ を使う.

  1. 鉛直で Tcos⁡θ=mg,水平で Tsin⁡θ=mω2ℓsin⁡θ.sin⁡θ≠0 より T=mω2ℓ,cos⁡θ=g/(ω2ℓ).半径は r=ℓ1−g2/(ω4ℓ2) である.

  2. 非零半径には 0<g/(ω2ℓ)<1,すなわち ω>g/ℓ が必要である.地上の周期は 2π/ω=2πℓcos⁡θ/g.等号では円の半径が0となるので,非零半径の円錐運動には含めない.θ=0 の鉛直静止解は別に存在し,sin⁡θ で割る操作ではその解を扱っていない.

演習 3

オリジナル ★★★☆☆

直方体の水槽が,右向きに一定加速度 A>0,上向きに一定加速度 B で並進する.g+B>0 とする.水は水槽に対して静止し,左右の幅は L,密度は ρ である.加速する前の水深は一様に h0 で,加速後も水はあふれず,底全体が水で覆われている.大気圧を p0 とする.

  1. 水面が水平となす角 φ と,水面が高い側を求めよ.

  2. 左右の端の水深と,底の中央での圧力を求めよ.底全体が覆われる条件を求めよ.

  3. A=g/2,B=0,L=0.40m,h0=0.20m,g=9.8ms−2,ρ=1.0×103kgm−3 のとき,左右の水深の差と,底の中央のゲージ圧を求めよ.

二方向に加速する水槽.図中の記号と条件は「静止時の水面」「L」「h₀」「A」「B」である.傾いた水面は描かない. 二方向に加速する水槽.図中の記号と条件は「静止時の水面」「L」「h₀」「A」「B」である.傾いた水面は描かない.
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考え方 水槽に対して静止した水では,圧力勾配が有効重力とつり合う.自由表面は圧力が一定の面である.

  1. 右向きと上向きを正とすると g′=(−A, −(g+B)) である.静止流体では ∂p∂x=−ρA,∂p∂y=−ρ(g+B) だから,水面に沿って圧力が変わらない条件から

tan⁡φ=Ag+B

である.右へ行くほど水面は低く,高い側は左(加速の後ろ側)である.

  1. 水面は直線なので,体積が保存すれば中央の水深は h0 のままである.左右の端の水深は

hL=h0+L2tan⁡φhR=h0−L2tan⁡φ

である.底の中央では,真上の水面から鉛直に h0 下がる間に圧力が ρ(g+B)h0 増すので,圧力は p0+ρ(g+B)h0 である.水平加速度 A は水面を傾けるが,中央の鉛直な水柱には入らない.底全体が覆われる条件は hR>0,すなわち LA/(2(g+B))<h0 である.

  1. tan⁡φ=1/2 なので水深の差は hL−hR=L/2=0.20m である.左端は 0.30m,右端は 0.10m で,底は覆われている.ゲージ圧は ρgh0=1.0×103×9.8×0.20=1.96×103Pa である.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

内半径 R,高さ H の円筒容器に,初め深さ h0 まで水を入れる.H/2<h0<H とする.ゆっくり回転を速め,各角速度で水が剛体回転する定常状態を比べる.

  1. 水が初めてあふれる角速度を求めよ.

  2. そのときの中心の水深を求め,底が先に露出しないことを確かめよ.

あふれる前の円筒容器.図中の記号と条件は「回転軸」「ω」「静止時の水面」「H」「h₀」「R」である. あふれる前の円筒容器.図中の記号と条件は「回転軸」「ω」「静止時の水面」「H」「h₀」「R」である.
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考え方 水面の縁と中心の差だけでなく,体積一定によって中心も下がることを使う.

  1. あふれる前の水面は z=z0+ω2r2/(2g),体積保存から z0=h0−ω2R2/(4g).縁は z(R)=h0+ω2R2/(4g) なので,z(R)=H より ω=2g(H−h0)/R である.

  2. 中心は z0=h0−(H−h0)=2h0−H>0.したがって,あふれる限界までは底全体を水が覆っており,(1)の式を使える.もし h0<H/2 なら中央が先に乾き,水量積分の下限を乾いた領域の半径に変える必要がある.この問題の不等式は,計算の途中で使った水面モデルを保証する条件である.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

北緯 λ で,地面から球を鉛直上向きに速さ u で投げ,元の高さへ戻るまでを考える.局所的な有効重力は一定の g,空気抵抗はなく,自転の1次だけを扱う.

  1. 東向き加速度と変位を時間で表せ.

  2. 元の高さへ戻ったときの東西のずれと水平速度を求めよ.

鉛直投げ上げの初期条件.図中の記号と条件は「u」「東 x'」「北緯 λ」である. 鉛直投げ上げの初期条件.図中の記号と条件は「u」「東 x'」「北緯 λ」である.
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考え方 上昇中と下降中でコリオリ加速度の向きが変わる.加速度の打消しと変位の打消しは同じではない.

  1. 0次の鉛直速度は vz′=u−gt.ax′=−2ωcos⁡λ(u−gt) を積分して vx′=−2ωcos⁡λ(ut−gt2/2),x′=−ωcos⁡λ(ut2−gt3/3) である.初期の水平位置と速度は0とした.

  2. 飛行時間は tf=2u/g.代入して vx′(tf)=0,x′(tf)=−4ωu3cos⁡λ/(3g2) となり,西へずれる.下降中の東向き加速度は,上昇中に得た西向き速度を減らすが,着地までその速度は西向きのままである.水平速度が初期値へ戻っても,水平変位が0とは限らない.適用には ωu/g と最大高度の地球半径に対する比が十分小さいことを要する.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

摩擦のない水平面上で,原点から物体を慣性系の x 軸に沿って速さ u で進ませる.同じ原点を持ち,反時計回りに一定角速度 ω で回る系を考え,時刻0で両系の軸を一致させる.

  1. 回転系の位置 (x′,y′) を求めよ.速度成分は v′=v−ω×r′ を用いて求めよ.v は,慣性系の速度を回転系の基底で表したベクトルである.

  2. 回転系の運動エネルギーが増えることを示し,コリオリ力が仕事をしないことと矛盾しない理由を説明せよ.

慣性系と回転系の軸.図中の記号と条件は「地上 S」「x」「y」「O」「u」「回転系 S'」「x'」「y'」「ωt」である. 慣性系と回転系の軸.図中の記号と条件は「地上 S」「x」「y」「O」「u」「回転系 S'」「x'」「y'」「ωt」である.
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考え方 慣性系の直線運動を座標回転で書き直す.速度は,積の微分を使わず,回転系への速度の変換で求める.

  1. 時刻 t に回転系は慣性系に対して反時計回りに角 ωt だけ回っている.慣性系の位置 (ut, 0) の回転系成分は x′=utcos⁡ωt,y′=−utsin⁡ωt である.慣性系の速度 (u, 0) を同じ基底で表すと v=(ucos⁡ωt, −usin⁡ωt) である.ω×r′=(−ωy′, ωx′)=(ωutsin⁡ωt, ωutcos⁡ωt) なので

vx′=ucos⁡ωt−ωutsin⁡ωtvy′=−usin⁡ωt−ωutcos⁡ωt

である.半径は ut,方位角は −ωt なので,回転系では時計回りの渦巻きとなる.

  1. 二成分の二乗和は (v′)2=u2(1+ω2t2) で,K′=mu2(1+ω2t2)/2.遠心力のポテンシャル U′=−mω2r2/2=−mω2u2t2/2 を足すと K′+U′=mu2/2 で一定である.相対的な運動エネルギーを増すのは遠心力の仕事である.慣性系では実在の水平力がないため,運動エネルギーは初めから一定である.

演習 7

東京大 1989 前期(改題) ★★★☆☆

細い管を直角に曲げ,曲がり角Bから水平に長さ 8ℓ/5 の部分を設ける.鉛直部分を回転軸とし,水平部分の中で質量 m の小球が滑らかに動く.自然長 ℓ,ばね定数 k,質量を無視できるばねを管に通し,一端を小球に,他端をBより下方の点Eに固定する.BE=d,Bから球までの距離を r とすると,ばねの長さは d+r である.ばねは曲がり角に引っ掛からず,伸び縮みしてもフックの法則を満たす理想的なものとする.ω0=k/m とおく.

最初は管を静止させ,d=ℓ/5 で球をつり合わせる.時刻0に固定端を下げて d=2ℓ/5 とし,その後は動かさない.この切替は十分速く,球の位置と半径方向の速度は変わらないものとする.回転を急に始める操作でも,半径方向の速度は連続とし,必要な接線方向の力積は管から受けるものとする.

ばねはEからBを経て小球へ続き,全長はd+rである.水平管BCの長さは8ℓ/5.固定端を動かす操作と管を回す操作を区別する. ばねはEからBを経て小球へ続き,全長はd+rである.水平管BCの長さは8ℓ/5.固定端を動かす操作と管を回す操作を区別する.
  1. 管を回さないままの r(t),周期,最小・最大の r を求めよ.

  2. ある時刻 t1 に管を一定角速度 ω1>0 で回し始め,それ以降は球を管内の同じ位置にとどめたい.可能な t1 と ω1 を求めよ.

  3. 別の実験として,管を止め,d=ℓ/4 にして球をつり合わせる.この状態から時刻0に一定角速度 ω>0 で回し始める.安定な半径方向の振動がある条件,振動中心 rc,角振動数 Ω,運動 r(t) を求めよ.コリオリ力は半径方向の式に入るか.

  4. (3)の運動が管の一回転ごとに位置・速度とも同じ状態に戻り,球が管の端Cに触れないようにする.その中で半径方向の振幅が最大となる ω,振幅,最大半径を求めよ.

  5. ℓ=0.60m,m=0.20kg,k=20Nm−1 とする.(2)の角速度,(4)の角速度と最大半径を数値で示せ.また(3)で球が外向きに動く間,管が球に与える接線方向の力の向きと大きさを求め,力学的エネルギーが球とばねだけでは保存しない理由を説明せよ.

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考え方 回る管の中では,ばねの復元力に遠心力が加わり,振動中心と角振動数の両方が変わる.途中で振動を止めるには,切替直後に新しいつり合い位置にいるだけでなく,半径方向の速度も0でなければならない.

  1. 初期位置は r(0)=4ℓ/5,切替後のつり合い位置は 3ℓ/5.運動方程式は mr¨=−k(r−3ℓ/5) だから,

r(t)=3ℓ5+ℓ5cos⁡ω0t

周期は 2π/ω0,最小半径は 2ℓ/5,最大半径は 4ℓ/5 である.いずれも管の両端に達しない.

  1. 半径方向の速度が0となるのは折返点だけである.その位置を r∗ とすると,回転開始後のつり合い条件は

k(r∗−3ℓ/5)=mω12r∗

内側の折返点 r∗=2ℓ/5 では左辺が負になり,外向きの遠心力とつり合えない.外側の折返点 r∗=4ℓ/5 なら ω12=k/(4m).よって ω1=ω0/2,t1=2πn/ω0(n=0,1,2,…)である.固定端の切替より後に回すなら n≥1 とする.管内で静止していても,外から見れば半径 4ℓ/5 の円運動をしている.

  1. ばねが自然長となる半径を r0=3ℓ/4 とおく.回転系の半径方向の式は

mr¨=−k(r−r0)+mω2r

したがって安定な振動には 0<ω<ω0 が必要であり,

Ω=ω02−ω2rc=ω02r0ω02−ω2r(t)=rc−(rc−r0)cos⁡Ωt

初期条件 r(0)=r0,r˙(0)=0 を満たす.ω→0 で rc→r0,振幅も0となる.ω=ω0 では復元項が消え,r¨=ω02r0 となるため単振動ではない.ω>ω0 では変位に対する力が外へ増幅する向きとなる.

回転系での速度は半径方向なので,コリオリ力はそれに垂直な接線方向を向く.管からの横向きの抗力がそれを打ち消すため,半径方向の式には入らない.安定条件だけでは有限な管に収まる保証はなく,さらに最大半径を調べる必要がある.

  1. 管の一回転時間 2π/ω に,半径方向の振動も整数回戻る必要がある.振幅が0ではなく r>0 なので,必要十分な条件は Ω/ω=j(正の整数).一般の有理数比なら複数回転後には閉じるが,今回は一回転後に戻る条件なので整数に限る.よって

ω=ω0j2+1rc=r0(1+1j2)Ar=r0j2rmax=r0(1+2j2)

j=1 では rmax=9ℓ/4>8ℓ/5 で端に当たる.j=2 では rmax=9ℓ/8<8ℓ/5 となる.振幅は j とともに減るので,最大となるのは j=2,すなわち ω=ω0/5,Ar=3ℓ/16,rmax=9ℓ/8 である.外から見た座標は x=r(t)cos⁡ωt,y=r(t)sin⁡ωt で,回転と半径方向の振動が重なった閉曲線になる.

  1. ω0=10s−1 なので,(2)は ω1=5.0s−1,(4)は ω≈4.5s−1.最大半径は 0.675m≈0.68m で,管長 0.96m より短い.振幅も 0.1125m≈0.11m となる.

管の回転方向を正とした接線力は Nθ=2mωr˙.これは回転系で −2mωr˙ のコリオリ力を打ち消す条件から得られ,外向き運動では回転と同じ向きとなる.慣性系でも接線加速度が 2ωr˙ なので同じ結果になる.球の慣性系での接線速度は ωr であり,管が球にする仕事率は Nθωr=2mω2rr˙.外向きでは正,内向きでは負で,角速度を一定に保つモーターがエネルギーを出し入れしている.

実際,球とばねの力学的エネルギー E=m(r˙2+ω2r2)/2+k(r−r0)2/2 を微分すると E˙=2mω2rr˙ になる.一方,回転系では有効ポテンシャルを使った mr˙2/2+k(r−r0)2/2−mω2r2/2 が一定である.両者を混同しないことが,回転装置を含む系のエネルギー収支を考える鍵になる.

14第11章の発展問題

★4・★5の発展問題で,拘束力の仕事,平衡の安定性,重力場の近似まで踏み込みます.座標系と近似の次数を選び,非慣性系で立てた式が何を予測するか確かめてください.

演習 1

オリジナル ★★★★☆

水平な滑らかな細い管を,一端Oを通る鉛直軸のまわりに一定角速度 ω>0 で反時計回りに回す.質量 m のビーズを,Oから距離 r0>0 で管に対して静かに放す.管の長さは L>r0 である.必要なら,微分方程式 r¨=ω2r の一般解が定数 C1,C2 を用いて r(t)=C1eωt+C2e−ωt と表されること,および ddte±ωt=±ωe±ωt を用いてよい.

  1. 軸からの距離 r(t),管に対する速さ,出口へ達する時間を求めよ.

  2. 管がビーズへ及ぼす水平な横力を求めよ.

  3. 出口へ達するまでに,回転を維持する装置がビーズへ供給する仕事を求めよ.

回転管の初期条件.図中の記号と条件は「O」「m」「r₀」「L」「ω」である. 回転管の初期条件.図中の記号と条件は「O」「m」「r₀」「L」「ω」である.
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考え方 管方向の運動は遠心力で決まり,横方向の拘束はコリオリ力と管の力のつり合いで決まる.装置の仕事は地上の速度を使って計算する.

  1. 回転系では mr¨=mω2r.初期条件 r(0)=r0,r˙(0)=0 を満たす解は r=r0(eωt+e−ωt)/2.微分して r˙=ωr0(eωt−e−ωt)/2,また r˙2=ω2(r2−r02) である.r=L を解くと

tL=1ωln⁡L+L2−r02r0,vL′=ωL2−r02

となる.r0→0 では,静止から出発する出口到達時間は発散する.軸上に厳密に静止する初期条件では,理想模型のビーズは動き出さない.

  1. 外向き速度 r˙ に対するコリオリ力は回転と逆向きに 2mωr˙.管内では横の相対加速度が0なので,管は回転方向へ Nθ=2mωr˙ を及ぼす.鉛直方向には別に重力を支える抗力 mg がある.横力が0ならビーズは管の方向を保てない.

  2. 地上での接線速度は ωr である.仕事率は P=Nθωr=2mω2rr˙ なので W=mω2(L2−r02).地上の運動エネルギーは K=m(r˙2+ω2r2)/2 で,その増加も同じ値になる.回転系では管の横力は相対速度に垂直で仕事をせず,mr˙2/2−mω2r2/2 が一定である.二つのエネルギー収支は,異なる系での仕事を扱っている.

演習 2

オリジナル ★★★★☆

質量 M のくさびを滑らかな水平床上に置く.右下がりの滑らかな斜面は水平と角 α(0<α<π/2) をなす.質量 m の物体を静かに放し,全体は初め静止している.くさびは回転しない.

  1. くさびの系を用い,くさびの右向き加速度 A,物体の斜面下向き相対加速度 as′,垂直抗力 N を求めよ.

  2. 物体が高さ h だけ下がるまでの,くさびの変位と物体の相対速度を求めよ.

自由に動くくさび.図中の記号と条件は「m」「α」「M」「h」である. 自由に動くくさび.図中の記号と条件は「m」「α」「M」「h」である.
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考え方 くさびの加速度は未知でも,慣性力を −mA と置いて連立できる.くさびには物体から抗力の反作用が働く.

  1. くさび内では as′=gsin⁡α−Acos⁡α,N=m(gcos⁡α+Asin⁡α).くさびの地上での水平運動は MA=−Nsin⁡α なので,D=M+msin2⁡α と置くと

A=−mgsin⁡αcos⁡αD,N=mMgcos⁡αD,as′=(M+m)gsin⁡αD

である.A<0 でくさびは左へ動き,N>0 で接触を保つ.くさび上で物体が受ける慣性力は右向きとなり,相対的な滑りを速める.

  1. 相対距離は s=h/sin⁡α.一定加速度だから vs′=2as′s=2gh(M+m)/D.同じ時間にくさびは X=At2/2=(A/as′)s=−mhcos⁡α/{(M+m)sin⁡α} だけ動く.これを (M+m)X+mscos⁡α=0 に代入すれば,水平重心が動かないことも確かめられる.くさび固定の極限 M→∞ で A→0,vs′→2gh となる.

演習 3

オリジナル ★★★★☆

地球の扁平な形の程度を,中心に集中した質量 M のまわりに薄い流体表面がある模型で見積もる.流体自身が重力場を変える効果を無視し,角速度 ω で剛体回転する.極半径を R,赤道半径を R+ΔR とし,ΔR/R は十分小さい.必要なら,1≫|ε| のとき (1+ε)p≈1+pε を用いてよい.

  1. 極と赤道の有効ポテンシャルを等置し,扁平率 ε=ΔR/(R+ΔR) の先頭の近似を求めよ.

  2. g0=GM/R2=9.8ms−2,R=6.38×106m,ω=7.29×10−5rads−1 で評価せよ.この模型で実際の地球の扁平率を精密に求められない理由を述べよ.

中心質量模型の極と赤道.図中の記号と条件は「自転軸」「R」「R+ΔR」「変形を誇張した模式図」である. 中心質量模型の極と赤道.図中の記号と条件は「自転軸」「R」「R+ΔR」「変形を誇張した模式図」である.
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考え方 静止した流体の自由表面は,重力と遠心力を足した有効ポテンシャルの等しい面である.小さな変形と自転の効果の積は高次として捨てる.

  1. 単位質量当たりで,極は −GM/R,赤道は −GM/(R+ΔR)−ω2(R+ΔR)2/2 である.(1+ΔR/R)−1≈1−ΔR/R を使うと 1/(R+ΔR)≈1/R−ΔR/R2 である.両者を等しくし,自転項の ω2RΔR は高次なので捨てると,GMΔR/R2=ω2R2/2 である.よって ε≈ΔR/R=ω2R/(2g0) である.

  2. ε≈1.73×10−3,およそ 1/580.ΔR≈1.10×104m である.実際には地球内部にも質量が広がり,変形した質量分布そのものが重力ポテンシャルを変える.ここではそれを中心質点の場で置き換えたため,見積もれるのは回転による変形の尺度である.さらに物質の密度分布や固体としての性質も指定していないので,この数字を精密な地球形状の予測と解釈してはいけない.

演習 4

オリジナル ★★★★★

鉛直軸上の支点につないだ長さ ℓ の軽い剛体棒の先に,質量 m の球を付ける.球は滑らかな案内によって,軸を含み角速度 ω で回る鉛直平面内だけを動ける.鉛直下向きからの角を符号付きの θ とする.棒は押す力も伝える.(3)で必要なら,θ が小さいとき cos⁡θ≈1−θ22+θ424,sin⁡θ≈θ−θ36 を用いてよい.

  1. 回転系での有効ポテンシャルと θ の運動方程式を求めよ.

  2. 下半分 |θ|<π/2 の平衡と安定性を求めよ.

  3. 安定平衡のまわりの微小振動の角振動数を求め,ω2ℓ=g の境界では線形近似だけで何が分からないか述べよ.

回転平面内の振り子.図中の記号と条件は「ℓ」「θ」「ω」「滑らかな案内平面が鉛直軸のまわりに回る」である. 回転平面内の振り子.図中の記号と条件は「ℓ」「θ」「ω」「滑らかな案内平面が鉛直軸のまわりに回る」である.
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考え方 コリオリ力は案内平面の外を向き,案内の反力が受け持つ.角度方向の運動には重力と遠心力のポテンシャルを使える.

  1. 高さは −ℓcos⁡θ,軸からの距離は ℓ|sin⁡θ| なので

U(θ)=−mgℓcos⁡θ−12mω2ℓ2sin2⁡θ

である.相対運動のエネルギーは mℓ2θ˙2/2+U.したがって θ¨=sin⁡θ(ω2cos⁡θ−g/ℓ) となる.回転する案内があるため,拘束のない球面振り子とは運動の自由度が異なる.

  1. 平衡は θ=0 と,存在すれば cos⁡θ0=g/(ω2ℓ) を満たす二つの ±θ0 である.d2Udθ2(0)=mℓ(g−ω2ℓ) より,g>ω2ℓ なら最下点が安定,ω2ℓ>g なら不安定である.非零平衡では d2Udθ2(θ0)=mω2ℓ2sin2⁡θ0>0 なので安定である.

  2. 最下点では ν=g/ℓ−ω2.非零平衡では ν=ω|sin⁡θ0|.境界 ω2ℓ=g では二次の項が消え,d2Udθ2(0)=0 となるだけでは安定性を判定できない.このとき

U(θ)−U(0)=−mgℓ(cos⁡θ−1)−12mgℓsin2⁡θ

である.cos⁡θ−1≈−θ2/2+θ4/24,sin⁡θ≈θ−θ3/6 より sin2⁡θ≈θ2−θ4/3 を入れると,θ2 の項は打ち消し

U(θ)−U(0)=18mgℓθ4

と高次の項が残る.これが正だから,最下点は依然として局所的な安定平衡である.ただし復元力の先頭は θ¨≈−gθ3/(2ℓ) で,振動は単振動ではなく周期は振幅に依存する.

演習 5

オリジナル ★★★★★

質量 M と μM(0<μ<1) の二天体が,間隔 a を保って円運動する.ここで μ は1より十分小さいとする.重心を原点とし,二天体とともに角速度 n=GM(1+μ)/a3 で回る平面座標 (x′,y′) を使う.大天体は x1=−aμ/(1+μ),小天体は x2=a/(1+μ) にある.試験粒子の質量は両天体へ影響しないほど小さい.(2)では,1≫|ε| のとき (1+ε)p≈1+pε を用いてよい.

  1. 単位質量当たりの有効ポテンシャルを書き,二つの三角形型ラグランジュ点の位置を求めよ.

  2. 小天体に近い内側と外側の共線型ラグランジュ点について,小天体からの距離の先頭の近似を求めよ.

  3. 上側の三角形型の点のまわりの微小変位を (ξ,υ) とし,η=μ/(1+μ) と置く.線形化した運動方程式

ξ¨−2nυ˙=34n2ξ+334n2(1−2η)υ
υ¨+2nξ˙=334n2(1−2η)ξ+94n2υ

を用いてよい.(ξ,υ)∝(ξ0,υ0)eiΩt の形の解が,相異なる二つの正の Ω2 をもつための条件を求めよ.

二天体と試験粒子の配置.図中の記号と条件は「x'」「y'」「M」「μM」「O」「P」「d₁」「d₂」「a」である. 二天体と試験粒子の配置.図中の記号と条件は「x'」「y'」「M」「μM」「O」「P」「d₁」「d₂」「a」である.
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考え方 回転系で静止する点ではコリオリ力は0で,ポテンシャルの勾配が0となる.安定性では速度が生じるため,コリオリ力を戻して調べる.

  1. di=(x′−xi)2+(y′)2 として

Φ=−GMd1−GμMd2−12n2{(x′)2+(y′)2}

である.y′≠0 の停留点では GM/d13+GμM/d23=n2.これを x′ 方向の式と組み合わせると GMx1/d13+GμMx2/d23=0.x1=−μx2 より d1=d2,さらに d1=d2=a となる.したがって

x′=a(1−μ)2(1+μ),y′=±3a2

が二つの三角形型の点である.

  1. 小天体からの符号付き変位を s=x′−x2 とする.外側 s>0 では,大天体までの距離は a+s なので,大天体の重力加速度は −(GM/a2)(1+s/a)−2≈−(GM/a2)(1−2s/a) である.遠心力の項 n2(x2+s) と合わせると,s=0 の定数項は消えて (2GM/a3+n2)s が残る.1≫μ では n2≈GM/a3 だから,これは 3n2s である.小天体の引力を加えると 0≈3n2s−GμM/s2 となり,距離は d=s≈a(μ/3)1/3 である.内側では s=−d とし,(1−d/a)−2≈1+2d/a を使うと同じ d を得る.したがって内側は x′=x2−d,外側は x′=x2+d である.d/a が小さいため展開が整合し,両距離が等しいのは先頭の近似までである.

  2. c=334n2(1−2η) と置く.ξ=ξ0eiΩt,υ=υ0eiΩt を代入すると

(−Ω2−34n2)ξ0=(2niΩ+c)υ0
(2niΩ−c)ξ0=(Ω2+94n2)υ0

である.辺々の比を消すと,左辺の積は −Ω4−3n2Ω2−2716n4,右辺の積は −4n2Ω2−c2 である.移項して

Ω4−n2Ω2+2716n4−c2=0

を得る.c2=2716n4(1−2η)2 だから,定数項は 274n4η(1−η) である.u=Ω2 と置くと

u2−n2u+274n4η(1−η)=0

である.二根の和は n2>0,積は正なので,相異なる二つの正の根をもつ条件は判別式が正であること,すなわち 27η(1−η)<1 である.質量比では μ/(1+μ)2<1/27 であり,この範囲で線形摂動は有界な振動となる.等号では重根となるため安定な範囲には含めない.下側の点では交差項の符号だけが変わり,c の二乗だけが方程式に残るので条件は同じである.ポテンシャルの極小条件だけでは,速度に依存するコリオリ力を含む安定性を判定できない.

15第11章のまとめ

この章では,加速や回転をする座標系では運動方程式 ma=F がそのままでは成り立たないことを出発点に,「見かけの力」を加えて同じ形に戻す方法を学びました.ここで法則と公式を一覧にし,各題材の最初の問いに短く答えます.

定義と法則

法則 慣性系と非慣性系

  • 慣性の法則が成り立つ座標系が慣性系で,慣性系に対して等速直線運動をする系も慣性系である(ガリレイ変換).慣性系に対して加速または回転する系が非慣性系で,そこでは ma′=F は成り立たない.

  • 非慣性系の中で測る加速度を a′ と書く.見かけの力を実在の力 F に足せば,運動方程式を非慣性系の中でも使える.見かけの力は,系の運動から決まり,作用・反作用の相手を持たず,慣性系から見れば現れない.

法則 並進慣性力と有効重力

  • 慣性系の位置 r と,向きを変えずに加速度 A で動く(並進する)系の位置 r′ は r=r′+R(t).2回微分して a=a′+A.

  • 運動方程式は ma′=F−mA.慣性力 −mA は系の加速度と逆向きで,質量に比例する.

  • 重力との合力を 有効重力 mg′ とすれば g′=g−A.自由落下する系(A=g)では g′=0 で,重力の場所による違いを無視できる範囲では重力が消える(無重量状態,等価原理の入口).

法則 遠心力

  • 一定の角速度 ω で回る系で,回転軸から距離 r にある質量 m の物体には,軸から外向きに遠心力 mω2r が働く.ベクトルでは −mω×(ω×r′).

  • 遠心力のポテンシャルは −12mω2r2.回る系で静止した液体の自由表面(外圧は一定)は,重力のポテンシャルとの和が一定の面(放物面 z=z0+ω22gr2)になる.

  • 向心力は実在の力の合力につけた名前で,別の力として加えない.遠心力は見かけの力で,慣性系の図には描かず,回る系の図では実在の力と並べて描く.

法則 コリオリ力

  • 回る系で速度 v′ で動く物体には,コリオリ力 −2mω×v′ が働く.速度に垂直で仕事をせず,回る系で止まっている物体には働かない.

  • 回転を上から見て反時計回りなら,水平に動く物体は進行方向の右へ曲げられる.地球の北半球では右向き,大きさ 2mωv′sin⁡λ(λ は緯度)で,南半球では左向き,赤道では水平面内で曲げる成分が0になる(東西に動く物体には鉛直成分が残る).

  • 角速度ベクトルが一定の回転系の運動方程式:ma′=F−mA−2mω×v′+mω2r′(r′ は軸に垂直な成分).角速度が変わる系では,さらにオイラー力 −mω˙×r′ が加わる.

手順

ポイント 非慣性系で問題を解く手順

  1. どの系で考えるかを決める.慣性系で解けるなら無理に非慣性系を使わない.非慣性系では,物体が系に対して止まっている問題が最も使いやすい.

  2. 非慣性系を選んだら,系の加速度 A(並進)か角速度 ω(回転)を読み取り,向きを図に書く.

  3. 物体に働く実在の力をすべて描き,そのうえで見かけの力(慣性力 −mA,遠心力 mω2r,物体が動くならコリオリ力)を別の色で加える.

  4. 同じ力を二度数えない.向心力を,実在の力とは別の力として描き足さない.慣性系の図には遠心力を描かない.

  5. 系の中で運動方程式(またはつり合い)を立て,慣性系の式と答えが一致するかを確かめる.

  6. 見かけの力の大きさを見積もる.地球の自転では,遠心力の加速度は赤道で約 0.034ms−2 である.

主な公式

  • ma′=F−mA,g′=g−A,遠心力 mω2r,滑らない条件 ω≤μg/r

  • 角速度ベクトルが一定の回転系(原点の位置 R,加速度 A)で,v=R˙+v′+ω×r′,a=A+a′+2ω×v′+ω×(ω×r′)

  • フーコーの振り子の面の回転 ωsin⁡λ,落下物の東へのずれ 13ωgcos⁡λt3

各題材の問いへの答え

  • 慣性系と非慣性系:発車する電車のつり革が後ろへ傾くのは,電車の中の人から見れば,後ろ向きの見かけの力(慣性力 −mA)が働くからである.引いている物体は無い.地面から見れば,つり革は加速度 A で前向きに動いていて,張力と重力の合力が mA を与えている.どちらの系でも傾きの角は tan⁡θ=A/g である.

  • 並進慣性力:加速する台車の上では,物体は有効重力 g′=g−A の向きに「落ちる」.g′ の斜面に沿った成分の向きに動き出し,g′ が斜面に垂直になる加速度が境目である.加速度 A の向きに斜面が角 θ で下っているなら,A>gtan⁡θ のとき斜面を上る.問いの斜面(30∘)では gtan⁡30∘≈5.7ms−2 より A=8.0ms−2 が大きいので,上る向きに約 2.0ms−2 で動き出す.

  • 遠心力:硬貨に働く外向きの力は,円盤とともに回る人が運動方程式をそのまま使うために持ち込んだ見かけの力で,実在しない.地面から見れば,硬貨は中心向きの摩擦力で円運動していて,摩擦が足りなくなる ω>μg/r で円盤に対して滑り始め,その瞬間の速度の向き(円の接線方向)へそれていくだけである.

  • コリオリ力:低気圧に向かう風が,北半球ではコリオリ力で進行方向の右へ曲げられ続ける.そのため風は中心へまっすぐ進まず,反時計回りに旋回する.地表付近では摩擦のために,中心側へ吹き込みながら渦を巻く.南半球では左へ曲げられるので時計回りである.洗面台の渦は現象が短く,自転では向きが決まらない.

この章で使った数学

座標変換の2回微分,ベクトルの合成と分解,回転する基底ベクトルの微分,外積の向き(右ねじ),ポテンシャルと偏微分,平面運動の複素数表示がありました.