問いしるべ
参考書

問いから始める物理

公式参考書

問いから始める物理

問いから原理へ,基本からオリンピックまで

著者:柚木芹香

身近な問いから始めて物理の原理を組み立て直す参考書.微積分は必要になった所で導入し,各節の演習は基本から物理オリンピックの水準まで段階をつけて置く.独学でも,教わりながらでも読めるように,各節の終わりに「教える人へ」の囲みがある.

この章の目次 · 18節
  1. ローレンツ力と磁場の中の運動
  2. 磁場の中の荷電粒子の例題
  3. 磁場の中の荷電粒子の演習
  4. 電流が作る磁場とアンペールの法則
  5. ビオ・サバールの積分と磁場の回転
  6. 電流が作る磁場の演習
  7. 電流に働く力とモーター
  8. 電流に働く力の例題
  9. 電流に働く力とコイルの回転の演習
  10. 磁性体と磁化
  11. 磁性体の例題
  12. 磁化と磁性体の演習
  13. 磁気の力の正体(発展)
  14. 磁気の力の正体の例題
  15. 電場と磁場の相対性の演習
  16. 第22章の章末問題
  17. 第22章の発展問題
  18. 第22章のまとめ

第22章  電流と磁場

01ローレンツ力と磁場の中の運動

問い

オーロラは,アラスカや北欧,南極の近くのような高緯度の地方でよく見え,日本のような中緯度ではめったに見えません.オーロラの光は,太陽から飛んできた電子などの荷電粒子が上空 100km ほどの大気にぶつかって出すものです.太陽からの粒子は地球のどこにでも同じように降ってきそうなのに,なぜ極地方にだけ届くのでしょうか.

ここから第22章です.この章では,まず磁場を「動く電荷に働く力」で定義し(この題材),電流が磁場を作るしくみ(第2題材),電流に働く力とモーター(第3題材),鉄などの磁性体(第4題材)と進み,最後に(発展)として磁気の力を相対論から見直します(第5題材).第20章の電場と第21章の電流を前提にし,第23章では磁場が変化すると電場ができる電磁誘導へ進み,第24章でマクスウェル方程式にまとめます.基本だけを読むなら,第1〜4題材の本体と,例題・数学の節で足ります.第5題材と,(発展)と付いた節や段落(電流の磁場の法則の微分形など)は飛ばしても後の章が読めます.

ポイント 第22章で使う記号

記号

意味

B

磁束密度.この本では「磁場」と呼ぶ(単位 T)

μ0

真空の透磁率 4π×10−7NA−2≈1.26×10−6NA−2

H, M

磁場の強さ,磁化(第4題材)

μ, μr

透磁率,比透磁率(第4題材)

m

磁気モーメント(第3題材).μ は透磁率に使うので,磁気モーメントには使わない.大きさは m で質量と同じ文字になるので,両方が出る所では質量を M や me と書く

Φ

磁束(単位 Wb=Tm2)

I, j

電流,電流密度

n

ソレノイドの単位長さあたりの巻数.ホール効果や磁性体では粒子の数密度

J

慣性モーメント(電流の I と区別する)

V

体積(電圧の V と区別する.第4題材)

ω=qB/m

サイクロトロン角振動数

ex, ey, ez

座標軸の正の向きの単位ベクトル

電子の質量は m,電荷は −e と書きます.

考えてみる

第20章では,止まっている電荷に働く力から電場 E=F/q を決めました.ところが,磁石や電流の近くでは,動いている電荷にだけ働く力があります.真空管の中の電子線に磁石を近づけると線が曲がり,磁石を遠ざけると戻ります.電子が止まっていればこの力は働きません.

実験を重ねると,この力には次の性質があります.力は電荷 q に比例し,速さにも比例します.その場所ごとに決まった特別な向きがあって,その向きに沿って動く電荷には力が働きません.力は常に速度にも,その特別な向きにも垂直です.大きさは,速度とその向きのなす角を θ とすると sin⁡θ に比例します.「2つのベクトルに垂直で,大きさがなす角の sin に比例する」のは,第8章で角運動量に使った外積そのものです.そこで,場所ごとに1つのベクトル B を決めて,この力を外積で書きます.

ローレンツ力

定義 ローレンツ力と磁場

電荷 q が速度 v で動くとき,電荷に働く力は

F=q(E+v×B)

と書ける.この式で決まるベクトル B を磁束密度(この本では磁場)という.単位は T(テスラ)で,1T=1NA−1m−1 である.

qv×B の部分を磁気力と呼びます.向きは,右手の指を v から B へ回したとき親指の向く向きで,q が負なら逆です.大きさの目安は,地表の地磁気が 3×10−5〜6×10−5T,冷蔵庫に貼る磁石の表面が 10−2T ほど,病院の MRI が 1.5〜3T です.

速度 v と磁場 B を紙面内に描き,なす角 θ を示す.作用点の赤い ⊙ は正電荷への手前向きの力,⊗ は負電荷への奥向きの力を示す.力は v と B の両方に垂直である. 速度 v と磁場 B を紙面内に描き,なす角 θ を示す.作用点の赤い ⊙ は正電荷への手前向きの力,⊗ は負電荷への奥向きの力を示す.力は v と B の両方に垂直である.

磁気力は速度に垂直なので,仕事率は F⋅v=q(v×B)⋅v=0 です.

ポイント 磁気力は仕事をしない

磁気力は速度の向きを変えるが,速さ(運動エネルギー)は変えない.荷電粒子を加速するのは電場である.

一様な磁場の中の運動

一様な磁場 B に垂直に速さ v で入った粒子を考えます.磁気力は大きさ qvB で常に速度に垂直なので,速さを変えずに向きだけを一定の割合で変えます.これは等速円運動で,磁気力が向心力になります.mv2/r=qvB から

公式 一様な磁場の中の円運動

r=mvqB,ω=qBm,T=2πmqB

周期 T と角振動数 ω は速さによらない.ω をサイクロトロン角振動数という.

速い粒子ほど大きな円を描きますが,1周する時間は同じです.円の向きは,B が手前を向くように見ると,正電荷が時計回り,負電荷が反時計回りです.

速度が磁場と斜めなら,速度を磁場に平行な成分 v∥ と垂直な成分 v⟂ に分けます.磁気力は磁場に垂直なので v∥ は変わらず,垂直な面への射影は半径 mv⟂/(qB) の円運動です.合わせると,磁場の向きを軸にしたらせん運動になり,1周の間に軸方向へ進む距離(ピッチ)は v∥T です.荷電粒子は磁力線に巻きつきながら,磁力線に沿って進みます.

[図:円運動とらせん運動の半径と周期]

初期状態は θ = 60°,v = v₀ のらせん運動.角度を90°にすると円になり,速さを変えると半径とピッチが変わるが周期は一定である.時刻の操作と再生・停止で1周を確かめられる.

有限の磁場領域を通る

装置の中では,磁場はある領域にだけあります.領域の中では円運動,外では直進なので,境界で位置と速度をつないでいけば軌道が決まります.円の中心は,入った点で速度に垂直な直線の上,距離 r の所にあります.粒子が回った角度(中心角)は,そのまま速度の向きの変化(ふれ角)です.かかる時間は中心角を ω で割れば出ます.

たとえば幅 d の帯状の領域に,境界に垂直に入るとします.r>d なら粒子は反対側へ抜け,ふれ角 θ は sin⁡θ=d/r で決まります.r≤d なら半円を描いて入った側へ戻り,入った点から 2r 離れた点で,逆向きに出ていきます.磁場の向きが違う領域がいくつもあれば,1つの領域を出たときの位置と速度を,次の領域の始まりの値にします.

正電荷を右向きに入射させ,紙面の手前向きの磁場で下へ曲げる.左は r > d で抜ける軌道とふれ角 θ,右は r ≤ d で半円を描いて戻る軌道.O はそれぞれの円の中心. 正電荷を右向きに入射させ,紙面の手前向きの磁場で下へ曲げる.左は r > d で抜ける軌道とふれ角 θ,右は r ≤ d で半円を描いて戻る軌道.O はそれぞれの円の中心.

電場と磁場を組み合わせた装置

速度選択器:電場 E と磁場 B を互いに垂直にかけ,粒子を両方に垂直に通します.電気力と磁気力がつり合う qE=qvB,つまり v=E/B の粒子だけがまっすぐ進み,それ以外は曲がってスリットを通れません.つり合わない速さの粒子は,平均すると両方の場に垂直な向きに速さ E/B で流されながら回る,サイクロイドという曲線を描きます(演習で解きます).

質量分析器:速さのそろったイオンを一様な磁場に入れると,半径 r=mv/(qB) が m/q に比例するので,同じ電荷の同位体が別の位置に着きます.J.J.トムソンは,電場と磁場による電子線の曲がり方を比べて,電子の比電荷 e/m を初めて測りました.

サイクロトロン:周期が速さによらないことを使い,2つの半円形の電極の間のすき間に周期 T の交流電圧をかけます.粒子はすき間を通るたびに電場で加速され,半径を広げながら同じリズムで回り続けます.最大の半径 R で取り出すときの運動エネルギーは,v=qBR/m から K=q2B2R2/(2m) です.

左の電場は上向き,磁場は手前向き.v = E/B の正イオンだけが直進してスリットを通る.右では同じ電荷と速さのイオンが半円を描き,重いイオンが入口から遠い位置に着く. 左の電場は上向き,磁場は手前向き.v = E/B の正イオンだけが直進してスリットを通る.右では同じ電荷と速さのイオンが半円を描き,重いイオンが入口から遠い位置に着く.

ホール効果:導体の板に電流を流し,板に垂直に磁場をかけると,電流を運ぶ粒子が磁気力で板の片側に寄ります.たまった電荷が横向きの電場 EH を作り,それが磁気力とつり合う EH=vdB で落ち着きます(vd は第21章のドリフト速度).板の幅を w,磁場に沿った厚さを h,数密度を n とすると,I=nqvdwh なので,両側の電位差(ホール電圧)は

VH=EHw=IBnqh

です.電圧の符号から電荷を運ぶ粒子の符号が,大きさから n が分かります.n の小さい半導体ほどホール電圧が大きく,磁場の測定器に使われます.

適用の条件

円運動の式は,速さが光の速さより十分小さいときの式です.v/c が1に近づくと r=mv/(qB) の mv を相対論の運動量に置き換えることになり,周期も速さとともに延びます.サイクロトロンで陽子を数十 MeV 以上に加速できないのはこのためです.また,円やらせんの式は,軌道の大きさの範囲で磁場が一様とみなせるとき,つまり r が磁場の変化する長さよりずっと小さいときに使えます.重力や,加速度運動する電荷が出す放射によるエネルギー損失も無視しています.

問いに戻る

地球の磁場は,地球の中心に棒磁石を置いたような形で,磁力線は南半球の側から出て,赤道の上空を大きく回り,北半球の側へ入ります.太陽から来た荷電粒子が赤道の上空に近づくと,磁力線を横切る向きに動くことになり,磁気力で曲げられて押し返されます.地球の上空の磁場でも,粒子の回る半径は地球の大きさよりずっと小さいので,粒子は磁力線を横切れず,巻きついて磁力線に沿ってしか進めません.

地球の磁力線は南半球側から出て北半球側に入る.太陽側からの粒子は磁力線に巻きついて極へ進む.磁場が密になる所で反射する粒子は南北を往復し,大気に届く粒子は極を囲むオーロラ帯を作る. 地球の磁力線は南半球側から出て北半球側に入る.太陽側からの粒子は磁力線に巻きついて極へ進む.磁場が密になる所で反射する粒子は南北を往復し,大気に届く粒子は極を囲むオーロラ帯を作る.

磁力線に沿って極へ向かうと,磁力線が密になって磁場が強くなります.磁力線が狭まる所では磁場に軸から外へ向かう成分があり,それによる磁気力が粒子を弱い磁場の側へ押し戻します.そのため,多くの粒子は南北の間を往復して閉じこめられます(磁気瓶).磁力線にほぼ沿って進む粒子だけが押し戻しに打ち勝ち,磁力線が地面に入る極の近くで大気に届きます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 磁場 B は,動く電荷に働く力 F=q(E+v×B) で定義する.磁気力は速度に垂直なので仕事をしない.

  • 一様な磁場の中では,半径 r=mv/(qB),周期 T=2πm/(qB) の円運動.周期は速さによらない.斜めに入ればらせん運動になる.

  • 有限の領域では,円の中心を作図し,境界で位置と速度をつなぐ.中心角がふれ角になる.

  • 速度選択器は v=E/B を選び,質量分析器は m/q を分け,サイクロトロンは周期が速さによらないことを使う.ホール電圧 VH=IB/(nqh) から n と粒子の符号が分かる.

  • 問いの答え:荷電粒子は磁力線を横切れず,巻きついて磁力線に沿って進む.赤道の上空では押し返され,磁力線が地面に入る極の近くでだけ大気に届く.だからオーロラは極を囲む地域に現れる.

02磁場の中の荷電粒子の例題

円運動の式を,同位体の分離,有限の磁場領域,ホール効果に使います.先に円軌道の作図の決まりをまとめます.

ポイント 数学の道具:円軌道の中心とふれ角

一様な磁場の中の円軌道(半径 r,角振動数 ω)について,次が成り立つ.

  • 円の中心は,入った点で速度に垂直な直線の上,力の向きの側に距離 r の所にある.円の上の2点が分かっていれば,中心はその2点を結ぶ線分の垂直二等分線の上にある.

  • 粒子が回った中心角 ϕ は,速度の向きの変化(ふれ角)に等しい.かかる時間は ϕ/ω である.

  • 中心角 ϕ の円弧の弦の長さは 2rsin⁡(ϕ/2) で,弦は入ったときの速度と ϕ/2 の角をなす.

最後の性質は,中心から弦に下ろした垂線が中心角を二等分し,速度が半径に垂直なことから分かります.

練習1 粒子が磁場領域の中で 60∘ だけ向きを変えて出ていった.入った点と出た点の距離を r で表せ.

練習2 x>0 の全体に +z 向きの一様な磁場 B がある.電荷 q>0 の粒子を,原点から,+x 軸から +y 側へ角 α 傾けた向きに速さ v で入射させる(−π/2<α<π/2).粒子が再び y 軸に戻る点と,磁場の中にいる時間を求めよ.

答え 練習1:2rsin⁡30∘=r.練習2:速度 (cos⁡α,sin⁡α) に対し力は v×B の向き (sin⁡α,−cos⁡α) なので,中心は r(sin⁡α,−cos⁡α).円が x=0 と交わるのは y=0 と y=−2rcos⁡α で,戻る点は (0,−2rcos⁡α).粒子は時計回りに回り,速度の向きは α から π−α へ変わるので,中心角は π+2α,時間は (π+2α)/ω.α=0 で半円,α→π/2 でほぼ1周になる.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

1価の正イオン A20A2220NeA+ と A22A2222NeA+(質量はそれぞれ 20u と 22u,u=1.66×10−27kg)を,静止状態から電圧 V=1.0×103V で加速し,スリットから紙面に垂直な一様な磁場 B=0.20T の中へ,スリットの面に垂直に入れる.イオンは半円を描いてスリットと同じ面の検出板に着く.スリットの幅と入射方向のばらつきは無視する.電気素量は e=1.6×10−19C とする.

  1. 2種類のイオンの軌道の半径と,検出板の上での着く位置の間隔を求めよ.

  2. 加速電圧が ±0.50 % の範囲でふらつく.着く位置の広がりを見積もり,2つの同位体が分離できるか判断せよ.また,電圧のふらつきが何 % を超えると2つの像が重なり始めるか.

電圧 V で加速した正イオンがスリットから紙面の手前向きの磁場 B に入る.問題文で与えられた2種類の半円軌道と検出板上の間隔を示す.半径と着く位置の間隔の計算値は示していない. 電圧 V で加速した正イオンがスリットから紙面の手前向きの磁場 B に入る.問題文で与えられた2種類の半円軌道と検出板上の間隔を示す.半径と着く位置の間隔の計算値は示していない.
解答を見る

考え方 加速で 12mv2=eV,磁場の中で r=mv/(eB).v を消すと r=1B2mVe で,r∝mV.着く位置は入口から 2r の所.

  1. A20A2220NeA+ では

r20=10.202×20×1.66×10−27×1.0×1031.6×10−19≈0.10m

A22A2222NeA+ は r22=r2022/20≈0.11m.半径を丸める前の値から求めた着く位置の間隔は 2(r22−r20)≈9.9×10−3m,約 1.0cm である.

  1. r∝V なので,V の相対的なずれ δ に対して r のずれは δ/2.δ=0.50 % なら着く位置 2r≈0.20m のずれは ±0.25 %,つまり ±0.51mm で,像の幅は約 1.0mm.間隔 9.9mm よりずっと小さいので分離できる.重なり始めるのは,A20A2220NeA+ の最も外と A22A2222NeA+ の最も内が一致するときで

r20(1+δ2)=r22(1−δ2)より1+δ/21−δ/2=1.1≈1.049

δ/2≈0.024,すなわち δ≈4.8 % である.

確かめ:イオンの速さは 2eV/m≈9.8×104ms−1 で,光の速さよりずっと小さく,円運動の式をそのまま使ってよい.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

xy 平面の 0≤x≤d の帯状の領域にだけ,+z 向きの一様な磁場 B がある.質量 m,電荷 q>0 の粒子を原点から速さ v で入射させる.r=mv/(qB),ω=qB/m とする.

  1. 粒子を +x 向きに入射させる.r>d のとき,粒子が x=d から出る位置,出るときのふれ角 θ,領域の中にいる時間を求めよ.

    1. で r≤d のとき,粒子はどこから,どの向きに出るか.領域の中にいる時間も求めよ.

  2. 入射の向きを +x 軸から +y 側へ角 α 傾けた(−π/2<α<π/2).粒子が x=d から抜けるための v の条件を求めよ.

0 ≤ x ≤ d に紙面の手前向きの磁場 B がある.正電荷 q の粒子を原点から速さ v で入射させる.左は +x 向き,右は +x 軸から +y 側へ角 α 傾けた向き.軌道と出口は示していない. 0 ≤ x ≤ d に紙面の手前向きの磁場 B がある.正電荷 q の粒子を原点から速さ v で入射させる.左は +x 向き,右は +x 軸から +y 側へ角 α 傾けた向き.軌道と出口は示していない.
解答を見る

考え方 入射点での力は qv×B の向きで,そちらの側に円の中心がある.円の上で x が最大になる点が x=d を越えるかどうかで,抜けるか戻るかが決まる.

  1. 入射点での力は qvBex×ez=−qvBey の向きなので,中心は (0,−r).回った角を ϕ とすると x=rsin⁡ϕ,y=−r(1−cos⁡ϕ).x=d となる最初の角が θ で

sin⁡θ=dr,y=−r(1−cos⁡θ)=−(r−r2−d2)

出る位置は (d,−(r−r2−d2)),速度は +x 軸から −y 側へ θ 傾いた向き,時間は θ/ω=mqBarcsin⁡qBdmv である.

  1. 円の上の x の最大値は r なので,r≤d なら x=d に届かず(r=d では接するだけで),半円を描いて y 軸に戻る.出る位置は (0,−2r),向きは −x,時間は π/ω=πm/(qB) で,速さによらない.

  2. 速度 (cos⁡α,sin⁡α) に対し力の向きは (sin⁡α,−cos⁡α) なので,中心は r(sin⁡α,−cos⁡α).円の上の x の最大値は rsin⁡α+r.抜ける条件は r(1+sin⁡α)>d,すなわち

v>qBdm(1+sin⁡α)

確かめ:α=0 で (1) の条件 r>d に戻る.曲がる向き(−y)と逆の +y 側へ傾けて入れる(α>0)ほど,遅くても抜けられる.d/r が小さければ θ≈d/r,時間 ≈d/v で,ほとんど直進する.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

長さの向きを x,幅の向きを y,厚さの向きを z とする半導体の板(幅 w=4.0mm,厚さ h=0.50mm)に,+x 向きに電流 I=2.0mA を流し,+z 向きに一様な磁場 B=0.50T をかけた.板の y=0 の側面は y=w の側面より VH=5.0mV だけ電位が高かった.電気素量は e=1.6×10−19C とし,電荷を運ぶ粒子は1種類で,電荷の大きさは e とする.

  1. 電荷を運ぶ粒子の電荷は正か負か.

  2. 粒子の数密度 n とドリフト速度 vd を求めよ.

  3. 同じ形の銅の板(n=8.5×1028m−3,電子が運ぶ)で同じ測定をしたら,ホール電圧はいくらか.

板の長さは x 方向,幅 w は y 方向,厚さ h は z 方向.電流 I は +x 向き,磁場 B は +z 向き.y = 0 と y = w の側面を電圧計につなぐ.キャリアの符号と数密度の答えは示していない. 板の長さは x 方向,幅 w は y 方向,厚さ h は z 方向.電流 I は +x 向き,磁場 B は +z 向き.y = 0 と y = w の側面を電圧計につなぐ.キャリアの符号と数密度の答えは示していない.
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考え方 正の粒子なら +x 向きに,負の粒子なら −x 向きに動く.どちらの場合に y=0 側が正に帯電するかを,力の向きで調べる.定常状態では横の電場による力と磁気力がつり合う.

  1. 正の粒子が速度 vdex で動くと,力は evdBex×ez=−evdBey で,y=0 側に寄り,そちらが高電位になる.負の粒子は速度 −vdex で,力は (−e)(−vd)Bex×ez=−evdBey とやはり y=0 側に寄るが,そちらは低電位になる.測定では y=0 側が高いので,粒子は正(正孔,p型の半導体)である.

  2. つり合い eEH=evdB と I=nevdwh,VH=EHw から VH=IBneh.

n=IBehVH=2.0×10−3×0.501.6×10−19×5.0×10−4×5.0×10−3=2.5×1021m−3
vd=Inewh=2.0×10−32.5×1021×1.6×10−19×4.0×10−3×5.0×10−4=2.5ms−1
  1. VH=−IBneh=−2.0×10−3×0.508.5×1028×1.6×10−19×5.0×10−4≈−1.5×10−10V で,符号は逆(y=0 側が低い).

確かめ:EH=vdB=1.25Vm−1,VH=EHw=5.0mV で測定値に戻る.銅では数密度が 107 倍以上大きく,同じ電流でもドリフト速度が小さいのでホール電圧はほとんど測れない.磁場の測定器に半導体を使うのはこのためである.

ポイント ここまでのまとめ

  • 円軌道の中心は入射点で速度に垂直な直線の上,力の側にある.中心角がふれ角で,時間は中心角を ω で割って出す.

  • 質量分析器では r∝mV/B で,同位体の質量の差の約半分の割合で半径が違う.加速電圧のふらつきはその割合より小さく抑える.

  • 有限の領域を抜けるかどうかは,円の上で最も奥まで届く点が境界を越えるかで決まる.戻る場合の時間は中心角だけで決まる.

  • ホール効果では,電圧の符号から電荷を運ぶ粒子の符号が,VH=IB/(nqh) から数密度が分かる.

03磁場の中の荷電粒子の演習

速度の成分と曲がる向きを確かめてください.重力,粒子間の力,放射損失を無視し,速さは光速より十分小さいとします.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

質量 m=6.4×10−27kg,電荷 q=3.2×10−19C の正イオンを,一様磁場 B=0.20T に入射させます.速さは v=2.0×105ms−1,磁場との角 θ は sin⁡θ=0.60,cos⁡θ=0.80 です.電場はありません.

  1. らせんの半径,回転周期,1回転の間に磁場方向へ進む距離を求めよ.

  2. 速さだけを2倍にしたときの各量の倍率と,磁気力の仕事を答えよ.

正イオンの入射速度vと一様磁場Bのなす角θを示す.破線は速度の平行成分と垂直成分を読むための投影である. 正イオンの入射速度vと一様磁場Bのなす角θを示す.破線は速度の平行成分と垂直成分を読むための投影である.
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考え方 垂直成分は円運動をし,平行成分は変わらない.

  1. v⟂=vsin⁡θ=1.2×105ms−1,v∥=vcos⁡θ=1.6×105ms−1.向心力の式 mv⟂2/r=qv⟂B より r=mv⟂/(qB)=1.2×10−2m.周期は T=2πr/v⟂=2πm/(qB)=6.3×10−7s.ピッチは p=v∥T=0.10m である.

  2. 半径とピッチは2倍,周期は1倍.仕事率は q(v×B)⋅v=0 なので仕事も0である.速さが一定でも,速度の向きは変わる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

陽子を磁場 B=0.40T,使用できる軌道の最大半径 R=0.20m のサイクロトロンで加速します.陽子の質量は m=1.7×10−27kg,電荷は e=1.6×10−19C です.すき間を半回転ごとに通り,各通過で加速電圧 V=2.0×103V によるエネルギー eV を得ます.すき間の幅と初期エネルギーは0とします.

  1. 加速電場の振動数と,収容できる最大運動エネルギーを求めよ.

  2. 半径の限界を超えない加速回数の最大整数を求めよ.光速 c=3.0×108ms−1 と比べ,近似を点検せよ.

二つの半円形電極の間に加速電圧Vを加える.紙面手前向きの一様磁場Bと使用可能な最大半径Rを示す.すき間は見やすく広げてある. 二つの半円形電極の間に加速電圧Vを加える.紙面手前向きの一様磁場Bと使用可能な最大半径Rを示す.すき間は見やすく広げてある.
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考え方 半回転ごとに電場を反転させ,電場の仕事で加速する.

  1. 周期 T=2πm/(eB) の電場なら半周期で反転する.したがって f=eB/(2πm)=6.0×106Hz.vmax=eBR/m より Kmax=e2B2R2/(2m)=4.8×10−14J.

  2. neV≤Kmax より,丸める前の値を使うと n≤150.588… で最大150回.vmax=7.5×106ms−1,vmax/c=0.025 で,捨てた相対論的補正の尺度 vmax2/c2=6.3×10−4 は小さい.すき間の通過時間も半周期に比べて十分短いことが前提である.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

正イオンを静止から電圧 V で加速し,速度に垂直な一様磁場 B=0.10T に入れます.実際の加速電圧には一定のずれ V0 があり,mv2/2=q(V+V0) とします.測定値は次のとおりです.

V(V)

r2(m2)

100

4.8×10−4

200

8.8×10−4

300

1.28×10−3

  1. 直線化によって q/m,V0 を決め,3点目を検算せよ.

  2. 傾きの相対不確かさを0.020,B の相対不確かさを0.010とする.小さい不確かさを足して上限を見積もるとき,q/m の相対不確かさを求めよ.

正イオンを電圧Vで加速して磁場Bの領域へ入れる.加速電圧には一定のずれV₀がある.磁場内で測る円弧の半径rを示す. 正イオンを電圧Vで加速して磁場Bの領域へ入れる.加速電圧には一定のずれV₀がある.磁場内で測る円弧の半径rを示す.
解答を見る

考え方 速さを消して直線の傾きと切片を読む.

  1. r=mv/(qB) から r2=2m(V+V0)/(qB2)=aV+b.最初の2点より a=4.0×10−6m2V−1,b=8.0×10−5m2.よって q/m=2/(aB2)=5.0×107Ckg−1,V0=b/a=20V.3点目は a×300+b=1.28×10−3m2 で一致する.

  2. q/m∝a−1B−2 なので,相対不確かさの上限は 0.020+2×0.010=0.040,4.0 %である.これは不確かさの2次の項を無視する近似で,各相対不確かさが1より十分小さい範囲で使う.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

xy 平面で,0<x<d に +z 向き,d<x<2d に −z 向きの同じ強さ B の磁場があります.他の領域の磁場と電場は0です.質量 m,電荷 q>0 の粒子を原点から +x 向きに速さ v で入射させます.境界で速度は連続で,r=mv/(qB), 0<d<r とします.

  1. 第1領域から出るまでの時間と,境界での位置と速度を求めよ.

  2. x=2d に達する位置,速度,全通過時間を求めよ.d=3r/2 の場合も示せ.

xが0からdでは磁場は紙面手前向き,dから2dでは奥向きである.正電荷の粒子は原点から正のx方向へ速さvで入射する. xが0からdでは磁場は紙面手前向き,dから2dでは奥向きである.正電荷の粒子は原点から正のx方向へ速さvで入射する.
解答を見る

考え方 位置と速度を引き継ぐ.

  1. ω=qB/m とし,最初の円弧の回転角を ϕ とすると x=rsin⁡ϕ, y=r(cos⁡ϕ−1),vx=vcos⁡ϕ,vy=−vsin⁡ϕ.α=arcsin⁡(d/r) で出るので,t1=α/ω,位置は (d,−r(1−cos⁡α)),速度は (vcos⁡α,−vsin⁡α) である.

  2. 第2領域での経過時間を s とすると速度の角は −α+ωs.変位は

Δx=r[sin⁡(−α+ωs)+sin⁡α],Δy=r[cos⁡α−cos⁡(−α+ωs)]

s=α/ω まで vx>0 で,Δx=d.出口は (2d,−2r(1−cos⁡α)),速度は (v,0),全時間は 2α/ω.指定値では α=π/3,出口は (3r,−r),時間は 2π/(3ω).d/r→0 で横変位は −d2/r に近づき,全時間は直進の 2d/v に戻る.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

+y 向きの一様電場 E と +z 向きの一様磁場 B の中で,質量 m,電荷 q>0 の粒子を原点から静止状態で放します.場は時間によらず,ω=qB/m, u=E/B とします.

  1. 運動方程式から x(t),y(t) を求めよ.

  2. 放した後で初めて y=0 に戻る時刻と位置を求めよ.最大の速さと,電場の仕事による検算も示せ.

正電荷qの粒子を原点から静かに放す.電場Eは正のy方向,磁場Bは紙面手前の正のz方向である. 正電荷qの粒子を原点から静かに放す.電場Eは正のy方向,磁場Bは紙面手前の正のz方向である.
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考え方 速度の定数成分を引き,単振動の式にする.

  1. dvxdt=ωvy,dvydt=ω(u−vx).w=vx−u とおけば d2wdt2=−ω2w.初期条件 w(0)=−u,dwdt(0)=0 より vx=u(1−cos⁡ωt), vy=usin⁡ωt.積分して

x=u(t−sin⁡ωtω),y=uω(1−cos⁡ωt)

サイクロイドである.

  1. 初めて戻るのは t=2π/ω,位置は (2πu/ω,0).速さの2乗は vx2+vy2=2u2(1−cos⁡ωt) だから最大は 2u.磁気力は仕事をせず,K=mu2(1−cos⁡ωt)=qEy は電場の仕事と一致する.非相対論的近似には,最大速度での無次元量 2E/(Bc) が1より十分小さいことが必要である.

ポイント 教える人へ

  • 電荷の符号と曲がる向きを問います.

  • 半径に使う成分と周期の独立性を確認します.

  • 軌道の接続では位置と速度の両方を引き継がせます.

  • 測定の切片と不確かさ,仕事をする場,近似の条件を説明させます.

04電流が作る磁場とアンペールの法則

問い

1820年,エルステッドは,電池につないだ導線のそばに置いた方位磁針が向きを変えることに気づきました.磁針は導線の方を向くのでも,導線から離れる向きを向くのでもなく,導線に垂直な向きにふれました.電流を逆向きにすると,ふれる向きも逆になりました.電流はどんな形の磁場を作るのでしょうか.

考えてみる

止まっている電荷は,電荷から放射状に出ていく電場を作りました(第20章).磁場にも同じように「磁気の電荷」があって,そこから磁場が出ていると考えたくなります.ところが,まっすぐな電流のまわりに方位磁針をいくつも並べると,磁針は導線を囲む円に沿ってそろいます.磁力線は導線を中心とする円で,始まりも終わりもありません.磁場は電流を「囲む」ように作られるのです.

向きが,電流の向きにも,電流から見た点の向きにも垂直なのは,前の題材のローレンツ力と同じく外積の形です.ビオとサバールは,長い直線電流の磁場の強さが電流に比例し,距離に反比例することを測り,それを電流の小さな部分ごとの寄与に分ける式にまとめました.

ビオ・サバールの法則

法則 ビオ・サバールの法則

電流 I の導線の微小な部分 dl(向きは電流の向き)が,そこから r だけ離れた点に作る磁場は

dB=μ04πIdl×rr3

である.導線全体の磁場は,これを導線に沿って足し合わせて(積分して)求める.μ0 を真空の透磁率という.

大きさは μ0Idlsin⁡θ/(4πr2)(θ は dl と r のなす角)で,クーロンの法則と同じ逆2乗です.違うのは向きで,dB は電流の部分のまわりを回る向きを向きます.μ0 は 2019 年までの SI では 4π×10−7NA−2 ちょうどと定められていました.今は測って決める量ですが,この値と 10−9 の割合より細かいところでしか違わないので,この本では 4π×10−7NA−2 を使います.

左では上向きの I dl と観測点 P への r が角 θ をなし,外積で決まる dB は紙面の奥向き.右は導線の軸方向から見た断面で,磁場が導線を囲む円の接線を向くことを示す. 左では上向きの I dl と観測点 P への r が角 θ をなし,外積で決まる dB は紙面の奥向き.右は導線の軸方向から見た断面で,磁場が導線を囲む円の接線を向くことを示す.

ビオ・サバールの法則を積分すると,次の結果が出ます(積分は数学の節で行います).

公式 電流が作る磁場

  • 十分長い直線電流から距離 r の点:B=μ0I2πr.向きは,電流の向きに右ねじを進めるときにねじの回る向き.

  • 半径 R の円電流の中心:B=μ0I2R.中心から軸に沿って z 離れた点:B=μ0IR22(R2+z2)3/2.

  • 単位長さあたり n 巻きの十分長いソレノイドの内部:B=μ0nI.

直線電流で I=1A,r=1cm なら B=2×10−7×1/0.01=2×10−5T で,地磁気と同じ程度です.円電流の軸上の磁場は,z が R よりずっと大きいと z−3 で弱まり,第20章の電気双極子の場と同じ形になります.円電流は小さな磁石としてふるまい,第3題材でこれを磁気モーメントとして扱います.

磁力線は閉じている

電気力線は正の電荷から出て負の電荷に入ります.電流が作る磁力線は,直線電流でも円電流でも閉じた曲線です.棒磁石の磁力線は外ではN極から出てS極に入りますが,磁石の内部をS極からN極へ通ってつながっていて,やはり閉じています(磁石の正体は第4題材で見ます).N極だけ,S極だけを取り出した粒子(磁気単極子)は,探されてきましたが見つかっていません.

面を貫く磁場の流束を磁束といい,Φ=∫SB⋅dS(単位 Wb=Tm2)と書きます.dS は,向きが面の法線の向きで,大きさが面の小さな部分の面積であるベクトルです.磁力線が閉じていることは,第20章のガウスの法則にならって次のように言えます.

法則 磁場のガウスの法則

どんな閉じた曲面についても,そこから出ていく磁束は0である.

∫SB⋅dS=0

ここで S は閉じた曲面で,dS は外向きにとる.

アンペールの法則

電場では流束が電荷を数えました.磁場で電流を数えるのは,閉じた道に沿った線積分です.直線電流のまわりの半径 r の円に沿って一周すると,B は円の接線の向きで大きさが一定なので,線積分は B⋅2πr=μ0I で,半径によりません.

道が円でなくても同じです.導線を軸とする円柱座標で,道の小さな部分 dl を半径の向きと円周の向きに分けると,磁場は円周の向きなので,効くのは円周の向きの部分 rdφ だけです.すると B⋅dl=μ0I2πrrdφ=μ0I2πdφ で,距離が消えます.道が導線を1回囲めば一周で φ は 2π 増えて μ0I,囲まなければ φ は元に戻って0です.電流がいくつあっても,それぞれの磁場の和なので,囲んだ電流だけが残ります.ビオ・サバールの法則から,どんな形の定常電流でも同じことが言えます.

法則 アンペールの法則

定常電流が作る磁場について,閉じた道 C に沿って一周する線積分は,C を縁とする面を貫く電流の和 Iin の μ0 倍に等しい.

∫CB⋅dl=μ0Iin

電流の符号は,C を回る向きに右ねじを回したとき,ねじの進む向きを正とする.

[図:閉じた道を変えて確かめるアンペールの法則]

初期状態では紙面の手前向きの電流 I を橙の道 C が囲み,B・dl の和は μ₀I.スライダーで道の位置と形を変えられる.電流を囲まなくなると和は0になる.道が電流を通る位置は特異点として区別する.

ガウスの法則と同じく,この法則で磁場が求められるのは,対称性から磁場の向きが分かり,道に沿って大きさが一定になる場合です.半径 a の太い導線に電流 I が一様に流れていれば,半径 r の円が囲む電流は,内部では Ir2/a2 なので

B=μ0Ir2πa2(r≤a),B=μ0I2πr(r≥a)

です.長いソレノイドでは,内部の磁場は軸に平行で,外部の磁場はほぼ0です.軸に平行な辺の長さ l の長方形の道を,1辺が内部,もう1辺が外部に来るように置くと,軸に垂直な2辺は磁場に垂直で寄与しません.囲む電流は nlI なので Bl=μ0nlI,つまり B=μ0nI で,内側の辺を断面のどこに置いても同じです.内部の磁場は一様です.

巻線の上側は電流が手前向き,下側は奥向きで,内部の磁場は右向き.長さ l の辺を内部と外部に置いた長方形の道 C を示す.外部の磁場は十分長いソレノイドでほぼ0. 巻線の上側は電流が手前向き,下側は奥向きで,内部の磁場は右向き.長さ l の辺を内部と外部に置いた長方形の道 C を示す.外部の磁場は十分長いソレノイドでほぼ0.

湧き出しはなく,電流のまわりに渦がある(発展)

第20章では,ガウスの定理で流束の法則を各点の発散の式に,ストークスの定理で一周の線積分の法則を各点の回転の式に書き直しました.磁場の2つの法則を同じように書き直すと(数学の節で導きます),次のようになります.

定理 静磁場の法則の微分形

∇⋅B=0,∇×B=μ0j

静電場と並べると,違いがはっきりします.

発散(湧き出し)

回転(渦)

静電場 E

∇⋅E=ρ/ε0

∇×E=0

静磁場 B

∇⋅B=0

∇×B=μ0j

静電場は電荷という湧き出しから流れ出す場で,渦はありません.静磁場は湧き出しがなく,電流のまわりに渦を巻く場です.場が時間とともに変わるときには,それぞれの回転の式に項が加わり,第24章でマクスウェル方程式の4つの式にまとまります.

(発展)ベクトルポテンシャル 発散が0の場は,別のベクトル場 A の回転として B=∇×A と書けます.静電場が E=−∇⁡V と書けたのと対になる量で,A をベクトルポテンシャルといいます.この本では名前だけにとどめます.

地磁気

地球の磁場は,地球の中心に,自転軸から 10∘ ほど傾けた棒磁石を置いたような形です.方位磁針のN極が北を指すので,地理上の北極の近くにあるのは磁石のS極です.日本付近では磁場の大きさが 4.6×10−5T ほどで,水平面から下へ 50∘ ほど傾き,水平成分は 3.0×10−5T ほどです.水平面内で回れる方位磁針は,その場所の磁場の水平成分(地磁気と,近くの電流が作る磁場の合成)の向きを指します.エルステッドの実験で磁針がふれる角は,地磁気の水平成分と電流の磁場の比で決まります.

地磁気の源は,地球の外核で液体の鉄が流れることで生じる電流です.地球の内部は鉄が磁石でいられる温度(第4題材のキュリー温度)より高いので,永久磁石ではありえません.

適用の条件

ここで使った式は,電流が時間とともに変わらない(定常な)場合のものです.電流が変わるときのアンペールの法則には,第24章で1項を足します.「十分長い直線」は導線の長さ L が距離 r よりずっと長いことで,長さ L の線分の中央の正面では磁場が μ0I/(2πr) より約 2r2/L2 の割合だけ小さくなります.ソレノイドの B=μ0nI も,長さが半径よりずっと長く,端から十分離れた所で使えます.導線の太さは,磁場を考える点までの距離よりずっと小さいとし,まわりは真空(空気の透磁率は μ0 とほとんど同じ)としています.

問いに戻る

エルステッドの導線は,まわりに同心円の磁力線を作ります.導線のそばの方位磁針は,その円の接線の向き,つまり導線に垂直な向きの磁場を受け,地磁気の水平成分との合成の向きまでふれます.電流を逆にすれば円を回る向きが逆になるので,磁針も逆にふれます.電流を円にすると磁力線は輪をくぐって閉じ,遠くからは小さな磁石に見えます.コイルを長く巻けば,内部に一様な磁場ができます.どの場合も,磁場は湧き出しのない,電流を囲む渦の形をしています.

ポイント ここまでのまとめ

  • 電流の小さな部分が作る磁場はビオ・サバールの法則 dB=μ04πIdl×rr3 で,逆2乗だが向きは外積で決まる.

  • 直線電流 B=μ0I/(2πr),円電流の中心 B=μ0I/(2R),長いソレノイドの内部 B=μ0nI.

  • 磁力線は閉じていて,閉じた曲面から出る磁束は0.閉じた道に沿った線積分は囲んだ電流の μ0 倍(アンペールの法則).(発展)微分形は ∇⋅B=0,∇×B=μ0j.

  • 方位磁針は,地磁気と電流の磁場を合わせた水平成分の向きを指す.

  • 問いの答え:直線電流の磁力線は導線を中心とする同心円で,向きは電流に右ねじを進めるときの回る向き,強さは μ0I/(2πr).磁針は円の接線,つまり導線に垂直な向きにふれ,電流を逆にすると逆を向く.

05ビオ・サバールの積分と磁場の回転

本体の節で結果だけ示した直線電流と円電流の磁場を,ビオ・サバールの法則の積分で導きます.後半(発展)では,アンペールの法則を各点の式 ∇×B=μ0j に書き直し,「回転の発散は0」という恒等式が何を意味するかを見ます.

定理 数学の道具:外積の向きと成分

単位ベクトルについて ex×ey=ez,ey×ez=ex,ez×ex=ey で,順番を入れ替えると符号が変わる.成分では

a×b=(aybz−azby, azbx−axbz, axby−aybx)

大きさは absin⁡θ,向きは a から b へ右ねじを回したときにねじの進む向きである.

外積は第8章で角運動量に使いました.x→y→z→x の順なら正と覚えておけば,磁場や力の向きを成分の計算で確かめられます.

定理 数学の道具:直線電流の磁場の積分

z 軸に沿って +z 向きに電流 I が流れる導線の,z1≤z≤z2 の部分が点 P(d,0,0) に作る磁場は +y 向きで,大きさは

B=μ0I4πd(sin⁡β2−sin⁡β1)

である.β1,β2 は,P から導線に下ろした垂線と,P から両端を見る向きのなす角(+z の側を正)である.

位置 z にある部分 dl=dzez から P へのベクトルは r=dex−zez なので,dl×r=ddzez×ex=ddzey です.すべての部分の寄与が +y 向きにそろうので,大きさを足せばよく

B=μ0I4π∫z1z2ddz(d2+z2)3/2

です.z=dtan⁡β とおくと dz=ddβ/cos2⁡β,(d2+z2)3/2=d3/cos3⁡β なので,被積分関数は cos⁡βdβ/d になり,上の式が出ます.十分長い導線では β1→−π/2,β2→π/2 で B=μ0I/(2πd) です.中央の正面から半分の開き角 α で見える線分なら B=μ0Isin⁡α/(2πd) です.

+z 向きの電流 I の線分を z₁ から z₂ まで描く.P は導線から距離 d の点.位置 z の微小部分 dz から P への r と,垂線から測る角 β,β₁,β₂ を示す.+z 側を正とし,β₁ は負の角である. +z 向きの電流 I の線分を z₁ から z₂ まで描く.P は導線から距離 d の点.位置 z の微小部分 dz から P への r と,垂線から測る角 β,β₁,β₂ を示す.+z 側を正とし,β₁ は負の角である.

定理 数学の道具:円電流の軸上の磁場

xy 平面にある半径 R の円電流 I が,軸上で中心から z の点に作る磁場は軸の向きで

B=μ0IR22(R2+z2)3/2

である.

円の上のどの部分 dl も,P へのベクトル r(長さ R2+z2)に垂直なので,寄与の大きさは μ0Idl/(4π(R2+z2)) です.その向きは r に垂直で,軸を含む面の中にあります.軸に垂直な成分は,円の反対側の部分の寄与と打ち消し合い,軸の向きの成分だけが残ります.その割合は R/R2+z2 なので,dl の和 2πR を掛けて上の式になります.z=0 で B=μ0I/(2R) です.中心では,中心角 dφ の円弧(長さ Rdφ)の寄与が μ0Idφ/(4πR) なので,円弧の一部だけの電流も中心角に比例して数えられます.

円電流の向かい合う2つの微小部分 dl が軸上の点 P に作る dB を示す.軸に垂直な成分は逆向きで打ち消し合い,軸方向の成分は同じ向きで加わる. 円電流の向かい合う2つの微小部分 dl が軸上の点 P に作る dB を示す.軸に垂直な成分は逆向きで打ち消し合い,軸方向の成分は同じ向きで加わる.

練習1 片側にだけ十分長い直線電流 I がある.導線の端を通り導線に垂直な直線の上で,端から d の点の磁場の大きさを求めよ.

練習2 1辺 s の正方形のコイルに電流 I を流す.中心の磁場の大きさを求め,周の長さが同じ円形のコイルの中心の磁場と比べよ.

答え 練習1:β1=0,β2=π/2 で B=μ0I/(4πd).無限に長い直線の半分である.練習2:各辺は d=s/2,α=π/4 で μ0Isin⁡(π/4)/(2π⋅s/2).4辺がそろうので B=22μ0I/(πs)≈0.90μ0I/s.周が 4s の円は半径 2s/π で B=πμ0I/(4s)≈0.79μ0I/s.正方形のほうが少し大きい.

アンペールの法則の道の選び方

アンペールの法則で磁場が求まるのは,道の各部分で B が道に平行で大きさが一定か,道に垂直か,B=0 か,のどれかになるように道を選べるときです.そのために,まず対称性で磁場の向きを決めます.十分長い直線電流のまわりで,磁場に半径の向きの成分 Br があると,軸を囲む長さ l の円柱の側面から 2πrlBr の磁束が出て,磁場のガウスの法則に反します.軸の向きの成分は,軸を含む面の長方形の道に法則を使うと r によらず,遠くで0なので0です.残る円周の向きの成分には,同心円の道を選びます.

微分形への書き直し(発展)

定理 数学の道具:ストークスの定理とガウスの定理(第20章の復習)

閉じた道 C とそれを縁とする面 S,閉じた曲面 S とその内部 V について

∫CB⋅dl=∫S(∇×B)⋅dS,∫SB⋅dS=∫V∇⋅BdV

が成り立つ.(∇×B)z は,z 軸に垂直な小さな面の縁を一周する線積分を面積で割った値の極限である.

アンペールの法則の右辺の電流を電流密度で Iin=∫Sj⋅dS と書き,左辺にストークスの定理を使うと

∫S(∇×B−μ0j)⋅dS=0

です.これが C をどこにどんな大きさでとっても成り立つので,小さな面をとれば被積分関数そのものが0,つまり ∇×B=μ0j です.同じように,磁場のガウスの法則にガウスの定理を使えば,どんな小さな体積でも ∇⋅B の積分が0なので ∇⋅B=0 です.

定理 数学の道具:回転の発散は0

どんな滑らかなベクトル場 A についても ∇⋅(∇×A)=0 である.

成分で書くと

∂∂x(∂Az∂y−∂Ay∂z)+∂∂y(∂Ax∂z−∂Az∂x)+∂∂z(∂Ay∂x−∂Ax∂y)

で,偏微分の順序は入れ替えられるので,6つの項が2つずつ打ち消し合います.この恒等式から2つのことが分かります.

1つ目は,∇×B=μ0j の発散をとると ∇⋅j=0 が出ることです.第21章の連続の式 ∇⋅j=−∂ρ/∂t(第21章では電荷密度を ρq と書きました)と比べると,この形のアンペールの法則は電荷がどこにもたまらない定常電流でしか成り立ちえません.充電中のコンデンサーのように電荷がたまる場合には,第24章で項を1つ足します.

2つ目は,回転で書ける場は発散が0だということです.逆に,発散が0の場はいつでも回転で書けることも知られていて(証明は省きます),∇⋅B=0 だから B=∇×A と書ける,というのが本体の節で一言ふれたベクトルポテンシャルです.

練習3 A=B02(−y,x,0) の回転を求めよ.

答え (∇×A)x=∂Az/∂y−∂Ay/∂z=0,y 成分も0,(∇×A)z=B02+B02=B0.一様な磁場 B0ez は,この A の回転として書ける.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

半径 R,長さ l,単位長さあたりの巻数 n のソレノイドに電流 I を流す.巻線は密で,円電流が軸に沿って一様に並んだものとみなす.

  1. 円電流の軸上の磁場を積分して,ソレノイドの中心の磁場を求めよ.l=10R のとき,μ0nI の何倍か.

  2. 十分長いソレノイドの端の面の中心での磁場は,μ0nI の何倍か.その理由を重ね合わせで説明せよ.

ソレノイドの半径は R,長さは l.中心を原点として軸を z とし,位置 z に幅 dz の巻線の束を示す.中心や端の磁場の計算結果は示していない. ソレノイドの半径は R,長さは l.中心を原点として軸を z とし,位置 z に幅 dz の巻線の束を示す.中心や端の磁場の計算結果は示していない.
解答を見る

考え方 幅 dz の部分には ndz 巻きがあり,電流 nIdz の円電流とみなせる.中心から z の円電流が中心に作る磁場を足す.

B=∫−l/2l/2μ0nIR2dz2(R2+z2)3/2=μ0nI2[zR2+z2]−l/2l/2=μ0nIl/2R2+l2/4

(ddzzR2+z2=R2(R2+z2)3/2 を使った.)l=10R なら 526≈0.98 倍である.

  1. 端の面の中心では,積分の範囲が 0 から l で B=μ0nI2lR2+l2→μ0nI2.同じソレノイドをもう1本,端と端をつないで置くと,つないだ所は長いソレノイドの内部で μ0nI になる.対称性から2本は同じだけ寄与するので,1本の端では半分である.

確かめ:l→∞ で (1) は μ0nI になり,アンペールの法則の結果と一致する.l=10R でも中心では 2 % しか違わないが,端では半分まで落ちるので,B=μ0nI は端から十分離れた所でだけ使える.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

半径 a の長い円柱の導体に,+z 向きの電流が,軸からの距離 r に比例する電流密度 j=j0r/a で流れている(j0>0).

  1. 全電流 I と,円柱の内外の磁場の大きさを求めよ.

  2. 内部の磁場を x,y,z 成分で書き,∇⋅B=0 と ∇×B=μ0j を確かめよ.外部では ∇×B=0 であることも確かめよ.

半径 a の円柱導体の電流は +z 向き.中心から外へ濃くなる同心の帯は j = j₀r/a を表す.半径 r の道とその上の磁場の向きだけを示し,磁場の大きさの答えは示していない. 半径 a の円柱導体の電流は +z 向き.中心から外へ濃くなる同心の帯は j = j₀r/a を表す.半径 r の道とその上の磁場の向きだけを示し,磁場の大きさの答えは示していない.
解答を見る

考え方 軸対称なので磁場は円周の向きで,同心円の道にアンペールの法則を使う.円周の向きの単位ベクトルは (−y/r,x/r,0).

  1. 半径 r の円の内側の電流は

I(r)=∫0rj0sa2πsds=2πj0r33a,I=I(a)=2πj0a23

2πrB=μ0I(r) から,内部(r≤a)で B=μ0j0r23a,外部(r≥a)で B=μ0I2πr=μ0j0a23r.r=a で両方とも μ0j0a/3 になり,つながる.

  1. k=μ0j0/(3a) とおくと,内部は B=kr(−y,x,0),r=x2+y2.∂r/∂x=x/r を使うと

∇⋅B=−kxry+kyrx=0
(∇×B)z=∂∂x(krx)+∂∂y(kry)=k(r+x2r)+k(r+y2r)=3kr=μ0j0ra=μ0j

Bz=0 で,成分は z によらないので,x,y 成分の回転は0.よって ∇×B=μ0j.外部は B=μ0I2π(−yr2,xr2,0) で

(∇×B)z=μ0I2π(r2−2x2r4+r2−2y2r4)=0

確かめ:∇×B は電流のある所でだけ0でなく,その値が電流密度に μ0 を掛けたものになっている.外部の磁場は,内部の電流の分布によらず全電流 I だけで決まる.

ポイント ここまでのまとめ

  • 外積は ex×ey=ez とその順の入れ替えで向きを決める.

  • 線分の電流の磁場は μ0I4πd(sin⁡β2−sin⁡β1),円電流の軸上は μ0IR22(R2+z2)3/2.ソレノイドはこれを並べて積分する.

  • アンペールの法則は,対称性で向きを決め,B が道に平行で一定か垂直になる道を選んで使う.

  • ストークスの定理とガウスの定理で,積分形の法則は ∇×B=μ0j,∇⋅B=0 と同じことを言う.

  • ∇⋅(∇×A)=0 から,この形のアンペールの法則は定常電流に限られる.発散が0の磁場は B=∇×A と書ける.

06電流が作る磁場の演習

積分する道と磁場の向きを確かめてください.導線とコイルは真空中にあり,電流は定常です.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

z 軸に平行な2本の十分長い直線導線A,Bを,xy 平面上の (0,0),(d,0) に通します.両方に +z 向きの電流が流れ,大きさはAが I,Bが 3I です.d,I>0 とします.

  1. 2本の中点での磁場の大きさと向きを求めよ.

  2. x 軸上で磁場が0になる点をすべて求めよ.導線そのものの位置は除く.

xy平面上の原点に導線A,位置dに導線Bを置く.電流はそれぞれIと3Iで,ともに正のz方向へ流れる. xy平面上の原点に導線A,位置dに導線Bを置く.電流はそれぞれIと3Iで,ともに正のz方向へ流れる.
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考え方 導線の両側で磁場の向きが逆になる.右手で向きを決める.

  1. 直線電流の磁場は B=μ0I/(2πr).中点ではAの磁場が +y 向き,Bが −y 向きで,合成は −y 向き,大きさ 3μ0I/(πd)−μ0I/(πd)=2μ0I/(πd).

  2. 外側では両磁場が同じ向きなので0にならない.内側では I/x=3I/(d−x) より d−x=3x,したがって x=d/4.弱い電流の方に近い点で打ち消すことも確かめられる.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

長い同軸ケーブルの内導体は半径 a,外導体は内半径 b,外半径 c です.0<a<b<c とします.内導体には +z 向きに I,外導体には −z 向きに ηI が一様に流れます.0≤η≤1 で,不足する戻り電流は十分遠方に流れ,ケーブル付近の磁場への寄与を無視します.

  1. 軸からの距離 r ごとに磁場を求め,境界でつながることを示せ.

  2. r1>c で測った磁場の大きさが μ0I/(10πr1) でした.η を求め,完全な戻り電流との違いを説明せよ.

内導体の半径はa,外導体の内半径はb,外半径はcである.内導体の電流Iは紙面手前向き,外導体の電流ηIは奥向きである.破線は半径rの積分路の一例である. 内導体の半径はa,外導体の内半径はb,外半径はcである.内導体の電流Iは紙面手前向き,外導体の電流ηIは奥向きである.破線は半径rの積分路の一例である.
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考え方 閉じた円に沿って一周するアンペールの法則では,円の内側の電流を符号つきで数える.

  1. +z から見て反時計回りを正とすると 2πrB=μ0Iin.内導体の部分電流は Ir2/a2,外導体の部分電流は −ηI(r2−b2)/(c2−b2) なので

B=μ0I2π{r/a20≤r<a,1/ra≤r<b,[1−η(r2−b2)/(c2−b2)]/rb≤r<c,(1−η)/rc≤r

向きは反時計回りである.各境界の両側で B は順に μ0I/(2πa),μ0I/(2πb),μ0I(1−η)/(2πc) に一致する.軸上は0である.

  1. (1−η)/2=1/10 より η=0.80.η=1 なら外側の磁場は0だが,戻り電流が不足すると外側にも 1/r の磁場が残る.遠方の戻り導線までの距離を D とすると,その寄与を捨てる条件は観測する r で r/D が十分小さいことである.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

半径 R=0.10m,巻数 N=20 の円形コイルを鉛直に置き,中心の磁場が東向きになる電流を正とします.中心に置いた小さな方位磁針は,磁場の水平成分の合成方向を指します.地磁気は北向きに BH,装置由来の一定の磁場は東向きに Bs です.北から東へのふれ角を ϕ として,次の値を得ました.μ0=4π×10−7NA−2 とします.

I(A)

tan⁡ϕ

−0.050

−0.30

0

0.20

0.050

0.70

  1. tan⁡ϕ と I の関係を導き,BH,Bs を求めよ.

  2. 電流反転の前後の差を使うと,何の影響を取り除けるか.磁針の長さを ℓ として,一点の磁場で扱う条件も述べよ.

水平面を上から見た模式図.鉛直コイルの中心に磁針を置き,北から東への角φを測る.地磁気B_Hは北向き,装置の一定磁場B_sは東向きである. 水平面を上から見た模式図.鉛直コイルの中心に磁針を置き,北から東への角φを測る.地磁気B_Hは北向き,装置の一定磁場B_sは東向きである.
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考え方 合成磁場の東成分を北成分で割ると,ふれ角の正接になる.傾きが地磁気,切片が一定の偏りを決める.

  1. 中心のコイル磁場は Bc=μ0NI/(2R).したがって tan⁡ϕ=μ0NI/(2RBH)+Bs/BH.傾きは (0.70+0.30)/0.100=10A−1,切片は0.20なので,BH=μ0N/(2R×10)=1.3×10−5T,Bs=0.20BH=2.5×10−6T.中央の値も一致する.

  2. tan⁡ϕ(I)−tan⁡ϕ(−I)=μ0NI/(RBH) となり,一定の Bs が消える.磁場の一様性には ℓ/R が1より十分小さく,磁針がコイルの磁場を乱さないことが必要である.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

半径 R の長い円柱導体に,半径 a の円筒形の穴をあけます.導体の軸は z 軸,穴の軸は x=d,y=0 で,0<d, d+a<R です.残った導体部分には電流密度 j=jez が一様に流れます.j>0,ez は +z 向きの単位ベクトルです.

  1. 穴の中の磁場を求めよ.

  2. 穴の軸から +x 向きに距離 D>a の位置に,平行な細い直線導線を加えます.穴の軸上の磁場を0にする電流の向きと大きさを求めよ.そのとき穴の内部全体で磁場は0か.

半径Rの導体の内部に半径aの穴があり,両軸の間隔はdである.残る導体に正のz方向の電流密度jを与える.穴の軸から右へ距離Dに追加導線を置く.追加電流の向きは未指定である. 半径Rの導体の内部に半径aの穴があり,両軸の間隔はdである.残る導体に正のz方向の電流密度jを与える.穴の軸から右へ距離Dに追加導線を置く.追加電流の向きは未指定である.
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考え方 穴を埋めた一様電流から,穴と同じ円柱内の電流を引く.両円柱の内部の式を使う.

  1. 一様電流の円柱の内部では,半径 s の円について 2πsB=μ0jπs2 より B=μ0js/2.位置ベクトルで書けば B=μ0jez×r/2.穴の軸へのベクトルを d=dex とすると,重ね合わせは

B=μ0j2ez×[r−(r−d)]=μ0jd2ey

穴の中は一様な +y 向きの場である.

  1. 追加導線に +z 向きの電流 Iw を流すと,その左側には −y 向きの場ができる.μ0Iw/(2πD)=μ0jd/2 より Iw=πjdD.穴の内部の点 x=d+ξ,y=0 では,0<ξ<a として合成場の y 成分は μ0jd[1−D/(D−ξ)]/2≠0.軸上だけの打ち消しであり,一様な場と位置で変わる場は全域で相殺できない.d→0 なら元の穴の磁場も必要な追加電流も0となる.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

半径 R,巻数 N の薄い円形コイル2個を,共通の軸の座標 x=±h/2 に置き,同じ向きに電流 I を流します.1個のコイルが中心から軸方向へ距離 z の点に作る磁場は B1(z)=μ0NIR2/[2(R2+z2)3/2] です.

  1. 合成場 B(x) と,x=0 での1階・2階微分を求めよ.

  2. 中心付近の2次の変化が消える間隔 h と,そのときの B(0) を求めよ.使う展開の条件も述べよ.

半径R,巻数Nの二つのコイルをxが負のh/2と正のh/2の位置に置く.両方の電流Iは同じ巻き向きに流れる.中央を原点とする. 半径R,巻数Nの二つのコイルをxが負のh/2と正のh/2の位置に置く.両方の電流Iは同じ巻き向きに流れる.中央を原点とする.
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考え方 対称性で1次は消える.2次も消す間隔を求める.

  1. K=μ0NIR2/2, f(z)=(R2+z2)−3/2 とすると B(x)=K[f(x−h/2)+f(x+h/2)].微分して f′(z)=−3z(R2+z2)−5/2,f″(z)=3(4z2−R2)(R2+z2)−7/2.f′ は奇関数なので B′(0)=0,また

B″(0)=6K(h2−R2)(R2+h2/4)7/2
  1. B″(0)=0 より h=R.B(0)=2K/(5R2/4)3/2=(4/5)3/2μ0NI/R.B(x)=B(0)+B″(0)x2/2+⋯ は |x|/R が十分小さいときの展開である.対称性で奇数次も消えるが,4次以降は残るので全空間で一様ではない.h→0 では B(0)=μ0NI/R となり,重なった 2N 巻のコイルと一致する.

ポイント 教える人へ

  • 磁場の向きと,積分する道の向きを別々に確認します.

  • アンペールの法則から場を決める際に,どの対称性を使ったか問います.

  • 穴の問題で実際の導体と重ね合わせの架空の電流を区別させます.

  • 測定の切片とコイルの一様性を,それぞれの模型の条件から説明させます.

07電流に働く力とモーター

問い

扇風機も洗濯機も電車も,電気で回るものの中にはモーターが入っています.モーターの中にあるのは,磁石と,電流の流れるコイルだけです.磁石と電流で,どうして回り続ける力が作れるのでしょうか.しかも第1題材で見たように,磁気力は運動の向きに垂直に働くので,電荷に仕事をしません.それなのにモーターは,物を持ち上げたり車を走らせたりして仕事をします.このエネルギーはどこから来るのでしょうか.

考えてみる

電流を流したコイルは磁石のようにふるまうので,磁石のそばに置くと,向きをそろえるように回ります.けれども,向きがそろった所で止まってしまいます.方位磁針が北を向いて止まるのと同じです.回り続けさせるには,止まりそうになるたびに何かを切り替える必要がありそうです.

もう1つの謎は仕事です.導線の中の電荷1個に働く磁気力 qv×B は,その電荷の速度 v にいつも垂直です.1個ずつ見れば仕事は0なのに,その和で導線が押されて動くなら,導線には仕事がされています.どこかで帳じりが合っているはずです.まず,電流が受ける力を,第1題材のローレンツ力から組み立てます.

電流に働く力

断面積 S の導線の中を,電荷 q の担い手(キャリア)が数密度 n,平均の速さ w(第21章のドリフト速度 vd のこと.後で速度 v と区別するため w と書きます)で導線に沿って流れているとします.電流は I=qnwS です.導線の長さ dl の部分には nSdl 個のキャリアがあり,それぞれに qw×B が働くので,力の和は qnSdlw×B です.導線に沿って電流の向きを向く長さ dl のベクトルを dl とすれば,これは次のように書けます.

法則 電流に働く力

電流 I の流れる導線の微小部分 dl(電流の向き)には

dF=Idl×B

の力が働く.一様な磁場の中の長さ l のまっすぐな導線では F=Il×B,大きさは IlBsin⁡θ(θ は導線と磁場のなす角)である.

入試で使うフレミングの左手の法則は,この外積の向きを指で覚える方法です.力はキャリアに働きますが,キャリアは導線の外へは出られません.横へ押されたキャリアが導線の片側に寄ると,ホール効果の電場ができ,この電場が導線の正イオンを同じ向きに引きます.こうして力は導線全体に伝わります.

磁場が一様なら,曲がった導線の力も簡単に求められます.B を積分の外に出すと F=I(∫dl)×B で,∫dl は導線の始点から終点へのベクトルです.一様な磁場の中では,どんな形の導線でも,両端をまっすぐ結んだ導線と同じ力を受けます.閉じた回路なら始点と終点が一致するので,一様な磁場が閉じた回路に及ぼす力の合力は0です.ただし,次に見るように回転させる力(トルク)は0とは限りません.

平行な電流の間の力

距離 d を隔てた平行な2本の長い直線導線に,電流 I1,I2 を流します.導線1は導線2の位置に大きさ B1=μ0I1/(2πd) の磁場を作るので(前の題材),導線2の長さ l の部分に働く力は

F=I2lB1=μ0I1I22πdl

です.向きを外積で確かめると,同じ向きの電流は引き合い,逆向きの電流は退け合います.同符号の電荷が退け合うのとは逆です.たとえば d=1.0cm で 10A ずつ流すと,1m あたり 2.0×10−3N で,質量 0.2g の物に働く重力ほどにすぎません.この式は,導線の長さが d よりずっと長く(端の影響の割合は d/l 程度),導線の太さが d よりずっと細いときの近似です.

左は同じ向きの電流 I₁ と I₂,右は逆向きの電流.導線1を囲む磁力線の接線が導線2での B₁ となる.導線2への力 F は左で導線1へ向き,右では外向きになる. 左は同じ向きの電流 I₁ と I₂,右は逆向きの電流.導線1を囲む磁力線の接線が導線2での B₁ となる.導線2への力 F は左で導線1へ向き,右では外向きになる.

この力は,長い間アンペアの定義に使われていました.1948年から2019年までの定義は「真空中に 1m 離して平行に置いた,無限に長く無視できるほど細い2本の直線導線に同じ一定の電流を流し,導線の長さ 1m あたり 2×10−7N の力が働くとき,その電流を 1A とする」でした.上の式に入れると,この定義は μ0=4π×10−7NA−2 と決めたことと同じです.

定義 アンペア(今の SI)

2019年5月20日から,SI は電気素量の値を e=1.602176634×10−19C(C=As)ちょうどと定め,秒はセシウム原子の放つ光の振動数で決める.1A は,1秒あたり電気素量 1/(1.602176634×10−19)≈6.241509×1018 個分の電荷が通る電流である.

今の定義では,力ではなく電荷の数でアンペアが決まります.代わりに μ0 は測る量になりましたが,前の題材で見たとおり 4π×10−7NA−2 との違いはごくわずかで,計算では今までどおりこの値を使います.

コイルに働くトルクと磁気モーメント

一様な磁場 B の中に,辺の長さ a,b の長方形の1巻のコイルを置き,長さ a の辺に平行で磁場に垂直な軸のまわりに回れるようにします.コイルの面の法線(電流の向きに右ねじを回すとき,ねじの進む向き)の単位ベクトルを n とし,n と B のなす角を θ とします.長さ a の2辺には大きさ IaB の逆向きの力が働き,その作用線は bsin⁡θ だけずれているので,トルクの大きさは IaB⋅bsin⁡θ=ISBsin⁡θ(S=ab)です.長さ b の2辺の力は軸に平行で,同じ直線の上で打ち消し合います.

長さ a の2辺に逆向きの力 IaB が働く.法線 n と磁場 B の角は θ.回転軸方向から見た右図で,力の作用線のずれ b sin θ を示す. 長さ a の2辺に逆向きの力 IaB が働く.法線 n と磁場 B の角は θ.回転軸方向から見た右図で,力の作用線のずれ b sin θ を示す.

平面のコイルなら,形が何であっても,細い長方形の集まりに分けると隣り合う辺の電流が打ち消し合うので,トルクは面積 S だけで決まります.

定義 磁気モーメント

電流 I が囲む面積 S の平面のコイルの磁気モーメントを m=ISn(単位 Am2)とする.N 巻なら m=NISn である.一様な磁場の中でコイルに働くトルクは

τ=m×B

で,合力は0である.

トルクは m を B の向きへそろえようとします.角 θ を dθ だけ増やすとき,磁気のトルクがする仕事は −mBsin⁡θdθ=d(mBcos⁡θ) なので,この仕事は

U=−mBcos⁡θ=−m⋅B

の減少として数えられます.θ=0 が安定なつり合い,θ=π が不安定なつり合いです.ただし,この U は電流を一定に保ったまま動かすときの力学の位置エネルギーです.コイルが回ると,第23章で学ぶ誘導起電力がコイルに生じ,電流を一定に保つ電源がそれに逆らって仕事をします.U はその電源の仕事まで含めた勘定で,コイルと電源と磁場の全エネルギーではありません.第20章で,電圧を一定に保ったまま誘電体を引き込む力を求めたとき,電源の仕事を入れたのと同じ注意です.

磁場が場所によって違うと,コイルには合力も働きます.m が z 軸の向きを向き,軸の上の磁場 B(z) が z とともに変わるなら,U(z)=−mB(z) から Fz=mdBdz です.小さなコイルは磁場の強い方へ引かれます.これは,磁場が広がる所で磁場に横向きの成分ができ,それとコイルの電流の外積が軸の向きを向くことから直接も確かめられます.この式は,コイルの大きさが磁場の変わる長さよりずっと小さいときの近似です.

(発展)歳差 コイルや原子が回転していて角運動量 L をもち,m が L と同じ向きなら,トルク m×B は L に垂直です.すると第8章のコマと同じく,L は大きさを変えずに磁場のまわりを回ります(歳差).慣性モーメントは,電流の I と区別して J と書きます.

電流計とモーター

可動コイル形の電流計では,磁石の極を円筒の形に削り,中に鉄の円柱を置いて,コイルの辺がいつも磁場に垂直になるようにします(放射状の磁場).するとトルクは角度によらず NISB で,ばねの復元トルク κϕ とつり合う ϕ=NSBI/κ は電流に比例します.一様な磁場のままだとトルクに角度の因子が残り,目盛りが等間隔になりません.

モーターでは,コイルを回し続けます.m が B の向きを通り過ぎると,トルクは逆向きになって回転を止めようとします.そこで,回転軸に付けた2つに割れた輪(整流子)とブラシで,半回転ごとに電流の向きを反転させます.するとトルクは NISB|sin⁡θ| となって向きが変わらず,1回転の平均は (2/π)NISB です.実際のモーターは,角度をずらした多くのコイルを使って,トルクのむらを小さくしています.

N 極から S 極へ向く磁場の中の1巻のコイルと回転軸,分割した整流子,2本のブラシ,直流電源を描く.①,②は同じコイルの辺とそれにつながる整流子の半片を区別する印.半回転後は位置が入れかわり,同じ辺①を流れる電流が反転する. N 極から S 極へ向く磁場の中の1巻のコイルと回転軸,分割した整流子,2本のブラシ,直流電源を描く.①,②は同じコイルの辺とそれにつながる整流子の半片を区別する印.半回転後は位置が入れかわり,同じ辺①を流れる電流が反転する.

磁気力は仕事をしないのに

レールの上を速さ u で動く導体棒で,帳じりを確かめます.棒は x 方向に動き,棒に沿って y 方向に電流が流れ,磁場は z 方向です.キャリアの速度は,棒と一緒に動く uex と,棒に沿って流れる wey の和なので,磁気力は

q(uex+wey)×Bez=qwBex−quBey

です.第1項は棒を押す力で,仕事率 quwB の正の仕事をします.第2項は棒に沿った流れを押し戻す力で,仕事率 −quwB の負の仕事をします.和はちょうど0で,磁気力はやはり仕事をしません.磁気力がしているのは,電流の流れのエネルギーを棒の運動へ移しかえることです.

q > 0 のキャリアは棒の速度 u eₓ と棒に沿う速度 w eᵧ を合成した v で動く.B は +z 向き.磁気力は棒を押す qwB eₓ と流れを押し戻す −quB eᵧ に分かれ,合力は v に垂直である. q > 0 のキャリアは棒の速度 u eₓ と棒に沿う速度 w eᵧ を合成した v で動く.B は +z 向き.磁気力は棒を押す qwB eₓ と流れを押し戻す −quB eᵧ に分かれ,合力は v に垂直である.

流れを押し戻す力は,棒の長さ l にわたって起電力 uBl が電流に逆らうのと同じ働きをします.電流を保つには,電源がこれに逆らって仕事率 I⋅uBl を余分に出さなければなりません.一方,棒が受ける力は IlB で,その仕事率は IlB⋅u です.2つは等しく,モーターの仕事は電源から来ます.動く導体に生じるこの起電力は,第23章の主題です.

問いに戻る

電流は動く電荷の流れなので,磁場の中ではローレンツ力の和 Idl×B を受けます.コイルにはトルク m×B が働き,磁気モーメントを磁場にそろえようとします.そろった所で止まらないように,整流子で半回転ごとに電流を反転させれば,トルクの向きがいつも同じになり,回り続けます.磁気力は電荷に仕事をしませんが,電流の流れのエネルギーを導体の運動へ移しかえます.流れが弱まらないように電源が仕事をするので,モーターの仕事は結局,電源から来ます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 電流に働く力は dF=Idl×B.一様な磁場では,導線の力は両端を結ぶベクトルだけで決まり,閉じた回路の合力は0.

  • 平行電流の間の力は単位長さあたり μ0I1I2/(2πd).同じ向きなら引き合う.今の SI では e の値を定めてアンペアを決め,μ0 は測る量.

  • 磁気モーメント m=NISn,トルク τ=m×B,電流一定のときの位置エネルギー −m⋅B.磁場が一様でなければ Fz=mdB/dz.

  • 整流子で半回転ごとに電流を反転させるとモーターになる.

  • 磁気力の仕事は,導線を押す正の仕事と流れを押し戻す負の仕事の和で0.モーターの仕事は電源が出す.

08電流に働く力の例題

平行な電流の間の力,電流天秤による磁場の測定,磁場の中のコイルの振動を解きます.どの問題でも,力やトルクの向きを外積で確かめ,どの近似を使ったかを最後に点検します.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

十分に長い水平な導線 P を固定し,その真上に,長さ ℓ=0.20m,質量 M=1.0×10−3kg のまっすぐな導線 Q を P と平行に置く.Q は摩擦のない鉛直の案内にはさまれて,水平を保ったまま上下にだけ動ける.P と Q には逆向きに,同じ大きさ I=40A の電流を流し続ける.μ0=4π×10−7NA−2,g=9.8ms−2 とし,Q に電流を送る導線の力は無視する.

  1. Q が浮いて静止するときの P と Q の距離 d0 を求めよ.

  2. このつり合いが上下の動きについて安定であることを示し,Q を少し上下にずらしたときの微小振動の周期を求めよ.

  3. 案内が無ければ,Q はこの位置に留まれるか.

固定された導線 P の上に,長さ ℓ,質量 M の導線 Q を置く.鉛直の案内の間で上下にだけ動ける.逆向きの電流 I と,Q の重力および磁気力を定性的に示す.距離 d₀ の数値と周期は示していない. 固定された導線 P の上に,長さ ℓ,質量 M の導線 Q を置く.鉛直の案内の間で上下にだけ動ける.逆向きの電流 I と,Q の重力および磁気力を定性的に示す.距離 d₀ の数値と周期は示していない.
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考え方 P が Q の位置に作る磁場は μ0I/(2πd) で,逆向きの電流は退け合う.距離 d の関数として力を書き,つり合いの近くで1次まで展開する.

  1. Q に働く上向きの磁気力は F(d)=K/d,K=μ0I2ℓ/(2π) である.数値では K=2×10−7×402×0.20=6.4×10−5Nm.つり合いは K/d0=Mg なので

d0=KMg=6.4×10−51.0×10−3×9.8=6.5×10−3m

である.

  1. d=d0+ξ とすると,|ξ|/d0 が十分小さいとき

Md2ξdt2=Kd0+ξ−Mg≈Kd0(1−ξd0)−Mg=−Mgd0ξ

である.上へずれると磁気力が弱まり,下へずれると強まるので,復元力が働いて安定である.角振動数は ω=g/d0=9.8/(6.5×10−3)=39s−1,周期は 2π/ω=0.16s である.

  1. Q が横へずれると,P からの退け合う力は P から Q へ向かう向きに傾き,横へずれを広げる成分をもつ.厳密につり合いの位置で静止していれば留まれるが,横の動きについて不安定なので,案内が無ければわずかなずれで離れていく.

確かめ:周期は長さ d0 の単振り子と同じ式で,電流が大きいほど d0 が大きく,振動はゆっくりになる.無限に長い直線電流の磁場を使ったので,P の両端が Q から十分遠く,導線の太さも d0 よりずっと細いことが必要である.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

等しい腕の長さの天秤の右の腕に,巻数 N=10 の長方形のコイルをつり下げる.コイルの下の辺(長さ a=0.050m,水平)だけが,紙面に垂直な水平の一様な磁場 B の中にあり,上の辺は磁場の外にある.電流を流す前に天秤をつり合わせておき,電流 I を流してコイルが下へ引かれたとき,左の皿に質量をのせてつり合いを戻した.追加した質量の測定値を Δm とし,測定値には電流によらない一定の零点のずれが含まれるものとする.結果は次の表のとおりである.g=9.8ms−2 とする.

I(A)

0.20

0.40

0.60

0.80

Δm(g)

0.61

1.12

1.63

2.14

  1. Δm と I の関係を導け.コイルの縦の辺に働く力はつり合いに影響しないことも説明せよ.

  2. 表から B を求めよ.I=0.80A の1点だけから求めた値と比べ,直線の傾きを使う理由を述べよ.

等しい腕の天秤の右に N 巻のコイルをつり下げ,下の辺だけを紙面の手前向きの磁場 B に入れる.下の辺の長さ a と右向きの電流 I,下向きの磁気力,左の皿にのせる質量 Δm を示す.力と磁場の計算値は示していない. 等しい腕の天秤の右に N 巻のコイルをつり下げ,下の辺だけを紙面の手前向きの磁場 B に入れる.下の辺の長さ a と右向きの電流 I,下向きの磁気力,左の皿にのせる質量 Δm を示す.力と磁場の計算値は示していない.
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考え方 磁場の中の N 本の下の辺には,それぞれ大きさ IaB の力が働く.腕の長さが等しいので,力のつり合いは皿の重さとの比較になる.

  1. 下の辺は磁場に垂直なので,力は合わせて NIaB で,向きは下向きである.測定値の零点のずれを m0 とすると,追加した質量の真の値は Δm−m0 なので,つり合いを戻す条件は (Δm−m0)g=NIaB,すなわち

Δm=NaBgI+m0

である.縦の辺のうち磁場の中にある部分は,左右の辺で電流が逆向きなので,水平で逆向きの同じ大きさの力を受けて打ち消し合う.上の辺は磁場の外にあるので力を受けない.

  1. 表の値はほぼ直線に乗り,両端から傾きは (2.14−0.61)/0.60=2.55gA−1,切片は約 0.10g である.傾きが NaB/g なので

B=gNa×2.55×10−3kgA−1=9.8×2.55×10−310×0.050=5.0×10−2T

である.I=0.80A の1点から零点のずれを無視して B=Δmg/(NIa) とすると 5.2×10−2T で,約5 %大きい.切片の 0.10g が零点のずれ m0 で,1点の計算ではこれが B に入りこむ.傾きを使えば,電流によらないずれは切片に分かれて除かれる.

確かめ:単位は ms−2⋅kgA−1/m=NA−1m−1=T で正しい.この測定は,下の辺の範囲で磁場が一様であり,上の辺の位置の磁場が十分弱いことを前提としている.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

半径 a,巻数 N=20,質量 M=5.0×10−3kg の細い円形コイルが,直径を回転軸として滑らかに回れる.回転軸は水平で,一様な水平の磁場 B=1.0×10−2T に垂直である.電源はコイルの電流を I=0.50A に保つ.コイルの法線と磁場のなす角を θ とし,コイルの導線を細い輪とみなすと,直径のまわりの慣性モーメントは J=Ma2/2 である.導線のねじれの力と,コイル自身の作る磁場の影響は無視する.

  1. つり合いの向きを求め,それぞれ安定か不安定かを答えよ.

  2. 安定なつり合いのまわりの微小振動の周期を求めよ.周期は a によるか.

  3. θ=π/2 で静かに放したとき,θ=0 を通る瞬間の角速度の大きさ Ω を求め,(2)の微小振動の式をこの振幅に当てはめた値と比べよ.

半径 a,巻数 N の円形コイルを斜めから見た図と,水平な回転軸の方向から見た図を並べる.一様な水平の磁場 B は回転軸に垂直で,左図の ⊙ は手前向きを示す.右図で法線 n と B の角 θ を示す.電源と電流 I を添え,つり合いの向き,周期,角速度の答えは示していない. 半径 a,巻数 N の円形コイルを斜めから見た図と,水平な回転軸の方向から見た図を並べる.一様な水平の磁場 B は回転軸に垂直で,左図の ⊙ は手前向きを示す.右図で法線 n と B の角 θ を示す.電源と電流 I を添え,つり合いの向き,周期,角速度の答えは示していない.
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考え方 電流が一定なので,U=−mBcos⁡θ を力学の位置エネルギーとして使える.トルクは −dU/dθ.

  1. 磁気モーメントは m=NIπa2,トルクは −mBsin⁡θ なので,つり合いは θ=0 と θ=π である.U=−mBcos⁡θ は θ=0 で最小,θ=π で最大なので,m が磁場と同じ向きの θ=0 が安定,逆向きの θ=π が不安定である.

  2. θ が小さいとき Jd2θdt2=−mBsin⁡θ≈−mBθ で,角振動数は

ω=mBJ=NIπa2BMa2/2=2πNIBM

である.数値では ω2=2π×20×0.50×1.0×10−2/(5.0×10−3)≈1.3×102s−2,ω≈11s−1 で,丸める前の値から求めた周期は 2π/ω=0.56s である.m も J も a2 に比例するので,周期は a によらない.

  1. 電流一定なので 12JΩ2−mBcos⁡θ が保存する.θ=π/2 から θ=0 までで

12JΩ2=mB,Ω=2mBJ=2ω=16s−1

である.微小振動の式を振幅 π/2 に当てはめると ω×π/2≈18s−1 となり,丸める前の値で比べると約11 %大きすぎる.sin⁡θ は θ より小さいので,実際の復元トルクは線形の近似より弱い.

確かめ:電流を逆にすると m の向きが変わり,安定と不安定が入れかわる.コイルが回ると第23章の誘導起電力が生じるが,電源が電流を一定に保つので,その分の仕事は電源が受け持ち,−mBcos⁡θ を位置エネルギーとして使ってよい.小振動の式の適用条件は θ2 が1より十分小さいことで,振幅 π/2 では(3)のように1割ほど外れる.

ポイント ここまでのまとめ

  • 平行電流の間の力 μ0I1I2ℓ/(2πd) は距離に反比例し,退け合う配置では上下のつり合いが安定でも横には不安定になりうる.

  • 電流天秤では,力が電流に比例することを使い,傾きから磁場を求めると電流によらない誤差を除ける.

  • 電流を一定に保つコイルは U=−mBcos⁡θ の中の振り子で,微小振動の角振動数は mB/J.

  • 使った近似(長い導線,一様な磁場,小さな振幅)の条件を,最後に数値で点検する.

09電流に働く力とコイルの回転の演習

力の合成とトルクを区別してください.電源の仕事と近似条件も確かめます.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

一様磁場 B=Bez の中に,xy 平面上の半径 a の上半円の導線を置きます.電流 I は (−a,0) から (a,0) へ流れます.ex,ey,ez は各軸の正方向の単位ベクトルです.接続線の力は考えません.

  1. 半円部分への合力を求めよ.

  2. 同じ両端を結ぶ直線導線へ変えた場合と比較せよ.その直線を y 軸のまわりに角 β 傾け,長さ 2a のまま電流方向を cos⁡βex+sin⁡βez とした場合の力も求めよ.

左はxy平面の上半円で,電流は左端から右端へ流れる.磁場は正のz方向である.右はxz平面で長さ2aの直線を正のx方向から角βだけ傾けた配置である. 左はxy平面の上半円で,電流は左端から右端へ流れる.磁場は正のz方向である.右はxz平面で長さ2aの直線を正のx方向から角βだけ傾けた配置である.
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考え方 一様磁場なら変位の積分は両端の変位になる.

  1. dF=Idl×B を足すと F=I(2aex)×(Bez)=−2IaBey.

  2. 直線でも両端の変位が同じなので同じ力である.傾けると F=2IaB(cos⁡βex+sin⁡βez)×ez=−2IaBcos⁡βey.磁場に平行となる β=π/2 で力は0になる.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

間隔 ℓ=0.15m の水平なレールに,質量 M=0.050kg の導体棒を渡します.レールは x 方向,棒は y 方向です.上向き +z の磁場 B=0.40T を加え,静止中の棒には電圧 V の電池から +y 向きに電流を流します.回路全体の抵抗は R=3.0Ω,静止摩擦係数は μ=0.20,動摩擦係数は μ′=0.10,g=9.8ms−2 です.

  1. 棒が動き始める電圧の境目を求めよ.

  2. V=6.0V で,動き始めた直後の加速度を求めよ.

水平レールの間隔はℓであり,静止した棒に正のy方向の電流を流す.回路は電池Vと全抵抗Rを含む.上から見た図で,磁場Bは紙面手前の正のz方向である. 水平レールの間隔はℓであり,静止した棒に正のy方向の電流を流す.回路は電池Vと全抵抗Rを含む.上から見た図で,磁場Bは紙面手前の正のz方向である.
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考え方 磁気力を最大静止摩擦力と比べ,開始後は動摩擦力を使う.

  1. 静止時は I=V/R.磁気力は +x 向きに F=IℓB なので,境目は VcℓB/R=μMg.したがって Vc=μMgR/(ℓB)=4.9V.これを超えると動き始める.

  2. 直後は速度0で電流が 2.0A,力は 0.12N.Ma=0.12−μ′Mg=0.071N より a=1.4ms−2.静止摩擦係数を使い続けない.この計算は速度0の極限であり,有限の速度で同じ電流が続くとは仮定していない.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

巻数 N=40,1巻の面積 S=2.0×10−4m2 の軽いコイルを,ねじりばねで支えます.外部磁場は一様で B=0.50T です.無電流時のコイルの法線は磁場に垂直で,電流 I>0 によって法線が磁場へ近づく角を ϕ とします.ばねの復元トルクは −κϕ,回転軸は磁場に垂直です.静止したふれを測定しました.

I(A)

ϕ(rad)

0.01005

0.100

0.02041

0.200

0.03140

0.300

  1. つり合いの式を導き,どの量を横軸にすれば ϕ と直線関係になるか示せ.表から κ を2桁で求めよ.

  2. 最後の点だけを cos⁡ϕ=1 として解析すると,κ を何 %過大評価するか.

回転軸は磁場に垂直である.無電流時の法線を破線で,測定時の法線を実線で示す.両法線のなす角がφで,ばね定数はκである. 回転軸は磁場に垂直である.無電流時の法線を破線で,測定時の法線を実線で示す.両法線のなす角がφで,ばね定数はκである.
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考え方 法線と磁場の角は π/2−ϕ であり,磁気トルクには cos⁡ϕ が掛かる.

  1. 磁気モーメントの大きさは m=NIS.つり合いは κϕ=NISBcos⁡ϕ なので,横軸を Icos⁡ϕ とすると傾きは NSB/κ.表の各点で Icos⁡ϕ は約 0.01000,0.02000,0.03000A となり,傾きは 10.0A−1.よって κ=NSB/10.0=4.0×10−4Nm である.ラジアンは無次元としている.

  2. 小角式からの推定値は κ′=NISB/ϕ=κ/cos⁡ϕ.相対誤差は 1/cos⁡0.300−1=0.0468,約4.7 %である.cos⁡ϕ≈1−ϕ2/2 なので,小角式の適用条件は ϕ2 が1より十分小さいことである.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

一様磁場 B=Bex の中で,巻数 N,面積 S のコイルを z 軸のまわりに回します.コイルの法線は n=cos⁡θex+sin⁡θey です.正の電流は磁気モーメントが NISn となる向きとします.整流子が半回転ごとに電流を反転し,電源はその大きさを I0 に保ちます.慣性モーメントは J,θ=0 での初期角速度は Ω0>0,摩擦と熱損失は無視します.

  1. 正の回転を助ける電流の符号を各半回転で決め,トルクを求めよ.

  2. 1回転の仕事と1回転後の角速度を求めよ.磁気力が電荷に仕事をしないこととの整合を説明せよ.

xy平面から見たコイルの法線nと磁場Bのなす角をθとする.回転軸はz軸である.別図は分割した整流子と電源の接続を模式的に示す.電流の符号は示さない. xy平面から見たコイルの法線nと磁場Bのなす角をθとする.回転軸はz軸である.別図は分割した整流子と電源の接続を模式的に示す.電流の符号は示さない.
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考え方 外積からトルクの符号を決める.整流により,回転角とトルクの符号をそろえ続ける.

  1. m×B の z 成分は −NISBsin⁡θ.したがって 0<θ<π では I=−I0,π<θ<2π では I=I0 とする.トルクは τz=NI0SB|sin⁡θ| で常に正か0である.

  2. W=NI0SB∫02π|sin⁡θ|dθ=4NI0SB.J(Ω12−Ω02)/2=W より Ω1=Ω02+8NI0SB/J.電荷の速度は導体の速度と導体に沿う速度の和である.磁気力が導体へ渡す仕事は,導体に沿う運動への負の仕事と相殺する.その沿う運動を電源の電場が支える.1回転後は配置と電流が戻るので,熱損失なしの全収支では電源の仕事がこの W を供給する.I0→0 で角速度は変わらず,W はトルクと同じエネルギーの次元を持つ.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

衛星が対称軸のまわりに角速度 Ω で高速自転します.軸まわりの慣性モーメントは J で,他の軸の慣性モーメントも J 程度とし,角運動量を軸方向の L,大きさ JΩ と近似します.衛星に固定した N 巻,面積 S のコイルへ一定電流 I>0 を流し,m を L と同方向にします.外部磁場は一様で B=Bez です.初めの軸と磁場の角を 0<θ0<π とします.

  1. 軸の傾きと角運動量の大きさが変わらないことを示せ.

  2. 歳差の角速度の大きさと向き,この近似の条件を求めよ.

衛星の対称軸と角運動量L,磁気モーメントmは同方向である.初期の軸と正のz方向の磁場Bとの角はθ₀である.衛星に固定したコイルと自転を示す. 衛星の対称軸と角運動量L,磁気モーメントmは同方向である.初期の軸と正のz方向の磁場Bとの角はθ₀である.衛星に固定したコイルと自転を示す.
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考え方 角運動量の変化を磁場の軸のまわりの回転として書く.

  1. m=NIS として dLdt=m×B=(m/L)L×B.右辺は L に垂直なので dL2dt=2L⋅dLdt=0.また右辺の z 成分は0なので Lz=Lcos⁡θ0 も一定で,傾きは変わらない.

  2. dLdt=ωp×L と比較すると ωp=−mBez/L.大きさは ωp=NISB/(JΩ),+z 側から見て時計回りである.軸と角運動量を同方向とする近似には ωp/Ω=NISB/(JΩ2) が1より十分小さいことが必要である.I→0 で歳差も消える.

ポイント 教える人へ

  • 半円の弧長を合力の式へ入れる誤りを,変位の積分から修正させます.

  • 電流,合力,トルクの向きを確かめます.

  • 電流計の角度の定義と,小角近似による系統的な誤差を問います.

  • 整流と電源の仕事,歳差で変わる量と変わらない量を説明させます.

10磁性体と磁化

問い

冷蔵庫の扉にはマグネットが付き,鉄のクリップは磁石に吸い寄せられます.ところが,アルミの缶や銅の10円玉を磁石に近づけても,何も起こらないように見えます.どれも電気をよく通す金属で,原子の中には同じように電子が回っています.鉄とアルミや銅では,いったい何が違うのでしょうか.

考えてみる

鉄が磁石に付くのは,鉄が初めから磁石だからではありません.ふつうの鉄の釘どうしは引き合いません.磁石を近づけたときだけ,鉄自身が磁石になり(磁化し),磁石に引かれます.ですから問いは,「なぜ鉄はこれほど強く磁化するのか」と言いかえられます.

実は,アルミや銅も磁石に反応します.ただ,その強さは鉄の 105 分の1以下で,重さに比べてあまりに小さいので気付かないのです.物質の磁化を量で表し,原子の性質と結び付けてみましょう.この題材では,電圧の V と区別して,体積を V と書きます.

磁石の正体は小さな円電流

前の題材で,電流の流れるコイルは磁気モーメント m=ISn をもち,磁石のようにふるまうことを見ました.アンペールは,磁石の中には小さな円電流がたくさんあると考えました.今では,その円電流は原子の中の電子の運動だと分かっています.

磁気モーメントの m と区別して電子の質量を me と書きます.質量 me,電荷 −e の電子が,半径 r の円軌道を速さ v で回ると,電流の大きさは ev/(2πr),面積は πr2 なので,磁気モーメントの大きさは evr/2 です.角運動量 L=mevr を使うと,電子の電荷が負であることも入れて

m=−e2meL

です.磁気モーメントは角運動量に比例し,比例係数は電子の電荷と質量だけで決まります.原子の中の角運動量は ℏ=h/(2π) の程度(第29章)なので,電子の磁気モーメントの目安は μB=eℏ/(2me)=9.27×10−24Am2 です(ボーア磁子).電子はこのほかに,自転に似たスピンによる同じ程度の磁気モーメントももっています.

磁化と磁化電流

定義 磁化

物質の小さな体積 ΔV に含まれる磁気モーメントの和を ΔV で割った M を磁化という.数密度 n の原子がそれぞれ平均で m をもつなら M=nm で,単位は Am−1.

鉄の原子1個は約 2.2μB の磁気モーメントをもち,数密度は n=8.5×1028m−3 です.全部がそろえば M=8.5×1028×2.2×9.27×10−24=1.7×106Am−1 で,μ0M は約 2.2T になります.これは鉄で実際に得られる磁化の上限(飽和磁化)とよく合います.

一様に磁化した長い棒(断面積 S,長さ L)を考えます.断面に並んだ小さな円電流は,隣どうしの接する所で電流が逆向きになって打ち消し合い,棒の側面を一周する電流だけが残ります.これを磁化電流といい,長さあたりの大きさを K とします.棒全体は,電流 KL が面積 S を囲むコイルと同じなので,磁気モーメントを2通りに数えて KLS=MSL,つまり K=M です.一様に磁化した棒は,単位長さあたりの電流が M のソレノイドと同じで,中の磁場は B=μ0M です.

断面に同じ向きの円電流を並べると,隣どうしの接点では逆向きの電流が打ち消し合う.外周の電流だけが残り,棒の側面を回るソレノイドと等価になる.表面電流の長さあたりの大きさは K = M. 断面に同じ向きの円電流を並べると,隣どうしの接点では逆向きの電流が打ち消し合う.外周の電流だけが残り,棒の側面を回るソレノイドと等価になる.表面電流の長さあたりの大きさは K = M.

磁場の強さ H

アンペールの法則の右辺には,導線を流れる電流(自由電流 If)と磁化電流 Ib の両方が入ります.磁化した棒の表面をまたぐ長方形の道を考え,棒の中を磁化に沿って長さ l だけ進み,外を戻るとします.この道を貫く磁化電流は Ml で,これは道に沿った M の線積分に等しくなります.一般にも,閉じた道を貫く磁化電流は,その道に沿った M の線積分です.アンペールの法則 ∫B⋅dl=μ0(If+Ib) に入れて左辺へ移すと,磁化電流が消えます.

法則 磁場の強さとアンペールの法則

磁場の強さ H=B/μ0−M(単位 Am−1)を使うと,どんな閉じた道についても,道に沿って一周する線積分は

∫H⋅dl=If

(右辺は道を貫く自由電流).

第20章の電束密度 D=ε0E+P が自由電荷だけで決まったのと同じく,H は自由電流だけで決まる部分です.対称性があれば,これだけで H が決まります.たとえば,周の長さ ℓ の細い環の形の鉄心に導線を N 回巻いた環状コイルでは,中の H は環に沿い,Hℓ=NI から H=NI/ℓ です.鉄心の材料によりません.

入試で「磁場 H」と呼ぶ量がこの H で,B は「磁束密度」と呼ばれます.真空では B=μ0H なので区別は要りません.本書では磁場といえば B を指し,物質の中で必要なときだけ H を使います.

定義 線形な磁性体と比透磁率

磁化が H に比例し M=χH と書ける物質では,B=μ0(1+χ)H=μrμ0H=μH となる.χ を磁化率,μr=1+χ を比透磁率,μ を透磁率という.

環状コイルの鉄心を線形な物質とみなせば,B=μrμ0NI/ℓ で,同じ電流で磁場は μr 倍になります.鉄では μr が数百から数千になるので,鉄心を入れたコイルは強い電磁石になります.

物質

磁化率 χ

ビスマス

−1.7×10−4

銅

−9.7×10−6

水

−9.0×10−6

アルミニウム

+2.2×10−5

液体酸素

+3.5×10−3

鉄

μr が 102〜104(磁場の強さと履歴によって変わる)

境界の条件:磁力線は閉じていて湧き出しがないので,境界をまたぐ平たい箱の考え方から B の法線成分はつながります.境界に自由電流が無ければ,細い長方形の道から H の接線成分もつながります.μr の大きい鉄から空気へ出る磁力線は,鉄の表面にほぼ垂直に出ます.鉄心のすき間で B が途切れないのはこのためです.

常磁性・反磁性・強磁性

表のように,χ は物質によって符号も大きさも違います.

常磁性(χ>0):アルミや酸素のように,原子が初めから磁気モーメントをもつ物質です.磁場はモーメントをそろえようとし,熱運動は乱そうとします.m0=μB,B=1T,T=300K でも m0B/(kBT) は 2.2×10−3 にすぎず,そろうのはごく一部です.第17章のボルツマン分布を使うと,そろう割合はこの比に比例し,χ は温度に反比例します(キュリーの法則).

反磁性(χ<0):磁場をかけると,どの原子でも電子の軌道運動が少し変わり,かけた磁場を打ち消す向きの磁気モーメントが生じます(第23章の電磁誘導で説明できます).すべての物質がもつ性質ですが,常磁性があればふつうはそれに隠れます.銅や水,ビスマスは反磁性です.超伝導体は中から磁場を完全に締め出す完全反磁性(χ=−1)を示します.

強磁性:鉄・コバルト・ニッケルでは,隣り合う原子の磁気モーメントを同じ向きにそろえる強い相互作用(量子力学による交換相互作用)が働き,磁区と呼ばれる小さな領域ごとに,モーメントがほぼ全部そろっています.磁化していない鉄では,磁区の向きがばらばらで全体の磁化が打ち消されています.外から磁場をかけると,磁場の向きの磁区が境界を動かして広がり,小さな H で大きな磁化が生じます.磁区がそろい切ると,磁化は飽和します.温度を上げると熱運動がそろいを壊し,キュリー温度(鉄では 1043K,約 770∘C)を超えると常磁性体に変わります.

左は向きの異なる磁区の磁化が打ち消し合い M = 0.右向きの場 H を加えるとその向きの磁区が広がり,最後には全体の磁化がそろって飽和する. 左は向きの異なる磁区の磁化が打ち消し合い M = 0.右向きの場 H を加えるとその向きの磁区が広がり,最後には全体の磁化がそろって飽和する.

磁石が物を引く力は,前の題材の Fz=mdB/dz(ここでは軸を x にとって Fx=mdB/dx)から考えられます.線形な物質の小片なら m=χVB/μ0 なので,常磁性体(χ>0)は磁場の強い方へ引かれ,反磁性体(χ<0)は弱い方へ押し出されます.ただし χ が 10−5 程度では,力は重さの100分の1にもなりません.これらの式は,|χ| が1より十分小さく,物質を入れても磁場がほとんど変わらないときの近似です.強磁性体にはそのまま使えません.

ヒステリシス

強磁性体の B と H の関係は比例ではなく,それまでの履歴によります.磁化していない鉄の H を増やすと B は急に増えて飽和に近づき,H を0に戻しても B は0に戻らずに Br(残留磁束密度)が残ります.B を0にするには逆向きに Hc(保磁力)が要ります.H を正負に往復させると,B は閉じた曲線(ヒステリシス曲線)をたどります.永久磁石は Br も Hc も大きく,曲線の幅の広い材料で,変圧器やモーターの鉄心は幅の狭い材料です.

横軸 H,縦軸 B.橙の破線は原点から出る最初の磁化曲線.正の飽和から H を減らすと Bᵣ が残り,−Hc で B が0になる.緑の矢印は往復の向き.左は幅の狭い鉄心用,右は幅の広い永久磁石用の材料. 横軸 H,縦軸 B.橙の破線は原点から出る最初の磁化曲線.正の飽和から H を減らすと Bᵣ が残り,−Hc で B が0になる.緑の矢印は往復の向き.左は幅の狭い鉄心用,右は幅の広い永久磁石用の材料.

この曲線の面積は,1往復ごとに熱になるエネルギーです.環状コイル(断面積 S,周の長さ ℓ)で確かめます.第23章の電磁誘導を先取りすると,鉄心の磁束 Φ=BS が変わるとき,コイルには電流を妨げる起電力 NdΦ/dt が生じ,電源はそれに逆らって仕事率 INdΦ/dt を出します.I=Hℓ/N を入れると,仕事率は SℓHdB/dt です.Sℓ は鉄心の体積なので,1往復で単位体積あたりに電源がする仕事は

w=∫HdB(ヒステリシス曲線を1周する積分)

で,曲線の囲む面積に等しくなります.状態が1周で元に戻るのに仕事が残るので,これは熱になります.振動数 f で往復させると,損失の仕事率は fwV です.変圧器の鉄心に幅の狭い材料を使うのは,この損失を小さくするためです.この計算は,環の断面の幅が環の半径より十分小さく,鉄心の中で H と B が一様とみなせるときのものです.

問いに戻る

磁石は原子の中の電子の運動とスピンがつくる小さな磁気モーメントの集まりで,物質の磁化は単位体積あたりの磁気モーメント M です.アルミ(常磁性)は磁石にわずかに引かれ,銅(反磁性)はわずかに押し出されますが,磁化率は 10−5 程度で,重さに比べて力が小さすぎて気付きません.鉄は強磁性体で,原子のモーメントを磁区ごとにそろえる強い相互作用があるため,磁石の磁場の中で磁区の向きがそろい,μ0M が T の程度に達するほど大きく磁化します.磁化した鉄は磁場の強い方へ引かれるので,磁石に付きます.真っ赤に焼くとキュリー温度を超えてそろいが壊れ,磁石の性質を失います.

ポイント ここまでのまとめ

  • 原子の磁気モーメントは電子の運動とスピンから生じ,目安はボーア磁子 μB=9.27×10−24Am2.磁化 M は単位体積あたりの磁気モーメント.

  • 一様な磁化は表面の磁化電流(長さあたり M)と同じ.H=B/μ0−M の一周の線積分は自由電流に等しい.

  • 線形な物質では M=χH,B=μrμ0H.常磁性は χ>0,反磁性は χ<0 で,どちらも |χ| はふつう 10−5 程度.

  • 強磁性体は磁区がそろうことで大きく磁化し,キュリー温度を超えると常磁性になる.

  • ヒステリシス曲線の面積 ∫HdB が1往復の単位体積あたりの損失.

11磁性体の例題

鉄心のあるコイルの磁場,ヒステリシスによる損失,磁石が金属片を引く力を求めます.B,H,M のどれを計算しているのかを,いつも単位で確かめてください.体積は V と書きます.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

周の長さ ℓ=0.40m,断面積 S=4.0×10−4m2 の細い環の形の鉄心に,導線を N=400 回均等に巻き,電流 I=0.20A を流す.鉄心は比透磁率 μr=2.0×103 の線形な物質とみなし,μ0=4π×10−7NA−2 とする.

  1. 鉄心の中の H,B,磁束 Φ,磁化 M を求めよ.鉄心が無いときの B と比べよ.

  2. 鉄心の1か所を切り,幅 d=1.0×10−3m のすき間を作る.電流は同じとする.すき間での磁束の広がりと漏れを無視して,鉄心とすき間の B を求めよ.巻線の NI のうち何 %がすき間の Hd に使われるか.

N 回の巻線に電流 I を流す環状鉄心.断面積は S,周の長さは ℓ.右は幅 d のすき間を開けた場合で,磁力線が鉄心からすき間へ続く様子を示す.磁場や磁束の計算値は示していない. N 回の巻線に電流 I を流す環状鉄心.断面積は S,周の長さは ℓ.右は幅 d のすき間を開けた場合で,磁力線が鉄心からすき間へ続く様子を示す.磁場や磁束の計算値は示していない.
解答を見る

考え方 自由電流だけで決まる H の線積分を,環に沿って一周の道で使う.すき間の面では B の法線成分がつながる.

  1. Hℓ=NI より H=400×0.20/0.40=2.0×102Am−1.

B=μrμ0H=2.0×103×4π×10−7×2.0×102=0.50T

で,Φ=BS=2.0×10−4Wb,M=B/μ0−H=(μr−1)H=4.0×105Am−1 である.鉄心が無ければ B=μ0H=2.5×10−4T で,鉄心はその 2.0×103 倍の磁場を作る.磁場の大部分は,巻線の電流ではなく鉄の磁化電流が作っている.

  1. 鉄心の中の磁場の強さを Hi,すき間を Hg とすると,一周の線積分は Hi(ℓ−d)+Hgd=NI.B は両方で等しいので Hi=B/(μrμ0),Hg=B/μ0 で,d は ℓ よりずっと小さいので ℓ−d≈ℓ とすると

B=μ0NIℓ/μr+d=4π×10−7×802.0×10−4+1.0×10−3=8.4×10−2T

である.すき間の分は Hgd=Bd/μ0=67A で,NI=80A の83 %にあたる.1mm のすき間が,40cm の鉄心より大きな「抵抗」になっている.

確かめ:d→0 で(1)に戻り,μr→∞ で B→μ0NI/d=0.10T となる.すき間の広がりを無視できるのは,d が断面の大きさ S=2cm よりずっと小さいからである.実際の鉄は μr が B によって変わるので,B が飽和に近い所ではこの線形の計算は使えない.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

変圧器の鉄心の材料のヒステリシス曲線を,横軸 H,縦軸 B の平行四辺形で近似する.B が増えるときは直線 H=Hc+B/κ を,減るときは直線 H=−Hc+B/κ をたどり,B は −Bm と Bm の間を往復する(κ は正の定数).Hc=30Am−1,Bm=1.2T とする.

  1. 1往復で単位体積あたりに失われるエネルギー w を,∫HdB を計算して求めよ.結果は κ によるか.

  2. 体積 V=2.0×10−3m3 の鉄心を振動数 50Hz で使うときの損失の仕事率を求めよ.同じ Bm で保磁力 Hc=8.0×105Am−1 の永久磁石の材料を使ったらどうなるか.

B が増える辺は H = Hc + B/κ,減る辺は H = −Hc + B/κ.B は ±Bm の間を往復する.傾き κ の平行な2辺と ±Hc,±Bm,たどる向きを示す.損失の答えは示していない. B が増える辺は H = Hc + B/κ,減る辺は H = −Hc + B/κ.B は ±Bm の間を往復する.傾き κ の平行な2辺と ±Hc,±Bm,たどる向きを示す.損失の答えは示していない.
解答を見る

考え方 1周の積分を,B が増える辺と減る辺に分ける.B/κ の部分は往きと帰りで打ち消し合い,±Hc の部分だけが残る.

  1. B が増える辺の寄与は

∫−BmBm(Hc+Bκ)dB=2HcBm

で,B が減る辺の寄与は

∫Bm−Bm(−Hc+Bκ)dB=2HcBm

である.合わせて w=4HcBm=4×30×1.2=1.4×102Jm−3 で,κ によらない.4HcBm は平行四辺形の面積(底辺 2Hc,高さ 2Bm)そのものである.

  1. 仕事率は fwV=50×1.44×102×2.0×10−3=14W である.永久磁石の材料では w=4×8.0×105×1.2=3.8×106Jm−3 で,同じ使い方なら損失は 3.8×105W になり,変圧器にはまったく使えない.そもそも B を反転させるだけで 8.0×105Am−1 もの H が要る.逆に,逆向きの H をかなり加えても磁化が反転しないことが,永久磁石としての長所である.

確かめ:単位は Am−1⋅T=Am−1⋅NA−1m−1=Jm−3 で正しい.Hc→0 なら曲線は1本の直線になり,損失は0になる.実際の鉄心では,鉄心の中を回る誘導電流(第23章)による損失も加わるので,薄い板を絶縁して重ねて使う.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

円柱形の磁石の軸の上,x 軸に沿って,1辺 5.0mm の小さな立方体を置く.立方体の中心の位置で,磁場は +x 向きに B=0.20T で,磁石から離れるほど弱まり,dBdx=−20Tm−1 である.立方体の磁気モーメントは x 方向を向き,力は Fx=mdBdx で見積もる.μ0=1.26×10−6NA−2,g=9.8ms−2 とする.

  1. 鉄の立方体(密度 7.9×103kgm−3)の磁化は,この位置で M=4.0×105Am−1 と測られた.力の大きさと向きを求め,重さと比べよ.

  2. 同じ大きさのアルミの立方体(磁化率 χ=2.2×10−5,密度 2.7×103kgm−3)と,銅の立方体(χ=−9.7×10−6,密度 9.0×103kgm−3)について,同じ見積もりをせよ.

  3. この見積もりの精度を,立方体の大きさと磁場の変化から論じよ.結論は変わるか.

円柱形の磁石の軸に沿って x 軸を取り,その軸上に1辺5.0 mm の立方体を置く.中心での磁場 B は +x 向きで,磁石から離れるほど磁力線が広がる.立方体に働く力の向きは示していない. 円柱形の磁石の軸に沿って x 軸を取り,その軸上に1辺5.0 mm の立方体を置く.中心での磁場 B は +x 向きで,磁石から離れるほど磁力線が広がる.立方体に働く力の向きは示していない.
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考え方 磁気モーメントは m=MV.弱い磁性体では物質を入れても磁場はほとんど変わらないので H≈B/μ0,M=χB/μ0 とする.

  1. V=(5.0×10−3)3=1.25×10−7m3 で,m=MV=5.0×10−2Am2.

Fx=mdBdx=5.0×10−2×(−20)=−1.0N

で,磁石へ向かう向きに 1.0N である.重さは 7.9×103×1.25×10−7×9.8=9.7×10−3N なので,力は重さの約100倍で,鉄片は磁石に吸い付く.

  1. アルミでは M=χB/μ0=2.2×10−5×0.20/(1.26×10−6)=3.5Am−1,力は 3.5×1.25×10−7×20=8.7×10−6N で,磁石へ向かう.重さ 3.3×10−3N の 2.6×10−3 倍にすぎない.銅では M=−1.5Am−1,力は 3.8×10−6N で,磁石から離れる向きである.重さ 1.1×10−2N の 3.5×10−4 倍にすぎない.

  2. 中心での勾配を幅全体に当てはめると,立方体の幅 5.0mm の間の磁場の変化は 20×5.0×10−3=0.10T,つまり中心の値の半分と見積もられる.中心の値だけを使う見積もりは,立方体が磁場の変わる長さ(ここでは B/|dB/dx|=1.0cm)よりずっと小さいことを前提にしているので,ここでは十分よい近似とはいえない.中心の磁場と勾配だけでは誤差の大きさや結論を断定できず,立方体内の磁場と磁化の分布が必要である.ただし,力の向きが変わらず,補正が数倍以内なら,力と重さの比は鉄では約100倍,アルミでは 10−3 倍の程度と桁で違うので,鉄の磁気力は重さより大きく,アルミや銅では小さいという比較は変わらない.

確かめ:鉄の μ0M=0.50T は飽和の約 2.2T より小さく,あり得る値である.鉄の磁化は形や履歴によるので χ からは求めず,測定値を与えた.アルミと銅では |χ| が1より十分小さいので,H≈B/μ0 の近似がよく成り立つ.

ポイント ここまでのまとめ

  • 環状の鉄心では Hℓ=NI から H が決まり,B=μrμ0H.すき間があると B は法線成分がつながる条件から決まり,狭いすき間でも B を大きく下げる.

  • ヒステリシスの損失は1往復で単位体積あたり ∫HdB(曲線の面積).可逆な直線の部分は打ち消し合い,保磁力の幅の分だけが残る.

  • 小片の力は Fx=mdB/dx.鉄とアルミ・銅では磁化が 105 倍ほど違うので,付くか付かないかがはっきり分かれる.

  • 中心の値で力を見積もるには,小片が磁場の変わる長さより小さいことが要る.

12磁化と磁性体の演習

B,H,M を区別し,測定値から磁性を調べましょう.数値計算では μ0=1.26×10−6NA−2 とします.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

線形な試料X,Yの内部の磁場の強さを一様な H=2.0×104Am−1 にすると,BX=2.5704×10−2T,BY=2.4948×10−2T を得ました.

  1. B=μ0(H+M) から,各試料の比透磁率と磁化を求めよ.

  2. 常磁性と反磁性に分類し,H を逆向きにしたときの磁化の向きを述べよ.

解答を見る

考え方 真空の値と比べて磁化を求める.

  1. 真空の値は μ0H=2.52×10−2T.したがって μr,X=BX/(μ0H)=1.020,μr,Y=0.990.また M=(μr−1)H より,MX=4.0×102Am−1,MY=−2.0×102Am−1 である.

  2. Xは常磁性体,Yは反磁性体である.H を逆にしてもXの磁化は同方向,Yは逆方向を向く.μr→1 で M→0 となり,真空の関係に戻る.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

体積 V=2.5×10−6m3 の試料の磁化は加えた場と同方向で一様であり,M=1.6×106Am−1 です.原子の数密度は n=8.0×1028m−3 とします.

  1. 全体の磁気モーメントと,原子あたりの平均モーメントを求めよ.

  2. 各原子の磁気モーメントの大きさを m0=2.5×10−23Am2 とし,加えた場に平行か反平行の2方向だけをとる模型を考えます.平行な原子の割合を求めよ.

試料の体積を𝒱,磁化をM,原子の数密度をnとする.拡大した模型では,各原子のモーメントの大きさはm₀で,加えた場に平行か反平行の二方向をとる.二つの矢印は許される向きを示し,原子数の比を表さない. 試料の体積を𝒱,磁化をM,原子の数密度をnとする.拡大した模型では,各原子のモーメントの大きさはm₀で,加えた場に平行か反平行の二方向をとる.二つの矢印は許される向きを示し,原子数の比を表さない.
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考え方 逆向きのモーメントを差し引く.

  1. 全体は m=MV=4.0Am2.原子数は N=nV=2.0×1023 だから,平均は m/N=M/n=2.0×10−23Am2 である.

  2. 平行な割合を p とすると,平均は pm0−(1−p)m0=(2p−1)m0.したがって 2p−1=0.80,p=0.90 で,90 %が平行である.p=1/2 で磁化が0,p=1 で最大の nm0 となる.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

平均の周長 ℓ=0.30m,断面積 S=2.0×10−4m2 の環状の鉄心に,N=300 回の巻線を均等に巻きました.断面の幅と環の半径の比を十分小さくして場を一様とみなし,Hℓ=NI,磁束を Φ=BS とします.消磁後,電流を増やして次を得ました.電流と寸法は正確とし,各磁束の不確かさは ±0.50×10−6Wb です.

I(A)

Φ(10−6Wb)

0.10

25.2

0.20

50.4

0.30

69.3

0.40

75.6

  1. 最初の2点から一定の比透磁率をもつ模型を決めよ.

  2. 後の2点の予測値と実測からの B/(μ0H) を求めよ.不確かさの範囲で全点を説明できるか.

平均磁路長ℓ,断面積Sの環状鉄心にN回の巻線を均等に巻く.電流Iと磁束Φの正方向を示す. 平均磁路長ℓ,断面積Sの環状鉄心にN回の巻線を均等に巻く.電流Iと磁束Φの正方向を示す.
解答を見る

考え方 低電流で磁束の比例係数を決め,他の点で検証する.

  1. Φ=μ0μrNSI/ℓ より,Φ/I=2.52×10−4WbA−1.したがって

μr=ℓμ0NSΦI=1.0×103

である.

  1. 予測値は順に 75.6×10−6Wb,100.8×10−6Wb.実測の比は ℓΦ/(μ0NSI) から約 9.2×102,7.5×102 となる.最初の2点が許す Φ/I の共通範囲は [249.5,254.5]×10−6WbA−1.この最小値でも後の予測は 74.85×10−6Wb,99.80×10−6Wb で,実測の上限を超え,全点は説明できない.飽和へ向かう応答と整合する.線形模型は最初の2点で整合するが,I≥0.30A の2点で破れる.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

鉄心が同じヒステリシスの周期を振動数 f=40s−1 でたどります.単位体積あたりの1周期の損失は w=2.0×102Jm−3,鉄心の体積は V=5.0×10−5m3,密度は ρ=8.0×103kgm−3,比熱は cs=5.0×102Jkg−1K−1 です.他の発熱は無視します.

  1. 損失による発熱の仕事率と,断熱状態で 10min 運転したときの温度上昇を求めよ.

  2. 周囲からの温度上昇を θ とし,放熱が Kθ,K=2.0×10−2WK−1 のとき,定常の温度上昇を求めよ.模型が θ≤15K でのみ有効なとき,定常温度を確定できるか.

鉄心は振動数fでヒステリシスの周期をたどり,単位体積・一周期の損失はwである.周囲からの温度上昇θに応じてKθの割合で放熱する. 鉄心は振動数fでヒステリシスの周期をたどり,単位体積・一周期の損失はwである.周囲からの温度上昇θに応じてKθの割合で放熱する.
解答を見る

考え方 損失に体積と振動数を掛けて発熱を求める.

  1. P=fwV=0.40W.質量は ρV=0.40kg,熱容量は ρVcs=2.0×102JK−1.時間 t=6.0×102s なので,ΔT=Pt/(ρVcs)=1.2K.

  2. 熱収支は ρVcsdθdt=P−Kθ.定常なら θ=P/K=20K だが,適用範囲外なので確定できない.上端でも P−Kθ=0.10W>0 で,範囲内に定常状態はない.放熱を無視する近似は Kθ/P が十分小さい間に限られ,(1)の温度上昇ではこの比は0.060である.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

断面積 S,長さ a の細い棒を,コイルの軸上の x=X から X+a に置きます.棒がないときの場は B(x)>0 の x 方向を向きます.電源はコイルの電流を一定に保ちます.棒は M=χH に従い,1≫|χ| として場の変化を無視し,M≈χB/μ0 とします.微小部分の dm=MSdx に働く軸方向の力は dFx=dmdBdx とします.

  1. 棒の力を,両端の場 B1=B(X),B2=B(X+a) で表せ.B2>B1 の場合,常磁性・反磁性の力の向きを述べよ.

  2. 棒の範囲で B(x)=B0+bx とします.中点の場 Bc で力を表し,中点のモーメント m=χSaBc/μ0 に置き換える計算と比べよ.

断面積Sの棒をxがXからX+aの範囲に置く.両端の磁場B₁とB₂はともに正のx方向を向く. 断面積Sの棒をxがXからX+aの範囲に置く.両端の磁場B₁とB₂はともに正のx方向を向く.
解答を見る

考え方 場所ごとのモーメントに働く力を積分する.

  1. 与えられた局所的な力を足すと

Fx=χSμ0∫XX+aBdBdxdx=χS2μ0(B22−B12)

となる.χ>0 の常磁性は右,χ<0 の反磁性は左へ,それぞれ強い場,弱い場へ引かれる.

  1. B2−B1=ba,B2+B1=2Bc より Fx=χSaBcb/μ0.中点のモーメントの力 mb と一致する.一般の場では棒の長さと場の変化の長さの比が十分小さいことが要る.一様な場では B1=B2 となり力は0である.式は 1≫|χ| の近似であり,強磁性体には適用できない.

ポイント 教える人へ

  • B=μ0H と B=μ0(H+M) を磁化の有無から使い分けさせます.

  • 原子の向きの割合と平均モーメントを区別させます.

  • 予測と測定を不確かさも含めて比べさせます.

  • 力には場の空間変化が要ることを問います.

13磁気の力の正体(発展)

問い

電流の流れる長い導線のそばを,陽子が導線と平行に飛んでいます.陽子の速度を,導線の中の伝導電子と同じ向き・同じ速さにしておくと,陽子は磁気力を受けて導線から遠ざかります.ところが,陽子と一緒に飛ぶ人から見ると,陽子は止まっています.止まった電荷に磁気力は働きません.導線は電気的に中性なので,電気の力も働きそうにありません.この人には,陽子は導線から遠ざからないように見えるのでしょうか.

考えてみる

磁気力 qv×B は電荷の速度 v で決まります.速度は見る系によって変わるので,磁気力も系によって変わってしまいます.一方,相対性原理によれば,どの慣性系でも物理法則は同じ形で,起こる出来事(陽子がセンサーのどこに当たるか)も同じでなければなりません.陽子の系で陽子を押す力があるとすれば,それは電場による力しかありません.つまり,陽子の系では導線が帯電して見えているはずです.中性の導線が,動いて見えると帯電する.これを確かめるには,相対論が必要です.

相対論から借りる式

第13章(発展)を読んでいない人のために,ここで使う式をまとめておきます.慣性系 K に対して速さ v で動くものについて,γ=1/1−v2/c2 とします.

定理 ローレンツ収縮・時間の遅れ・運動量

  • ローレンツ収縮:止まっている系で長さ L0 の物体は,K では運動の向きに L=L0/γ に縮んで見える.運動と垂直な向きの長さは変わらない.

  • 時間の遅れ:動く時計が刻む時間(その物体の固有時)を Δτ とすると,その間に K で経過する時間は Δt=γΔτ である.

  • 運動量:速度 v の物体の運動量は p=γmv.力は F=dpdt で定める.

もう1つ,電荷は系によって変わりません.もし電荷が速さで変わるなら,物体を温めて電子と原子核の速さが変わるだけで物体が帯電するはずですが,そのような現象は見つかっていません.電荷は変わらず,長さだけが縮むので,線電荷密度は動いて見えると γ 倍になります.

動く導線は帯電して見える

導線の向きを x 軸とし,導線が止まっている系を K とします.K で,正のイオンは止まっていて線電荷密度は λ0,伝導電子は線電荷密度 −λ0 で +x 向きに速さ v で動いているとします.導線は中性で,電流の大きさは I=λ0v,向きは −x です.導線から距離 r の所を,電荷 q>0 の陽子が +x 向きに速さ v で飛んでいます.

系 K で見る.導線の外に電場はなく,陽子は磁場 B=μ0I/(2πr) から大きさ

F=qvB=μ0qλ0v22πr=qλ02πε0rv2c2

の力を受けます.向きは導線から遠ざかる向きです.最後の変形では μ0ε0=1/c2 を使いました.

陽子と一緒に動く系 K' で見る.K' では陽子も伝導電子も止まり,イオンが −x 向きに速さ v で動きます.イオンは K で止まっていたので,K' では間隔が 1/γ 倍に縮み,密度は γλ0 です.伝導電子は逆に,K で動いて見えていた密度 −λ0 が,止まって見えたときの密度の γ 倍だったので,K' での密度は −λ0/γ です.正味の線電荷密度は

λ′=γλ0−λ0γ=γλ0(1−1γ2)=γλ0v2c2

で,導線は正に帯電して見えます.止まった陽子には電場の力

F′=qλ′2πε0r=γqλ02πε0rv2c2=γF

が,導線から遠ざかる向きに働きます.K' でも陽子は導線から離れます.K' ではイオンの流れが磁場を作りますが,陽子は止まっているので磁気力は受けません.

[図:陽子の系で現れる導線の正味の電荷]

初期状態は v/c = 0.60.系 K ではイオンが静止し,電子と陽子が右へ動く.系 K′ では陽子と電子が静止し,イオンが左へ動く.速さを変えると K′ のイオン間隔が縮み,電子間隔が広がる.両系で陽子を導線から遠ざける力を示す.

力は違い,運動の予測は一致する

2つの系で,力の大きさは F′=γF と違いました.これは計算の誤りではありません.相対論では,横向き(運動と垂直な向き)の力は系を変えると変わるのです.

陽子の横向きの運動量 py を比べます.K' で陽子が横向きに小さな速さ w′ を得たとすると py′=mw′ です.横向きの距離 dy は縮まず,K での時間は陽子の固有時の γ 倍なので,K での横向きの速さは w=w′/γ です.K での陽子の速さはほぼ v なので

py=γmw=γmw′γ=mw′=py′

で,横向きの運動量は系によらず同じです.ところが,それが変わるのにかかる時間は K の方が γ 倍長いので,

F=dpydt=1γdpy′dτ=F′γ

となります.導線の計算で出た F′=γF は,まさにこの関係です.

ポイント 横向きの力の変換

物体が止まって見える系で横向きの力が F′ なら,物体が速さ v で動いて見える系での横向きの力は F′/γ である.2つの系で一致するのは力そのものではなく,横向きの運動量の変化や,物体がどこに当たるかという運動の予測である.

確かめてみましょう.K' で陽子が固有時 τ の間に横にずれる距離は F′τ2/(2m) です.K では陽子の横向きの慣性は γm,かかる時間は γτ なので,ずれは F2γm(γτ)2=γFτ22m=F′τ22m で,同じ値です.横向きのずれは縮まないので,センサーの当たる位置も一致します.

磁場は電場の相対論的な一部

導線の計算を振り返ると,磁気力 F は,伝導電子だけが作る電気力 qλ0/(2πε0r) の v2/c2 倍でした.磁気力は,電気力に対する v2/c2 程度の相対論の補正なのです.その係数として μ0=1/(ε0c2) が現れます.電気の法則と相対性原理を認めれば,磁気の強さは ε0 と c で決まってしまいます.

導線の中の電子の速さは 10−4ms−1 程度で,v2/c2 は 10−25 程度しかありません.それでも磁気力が測れるのは,導線の中の正負の電荷が 104Cm−1 程度もあって,電気力がぴったり打ち消し合っているからです.大きな電気力が消えた後に,小さな補正だけが残っています.

系を変えると電場と磁場は混ざる

K で電場 E と磁場 B があり,電荷 q が速度 u で動いているとします.電荷と一緒に動く系 K' では電荷は止まっているので,力は電場 E′ による qE′ だけです.u が c に比べて十分小さければ γ≈1 で,2つの系の力は等しいので,qE′=q(E+u×B) です.磁場の方も同じように調べることができ,次の関係が得られます.

法則 電場と磁場の変換(u が c に比べて十分小さいとき)

K に対して速度 u で動く系 K' の電場と磁場は

E′≈E+u×B,B′≈B−u×Ec2

特に,電荷分布が止まって見える系で電場だけがあるとき,それが速度 v で動いて見える系では,磁場 B=v×E/c2 が現れる.

後半を,線電荷密度 λ の直線が速さ v で動く場合で確かめます.電場は E=λ/(2πε0r) なので vE/c2=μ0λv/(2πr)=μ0I/(2πr) で,直線電流の磁場に一致します.動く電荷の磁場は,止まった電荷の電場を別の系から見たものなのです.

ここで捨てたのは u2/c2 程度の補正です.速さが c に近いと,運動と垂直な成分の右辺に γ が掛かります(演習で扱います).また,導線の議論は,定常な電流と,距離 r に比べて十分長い導線を考えています.

問いに戻る

陽子と一緒に飛ぶ人から見ても,陽子は導線から遠ざかります.その人の系では,正のイオンの間隔はローレンツ収縮で縮み,伝導電子の間隔は広がって,導線は正に帯電して見えるからです.陽子を押すのは,導線の系では磁気力,陽子の系では電気力で,大きさも γ 倍違いますが,横向きの運動量の変化と陽子の当たる位置は一致します.磁気は電気を別の系から見たときに現れる相対論の効果で,電場と磁場は1つの電磁場の2つの見え方です.

ポイント ここまでのまとめ

  • 電荷は系によらない.線電荷密度は動いて見えると γ 倍になり,中性の導線も動いて見えると帯電する.

  • 横向きの力は,物体が止まって見える系の 1/γ 倍になる.系によらないのは横向きの運動量と運動の予測である.

  • 磁気力は電気力の v2/c2 程度の補正で,係数 μ0=1/(ε0c2) が現れる.導線では大きな電気力が打ち消し合うので,この補正が見える.

  • u が c に比べて十分小さいとき E′≈E+u×B,B′≈B−u×E/c2.動く電荷は B=v×E/c2 の磁場を作る.

14磁気の力の正体の例題

同じ現象を2つの系で解き,力の大きさは違っても運動の予測は一致することを確かめます.

例題

例題 1

オリジナル ★★★☆☆

断面積 1.0mm2 の長い銅線に,大きさ I=10A の電流が流れている.導線は止まっている系 K で電気的に中性とし,導線外部の電場は無視する.銅の伝導電子の数密度は n=8.5×1028m−3 とする.導線から距離 r=1.0cm の所を,陽子が電流と同じ向きに,導線と平行に速さ u=1.0×106ms−1 で飛んでいる.電気素量 e=1.6×10−19C,c=3.0×108ms−1,μ0=4π×10−7NA−2,1/(2πε0)=1.8×1010Nm2C−2 とする.

  1. 導線が止まっている系 K で,陽子に働く力の大きさと向きを求めよ.

  2. 伝導電子の線電荷密度の大きさ λ0 と,伝導電子の速さ v を求めよ.

  3. 陽子と一緒に動く系 K' での導線の正味の線電荷密度 λ′ を,x が十分小さいときの 1/1−x≈1+x/2 を使って u2/c2 や uv/c2 の1次まで求め,λ′=−Iu/c2 となることを示せ.

  4. K' で陽子に働く力を求め,(1) と比べよ.また,|λ′|/λ0 を求めよ.

系 K では導線のイオンが静止し,電子は左向きに速さ v で流れる.電流 I と陽子の速さ u は右向き.陽子は導線から距離 r にある.系 K′ では陽子が静止し,イオンと電子はともに左へ流れる.力や正味の電荷密度の答えは示していない. 系 K では導線のイオンが静止し,電子は左向きに速さ v で流れる.電流 I と陽子の速さ u は右向き.陽子は導線から距離 r にある.系 K′ では陽子が静止し,イオンと電子はともに左へ流れる.力や正味の電荷密度の答えは示していない.
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考え方 K では磁気力だけ,K' では陽子が止まっているので電気力だけを考える.K' で導線が帯電して見える量を,イオンと電子の密度の変化から求める.

  1. 磁場は B=μ0I2πr=2.0×10−7×101.0×10−2=2.0×10−4T である.陽子に働く力の大きさは

F=euB=1.6×10−19×1.0×106×2.0×10−4=3.2×10−17N

である.正電荷が電流と同じ向きに動くことは,導線と同じ向きの電流があることと同じなので,平行な電流が引き合うのと同様に,力は導線に向かう向きである.

  1. λ0=neS(S は断面積)より

λ0=8.5×1028×1.6×10−19×1.0×10−6≈1.4×104Cm−1

である.I=λ0v より,丸める前の λ0 を使うと v=10/(1.36×104)=7.4×10−4ms−1 である.

  1. K で,イオンは止まり,伝導電子は電流と逆向き,つまり陽子と逆向きに速さ v で動いている.K' では,イオンは速さ u で動くので,密度は

λ0(1−u2c2)−1/2≈λ0(1+u22c2)

である.伝導電子は,止まって見える系での密度の大きさが λ01−v2/c2≈λ0(1−v2/(2c2)) で,K' では速さ u+v で動く(速度の合成の式の分母 1+uv/c2 による違いは,さらに高い次数の量なので捨てる).密度の大きさは

λ0(1−v22c2)(1+(u+v)22c2)≈λ0(1+u22c2+uvc2)

である.v2 の項は打ち消し合った.正味の線電荷密度は

λ′≈λ0(1+u22c2)−λ0(1+u22c2+uvc2)=−λ0uvc2=−Iuc2

で,導線は負に帯電して見える.数値は λ′=−10×1.0×106/(9.0×1016)=−1.1×10−10Cm−1 である.

  1. K' で陽子は止まっているので,磁気力は働かず,電場

E′=|λ′|2πε0r=1.1×10−10×1.8×10101.0×10−2=2.0×102Vm−1

による力 eE′=3.2×10−17N が,負に帯電した導線に向かう向きに働く.(1) と一致する.文字のままでも eE′=eIu2πε0c2r=euμ0I2πr=euB である.正確には K' の力は K の γ 倍だが,γ−1≈u2/(2c2)=5.6×10−6 は有効数字2桁では見えない.また

|λ′|λ0≈IuneSc2=10×1.0×1061.36×104×9.0×1016≈8.2×10−15

で,正負の電荷のごくわずかな不釣り合いが,(1) の磁気力の全部を担っている.

確かめ:陽子を伝導電子と同じ向きに飛ばすには u を −v にすればよく,λ′≈λ0v2/c2 となって本文の結果に一致する.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

2本の細い電子線が,間隔 d で平行に,同じ向きに速さ v で進んでいる.実験室系 K での各電子線の線電荷密度の大きさを λ,電子の質量を m,電荷を −e とし,γ=1/1−v2/c2 とする.各電子線の太さと,電子線が自分自身に及ぼす力は無視する.

  1. K で,一方の電子線の電子が他方の電子線から受ける電気力の大きさ FE と磁気力の大きさ FB を求めよ.また,比 FB/FE と,合力の大きさ F を求め,合力の向きを答えよ.

  2. 電子と一緒に動く系 K0 で,同じ電子に働く力の大きさ F0 を求め,F=F0/γ となることを確かめよ.

  3. 電子線が K で距離 L 進む間に,最初は横向きの速度をもたない電子が横にずれる距離を,K と K0 で別々に求め,一致することを示せ.ずれは d に比べて十分小さく,K0 での横向きの速さは光速より十分小さいとする.

  4. λ=1.0×10−10Cm−1,d=1.0mm,v=0.60c のとき,FE,FB,F を求めよ.e=1.6×10−19C,1/(2πε0)=1.8×1010Nm2C−2 とする.

線電荷密度 −λ の2本の電子線が,間隔 d を保って右へ速さ v で進む.下の電子線の1個を橙の輪で示す.問題で求める電気力と磁気力の向き,大きさ,比は示していない. 線電荷密度 −λ の2本の電子線が,間隔 d を保って右へ速さ v で進む.下の電子線の1個を橙の輪で示す.問題で求める電気力と磁気力の向き,大きさ,比は示していない.
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考え方 K では電場と磁場の両方を,K0 では電子が止まっているので電場だけを考える.横にずれる距離は系によらないので,(3) で2つの系の予測を比べる.

  1. 一方の電子線は,距離 d の所に電場 E=λ2πε0d と,大きさ λv の電流による磁場 B=μ0λv2πd を作る.

FE=eλ2πε0d,FB=evB=μ0eλv22πd=FEv2c2

である(μ0ε0=1/c2).電気力は反発,磁気力は同じ向きの電流どうしなので引力である.比は FB/FE=v2/c2 で,合力は

F=FE(1−v2c2)=FEγ2

の反発である.

  1. K での密度 λ は,止まって見える密度の γ 倍だったので,K0 での密度は λ/γ である.K0 では電子が止まっているので磁気力は働かず,

F0=eλ/γ2πε0d=FEγ

である.したがって F=FE/γ2=F0/γ で,横向きの力の変換に一致する.

  1. K:横向きの運動量は py=γmw(w は横向きの速さ)で,d がほぼ一定なので F も一定であり,γmw=Ft.ずれは Δy=Ft22γm で,t=L/v を入れると

Δy=F2γmL2v2=F0L22γ2mv2

である.

K0:電子は止まった状態から動き出すので,ふつうの運動方程式で Δy=F0τ22m である.K0 では長さ L の装置がローレンツ収縮で L/γ に縮み,速さ v で通り過ぎるので,かかる時間は τ=L/(γv) である.これは K での時間 L/v の 1/γ 倍で,時間の遅れとも合う.よって

Δy=F02mL2γ2v2

で,K の結果と一致する.力の大きさは違うが,ずれの予測は同じである.

  1. FE=1.6×10−19×1.0×10−10×1.8×10101.0×10−3=2.9×10−16N である.v2/c2=0.36 より FB=0.36FE=1.0×10−16N,F=0.64FE=1.8×10−16N である.

確かめ:v が c に比べて十分小さいと FB/FE→0,F→FE で,ふつうのクーロン力に戻る.逆に v→c では F→0 で,λ,d,L を一定にすると,(3) のずれは 1/(γ3v2) に比例して小さくなる.速い電子線ほど広がりにくく,加速器で光速に近い粒子の束を細く保ちやすいのはこのためである.

ポイント ここまでのまとめ

  • 導線の系の磁気力は,電荷の系では導線が帯電して見えることによる電気力になる.帯電の割合は 10−15 程度でも,打ち消し合いの後に残るので力として見える.

  • 速さ u の電荷から見た導線の線電荷密度は λ′≈−Iu/c2 で,その電気力は K の磁気力 euB に一致する.

  • 平行に進む電子線では,磁気力は電気力の v2/c2 倍で,合力は FE/γ2=F0/γ になる.

  • 力の大きさは系によって違ってよい.比べるべきは,横にずれる距離などの運動の予測である.

15電場と磁場の相対性の演習

力の和と時間の変換を調べましょう.真空では μ0ε0=1/c2,計算では c=3.0×108ms−1 とします.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

間隔 d の2本の長い導線に同じ向きの電流を流します.静止する正電荷の線密度は Λ>0,負電荷の線密度は −(1−δ)Λ,速さは u です.0<δ<1 とします.

  1. 正味の線電荷密度 λ と電流 I を求めよ.

  2. 単位長さの反発力は fE=λ2/(2πε0d),引力は fB=μ0I2/(2πd) です.比を求め,δ=1.0×10−8,u/c=1.0×10−4 でどちらが勝るか述べよ.

間隔dの二本の導線は,それぞれ静止する正電荷の線密度Λと,速さuで動く負電荷の線密度−(1−δ)Λをもつ.負電荷の速度は同方向で,電流はその逆向きに流れる. 間隔dの二本の導線は,それぞれ静止する正電荷の線密度Λと,速さuで動く負電荷の線密度−(1−δ)Λをもつ.負電荷の速度は同方向で,電流はその逆向きに流れる.
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考え方 電気力には正味の電荷,磁気力には動く電荷を用いる.

  1. λ=Λ−(1−δ)Λ=δΛ,I=(1−δ)Λu である.

  2. 比は

fEfB=δ2(1−δ)2c2u2≈1.0×10−8

で,引力が勝る.遅い電荷の磁気力より,電気力の相殺が強く効く.δ→0 では電気的反発だけが消え,電流による引力は残る.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

実験室系Kで,E は y 方向に E=3.0×104Vm−1,B は z 方向に B=2.0×10−2T です.速度 u の系K'では,1≫u/c のとき E′≈E+u×B を使えます.

  1. x 方向に動くK'で電場が消える u を求めよ.

  2. u=1.0×106ms−1,2.0×106ms−1 で,K'に静止する正電荷の力の向きを求めよ.

実験室系Kの電場Eは正のy方向,磁場Bは正のz方向を向く.系K′は正のx方向に速度uで動く.三次元の軸を斜めに投影して描く. 実験室系Kの電場Eは正のy方向,磁場Bは正のz方向を向く.系K′は正のx方向に速度uで動く.三次元の軸を斜めに投影して描く.
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考え方 電荷はKで動き,K'で静止する.

  1. 外積は −y 方向なので,Ey′≈E−uB.したがって u=E/B=1.5×106ms−1 で消える.

  2. 順に Ey′≈±1.0×104Vm−1 の正,負をとり,力は +y,−y 方向である.最大でも u/c=6.7×10−3 で,捨てた補正の尺度 (u/c)2 は十分小さい.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

長い円柱状の電子線が軸方向に速さ v で進みます.電荷密度は断面で一様とし,外部の場,広がり,横速度は無視します.軸から距離 r の表面における電場の大きさを E,外向きの電子の力を F とし,R=F/(eE) を測定しました.表は模型値です.

v(108ms−1)

R

0.60

0.960

1.20

0.840

1.80

0.640

  1. 線電荷密度の大きさを |λ| とし,ガウスの法則とアンペールの法則から E,B を求め,R を v,c で表せ.

  2. R=1−kv2 とし,両端の点から k と 1/k を求めよ.中間点を検証し,電子線自身の磁気力が電気的反発を消せるか述べよ.

電子線は軸方向へ速さvで進む.断面の半径rと表面の電子を示す.電場や磁場,力の向きは描いていない. 電子線は軸方向へ速さvで進む.断面の半径rと表面の電子を示す.電場や磁場,力の向きは描いていない.
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考え方 電気的反発から磁気的引力を引き,R を v2 に対して直線化する.

  1. 円筒面を通る流束から E2πrℓ=|λ|ℓ/ε0,閉じた円に沿う一周の積分から B2πr=μ0|I|.|I|=|λ|v より,E=|λ|/(2πε0r),B=μ0|λ|v/(2πr).電気力は外向き,磁気力は内向きであり,

F=e(E−vB)=eE(1−v2c2),R=1−v2c2

となる.

  1. 表の上から添字1,2,3を付けて,k=(R1−R3)/(v32−v12)=0.320/(2.88×1016)=1.11×10−17s2m−2.よって 1/k=3.0×108ms−1 である.中間も R2=1−kv22=0.840 と一致する.c>v なら R>0 なので反発は残る.半径の変化の割合と |vr|/v が小さい範囲の結果である.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

Kで,y=0,d の十分大きい平行な絶縁板に,下は面密度 +σ(σ>0),上は −σ の電荷を固定します.板間の正電荷 q はKで瞬間的に静止します.K'は x 方向に速さ u で動き,γ=1/1−u2/c2 とします.運動方向の長さが 1/γ 倍になります.面電流密度 Ks の平面の磁場は片側で μ0|Ks|/2 とし,向きは右手で決めます.

  1. KとK'の板間の Ey,Bz を求めよ.

  2. K'では試験電荷の速度が −u です.力 Fy′ をKの力 Fy と比べよ.py′=py,dt′=γdt を使っても確かめよ.

実験室系Kで下の板は正の面電荷密度σ,上の板は負の面電荷密度−σをもつ.正電荷qは板間で瞬間的に静止する.系K′は正のx方向に速さuで動く. 実験室系Kで下の板は正の面電荷密度σ,上の板は負の面電荷密度−σをもつ.正電荷qは板間で瞬間的に静止する.系K′は正のx方向に速さuで動く.
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考え方 面積の収縮と板の移動から電場・磁場を求める.

  1. Kでは Ey=σ/ε0,Bz=0.K'では面積が 1/γ 倍だから密度は ±γσ,Ey′=γEy.下の電流は −x,上は +x 方向で,磁場はともに −z 方向に加わる.したがって

Bz′=−μ0γσu=−γuEyc2

である.

  1. v′×B′ は −y 方向なので,Fy′=qγEy(1−u2/c2)=qEy/γ=Fy/γ.また Fy′=dpy′dt′=dpydt/γ でも同じ比を得る.u→0 で両系の力は一致し,板の端から十分離れた範囲の結果である.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

正電荷 Q をもつ粒子を,Kで x 方向に一定速度 v で走らせます.真横の距離 d に,試験電荷 q>0 を同じ速度で置きます.試験電荷の場は無視します.粒子と同じ速度の系K0では両電荷が静止し,反発力は F0=qQ/(4πε0d2) です.横距離・運動量は不変で,試験電荷に沿って dt=γdt0,γ=1/1−v2/c2 となります.移動する電荷の真横では B=vE/c2 の関係があり,磁気力は並走する正電荷を引き付けます.

  1. Kの力 F+ と電場 E を F0 で表せ.

  2. 試験電荷の速度だけを −v にした力 F− と比 F−/F+ を求めよ.v=0.60c で比を評価せよ.

正電荷Qと試験電荷qは運動方向に垂直な距離dを隔てて並ぶ.左は両電荷が正のx方向に速度vで進む配置,右は試験電荷だけが負のx方向に速度−vで進む配置である. 正電荷Qと試験電荷qは運動方向に垂直な距離dを隔てて並ぶ.左は両電荷が正のx方向に速度vで進む配置,右は試験電荷だけが負のx方向に速度−vで進む配置である.
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考え方 並走では静止系の力を変換する.逆走では磁気力の向きが変わる.

  1. F+=dpydt=dp0ydt0/γ=F0/γ.一方,F+=q(E−vB)=qE(1−v2/c2)=qE/γ2.両式から E=γF0/q を得る.

  2. 逆走では磁気力も反発となり,F−=qE(1+v2/c2)=γF0(1+v2/c2).したがって

F−F+=γ2(1+v2c2)=1+v2/c21−v2/c2

である.v=0.60c では γ=1.25,比は 1.36/0.64≈2.1.v→0 では比が1となる.粒子を等速に保ち,横速度が0の瞬間の結果である.

ポイント 教える人へ

  • 電荷と電流の相殺を別々に数えさせます.

  • 系と電荷の速度を区別し,外積の符号を確かめさせます.

  • どの電荷に沿った時間を比べているか説明させます.

  • 測定から電気力だけでは足りないことを確認します.

16第22章の章末問題

磁場を作る電流と,その磁場が粒子や別の電流に及ぼす作用を結び付けてください.粒子の運動では重力,衝突,放射損失を無視し,光速に比べて速さが十分小さい範囲を扱います.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

半径 a と 2a の同心の四分円を,2本の半径方向の導線でつないだ閉回路を xy 平面に置きます.電流 I>0 は内側の円弧を +z 側から見て反時計回りに流れます.円弧の中心Oに電荷 q>0 の粒子があり,瞬間の速度は vex です.ex,ey,ez は各軸の正方向の単位ベクトルとし,粒子自身の場と回路の電場を無視します.

  1. Oの磁場を求めよ.ビオ・サバールの法則から,半径 r の円弧の微小角 dϕ の寄与は dB=μ0Idϕ/(4πr) です.

  2. 粒子に働く力と瞬間の仕事率を求めよ.

半径aと2aの同心四分円を半径方向の導線でつなぐ.内側の電流Iは正のz側から見て反時計回りである.中心Oの正電荷qの瞬間の速度は正のx方向のvである. 半径aと2aの同心四分円を半径方向の導線でつなぐ.内側の電流Iは正のz側から見て反時計回りである.中心Oの正電荷qの瞬間の速度は正のx方向のvである.
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考え方 円弧ごとの磁場を向きも含めて足し,合成した場にローレンツ力を使う.

  1. 半径方向の接続線では電流要素とOへのベクトルが平行なので寄与は0である.内側と外側の円弧の磁場は逆向きで,内側は +z 向きである.したがって

B=μ0I4π∫0π/2(1a−12a)dϕez=μ0I16aez

となる.

  1. ex×ez=−ey より,F=−μ0Iqvey/(16a).仕事率は F⋅v=0 である.I→0 で力は消え,速さはこの磁気力によって変わらない.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

電子が,+z 向きの一様磁場 B の中で,速さ v,半径 r の円運動をしています.電子の質量は m,電荷は −e(e>0)です.電子が1周期ごとに同じ点を通ることを,1巻の円電流とみなします.

  1. 周期 T,等価な電流の大きさ I,磁気モーメント m を求めよ.モーメントの向きは外部磁場と同じか.

  2. 軌道の中心まわりの角運動量 L を求め,m との関係を表せ.その比例係数は v や B に依存するか.

電子は正のz方向の一様磁場Bの中で半径rの円運動をする.図の右端にある電子の速度vは上向きである. 電子は正のz方向の一様磁場Bの中で半径rの円運動をする.図の右端にある電子の速度vは上向きである.
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考え方 1周期に通過する電荷を電流に直す.電子の運動方向と電流の方向は逆である.

  1. 向心力の式 mv2/r=evB より r=mv/(eB).周期と電流は T=2πr/v=2πm/(eB),I=e/T=e2B/(2πm) である.電子は +z 側から見て反時計回りに回るから,電流は時計回りで,

m=−Iπr2ez=−evr2ez

となる.モーメントは外部磁場と逆向きである.

  1. 反時計回りの円運動なので L=mrvez.(1)のモーメントと比較して m=−eL/(2m) である.比例係数は電子の電荷と質量だけで決まり,v と B に依存しない.比例係数の次元 Ckg−1 に角運動量の次元 kgm2s−1 を掛けると,モーメントの次元 Am2 になる.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

長さ ℓ,全抵抗 R の同じ細い導線を,正方形と円にそれぞれ加工し,電圧 V の電源につなぎます.接続線の磁場と力は無視します.有限の直線部分が,その垂直二等分線上の距離 d の点に作る磁場は Bseg=μ0Isin⁡α/(2πd) です.α はその点から見た半分の開き角です.

  1. 両回路の中心の磁場を求め,その比を比較せよ.

  2. 各回路を,法線が一様な外部磁場 B0 と直角になる向きに固定します.トルクの大きさを求め,比較せよ.

同じ周長ℓと全抵抗Rの正方形回路と円回路を,それぞれ電源Vにつなぐ.正方形には中心と一辺の距離d,その一辺の半開き角αを示す.下段は外部磁場B₀が各回路の法線に垂直となる配置を表す. 同じ周長ℓと全抵抗Rの正方形回路と円回路を,それぞれ電源Vにつなぐ.正方形には中心と一辺の距離d,その一辺の半開き角αを示す.下段は外部磁場B₀が各回路の法線に垂直となる配置を表す.
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考え方 抵抗と電圧が同じなら電流は同じである.中心磁場には導線までの距離,トルクには囲む面積が効く.

  1. 電流は I=V/R.正方形の辺は ℓ/4,中心から辺まで d=ℓ/8,α=π/4 なので,4辺の場を足して

Bsq=4μ0I2π(ℓ/8)12=82μ0Iπℓ

となる.円の半径は ℓ/(2π) で,Bcir=πμ0I/ℓ.比は Bsq/Bcir=82/π2≈1.15 で,正方形が大きい.

  1. トルクは ISB0.面積から τsq=Iℓ2B0/16,τcir=Iℓ2B0/(4π) である.比は τsq/τcir=π/4≈0.785 で,円が大きい.中心の磁場が大きい形が,大きいトルクも与えるとは限らない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

xy 平面の円 x2+y2<a2 の内部だけに +z 向きの一様磁場 B があります.円の外の磁場と,全域の電場は0です.質量 m,電荷 q>0 の粒子を,(−a,0) から +x 向きに速さ v で入射させます.r=mv/(qB),ω=qB/m とします.

  1. 円領域を初めて出るまでの回転角 ϕ,位置,速度,時間を求めよ.

  2. 出口で vx が負となる条件を求め,r=a と r/a→∞ の場合を調べよ.

半径aの円領域の内部だけに正のz方向の磁場Bがある.粒子は位置(−a,0)から正のx方向へ速さvで入射する. 半径aの円領域の内部だけに正のz方向の磁場Bがある.粒子は位置(−a,0)から正のx方向へ速さvで入射する.
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考え方 円軌道と磁場領域の円との,入射点以外の交点を求める.

  1. 回転角 ϕ=ωt に対して x=−a+rsin⁡ϕ,y=−r(1−cos⁡ϕ) である.境界条件 x2+y2=a2 は −2arsin⁡ϕ+2r2(1−cos⁡ϕ)=0 となる.初めての出口は 0<ϕ<π にあり,半角の式から tan⁡(ϕ/2)=a/r.したがって

ϕ=2arctan⁡ar,xe=a(r2−a2)r2+a2,ye=−2ra2r2+a2,te=ϕω

である.速度は vxe=vcos⁡ϕ=v(r2−a2)/(r2+a2),vye=−vsin⁡ϕ=−2var/(r2+a2).その後はこの速度で直進する.

  1. vxe<0 は r<a と同値で,強い場では入口側へ戻る向きに出る.r=a では ϕ=π/2,出口は (0,−a),速度は (0,−v).r/a→∞ では ϕ≈2a/r,te≈2a/v,出口は (a,0) に近づく.この直進近似には a/r が1より十分小さいことが必要である.

演習 5

オリジナル ★★☆☆☆

液体金属で満たされた水平な長方形の管を考えます.管軸は x 方向,幅は y 方向に w,高さは z 方向に h です.長さ ℓ の区間に一様な +z 向きの磁場を加え,その区間の両側面の電極間に +y 向きの一様な電流 If を流します.磁場は,単位長さあたり n 回巻きの十分長い空芯ソレノイドへ流す電流 Is によって作ります.管は静止した液体の圧力差を支え,粘性と電流の端の効果を無視します.

  1. 電流密度,磁気力の合力,右端の圧力から左端の圧力を引いた値 Δp を求めよ.

  2. 密度 ρf の液体を,出口の鉛直管で管軸から測った高さ H まで押し上げて静止させます.左端の圧力は,出口の液面上の圧力と等しいものとします.必要な IfIs を求めよ.w を2倍にした場合も比較せよ.重力加速度は g とします.

上段左は管の平面図で,幅w,電極区間の長さℓ,正のy方向の電流I_fを示す.上段右は磁場を作るソレノイドである.下段は高さhの管と出口の鉛直管を側面から見た図であり,液面の高さHの基準を示す. 上段左は管の平面図で,幅w,電極区間の長さℓ,正のy方向の電流I_fを示す.上段右は磁場を作るソレノイドである.下段は高さhの管と出口の鉛直管を側面から見た図であり,液面の高さHの基準を示す.
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考え方 ローレンツ力を体積で足し,管の断面積で割って圧力差に直す.

  1. B=μ0nIs,j=If/(ℓh).力の密度は j×B=jBex なので,体積 ℓwh に働く合力は Fx=jBℓwh=IfwB である.圧力による左向きの力は Δpwh で,つり合いより

Δp=IfBh=μ0nIfIsh

となる.

  1. Δp=ρfgH より IfIs=ρfgHh/(μ0n).幅 w を2倍にすると合力と断面積がともに2倍となるので,必要な電流の積は変わらない.これは静止液体の結果であり,ソレノイドの半径と長さの比,電極間の幅と ℓ の比が十分小さいことを前提とする.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

断面積一定の環状鉄心に N=200 回の巻線を施し,幅 d=2.0×10−3m の空隙を1か所設けます.鉄心部分の磁路の長さは ℓ=0.20m です.漏れ磁束と空隙での磁束の広がりを無視し,鉄心と空隙の B は等しいとします.この範囲の鉄心の応答は B=μ0μrH+Br と表せ,μr,Br は一定です.磁路に沿うアンペールの法則は Hℓ+Bd/μ0=NI です.

空隙の +z 向きの場を,既知の正イオンの軌道の符号付き曲率 k で測りました.イオンは +x 向きに入射し,−y 向きに曲がる曲率を正とします.q/(mv)=1.0×103T−1m−1,μ0=1.26×10−6NA−2 とし,次の中心値を得ました.各 k の不確かさは ±0.20m−1,他の量の不確かさは無視します.

I(A)

k(m−1)

−0.40

−30.32

0

10.00

0.40

50.32

  1. k=AI+C を導き,中心値から μr,Br を求めよ.中央の点を検証せよ.

  2. 両端の不確かさから A の範囲を求め,許される μr の範囲を求めよ.鉄心の透磁率を精密に測るには,空隙を広くするのがよいか.

環状鉄心にN回の巻線を施し,幅dの空隙を一か所設ける.鉄心部分の磁路長をℓとする.拡大図では正イオンの入射速度と座標軸,磁場の正方向を示す.曲率kは空隙内で測定する. 環状鉄心にN回の巻線を施し,幅dの空隙を一か所設ける.鉄心部分の磁路長をℓとする.拡大図では正イオンの入射速度と座標軸,磁場の正方向を示す.曲率kは空隙内で測定する.
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考え方 曲率から磁場を測り,磁路の式の傾きと切片を使う.空隙が広いと,透磁率への感度が低下する.

  1. 符号付きで k=qB/(mv).鉄心の H=(B−Br)/(μ0μr) を磁路の式に代入すると

B=μ0NI+ℓBr/μrd+ℓ/μr,A=qmvμ0Nd+ℓ/μr,C=qmvℓBr/μrd+ℓ/μr

となる.表から A=(50.32+30.32)/0.80=100.8A−1m−1,C=10.00m−1.よって d+ℓ/μr=2.50×10−3m,μr=4.0×102 である.無電流時の空隙の場は 0.01000T なので,Br=0.01000(d+ℓ/μr)μr/ℓ=0.050T.中央の曲率は切片と一致する.

  1. 曲率の差の不確かさは最大 0.40m−1 である.したがって 100.3≤A/(A−1m−1)≤101.3.

μr=ℓ[q/(mv)]μ0N/A−d

に両端を入れると,約 390.3≤μr≤410.1 となる.相対感度は dln⁡μrdln⁡A=1+dμr/ℓ で,今回5である.空隙を広くするとこの増幅が大きくなり,精密な推定には不利である.空隙の幅と断面の代表的な幅の比が十分小さく,測定軌道内の場の変化も小さいことが必要である.

演習 7

オリジナル ★★★☆☆

z 軸上の長い直線導線に +z 向きの電流 Iw>0 を流します.xz 平面内に,x 方向の幅 a,z 方向の長さ ℓ の剛い長方形回路を置き,導線に近い辺を x=X>0 とします.その辺には +z 向きに電流 Ic>0 が流れます.回路は回転せず x 方向にだけ動け,ばねによる力は −k(X−X0) です.電源は両電流を一定に保ち,接続線の力を無視します.K=μ0IwIcℓ/(2π) とおきます.

  1. 回路に働く磁気力の合力を求めよ.

  2. X=a がつり合いとなる X0 を求め,そのつり合いが安定となる条件を求めよ.回路の質量を Mc として,安定な場合の小振動の角振動数も求めよ.

正のz方向の直線電流I_wのそばに幅a,長さℓの回路を置く.近い辺の位置はXで,その辺には正のz方向の電流I_cが流れる.回路は案内に沿ってx方向に動く.X₀はばねの力が0となるときの近い辺の位置である. 正のz方向の直線電流I_wのそばに幅a,長さℓの回路を置く.近い辺の位置はXで,その辺には正のz方向の電流I_cが流れる.回路は案内に沿ってx方向に動く.X₀はばねの力が0となるときの近い辺の位置である.
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考え方 回路の近い辺と遠い辺では場が異なる.つり合いの位置で,合力の変位に対する傾きを調べる.

  1. 導線の右では B=μ0Iwey/(2πx).近い辺への力は −Kex/X,遠い辺は +Kex/(X+a).x 向きの2辺の z 方向の力は,同じ区間の場を積分するため打ち消す.したがって FB=−K(1/X−1/(X+a)) である.

  2. 全合力は F=−k(X−X0)−K(1/X−1/(X+a)).F(a)=0 より X0=a+K/(2ka).微分すると

dFdX=−k+K(1X2−1(X+a)2),dFdX∫|X=a=−k+3K4a2

なので,安定には k>3K/(4a2) が必要である.ξ=X−a とすると Mcd2ξdt2≈−(k−3K/(4a2))ξ より ω=(k−3K/(4a2))/Mc.等号では線形の復元力が消えるが,2次まで展開すると F≈−7Kξ2/(8a3) となる.ξ<0 の変位を増大させる向きに力が働くので,つり合いは不安定である.|ξ|/a が十分小さいことが近似条件で,電流を0にするとばねだけの振動数に戻る.

演習 8

オリジナル ★★★☆☆

N 回巻きの薄い平面らせんを,内半径 a,外半径 b>a の間に作ります.半径方向の巻数密度は一定で,半径 r から r+dr に Ndr/(b−a) 回を含む円電流の集まりと近似します.同じ N 回を半径 rc=(a+b)/2 にまとめたコイルも作ります.両方の導線は単位長さあたりの抵抗が γR,端子間の電圧は V です.半径方向の進みと接続線の長さ,磁場,力は無視します.

  1. 両コイルの導線長と電流を比較し,らせん中心の磁場を求めよ.

  2. 同じ一様外部磁場 B0 の中で,両法線を磁場に垂直に固定します.らせんと半径 rc のコイルの,中心磁場の比とトルクの比を求めよ.δ=(b−a)/(2rc) が小さい場合の,両比の先頭の補正も求めよ.ln⁡[(1+δ)/(1−δ)]=2δ+2δ3/3+⋯ を使ってよいとします.

左は内半径a,外半径bの平面らせん,右は半径r_cの薄い円形コイルで,ともにN巻である.両方に端子間電圧Vを加える.下段は外部磁場B₀と各法線が垂直になる配置を表す. 左は内半径a,外半径bの平面らせん,右は半径r_cの薄い円形コイルで,ともにN巻である.両方に端子間電圧Vを加える.下段は外部磁場B₀と各法線が垂直になる配置を表す.
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考え方 各半径の円電流の寄与を積分する.同じ巻数と平均半径なら,この近似では導線長も同じになる.

  1. らせんの長さは ℓw=∫ab2πrNdr/(b−a)=πN(a+b)=2πNrc で,まとめたコイルと等しい.したがって両電流は I=V/(2πγRNrc).中心の磁場は

Bs=μ0NI2(b−a)∫abdrr=μ0NI2(b−a)ln⁡ba

である.

  1. らせんのモーメントは ms=∫abIπr2Ndr/(b−a)=πNI(a2+ab+b2)/3.まとめたコイルは Bc=μ0NI/(2rc),mc=πNIrc2.よって

BsBc=rcb−aln⁡ba=12δln⁡1+δ1−δ=1+δ23+⋯,τsτc=msmc=1+δ23

となる.両方とも半径を広げたらせんの方が大きい.展開には δ2 が十分小さいことが必要で,円電流の集まりという近似には巻き間隔と最小半径の比 (b−a)/(Na) も十分小さいことが要る.

演習 9

オリジナル ★★★☆☆

半径 R の十分長い円柱領域に,+z 向きの一様な定常電流密度 j>0 を与えます.正負の電荷の密度は相殺し,電場は0という模型を考えます.質量 m,電荷 q>0 の試験粒子はこの領域を衝突なしで動き,源の電流を乱しません.初期位置は x=a,y=0(0<a<R),初速度は v0ez です.v0>0,κ=qμ0j/(2m) とします.

  1. 円柱内の磁場をアンペールの法則から求め,y=0 の運動について dvxdt,dvzdt を書け.

  2. 運動中の vz を x で表せ.κa2/v0 が十分小さいとき,横運動の周期と,1周期中の vz の最大の減少量を近似的に求めよ.

半径Rの円柱内に正のz方向の一様な電流密度jを与える.試験粒子の初期位置はxがa,yが0で,初速度は正のz方向のv₀である.左は断面,右は側面を示す. 半径Rの円柱内に正のz方向の一様な電流密度jを与える.試験粒子の初期位置はxがa,yが0で,初速度は正のz方向のv₀である.左は断面,右は側面を示す.
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考え方 軸に沿う速度も磁気力で変わる.まず厳密な関係を積分し,その後で軸方向の速さをほぼ一定とする.

  1. 半径 s<R の円に沿って一周すると 2πsB=μ0jπs2 より B=μ0js/2.y=0 では符号付きで By=μ0jx/2.vy=0 は保たれ,外積から

dvxdt=−κxvz,dvzdt=κxvx=κ2dx2dt

である.

  1. 初期条件で積分定数を決めると vz=v0+κ(x2−a2)/2.したがって横運動の厳密な式は d2xdt2=−κx[v0+κ(x2−a2)/2].ε=κa2/v0 が小さければ vz≈v0 と置けて,x≈acos⁡ωt,ω=κv0,T≈2π/κv0 となる.軸上 x=0 での減少量は Δvz=κa2/2 である.

磁気力は仕事をしないので vx2+vz2=v02 が保たれる.軸上の厳密な式は vx2=κv0a2−κ2a4/4 で,近似の最大横速度の2乗 a2ω2 と先頭の次数で一致する.捨てた項の比は ε 程度であり,a<R と ε が十分小さいことが,領域内のほぼ単振動の条件である.

17第22章の発展問題

軌道の集束,磁気鏡,磁場の一様性,磁石の連成運動を調べます.新たに必要となる近似や模型の式は各問題で示しますので,保存則と運動方程式に戻って適用範囲も確かめてください.

演習 1

IPhO 1977 第3問(改題) ★★★★☆

質量 m,電荷 q>0 のイオンを,静止から電圧 V>0 で加速し,原点から狭い円すい状に放出します.全粒子の速さは v,+z 軸との角は 0≤θ≤θm<π/2,θm>0 です.空間には一様な +z 向きの磁場があり,z=D>0 の平面で各粒子の軸からの距離 ρ を測ります.非相対論的な運動とし,n は正の整数とします.

  1. 指定した角 0<θ≤θm の粒子が n 回転して軸上の z=D に達する磁場を求めよ.次に基準磁場 Bn=2πnmv/(qD) で,任意の θ の粒子の ρ を求めよ.

  2. θm2 と nθm2 が十分小さいとします.B=Bn(1+η),|η| は θm2 程度として,ρ の先頭の式を導け.基準磁場での最大の ρ は n を増やすと小さくなるか.

  3. η=−c0θm2,0<c0<1/2 として,円すい内の最大の ρ を最小にする c0 を求めよ.同じ近似での最小値を求め,基準磁場の場合と比較せよ.

原点のイオン源から正のz軸のまわりの半角θ_mの範囲へ粒子を放出する.磁場は正のz方向で,検出面はzがDの平面である.面上の印は観測距離ρの定義のための任意の位置を表す. 原点のイオン源から正のz軸のまわりの半角θ_mの範囲へ粒子を放出する.磁場は正のz方向で,検出面はzがDの平面である.面上の印は観測距離ρの定義のための任意の位置を表す.
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考え方 軸方向の飛行時間と回転位相を結び付ける.円すいの端だけでなく,内部の粒子のずれも含めて磁場を最適化する.

  1. mv2/2=qV より v=2qV/m.ω=qB/m とすると検出面までの時間は tD=D/(vcos⁡θ).ωtD=2πn から B=2πnmvcos⁡θ/(qD) である.円運動の半径は r=vsin⁡θ/ω,原点からの横変位の大きさは,円の弦の長さ 2r|sin⁡(ωtD/2)| になる.基準磁場では

ρ=Dsin⁡θπn|sin⁡(πncos⁡θ)|

で,θ=0 の粒子は常に軸上を進む.

  1. 一般の磁場で r=Dsin⁡θ/[2πn(1+η)],ωtD=2πn(1+η)/cos⁡θ.1/cos⁡θ≈1+θ2/2 より,整数回転からの位相差は Δϕ≈2πn(η+θ2/2).|Δϕ| が十分小さければ弦の長さは r|Δϕ| なので

ρ≈Dθ|η+θ22|

となる.η=0 の最大値は Dθm3/2 で,先頭の式には n が残らない.回転数を増やすだけでは,角度の広がりによるずれは減らない.

  1. s=θ/θm とすると,最大化する無次元量は |f(s)|,f(s)=s3/2−c0s,0≤s≤1.f′(s)=3s2/2−c0 より,内部の負の極小は s∗=2c0/3 にあり,|f(s∗)|=(2c0/3)3/2.端では f(1)=1/2−c0.前者は c0 とともに増加し,後者は減少するため,最適点では両者が等しい.c0=3/8 を代入すると s∗=1/2,両値は 1/8 となる.したがって

Bopt≈Bn(1−3θm28),ρmax,opt≈Dθm38

で,基準磁場の最大ずれの1/4である.この最適化には θm2 に加えて nθm2 も十分小さいこと,また v/c が十分小さいことが必要である.

演習 2

IPhO 2019 第2問(改題) ★★★★☆

+y 向きの一様電場 E>0 と +z 向きの一様磁場 B>0 を,0<y<h に加えます.境界は無限に広く,y=h の原点の真上 (0,h) に,小さな受け口を設けます.質量 m,電荷 q>0 の粒子を (0,0) から −x 向きに速さ vi>0 で入射し,受け口に到達させます.重力,衝突,粒子自身の場は無視します.u=E/B,ω=qB/m とします.

  1. 領域内の x(t),y(t) を求めよ.

  2. ϕ∗ を到達時の ωt として,0<ϕ∗<π の間に受け口に到達する vi を,ϕ∗ を使って表せ.ϕ∗ を決める方程式を示し,任意の h>0 で解がただ1つあることを示せ.

  3. ε=ωh/u が十分小さいとき,到達時間と必要な vi の先頭の近似を求めよ.到達時の速さを仕事から求め,電場を強くすればこの近似をいつまでも使えるか論じよ.

電場Eは正のy方向,磁場Bは正のz方向で,0からhのy領域にだけ存在する.粒子は原点から負のx方向へ速さv_iで入射する.受け口は原点の真上の位置(0,h)にある. 電場Eは正のy方向,磁場Bは正のz方向で,0からhのy領域にだけ存在する.粒子は原点から負のx方向へ速さv_iで入射する.受け口は原点の真上の位置(0,h)にある.
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考え方 ドリフト速度を引いた速度は回転する.横方向の戻りと,縦方向の到達を同時に満たす初速度を決める.

  1. 運動方程式は dvxdt=ωvy,dvydt=ω(u−vx).w=vx−u とすれば d2wdt2=−ω2w で,w(0)=−(u+vi),dwdt(0)=0.よって vx=u−(u+vi)cos⁡ωt,vy=(u+vi)sin⁡ωt.積分すると

x=ut−u+viωsin⁡ωt,y=u+viω(1−cos⁡ωt)

となる.一様な場が続くなら,この初速度の軌道はループをもつ.

  1. x=0 の条件は uϕ∗=(u+vi)sin⁡ϕ∗ なので,vi=u(ϕ∗/sin⁡ϕ∗−1).y=h の条件へ代入して

ωhu=ϕ∗1−cos⁡ϕ∗sin⁡ϕ∗=ϕ∗tan⁡ϕ∗2

を得る.右辺は 0<ϕ∗<π で0から無限大まで増加し,微分も tan⁡(ϕ∗/2)+ϕ∗sec2⁡(ϕ∗/2)/2>0.したがって解はただ1つである.この時間内では vy>0 だから,途中で境界を出ない.また x は初め減少し,dvxdt>0 なので,この到達は初めての x=0 への帰還になる.

  1. tan⁡(ϕ∗/2)≈ϕ∗/2 より ϕ∗≈2ε.また ϕ∗/sin⁡ϕ∗−1≈ϕ∗2/6 なので

t∗≈2huω,vi≈ωh3

となる.磁気力は仕事をせず,電場の仕事は qEh だから,到達速度の大きさは v∗=vi2+2qEh/m.軌道からも vx2+vy2−vi2=2u(u+vi)(1−cos⁡ωt)=2qEy/m と確かめられる.電場を強くすると ε は小さくなるが,v∗2/c2 は増える.近似には ε と v∗2/c2 の両方が十分小さいことが必要である.

演習 3

オリジナル ★★★★☆

軸対称な,時間によらない磁場で磁気鏡を作ります.軸上の場は +z 向きに B(z)=B0(1+z2/L2) で,z=±D に出口を置きます.出口面へ到達した粒子は失われます.質量 m,電荷 q>0 の粒子を z=0 から速さ v,場との角 0<θ<π/2 で送り出します.電場と重力はありません.

粒子の回転半径は磁場の変化の長さに比べて十分小さく,回転の中心は軸に沿ってゆっくり進むものとします.軸から距離 r の場の半径成分は,磁束の閉じる条件から Br≈−rdBdz/2 と近似できます.

  1. この Br の式を,短い円筒の面を通る正味の磁束が0であることから説明せよ.局所的な回転速度 v⟂ を使って,回転平均の軸方向の力を求めよ.

  2. エネルギー保存から v⟂2/B が一定となることを導き,折り返す位置と,閉じ込められる θ の条件を求めよ.z=0 で速度の向きが全立体角に一様な集団なら,失われる割合はいくらか.

  3. 閉じ込められた粒子の軸方向の往復周期を求めよ.θ→0 の周期の極限を,実際の閉じ込めと近似条件の両面から点検せよ.

上段は与えられた軸上磁場B(z)と出口の位置を示す.下段左は中央での入射速度vと磁場との角θである.下段右は短い円筒の半径rと座標成分の正方向を定義し,実際の半径成分の符号は示さない. 上段は与えられた軸上磁場B(z)と出口の位置を示す.下段左は中央での入射速度vと磁場との角θである.下段右は短い円筒の半径rと座標成分の正方向を定義し,実際の半径成分の符号は示さない.
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考え方 非一様な磁場には横成分もある.その横成分と回転速度の外積が,回転平均での反射力を生む.

  1. 長さ dz,半径 r の円筒では,端面からの正味の磁束は πr2dBdzdz,側面からは 2πrBrdz.和を0と置いて Br≈−rdBdz/2 を得る.正電荷の回転は局所的な +z 側から見て時計回りなので,方位方向の速度は vϕ=−v⟂.ローレンツ力の軸成分は Fz=−qvϕBr.r=mv⟂/(qB) を代入すると

Fz≈−mv⟂22BdBdz

となり,場の強い方へ進む粒子を減速する.

  1. 速さ全体は一定で,v∥2+v⟂2=v2.軸方向の運動方程式に v∥ を掛けると dv∥2dt=−v⟂2dBdt/B.全体の速さが一定であることから dv⟂2dt=v⟂2dBdt/B となり,d(v⟂2/B)dt=0.初期条件で

v∥2=v2[1−sin2⁡θB(z)B0]=v2(cos2⁡θ−z2L2sin2⁡θ)

を得る.折り返し位置は zm=Lcot⁡θ.出口に届かない条件は Lcot⁡θ<D,すなわち sin2⁡θ>1/(1+D2/L2) である.臨界角を θc とすると,両極の開き角 θc の円すいの合計立体角は 4π(1−cos⁡θc).失われる割合は

floss=1−cos⁡θc=1−1−11+D2/L2

である.

  1. 保存される比を力へ代入して d2zdt2=−v2sin2⁡θz/L2.初期条件 z(0)=0,dzdt(0)=vcos⁡θ より z=Lcot⁡θsin⁡(vsin⁡θt/L).周期は Tb=2πL/(vsin⁡θ).θ→0 では発散するが,有限の D では先に閉じ込め条件が破れ,往復周期を実測できなくなる.近似の十分条件は,ω0=qB0/m として v/(ω0L) が十分小さいことであり,回転半径と磁場の変化の長さの比,1回転中の場の変化の割合がともに小さくなる.

演習 4

オリジナル ★★★★★

半径 R,巻数 N の薄い円形コイル2個を,同軸の z=±h/2 に置き,同じ電流 I を流します.1個の軸上の場は b1(z)=μ0NIR2/[2(R2+z2)3/2] です.2個の軸上の合成場を b(z),中央の値を Bc=b(0) とします.この問題では,2次の軸上の変化を消す設計値 h=R が指定されています.

  1. h=R で b(z)/Bc=1+c4(z/R)4+⋯ の c4 を求めよ.(1+x)−3/2=1−3x/2+15x2/8−35x3/16+315x4/128+⋯ を使ってよいとします.

  2. 中央付近の電流のない領域では,∇⋅B=0,∇×B=0 が成り立ちます.軸からの距離を ρ とすると,軸対称な場では ρ−1∂∂ρ(ρBρ)+∂Bz∂z=0,∂Bρ∂z−∂Bz∂ρ=0 です.これらから Bz=b(z)−ρ2b″(z)/4+ρ4b⁗(z)/64+⋯ を導き,中央面 z=0 の場の先頭の変化を求めよ.ここでプライムは z による微分です.

  3. 相対誤差を ϵB 以下にする範囲を,軸上 |z|≤d と中央面の円板 ρ≤d で比較せよ.次に h=R(1+δh),|δh| が十分小さい場合の軸上の2次の項を求め,間隔誤差が4次の変化より支配的になる条件を示せ.

同じ電流Iを流すN巻のコイルをzが負と正のh/2の位置に置く.設計間隔hはRと等しい.中央の軸上区間と,中央面内の円板を橙で示す. 同じ電流Iを流すN巻のコイルをzが負と正のh/2の位置に置く.設計間隔hはRと等しい.中央の軸上区間と,中央面内の円板を橙で示す.
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考え方 2次の項が消えても4次は残る.軸上の場から横方向の場を決め,設計間隔の誤差で2次が復活することを調べる.

  1. s=z/R,A=5/4 とおくと,2個の和を中央の値で割って

b(z)Bc=12[(1+s2+sA)−3/2+(1+s2−sA)−3/2]

となる.奇数次は相殺する.2次の係数は −3/(2A)+15/(8A2)=0.4次の係数は

c4=158A2−10516A3+315128A4=−144125

である.

  1. 軸上で滑らかな場を Bz=b+aρ2+cρ4+⋯,Bρ=d1ρ+e1ρ3+⋯ と展開する.係数は z の関数である.発散の式から 2d1+b′=0,4e1+a′=0,回転の式から d1′−2a=0,e1′−4c=0 を得る.順に d1=−b′/2,a=−b″/4,e1=b‴/16,c=b⁗/64 で,指定の式が得られる.(1)の4次までを代入すると

BzBc=1+c4R4(z4−3ρ2z2+3ρ48)+⋯

である.中央面では対称性から Bρ=0 で,Bz/Bc=1−54(ρ/R)4/125+⋯.

  1. 先頭の誤差だけで評価すると,軸上では d/R≤(125ϵB/144)1/4,中央面では d/R≤(125ϵB/54)1/4.したがって中央面の許される半径は軸上の半長の (8/3)1/4 倍になる.たとえば ϵB=1.0×10−3 では,それぞれ d/R の上限の見積もりは0.17,0.22である.

一般の間隔での2次の係数は,sh=h/R として c2=3(sh2−1)/[2(1+sh2/4)2].sh=1+δh を代入して c2≈48δh/25 を得る.軸上の端では,間隔誤差と4次の誤差の大きさの比は

(48/25)|δh|(d/R)2(144/125)(d/R)4=5|δh|3(d/R)2

なので,|δh|>3(d/R)2/5 では間隔誤差の方が大きい.符号による相殺に頼らない十分条件は 48|δh|(d/R)2/25+144(d/R)4/125≤ϵB である.これらは d/R と |δh| が十分小さい範囲の見積もりで,有限範囲の厳密な誤差保証には元の場の式で確かめる必要がある.

演習 5

オリジナル ★★★★★

同じ大きさ m0 の永久磁気モーメントをもつ小磁石2個を,中心間距離 d で z 軸上に固定します.各磁石は xz 平面内で摩擦なしで回転でき,その慣性モーメントは J です.+z からの符号付きの角を θ1,θ2 とします.磁石の寸法は d に比べて十分小さく,モーメントは回転中も一定です.電流を一定に保つ外部コイルが,一様な −z 向きの場 B≥0 を作ります.

点双極子の場を B1=μ0[3(m1⋅ez)ez−m1]/(4πd3) とします.磁石間の力学的な相互作用エネルギーは U12=−m2⋅B1 で,外部コイルの電源を含めた有効な力学的ポテンシャルは,さらに −m1⋅B−m2⋅B を足したものです.K=μ0m02/(4πd3) とおきます.

  1. U を角度で表し,θ1=θ2=0 の配置で,中心間距離を増す向きを正とする力 Fd を求めよ.微分では両モーメントと外部コイルの電流を一定に保ちます.

  2. この配置のまわりで2つの回転の基準振動を求め,安定となる B の範囲を示せ.B を増すと,どちらの振動が先に不安定になるか.

  3. 0<B<K/m0 とします.2個を逆向きに回す対称な経路 θ1=θ,θ2=−θ,0≤θ≤π に沿って,最初の配置から両モーメントを逆転するためのポテンシャルの障壁を求めよ.不安定になる境目へ近づくと,障壁と低い方の角振動数はどのように0へ近づくか.

二つの磁石の中心をz軸上に距離dを隔てて固定する.各磁石は紙面のxz平面内で回転でき,角θ₁とθ₂は正のz方向から測る.外部コイルは負のz方向の磁場Bを作る. 二つの磁石の中心をz軸上に距離dを隔てて固定する.各磁石は紙面のxz平面内で回転でき,角θ₁とθ₂は正のz方向から測る.外部コイルは負のz方向の磁場Bを作る.
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考え方 相互作用を二重に数えずにポテンシャルを作る.和と差の角度で振動を分け,最後に有限角の障壁を調べる.

  1. mi=m0(sin⁡θiex+cos⁡θiez) を代入すると

U=K(sin⁡θ1sin⁡θ2−2cos⁡θ1cos⁡θ2)+m0B(cos⁡θ1+cos⁡θ2)

となる.両角が0なら U=−2K+2m0B.K∝d−3 より,Fd=−∂U∂d=−6K/d=−3μ0m02/(2πd4) で,引力である.一様な外部場は並進力に寄与しない.外部場の項は場だけのエネルギーではなく,電流を一定に保つ電源の仕事を含めたポテンシャルである.

  1. 2次まで展開すると U=U(0,0)+(K−m0B/2)(θ12+θ22)+Kθ1θ2+⋯.トルクは角度による負の微分なので

Jd2θ1dt2=−(2K−m0B)θ1−Kθ2,Jd2θ2dt2=−(2K−m0B)θ2−Kθ1

となる.和 θ+=θ1+θ2 と差 θ−=θ1−θ2 の方程式は Jd2θ+dt2=−(3K−m0B)θ+,Jd2θ−dt2=−(K−m0B)θ−.したがって同方向と逆方向の角振動数は

ω+=3K−m0BJ,ω−=K−m0BJ

である.線形の復元力が両方にある範囲は 0≤B<K/m0.先に不安定になるのは逆方向の振動である.等号ではこの振動の2次の復元力が消えるので,有限角を調べる必要がある.

  1. 指定の経路では U(θ)=−K(1+cos2⁡θ)+2m0Bcos⁡θ.b=m0B/K,0<b<1 とおけば dUdθ=2Ksin⁡θ(cos⁡θ−b).θ=0 から増やすと,cos⁡θs=b まで上り,その後は下る.頂点で Us=−K+Kb2,初期値は U0=−2K+2Kb なので

ΔU=K(1−b)2

である.ϵ=1−b→0+ では ΔU=Kϵ2,ω−=K/Jϵ1/2.障壁の方が速く0へ近づく.b=1 でこの経路の変化は U(θ)−U(0)=−K(1−cos⁡θ)2≤0 となり,境目の配置は安定ではない.小振動には角振幅の2乗が十分小さいことが必要で,境目の近くではさらに逆方向の角振幅の2乗が ϵ に比べて十分小さいことが要る.点双極子の近似には磁石の寸法と d の比も十分小さいことが必要である.

18第22章のまとめ

この章では,磁場を「動く電荷に働く力」で定義し,電流が磁場を作るしくみ,電流が磁場から受ける力とモーター,鉄などの磁性体へと進みました.磁気力は速度に垂直なので仕事をしませんが,電流の流れのエネルギーを導体の運動へ移しかえ,モーターの仕事は電源から来ます.静磁場は湧き出しがなく,電流のまわりに渦を巻く場で,電荷から湧き出して渦のない静電場と対になります.最後の(発展)の題材では,磁気力が電気力に対する v2/c2 程度の相対論の補正であり,電場と磁場が1つの電磁場の2つの見え方であることを見ました.

定義と法則

定義 ローレンツ力と磁場

電荷 q が速度 v で動くとき,電荷に働く力は

F=q(E+v×B)

と書ける.この式で決まる B を磁束密度(この本では磁場)という.単位は T=NA−1m−1 である.磁気力 qv×B は速度に垂直なので仕事をせず,速さを変えない.荷電粒子を加速するのは電場である.

法則 ビオ・サバールの法則

電流 I の導線の微小な部分 dl(電流の向き)が,そこから r だけ離れた点に作る磁場は

dB=μ04πIdl×rr3

である.大きさはクーロンの法則と同じ逆2乗で,向きは外積で決まる.μ0 は真空の透磁率で,この本では 4π×10−7NA−2 を使う.

法則 磁場のガウスの法則とアンペールの法則

  • 磁力線は閉じていて,どんな閉じた曲面から出ていく磁束も0である:∫SB⋅dS=0.磁気単極子は見つかっていない.

  • 定常電流が作る磁場について,閉じた道 C に沿って一周する線積分は,C を縁とする面を貫く電流の μ0 倍である(電流の符号は右ねじで決める).

∫CB⋅dl=μ0Iin
  • (発展)微分形は ∇⋅B=0,∇×B=μ0j である.静電場の ∇⋅E=ρ/ε0,∇×E=0 と並べると,静磁場は湧き出しがなく電流のまわりに渦を巻く場である.∇⋅(∇×A)=0 から,この形のアンペールの法則は電荷がたまらない定常電流に限られ,電流が変わるときは第24章で項を1つ足す.

法則 電流に働く力

電流 I の流れる導線の微小部分 dl には dF=Idl×B の力が働く.一様な磁場の中では,どんな形の導線も両端をまっすぐ結んだ導線と同じ力を受け,閉じた回路の合力は0である(トルクは0とは限らない).

定義 磁気モーメント

電流 I が囲む面積 S の平面のコイル(N 巻)の磁気モーメントは m=NISn(単位 Am2,n は電流の向きに右ねじを回したときにねじの進む向きの法線)である.一様な磁場の中では合力は0で,トルクは

τ=m×B

である.電流を一定に保って動かすときの位置エネルギーは U=−m⋅B で,これは電源の仕事まで含めた勘定である.磁場が一様でなければ Fz=mdB/dz の合力が働き,小さなコイルは磁場の強い方へ引かれる.

定義 アンペア(今の SI)

2019年5月20日から,SI は電気素量を e=1.602176634×10−19C ちょうどと定め,1A は1秒あたり電気素量 1/(1.602176634×10−19) 個分の電荷が通る電流である.それまでの平行電流の力による定義は,μ0=4π×10−7NA−2 と決めたことと同じだった.今は μ0 が測る量で,測定値はこの値と 10−9 より小さい相対差で一致する.

定義 磁化と磁場の強さ

  • 単位体積あたりの磁気モーメントを磁化 M(単位 Am−1)という.一様な磁化は,表面を回る長さあたり M の磁化電流と同じである.

  • 磁場の強さ H=B/μ0−M(単位 Am−1)の一周の線積分は,道を貫く自由電流に等しい:∫H⋅dl=If.

  • 線形な磁性体では M=χH,B=μ0(1+χ)H=μrμ0H=μH である.χ を磁化率,μr を比透磁率,μ を透磁率という.

  • 境界では B の法線成分がつながり,自由電流が無ければ H の接線成分もつながる.

  • 常磁性(χ>0.χ は温度に反比例するキュリーの法則),反磁性(χ<0.すべての物質がもち,超伝導体は χ=−1),強磁性(磁区ごとにモーメントがそろい,キュリー温度を超えると常磁性になる)がある.強磁性体の B と H は比例せず,履歴によってヒステリシス曲線をたどる.

法則 (発展)系を変えたときの電荷・力・場

  • 電荷は系によらず,長さは運動の向きに 1/γ 倍に縮むので,線電荷密度は動いて見えると γ 倍になる.

  • 物体が止まって見える系で横向きの力が F′ なら,速さ v で動いて見える系では F′/γ である.系によらないのは横向きの運動量と運動の予測である.

  • u が c に比べて十分小さいとき,速度 u で動く系の電場と磁場は

E′≈E+u×B,B′≈B−u×Ec2

で,止まった電荷分布の電場は,それが速度 v で動いて見える系では磁場 B=v×E/c2 を伴う.

手順

ポイント 磁場の問題を解く手順

  1. 力やトルクの向きは外積で確かめる.ex×ey=ez の順なら正で,電荷が負なら力は逆向きである.

  2. 磁場の中の円軌道では,円の中心を,入った点で速度に垂直な直線の上,力の側に作図する.中心角がふれ角で,かかる時間は中心角を ω で割って出す.

  3. 有限の磁場領域では,境界で位置と速度をつなぎ,円の上で最も奥まで届く点が境界を越えるかで,抜けるか戻るかを決める.

  4. アンペールの法則は,対称性で磁場の向きを決め,B が道に平行で一定か,垂直か,0になる道を選んで使う.磁性体では自由電流だけで決まる H の線積分を使う.

  5. 電流を一定に保つコイルは,U=−mBcos⁡θ の中の振り子として扱える.

  6. 使った近似(長い導線,一様な磁場,小さな振幅,|χ| が1より十分小さいことなど)を,最後に数値で点検する.

主な公式

  • 一様な磁場の中の円運動:r=mvqB,ω=qBm,T=2πmqB(周期は速さによらない).斜めに入るとらせん運動で,ピッチは v∥T

  • 幅 d の帯状の領域に境界に垂直に入る粒子:r>d なら sin⁡θ=d/r のふれ角で抜け,r≤d なら半円を描いて,入った点から 2r の点で逆向きに出る

  • 速度選択器 v=E/B,質量分析器 r∝m/q(速さがそろうとき),サイクロトロンで半径 R から取り出す運動エネルギー K=q2B2R22m

  • ホール電圧:VH=IBnqh.符号から電荷を運ぶ粒子の符号が,大きさから n が分かる

  • 十分長い直線電流:B=μ0I2πr.線分の電流:B=μ0I4πd(sin⁡β2−sin⁡β1)

  • 円電流:中心で B=μ0I2R,軸上で B=μ0IR22(R2+z2)3/2

  • 長いソレノイドの内部:B=μ0nI(一様).十分長いソレノイドの端の面の中心ではその半分

  • 半径 a の太い導線に一様な電流:B=μ0Ir2πa2(r≤a),B=μ0I2πr(r≥a)

  • 平行電流の間の力:長さ l あたり F=μ0I1I22πdl.同じ向きなら引き合い,逆向きなら退け合う

  • コイルのトルクの大きさ:ISBsin⁡θ.放射状の磁場の電流計 ϕ=NSBI/κ.整流子付きのモーターのトルクの1回転の平均 (2/π)NISB

  • 電子の軌道の磁気モーメント:m=−e2meL,ボーア磁子 μB=eℏ2me=9.27×10−24Am2

  • 環状コイル(周の長さ ℓ):H=NI/ℓ,B=μrμ0NI/ℓ.幅 d のすき間があると B=μ0NIℓ/μr+d

  • 弱い磁性体の小片(体積 V)の力:m=χVB/μ0,Fx=mdB/dx.常磁性体は磁場の強い方へ引かれ,反磁性体は弱い方へ押し出される

  • ヒステリシスの損失:1往復で単位体積あたり w=∫HdB(曲線の囲む面積),振動数 f では仕事率 fwV

  • (発展)μ0ε0=1/c2.伝導電子と同じ速度で飛ぶ陽子の系で見た導線の線電荷密度 λ′=γλ0v2/c2,力 F′=γF.速さ u の電荷から見た導線は λ′≈−Iu/c2.平行な電子線では FB/FE=v2/c2,合力 F=FE/γ2=F0/γ

各題材の問いへの答え

  • ローレンツ力と磁場の中の運動:太陽からの荷電粒子は,地球の磁場の中で回る半径が地球の大きさよりずっと小さいので,磁力線を横切れず,巻きついて磁力線に沿ってしか進めない.赤道の上空では押し返され,極へ向かうと磁場が強まって多くの粒子は南北を往復する.磁力線にほぼ沿って進む粒子だけが,磁力線が地面に入る極の近くで大気に届くので,オーロラは極を囲む地域に現れる.

  • 電流が作る磁場とアンペールの法則:直線電流の磁力線は導線を中心とする同心円で,向きは電流に右ねじを進めるときの回る向き,強さは μ0I/(2πr) である.方位磁針は円の接線,つまり導線に垂直な向きの磁場を受け,地磁気の水平成分との合成の向きまでふれる.電流を逆にすると逆にふれる.

  • 電流に働く力とモーター:コイルにはトルク m×B が働き,磁気モーメントを磁場にそろえようとする.整流子で半回転ごとに電流を反転させれば,トルクの向きがいつも同じになり回り続ける.磁気力は電荷に仕事をせず,電流の流れのエネルギーを導体の運動へ移しかえる.流れが弱まらないように電源が仕事をするので,モーターの仕事は電源から来る.

  • 磁性体と磁化:アルミ(常磁性)はわずかに引かれ,銅(反磁性)はわずかに押し出されるが,磁化率は 10−5 程度で,力が重さに比べて小さすぎて気付かない.鉄は強磁性体で,磁区ごとに原子のモーメントがそろっているので,磁石の磁場の中で磁区の向きがそろい,μ0M が T の程度に達するほど大きく磁化して,磁場の強い方へ引かれる.真っ赤に焼くとキュリー温度を超えてそろいが壊れ,磁石の性質を失う.

  • 磁気の力の正体(発展):陽子と一緒に飛ぶ人から見ても,陽子は導線から遠ざかる.その系ではイオンの間隔がローレンツ収縮で縮み,伝導電子の間隔が広がって,導線が正に帯電して見えるからである.陽子を押すのは導線の系では磁気力,陽子の系では電気力で,大きさも γ 倍違うが,横向きの運動量の変化と陽子の当たる位置は一致する.

この章で使った数学

外積の成分と向き,円軌道の中心・中心角・弦の作図,置換 z=dtan⁡β によるビオ・サバールの法則の積分,(発展)として,第20章のストークスの定理とガウスの定理による積分形から微分形への書き直しと,恒等式 ∇⋅(∇×A)=0 がありました.発散が0の磁場は B=∇×A と書け,A をベクトルポテンシャルといいます(発展.この本では名前だけにとどめました).(発展)の題材では,ローレンツ収縮と時間の遅れに加えて,x が十分小さいときの 1/1−x≈1+x/2 を使いました.次の第23章では,磁場が変化すると電場ができる電磁誘導へ進み,第24章でマクスウェル方程式にまとめます.