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問いから始める物理

問いから原理へ,基本からオリンピックまで

著者:柚木芹香

身近な問いから始めて物理の原理を組み立て直す参考書.微積分は必要になった所で導入し,各節の演習は基本から物理オリンピックの水準まで段階をつけて置く.独学でも,教わりながらでも読めるように,各節の終わりに「教える人へ」の囲みがある.

この章の目次 · 27節
  1. 仕事
  2. 仕事と内積・積分
  3. 仕事と運動エネルギーの演習
  4. 保存力とポテンシャルエネルギー
  5. 力とポテンシャルの関係(微分と勾配)
  6. 保存力とポテンシャルエネルギーの演習
  7. エネルギー保存の使い方
  8. エネルギー保存の例題
  9. エネルギー保存の使い方の演習
  10. ポテンシャル図
  11. ポテンシャル図と2次の近似
  12. ポテンシャル図の演習
  13. 重心運動と相対運動のエネルギー
  14. 重心運動と相対運動のエネルギーの計算
  15. 重心運動と相対運動のエネルギーの演習
  16. ニュートンダイアグラム
  17. ニュートンダイアグラムの計算
  18. ニュートンダイアグラムの演習
  19. 衝突をニュートンダイアグラムで語り直す
  20. 衝突の語り直し:例題
  21. 衝突の語り直しの演習
  22. エネルギーの諸形態
  23. エネルギーの諸形態の例題
  24. エネルギーの諸形態の演習
  25. 第6章の章末問題
  26. 第6章の発展問題
  27. 第6章のまとめ

第6章  仕事とエネルギー

01仕事

問い

重い荷物を持って,平らな道を歩きます.腕はだるくなり,汗も出てきます.ところが物理では,この間,荷物を支える力は「仕事をしていない」と言います.同じ荷物を階段で2階まで運び上げると,今度は「仕事をした」と言います.この違いはどこから来るのでしょうか.

考えてみる

日常のことばの「仕事」は,がんばった量で決まります.物理では,力が物体に対して何をしたかで決めます.まず素朴に,仕事は「力×動いた距離」だと考えてみます.力が大きく,動いた距離が長いほど,たくさん仕事をしたと感じるからです.ここで困るのは,荷物を持って水平に歩く場合です.荷物を支える力は上向きですが,荷物は水平に動いています.上向きの力は,荷物を前へ進める向きの成分をもたないので,荷物を前へ押すことも,水平方向の速さを変えることもありません.荷物が等速で運ばれるのは,支える力が重力を打ち消して合力が 0 になっているからです.

そこで,力のうち動く向きの成分だけを数えることにします.階段を上るときは,荷物の変位に高さが増える成分(鉛直上向きの成分)があるので,上向きの力はその成分の分だけ数えられます.荷物を一定の力 mg で支えて高さを Δy だけ上げるなら,数えられる量は mgΔy です.水平に歩くときは,力が動く向きに垂直で,動く向きの成分が 0 なので,何も数えません.

荷物を支える力と変位.荷物を持って水平に歩く人と,階段を上がる人を並べて描く.それぞれ,荷物を支える力(上向き)と荷物の移動の向きを矢印で示し,二つの矢印のなす角を記入する. 荷物を支える力と変位.荷物を持って水平に歩く人と,階段を上がる人を並べて描く.それぞれ,荷物を支える力(上向き)と荷物の移動の向きを矢印で示し,二つの矢印のなす角を記入する.

疲れについては,こう考えます.筋肉は,力を出し続けるだけでも体の中のエネルギーを使います.これは筋肉の側の事情で,荷物に仕事をしているかどうかとは別の話です.机は力を出し続けても何も消費しないので,疲れません.

仕事の定義

物体に一定の力 F がはたらき,その間に物体が変位 s だけ動いたとします.F と s のなす角を θ とすると,動く向きの成分は Fcos⁡θ です.

定義 仕事(一定の力)

W=Fscos⁡θ=F⋅s

単位は J(ジュール)で,J=Nm=kgm2s−2.

  • 0≤θ<90∘:W>0(力が動きを後押しする)

  • θ=90∘:W=0(力が動きに垂直)

  • 90∘<θ≤180∘:W<0(力が動きにブレーキをかける)

F⋅s は2本のベクトルの内積です.成分での計算は次の節で扱います.

力の変位方向への分解.斜め上向きの力 \(\vec{F}\) で水平面上の物体を距離 \(s\) だけ動かす.\(\vec{F}\) を動く向きの成分 \(F\cos\theta\) と,垂直な成分 \(F\sin\theta\) に分けて示す. 力の変位方向への分解.斜め上向きの力 \(\vec{F}\) で水平面上の物体を距離 \(s\) だけ動かす.\(\vec{F}\) を動く向きの成分 \(F\cos\theta\) と,垂直な成分 \(F\sin\theta\) に分けて示す.

1J は,小さなリンゴ(約 0.1kg,重力は約 1N)を 1m 持ち上げる仕事ほどです.

力が一定でなかったり,経路が曲がっていたりするときは,経路を短い区間に分け,各区間では力が一定とみなして足し合わせます.区間を限りなく細かくした極限が積分です.

定義 仕事(一般の場合)

物体が経路に沿って点 A から点 B まで動く間に,力 F がする仕事は

W=∫ABF⋅dr

である.直線上の運動で力が位置 x の関数なら,W=∫x1x2F(x)dx となり,F-x グラフの面積に等しい.

力の積分と仕事.横軸 \(x\),縦軸 \(F\) のグラフに,右上がりの曲線 \(F(x)\) を示している.\(x_1\) から \(x_2\) の間を細い短冊に分け,面積が仕事に当たることを示す. 力の積分と仕事.横軸 \(x\),縦軸 \(F\) のグラフに,右上がりの曲線 \(F(x)\) を示している.\(x_1\) から \(x_2\) の間を細い短冊に分け,面積が仕事に当たることを示す.

仕事率

単位時間あたりの仕事を仕事率といいます.

定義 仕事率

P=dWdt=F⋅v

単位は W(ワット)で,W=Js−1=kgm2s−3.

F⋅v となるのは,微小時間 dt の変位が dr=vdt だからです.たとえば 60kg の人が高さ 3m の階段を 5s で上ると,仕事は約 1.8×103J,5s 間の平均の仕事率は約 3.5×102W です.一定の速さで上るなら,各瞬間の仕事率もこの値になります.

運動エネルギーと仕事の定理

力がする仕事は,運動のどんな変化に結びつくのでしょうか.運動方程式から確かめます.質量 m の物体の運動方程式

mdvdt=F

の両辺に,速度 v との内積をとります.

mv⋅dvdt=F⋅v

左辺は,v⋅v=vx2+vy2+vz2 を成分ごとに微分すると ddt(v⋅v)=2(vxv˙x+vyv˙y+vzv˙z)=2v⋅dvdt となることから ddt(12mv2) と書き直せます.右辺は仕事率です.時刻 t1 から t2 まで積分すると,

12mv22−12mv12=∫t1t2F⋅vdt=∫ABF⋅dr=W

となります.

法則 仕事と運動エネルギーの定理

K=12mv2 を運動エネルギーという.物体にはたらく力の仕事の合計は,運動エネルギーの変化に等しい.

K2−K1=W

個々の力ではなく仕事の合計が正なら物体は速くなり,負なら遅くなります.冒頭の荷物の話も,これで整理できます.水平に歩くとき,荷物にはたらく重力と手が支える力はどちらも変位に垂直なので,どちらの仕事も 0 で,運動エネルギーは変わらず,荷物は等速で運ばれます.階段を一定の速さで運び上げるときは,支える力が正の仕事,重力がそれと同じ大きさの負の仕事をして,合計は 0 になります.

簡単な例で確かめましょう.なめらかな水平面で,静止していた質量 2kg の物体を,一定の水平な力 4N で 4m 押します.仕事は 4×4=16J.よって 12×2×v2=16 から v=4ms−1 です.運動方程式から a=2ms−2 を出し,v2=2as に入れても同じ値で,両者は同じ式の別の書き方です.

ブレーキをかけた車では,摩擦力が負の仕事をして運動エネルギーが減ります.ブレーキの力の大きさが一定なら,止まるまでの距離は失う運動エネルギーに比例します.運動エネルギーは v2 に比例するので,距離は速さの2乗に比例して延びます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 仕事は,力のうち動く向きの成分×距離.一定の力なら W=F⋅s=Fscos⁡θ,一般には W=∫F⋅dr.単位は J=kgm2s−2.

  • 仕事率は P=F⋅v.単位は W=Js−1.

  • 運動エネルギー K=12mv2 は,仕事の合計だけ変わる:K2−K1=W.運動方程式に v をかけて積分して得られる.

  • 問いの答え:水平に歩くとき,荷物を支える力は動きに垂直で仕事が 0.階段では変位に力の向きの成分(高さの増加)があるので仕事をする.疲れは筋肉の中のエネルギー消費で,荷物への仕事とは別のもの.

02仕事と内積・積分

内積と,仕事の積分の求め方を整えます.

内積と仕事の積分

定理 数学の道具:内積と仕事の積分

第3章で学んだ内積を振り返り,仕事の計算につなげる.

内積の定義 2本のベクトル a,b のなす角を θ とするとき

a⋅b=abcos⁡θ

で定める(結果は数).垂直なら 0,a⋅a=a2.

成分表示 a=(ax,ay),b=(bx,by) とする.|a−b|2 を余弦定理で書くと a2+b2−2abcos⁡θ,成分で書くと a2+b2−2(axbx+ayby) なので

a⋅b=axbx+ayby(3次元なら +azbz)

である.

仕事の積分の計算 一直線上で力が位置の関数 F(x) なら,W=∫x1x2F(x)dx を積分で計算する.経路が曲がっているときは,経路を時刻 t で表して r(t) とし,dr=drdtdt と置き換える.

W=∫t1t2F⋅drdtdt=∫t1t2(Fxdxdt+Fydydt)dt

練習 1.

  1. a=(1,2),b=(3,−1) の内積と,なす角の余弦を求めよ.

  2. 直線上で力 F=3x2N(x は m の数値)を受けて,x=0 から 2m まで動く間の仕事を求めよ.

答え:(1) a⋅b=1⋅3+2⋅(−1)=1.a=5,b=10 なので cos⁡θ=150≈0.14. (2) W=∫023x2dx=8J.

練習 2. (1) a=(2,1,−2),b=(1,2,2) のなす角を求めよ.(2) 一定の力 F=(2.0, 3.0)N を受けて,物体が Δr=(4.0, −1.0)m だけ動いた.力がした仕事を求めよ.(3) ばねの力 F=−kx(k=50Nm−1)が,x=0 から 0.10m まで動く間にする仕事を求めよ.

答え:(1) a⋅b=2+2−4=0 なので 90∘.(2) W=2.0×4.0+3.0×(−1.0)=5.0J.(3) W=∫00.10(−50x)dx=−25×0.102=−0.25J.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

傾き 30∘ の斜面の下端にある質量 5.0kg の物体を,斜面に平行な力 F で,一定の速さで 4.0m 押し上げる.動摩擦係数は 0.20,重力加速度は 9.8ms−2 とする.

斜面での力と変位.傾き \(30^\circ\) の斜面上の物体を,斜面に平行な力で押し上げる.重力・垂直抗力・摩擦力・押す力を矢印で示し,移動距離 \(4.0\,\mathrm{m}\) を記入する. 斜面での力と変位.傾き \(30^\circ\) の斜面上の物体を,斜面に平行な力で押し上げる.重力・垂直抗力・摩擦力・押す力を矢印で示し,移動距離 \(4.0\,\mathrm{m}\) を記入する.
  1. 押す力 F を求めよ.

  2. 押す力,重力,垂直抗力,摩擦力がする仕事をそれぞれ求め,合計が仕事と運動エネルギーの定理と合うことを確かめよ.

解答を見る

考え方 一定の速さなので力はつり合っている.各力の仕事は Fscos⁡θ で求める.

  1. 垂直方向のつり合いから N=mgcos⁡30∘≈42N,動摩擦力は μ′N≈8.5N(斜面を下る向き).平行方向のつり合いから F=mgsin⁡30∘+μ′N≈33N.

  2. 変位は斜面を上る向きに 4.0m.押す力は同じ向きで WF=33×4.0≈1.3×102J.重力の斜面方向の成分 24.5N は逆向きで Wg=−98J.垂直抗力は変位に垂直で WN=0.摩擦力は逆向きで Wf=−8.5×4.0≈−34J.合計は 132−98+0−34≈0J で,K2−K1=0 と合う.同じ高さまで真上に持ち上げる仕事 mgh=98J より,摩擦の分 34J だけ多い.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

ばねが物体に及ぼす力は,自然長に戻る向きで大きさ kx(x は自然長からの伸び)である.k=200Nm−1 とする.

ばねの自然長と伸び.水平な床の上で,一端を壁に固定したばねと物体.自然長の位置と伸ばした位置を並べて示す. ばねの自然長と伸び.水平な床の上で,一端を壁に固定したばねと物体.自然長の位置と伸ばした位置を並べて示す.
  1. ばねを自然長からゆっくり 0.10m 伸ばすとき,手がする仕事を求めよ.

  2. その位置で,なめらかな床の上の質量 0.50kg の物体(ばねの端につながっている)を静かに放す.自然長を通るときの速さを求めよ.

解答を見る

考え方 力が x の関数なので,仕事は ∫Fdx で求める.

  1. ゆっくり伸ばすので,手の力はばねの力 kx とつり合う.

W=∫00.10kxdx=12k(0.10)2=12×200×0.010=1.0J

一般に,伸び x までの仕事は 12kx2.

  1. 放した後は,ばねの力だけが仕事をする.x=0.10 から 0 まで動く間に

W=∫0.100(−kx)dx=12k(0.10)2=1.0J

仕事と運動エネルギーの定理より 12×0.50×v2=1.0,よって v=2.0ms−1.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

xy 平面上で,物体に位置 (x,y) で決まる力 F=c(−y, x)(c=2.0Nm−1)がはたらく.原点 O から B(1.0,1.0)(単位は m)まで動かす.次の2つの経路で仕事を求め,気づくことを述べよ.

2本の積分経路.\(xy\) 平面に,O,A\((1,0)\),B\((1,1)\) を示している.経路1(O から A を通って B へ)を実線,経路2(O から B へ直線)を破線で示す.力の矢印は描かない. 2本の積分経路.\(xy\) 平面に,O,A\((1,0)\),B\((1,1)\) を示している.経路1(O から A を通って B へ)を実線,経路2(O から B へ直線)を破線で示す.力の矢印は描かない.

経路1:O から A(1.0,0) へ x 軸に沿って動き,A から B へ y 軸に平行に動く.経路2:O から B へ直線で動く.

解答を見る

考え方 各区間で F⋅dr を作って積分する.

経路1:O→A では y=0,dr=(dx,0),F=c(0,x) なので F⋅dr=0.A→B では x=1.0,dr=(0,dy),F=c(−y,1.0) なので F⋅dr=cdy.よって W=∫01.0cdy=2.0J.

経路2:x=y=t(0≤t≤1.0)で F=c(−t,t),dr=(dt,dt).F⋅dr=c(−t+t)dt=0 なので W=0.

始点と終点が同じでも,仕事は 2.0J と 0 で異なる.次の節で,これを「保存力ではない」と呼ぶ.

ポイント ここまでのまとめ

  • 内積は a⋅b=abcos⁡θ=axbx+ayby.垂直なら 0.仕事は力と変位の内積.

  • 曲がった経路は r(t) で表し,W=∫F⋅drdtdt を t の積分として計算する.

  • ばねを伸びゼロから x まで伸ばす仕事は 12kx2.

  • 力によっては,始点と終点が同じでも仕事が経路で変わる(例題 3).

03仕事と運動エネルギーの演習

力と変位の向きを確かめてから,仕事を計算してみましょう.仕事・仕事率・運動エネルギーの違いも言葉で説明してください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

質量 2.0kg の箱を,水平から上向きに 60∘ 傾いた一定の力 10N で引き,水平に 3.0m 動かした.床は滑らかで,箱は初め静止していた.g=9.8ms−2 とする.

  1. 引く力,重力,垂直抗力の仕事をそれぞれ求めよ.

  2. 最後の速さを求めよ.

斜めの力で引く箱.水平な床上の箱と,水平から60°上向きの力F,水平変位sを示している. 斜めの力で引く箱.水平な床上の箱と,水平から60°上向きの力F,水平変位sを示している.
解答を見る

考え方 変位に平行な力の成分だけが仕事に寄与する.力の大きさをそのまま距離に掛けず,まず角度を確かめる.

  1. 引く力の仕事は WF=10×3.0cos⁡60∘=15J.重力と垂直抗力は鉛直で,水平変位との内積が0なので Wg=WN=0 である.鉛直方向では N=mg−Fsin⁡60∘≈11N>0 となり,箱が床に接触し続けるという前提も満たされる.

  2. 合力の仕事が運動エネルギーの増加なので 12mv2=15J.よって v=15≈3.9ms−1.引く力には上向き成分もあるが,上向きには変位しないので,その成分は運動エネルギーを増やさない.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

質量 8.0kg の荷物を,初めと終わりで静止させて高さ 1.5m だけ持ち上げる.空気抵抗はなく,g=10ms−2 とする.

  1. 手のした仕事と重力のした仕事を求めよ.途中で速さが変わっても答えは同じか.

  2. 所要時間が 3.0s のとき,手の平均仕事率を求めよ.時間を半分にすると,仕事と平均仕事率はどう変わるか.

解答を見る

考え方 仕事の定理は始めと終わりの運動エネルギーの差を結ぶ.平均仕事率は仕事を所要時間で割る.

  1. 重力の仕事は Wg=−mgh=−120J.始めも終わりも静止しているので ΔK=0=W手+Wg より,手の仕事は 120J である.途中で加速して運動エネルギーを増やしても,最後には減速して元に戻すため,結果は変わらない.手の力が全行程で mg に等しいと仮定する必要はない.

  2. P―=120/3.0=40W.時間を半分にしても同じ高さで静止させるなら仕事は 120J のままで,平均仕事率は 80W に倍増する.平均の値から瞬間の最大仕事率までは決められない.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

滑らかな直線レール上の質量 m の物体に,位置で変わる接線方向の合力 F(x)=F0(1−x/L) が働く.F0,L>0 とし,物体を x=0 から右向きの速さ v0>0 で出発させる.

  1. x=L および x=2L までの仕事と,それぞれの速さを求めよ.

  2. 0≤x≤2L で速さが最大になる位置を説明せよ.

位置に応じて減少する力.横軸x,縦軸Fとして,F₀から傾き一定で減る直線を2Lまで描く.Lと2Lを軸に記す. 位置に応じて減少する力.横軸x,縦軸Fとして,F₀から傾き一定で減る直線を2Lまで描く.Lと2Lを軸に記す.
解答を見る

考え方 力の符号つき面積を足す.負の仕事が始まる位置と,物体が止まる位置は同じではない.

  1. 任意の位置までの仕事は

W(x)=∫0xF0(1−ξ/L)dξ=F0(x−x22L)

である.したがって W(L)=F0L/2,W(2L)=0.仕事の定理から v(L)=v02+F0L/m,v(2L)=v0 となる.この区間では W(x)≥0 なので,初速が正の物体は途中で止まらず,両方の位置に到達する.

  1. x<L では力が右向きで運動エネルギーが増え,x>L では左向きで減る.よって最大は x=L.そこで力は0だが,速さは0ではない.グラフの前半の正の三角形と後半の負の三角形の面積が等しいことも,x=2L で初速に戻ることを示している.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m の物体が,粗い水平面上を初速 v0 で滑って止まる.動摩擦係数は一定の μ′ である.

  1. 停止距離 d と停止までの時間 t を求めよ.

  2. 摩擦力の瞬間仕事率を速さ v で表し,停止までの平均仕事率を求めよ.

  3. 初速を2倍にしたとき,停止距離,時間,平均仕事率の大きさは何倍か.

解答を見る

考え方 停止距離は仕事,時間は加速度から求める.摩擦の仕事率には負号をつけ,熱の発生率と区別する.

  1. N=mg より動摩擦力の大きさは μ′mg で一定である.0−12mv02=−μ′mgd から d=v02/(2μ′g).運動方程式では進行方向の加速度が −μ′g なので,0=v0−μ′gt より t=v0/(μ′g) となる.

  2. 瞬間仕事率は P=−μ′mgv.初めは −μ′mgv0 で,停止時には0になる.平均値は

P―=−mv02/2v0/(μ′g)=−12μ′mgv0

である.速さが時間に対して直線的に減るため,始めと終わりの仕事率の平均にも一致する.

  1. 距離は4倍,時間は2倍,平均仕事率の大きさは2倍である.エネルギーの減少は4倍でも,それにかかる時間が2倍なので平均の減少率は2倍となる.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

平面内で力 F=c(y,x) が働く.c>0 の単位は Nm−1 である.O(0,0) から B(L,L) まで,経路Aでは (L,0) を経由して軸に平行に進み,経路Bでは y=x2/L に沿って進む.

  1. 各経路でこの力がする仕事を求めよ.

  2. 質量 m の物体を初速 v0 で,各経路を形作る滑らかな固定レールへ送り込む.終点の速さを比較せよ.レールの垂直抗力は仕事をしないとする.

折れ線と曲線の経路.O,B(L,L),折れ線経路Aと放物線経路Bをxy平面に描く. 折れ線と曲線の経路.O,B(L,L),折れ線経路Aと放物線経路Bをxy平面に描く.
解答を見る

考え方 曲線上では y だけでなく dy も x で表す.レールが方向を変えても,仕事をしなければ速さの計算には寄与しない.

  1. 経路Aの水平部分では y=0,dy=0 なので仕事は0.鉛直部分では x=L より WA=∫0LcLdy=cL2.経路Bでは dy=2xdx/L だから

WB=∫0Lc(ydx+xdy)=∫0L3cx2Ldx=cL2

となる.異なる経路でも,この2本では仕事が等しい.これだけであらゆる経路について証明したことにはならないが,ydx+xdy=d(xy) と気づけば一般の経路でも始点と終点だけで決まると分かる.

  1. 12m(v2−v02)=cL2 から,どちらも v=v02+2cL2/m.曲がり角は仕事をしない理想的な案内で進行方向だけを変えるとする.移動時間は経路で異なり得るが,終点の速さは等しい.

ポイント 教える人へ

  • 力ごとに仕事の符号を答えさせてから,合計を取らせるのがよい.

  • 力が0であることと速さが0であることの違いを,演習3のグラフで確認する.

  • 平均仕事率を求めるときは,何秒間の平均かを明示させる.

  • 曲線の積分では,座標と微小変位を同時に置き換えられるかが理解の目安である.

04保存力とポテンシャルエネルギー

問い

山の頂上まで登る道が2本あります.一本は急で短く,もう一本はゆるやかで長い道です.どちらの道を登っても,重力に逆らってする仕事は同じでしょうか.また,下りの道では,重力は登りのときと逆の仕事をするのでしょうか.

考えてみる

質量 m の人が,高さ h の頂上まで登るとします.座標は鉛直上向きに y 軸をとります.重力は F=(0,−mg) で一定です.道の途中の短い変位を dr=(dx,dy) とすると,重力の仕事は

F⋅dr=−mgdy

です.水平方向の動き dx は,仕事に何も寄与しません.足し合わせると,登る道の形に関係なく

W重力=−mg∫dy=−mgh

となります.急な道でも,ゆるやかな道でも,あるいは遠回りでも,重力がする仕事は −mgh で,高さの差だけで決まります.下るときはちょうど逆の +mgh です.

ところが,ほかの力ではこうはいきません.固定された粗い面の上を物体が滑るときの動摩擦力を考えてみましょう.動摩擦力は面に対する物体の滑りと逆向きにはたらくので,長い経路を滑るほど負の仕事が積み重なります.この仕事は,経路の道のりが長いほど大きくなり,始点と終点の位置だけでは決まりません.なお,登山靴が地面に対して滑らずに歩くときの摩擦は静止摩擦力で,歩く人を前へ進める力でもあります(第4章).この力は,靴の底が地面を滑るときの動摩擦のように,道のりに比例した負の仕事を積み重ねるわけではありません.

同じ高さへ至る2本の道.山の斜面に,急で短い道Aとゆるやかで長い道Bの2本を示している.麓と頂上の高さの差 \(h\) を示し,各道の途中に重力 \(m\vec{g}\) の矢印を示している. 同じ高さへ至る2本の道.山の斜面に,急で短い道Aとゆるやかで長い道Bの2本を示している.麓と頂上の高さの差 \(h\) を示し,各道の途中に重力 \(m\vec{g}\) の矢印を示している.

保存力

定義 保存力

点 A から点 B まで動く間の仕事が,経路によらず始点と終点だけで決まる力を保存力という.同じことだが,どんな閉じた経路を一周しても仕事が 0 になる力,と言い換えてもよい.

二つの言い方が同じであることは,次のように分かります.A から B へ行く経路1と,B から A へ戻る経路2で一周するとします.道を逆向きにたどると仕事の符号が変わるので,一周の仕事は「経路1で A から B へ行く仕事」から「経路2を逆にたどって A から B へ行く仕事」を引いたものです.これが 0 であることと,二つの経路で仕事が等しいことは同じです.

重力,ばねの力,万有引力は保存力です.動摩擦力や空気抵抗は保存力ではありません.動摩擦力は面に対する物体の滑りと逆向きにはたらくので,往復しても仕事が打ち消し合わず,滑りながら一周した仕事は負です.たとえば固定された粗い床の上で物体を距離 s だけ滑らせて元の位置へ戻すと,動摩擦力は行きも帰りも負の仕事をします.動摩擦力の大きさを f として,一周の仕事は −2fs で,0 になりません.

ここで,1つ疑問がわくかもしれません.直線上の運動なら,力 F(x) を積分して符号を変えたものを U と名付け,移項すれば,いつでも「K+U が一定」の形が作れます.それなら,エネルギー保存は名前の付け替えにすぎないのでしょうか.位置だけで決まる1次元の力なら,その通りです.2点の間の道が1本しかないので,「経路によらない」ことは自動的に成り立つからです.保存力という考えの本当の中身は,2次元・3次元にあります.平面では同じ2点を結ぶ道が無数にあり,位置だけで決まる力でも,道によって仕事が変わることがあります.たとえば,原点のまわりを回す向きに働く力 F=c(−y, x)(c は定数)は,半径 r の円に沿って一周すると,どこでも進む向きに大きさ cr の力を受けるので,仕事は cr×2πr=2πcr2 で0になりません.重力,ばねの力,万有引力が,どんな道を通っても同じ仕事をするのは,自明ではない自然の性質なのです.位置エネルギーという「場所だけで決まる量」を作れるのは,この性質があるからです.

ポテンシャルエネルギー

保存力では,仕事が始点と終点だけで決まるので,位置ごとに「基準点までに保存力がする仕事」という量を決められます.

定義 ポテンシャルエネルギー

基準点 O を決めておき,位置 r でのポテンシャルエネルギーを

U(r)=∫rOF⋅dr

(保存力が r から O まで物体を動かす間にする仕事)と定める.単位は仕事と同じ J.

こう定めると,A から B まで保存力がする仕事は,A から O を経由して B へ行く仕事と同じなので

WA→B=U(A)−U(B)

となります.「基準点を変えると U の値は全体に定数だけずれますが,差は変わらない」ので,基準点は計算しやすい所に決めてよいのです.

仕事と運動エネルギーの定理 KB−KA=W に,この W を入れます.

KB−KA=U(A)−U(B)⟹KA+U(A)=KB+U(B)

法則 力学的エネルギー保存則

物体にはたらく力が保存力だけ(または他の力が仕事をしない)のとき,運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和 E=K+U(力学的エネルギー)は一定である.

力学的エネルギー保存則を使うと,時間を追わずに速さが求まります.高さ h から静かに落とした物体が地面に着くときの速さは,mgh+0=0+12mv2 から v=2gh です.第3章の等加速度運動で求めた v2=2gh と同じ結果が,時間を使わずに出ました.

具体的なポテンシャル

仕事の積分を実際に計算すると,次のようになります.

力

ポテンシャルエネルギー U

基準点

重力(一様)

mgy(y は鉛直上向きの高さ)

y=0

ばねの力

12kx2(x は自然長からの伸び)

自然長

万有引力

−GMmr

無限遠

重力は ∫(−mg)dy,ばねは ∫(−kx)dx の計算で得られます.万有引力が −GMm/r になる導出は第10章で行います.ここでは,無限遠を 0 としたとき地球から離れるほどポテンシャルが大きくなる(負の値が 0 に近づく)ことだけ覚えてください.地表付近の mgy は,g=GM/R2 として,この式を地表の近くで見たものにあたります.

代表的なポテンシャル.3つのグラフを並べる.重力 \(U=mgy\)(右上がりの直線),ばね \(U=\frac12kx^2\)(下に凸の放物線),万有引力 \(U=-GMm/r\)(負の値から \(0\) へ近づく曲線)を示している. 代表的なポテンシャル.3つのグラフを並べる.重力 \(U=mgy\)(右上がりの直線),ばね \(U=\frac12kx^2\)(下に凸の放物線),万有引力 \(U=-GMm/r\)(負の値から \(0\) へ近づく曲線)を示している.

保存力でない力は,ポテンシャルエネルギーを定義できません.動摩擦力のように負の仕事をする非保存力がはたらくと,力学的エネルギーは減ります.その扱いは「エネルギー保存の使い方」の節で学びます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 保存力は,仕事が経路によらず始点と終点で決まる力.同じことだが,一周の仕事が 0.重力・ばね・万有引力は保存力,動摩擦・空気抵抗は保存力でない.

  • 保存力には,基準点を決めてポテンシャルエネルギー U を定義できる.WA→B=U(A)−U(B).

  • 重力 mgy,ばね 12kx2,万有引力 −GMmr(導出は第10章).

  • 保存力だけがはたらけば,力学的エネルギー K+U は一定.

  • 問いの答え:重力は保存力なので,登るときに重力がする仕事は道によらず −mgh(逆らってする仕事は mgh)で等しい.下りでは逆の +mgh の仕事をする.ただし動摩擦などの仕事は道のりで変わる.

05力とポテンシャルの関係(微分と勾配)

ポテンシャルエネルギーから力を取り出す方法を学びます.

力とポテンシャルをつなぐ微分

定理 数学の道具:F=−dUdx と勾配

1次元 保存力の仕事は WA→B=∫xAxBFdx=U(xA)−U(xB) である.終点 xB を x と書いて両辺を x で微分すると,左辺は F(x),右辺は −dUdx となる.

F=−dUdx

力は,ポテンシャルのグラフの傾きの符号を変えたもので,坂を下る向きにはたらく.例:U=12kx2 なら F=−kx.

2次元:偏微分と勾配 U(x,y) のように変数が複数ある関数で,他方を定数とみて一方だけで微分したものを偏微分といい,∂U∂x,∂U∂y と書く.変位 dr=(dx,dy) に対する U の変化は

dU=∂U∂xdx+∂U∂ydy

であり,保存力では F⋅dr=−dU なので,係数を比べて

F=−(∂U∂x, ∂U∂y)(勾配 ∇U を使えば F=−∇U)

となる.

経路依存の判定 保存力なら Fx=−∂U∂x,Fy=−∂U∂y であり,偏微分の順序は入れ替えてよいので

∂Fx∂y=∂Fy∂x

が成り立つ.逆に,この式が成り立たなければ保存力ではない.(平面全体で力が定まっているとき,成り立てば保存力である.)

練習 1.

  1. U=x2y から F を求めよ.

  2. F=(y,−x) は保存力か.

答え:(1) F=−(2xy, x2). (2) ∂Fx∂y=1,∂Fy∂x=−1 で一致しないので,保存力ではない.

練習 2. (1) U=3x−4y+2(単位は SI)から F を求めよ.(2) U=12k(x2+y2) から F を求めよ.(3) F=(2xy, x2) は保存力か.保存力なら U を1つ求めよ.

答え:(1) F=(−3, 4)(一定の力).(2) F=−k(x, y)(原点向きで距離に比例).(3) ∂Fx∂y=2x,∂Fy∂x=2x で一致するので保存力.U=−x2y とすると −∂U∂x=2xy,−∂U∂y=x2 となる.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

質量 0.50kg の小球が長さ 1.0m の軽い糸でつるされている.糸が鉛直と 60∘ の角をなす位置まで小球を持ち上げ,静かに放す.重力加速度は 9.8ms−2 とする.

振り子の初期位置と最下点.長さ \(L\) の糸でつるした振り子.鉛直線から \(60^\circ\) の初めの位置の小球と,最下点の小球を示している. 振り子の初期位置と最下点.長さ \(L\) の糸でつるした振り子.鉛直線から \(60^\circ\) の初めの位置の小球と,最下点の小球を示している.
  1. 最下点での小球の速さを求めよ.

  2. 最下点での糸の張力を求めよ.

解答を見る

考え方 張力は動きに垂直で仕事をしない.仕事をするのは重力だけなので,力学的エネルギーが保存する.

  1. 最下点を高さの基準とする.初めの高さは h=L(1−cos⁡60∘)=0.50m.力学的エネルギー保存則より

mgh=12mv2 ⟹ v=2gh=2×9.8×0.50≈3.1ms−1
  1. 最下点では円の中心(上向き)が向心方向である.運動方程式 mv2L=T−mg より

T=mg+mv2L=0.50×9.8+0.50×9.81.0≈9.8N

T=2mg で,静止時の2倍である.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

なめらかな水平面の上で,ばね定数 80Nm−1 の軽いばねを自然長から 0.10m 縮め,質量 0.20kg の小球を押しつけて静かに放す.小球はばねを離れたあと,なめらかな斜面(傾き 30∘)を上る.

ばねと滑らかな斜面.壁に固定したばねで縮めた小球から,水平面を経て,傾き \(30^\circ\) の斜面に続く装置の側面図. ばねと滑らかな斜面.壁に固定したばねで縮めた小球から,水平面を経て,傾き \(30^\circ\) の斜面に続く装置の側面図.
  1. ばねを離れるときの小球の速さを求めよ.

  2. 斜面を上る最大の高さと,斜面に沿った距離を求めよ.

解答を見る

考え方 仕事をする力はばねの力と重力だけ(どちらも保存力)なので,力学的エネルギーが保存する.

  1. ばねの弾性エネルギーが運動エネルギーになる.

12kx2=12mv2 ⟹ v=xkm=0.10×800.20=2.0ms−1
  1. 最高点で速さは 0.水平面を高さの基準にして 12mv2=mgh.

h=v22g=4.02×9.8≈0.20m

斜面に沿った距離は hsin⁡30∘≈0.41m.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

xy 平面上の力 F=(2xy, x2+3y2)(x,y は m の数値,力は N の数値とする)について次を答えよ.

保存力の線積分の経路.\(xy\) 平面に原点 O と点 B\((1,1)\),経路1(O から \((1,0)\) を通って B へ)を示している. 保存力の線積分の経路.\(xy\) 平面に原点 O と点 B\((1,1)\),経路1(O から \((1,0)\) を通って B へ)を示している.
  1. この力が保存力であることを確かめ,ポテンシャルエネルギー U(原点を基準)を求めよ.

  2. O から B(1,1) までの仕事を U から求め,経路1の線積分で確かめよ.

解答を見る

考え方 偏微分の条件を調べ,成り立てば F=−∇U から U を作る.

  1. ∂Fx∂y=2x=∂Fy∂x なので保存力.∂U∂x=−2xy より U=−x2y+g(y).∂U∂y=−x2+g′(y)=−(x2+3y2) と比べて g=−y3.原点で U=0 なので U=−x2y−y3[J].

  2. W=U(O)−U(B)=0−(−1−1)=2J.経路1では,O→(1,0) は y=0 で Fx=0 なので仕事は 0.(1,0)→B は x=1 で ∫01(1+3y2)dy=2.合計 2J で一致する.

ポイント ここまでのまとめ

  • 保存力とポテンシャルは F=−dUdx(1次元),F=−∇U(2次元)で結ばれる.

  • 2次元で ∂Fx∂y=∂Fy∂x が成り立たなければ,保存力ではない.

  • 力が仕事をするかどうかは,力の名前でなく F⋅dr で決まる.固定点からの糸の張力や固定された面の垂直抗力は動きに垂直で仕事をしない.仕事をするのが保存力だけなら,K+U は一定.

  • 振り子の最下点の速さは 2gh,ばねで打ち出す速さは xk/m.

06保存力とポテンシャルエネルギーの演習

ポテンシャルの値と差を区別し,力の仕事へ結びつけてみましょう.往復の仕事や偏微分を使って,保存力の意味を確かめます.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

質量 3.0kg の荷物を,高さ yA=1.0m から yB=4.0m へ運ぶ.g=10ms−2 とする.

  1. 床を基準とするポテンシャルエネルギー UA,UB と重力の仕事を求めよ.

  2. 高さ 2.0m を基準に変えた場合を求めよ.

  3. 途中で高さ 5.0m を通ってからBへ下ろすと,重力の仕事は変わるか.

解答を見る

考え方 基準の変更は全ての位置のポテンシャルに同じ定数を加える操作である.仕事には差だけが現れる.

  1. UA=mgyA=30J,UB=120J.重力の仕事は Wg=UA−UB=−90J である.持ち上げる手の仕事と符号を取り違えない.

  2. 新しいポテンシャルは U新=mg(y−2.0m).したがって U新,A=−30J,U新,B=60J となる.差は −90J で変わらない.負のポテンシャルは基準より下にあることを表し,それ自体に矛盾はない.

  3. 上る部分の仕事は −3.0×10×4.0=−120J,下る部分は +3.0×10×1.0=30J.合計はやはり −90J.距離ではなく始点と終点の高さだけで決まる.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

軽いばねの一端を固定し,自然長からの伸びを x とする.ばね定数は k=100Nm−1 で,負の x は圧縮を表す.

  1. x=0.20m と x=−0.10m の弾性エネルギーを求めよ.

  2. 前者から後者へ移る間の,ばねの仕事を求めよ.

  3. さらに元の位置まで戻したとき,往復全体のばねの仕事はどうなるか.

圧縮と自然長と伸長.固定ばねの圧縮位置x<0,自然長位置x=0,伸長位置x>0を同じ水平軸に示す. 圧縮と自然長と伸長.固定ばねの圧縮位置x<0,自然長位置x=0,伸長位置x>0を同じ水平軸に示す.
解答を見る

考え方 ばねのエネルギーは伸びの2乗に比例し,伸ばす場合も縮める場合も増える.ばねの仕事は終点のエネルギーを始点の値から引く.

  1. 自然長を基準にして U(x)=kx2/2.したがって U(0.20)=2.0J,U(−0.10)=0.50J である.圧縮だから負になるわけではない.

  2. W=2.0−0.50=1.5J.自然長まではばねの力と変位が同じ向きで +2.0J,自然長から圧縮される部分では逆向きで −0.50J となり,足しても同じ値である.

  3. 帰りの仕事は 0.50−2.0=−1.5J なので全体では0.途中で手がどのように力を加えても,ばねそのものがする仕事は両端の伸びだけで決まる.手の仕事とばねの仕事を分けて考える必要がある.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m の物体を粗い水平な台上で,点Aから距離 L 離れた点Bへ滑らせ,別の外力で向きを変えて同じ道をAへ戻す.全行程で動摩擦係数は μ′ である.

  1. 往路,復路,往復全体の摩擦の仕事を求めよ.

  2. 摩擦に対して位置だけで決まる U(x) を定義し,常に W=U始−U終 と書けるだろうか.

  3. 折り返しを含め,始めと終わりを同じ速さにしたとき,摩擦以外の水平な外力の仕事の合計を求めよ.

往路と復路の摩擦.水平な台上にAとB,距離L,往路と復路を別の段に示し,各段で運動と逆向きの摩擦を示す. 往路と復路の摩擦.水平な台上にAとB,距離L,往路と復路を別の段に示し,各段で運動と逆向きの摩擦を示す.
解答を見る

考え方 帰りには変位だけでなく摩擦力の向きも反転する.閉じた経路の仕事を調べれば,位置だけのポテンシャルが作れるか判断できる.

  1. 各片道で力は運動と反対向きで,N=mg.往路も復路も −μ′mgL,合計は −2μ′mgL となる.変位の合計は0だが,道のりは 2L である.折り返しが瞬間的でも,そこでの摩擦の仕事は移動距離が0の極限で0である.

  2. もし U(x) があれば,一周の仕事は U(A)−U(A)=0 のはずである.実際には負なので矛盾する.したがってこの摩擦を位置だけのポテンシャルで表すことはできない.

  3. 始めと終わりで ΔK=0 より W外−2μ′mgL=0.よって W外=2μ′mgL.失われる力学的エネルギーを外から補っており,往復したから投入エネルギーも0とはならない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

1次元の力が F(x)=A−Bx で与えられる.A,B>0 とし,A は力,B は力を長さで割った次元をもつ.

  1. U(0)=0 としてポテンシャルを求めよ.

  2. 力が0になる位置 x0 を求め,U を (x−x0)2 を用いて書き直せ.

  3. x=0 から x=2x0 までの仕事を求め,前半と後半に分けて符号を説明せよ.

直線的に変わる力.Fとxのグラフに直線F=A−Bxを示している.縦軸切片Aと横軸の0,2A/Bを表示する. 直線的に変わる力.Fとxのグラフに直線F=A−Bxを示している.縦軸切片Aと横軸の0,2A/Bを表示する.
解答を見る

考え方 F=−dUdx の負号に注意して積分する.定数は基準条件で決め,平方完成で形を読み取る.

  1. U(x)=−∫0x(A−Bξ)dξ=−Ax+Bx2/2.微分して負号をつければ元の力に戻る.

  2. x0=A/B であり,平方完成すると

U(x)=B2(x−AB)2−A22B

となる.つり合い位置を基準に変えれば最後の定数項は消せるが,力の式は変わらない.右へずらすと F<0,左へずらすと F>0 で,つり合いへ戻す力が働く.

  1. U(2A/B)=U(0)=0 より全仕事は0.前半では U が A2/(2B) だけ減るため仕事は正,後半では同じ量だけ増えるため仕事は負である.合計が0でも,途中の速さが一定であるとは限らない.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

平面全体でポテンシャル U(x,y)=k2(x2+2y2)+cxy が定義される.k>0,c は定数で,どちらも単位は Nm−1 である.

  1. 力の2成分を求めよ.

  2. O(0,0) から B(L,L) への仕事を求めよ.

  3. Oから (L,0) を経由する経路の線積分で確かめよ.

ポテンシャルと積分経路.xy平面にO,(L,0),B(L,L)と,軸に平行な経路を示している. ポテンシャルと積分経路.xy平面にO,(L,0),B(L,L)と,軸に平行な経路を示している.
解答を見る

考え方 片方の座標を固定して偏微分する.仕事はポテンシャルの差から求め,区間ごとの積分と照合する.

  1. Fx=−kx−cy,Fy=−2ky−cx である.混合項 cxy は両方の成分に寄与する.例えば x で微分するとき,y は定数として残る.

  2. U(O)=0,U(B)=(3k/2+c)L2 より W=−(3k/2+c)L2.c の値によって仕事の符号は変わり得るが,保存力であることとは矛盾しない.

  3. 最初の区間は y=0 なので W1=∫0L(−kx)dx=−kL2/2.次は x=L なので

W2=∫0L(−2ky−cL)dy=−kL2−cL2

である.和は (2) に一致する.各区間で変位が0の成分の力は仕事に入らない.保存力かどうかを2経路だけで推測したのではなく,平面全体で同じ U が与えられていることが経路によらない根拠である.

ポイント 教える人へ

  • 基準を変えたときに何が変わらないかを,数値と言葉の両方で答えさせる.

  • ばねの圧縮でエネルギーが負になるという誤解には,仕事を自然長の前後に分ける方法が有効である.

  • 摩擦の復路では,変位だけでなく力の向きも変わることを図で確認する.

  • ポテンシャルを求めた後,必ず微分して力へ戻す検算を習慣にする.

07エネルギー保存の使い方

問い

ジェットコースターには,多くの場合エンジンがありません.最初にゆっくり高い所まで引き上げられたあとは,坂を下る勢いだけで走ります.コースの途中には,垂直なループがあります.ループの頂上で落ちずに回り切るためには,出発点を最低どれだけの高さにしておく必要があるでしょうか.

考えてみる

エネルギー保存則から考えてみましょう.コースがなめらかなら,出発点の高さ h の位置エネルギーが,ループの頂上(高さ 2R)での位置エネルギーと運動エネルギーになります.素朴には「頂上まで届けばよいので h=2R」と考えたくなります.この場合,頂上での速さは 0 です.

しかし,頂上で速さが 0 の物体は,その場で落ちてしまいます.頂上は円運動の一部なので,向心力が必要です.頂上でちょうど落ちないために必要な速さは,エネルギー保存だけでは決まりません.円運動の条件(運動方程式)と組み合わせる必要があります.

エネルギー保存で解く手順

エネルギー保存則を使う問題は,次の流れで解きます.「図・原理・式・検算」の枠組みに沿っています.

ポイント 手順

  1. 図:始点と終点を決める.物体にはたらく力をすべて描き,高さの基準を決める.

  2. 原理:力を3種類に分ける.保存力(位置エネルギー U で表す),仕事をしない力(動きに垂直な力.固定点からの糸の張力や固定された面の垂直抗力など),仕事をする非保存力(動摩擦力など).

  3. 式:始点と終点で E=K+U を書き,非保存力の仕事 W′ を含めて立てる.

  4. 検算:単位,符号(W′<0 なら E が減る),極端な場合を確かめる.

非保存力がはたらくとき,式は次のようになります.仕事と運動エネルギーの定理 ΔK=W保存+W′ に,W保存=−ΔU を入れて導けます.

法則 力学的エネルギーと非保存力の仕事

ΔE=Δ(K+U)=W′

W′ は,保存力以外の力がする仕事の合計.動摩擦のように W′<0 なら E は減り,減った分は内部エネルギーなどに変わる(この章の「エネルギーの諸形態」の節と第16章で扱う).

静止した面の上を物体が滑り,動摩擦力の大きさ μ′N が経路上で一定のとき,動摩擦力の仕事は,動いた道のり s を用いて W′=−μ′Ns と書けます.道のりであって変位でないのは,動摩擦力が常に面に対する滑りと逆向きだからです.曲面などで N が変わるときは,W′=−∫μ′Nds と積分で求めます.

束縛と組み合わせる:ループの最小の高さ

問いに戻ります.ループの半径を R,質量 m の台車(乗客を含む)は摩擦なしで高さ h から静かに出発し,ループの最下点を基準の高さとします.

高さhからループへ入るコース.なめらかなコースが高さ \(h\) の出発点から下り,最下点で半径 \(R\) の円形のループに入る.出発点,ループの最下点,頂上の位置を示す. 高さhからループへ入るコース.なめらかなコースが高さ \(h\) の出発点から下り,最下点で半径 \(R\) の円形のループに入る.出発点,ループの最下点,頂上の位置を示す.

ループの頂上では,重力 mg と垂直抗力 N(どちらも下向き,円の中心向き)が向心力になります.運動方程式は

mv2R=N+mg

です.N は面が物体を押す力で,負にはなれません.面から離れる限界が N=0 です.したがって落ちない条件は N≥0,つまり

v2≥gR

です.

ループ頂上での力.ループの頂上にある台車にはたらく力を示している.重力 \(m\vec{g}\) と垂直抗力 \(\vec{N}\) が下向き(円の中心向き)で,速度 \(\vec{v}\) が水平であることを示す. ループ頂上での力.ループの頂上にある台車にはたらく力を示している.重力 \(m\vec{g}\) と垂直抗力 \(\vec{N}\) が下向き(円の中心向き)で,速度 \(\vec{v}\) が水平であることを示す.

次に,出発点から頂上までに力学的エネルギー保存則を用います.コースは固定されているので,垂直抗力は動きに垂直で仕事をしません.

mgh=mg(2R)+12mv2

これに v2≥gR を入れます.

h=2R+v22g≥2R+R2=52R

最小の高さは 52R で,ループの頂上の高さ 2R の 1.25 倍です.頂上でちょうど N=0(速さは gR)の状態です.たとえば R=8.0m なら h≥20m,そのときの頂上の速さは約 8.9ms−1 です.

検算します.h は長さの次元です.半径が大きければ高い所から出発する必要があり,結果もそうなっています.質量 m が式に残らないのも,重力と慣性が同じ m に比例するからで,自然です.

エネルギー保存は,時間を知らなくても高さと速さを結べる点が強みです.反対に,始点と終点のエネルギーの式だけでは「何秒かかるか」は分かりません.時間を知るには,速度と時間を結ぶ追加の計算が要ります.たとえば1次元の保存力による運動で,向きが変わらない区間なら,エネルギー保存から得た v(x) を使って t2−t1=∫x1x2dxv(x) と求められます.一般には運動方程式に戻ります.

エネルギーと運動量の使い分け

運動量保存則とエネルギー保存則は,どちらも使えるときと,片方しか使えないときがあります.

運動量保存

エネルギー保存

成り立つ条件

外力の合計が 0(または衝突の瞬間など外力が無視できる短い時間)

保存力だけ(または非保存力の仕事を足す)

向き

ベクトル(成分ごと)

数(スカラー)

向く場面

衝突,分裂,内力が複雑な系

高さと速さの関係,道筋が複雑なとき

衝突では運動量が保存しても,運動エネルギーは保存しません(非弾性衝突).弾丸が木片に刺さって一緒に動く場合,刺さる瞬間は運動量保存で扱い,そのあと振り上がる運動はエネルギー保存で扱う,というように段階に分けて使います.

ポイント ここまでのまとめ

  • 手順は「図・原理・式・検算」.力を保存力,仕事をしない力,非保存力に分けて,ΔE=W′ を立てる.

  • 非保存力の仕事は,大きさ μ′N が一定の動摩擦力なら −μ′Ns(s は道のり).

  • ループなど面に束縛された運動では,エネルギー保存に運動方程式の条件(頂上で N≥0)を組み合わせる.

  • 運動量保存は衝突などの短い時間,エネルギー保存は高さと速さの関係に向く.組み合わせて段階に分ける.

  • 問いの答え:頂上で v2≥gR が必要なので,出発点の高さは h≥52R.頂上の高さ 2R では足りない.

08エネルギー保存の例題

エネルギー保存則は,使う場面と手順を整えておくと,式の立て方に迷いません.まず手順を整理し,3題で練習します.

ポイント 手順の整理:エネルギー保存で解く

1. 始点と終点を選ぶ. 知りたい量がある位置と,値が分かっている位置を選ぶ.途中の経路の形は問わなくてよい.

2. 力を仕分ける.

  • 保存力(重力・ばね)→ U に入れる.

  • 仕事をしない力(動きに垂直な力.固定点からの糸の張力や固定された面の垂直抗力など)→ 無視してよい.力の名前でなく F⋅dr=0 かどうかで判断する.

  • 非保存力(動摩擦・空気抵抗・手が押す力)→ 仕事 W′ を計算して足す.

3. 式を立てる. K1+U1+W′=K2+U2.W′ の符号に注意する(大きさが一定の動摩擦力は −μ′Ns,s は道のり).

4. 追加の条件を確かめる. 面から離れない(N≥0),糸がたるまない(T≥0),動き出す(外力が最大静止摩擦力より大きい)などは,運動方程式で調べる.

5. 検算する. 単位,符号,極端な場合.

例題

例題 1

オリジナル ★★★☆☆

半径 R=5.0m の垂直なループを,なめらかなコースから質量 m の台車が通る.台車は,ループの頂上でちょうど面から離れない最小の高さ h から静かに出発する.ループの最下点を高さの基準とする.重力加速度は 9.8ms−2 とする.

高さhからループへ入るコース.高さ \(h\) の出発点から下る滑らかなコースと,その先の半径 \(R\) のループ.最下点と頂上の位置を示す. 高さhからループへ入るコース.高さ \(h\) の出発点から下る滑らかなコースと,その先の半径 \(R\) のループ.最下点と頂上の位置を示す.
  1. 出発点の高さ h を求めよ.

  2. ループの最下点での,台車が受ける垂直抗力の大きさは,重力の何倍か.

解答を見る

考え方 頂上で落ちない限界は N=0.出発点と頂上で,次に出発点と最下点でエネルギー保存を使う.

  1. 頂上で N=0 のとき,運動方程式 mv2R=mg より v2=gR.出発点と頂上でエネルギー保存を立てると,mgh=mg(2R)+12mv2.よって h=2R+R2=52R=12.5m.

  2. 最下点の速さの2乗は,出発点と最下点のエネルギー保存から vb2=2gh=5gR.最下点では垂直抗力が上向き,重力が下向きで,向心方向は上向きなので

mvb2R=N−mg ⟹ N=mg+5mg=6mg

つまり重力の6倍である.乗客は最下点で体重の6倍の力で座席に押される.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

傾き 30∘ の斜面を,高さ h=1.0m の点から物体が静かに滑り降り,なめらかにつながった水平面に入る.斜面と水平面の動摩擦係数はどちらも μ′=0.20 である.物体は,水平面の上でどれだけ進んで止まるか.

粗い斜面から水平面へ.高さ \(h\) の斜面(傾き \(30^\circ\))と,それに続く水平面.斜面上の物体の初めの位置を示す.止まる位置は描かない. 粗い斜面から水平面へ.高さ \(h\) の斜面(傾き \(30^\circ\))と,それに続く水平面.斜面上の物体の初めの位置を示す.止まる位置は描かない.
解答を見る

考え方 始点(静止,高さ h)と終点(静止,高さ 0)の運動エネルギーはどちらも 0.摩擦が斜面と水平面でした仕事の合計が,位置エネルギーの減少に等しい.

物体が動くには tan⁡30∘≈0.58>μ′ が必要で,満たしている.斜面を降りる道のりは hsin⁡30∘=2.0m.斜面での摩擦力は μ′mgcos⁡30∘ で,水平面で進む距離を d とすると,水平面の摩擦力は μ′mg.ΔE=W′ から

0−mgh=−μ′mgcos⁡30∘⋅hsin⁡30∘−μ′mgd
d=hμ′−htan⁡30∘=5.0−1.7=3.3m

質量は消える.検算:斜面の水平方向の長さ h/tan⁡30∘≈1.7m と合わせた,出発点からの水平距離の合計は h/μ′=5.0m で,斜面の傾きによらない.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

水平な机の上に質量 M=2.0kg の物体があり,軽い糸が机の端のなめらかな滑車を通って,質量 m=1.0kg のおもりにつながっている.机と物体の動摩擦係数は 0.25 で,最大静止摩擦力は動摩擦力に等しいとする.静かに放し,おもりが 0.50m 下がったときの速さを求めよ.

滑車でつながる2物体.机の上の物体と,机の端の滑車,糸でつるされたおもりを示している.おもりの下がる距離 \(0.50\,\mathrm{m}\) を記入する. 滑車でつながる2物体.机の上の物体と,机の端の滑車,糸でつるされたおもりを示している.おもりの下がる距離 \(0.50\,\mathrm{m}\) を記入する.
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考え方 二つの物体を一つの系と見る.糸の張力は,物体には正,おもりには負の仕事をして,合計は 0 になる.系の運動エネルギーの変化は,重力と摩擦の仕事の合計に等しい.

動き出すことを確かめる.おもりの重力 mg=9.8N が,最大静止摩擦力 0.25×2.0×9.8=4.9N より大きいので動く.距離 s=0.50m について,ΔK=W重力+W摩擦:

12(M+m)v2=mgs−μ′Mgs
v=2(m−μ′M)gsM+m=2×0.50×9.8×0.503.0≈1.3ms−1

ここで m−μ′M=1.0−0.50=0.50kg.

ポイント ここまでのまとめ

  • 手順:始点と終点を選ぶ,力を仕分ける,K1+U1+W′=K2+U2 を立てる,追加条件を確かめる,検算する.

  • 面から離れない条件は N≥0.ループの最小の高さは 52R.

  • 大きさが一定の動摩擦力の仕事は道のりに比例.斜面と水平面で同じ μ′ なら,出発点から止まる位置までの水平距離(斜面部分の水平投影を含む)は h/μ′.

  • 糸でつながれた2物体では,張力の仕事が打ち消し合う.系全体でエネルギー保存を使える.

09エネルギー保存の使い方の演習

始めと終わりの状態を図で決め,摩擦の仕事や接触条件を必要に応じて加えてみましょう.衝突を含む問題では,過程を分けて使う法則を選びます.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

小物体を滑らかな固定コース上の高さ h から静かに放す.コースは途中で上下するが,出発点以外の高さはすべて h 未満で,物体はコースから離れないものとする.

  1. 高さ h/4 での速さを求めよ.

  2. 同じ高さを下りと上りに通過するとき,速さと速度は同じか.

  3. 質量を2倍にした場合,この速さは変わるか.

谷を通る滑らかなコース.高さhの出発点から谷を経て上る滑らかなコースと,高さh/4の水平な補助線を示している. 谷を通る滑らかなコース.高さhの出発点から谷を経て上る滑らかなコースと,高さh/4の水平な補助線を示している.
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考え方 仕事をするのは重力だけである.速度の向きはコースの形に依存するが,速さは高さとエネルギーから決まる.

  1. 高さ0を基準にすると,初めは E=mgh.高さ h/4 では mgh=12mv2+mgh/4 だから v=3gh/2 である.途中に谷や山があっても,非保存力の仕事がなければ式は変わらない.

  2. 同じ高さなら U が同じなので K も同じで,速さは等しい.速度は向きを含む量であり,接線の向きや進行方向が異なれば等しくない.エネルギーの式だけから速度ベクトルの向きを決めることはできない.

  3. 質量を2倍にすると U と同じ速さでの K が共に2倍になるので,質量は保存式から消える.よって速さは変わらない.ただし空気抵抗のある運動にまでこの結論を広げてはいけない.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m の物体を,傾き θ の長い斜面の下端から,上向きの初速 v0 で滑らせる.静止摩擦係数を μ,動摩擦係数を μ′ とし,tan⁡θ>μ≥μ′ を満たす.

  1. 上って止まるまでの斜面に沿った距離 s を求めよ.

  2. 下端へ戻るときの速さを求めよ.

  3. 往復で失う力学的エネルギーを求めよ.

摩擦のある斜面を上る.傾きθの斜面の下端に物体と上向きの初速度v₀を示す.静止摩擦係数μと動摩擦係数μ′を記す. 摩擦のある斜面を上る.傾きθの斜面の下端に物体と上向きの初速度v₀を示す.静止摩擦係数μと動摩擦係数μ′を記す.
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考え方 上りも下りも摩擦は負の仕事をする.最高点で速さが0になった後,滑り出すかどうかは静止摩擦で判定する.

  1. N=mgcos⁡θ なので

12mv02=mgssin⁡θ+μ′mgscos⁡θ

より s=v02/[2g(sin⁡θ+μ′cos⁡θ)] である.

  1. 最高点では mgsin⁡θ>μmgcos⁡θ なので静止し続けることはできない.下りで 12mv2=mgssin⁡θ−μ′mgscos⁡θ.(1) を代入すると

v=v0sin⁡θ−μ′cos⁡θsin⁡θ+μ′cos⁡θ

となる.仮定により根号の中は正である.

  1. 摩擦の仕事の大きさは 2μ′mgscos⁡θ.これは 12m(v02−v2) に一致する.μ′=0 の極限では戻りの速さが v0 になり,損失も0になる.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

粗い水平面上を質量 m の物体が速さ v0 で進み,壁に固定された軽いばねの自由端に接触する.ばね定数を k,動摩擦係数を μ′ とする.物体はばねにつながれていない.

  1. 最大圧縮量 x を求めよ.

  2. m=1.0kg,k=100Nm−1,v0=2.0ms−1,μ′=0.20,g=10ms−2 の値を求めよ.

  3. 最大圧縮で静止したままになるための,静止摩擦係数 μ の条件を求めよ.

粗い床上でばねに近づく物体.粗い水平面上の物体が,右側の壁に固定されたばねへ速さv₀で近づく配置を示している. 粗い床上でばねに近づく物体.粗い水平面上の物体が,右側の壁に固定されたばねへ速さv₀で近づく配置を示している.
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考え方 圧縮中にも摩擦の仕事を数える.エネルギー式の正の根が圧縮量であり,その後の再始動は力の条件で別に調べる.

  1. 接触した瞬間を始点とすると 12mv02=12kx2+μ′mgx.正の根は

x=(μ′mg)2+kmv02−μ′mgk

である.もう一つの根は負で,この圧縮過程の距離として採用できない.

  1. x=(404−2)/100≈0.18m.摩擦なしの v0m/k=0.20m より小さく,損失の符号とも合う.

  2. 止まったときのばねの力 kx を静止摩擦が支えられる条件は kx≤μmg.したがって μ≥kx/(mg) であり,数値では約 1.8 以上である.等号なら限界の静止が可能である.μ′ の値だけから,再び動くと断言することはできない.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

半径 R の滑らかな鉛直円形レールの内側を,質量 m の小物体が走る.最下点の速さは v0=6gR である.最下点から測る角を θ とし,頂点を θ=π とする.

  1. 接触中の速さと垂直抗力を θ で表せ.

  2. 一周を通じて接触が保たれるか確かめ,垂直抗力の最大値と最小値を求めよ.

ループの一般位置.鉛直ループの最下点と一般位置を示し,下向き半径から測る角θ,半径R,最下点の速度v₀を示す. ループの一般位置.鉛直ループの最下点と一般位置を示し,下向き半径から測る角θ,半径R,最下点の速度v₀を示す.
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考え方 高さを角度で表してエネルギーを使い,求めた速さを中心向きの運動方程式へ入れる.垂直抗力そのものは保存則から直接求まらない.

  1. 高さは R(1−cos⁡θ).よって

v2=6gR−2gR(1−cos⁡θ)=gR(4+2cos⁡θ)

である.中心向きの重力成分は −mgcos⁡θ なので N−mgcos⁡θ=mv2/R.したがって N=mg(4+3cos⁡θ).最下点で重力が中心と逆向きになることを,符号の検算に使える.

  1. −1≤cos⁡θ≤1 より,速さの2乗は常に正で,mg≤N≤7mg.頂点で最小値 mg,最下点で最大値 7mg となり,一周の全ての位置で N>0 を満たす.頂点だけでなく一般の角度で式を作ったため,途中でも離れないことが確認できた.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

滑らかな水平面上の質量 M の台車が,軽いばねで壁につながれ,ばねは自然長で静止している.質量 m の粘土が水平に速さ u で衝突し,台車に付着する.衝突時間は十分短く,その間のばねの力積を無視できる.ばね定数は k である.

  1. 衝突直後の速さを求めよ.

  2. その後の最大圧縮量を求めよ.

  3. 衝突で失われた運動エネルギーを求めよ.

台車への粘土の付着.右の壁につながる自然長のばねと台車M,左から速度uで来る粘土mを示している. 台車への粘土の付着.右の壁につながる自然長のばねと台車M,左から速度uで来る粘土mを示している.
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考え方 付着の瞬間と,その後の圧縮を分ける.衝突中は運動量,圧縮中は力学的エネルギーを使う.

  1. 水平方向の外力の力積を無視できるので mu=(M+m)V.したがって V=mu/(M+m) である.衝突の前後に運動エネルギー保存を使ってはいけない.

  2. 衝突直後にはばねの変形は無視できる.その後はばねだけが仕事をするので 12(M+m)V2=12kx2.よって x=mu/k(M+m) である.停止時に粘土と台車の相対運動はなく,両方の運動エネルギーが0になる.

  3. 初めの mu2/2 から直後の m2u2/[2(M+m)] を引いて

Q=mM2(M+m)u2

となる.これは変形や内部エネルギーなどに移った分であり,後のばねの圧縮で回収される量には含めない.初めの運動エネルギーは,この損失と最大圧縮時の弾性エネルギーの和に等しい.

ポイント 教える人へ

  • 高さと道のりを区別して記号を置かせることが出発点である.

  • 速さが0になることと,その後も静止することを区別させる.

  • 垂直抗力の符号を最下点と頂点で検算させると,向心方向の誤りを見つけやすい.

  • 衝突前のエネルギーをそのままばねに渡していないか,段階ごとの式を確認する.

10ポテンシャル図

問い

水素原子を2つ,遠くから少しずつ近づけていくと,ある距離で結びついて水素分子になります.近づけすぎても,離しすぎても,分子はそこに落ち着きません.2つの原子は,なぜ「ちょうどよい距離」で結びつくのでしょうか.力の向きがどう変わるのかを想像しながら考えてみましょう.

考えてみる

遠く離れた2つの原子は,ほとんど力を及ぼし合いません.近づくと,原子全体としては引き合う力(引力)が働きます.水素分子では,2つの原子が電子を共有することで,2つの原子核を結びつける引力が生まれます.ところがさらに近づくと,電子の雲が重なって押し合い,原子核どうしの反発も効いて,強い斥力に変わります.引力が優勢な距離と斥力が優勢な距離があるなら,両者がつり合う距離がどこかにあるはずです.

力の向きを距離の関数としてグラフに描けば,この様子は表せます.ただし,力のグラフだけでは「その距離で止まるのか」「勢いよくぶつかったら離れていくのか」という運動の全体像が見えにくいのです.そこで,力の代わりにポテンシャルエネルギーのグラフを描きます.前の節までで学んだとおり,1次元の保存力では力とポテンシャルエネルギーが F=−dUdx で結ばれているので,U(x) のグラフ1枚に力の情報はすべて入っています.力学的エネルギー保存則も併せて使えば,運動の範囲まで一目でわかります.

ポテンシャル図の読み方

物体が1次元の保存力だけを受けて動くとき,力学的エネルギー保存則は

E=K+U(x)=12mv2+U(x)=一定

です.横軸に x,縦軸にエネルギーをとって U(x) を描いたものをポテンシャル図といいます.ここに全エネルギー E の水平線を引くと,次のことが読み取れます.

ポイント ポテンシャル図の読み方

  • 運動エネルギー:E の線と U(x) の曲線の間の縦の幅が,その位置での運動エネルギー 12mv2=E−U(x) である.幅が広いほど速い.

  • 許される領域:運動エネルギーは負になれないので U(x)≤E の範囲しか動けない.

  • 転回点:U(x)=E となる位置で速さが 0 になる.U′(x)≠0 の通常の転回点では,そこで向きを変える.U=E の位置がつり合い点(U′=0)でもあるときは別で,物体はそこに静止し続けるか,近づくのに無限の時間がかかる.

  • 力:曲線の傾きの符号を逆にしたものが力の向きで,F=−dUdx である.曲線が右上がりなら力は左向き,右下がりなら右向きに働く.

ポテンシャルと運動の範囲.横軸 \(x\),縦軸エネルギーのポテンシャル図.なだらかな谷をもつ \(U(x)\) の曲線と水平な破線 \(E\) を示している.\(E\) と曲線が交わる2点に「転回点」と書き,その間を「許される領域」として太線で示す.谷の底では \(E-U\) の幅が最大で,運動エネルギーが最大であることを矢印で示す. ポテンシャルと運動の範囲.横軸 \(x\),縦軸エネルギーのポテンシャル図.なだらかな谷をもつ \(U(x)\) の曲線と水平な破線 \(E\) を示している.\(E\) と曲線が交わる2点に「転回点」と書き,その間を「許される領域」として太線で示す.谷の底では \(E-U\) の幅が最大で,運動エネルギーが最大であることを矢印で示す.

読み方は,滑らかな坂を転がる球にたとえると直感的です.ただし,横軸は物体が動く方向の位置であって,現実に坂道があるわけではありません.それでも「谷底が一番速く,坂を上るほど遅くなり,E の高さで止まって引き返す」という読み取りは,そのまま正しいものです.

つり合いと安定性

力が0の位置は,F=−dUdx=0 より,曲線の傾きが0の点です.そこにそっと置けば物体は動きませんが,少しずれたときに戻るかどうかは,その点の形で決まります.

つり合いの安定性.山と谷が1つずつある \(U(x)\) の曲線.谷の底を「安定」,山の頂を「不安定」,平らな部分を「中立」と書く.少しずれた位置に小さな矢印を示し,力の向きを示す(谷では戻る向き,山では遠ざかる向き,平らな部分では力が0). つり合いの安定性.山と谷が1つずつある \(U(x)\) の曲線.谷の底を「安定」,山の頂を「不安定」,平らな部分を「中立」と書く.少しずれた位置に小さな矢印を示し,力の向きを示す(谷では戻る向き,山では遠ざかる向き,平らな部分では力が0).
  • 谷の底(極小):少し右にずれると U の傾きは正なので力は左向き,左にずれれば力は右向きで,元の位置へ戻される.これが安定なつり合いである.

  • 山の頂(極大):少しずれると傾きの符号が反転し,力はずれを大きくする向きに働く.これが不安定なつり合いである.

  • 平らな部分:ずれても力が0のままで,その位置にとどまる.これが中立のつり合いである.

傾きが0かどうかを判定したあと,谷か山かは曲線の曲がり方,つまり U の2階微分で見分けられます.

定理 安定性の判定

dUdx=0 となる点 x0 で

  • d2Udx2>0:極小,安定

  • d2Udx2<0:極大,不安定

  • d2Udx2=0:これだけでは決まらない(グラフの形を調べる)

安定点の近くは放物線

安定な点 x0 で U″(x0)>0 のとき,その近くでは谷はほぼ同じ形をしています.U を x0 の周りで2次の項まで展開すると(展開の方法は次の節で学びます),x0 では傾きが0なので

U(x)≈U(x0)+12U″(x0)(x−x0)2

となり,放物線になります.これに対応する力は

F=−dUdx≈−U″(x0)(x−x0)

です.k=U″(x0) とおくと F=−k(x−x0) で,ばねの復元力と同じ形です.

つまり,U″(x0)>0 の滑らかな谷なら,その底を中心にした小さな振動は,ばねの振動と同じになります.これが単振動で,詳しくは第7章で学びます.U″(x0)=0 の谷(たとえば U=ax4)では復元力が −4ax3 となり,単振動になりません.原子の振動にも,振り子が小さく揺れることにも,同じ理由が共通しています.谷が急なほど U″ は大きく,復元力が強いので,振動は速くなります.

原子間のポテンシャル

最初の問いに戻りましょう.水素分子の結合の詳しい仕組みは量子力学で扱いますが,原子の間のポテンシャルエネルギーは,ふつう近距離で斥力,遠距離で引力という共通の形をもちます.ここでは,その形を表す模型として,2つの原子の距離 r に対する U(r) を描きます.

原子間のポテンシャル.原子間距離 \(r\) を横軸にとった分子間ポテンシャル \(U(r)\).\(r\) が小さい側で急に立ち上がり,ある距離 \(r_0\) で最小値 \(-\varepsilon\) をとり,\(r\) が大きくなるとゆるやかに0へ近づく.\(E<0\) の破線(転回点2つ)と \(E>0\) の破線(転回点1つ)を示し,\(r_0\) と谷の深さ \(\varepsilon\) を寸法線で示す. 原子間のポテンシャル.原子間距離 \(r\) を横軸にとった分子間ポテンシャル \(U(r)\).\(r\) が小さい側で急に立ち上がり,ある距離 \(r_0\) で最小値 \(-\varepsilon\) をとり,\(r\) が大きくなるとゆるやかに0へ近づく.\(E<0\) の破線(転回点2つ)と \(E>0\) の破線(転回点1つ)を示し,\(r_0\) と谷の深さ \(\varepsilon\) を寸法線で示す.
  • 近距離:電子雲の重なりによる強い斥力で,U が急に大きくなる.曲線は立ち上がり,原子が簡単には近づけないことを表す.

  • 遠距離:弱い引力が長く続き,U は負の値からゆっくり0に近づく.

  • 中間:U が最小になる距離 r0 では dUdr=0 で,力が0になる.ここが「ちょうどよい距離」であり,安定なつり合いの点である.

式で表すときは,引力に対応するポテンシャルエネルギーの項を −A/r6,斥力に対応する項を B/r12(A,B は正の定数)として足し合わせる形がよく使われます.力は F=−dUdr で求めるので,大きさは引力が r−7,斥力が r−13 に比例します.平衡の距離や谷の深さを式から求めるのは,次の節の例題で行います.

定義 結合エネルギー

2つの原子が距離 r0 の平衡点にあるとき,U の最小値は −ε である.これを無限に引き離す(U=0)のに必要なエネルギー ε を結合エネルギーという.

全エネルギーの値で,運動の種類が分かれます.

  • E<0(束縛):運動は U(r)≤E の2つの転回点の間に閉じ込められ,原子は r0 のまわりを往復する.これが分子である.

  • E>0(自由):遠くからきた原子は,近距離側の転回点で跳ね返され,そのまま遠ざかる.結びつかずに衝突して離れる.

ここで注意が要ります.遠くから近づく2つの原子は E≥0 なので,保存力だけでは E<0 の束縛状態にはなりません.分子ができるには,余ったエネルギーを外へ渡す過程(第三の物体との衝突や光の放出など)が必要です.渡さなければ,原子は谷を通り抜けて再び離れていきます.また,エネルギーを渡したあとも,原子は谷底に静止せず,その周りを往復します.

分子の中の原子は,静止しているのではなく,谷の底のまわりで往復しています.その往復は温度が高いほど大きくなり,これが熱運動の正体です.この章の最後の題材で,その意味を考えます.

ポイント ここまでのまとめ

  • U(x) のグラフに全エネルギー E の線を引くと,運動エネルギーは E−U,許される領域は U≤E,転回点は U=E(つり合い点と重なる場合は別扱い)として読み取れる.力は曲線の傾きの符号を逆にしたもの(F=−dUdx)である.

  • つり合いは dUdx=0 の点.d2Udx2>0 なら安定(谷),<0 なら不安定(山)である.

  • 安定点で U″(x0)>0 なら,近くは放物線で近似でき,ばねと同じ復元力になる.これが小さな振動が単振動になる理由である(第7章).

  • 問いの答えは,原子間の U(r) が近距離の斥力と遠距離の引力のために中間に谷をもち,その谷の底 r0 が安定なつり合いの距離になる,である.E<0 なら谷に閉じ込められて結合した状態になり(遠くから近づく原子がそうなるには,余ったエネルギーを外へ渡す過程が要る),E>0 なら結びつかず離れていく.

11ポテンシャル図と2次の近似

前の節では結果だけを述べた「安定点の近くの放物線」の根拠として,2次の近似を導き,例題を解きます.

数学の道具

定理 数学の道具:2次の近似(テイラー展開の入口)

関数 f(x) が x=a の近くで滑らかなとき,h=x−a が小さければ

f(a+h)≈f(a)+f′(a)h+12f″(a)h2

がなりたつ.

導出. f(a+h)=c0+c1h+c2h2+⋯ と表せるとする.h=0 を代入して c0=f(a),1回微分して h=0 とおき c1=f′(a),2回微分して h=0 とおき 2c2=f″(a) を得る.h が小さければ,3次以上の項は無視できる.

この考え方を高次の項まで続けたものをテイラー展開という.|h| が十分小さいとき,よく使う2次までの近似は

関数

近似

eh

1+h+h22

cos⁡h

1−h22

sin⁡h

h

(1+h)n

1+nh+n(n−1)2h2

である.

練習 1. 1+x を2次まで近似し,それを使って 1.1 の近似値を求めよ.

答え:1+x2−x28.x=0.1 を入れて 1.04875(真の値は 1.04881⋯)

練習 2. U(x)=U0(1−cos⁡xL)(U0,L は正の定数)を x=0 の近くで2次まで近似し,復元力の係数 k(F≈−kx)を求めよ.

答え:cos⁡xL≈1−x22L2 より U≈U02L2x2.よって k=U0L2(U″(0) と一致する)

練習 3. 11+x を2次まで近似し,11.1 の近似値を求めよ.

答え:f′=−1(1+x)2,f″=2(1+x)3 より 1−x+x2.x=0.1 で 0.91(真の値は 0.9090⋯)

練習 4. U(x)=Ax2−Bx(x>0,A,B は正の定数)の極小の位置 x0 と,その近くの復元力の係数 k=U″(x0) を求めよ.

答え:U′=−2Ax3+Bx2=0 より x0=2AB.U″=6Ax4−2Bx3 に入れて k=3B48A3−2B48A3=B48A3(正なので安定)

例題

例題 1

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の粒子が,ポテンシャルエネルギー U(x)=ax4−bx2(a,b は正の定数)の力を受けて x 軸上を動く.

  1. つり合いの位置を求め,それぞれ安定か不安定かを答えよ.

  2. 原点を速さ v0 で通過する粒子の動く範囲を求めよ.

  3. 右側の谷の底付近での小さな運動について,復元力を F≈−k(x−x1) と書くとき,k を求めよ.ただし x1 は谷の底の位置とする.

四次ポテンシャルU=ax⁴−bx²とエネルギー線を示す.谷底と転回点には未知の位置を表す記号だけを付ける. 四次ポテンシャルU=ax⁴−bx²とエネルギー線を示す.谷底と転回点には未知の位置を表す記号だけを付ける.
解答を見る

考え方 (1) は U′=0 を解き,U″ の符号を見る.(2) は E を原点での運動エネルギーから決め,U=E を解く.(3) は k=U″(x1) である.

  1. dUdx=4ax3−2bx=2x(2ax2−b) である.これが0になるのは

x=0,x=±x1,x1=b2a

の3点.d2Udx2=12ax2−2b なので

  • x=0:U″=−2b<0 より不安定(山の頂).

  • x=±x1:U″=12a⋅b2a−2b=4b>0 より安定(谷の底).そこでの U の値は −b24a である.

  1. 原点で U(0)=0 なので,全エネルギーは E=12mv02>0 である.転回点は ax4−bx2=E の解で,x2 について2次方程式を解くと(正の解を採って)

xt2=b+b2+4aE2a=b+b2+2amv022a

である.E>0 なので山の頂を越えられ,粒子は −xt≤x≤xt を往復する.

  1. k=U″(x1)=4b である.

なお,−b24a<E<0 なら U≤E の領域は左右の谷に分かれ,粒子は片方の谷に閉じ込められる.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

2つの原子の間のポテンシャルエネルギーが,距離 r の関数として

U(r)=−Ar6+Br12(A,B は正の定数)

で表されるとする.

  1. 平衡の距離 r0 と結合エネルギー ε を,A,B で表せ.

  2. 平衡点付近の復元力の係数 k=U″(r0) を,ε と r0 で表せ.

  3. アルゴン原子の間では ε=1.7×10−21J,r0=0.38nm 程度である.k の値を求めよ.

原子間ポテンシャルの谷底.\(U(r)=-A/r^6+B/r^{12}\) のグラフ.\(r=r_0\) で最小値 \(-\varepsilon\) をとる.平衡点付近の放物線による近似を破線で重ねて描く. 原子間ポテンシャルの谷底.\(U(r)=-A/r^6+B/r^{12}\) のグラフ.\(r=r_0\) で最小値 \(-\varepsilon\) をとる.平衡点付近の放物線による近似を破線で重ねて描く.
解答を見る

考え方 (1) は dUdr=0 を解く.(2) は2階微分に (1) の関係を代入し,A,B を ε,r0 に置き換える.

  1. dUdr=6Ar7−12Br13=0 より r06=2BA,すなわち r0=(2BA)1/6 である.このとき

U(r0)=−Ar06+Br012=−A22B+A24B=−A24B

なので,結合エネルギーは ε=A24B である.

  1. d2Udr2=−42Ar8+156Br14 である.(1) より B=Ar062 なので

U″(r0)=−42Ar08+78Ar08=36Ar08

また ε=A2r06 より A=2εr06 であるから

k=36⋅2εr06r08=72εr02

である.k>0 で,安定な点である.

  1. k=72×1.7×10−21(0.38×10−9)2≈0.85Nm−1 である.この値を使う単振動の周期は,第7章で求める.

ポイント ここまでのまとめ

  • 関数は小さな h=x−a について f(a+h)≈f(a)+f′(a)h+12f″(a)h2 と近似できる.安定点(U″(x0)>0)では U′=0 なので U≈U(x0)+12U″(x0)(x−x0)2,復元力の係数は k=U″(x0) である.

  • ポテンシャル図は,つり合い(U′=0),安定性(U″ の符号),転回点(U=E)の順に読む.

  • 原子間ポテンシャル −A/r6+B/r12 では,平衡の距離は r06=2B/A,結合エネルギーは A2/(4B),復元力の係数は 72ε/r02 となる.

12ポテンシャル図の演習

グラフの傾き,谷の深さ,エネルギー線との交点を順に読んでみましょう.図に現れる領域のうち,粒子が実際に行き来できる範囲を説明してください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

粒子のポテンシャルが U(x)=12k(x−a)2 である.k=2.0Nm−1,a=1.0m,粒子の質量は m=1.0kg,全エネルギーは E=4.0J とする.

  1. 動ける範囲と転回点を求めよ.

  2. 速さが最大になる位置とその速さを求めよ.

  3. x=0 における力の向きを求めよ.

放物線とエネルギー線.放物線U=k(x−a)²/2と水平線Eを示している.交点をP,Q,谷底をCとするが,座標や答えは記していない. 放物線とエネルギー線.放物線U=k(x−a)²/2と水平線Eを示している.交点をP,Q,谷底をCとするが,座標や答えは記していない.
解答を見る

考え方 K=E−U が負にならない範囲を探す.力はエネルギー線との縦の差ではなく,曲線の傾きから読む.

  1. 12k(x−a)2≤E より |x−a|≤2E/k=2.0m.したがって −1.0m≤x≤3.0m である.両端では K=0 となり,力は領域の内側を向くので転回する.

  2. U が最小の x=a で運動エネルギーは最大の 4.0J.vmax=2E/m=8≈2.8ms−1 である.つり合い位置を通過する粒子が静止しているとは限らない.

  3. F=−k(x−a) なので x=0 では F=+2.0N,右向きである.粒子が左へ進んでいる場合は減速し,右へ進んでいる場合は加速する.力の向きだけで進行方向までは決まらない.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

x=0 付近で定義された3つのポテンシャル U1=ax4,U2=−ax4,U3=bx3 を考える.a,b>0 である.

  1. 各場合の力を求め,原点がつり合いの位置であることを示せ.

  2. 原点のつり合いの安定性を,少し左右にずらしたときの力から判断せよ.

  3. U″(0)=0 だから中立である,という判断は正しいか.

原点付近の3つのポテンシャル.原点付近のax⁴,−ax⁴,bx³を3つの小グラフに描く.原点に点を打ち,安定性の答えは書いていない. 原点付近の3つのポテンシャル.原点付近のax⁴,−ax⁴,bx³を3つの小グラフに描く.原点に点を打ち,安定性の答えは書いていない.
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考え方 2階微分が0のときは,それだけでは判定できない.元の関数の形や復元力の向きを調べる.

  1. F1=−4ax3,F2=4ax3,F3=−3bx2 で,いずれも原点では0である.

  2. U1 では右へずれると左向き,左へずれると右向きの力が働くので安定である.U2 では左右ともずれを広げる力が働き,不安定である.U3 では原点以外で常に左向きの力が働く.左へわずかにずらして静かに置くと原点から遠ざかるので,不安定である.右側で原点へ向かうことだけを見て安定と呼んではいけない.

  3. どの場合も U″(0)=0 であるのに,安定性は同じではない.中立とは近くへずらして静止させても力が0でそのままとどまれる場合であり,近くでポテンシャルが平らである必要がある.原点で接線が水平というだけでは足りない.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

ある滑らかなポテンシャルには,左の谷底A,中央の山頂B,右の谷底Cがあり,その値は順に −4J,2J,−1J である.左右の遠方では U は増大し,ほかにつり合い点はない.

  1. E=0J のとき,左の谷から右の谷へ移れるか.転回点は全体で何個あるか.

  2. E=3J のときはどうか.

  3. 質量 2.0kg の粒子が E=3J で動くとき,AとCでの速さを比較せよ.

左右で深さの異なる谷.左右で深さの異なる二重井戸に,谷底A=−4 J,山頂B=2 J,谷底C=−1 Jを記し,E=0とE=3 Jの線を示している.交点は小さな点だけで示す. 左右で深さの異なる谷.左右で深さの異なる二重井戸に,谷底A=−4 J,山頂B=2 J,谷底C=−1 Jを記し,E=0とE=3 Jの線を示している.交点は小さな点だけで示す.
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考え方 水平なエネルギー線と曲線の交点を数え,U≤E の領域がつながっているかを見る.存在する全ての領域を,一つの粒子が移動できるとは限らない.

  1. 中央の山頂では U=2J>E なので通過できない.左右の谷にはそれぞれ2個ずつ,合計4個の転回点がある.左にいる粒子が往復するのは左側の2点の間だけである.

  2. 山頂でも K=3−2=1J>0 なので,左右の谷を行き来できる.転回点は両外側の2個となる.中央の山頂はつり合い点だが,このエネルギーでは停止点ではない.

  3. Aでは KA=7J,Cでは KC=4J.したがって vA=7≈2.6ms−1,vC=2.0ms−1 で,深い谷のAの方が速い.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

粒子が x>0 の範囲で U(x)=A/x2−B/x のポテンシャルを受ける.A,B>0 で,無限遠で U=0 とする.

  1. つり合い位置 x0 と最小値 Umin を求めよ.

  2. E=−B2/(8A) のときの転回点を求めよ.

  3. 谷底に静止した粒子を無限遠まで運ぶのに必要な最小仕事を求めよ.

逆数のポテンシャルと転回点.U=A/x²−B/xの曲線,谷底C,負のEの水平線と交点P,Qを示す.求める座標は書いていない. 逆数のポテンシャルと転回点.U=A/x²−B/xの曲線,谷底C,負のEの水平線と交点P,Qを示す.求める座標は書いていない.
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考え方 まず微分で谷底を求める.転回点の方程式には x2 を掛けて,2次方程式へ直す.

  1. U′=−2A/x3+B/x2=0 より x0=2A/B.代入して Umin=−B2/(4A).また U″(x0)=2A/x04>0 で安定である.

  2. A−Bx=Ex2 に指定の値を代入すると B2x2−8ABx+8A2=0.よって

x−=(4−22)AB,x+=(4+22)AB

となる.両者は正で,x−<x0<x+.粒子はこの間に束縛される.転回点では力が0ではないため,停止した後は内側へ引き返す.

  1. 無限遠で速さも0になる極限が必要仕事の下限である.Wmin=0−Umin=B2/(4A).無限遠に有限の速さを残すなら,その運動エネルギーの分だけ余分な仕事が必要である.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

ポテンシャル U(x)=U0[1−cos⁡(x/L)] の中で,質量 m の粒子を x=0 から右へ速さ v0 で送り出す.U0,L>0 である.

  1. 原点付近の復元力の係数を求めよ.

  2. 12mv02=U0 のとき,原点を含む運動範囲と最大速さを求めよ.

  3. 右隣の山頂 x=πL を速さ0でなく通過するための初速の条件を求めよ.

周期的なポテンシャルの形.U₀[1−cos(x/L)]を−πLから3πLまで示し,E=U₀の線を重ねる.極値と交点に点を打つが,転回点の座標は記していない. 周期的なポテンシャルの形.U₀[1−cos(x/L)]を−πLから3πLまで示し,E=U₀の線を重ねる.極値と交点に点を打つが,転回点の座標は記していない.
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考え方 近似を使う場面と,元の関数を使う場面を区別する.山頂までの大きな移動を,原点近くの放物線で計算してはいけない.

  1. 力は F=−(U0/L)sin⁡(x/L).原点近くでは sin⁡(x/L)≈x/L なので F≈−(U0/L2)x であり,復元力の係数は k=U0/L2.

  2. U=U0 は cos⁡(x/L)=0 を与え,最初の左右の転回点は x=±πL/2.したがってこの区間を往復する.U が最小の原点で速さが最大となり,vmax=2U0/m=v0.別の谷にも許される領域はあるが,山を越えてそこへ移ることはできない.

  3. 山頂の高さは 2U0 なので,通過には 12mv02>2U0,すなわち v0>2U0/m が必要である.等号では山頂で運動エネルギーが0になり,非零の速さで通過する条件を満たさない.

ポイント 教える人へ

  • 図の縦軸は実際の高さではなくエネルギーであると確認する.

  • 速さは縦の差,力は傾きから読むことを対比させる.

  • つり合い点と転回点を混同していないか,そこでの力と速さを別々に尋ねる.

  • 2階微分が0のときは結論を急がず,元の曲線の形へ戻らせる.

13重心運動と相対運動のエネルギー

この節では,第5章の重心 rCM を R,その速度を V と書きます.

問い

質量が同じ2台の車が,どちらも速さ v で正面衝突し,ぐしゃりと潰れて一体になりました.別の場面では,止まっている同じ車に,同じ質量の車が速さ 2v でぶつかり,やはり一体になりました.どちらの場面でも,近づく速さ(相対速度)は 2v で同じです.潰れたり熱になったりして失われるエネルギーは,同じでしょうか.それとも,速い車がぶつかる後者のほうが大きいでしょうか.

考えてみる

質量を m,衝突の向きを正とします.運動量保存則から,一体になった車の速度は,前者では mv−mv2m=0,後者では m⋅2v2m=v です.前者は止まり,後者は v で進み続けます.

運動エネルギーで数えると,前者は衝突前に 2×12mv2=mv2,衝突後に0です.後者は衝突前が 12m(2v)2=2mv2,衝突後が 12(2m)v2=mv2 です.引き算すると,どちらも mv2 が失われています.偶然でしょうか.

速度は見る座標系で変わり,運動エネルギーも座標系で変わります.後者は,前者を速さ v で動く人から見た場面にほかなりません.それでも失われた量が同じなのは,座標系によらない何かが衝突を決めているからです.それが何かを,第5章の分解から探します.

重心の運動エネルギーと相対運動のエネルギー

第5章で見たように,外力が無い2体の運動は,重心の運動 MR¨=F外 と,相対位置 r=r1−r2 の運動 μr¨=F に分かれました.全質量 M=m1+m2,換算質量 μ=m1m2m1+m2 です.位置を重心とのずれで書くと,速度も v1=V+m2Mvrel,v2=V−m1Mvrel に分かれます.vrel=v1−v2 は相対速度です.これを運動エネルギーに入れると,運動エネルギーも分かれます.

法則 運動エネルギーの分解(2体)

K=12m1v12+12m2v22=12MV2+12μvrel2

第1項は重心の運動エネルギー,第2項は相対運動のエネルギーである.

同じ重心速度Vに,重心系で反対向きの速度を足す.例としてm₁=2m₂を描く. 同じ重心速度Vに,重心系で反対向きの速度を足す.例としてm₁=2m₂を描く.

第1項は V だけ,第2項は vrel だけで決まります.外力が無ければ,第5章のとおり V は変わりません.衝突や分裂で出入りできる運動エネルギーは,相対運動のエネルギーだけです.

相対運動のエネルギー保存

相対運動の方程式 μr¨=F は,質量 μ の1つの物体の運動方程式と同じ形です.この章の「仕事と運動エネルギー」でしたように,両辺に vrel=r˙ を掛けて時間で積分すると,仕事と運動エネルギーの定理が出ます.

Δ(12μvrel2)=∫F⋅dr

力 F が保存力で,ポテンシャルエネルギー U(r) を持つなら,

12μvrel2+U(r)=一定

です.質量を μ に,速さを相対速度に読み替えるだけで,これまでのエネルギー保存則とポテンシャル図が,2つの物体の相対運動にそのまま使えます.外力が無ければ 12MV2 も一定なので,全体の運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和も保存します.

衝突で失われるエネルギー

衝突の前後で 12MV2 は変わらないので,失われるのは相対運動のエネルギーだけです.第5章の反発係数 e は,正面衝突で相対速度の大きさが e 倍になることを表すので,失われるエネルギーは次のようになります.

法則 衝突で失われるエネルギー

ΔK=12μvrel2−12μ(evrel)2=12μ(1−e2)vrel2

弾性衝突(e=1)では0,完全非弾性衝突(e=0)では 12μvrel2 が全部失われる.

これが問いの答えです.どちらの場面も μ=m2,vrel=2v,e=0 なので,失われるのは 12⋅m2⋅(2v)2=mv2 で,同じです.後者は,衝突前の運動エネルギー 2mv2 のうち mv2 が車の前進(重心の運動)に残っただけです.

ポイント ここまでのまとめ

  • 外力が無い2体の運動エネルギーは K=12MV2+12μvrel2 と,重心の分と相対運動の分に分かれる.

  • 相互作用が保存力 U(r) なら,12μvrel2+U(r) が一定.ポテンシャル図は相対運動に使える.

  • 衝突や分裂で出入りできるのは相対運動の分だけで,衝突で失われるのは 12μ(1−e2)vrel2.

  • 問いの答え:どちらの衝突でも失われるエネルギーは mv2 で同じである.

14重心運動と相対運動のエネルギーの計算

前の節の分解を確かめ,換算質量の性質を見たあと,例題に進みます.

定理 数学の道具:分解の証明と換算質量

分解の証明. v1=V+m2Mvrel,v2=V−m1Mvrel を2乗して質量をかけると,

12m1v12+12m2v22=12MV2+V⋅vrel(m1m2M−m2m1M)+12m1m2M2(m2+m1)vrel2

V と vrel の交差項は係数が打ち消し合って消え,最後の項が 12μvrel2 になる.

換算質量の性質. 1μ=1m1+1m2 なので 1μ>1m1,つまり μ<m1,同じく μ<m2.2つの質量が等しければ μ=m2.片方が非常に重いと μ は軽いほうの質量に近づく.

練習 1. (1) m1=3.0kg,m2=6.0kg の μ を求めよ.(2) m1=3.0kg が +4.0ms−1,m2=6.0kg が +1.0ms−1 で動くとき,12MV2 と 12μvrel2 を求め,和が K に一致することを確かめよ.

答え:(1) μ=3.0×6.09.0=2.0kg.(2) V=12+6.09.0=2.0ms−1 で 12MV2=18J,vrel=3.0ms−1 で 12μvrel2=9.0J.和は 27J.K=12⋅3.0⋅16+12⋅6.0⋅1.0=24+3.0=27J で一致する.

練習 2. 質量 2.0kg の2物体が,+5.0ms−1 と −5.0ms−1 で向かい合って進む.V,μ,12μvrel2 を求め,K と比べよ.

答え:V=0,μ=1.0kg,vrel=10ms−1 で 12μvrel2=50J.K=2×12×2.0×5.02=50J で,重心が止まっているので全部が相対運動のエネルギーである.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

静止している質量 5.0kg の物体が,内部の爆発で 2.0kg と 3.0kg の2つに割れた.爆発のエネルギー 60J は,すべて運動エネルギーになった.2つの破片の速さと運動エネルギーを求めよ.

上段は静止した5.0 kgの物体.下段は2.0 kgと3.0 kgの破片と静止する重心G.矢印の長さは未知の速さを表すものではない. 上段は静止した5.0 kgの物体.下段は2.0 kgと3.0 kgの破片と静止する重心G.矢印の長さは未知の速さを表すものではない.
解答を見る

考え方 静止していたので V=0.増えた運動エネルギーは相対運動のエネルギーである.

μ=2.0×3.05.0=1.2kg.12×1.2vrel2=60 より vrel=10ms−1.V=0 なので

v1=m2Mvrel=6.0ms−1,v2=m1Mvrel=4.0ms−1

運動エネルギーは 12⋅2.0⋅6.02=36J と 12⋅3.0⋅4.02=24J(和は 60J).運動量 2.0×6.0=3.0×4.0 も合う.配分は質量の逆比 3:2 で,軽いほうが多くもらう.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 800kg の軽自動車と質量 2000kg の乗用車が,どちらも速さ 15ms−1 で正面衝突し,一体になった.失われた運動エネルギーと,それぞれの車の速度の変化の大きさを求めよ.

800 kgと2000 kgの車が同じ速さ15 m s⁻¹で近づく.合体後の方向と速さは図に示さない. 800 kgと2000 kgの車が同じ速さ15 m s⁻¹で近づく.合体後の方向と速さは図に示さない.
解答を見る

考え方 乗用車の向きを正とする.失われるのは相対運動のエネルギーである.

M=2800kg,V=2000×15−800×152800≈6.4ms−1.μ=800×20002800≈571kg,vrel=30ms−1 で,

ΔK=12μvrel2=12×571×302≈2.6×105J

速度の変化は,軽自動車が 6.4−(−15)≈21ms−1,乗用車が 15−6.4≈8.6ms−1 で,比は質量の逆比 5:2.確認すると,衝突前の 12⋅800⋅152+12⋅2000⋅152=3.15×105J,衝突後の 12⋅2800⋅6.42≈5.8×104J,差は 2.6×105J である.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

滑らかな水平面上で,質量 1.0kg の台車 A(左)と 3.0kg の台車 B(右)が,ばね定数 3.0×102Nm−1 の軽いばね(自然長)でつながれている.B は静止し,A が右向きに 4.0ms−1 で動き出した.

初めの自然長のばねと台車A,Bを示す.下段は最大圧縮時の配置だけを示し,求める速度と縮みは空欄にする. 初めの自然長のばねと台車A,Bを示す.下段は最大圧縮時の配置だけを示し,求める速度と縮みは空欄にする.
  1. 重心の運動エネルギーと,相対運動のエネルギーを求めよ.

  2. ばねの最大の縮みを求めよ.

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考え方 水平方向の外力は無いので,重心の運動エネルギーは変わらない.相対運動のエネルギーとばねのエネルギーの和が一定である.

  1. M=4.0kg,V=1.0×4.04.0=1.0ms−1 から 12MV2=2.0J.μ=1.0×3.04.0=0.75kg,vrel=4.0ms−1 から 12μvrel2=6.0J.和 8.0J は,初めの 12⋅1.0⋅4.02 に一致する.

  2. 最も縮んだ瞬間は vrel=0 で,相対運動のエネルギーがすべてばねに入る.12kx2=6.0 より

x=2×6.03.0×102=0.20m

このとき2台車はどちらも V=1.0ms−1 で動いている.

ポイント ここまでのまとめ

  • 分解の交差項は,V と vrel の係数が打ち消し合って消える.

  • 換算質量は軽いほうの質量より小さく,質量が等しければ半分である.

  • 重心の運動エネルギーは外力が無ければ一定で,ばねや爆発や衝突で入れ替わるのは相対運動のエネルギーである.各物体の速度変化の大きさは質量の逆比になる.2体の重心系での運動エネルギーの配分も質量の逆比になるが,実験室系では一般にそうならない.

15重心運動と相対運動のエネルギーの演習

重心のエネルギーと,相対運動に使えるエネルギーを分けて考えましょう.観測する人を変えた場合や,内力でエネルギーが移る場合にも,同じ分解が役立ちます.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

滑らかな水平面で,質量 2.0kg のAが速度 (3.0,0)ms−1,質量 1.0kg のBが速度 (0,6.0)ms−1 で動いている.

  1. 重心速度と相対速度を求めよ.

  2. 運動エネルギーを重心運動の分と相対運動の分に分け,直接計算した和と比べよ.

Aの質量は2.0 kg,Bは1.0 kg.速度はそれぞれ右へ3.0,上へ6.0 m s⁻¹である. Aの質量は2.0 kg,Bは1.0 kg.速度はそれぞれ右へ3.0,上へ6.0 m s⁻¹である.
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考え方 速度の大きさを平均せず,成分ごとに質量を重みとして平均する.相対速さは2つの速さの差ではない.

  1. M=3.0kg なので V=(2.0,2.0)ms−1.vrel=(3.0,−6.0)ms−1 で,速さの2乗はそれぞれ 8.0,45 である.

  2. μ=2.0/3.0kg より KCM=12⋅3.0⋅8.0=12J,Krel=12⋅23⋅45=15J.和は 27J である.直接には 12⋅2.0⋅3.02+12⋅1.0⋅6.02=9.0+18=27J となり一致する.質量と速さの2乗の積なので,どちらもエネルギーの次元をもつ.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

外力を無視できる直線上の衝突を,地面から観測する.左のAは質量 3m,速度 +2u,右のBは質量 m,速度 −2u で,衝突後は一体になる.m,u>0 とする.

  1. 衝突前後の全運動エネルギーと損失を求めよ.

  2. 右向きに一定速度 u で進む観測者が測る前後のエネルギーと損失を求め,(1)と比較せよ.

3mとmが速さ2uずつで近づく.観測者は地面に対して右へ一定速度uで進む. 3mとmが速さ2uずつで近づく.観測者は地面に対して右へ一定速度uで進む.
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考え方 同じ速度を両物体から引いても相対速度は変わらない.外力がないので,どの等速の観測者にも重心速度は衝突前後で一定である.

  1. V={3m(2u)+m(−2u)}/(4m)=u.初めは K前=8mu2,一体となった後は K後=12(4m)u2=2mu2 で,損失は 6mu2.これは μ=3m/4,vrel=4u として求めた 12μvrel2 と等しい.

  2. 観測者から見た速度はAが +u,Bが −3u.初めのエネルギーは 12(3m)u2+12m(3u)2=6mu2.合体後は静止するので0である.損失はやはり 6mu2 で,地面でのエネルギーとの差 2mu2 は重心運動の分に当たる.全運動エネルギー自体の値は変わっても,この衝突での減少量は変わらない.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

直線上で近づく質量 2.0kg と 6.0kg の2物体が正面衝突した.接近する相対速さは 4.0ms−1,全運動量は0ではなく,測定した全運動エネルギーの減少は 9.0J であった.外力の力積を無視する.

  1. 反発係数 e と衝突後の相対速さを求めよ.

  2. この測定だけで各物体の衝突後の速度を決められるか.

2.0 kgと6.0 kgの2物体の相対接近速さは4.0 m s⁻¹,測定されたエネルギー減少は9.0 Jである. 2.0 kgと6.0 kgの2物体の相対接近速さは4.0 m s⁻¹,測定されたエネルギー減少は9.0 Jである.
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考え方 重心の速さが不明でも,損失は相対運動のエネルギーだけから決まる.ただし,実験室系の個々の速度には重心速度が要る.

  1. μ=(2.0×6.0)/8.0=1.5kg.初めの相対運動のエネルギーは 12⋅1.5⋅4.02=12J なので 9.0=12(1−e2).よって e=0.50,離れる相対速さは 2.0ms−1 である.残る相対運動のエネルギーは 3.0J で,初めの4分の1となる.

  2. 決められない.質量 2.0kg の物体が左にあり,初めの相対速度を正に取ると,衝突後の速度は V−1.5ms−1,V+0.50ms−1 である.未知の V が残る.損失が相対運動のエネルギー 12J を超える測定なら,このモデルとは両立しないことも分かる.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

外力のない一直線上で,質量 m と 3m の2粒子が十分遠くから,相対速さ u で近づく.重心速度は V である.相互作用のポテンシャルを,距離 r>0 に対して U(r)=C/r2(C>0,無限遠で0)とする.

  1. 最接近距離を求めよ.

  2. 最接近の瞬間の各速度と全運動エネルギーを求めよ.

  3. u を保って V だけを2倍にすると,最接近距離は変わるか.

距離rだけ離れたmと3mの間に斥力が働く.U=C/r²の曲線だけを示し,最接近距離は示さない. 距離rだけ離れたmと3mの間に斥力が働く.U=C/r²の曲線だけを示し,最接近距離は示さない.
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考え方 距離が最小になる瞬間は,相対速度が0になる.実験室系で両粒子が止まるわけではない.

  1. μ=3m/4 なので相対運動の全エネルギーは Erel=3mu2/8.最接近距離を rmin として C/rmin2=3mu2/8 より

rmin=8C3mu2

である.C の次元はエネルギーと長さの2乗の積なので,右辺は長さになる.

  1. 相対速度が0で重心速度が V だから,両粒子とも速度 V.全運動エネルギーは 12(4m)V2=2mV2 で,初めの相対運動の分だけが U に移る.

  2. 変わらない.重心運動のエネルギーは4倍になるが,相対運動の保存式に V は現れない.一方,u を2倍にすれば rmin は半分となり,より深く斥力の領域へ入れる.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

外力のない空間を,質量 4m の物体が右向きに速さ U>0 で進んでいる.内部のエネルギー Q>0 を運動エネルギーに変えて,質量 m のAと 3m のBに分かれた.重心系でAが左,Bが右へ飛ぶ場合を考える.

  1. 重心系の速さとエネルギーの配分を求めよ.

  2. 地面から見てAが左へ飛ぶための Q の条件を求めよ.

  3. 地面でのA,Bの運動エネルギーも,常に質量の逆比になるか.

上段は右へ速度Uで動く親物体4m,下段は重心系での分裂方向.Aは左,Bは右へ飛ぶ.速さは未知. 上段は右へ速度Uで動く親物体4m,下段は重心系での分裂方向.Aは左,Bは右へ飛ぶ.速さは未知.
解答を見る

考え方 質量の逆比で配分されるのは重心系の運動エネルギーである.地面に戻すときは各速度に U を足す.

  1. 重心系でAの速さを a とするとBは a/3.したがって Q=12ma2+12(3m)(a/3)2=2ma2/3 より a=3Q/(2m),Bの速さは Q/(6m).エネルギーはAが 3Q/4,Bが Q/4 で,比は 3:1 となる.

  2. 地面でのAの速度は U−a.これが負となる条件は Q>2mU2/3.等号ならAは静止し,小さければ重心系で後方に飛んでも地面では前へ進む.

  3. 常に逆比にはならない.例えば等号の場合,Aのエネルギーは0,Bの速度は 4U/3 である.合計は 12(3m)(4U/3)2=8mU2/3,初めの 2mU2 に Q=2mU2/3 を足した値に一致する.

ポイント 教える人へ

  • 相対速さを,速さの差ではなく速度ベクトルの差の大きさとして求めさせる.

  • 「失われたエネルギー」と「全エネルギーの値」を,観測者を変えて比較させる.

  • 最接近や最大圧縮で0になるのは何の速度かを問い,重心の運動と分けさせる.

  • 分裂の逆比の配分には「重心系で」という条件が必要である.Aが地面で静止する境界を説明できれば,速度の足し戻しを理解している.

16ニュートンダイアグラム

問い

ビリヤードで,止まっている的球に同じ質量の手球を斜めに当てると,2つの球はほぼ直角に分かれて進みます.式を追わずに,作図1つでこの直角を「見て分かる」ようにできないでしょうか.

考えてみる

質量 m の手球が速度 v1 で進み,静止した質量 m の的球に弾性衝突するとします.衝突後の速度を v1後,v2後(第5章の u1,u2)とすると,運動量保存とエネルギー保存から

v1=v1後+v2後,v12=v1後2+v2後2

です.上の式を2乗して下の式と比べると v1後⋅v2後=0,つまり直角です.

ただし,この手は等質量の弾性衝突に限ります.未知数は速度の成分4つなのに式は3つで,1つ足りません.その1つが何かを,質量や反発係数と一緒に見渡せる地図があります.

速度の地図

各物体の速度ベクトルを共通の原点 O から描き,矢印の先端に点を打つと,平面は速度空間になります.v1,v2 の先端を A1,A2 とすると,相対速度 vrel=v1−v2 は A2 から A1 へ向かう矢印です.完成した地図を先に動かしてみましょう.

[図:動くニュートンダイアグラム]

初期状態は質量比2,χ=100°,k=1,反対向きの入射速度の衝突後を示す.質量比,散乱角,相対速さの比,入射方向を変更できる.再生すると上の接近・衝突・分離と,下のGからの矢印の回転・縮小が同期する.

重心の速度 V の先端を G とします.重心から見た速度(重心系の速度)を vi′=vi−V と書くと,重心系では運動量の総和が0になります.MV=m1v1+m2v2 なので

m1v1′+m2v2′=(m1v1+m2v2)−(m1+m2)V=0

です.第5章の「重心のまわりの和」∑miri′=0 を時間で微分したものと見ても同じです.したがって v1′ と v2′ は逆向きで,大きさの比は質量の逆比 m2:m1 になります.v1−V=m2Mvrel(M=m1+m2)なので,G は A1 から A2 へ向かって線分の m2/M の所にあります.

定理 速度空間での重心

  • G は線分 A1A2 を m2:m1 に内分する点である(重い方の点に近い).

  • G から A1,A2 へ向かう矢印が,重心系の速度 v1′,v2′ である.逆向きで,長さは m2Mvrel,m1Mvrel である.

m₁=2m₂の例.A₁G:GA₂=1:2で,Gからの矢印は互いに逆向きになる. m₁=2m₂の例.A₁G:GA₂=1:2で,Gからの矢印は互いに逆向きになる.

衝突で G は動かない

衝突の力は内力だけで,全運動量 MV は変わりません.G は動きません.衝突後の速度の先端を B1,B2 とすると,V=m1v1後+m2v2後M も同じ G を指すので,G は線分 B1B2 も m2:m1 に内分します.運動量保存則は,この作図の約束そのものです.

弾性衝突は2つの円の上

前の題材で見たように,運動エネルギーは K=12MV2+12μvrel2 と分かれます.弾性衝突では K も V も変わらないので,相対運動のエネルギーが変わらず,vrel も,G から各点までの距離も変わりません.

定理 弾性衝突のニュートンダイアグラム

  • B1 は G を中心に A1 を通る円,B2 は G を中心に A2 を通る円の上にある.

  • G,B1,B2 は一直線上で,G は B1 と B2 の間にある.

衝突後の相対速度を w とすると,弾性衝突では |w|=vrel で,

v1後=V+m2Mw,v2後=V−m1Mw

です.w は vrel を回したものにすぎません.

m₁=2m₂の弾性衝突.Gを中心とする円上にB₁,B₂があり,両点とGは一直線上に並ぶ. m₁=2m₂の弾性衝突.Gを中心とする円上にB₁,B₂があり,両点とGは一直線上に並ぶ.

決まらないのは χ だけ

未知数4つに保存則3つ.足りない1つが,B1 が円周上のどこにあるかを表す角 χ=∠A1GB1(重心系での散乱角)です.χ は力の詳細(どこに当たったか)で決まり,正面衝突は χ=180∘,かすめるだけなら χ≈0 です.

非弾性衝突は円が縮む

非弾性衝突でも G は動かず,B1,B2 は G をはさんで同じ比で並びます.違うのは,円の内側に入ることだけです.衝突後の相対速さが k 倍(0≤k≤1)なら,w を「vrel を χ 回して k 倍したもの」として上の式を使え,2つの円が同じ比 k で縮みます.正面衝突では k=e で,斜めの衝突では k は e と 1 の間です(法線成分だけが e 倍になるため).完全非弾性衝突は k=0 で,B1=B2=G.失われる運動エネルギーは 12μ(1−k2)vrel2 です.

破線は衝突前の円,実線はk=0.55倍の円.k=0ではB₁とB₂がGに重なる. 破線は衝突前の円,実線はk=0.55倍の円.k=0ではB₁とB₂がGに重なる.

問いの答え

静止した的は A2=O で,等質量なら G は OA1 の中点です.2つの円は半径も中心も同じで,1つの円になり,O と A1 を通ります.B1B2 はその直径で,O も円の上にあるので,タレスの定理(直径に対する円周角は 90∘)から ∠B1OB2=90∘ です.これが2つの速度のなす角です.ただし,χ=0 または 180∘ では一方の速さが0となり,その速度の方向と2つの速度のなす角は定まりません.反発が弱いと O は縮んだ円の外に出て,角は 90∘ より少し小さくなります.

Oを通る1つの円と,異なるχの2本の直径.どちらもOから両端への矢印は直角になる. Oを通る1つの円と,異なるχの2本の直径.どちらもOから両端への矢印は直角になる.

ポイント ニュートンダイアグラムの描き方

  1. 原点 O から v1,v2 を描き,先端を A1,A2 とする.

  2. 線分 A1A2 を m2:m1 に内分する G を打つ.OG が V である.

  3. G を中心に,A1 を通る円と A2 を通る円を描く(非弾性なら k 倍に縮める).

  4. χ を与え,B1 を円周上に,B2 を G の反対側に打つ(G,B1,B2 は一直線).

  5. O から B1,B2 への矢印が衝突後の速度である.長さが速さ,向きが進む向きである.

速度とG,2つの円,衝突後の先端,Oからの速度矢印の順に描き加える. 速度とG,2つの円,衝突後の先端,Oからの速度矢印の順に描き加える.

ポイント ここまでのまとめ

  • 速度空間で,G は A1A2 を m2:m1 に内分する.G から見ると重心系の速度になる.

  • 運動量保存より G は衝突で動かず,B1B2 も G で m2:m1 に内分される.

  • 弾性衝突では B1,B2 は G を中心とする2つの円の上にあり,決まらないのは χ だけである.非弾性では円が k 倍に縮み,完全非弾性では G に集まる.

  • 問いの答え:等質量・静止した的への弾性衝突では円が1つで O がその上にあるので,タレスの定理から速度は直角になる.

17ニュートンダイアグラムの計算

この節では,作図に使う数学の道具を確かめ,数値を与えてニュートンダイアグラムを描き,衝突後の速度を読みます.

定理 数学の道具:内分点,タレスの定理,余弦定理・正弦定理

内分点 速度空間では,点の位置ベクトルがそのまま速度である.線分 AB(位置ベクトル a,b)を s:t に内分する点 X は,x=a+ss+t(b−a) すなわち

x=ta+sbs+t

である.重心 V=m1v1+m2v2m1+m2 は t=m1,s=m2 の場合で,A1G:GA2=m2:m1,重い方の点に寄る.

タレスの定理 円の直径 AB と円周上の点 X について ∠AXB=90∘.中心を C とすると CA=CB=CX で,三角形 CAX,CBX は二等辺三角形.底角を α,β とすると,三角形 ABX の内角の和 2α+2β=180∘ から ∠AXB=α+β=90∘ である.円周角の定理(円周角は中心角の半分)の,中心角が 180∘ の場合にあたる.

余弦定理・正弦定理 三角形 OGB で OG=V,GB=r,∠OGB=γ,θ=∠GOB とする.OB→=OG→+GB→ で,2つのベクトルのなす角は 180∘−γ だから

OB2=V2+r2+2Vrcos⁡(180∘−γ)=V2+r2−2Vrcos⁡γ,rsin⁡θ=OBsin⁡γ

である(B から直線 OG へ下ろした垂線の長さを rsin⁡γ と OBsin⁡θ の2通りに書くと,右の式が出る).速度空間では,OB が速さ,θ が向きを表す.

練習 1.

  1. m1=1.0kg,m2=3.0kg,v1=(8.0,0)ms−1,v2=(0,4.0)ms−1 のとき,G の座標と A1G:GA2 を求めよ.

  2. OG=5.0,GB=3.0,γ=60∘ のとき,OB と θ を求めよ.

答え:(1) V=1.0⋅(8.0,0)+3.0⋅(0,4.0)4.0=(2.0,3.0).A1G=45,GA2=5 で,比は 3:1=m2:m1. (2) OB2=25+9−15=19 より OB≈4.4.sin⁡θ=3sin⁡60∘19≈0.60.GB<OG で θ は鋭角だから θ≈37∘.

練習 2. (1) 2辺の長さが 3.0 と 5.0 で,その間の角が 120∘ の三角形の残りの辺の長さを求めよ.(2) この三角形で,長さ 3.0 の辺に向かい合う角を正弦定理で求めよ.

答え:(1) 余弦定理で c2=9.0+25−2×3.0×5.0cos⁡120∘=49,c=7.0.(2) sin⁡α=3.0sin⁡120∘7.0≈0.37.最大の角が 120∘ なので α は鋭角で,α≈22∘.

ABの内分点X,直径ABに対する円周角,三角形OGBの辺V,rと角γ,θを示す. ABの内分点X,直径ABに対する円周角,三角形OGBの辺V,rと角γ,θを示す.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

なめらかな水平面上で,質量 2.0kg の球Aが速さ 6.0ms−1 で,静止した質量 1.0kg の球Bに弾性衝突する.重心系での散乱角が χ=90∘ のとき,ニュートンダイアグラムを描いて,衝突後のAとBの速さと,Aの元の進行方向に対する向きを求めよ.

O=A₂とA₁=(6.0,0)のみを与え,Gと円は読者が描く. O=A₂とA₁=(6.0,0)のみを与え,Gと円は読者が描く.
解答を見る

考え方 進行方向を x 軸に取り,A1=(6.0,0),A2=O とする.G と2つの円を描き,三角形で読む.

V=2.03.0×6.0=4.0ms−1,G は (4.0,0).vrel=6.0 で,円の半径は A 側が 1.03.0×6.0=2.0,B 側が 2.03.0×6.0=4.0(O を通る).χ=90∘ なので,B1 は G の真上 2.0,B2 は G をはさんで真下 4.0 の点である.

三角形 OGB1(OG=4.0,GB1=2.0,直角)から

vA後=4.02+2.02≈4.5ms−1,tan⁡θ=2.04.0 ⟹ θ≈27∘

三角形 OGB2(OG=GB2=4.0,直角)から

vB後=4.02≈5.7ms−1,φ=45∘

である.Aは上向き 27∘,Bは下向き 45∘ に進む.

確かめ:成分は (4.0,2.0),(4.0,−4.0) で,運動量 (12,0) と運動エネルギー 36J が衝突前と一致する.

G=(4.0,0),半径2.0と4.0の円.B₁=(4.0,2.0),B₂=(4.0,−4.0)をOから読む. G=(4.0,0),半径2.0と4.0の円.B₁=(4.0,2.0),B₂=(4.0,−4.0)をOから読む.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

なめらかな水平面上で,質量 1.0kg の円板A,Bが衝突する.衝突前の速度は A が (4.0,0)ms−1,B が (0,3.0)ms−1 である.

Aは右へ4.0 m s⁻¹,Bは上へ3.0 m s⁻¹で衝突する直前.衝突後は描かない. Aは右へ4.0 m s⁻¹,Bは上へ3.0 m s⁻¹で衝突する直前.衝突後は描かない.
  1. 衝突でくっついて一体になるとき,衝突後の速度と,失われる運動エネルギーを求めよ.

  2. 衝突後の相対速さが衝突前の 0.6 倍で,散乱角が χ=90∘(相対速度を反時計回りに回す向き)のとき,衝突後のAとBの速さと向き,失われるエネルギーを求めよ.

解答を見る

考え方 速度空間に A1=(4.0,0),A2=(0,3.0) を打つ.等質量なので G は中点 (2.0,1.5) である.vrel=(4.0,−3.0),vrel=5.0ms−1,μ=0.50kg.

  1. B1=B2=G なので,速度は V=(2.0,1.5),速さ 2.5ms−1,x 軸から 37∘ 上向きである.失われるエネルギーは

12μvrel2=12⋅0.50⋅5.02≈6.3J

で,初めの運動エネルギー 12.5J の半分である.

  1. vrel を反時計回りに 90∘ 回すと (3.0,4.0),0.6 倍して w=(1.8,2.4).等質量なので m2M=m1M=12 で

vA後=V+12w=(2.9,2.7),vB後=V−12w=(1.1,0.3)

Aの速さは 2.92+2.72≈4.0ms−1,向きは x 軸から 43∘.Bの速さは 1.12+0.32≈1.1ms−1,向きは 15∘ である.失われるエネルギーは

12μ(1−0.62)vrel2=12⋅0.50⋅0.64⋅25=4.0J

である(衝突後の運動エネルギーは 8.5J).

G=(2.0,1.5)を中心とする半径2.5の円が1.5へ縮み,B₁=(2.9,2.7),B₂=(1.1,0.3)となる. G=(2.0,1.5)を中心とする半径2.5の円が1.5へ縮み,B₁=(2.9,2.7),B₂=(1.1,0.3)となる.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

なめらかな水平面上で,質量 1.0kg の球Aが速さ 8.0ms−1 で,静止した質量 3.0kg の球Bに弾性衝突した.衝突後,Bは Aの元の進行方向から 60∘ の向きに飛び出した.衝突後のAとBの速さ,Aの進む向き,重心系での散乱角 χ を求めよ.

Aが右へ8.0 m s⁻¹で入射し,Bの反跳方向は下へ60°と観測された.Aの方向と両球の速さは未記入. Aが右へ8.0 m s⁻¹で入射し,Bの反跳方向は下へ60°と観測された.Aの方向と両球の速さは未記入.
解答を見る

考え方 Bは静止していたので,Bの円は O を通る.タレスの定理でBの速さが決まり,G が B1B2 を 3:1 に内分することでAが決まる.

進行方向を x 軸に取る.V=1.04.0×8.0=2.0,G は (2.0,0).円の半径は A 側が 6.0,B 側が 2.0.B 側の円は O を通り,その直径の O と反対の端を D=(4.0,0) とする.

Bの速さ:タレスの定理で ∠OB2D=90∘,また ∠B2OD=60∘ だから

vB後=OB2=ODcos⁡60∘=4.0×0.50=2.0ms−1

B2=2.0(cos⁡60∘,−sin⁡60∘)≈(1.0,−1.73) である.

Aの速度:B1G:GB2=3:1 なので B1=G+3(G−B2)≈(5.0,5.2).

vA後=5.02+5.22≈7.2ms−1,tan⁡θ=5.25.0 ⟹ θ≈46∘

Aは上向き 46∘ に進む.

散乱角:三角形 OGB2 は GO=GB2 の二等辺三角形で底角が 60∘ だから ∠OGB2=60∘.G から O への向きは A1 への向きの反対,B2 は B1 の反対側なので,χ=∠OGB2=60∘ である.

確かめ:三角形 OGB1(OG=2.0,GB1=6.0,γ=120∘)に余弦定理を使うと OB12=4+36+12=52 で一致する.エネルギーは 12⋅52+12⋅3.0⋅2.02=32J=12⋅1.0⋅8.02 で保存している.

的の小円の直径ODとタレスの直角を使う.χ=60°,反跳角φ=60°で,B₁=(5,3√3),B₂=(1,−√3)となる. 的の小円の直径ODとタレスの直角を使う.χ=60°,反跳角φ=60°で,B₁=(5,3√3),B₂=(1,−√3)となる.

ポイント ここまでのまとめ

  • G は A1A2 も B1B2 も m2:m1 に内分する.静止した的の円は O を通り,タレスの定理から的の速さが反跳角で決まる.

  • 三角形 OGB に余弦定理・正弦定理を使えば,衝突後の速さと向きが読める.

  • 衝突後の速度は V+m2Mw,V−m1Mw.w は vrel を χ 回して k 倍したもので,失われるエネルギーは 12μ(1−k2)vrel2 である.

18ニュートンダイアグラムの演習

定規とコンパスを使い,速度の先端を実際に描いてから答えを読んでみましょう.以下では外力の力積を無視し,散乱角 χ は衝突前の相対速度から反時計回りに測ります.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

質量 3m のAと m のBの速度が,それぞれ (0,4u),(4u,0) である.m,u>0 とする.2物体は衝突して一体になる.

  1. 速度空間に A1,A2 を描き,内分点Gを作図せよ.

  2. 衝突後の先端 B1,B2 を記入し,速度と速さを読み取れ.

衝突前の速度の先端と指定された条件のみを示す.G,円,衝突後の先端は読者が作図する. 衝突前の速度の先端と指定された条件のみを示す.G,円,衝突後の先端は読者が作図する.
解答を見る

考え方 重いAの速度の先端にGが近くなるよう,A1G:GA2=1:3 に分ける.完全非弾性では2つの円がGへ縮む.

  1. A1A2 を4等分し,A1 から1区間だけ進んだ点をGとする.座標は (u,3u) である.A1G=2u,GA2=32u で比が確かめられる.

  2. B1=B2=G と記入する.OからGへの矢印を読むと v後=(u,3u),速さは 10u.運動量は初めの (4mu,12mu) と,後の 4m(u,3u) で等しい.速度図の目盛は距離ではなく速さの単位であることにも注意する.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m のA,Bが速度 (3u,u),(−u,u) で衝突し,弾性衝突後の散乱角が χ=90∘ となった.

  1. Gと円を作図し,B1,B2 を打て.

  2. Oからの矢印を描き,各速度を読み取れ.2つの速度は直角であるか.

衝突前の速度の先端と指定された条件のみを示す.G,円,衝突後の先端は読者が作図する. 衝突前の速度の先端と指定された条件のみを示す.G,円,衝突後の先端は読者が作図する.
解答を見る

考え方 等質量なら円は1つだが,直角の結論にはOが円周上にあることも必要である.

  1. A1A2 の中点 G=(u,u) を取り,半径 2u の円を描く.GA1 は右向きなので,反時計回りに 90∘ 回した GB1 は上向き.Gの上 2u に B1,下 2u に B2 を置く.

  2. 読み取ると v1後=(u,3u),v2後=(u,−u).内積は −2u2 で0ではない.なす角は鈍角で,cos⁡α=−1/5 より約 117∘.図でも OG=2u<2u でOは円の内側にあり,タレスの定理の条件を満たさない.エネルギーは前後とも 12m(12u2)=6mu2 である.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m のAが速度 (5u,0),質量 4m のBが静止していて,正面衝突する.反発係数は e=1/2 である.

  1. Gと2つの円を描き,Gからの距離を半分に縮めて反対側に B1,B2 を作図せよ.

  2. 各速度と失われる運動エネルギーを求めよ.

衝突前の速度の先端と指定された条件のみを示す.G,円,衝突後の先端は読者が作図する. 衝突前の速度の先端と指定された条件のみを示す.G,円,衝突後の先端は読者が作図する.
解答を見る

考え方 正面衝突なので χ=180∘,半径の縮小率は k=e.G自体は移動させない.

  1. A1G:GA2=4:1 より G=(u,0).初めの半径は 4u,u.縮めた半径は 2u,u/2 である.A側の先端をGの左に,B側の先端をGの右に置くと,B1=(−u,0),B2=(3u/2,0) となる.

  2. Oから読む速度はAが −u,Bが +3u/2.エネルギー損失は μ=4m/5 として

ΔK=124m5(1−14)(5u)2=152mu2

である.前の 25mu2/2 から後の mu2/2+12(4m)(3u/2)2=5mu2 を引いても同じになる.反発係数は速さの比ではなく,離れる相対速さ 5u/2 と接近する相対速さ 5u の比である.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

質量 2m のAと m のBが速度 (3u,0),(0,3u) で衝突する.衝突後の相対速さは衝突前の k=1/2 倍,散乱角は χ=90∘ である.

  1. A1,A2,Gと2つの円を描き,半径を半分にした円上に B1,B2 を作図せよ.

  2. 各速度を読み取り,エネルギー損失を求めよ.

衝突前の速度の先端と指定された条件のみを示す.G,円,衝突後の先端は読者が作図する. 衝突前の速度の先端と指定された条件のみを示す.G,円,衝突後の先端は読者が作図する.
解答を見る

考え方 回すのはOからの矢印ではなく,Gからの矢印である.縮小後も2つの先端はGをはさんで同一直線上に置く.

  1. Gは (2u,u).初めの GA1 は (u,−u),GA2 は (−2u,2u) で,半径は 2u,22u.それぞれ半分にし,反時計回りに直角だけ回すと GB1=(u/2,u/2),GB2=(−u,−u).これを図に記入する.

  2. Oからの矢印は (5u/2,3u/2),(u,0) である.μ=2m/3,vrel2=18u2 より,初めの相対運動のエネルギーは 6mu2,損失はその 1−k2=3/4 倍の 9mu2/2.前後の全エネルギー 27mu2/2,9mu2 の差とも一致する.斜めの衝突なので,ここで指定した k を法線方向の反発係数と同一視してはいけない.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

質量 2m のAが速度 (3u,0) で,静止した質量 m のBに弾性衝突する.Aの衝突後の速度が入射方向から上へ角 θ をなし,tan⁡θ=1/2 であることだけが分かっている.

  1. ニュートンダイアグラムを描き,Oから傾き 1/2 の半直線を引け.Aの先端の候補はいくつあるか.

  2. 交点の座標と,対応するBの速度をすべて求めよ.

衝突前の速度の先端と指定された条件のみを示す.G,円,衝突後の先端は読者が作図する. 衝突前の速度の先端と指定された条件のみを示す.G,円,衝突後の先端は読者が作図する.
解答を見る

考え方 観測した向きは速度空間の半直線を指定する.速さが未測定なら,円との交点をすべて調べる必要がある.

  1. G=(2u,0),半径はA側が u,B側が 2u.Oから引いた半直線はAの円と2点で交わる.したがって候補は2つである.

  2. B1=(xu,yu) とおくと,円と直線の式は (x−2)2+y2=1,y=x/2.代入して 5x2−16x+12=0 より x=2,6/5.2つの組は

v1後=(2u,u),v2後=(2u,−2u)
v1後=(6u/5,3u/5),v2後=(18u/5,−6u/5)

である.Bの先端は GB2=−2GB1 となるよう作図する.Aの速さは 5u と 3u/5 で異なる.どちらの組も運動量は (6mu,0),エネルギーは 9mu2 で,保存則だけでは一方を除けない.

ポイント 教える人へ

  • 解答を式で始める前に,内分点Gと円を必ず描かせる.Gが重い物体の先端に近いかを確かめる.

  • Oからの矢印とGからの矢印を色分けし,どちらを回しているか説明させる.

  • 等質量だから直角,という短絡には,演習2でOが円の内側にあることを指摘させる.

  • 観測方向と円の交点を数えると,角度だけでは速さが一意に定まらないことが分かる.計算結果を元の図の2点へ戻させる.

19衝突をニュートンダイアグラムで語り直す

問い

なめらかな氷の上で,質量 m の球が静止しています.そこへ質量 2m の球を斜めに当てて,弾性衝突をさせます.当て方(中心どうしのずれ)をいろいろ変えても,重い球の進路は,元の向きから 30∘ より大きくは曲がりません.どう当てても超えられない上限があるのはなぜでしょうか.しかも,その値がきれいに 30∘ になるのはなぜでしょうか.

考えてみる

衝突後の2つの速度は,平面では4つの成分です.式は,運動量保存則が2本,運動エネルギーの保存が1本の計3本で,足りない1本は,どこが触れ合ったかで決まる角度です.この角度を残して連立方程式を解けば答えは出ますが,式から「上限」を読み取るのは骨が折れます.そこで第5章の衝突を,前の節のニュートンダイアグラムで一つずつ語り直します.

ポイント 作図の約束

  • 速度を共通の原点 O から描く.衝突前の v1,v2 の先端を A1,A2,衝突後の v1後,v2後 の先端を B1,B2 とする.

  • 重心速度の先端 G は線分 A1A2 を m2:m1 に内分する点で,衝突しても動かない.重心系の速度は G から測る.

  • 弾性衝突では,B1,B2 は G を中心とする,A1,A2 を通る2つの円の上に,G をはさんで正反対に乗る.円周上の回転角が重心系の散乱角 χ である.

1次元の衝突

正面衝突は χ=180∘ で,B1 は A1 を G に関して点対称に移した点です.式で書けば v1後=2V−v1 で,V を代入すると

v1後=(m1−m2)v1+2m2v2m1+m2

です.第5章の e=1 の一般解が作図の一行になりました.質量が等しければ G は中点で,B1=A2,B2=A1(速度の入れ替わり)です.

反発係数 e では,重心系の速度が逆向きで e 倍になるので,円の半径が e 倍に縮みます.

vi後=V−e(vi−V)=(1+e)V−evi

失われるエネルギーは,相対運動のエネルギー 12μvrel2 の 1−e2 倍で,12μ(1−e2)vrel2 です.e=0 なら円が G の1点に潰れて,2つは一体になります.

m₁=2m₂,v₁=3,v₂=0の例.Gは2に固定され,e=1,0.5,0で先端までの距離が縮む. m₁=2m₂,v₁=3,v₂=0の例.Gは2に固定され,e=1,0.5,0で先端までの距離が縮む.

静止した的への弾性衝突

的が静止していれば A2 は原点 O そのもので,G は OA1 上にあって OG=m1Mv です(M=m1+m2).的の円は半径が GA2=GO なので,必ず原点を通ります.入射球の円は半径 m2Mv で A1 を通ります.

質量が等しい場合,2つの円は一致します.B1B2 はその直径で,原点 O も円周上にあるので,タレスの定理により ∠B1OB2=90∘ です.両球の衝突後の速さが0でないとき,2つの球は直角に分かれます.端点の χ=0 または 180∘ では一方が静止するため,その速度の方向は定まりません.χ を変えて B1 を円周上で動かしても,B2 は直径の反対側にあるので,直角は崩れません.

[図:等質量の直角散乱を動かす]

初期状態はχ=100°の等質量弾性衝突.スライダーでχを変えると,上の軌跡と下の円上の先端が連動し,両球が動く限り直角を保つ.端点では一方が静止する.

質量が違っても,△OGB2 は GO=GB2 の二等辺三角形で,頂角が χ です.的の反跳角 φ は底角なので

φ=π−χ2

です.的が動く 0<χ≤π では 0≤φ<90∘ で,χ=0 では的は静止し,反跳角は定まりません.的は,どんな当て方でも入射の向きより前に進みます.底辺は OB2=2GOcos⁡φ なので,的が受け取る運動エネルギーの,入射球の運動エネルギーに対する割合は

12m2v2後212m1v2=4m1m2(m1+m2)2cos2⁡φ

です.φ=0(正面衝突)で最大の 4m1m2(m1+m2)2 になります.m1=m2 なら 1(全部を渡す)で,質量が大きく違うと 0 に近づきます.

重い球の最大散乱角

問いに戻ります.m1>m2 のとき,OG=m1Mv は入射球の円の半径 m2Mv より大きいので,原点 O は円の外にあります.入射球の散乱角 θ は,OB1 と OG のなす角で,O から円に引いた接線のとき最大です.直角三角形 OGB1 から

sin⁡θmax=GB1OG=m2m1

です.問いの m1=2m2 では θmax=30∘(そのとき cos⁡χ=−m2/m1,χ=120∘)で,答えが出ました.θ<θmax の方向には,直線が円と2点で交わるので,速さの違う2通りの散乱があります.m1=m2 なら O は円周上で,動く入射球の散乱角は 90∘ 未満(90∘ は速さ0へ近づく極限),m1<m2 なら O は円の内側で,はね返りを含めてどんな向きにも飛べます.

[図:最大散乱角と接線]

m₁=2m₂で初期χ=120°,θ=30°.χを0から180°へ動かすと,θは接線の30°まで増えてから減る.2本の接線と半径の直角を示す.

B1 の位置を G から測ると,OG 方向に m2Mvcos⁡χ,垂直方向に m2Mvsin⁡χ です.これに OG を足して

tan⁡θ=sin⁡χcos⁡χ+m1/m2

となり,実験室系の θ と重心系の χ がつながります.m1=m2 なら θ=χ/2 で,円周角の定理と合います.

ポイント ここまでのまとめ

  • 正面衝突は χ=180∘:Bi は Ai の G に関する点対称.vi後=(1+e)V−evi.円は e 倍に縮む.

  • 静止した的の円は原点を通る.反跳角は φ=π−χ2,渡せる割合は 4m1m2(m1+m2)2cos2⁡φ で正面衝突で最大.等質量なら θ+φ=90∘.

  • tan⁡θ=sin⁡χcos⁡χ+m1/m2.m1>m2 では原点が入射球の円の外にあり,接線が最大散乱角 sin⁡θmax=m2m1 を与える.

  • 問いの答え:2m と m なら sin⁡θmax=12.原点から円へ引いた接線の向きが曲がれる限界だから,どう当てても 30∘ を超えない.

20衝突の語り直し:例題

前の節の作図で,実験や応用の問題を解きます.最後の例題は分裂(崩壊)です.

ポイント 作図の道具:分裂の円

質量 M の粒子が速度 V で飛びながら,質量 m1,m2 の2つの破片に分かれるとする.重心系では,解放されたエネルギー Q(相対運動のエネルギーの増加分)が破片の運動エネルギーの和になり,運動量の和は 0 である.破片の速さ v1′,v2′ は,m1v1′=m2v2′ と Q=12m1v1′2+12m2v2′2 から決まり,決まらないのは向きだけである.

実験室系の破片の速度 vi=V+vi′ の先端は,速度空間で G(V の先端)を中心とする半径 vi′ の円周上にあり,2つの破片は G をはさんで正反対に乗る.vi′<V なら原点 O は円の外で,最大角は sin⁡θi,max=vi′/V.vi′>V ならすべての向きに飛ぶ.vi′=V なら動く破片は前方へ飛び,直角方向は速さ0へ近づく極限である.

例題

例題 1

オリジナル ★★★☆☆

霧箱の中で,速さ v のα粒子(質量 4.0u)が,静止している原子核に弾性衝突する.多数の飛跡を調べると,α粒子の進路が元の向きから曲がる角度は,どれも 30∘ を超えず,ちょうど 30∘ になるものがあった.

質量4.0 uのα粒子が静止核に入射する.観測された最大角30°を示し,核の質量や速さは示さない. 質量4.0 uのα粒子が静止核に入射する.観測された最大角30°を示し,核の質量や速さは示さない.
  1. 的の原子核の質量は何 u か.

  2. 最も大きく曲がったときのα粒子の速さと,原子核の速さを v で表せ.

  3. 的の質量が 20u だったら,曲がる角度に上限はあるか.

解答を見る

考え方 的が静止しているので A2=O.速度空間に,G を中心とする入射球(α粒子)の円を描き,原点から引いた接線で最大の角を読む.

  1. 上限があるのは,原点が入射球の円の外にあるとき,つまり α粒子が的より重いときで,sin⁡θmax=m2/m1 である.sin⁡30∘=12 より m2=4.0×12=2.0u(重水素の原子核).

  2. M=6.0u なので OG=4.06.0v=23v,入射球の円の半径は 2.06.0v=13v である.最大角のとき OB1 は円の接線で,OB1⟂GB1 だから

v1後=OB1=(23v)2−(13v)2=v3≈0.58v

である.このとき cos⁡χ=−m2m1=−12,χ=120∘ で,反跳角は φ=π−χ2=30∘.原子核の速さは OB2=2GOcos⁡φ=43v⋅32=2v3≈1.15v である.

確かめ:エネルギーは 12⋅4.0⋅v23+12⋅2.0⋅4v23=2.0v2(u を単位とする)で,初めの 12⋅4.0⋅v2=2.0v2 と等しい.

  1. 的のほうが重い(m1<m2)ので,OG=424v=16v は円の半径 2024v=56v より小さく,原点は円の内側にある.よって上限は無く,χ=180∘ では逆向きに速さ 23v ではね返る.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

速さ v の中性子(質量 1.0u)が,静止した炭素12の原子核(質量 12u)と弾性衝突する.

炭素の場合はOが円の内部,水素の場合は円周上にある.左右の端点を示すが,求める速さやエネルギーの値は記さない. 炭素の場合はOが円の内部,水素の場合は円周上にある.左右の端点を示すが,求める速さやエネルギーの値は記さない.
  1. 1回の衝突後の中性子の速さの最大値と最小値を求めよ.1回で失うエネルギーの割合は,最大でどれだけか.

  2. 重心系での散乱の向きが全方向に等しい確率で起こるとき,衝突後の運動エネルギーの平均値は,衝突前の何倍か.的が水素の原子核(質量 1.0u)ならどうか.

  3. 平均の運動エネルギーが衝突前の 110 以下になるまでに,炭素と水素でそれぞれ何回ほど衝突が必要か.

解答を見る

考え方 原点 O は円の内側にあり,中性子の速さは OB1 の長さである.B1 が円周上を回ると,OB1 は最大と最小の間を動く.

  1. M=13u なので OG=113v,円の半径は 1213v である.最大は 1213v+113v=v(χ=0,変わらない),最小は 1213v−113v=1113v≈0.85v(χ=180∘,はね返り)である.エネルギーの最小は (1113)2=121169 倍なので,失う割合は最大 48169≈0.28 で,4m1m2(m1+m2)2=48169 と一致する.

  2. 三角形 OGB1 の余弦定理から,OB12=OG2+GB12+2OG⋅GB1cos⁡χ である.χ が全方向に一様なら cos⁡χ の平均は 0 なので,OB12 の平均は OG2+GB12 である.炭素では 1+144169v2 だから,エネルギーの平均は 145169≈0.86 倍.水素では OG=GB1=12v なので 12 倍である.

  3. 1回ごとに平均が (2) の倍率になるので,n 回で倍率の n 乗である.炭素:(145169)n≤110 より n≥ln⁡10ln⁡(169/145)≈15.03,つまり16回である(15回では約0.1005倍で,まだ 1/10 より大きい).水素:(12)n≤110 より n≥3.3,つまり4回である.

例題 3

オリジナル ★★★★☆

質量 3m の粒子が速さ V0 で飛んでいて,質量 m の破片Aと質量 2m の破片Bに分裂した.粒子と一緒に動く系で見ると,Aの速さは V02 だった.

[図:動く崩壊の円]

初期分裂方向は100°.Gを中心とする半径V₀/2とV₀/4の円上で,破片A,Bの先端は反対側に並ぶ.スライダーで上の軌跡と下の速度を同時に変更できる.

  1. 分裂で解放されたエネルギー Q を求めよ.

  2. 実験室系で,Aが飛ぶ向きは粒子の進行方向から最大で何度か.そのときのAの速さと,Aの速さの範囲も求めよ.

  3. 実験室系で,Bが飛ぶ向きの最大角を求めよ.

  4. 解放されたエネルギーが4倍だったら,AとBの最大角はどうなるか.

解答を見る

考え方 重心系では運動量の和が 0 だから mvA′=2mvB′.破片の先端は G を中心とする円周上にあり,原点から引いた接線で最大角が決まる.

  1. vA′=V02 なので vB′=V04.

Q=12m(V02)2+12(2m)(V04)2=316mV02

粒子は重心系で静止していたので,運動エネルギーの和がそのまま Q である.

  1. 速度空間で OG=V0,Aの円の半径は V02 で,O は円の外にある.接線のとき sin⁡θA,max=V0/2V0=12 なので θA,max=30∘.速さは接線の長さ V02−(V02)2=32V0≈0.87V0.速さの範囲は OG から円の半径を引いた長さと足した長さの間で,12V0 以上 32V0 以下である.

  2. Bの円の半径は V04 なので sin⁡θB,max=14 で,電卓で角を求めると θB,max≈14.5∘ である.

  3. Q が4倍になると,重心系の速さは 4=2 倍で,vA′=V0,vB′=V02.Aの円は原点を通るので sin⁡θ=1,角度の上限は 90∘ である.ただし,原点に来る破片の速さは0で方向が定まらないため,動くAは 90∘ 未満の前方へ飛び,直角は極限としてのみ近づける.Bは sin⁡θmax=12 で 30∘ である.

ポイント ここまでのまとめ

  • 的が静止した弾性衝突では,的の円が原点を通る.m1>m2 の入射球には最大散乱角 sin⁡θmax=m2/m1 があり,これを測れば的の質量が分かる(m2=m1sin⁡θmax).

  • 1回の衝突後の入射球の速さは OB1.重い的ほど最小値が v に近く,減速が遅い.等方散乱なら平均エネルギーは m12+m22(m1+m2)2 倍になる.

  • 分裂した破片は,速度空間で G を中心とする円の上に,G をはさんで正反対に乗る.0<v′<V での最大角は sin⁡θmax=v′/V.v′>V なら全方向に飛び,v′=V なら前方へ飛ぶ(直角は速さ0へ近づく極限).

21衝突の語り直しの演習

散乱角,反跳角,渡されるエネルギーを,同じ速度の円から読み取ってみましょう.以下の衝突は外力の力積を無視できる弾性衝突とし,的は初め静止しています.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

質量 m の入射球が速さ u で,質量 2m の的に当たった.入射方向を x 軸の正の向きとし,衝突後の的がそこから下へ 30∘ の方向に進んだとする.

  1. 的の速度の円を描き,重心系の散乱角 χ を求めよ.

  2. 的の速さを u で表せ.

質量mが速さuで静止した2mに当たる.的の観測方向は下へ30°で,速さは未知. 質量mが速さuで静止した2mに当たる.的の観測方向は下へ30°で,速さは未知.
解答を見る

考え方 的の速度の円はOを通る.GとO,的の速度の先端 B2 が作る二等辺三角形を使う.

  1. OG=u/3 なので,Gを中心に半径 u/3 の円を描く.Oから下へ 30∘ の半直線を引き,O以外の交点を B2 とする.三角形 OGB2 の底角は φ=30∘,頂角は χ=180∘−2φ=120∘ である.

  2. 底辺の長さより v2後=2OGcos⁡30∘=u/3.方向と合わせると速度は (u/2,−3u/6) である.速さは u に比例し,u=0 なら0になる.的の最大速さ 2u/3 より小さいことも確かめられる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 2m の入射球が速さ u で質量 m の的に当たる.

  1. 速度の円にOから接線を引き,入射球の最大散乱角を求めよ.

  2. そのときの入射球の速さと,重心系の散乱角 χ を求めよ.

  3. 正面衝突は最大散乱角を与えるか.

質量√2mの球が速さuで静止したmに入射する.求める最大角や衝突後の方向は描かない. 質量√2mの球が速さuで静止したmに入射する.求める最大角や衝突後の方向は描かない.
解答を見る

考え方 重い入射球の円はOを含まない.曲がれる限界は,速度を表す半直線が円に接する位置である.

  1. OG=2u/(2+1),円の半径は r=u/(2+1).接点を T として OT⟂GT だから sin⁡θmax=r/OG=1/2.よって θmax=45∘.

  2. 接線の長さは OG2−r2=u/(2+1)=(2−1)u.また cos⁡χ=−r/OG=−1/2 なので χ=135∘.速さは正で,入射速さより小さい.

  3. 与えない.正面衝突では円の左端を読むので,入射球の速度は OG−r=(2−1)u/(2+1)>0.進行方向は変わらず θ=0 である.χ を増やせば実験室系の θ も必ず増える,とは限らない.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m,速さ u の粒子を,質量 qm(q>0)の的に当てる.的に渡すエネルギーを,入射エネルギーの 3/4 以上にしたいと考えている.

  1. 当て方を選べば目標を達成できる q の範囲を求めよ.

  2. q=3 の場合,目標を達成する反跳角 φ を求めよ.

  3. q=1 の場合は,どの反跳角なら目標を達成するか.

質量mからqmの的へ入射する.入射エネルギーKの3/4以上を的へ渡すことが目標である. 質量mからqmの的へ入射する.入射エネルギーKの3/4以上を的へ渡すことが目標である.
解答を見る

考え方 的の円の直径が最大速さを与える.そこから最大のエネルギー移行率を調べ,必要なら反跳角で絞る.

  1. OG=u/(1+q) で,的の最大速さは 2u/(1+q).移行率の最大は fmax=4q/(1+q)2 である.fmax≥3/4 を整理すると 3q2−10q+3≤0,つまり (3q−1)(q−3)≤0.したがって 1/3≤q≤3.q と 1/q で同じ最大値になる対称性とも合う.

  2. q=3 では f=(3/4)cos2⁡φ.0≤φ<90∘ で目標を満たすのは φ=0 だけであり,正面衝突が必要となる.

  3. q=1 では f=cos2⁡φ なので 0≤φ≤30∘.等質量でも,かすめる衝突では多くを渡せない.角度が未指定なら質量比だけで実際の移行率を決めてはいけない.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の粒子が速さ u で質量 2m の的に当たり,重心系で χ=150∘ 散乱された.入射方向を x 軸とし,入射粒子は上側へ散乱されるものとする.

  1. 速度の円を描いてから,衝突後の入射粒子の速度の成分と,実験室系の散乱角 θ を求めよ.

  2. 的の反跳角と,的に渡したエネルギーの割合を求めよ.必要なら cos2⁡α=1+cos⁡2α2 を使ってよい.

O=A₂,A₁=(u,0)と質量比1:2,重心系の散乱角150°のみを与える. O=A₂,A₁=(u,0)と質量比1:2,重心系の散乱角150°のみを与える.
解答を見る

考え方 tan⁡θ だけでは角の象限が決まらない.図の先端がOの左右どちらにあるか,成分の符号で判定する.

  1. G=(u/3,0),入射粒子の円の半径は 2u/3.Gから 150∘ の方向に半径を引くと

v1後=(1−33u,13u)

である.x 成分は負,y 成分は正なので 90∘<θ<180∘.tan⁡θ=1/(1−3) より θ≈126∘.速さは u5−23/3 である.tan⁡θ の値だけでは象限が決まらないので,速度成分の符号で角を決める.

  1. φ=(180∘−150∘)/2=15∘.エネルギー移行率は

f=89cos2⁡15∘=4+239≈0.83

である.入射粒子に残る割合 v1後2/u2=(5−23)/9 と足すと1になる.的は前方へ進む一方,軽い入射粒子は後方へ散乱されている.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

質量 4m の物体が速度 U で右へ進み,質量 m のAと 3m のBに分裂する.分裂で運動エネルギーに変わる量は Q=3mU2/2 で,外力はない.

  1. 重心系での速さを求め,実験室系の速度の先端が描く2つの円を作図せよ.

  2. それぞれの飛べる方向の範囲と速さの範囲を求めよ.

  3. Aが実験室系で真上へ飛ぶとき,AとBの速度を求めよ.

親物体4mは右へ速度Uで進み,mと3mへ分かれる.Q=3mU²/2を与え,方向と速さは示さない. 親物体4mは右へ速度Uで進み,mと3mへ分かれる.Q=3mU²/2を与え,方向と速さは示さない.
解答を見る

考え方 重心系の運動量は0なので,円の半径の比は質量の逆比になる.Oが各円の内側か外側かで方向の範囲が変わる.

  1. Aの速さを a とするとBは a/3.Q=2ma2/3=3mU2/2 より a=3U/2,Bは U/2.G=(U,0) を中心に半径 3U/2,U/2 の円を描く.2つの先端はGをはさんで反対向きに置く.

  2. Aの円はOを内部に含むので,全方向に飛べる.速さの範囲は U/2≤vA≤5U/2.Bの円はOの外側にあり,接線の向きでは sin⁡θmax=1/2 なので,最大角は 30∘.前方の上下 30∘ 以内で,速さは U/2≤vB≤3U/2 となる.

  3. Aの先端をOからの上向き半直線と円の交点に置く.U2+vA2=(3U/2)2 なので vA=(0,5U/2).GB=−GA/3 より vB=(4U/3,−5U/6).運動量の和は (4mU,0),エネルギーの和は 7mU2/2=2mU2+Q で,分裂前の運動に解放エネルギーを加えた値になる.

ポイント 教える人へ

  • 反跳角はOで測り,散乱角 χ はGで測る.同じ三角形のどの角かを指さして説明させる.

  • 最大散乱角と最大エネルギー移行は,円上の異なる点で起こりうる.接点と直径の端を区別させる.

  • 角度の換算では,tan⁡θ の数値より先に速度成分の符号を調べさせる.

  • 崩壊の円では,Oが円上に来る境界にも問いを広げられる.その点の速度は0なので方向は定まらず,直角方向は動く破片が達する最大値ではなく極限である.

22エネルギーの諸形態

問い

質量 1.2×103kg の車が時速 72km/h(20ms−1)で走っています.運動エネルギーは 12mv2=2.4×105J です.ブレーキを踏んで止まると,運動エネルギーは0になります.この 2.4×105J は,どこへ行ったのでしょうか.

考えてみる

重力やばねの力だけが働くなら,運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和は変わりません.しかし,ブレーキの摩擦力は保存力ではなく,力学的エネルギーは保存されません.車が止まれば運動エネルギーは確かに減ります.

では,エネルギーは消えたのでしょうか.手がかりは身近にあります.両手をこすり合わせると温かくなります.坂道でブレーキを使いすぎると,ブレーキが熱くなり,焦げたにおいがすることもあります.止まった車のブレーキは,走っているときよりも熱いのです.エネルギーは消えたのではなく,目に見えない形に移ったと考えられます.その見えない形の正体を調べましょう.

内部エネルギー ― 分子の運動

物質は原子や分子の集まりで,それらは止まることなく不規則に動き回っています.この乱雑な運動のエネルギーと,原子どうしの間のポテンシャルエネルギー(前の節で見た,結合の谷の底のまわりの振動を含みます)を足し合わせたものが,物質の内部エネルギーです.物体に蓄えられているのはこの内部エネルギーで,温度が上がるのは,主に分子の乱雑な運動が活発になるからです.これに対して熱は,温度差によって物体の間を移るエネルギーの量のことです.ブレーキで増えるのは内部エネルギーで,温度が上がったブレーキから周りの空気へ移っていくエネルギーが熱にあたります.日常のことばでは内部エネルギーや温度の高さまで「熱」と呼ぶことがありますが,物理では区別します.くわしくは第16章で整理します.

走っている車では,車を作る無数の原子が,そろって同じ向きに 20ms−1 で動いています.ブレーキの摩擦面では,ディスクとパッドの原子が互いに引っかかってはじき合い,その運動は個々の原子のばらばらな振動に変わります.規則正しいそろった運動のエネルギーが,不規則な運動のエネルギーに変わったのです.不規則な運動が活発になると,物体の温度は上がります.

定義 熱と温度の関係(比熱)

相変化がなく,その温度範囲と加熱の条件で比熱を一定とみなせるとき,質量 m の物体の温度を ΔT だけ上げるのに必要な熱の量 Q は

Q=mcΔT

である.c は物質ごとの値で比熱といい,単位は Jkg−1K−1 である.水は c≈4.2×103,鉄は c≈4.5×102 である(温度や加熱の条件でわずかに変わる).

この式を使うと,問いの 2.4×105J の大きさがつかめます.水 1kg(1L)に加えるなら ΔT=2.4×1051×4.2×103≈57K で,水道水を湯に近い温度まで上げられる量です.走っている車の運動エネルギーは,意外に大きいのです.

エネルギーのいろいろ

運動エネルギーとポテンシャルエネルギー,内部エネルギーのほかに,エネルギーにはさまざまな形があります.

形

例

何が蓄えているか

運動

走る車,流れる水

物体の運動

重力・弾性

高い所の水,縮んだばね

力の場の中での位置

内部(温度)

湯,焼けたフライパン

分子の乱雑な運動と,分子の間の力のポテンシャルエネルギー

化学

ガソリン,食べ物,電池

分子の中の電子の配置

電気・光

帯電した物体,電流,太陽光

電場・磁場,電磁波

核

ウラン,太陽の中心

原子核の中の核子の配置

形の多さに驚くかもしれませんが,本質は2つに絞れます.運動のエネルギーと,力(重力・電気の力・核の力)に結びついたポテンシャルエネルギーです.ガソリンが燃えるとき,電子の配置が変わって電気の力のポテンシャルエネルギーが下がり,その分が分子の乱雑な運動のエネルギーになります.物質 1kg あたりに蓄えられた量を比べると,形による桁違いの差が見えます.

蓄えられたもの

1kg あたりのエネルギー

水を高さ 100m 持ち上げる

約 1×103J

アルカリ乾電池

約 4×105J

ガソリン

約 4.6×107J

ウラン235の核分裂

約 8×1013J

エネルギーの流れと効率

エネルギーを別の物体に移す方法は2つあります.力で物体を動かす仕事と,温度差で自然に流れる熱です.どちらも移った量は J で測れます.

法則 エネルギーの保存

エネルギーは,形を変えたり,ある物体から別の物体に移ったりするが,全体の量は変わらない.

ブレーキでは,ディスクとパッドの間の動摩擦力の大きさを f′,その間で滑る道のりを d とすると,摩擦が奪う運動エネルギーは(f′ が一定なら)f′d で,これがディスクとパッドの内部エネルギーの増加になります.温度が上がったディスクとパッドからは,温度の低い周りの空気へ,熱としてエネルギーが移っていきます.いったん周りと同じ温度まで広がったエネルギーは,量こそ残っていても,もう仕事や運動エネルギーとして取り出せません.乱雑な運動をふたたびそろえるのが難しいからです.温度差が残っているうちは,その一部を熱機関で仕事に変えられますが,変えられる量には限りがあります.

車の運動エネルギーはブレーキの摩擦でディスクとパッドの内部エネルギーへ変わり,その一部は周りの空気へ移る熱となる.回生ブレーキでは,一部が電池の化学エネルギーへ変わる. 車の運動エネルギーはブレーキの摩擦でディスクとパッドの内部エネルギーへ変わり,その一部は周りの空気へ移る熱となる.回生ブレーキでは,一部が電池の化学エネルギーへ変わる.

エネルギーの変換のうまさは,効率で表します.

定義 効率

投入したエネルギーのうち,目的に使えたエネルギーの割合を効率という.

η=有用なエネルギー投入したエネルギー

電気モーターは 90 % 以上と高いのに対し,ガソリンエンジンは 30 % 前後で,残りは熱として捨てられます.熱を仕事に変える機械の効率には,原理的な上限があります.それはなぜか,第16章で学びます.

ポイント ここまでのまとめ

  • ブレーキで止まった車の運動エネルギーは,ブレーキの分子の乱雑な運動のエネルギー,つまり内部エネルギーの増加に変わり,その一部は温度差によって周りへ熱として移る.エネルギーは消えず,目に見えない形に移っている.

  • 熱は,温度差によって物体の間を移るエネルギーで,仕事と並ぶエネルギーの移り方である.相変化がなく比熱 c を一定とみなせるとき,温度を ΔT 上げるのに必要な熱は Q=mcΔT.

  • エネルギーには運動・位置・熱・化学・電気・核などの形があるが,本質は運動のエネルギーと力に結びついたポテンシャルエネルギーである.変換されても,全体の量は変わらない.

  • 周りと同じ温度まで広がったエネルギーは仕事に戻せない.温度差があれば一部は仕事にできるが,その割合には限りがある.変換の効率 η は,有用なエネルギーを投入したエネルギーで割ったものである.

23エネルギーの諸形態の例題

エネルギーの量を実際に数えてみます.熱の量は Q=mcΔT,運動エネルギーは 12mv2,仕事は力と距離の積で計算できます.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

質量 1.2×103kg の車が時速 72km/h で走り,ブレーキで止まる.運動エネルギーはすべてブレーキの熱になり,その熱は4枚の鉄のディスク(合計 20kg,比熱 4.5×102Jkg−1K−1)だけに入るものとする.

  1. 失われた運動エネルギーを求めよ.

  2. ディスクの温度上昇を求めよ.

  3. 同じ車が2倍の速さ(時速 144km/h)から止まるとき,温度上昇は何倍になるか.

ブレーキのディスクとパッド.走る車のブレーキ部分の模式図.車輪と一緒に回るディスクを2枚のパッドが両側から挟んでいる.パッドとディスクの接触面で熱が出て,ディスクの温度が上がることを矢印で示す. ブレーキのディスクとパッド.走る車のブレーキ部分の模式図.車輪と一緒に回るディスクを2枚のパッドが両側から挟んでいる.パッドとディスクの接触面で熱が出て,ディスクの温度が上がることを矢印で示す.
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考え方 (1) は運動エネルギーの式に代入する.(2) は,その分が熱 Q としてディスクに入ると考え,Q=mcΔT を ΔT について解く.(3) は速さへの依存を見る.

  1. v=72km/h=20ms−1 なので

K=12mv2=12×1.2×103×202=2.4×105J
  1. Q=K より

ΔT=Qmc=2.4×10520×4.5×102≈27K

である.実際は一部の熱が空気に逃げるので,これは上限の目安になる.

  1. 運動エネルギーは速さの2乗に比例するので,速さが2倍になると K は4倍である.ΔT も 4倍,約 1.1×102K になる.高速からの急ブレーキや長い下り坂でブレーキが過熱するのは,このためである.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

成人が1日に食べ物から得るエネルギーを 2000kcal とし,1kcal=4.2×103J とする.

  1. 1日の平均の消費電力を求め,100W の電球と比べよ.

  2. ご飯1杯のエネルギーを 250kcal とする.体重 60kg の人がこのエネルギーを使って山を登るとき,何 m 登れるか.筋肉が食べ物のエネルギーから仕事に変える効率を 25 % とする.

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考え方 (1) は1日のエネルギーを秒数で割る.(2) は,使える仕事を効率から求め,登る高さの位置エネルギー mgh に等しいとおく.

  1. 2000kcal=2000×4.2×103=8.4×106J,1日は 86400s なので

P=8.4×1068.64×104≈97W=97Js−1

である.安静にしている人は,ほぼ 100W の電球1つ分の熱を絶えず出していることになる.

  1. 食べたエネルギーは 250×4.2×103=1.05×106J で,仕事に使えるのはその 25 % なので 2.6×105J である.登る高さを h とすると mgh がこれに等しいので

h=2.6×10560×9.8≈4.5×102m

である.残りの 75 % は熱になり,体を温めて汗となって逃げる.ご飯1杯で標高差約 450m を登れる計算になる.

ポイント ここまでのまとめ

  • 質量 M の物体の運動エネルギー 12Mv2 がすべて,質量 m の別の物体(ブレーキなど)の温度上昇に使われるなら,12Mv2=mcΔT から温度上昇が求まる.運動する物体と温められる物体が別なら M と m は異なる.速さが2倍だと,移るエネルギーも温度上昇も4倍になる.

  • 人は食べ物の化学エネルギーを,1日平均で約 100W の割合で使っている.仕事に変わるのは効率の分だけで,残りは熱になる.

24エネルギーの諸形態の演習

力学的エネルギーが減った後の行き先を追い,収支を閉じてみましょう.効率を使うときは,何を入力とし,何を有用な出力と呼ぶのかを明示してください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

質量 1.0×103kg の車が,速さ 10ms−1 から水平な道で停止する.運動エネルギーはすべてブレーキの内部エネルギーになるものとする.

  1. 移ったエネルギーを求めよ.

  2. ブレーキの合計質量が 10kg,比熱が 5.0×102Jkg−1K−1 のとき,温度上昇を求めよ.

  3. 停止距離だけを2倍にした場合,温度上昇はどう変わるか.

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考え方 失われた運動エネルギーと,温められる物体の質量を別々に扱う.車全体の質量を比熱の式へ入れない.

  1. Q=12mv2=12×103×102=5.0×104J.車の運動エネルギーは減るが,系全体のエネルギーが消えるわけではない.

  2. ブレーキの熱容量は Mc=10×5.0×102=5.0×103JK−1 なので,ΔT=Q/(Mc)=10K となる.温度の差を表すので,これは摂氏で10度の上昇にも等しい.

  3. 始めと終わりの速さが同じなら移るエネルギーも同じで,温度上昇は変わらない.停止距離を延ばせば平均の制動力は小さくできるが,その力がする仕事の大きさは同じである.ただし,長い時間の間に外へ熱が逃げる場合は,問題の仮定が成立しない.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

モーターに 2.0×104J の電気エネルギーを入れたところ,荷物の重力ポテンシャルが 1.5×104J 増えた.荷物は始めも終わりも静止し,残りは全て装置と周囲の内部エネルギーとなった.

  1. 荷物を上げる効率と,内部エネルギーの増加を求めよ.

  2. この運転が 10s かかったとき,平均入力電力と平均有用仕事率を求めよ.

  3. 効率が100 %未満であることは,エネルギー保存に反するか.

モーターのエネルギー収支.入力電気エネルギーからモーターを経て,荷物の位置エネルギーと装置・周囲の内部エネルギーへ分岐する図を示している.未知の量はQとする. モーターのエネルギー収支.入力電気エネルギーからモーターを経て,荷物の位置エネルギーと装置・周囲の内部エネルギーへ分岐する図を示している.未知の量はQとする.
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考え方 効率の分母は入力全体で,分子は指定された目的に役立った分である.有用でないエネルギーも収支には残す.

  1. η=1.5×104/(2.0×104)=0.75,すなわち75 %である.内部エネルギーの増加は 2.0×104−1.5×104=5.0×103J となる.

  2. 入力電力は 2.0×103W,有用仕事率は 1.5×103W.同じ時間で割っているので,この2つの仕事率の比も0.75になる.瞬間の入力と出力が一定でなくても,運転全体での平均についてはこの計算ができる.

  3. 反しない.荷物の位置エネルギーと内部エネルギーの増加を加えると,入力に等しい.効率が小さいとはエネルギーの一部が消えたことではなく,選んだ目的に使えなかった割合が大きいということである.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

蓄電池のエネルギーを使うポンプの効率は80 %である.質量 M=400kg の水を,高さ h=5.0m のタンクへ上げる.その後,同じ水を下ろして効率60 %の発電機で電気を得る.g=10ms−2 とし,各効率はそれぞれ電気から位置エネルギー,位置エネルギーから電気への変換について定義する.

  1. 最初に必要な電気エネルギーを求めよ.

  2. 回収する電気エネルギーと往復効率を求めよ.

  3. 全過程でそれ以外の形へ移る量を求めよ.

揚水と発電の2段階変換.低い水槽,高さhのタンク,汲み上げるポンプと下ろして発電する経路を並べ,効率80 %と60 %を記す. 揚水と発電の2段階変換.低い水槽,高さhのタンク,汲み上げるポンプと下ろして発電する経路を並べ,効率80 %と60 %を記す.
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考え方 同じ位置エネルギーを,ポンプでは出力,発電機では入力として扱う.効率を足すのでなく,段階ごとの収支をつなぐ.

  1. 水に蓄える量は Mgh=2.0×104J.入力 E入 の80 %がこの量なので E入=2.0×104/0.80=2.5×104J.

  2. 発電量は E回収=0.60×2.0×104=1.2×104J.往復効率は E回収/E入=0.48,すなわち48 %.これは 0.80×0.60 に等しい.

  3. 差の 1.3×104J が内部エネルギーなどへ移る.ポンプでの 5.0×103J と発電機での 8.0×103J の和にも一致する.水が元の高さに戻っても,蓄電池は初めのエネルギーを取り戻せない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

質量 60kg の人が,標高差 200m を 1000s で登る.登るために追加で消費する化学エネルギーのうち25 %が重力ポテンシャルの増加になるとする.g=10ms−2,1kcal=4.0×103J とする.

  1. 高さを得る仕事と平均仕事率を求めよ.

  2. 追加の化学エネルギー消費をジュールとキロカロリーで求めよ.

  3. 同じ時間に,生命維持などで別に平均 80W を消費するとき,化学エネルギー消費の総量はいくらか.

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考え方 効率の対象を「登るための追加分」に限定して計算する.問題で別に与えられた基礎的な消費を,後で一度だけ加える.

  1. W=mgh=1.2×105J,平均仕事率は W/t=120W.これは重力に逆らう有用仕事についての値で,体内の総消費率ではない.

  2. E追加=W/0.25=4.8×105J=120kcal となる.このうち 3.6×105J は高さの増加には使われず,内部エネルギーなどへ移る.

  3. 別の消費は 80×1000=8.0×104J.したがって総量は 5.6×105J=140kcal.このモデルでは平均の総消費率は 560W になる.運動時間を変えると,(1) の仕事は同じでもこの別の消費量は変わるので,効率の定義を確認する必要がある.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の車が速さ v0 で高さ h の坂の上に入り,ふもとで速さ v1 になる.この間,空気抵抗などが一定のエネルギー D を奪い,残りの減少分は回生装置が受け取る.装置の入力の割合 η が電池に蓄えられ,残りは装置の内部エネルギーになる.

  1. 回生装置への入力 B と蓄電量を求めよ.

  2. m=1000kg,h=20m,v0=10ms−1,v1=20ms−1,D=2.0×104J,η=0.60,g=10ms−2 で計算せよ.

  3. 計算で B<0 になった場合,この運転の説明は成立するか.

坂道での回生と速度変化.坂の上の車v₀と下の車v₁,高低差hを示し,回生装置から電池へ向かう流れと抵抗による損失Dを示す. 坂道での回生と速度変化.坂の上の車v₀と下の車v₁,高低差hを示し,回生装置から電池へ向かう流れと抵抗による損失Dを示す.
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考え方 坂を下っていても,速度の増加にエネルギーが使われる.位置エネルギーの減少を全て回収できるわけではない.

  1. 車の力学的エネルギーの減少は mgh+12m(v02−v12).したがって

B=mgh+12m(v02−v12)−D,E蓄電=ηB

である.回生であるためには B≥0 を満たさなければならない.

  1. 高さから 2.0×105J を得る一方,運動エネルギーは 1.5×105J 増える.よって B=3.0×104J,蓄電量は 1.8×104J.装置の内部エネルギー増加は 1.2×104J で,抵抗による分と合わせて 3.2×104J が蓄電以外へ移る.

  2. 成立しない.指定された終速にするには,回生で奪うのでなく外部からエネルギーを加える必要がある.負の蓄電量としてそのまま効率を掛けると,駆動と回生の定義を混同する.

ポイント 教える人へ

  • 温められる物体の質量と,動いていた物体の質量を区別させる.

  • 効率の分母と分子を毎回言葉で確認するのがよい.

  • 多段階の変換では,各段の出力が次の入力になる図を描かせる.

  • 損失とは消滅ではないことを,全ての行き先の和で確認する.

25第6章の章末問題

仕事・エネルギー・運動量を組み合わせ,落下と衝突,可動台,円運動の問題に取り組みます.保存則を使える区間と衝突で変化する瞬間を分け,速さを測る基準と接触・張力の条件を図で確かめてください.

演習 1

オリジナル ★★☆☆☆

荷物を受け止める弾性シートを,たわみ x に比例する上向きの力 kx を及ぼす装置とみなす.質量 m=50kg の荷物を静かに載せると,x0=0.20m たわむ.荷物を,たわんでいないシートから高さ h の位置で静かに放す.シートの質量と抵抗を無視し,g=10ms−2 とする.

左は接触前,右は最大たわみの配置.高さの基準は無荷重のシートである. 左は接触前,右は最大たわみの配置.高さの基準は無荷重のシートである.
  1. k と最大たわみを h の関数として求めよ.

  2. シートからの力を重さの6倍以下にするための h の上限を求めよ.そのとき荷物の最大の上向き加速度はいくらか.

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考え方 荷物はシートに触れてからも落下する.失う重力の位置エネルギーには,たわみの分を含める.

  1. 静的なつり合いは kx0=mg なので,k=2.5×103Nm−1.最大たわみでは速度が0となり,mg(h+x)=kx2/2.正の根を選んで

x=x0+x02+2x0h,Fmaxmg=1+1+2hx0
  1. x≤6x0 を代入すると h≤12x0=2.4m.このとき x=1.2m,Fmax=3.0×103N で,合力は Fmax−mg=5mg.最大加速度は上向き 50ms−2 である.h=0 でも,静かに載せるのと異なり手を放して沈ませるので最大力は 2mg となる.平方根内は長さの2乗であり,たわみの次元も合う.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

天井に固定した軽い鉛直ばねの下端へ質量 m の物体をつなぎ,ばねが自然長の状態から静かに放す.ばね定数は k,空気抵抗はない.自然長から下向きの伸びを x とする.

  1. 最初に速さが0になる正の伸びを求めよ.

  2. 速さが最大になる伸びと,その速さを求めよ.

    1. と (2) の位置での加速度を求めよ.

自然長から放す鉛直ばね.鉛直ばねの自然長の下端と,伸びxで下がった物体mを並べる.下向きをxの正方向にする. 自然長から放す鉛直ばね.鉛直ばねの自然長の下端と,伸びxで下がった物体mを並べる.下向きをxの正方向にする.
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考え方 重力とばねを同じポテンシャルに含める.速さの最大位置は合力が0の位置であり,伸びが最大の位置とは異なる.

  1. 初期位置を重力ポテンシャルの基準にすると 12mv2+12kx2−mgx=0.v=0 の根は x=0 と x=2mg/k で,後者が最初の最大伸びである.

  2. K=mgx−kx2/2 を平方完成すると,x=mg/k で最大になる.そこで K=m2g2/(2k) より vmax=gm/k.

  3. 下向きを正とする運動方程式は ma=mg−kx.最大伸びでは a=−g,すなわち上向きに g.最大速さの位置では a=0 である.速さが0でも加速度は0とは限らず,力がつり合っても速さは0とは限らないことが同じ運動で確かめられる.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

質量 M,半径 R の天体の表面から,質量 m の物体を半径方向外向きに速さ v0 で打ち出す.天体は動かず,空気抵抗を無視する.ポテンシャル U(r)=−GMm/r を与えられた結果として使い,0<v02<2GM/R とする.

  1. 最大距離 rmax を求めよ.

  2. v02=GM/R の場合を計算せよ.

  3. 無限遠まで離れるための初速の下限を求めよ.

天体から半径方向へ打ち出す.天体の中心O,表面半径R,半径方向外向きの初速度v₀と任意の位置rを示している. 天体から半径方向へ打ち出す.天体の中心O,表面半径R,半径方向外向きの初速度v₀と任意の位置rを示している.
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考え方 遠方では重力を一定とみなせないので mgh の代わりに与えられたポテンシャルの差を使う.

  1. 最大距離で半径方向の速さは0であり,12mv02−GMm/R=−GMm/rmax.よって

rmax=R1−Rv02/(2GM)

である.仮定により分母は正で1より小さく,rmax>R となる.これは中心からの距離で,表面からの高さは rmax−R である.

  1. 分母が 1/2 なので rmax=2R,表面からの高さは R.

  2. 無限遠では U→0 なので,全エネルギーが非負であることが必要であり,半径方向のこの運動では十分でもある.v0≥2GM/R.等号では無限遠で速さが0へ近づき,有限の距離で転回しない.地表での一定の重力を無限遠まで外挿すると仕事が無限大になるが,その外挿はこの力の法則に合わない.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の物体を,高さ0の地点から高さ h の地点まで,固定された曲線状の坂に沿って非常にゆっくり引き上げる.坂は右上がりで,水平方向の全長は L,動摩擦係数は μ′ である.引く力は各点で接線方向を向く.速さを0へ近づける極限を考える.

  1. 微小区間の水平変位を dx,高さの変化を dy として,引く力の仕事を表せ.

  2. 全仕事を求め,坂の形への依存を論じよ.

ゆっくり引き上げる曲線の坂.右上がりの曲がった坂,高さh,水平全長L,途中の物体と接線方向の引く力Fを示している. ゆっくり引き上げる曲線の坂.右上がりの曲がった坂,高さh,水平全長L,途中の物体と接線方向の引く力Fを示している.
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考え方 十分ゆっくりなら曲線運動の向心加速度も無視でき,局所的な傾き θ に対して N=mgcos⁡θ とできる.

  1. 接線方向の力のつり合いより F=mgsin⁡θ+μ′mgcos⁡θ.微小道のりを ds とすると dy=sin⁡θds,dx=cos⁡θds だから

dW=Fds=mgdy+μ′mgdx

である.引く力に法線方向成分がないことも,この N の式の前提である.

  1. 全区間で積分して W=mgh+μ′mgL.この条件の下では坂の細かな形によらず,高さと水平全長で決まる.重力に逆らう仕事が mgh,摩擦に逆らう仕事が μ′mgL である.ただし有限の速さで曲がった坂を進めば N に向心加速度の寄与が入り,同じ結論にはならない.坂が途中で左右に折り返す場合も,摩擦には水平変位の符号つき和でなく水平道のりを使う必要がある.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

滑らかな水平面上の物体が,高さ h の滑らかな坂を静止から下り,長さ d の粗い水平区間を通って,滑らかな場所にある固定ばねへ衝突する.ばね定数は k,物体の質量は m,粗い区間の静止・動摩擦係数はともに μ′ である.h>μ′d とする.物体はばねにつながれず,接触中だけ押される.

  1. ばねの最大圧縮量を求めよ.

  2. 戻りに粗い区間を抜ける条件と,抜けた場合に坂を上る高さを求めよ.

  3. 抜けられない場合,粗い区間の右端からどれだけ入って止まるか.

粗い区間とばねの往復.左の坂,高さh,中央の長さdの粗い区間,右の滑らかな床上の壁につながるばねを示している. 粗い区間とばねの往復.左の坂,高さh,中央の長さdの粗い区間,右の滑らかな床上の壁につながるばねを示している.
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考え方 粗い区間を横切るたびに同じ μ′mgd が失われる.往復を一度の通過として数えない.

  1. ばねへ入るときのエネルギーは mg(h−μ′d) なので x=2mg(h−μ′d)/k.圧縮と復元の間に損失はなく,物体は自然長でばねを離れ,同じエネルギーで粗い区間へ戻る.

  2. 粗い区間を正の速さで抜ける条件は h>2μ′d.その後に上る高さは H=h−2μ′d である.等号の場合はちょうど左端に速さ0で達し,坂を上ることはない.

  3. μ′d<h<2μ′d では,粗い区間内で mg(h−μ′d)=μ′mgs より s=h/μ′−d.これは 0<s<d を満たす.ばねから既に離れ,水平面上に水平外力がないので,止まった後はその場に静止する.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の粒子のポテンシャルは U(x)=U0[(x/a)2−1]2 である.U0,a>0 とする.粒子を x=a から左向きに送り出す.

  1. 全エネルギーが U0/4 のとき,実際に動く範囲を求めよ.

  2. 左の谷まで非零の速さで通過する初速の条件を求めよ.

  3. 全エネルギーが 2U0 のとき,転回点と原点での速さを求めよ.

二重井戸の2つのエネルギー.二重井戸U=U₀[(x/a)²−1]²を示し,±aと山頂の高さU₀を示す.E=U₀/4とE=2U₀の線および交点を示し,交点の座標は記していない. 二重井戸の2つのエネルギー.二重井戸U=U₀[(x/a)²−1]²を示し,±aと山頂の高さU₀を示す.E=U₀/4とE=2U₀の線および交点を示し,交点の座標は記していない.
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考え方 4次式でも (x/a)2 を一つの変数として解ける.複数の区間が現れたら,初期位置を含む区間を選ぶ.

  1. [(x/a)2−1]2≤1/4 より 1/2≤(x/a)2≤3/2.右の谷から出発するので a/2≤x≤a3/2 を往復する.左側にも許される区間があるが,原点付近の禁止領域を横切れない.

  2. 山頂の U(0)=U0 を越すには mv02/2>U0,つまり v0>2U0/m.等号の扱いは有限の速さでの通過から除く.

  3. (x/a)2=1±2 のうち負の値は採用できないため,転回点は x=±a1+2.原点では K=2U0−U0=U0 なので v=2U0/m.曲線の山頂を越えて左右を行き来する.

演習 7

オリジナル ★★★☆☆

質量 M の台車が滑らかな水平面上に静止し,右の壁とばね定数 k の自然長のばねでつながれている.質量 m の小球が左から速さ u で衝突して付着する.衝突の間のばねの力積は無視できる.衝突で減った運動エネルギーの割合 α が,台車内部の質量 Mc,比熱 c の部品を温める.

  1. 衝突後の速さと最大圧縮量を求めよ.

  2. 部品の温度上昇を求めよ.

  3. 最大圧縮時までのエネルギーの行き先を全て示せ.

付着衝突と内部へのエネルギー移動.小球mが速度uで台車Mへ向かい,台車は右の壁とばねkでつながる.台車内の加熱対象Mcを小さな枠で示す. 付着衝突と内部へのエネルギー移動.小球mが速度uで台車Mへ向かい,台車は右の壁とばねkでつながる.台車内の加熱対象Mcを小さな枠で示す.
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考え方 衝突の運動量保存から,圧縮に使える分と内部へ移る分を分ける.熱の計算は,衝突前の全運動エネルギーに直接割合を掛けない.

  1. V=mu/(M+m).衝突後の運動エネルギーをばねへ移して x=mu/k(M+m).

  2. 衝突損失は Q=mu2/2−(M+m)V2/2=mMu2/[2(M+m)].部品に入る量が αQ なので

ΔT=αmMu22(M+m)Mcc

である.比熱の式に入れる質量は Mc であり,運動量保存の質量 M+m と混同しない.

  1. ばねに m2u2/[2(M+m)],指定の部品に αQ,その他の変形・内部エネルギーなどに (1−α)Q が移る.その和は mu2/2 に等しい.床が滑らかでも付着衝突の損失はあり,力学的エネルギー保存を全過程に一括して適用することはできない.

演習 8

東京大 2010 前期(改題) ★★★☆☆

質量 2m の滑走体Aを高さ h から静かに放し,底を高さ0とする半径 R の鉛直ループへ送る.物体はレールの内側に乗るだけで,つり下がれない.ループ最下点に質量 m のBを置く場合も考える.衝突は水平な正面衝突で,物体は質点とし,回転を無視する.ループの先は高さ R まで滑らかで,そこから上は傾斜角 45∘,動摩擦係数 μ′=1/4,静止摩擦係数 μ=1/3 の直線である.

左から出発し,最下点でBに衝突する.右の斜面は高さRから粗い. 左から出発し,最下点でBに衝突する.右の斜面は高さRから粗い.
  1. Bがない場合,一体になる衝突の場合,弾性衝突後にAを取り除く場合について,ループを一周できる h の下限を比較せよ.衝突後の速度はニュートンダイアグラムでも求めよ.

  2. 弾性衝突の場合,h=2R とする.Bの最高到達高さと,その後動き出す向きを求めよ.R=0.80m として高さを数値で評価せよ.

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考え方 ループの条件は頂点で抗力が負にならないこと.その条件に必要な最下点の速度を,衝突前の落下高さへ換算する.

  1. 頂点で mg+N=mvtop2/R より vtop2≥gR.最下点の速さ w は w2=vtop2+4gR≥5gR である.Aの入射速度は u=2gh.速度軸上にBの点O,Aの点 u,重心の点G (2u/3) を打つ.一体化では両点がGに集まり,w=2u/3.弾性ではGに関して点対称に移し,Bは w=4u/3,Aは u/3 となる.したがって順に

h≥52R,h≥458R,h≥4532R

弾性衝突では軽いBがAの入射速度より速くなるが,その運動エネルギーは入射エネルギーの 8/9 であり,増殖していない.

  1. Bの最下点でのエネルギーを mg で割った高さは 16h/9.高さ R より上を z だけ上ると,摩擦の仕事の大きさは μ′mgcot⁡45∘z=mgz/4.よって R+5z/4=32R/9,最高高さは

H=R+z=13745R≈2.4m

丸める前は 2.4356m である.tan⁡45∘>μ なので静止できず,斜面を下る.摩擦が0なら H=16h/9 に戻り,今回の高さはそれより低い.

演習 9

東京大 2001 前期(改題) ★★★☆☆

支点Oを原点とし,左方 3ℓ/5 に滑らかな鉛直壁がある.長さ ℓ の糸の先の小球を右側から静かに放すと,壁上のB (−3ℓ/5,−4ℓ/5) へ左上向きに衝突する.反発後,糸はたるみ,小球はOの真下で放物運動の最高点に達した.Bから最高点までの高さは H=0.45m,ℓ=1.6m,g=10ms−2 である.

Bへの入射は左上向き,反発後の最高点は支点Oの真下にある. Bへの入射は左上向き,反発後の最高点は支点Oの真下にある.
  1. 衝突直前の速さ s,反発係数 e,放した高さとBとの高低差を求めよ.壁の法線方向のニュートンダイアグラムも説明せよ.

  2. 最高点に至るまで糸がたるんでいることを確かめよ.

  3. 糸を軽い剛体棒に替え,同じ速さ s でBに入射させる.壁との衝突が弾性の場合,壁から受ける力積を質量 m を用いて求めよ.

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考え方 壁では鉛直速度が保たれるが,糸と棒では拘束の働き方が違う.棒の場合には壁の力積だけを合力積と思わない.

  1. 接線方向から入射速度は (−4s/5,3s/5),反発後は (4es/5,3s/5).無限に重い静止壁の法線方向の速度図ではGがOに近づき,入射点をOの反対側へ e 倍して移す.接線成分にはこの操作をしない.最高点の条件より 3s/5=2gH=3.0ms−1,したがって s=5.0ms−1.飛行時間は 0.30s,水平速度は (3ℓ/5)/0.30=3.2ms−1 で,e=0.80.放した位置はBより s2/(2g)=1.25m 高い(約 1.3m).支点より 0.030m 下なので,静止から糸を張って出発できる.

  2. 秒を単位とする時刻の数値を t とすると,座標のメートル単位の数値は x=−0.96+3.2t,y=−1.28+3t−5t2.したがって

x2+y2−ℓ2=t(−13.824+32.04t−30t2+25t3)

0<t≤0.30 では括弧は −13.824+32.04(0.30)+25(0.30)3=−3.537 以下なので負である.球は糸の届く円の内側にあり,最高点まで糸は張り直さない.

  1. 棒では反発後も接線方向に動き,弾性なので速度は完全に逆転する.Bで壁の水平力積 J を接線方向に射影すると (4/5)J=2ms.よって J=5ms/2 である.棒の力積には接線成分がなく,この射影で消せる.合力積の大きさ 2ms とは異なり,単位はどちらも Ns である.

演習 10

東京大 1997 前期(改題) ★★★☆☆

滑らかな水平床上の台の質量は M=3m である.台に固定した滑らかなレールは斜面から水平区間CDにつながり,Dには台と一体の壁がある.小球の質量は m,CDの長さは L=1.2m である.台と小球を静止させ,小球をCDより h=0.60m 高い位置から放す.CからDへの時間を t1,壁で反発してDからCへ戻る時間を t2 としたところ,t2/t1=5/3 であった.g=10ms−2 とする.

水平区間CDの長さLは台から測る.Dの壁も台と一緒に動く. 水平区間CDの長さLは台から測る.Dの壁も台と一緒に動く.
  1. 最初にCへ来たときの小球と台の速度,t1,反発係数 e を求めよ.

  2. 衝突前後をニュートンダイアグラムで表し,失われたエネルギーと,小球が戻って上る最高高さを求めよ.

  3. 小球の最初と2度目のC通過の間に,台はどれだけ変位するか.

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考え方 CDの長さは台から測る.地上での小球の速さで割っても通過時間にはならない.壁はCDに垂直で,小球と台の衝突は水平方向の正面衝突として扱う.

  1. 右向きを正とし,相対速度を w=u−V とする.水平運動量は mu+3mV=0 なので u=3w/4,V=−w/4.換算質量は 3m/4 で,mgh=(1/2)(3m/4)w2 より w=8gh/3=4.0ms−1.したがって u=3.0,V=−1.0ms−1,t1=L/w=0.30s.帰りの相対速さは ew なので t2/t1=1/e,e=0.60,t2=0.50s である.

  2. 速度軸上ではGはOに一致し,入射点 3.0,−1.0 をGの反対側へ0.60倍して移す.衝突後の小球と台の速度はそれぞれ −1.8,0.60ms−1.失うエネルギーは (1−e2)mgh=0.64mgh である.再び上る最高点では台に対する速度が0で,全水平運動量も0なので両者が静止する.よって hreturn=e2h=0.216m≈0.22m.e=1 なら元の高さに戻る.

  3. 台の変位は Vt1+(−eV)t2=−0.30+0.30=0m.小球が台に対して同じCに戻るため,水平重心が動かないことからも分かる.エネルギーを失っても,重心の条件は変わらない.

演習 11

東京大 1996 前期(改題) ★★★☆☆

乾燥質量 m の小型ロケットに質量 m の燃料を載せ,鉛直円形レールの最下点に静止させる.ロケットはレールから外れない構造で,摩擦はない.噴射する燃料の速度は,噴射直前の機体から測って接線の後方へ u である.方式Aは燃料全部を一度に放出する.方式Bは m/2 ずつ2回放出し,2回目は機体が再び最下点を最初と同じ向きに通る瞬間に行う.燃料は塊として瞬間的に放出され,その後は機体に触れない.

レールは機体を両側から拘束する.放出燃料の速さuは噴射直前の機体から測る. レールは機体を両側から拘束する.放出燃料の速さuは噴射直前の機体から測る.
  1. 噴射直前の全質量を M,放出質量を q,速度を v として,噴射後の機体速度を求めよ.

  2. AとBの噴射終了後の最下点での速さを求めよ.

  3. 到達できるレール頂点の高さの上限を比較せよ.u=12ms−1,g=10ms−2 とする.上限ぴったりでは頂点への到達に無限の時間がかかることにも注意せよ.

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考え方 放出する塊の速度を,噴射後の機体に対する相対速度と取り違えない.噴射間には力学的エネルギーを使う.

  1. 接線方向の運動量保存より Mv=(M−q)vafter+q(v−u).したがって vafter=v+qu/(M−q).外れないレールからの力積は法線方向なので,この接線方向の式を妨げない.

  2. Aは M=2m,q=m より vA=u.Bの1回目は M=2m,q=m/2 なので速さ u/3 を得る.一周する場合も途中で戻る場合も,噴射しなければ最下点で同じ速さとなる.最初と同じ向きの通過を選ぶと,2回目の直前も u/3 である.ここで M=3m/2,q=m/2 だから増分は u/2,vB=5u/6.

  3. 頂点の高さを D とすれば mgD≤mv2/2 がエネルギー上の条件で,抗力の符号に制限はない.上限は

DA=u22g=7.2m,DB=25u272g=5.0m

有限時間で頂点を越えるには不等号を厳密にして D<DA,D<DB とする.またBでは,1回目の速さがちょうど頂点への限界となる D=u2/(18g)=0.80m も,2回目の噴射まで戻れないので除外する.噴射のエネルギー投入量を同じと指定した比較ではないため,同じ燃料質量でもAのほうが速くなって矛盾しない.高さは速度の2乗を加速度で割った次元である.

演習 12

東京大 1995 前期(改題) ★★★☆☆

滑らかな固定レールに,上に凸の半径 ρ の円弧を設ける.左端Cの接線は水平から 30∘ 上向き,右端Eでは 30∘ 下向きで,両端の高さを0とする.円弧の前後には接線方向の直線レールが滑らかにつながっている.質点を別の滑らかな助走路から送り込み,全エネルギーを mgh とする.質点はレールの上側に乗り,接着されていない.

CとEは同じ高さ.中央の円弧は上に凸で,両端の接線の傾斜角は30度. CとEは同じ高さ.中央の円弧は上に凸で,両端の接線の傾斜角は30度.
  1. 円弧の頂点から測った中心角を θ として,高さ,速さ,垂直抗力を表せ.

  2. CからEまで浮かずに通過できる h の範囲を求め,ρ=2.0m で評価せよ.

  3. 端の傾斜角を一般の α に変えると,そのような範囲が存在するためにはどんな条件が必要か.

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考え方 凸のレールでは重力の内向き成分から抗力を引いたものが向心力である.速さが大きすぎても接触を保てない.

  1. −30∘≤θ≤30∘ とし,c=cos⁡30∘ とおく.高さ y=ρ(cos⁡θ−c),v2=2g[h−ρ(cos⁡θ−c)].内向きの式は mgcos⁡θ−N=mv2/ρ なので

N=mg(3cos⁡θ−2c−2hρ)
  1. 頂点を越えるには h>ρ(1−c) が必要で,等号では頂点に漸近して通過しない.N は両端で最小だから h≤ρc/2.合わせて

ρ(1−32)<h≤34ρ

数値は 0.268m<h≤0.866m(境界値は約 0.27m,0.87m)である.上限では端で N=0 だが,円弧内部では正なので接触を保てる.

  1. 0<α<90∘ とすると,下限が上限より小さい条件は 1−cos⁡α<cos⁡α/2,すなわち cos⁡α>2/3 である.α→0 で障害の高さは0へ近づく.各上限・下限は半径に比例しており,長さの次元も正しい.

演習 13

東京大 1988 前期(改題) ★★★☆☆

質量 M の斜面台は,滑らかな水平床上で x 方向だけに動ける.斜面は x 方向に上り,y 方向には同じ断面が続き,入口は床と滑らかにつながっている.質量 m の粒子が水平な速度 (vcos⁡α,vsin⁡α) で入り,上ってから床へ戻る.摩擦はなく,台は初め静止し,粒子は面から離れない.0<α<90∘ とする.

斜面はy方向に一様で,台はx方向だけ動く.入射角αは水平面内で測る. 斜面はy方向に一様で,台はx方向だけ動く.入射角αは水平面内で測る.
  1. 保存される粒子の速度成分を挙げ,最高高さを求めよ.

  2. 床へ戻った粒子と台の速度を求め,x 成分の変化を弾性衝突のニュートンダイアグラムと比較せよ.

  3. M=2m,v=6.0ms−1,α=60∘,g=10ms−2 のとき,最高高さと粒子の出射方向を求めよ.出射方向は正の x 軸から測る.

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考え方 斜面台が動くので,粒子だけのエネルギーは保存しない.一方,y 方向には粒子に力が働かない.

  1. 粒子の y 成分は vy=vsin⁡α のまま.最高点では斜面を上る相対速度が0となるため,粒子と台の x 速度は共通の V=mvcos⁡α/(m+M) となる.保存する y 方向のエネルギーを差し引けば

mgh=12mMm+Mv2cos2⁡α,h=Mm+Mv2cos2⁡α2g
  1. 同じ高さへ戻れば x 方向の運動エネルギーも元に戻る.入射時の相対速度 vcos⁡α は帰りに反転するので,速度軸上のG (mvcos⁡α/(m+M)) に関する点対称の作図となる.よって

vx,out=m−Mm+Mvcos⁡α,vy,out=vsin⁡α,Vout=2mm+Mvcos⁡α

接触は短い衝突ではないが,入口と出口の対応は1次元弾性衝突と同じである.

  1. h=0.30m,粒子は (−1.0,33)ms−1,台は 2.0ms−1.粒子の速さは 28≈5.3ms−1,方向は第2象限で β≈101∘.逆三角関数の正弦だけから鋭角を選んではならない.M→∞ では x 成分だけが反転して粒子の速さは元に戻り,M=m では出射方向が y 方向になる.

演習 14

東京大 1987 前期(改題) ★★★☆☆

無重力の直線実験装置で,同質量 m の筒Bと内部の荷物Cを静止させる.固定装置がBを右へ一定の力 3f で距離 d 押し,この間CはBの底と接して一緒に動く.外部の駆動が終了すると,Bに積んだ内部装置がCを右へ力 f で押す.CがBに対して距離 2d 動くと内部装置も停止し,以後2物体は自由に動く.摩擦と装置の質量を無視する.

上段は固定装置による駆動,下段はB内の装置による押し出し.後半の力は作用反作用の対である. 上段は固定装置による駆動,下段はB内の装置による押し出し.後半の力は作用反作用の対である.
  1. 最初の段階のCへの接触力,共通速度 w,経過時間 T1 を求めよ.

  2. 次の段階の所要時間 τ,終了時の速度 vB,vC を求めよ.

  3. 2つの装置がBとC全体にした仕事を求めよ.内部装置がCだけにする仕事との違いも示し,m=2.0kg,f=3.0N,d=0.50m で検算せよ.

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考え方 内部装置はCを押すと同時にBから反作用を受ける.装置の全仕事は,力と相対変位の積になる.

  1. 2物体の加速度は a=3f/(2m).Cへの接触力は ma=3f/2,w=3fd/m,T1=4md/(3f) である.

  2. 後半は aB=−f/m,aC=f/m.相対加速度は 2f/m なので 2d=(f/m)τ2,τ=2md/f.s=fτ/m=2fd/m とおけば vB=w−s,vC=w+s である.重心速度は w のままで,相対運動だけにエネルギーが加わる.

  3. 固定装置の仕事は W1=3fd.後半の変位は ΔxB=wτ−d,ΔxC=wτ+d だから

W2C=f(wτ+d),W2B=−f(wτ−d),W2=W2C+W2B=2fd

数値は w=1.5ms−1,s≈1.225ms−1,T1≈0.667s,τ≈0.816s,vB≈0.28,vC≈2.7ms−1.W1=4.5J,W2=3.0J,一方 W2C≈5.2J,W2B≈−2.2J である.全運動エネルギーは m(w2+s2)=5fd=7.5J となり,全仕事と一致する.仕事の単位は力×距離である.

演習 15

オリジナル ★★★☆☆

滑らかな水平面上で,質量 m の球Aが速さ u で x 方向に進み,静止した質量 M の球Bと弾性衝突する.衝突後,Aは正の y 方向へ進み,速さは qu であった.球の回転と摩擦は無視する.

球Aの入射方向をx軸,衝突後のAの方向をy軸にとる.Bの衝突後の速度は未知である. 球Aの入射方向をx軸,衝突後のAの方向をy軸にとる.Bの衝突後の速度は未知である.
  1. ニュートンダイアグラムを使い,この散乱が可能な質量の大小関係と,q から求まる質量比を示せ.

  2. Bの速度と反跳角を求めよ.

  3. m=0.20kg,u=5.0ms−1,q=0.60 のとき,M,Bの速さ,Bに渡ったエネルギーを求めよ.

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考え方 入射方向と直角な速度の先端は,速度空間の縦軸上にある.その点がAの円に乗る条件を使う.

  1. Gは (mu/(m+M),0),Aの円の半径は Mu/(m+M).縦軸上の点 (0,qu) が円に乗るので

(mum+M)2+q2u2=(Mum+M)2,q2=M−mM+m,Mm=1+q21−q2

Aが実際に動くには M>m,したがって 0<q<1.M=m では直角方向の交点が原点だけとなり,散乱方向は定まらない.

  1. 運動量保存から vB=(mu/M,−mqu/M).速さは (m/M)u1+q2,方向は x 軸より下へ,tan⁡φ=q を満たす角 φ である.

  2. M/m=17/8,M=0.425kg≈0.43kg.Bの速度は (40/17,−24/17)ms−1,速さは約 2.7ms−1,φ≈31∘.受け取るエネルギーは (1−q2)mu2/2=1.6J.Aの 0.90J と合わせて入射時の 2.5J に等しい.M→∞ では q→1 で,固定壁に近い的はエネルギーをほとんど受け取らない.

26第6章の発展問題

★4・★5の発展問題で,散乱,質量の放出,反復衝突,接触の消失や摩擦による停止を扱います.重心運動と相対運動を分け,ニュートンダイアグラムやエネルギーの式で候補を求めてから,位置関係と解の適用範囲を確かめてください.

演習 1

オリジナル ★★★★☆

固定された半径 R の滑らかな半球の外面の頂上で,質量 m の小物体に水平な速さ u を与える.0<u2<gR とする.中心から物体へ引く半径と上向き鉛直線のなす角を θ とする.

  1. 接触中の速さと垂直抗力を求めよ.

  2. 面を離れる角度と速さを求めよ.

  3. u→0 と,初めから u2≥gR の場合を説明せよ.

半球外面を滑る物体.半球の外面,頂上の初速度u,一般位置の物体,角θと半径Rを示している.離脱点やその角度は描かない. 半球外面を滑る物体.半球の外面,頂上の初速度u,一般位置の物体,角θと半径Rを示している.離脱点やその角度は描かない.
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考え方 外面では抗力が中心から外向きである.内側を走るループと符号が逆になることに注意する.

  1. 落ちた高さは R(1−cos⁡θ) なので v2=u2+2gR(1−cos⁡θ).中心向きに mgcos⁡θ−N=mv2/R より

N=m(3gcos⁡θ−2g−u2R)

となる.

  1. 離脱の境界は N=0.よって cos⁡θ∗=(2+u2/(gR))/3,v∗2=(2gR+u2)/3.接触開始時の N=m(g−u2/R)>0 から,角度が増すと抗力が減って初めて0になる位置である.そこで接線方向の速さは正で,その先で面に沿うには負の抗力が必要になるため離脱する.

  2. u→0 なら cos⁡θ∗→2/3.ただし頂上に厳密に静止させた完全な理想系は,きっかけがなければ動かない.これは微小な初速を与えた極限である.u2>gR なら初めから接触を保てず,等号でも直後には負の抗力が必要になるので頂上で離れる.

演習 2

オリジナル ★★★★☆

半径 R の滑らかな鉛直ループの内側へ,質量 m の小物体を最下点から速さ v0 で送り込む.q=v02/(gR)>0 とおく.物体は面に押されるだけで,面へ固定されていない.

  1. 最下点から測る角 θ で,接触中の v2 と N を求めよ.

  2. 0<q<2,2<q<5,q≥5 の運動を分類せよ.

  3. 境界 q=2 を説明せよ.

ループの接触条件を調べる.ループ内面と最下点の速度v₀,一般位置の角θを示す.分類の境界角や離脱軌道は描かない. ループの接触条件を調べる.ループ内面と最下点の速度v₀,一般位置の角θを示す.分類の境界角や離脱軌道は描かない.
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考え方 速さが0になる候補と,抗力が0になる候補のうち,先に実現する方を採用する.接触を失った後まで円運動の式を延長しない.

  1. v2=gR(q−2+2cos⁡θ),N=mg(q−2+3cos⁡θ).

  2. 速度0の候補は cos⁡θt=1−q/2.q<2 では θt<π/2 で,そこで N=mg(1−q/2)>0.よって接触を保ったまま引き返す.2<q<5 では抗力0の位置が cos⁡θ∗=(2−q)/3 となり,そこで

v∗2=gRq−23>0

だから離脱する.q≥5 では頂点で N=mg(q−5)≥0,v2=gR(q−4)>0 であり,一周を通して接触を保てる.q=5 は頂点で抗力が一瞬0になる限界である.

  1. q=2 では側面の θ=π/2 で v=N=0 が同時に成立する.そこで重力の接線成分が下向きに残るため,物体は下へ引き返す.直後には cos⁡θ>0 となって抗力が正に戻る.N=0 だけを見て,必ず飛び出すと結論してはいけない.

演習 3

オリジナル ★★★★☆

一様で伸びない鎖の長さを L,質量を M とする.水平な机の端から長さ y0=L/2 が垂れ下がり,残りは机上に一直線に置かれている.机上部分の静止・動摩擦係数はともに 1/3 である.縁は滑らかに丸められ,曲がる部分の長さと摩擦を無視する.鎖を静かに放す.

  1. 動き始めることを確かめよ.

  2. 垂れた長さが y になるまでの摩擦の仕事を求めよ.

  3. 最後の端が机を離れる直前の速さを求めよ.

机から滑り落ちる一様な鎖.机上から丸い縁を通って垂れる鎖を示している.全長L,初期の垂れ長y₀と一般の垂れ長y,机上の摩擦係数1/3を示す. 机から滑り落ちる一様な鎖.机上から丸い縁を通って垂れる鎖を示している.全長L,初期の垂れ長y₀と一般の垂れ長y,机上の摩擦係数1/3を示す.
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考え方 同時に動く鎖全体の質量は一定である.摩擦力は机上の長さが減るにつれて小さくなるので,初めの値を全距離に掛けてはいけない.

  1. 線密度を λ=M/L とする.垂れた部分の重力は λgy0=Mg/2,最大静止摩擦力は λg(L−y0)/3=Mg/6 なので動き出す.以後は駆動する重力が増え,摩擦は減るから途中で止まらない.

  2. 鎖が dy 動くと机上の各部分も同じ道のりを動くので

Wf(y)=−λg3∫y0y(L−z)dz=−λg3[L(y−y0)−y2−y022]

となる.縁の理想的な抗力は進行方向に垂直で仕事をしない.

  1. 机の高さを基準にして U(y)=−λgy2/2.最後までの減少は λg(L2−y02)/2=3MgL/8.摩擦の仕事は Wf(L)=−MgL/24 だから Mv2/2=MgL/3,よって v=2gL/3.鎖全体が共通の速さをもつため,運動エネルギーには垂れた部分だけでなく全質量 M を使う.

演習 4

オリジナル ★★★★☆

滑らかな水平面上で,質量 m と 2m の2物体を,ばね定数 k の軽いばねでつなぐ.ばねは自然長で,左の物体 m だけが右向きに速さ u をもち,右の物体 2m は静止している.物体同士は直接衝突せず,ばねは弾性限界内である.

  1. 最大圧縮の瞬間の両物体の速度を求めよ.

  2. 最大圧縮量を求めよ.

  3. 初めて自然長へ戻った瞬間の各速度を求めよ.

ばねでつながれた2物体.自然長のばねで結ばれた左の物体mと右の物体2m,左だけに初速度uを示す. ばねでつながれた2物体.自然長のばねで結ばれた左の物体mと右の物体2m,左だけに初速度uを示す.
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考え方 外力の水平成分が0なので全運動量は一定である.ばねの圧縮が最大の瞬間は相対速度が0だが,地面に対して両物体が停止するわけではない.

  1. 共通速度を V とすれば 3mV=mu より V=u/3.

  2. 最大圧縮時にも 3mV2/2=mu2/6 の運動エネルギーが残る.よって

12kx2=12mu2−16mu2=13mu2,x=u2m3k

となる.左の物体の初期エネルギーを全てばねへ入れると,この残る分を見落とす.

  1. 自然長では再び弾性エネルギーが0だから v1+2v2=u,v12+2v22=u2.これらを解くと,初期状態の根 (v1,v2)=(u,0) と,(−u/3,2u/3) が得られる.初めて戻るときはばねが伸びる向き,つまり v2−v1>0 なので後者を選ぶ.左の物体は反転し,右の物体は右へ進む.周期の式を使わず,運動量とエネルギーだけで求まる.

演習 5

東京大 1992 後期(改題) ★★★★☆

水平面で,質量 m の滑走体Aが速度 (u,0) で,静止した質量 M のBに弾性衝突する.回転と外力の力積を無視する.重心系でAの速度が反時計回りに回る角を χ(0≤χ≤π),実験室系でAが曲がる角を θ,Bが入射方向より下へ進む角を φ とする.入射エネルギーを E=mu2/2 とする.

θはAの曲がる角,φはBの反跳角.これらは実験室系で測る. θはAの曲がる角,φはBの反跳角.これらは実験室系で測る.
  1. 重心速度と各物体の重心系の速度を求め,弾性衝突でニュートンダイアグラムの円の半径が変わらない理由を説明せよ.

  2. χ から衝突後の速度成分,θ,φ を求めよ.m/M=3,1,1/2 でAの取り得る方向を比較せよ.

  3. Bに渡るエネルギー EB を求めよ.m=3M の実験で EB/E=3/8 と測定したとき,χ,θ,φ を逆算せよ.m=0.60kg,u=4.0ms−1 としてエネルギーも評価せよ.

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考え方 重心系では2つの運動量が正反対で,速さの比も固定される.エネルギー保存は,その大きさを固定する条件になる.角度を先に決めつけず,速度空間の円と原点の位置関係を見る.

  1. 全質量を S=m+M と書く.V=(mu/S,0),衝突前の重心系の速度は vA′=(Mu/S,0),vB′=(−mu/S,0).重心運動のエネルギー SV2/2 は運動量保存で変化しない.したがって弾性衝突では相対運動のエネルギー μu2/2,ただし μ=mM/S,も保存する.相対速さは u のままで,Gを中心とする半径 Mu/S,mu/S の2円が保たれる.速度先端はGをはさんで反対側にある.

[図:重心系の角度を変える速度図]

初期状態は散乱角0度.解答用の図で,χを変えるとGを固定した2円の上を速度先端が動く.原点からの矢印とGからの半径の違いを比較できる.

  1. GからAの先端へ向かう半径を χ 回し,最後に重心速度を足すと

vA,after=uS(m+Mcos⁡χ,Msin⁡χ),vB,after=muS(1−cos⁡χ,−sin⁡χ)

したがって tan⁡θ=sin⁡χ/(m/M+cos⁡χ).分母が負なら第2象限を選び,分母0なら 90∘ とする.Bの円はOを通り,OGとGBの長さが等しい三角形から φ=(π−χ)/2(χ>0).χ=0 ではBが静止して方向はない.

m=3M ではOがAの円の外にあり,接線の直角三角形から sin⁡θmax=1/3,θmax≈19.5∘.同じ 0<θ<θmax には,円の手前と奥の交点に対応する2つの速さがある.m=M ではOが円周上にあり,動くAは 0≤θ<90∘.χ=π ではAは停止する.m=M/2 ではOが円内に入り,0≤θ≤180∘ が可能となる.鏡映した散乱も許せば上下両側に同じ範囲がある.

  1. Bの成分を2乗して足すと vB2=2m2u2(1−cos⁡χ)/S2.よって

EBE=2mMS2(1−cos⁡χ)=4mMS2sin2⁡χ2

最大値は正面衝突の χ=π で 4mM/S2.等質量なら1だが,質量差があると1より小さい.m=3M なら係数は 3/4 なので,3/8=(3/4)sin2⁡(χ/2) より χ=90∘.θ=arctan⁡(1/3)≈18.4∘,φ=45∘ である.

数値では M=0.20kg,E=4.8J,EB=1.8J,EA=3.0J.速度はAが (3,1),Bが (3,−3)ms−1 となり,運動量は (2.4,0)kgms−1 を保つ.エネルギー比は無次元であり,χ→0 では移行エネルギーが0になる.

演習 6

東京大 1993 後期(改題) ★★★★☆

無重力下で質量 4m の回収ドローンが質量 m の球を持ち,静止した質量 2m の反射板から右向きに速さ u>0 で遠ざかっている.球を板に向け,投射直後のドローンに対して左向きに速さ v で投げる.すべて同一直線上の運動とし,板は衝突しても回転しない.次の2実験を別々に行う.

左の板は初め静止.ドローンは右へ遠ざかり,球を左へ投げる.上はひも付き,下はひもなし. 左の板は初め静止.ドローンは右へ遠ざかり,球を左へ投げる.上はひも付き,下はひもなし.
  1. 投射直後のドローンと球の速度を求めよ.

  2. 自然長 L,ばね定数 k の,伸びたときだけ張力を生じる軽いひもで球をドローンにつなぐ.板には届かないほど遠くで実験する.最大のひもの長さと,再捕獲後の速度を求めよ.m=0.50kg,k=40Nm−1,L=1.0m,v=8.0ms−1 とする.

  3. ひもを外し,板との反発係数を e(0<e≤1)とする.球を再捕獲できる a=v/u と e の領域を,ニュートンダイアグラムを用いて求めよ.板は投射時にドローンより左にあり,ドローンは投射後に推進しない.

  4. u=0.20ms−1,e=0.95 では v=8.0ms−1 で回収できるか.捕獲して一体になった後の速度も求めよ.

解答を見る

考え方 投射,弾性ひもの伸長,板との衝突,捕獲では系の取り方が違う.再捕獲には「球が右へ戻る」だけでは足りず,逃げるドローンより速く進む必要がある.

  1. ドローンを U,球を b とすると 4mU+mb=5mu,U−b=v.したがって U=u+v/5,b=u−4v/5.

  2. 重心速度は u,換算質量は 4m/5.ひもが自然長になるまでは相対速さ v が一定で,伸び x が最大の瞬間には相対速さが0となる.よって kx2/2=(1/2)(4m/5)v2,最大長は

Lmax=L+v4m5k=1.8m

その後は相対運動が反転し,ひもがたるんでからも接近を続ける.捕獲後の全質量は元の 5m で,全運動量も変わらないから速度は u に戻る.捕獲では相対運動のエネルギー (1/2)(4m/5)v2=12.8J(約 13J)が変形などへ移るので,捕獲の瞬間まで力学的エネルギーが保存するとはいわない.

  1. まず球が板へ向かうには b<0,すなわち a>5/4 が必要.球と板の速度図のGは b/3 にある.球の点 b をGの反対側へ e 倍した点が衝突後の速度なので

c=b3−e(b−b3)=1−2e3b

再捕獲には厳密に c>U が必要である.両者は衝突時に離れているから,等速の c=U では会わない.式を整理すると

(8e−7)a>10(1+e)

右辺が正なので,許される領域は 7/8<e≤1,a>10(1+e)/(8e−7).この下限は常に 5/4 より大きいから,最初の到達条件も満たす.横軸 e,縦軸 a の図では,e=7/8 に垂直な漸近線を持つ右下がりの境界曲線より上側で,曲線そのものは除く.完全弾性でも a>20 が必要である.

  1. e=0.95 で下限は a>32.5,実際は a=40 なので回収できる.U=1.8,b=−6.2,c=1.86ms−1 で,球はドローンより 0.060ms−1 だけ速い.捕獲後は (4U+c)/5=1.812ms−1(約 1.8ms−1).板の速度は (1+e)b/3=−4.03ms−1 で,全系では 5m(1.812)+2m(−4.03)=5m(0.20) と運動量を保つ.ひも付きの実験と違い,板へ運動量を渡したため,捕獲後の速度は元に戻らない.

演習 7

東京大 1996 後期(改題) ★★★★☆

無重力下で,ばね定数 k,自然長 ℓ0 の軽いばねの両端に質量 m の小球を付ける.ばねは長さ ℓ>ℓ0 を保ち,各球が中点のまわりを速さ s,角速度 ω で等速円運動している.両球が同時に,各自の質量の割合 η(0<η<1)を接線後方へ放出する.放出片の,放出後の残存球に対する速さを v とする.放出片は以後干渉せず,放出時間中のばねの力積は無視する.

両端の球は同じ割合ηを放出する.噴射方向はそれぞれの進行方向の後ろである. 両端の球は同じ割合ηを放出する.噴射方向はそれぞれの進行方向の後ろである.
  1. 放出前の s,ω と,放出直後の残存球の速さを求めよ.

  2. ばね長を変えず,放出直後から等速円運動を続けるための v を求めよ.η が十分小さい極限も示せ.

  3. この条件では残存する2球の運動エネルギーが変わらないことを示し,放出片のエネルギーの出所を説明せよ.m=0.50kg,k=10Nm−1,ℓ0=0.60m,ℓ=1.0m,η=0.36 で数値を確かめよ.

解答を見る

考え方 放出しただけでばね長が瞬間的に変わることはない.その同じ長さで新しい向心力の条件を満たすように噴射を選べば,ばねの伸縮を解く必要がない.

  1. 半径は ℓ/2 なので 2ms2/ℓ=k(ℓ−ℓ0).したがって

s=kℓ(ℓ−ℓ0)2m,ω=2sℓ

各球の局所的な接線方向に運動量保存を使うと ms=(1−η)msafter+ηm(safter−v),よって safter=s+ηv.両端は対称に放出するので残存系の重心も静止したままである.

  1. 放出後も同じ張力,同じ半径なら (1−η)msafter2=ms2 が必要十分である.初めに径方向速度がなく,この円運動が運動方程式を満たすからである.正の速さを選び

safter=s1−η,v=sη(11−η−1),ωafter=ω1−η

(1−η)−1/2=1+η/2+⋯ より v→s/2=ℓω/4,Δω/ω≈η/2.微小量として比較するのは η=Δm/m と Δω/ω で,質量を角速度で割った量ではない.臨界値より v が大きければ,直後に必要な向心力がばねの張力を上回って間隔が広がり始め,小さければ縮み始める.その後の伸縮の時間変化はここでは求めない.

  1. 残存球の全運動エネルギーは (1−η)msafter2=ms2 で厳密に不変.ばねのエネルギーも長さ一定なので不変である.しかし各放出片は実験室系で速さ safter−v を持つ.2片のエネルギーは Kpieces=ηm(safter−v)2 で,これは噴射装置の内部エネルギーから供給される.局所的な2体分裂のエネルギー増分を使っても,2球分で Q=mη(1−η)v2 となり,臨界条件では Kpieces と一致する.

数値は s=2.0ms−1,ω=4.0s−1,放出後は safter=2.5ms−1,ωafter=5.0s−1,v≈1.4ms−1(丸める前は 25/18).残存球の全運動エネルギーは前後とも 2.0J,ばねは 0.80J,放出片は合計 2/9J≈0.22J である.放出による質量減少と速さの増加が相殺するのであって,噴射が無仕事なのではない.

演習 8

東京大 2002 後期(改題) ★★★★☆

長さ ℓ の2本の軽い糸を同じ固定支点に結び,それぞれの先に質量 m の小球を付ける.球は鉛直面内で左右対称に動き,最下点と頂点で正面衝突する.球の大きさ,糸の絡み,空気抵抗を無視し,反発係数を e とする.最初の最下点衝突直前の各球の速さは u0 である.糸は引くことだけができる.

2球は共通の支点のまわりを左右対称に動く.角θは鉛直下向きから測る. 2球は共通の支点のまわりを左右対称に動く.角θは鉛直下向きから測る.
  1. 最下点衝突直後の速さを w として,角 θ での速さと張力を求めよ.衝突で速度がどう変わるかをニュートンダイアグラムで説明せよ.

  2. 最下点衝突直前の速さの2乗を gℓ で割った値を X,頂点衝突直後の同じ値を Z とする.X から Z,さらに次の最下点衝突直前の値へ進む漸化式と,その適用条件を求めよ.

  3. e2=4/5,u02=20gℓ のとき,頂点で何回衝突するか.その次に糸がたるむ位置と速度を示し,以後の飛行を表す式を書け.

  4. 別の試行では最初の最下点衝突の直前に支点を上へ a=ℓ/100 動かし,再び固定する.a/ℓ の1次までを考え,この操作で両球の高さはともに a 上がり,手が両球にする全仕事は W=2m(g+u02/ℓ)a だったとする.この仕事の式は操作条件として与える.衝突直前の新しい速さを求め,位置エネルギーの増加だけで全仕事を数えられるか説明せよ.

解答を見る

考え方 頂点に到達できることと,頂点で反発した後にも糸が張っていることは別の条件である.その両方を確認してから反復の式を使う.

  1. 衝突直前は速度軸上の +u,−u に2点があり,等質量なのでGはO.衝突後はGを中心に反転し,各距離が e 倍になるので速さは eu.重心系の円が縮む作図である.円運動中のエネルギーと半径方向の運動方程式から

v2=w2−2gℓ(1−cos⁡θ),T=m(w2ℓ−2g+3gcos⁡θ)

張力が最小の頂点では T=m(w2/ℓ−5g).したがって円に沿って頂点へ行く条件は w2≥5gℓ.

  1. 最下点衝突の直後は w2/(gℓ)=e2X,頂点直前は Y=e2X−4.到達条件は Y≥1 である.頂点衝突直後は Z=e2Y=e2(e2X−4).ここでも糸が張って降りるには Z≥1 が必要.満たす場合,次の最下点直前は

Xnext=Z+4=e4X+4(1−e2)

Y≥1 でも Z<1 なら,頂点の衝突は起きるが直後から糸がたるむため,この漸化式を続けてはならない.

  1. X0=20,漸化式は Xj+1=0.64Xj+0.80.直接計算すると次表になる.

頂点へ向かう試行

最下点直前 X

頂点直前の候補 Y

頂点直後 Z

1

20

12

9.6

2

13.6

6.88

5.504

3

9.504

3.6032

2.88256

4

6.88256

1.506048

1.2048384

5

5.2048384

0.16387072

適用できない

4回目までは Y,Z≥1 で,5回目は Y<1 だから頂点前に糸がたるむ.頂点での衝突は4回である.5回目の最下点衝突直後は q=w2/(gℓ)=4.16387072.張力0の条件から

cos⁡θ∗=2−q3=−0.72129024,v∗2=−gℓcos⁡θ∗=0.72129024gℓ

θ∗≈136.2∘ で,速さも正なので転回する前に離脱する.右側を上っている球について,支点を原点,離脱後の時間を t とすれば

x=ℓsin⁡θ∗+v∗cos⁡θ∗t,y=−ℓcos⁡θ∗+v∗sin⁡θ∗t−12gt2

左球はこれを左右反転した軌道となる.この式は再衝突または糸が張り直すまで有効である.離脱直後の支点距離の2乗と ℓ2 の差は −gv∗sin⁡θ∗t3+g2t4/4 なので,短い正の時間では円の内側に入り,糸がたるむことも確かめられる.e=1 なら Xnext=X となり,条件を満たす運動は減衰しない.

  1. 2球分の運動エネルギーは mu2 なので,仕事とエネルギーの関係は m(unew2−u02)+2mga=W.よって

unew2=u02(1+2aℓ),unew≈u0(1+aℓ)=1.01u0

指定した仕事には,球を持ち上げる仕事だけでなく,運動エネルギーを増やす仕事も含まれる.この操作では支点が動くので,張力は実験室系で仕事をする.係数 a/ℓ は無次元で,a→0 なら元の速さに戻る.

演習 9

東京大 2006 後期(改題) ★★★★☆

滑らかなレールを,左右の下に凸の円弧(半径 R)と中央の上に凸の円弧(半径 r)で作る.中央の円の中心Oを高さ0とし,その頂点Dは高さ r である.左右の円の中心は高さ R にあり,中央の円と外接する.接点を左からC,Eとし,左右の谷底は高さ0である.質点を左の助走路の高さ h から静かに放す.助走路では離脱せず,C以後の運動を調べる.

左右の半径Rの凹円弧と中央の半径rの凸円弧はCとEで接する.図はR=3rの場合の配置. 左右の半径Rの凹円弧と中央の半径rの凸円弧はCとEで接する.図はR=3rの場合の配置.
  1. OCと鉛直上向きとの角を β,c=cos⁡β とする.c とCの高さを求め,離れずに右の谷まで通過する h の範囲を求めよ.

  2. Cで離れ,Dを飛び越してEに着地するように h を選べ.途中で中央の円弧にぶつからないことも確かめよ.

  3. R=3r,r=0.60m,g=10ms−2 として,(1)の範囲,(2)の高さ,Dの上でのすき間を求めよ.

解答を見る

考え方 接点で曲率の向きが変わるため,抗力が急に不足することがある.接点の高さと接線方向を円の中心間の幾何から決め,接触運動と放物運動を別々に解く.

  1. 中心間距離は R+r,高さの差は R なので c=R/(R+r),CとEの高さは rc.中央の円弧上で鉛直からの角を θ とすると y=rcos⁡θ,v2=2g(h−y),内向きの運動方程式から

N=mgcos⁡θ−mv2r=mg(3cos⁡θ−2hr)

最小の抗力は両端の mg(3c−2h/r).頂点通過の条件 h>r と合わせて r<h≤3rc/2.この範囲が存在するには c>2/3,すなわち R>2r が必要.左右の凹円弧では重力の外向き成分と向心加速度を支える正の抗力が働くため,この範囲で新しい離脱条件は生じない.h=r では頂点に有限時間で到達できない.

  1. s=sin⁡β とおくと,CとEの座標は (−rs,rc),(rs,rc).Cでの接線速度は (vCc,vCs).同じ高さへの飛行時間 2vCs/g と水平距離 2rs より vC2=gr/c.エネルギー保存から

h=r(c+12c)

この速さを凸円弧の抗力式に入れると NC=mg(c−1/c)<0 なので,実際にCで離脱する.Cの手前の凹円弧では抗力が正であり,離脱位置はCである.

飛行の放物線は

yp(x)=r2(c+1c)−x22rc

中央の円弧は yc(x)=r2−x2.−rs<x<rs では yp>0 であり,

yp2−yc2=[x2−r2(1−c2)]24r2c2>0

なので途中では接触しない.Eでは位置も接線方向も一致し,その先の凹円弧の抗力は正になるため,再びレールに沿って進める.硬い面へ法線速度を持って打ち付ける衝突ではなく,接線方向の再接触である.

  1. c=3/4.接触して通過する範囲は r<h≤9r/8,つまり 0.60m<h≤0.675m.飛び越す高さは h=17r/12=0.85m.頂点Dの直上のすき間は

yp(0)−r=r(1−c)22c=r24=0.025m

vC=gr/c=8ms−1≈2.8ms−1 で,飛行時間は約 0.37s.高さとすき間はいずれも半径に比例し,r/R→0 では頂点でのすき間が0に近づく.

演習 10

オリジナル ★★★★★

質量 m の物体が,粗い水平面上で壁につながるばねに取り付けられている.ばね定数は k,静止摩擦係数は μ,動摩擦係数は μ′ で,μ≥μ′>0 とする.自然長から右向きの変位を x とし,d=μ′mg/k,s=μmg/k とおく.

  1. x=A>s から静かに放した後,最初に止まる座標を求めよ.

  2. そこで再び動くための A の条件を求めよ.

  3. s=3d/2,初期変位 A=10d のとき,停止する座標を順に列挙し,最終停止位置と全道のりを求めよ.

摩擦のある床と伸ばしたばね.粗い水平面上の固定ばねと物体m,自然長位置x=0と初期位置Aを示す.後の停止位置は描かない. 摩擦のある床と伸ばしたばね.粗い水平面上の固定ばねと物体m,自然長位置x=0と初期位置Aを示す.後の停止位置は描かない.
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考え方 止まるたびに静止摩擦で再始動を判定する.「往復で振幅が減る」という規則は,動き続けることを確認した区間だけに使える.

  1. 左へ進む間,距離は A−x である.初めと次の停止を比較して

12k(A2−x2)=μ′mg(A−x)

となる.初期位置の根 x=A を除き,x=2d−A.初めは A>s≥d なので左へ加速し,この根は進行方向にある.必ずしも原点の反対側とは限らない.

  1. 静止できる範囲は |x|≤s.したがって再始動には |2d−A|>s が必要である.A>s≥d の下では 2d−A>s は不可能なので,条件は A>2d+s.この場合,次は右向きに動く.等号では限界の静止が可能であり,自発的には再始動しないものとする.

  2. 各区間で同じ計算を向きに合わせて繰り返すと,停止座標は

10d ⟶ −8d ⟶ 6d ⟶ −4d ⟶ 2d ⟶ 0

となる.途中の停止点では |x|>1.5d なので再始動し,原点で最終停止する.全道のりは (18+14+10+6+2)d=50d.初期弾性エネルギー k(10d)2/2=50kd2 は,摩擦で μ′mg×50d=50kd2 だけ失われるため収支も一致する.この問題ではたまたま原点に止まるが,一般には |x|≤s 内の原点でない場所にも止まる.

演習 11

オリジナル ★★★★★

質量 m の粒子が U(x)=U0[(x/a)2−1]2 の中を動く.U0,a>0 で,x=a から左向きに速さ 2U0/m で出発する.

  1. エネルギーの不等式 U≤E から求まる位置の集合を示せ.

  2. 原点に近づくときの速さを厳密に表し,原点に有限時間で達するか調べよ.

  3. 初期エネルギーをわずかに増やす場合と減らす場合で,左右の谷の行き来がどう変わるか.

山頂と同じエネルギーの境界.二重井戸の曲線と山頂を通るE=U₀の水平線を示している.山頂O,両谷底±a,外側の交点P,Qを示し,原点を通る運動の矢印は描かない. 山頂と同じエネルギーの境界.二重井戸の曲線と山頂を通るE=U₀の水平線を示している.山頂O,両谷底±a,外側の交点P,Qを示し,原点を通る運動の矢印は描かない.
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考え方 U=E の点が必ず通常の転回点になるとは限らない.山頂で力も0になる場合は,そこに達する時間まで検討する.

  1. 初期の U(a)=0 より E=U0.[(x/a)2−1]2≤1 から −2a≤x≤2a.ただし,この集合がつながっていることだけでは有限時間で全体を横断できるとは言えない.

  2. 0<x≤a で

v=2U0mxa2−x2a2

である.定数 C=2U0/m/a を使うと v≤Cx.x=a/2n から a/2n+1 まで進む各区間の長さは a/2n+1 で,その区間の速さは最大でも Ca/2n.したがって所要時間は各区間で少なくとも 1/(2C) である.原点へ達するにはこの区間を無限個通るため,時間は無限大になる.粒子は原点へ近づき続けるが,有限時間で転回したり左へ通過したりしない.

  1. E>U0 なら原点で速さが正なので,有限時間で左の谷へ抜ける.0<E<U0 なら原点より右に力が0でない転回点ができ,右の谷に閉じ込められる.E=U0 は両者を分ける境界であり,位置の不等式だけでは失われる時間の情報が重要になる例である.

27第6章のまとめ

この章では,運動方程式を距離で積分して仕事と運動エネルギーを導き,保存力にはポテンシャルエネルギーが定義できることから力学的エネルギー保存則に進みました.さらに,保存則を使って問題を解く手順と,ポテンシャル図の読み方,熱をはじめとするエネルギーの諸形態を学びました.ここで定義・法則・手順を一覧にし,各節の最初の問いに短く答えます.

定義と法則

定義 仕事・仕事率・運動エネルギー

  • 仕事:力 F が物体を dr だけ動かすときの仕事は W=∫F⋅dr.一定の力では W=F⋅s=Fscos⁡θ である.運動の向きに垂直な力は仕事をしない.

  • 仕事率:P=dWdt=F⋅v.単位は 1W=1Js−1 である.

  • 運動エネルギー:K=12mv2.

法則 仕事と運動エネルギーの定理

物体の運動エネルギーの変化は,合力が物体にした仕事に等しい.

ΔK=W

運動方程式 mdvdt=F に v を掛けて時間で積分すると導ける.仕事の合計が正なら物体は加速し,負なら減速する.

定義 保存力とポテンシャルエネルギー

物体を動かすときに力がする仕事が,経路によらず始点と終点だけで決まる力を保存力という.基準点を決めて

U(r)=−∫基準点rF⋅dr

と定義したものがポテンシャルエネルギーである.1次元では F=−dUdx,3次元では偏微分を使って Fx=−∂U∂x などと書く.動摩擦力は,滑る経路が長いほど負の仕事が大きくなり,始点と終点だけでは決まらないので保存力ではない.

法則 力学的エネルギー保存則

保存力だけが仕事をするとき E=K+U= 一定.非保存力が仕事をするときは,力学的エネルギーの変化が非保存力の仕事に等しく ΔE=W′(W′ は保存力以外の力がする仕事)である.熱を含めたすべての形のエネルギーを考えれば,全体の量は常に変わらない(エネルギーの保存).

法則 相対運動のエネルギー

全質量 M=m1+m2,換算質量 μ=m1m2/M,重心速度 V=(m1v1+m2v2)/M,相対速度 vrel=v1−v2 とすると

K=12MV2+12μvrel2

である.外力がなく,相互作用が保存力なら 12μvrel2+U(r) が一定となる.正面衝突の損失は ΔK=12μ(1−e2)vrel2.一般に相対速さが k 倍なら e を k に置き換える.分裂で解放されるエネルギー Q は,重心系では K1′:K2′=m2:m1 に配分される.

公式 衝突の作図の結果

  • 正面衝突:vi後=(1+e)V−evi.弾性ならGに関する点対称である.

  • 静止した的への弾性衝突:的の反跳角は φ=(π−χ)/2,エネルギー移行率は f=4m1m2cos2⁡φ/M2.正面衝突で最大となる.χ=0 では的が静止して角度は定まらない.

  • 等質量なら,両球の速度が0でないとき直角に分かれる.m1>m2 なら接線から sin⁡θmax=m2/m1.角度の換算は tan⁡θ=sin⁡χ/(cos⁡χ+m1/m2) で,象限は速度成分から決める.

  • 分裂の円:中心はG,半径は重心系の速さ vi′.0<vi′<V なら sin⁡θi,max=vi′/V.vi′>V なら全方向,vi′=V なら前方に飛び,直角は速さ0へ近づく極限である.

主な公式

量

式

重力のポテンシャルエネルギー

U=mgy(y は基準面からの高さ)

ばねのポテンシャルエネルギー

U=12kx2(x は自然長からの伸び)

万有引力のポテンシャルエネルギー

U=−GMmr(無限遠が基準,第10章で導く)

熱

Q=mcΔT(相変化がなく比熱 c が一定のとき,第16章でくわしく)

効率

η=有用なエネルギー投入したエネルギー

手順

ポイント エネルギーで運動を調べる手順

  1. 状態を2つ決める(始めと終わり).図に描き,基準の高さを決める.

  2. 働く力を,保存力・非保存力・仕事をしない力(運動に垂直な力.固定された面の垂直抗力や固定点からの糸の張力など)に分ける.

  3. 非保存力が仕事をしないなら K+U が一定.するなら ΔE=W′ とおく.

  4. ループの頂点で N≥0 など,条件があれば加える.力そのものや時間を知りたいときは運動方程式(または速度と時間を結ぶ追加の計算),衝突では運動量保存を使う.

  5. 単位・符号・極端な場合で検算する.

ポイント ポテンシャル図の読み方

U(x) に全エネルギー E の線を引く.運動エネルギーは E−U,動ける領域は U≤E,転回点は U=E(つり合い点と重なる場合は別扱い).力は F=−dUdx で,dUdx=0 がつり合い,d2Udx2>0 なら安定,<0 なら不安定.U″(x0)>0 の安定点の近くの小さな振動は,k=U″(x0) のばねと同じ振動(第7章)になる.

ポイント ニュートンダイアグラムの描き方

  1. Oから衝突前の速度を描き,先端を A1,A2 とする.

  2. A1G:GA2=m2:m1 となるGを打つ.OG→=V で,運動量保存によりGは動かない.

  3. Gを中心に各先端を通る円を描く.相対速さが k 倍なら半径も k 倍にする(弾性では k=1,正面衝突では k=e).

  4. GA1 から角 χ の方向に B1,Gをはさんだ反対側に B2 を置く.Oから両点への矢印が衝突後の速度である.

各節の問いへの答え

  • 仕事と運動エネルギー:荷物を持って水平な道を歩くとき,荷物を支える力は運動の向きに垂直なので,F⋅dr=0 で荷物への仕事は0である.階段では変位に力の向きの成分(高さの増加)があるので仕事をする.疲れるのは,荷物への仕事とは別に,筋肉が力を出し続けるだけで体の中のエネルギーを使うからである.

  • 保存力とポテンシャルエネルギー:重力に逆らってする仕事は,どちらの道でも mgh で等しい.重力が保存力で,仕事が高さの差だけで決まるからである.下りでは重力が逆の +mgh の仕事をする.動摩擦の仕事は道のりで変わる.

  • エネルギー保存の使い方:半径 R のループを回り切るには,頂点で N≥0,つまり v2≥gR が必要である.エネルギー保存と合わせると,最低でもループの最下点から 52R の高さから出発しなければならない.

  • ポテンシャル図:原子間の U(r) は,近距離の斥力と遠距離の引力のために中間に谷をもつ.その底 r0 が安定なつり合いの距離で,E<0 の原子は谷に閉じ込められて結合した状態になる(遠くから近づく原子がそうなるには,余ったエネルギーを外へ渡す過程が要る).

  • 重心運動と相対運動のエネルギー:等質量の車が速さ v ずつで向かい合う場合も,静止した車に速さ 2v で当たる場合も,相対速さは 2v.一体になると失うエネルギーは 12(m/2)(2v)2=mv2 で等しい.

  • ニュートンダイアグラム:等質量で的が静止した弾性衝突では,2つの円が一致してOを通る.衝突後の先端を結ぶ線は直径なので,タレスの定理により,両球が動く場合の速度のなす角は直角である.

  • 衝突をニュートンダイアグラムで語り直す:m1=2m2 ではOが入射球の円の外にある.接線が最大の曲がりを与え,sin⁡θmax=m2/m1=1/2 より限界は 30∘ となる.

  • エネルギーの諸形態:ブレーキで止まった車の運動エネルギーは,ブレーキの分子の乱雑な運動のエネルギー(内部エネルギー)の増加に変わり,その一部は温度差によって周りへ熱として移った.エネルギーは消えず,形を変えただけで,周りと同じ温度まで広がったものは仕事に戻せない.

この章で使った数学

内積,変数の置き換えによる積分と線積分の入口,偏微分と勾配の入口,グラフの読み取りと2次の近似(テイラー展開の入口)がありました.