問いしるべ
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問いから始める物理

公式参考書

問いから始める物理

問いから原理へ,基本からオリンピックまで

著者:柚木芹香

身近な問いから始めて物理の原理を組み立て直す参考書.微積分は必要になった所で導入し,各節の演習は基本から物理オリンピックの水準まで段階をつけて置く.独学でも,教わりながらでも読めるように,各節の終わりに「教える人へ」の囲みがある.

この章の目次 · 9節
  1. ボルツマン分布
  2. 指数関数・対数とガウス積分
  3. ボルツマン分布の演習
  4. 等分配則と比熱
  5. 等比級数と,とびとびのエネルギーの平均
  6. 等分配則と比熱の演習
  7. 第17章の章末問題
  8. 第17章の発展問題
  9. 第17章のまとめ

第17章  ボルツマン分布と等分配則(発展)

01ボルツマン分布

問い

富士山の山頂(標高およそ 3800m)では,気圧は地上のおよそ3分の2しかありません.空気の分子は重力で下に引かれているのに,なぜ全部が地面に積もってしまわないのでしょうか.そして,上に行くほど薄くなる割合は,何で決まっているのでしょうか.

第15章の温度も第16章の熱と仕事も「平均」の話で,分子1個1個がどれだけのエネルギーを持っているかには触れていません.この章では,その分かれ方そのものを決める規則を見つけます.第16章でラチェットの頻度を比べるときに形だけ借りた指数関数も,ここで導きます.

考えてみる

重力だけがはたらくなら分子は落ちて床に積もり,熱運動だけなら容器の中に一様に広がります.実際の大気はその中間で,落とそうとする重力と散らばろうとする熱運動の「綱引き」の結果です.困るのは,1個の分子が上がり下がりを絶えず繰り返していて,ある高さに留まるわけではないことです.決まるのは「どの高さにどれだけの割合の分子がいるか」という分布だけなので,それを力のつり合いから求めてみましょう.

等温大気の密度

温度 T が高さによらず一定の大気を考えます.高さ h での数密度を n(h),分子1個の質量を m とすると,断面積 S,厚さ dh の薄い層の力のつり合いは,下の面と上の面の圧力の差が層の重さを支えることを表します.

p(h)−p(h+dh)=mgn(h)dh
断面積S,厚さdhの空気の層に,下の面からp(h)Sが上向きに,上の面からp(h+dh)Sと層の重さmgn(h)Sdhが下向きにはたらく.圧力差が層の重さを支える. 断面積S,厚さdhの空気の層に,下の面からp(h)Sが上向きに,上の面からp(h+dh)Sと層の重さmgn(h)Sdhが下向きにはたらく.圧力差が層の重さを支える.

状態方程式 p=nkBT を使うと kBTdndh=−mgn で,第4章の空気抵抗と同じ形の微分方程式です.解くと

公式 等温大気

n(h)=n(0)exp⁡(−mghkBT),H=kBTmg

数密度も圧力も,高さとともに指数関数的に減る.高さ H(スケールハイト)上がるごとに 1/e 倍になる.

空気の分子の平均質量 m≈4.8×10−26kg と T=280K で H≈8km です.「同じ高さを登れば,どこでも同じ割合で薄くなる」のは指数関数の特徴そのものです.上空ほど冷たいので厳密な指数関数ではありませんが,数 km の範囲ではよく合います.

成分ごとに当てはめると,重い分子ほど H が小さいので上空では軽い成分が増えます.ただしこれは,各成分が拡散だけでつり合った(拡散平衡の)模型の話です.実際の対流圏では風と対流の混合がずっと速く,高さ 100km あたりまで成分比はほぼ一定で,分離が見えるのは混合の弱いそれより上か,混合を抑えた装置の中(遠心分離)だけです.

熱浴の状態数から導く

指数の中の mgh は,高さ h にある分子の位置エネルギーです.つまり,位置エネルギーが E の場所にいる分子の割合は exp⁡(−E/kBT) に比例していました.重力に特有の事情は何も使っていないので,この形は力のつり合いを立てずに,もっと一般の場合に導けるはずです.

注目する系(分子1個でも,容器に入った気体全体でも,ばねにつるした小さな鏡でもよい)を小系とよびます.小系はそれよりずっと大きな物体(熱浴)と接して熱平衡にあり,両者を合わせた全体は外から孤立して全エネルギー E全 が決まっているとします.孤立した系について,統計力学はただ1つの仮定から出発します.

ポイント 等重率の仮定

孤立した系では,許されたエネルギーをもつ微視状態は,どれも等しい確率で実現する.

小系が微視状態 i(エネルギー Ei)にあるとき,熱浴のエネルギーは E全−Ei で,そのときの熱浴の微視状態は Ω浴(E全−Ei) 通りあります.全体の微視状態がどれも等確率なら,小系が i にある確率はこの数に比例します.

Pi∝Ω浴(E全−Ei)

状態数そのものは分子数の指数で変わる途方もない量ですが,対数をとればおとなしくなります.第16章のボルツマンの関係 S=kBln⁡Ω を使い,Ei が E全 に比べて十分小さいことから1次まで展開すると(第6章のテイラー展開)

S浴(E全−Ei)≃S浴(E全)−Ei(∂S浴∂U)V,N

です.ここに現れた微分は,温度の逆数です.体積と分子数を固定した物体に,体積仕事なしで可逆に熱 dQ を入れると dU=dQ で,エントロピーの定義 dS=dQ/T から

(∂S∂U)V,N=1T

となります.したがって Ω浴=exp⁡(S浴/kB) のうち Ei に依る部分は exp⁡(−Ei/kBT) だけで,残りは i によらない定数です.確率の和を1にすれば形が決まります.

法則 正準分布(ボルツマン分布)

温度 T の大きな熱浴と弱く接し,体積と分子数を固定した系が熱平衡にあるとき,その系が微視状態 i(エネルギー Ei)にある確率は

Pi=1Zexp⁡(−EikBT),Z=∑iexp⁡(−EikBT)

である.exp⁡(−E/kBT) をボルツマン因子,規格化の分母 Z を分配関数という.2つの微視状態の確率の比は exp⁡[−(E1−E2)/kBT] で,エネルギーの基準をどこにとっても変わらない.

使った条件は3つです.熱浴が大きくて,小系がやりとりするエネルギーでは熱浴の温度が変わらないこと(展開の2次の項は熱浴の熱容量が大きいほど小さく,これが T を定数として扱えることの中身です),相互作用が弱くて E全=Ei+E浴 と足し算に分けられること,熱平衡で分子の出入りがないことです.小系は小さくなくてよく,1個の分子でも 1023 個の気体でもかまいません(Ei は小系全体のエネルギーです).孤立系の等重率とこの正準分布は別の主張で,孤立系ではエネルギーが決まって状態が等確率,熱浴に接した系ではエネルギーの方がゆらぎます.

比の形で見ると意味がはっきりします.エネルギーが kBT だけ高い微視状態は 1/e≈0.37 倍しか現れず,kBT より十分高い状態はほとんど現れません.つまり kBT が,その温度で「手の届くエネルギー」の目安です(室温の 300K で kBT≈4.1×10−21J≈0.026eV).ここで Pi が1つの微視状態の確率だという点に注意してください.ふつう知りたいのは「エネルギーが E くらい」「速さが v くらい」という,たくさんの微視状態をまとめた確率で,それはボルツマン因子と状態の数 g(E) の積 P(E)∝g(E)e−E/kBT になります.運動エネルギーに同じ因子を当てはめ,速さが v になる向きの数(速度空間の球殻 4πv2)を掛けたものが気体の速さの分布で,次の節で作ります.

指数関数の鋭さ

指数関数だということは,応用では「わずかな温度の違いが大きな差を生む」という形で現れます.液体の表面から分子が1個飛び出すには,まわりの分子に引かれている分のエネルギー εesc が要るので,飛び出せる分子の割合は exp⁡(−εesc/kBT) に比例します.水では蒸発熱から εesc≈6.8×10−20J 程度で,室温では εesc/kBT≈16.温度を 10K 上げるだけで指数が 0.5 ほど変わり,飛び出す割合はおよそ 1.7 倍になります.化学反応の速さが温度に強く依存するのも同じ理由です.

ただし,数えたのは飛び出す側だけです.密閉した容器の飽和蒸気圧は,飛び出す分子と戻って凝縮する分子がつり合う所で決まる相平衡の量で,蒸発の速さという動的な量とは別物です.εesc もモル蒸発熱を1個あたりに直した目安にすぎず,ここで言えるのは温度への効き方が鋭いという点だけです.

ポイント ここまでのまとめ

  • 等温大気の数密度は n(h)=n(0)exp⁡(−mgh/kBT).スケールハイト H=kBT/(mg) ごとに 1/e 倍.成分の分離が見えるのは,拡散平衡が成り立つ所に限る.

  • 熱浴に接した系では微視状態 i の確率が Pi=e−Ei/kBT/Z(正準分布).熱浴が大きく,相互作用が弱く,分子の出入りがないことが条件で,導出には孤立した全体への等重率と S=kBln⁡Ω,(∂S/∂U)V,N=1/T だけを使う.孤立系の等重率とは別の主張である.

  • kBT が「その温度で手の届くエネルギー」の目安(室温で 0.026eV).エネルギーが kBT 高い状態は 1/e 倍しか現れない.

  • まとめた確率はボルツマン因子と状態の数の積 g(E)e−E/kBT.これを忘れると分布を取り違える.蒸発や反応の速さが温度に敏感なのも指数関数の鋭さだが,飽和蒸気圧は凝縮とのつり合いで決まる別の量である.

  • 問いの答え:大気は重力と熱運動の綱引きで,kBT/(mg)≈8km ごとに密度が 1/e 倍になる分布に落ち着く.分子は絶えず上下しているが,分布の形は変わらない.

02指数関数・対数とガウス積分

ボルツマン因子を数で使うには,指数関数と対数,釣鐘形の関数の積分,そして分布を別の変数に書き直すときの数え方が必要です.この3つを道具として整えます.

定理 数学の道具:指数関数と対数

eaeb=ea+b,ln⁡(xy)=ln⁡x+ln⁡y,ddxe−ax=−ae−ax.微分方程式

dydx=−ay⟹y=y0e−ax

である.この解は「同じ幅だけ x が進むと,同じ割合で y が減る」ことを表す.1/e 倍になる幅は 1/a,半分になる幅は ln⁡2/a≈0.693/a である.

両辺の対数をとると ln⁡y=ln⁡y0−ax で,縦軸を対数目盛りにしたグラフ(片対数グラフ)では直線になる.傾きから a を読み取れるので,指数関数的に減っているかどうかの確かめにも使える.

温度250 Kの等温大気で,地上の気圧p₀を1.0×10⁵ Paとしたp=p₀exp(−h/H)を描く.通常目盛りでは指数関数の曲線となり,対数目盛りでは直線となる.スケールハイトHは約7.3 kmである. 温度250 Kの等温大気で,地上の気圧p₀を1.0×10⁵ Paとしたp=p₀exp(−h/H)を描く.通常目盛りでは指数関数の曲線となり,対数目盛りでは直線となる.スケールハイトHは約7.3 kmである.

定理 数学の道具:ガウス積分

a>0 として

∫−∞∞e−ax2dx=πa,∫−∞∞x2e−ax2dx=12aπa

である.2つめは,1つめの両辺を a で微分して符号を変えれば得られる(∂∂ae−ax2=−x2e−ax2).

速さの計算には,半区間の積分 Ij=∫0∞vje−av2dv が便利である.部分積分から

Ij+2=j+12aIj,I0=12πa,I1=12a

なので,I2=14πa3,I3=12a2,I4=38πa5 と順に出る.

2つの積分の比をとると,e−ax2 に比例する分布での2乗の平均が

⟨x2⟩=12a

だと分かります.これが等分配則の計算の中身です.

ポイント 数学の道具:分布を別の変数に書き直す

確率は区間ごとに保たれるので,変数 x で測った確率密度 Px と,別の変数 y で測った Py は

Pydy=Pxdx,すなわちPy=Px|dxdy|

で結ばれる.密度そのものではなく,区間に入る確率が等しいという点が要である.いくつかの状態をまとめるときも同じで,まとめた分の数を掛ける.速度ベクトルの分布から速さの分布を作るときは,速さが v と v+dv の間にある速度ベクトルの集まり(速度空間の半径 v,厚さ dv の球殻,体積 4πv2dv)の大きさを掛ける.この因子が前の節の「状態の数」である.

速度の各成分の分布が exp⁡(−mvx2/2kBT) に比例する釣鐘形で,3成分が独立であることから,速度ベクトルの分布は exp⁡(−mv2/2kBT) に比例します.これに球殻の因子を掛けて規格化すると,速さの分布が決まります.

定義 マクスウェル分布

速さが v と v+dv の間にある分子の割合は

f(v)dv=4π(m2πkBT)3/2v2exp⁡(−mv22kBT)dv

である.小さい v では v2 が効いて 0 から立ち上がり,大きい v では指数関数が効いて落ちるので,途中に山ができる.

[図:温度で変わる窒素分子の速さの分布]

初期状態では窒素の300 Kと1200 Kの分布f(v)を重ね,1200 Kのv_mp,〈v〉,v_rmsの位置を縦線で示す.高温ほど山が低く速い側へ広がる.スライダーで比較する温度を変えると,分布と3つの代表速度がともに移る.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

速度の x 成分の分布が exp(−mvx2/2kBT) に比例するとき,⟨vx⟩ と ⟨12mvx2⟩ を求めよ.また,ばね定数 k のばねにつながれた分子の位置の分布が exp(−kx2/2kBT) に比例するとき,⟨12kx2⟩ を求めよ.

解答を見る

考え方 ガウス積分の比で平均を出す.a が何であっても結果が同じになることに注目する.

分布が偶関数なので ⟨vx⟩=0.a=m/(2kBT) とおくと ⟨vx2⟩=12a=kBTm なので

⟨12mvx2⟩=12m⋅kBTm=12kBT

である.ばねでは a=k/(2kBT) で ⟨x2⟩=kBT/k なので,同じく ⟨12kx2⟩=12kBT.エネルギーが変数の2乗の形で入っていれば,係数が何であれ平均は 12kBT になる.これが次の題材の等分配則である.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

マクスウェル分布 f(v)∝v2e−av2(a=m/(2kBT))について,(1) 規格化の定数が 4π(a/π)3/2 になることを確かめ,(2) 最確速さ vmp,(3) ⟨v⟩ と vrms を求めよ.

マクスウェル分布の曲線にv_mp,〈v〉,v_rmsの3本の縦線を引く.横軸をv/v_mpで表すと位置は1,約1.13,約1.22であり,速い側に裾があるためこの順に大きくなる. マクスウェル分布の曲線にv_mp,〈v〉,v_rmsの3本の縦線を引く.横軸をv/v_mpで表すと位置は1,約1.13,約1.22であり,速い側に裾があるためこの順に大きくなる.
解答を見る

考え方 Ij の漸化式をそのまま使う.平均は Ij の比で出る.

  1. ∫0∞4πCv2e−av2dv=4πCI2=πCπ/a3=1 より C=(a/π)3/2.a=m/(2kBT) を入れると C=(m2πkBT)3/2 で,上の式と一致する.

  2. ddv(v2e−av2)=2v(1−av2)e−av2=0 より vmp=1/a=2kBT/m.

  3. ⟨v⟩=I3I2=1/(2a2)14π/a3=2πa=8kBTπm,⟨v2⟩=I4I2=32a=3kBTm より vrms=3kBT/m.比は 1:4/π:3/2=1:1.13:1.22 で,分布に裾があるのでこの順に大きくなる.どれも kBT/m の定数倍なので,温度が上がると分布は右へ広がり,面積が一定のまま山は低くなる.

ポイント ここまでのまとめ

  • dydx=−ay の解は y0e−ax.1/e 倍の幅は 1/a,半分になる幅は ln⁡2/a.片対数グラフで直線になる.

  • ガウス積分と漸化式 Ij+2=j+12aIj で,分布の平均はすべて比として計算できる.e−ax2 に比例する分布では ⟨x2⟩=1/(2a).

  • 分布を別の変数に書き直すときは Pydy=Pxdx.まとめた状態の数(速さなら球殻の 4πv2)を掛けるのを忘れない.

  • マクスウェル分布の代表的な速さは vmp:⟨v⟩:vrms=1:1.13:1.22.どれも kBT/m の定数倍である.

03ボルツマン分布の演習

状態の数をボルツマン因子に掛け,変数変換と成立条件を確かめましょう.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

等温大気で,高さ h=2.4km の圧力は地表の 3/4 です.分子質量 m=4.8×10−26kg,g=9.8ms−2,kB=1.38×10−23JK−1,ln⁡(4/3)=0.288 とします.

  1. スケールハイト H と温度 T を求めてください.

  2. 高さ 2h の圧力比と,ln⁡[p(h)/p(0)] 対 h の傾きを求めてください.

  3. モル質量 M=0.029kgmol−1,R=8.3Jmol−1K−1 で,T=280K の H を求めてください.

大気の柱に高さ0,h,2hを示し,h=2.4 kmでp(h)/p(0)=3/4となる条件を記す.右の片対数グラフでは,等間隔の高さに対して気圧の対数が同じ量だけ減る. 大気の柱に高さ0,h,2hを示し,h=2.4 kmでp(h)/p(0)=3/4となる条件を記す.右の片対数グラフでは,等間隔の高さに対して気圧の対数が同じ量だけ減る.
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考え方 圧力比は e−h/H であり,対数をとると高さに比例する.

  1. h/H=ln⁡(4/3) より H=2400/0.288≈8.3km.T=mgH/kB≈280K.

  2. 圧力比は (3/4)2=9/16.対数 −h/H の傾きは −1/H=−1.2×10−4m−1.

  3. M=NAm,R=NAkB より H=RT/(Mg)≈8.2km である.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

等体積の小室A,B,Cが細い通路でつながり,希薄な理想気体が温度 T で熱平衡にあります.各室の位置エネルギーは 0,Δ,2Δ,kBT=Δ/ln⁡2 です.通路の分子数は無視します.
分子1個が各室にいる確率と平均位置エネルギーを求めてください.

同じ体積の小室A,B,Cを細い通路でつなぐ.各室の位置エネルギーは0,Δ,2Δで,温度Tは共通である.k_BT=Δ/ln2の条件で各室の確率を比べる. 同じ体積の小室A,B,Cを細い通路でつなぐ.各室の位置エネルギーは0,Δ,2Δで,温度Tは共通である.k_BT=Δ/ln2の条件で各室の確率を比べる.
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考え方 等体積の重みはボルツマン因子の比になる.

重みは 1:1/2:1/4,和は 7/4.確率は 4/7,2/7,1/7,平均は Δ×2/7+2Δ×1/7=4Δ/7.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

反応速度を Aexp⁡[−Ea/(kBT)] と見積もり,A は温度によらず,Ea/kB=6000K とします.温度を 300K から 330K に上げます.

  1. 反応速度は何倍ですか.e1.82=6.2 とします.

  2. 分子の vrms の変化と比べてください.

反応速度A exp[−E_a/(k_BT)]を300 Kでの値で割った曲線を描き,300 Kと330 Kの位置を示す.E_a/k_B=6000 Kの条件で,指数関数による反応速度の変化と√Tに比例するv_rmsの変化を比べる. 反応速度A exp[−E_a/(k_BT)]を300 Kでの値で割った曲線を描き,300 Kと330 Kの位置を示す.E_a/k_B=6000 Kの条件で,指数関数による反応速度の変化と√Tに比例するv_rmsの変化を比べる.
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考え方 比をとり,指数の差を計算する.

  1. 比は exp⁡[6000(1/300−1/330)]=e20/11≈6.2.

  2. 速さは 330/300≈1.05 倍である.温度上昇は,高エネルギーの状態の割合に強く効く.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

速度成分の確率密度は ϕ(vx)=Cxe−avx2,速さの確率密度は f(v)=Cv2e−av2 です.a=m/(2kBT),Cx,C は規格化定数です.

  1. 両分布の山の位置を求め,違いの理由を説明してください.

  2. 運動エネルギー E=mv2/2 の確率密度 PE(E) を求めてください.その山は mvmp2/2 にありますか.

左は速度のx成分v_xの釣鐘形の分布と幅dv_xの微小区間である.右は速度空間で半径v,厚さdvの球殻で,全方向を集めると体積4πv²dvの因子が加わる. 左は速度のx成分v_xの釣鐘形の分布と幅dv_xの微小区間である.右は速度空間で半径v,厚さdvの球殻で,全方向を集めると体積4πv²dvの因子が加わる.
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考え方 速さでは全方向を集めるので,状態の数の因子 4πv2 が加わる.

  1. ϕ の山は vx=0.dfdv=2Cv(1−av2)e−av2 より,f の山は vmp=1/a である.

  2. PEdE=f(v)dv,dE=mvdv より

PE(E)=f(v)mv=Cm2Eme−E/(kBT)

である.状態数の因子は E となる.対数の微分 1/(2E)−1/(kBT)=0 より山は E=kBT/2.mvmp2/2=kBT と一致しない.確率は保たれるが,幅が変わるので密度の山は変わる.

演習 5

オリジナル ★★☆☆☆

高さ L,断面積一定の鉛直容器に,温度 T の希薄な気体があります.スケールハイトは H,高さの確率密度は P(z)=Ae−z/H(0≤z≤L)です.

  1. A を求めてください.

  2. L=H で上半分にいる確率を求め,中央と底の密度比と比べてください.

鉛直容器の底をz=0,中央をL/2,天井をLとし,上半分L/2≤z≤Lを塗る.高さの確率密度P(z)=A exp(−z/H)を塗った範囲で積分すると,上半分にいる確率が得られる. 鉛直容器の底をz=0,中央をL/2,天井をLとし,上半分L/2≤z≤Lを塗る.高さの確率密度P(z)=A exp(−z/H)を塗った範囲で積分すると,上半分にいる確率が得られる.
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考え方 密度を積分して確率を求める.

  1. 1=∫0LAe−z/Hdz=AH(1−e−L/H) より A=1/[H(1−e−L/H)].

  2. 積分すると (e−1/2−e−1)/(1−e−1)=1/(e1/2+1)≈0.38.中央と底の密度比 e−1/2≈0.61 とは異なる.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

固定体積・分子数の小系と熱浴が弱く接し,熱平衡にあります.全体は孤立し,エネルギー E全 が一定です.

  1. 全体の等重率から,小系も等確率でエネルギーが一定といえますか.

  2. 小系の微視状態 i のエネルギーを Ei,熱浴の基準温度を T,熱容量を C浴>0 とします.2次近似

S浴(E全−Ei)≃S0−EiT−Ei22C浴T2

から確率の重みと,正準分布に近づく条件を求めてください.

外枠は小系と熱浴を合わせた孤立系で,全エネルギーE_全は一定である.左の小系は体積Vと分子数Nを固定したまま,右の熱浴と弱く接し,エネルギーを交換する.小系のエネルギーE_iはゆらぎ,熱浴のエネルギーはE_全−E_iとなる.熱浴の基準温度はT,熱容量は有限のC_浴>0である.矢印は両方向のエネルギー交換を表し,分子の出入りはない. 外枠は小系と熱浴を合わせた孤立系で,全エネルギーE_全は一定である.左の小系は体積Vと分子数Nを固定したまま,右の熱浴と弱く接し,エネルギーを交換する.小系のエネルギーE_iはゆらぎ,熱浴のエネルギーはE_全−E_iとなる.熱浴の基準温度はT,熱容量は有限のC_浴>0である.矢印は両方向のエネルギー交換を表し,分子の出入りはない.
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考え方 等重率と S=kBln⁡Ω を使う.

  1. いえない.確率は熱浴の状態数 Ω浴(E全−Ei) に比例する.小系は熱浴と交換し,エネルギーがゆらぐ.

  2. 共通因子を除く重みは

Pi∝exp⁡(−EikBT−Ei22kBC浴T2)

である.寄与する状態で指数の第2項が十分小さければ正準分布に近づく.熱容量が大きいほど温度変化は小さい.有限なら補正が無視できない場合がある.弱い相互作用,熱平衡,分子の出入りがないことも必要である.

ポイント 教える人へ

  • 片対数の傾きが何を表すか問いかけてください.

  • 状態数を忘れるつまずきには,球殻を描かせてください.

  • 密度と確率の違いを,変数変換で確かめてください.

  • 孤立した全体の中で,小系のエネルギーがゆらぐ理由を説明させてください.

04等分配則と比熱

問い

硬い容器にアルゴン(単原子分子)と窒素(二原子分子)を,同じ数だけ別々に閉じ込めます.どちらにも同じだけのエネルギーを熱として与えたとき,温度はどちらがより上がるでしょうか.分子の数が同じなら同じだけ上がりそうにも思えますが,実際には違います.さらに,同じ問いを 2000K 近くの高温で考えると答えはまた変わります.分子の形や温度が,温度の上がり方をどう決めているのでしょうか.

考えてみる

与えたエネルギーは,分子の運動のエネルギーになるはずです.ところが温度が表しているのは,第15章で見たように並進運動の激しさだけでした.窒素の分子は2個の原子が結びついたものなので,重心ごと飛ぶ運動のほかに,くるくる回る運動も,原子どうしが近づいたり離れたりする振動もできます.エネルギーの一部がそちらに取られれば,並進に残る分が減り,温度は上がりにくくなります.知りたいのは「エネルギーがどの運動にどんな割合で分けられるか」で,前の題材のボルツマン分布がその答えを与えてくれます.

自由度と等分配則

ガウス積分の計算(この章の「指数関数・対数とガウス積分」の例題1)で見たように,エネルギーが変数の2乗の形で書けていれば,その項の平均値は係数によらず 12kBT になりました.これを一般の形で述べます.

法則 等分配則

温度 T で熱平衡にある系のエネルギーが,座標や速度の2乗の和

E=c1q12+c2q22+⋯+cfqf2(cj>0)

の形に書けるとき,各項の平均は係数 cj によらず

⟨cjqj2⟩=12kBT

である.したがって全体の平均は ⟨E⟩=f2kBT になる.この f を自由度の数という.

使える条件は,熱平衡にあること,各変数を古典的に連続なものとして扱えること(エネルギーの間隔が kBT より十分小さいこと.次の節で破れる),エネルギーが独立な2乗項の和に分かれて係数が定数であること(交差項や4乗の項があれば使えない),各変数が広い範囲を動けること(壁や束縛で切られていないこと)である.

自由度の数え方を,気体の分子について整理します.

  • 単原子分子(He,Ar):並進の3成分だけで f=3.

  • 二原子分子(HA2,NA2,OA2):並進3,結合の線に垂直な2軸のまわりの回転2,さらに結合の伸び縮みの振動が運動エネルギーと位置エネルギーで2.結合の線のまわりの回転は,原子を点と見れば数えません.全部数えると f=7 です.

  • 多原子分子:非直線形(HA2O)は並進3・回転3,直線形(COA2)は並進3・回転2で,残りが振動です(COA2 は振動が4通りで f=13).

ここでいう自由度は「エネルギーに現れる独立な2乗項の数」で,力学で配置を決めるのに要る座標の数とは別の数え方です.二原子分子の座標は6個(並進3・回転2・伸縮1)ですが,伸縮だけは位置エネルギーも2乗項なので,2乗項は7個になります.

単原子,二原子,非直線形3原子分子の並進を青,回転を緑,振動を橙で示す.振動1通りは運動と位置の2項に数える.全運動が有効なら自由度は順に3,7,12で,直線形3原子分子のCO₂は13である. 単原子,二原子,非直線形3原子分子の並進を青,回転を緑,振動を橙で示す.振動1通りは運動と位置の2項に数える.全運動が有効なら自由度は順に3,7,12で,直線形3原子分子のCO₂は13である.

定積モル比熱

自由度が決まれば,内部エネルギーは U=f2NkBT です.これを温度で微分した量が,測りやすい量になります.

定義 定積モル比熱

体積を一定に保ったまま気体 1mol の温度を 1K 上げるのに必要な熱を定積モル比熱 CV という.体積仕事以外の仕事(羽根車でかき混ぜる,中の抵抗線に電流を流すなど)を加えなければ,体積一定では与えた熱がすべて内部エネルギーになるので,1mol の U=f2RT から

CV=dUdT=f2R

である(R/2=4.16Jmol−1K−1).

条件に2つ注意があります.「定積なら仕事は0」は体積仕事だけを考える場合の話で,かき混ぜれば体積一定でも仕事が入ります.また CV が定数なのは f が温度によらない範囲だけです.理想気体では Cp=CV+R(マイヤーの関係),γ=Cp/CV=(f+2)/f ですが,二原子分子で γ=7/5 になるのは回転が有効で振動が凍結している場合に限り,第16章でポアソンの式を γ 一定として積分したのも,この範囲での近似です.

等分配則の予想は「CV/R が自由度の半分になる」という,たいへん強い主張です.測定(室温付近)と比べてみましょう.

気体

He

Ar

HA2

NA2

OA2

ClA2

COA2

CV/R(測定)

1.50

1.51

2.47

2.50

2.53

3.08

3.47

f/2(予想)

1.5

1.5

3.5

3.5

3.5

3.5

6.5

単原子分子は見事に当たっています.ところが二原子分子は予想の 3.5 ではなく 2.5,つまり並進3と回転2だけを数えた f=5 の値で,振動の2つがまるで無いことになっているのです.一方,重い塩素では 3.08 で振動が半分ほど効いています.

振動の凍結と古典物理の破綻

「結合が硬いから振動しないのだ」という言い逃れはできません.古典力学では,ばねをどんなに硬くしても振動の平均エネルギーは kBT のままで(硬いほど振幅が小さくなるだけです),f=7 から f=5 には移りません.もっと悪いことに,温度を変えると CV そのものが変わります.水素では低温で CV/R が 1.5 まで下がり(回転まで消えます),室温付近で 2.5,高温で 3.5 に近づきます.温度によらない値を予想する等分配則との,完全な食い違いです.

[図:水素の比熱と運動の解凍]

初期状態は回転の特性温度85 K,振動の特性温度6300 Kの水素モデルである.C_V/Rは低温の1.5から回転が効くと2.5,高温で振動も効くと3.5へ近づく.回転は剛体回転子の分配関数,振動はアインシュタインの式で計算した.スライダーで振動の特性温度を変えると,振動の立ち上がりが移る.

答えは古典物理の外にありました.量子力学によれば,束縛された運動のエネルギーはとびとびの値しかとれません.振動では Ej=(j+12)ℏω(j=0,1,2,…)と等間隔に並びます.間隔は ℏω で一定で,最低の ℏω/2(零点エネルギー)は温度によらないため熱の勘定には効かないので,以下では最低の準位をエネルギーの基準にとります.ボルツマン分布を当てはめると,1つ上の状態にいる確率は exp⁡(−ℏω/kBT) 倍です.

ポイント 凍結の条件

エネルギーの間隔 ΔE に対し,特性温度を θ=ΔE/kB とおく.T が θ より十分低いと,分子はほとんど最低の状態に留まり,その運動は熱を受け取らない(凍結).θ より十分高い温度では多くの状態が使われ,古典的な等分配則に近づく.凍結は「比熱に寄与しない」という意味で,運動が完全に止まることではない(零点エネルギーの分は残る).

間隔ΔE=ℏωの等間隔の準位に対し,青い横棒はP_n=(1−e^{−ΔE/(k_BT)})e^{−nΔE/(k_BT)}に比例する.左はk_BT=ΔE/4で最低準位がほとんどを占め,右はk_BT=2ΔEで高い準位も使われる.緑の高さはそれぞれのk_BTである. 間隔ΔE=ℏωの等間隔の準位に対し,青い横棒はP_n=(1−e^{−ΔE/(k_BT)})e^{−nΔE/(k_BT)}に比例する.左はk_BT=ΔE/4で最低準位がほとんどを占め,右はk_BT=2ΔEで高い準位も使われる.緑の高さはそれぞれのk_BTである.

水素の振動は θvib≈6300K,回転は θrot≈85K です.室温はこの間なので回転は効いて振動は凍結し,f=5 に見えます.窒素は θvib≈3400K,塩素は原子が重く振動が遅いので 810K と低く,室温でも振動が顔を出し始めます.表の並びがそのまま説明できました.ただし回転の準位は等間隔ではなく EJ=kBθrotJ(J+1)(J=0,1,2,…)で,最初の間隔は 2kBθrot です.θrot は間隔そのものではなく,間隔を決める係数だと見てください.固体でも同じで,結晶の原子は3方向に振動して f=6,CV≈3R≈25Jmol−1K−1(デュロン・プティの法則)ですが,低温では 0 へ落ちます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 等分配則:古典的に連続で独立な2乗項1つあたり,平均は 12kBT.U=f2NkBT,体積仕事だけを考えれば CV=f2R(f が温度によらない範囲で一定).

  • 自由度は2乗項の数で,単原子3,二原子7(並進3・回転2・振動2),固体の原子6.配置を決める座標の数とは別の数え方である.

  • 測定では室温の二原子分子が f=5 に見える.間隔 ΔE=kBθ に対し T が θ より十分低いとその運動は凍結し(比熱に寄与しないという意味で,静止ではない),古典力学では説明できない.これが量子力学への入り口になった.

  • 問いの答え:同じエネルギーを与えると ΔT=ΔU/(f2NkB) なので,f=3 のアルゴンは f=5 の窒素より 5/3 倍大きく温度が上がる.高温では窒素の振動も効いて f=7 に近づくので,差は 7/3 倍まで開く.

05等比級数と,とびとびのエネルギーの平均

等分配則は「エネルギーが連続に変えられる」ことを前提にしています.量子力学ではとびとびなので,平均を級数の和で計算し直さなければなりません.必要な道具は等比級数と,同じものを含む数え方だけです.

定理 数学の道具:等比級数と分配関数

|x|<1 のとき

∑n=0∞xn=11−x,∑n=0∞nxn=x(1−x)2

である.1つめは (1−x)(1+x+⋯+xN)=1−xN+1 から出る.2つめは,1つめの両辺を x で微分して x を掛ければ得られる.

とびとびのエネルギー En=nε(n=0,1,2,…)をとる系では,β=1/kBT,x=e−βε とおくと分配関数が Z=∑ne−βEn=∑nxn=11−x,確率が Pn=xn/Z=(1−x)xn である.平均エネルギーは和を直接作ってもよいが,Z の対数の微分で出る.

⟨E⟩=∑nEne−βEnZ=−∂∂βln⁡Z=εx1−x=εeε/kBT−1

ポイント 分配関数から熱力学量へ(発展)

Z が分かれば,正準分布にある系の熱力学量は微分だけで出る.第16章の自由エネルギー F=U−TS を使うと

U=−∂∂βln⁡Z,F=−kBTln⁡Z,S=U−FT=kB(ln⁡Z+βU)

である.エネルギーのゆらぎも ⟨E2⟩−⟨E⟩2=∂2∂β2ln⁡Z=kBT2C と熱容量に結びつく(この章の発展問題で確かめる).

この式の形を読みます.y=ε/kBT とおくと ⟨E⟩=ε/(ey−1) で,高温(y が小さい)では ey−1≈y から ⟨E⟩≈kBT,つまり振動子の等分配則(運動と位置で 2×12kBT)がそのまま出ます.低温(y が大きい)では ⟨E⟩≈εe−ε/kBT で,上の準位がほとんど使われないため指数関数的に 0 へ落ちます.エネルギーがとびとびだという1点だけで,等分配則が高温で成り立ち低温で破れる理由が出てきます.

練習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

x=0.5 のとき ∑n=0∞xn と ∑n=0∞nxn の値を求めなさい.また ε=kBT のときの ⟨E⟩/ε を求めなさい.

解答を見る

1/(1−0.5)=2,0.5/0.52=2.ε=kBT では y=1 で ⟨E⟩/ε=1/(e−1)≈0.58.古典の予想 ⟨E⟩=kBT,すなわち 1 より小さく,すでに凍結が始まっている.

同じ分子は区別しない

ボルツマン因子に掛ける「状態の数」は,数え方を決めないと定まりません.自由度とは別の,もう一つの数え方の注意を見ておきます.

定理 数学の道具:同じものを含む数え方

区別できる N 個を並べる方法は N! 通りだが,同じものを入れ替えた並びは別の並びとして数えない.微視状態でも同じで,同じ種類の分子の入れ替えは別の微視状態ではない.番号を付けて数えた配置の数は,入れ替えの分(N! 倍)だけ数えすぎている.

この数えすぎは,次の比較で表に出ます.同じ温度・同じ圧力の気体を仕切りで等体積に2つに分け,仕切りを抜いてみます.異なる種類の気体なら,各成分が体積2倍の空間へ広がるので第16章の計算がそのまま使えて ΔS=(N1+N2)kBln⁡2>0 です(混合エントロピー).これは半透膜を使えば成分を選り分けられる,つまり物理的に区別できることに支えられた増加です.

同じ種類の気体では,仕切りを抜いても何も起こりません.前後の巨視的な状態が同じですから ΔS=0 です.ところが分子に番号を付けて「左をA,右をB」と名づけ同じ計算をすると ΔS>0 が出て,仕切りを抜き差しするだけでエントロピーをいくらでも増やせることになってしまいます(ギブズのパラドックス).架空のラベルから混合エントロピーを作ってはいけません.数えすぎを N! で直して初めて,S が分子数に比例する(示量的である)という性質も成り立ちます.

左右の気体は同じ温度Tと圧力pにあり,それぞれの体積はVである.上段は丸と三角で表す異なる種類の気体で,仕切りを抜くと両成分が体積2Vへ広がり,混合エントロピーはΔS>0となる.下段は同じ種類の気体で,仕切りを抜いても巨視的な状態は変わらず,ΔS=0である.下段の丸は左右とも同じ色と形で描き,架空のラベルによる区別をしない. 左右の気体は同じ温度Tと圧力pにあり,それぞれの体積はVである.上段は丸と三角で表す異なる種類の気体で,仕切りを抜くと両成分が体積2Vへ広がり,混合エントロピーはΔS>0となる.下段は同じ種類の気体で,仕切りを抜いても巨視的な状態は変わらず,ΔS=0である.下段の丸は左右とも同じ色と形で描き,架空のラベルによる区別をしない.

例題

例題 1

オリジナル ★★★☆☆

振動の平均エネルギーが ⟨E⟩=ε/(eε/kBT−1) のとき,この振動1つが分子1個あたりの熱容量に加える分 c=d⟨E⟩dT を求めよ.また,特性温度 θ=ε/kB を使って,T が θ より十分高いときと十分低いときの c を調べよ.

c/k_B=(θ/T)²e^{θ/T}/(e^{θ/T}−1)²を数値で描く.横軸はT/θで,低温では0へ落ち,高温では1へ近づく.橙の点はT=θの位置である. c/k_B=(θ/T)²e^{θ/T}/(e^{θ/T}−1)²を数値で描く.横軸はT/θで,低温では0へ落ち,高温では1へ近づく.橙の点はT=θの位置である.
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考え方 y=θ/T とおいて合成関数の微分をする.

⟨E⟩=kBθ/(ey−1),dydT=−θ/T2 なので

c=kBθ⋅(−ey(ey−1)2)⋅(−θT2)=kB(θT)2eθ/T(eθ/T−1)2

である(アインシュタインの式).

T が θ より十分高いと y が小さく,ey≈1+y より (ey−1)2≈y2,ey≈1 なので c≈kB.振動1つで kB,つまり自由度2つ分で,等分配則に一致する.

T が θ より十分低いと ey が大きく,(ey−1)2≈e2y なので c≈kBy2e−y となり,指数関数的に 0 へ落ちる.y の2乗が付いていても指数関数の方が強い.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

二原子分子の気体の定積モル比熱を,並進・回転の 52R に,振動の寄与 NAc(c は例題1の式)を加えた形で見積もる.T=300K として,(1) 窒素(θ=3400K),(2) 塩素(θ=810K)の CV/R を求め,測定値 2.50,3.08 と比べよ.

窒素の振動の準位間隔はk_B×3400 K,塩素ではk_B×810 Kである.等間隔の横線を共通のエネルギー尺度で並べ,室温300 Kのk_BTを同じ緑の横線で示す. 窒素の振動の準位間隔はk_B×3400 K,塩素ではk_B×810 Kである.等間隔の横線を共通のエネルギー尺度で並べ,室温300 Kのk_BTを同じ緑の横線で示す.
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考え方 θ/T を出して例題1の式に入れるだけである.指数関数の大きさに注意する.

  1. θ/T=11.3.e11.3≈8.1×104 なので

ckB=11.32×8.1×104(8.1×104)2≈1.6×10−3

となり,CV/R≈2.50+0.002=2.50.振動は完全に凍結しており,測定値と一致する.

  1. θ/T=2.70.e2.70≈14.9 なので

ckB=2.702×14.9(14.9−1)2=108.6193.2≈0.56

となり,CV/R≈2.50+0.56=3.06.測定値 3.08 をよく再現する.塩素の原子は重く,振動の角振動数が小さいので θ が低く,室温でも振動が半分ほど目を覚ましている.

ポイント ここまでのまとめ

  • 等比級数 ∑xn=1/(1−x),∑nxn=x/(1−x)2.等間隔の準位では Z=1/(1−e−βε),⟨E⟩=−∂ln⁡Z/∂β=ε/(eε/kBT−1).Z が分かれば U・F・S・ゆらぎが微分で出る.

  • 高温では ⟨E⟩→kBT で等分配則に戻り,低温では指数関数的に消える.零点エネルギーは Z の共通因子で比熱には効かず,回転の準位は等間隔でないので同じ式は使えない.

  • 熱容量への寄与は c=kB(θ/T)2eθ/T/(eθ/T−1)2(θ=ε/kB).T=θ あたりが境目で,窒素の振動は室温で完全に凍結し,塩素では半分ほど効く.

  • 状態の数を数えるときは同種の分子を区別しない(番号付きの数え方は N! 倍の数えすぎ).混合エントロピーが現れるのは,半透膜のように成分を分けられる場合だけである.

06等分配則と比熱の演習

等分配則や比熱の式の条件を確かめましょう.物質量は ν=N/NA,気体定数は R=8.30Jmol−1K−1 とします.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

単原子気体A,二原子気体B,非直線形の多原子気体C,結晶Dを各 1mol 用意します.B,Cは回転が有効で振動が凍結し,結晶の原子は3方向に古典的に振動します.仕事を加えず,定積で同じ熱量 Q を与えます.有効な運動は変わりません.

  1. 各試料の自由度 f と定積モル比熱を求めてください.

  2. 温度上昇の比と,CとDが等しい理由を答えてください.

各1 molのA単原子気体,B二原子気体,C非直線形気体,D結晶を並べる.AからCは並進を青,回転を緑で示し,気体の振動は凍結している.Dの原子は3方向に振動し,橙の矢印はその向きを表す. 各1 molのA単原子気体,B二原子気体,C非直線形気体,D結晶を並べる.AからCは並進を青,回転を緑で示し,気体の振動は凍結している.Dの原子は3方向に振動し,橙の矢印はその向きを表す.
解答を見る

考え方 エネルギーの独立な2乗項を数える.

  1. Aは並進3,Bは並進3・回転2,Cは並進3・回転3,Dは3方向の運動と位置で6項.順に f=3,5,6,6,CV/R=3/2,5/2,3,3 である.

  2. ΔT=Q/CV より比は 10:6:5:5.CとDは2乗項が同数である.Dの配置座標は3個,2乗項は6個であり,自由度は配置座標の数ではない.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

回転準位は EJ=kBθrotJ(J+1),θrot=30K です.振動準位は Ej=(j+1/2)ε です.J,j=0,1,2,…,ε>0 は定数です.

  1. 最初の2つの回転間隔を求め,振動と比べてください.

  2. 零点エネルギーが熱容量に効かない理由を説明してください.

左は特性温度θ_rot=30 Kの回転準位で,J=0,1,2,3に対してE_J/k_B=0,60,180,360 Kを示す.準位間隔は60,120,180 Kと広がる.右は振動準位E_j=(j+1/2)εで,j=0,1,2,3を等間隔εで示す.エネルギー0を破線で示し,最低準位の零点エネルギーε/2を明記する.左右は別々の尺度で描く. 左は特性温度θ_rot=30 Kの回転準位で,J=0,1,2,3に対してE_J/k_B=0,60,180,360 Kを示す.準位間隔は60,120,180 Kと広がる.右は振動準位E_j=(j+1/2)εで,j=0,1,2,3を等間隔εで示す.エネルギー0を破線で示し,最低準位の零点エネルギーε/2を明記する.左右は別々の尺度で描く.
解答を見る

考え方 準位の差と温度微分を使う.

  1. 最初は 2kBθrot=60kBK,次はその2倍の 120kBK である.回転は等間隔でなく,特性温度は間隔の係数である.振動の間隔は ε で一定である.

  2. 零点を含む平均には定数 ε/2 が加わる.c=d⟨E⟩/dT ではその微分が0になる.凍結は熱容量に寄与しないことで,完全な静止ではない.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

断熱された硬い容器に,ν=0.50mol,初温 300K の単原子理想気体を入れます.羽根車で Win=249J の仕事を加え,止めて熱平衡を待ちます.仕事はすべて気体に残り,容器と羽根車の熱容量は無視します.

  1. 熱 Q,気体が外へする仕事 W,最終温度を求めてください.

  2. 「定積だから仕事0」を訂正してください.

断熱壁で囲まれた剛体容器の中に気体と羽根車を描く.羽根車の軸は容器の外へ伸びており,外からW_in=249 Jの仕事を入れる.容器の体積は一定で,体積仕事は0である.回転の矢印は羽根車を動かして気体をかき混ぜる操作を表す. 断熱壁で囲まれた剛体容器の中に気体と羽根車を描く.羽根車の軸は容器の外へ伸びており,外からW_in=249 Jの仕事を入れる.容器の体積は一定で,体積仕事は0である.回転の矢印は羽根車を動かして気体をかき混ぜる操作を表す.
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考え方 ΔU=Q−W の仕事は体積仕事だけではない.

  1. Q=0,W=−249J,ΔU=249J である.CV=3R/2 より ΔT=249/(0.50×3R/2)=40K,最終温度は 340K である.

  2. ∫pdV=0 は体積仕事だけの結論である.軸を通して仕事が入り,断熱でも孤立系ではない.内部の抵抗線に電流を流す場合も,定積のまま電気的な仕事が入る.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

二原子理想気体の比熱比は γ=Cp/CV=1.40 で,測定範囲で一定です.

  1. Cp=CV+R から f,CV,Cp を求め,有効な運動と凍結した運動を答えてください.

  2. この範囲で ν=0.40mol を 25K 温めるとき,定積と定圧の熱量の比と差を求めてください.体積仕事以外はありません.

解答を見る

考え方 マイヤーの関係で比熱と2乗項の数を決める.

  1. γ=1+R/CV=(f+2)/f より f=2/(γ−1)=5,CV=5R/2,Cp=7R/2 である.古典的な等分配の近似では,並進3・回転2が有効で振動は凍結している.

  2. Q=νCΔT より QV:Qp=5:7 である.差は νRΔT=83J で,定圧膨張の仕事に等しい.マイヤーの関係は理想気体に限り,熱量計算には f 一定も必要である.回転や振動が効き始めれば比熱は変わる.

演習 5

オリジナル ★★☆☆☆

断熱剛体容器の左右の等体積 V に,同温・同圧の理想気体を分子数 N1,N2 だけ入れ,仕切りを抜きます.反応はありません.

  1. 異種と同種の場合の ΔS を求めてください.

  2. 同種でも左出身をA,右出身をBと番号で区別すれば,混合エントロピーが生じるという説明を検討してください.

仕切りの左右は同じ温度Tと圧力pにあり,各室の体積はVである.左列は仕切りがある状態,右列は仕切りを抜いた後の体積2Vの容器を示す.上段は左室の丸と右室の三角が異なる種類の気体で,仕切りを抜いた後は両方が容器全体に分布する.下段は左右とも同じ種類の気体で,すべて同じ色と形の丸で描く. 仕切りの左右は同じ温度Tと圧力pにあり,各室の体積はVである.左列は仕切りがある状態,右列は仕切りを抜いた後の体積2Vの容器を示す.上段は左室の丸と右室の三角が異なる種類の気体で,仕切りを抜いた後は両方が容器全体に分布する.下段は左右とも同じ種類の気体で,すべて同じ色と形の丸で描く.
解答を見る

考え方 物理的な成分と架空のラベルを見分ける.

  1. 同温・同圧・等体積より N1=N2.異種は各成分の体積が2倍となり,ΔS=(N1+N2)kBln⁡2>0 である.同種は前後で温度・圧力・数密度が同じで,ΔS=0 である.

  2. 同種分子の入れ替えは別の微視状態ではない.N=N1+N2 個の番号付きの数え方は N! 倍の数えすぎで,架空のラベルから混合エントロピーを作ってはいけない.異種は半透膜で選り分けられるが,過去の居場所ではできない.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆
  1. 定数 c>0 の独立な2乗項 cq2 に等分配則を使える場合を選んでください.A:熱平衡で q は古典的に連続,広い範囲を動く.B:壁で |q|≤a,ca2 は kBT より十分小さい.C:準位間隔が kBT より十分大きい.D:熱流がある非平衡状態.

  2. 熱平衡で q は連続な実数全体を動き,E=αq4(α>0 一定)です.β=1/(kBT) とし,qe−βαq4 の微分を積分して ⟨E⟩ を求めてください.

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考え方 連続性・境界・平衡・2乗の条件を確かめる.

  1. Aだけである.Bは cq2≤ca2 より平均も小さく,広い範囲の条件が破れる.Cは古典的な連続変数,Dは熱平衡の条件が破れる.

  2. Z=∫−∞∞e−βαq4dq とおく.境界で qe−βαq4→0 なので

0=∫−∞∞(1−4βαq4)e−βαq4dq=Z−4βZ⟨E⟩

より ⟨E⟩=kBT/4 である.他の条件がそろっても4乗項には kBT/2 を使えない.

ポイント 教える人へ

  • 「振動1つでなぜ2項か」と問い,配置座標と区別させてください.

  • 定積で仕事0というつまずきには,エネルギーの入口を確かめてください.

  • 回転間隔と零点の微分を書かせ,凍結と静止の混同に注意してください.

  • 等分配の条件と,架空のラベルを使えない理由を説明させてください.

07第17章の章末問題

分布と比熱を測定しましょう.数密度は n,物質量は ν=N/NA です.比熱はモル比熱,仕事は体積仕事だけです.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

理想気体Aは分子質量 m・温度200 K,Bは質量 4m・温度1800 Kです.最確・平均・二乗平均平方根の速さと,分布の横・縦の倍率「B/A」を求めてください.各山の等幅微小区間の割合比も求めてください.

分子質量 m,温度200 KのAと,質量4m,温度1800 KのBの速さの確率密度を描く.両曲線の面積は1で,各山の速さから始まる等幅の微小区間を塗っている. 分子質量 m,温度200 KのAと,質量4m,温度1800 KのBの速さの確率密度を描く.両曲線の面積は1で,各山の速さから始まる等幅の微小区間を塗っている.
解答を見る

考え方 速さは T/m に比例し,面積は1である.

3つとも (1800/4)/200=3/2 である.fB(v)=(2/3)fA(2v/3) なので,横に 3/2 倍,縦に 2/3 倍である.幅0の極限で割合の比は 2/3 である.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

分子の内部状態はエネルギー0に1状態,ε=kBθ に2状態あります.体積・分子数一定の系が大きな熱浴と弱く接し,熱平衡にあります.温度 T0 で上の準位の割合が 1/3 でした.θ と,2T0 での上の割合・分子1個の平均内部エネルギーを求めてください.

エネルギー 0 の状態が1つ,エネルギー ε=k_Bθ の状態が2つある.両準位の間隔 ε と,温度 T₀ に対応する熱的なエネルギー k_BT₀ を比べている.T₀ で上の割合は 1/3 である. エネルギー 0 の状態が1つ,エネルギー ε=k_Bθ の状態が2つある.両準位の間隔 ε と,温度 T₀ に対応する熱的なエネルギー k_BT₀ を比べている.T₀ で上の割合は 1/3 である.
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考え方 準位の割合はボルツマン因子と状態数の積で決まる.

q=e−θ/T とすると Z=1+2q,上の割合は 2q/Z.T0 では q=1/4 より θ=T0ln⁡4.2T0 では q=1/2,割合 1/2,平均 ε/2 である.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

剛体容器 V=2.0×10−3m3 に単原子Aと二原子Bの理想気体を混ぜます.初め T=300K,p=1.2×105Pa で,熱 120J により圧力が 3.0×104Pa 増しました.Bは回転有効・振動凍結,自由度一定で,損失・反応・漏れは無視します.最終温度,Aの個数割合 x,U,CV,Cp,γ を求めてください.γ=1.50 の測定から自由度と x を確認してください.

固定容器に単原子分子 A と二原子分子 B があり,120 J のエネルギーを与える.初めの温度は 300 K,圧力は 1.2×10⁵ Pa,体積は 2.0×10⁻³ m³ で,圧力は 3.0×10⁴ Pa 増える.A と B は種別を示す模式図で,個数比を表さない. 固定容器に単原子分子 A と二原子分子 B があり,120 J のエネルギーを与える.初めの温度は 300 K,圧力は 1.2×10⁵ Pa,体積は 2.0×10⁻³ m³ で,圧力は 3.0×10⁴ Pa 増える.A と B は種別を示す模式図で,個数比を表さない.
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考え方 成分の内部エネルギーを足す.

Tf=300×1.5/1.2=375K.自由度の平均は f¯=3x+5(1−x)=5−2x.120=(f¯/2)VΔp=30f¯ より f¯=4,x=1/2.よって U=2νRT,CV=2R,Cp=3R,γ=3/2 である.測定値から f¯=2/(γ−1),x=(5−f¯)/2 で求まる.f¯ は整数とは限らない.

演習 4

東京大 2008 前期(改題) ★★☆☆☆

モル質量 M の等温理想大気で,地表の圧力・密度は p0,ρ0 です.小さな剛体標識の密度は ρ0/2 です.

  1. dpdz=−ρg,ρ=Mp/(RT) から気圧を求めてください.

  2. 標識のつり合い高度と,少し上へずれたときの合力の向きを求めてください.T=280K,M=0.029kgmol−1,R=8.3Jmol−1K−1,g=9.8ms−2,ln⁡2=0.69 とします.

等温大気ではp(z)=p₀exp(−z/H),H=RT/(Mg)であり,密度も同じ指数関数に従う.地表の密度ρ₀の半分の密度をもつ小さな剛体標識は,z*=H ln 2で浮力ρ(z)V_bgと重量ρ₀V_bg/2がつり合う.右の曲線は気圧の比p/p₀と高さz/Hの関係を示す. 等温大気ではp(z)=p₀exp(−z/H),H=RT/(Mg)であり,密度も同じ指数関数に従う.地表の密度ρ₀の半分の密度をもつ小さな剛体標識は,z*=H ln 2で浮力ρ(z)V_bgと重量ρ₀V_bg/2がつり合う.右の曲線は気圧の比p/p₀と高さz/Hの関係を示す.
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考え方 密度は圧力に比例する.

  1. dln⁡pdz=−Mg/(RT) より p=p0e−z/H,H=RT/(Mg).

  2. 浮力よりつり合いは ρ(z∗)=ρ0/2.z∗=Hln⁡2≈5.7km.上では浮力が減り,下向きの復元力が生じる.標識付近の密度変化は無視した.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

速さ密度 f(v)∝v2e−mv2/(2kBT) を E=mv2/2 に換算します.等幅エネルギー区間の密度 F(E) を比例式で求めてください.既知の E0>0 に対し,E0/2 と 2E0 の等幅区間の割合の比「後者/前者」は,幅0の極限で 2e−3/2 でした.温度と F の山,最確速さのエネルギーを求めてください.

速さを E=mv²/2 に換算してから等幅のエネルギー区間で集計する.無次元のエネルギー分布と,E/(k_BT)=1/2と2から始まる等幅の微小区間を示す. 速さを E=mv²/2 に換算してから等幅のエネルギー区間で集計する.無次元のエネルギー分布と,E/(k_BT)=1/2と2から始まる等幅の微小区間を示す.
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考え方 確率を保って変数を換える.

dE=mvdv,F=f/(mv) より F(E)∝Ee−E/(kBT).比は 2e−3E0/(2kBT) なので T=E0/kB.dln⁡FdE=1/(2E)−1/(kBT)=0 より山は E0/2,最確速さのエネルギーは E0 である.幅が変わるため山も変わる.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

モル質量 M の理想大気で,0≤z≤2L の温度は T(z)=T0(1+z/L),p(0)=p0 です.p=nkBT と静水圧の式から圧力・数密度を求めてください.MgL/(RT0)=2 のとき,高さ0から L,L から 2L での圧力比も求めてください.

静止大気の温度は T(z)=T₀(1+z/L) である.高さ 0,L,2L にそれぞれ T₀,2T₀,3T₀ を示す.重力は下向きに働く. 静止大気の温度は T(z)=T₀(1+z/L) である.高さ 0,L,2L にそれぞれ T₀,2T₀,3T₀ を示す.重力は下向きに働く.
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考え方 一定温度のボルツマン因子を全体へ使わない.

a=MgL/(RT0) とすると dln⁡pdz=−a/(L+z).積分して p=p0(1+z/L)−a,n=[p0/(kBT0)](1+z/L)−a−1.指定値では p(L)/p(0)=1/4,p(2L)/p(L)=4/9.全体の熱平衡ではない.

演習 7

オリジナル ★★★☆☆

断面積 S,高さ L の容器に,質量 m の理想気体分子Aと質量 2m のBを各 N 個閉じ込め,熱浴と弱く接し,温度 T を保ちます.対流を抑えた拡散平衡です.H=kBT/(mg),L=Hln⁡2 として,各成分の数密度と底・天井の nB/nA を求めてください.

断面積 S,高さ L の容器に,質量 m の A と質量 2m の B が各 N 個ある.両成分の総数は同じだが,重い B は底付近により強く偏る.L=H ln 2,H=k_BT/(mg) である.粒子の配置は分布の模式図である. 断面積 S,高さ L の容器に,質量 m の A と質量 2m の B が各 N 個ある.両成分の総数は同じだが,重い B は底付近により強く偏る.L=H ln 2,H=k_BT/(mg) である.粒子の配置は分布の模式図である.
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考え方 総数で規格化する.

尺度 h なら n=Ce−z/h,N=SCh(1−e−L/h).Aで h=H,Bで h=H/2 を入れて

nA=2NSHe−z/H,nB=8N3SHe−2z/H

となる.比は (4/3)e−z/H,底で 4/3,天井で 2/3.実大気では対流等の混合もある.

演習 8

オリジナル ★★★☆☆

直線ビームを間隔 L の2枚のシャッターで測ります.

  1. 時刻0,τ に順に瞬時に開くと,どの速さを選べますか.

  2. 2枚目を開けて飛行時間 t を測ります.出発分子の速さ密度は q(v)=2a2v3e−av2,a=m/(2kBT) です.時間密度 G(t) と山 t∗ から温度を求めてください.衝突・重力,開時間による幅,検出効率の速さ依存は無視します.

x=0のシャッターS₁を時刻0に瞬間的に開き,x=LのシャッターS₂と検出器へ分子を飛ばす.S₂を時刻τの短時間だけ開くとv=L/τ付近の分子を選べる.飛行時間t=L/vは速さに反比例するため,等幅の速さ区間は不等幅の時間区間に対応し,G(t)dt=q(v)|dv|で確率を保存する. x=0のシャッターS₁を時刻0に瞬間的に開き,x=LのシャッターS₂と検出器へ分子を飛ばす.S₂を時刻τの短時間だけ開くとv=L/τ付近の分子を選べる.飛行時間t=L/vは速さに反比例するため,等幅の速さ区間は不等幅の時間区間に対応し,G(t)dt=q(v)|dv|で確率を保存する.
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考え方 時間と速さの区間の幅は異なる.

  1. v=L/τ である.

  2. v=L/t,|dvdt|=L/t2 より G(t)=2a2L4t−5e−aL2/t2.dln⁡Gdt=−5/t+2aL2/t3=0 から

t∗2=mL25kBT,T=mL25kBt∗2

である.流出の重みは発展問題で導く.

演習 9

オリジナル ★★★☆☆

金属の低温比熱は CV=aT+bT3 で,順に電子・格子の寄与です.T=10,20K で CV/T=0.004,0.007Jmol−1K−2 でした.a,b,正の交差温度,0.10mol を10 Kから20 Kへ定積で温める熱量を求めてください.零点エネルギーと高温への延長も論じてください.

金属の低温比熱をC_V=aT+bT³と近似する.青は電子のaT,緑は格子振動のbT³,橙は合計である.T*=√(a/b)で電子と格子の寄与が等しくなる.aとbはともに正であり,グラフは低温で有効な模型の模式図である. 金属の低温比熱をC_V=aT+bT³と近似する.青は電子のaT,緑は格子振動のbT³,橙は合計である.T*=√(a/b)で電子と格子の寄与が等しくなる.aとbはともに正であり,グラフは低温で有効な模型の模式図である.
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考え方 CV/T は T2 の1次式である.

測定差から b=0.003/300=1.0×10−5Jmol−1K−4,a=0.003Jmol−1K−2.交差は T=a/b≈17K.Q=ν∫1020CVdT=0.10[150a+37500b]≈0.083J.零点の温度微分は0で,熱量は同じである.bT3 は高温の格子比熱 3R へは延長できない.

08第17章の発展問題

応用を考えます.

演習 1

オリジナル ★★★★☆

分子質量 m の二原子理想気体が断熱固定容器から真空へ流出します.孔は平均自由行程より十分小さく,逆流・孔内衝突・壁の熱容量は無視します.内部は平衡化が流出より速く,温度 T のマクスウェル分布です.回転は古典的で並進と独立,振動は凍結しています.

  1. 流出分子の速さ分布と,回転を含む平均エネルギーを求めてください.

  2. 初め N=N0,T=450K です.N=32N0/243 での温度を求めてください.自由度は変わりません.

同じ入射角 α で孔へ向かう速さ v₁ と v₂ の分子を比べる.時間 Δt に孔へ届く領域の壁に垂直な奥行きは v cos α Δt で,v₂>v₁ の方が長い.緑の輪郭は到達領域,青い矢印は分子の速度を示す. 同じ入射角 α で孔へ向かう速さ v₁ と v₂ の分子を比べる.時間 Δt に孔へ届く領域の壁に垂直な奥行きは v cos α Δt で,v₂>v₁ の方が長い.緑の輪郭は到達領域,青い矢印は分子の速度を示す.
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考え方 到達数で重みづけし,逃げたエネルギーを引く.

  1. 孔への到達数で重みづけすると,方向平均後は内部の分布の v 倍になる.a=m/(2kBT) と本章の積分 Ij を使い,規格化すると P(v)=2a2v3e−av2(v≥0).並進の平均は (m/2)I5/I3=2kBT,回転の kBT を足して 3kBT である.

  2. dN<0 に対し dU=3kBTdN,U=5NkBT/2.微分して 5NdT=TdN,積分して T=450(N/N0)1/5K.よって 300K である.

演習 2

オリジナル ★★★★☆

半径 L,長さ ℓ の円筒に,質量 m1,2m1 の理想気体が各 N 個あります.共回転する大きな熱浴と弱く接し,角速度 ω の回転系で温度 T の熱平衡にあります.分子の出入りと重力はありません.ai=miω2/(2kBT),a1L2=ln⁡3 として,軸上と外壁での数密度比 n2/n1 を求めてください.

半径 L,長さ ℓ の円筒が軸のまわりに角速度 ω で剛体回転している.断面では軸からの距離 r と殻の厚さ dr を,側面では円筒の長さ ℓ を示す.橙の帯は同じ薄い殻に対応する. 半径 L,長さ ℓ の円筒が軸のまわりに角速度 ω で剛体回転している.断面では軸からの距離 r と殻の厚さ dr を,側面では円筒の長さ ℓ を示す.橙の帯は同じ薄い殻に対応する.
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考え方 回転系のボルツマン因子を殻の体積で規格化する.

有効な位置エネルギーは −miω2r2/2,従って ni=Cieair2.

N=2πℓCi∫0Lreair2dr=πℓCiai(eaiL2−1)

より,軸上の比は C2/C1=2(3−1)/(9−1)=1/2.外壁では e(a2−a1)L2=3 倍されて 3/2 である.

演習 3

オリジナル ★★★★☆

大きな熱浴と弱く接して温度 T で平衡にある振動子は,最低準位基準で Ej=jε(j=0,1,…),ε=kBθ で,各準位は1状態です.

  1. 分配関数,平均,分散を求め,c=d⟨E⟩dT と分散の関係を示してください.

  2. 零点エネルギー ε/2 を足す効果を答えてください.

各準位は1状態で,エネルギーは 0,ε,2ε,3ε,… と等間隔に並ぶ.例として T=θ,ε=k_Bθ のボルツマン分布を描き,占有確率の棒は高い準位ほど指数的に短くなる.この例では熱的な高さ k_BT と準位間隔 ε が等しい. 各準位は1状態で,エネルギーは 0,ε,2ε,3ε,… と等間隔に並ぶ.例として T=θ,ε=k_Bθ のボルツマン分布を描き,占有確率の棒は高い準位ほど指数的に短くなる.この例では熱的な高さ k_BT と準位間隔 ε が等しい.
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考え方 等比級数を微分し,定数を足す効果を分ける.

  1. β=1/(kBT),x=e−βε とすると,等比級数より Z=1/(1−x).微分して ⟨E⟩=−∂ln⁡Z/∂β=εx/(1−x),σE2=∂2∂β2ln⁡Z=ε2x/(1−x)2.温度微分で c=σE2/(kBT2),つまり σE2=kBT2c である.

  2. Z は e−ε/(2kBT) 倍,平均は ε/2 増す.確率の共通因子は消え,分散・比熱は変わらない.回転準位は等間隔でない.

演習 4

東京大 2004 前期(改題) ★★★★☆

真空中の水平シリンダーのピストン(断面積A側 S,B側 3S)を棒でつなぎ,棒を含む総質量を Mp とします.右への変位 x で気体の体積はAが V0+Sx,Bが V0−3Sx です.x=0 で静止し,圧力はAが 3p0,Bが p0 です.Bは単原子理想気体,Aは単原子割合 y の単原子・二原子の理想混合気体です.回転は有効,振動は凍結し,反応・摩擦・漏れはありません.

  1. 断熱・可逆で体積仕事だけの微小振動をさせます.内部で平衡を保ち,比熱は一定です.Aの CV,γA と角振動数 ω を求めてください.

  2. ω2=39p0S2/(2MpV0) から y を求め,各側を初温に保つ等温振動の角振動数も求めてください.

面積Sのピストンをもつ気体Aと,面積3Sのピストンをもつ気体Bを軽い棒で連結する.Aは単原子と二原子の混合気体で,Bは単原子気体である.棒と2枚のピストンの総質量はM_pであり,平衡では両気体の体積がV₀,圧力がp_A=3p₀,p_B=p₀である.右への変位xによってV_A=V₀+Sx,V_B=V₀−3Sxとなる. 面積Sのピストンをもつ気体Aと,面積3Sのピストンをもつ気体Bを軽い棒で連結する.Aは単原子と二原子の混合気体で,Bは単原子気体である.棒と2枚のピストンの総質量はM_pであり,平衡では両気体の体積がV₀,圧力がp_A=3p₀,p_B=p₀である.右への変位xによってV_A=V₀+Sx,V_B=V₀−3Sxとなる.
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考え方 自由度の平均と,断熱圧縮の復元力を使う.

  1. f¯=3y+5(1−y)=5−2y,CV=f¯R/2,γA=1+2/f¯,γB=5/3 である.可逆断熱より dp/p=−γdV/V.δVA=Sx,δVB=−3Sx を入れると,復元力は F=SpA−3SpB=−(3γA+15)p0S2x/V0.従って ω2=(3γA+15)p0S2/(MpV0).

  2. 3γA+15=39/2 より γA=3/2,f¯=4,y=1/2.等温なら両側で dp/p=−dV/V より ωiso2=12p0S2/(MpV0) である.熱移動が振動より速いことが条件である.

演習 5

オリジナル ★★★★★

温度 T の理想気体に,質量 m,qm(q>1)の分子がそれぞれ N1,N2 個あります.分子を無作為に選んで速さを測ります.η=N2/N1>0,s=mv2/(2kBT) とします.

  1. 速さ分布 P(v) と v>0 の停留条件 η=G(s) を求めてください.

  2. ある η で極大が2つになる q の条件を求めてください.

温度 T の容器に質量 m の分子が N₁ 個,質量 qm の分子が N₂ 個ある.容器内の同じ分子の位置を一定の時間間隔で記録し,移動距離から速さ v を測る装置の模式図である. 温度 T の容器に質量 m の分子が N₁ 個,質量 qm の分子が N₂ 個ある.容器内の同じ分子の位置を一定の時間間隔で記録し,移動距離から速さ v を測る装置の模式図である.
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考え方 状態数を含め,個数割合で分布を足す.

  1. a=m/(2kBT) とおき,マクスウェル分布を足すと

P(v)=4a3/2πv21+η[e−s+ηq3/2e−qs]

である.微分の符号は (1−s)e−s+ηq3/2(1−qs)e−qs と同じで,s≤1/q では正,s≥1 では負.停留点は 1/q<s<1,G=e(q−1)s(1−s)/[q3/2(qs−1)] となる.

  1. D=(1−s)(qs−1) とすると dln⁡Gds=(q−1)(1−1/D).D の最大値は (q−1)2/(4q) だから,G が途中で増加する条件は (q−1)2>4q,つまり q>3+22.G は減少・増加・減少し,両端で ∞,0 に近づく.η を極小値と極大値の間に選べば停留点は3個で,P は極大・極小・極大をもつ.閾値以下は極大1個である.

演習 6

オリジナル ★★★★★

2次元絶縁体の原子 N 個に,面内の線形音響モードを 2N 個考えます.曲げ振動と電子は除き,準位間隔の密度は D(ε)=Aε(0<ε<εD)です.熱的平均は u=ε/(eε/(kBT)−1) です.

  1. A と,εD≫kBT での定積熱容量を求めてください.最小の間隔は kBT より十分小さく,定数 J=∫0∞x2/(ex−1)dx を使えます.

  2. 高温の熱容量と,同一間隔 εD の振動子 2N 個の模型の低温比熱を比べてください.

左は面内の線形音響モードだけをもつ2次元薄膜であり,状態密度D(ε)=Aεが0からε_Dまで続く.k_BT付近までの低エネルギー側を青く示し,低温の熱容量CがT²に比例することを記す.右は全2Nモードを同じε_Dに集めた比較模型であり,低温の励起が指数的に減少する. 左は面内の線形音響モードだけをもつ2次元薄膜であり,状態密度D(ε)=Aεが0からε_Dまで続く.k_BT付近までの低エネルギー側を青く示し,低温の熱容量CがT²に比例することを記す.右は全2Nモードを同じε_Dに集めた比較模型であり,低温の励起が指数的に減少する.
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考え方 モードのエネルギーを状態密度で重みづけする.

  1. ∫0εDAεdε=2N より A=4N/εD2.Uth=∫0εDD(ε)udε に x=ε/(kBT) を入れ,上限を無限大に延ばすと

Uth=AJ(kBT)3,C=12NkBJ(kBTεD)2

となり,C∝T2 である.

  1. 高温の等分配則で u≈kBT より C→2NkB.同一間隔なら b=εD/(kBT) として低温では C≈2NkBb2e−b.音響模型は小さな間隔が残り,べき乗で下がる.

09第17章のまとめ

この章では,エネルギーが分子のあいだでどう分かれるかを決める規則を立てました.出発点は等温大気の密度です.力のつり合いから出てきた指数関数 e−mgh/kBT の中身が位置エネルギーだったことに気づけば,同じ形は重力に限りません.それを,孤立した全体への等重率と第16章のエントロピーから導いたのが正準分布です.そこから速さの分布(マクスウェル分布)と等分配則,比熱が順に出てきて,最後に等分配則が破れる所で古典物理の限界に行き当たりました.ここで定義・法則・公式を一覧にし,各題材の問いに短く答えます.

定義と法則

法則 正準分布(ボルツマン分布)

  • 温度 T の大きな熱浴と弱く接し,体積と分子数を固定した系が熱平衡にあるとき,微視状態 i(エネルギー Ei)の確率は

Pi=1Zexp⁡(−EikBT),Z=∑iexp⁡(−EikBT)

である.exp⁡(−E/kBT) をボルツマン因子,Z を分配関数という.2状態の確率の比 exp⁡[−(E1−E2)/kBT] はエネルギーの基準によらない.

  • 導出:全体を孤立系と見て等重率を使うと Pi∝Ω浴(E全−Ei).S=kBln⁡Ω と (∂S/∂U)V,N=1/T から,1次の展開で exp⁡(−Ei/kBT) が出る.

  • 条件:熱浴が大きく(小系のエネルギーで熱浴の温度が変わらない),相互作用が弱く(エネルギーが足し算に分かれる),熱平衡で分子の出入りがないこと.小系の大きさは問わない.

  • 孤立系の等重率(エネルギーが決まり,許された微視状態が等確率)とは別の主張である.熱浴に接した系では,エネルギーの方がゆらぐ.

  • kBT が「その温度で手の届くエネルギー」の目安(室温で 4.1×10−21J≈0.026eV).エネルギーが kBT 高い状態は 1/e≈0.37 倍しか現れない.

ポイント 状態の数を忘れない

  • Pi は1つの微視状態の確率である.まとめた確率は,ボルツマン因子と状態の数の積 P(E)∝g(E)e−E/kBT で決まる.

  • 分布を別の変数で書き直すときは Pydy=Pxdx.密度ではなく,区間に入る確率が等しい.

  • 状態の数を数えるときは,同じ種類の分子を区別しない.番号付きの数え方は入れ替えの分(N! 倍)だけ数えすぎている.混合エントロピー ΔS=(N1+N2)kBln⁡2(同温・同圧・等体積)が現れるのは,半透膜のように成分を分けられる場合だけで,架空のラベルからは作れない.

定義 等温大気とマクスウェル分布

  • 位置エネルギー mgh に当てはめると等温大気 n(h)=n(0)e−mgh/kBT,p=p0e−h/H で,スケールハイト H=kBT/(mg)=RT/(Mg) 上がるごとに 1/e 倍になる(空気で約 8km).重い分子ほど H が小さいが,成分の分離が見えるのは混合が弱く拡散平衡が成り立つ所に限る.

  • 運動エネルギーに当てはめ,速度空間の球殻 4πv2 を掛けるとマクスウェル分布

f(v)dv=4π(m2πkBT)3/2v2exp⁡(−mv22kBT)dv

になる.代表的な速さは

vmp=2kBTm,⟨v⟩=8kBTπm,vrms=3kBTm

で,比は 1:1.13:1.22.どれも kBT/m の定数倍なので,温度が上がると分布は右へ広がり,面積が一定のまま山は低くなる.

法則 等分配則

温度 T の熱平衡にある系のエネルギーが,座標や速度の2乗の和 E=c1q12+⋯+cfqf2(cj>0)に書けるとき,各項の平均は係数によらず ⟨cjqj2⟩=12kBT で,⟨E⟩=f2kBT である.条件は,熱平衡,各変数を古典的に連続と扱えること,項が独立で係数が定数であること,変数が広い範囲を動けることである.

気体では

U=f2NkBT,CV=f2R,Cp=CV+R,γ=f+2f

となる.CV の式は体積仕事以外の仕事(かき混ぜ・電気加熱)がないときのもので,値が定数なのは f が温度によらない範囲だけである.自由度は2乗項の数で,単原子分子3,二原子分子7(並進3・回転2・振動2),非直線形の3原子分子は並進3・回転3と振動の分,固体の原子6(3方向の振動の運動と位置).配置を決める座標の数とは別の数え方である.

法則 等分配則の破れと凍結

量子力学では束縛された運動のエネルギーがとびとびになる.間隔 ε=kBθ の等間隔な準位では

Z=11−e−βε,⟨E⟩=−∂∂βln⁡Z=εeε/kBT−1,c=d⟨E⟩dT=kB(θT)2eθ/T(eθ/T−1)2

である.T が θ より十分高いと ⟨E⟩→kBT で古典的な等分配則に戻り,十分低いとその運動は凍結して比熱に寄与しない(運動が止まるのではなく,零点エネルギーの分は残る).室温の二原子分子が f=5 に見えるのはこのためで,水素は θvib≈6300K,窒素は 3400K,塩素は 810K なので塩素では室温でも振動が半分ほど効く.振動の零点 ℏω/2 は Z の共通因子で比熱に効かず,回転の準位は EJ=kBθrotJ(J+1) と等間隔ではない(水素で θrot≈85K,最初の間隔は 2kBθrot).低温で固体の CV が 3R から 0 へ落ちるのも同じ理由である.

手順

ポイント ボルツマン分布と比熱の問題を解く手順

  1. 問われているのが「平均」か「分布」かを見分ける.平均だけなら,第15章の ⟨12mv2⟩=32kBT と状態方程式で足りることも多い.

  2. 分布が要るときは,ボルツマン因子 e−E/kBT に状態の数を掛ける.速さなら 4πv2,高さなら層の体積である.変数を換えるなら Pydy=Pxdx.

  3. 平均は Ij=∫0∞vje−av2dv の比として出す.漸化式 Ij+2=j+12aIj を使えば,積分をやり直す必要はない.とびとびの準位なら等比級数か −∂ln⁡Z/∂β を使う.

  4. 温度の効き方を見るときは,指数の中身 E/kBT を数で出す.数十なら事実上起こらず,1前後なら温度のわずかな違いが大きな差を生む.

  5. 比熱の問題では,まず自由度を数える.次に各運動の特性温度 θ と T を比べ,凍結しているものを落とす.境目の付近では c の式で寄与を計算する.

主な公式

  • ボルツマン因子:Pi=e−Ei/kBT/Z,2状態の比 e−(E1−E2)/kBT,室温で kBT≈0.026eV

  • 等温大気:n=n0e−h/H,H=kBT/(mg)=RT/(Mg),半分になる高さ Hln⁡2

  • 指数関数:dydx=−ay の解は y0e−ax.片対数グラフで直線になり,傾きから a が読める

  • ガウス積分:∫−∞∞e−ax2dx=π/a,⟨x2⟩=1/(2a),Ij+2=j+12aIj

  • マクスウェル分布:f(v)∝v2e−mv2/(2kBT),vmp:⟨v⟩:vrms=1:1.13:1.22

  • 等分配則:2乗項1つあたり 12kBT,U=f2NkBT,CV=f2R(R/2=4.16Jmol−1K−1),γ=(f+2)/f

  • 等比級数:∑n≥0xn=11−x,∑n≥0nxn=x(1−x)2

  • とびとびの準位:⟨E⟩=ε/(eε/kBT−1),寄与 c=kB(θ/T)2eθ/T/(eθ/T−1)2

  • 分配関数から:U=−∂ln⁡Z/∂β,F=−kBTln⁡Z,S=kB(ln⁡Z+βU),⟨E2⟩−⟨E⟩2=kBT2C

  • 指数関数の鋭さ:飛び出す分子の割合は e−εesc/kBT,反応の速さは e−Ea/kBT に比例する(飽和蒸気圧は凝縮とのつり合いで決まる別の量)

各題材の問いへの答え

  • ボルツマン分布:大気は,落とそうとする重力と散らばろうとする熱運動の綱引きで,H=kBT/(mg)≈8km ごとに密度が 1/e 倍になる分布に落ち着く.1個の分子は絶えず上下しているが,分布の形は変わらない.同じ高さを登れば低い所でも高い所でも同じ割合で薄くなるのは,指数関数の性質そのものである.

  • 等分配則と比熱:同じエネルギーを与えると ΔT=ΔU/(f2NkB) なので,自由度の小さいアルゴン(f=3)の方が,窒素(室温で f=5)より 5/3 倍大きく温度が上がる.エネルギーの一部が回転に取られる分,窒素は温まりにくい.2000K 近くでは窒素の振動も解凍して f=7 に近づくので,差は 7/3 倍まで開く.

この章で使った数学

指数関数と対数(片対数グラフ),1階の微分方程式 dydh=−ay,ガウス積分とその漸化式,分布の変数変換,等比級数とその微分,同じものを含む数え方がありました.いずれも「たくさんのものを平均する」ための道具です.これで,第16章で測定値として使った二原子分子の CV=52R の根拠も,ラチェットの頻度の比較に形だけ借りた指数関数の正体も埋まりました.次の第18章では,平衡にある系から目を移し,平衡へ向かう途中に何が起こるか,つまりゆらぎと拡散を扱います.そこでもボルツマン因子と等分配則が繰り返し顔を出します.